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中国の市場構造の動向と日本企業の戦略 (PDF:1025kb)

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中国の市場構造の動向と日本企業の戦略 (PDF:1025kb)
特
集
中国の市場構造の動向と日本企業の戦略
中国の市場構造の動向と日本企業の戦略
㈱価値総合研究所
主任研究員
高 尾 真紀子
中国は世界同時不況をいち早く抜け出し、 2009年も8.7%という高い経済成長を続けている。 中国
政府の4兆元1)に及ぶ景気対策もあり、 中国の内需は力強く、 個人消費が輸出額を上回ったという。
政策の後押しもあり、 中国の2009年の自動車販売台数は、 アメリカを抜いて世界第1位となった。
かつて中国は世界の工場と呼ばれたが、 現在の中国は世界の市場として熱い注目を集めている。 日
本のメーカーにとっても、 中国は市場として重要な位置を占めるにいたっている。 本稿では、 デジ
タル家電製品を例に、 中国市場の動向と日本企業への影響について見てみる2)。
1
中国の消費構造−都市と農村の
格差
図表1
都市と農村の所得格差
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都市と農村の所得・消費水準
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中国の経済成長は目覚しい。 1990年代以降、 年率
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10%前後の高い成長を続けてきた。 一人当たりGD
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Pでは2008年に3,000ドルを突破し、 先進国のベンチ
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マークである1万ドルには大きく及ばないが、 10年
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前 (1998年) と比較すれば3.9倍という高い伸びを
示している。
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資料:中国国家統計局 「中国統計年鑑2008」
特に成長が著しいのが都市部である。 都市と農村
の人口推移を見ると、 都市の伸びが大きく、 2007年
家電製品の普及率3)
には農村7億2,800万人に対し、 都市5億9,400万人
所得水準や流通網へのアクセスの違いを背景に、
と都市人口が45%まで上昇し、 都市化が進んでいる。
都市部と農村部では家電製品の普及状況も大きく異
また、 家計一人当たり年間所得の推移を見ると、
なる。 都市部では、 カラーテレビは90年代に100%
90年代後半以降、 都市住民の所得の伸びが著しく、
を超え、 携帯電話は2000年以降急速に普及した。 カ
2007年では農村住民では4,140元に対し、 都市住民
メラやコンピュータは約50%の家庭普及率である。
13,780元となり、 格差が拡大している (図表1)。
また、 洗濯機、 冷蔵庫は95%が所有し、 エアコンの
都市住民の家計をみると、 所得の上昇とともに消
費支出も増加し、 2007年の一人当たり消費支出は
9,947元に達している。
普及率も2000年以降急速に高まり95%に達している
(図表2)。
これに対して、 農村部での耐久消費財の普及は遅
れている。 カラーテレビが94%、 携帯電話が固定電
話を逆転し78%まで達しているものの、 コンピュー
1) 1元は約13.2円 (2010年3月)
2) 本レポートは財団法人機械振興協会経済研究所委託 「中国
の技術標準及び流通構造の変化が日系電機メーカーに与える
影響」 調査研究 (平成20年度) に基づき、 一部データを更新。
タ、 カメラの普及率は3∼4%程度、 洗濯機や冷蔵
3) 正確には100世帯当たりの所有台数。 複数台所有の世帯も
あるため、 普及率とは異なる。
中国の市場構造の動向と日本企業の戦略
庫、 エアコンなどの普及率も10∼40%程度にとどまっ
ている (図表3)。
図表2
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都市における家電製品の普及状況 (100世帯当たり)
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中国の消費者と家電メーカーの
ブランド力
中国の消費者
中国では所得や資産の格差が大きく、 平均所得で
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はまだ低いものの、 中国の富裕層は先進国以上の所
得・消費水準を持ち、 その数も一定数に達している。
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中国の消費者の特徴として、 ブランド志向が強い
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う面もあるが、 中国では多分に“見え”の要素が強
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ことが挙げられる。 ブランドは品質のシグナルとい
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いと言われ、 一目でそのブランドと分かるデザイン
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が好まれる。 家電製品は富裕層のシンボルでもある。
特にデジタル家電製品の購入には、 「顕示的消費
資料:中国国家統計局 「中国統計年鑑2008」
図表3
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農村における家電製品の普及状況 (100世帯当たり)
(みせびらかしの消費)」 の傾向があり、 サイズが大
きなもの、 見栄えのよいものが重視される。 内陸部
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では 「舶来品」 志向も残存していると言われる。
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この傾向も若い層では変化しつつあり、 品質や洗
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練されたデザインへの志向が強くなっており、 エア
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コンなどでは 「省エネルギー」 も大きなポイントと
なってきている。 ただし、 「省エネ」 は環境や節約
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よりも、 高品質のイメージのシグナルとなっている。
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資料:中国国家統計局 「中国統計年鑑2008」
家電メーカーのブランド力
デジタル家電製品における日系メーカーのブラン
主要な家電製品について、 都市と農村の普及率を
ド力は高く、 品質については高い評価がなされてい
比較すると、 全ての品目で都市の方が農村よりも普
る。 例えば、 薄型テレビでは、 ソニー、 韓国のサム
及率が高く、 20%∼80%ポイント以上の差がある。
スン、 シャープが3Sと言われ、 最も高いブランド
競争力を誇ってきた。
図表4
都市と農村の家電製品の普及率格差
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図表5は、 中国のインターネット販売における液
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晶テレビの価格をサイズ別・メーカー別にプロット
したものである。
全体として日系メーカーの販売価格が最も高く、
その他外資 (サムスン、 LG、 フィリップス) が中
間で、 中国メーカーがその下の価格帯になっている。
資料:中国国家統計局 「中国統計年鑑2008」
特
集
中国の市場構造の動向と日本企業の戦略
インチ別・メーカー別液晶テレビの価格分布
図表5
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家電流通の変遷
中国の家電流通の歴史を見ると、 計画経済時代の
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流通は国有卸と国有小売が担っており、 国有卸は、
仕入・販売先、 販売する地域、 利益率が決められ、
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いわゆる 「3固定制」 が敷かれていた。
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中国の家電流通チャネルの特徴
1990年代に、 国有卸による配分システムが崩壊し、
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資料:上海国美インターネット販売サイト (http://www.go
me.com.cn/、 2009年1月13日時点) より価値総合研究所
にて作成
新たに代理店を経由した新しい流通チャネルが生ま
れ、 伝統的なチャネルと拮抗してきた。 90年代半ば
にはハイアール、 TCLなど大手国内メーカー主導
の系列店網づくりが行われた。 一方、 2000年以降は
中国におけるデジタル家電市場の動向
中国では、 薄型テレビ、 デジタルカメラなどのデ
家電量販店など新しい業態が発達し、 急速に大きな
力を持つようになってきた。
このように、 短い期間に急激な変化が起こったた
ジタル家電製品の販売がこの数年急激な伸びを続け
てきた。 液晶テレビの近年の販売動向を見ると、
め、 地方都市や農村部では、 メーカーによる販売子
2005年に120万台と急増して液晶テレビ元年と言わ
会社や専売店など系列網の構築が進み、 百貨店も一
れ、 2006年には420万台、 2007年に850万台と急成長
定の勢力を持つ一方で、 大都市では家電量販店によ
した。 しかし、 2008年後半から急速に伸びが鈍化し
る寡占化が進み、 圧倒的な力を持つなど、 さまざま
た。
な動きが同時多発的に起こっている。
この原因は、 2008年前半の金融引き締めによる株
価や不動産価格の下落に加え、 四川大地震による消
デジタル家電の流通チャネル
費者心理の変化や北京オリンピック後の需要の減退
薄型テレビやDVDプレーヤーなどは、 大都市で
なども指摘されている。 さらに、 リーマンショック
はメーカーが家電量販店と直接取引するケースが多
後の世界金融危機が重なった。
いが、 その他に地域ごとに代理店に卸し、 そこから
薄型テレビ市場では、 中国メーカーの海信、 康佳、
特約店に販売されるルートも併用している。
創維などが価格の安さと品質の向上でシェアを伸ば
直営販売網を構築しているハイアールは、 全国42
してきた。 これに対して、 シャープは2007年末から
か所 (省都レベル) に販売会社を設立し、 省都以外
中国市場での販売を強化し、 大都市で家電量販店と
の2級都市には販売センター (ハイアール流通セン
関係を深めるとともに、 地方都市への営業体制を強
ター)、 それ以外の3、 4級市場では専売店を組織
化し、 2008年9月にはシャープのシェアが第1位に
している。 販売会社は1級市場の小売商と直接取引
なった。
するとともに、 販売センターを通じて2級市場の小
しかし、 2008年後半からは、 台湾製の液晶パネル
売商と、 3級市場の小売商・専売店と取引する。 専
の価格低下から中国メーカーの低価格攻勢がさらに
売店は 「1県1店舗」 が原則で (大きい県は複数)、
強まり、 再びシェアを奪還し、 2009年1∼9月では
約2,000店舗に達している5)。
中国メーカーのシェアは75%を超え、 3S (ソニー、
サムスン、 シャープ) のシェアは10%程度まで低下
している4)。
4) 日本経済新聞2009年12月30日
5) 関根孝 「中国家電品流通の発展−国美と蘇寧−」 専修商学
論集第88号2008年12月
中国の市場構造の動向と日本企業の戦略
図表6
デジタル家電の流通チャネル (模式図)
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店舗を出店して拡大する戦略である8)。
中国の家電量販店の販売方式の多くは、 メーカー
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別のブース (店内店) で販売するもので、 場所代や
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ヘルパー派遣代は全てメーカー負担といった特徴が
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図表7
店内店方式の中国家電量販店(上海永楽電器)
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資料:ヒアリング及び関根孝 「中国家電品流通の発展−国美と
蘇寧−」 より作成
薄型テレビは家電量販店での販売が50∼70%を占
め、 大都市部では特にその割合が高い。 百貨店での
販売も20%程度あるが、 比率は低下している。 日系
メーカーでは、 ソニー・スタイルショップなど、 直
営で対面販売をすることで、 ブランド価値を高める
日系メーカーへのヒアリングによれば、 量販店の
方法も採られている。
一方、 デジタルカメラの流通チャネルは代理店方
基本マージンは11%∼14%だが、 場所代、 ヘルパー
式が主流で、 メーカーは各省に事務所を置き、 総代
派遣代、 展示商品、 販促費などを含めると10∼15%
理店と契約し、 代理店が特約店に卸している。 デジ
となり、 トータルのマージン率は25∼30%となり、
タルカメラの販売は、 IT市場と呼ばれる、 パソコ
日本国内と大きくは異ならない。
ン関連商品の中小ショップの集まるビル (電子城)
での販売が50%以上を占めている。
インターネット販売やテレビショッピングも有望
6)
メーカーにとって家電量販店との取引のメリット
は、 何と言っても量的な拡大が図れることである。
また、 メーカー主体の展示が可能なことや、 派遣ヘ
と見られているが、 国内法の規制 やチャネル政策、
ルパーによって販売動向の把握ができることなどを
価格、 サービス体制等がネックになっている。
挙げるメーカーもある。 相対的にブランド力の劣る
メーカーでは他のメーカーの製品を買いに来た顧客
家電量販店の急成長と寡占化
中国の家電量販店は2000年頃から急成長してきた。
に、 自社製品を比較してもらい購買に誘導するとい
う効果もあるという。
国美、 蘇寧、 永楽、 五星、 大中の店舗数は、 2000年
一方、 デメリットは利幅が薄いことであり、 値引
には42店に過ぎなかったが、 2007年には1,890店ま
販売によってブランド価値が毀損されること、 値引
で拡大している。 特に国美は中国小売業ランキング
きや返品に伴う不透明な取引慣行なども問題とされ
トップの大企業であり、 地域の店を次々と買収して
ている。 家電量販店に限ったことではないが、 支払
拡大し、 2006年に永楽 (上海)、 2007年には大中
いサイトが長く、 売掛金回収に時間と手間がかかる
(北京) を買収して、 大都市でのシェアを拡大して
こともメーカーには頭の痛い問題である。
いる7)。 これに対して家電量販店2位の蘇寧は自社
6) 通信販売は外資企業の投資に関する制限類にあたり、 出資
比率に制限がある
7) 国美電器創業者の黄光裕氏は2008年11月に株価操縦の疑い
で逮捕され辞任。 背景には急速な規模拡大があったといわれ
る。 なお最近の統計では蘇寧電器がトップに立っている。
8) 蘇寧電器は2009年6月に日本の老舗電器店ラオックスを買
収
特
集
中国の市場構造の動向と日本企業の戦略
4
市場構造の変化と日本企業への
影響
中間所得層の拡大
政策である。
「家電下郷」 プロジェクトは2007年末に山東、 河
南、 四川省で先行導入され、 2008年12月に14省・自
治区に対象範囲を拡大し、 2009年2月からは全国に
所得格差の大きさが指摘される中国だが、 経済成
対象を拡大するとともに、 対象製品にオートバイ、
長に伴い、 中間所得層も増加しており、 2008年には
パソコン、 温水器、 エアコンを追加した。 中国政府
年間可処分所得1万ドルを超える世帯が約4,700万、
はこれによって4年間で9,200億元の需要が創出で
2,500ドルから1万ドルの世帯が約2.1億世帯となっ
きるとしている。
ており (図表8)、 こうした層の購買意欲も高まっ
ている。
指定製品は入札で決まるが、 価格の上限があるた
め、 中国国内メーカーの落札が多く、 輸出減少に苦
しむ国内メーカーの保護策としての性格が濃い。 し
図表8
中国の所得階層分布の推移 (世帯数%)
かし、 2008年11月の落札企業リストには、 携帯電話
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端末でサムスン電子、 シーメンスなど、 洗濯機で三
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洋、 パナソニックなど外資系メーカーも初めて指定
された。
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家電量販店の地方進出と外資系小売業の参入
家電量販店の国美電器は、 中国国内の主な都市に
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資料:Euromonitor,World Income Distribution2009/2010
はほとんど出店済みであるが、 出店は大都市に集中
しており、 3、 4級市場へはまだ出店していない。
蘇寧電器は3級都市への進出でやや先行しているも
のの、 やはり1、 2級都市が中心である。
1、 2級都市での出店余地が狭まるにつれ、 今後、
大都市の成長鈍化と 「家電下郷」 政策
中国では、 沿海部の都市を中心とした経済成長と
所得水準の高まりを背景に、 家電製品の販売が急激
な伸びを続けてきたが、 2008年下期には、 急速に伸
び率が鈍化した。
家電量販店も3、 4級都市へ進出をせざるを得ない
ため、 これに伴ってメーカーも販路を広げていくも
のと考えられる。
しかし、 メーカーに販売を依存した場所貸しモデ
ルの家電量販店の販売効率は低く、 地方に進出した
特に沿海部の大都市など1級市場で経済の減速が
場合には、 さらに販売効率が低下する可能性が高い。
目立ち、 代わって内陸の地方都市など2、 3級市場
メーカーにとっては、 家電量販店に依存した販路拡
9)
が成長している 。
大には物流網の構築など課題も多い。
それに加え、 中国政府は、 農村と都市の格差の緩
中国のWTO加盟に伴い、 2004年以降、 外資の卸
和や内需拡大策の一つとして 「家電下郷」 という農
売業・小売業の単独での参入が可能となっているが、
村への家電製品普及政策を打ち出した。 農村の住民
各都市で作成されている都市商業発展計画が大型店
が、 カラーテレビ、 冷蔵庫、 携帯電話、 洗濯機の指
舗を出店する際の制約となっており、 出店に関する
定製品を購入した場合に13%の補助金を出すという
申請や手続きが不透明であることも指摘されている。
このため、 外資の家電小売業の進出が計画通りに進
9) 中国では1級∼4級都市、 1級市場∼4級市場と等級をつ
けてマーケットを表現することが多い。 一般的には、 1級市
場:直轄市、 省都、 計画単列都市、 2級市場:地区レベルの
市 (中国語の 「地級市」)、 3級市場:県レベルの市 (中国語
の 「県級市」)、 4級市場:郷鎮農村とされている。
まないケースも見られる。
アメリカの大手家電量販店ベストバイは2006年12
月に上海で中国第1号店を出店し、 消費者の人気を
中国の市場構造の動向と日本企業の戦略
集めている。 しかし、 その後の出店は計画通りには
特
集
所得層向けのハイエンド市場に注力してきた。
進んでいない。 売り場には中国メーカーの製品はほ
中国では、 経済成長に伴って高所得層が増加して
とんどなく、 日本をはじめとする外資系メーカーの
きた。 このため、 メーカーが、 自らの製品戦略を変
製品がほとんどを占める。
更することなく、 ハイエンド製品を提供していれば、
日系メーカーにとっては外資系家電小売業との取
引も一つの選択肢になる。
所得の上昇によって、 自社のターゲット層が増加し
てくることになる。
しかし、 最近では大都市の成長の鈍化と、 2、 3
図表9
上海にあるベストバイ中国1号店
級市場の成長が目立ち、 政府は内陸部や農村部の成
長や消費促進策をとっている。
デジタル家電製品の市場では、 日系をはじめとす
る外資系メーカーの注力してきたハイエンド市場に
比べ、 これまで主に中国メーカーが担ってきた低価
格のローエンド市場、 機能や品質がローエンドに比
べて向上したミドル市場の拡大が目立っている。 ミ
ドル市場は大都市ばかりでなく地方都市や農村にも
広がっている。
サムスンは価格競争の厳しい1級市場から、 薄型
一方、 ベストバイ1号店の近くにある国美の店舗
テレビの3、 4級市場を開拓する計画を制定し、 40
は、 従来型の店中店方式ではなく、 商品別・サイズ
インチ以下の薄型テレビの地方販売ルートを強化し
別の展示方式の店舗である。 外資系小売業の進出が
ている。
地場企業にも影響を与えている。
図表11
べストバイ近くの国美電器の店舗
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図表10
中国デジタル家電市場の構造
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なお、 日本の家電量販店トップのヤマダ電機も中
国での展開を計画している。 日本と同様に社員が直
携帯電話端末の歴史を見れば、 ハイエンド機に特
営の売り場で接客し、 商品構成も日系メーカー製品
化していた外資系メーカーに対し、 中国メーカーは
が中心になると見られている。
ローエンド機を低価格で地方都市や農村市場に販売
する販路拡大戦略でシェアを拡大した。 これに対し
日系メーカーの戦略
日系メーカーの従来のターゲットは主に沿海部の
大都市 (1級市場) であり、 ブランドを重視する高
て、 ノキアなど外資系メーカーはローエンドを含め
てラインアップを増やすとともに、 地方や農村へも
自社の販売網を構築することでシェアを奪還した。
特
集
中国の市場構造の動向と日本企業の戦略
一方、 ハイエンドにこだわった日系メーカーは、 撤
代金回収などの業務についてはフルフィルメント・
退を余儀なくされた (図表12)。
ディストリビューター (FD) という専門業者を活
用し、 アウトソーシングを進めた (図表12)。
図表12
携帯電話端末の流通チャネル
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今後の流通構造の変化を見据えると、 インターネッ
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ト販売などの成長も予想され、 その場合にもFDの
活用がポイントとなりうる。
さらに、 地方都市や農村部向けには、 製品につい
ても、 ハイエンドの高機能品ばかりでなく、 ミドル
レンジの製品や機能を省いた低価格 (ローエンド)
製品が必要になるものと考えられる。
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図表13
メーカーのターゲット層に応じた戦略
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資料:木村公一朗 「中国携帯電話端末産業の発展−販売重視の
戦略とその限界−」 及びヒアリングより作成
ハイエンド特化
ミドル市場への参入
ターゲット層
高所得層
中所得層∼高所得層
地域
大都市中心
流通
チャネル
家電量販店中心
地方代理店・専売店ルー
トの併用、 FDの活用
製品特性
高機能・高価格
機能を省いた低価格品な
ど幅広いラインアップ
地方都市・農村に拡大
今後、 日系メーカーは、 従来の沿海地域の大都市
重視の戦略を維持するのか、 地方都市や農村までを
ターゲットとするのかの選択が必要になってくる。
そして、 その選択によって、 製品戦略や流通戦略も
大きく異なってくるものと考えられる (図表13)。
大都市部の高所得層をターゲットにする場合には、
日本と同様のハイエンド製品を家電量販店チャネル
デジタル家電ではないが、 浙江省杭州市にあるパ
で販売することが最も効率的だが、 その場合には量
ナソニックの洗濯機工場では、 構造の簡素化や材料
販店との間で交渉力を持つためのブランド力の維持
の見直し、 部品点数の削減を徹底し、 安さと品質を
が最も重要になろう。
両立させ、 約1,000元の全自動洗濯機を開発してい
一方、 内陸部の地方都市や農村部まで販売する場
るという10)。
合には量販店との取引ばかりでなく、 パートナーシッ
日系メーカーもまた、 中国をはじめとする新興国
プを組める地方代理店ルートの開拓や専売小売店と
市場を見据え、 ミドル市場に向けた製品開発が必要
の取引など自社の販売網構築が必要である。 その場
になってきているようだ。
合、 代理店に全てを任せるのではなく、 価格のコン
(たかお まきこ)
トロールや販売情報、 流通在庫の把握などが必要と
なる。
しかし、 農村部までの販売網構築には膨大なコス
トと人員が必要なため、 日系メーカーは踏み込みに
くいのが現状である。
この点で、 携帯電話端末におけるノキアの流通が
参考になる。 ノキアは流通チャネルや販売企画への
関与を深めながら、 コストを圧縮する方策として、
省レベルで販社を設立して代理店をコントロールす
る一方で、 梱包・発送、 在庫管理などの物流業務や
10) 日本経済新聞2009年12月29日
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