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全人代からみた中国経済の展望
みずほインサイト アジア 2014 年 3 月 26 日 全人代からみた中国経済の展望 アジア調査部中国室研究員 改革路線を維持しつつも景気下振れ懸念に配慮 03-3591-1367 玉井芳野 [email protected] ○ 2014年1~2月期の中国の主要経済指標の悪化や、中国社債市場でのデフォルト発生などを受けて、 足元で中国経済の下振れ懸念が高まっている ○ 中国政府は全人代にて、2014年の成長率目標を「7.5%前後」にすると発表。投資依存型成長から の脱却路線を明示した一方、雇用確保の重要性を強調し景気の腰折れ防止に配慮する姿勢をみせた ○ 今後、政策スタンスがやや景気刺激的になっても改革重視路線は維持される模様。民間企業に対す る参入規制緩和など改革を通じた景気の下支えや、改革に資する財政出動が実施される見込み 1.はじめに 2014年1~2月期の主要経済指標の悪化や中国社債市場でのデフォルト発生などを背景に、足元で中 国経済の下振れ懸念が従来よりも高まっている。中国政府は、こうした景気下振れに対してどのよう な認識を持ち、どのように対応していこうとしているのだろうか。3月5~13日開催の第12期全国人民 代表大会第2回全体会議(国会に相当、以下「全人代」)で発表された、今年の経済運営方針や数値目 標、李克強首相の発言などを手がかりに、今後の中国経済の行方を探ってみたい。 2.高まる中国経済の下振れ懸念 (1)主要経済指標は景気の弱含みを示唆 3月1日に発表された2月の製造業PMI(国家統計局版)は50.2(1月:50.5)と、景気の拡大・縮小の 分岐点である50をわずかに上回ったものの3カ月連続で低下し、景況感の弱含みを示した(次頁図表1)。 さらに、3月14日に発表となった中国の1~2月累計の主要経済指標はそろって市場予想を下回る結果と なり、景気の下振れ懸念が高まった(次頁図表2)。 それぞれの指標をみてみると、1~2 月累計の工業付加価値生産額の実質伸び率は、前年比+8.6% (12 月:同+9.7%)と、2009 年 4 月以来の低水準となった。業種別にみると、鉄鋼、非鉄金属、自 動車などを中心に伸びが鈍化した。消費動向を示す社会消費品小売総額の名目伸び率も、前年比+ 11.8%と 12 月(同+13.6%)より低下した。これまで高水準だった家具や建材など住宅関連財や自動 車販売の伸びが一服した。また、1~2 月累計の輸出の伸び(名目、ドル建て)は、前年比▲1.7%(12 月:同+4.3%)とマイナスに転化した。昨年同期の輸出が水増し報告により押し上げられたため今年 1 の伸びが下振れた面はあろうが、そうした特殊要因を除いても、図表 1 で示した製造業 PMI の輸出受 注指数は 3 カ月連続で 50 以下であり、輸出の基調自体が弱含んでいる可能性は否めない。一方、固定 資産投資の名目伸び率は、同+17.9%(12 月:同+17.1%)と小幅に加速したが、道路などインフラ 投資により下支えされたところが大きく、製造業投資の伸びは鈍化した。 また、不動産市況の過熱感の収まりも明確になり始めた。1~2 月累計の不動産販売面積の伸びは前 年比▲0.1%(12 月:同+0.7%)と 1 年ぶりにマイナスに転じた(次頁図表 3)。2 月の新築住宅販 売価格指数も前年比+8.2%(1 月:同+9.0%)と伸びの鈍化ペースが加速した(次頁図表 4)。北京、 上海、広州、深圳といった一級都市を中心に伸びの鈍化が鮮明となった。昨年 10 月以降、住宅価格調 整策が導入された効果が現れてきているものとみられる。 (2)中国社債市場でのデフォルト発生 主要経済指標の悪化に加え、3 月 7 日には中国社債市場でデフォルトが発生し、景気下振れ懸念が さらに高まることなった。これは、1997 年 6 月の銀行間債券取引市場の創設以降初めての社債のデフ ォルトとなった。 3 月 5 日、太陽電池メーカー大手の上海超日太陽能科技は、2012 年に発行した総額 10 億元の 5 年債 について、業績不振により利息 8,980 万元を全額は支払えないと発表した。銀行による返済猶予措置 など救済策もとられず、デフォルトが発生した。 これまで中国の社債市場ではデフォルト寸前の状態が発生することはあっても、なんらかの形で救 済が行われ、デフォルトは回避されてきた。しかし、そのような状況が続けば企業や投資家のモラル ハザードが広がり、過剰投資や過剰債務が膨らむことになりやすい。健全な金融市場の育成の観点か ら、デフォルトが容認されたとみられる。 このように個別のデフォルトを容認することは長期的にみれば中国経済の発展に資するが、短期的 には金融市場の不安定さを増幅させる恐れがある。今回問題となった太陽電池と同様に過剰生産能力 を抱える業種や、不動産価格の伸びが下落傾向に転じるなか業績悪化が予想される不動産業などにお 図表 1 製造業 PMI 図表 2 56 54 (前年同月比%) (前年同月比%) 新規受注 原材料在庫 生産 PMI 輸出受注 58 主要経済指標 20 工業生産(左) 社会消費品小売総額(左) 固定資産投資(右) 輸出(右) 40 15 30 52 10 20 50 5 10 0 0 48 ▲5 46 ▲ 10 12/01 (年/月) 44 11/01 12/01 13/01 14/01 (注)1. 季節性が完全には除去されていない点に注意。 2. 2013 年からサンプル数が 820 社から 3,000 社 に増加。 (資料)国家統計局、CEIC 2014年1-2月累計では 前年比▲1.7% 13/01 ▲ 10 ▲ 20 14/01 (年/月) (注)1. 工業生産、社会消費品小売総額の 1、2 月は 1~2 月 累計の前年同期比。 2. 固定資産投資は年初来累計を単月に変換。 3. 工業生産は実質値。社会消費品小売総額、固定資産投 資、輸出は名目値。輸出はドル建て。 (資料)国家統計局、海関総署、CEIC 2 いて、社債などの債務のデフォルトが今後起こる可能性は高い。 3.全人代からみるマクロ経済運営の方針 では、上述のような景気の下振れ懸念の高まりに対して、中国政府はどのような認識を持ち、どの ように対応していこうとしているのだろうか。 3 月 5 日に発表された「政府活動報告」では、2014 年の実質 GDP 成長率目標は「7.5%前後」と前年 から据え置かれた(次頁図表 5)。基本方針についても「積極的財政政策、中立的金融政策」が引き 続き実施されることとなった。このようにヘッドラインだけを見ると昨年から大きな変化がないよう に見えるが、他の数値目標や詳しい「政府活動報告」の内容、李克強首相の記者会見での発言などを 併せてみると、昨年よりも景気下押し圧力の存在を意識しつつも、改革の遂行にも睨みを効かせた内 容になっていることがわかる。 (1)投資依存型成長からの脱却路線が明確に こうした姿勢は、全社会固定資産投資の伸び率目標が 18%から 17.5%に引き下げられたことに現れ ている。2013 年は同目標が 16%から 18%に引き上げられていたことを考慮すると、これまでの投資 依存型成長から脱却し、資本ストックの積み上がりを避けようとする意思が感じられる。 具体的には、 「政府活動報告」の中で生産能力過剰問題への対応と不動産投資抑制の姿勢が示された。 まず生産能力過剰問題への対応については、第 12 次五カ年計画の淘汰規模目標を 1 年前倒しで達成す るとした。今年の製品別の淘汰目標も初めて明示し、鋼鉄を 2,700 万トン、セメントを 4,200 万トン、 平板ガラスを 3,500 万標準箱1淘汰することが定められた。これらの業種では投資の伸びも抑えられる 見込みだ。 不動産投資についても、増加ペースが鈍化するものと考えられる。「政府活動報告」では、都市ご との状況に応じて異なる不動産コントロール策を実施するとの方針が示された。全人代開催中の 3 月 図表 3 (前年比%) 不動産販売面積 不動産販売面積(右目盛) 前年比(左目盛) 図表 4 (前年同月比、%) 22 20 全国 18 上海 16 深セン 14 12 10 8 6 4 2 0 ▲2 ▲4 11/01 12/01 (億㎡) 60 2.4 50 2.0 40 1.6 30 1.2 20 0.8 10 0.4 0 0.0 (0.4) ▲ 10 ▲ 20 11 12 13 新築住宅販売価格指数 (0.8) 14 (年) (資料)国家統計局、CEIC 北京 広州 13/01 14/01 (年/月) (注)全国計は、全国 70 都市の価格指数より試算。 (資料)国家統計局、CEIC 3 6 日に、住宅・都市農村建設部の斉驥副部長は、①価格上昇の激しい一級都市では引き続き低中所得 者向けの住宅供給は増やすものの、投機的需要は抑える、②住宅在庫が高水準にある都市では住宅用 地の供給を抑えて在庫を消化すべきとした。こうした方針ゆえ、一級都市では高級物件を中心に投資 の伸びが抑えられることになるだろうし、住宅在庫の積み上がっている都市でも不動産投資の伸びは 鈍化するだろう。また 3 月 10 日には、国土資源部の姜大明部長が、今年 6 月にも不動産登記条例を提 出すると発表した。この法規の主たる狙いの一つは、投機的取引に対する監督管理の強化にあり、こ うした取り組みも今年の不動産投資を抑制するものと考えられる。 さらに、全人代最終日に開催された李首相の記者会見では、上述の過剰投資セクターへの資金供給 源となってきた「シャドーバンキング」に対して、バーゼルⅢの規定に基づいて監督管理を強めてお り、「すでにそのためのタイムテーブルは用意できている」との言及もあった。 (2)一定程度の景気下押し圧力を容認しつつ、雇用確保を重視し景気腰折れ防止に配慮 投資依存型成長からの脱却を図り、資本ストック調整を進めるに伴い、景気下押し圧力が発生する こととなる。李首相は記者会見のなかで、昨年の最も大きな試練は財政収入の伸び鈍化や流動性逼迫 などの経済の下押し圧力の増大だったと振り返った上で、「今年の試練は依然として厳しく、しかも 一層複雑になるだろう」と、下押し圧力が今年も引き続き存在するとの認識を示した。さらに、先述 の社債のデフォルトについても、個別のデフォルトは回避できないとした上で、システミックリスク への発展を避けるべく監督を強化するとした。投資依存型成長からの脱却のためには、一定の景気下 押し圧力は容認すべきというスタンスだろう。 ただし、雇用の確保や国民所得の向上が担保される範囲で、という条件つきで景気減速を受容する 方針であることに注目すべきだ。李首相も記者会見の中で、受容可能な成長率の下限についての意見 を求められた際、成長率目標を 7.5%「前後」としているため、7.5%より多少高くても低くても受容 図表 5 2014 年の主要経済指標目標 実質GDP成長率(前年比) 2014年 目標 7.5%前後 2013年 目標 実績 7.5%前後 7.7% 消費者物価上昇率(前年比) 3.5%前後 3.5%前後 2.6% 全社会固定資産投資(前年比) 17.5% 18% 19.6% 社会消費品小売総額(前年比) 14.5% 14.5% 13.1% 輸出入総額(前年比) 7.5%前後 8%前後 7.6% M2伸び率(前年比) 13%前後 13%前後 13.6% 指標 都市部新規就業者数 都市部失業率 財政赤字 対GDP比 1,000万人以上 900万人以上 1,310万人 4.6%以下 4.1% 4.6%以下 1.35兆元 1.2兆元 1.2兆元 2.1% 2.0% 2.1% (注)網掛けは、前年度から目標が変化した指標。 (資料)中国政府ホームページ、新華社より作成 4 されるとした上で、受容できる成長率の下限は十分な雇用と国民の収入の伸びが確保できるレベルだ、 と発言した。下押し圧力を容認しつつも、雇用確保を重視するという方針は、都市部新規就業者数の 目標が 900 万人から 1,000 万人に引き上げられたことからも明らかだ。 中国の 2013 年の都市部失業率は 4.1%と「4.6%以内」という目標を達成しており、また 2013 年 10 ~12 月期の求人倍率は 1.1 倍と 1 を上回っており、足元の雇用環境は比較的良好といえる。ではなぜ 李首相がここまで雇用の確保を強調するかというと、生産能力過剰業種の淘汰加速に伴う失業者の増 加が予想されるうえ、2014 年は過去最多となる大学・大学院卒業生 727 万人が労働市場に析出される 見込みだからである。加えて、農村戸籍保有者の都市での就業とその定着により生活改善を図ること を主眼にすえた「ヒトの都市化」を今年から本格的に推進していく方針であることも、雇用の確保が 重視されている理由である。 「政府活動報告」でも、都市化を進めるにあたって「3 つの 1 億人」問題 を解決しなければならないとし、 「農民の都市部への移動人口 1 億人の都市戸籍取得」、 「約 1 億人が居 住する都市部のバラック地区と『城中村』 (都市の中の村)の改造」、 「中西部に居住する約 1 億人の都 市化推進」を実施するとした。また、3 月 16 日には、昨年から発表が待たれていた「国家新型都市化 計画(2014-2020)」がついに発表された。この計画を着実に実行していくうえでも、雇用の確保が必 要だと中国指導部は認識しているのである。 報道によると、李克強首相は 2013 年 10 月に、 「年 1,000 万人の雇用を創出するためには年 7.2%の 成長が必要だ」と述べたと伝えられている。政府がこの 7.2%を成長率の下限としているなら、緩や かな景気減速は受容可能と認識されているということになる。ただし、足元で景気の下押し圧力が強 まるなか、以前よりも景気の腰折れ防止を配慮したマクロ経済運営が行われるようになっていると見 受けられる。 例えば、今年 2 月下旬から元安が急速に進んだが(図表 6)、これを一つの景気支援策と捉えるこ とができる。労働コストの持続的な上昇に加え、昨年、対ドル人民元レートが 3%とやや早いペース で増価したことによって、輸出関連企業の経営環境は厳しさを増している。そこで、人民銀行が中資 系銀行にドル買い人民元売りを指示し、少し元安に戻す、あるいは、少なくとも元高一辺倒の流れを 図表 6 6.24 対ドル人民元レート 図表 7 (元/ドル) 12 上海銀行間取引金利(SHIBOR) (%) 6.22 10 6.20 6.18 8 6.16 6 6.14 6.12 4 6.10 6.08 2 6.06 6.04 13/05 13/07 13/09 13/11 14/01 0 13/05 14/03 (年/月) 13/07 13/09 13/11 14/01 14/03 (年/月) (注)7 日物。日次データ。直近は 3 月 21 日。 (資料)Bloomberg (注)日次データ。直近は 3 月 21 日。 (資料)Bloomberg 5 止めることで景気減速に配慮した可能性がある2。 また、2 月下旬以降、銀行間取引金利も低水準に落ち着いている(前頁図表 7)。昨年後半以降、シ ャドーバンキングの野放図な拡大の抑制のため、中国人民銀行は流動性を絞り気味にしてきたが、そ の動きがいったん収まったといえよう。上述のとおり、モラルハザードを回避するためには、デフォ ルトが必要ではあるものの、それがシステミックリスクに発展しないよう、流動性をやや緩める行動 に出たと考えられる。 4.改革実行とソフトランディングの両立に向けた政策対応と課題の所在 (1)改革を通じた景気の下支え、改革に資する財政政策を実施する可能性 一定の景気下押し圧力を許容しながらも雇用は確保する、というソフトランディングを希求する中 国政府だが、財政出動や金融緩和など短期的な刺激政策にはできるだけ手を出したくないという意図 が窺える。李首相も、「われわれは昨年、短期的刺激策をとらずに成長率目標を達成することができ た。なぜ今年はできないのか」と発言している。 財政赤字率の低さや高水準の外貨準備高、高水準に維持されている法定預金準備率などを考慮する と、刺激策をとる政策的余地はあるはずだが、それに消極的なのは刺激策を打つことで再び過剰投資 が引き起こされ、資本ストックが積み上がってしまうのを避けたい、という考えがあるからだ。 では、政府は景気下押し圧力が存在する中でどのようにソフトランディングを実現させていこうと しているのだろうか。 ひとつは、改革を通じたサプライサイドからの景気の下支えである。例えば、民間企業に対する参 入規制の緩和などがその典型例だ。また、財政出動を行う場合でも、国民生活の改善につながる領域 になるべく効率的な形で財政資金を投下するという工夫を施す可能性が高い。銀行間短期金利の高騰 などをきっかけに景気の急減速が懸念された昨年 7 月も、中国政府は景気支援策を相次いで発表した が、それは景気の力強い反転を目指したものではなく、景気の大幅な下振れ防止と経済構造の調整を 主目的としたものであった。具体的には、小規模・零細企業減税や、中西部・貧困地区の発展を目的 とした鉄道建設加速などである3。それゆえ、景気減速が予想される場合でも、それが多少の景気減速 にとどまるようであれば、財政赤字率目標から大幅に乖離しない程度で財政支出を増やすにとどめ、 社会保障や環境保護、地域間格差の縮小のための基礎的な交通インフラの整備といった、国民生活の 改善に寄与する分野に財政資金が投入されることになるだろう。 実際に、3 月 13 日には、国家発展改革委員会が総投資額 1,424 億元となる 5 つの路線の鉄道建設に ついて一気に認可を下した4。また、3 月 19 日の国務院常務会議では、経済を合理的な範囲内(「下 限」を安定成長と雇用確保、「上限」をインフレ防止とする、景気が過熱も後退もしていない状態) で推移させるために、「すでに確定した内需拡大策や安定成長措置を早急に発表し、重点投資プロジ ェクトの事前作業と建設の進度を速め、タイムリーに予算を支出する」と強調した。「政府活動報告」 で中央予算内投資資金の重点投入先とされた、低中所得者向け政策支援住宅(保障性住宅) 、農業、水 利、中西部の鉄道、環境保護、社会事業などの分野の投資プロジェクトへの取り組みが加速すると考 6 えられる。 (2)改革と軟着陸の両立に求められるのは、政策間のコーディネーション 政策スタンスが上述のような形でやや景気刺激的になっても、それは改革重視路線の変更を意味す るものではない。「政府活動報告」でも「改革こそが今年の政府の主要任務である」と強調され、行 政改革、財政・税制改革、金融制度改革などに取り組むことが発表された。 特に、金融分野ではいちはやく改革の兆しが現れている。全人代期間中に実施された金融当局の記 者会見で、周小川人民銀行総裁が、個人的な見解であるとの断りを入れながらも「預金金利の自由化 は 1~2 年で実現できるだろう」と、金利自由化について初めて明確に期限を示したことは注目すべき だ。 中国における金利自由化に向けた動きは、1996 年の銀行間コール市場の自由化を皮切りに徐々に進 められ、2013 年 7 月には貸出金利の下限が撤廃され、残る金利規制は預金金利の上限規制のみとなっ ている。この金利規制があることで、実質金利が低水準に抑えられ、質の悪い投資プロジェクトが量 産されたり、インフレによる預金の価値の目減りを補おうとした家計などが預金の代替となる高利回 りの理財商品や不動産への投機を過熱させるといった弊害が生まれている。また、金融機関間での競 争原理の働きを弱め、効率の悪い金融機関を存続させている面もある。預金金利の上限撤廃は、こう した弊害をなくし、非効率な資金配分を是正するために必要な改革である。 他方で、預金金利自由化に伴って、金融機関の預金獲得競争の激化により預金金利が上昇し、利鞘 の縮小を高リスク高リターンの投資で補おうとした金融機関が最終的に経営危機に陥る、といったリ スクも存在する。それゆえ、こうした事態が発生しないように、監督管理を強化すると同時に、万一 に備えて中国政府はセーフティーネットの整備にできる限り早く着手する構えを見せている。例えば、 「政府活動報告」でも預金保険制度の創設が盛り込まれている。 ただし、問題はどのようなタイミングで預金保険制度を導入するかである。企業の破綻が相次いで いたり、金融市場が混乱したりしている際に導入を発表すれば、銀行の破綻処理を急がねばならぬほ ど状況が悪いのではないか、と市場に受け止められ、ますます不安が拡大する可能性もないとはいえ ないからだ。投資依存型成長からの脱却のスピードや、景気下支え策の効果が顕現するタイミングな ど他の政策との兼ね合いを見計らうことが求められよう。また、市場とのコミュニケーションの巧拙 も問われることになるだろう。 習政権1年目の2013年は改革プランの作成が最も重要な任務であったが、2年目以降はそれを具体的 に実行に移していくことが求められる。景気下振れ圧力を抱えながらの改革実行という難度の高い課 題に対して、どのようなタイミングでいかなる答えを出していくのか、今後の政策運営を注意深く観 察する必要がある。 7 1 中国で使用されている平板ガラスの計量単位。厚さ 2 ミリの板ガラス 10 ㎡が 1 標準箱。 なお、2 月下旬からの元安誘導は、人民元の上下双方向の変動幅拡大という改革に向けた試験的な動きとしても解釈できる。 しばらく続いてきた元高一方向への流れをいったんリセットし、元安方向に変動させてマーケットの反応を試していた可能 性がある。また、中期的な元高期待を見込んだ投機的な取引を抑制させようとした可能性もある。実際、3 月 17 日より、基 準値からの変動幅が上下 1%から上下 2%に拡大された。 3 詳細は、伊藤信悟・玉井芳野「中国は高成長路線に戻るのか?~相次ぐ経済政策の発動とその狙いを見極める~」 (みずほ総 合研究所『みずほインサイト』2013 年 8 月 30 日)を参照。 4 建設が認可された路線は、紅柳河~淖毛湖(新疆ウイグル自治区) 、ハルビン~牡丹江(黒竜江省) 、ハルビン~チャムス(黒 竜江省)、青島(山東省)~連雲港(江蘇省)、杭州(浙江省)~黄山(安徽省) 、の 5 路線。 2 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 8