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就労妊婦の健康問題と研究課題

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就労妊婦の健康問題と研究課題
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就労妊婦の健康問題と研究課題
伊藤, 久美子
北海道大学大学院教育学研究科紀要, 88: 291-301
2003-02
10.14943/b.edu.88.291
http://hdl.handle.net/2115/28891
Right
Type
bulletin
Additional
Information
File
Information
88_P291-301.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
北海道大学大学続教育学研究科
2003年 2月
2
9
1
紀要第8
8号
就労妊婦の健康問題と研究課題
伊藤久美子*
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[要旨]就労妊婦の妊娠・分娩奥常に関して, 1
970-1980
年代にかけて多くの調盗研究が
なされた。主に就労と流産,早産,妊娠中毒症,低出生時体重児の出生との関連について
報告されているが,その結果は一様で、はない。これらの妊娠異常はその成因が未だ不明な
点も多いが,近年では各疾病発生の交絡要凶,ハイリスク因子を考慮した研究結果が報告
されている。また,一般労働者を対象とした職業や作業内容,労働環境,働き方などの労
働生活と家庭生活とのアンバランスが与える健康障害も多数報告されており,就労妊婦に
おいても労働生活・家庭生活との関連を検討する必要がある。しかし,第 1子出産後も産車
穏皮と少数のため,事費業・作業内容も含めた比較検討を行うには対
業継続する女性は 15%
象の確保が厳しいのが現状である。そのため,前向き縦断研究による事例検討を行うこと
も,獄労妊婦の健康への影響要因を検討するには有効で、あると考える。
[キ…ワード}就労,妊婦,健康問題,研究課題
しはじめに
1
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8
年)によると,女性の「家庭と仕事両立j 意識は年々増加
NHK r日本人の意識調査 J (
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9
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年の改正労働基準法施行,同年の改正男女麗用機会均等法等施行に
傾向にある。しかし, 1
より,女性の麗用拡大や躍用上の性差加に競命Ij措置が設けられた一方,女子の時間外・休日労
働,深夜業の保護規定が撤廃されたことにより,女性にも男性と同様の働き方を求められると
いう指摘や性潤役割分担が根強いわが国では,就労女性の負担増加が懸念されている。このよ
うな生活,労働環境は就労女性の健康にも影響を及ぽす。特に,就労妊婦の健康管理は自身の
健康維持はもとより飴児の発育という観点からもその重要性は高い。就労の妊娠・分娩への影
響は多数報告されているが,その報告は一様ではない。そこで今回,就労の妊娠・分椀への影
響について先行研究を概観し,これからの就労妊婦の健康開題に関する研究課題について検討
する。
*北海道大学大学院教育学研究科修士課程
2
9
2
北海道大学大学滋教育学研究科紀要第 8
8
号
2
. 女性の雇用環境の現状
3
年版鋤く女性の実情 J (労働厚生省, 2
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2
)によると, 2
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1年の就業者
「平成 1
女性労鵠
数は 6,
4
1
2万人でそのうち女性は 2,
6
2
9万人で前年間水準であった。就業者に占める女性麗用者
数は 2,
1
6
8万人 (82.5%) で,前年よりも 2
8万人増加(前年比1.3%増)であった(劉1)
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平成 2
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年
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図 1 女性雇用者の推移
[厚生労働省:平成 1
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年度版働く女性の実情ホームページより l
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産業別では,サービス業が37.7%と最も多く,次いで卸売・小売業・飲食庖が28.5%,製造
業が18.1%を占める。さらに職業別にみると,事務従事者が33%,次いで、専門的・技術的職業
従事者が16.4%であった。
雇用形態別では,女性雇用者のうち短時間雇用者は 39.3%を占め,年々微増傾向にある(図
2
。
)
また,平成 1
3
年度労働力謂査(総務省統計局, 2
0
0
2
)によると,非農林業女性廉用者のうち,
有医出馬者割合は 56.7%で,昭和 6
0年以降低下傾向が続き,平成 1
0年からは横ばいであったが,
3年度女性麗用管理基本調査(厚生労働省, 2
0
0
2
)では,一般労働者訟
再度低下を示した。平成 1
の有配偶者割合を産業別にみると製造業,鉱業,サービス業,電気・ガス・熱供給・水道業の
)
1
震となっており,事業所規模Jj
j
lで
、
は 30-99
人の小規模事業所が多かった。また,平成 1
2年 1
1月
から平成 1
3年 1
0月に女性一般労働者の出産があった事業所割合は 24.5%で,女性一般労働者に
注:一般労働者とは,常用労働者のうちパート・アルバイト等以外のlE規社員・従業員をいう。また,常用労働
者とは,不定期の雇用者や会社役良や毒事業去の家族で常時勤務し,給与の支払いを受けている者をいう。
就労妊婦の健康問題と研究課題
2
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年度版働く女性の実情ホームページより 1
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5 0 0人 以 上
サービス祭
産業
不動産業
金融“保融問業
昨胡
制即売小売業欽食
進級・通信業
電気・対ス・熱岬附
給.水造業
計
製送業
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建設業
、
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鉱業
。
事業所経模
国 3 女性一般労働者に占める出産者叡合
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年度女性議用管理基本識変ホームベ…ジより l
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占める出産者割合は 2.7%
,産業別では電気・カゃス・熱供給・水道業が4.2%と最も高かった (
図
3)
0
2
9
4
北海道大学大学院教育学研究科紀婆第 8
8
号
さらに,平成 1
3
年版鋤く女性の実情によると,既婚女性で第 1子出産前に仕事に就いていた
者は 56.1%であり,そのうち出産で仕事を辞めた者は 72.8%に昇る o 第 l子出産前に就労して
いた者の勤務先別の出産後継続就労率は,官公庁が50.4%と最も高<.大規模事業所になるほ
ど継続率は低下していた(関 4
)
0
職業別就業継続率
(%)
80
70
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罰 4 第 l子出産前に就業していた者のうち,出産後も継続就業した者
【厚生労働省:平成 1
3
年度版働く女性の笑情ホームページより作成}
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3
. 就労と妊娠異常の関連についての先行研究
就労の妊娠・分娩への影響についてはこれまで多数報告されている。調査対象,翼査方法と
9
7
0年代, 1
9
8
0年代, 1
9
9
0年代の報告に分けてその概要を紹介す
もに様々であるが,ここでは 1
る
。
1
)1
9
7
0年代の報告
1970-80
年代は就労の妊娠・分娩への影響について盛んに調査されていた。塚田 1) は
, 1
9
6
0年
年代の 1
8
報告をもとに妊嬢異常毎に報告の対象例数を合計して就労の妊娠・分娩への影
代 -70
響を検討している。流産率に関しては 4報告の対象例数を合計し,家庭女性と就労女性問に有
意差はないとしている。早産率に関しでも 7報告の対象例数を合計し,流産同様家麗女性と就
2
9
5
就労妊婦の健康問題と研究課題
労女性開に有意差はないとしている。妊娠中毒症の発症率に関しては
6報告の対象偶数を合
計し,いずれの報告も家麗女性よりも就労女性の方が柾娠中毒症の発症率が高く
6報告合計
1報告の対象例数を合計し,家庭女性
でも有意で、あるとしている。低体重児出産率に関しては 1
と就労女性問に有意差はないとしている。また,職種別の比較では,いずれも対象倒数が少数
のため断定的なことは言えないとことわった上で,流産率は 4報告をもとに電話交換手,
J
展で高<,早産主容は 6報告をもとに電話交換手,看護婦・助産婦,事務の
婦・助産婦,教員のI
I
J
僚に高く,妊嬢中毒症は 4報告をもとに理美容師,事務,看護婦・助産婦の願に高いと報告し
ており,電話交換手や看護職がハイリスク職種となっている背景に,深夜労働が関連している
ことを述べている。
塚出が取り上げた報告以外では,商 J
I
Iら2) は,調査施設での 3年間の妊娠1
2週までの流産率を
比較し,就業女性と家事専従女性問には差がなく,職種別にみると底療関係が最も高く 17.95%,
次に製造業13.79%と続色事務関係,立ち仕事,教員は 10%台で,喜三療関係の中でも看護婦の
流産率が20.25%と高い結果を得たが,対象例!数が少ないため,職種との関連については明替で
きないと述べている。
富鴎 3) は,従来の勤労婦人と家庭婦人の妊娠異常の研究において,家庭婦人の中にも短時間労
働者が含まれていることを考え
労婦人として
1日の労働時聞が 6時間以上の者を常用・矩期雇用問わず勤
1施設の 5年間に分娩した縛婦に郵送法による調査を行い,妊娠中の賓血・腰
痛,疲労感などを比較した。その結果,妊娠賞血と競労の有無には差はなかった。腰痛は蛭振
初期・中期は勤労婦人の方が訴えが多く,後期は調者ほぽ同率であった。疲労感の訴え率は妊
娠全期を通して勤労婦人の方が高かった。疲労感と職場環境との関係では,
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{
令え j や「仕事が
自由に中断できない J ことを挙げる者が50%以上いた。
, 3
3
調査擁設で,分娩後 1-78の梼婦4
0
8人に対する面接調査を行い,妊娠中の
先崎ら 4)は
健康状態を主婦,勤労,自営業,農業に分類し検討した。定期健診時に指摘された妊娠異常発
J
僚で高<.切迫流早産は勤労,農業, 自営
疲率は,妊娠貧血では農業,勤労, Ei営業,主婦のI
業,主婦の頗で高かった。浮腫出現は農業従事者が他よりも著明に渇く,蛋白尿出現は自
が 低 <,他は 19-20%であった。高血圧出現は勤労者が最も高く 8.3%であったが,他も
4.5-6.5%であった。
〈通勤時間,作業姿勢〉
山下 5) は,都心に通勤する勤労婦人のうち,最近 2年間に分娩のあった 2
1
1人分娩件数2
4
5
件
じ悶都心に通勤する男性の妻のうち,妊娠中労働形態を変えなかった分娩件数1,
0
9
6
件(家事
専従7
7
0
件,勤務2
1
5件,内職9
8
件
, 自営業1
3
件)に対し郵送法による調蜜を行い,さらに,農
業従事婦人 1
6
7人3
5
5件の分挽に関する面接調査を行った。その結来のうち,通勤時間,通勤時
の混雑度,作業姿勢による流産率の検討では,通勤時間の短・長による流産率の差はなかった。
通勤時の混雑度による流産率は
による流産率は
I非常に混雑J3
0.8%, I中等度J15.9%であった。作業姿勢
I立位が多い J
27.5%, I歩くことが多い J25.0%, I腰掛け J21
.0%であった。
塚田町は,塚田が分担調査した労働省婦人少年局「勤労婦人の抵娠・出産に関する調査」と同
じく分担調査した労働基準法研究会の討議過程で、行った調査のうち,通勤時間の長銀と切迫流
早産,流早産,つわり,妊娠中毒疲発疲には差はないと報告している。
2
9
6
北海道大学大学競教育学研究科紀聖書
第8
8
号
2
)1
9
8
0
年代の報告
)
1荷ら 7) は
, 1病焼で出産した初産婦1
,
1
2
4
名を対象に助産録および、カルテから調査を行い,
年齢と職業と妊娠・分娩異常との関連を検討した。切迫流早産,妊娠中毒症は職業の有無によ
る差はなく,年齢が高くなると多くみられた。早産は職業の有無による差はなく,年齢との関
0
代の有職者と 3
5
歳以上の無職者に有意に高かった。
連もみられなかった。低体重児出生は 2
浜松ら 8) は
, 1
病院を受診した 2年聞の単胎妊産婦1
,
2
3
5
名に対して調資を行った。勤労の有
無,内容,通勤時間については,流産の場合は子宮内容清撒術後の外来受診持,備は分娩入院
時にアンケート調査し,妊賑・分娩・新生児所見はカルテから調査を行った。悪臨,切迫流産,
流産,早産,妊娠中毒症,妊賑貧血,
i
晶体重克出生には職業の有無による琵はなかったが,切
迫早産は有職者に有意に高かった。また,作業姿勢を腰掛け作業と立ち作業に分類し検討した
が,妊娠惑組,切迫流早産,流早産,妊娠中毒症, IUGRの発生に差はなかった。通勤時間に関
しては 3
0
分以下, 3
1-60
分
, 6
1
分以上に分類し検討したが,先の妊娠異常に関して差はなかっ
たと報告している o
王子岡ら 9) は
, 1碕院の 4年間に受診した妊婦のうち予後の追跡可能で、あった 2
,
2
2
5
例と別の I
病院の 4年間に出産した 3
,
0
5
9
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7
U
の合計5
,
2
8
4
例に関して,妊婦の就業形態を u
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s (農林漁業や商業,飲食業などの自営業), em主婦), s
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d (家鹿外事業所の雇用者)の 3群に分類し,早産,切迫早産,妊娠中毒症,低出生体重
児出生などの周産期異常を検討した。切迫早産と早産は s
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dが他の 2群よりも有意
に高かった。妊娠中毒症は 3群に差はなかった。低出生体重児出生は s
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僚に有意に高かった。また,職業別では,看護婦,保母,教員,主婦
閣で早産,低出生体重児出生を比較したところ,早産では看護婦が主婦よりも有意に高かく,
f
晶体重児出生は教員が主婦よりも有意に高かった。このことから, s
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f引 n
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dと労働基準法
適応職業の看護婦と教員は題産期におけるハイリスク職業であると述べている。
また,羽生泊 1川ま, 7
0
年代後半 80
年代の先行研究をもとに,就労の妊娠異常への影響を報
告しているが,流単産,切迫流早産は労働婦人に高率であるとする報告が多く,流竿産の原因
のうち母体側原因として,過労,身体の動揺,腹部圧迫,重量物の取り扱い,作業姿勢,通勤
状況との関連を述べている o
3
)1
9
9
0年代の報告
作道ら 1川ま 1
病説を 1
2年間に受診した妊産婦1
1,
8
2
5
名に対し,妊娠判明時に管理カード作
成し,妊娠転帰判明時はカルテ所見・問診をもとに情報を記入し,同一時期の妊娠発生ケース
のコホート調査で,出産予定日を基準に時期区分を行い,妊娠中の就業有無による比較検討を
行った。流産は初経産婦共に有職者に有意に高く,調査期間を 4年毎に区分した検討でも同様
であった。職業別にみると,美容師,内職,教員, )吉員,工員などに流産が多かった。妊撮悪
臨は就業の有無による差はなかった。妊娠貧血は非就労者に有意に高かった。切迫流早産は初
産の就労者に有意に高かった。妊娠中毒症は就労の有無による去はなかった。低体重児出生は
就労者に有意に高かった。早産児出生は就労の有無による差はなかった。
上部府ら 12) ,
ま
, 1
5
1
施設の 3
,
3
9
5人を対象に産婦への自記式調査と妊娠・分娩・新生児所見を
医療記録から転記調査を行い,就労による早産,低体重児出産,
SFD出現の比較を行った。分
析は職種(一般事務職,産療職,サービス・技能工,導円職),妊娠膝,婚姻膳,年齢,喫煙歴,
就労妊婦の健康問題と研究課題
2
9
7
妊娠中毒症,妊娠選数を独立変数としてロジスティック回帰分析を行い,一般事務職を1.0
0と
したオッズ比も算出した。その結巣,低体重克出生だけが職種間で有意差があり,また,交絡
国子の妊娠歴,妊娠中毒症,喫煙壌が有意に関連していた。妊娠歴,妊賑中毒痕などを調整し
たオッズ比では,職種による早産,低体重見出生, SFD出現に有意な差はなかった。
徳井ら 13) は
5施設の妊婦4
1
1人に対して, 1
6,2
0,3
0
遣に自記式質問紙を郵送し,勤労状態
(勤務形態,仕事最,仕事の負担感,実労働時間,超過勤務の有無,人間関係上のストレスな
ど)を調査し,カルテから切迫平産の症状の有無を調査した。その結果,初・経産とも勤労女
性の仕事上の要因に関係なし専業主婦の方が切迫早産徴俣のリスクが高い傾向がみられた。
上回ら 14)は
, 1施設の 5年間で自然流産した 3
2
4人に対して,主婦,看護婦,事務職,その他
の勤労婦人に分類し検討したが,職業加の自然流産率には有意な差はなかった。
以上, 1
970-1990年代の先行研究を概括すると,就労の妊娠への影響の識盗結果は次のよう
に要約できる。
(
1
) 流産,早産,妊娠中毒症は就労女性と非就労女性の発生頻度は報告により様々である。
(
2
) 切迫流早産は,就労女性に発生頻度が高いという報告が多い。
(
3
) 労働状況と妊娠異常との関係は報告例が少ないが,通勤状況に関しては,通勤時間の長銀
は関連がなく,混雑度が「非常に混雑」に流産率が高<,作業姿勢では「立位が多い J r
歩
くことが多い j 仕事に流産が多いとする報告がある。
4
. 妊娠異常の発生要因と職業による健康障害
就労の抵娠経過への影響として,流産,早産,妊娠中毒症に控目して検討がされているもの
が多い。この 3
疾患に関してその医学的発生要因と就労との関連および比較的就労妊婦が多い職
業の健康障害についてその概要を述べる。
1)流産
流産は全妊娠の約 8-15%,平均 10%前後に起こり,初産婦よりも経産婦に多く,母体年齢
が進むと流産の頻度は増加し,特に 3
5歳以上では著しく高率になり,また,既往流産も影響す
D
胎児側部子,②母体側因子,③男性因子,④原国不明に分類される 15)流産
る。流産の原因は C
の原因の多くは①胎児側因子によるものであるが,流産に関しては就労者に多いとする報告が
多いため,②母体側因子としての家庭生活・労働生活上の局所の炎症,感染症,外傷・外部か
らの刺激,放射線被爆,精神的感動などが妊卵に影響を及ぽすことも考えられる。また,流産
の発生率を検討する醸には,ハイリスク因子である経産自数,母体年齢,既往流産の調整が必
要である。
2)平康
平産は全妊援の 4.9%に起こり,その原国は,前期破水が45%,胎盤早期剥離,頚管無力症が
J
僚といわれている。これら早産の原因となる疾患
各 14%,以下妊娠中華毒症,多胎,前讃胎撃のI
の発症原因はいまだ不明な点が多いが,各疾患のハイリスク因子には,頚管無力症では,
口開大操作や播腿の既往,子宮頚部円錐切除術の既往,分娩時頚管裂傷の翫往などがあり,常
位胎盤早期剥離では,年齢,経産回数,妊娠中毒症,喫煙,繊毛膜羊膜炎など,前置胎盤では,
2
9
8
北海道大学大学院教育学研究科紀婆第 8
8
号
経産回数,帝王切開の既往などがある ~6)17)
先行研究では,切迫早産は就労者に多く,早産は就労の有無による発生頻度は様々である。
調査の多くは,分娩後に妊娠・分娩所見はカルテから調査し,就労の有無については外来カル
テや本人からのアンケート識査を行っている。ここで,問題となるのは就労者の定義である。
分娩まであるいは産前休暇まで就労継続していた者を就労者とするか,姪娠経過中に退職した
者も就労者に含めるかによって,切迫早産率,早産率は影響される o 丸本 18) は,早産主容は就業
の有無に差がないという報告について,職場改善されたか,休業できない場合は退職した可能
性も十分考えられ,一概に就労者に早産率が低いとは言えない点、を指摘している。また,後向
き調資では妊娠中の家庭生活や労鋤生活の詳細を確認することは困難で、あり,妊娠異常に対す
る家庭・労働生活の影響を検討するには限界がある。
さらに,切迫早産,早産の発生予防はその原器・誘因疾患の予紡が第ーである。原因不明な
ものも多いが,流産珂様ハイリスク悶子である年齢,経産盟数,流産の既往,喫煙,子宮頚部
円錐切除術の既往,分娩時頚管裂傷の既往,妊娠中毒疲,感染疲擢患,帝王切開の既往などに
ついての検討が必要である。
3) 妊娠中毒症
妊娠中毒症は,妊娠が継続する限り非可逆的に進行し,そのため早産や母体臓器障害を生じ,
閥産期死亡率の増加や母体死亡の原因挟患としてその管理が重要視されている Fその成盟は
今だ不明な点が多いが,近年では胎盤形成不全による血管内皮障害,全身血管欝縮,血小板活
性化,血液凝閥系異常や妊娠中毒症と類似の症候群を起こす腎炎,心JIIl管系, J
疑問障害,鯵原
病,内分泌疾患などを合併している場合が多いことが明らかとなってきている Pそのため,こ
れらの合併症既往歴や中毒症発症のハイリスク顕子である高風圧症,妊娠中毒症家族醸,初産,
高齢,肥満,妊娠時体重増加,慢性高血圧合併や耐糖能異常なども考躍する必要がある。また,
各研究では高JIIl庄,浮腫,蛋白尿の何れかが発生したものを「中毒症あり」としているものが
多い。しかし,蛋白尿は,尿路感染症や正常抵婦にも認められ,浮臆も正常妊婦の 50%前後に
出現するため,カルテ,母子手帳から調査する場合にはこの点を考臆する必要がある ~9)
以上,妊娠異常の原 I
Z
S
I・誘因について述べてきたが,妊娠異常以外にも妊娠中には頭痛・頭
霊 感 区 気 .n
医吐,下肢の盤整繁・浮腫・静脈潟,腰・背部痛などのマイナートラブルが発生す
る。これらは増大子宮による隣接臓器や血管・神経思迫,血液,循環,沼化,新陳代謝克進や
プロゲステロン,エストロゲンを中心とした内分泌変化,さらに妊娠による体内環境を維持す
るための自律神経作用が影響している伊自律神経機能はストレスに容易に反応するため,就労
妊婦の健康を検討するにあたっては,家庭・仕事に関するストレスにも注目することが重要で、
ある。
4) 職業と健康との関連
近年労働者の健康に関する研究が進み,職業特有の健康欝害や働き方・生活の仕方による健
康への影響などが多数報告されている。平成 1
3年労働力年報(総務省統計局)によると,女性
就労者が多い職業は,事務従業者,次いで専門的・技術的職業従業者,保安職業・サービス職
業従事者,製造・製作・機械運転・建設従事者,販売従事者の1
)
援である。これらの職業を代表
とする職業としてー殺事務,教員,看護師,工員,販売員の健康問題についてみてみると,
車電労妊嬬の健康問題と研究霊長媛
2
9
9
殺事務の健康障害としては, VDT機器の普及や同一姿勢による眼精疲労,頚屑腕症候群,腰背
部痛,頭痛などの身体的疲労がある ~1) 教員は,大きな声で長時間話すことによる暖芦・咽頭痛,
不自然な姿勢の維持や間一動作の反復や重量物の取り扱いなどによる頚屑擁症候群や筋骨格系
多量の持ち帰り仕事,児童・保護者との関係,学習準備,教員としての職務などによる
ストレス性障害も多い F看護師は,患者の体位変換・移動介助による腰痛,対人業務や進歩し
続ける医療技術・器機への対応、,常に生命に関わる職務などによる精神的重圧,夜間交替勤務
によるサーカディアンリズムの変調による心身の健康醸害がある ~3) 工員では,製造内容にもよ
るが,コンベア方式作業の場合,分業佑による作業内容の単純佑・標準化や作業速度が機械的
に決定されるるために作業姿勢の拘束性が強く,頚屑腕疲候群や背腰部痛などの局所的負担が
強い。また,作業内容の単調感による精神的負担も多い 54)デパート・小売腐などの奴売員では,
不特定の対象者への対応、による持続的な神経緊張,立位保持姿勢が多いことによる下肢疲労,
あるいは康位保持による上肢疲労,作業の繁閑が作業部署,時間帯,季節的・社会的状況によっ
て影響を受けるため,作業の非髄常性・非律性が強いことによる心身負担がある。また,スー
パーマーケットの販売員では重量物の取り扱い,陳列作業による腰背部への負強,冷ケースへ
の陳列作業時の体の冷え, POS作業の反疫による上絞への負担などがある F
また,労髄者の健康には,労働時間,休憩時間の長さ,回数,取り方,職場環境なども健康
に影響を及ぼすことが多数報告されている。
このように就労妊婦の健康を検討するには,その職種特有な心身負担,あるいは労働者全般
に共通する鍵康影響要罷を十分に考慮する必要がある。
5
. 就労妊婦の健蔑問題に爵する今後の研究課題
就労妊婦の妊娠異常に影響を与える関連因子を明らかにするにあたり,今後は以下の点につ
いて検討する必要があると考える。
(
1
) 妊娠異常は他の疾患、河様,生物学的,心理学的,社会学的弱子が関連しあって発生する。
一般に男一環境下であっても,健康醸害の発生には個人差がある。鈴木26) もこの点を指摘し,
家事労働と勤務労働の両方を労働と考え,ある妊娠異常に対する労働関伎の検討の重要牲を述
べている。そのため,妊撮異常をきたしたあるいは正常経過を辿った就労抵婦の家庭生活,労
働生活との関連を事例毎に検討する必要がある。
(
2
) ストレスは自捧神経機能に影響を与え,妊娠期のマイナートラブルの要悶となる。それが
妊娠異常を引き起こすことにもなり得る。
就労女性と家事専従女性のストレスを調査した徳井 13) は,家事専従女性の方がストレスが高
いという結果を報告しており,これはソーシャルサポートの有無が影響していると述べている。
このような視点も含めて,今後も就労妊婦の家庭・労働生活のストレスが妊婦の健康に及ほす
影響を検討する必要がある。
(
3
) 先行研究の多くは,娃娠が帰結してからの謂査がほとんどである。後ろ向き調査では,監
療・看護記録からの調査が中心であるが,そこに記載されている情報には限りがある。比較的
短時間で就業の有無による妊娠異常結果を調査できるが,妊娠期の家庭・労働生活についての
情報は得られない。今後は,作道ら J1)縛井ら聞が実施したような前向きの縦断研究によって,
妊娠中の家鹿生活,労働生活と妊娠異常の関連を検討する必要がある。
北海送大学大学滋教育学研究科紀要第 8
8
号
300
(
4
) 就労妊婦の健康問題を検討するには,生活の 1/3-1/2をおめる労働生活を除外して考える
ことはできない。その職種,作業内容特有の健康影響と共に,妊婦の生理的な心身変化に伴い,
今までの労働生活一作業内容,作業姿勢,職場の人的・物理的環境,就労時間帯,勤務関踊時
間,休憩の取り方などーの中で負荷が増減するもの,自身の健康管理,そして家庭での過ごし
方の変化などを考慮した検討が重要である。
おわりに
妊娠異常の成因についてはまだまだ不明な点があるが,交絡要国や 1
)スク要因が明らかに
なってきている昨今,上別府ら山の調査のように妊娠異常の交絡因子やノ、イリスク因子を調整
した検討は,腕労の妊娠・分娩への影響要因をより明確化するには重要である o また,岸ら 2川ま,
広範な職種の女性を対象に,職種間比較による女性への負担の大きい環境要留の明確化や前向
きの縦断研究による職場環境を含む様々な要閣と精神的不健康との因果関係の検討の必要性を
指摘している。
就労と妊娠異常の関連を検討するには,職種2lU
・作業加の健康障害も考慮する必要があるが,
充分な対象数を確保するには母集関,すなわち妊娠後も就労継続する女性がまだまだ少ないの
が現状である。そのため,前向き縦断研究による事例研究を行い,妊婦の生理的身体的特鍛,
職種,作業内容,労働の仕方,家鹿生活の仕方など多方面から検討を行うことも健康影響要罰
を明確にする有効な方法であると考える。
文献
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0
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0
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) 上回公代ら:自然流産の要 j
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) 坂本主ーら綴:改訂版プリンシプル産科婦人科学 2, 309-318,メジカルピュ…社,東京, 2
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) 佐藤滋ら綴:前期破水と早藤,図説産婦人科 VIEIV26,メジカルビュー社,東京, 1
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1
症の健康対策,自治労安会衛生対策室綴
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)1
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議床助産主婦必携 生命と文化をふまえた支援,
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就労妊婚の健康問題と研究課題
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Fly UP