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リスクマネジメントにおける 企業倫理と社外コミュニケーションの重要性 1

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リスクマネジメントにおける 企業倫理と社外コミュニケーションの重要性 1
リスクマネジメントにおける
企業倫理と社外コミュニケーションの重要性
1.はじめに
2004 年は、自然災害の多い年でした。過去最多の台風上陸数、新潟県中越地震など、人々
の生活に多大なる影響と不安をもたらしました。そして、同時に企業の経済活動に対して
も、大きな影響を及ぼしました。
また近年では、自然災害とは別に、食品会社による食中毒事件や列車の脱線事故、個人
情報の漏洩など、人災と思われる事件や事故も多発し、大きな社会問題に発展するケース
が多くなっています。
そして、ひとたびこのような事件や事故が発生すると、企業の存続も危ぶまれるような
事態に発展することが少なくありません。
このような経営環境の中、企業経営におけるリスクマネジメントが重要視されており、
大企業などにおいては専門部署を設置し対応にあたっているところもあれば、損害保険会
社等では、リスクマネジメントのコンサルティングを新たな収益源として位置付け、総合
的な危機管理サービスを提供しているところもあります。
そこで、企業のリスクマネジメントについて考えてみたいと思います。
2.国の対応
まず国(政府)は、日本企業のリスクマネジメントを、どう捉えているのでしょうか。
経済産業省では、2003 年度の「事業リスク評価・管理人材育成事業」の報告において、
「グローバル化・情報化等の進展の中で、我が国企業の直面するリスクは一層増大かつ多
様化し、各企業は、事業リスク管理の徹底が求められているが、我が国においてこれらの
リスクを認知し、伝達し、管理する経営技術が不足している ため、その担い手の育成が緊
急の課題となっている」とし、当事業において「事業リスクマネジメントテキスト」を作
成するとともに、説明会やホームページ等を通じて、リスクマネジメントに対する啓蒙活
動を実施しています。そして、2004 年度には引き続き「先進企業から学ぶ事業リスクマネ
ジメント実践テキスト」を作成しています。
2003 年度版は、理論編として事業リスクマネジメントの理解・知識の習得を目的に作成
され、2004 年度版は理論編で得た知識を実務の中で活用することを目的に作成されており
ます。以下のホームページで参照できます。
■事業リスクマネジメントテキスト(理論編:2003 年度版)
【URL】http://www.meti.go.jp/report/data/jinzai_ikusei2004_06.html
■先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント実践テキスト(実務編:2004 年度版)
【URL】http://www.meti.go.jp/policy/economic_industrial/report/data/g50331ij.html
また、この事業の中で国内上場企業に対しアンケートを実施(有効回答 1,009 票/3,597
社)しており、リスクマネジメント体制の改善を進めている企業が約 50%を占めるという
結果となっています。この他にもいくつかのアンケートを実施しており、その結果からも、
リスクマネジメントに対する企業意識の変化と関心の高まりを認識しているようです。
それでは、復習になってしまうかもしれませんが、このテキストに基づいて、リスクマ
ネジメントの基本的事項について少しふれてみたいと思います。
3.リスクマネジメントとは
リスクやリスクマネジメントについては、各団体や企業によって様々な定義をしていま
すが、このテキストでは以下のように定義しています。これはいずれの考え方が正しいと
いうものではなく、最終的にはリスクマネジメントを行う企業の立場や考え方によって異
なるものです。
■リスク
「組織の収益や損失に影響を与える不確実性」
■リスクマネジメント
「収益の源泉としてリスクを捉え、リスクのマイナスの影響を抑えつつ、リターンの
最大化を追及する活動」
■事業リスクマネジメント
「リスクを全社的視点で合理的かつ最適な方法で管理してリターンを最大化すること
で、企業価値を高める活動」
なかなかイメージが湧きにくいですが、このテキストでは「リスクマネジメント」と「事
業リスクマネジメント」を分けて捉えており、「全社的な視点」で取り組んでいるかどう
かというところを違いとしています。(※本レポートにおいては、特に区分する必要性が
ないので、以下「リスクマネジメント」として統一いたします。)
では「リスク」と「リスクマネジメント」というそれぞれの言葉をもう少し掘り下げて
みたいと思います。
まず「リスク」ですが、2003 年版テキストでは、「純粋リスク」と「事業リスク」に分
類しています。「純粋リスク」を、事故や災害など損失の発生する可能性だけに限定した
リスク、「事業リスク」を、損失だけではなくアップサイドもダウンサイドもある将来の
不確実性や変動と捉えています。2004 年版テキストには、他にもいくつかの企業での分類
が例示されております。
また、リスク・マネジメント入門(日本経済新聞社、高梨智弘著)では、「純粋リスク
(Pure Risk)」と「投機的リスク(Speculative Risk)」に分類しており、いわゆる自然災
害やテロのような予見が不可能で損害のみが発生するリスクを「純粋リスク」、損失と利
益の両方を発生させる可能性のあるリスクで、経営資源の獲得とその戦略的配分にかかわ
るヒト・モノ・カネ・情報・トキ・企業文化に関連する経営上のリスクを「投機的リスク」
としています。私自身としては現状この捉え方が一番しっくりきています。
次に「リスクマネジメント」についてですが、2004 年版テキストでは、「リスクマネジ
メント(狭義)」と「危機管理(クライシスマネジメント)」を、危機発生前と発生後に分
けて、全体を「リスクマネジメント(広義)」として下記のように捉えています。
(出典:経済産業省 先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント実践テキスト)
一方、前述のリスク・マネジメント入門(日本経済新聞社、高梨智弘著)では、リスク
マネジメントを、「保険や安全対策、さらには経営戦略などを活用して事業の偶発的ある
いは人為的な損失(リスク)を発生しないようにし、もしリスクが発生した場合には、そ
れを最小化し、さらに実現したリスクに適切に対処する経営管理の方法」と定義しており、
クライシスマネジメントを、「主として地震・水害・火災などの自然災害や戦争・テロ・
誘拐・大規模コンピュータシステムの故障などの人的災害などに対する対策・処理」とし
て、分けて捉えています。
つまり、クライシスマネジメントを純粋リスクへの対応としています。このように、リ
スクマネジメントについても、「事前対策」と「事後対策」というように時間軸で捉える
場合や、リスクの分類で捉える場合など、いくつかの考え方があります。
3.リスクマネジメントプロセス
次にリスクマネジメントを実施するプロセスですが、大きく以下の 3 つのステップから
構成されます。
【ステップ①】リスクの把握・評価
まずこのステップで、企業にとってのリスクを漏れなく洗い出し、その発生頻度や影響
度を検討し、自社で優先的に取り組むべきリスクを選択します。
【ステップ②】リスクへの対応
ステップ①で対策を講じるとしたリスクをどのようにマネジメントしていくかを決定し
ます。例えば、どのような手法を利用するのか、どのようなリスクマネジメント目標を設
定するのか、また、対策を講じないとしたリスクはどう扱うのか、などを検討するステッ
プです。
【ステップ③】 リスク情報の伝達
このステップは、下記の図表を見ていただいてもお分かりになるとおり、ステップ①・
②が終わってから行うものではなく、社内外のステークホルダーの理解を獲得するステッ
プであり、リスク情報の記録、保管、表現、伝達を必要なタイミングで適切に行う必要が
あります。
リスクマネジメントの流れの全体イメージについては、下記の図表をご参照ください。
(出典:経済産業省 事業リスクマネジメント 図表 1-1 事業リスクマネジメントの流れ)
4.リスクマネジメントの手法
リスクへの対応策については、「リスクコントロール」と「リスクファイナンス」に分
けて考えることができます。リスクコントロールとは、リスクを評価・分析し、リスクそ
のものを最小化していくことで、手法としては、「リスク回避」、「リスク低減」がありま
す。また、リスクファイナンスとは、リスクコントロールを行った後の残存リスクについ
ての資金面での対応のことであり、手法としては、「リスク移転」、「リスク保有」があり
ます。
まず、リスクコントロールの手法についてですが、「リスク回避」とは、リスクのある
状況に巻き込まれないようにする意思決定又はリスクのある状況から撤退する行動のこと
を指し、例えば、「火災が発生しないよう作業場内を禁煙にする」などの対策のことです。
また、「リスク低減」とは、特定のリスクに関する発生確率や損害金額を少なく抑えたり、
危険を集中させないよう分散させる行動のことを指し、例えば、「建物を免震構造にする」
などの対策のことです。
次に、リスクファイナンスにおける手法である「リスク移転」とは、特定のリスクに関
する損失の負担を他社と分担する行動のことを指し、例えば「保険などによりリスクを自
社から移転する」対策のことです。また、「リスク保有」とは、特定のリスクに関する損
失の負担の受容であり、発生確率や損害額などから投資対効果を検討した上で、リスクが
発生した場合には自社の内部留保等でまかなう、という意思決定を行うことです。
それでは、リスクマネジメントの基本的事項はこのあたりにしまして、企業がリスクマ
ネジメントに取り組む上での、私の考えを述べさせていただきたいと思います。
5. リスクマネジメントと企業倫理
企業のリスクマネジメントというと、企業防衛的なイメージで捉えられている面がある
と思います。
私は、リスクマネジメントにおける「企業防衛」は二義的な問題であり、一義的には企
業が社会の一員(一市民)としての、「社会的責任」を果たすことである、と認識する必
要があると考えます。冒頭に述べたような事件や事故によって、多くの人々の健康や命、
安全が奪われることはあってはならないことであり、まずは企業の社会的責任として、少
なくとも人為的に防げるものは企業存続の最低限のハードルとして対処する必要がある、
と我々は肝に銘じなければなりません。
言い換えれば、いわゆる「純粋リスク」の中で、人々の健康や命、安全に関わるような
問題を一義的なリスクとして捉えるという心構えが必要だということです。
人間はミスをする生き物です。最大限の努力を払っても、人為的なミスが原因で事件や
事故が発生してしまう場合があります。そういった場合にも、このような考え方がベース
ないと例え危機管理マニュアル等が整備されていたとしても対応の仕方を間違うと思いま
す。
日経産業聞の社長 100 人アンケート(2005 年 4 月 25 日掲載)によると、安全や危機管
理に対しどういった備えをしているかという問いに対し、最も多かった回答は「安全対策
マニュアルを見直す(75.8%)」だそうです。また、不祥事を起こさないための備えとして
は「コンプライアンスに関するガイドラインを作成した(93.1%)」が最も多い回答だった
そうです。
マニュアルやガイドラインを作っておくことは非常に重要だと思います。しかしながら、
「作る」ことが目的にならないように、またそのマニュアルで従業員に何を伝えるかとい
う「中身」についてもよく考えていただきたいと思います。私は、企業としての姿勢や考
え方・心構えを従業員に伝えるのは経営者の最も重要な使命の一つだと思います。
またもう一点、企業には多くのステークホルダーがあり、企業の行動が世の中に与える
影響は、一個人が与える影響よりも大きく、場合によっては社会全体に大きな損害を与え
る可能性があるということも伝えていただきたいと思います。
特に最近、そういった認識が欠如した事件や事故が多くなっているように思います。
これは、一つの時代の流れではないかと感じています。
経団連の奥田会長は、近年の製造や輸送などの現場での事故やトラブルについて「月刊・
経済Trend 2004 年 1 月号」の巻頭言(一部抜粋)で以下のように述べています。
「現場の手違いや手抜き、あるいは利益や業績を過剰に意識した担当者の違反行為が原
因となっていることが多いように思う。(中略)
その背後には、単なる規律や気持ちの緩みといった問題ではなく、現場の人材の力、い
わば「現場力」といったものの低下を招く構造的な要因があると思われてならない。明白
な証拠があるわけではないが、一連の事故の大きな要因として、現場の熟練工や高度人材
の減少、過度の成果指向による従業員へのプレッシャーが働いているのではないかとの懸
念が示されている。(中略)
現場力の維持は経営者の責任である。わが国の現場力は、人間尊重と長期的視野という、
いわゆる日本的な経営によって長期間をかけて培われたものだ。手遅れになる前に、その
原点に立ち戻ってみる必要があるのではないか。」
また、最近の活発なM&Aにおける一歩間違えばマネーゲームとも取られかねないよう
な企業活動もこういった現象を助長する恐れがあるように感じています。私は個人的には、
最近のM&Aの動きについて全く否定的ではありません。どちらかというと資本主義社会
である限り当然のことだと思っています。
しかしながら、世間の人々はどう感じているでしょうか。中には、「一生懸命働くのが
馬鹿らしい」と感じている人もいるかもしれませんし、「自分も同じようなやり方で成功
したい」と思っている人もいるかもしれません。
しかし我々は「利益」獲得の大前提として、人々の健康や命、安全の確保といった絶対
に忘れてはいけないことがあると認識しなければなりません。企業においてその認識を保
持するためには、経営者の方の「高い志」と「強いリーダーシップの発揮」が不可欠であ
ると思います。
6.リスクマネジメントと社外コミュニケーション
また、もう一つの原因として、次のような問題も考えられると思います。
私は、一般的に企業規模が大きくなればなるほど、従業員は内向きの視線になると思っ
ています。企業規模が大きくなるほど、ヒト・モノ・カネなど、社内リソースが充実して
きます。すると、社内だけ、または非常に少ない社外との接触で問題解決ができることが
増えてきます。
その結果、自然と社外とのコミュニケーションが減り、いつの間にか世間での非常識が
自社内での常識となってくることがあります。
そういった現象が、最近の大企業における不祥事につながっているのではないかと考え
ています。先般の列車の脱線事故についても、事故の裏に潜む企業組織としての様々な根
深い問題があるように思います。しかしこれは決して対岸の火事ではなく、自らの身に置
き換えて考えたときに、他人事と思えない部分があります。これを他人の問題とせず自ら
を振り返る機会としていただきたいと思います。
私はリスクマネジメントにおいて最も重要なことは、どういったリスクがあるかを「知
る」こと、またそのリスクにどう対処するかを前もって「考えておく」ことだと思います。
また、常に様々なリスクに晒されており、いつ何時発生するかもしれないと意識しておく
ことであると思います。
そしてさらに、その視線は、常に客観的でかつ外向きでなければなりません。
そのためには、世の中の事件事故、法改正、ステークホルダーの意識変化など、常に経
営上のリスクに関してのアンテナをはっておくこと、また自社から一歩外に出てみて外の
視線で自社を見直してみることが必要だと思います。
リスクに対するアンテナをはる、また、社外とのコミュニケーションにより自社のあり
方や姿勢を見直す、ということは、経営者のリスクマネジメント上の重要な役割であると
思います。
そういった意味で、このアウトスタンディングスクールなどの仕組みをうまく活用して
いただき、情報収集とコミュニケーションの場として利用されることは非常に有益なこと
であると思います。
アウトスタンディングスクールには様々な専門家の方が参加されています。当然それぞ
れに専門分野があり、法律問題であれば弁護士、会計問題であれば会計士や税理士、知財
問題であれば弁理士など、客観的な立場から最新の動向について知識を得ることが出来ま
す。また、我々中小企業診断士であれば、経営相談や企業診断を通して、投機的リスク(事
業リスク)におけるリスク低減のサポートができると考えております。
またそれ以上に、自動車業界という同業界の方々が多く参加しており、同様の問題点や
課題について共有し意見交換ができるということが非常に大きなメリットではないかと思
います。
当スクールや我々をご活用いただくことによって、日本の主要産業である自動車業界が
発展し、延いてはそれが日本経済の発展につながり、我々の子供たちの世代が住みやすい
社会作りに貢献できれば幸いです。
最後になりますが、私から経営者の方々へのお願いという意味を込めまして、2003 年 12
月 16 日に経団連が行った、「2004 年版経営労働政策委員会報告」からの抜粋を掲載させ
ていただきたいと思います。長文にお付き合いいただきありがとうございました。
「高付加価値経営と多様性人材立国への道」(概要)
−今こそ求められる経営者の高い志と使命感−
<一部抜粋>
第3部 今後の経営者のあり方
企業倫理の徹底は、社会的責任の遵守であると同時に、危機管理(リスクマネジメント)
の一環でもある。
最近頻発する工場での大事故は、「現場力」、すなわち現場の人材力の低下の反映であると、
トップ自ら危機感をもって認識する必要がある。
「高い志」に裏打ちされた経営が、国益や社会の利益を増進し、ひいては「活力と魅力溢
れる日本」を創り上げていく道へつながる。こうした志を実現するためには経営者のリー
ダーシップの発揮が不可欠である。
1.経営ビジョンの限りない追求
国際競争力の強化と同時に、企業に求められているものは、企業倫理の徹底である。企業
の遵法精神にはずれた行為は、大きな危機(リスク)要因である。企業倫理の徹底は、社
会的責任の遵守であると同時に、危機管理(リスクマネジメント)の一環でもあることを、
企業は認識しておく必要がある。
ここ 1 年間、従来ほとんど起こらなかった工場での大規模な事故が頻発している。企業と
しては、この問題を単に規律の問題としてでなく、「現場力」、すなわち現場の人材力低下
の反映であると、危機感をもって認識する必要がある。経営幹部の意識改革なしに、この
問題の根本的解決はありえない。
2.経営者の使命・役割
労使は社会の安定帯である。企業、産業、地域、ナショナルセンターなどそれぞれのレベ
ルにおける労使の十分な対話と協調が経済・社会の安定に大きな役割を果たすことが、新
しい労使関係の創造につながる。「多様な価値観が生むダイナミズムと創造」こそが、わ
が国の活力と魅力を取り戻すためのエネルギーの源となろう。労使にはベクトルをあわせ
て、新たな時代を切り拓くべく挑戦を続けることが求められている。
企業は単に公正な競争を通じて利潤を追求するだけにとどまらず、広く社会にとって有用
な存在でなければならない。21 世紀は物質的豊かさに加え、精神的な豊かさが求められる
時代である。こうした時代に経営者に要求されるものは、「新たな価値観の創造」、「信頼
の獲得」、「企業活動を通じて社会の活力を向上させようとする意思の力」である。このよ
うな「高い志」に裏打ちされた経営が、国益や社会の利益を増進し、ひいては「活力と魅
力溢れる日本」を創り上げていく道へつながる。こうした志を実現するためには経営者の
リーダーシップの発揮が不可欠であり、同時に企業の諸関係者からの意見に真摯かつ謙虚
に耳を傾けることが求められる。
【コラム】
私の本業は建設業ですが、建設関連で近年最も注目されているリスクとしてはやはり、
地震リスクであると感じています。
建物が地震に耐える能力を耐震性と言います。そして、建築基準法では耐震性について
の基準が設定されています。現行の建物の耐震基準(新耐震基準)は、昭和 56 年(1981
年)に改正され、導入されています。
詳細な説明は差し控えますが、新耐震基準の考え方は、中規模程度(震度 5 強程度)に
対してはほとんど損傷を生じず、大規模地震(震度 6 強∼7 程度)に対しては、人命に危
害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目標にしています。
阪神・淡路大震災では、この新耐震基準が被害の大きな分かれ目となっています。
国土交通省の調査報告書によると、阪神・淡路大震災では、昭和 56 年以前に建築され
た建物のうち、約 30%が大破、約 35%が中破・小破、約 35%が軽微・無被害となってい
ます。そして、昭和 57 年以降の新耐震基準で建築された建物については、約 8%が大破、
約 17%が中破・小破、残りの約 75%が軽微・無被害となっており、新耐震基準以前に建
築された建物で倒壊等の被害が大きいとしています。
この地震では 5500 人余もの貴重な人命が失われたのですが、その死者・行方不明者の
8 割余が、家屋・家具の倒壊によるものでした。
ですから、お客様から建物の耐震診断を実施するべきか否かのご相談を受けたとき、ま
ず「その建物が何年に建てられたか」をお聞きするようにしています。そして、昭和 56
年以前に建てられたものであれば、早急に耐震診断を行い、必要に応じて耐震補強を行う
ようアドバイスをします。誤解を招くといけませんので付け加えさせていただきますと、
昭和 57 年以降に建てられたものであれば安全と言っているわけではありませんし、それ
以前の建物が全て危険だというわけではありません。あくまで最低限の判断基準のひとつ
であるとご理解いただきたいと思います。
とにかく過去の経験からしても、昭和 56 年以前に建てられた建物が地震に対して危険
である可能性が高いということです。ですから少なくともこれに該当する工場や事務所に
ついては、一度専門家に建物をチェックしてもらうなど、地震発生時の従業員の安全を守
るためのリスクマネジメントを行う責任が、経営者にはあると考えます。
【参考資料】
経済産業省 事業リスクマネジメントテキスト
【URL】http://www.meti.go.jp/report/data/jinzai_ikusei2004_06.html
経済産業省 先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント実践テキスト
【URL】http://www.meti.go.jp/policy/economic_industrial/report/data/g50331ij.htm
国土交通省 阪神・淡路大震災建築震災調査会報告書(平成7年)
日本経済団体連合会 月刊・経済Trend 2004 年 1 月号
リスク・マネジメント入門(日本経済新聞社、高梨智弘著)
日経産業聞 社長 100 人アンケート(2005 年 4 月 25 日掲載記事)
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