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サウジアラビアの石油政策・その動向と見通し

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サウジアラビアの石油政策・その動向と見通し
IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載
サウジアラビアの石油政策・その動向と見通し∗
ダンディ大学教授
Paul Stevens
「サウジアラビアの石油政策」は今後変化していく可能性があり、その展望には大きな関
心が寄せられている。そこでまず、なぜこのテーマが非常に重要なのかについて、自明で
はあるが、その理由から説明する。サウジの石油政策が重要である理由は4つある。
1.4つの理由
まず第1にサウジの石油政策はサウジの経済にとって重要である、ということである。
サウジの経済というのは石油部門に大きく依存しており、その石油政策はサウジのマクロ
経済に非常に大きな影響や結果を及ぼすという意味で非常に重要なわけである。
第2にサウジの石油政策は世界の石油市場にとっても重要である、ということである。
サウジの石油政策は世界の石油市場において、原油の供給と価格双方に非常に大きな意味
を持っている。サウジは「それを支配している」というとやや誇張にはなるが、原油の単
一サプライヤーとしては世界最大のサプライヤーである。しかしここで重要なことは、サ
ウジが原油の余剰生産能力を支配している、ということである。そして、これこそが世界
の原油市場を理解していく上で最も重要なポイントである。なぜなら、こうした余剰生産
能力のコントロールを通して価格への影響力を行使してきたからである。
第3に最近のサウジに政策変化の兆しが見られることである。
今、同国の石油政策には変化の兆しが現われている。こうした変化を生じさせている源は、
現在、病床にあるファハド国王に代わりアブドラ皇太子に権力が移行しつつある状態にあ
る、ということである。こうした中、今や大きな変革があるのではないかと観測されるに
至っている。
そうした変化の兆しについての例が具体的に現われている。例えば、1999 年3月、
OPEC諸国は原油価格を引き上げることで合意に達した。当時、サウジの石油省内を含
めサウジ国内では様々な反対意見が挙がったわけであるが、反対意見を抑え、OPECで
の合意をもたらしたのはまさしくアブドラ皇太子の決断によるものだったとされている。
なぜ彼がこの決定を下したかというと、彼のアジェンダで一番大事だったのはイランと
サウジアラビアの関係を改善していくということであり、石油政策よりも外交政策の目的
のほうがより高い優先順位にあったと考えられている。
もう一つ実際に変化が起きた事例は、今年1月に SUPREME COUNCIL FOR PETROLEUM (SCP)
∗
この論文は 2000 年 11 月 14 日、当研究所内で開催された、英国ダンディ大学教授 Paul Stevens の講
演速記録をまとめたものである。
IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載
が創設されたことがあげられる。SCP 創設については、サウジでは全く異例なことである
が、SCP がどのような権限を持つかということを、実際に文書化しているのである。
次に、第4の非常に重要な理由であるが、それはサウジの政策が一体どんなものなのか、
どこにその源があるのか、どういう方向に向かって進んでいるのか、といったところが非
常に複雑で、難解であるということである。
皇太子が今や事実上、国王の権力を代行している状態である中、皇太子と他のファミリ
ーとの関係が必ずしも良好でない可能性、石油省と SCP との関係の不透明さ、さらには大
蔵省、外務省等の関係諸機関を巡る国内の混沌とした関係に加え、アメリカ、OPEC、
GCC、アラブ世界、そしてイスラム世界等サウジの政策に対するし外部からの影響があ
る。
第1から第3の重要性にもかかわらず、サウジの政策決定機構、そのプロセス等が把握
困難であり、その点からもサウジの政策へ高い関心が寄せられているという状況にある。
2.3つのオプション
さて、次に政策そのものに目を転じてみると、今、サウジが直面しているオプションは
3つある。まず1つは、これまでと全く同じやり方を継続していくという政策である。
この政策には3つの特徴がある。1つ目の特徴は、「プライス・モデレーション」、すな
わち、1986 年以来、サウジの政策の基礎となってきた、価格をなだらかに保つということ
である。2つ目の特徴は、原油価格を維持していくためにスウィング・プロデューサーと
しての役割を果たしていくということである。3つ目の特徴は、サウジがいわば「戦略的な
石油の備蓄国」としての役割を果たしていくということである。つまり、サウジは余剰生産
能力を保持し、そして供給不足になった場合にその余剰生産能力を使って不足分を補って
いくというものである。
この石油政策には2つの長所がある。まず第1に「安全」であるということである。新た
な策を講じる必要もなく、これまでどおりやっていけばいいということである。そして、
第2に主要消費国、とくにアメリカからの支持が得られるということである。
しかし、この政策には長期的な問題と短期的な問題がある。まず、短期的問題から説明
すると、この政策を成功させるためには、サウジが特に短期的に石油市場を調整していく
という「ミクロのレベル」での調整・管理ができるようにしていく必要がある。しかし、今
日の石油市場の特徴から見て、これは非常に困難な課題であると考えられる。
次に、長期的にはどうなのかを考察してみると、まず第1に、OPECの中で意見・政
策の違いが常にあるということがある。OPECは石油収入から得た利益を生産能力増強
のために投資していくわけであるが、その結果、OPECでは余剰生産能力を抱えるよう
になってしまうと考えられる。そうするとまた、OPEC内での分裂、紛争、そして、シ
ステムの崩壊といったシナリオまで考えられるわけである。
長期的に起こり得る2つ目の問題としては、サウジが石油から得る収入が横ばいである
IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載
ということである。C.J.Campbell が主張するように、石油が本当に不足してしまうような
状態になれば収入のほうが増加していくかもしれないが、石油枯渇そのものがあまりあり
そうにないと考えられる。石油不足というよりも、長期的には石油過剰状態というのが実
際だと考えられる。
さて、3つ目の問題として、原油消費国のさまざまな政策が、価格をなだらかに保って
いこうという産油国の努力を無にしてしまう可能性があるということである。すなわち、
こうした消費国が石油に関わる税金を増大させてしまうという政策がそれに当たる。
つまり、これから引き出せる結論としては、これまでと全く同じ政策をサウジが取り続
けるということは、何かほかの事態が起こらない限り不可能である。
さて、ここで2つの代案となる可能性のあるものを考察する。一つが「ボリューム・ゲー
ム」であり、もう一つが「プライス・メーカー」である。
まず「ボリューム・ゲーム」であるが、最初の要素としては、原油価格が1バレル当たり
10 ドル前後あるいはそれを下回るレベルまで下がるということがある。
このような価格の暴落は、政策的にあるいは意図的に引き起こされることもあり得るし、
もしくは 1998 年、1999 年のように意図されず偶発的に起こることもあり得る。
いずれにしろ、そうした中で、そこまでの低レベルの価格になると、多くの産油国が破
綻をきたしその生産を維持できなくなるが、その間、サウジは自分たちの生産能力を増強
することになる。既存の産油国が事業撤退する中で、サウジがシェアを大幅に増やしてい
くという結果になるわけである。
この政策には、地下に保有する埋蔵量を実際の経済財化することができること、持続可
能であることの2つの長所があるが、同時に、いくつかの問題点もある。まず第1に、価
格が下落した分を相殺するだけの数量が上がっていくまでの間、サウジの王国財政は非常
に大きな困難に見舞われることは確実である。2つ目としては、他の産油国がサウジのこ
の政策に対して非常に敵対的になるということがある。3つ目の問題として、消費国政府
がこうしたサウジが取った政策を損なってしまう可能性もある。つまり、原油価格の下落
に対して、需要が喚起されないように税金を増やすという手段を講じる可能性がある。
このような問題点、長所をすべて考慮すると、やはり「ボリューム・ゲーム」も実際には
持続不可能であるということになる。なぜならば、「ボリューム・ゲーム」は本当にそのゲ
ームの最後まで行き着けば持続可能になるものの、最後に行き着くまでに必ず何らかのリ
アクションが発生し、政策遂行を不可能にすると考えられるからである。
さて、もう1つの政策の極端な例として、「プライス・メーキング」というのがある。
「プライス・メーキング」とは、まさしくサウジが 1986 年以前に行なっていたことであり、
サウジが公式にスウィング・プロデューサーになるということである。その結果、国際的
な石油価格は非常に高いレベルに押し上げられることになる。しかし、この時、財政的余
IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載
裕も発生するため、同時に国内におけるエネルギー価格は低いレベルに維持されると考え
られる。
この政策にも長所がある。まず第1に、王国は本当に瞬時に収入を増加させることがで
きるということ、第2にこの政策はこの地域における人気を博することになるという点で
あろう。3つ目の長所として、国内のエネルギー価格が非常に低いレベルで抑えられると
いうことを受けて、海外からの直接投資がサウジに対し増加し、とくにエネルギー集約的
なプロジェクトが実施されるということである。
一方、この政策のマイナス面は、まず第1に、消費国の政府がこうした政策に反発し、
これを容認しないであろうということである。また2つ目の問題点として、市場の反応が
ある。サウジがプライス・メーキングの役割を 1986 年になって最終的に放棄した理由とい
うのは、この政策がもたらす負担があまりにも大きかったからである。プライス・メーカ
ーとしての役割を維持するためには、サウジが生産を減らしていかなくてはならず、中長
期的に原油収入を享受するという面では非常に大きなマイナスになるという問題がある。
こうしたことすべてを分析すると、結論としては、この政策も持続不可能であるという
ことになろう。
したがって結論としては、こうしたサウジアラビアが直面するオプションは、どれ
1つを取っても持続可能なものはない、ということである。
では、この3つのオプションの中でもっとも可能性として起こり得るものはどれであろ
うか。それは、ある結果が導き出された場合、それが意図的におこなわれたものではなく、
何かの過ち・偶発的出来事が重なってそうした結果になる可能性が高いのではないか。と
くにそれは、ミス・マネジメントをして過ちを犯してしまった場合に起こり得るボリュー
ム・ゲームと考えられる。
最後に総括として指摘すべきことは、サウジがこれから何をするかを予測するのではな
く、サウジがいま何をすべきなのかという問いかけが重要であるという点である。
サウジが今、直面している根本的な問題は、これから増大しつつある若年層を中心に 400
万、500 万といった人々が雇用を確保出来ない事態が発生するということである。そして
この問題に対する解決策は、サウジが本当の意味での経済再構築を図るしかないというこ
とである。それを実現するために、サウジは民間部門を刺激していく必要があるというこ
とであるが、それにはまず、政治的な改革が必要である。政治改革があって初めて経済改
革が実現され、この問題が解決されていくと考えられるのである。
(文責:山縣英紀∗)
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国際動向分析グループ 主任研究員 E-mail:[email protected]
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