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非対称情報の中古車市場 逆選択

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非対称情報の中古車市場 逆選択
情報経済学(第三回)
非対称情報の中古車市場
石川 竜一郎
逆選択
悪貨が良貨を駆逐する
 売り手と買い手の間で、取引する財の品質に関する
情報の非対称性が存在することで、高品質の財取引
が縮小する現象
 経済学ではAkerlof 教授が最初に分析。2001年ノーベ
ル経済学賞を受賞
 Akerlof, G. A. (1970) “The Market for ‘Lemons’: Quality Uncertainty and
the Market Mechanism,” Quarterly Journal of Economics 84,488-500.
2
期待効用仮説
 von NeumannとMorgenstern はBernoulliの考えを、数
学的に定式化。
 リスク=くじ:賞金額及びその生起確率が既知。
 人はくじに対して、合理的選好順序を持っている。
 合理的選好は、「連続性」と「独立性」を満たす。
くじの選好順序は、効用関数 u に基づく以下の
期待効用の大小関係と等しい。
(ここで、X は賞金額の集合、p はX上の確率)
3
危険に対する態度
 どちらのくじを買いますか?
1.
50%の確率で6000円が当たり、
50%の確率で0円になるくじ。
2.
100%の確率で3000円が当たるくじ
賞金の期待値は等しくても、好みは違う!!
4
危険に対する態度
 危険に対する態度(好み)は、
 くじから得られる(期待)効用
 くじの期待賞金額が確実に得られる時の効用
を比較することで、考察可能となる。
5
Akerlof’s 中古車市場
 George A. Akerlof (2001年ノーベル経済学賞受賞)
 “The Market for ‘Lemons’: Quality Uncertainty and the Market
Mechanism,” Quarterly Journal of Economics, l970.
 逆選択
o グレシャムの法則
o 悪貨が良貨を駆逐する(Bad Money Drives Out the Good)
→
財の特性に関する情報の非対称性に起因するこの状況は、
しばしば「隠された情報(Hidden Information)」の状態と呼
ばれる。
6
Akerlof’s 中古車市場
【財】 品質が[0, 2]に一様分布している中古車N 台
【主体】

Group 1:
= M1 +  D1 (所得: Y1)

Group 2:
= M2 + D2 (所得: Y2)
【設定】
1.
2.
3.
中古車の価格は p で表す。
中古車はGroup 1のメンバーのみが保有し、メンバーの各々は自
分の保有している車の品質のみわかる。
すべての主体は価格から「市場に供給されている車の平均品質
 」を知ることができる。
7
Akerlof Modelの注意
 Akerlof のモデルで逆選択が生じるのは、
2= 限界費用 > 限界効用 = 3/2
という関係があることに注意すること。
 もし、グループ2の限界効用が3ならば、需給が
0にならないところで、均衡する。
8
対称情報の場合
【財】 品質が[0, 2]に一様分布している中古車N台
【主体】

Group 1:
(所得: Y1)

Group 2:
(所得: Y2)
【設定】
1.
2.
3.
中古車の価格は p で表す。
中古車はGroup 1のメンバーのみが保有する。ただし、
自分の所有する車の品質もわからない。
すべての主体は価格から「市場に供給されている車の
平均品質  」を知ることができる。
9
例と応用
 保険
 少数民族の雇用
 不正直の費用
 開発途上国での信用市場
10
逆選択を回避する!

【Akerlof の中古車市場】 情報を持っている
側につけこまれるのを恐れ、情報を持って
いない側が取引を止めうる例
1.
情報を持っていない側が持っている側に探りを
入れる(スクリーニング)
2.
情報を持っている側が持っていない側に情報を
提供する(シグナリング)
11
スクリーニング
 情報を持っていない側が、情報を持っている
相手に対して「いくつかの選択肢を提示して
選ばせる(自己選択させる)」こと
 保険の自己負担率
 携帯電話の通話料金
12
スクリーニングの設計方法
1.
2.
3.
どんなタイプが存在し、どんなタイプの
フリをするか?
フリをしても得をしないような(自己選
択をするような)選択肢を示す。「誘因
整合条件: Incentive compatibility condition」
収益が最大になるように価格付けを調整
する。
13
携帯電話契約問題
 携帯電話会社が、料金体系を考えます。
 契約者は「よく電話をかける Heavy user」と「あま
り電話をかけない Light user」の2種類が、, 1- で分
布。
 契約者はタイプ毎に次の効用関数をもつ。
H type: uH = 10t–p; L type: uL = 3t-p
(但し t は通話時間 p は料金)
 電話会社は、契約者のタイプ毎に 可能通話時
間 ti と固定金額 pi を提示します。(i = H or L)
 各通話時間に対するコストを c(ti) で表します。
 tH > tL とする。
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スクリーニングの例
 売り出す時期と価格の組合せ(神戸, p.242)
 単行本と文庫本(ハードカバーとペーパーバック)
 CD, DVDの限定版と通常版
 機能と価格の組合せ(同, p.243)
 家電製品の機能差別化
 ファミレスの多様化
 商品・運賃の差別化
15
練習問題
 自動車の損害保険市場を考えます。保険加入希望者は、運転に
慎重なタイプと運転が荒いタイプがいますが、保険会社には区
別できません。それぞれ事故の起こす確率は10%と60%だとしま
す。事故を起こした時の損害額はどちらのタイプでも150万円で
どちらも200万円の初期資産を持っているとします。
1. 各タイプの運転手の、事故を起こす確率に対する平均資産額はいくらで
しょう。
2. 補償額150万円の保険を保険会社が提示したとき、各々のタイプの運転
手はその保険にいくらまで払っていいと考えますか?
3. 各々のタイプが自分のタイプを偽って保険に加入しない条件(誘因両立
条件)は、どのように定式化できますか。
16
ラチェット効果
 反復的な取引状況下では、情報のもち手が、
自らの情報を明らかにすることで事後的に不
利になってしまうことがある。このように、
前期の情報の開示が次期の取引に(情報のも
ち手にとって便益を獲得する)歯止め
(ratchet)となること。
⇒そのため、前期に虚偽申告することで、多
くの便益を得ようとする。
⇒スクリーニングが働かない
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ラチェット効果の防止策
 長期契約
 長期にわたり同じ契約を続けることを明示しておけ
ば、初期に情報を明かしても不利にならない(ゲー
ム論的には戦略空間の拡大)。
 評判
 情報を明かした人が利用されて損をすることはない
という評判を培う。(実際、携帯電話会社は電話を
よく使う消費者を見つけて、料金を上げたりしな
い!)
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逆選択を回避する!

【Akerlof の中古車市場】 情報を持っている
側につけこまれるのを恐れ、情報を持って
いない側が取引を止めうる例
1.
情報を持っていない側が持っている側に探りを
入れる(スクリーニング)
2.
情報を持っている側が持っていない側に情報を
提供する(シグナリング)
19
逆選択を回避する!

【Akerlof の中古車市場】 情報を持っている
側につけこまれるのを恐れ、情報を持って
いない側が取引を止めうる例
1.
情報を持っていない側が持っている側に探りを
入れる(スクリーニング)
2.
情報を持っている側が持っていない側に情報を
提供する(シグナリング)
20
情報の提示
 逆選択の状況は市場の消滅(縮小)をもたらすの
で、情報保有者にとっても必ずしも良い状況では
ない!
自らが情報を提示することで、逆選択を回避する。
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情報提示の方法
 シグナリング・・・自分の行動を通して(コ
ストをかけて)相手に情報を伝えようとする。
 チープトーク・・・口約束のように(コスト
をかけずに)相手に情報を伝えようとする。
どちらにしても信憑性が重要
(誘因整合条件を満たしているか)
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Spence の学歴モデル
 Spence, M. (1973) Job market signaling, Quarterly
Journal of Economics, 87(3): 355-374.
 学歴をシグナリングの一つとしてとらえ、労働市場にお
ける学歴と採用の関係を分析した論文
 2001年にノーベル経済学賞
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Spence の学歴モデル
 就職活動をしている学生 (高い能力: H
低い能力: L)
-高い能力の生産性: 低い能力の生産性: L
-企業には個々の学生の能力はわからない
-学生は学歴 e ∊[0, ∞) を形成することができる。ただし、学歴取得の
ために、逓増的なコストC(e, )がかかるとする。
-効用関数: U(w, e) = w(e) ‐ C(e, ) (但、 w は賃金)
 企業側:個々の学生の能力は観察できないが、学歴 e に応じて、
 の比率e を知ることができる。
-能力に応じたに賃金を支払うために、学歴から生産性を予想し賃金
w(e)を以下のように決定する。
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