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放射線による健康リスクの基本的考え方
講演の概要 放射線とは(基礎) 放射線被ばくと健康影響(基礎) 放射線防護の歴史 晩発影響の評価 放射線のリスクとは 放射線の基準とは 食品からの放射線防護 1) 放射線の健康リスクと放射線防護 2) 3) 4) 5) 甲斐 倫明 6) 7) 大分県立看護科学大学 人間科学講座 環境保健学研究室 � � 2011年5月24日食品安全シンポ 2011年5月24日食品安全シンポ ・ セシウム ・ ヨウ素 ・ クリプトンなどの希ガス 放射線被ばくと汚染 放射性の雲 (放射性物質を含んだ空気の流れ) 【放射線】 を人体に受けること� 被ばく 放射線� 原 子 力 発 電 所 放射 性物質 体表面汚染 身体に放射性物質が付着すること 体内汚染(内部被ばく) 体内に放射性物質が入ること 汚染 � � 2011年5月24日食品安全シンポ 2011年5月24日食品安全シンポ 放射線の被ばく(身体に放射線を受けること) 体表面汚染� 放射能とは 放射線の正体や発生の仕組みは物質の原子構 造と深い関係にある 元素が変換する:原子核が壊変する 内部被ばく� 放射性物質の 身体への入り口� ・吸入(呼吸を通して) ・経口摂取 (食べ物を通して) � 2011年5月24日食品安全シンポ 外部被ばく� 40� 19� Exposureの訳� 放射線:被ばく� 化学物質:曝露� K � 40� 20� Ca � +� 放射性物質の量をあらわす 放射線が放出する量はベクレルに比例する� � 2011年5月24日食品安全シンポ 1�Bq��= 1�壊変/秒� (ベクレル)� e� 自然界にある放射性カリウムからの放射線で撮影した葉� 放射線被ばくと健康影響 ほうれんそう� みつば� � あじさい� � 2011年5月24日食品安全シンポ 2011年5月24日食品安全シンポ 放射線の単位 放射線の影響を考える場合には� どこに(被ばくした身体部位)� どれだけ(被ばく線量)� どのように(被ばくの仕方)� 被ばく線量:身体や各臓器にどの程度の放射線があたったか 被ばくしたかどうかではなく、被ばくした量(線量)が問題� � 2011年5月24日食品安全シンポ シーベルト:Sv 被ばくした場合の健康影響の程度を現す線量 自然放射線から1年間に2.4mSvの被ばくを受ける� ベクレル:Bq 放射性物質の量を表す この量に比例した数だけ放射線がでている 放射性のカリウムは、成人男子で約4000Bq、原子 数で約2x10 20 個が脂肪組織を除く全身に存在� 2011年5月24日食品安全シンポ� 実効線量と臓器線量 臓器の線量:Sv γ線�662keV� 1秒間に約1本� 等価線量(Sv)=�吸収線量(Gy )x 放射線加重係数� Cs-137� 1Bq� 外部被ばく� 内部被ばく� 実効線量:Sv ∑ 光子(γ線,X線),β線�:��1� α線������������������������:20� 実効線量(Sv)= 臓器の等価線量(Gy )x 組織加重係数 662keVのエネルギーのうち� 人体に吸収されたエネルギー� 質量あたりの吸収エネルギー(J/kg)� =線量(Gy)� � 2011年5月24日食品安全シンポ 実効線量が同じであれば� 同じリスクを意味する� € � 2011年5月24日食品安全シンポ 組織 wT ∑ wT 骨髄、乳房、結腸、肺、胃、残りの 組織1 0.12 0.72 生殖腺 0.08 0.08 膀胱、食道、肝臓、甲状腺 0.04 0.16 骨表面、脳、唾液腺、皮膚 0.01 0.04 なぜ、甲状腺は別に扱うのか 実効線量 放射線防護の歴史 50 mSv (甲状腺線量) -> 2.5 mSv (実効線量) 組織加重係数: 0.05 (ICRP1990勧告), 0.04 (ICRP2007勧告) デトリメント(損害)をベースにして評価 デトリメントは致死率とQOL調整したリスク 甲状腺がんの致死率(0.07)は低いので、実効線量ベースの基準では 過小評価になる 緊急時のときには、放射性ヨウ素がとくに問題となるため 緊急時には実効線量と甲状腺線量 放射性ヨウ素の被ばく線量は、甲状腺線量を用いる トータルのがんリスクのコントロールには実効線量で表す � � 2011年5月24日食品安全シンポ 2011年5月24日食品安全シンポ 放射線防護の歴史 初期の放射線障害 X線の発見(1895)、放射能の発見(1896)� 放射線障害の中でも皮膚障害は発見 放射線の医学利用� が容易 放射線障害の発生� X線発見の翌年である1896年には皮膚 放射線防護の誕生(急性障害) 障害の最初の報告 広島・長崎への原爆の投下(1945)� 1902年には皮膚がんによる最初の死 原子力産業、医療利用への拡大 亡が報告 放射線防護の発展(晩発影響) � 2011年5月24日食品安全シンポ 初期の放射線防護 リスク概念の誕生 放射線を受けた患者を対象とした統計的研究か ら放射線被ばくによって白血病が誘発されること が報告 1952年、広島・長崎に原爆被爆生存者の疫学調 査から、白血病の発症頻度の増加が報告 閾値線量の存在が想定されが、この閾値を明示 することは不確かさがあり困難 長期間の被ばくの恐れを考慮して、ICRPは、白血 病の発症頻度は蓄積線量に比例し閾値はないと する最も控えめな仮定を導入 皮膚障害に注目 1925年、MutschellerがX線技師を調査して皮 膚障害の発生していない線量の情報が基礎 になって、1日に0.2Rの耐用線量が1934年に 勧告された 2mSv/日� 造血障害に注目 造血障害が認知されてからは、さらに低下し て、0.3rem/週が勧告された 3mSv/週� リスク概念の誕生� 放射線の影響と被ばく線量 影 響 の 発 生 す る 生 率� 確定的影響 確率的影響 (がんと遺伝的影響)� � しきい線量 【線�量】� 影響の発生する最小の線量 放射線傷害の発生するしきい線量� (急性被ばく) 1%発生率� 一過性不妊(男性) 100 mSv 程度 一過性白血球減少 500 mSv 程度 一時的脱毛 4000 mSv 程度� 皮膚の火傷 5-10Sv 奇形の発生 100 mSv 程度� 永久不妊(女性) 3000 mSv 程度 � 2011年5月24日食品安全シンポ 2011年5月24日食品安全シンポ (ICRP Pub.103,2007)� 放射線影響の特徴 潜伏期間の存在 被ばくから症状出現までに 数時間 10数年以上の期間が存在する 晩発影響の推定 非特異性 放射線傷害に特有な症状は存在しない 発がんも集団レベルの統計的な違いのみ ーがん、遺伝的影響ー 被ばく線量との関係(線量反応関係) が人のデータで明らかである ただし、低線量( 100mSv)では検出ができない � 2011年5月24日食品安全シンポ 最新の国際放射線防護委員会ICRP勧告� 被ばく集団 がん 遺伝的影響 合計 1990 2007 1990 2007 1990 2007 全集団 6.0 5.5 1.3 0.2 7.3 5.7 成人 4.8 4.1 0.8 0.1 5.6 4.2 ICRP Publ.103 (2007)� � 2011年5月24日食品安全シンポ 広島・長崎の原爆被ばく生存者のデータ(Pierce, 2000)� 原爆データからの低線量のリスクの推定 生物濃縮で体内被ばくの影響は大きくないか 30歳で被ばくして70歳になったとき 1)人体の影響は線量で 測定することができる 発がん率 観察されている 推定領域 0.88% 2)体外被ばくでも体内被 ばくでも線量が同じであ れば影響は同じ 3)線量の大きさが影響 の大きさを推定する� 0.85% 100mGy � 2011年5月24日食品安全シンポ 線量 問題となる領域 原子力産業従事者のプール解析 白血病を除くすべてのがんの過剰相対リスク� 広島・長崎の原爆被ばく生存者のデータ(Pierce, 2000)� � 2011年5月24日食品安全シンポ 高自然放射線地域での調査 中国広東省� 10 mGy/年でも不安定型の染色体異常(二動原体と 環状)が増加している 不安定型異常は細胞分裂と共に体内から排除される 転座のような安定型の異常は観察されていない がん死亡率に統計的な有意差はない インド�ケララ ( Nair, et al. Health Phys. 96:55– 66; 2009)� 4 mGy/y (最大70 mGy/y) がん死亡率に統計的な有意差はない E Cardis, et al. BMJ 2005; 331: 77� � 2011年5月24日食品安全シンポ � 2011年5月24日食品安全シンポ 低線量放射線の人体影響 まとめ 何がわかっているか? 1)�低線量での主な影響は発がん 2)�人における明確な証拠があるのは100mSv程度以上 3)�これ以下では、疫学的にも実験的にも明らかになってい ない 発がん率 放射線のリスクとは この理由は、放射線誘発がんが他の要因に よるがんと区別のできないため、影響があっ たとしても小さい影響を見つけることが困難 だからである� � 2011年5月24日食品安全シンポ � 2011年5月24日食品安全シンポ リスクの大きさ 生涯発がんリスク 5 Estimated Lifetime Risk of Solid Cancer Deaths� in the LSS at 0.1 Sv� Age at Exposure Sex Lifetime risk(%) Background risk(%) 10 M F M F M 2.1 2.2 0.9 1.1 0.3 30 20 25 19 20 F 0.4 16 30 50 Lifetime excess risk (%) increase % of risk 4 100 mSv� % 3 2 1 Preston, et al. Radiat Res 160, 381 (2003)� 0 � 10 30 Age at exposure 50 2011年5月24日食品安全シンポ 放射線のリスク評価の方法 疫学データ(主に、原爆生存者データ)を基本 チェルノブイリでは何が起きたか 甲状腺の線量で数100mSv以上でないと有意に増加していない� 線量反応関係 性別、被ばく時年齢、発症年齢、臓器別 相対リスク、絶対リスクの推定 生涯リスク推定(がん死亡確率など) 科学的論争� 低線量・低線量率におけるリスク推定 DDREF=2 � 2011年5月24日食品安全シンポ チェルノブイリでは何が起きたか (Likhtarov, Radiat Res 2006)� � 2011年5月24日食品安全シンポ 日本における甲状腺がんの罹患率 甲状腺の線量で数100mSv以上でないと有意に増加していない� ヨウ素欠乏がリスクを上昇させている� � 2011年5月24日食品安全シンポ (Cardis, JNCI,2005)� � 2011年5月24日食品安全シンポ 放射線防護の目標 ■ 確定的影響を防止する� リスクをどこまでコントロール するのか? しきい値を超えないようする� ■ 確率的影響を制限する� 容認できるリスクレベルに制限する� � � 2011年5月24日食品安全シンポ 2011年5月24日食品安全シンポ 数値の根拠 放射線防護の規準 100mSv� 参考レベル� (緊急時被ばく)� 100 mSv ・がんが検出されている最小線量 ・組織障害が生じる最小線量 避難 50mSv� 20mSv/y� 参考レベル(現存被ばく)� 職業人の線量限度� 20 mSv/y ・Unacceptable riskの最小線量 1 mSv/y ・ラドンを除く自然BGレベルの世界平均? 食品制限� 1mSv/y� � 2011年5月24日食品安全シンポ 公衆の線量限度� (計画被ばく)� ・世界の自然BGレベルの変動レベル? � 2011年5月24日食品安全シンポ Cancer risk from 20mSv/y � Annual death probability� 10-3� 食品からの放射線防護 Lifetime probability � 3.6%� 20� 40� 60� Exposure duration� � 2011年5月24日食品安全シンポ 80� Age� � 2011年5月24日食品安全シンポ 食品摂取制限の考え方 2/3� 飲料水� 甲状腺線量 � 50mSv/y� 摂取量� kg/日� 牛乳、乳製品� 内部被ばく線量は体内残留量を積算し計算� (預託線量)� 1/3� 野菜類� その他の食品� 体 内 放 射 能� Cs-137 Cs-134 大人(mSv/ Bq)� (mSv/Bq)� 1.4x10-5� 1.9x10-5� 2.1x10-5 2.6x10-5� 3ヶ月児 Cs: 生物学的半減期は110日� Bq� 穀類� 摂取量� kg/日� 肉、卵、魚介類� など� セシウム� 実効線量 5mSv/y� 摂取後の経過時間� � 2011年5月24日食品安全シンポ 飲食物摂取制限指標 放射性ヨウ素は甲状腺に蓄積� 摂取� I-131 Cs-134,137 飲料水 300 乳児 200 成人 牛乳・乳製品 300 乳児 200 乳児 2,000 幼児 500 成人 Bq/kg 70%� 血液� (無機ヨウ素)� 30%� 野菜類 500 成人 穀類 20%� 血液� (有機ヨウ素)� 甲状腺� (T3,T4)� 生物学的半減期は80日� � 2011年5月24日食品安全シンポ 肉、卵、魚、その 他 Codex 汚染食品の貿易基準 ・介入免除レベル 1mSv/y ・乳児 I-131 : 100 Bq/kg Cs-137 : 1000 Bq/kg WHO 管理下の基準 ・飲料水水質ガイドライン(2004) ・介入免除レベル 1mSv/yの10% ・成人 I-131 : 10 Bq/kg Cs-137 : 10 Bq/kg � 500 成人 ICRP Pub.63: 1000-10,000 Bq/kg (ベータ・ガンマ線核種) � 2011年5月24日食品安全シンポ 国際機関の基準 2011年5月24日食品安全シンポ 2,000 (魚) 放射線基準のあり方 現在の放射線基準 事故時は、検査体制の整備、摂取制限のための初動 措置をとる目安 平常時は、放射線を利用する行為の事前審査の基準 いずれも、健康影響のしきい値を意味するわけではな い リスク管理のための上限値 社会における様々な判断指標が求められている 国内流通基準、貿易 事故時のモニタリング体制のあり方 事故後の経過 3月21日厚労省水道課長から乳児の放射性ヨウ素摂取基準 100Bq/kg 野菜や水道水などに含まれる放射性物質の摂取基準について 議論している内閣府の食品安全委員会は28日、検出が相次ぐ 放射性ヨウ素については、現状の暫定基準のままとすることを 了承した 2011年4月5日茨城沖コウナゴに放射性ヨウ素�野菜の基準の2 倍 2011年5月17日 読売新聞 東京電力福島第一原子力発電所 の放射能漏れ事故の影響で、東北・関東7県の牧草から、規制 値を超える放射性物質(セシウム)が相次いで検出されている 神奈川県南足柄市など6市町村の茶葉から野菜類の法定基準 (1キロあたり500ベクレル)を超す530∼780ベクレルの放射 性セシウムが検出された