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ISSN 1349-4856 C O D E N : T C I M C V
2 0 1 0 .1 0
148
目次
2
寄稿論文
- 合 成 生 物 学 的なアプローチによる遺 伝 情 報の
拡 張 技 術:人 工 塩 基 対の分 子 設 計
理 化 学 研 究 所 生 命 分 子システム基 盤 研 究 領 域
核 酸 合 成 生 物 学 研 究チーム チームリーダー
平尾 一郎
17
化 学 よもやま話 第 18 話
- I C h O 4 2 化 学オリンピック日本 大 会レポート その4
― IChO42東京大会を振り返って―
東京農工大学 大学院工学系 教授
米澤 宣行
20
人工塩基対を組み込んだDNA
製品紹介
- 2 - 置 換アデノシン合 成の有用な中 間 体
- D N Aメチル化の指標ヌクレオシド
- クロスカップリング反 応に有用なN i 触 媒
- 有用なD M AP類 縁 体
- TTM SS基 導 入 試 薬
2010.10 No.148
合成生物学的なアプローチによる遺伝情報の拡張技術:
人工塩基対の分子設計
理化学研究所 生命分子システム基盤研究領域 核酸合成生物学研究チーム チームリーダー
平尾 一郎
概要
生命システムを構成する分子を有機化学の手法を用いて人工的に作り変えることにより,新たな人
工システムを創出する合成生物学という学問が急速に発展している。本稿では,DNA の遺伝情報の拡
張を目指して,人工的に DNA の塩基の種類を増やす研究を例に,合成生物学的なアプローチについ
て解説したい。最近では,種々のユニークな人工塩基が開発され,5種類以上の塩基からなる DNA
を遺伝子に用いた試験管内の生物システムが構築されつつある。
1 はじめに
今年の5月 21 日の新聞各紙に,「人工生命,ほぼ完成」 というニュースが掲載された。これは,米
国の Craig Venter らが細菌(Mycoplasma mycoides)由来の 108 万塩基対からなる全 DNA を人工的に合
成し,DNA を取り除いた別の細菌(Mycoplasma capricolum)にこの全合成 DNA を導入することにより,
人工生物を作り上げた記事であった 1。DNA の塩基配列や化学合成のエラー,細胞内の DNA のメチ
ル化の問題,細胞へのゲノムの入れ替え技術など,さまざまな問題を乗り越え,5年をかけた研究の
成果である。多大な労力を要する仕事だが,一度,人工細胞が出来上がれば,これを自己複製により
増殖させることができる。既に,製薬企業や石油会社がこの研究に出資しているが,これは目的とす
る物質の生産に特化した高効率の細胞システムを作り出せる可能性があるからだ。この研究は,生物
にとって最も基本となる DNA 分子を人工的に作り変えて,新たな生物を作り上げるという,合成生
物学の応用例である。このように,合成生物学では,生命システムの部品となる物質を人工的に合成
し,これらを組み合わせて生物を作り上げるボトムアップ式の研究手法であり,生物個体から徐々に
小さな部品に分けて理解していくトップダウン方式の従来の生物学の手法とは逆方向の研究アプロー
チになる 2。本稿では,合成生物学の一分野である DNA の塩基を新たに作り出す人工塩基対の創製研
究に焦点を当て,人工的に設計・合成した化合物を生物学実験で試験し,その結果をフィードバック
して化合物をさらに改良することにより,洗練された生体分子を創出する合成生物学的なアプローチ
について解説していきたい 3-7。
2
2010.10 No.148
2 人工塩基対の開発
遺伝子の本体である DNA は,A, G, C, T の4種類の塩基が遺伝情報の文字としての役割を担ってい
る。この DNA に人工的に合成した新たな塩基を組み込み,この人工 DNA が生物の遺伝情報の伝達シ
ステムである複製・転写・翻訳で機能すれば,文字種を増やすことにより遺伝情報の拡張が可能にな
る(Figure 1)8。Venter らの人工生物では,天然型の4種類の塩基で DNA を合成しているが,ここに
人工塩基を加えることができれば,DNA や RNA の構成成分であるヌクレオチド(塩基・リボース・
リン酸からなる核酸の構成単位)の種類を増やすことや,人工のアミノ酸を含むタンパク質を作り出
すことが可能になる。また,人工の塩基対を用いた複製や転写の研究から,従来の天然型の DNA の
解析では見出せなかった新たな分子間相互作用や反応機構が明らかになってきている。このように人
工の物質を用いて生物システムを再現する合成生物学のアプローチは,学術的な基礎研究においても
貴重な情報を提供する。
DNA を構成する天然型の4種類の塩基は,A と T ならびに G と C がそれぞれ相補的な塩基対を形
成する。DNA の複製から,DNA の塩基配列情報の RNA への転写,そして,RNA の塩基配列からア
ミノ酸配列への翻訳を経たタンパク質の合成までの一連の反応においては,A-T(RNA では A-U)と
G-C の塩基対が基本法則になっている。また DNA は,これらの塩基対合により相補塩基配列の DNA
鎖間で二本鎖構造を形成する。したがって,人工塩基を組み込んだ DNA を複製・転写・翻訳で機能
させるためには,第三の塩基対(X-Y)として2種類の人工の塩基(X と Y)を作り出す必要がある
(Figure 1)。
Figure 1. Expansion of the genetic alphabet by an unnatural base pair.
The complementarity of the natural A-T (A-U in RNA) and G-C base pairs is a principle mechanism of genetic
information flow. Introduction of an unnatural base pair (X-Y) into DNA provides a new biotechnology, allowing the
site-specific incorporation of functional components into nucleic acids and proteins.
3
2010.10 No.148
ここで重要なことは,複製や転写で A-T と G-C の塩基対と同様に,X と Y の間のみで選択的に塩
基対が形成されなければならないことである(Figure 2)。複製の基本は,まず鋳型鎖の DNA に短い
相補 DNA 鎖(プライマー)が結合し,プライマーの 3' 末端に DNA 合成酵素(DNA ポリメラーゼ)
が結合する。この複合体の鋳型鎖の DNA の塩基に相補する塩基の基質(ヌクレオシド 5'- 三リン酸)
が取り込まれ,プライマーの 3' 末端の水酸基が基質の α 位のリン原子を攻撃して β と γ 位のリンが
ピロリン酸として脱離することにより,新たなホスホジエステル結合がプライマーと基質の間で形成
される。こうして1塩基分プライマーが伸長すると,DNA ポリメラーゼが鋳型 DNA に沿って移動し
て,次の基質が取り込まれ,伸長反応が進行する。この複製における天然型の塩基対の選択性は非常
に高く,例えば,大腸菌の DNA ポリメラーゼⅠのクレノウ断片*という DNA ポリメラーゼは,鋳型
の DNA 上の塩基に対して間違った塩基を1万回に1回程度しか取り込まない 9。
*大腸菌由来の DNA ポリメラーゼⅠをプロテアーゼ(サチライシン)で分解して得られるポリメラーゼ活性のあ
る断片(5' → 3' エキソヌクレアーゼ活性を有しない)
Figure 2. Replication mechanism involving an unnatural base pair.
DNA polymerase binds to the partially double-stranded DNA between a primer and a template DNA. The substrate,
dYTP, is incorporated into the protein-DNA complex. When the Y base correctly pairs with the X base in the template,
the 3-hydroxy group of the primer DNA attacks the α position of the substrate phosphate, resulting in the formation
of the phosphodiester bond and the release of the pyrophosphoric acid.
4
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3 A-T と G-C の天然型塩基対
人工塩基対を設計するためには,天然型の塩基対の高い選択性を理解する必要がある。そこで,ま
ず複製における A-T と G-C の塩基対形成のメカニズムについて,現在得られている知見を述べたい。
A と G はプリン骨格,T と C はピリミジン骨格からなり,A-T は2つの水素結合により,また G-C は
3つの水素結合により,それぞれ塩基対を形成する(Figure 3)。A-T と G-C 塩基対では,水素結合の
ためのプロトン受容基とプロトン供与基の配置が,両者で逆向きになっていることから,二重らせん
構造の中で塩基対を形成する2つのヌクレオチドを同じ距離と配向で対合させようとすると,これら
の2つの組み合わせしかない。しかし,最近,複製においては,塩基間の水素結合はそれほど重要で
はなく,それよりも塩基同士の形状のフィッティングが重要であることが分かってきた。
Figure 3. The natural A-T and G-C base pairs.
Since the distances between the glycoside positions of the pairing bases are always around 11 Å, DNA forms several
types of regular double-helices. The Kool group has shown the importance of the shape complementarity between
pairing bases in replication.
1995 年,Eric Kool らは,常識と考えられていた塩基対の水素結合が,本当に複製に必須かどうか
を調べるために,形は A と T に似ているが,水素結合性の置換基や原子を出来る限り取り除いた Z
と F の人工塩基を合成した(Figure 4,塩基 F のフッ素原子のプロトン受容基としての性質は,ケト
基と比較して 10 分の 1 程度に減少する)10-12。彼らは,これらの人工塩基を組み込んだ DNA や基質
も合成し,これらを用いて DNA ポリメラーゼのクレノウ断片による複製実験を行った。その結果,
鋳型 DNA 中の Z あるいは A に対して基質の F あるいは T が,また鋳型 DNA 中の F あるいは T に対
して基質の Z あるいは A がそれぞれ取り込まれることが分かった。しかし,鋳型中の Z に対して C
の基質,また鋳型中の F に対して G の基質のそれぞれの取り込みは,どちらも非常に低かった。すな
わち,水素結合の相互作用を持たない Z-F 塩基対は A-T 塩基対と互換性があり,塩基間の水素結合は
複製においては必須ではなく,Z や F などの疎水性の人工塩基対も機能することが分かった。そして,
Kool らは,複製における塩基対の選択性が塩基対を形成する塩基どうしの形状のフィッティングによ
ることを見出した 13。
5
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A
G
T
ribose
ribose
C
ribose
ribose
1
Z
F
Q
F
2
ribose
ribose
ribose
ribose
: important proton-donor residues
for polymerase recognitions
Figure 4. Kool’s unnatural base pairs.
The Kool group synthesized an unnatural Z-F pair, mimicking the shapes of the natural A-T pair. The nonhydrogen-bonded Z-F pair functioned in replication with high selectivity, showing the importance of the shape
complementarily rather than hydrogen bonding between pairing bases in DNA polymerase reactions.
これまでの研究をまとめると,複製における塩基対の選択性には,塩基どうしの形状のフィッティ
ングや双極子モーメント,また個々の塩基の極性,疎水性,他の塩基とのスタッキング(芳香族環ど
うしの重なり)が影響していると考えられる。極性と疎水性は相反するように思えるが,これは塩基
が塩基性を示す芳香族性のヘテロ環からなるためである。塩基の疎水性は,DNA 鎖上で隣接する塩
基同士が重なりあるスタッキング相互作用やポリメラーゼ中のアミノ酸側鎖と基質塩基の間における
スタッキングや CH-π 相互作用 14 に効果を及ぼす。なお人工塩基の中には塩基性に乏しいものもある
が,これら全てを塩基と呼ぶことにする。
また,プリン塩基の 3 位の窒素原子とピリミジン塩基の 2 位のケト基は,ポリメラーゼとの水素結
合性の相互作用に必要である(Figure 3)。例えば,チミンやシトシンの 2- ケト基を取り除いた基質
は,PCR(試験管内の複製による DNA の増幅法,Polymerase Chain Reaction)で DNA 中に取り込まれ
ない 15。また,Kool らの Z 塩基はプリンの 3 位に相当する位置に窒素原子が無いが,彼らはその位置
に窒素原子を導入した Q 塩基も合成した(Figure 4)。そして,Z よりも Q のほうがクレノウ断片を用
いた複製において活性が高いことを示した 16。したがって,人工塩基対を設計するためにはこれらの
プロトン受容基となる置換基や元素が相当する位置に必要となる 17。これらの点を考慮して,これま
でにいろいろな人工塩基対が開発されてきた。次項からは,代表的な人工塩基対の設計とその開発を
紹介する。
6
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4 最初の塩基対:Benner らの研究
1980 年代の後半に Steven Benner らは,塩基間の水素結合に関わるプロトン供与基とプロトン受容
基の組み合わせが A-T と G-C の塩基対以外にも設計可能であることに気が付いた 18, 19。例えば,彼
らが作り出した isoG-isoC の塩基対は,G の 2 位のアミノ基と 6 位のケト基を入れ替えた isoG とその
相補塩基として C の 2 位のケト基と 4 位のアミノ基を入れ替えた isoC からなる(Figure 5)18。この
isoG-isoC 塩基対は,クレノウ断片により相補的に DNA 鎖に取り込まれた 18。また T7 RNA ポリメラー
ゼによる転写においても,鋳型 DNA 中の isoC に対して,isoG の基質(isoGTP)が相補する RNA 鎖
に取り込まれた 20。さらに,isoC を含む短い mRNA(54-mer)とアンチコドンに isoG を組み込んだ
tRNA をそれぞれ化学合成し,これを用いて非天然型アミノ酸(3- ヨードチロシン)を導入した短い
ペプチドを大腸菌の試験管内タンパク質合成系を用いた翻訳系で合成できることを示した 21。
A
TS
A
G
T
C
2
ribose
ribose
ribose
ribose
2
isoGenol
ribose
ribose
1
TS
isoG
isoGenol
isoC
T
2
ribose
ribose
ribose
ribose
ribose
ribose
3
Z
ribose
P
ribose
Figure 5. Benner’s unnatural base pairs.
The Benner group developed unnatural base pairs, such as isoG-isoC and Z-P, with different hydrogen bond donoracceptor patterns from those of the A-T and G-C pairs. The Z-P pair functions in PCR amplification. Although the
selectivity of the isoG-isoC pair in replication is not high because of the keto-enol tautomerization, the isoG-isoC pair
can be used in PCR by using A-TS in place of the A-T pair.
Benner らの研究により,人工塩基対による遺伝情報の拡張技術に注目が集まったが,彼らの最初の
人工塩基対は問題も多かった。最大の問題は,isoG の 1 位のイミノ基と 2 位のケト基の間でケト・エ
ノールの互変異性が生じることだった。isoG のエノール体は T と塩基対を形成してしまうので,複
製や転写で鋳型 DNA 中の isoG に対して isoC の基質よりも T や U の基質が取り込まれるようになる
(Figure 5)20。このように設計した人工塩基中の水素結合性のプロトン受容基と供与基の組み合わせ
によっては,水溶液中で互変異性体が生じやすいものがあることが分かった。また,isoC は天然型の
ピリミジン塩基の 2 位のケト基がアミノ基になっているため,ポリメラーゼによっては isoC が複製や
転写において認識されにくくなる 20。さらに,isoC は水溶液中で分解されやすいことも分かった。我々
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の実験では,isoC の基質(d-isoCTP)は,水溶液中で室温下,4日間でその 50%が分解された。3 位(ピ
リミジンの 5 位に相当)にメチル基を導入することで isoC の安定性は多少改善されたが,それでも
isoC のリボヌクレオシド体は水溶液中でグリコシド結合の β → α 体への異性化やリボピラノシル体か
らフラノシル体への異性化などが報告されている 22。最近では,isoC の 3 位にニトロ基を導入してそ
の安定性をさらに高められることを Benner らが報告している 23。
2005 年,Benner らは,isoG のケト・エノールの互変異性の問題を解決するために,天然型塩基の T
を用いる代わりに,2 位のケト基をイオウに置き換えた 2- チオ T(TS)を用いる方法を考えた(Figure
5)24。イオウ原子は酸素原子よりもファンデルワールス半径が大きいこととプロトン受容基としての
性質が低下することから,TS とエノール型の isoG とは塩基対を形成しにくくなる。これは Kool らの
塩基対の条件である形状のフィッティングを利用したものであるが,既に 1988 年に Harry Rappaport
が同様の概念で G の 6 位のケト基の代わりにイオウを用いた人工塩基対の開発を報告している 25。
Rappaport の人工塩基対を PCR で試した報告は無いが,Benner らの A-TS 塩基対と isoG-isoC を組み合
わせた人工塩基対の系は PCR でも機能することがわかった 24。通常の A-T 塩基対を用いると isoG-isoC
塩基対の PCR における選択性(fidelity-per-round,1回の複製当たりにおける,鋳型中の人工塩基に
対して相補人工塩基が取り込まれる割合)は 93%程度であるが,A-TS 塩基対を用いることにより
isoG-isoC 塩基対の選択性は 98%程度までに向上した。しかし,人工塩基対の選択性が 98%程度であ
ると,20 回の複製により最終的に増幅された DNA 中には人工塩基対が 67%程度(0.98 の 20 乗= 0.67)
しか残らない。PCR で利用できる人工塩基対には少なくとも 99%以上の選択性が要求される。
Benner らは彼らの人工塩基対をさらに改良し,2007 年に A-TS 塩基対を用いることなく PCR 増幅が
可能な P-Z 塩基対を開発した 23(Figure 5)(Benner らの Z 塩基は,Kool らの Z 塩基と構造が異なる)
25-27。Z
塩基は,isoG と異なり,isoG の 1 位のイミノ基の水素原子を取り除き窒素原子とし,また
isoG の 6 位のアミノ基をケト基に変えることにより,isoG のようなケト・エノールの互変異性の可能
性を排除した。相補する P 塩基は,その水素結合様式を Z 塩基に合わせた。さらに,P 塩基のニトロ
基は,イミノ基の脱プロトン化によるヌクレオシド誘導体の β → α 体への異性化を防ぐために導入さ
れている。その結果,T の代わりに TS を用いる必要はなくなったが,PCR における選択性は最高で
も 97.5%程度である。
5 Romesberg らの疎水性人工塩基対
Floyd Romesberg らは,Kool らが開発した Z-F 塩基対を発展させて,種々の疎水性の人工塩基対を
開発している。1999 年,彼らはイソキノリンを骨格とする自己相補的な PICS-PICS 塩基対を報告した
(Figure 6)26。二本鎖 DNA 中でこの自己相補塩基対は A-T 塩基対よりも熱安定性が高く,クレノウ
断片を用いた複製で,相補的に DNA 中に取り込まれた。問題は,この疎水塩基が自己相補的に DNA
中に取り込まれた後の複製が止まってしまうことだった。これは,PICS-PICS 塩基対が DNA 中に組
み込まれると,対合する PICS 同士が重なり合い二本鎖 DNA の構造が変化してしまうためと考えられ
ている。そこで彼らは網羅的に 100 種類以上の疎水塩基を設計・合成し,複製で機能する人工塩基対
の開発を進めた 27-33。そして,2009 年,PCR で機能する 5SICS-MMO2 と 5SICS-NaM 塩基対を作り出
した(Figure 6)34。PCR における 5SICS-NaM 塩基対の選択性は,人工塩基対付近の天然型塩基の配
列にも依存するが,最も良いもので 99.8%に達した。彼らの最初の PICS-PICS 塩基対は対合塩基どう
しの形状がフィッティングしていないところに問題があったが,5SICS-NaM 塩基対ではこの点が改善
されている。
PICS-PICS 塩基対が複製途中で止まってしまう問題の解決法として,彼らは DNA ポリメラーゼ
8
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の改変も検討している。DNA ポリメラーゼのアミノ酸配列を部分的に変えたライブラリーを用いて
PICS-PICS 塩基対が機能するポリメラーゼの変異体を選別する進化工学の手法により,改良型のポリ
メラーゼが得られている 35。ただし,このポリメラーゼは,まだ実用化レベルには至っていないよう
である。
PICS
PICS
Directed evolution of DNA
polymerases accepting the PICSPICS pair in replication.
1’
ribose
ribose
1
Syntheses of more than 100 compounds of
unnatural base derivatives.
2
5SICS
MMO2
ribose
ribose
5SICS
ribose
NaM
ribose
Figure 6. Romesberg’s unnatural base pairs.
The Romesberg group developed PICS, the first replicable self-pair. Then, they screened an unnatural hydrophobic
base library, and discovered the highly selective 5SICS-MMO2 and 5SICS-NaM pairs. They also studied polymerase
mutation for better incorporation of the PICS-PICS pair.
6 平尾らの人工塩基対
筆者らのグループも 1997 年より人工塩基対の開発を始めた。当時はまだ Benner らの塩基対が知ら
れている程度であった。そこで,我々は Benner らと同様に水素結合の様式が天然型の塩基対とは異な
るものを考え,さらに選択性を高めるために有機化学の立体障害の概念を取り入れることにした。結
果的に,これは Kool らの形状のフィッティングの概念を拡張したものである。こうして,2001 年に
転写において高い選択性で機能する x-y 塩基対(x:2-amino-6-dimethylaminopurine,y:2-oxopyridine)
を開発した(Figure 7)36。x と y は,天然型の塩基対とは異なる様式の2つの水素結合で対合するが,
x の母体となる 2- アミノプリンは同じ様式の水素結合で T とも塩基対を形成してしまう。そこで,T
の 4 位のケト基部分を立体障害で排除するために,x の 6 位には嵩高いジメチルアミノ基を導入した。
T のケト基の代わりに,y には同じ位置に水素原子を配置し,x との立体障害を出来るだけ少なくして
いる。この x-y 塩基対は,T7 RNA ポリメラーゼを用いた転写で,鋳型 DNA 中の x に相補して,y の
基質(yTP)を 95%以上の選択性で RNA 中に導入することができた。転写の場合は複製と異なり,
9
2010.10 No.148
1本の鋳型 DNA から数百本の RNA が作られるので,選択性が 95%程度であっても,得られた RNA
中には人工塩基が目的の部位に 95%は導入されていることになる。
x
T
x
y
s
y
1
ribose
ribose
ribose
ribose
ribose
ribose
2
Ds
s
Pa
z
3
-amidotriphosphate
Ds
of
ribose
ribose
ribose
ribose
4
A
Ds
Pn
Pn
Ds
Px
5
ribose
ribose
ribose
ribose
ribose
ribose
Figure 7. Hirao’s unnatural base pairs.
We developed several unnatural base pairs by combining the designed concepts of hydrogen-bonding patterns,
shape complementarity with steric hindrance and electrostatic repulsion, and hydrophobicity. The Ds-Px pair
exhibits high fidelity and efficiency in PCR amplification.
x-y 塩基対は転写で利用できることがわかったが,天然型の塩基対と比較すると転写効率は必ずし
も高くなかった。その理由の1つとして,x の 6 位のジメチルアミノ基が塩基対面から垂直方向に対
しても嵩高くなってしまい,DNA 中で隣接する塩基対ともぶつかってしまうことが考えられた。ま
た,ジメチルアミノ基中のアミノとメチル部分がそれぞれ回転するので,効率よく T を排除できない
ことも問題であった 37。そこで,ジメチルアミノ基を平面性の高い複素環に置き換えることにした。
種々検討した結果,チエニル基が良い結果をもたらすことが分かった(Figure 7)。こうして開発した
2-アミノ-6-(2-チエニル)プリン(s)とyの人工塩基対は転写の効率も上がり,yの5位に置換基を
結合した修飾体も転写で RNA 中に導入できるようになった 38-40。s-y 塩基対は翻訳でも機能し,大腸
菌の抽出液を用いたタンパク質合成系と T7 RNA ポリメラーゼの転写系を組み合わせることにより,
人工塩基 s を導入した鋳型 DNA から転写を経て人工アミノ酸(3- ヨードチロシン)を導入したタン
パク質(Ras タンパク質)の合成に 2002 年に成功した 37。人工塩基 s は,x よりも T を効果的に排除
する。これは s の 6 位のチオフェンと T の 4 位のケト基の立体障害に加えて,チオフェンのイオウ原
子と T のケト基との間の静電的な反発も影響していると考えられる。
転写と翻訳で機能する s-y 塩基対であっても,複製に用いるのは難しかった。s-y 塩基対を導入した
DNA を鋳型にして,それぞれの人工塩基の基質(dsTP と dyTP)を加えた系で PCR を行うと,10 サ
イクル程度で人工塩基対の 50%程度が天然型塩基対に置き換わってしまった。これは s-y 塩基対の複
10
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製における選択性が 95%程度であるためだ(0.95 の 10 乗=∼ 0.6)。そこで人工塩基対の形状のフィッ
ティングをさらに良くして改良を進めた。通常のプリン塩基よりも形が大きくなった s に対して,y
の6員環構造の相補塩基は大き過ぎる。そこで,5員環構造の人工塩基(imidazolin-2-one,z)に変
えることにした(Figure 7)41。さらに,水素結合性の置換基や原子を塩基対面に持つ人工塩基は,ど
うしても僅かながら天然型塩基のどれかと対合してしまうので,それらの置換基等を人工塩基から取
り除いた 42。こうして設計した塩基対が Ds-Pa 塩基対である(Figure 7)43。Pa は,ポリメラーゼと
の認識を良くするために,ピリミジン塩基の 2- ケト基の代わりにアルデヒド基を有している。とこ
ろがこの塩基対の問題は,Ds 同士で自己相補的な Ds-Ds 塩基対が複製中に生じてしまうことだった。
Romesberg らの PICS-PICS 塩基対の問題と同様に,鋳型 DNA 中の Ds に対して Ds の基質が取り込ま
れて Ds-Ds 塩基対が形成されると,複製がその部位で止まってしまった。しかしこの問題は,研究員
の偶然の発見が重なり解決することができた。研究室で偶然に得られたヌクレオシド三リン酸の γ 位
のリン酸の水酸基がアミノ基に置き換わった Ds の γ- アミド三リン酸(Figure 7)を用いると,複製に
おける Ds-Ds 塩基対の形成を抑えられることがわかった。この理由に関しては現在調べているところ
であるが,γ- アミド三リン酸体は通常の三リン酸体よりも取り込み効率が悪くなるとともに,形状の
フィッティングも識別して,鋳型 DNA 中の Ds に対して Ds の基質よりも Pa の基質を取り込みやすく
なるようだ。Ds-Ds 塩基対と A-Pa 塩基対を防ぐために,Ds と A の基質に γ- アミド三リン酸体を用い,
Pa とその他の天然型塩基の基質に通常の三リン酸体を用いることにより,99%以上の選択性で PCR
を可能とする Ds-Pa 塩基対を 2006 年に開発した 43。A の γ- アミド三リン酸体を用いることにより,
鋳型 DNA 中の Pa に対する A(dATP)の間違った取り込みを効率よく下げることができた。
この γ- アミド三リン酸体は,別の研究員が効率の良いヌクレオシド三リン酸の合成法を開発しよう
として偶然に合成された。中間体の 5 位の環状トリリン酸の開環反応とヌクレオシドの 3' 位水酸基の
保護基の除去を同時に行おうとして,この中間体を濃アンモニア水で処理したところ,高収率で γ- ア
ミド三リン酸体が得られることを見出した。
Ds-Pa 塩基対は転写でも高い選択性で機能し,転写においても塩基対形成に水素結合が必須ではな
いことが明らかになった。しかし,実用面では,Ds-Pa 塩基対は,γ- アミド三リン酸体を用いるので,
複製の効率が悪くなることや細胞内への実験など幅広い応用が難しくなるといった問題があった。そ
こで γ- アミド三リン酸体を必要としない人工塩基対の開発を進めた。まず A-Pa 塩基対の形成を防ぐ
ために,Pa のアルデヒド基をニトロ基に変えた Pn を設計・合成した(Figure 7)44。これにより,ニ
トロ基の酸素原子と A の 1 位の窒素原子の静電的な反発により A-Pa 塩基対の形成効率を下げること
ができた。さらに Ds-Ds 塩基対よりも Ds-Pn 塩基対の形成効率を高めるために,Pn 塩基の 4 位にプロ
ピニル基を結合させてその疎水性を高めて,隣接する塩基やポリメラーゼ中の基質認識ポケットに位
置する芳香族性アミノ酸側鎖とのスタッキング相互作用を強化させた 45。こうして 2009 年に開発さ
れた Ds-Px 塩基対(Figure 7)は γ- アミド三リン酸体を必要とせず,この人工塩基対を組込んだ DNA
は 40 サイクルの PCR で 10 の 8 乗倍程度に増幅し,増幅された DNA 中には Ds-Px 塩基対が 97%以上
保持されていた。これは Ds-Px 塩基対の1回の複製における選択性が 99.9%以上であることを示し,
報告されている人工塩基対の中では最も高い選択性を示す人工塩基対である。現在,さらに PCR の条
件を最適化し,50 サイクル以上の PCR も可能になり,天然型塩基対に近い選択性を有する人工塩基
対が出来あがりつつある。
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7 まとめ・人工塩基対の応用
本稿では合成生物学の手法に基づく人工塩基対の設計と開発に焦点を当てて解説した。この 20 年
ほどの間に試験管内では,複製や転写,あるいは翻訳が可能な人工塩基対が開発されるようになって
きた。これらの成果から,DNA の遺伝情報の拡張が可能になり,従来の遺伝子組換え技術から,新
たな機能性構成成分を核酸やタンパク質に導入する次世代バイオ技術の創出が可能になってきた。ま
た,複製や転写における塩基対形成の機構,特に対合する塩基間の形状のフィッティングの重要性な
ど,合成生物学的なアプローチにより従来の天然物のみの解析ではわからなかった新たな知見も得ら
れるようになった。さらに本稿で紹介した人工塩基対とは異なる概念の塩基対も最近開発されるよう
になり(Figure 8) 4,46-48,人工遺伝子のバリエーションも多様化しつつある。
Kool’s size-expanded base pairs
xA
T
A
ribose
ribose
xT
ribose
ribose
Matsuda’s exocyclic hydrogen-bonding base pairs
Im-No
ribose
Im-ON
Na-ON
ribose
ribose
Na-NO
ribose
Figure 8. Other unnatural base pairs.
本稿では人工塩基対の応用研究には触れなかったが,DNA や RNA への機能性構成成分の導入が可
能になったことから,核酸の蛍光標識化 38,49 や固定化法 39,43,50,並びに機能性 RNA の局部構造の解
析法 51,52,PCR やモレキュラービーコンなどによる遺伝子診断技術 53-56 などへの応用が報告されてい
る。人工塩基対により遺伝暗号を拡張して人工アミノ酸をタンパク質中に導入する方法はまだ研究段
階にあるが 21, 37,今後,実用化レベルの人工タンパク質合成系も開発されるだろう。これまでの人工
塩基対の研究のほとんどが試験管内での生物実験であったが,現在は細胞内への応用研究に移りつつ
12
2010.10 No.148
ある。今後は Venter らの人工細胞の系に人工塩基対を導入し,遺伝情報を拡張することにより,有用
物質やエネルギーの高効率生産系の創出など産業への応用や生物のさらなる理解のための学術研究な
ど幅広い分野に人工塩基対研究が寄与するものと期待される。
関連情報
Synthesis of nucleoside derivatives of Ds 43)
Reagents and abbreviations: (a) dichlorobis(triphenylphosphine)palladium, 2-(tributylstannyl)thiophene, DMF;
(b) palladium on carbon, sodium borohydride, ethanol, ethylacetate; (c) formic acid; (d) NaH, 2-deoxy-3,5-diO-p-toluoyl-α-D-erythro-pentofuranosyl chloride, CH3CN; (e) NH3, methanol; (f) 4,4'-dimethoxytrityl chloride,
pyridine; (g) 2-cyanoethyl tetraisopropylphosphordiamidite, tetrazole, CH3CN; (h) acetic anhydride, pyridine,
then dichloroacetic acid, dichloromethane; (i) 2-chloro-4H-1,3,2-benzodioxaphosphorin-4-one, dioxane,
pyridine, tributylamine, bis(tributylammonium)pyrophosphate, DMF, then I 2/pyridine, water, NH4OH (for
triphosphate), I2/pyridine, NH4OH (for γ-amidotriphosphate); (j) tetra-O-acetyl-β-D-ribofuranose, chloroacetic
acid. Tol: toluoyl, DMT: 4,4'-dimethoxytrityl, Ac: acetyl.
13
2010.10 No.148
Synthesis of nucleoside derivatives of Pa 43)
Reagents and abbreviations: (a) NaH, 2-deoxy-3,5-di-O-p-toluoyl-α-D-erythro-pentofuranosyl chloride, CH3CN;
(b) NH3, methanol; (c) 4,4'-dimethoxytrityl chloride, pyridine; (d) 2-cyanoethyl N,N-diisopropylaminochlorophosphoramidite, diisopropylethylamine, THF; (e) 1,8-bis(dimethylamino)naphthalene, POCl3, trimethyl
phosphate, then tributylamine, bis(tributylammonium)pyrophosphate, DMF; (f) NaH, CH3CN, then 2,3,5-tri-Obenzyl-D-ribofuranosyl chloride; (g) BBr3, dichloromethane. Tol: toluoyl, DMT: 4,4'-dimethoxytrityl, Ac: acetyl.
文献
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31 S. Matsuda, J. D. Fillo, A. A. Henry, P. Rai, S. J. Wilkens, T. J. Dwyer, B. H. Geierstanger, D. E. Wemmer, P. G.
Schultz, G. Spraggon, F. E. Romesberg, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 10466.
32 A. M. Leconte, G. T. Hwang, S. Matsuda, P. Capek, Y. Hari, F. E. Romesberg, J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 2336.
33 Y. J. Seo, G. T. Hwang, P. Ordoukhanian, F. E. Romesberg, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 3246.
34 D. A. Malyshev, Y. J. Seo, P. Ordoukhanian, F. E. Romesberg, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 14620.
35 A. M. Leconte, L. Chen, F. E. Romesberg, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 12470.
36 T. Ohtsuki, M. Kimoto, M. Ishikawa, T. Mitsui, I. Hirao, S. Yokoyama, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2001, 98, 4922
37 I. Hirao, T. Ohtsuki, T. Fujiwara, T. Mitsui, T. Yokogawa, T. Okuni, H. Nakayama, K. Takio, T. Yabuki, T. Kigawa,
K. Kodama, K. Nishikawa, S. Yokoyama, Nat. Biotechnol. 2002, 20, 177.
38 R. Kawai, M. Kimoto, S. Ikeda, T. Mitsui, M. Endo, S. Yokoyama, I. Hirao, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 17286.
39 K. Moriyama, M. Kimoto, T. Mitsui, S. Yokoyama, I. Hirao, Nucleic Acids Res. 2005, 33, e129.
40 I. Hirao, Biotechniques 2006, 40, 711.
41 I. Hirao, Y. Harada, M. Kimoto, T. Mitsui, T. Fujiwara, S. Yokoyama, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 13298.
42 T. Mitsui, A. Kitamura, M. Kimoto, T. To, A. Sato, I. Hirao, S. Yokoyama, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 5298.
43 I. Hirao, M. Kimoto, T. Mitsui, T. Fujiwara, R. Kawai, A. Sato, Y. Harada, S. Yokoyama, Nat. Methods 2006, 3,
729.
44 I. Hirao, T. Mitsui, M. Kimoto, S. Yokoyama, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 15549.
45 M. Kimoto, R. Kawai, T. Mitsui, S. Yokoyama, I. Hirao, Nucleic Acids Res. 2009, 37, e14.
46 J. Gao, H. Liu, E. T. Kool, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 11826.
47 N. Minakawa, S. Ogata, M. Takahashi, A. Matsuda, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 1644.
48 S. Hikishima, N. Minakawa, K. Kuramoto, Y. Fujisawa, M. Ogawa, A. Matsuda, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44,
596.
49 M. Kimoto, T. Mitsui, S. Yokoyama, I. Hirao, J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 4988.
50 M. Kimoto, M. Endo, T. Mitsui, T. Okuni, I. Hirao, S. Yokoyama, Chem. Biol. 2004, 11, 47.
51 M. Kimoto, T. Mitsui, Y. Harada, A. Sato, S. Yokoyama, I. Hirao, Nucleic Acids Res. 2007, 35, 5360.
52 Y. Hikida, M. Kimoto, S. Yokoyama, I. Hirao, Nat. Protoc. 2010, 5, 1312.
53 C. B. Sherrill, D. J. Marshall, M. J. Moser, C. A. Larsen, L. Daude-Snow, S. Jurczyk, G. Shapiro, J. R. Prudent, J.
Am. Chem. Soc. 2004, 126, 4550.
54 S. C. Johnson, D. J. Marshall, G. Harms, C. M. Miller, C. B. Sherrill, E. L. Beaty, S. A. Lederer, E. B. Roesch, G.
Madsen, G. L. Hoffman, R. H. Laessig, G. J. Kopish, M. W. Baker, S. A. Benner, P. M. Farrell, J. R. Prudent, Clin.
Chem. 2004, 50, 2019.
55 P. Sheng, Z. Yang, Y. Kim, Y. Wu, W. Tan, S. A. Benner, Chem. Commun. 2008, 5128.
56 S. Hoshika, F. Chen, N. A. Leal, S. A. Benner, Angew. Chem. Int. Ed. 2010, in press.
(Received August 2010)
執筆者紹介
平尾 一郎 (Ichiro Hirao) 理化学研究所 生命分子システム基盤研究領域 核酸合成生物学研究チーム チームリーダー
タグシクス・バイオ株式会社 代表取締役社長
[ご経歴] 1983 年 3 月 東京工業大学理工学研究科博士課程修了,理学博士。1984 年 4 月 東京大学工学部工業化学科助
手,1992 年 4 月 東京薬科大学薬学部第一薬化学教室助教授,1995 年 3 月 インディアナ大学アソシエイトサイエンティス
ト,1997 年 2 月 科学技術振興事業団 ERATO 横山情報分子プロジェクトグループリーダー,2001 年 10 月 理化学研究所
GSC タンパク質発現・解析高度化施設チームリーダー,2002 年 4 月 東京大学先端科学技術センター特任教授,2008 年
4 月 理化学研究所 生命分子システム基盤研究領域核酸合成生物学研究チームチームリーダー,現在に至る。2007 年 3 月より,
タグシクス・バイオ株式会社 代表取締役社長。2007 年 10 月より,北海道大学大学院総合化学院総合化学専攻 客員教授。
[ご専門] 合成生物学,有機合成化学,分子生物学
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2010.10 No.148
寄稿論文 TCI 関連製品
第4章 Benner らの人工塩基対
NH2
N
O
N
N
H
N
H
O
Isoguanine
100mg 10,500 円
[I0370]
CH3
5-Methyl-2-thiouracil
10g 15,000 円 25g 29,700 円
[M0994]
NH
N
H
S
第5章 Romesberg らの人工塩基対
Br
OCH3
2-Bromo-3-methoxynaphthalene
1g 6,800 円
[B3403]
第6章 平尾らの人工塩基対
CH3
Br
N
H
O
3-Bromo-5-methyl-2-pyridone
1g 8,300 円 5g 28,800 円
[B3350]
O
N
H
C H
Pyrrole-2-carboxaldehyde
5g 4,500 円 25g 12,900 円
[P1246]
関連情報
CH3
CH3
CH3 N
O
P
N CH3
3
Pd
P
Cl
Cl
O
3
1,8-Bis(dimethylamino)naphthalene
1g 2,700 円 5g 7,800 円
25g 24,500 円
[B1018]
Bis(triphenylphosphine)palladium(II) Dichloride
1g 4,800 円 5g 14,800 円
25g 57,700 円
[B1667]
O
Cl
OH
CH3O
C Cl
Cl
OCH2CH2CN
O
(CH3)2CH
P
(CH3)2CH
Cl
2-Chloro-4H-1,3,2-benzodioxaphosphorin-4-one
5g 5,900 円 25g 16,800 円
[C1210]
O
CH3O P
N
P
OCH3
CH(CH3)2
CH(CH3)2
2-Cyanoethyl
N,N,N',N'-Tetraisopropylphosphordiamidite
1g 7,300 円 5g 21,800 円
[C2228]
N
N
OCH3
N
N
H
N
OCH3
Dichloroacetic Acid
4,4'-Dimethoxytrityl Chloride
Trimethyl Phosphate
25g 1,600 円 500g 6,400 円 5g 4,100 円 25g 12,300 円 25g 1,700 円 500g 5,600 円
[D0308]
[D1612]
[P0271]
Palladium 5% on Carbon (wetted with ca. 55% Water)
Palladium 10% on Carbon (wetted with ca. 55% Water)
Sodium Borohydride
Sodium Hydride (60%, dispersion in Paraffin Liquid)
1H-Tetrazole
5g 7,000 円 25g 19,600 円
[T1017]
5g 4,000 円 25g 12,200 円 [P1490]
5g 5,900 円 25g 15,500 円 [P1491]
100g 5,700 円 500g 14,900 円 [S0480]
100g 3,900 円 [S0481]
この他にもヌクレオシド,ヌクレオチド&関連試薬を取り揃えています。弊社オンラインカタログをご参照ください。
△
キーワードで探す ヌクレオシド http://www.tokyokasei.co.jp/product/bio-chem/B009.shtml
16
2010.10 No.148
第 18 話
IChO42 化学オリンピック日本大会レポート その 4
―IChO42 東京大会を振り返って―
東京農工大学 大学院工学系 応用化学専攻 有機材料化学専修
教授 米澤 宣行
はじめに
日本で初めて開催された国際化学オリンピック IChO42 は関係した人,見守った人それぞれにい
ろいろな想いを残して閉幕した。化学オリンピックにしてはテレビ,ラジオ,新聞とマスメディア
への代表生徒の登場が多かったことも今大会の特徴の一つであるように思われる。参加者に並走す
る形で IChO42 の推移を観てきた立場で大会を振り返り,そこで顕在化した日本の化学界の課題を
解析し,それへ対応策の提案について述べる。
1 大隈講堂の隅で
2010 年 7 月 27 日,第 42 回国際化学オリンピックは東京の早稲田大学大隈講堂で閉会式を迎えた。
受賞者が告げられる度に大きな歓声が起き,大会のクライマックスを出席者は楽しんでいた。受賞
者発表も後半になって漸く,日本代表生徒の名前が呼ばれ始めた。金が2つと銀も2つのメダルが
全員の胸に光った。満足満面の笑顔,もう一息の想いがはっきりと出た顔,これでよいのかという
戸惑った表情,いろいろな気持ちが伝わってきたが気づかないことにした。
閉会式直後の記者会見には筆者も代表選考・訓練の責任者として控えていた。成績が良くなかっ
たときに矢面に立つ準備だった。嬉しい空振りで会見も終わった。
写真 1 閉会式直後の記者会見
左から,浦谷さん,遠藤さん,片岡さん,齊藤さん
2 さらに大人になって結果を出した生徒たち
初めての日本開催の今大会に対して,多くのご声援とご期待をいただく中,私たち訓練担当は,
試験予想問題の解法を教えるのではなく,あくまでも諸外国の代表と互角に対峙できる化学のバラ
ンスのとれた実力をつけてもらうことをめざした。確固たる実力の担保の上で諸外国の代表生徒と
堂々と渡り合ってもらうことで,支援下さった皆さんの期待に応えることを第一義的に考えていた
ので,それでメダルの色という「成績」が振るわなくてもそれはしかたない,と思っていた。加え
て,代表生徒はテレビ出演,取材への対応など,高校生にはかなり大変と思われるタスクをこな
17
2010.10 No.148
し,さらにホスト国の代表という自覚・使命感をもって,国際交流第一と行動し通した。その上で
のこの成績だから,状況を知っているものとしては本当に頭が下がる,に尽きる。一方,私自身
は責任をとる形で選抜・訓練主査を辞めることを想定していたので,この花道みたいな好成績で
ちょっとしまらないことになってしまった。
3 洗練された行事と運営,学生ボランティアの熱気,そして化学界の底力
大会の期間は,日本の夏に慣れている私たちでも,今年は異常に暑いなと思い始めた頃であっ
た。涼しい国から来た代表生徒はつらかっただろうが,それでも,鎌倉,浅草,日光,浴衣着付
け,書道,柔道,と「かなり楽しかったのではないかな」と,行事担当・お手伝いの学生のみな
さんの熱意に敬意と感謝で素直に脱帽。しっかりとしたコンセプトの行事企画と実行で十分に評価
するに値しよう。ただ,個人的にはお別れパーティーでディスコがなかったことや統率の良さに
ちょっと寂しい思いをもっている。もう少しはしゃがせてあげてもよかったかもしれない。生徒た
ちに要求された大人度レベルは高くなかった。過保護だったんじゃないかな,という感想は大会終
了直後からそんなに小さくはなっていない。
選抜訓練担当の考えに基づいた訓練や日本の文化伝統を世界のエリート候補に堪能してもらうた
めの準備・実行が後顧なくできたのも,特に産業界と個人からの寄付という大きなバックアップに
保証されながら,活動は任せてもらっていたためであることは言うまでもなく,深く感謝するとと
もに,同じ名称の業界と協力してものごとを進められる(というよりもほとんど一方的に支援のう
けられる)日本化学会の恵まれた環境のありがたさと責任を改めて痛感した。
写真 2 日本文化体験(浴衣着付け)
写真 3 閉会式(成績発表)
4 問題は問題
さて,今回は良い結果を出した生徒の国籍も多岐に亘っていて,(失礼ではあるが)意外な国名
を聞いて会場がどよめいたり,各国の進歩を改めて認識したり,国際コンテストの主催国として
は,まさに面目躍如というところだろう。ただ,大会の公式ホームページ 1) に掲載されている得点
を見ると手放しでは喜べないことがわかる。異常な高得点である。問題 2) には,4択問題や計算問
題が目につく。まだ問題別の各代表生徒の得点が公表されていないが,閉会式で紹介された各問題
の得点分布は正規分布とはほど遠いもので,特に理論問題は,「満点に偏る」と「無得点と満点の
両端に集中」が多く,オール・オア・ナッシングタイプの問題が主体だったことが分かる。すなわ
ち,選択問題で知識を問われ,数値計算の正確さおよび有効桁数の処理などが試された試験だった
といえる。文句のつけようのない「正解」があってそれに適合するかどうかで評価されたわけであ
る。まさに,日本式の化学の中等教育の進め方を国際的に披露したものである。出題者としてはこ
のようなスタイルの教育が重要で世界に対し参考にしてくれと言いたかったのかもしれないが私は
そうは思わない。私たちが実社会で直面する課題には明確な正解などないのが当たり前である。そ
こで,可能な限り多くの視点から,迅速に比較検討し,有利な点,不利な点,リスクの評価,社会
的正当性を判断して,仕事を進めている。足がすくんで,何もできないという状況もあるし,目の
前の利益に目がくらんだり,近しい人の顔色が気になったり,そういう中で専門家として孤独な判
18
2010.10 No.148
断を下している。将来複雑な問題に立ち向っていくであろう,世界中のエリート候補の参加するコ
ンテストに,今大会のような問題が適切だとは思えない。はっきり言ってこういう質の問題を化学
オリンピックという国際コンテストに出したというのは情けないと私は思っている。隣国の韓国
が,中等教育での科学分野の大胆な改革,教科書検定停止,科目の再編統合化を進めた時代にお寒
い話である(渡辺正 , 化学と工業 , 2010, 63(9), 705)。
5 顕在化した日本の化学界の課題
上述のような状況下,しっかりと腹を据えてかからなければならないところで消極策に逃げてし
まったことも,我国の化学界に人材育成上の重要な課題を示してくれたと捉えれば今後に活かす
好機と看做すこともできる。そしてこの課題は大学関係者と同様あるいはそれ以上に,企業の技
術・研究・開発に関わっていらっしゃる方に強く関係することになる。IChO42 の実行委員長を務
められた野依先生がよく言葉にされる「産業界で働く化学者のエリートの育成が将来を決める」に
示されているように,産業界で活躍する人材,恐らく新しいパラダイムの下で展開される国内外の
変化に対して主体的に立ち向い,自らリスクをとって,リーダーとなってよりよい世界へと導く気
構えをもった人材群の力がこれからの国全体の力を決めて行く。世界のエリートに臨機応変的確に
対峙できるような,そういう産業界化学者育成が嘱望されることになる。そしてそれが待ったなし
の状況であることは疑いようもない。アメリカの大学初年度レベルの科学教育政策に関する記事
(C&EN, 2010, 88(22) 46-48)でも分かるように,このような育成,短期的な生き残り競争で達成で
きるはずがない。
ところで,視点を変えるとここで求められる人材とは,化学オリンピックの代表生徒に期待され
るものと本質的に一致するものである。向上心があって,ある程度高いレベルにある同じくらいの
世代の人たちとの知的交流がやっぱり効果的であろう。国内外,幅広い分野にいろいろな知己を持
ち,多角的な視点を体得して「森を観る」ことのできる力を持つ人材が社会のために働く世界となっ
て初めて現在の混沌とした状況の出口が見えてくるであろう。学会のあり方あるいは会員の学会の
利用の仕方も,産業界で働くエリートの交流研鑽の場として補完的機能を深化させるべく軸足を大
きく移す必要がある。
化学オリンピックを成功裏に遂行し,若者に化学を通して未来社会への道筋作りに挑戦すること
の意義を訴えることができた日本の化学界は,これ以上時機を失することは許されない我が国の現
状と将来設計に関して,学んだ経験知見を新しいコンセプトでの人材の育成に展開することを手始
めに,率先して社会の将来を拓く責務を負うという新しい段階に踏み出した。
参考資料
1) 42nd International Chemistry Olympiad (IChO42) 公式ホームページ
http://www.icho2010.org/en/results.html
2) IChO42 Theoretical Problems
http://www.icho2010.org/en/doc/Theoretical_Problems_IChO42_Official_English_with_Answers.pdf
http://www.icho2010.org/en/theoretical/32Japan_IChO2010_theoretical.pdf
文献
http://icho.csj.jp/news/news20100727.html(第 42 回国際化学オリンピック代表生徒の成績について)
渡辺正 , 現代化学 , 2010, No. 475, 56; 尾中篤 , 真船文隆 , 現代化学 , 2010, No. 475, 58.
執筆者紹介
米澤 宣行 (Noriyuki Yonezawa) 東京農工大学 大学院工学系 応用化学専攻 有機材料化学専修 教授
[ ご経歴 ] 1983 年 東京大学大学院工学系研究科合成化学専門課程 ( 博士課程 ) 修了,工学博士,1983 年 東京大学工学部
助手,1987 年日本鋼管株式会社 ( 現 JFE) 主任部員/ 1991 年 主任研究員,1992 年 群馬大学工学部助手,1994 年 群
馬大学工学部助教授,1997 年 東京農工大学工学部助教授,2004 年 東京農工大学大学院工学系教授,現在に至る。国際化
学オリンピック大会役員 ( メンター , 2007 年/ヘッドメンター , 2009 年 ),大学入試センター作題委員 ( 化学 ) 等を歴任。(元 )
日本化学会化学教育協議会国際化学オリンピック WG 主査 (IChO42 終了まで )。
[ ご専門 ] 有機化学 ( 有機反応化学,高分子合成化学 )
19
2010.10 No.148
2- 置換アデノシン合成の有用な中間体 /
A Valuable Synthetic Intermediate for 2-Substituted Adenosine
200mg 8,300 円 1g 25,000 円 5g 87,500 円
I0759 2-Iodoadenosine (1)
アデノシン誘導体は細胞の代謝作用でしばしば大きな役割を担い,また抗ウイルス活性や抗腫瘍
活性の報告例もある化合物です。2- ヨードアデノシン(1)は 2- 置換アデノシン誘導体の合成中間
体として利用されている有用な化合物です。特に,クロスカップリング反応を利用したアデノシン
誘導体合成が数多く報告されています。松田らはパラジウム触媒クロスカップリング反応を用いた
2- アルキニルアデノシン類の合成とこれらの薬理活性評価を報告しています 1)。Zhao と Baranger
は Heck 反応を用いた 2- アルケニルアデノシンの合成を報告しています 2)。
NH2
R = Hydroxyalkyl
Hydroxycycloalkyl
Cycloalkyl, Ph
R C CH
PdCl2(PPh3)2
CuI
NH2
N
HO
N
I
HO
N
1
C
N
O
OH
OH
Pd(OAc)2
(1.02 eq.)
P(o-Tolyl)3
(3.3 eq.)
N
CH3CN, Et3N (2.74 eq.)
80 °C, overnight
HO
C
R
Y. 55-97%
NH2
(1.2 eq.)
OH
N
CH2CH CH2
O
OH
N
DMF, Et3N (1.2 eq.)
80 °C, 1 h
N
N
(1.2 eq.)
(10 mol%)
(5 mol%)
1c)
2)
N
N
N
O
OH
OH
Y. 53%
実験例 1c):
2- ヨードアデノシン (393 mg),
および CuI (9.5 mg),
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム (II) ジクロリ
ド (36 mg),トリエチルアミン (0.16 mL),エチニルベンゼン (123 mg) を DMF (7 mL) に加え,80 ℃で 1
時間加熱する。2- ヨードアデノシンが完全に消費された後に反応液を減圧濃縮する。残渣をクロロホル
ムに溶解し,硫化水素ガスを ( ~ 30 秒 ),次いで窒素ガスを吹き込む。この懸濁液をセライトパッドで
濾過し,クロロホルムで洗浄する。ろ液を減圧濃縮して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラ
フィー(メタノール-クロロホルム)で精製することにより 2-(フェニルエチニル -1- イル)アデノシン
(373 mg, 97%) が得られる。
文献
1) Cross-coupling reaction with terminal alkynes
a) A. Matsuda, M. Shinozaki, T. Miyasaka, H. Machida, T. Abiru, Chem. Pharm. Bull. 1985, 33, 1766. b) A.
Matsuda, T. Ueda, Nucleosides Nucleotides, 1987, 6, 85. c) T. Abiru, T. Miyashita, Y. Watanabe, T. Yamaguchi, H.
Machida, A. Matsuda, J. Med. Chem. 1992, 35, 2253.
2) Cross-coupling reaction with terminal alkenes (Heck reaction)
Y. Zhao, A. M. Baranger, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 2480.
関連製品
B1667
A1424
T1024
20
Bis(triphenylphosphine)palladium(II) Dichloride
Palladium(II) Acetate
Tris(2-methylphenyl)phosphine
1g 4,800 円 5g 14,800 円 25g 57,700 円
1g 8,000 円 5g 23,700 円
5g 3,500 円 25g 10,500 円
2010.10 No.148
DNA メチル化の指標ヌクレオシド /
Indicator Nucleoside of DNA Methylation
D3610 2'-Deoxy-5-methylcytidine (1) 100mg 5,500 円 500mg 15,700 円 5g 94,900 円
NH2
CH3
N
HO
N
O
O
OH
1
DNA メチル化が生体へ及ぼす影響は,動植物のエピジェネティック(遺伝子修飾後に生じる影響)
の指標とされています。CpG(シトシン - リン酸 - グアニン)サイトのシトシン残基の酵素的メチ
ル化により生成する 2'- デオキシ -5- メチルシチジン(1)は,多くの真核細胞 DNA の遺伝子発現
調節で中心的な役割を演じている微量成分の一つです。近年,発がんプロモーターから生成するメ
チルラジカルによってもメチル化が起こることが報告されています 1)。また,1 の酸化は DNA 損傷
との関連で関心を集めています 2)。細胞中の DNA を加水分解して得られるヌクレオシド中の 1 の
HPLC や LC-MS による測定により,細胞の DNA メチル化度の検出が行われています 3)。
文献
1) Cytosine C-5 methylation by methyl radicals generated by tumor promoters
K. Kawai, Y.-S. Li, M.-F. Song, H. Kasai, Bioorg. Med. Chem. Lett. 2010, 20, 260.
2) Oxidation studies of 2'-deoxy-5-methylcytidine
a) T. Itahara, Chem. Lett. 1991, 1591. b) T. Itahara, T. Yoshitake, S. Koga, A. Nishino, Bull. Chem. Soc. Jpn.
1994, 67, 2257. c) C. Bienvenu, J. R. Wagner, J. Cadet, J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 11406. d) T. Umemoto, A.
Okamoto, Org. Biomol. Chem. 2008, 6, 269.
3) Analyzed of 2'-deoxy-5-methylcytidine in cells
a) M. Mizugaki, K. Itoh, T. Yamaguchi, S. Ishiwata, T. Hishinuma, S. Nozaki, N. Ishida, Biol. Pharm. Bull. 1996,
19, 1537. b) Z. Liu, S. Liu, Z. Xie, W. Blum, D. Perrotti, P. Paschka, R. Klisovic, J. Byrd, K. K. Chan, G. Marcucci,
Nucl. Acids Res. 2007, 35, e31. c) A. A. Magaña, K. Wrobel, Y. A. Caudillo, S. Zaina, G. Lund, K. Wrobel, Anal.
Biochem. 2008, 374, 378. d) M. Münzel, D. Globisch, T. Brückl, M. Wagner, V. Welzmiller, S. Michalakis, M.
Müller, M. Biel, T. Carell, Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 5375.
クロスカップリング反応に有用な Ni 触媒 /
A Unique and Efficient Ni Catalyst for Cross-Coupling Reactions
1g 8,200 円
B3534 Bis(tricyclohexylphosphine)nickel(II) Dichloride (1)
P
3
B(OH)2
OTs
Cl
Ni
P
1a)
Cl
3
Ph
1 (3 mol%), PCy3 (2 eq.), K3PO4 (12 mol%)
+
Dioxane, 130 °C, 14-60 h
(1.5 eq.)
Y. 98 %
Ni 触媒であるビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド(1)は,有用な C-C
結合形成反応である鈴木-宮浦,熊田クロスカップリング反応などに用いられる遷移金属触媒とし
てその有用性が報告されています。
文献
1) For Suzuki-Miyaura cross-coupling
a) D. Zim, V. R. Lando, J. Dupont, A. L. Monteiro, Org. Lett. 2001, 3, 3049. b) L. Xu, B.-J. Li, Z.-H. Wu, X.-Y. Lu,
B.-T. Guan, B.-Q. Wang, K.-Q. Zhao, Z.-J. Shi, Org. Lett. 2010, 12 , 884.
2) For Kumada cross-coupling
B.-T. Guan, X.-Y. Lu, Y. Zheng, D.-G. Yu, T. Wu, K.-L. Li, B.-J. Li, Z.-J. Shi, Org. Lett. 2010, 12, 396.
3) Mechanism of Ni-catalyzed selective C-O bond activation in cross-coupling
Z. Li, S.-L. Zhang, Y. Fu, Q.-X. Guo, L. Liu, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 8815.
21
2010.10 No.148
有用な DMAP 類縁体 / Useful DMAP Analog
1g 19,800 円
A1854 9-Azajulolidine (1)
9- アザジュロリジン(1)は強力なアシル化触媒で,立体障害の大きなアルコールのアシル化に
おいて,4- ジメチルアミノピリジン(DMAP)や他の類縁体に比べ高い触媒活性を示します 1)。
また,1 はその電子豊富な性質のため,アリール炭素-ヘテロ原子結合を形成するポスト
-Ullmann 型カップリング反応を促進する補助配位子としても有用です 2)。この方法は,有機光電子
デバイスの正孔輸送材料となるトリアリールアミンの合成などに応用することができます。
N
N
1 (10 mol%)
CH3
I
+
2)
CuI (5 mol%), base
Ar
XH
toluene, 110 °C
CH3
X Ar
X = NH, NR, O, S
Ar XH
N
H
関連製品
CH3
N
H
CH3
OH
base
Yield (%)
t-BuONa
96
t-BuONa
71
Cs2CO3
80*
Cs2CO3
98*
CH3
Br
SH
*CuI (10 mol%), 1 (20 mol%)
実験例: C-N 結合生成反応 2)
セプタムを取り付けた二口フラスコに CuI (9.5 mg, 0.05 mmol),塩基 (2.0 mmol),アリールヨージド (1.0
mmol),アリールアミン (1.2 mmol) を加え,アルゴン置換する。室温でトルエン (4 mL),9- アザジュロ
リジン (1.0 mL, 0.1 mmol, 0.1 M in toluene) をシリンジで加える。反応混合物を 110 ℃で 40 時間加熱す
る。室温に戻し,水 (20 mL) を加え,ジクロロメタン (15 mL × 3) で抽出する。有機層を合わせて硫酸
マグネシウムで乾燥後,減圧濃縮し,得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製
することにより目的のカップリング生成物が得られる。
文献
1) Enhancing the catalytic activity of 4-(dialkylamino)pyridines by conformational fixation
a) M. R. Heinrich, H. S. Klisa, H. Mayr, W. Steglich, H. Zipse, Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 4826. b) S.
Singh, G. Das, O. V. Singh, H. Han, Tetrahedron Lett. 2007, 48, 1983.
2) Application of 9-azajulolidine to post-Ullmann reactions
K.-T. Wong, S.-Y. Ku, F.-W. Yen, Tetrahedron Lett. 2007, 48, 5051.
22
2010.10 No.148
TTMSS 基導入試薬 /
Reagent for Introduction of the TTMSS Group
5g 10,300 円
C2411 Chlorotris(trimethylsilyl)silane (1)
クロロトリス(トリメチルシリル)シラン(1)はトリス(トリメチルシリル)シリル基(TTMSS
基)の導入試薬で,DMAP の存在下,第一級および第二級アルコールと反応し,高収率で保護体の
TTMSS エーテルを与えます 1)。TTMSS エーテルはグリニャール試薬や酸化,酸性条件等のほか,
通常のシリル基の脱保護に用いられるフッ化セシウム等に対しても安定で,光(254 nm)や TBAF
等を作用させることによって脱保護されます。
また,シリルエノールエーテルを用いた向山クロスアルドール反応 2) やアクリル酸エステルとの
[2+2] 環化反応 3) において,TTMSS 基を導入することにより,高収率かつ高ジアステレオ選択的に
目的物が得られることが報告されています。
Si(CH3)3
(CH3)3Si
Si Cl
Si(CH3)3
1 (1.0 eq.)
R
OH
R'
1)
Si(CH3)3
R
DMAP (1.2 eq.)
O Si Si(CH3)3
CH2Cl2, rt, overnight
R'
R
hν / MeOH or TBAF
OH + silylated products
R'
Si(CH3)3
Y. 80-90%
O
OBn
TTMSSO
CH3
HNTf2 (0.05 mol%)
関連製品
O
CH2Cl2, −78 °C to rt, 1 h
n-BuLi
1
rt, 16 h
rt, 8 h
TTMSSO
silyl enol ether
OBn
O
CH3
3)
O
OR
TTMSSO
OR
CH2Cl2, −40 °C, 4 h
O
Ph
2)
Y. 61% (pure diastereomer shown)
Al catalyst (3 mol%)
Ph
Al catalyst =
O
OTTMSS
AlNTf2
Y. >80% (>99% d.e.)
2
実験例: アルコールの保護 1)
クロロトリス(トリメチルシリル)シラン (1-1.2 mmol) のジクロロメタン溶液 (1 M) をアルコール
(1 mmol) と 4- ジメチルアミノピリジン(DMAP)(1.20 mmol) のジクロロメタン溶液に撹拌しながら加
える。窒素下,室温で終夜撹拌する。水を加え,水層をジクロロメタンで抽出する。有機層を無水硫酸
ナトリウムで乾燥し,ろ過後,溶媒を減圧下留去する。フラッシュクロマトグラフィーで分離すること
により,目的物が収率 80-90% で得られる。
文献
1) The tris(trimethylsilyl)silyl group: an alcohol protecting group
a) M. A. Brook, C. Gottardo, S. Balduzzi, M. Mohamed, Tetrahedron Lett. 1997, 38, 6997. b) M. A. Brook, S.
Balduzzi, M. Mohamed, C. Gottardo, Tetrahedron 1999, 55, 10027.
2) Tris(trimethylsilyl)silyl-governed aldehyde cross-aldol cascade reaction
M. B. Boxer, H. Yamamoto, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 48.
3) Remarkable tris(trimethylsilyl)silyl group for diastereoselective [2+2] cyclizations
M. B. Boxer, H. Yamamoto, Org. Lett. 2005, 7, 3127.
23
総 合カタログ
TCI Fine Chemicals 2010-2011 (No.40)
試験研究用試薬 約21,000品目を収録
・構造式,
CAS番号,
MDL番号,
物性値,
SDBS番号,
参考物性値など,
製品情報を豊富に掲載
・GHSに基づく絵表示を掲載
無料でお届けします
○ご希 望の方は、弊社製品取扱店へご連 絡ください。
○ホームページからもお申し込みいただけます。
www.tokyokasei.co.jp/brochure/
お問い合わせは
東京化成販売(株)TEL:03-3668-0489 FAX:03-3668-0520
大阪営業所
TEL:06-6228-1155 FAX:06-6228-1158
第98回有機合成シンポジウム
平成22年11月5日(金)∼6日(土) 早稲田大学国際会議場
第13回ヨウ素学会シンポジウム 併設企業展示
平成22年11月9日(火) 千葉大学けやき会 館
平成22年度後期(秋季)有機合成化学講習会
平成22年11月1 7日(水)∼18日(木) ㈳日本薬学会・長井記念ホール
第29回メディシナルケミストリーシンポジウム 企業展示会
平成22年11月1 7日(水)∼18日(木) 京都テルサ
BMB2010 附設展示会
平成22年12月7日(火)∼10日(金) 神戸国際展示場 2号館1階、3号館
Tel:03-3668-0489 Fax:03-3668-0520
Tel:06-6228-1155 Fax:06-6228-1158
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