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次世代ネットワークアーキテクチャ

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次世代ネットワークアーキテクチャ
次世代ネットワークアーキテクチャ
-バーチャルルータネットワークにおけるトラヒックエンジニアリング-
Next-Generation Network
Architecture
−
−Traffic Engineering in Virtual Router Network−
あらまし
バーチャルルータネットワークは,著者らが提案している次世代ネットワークアーキテク
チャである。本アーキテクチャのねらいは,キャリアIPネットワークをあたかも単一の仮想
的なルータのように見せ,一元的に制御運用することである。本稿では,光の持つ大容量伝
送特性と柔軟な制御が可能な電気処理ノードとを融合させたバーチャルルータネットワー
クについて概説する。さらに,ネットワーク制御技術の核となるトラヒックエンジニアリン
グ(TE)に着目し,著者らが開発した要素技術について説明する。TEは,ネットワーク内
でのトラヒックの流れを制御することにより,ネットワークの高信頼化・最適化を行う技術
である。バーチャルルータネットワークとTE技術により,次世代ネットワークの大容量化
を達成するとともに,ネットワークの運用性を高めることが可能になる。
Abstract
We propose a next-generation virtual router network architecture, in which the carrier IP network
operates and looks like a single virtual router. This paper outlines the features of the virtual router
network, which are derived from the combination of photonic large-capacity transmission
characteristics and flexibly controllable electronic switching nodes. Also, this paper introduces the
key control technologies of the virtual router network architecture, such as TE (Traffic Engineering)
and focuses on its element technologies developed by Fujitsu. The TE also offers high reliability and
network optimization by controlling traffic flows in a network. The technologies of the virtual router
network and TE enable large-capacity transmission and high-availability operation for nextgeneration networks.
宗宮利夫(そうみや としお)
野村祐士(のむら ゆうじ)
中後 明(ちゅうご あきら)
ネットワークシステム研究所ネッ
トワークアーキテクチャ研究 部
所属
現在,IPトラヒックエンジニアリング制
御方式,およびキャリアインターネッ
トシステムの研究開発に従事。
ネットワークシステム研究所ネッ
トワーク アーキ テクチ ャ研究 部
所属
現在,IPフォトニックネットワー
ク制御の研究開発に従事。
ネットワークシステム研究所ネッ
トワーク アーキ テクチ ャ研究 部
所属
現在,キャリアインターネットシ
ステム,およびトラヒック制御技
術の研究開発に従事。
292
P292:7月号−あらまし(6)白校→青校.doc 1/1 最終印刷日時:01/08/02 13:35
FUJITSU.52, 4, p.292-298 (07,2001)
次世代ネットワークアーキテクチャ -バーチャルルータネットワークにおけるトラヒックエンジニアリング-
リング技術と著者らが開発した要素技術について述べる。
ま え が き
最後に,バーチャルルータネットワークを利用したサー
インターネットトラヒックは爆発的な速度で増加して
ビス例としてVPN(Virtual Private Network)サービ
おり,ネットワーク容量に対する要求は年を追うごとに
スを説明する。
指数関数的に増大している。このような状況において,
バーチャルルータネットワーク
ネットワークのコア部分を従来のルータやスイッチなど
の電気処理ノード(パケットスイッチ)で構成したとし
バーチャルルータネットワークは,コアノードとエッ
ても,これらノードでの電気処理速度も限界に近づきつ
ジノードとを波長スイッチで結合したインフラを持つ
つあることから,もはや処理ボトルネックを解消できな
ネットワークであり,例えば,コアノードは,光クロス
い段階に達していると言える。
コネクトにあたる波長スイッチや従来のパケットスイッ
このような課題に対して,富士通研究所では,光
チにあたるラベルスイッチなどで構成される(図-1)
。
(フォトニック)技術をコアネットワークのインフラ技
波長スイッチを用いることにより,波長(λ)パスに
術として利用することに着目し,パケットスイッチでの
より2地点間での高速・大容量性が達成される。しかし
処理ボトルネックを回避することにより,スケーラビリ
λパスは,1対n で拠点間を接続するにはn 本のλパス
ティを確保し,さらにフォトニックとパケットスイッチ
が必要となり,n 対n で拠点間を相互に接続するにはn
との双方を融合させた制御技術により,柔軟で効率の良
の2乗のオーダでλパスが必要となる。つまりλパスは,
いネットワークの構築に向けた研究開発を進めている。
パケット単位でのきめ細かい分離・多重化ができないた
これらの技術により支えられるネットワークをここでは
め,パケットスイッチに比べ利用効率が低下するという
「バーチャルルータネットワーク」と呼ぶ。インター
問題点がある。
ネットのユーザには,従来のルータネットワークのよう
そこでルータなどのパケットスイッチと波長スイッチ
に,すべての通信が仮想的にコアルータで中継されるよ
とを融合させることで,λパスの増加を抑制する効果が
うに見えるが,実際にはルータを中継せず光の波長パス
得られ,光ネットワークの高速性とパケットスイッチの
やラベルパスでエッジノード間をダイレクトに結ぶ通信
効率性を同時に実現することが可能になる。例えば,帯
を提供する。
域が小さい通信はコアルータを中継してほかの通信と多
本稿では,まず光の持つ大容量伝送と柔軟な制御が可
重することで効率良く伝送できる。一方,帯域が大きい,
能な電気処理ノードを融合させた,バーチャルルータ
あるいは高品質が要求される通信は,ダイレクトにエッ
ネットワークのアーキテクチャを概説し,つぎに,その
ジノード間をλパスで結んだショートカットパスを利用
ネットワーク制御技術の核となるトラヒックエンジニア
し,ほかの通信と分離して高速に伝送する。
管理システム(PBN)
バーチャルルータ
エッジノード
アクセス
エッジノード
コアノード
ラベルスイッチ
アクセス
波長
スイッチ
アクセス
コアノード中継パス
ショートカットパス
アクセス
アクセス
光ネットワーク
(GMPLS)
波長
スイッチ
アクセス
波長
スイッチ
波長スイッチ
トラヒックエンジニアリングパス
MPLS ネットワーク
MPLS:Multi Protocol Label Switching
GMPLS:Generalized MPLS
PBN:Policy Based Network
図-1 バーチャルルータネットワーク
Fig.1-Virtual router network.
FUJITSU.52, 4, (07,2001)
P293-298:7月号−本文(6)白校→青校.doc 293/5 最終印刷日時:01/08/02 13:34
293
次世代ネットワークアーキテクチャ -バーチャルルータネットワークにおけるトラヒックエンジニアリング-
このようなバーチャルルータネットワークの性能を最
間のあるパスが混雑してきた場合,混雑していない別の
大限に引き出すためには,通信トラヒックをインテリ
パスを自動的に発見しこれを利用するなど,インテリ
ジェントに制御する技術が不可欠である。そこで,次世
ジェントな制御を行う。
代ネットワークアーキテクチャの実現に向け,以下のよ
うな制御技術の開発・適用を進めている。
(1) MPLS(Multi Protocol Label Switching)(1)
(3) ポリシベースドネットワーク制御(4)
ネットワークの運用・管理者の方針をネットワークに
反映させるための,ポリシーサーバによる集中かつ動的
ルータネットワークにラベルの概念を導入することで,
なネットワーク運用技術であり,これによりバーチャル
レイヤ3の枠組みにとらわれない柔軟なパス制御を実現
ルータを構成するノードを一元的に管理可能となる。例
する基盤技術である。MPLSは,以下のような技術的特
えばユーザごとのプロファイルを設定し,本プロファイ
徴がある。
ルに基づいて各ネットワーク機器に一元的に指示を与え
・ラベル転送
るなど,運用管理の簡易化,コストの削減が可能となる。
IPパケットにラベルを付与し,このラベルに基づい
以下では,バーチャルルータネットワークを支える制
てMPLSネットワーク内でパケット転送を行うため,IP
御技術の一つであるトラヒックエンジニアリングに着目
アドレスに制約されないパケット中継が実現できる。こ
し,著者ら開発した要素技術を中心に説明する。
の 枠 組 み を 拡 張 し て , ラ ベ ル と し て λ , SONET
トラヒックエンジニアリング
(Synchronous Optical Network)/SDH(Synchronous
Digital Hierarchy)などのチャネルを扱えるようにし
本章では,具体的なトラヒックエンジニアリング
たGMPLS(Generalized MPLS) (2) と呼ばれる技術が
(TE:Traffic Engineering)の機能,および課題につい
検討されている。具体的にはバーチャルルータネット
て述べる。
ワークでは,GMPLSを利用して電気ノードと波長ス
トラヒックエンジニアリングは,ネットワーク中での
イッチを融合させたネットワーク制御を実現する。
トラヒックの流れを制御可能にすることにより,ネット
・コネクションの導入
ワークの高信頼化・最適化を行う技術である(5)
。従来IP
エッジノードとエッジノードとの間でのトラヒックは,
ネットワークは,コネクションレスな転送パラダイムで
ラベルパス(LSP:Label Switched Path)と呼ばれる
あったが,MPLS技術が登場しそのコネクションオリエ
経路を固定したコネクションを利用して転送される。つ
ンテッドなパス設定の仕組みを用いることによって,ト
まりコネクションレスなIPネットワークにおいて,コ
ラヒックエンジニアリングが実現できる環境が整った
ネクションオリエンテッドな仕組みを導入することによ
り,通信の品質保証やトラヒック制御が効果的に実現で
きる。
(図-2)
。
以下にトラヒックエンジニアリングの主な機能を示す。
(1) 明示的パス設定
・フロー集約
ネットワークの運用ポシリーに従ってトラヒックを制
ラベルパスにIPフロー群を集約して転送させること
御するために,経路を明示的に指定してLSPを設定する
が可能となる。この特徴は特に,大量のIPフローを転
送しなければならないコアネットワークにおいて有用で
ある。MPLSではネットワークトポロジーの把握は,
OSPF(Open Shortest Path First)などのルーティン
グプロトコルによって行われる。トポロジーが把握でき
明示的パス設定
TEルーティング
ロードバランシング
プロテクション/
レストレーション
た段階で,エッジ−エッジ間に自律分散的にラベルパス
が設定される。
(2) トラヒックエンジニアリング技術(3)
MPLS技術を応用し,ネットワーク状況に応じて経路
障害
エッジ
LSR
統計情報の収集
/通知
コア
LSR
トラヒックエンジニアリング
を柔軟に制御する技術である。既存のルータをベースと
したネットワークと比較して,利用効率および信頼性を
更に向上させる効果が得られる。例えば,エッジノード
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図-2 トラヒックエンジニアリング
Fig.2-Traffic engineering.
FUJITSU.52, 4, (07,2001)
次世代ネットワークアーキテクチャ -バーチャルルータネットワークにおけるトラヒックエンジニアリング-
機能である。現在,パス設定を行うシグナリングプロト
探索アルゴリズムであるダイクストラアルゴリズムを拡
コルとして,RSVP(Resource Reservation Protocol)
張した。具体的には,ある時刻における空き帯域が最大
を 拡 張 し た RSVP-TE と , LDP ( Label Distribution
となる経路を計算するために,新たにリンクコスト値と
Protocol ) を 拡 張 し た CR ( Constrained based
して,次式で示されるようなリンクの空き帯域の逆数を
Routing)-LDPが提案されている。
とるようにした。
(2) TEルーティング
リンクコスト値 ≡
ネットワークのトラヒック統計情報を反映したルー
物理帯域
1 − その時刻のリンク使用率
ティングで,収集されたその統計情報をもとにIPルー
このコスト値をもとに,最小コスト経路計算を行うこ
ティング経路とは異なるパスを探索する機能である。現
とで,最も空き帯域が大きい経路を検索することが可能
在のインターネットでは,最短経路でのルーティングが
主流で,またその計算トリガもネットワーク構成が変
わったときのみしか実行されないため,その経路にトラ
となった。
(2) TEロードバランシングアルゴリズム
TEロードバランシングではエッジLSR(図-2)にお
ふくそう
ヒックが集中することによる 輻輳の大きな要因となっ
いて,外部から受信したIPフローごとに複数のLSPに
ている。TEルーティングは,輻輳を回避するパスの
そのフローを振り分けることでロードバランシングを行
ルーティングや,要求された帯域を収容可能なルーティ
う。そのために各LSPの負荷状態を観測する必要がある。
ングを行うことが目的である。その具体的な方式は後述
各LSRは接続しているリンクの統計情報(送出パケッ
する。
ト量など)を一定間隔T ごとに定期的に収集する。この
(3) TEロードバランシング(6),(7)
とき得られたリンクの使用率U に関して,観測点のば
上記TEルーティングに従い,エッジ−エッジ間に複
らつきを防ぐために以下の計算による平滑化処理(ス
数のLSPを設定し,その複数のLSP間で流れるトラヒッ
ムージング)を行う。
Uav(t ) = α × U + (1 − α ) × Uav(t − 1)
ク量が均一になるようにする機能である。とくに,富士
…(1)
通研究所で開発している方式は,各LSPの経路コストが
等価でないようなマルチパスにも適用可能であり,さら
ここでUav(t) は時刻tでスムージングされたリンクの
に,ネットワークの時々刻々と変化するトラヒック状況
使用率,αはスムージング係数(ただしα ≦ 1.0)で
に基づき,その状況に常に適して負荷をバランシングさ
ある。
せることを目的としている。このような動的なロードバ
このスムージングされたリンク使用率をルーティング
ランスを実現するためには,そのアルゴリズムが課題と
プロトコルのflooding機能を(注1)用いてLSPの起点となる
して挙げられる。TEロードバランシングアルゴリズム
エッジLSRに通知する。網内のすべてのLSRが統計情
については後述する。
報の通知を行うことによって,エッジLSRは設定され
(4) プロテクション・レストレーション
ているLSPに沿った各リンクの負荷状態を知ることがで
ワーキングパスとは異なる経路のパスを設定し,障害
きる。エッジLSRはこの各リンクの負荷状態からLSPの
時にそのパスに切り替えたり(プロテクション),障害
実効負荷(ρeff)を算出することでLSPの負荷状態を
時に障害が発生していない経路を探索し,そのパスに切
知る。この各LSPの実効負荷は,以下の式で求められる。
り替えたり(レストレーション)する機能であり,IP
ρ eff _ LSPi =
オリエンテッドで制御を行うことが特徴である。
max( LSPi を構成する各リンクの Uav ) × β
トラヒックエンジニアリングの要素技術
…(2)
ここでβはリンクの負荷状態から入力負荷(実効負
荷)を推定する際の係数である。パケット損失が大きい
本章では,トラヒックエンジニアリングを実現する上
と場合にβの値を大きくするようにしている。
で主な課題として挙げられるTEルーティング,および
式(2)により,エッジLSRは,各LSPの現在の負荷
TEロードバランシングアルゴリズムに関して,筆者ら
状態を把握することができる。この負荷状態をもとに,
が開発した方式について述べる。
エッジLSRは,受信したIPフローを各LSPの負荷が平
(1) TEルーティング方式
開発したTEルーティングアルゴリズムは,最短経路
(注1) ルーティングプロトコルの機能で、ルータ間で情報を交換する
ときに使用する仕組み。
FUJITSU.52, 4, (07,2001)
P293-298:7月号−本文(6)白校→青校.doc 295/5 最終印刷日時:01/08/02 13:34
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次世代ネットワークアーキテクチャ -バーチャルルータネットワークにおけるトラヒックエンジニアリング-
LSR4
全LSPの平均負荷
move_traffic_LSP0
LSP0
move_traffic_LSP1
OC3c
LSR5
OC3c
OC3c
リンク1
LSP1
LSR1
ホスト1
LSP2
ホスト2
リンク2
OC3c
100base-T
ハードウェアプラットフォーム
0
65535
LSP0
OC3c
100base-T
ρeff
ハッシュ境界
ハッシュ値
LSR3
LSR2
LSP1
LSP2
LSR
Intel x86 PC
ネットワークインタフェース
oc3 c ATM(MPLSネットワーク用)
100baseTX ether(外部ネット用)
ソフトウェアプラットフォーム
Δb_LSP0
OS
Δb_LSP1
図-3 ハッシュ境界の調整
Fig.3-Adjustment of hash boundary.
Linux
LSP設定プロトコル
RSVP-TE
ルーティングプロトコル
Gated(freeware)
図-4 トラヒックエンジニアリング評価プラットフォーム
Fig.4-Traffic engineering evaluation platform.
均化されるように適切なLSPに振り分けることでロード
60
バランシングを行う。すなわち,図-3に示すように,各
LSPのρeffが,LSP群全体の平均使用率に近づくよう
LSP間でフローを移動する仕組みとして,図-3に示すよ
うなハッシュ境界を用いた。
具体的には,LSRに振り分けるIPフローに対して,
宛 先 IP ア ド レ ス な ど を キ ー と し て , CRC ( Cyclic
転送速度[Mbps]
にフローを別のLSPに移動することで行われる。ここで,
リンク1
50
リンク2
40
30
20
Redundancy Check)などのハッシュ演算を行い,その
10
計算値と振り分けるLSPとのマッピングを行うことに
0
0
よって送出先のLSPを決定する。ここで各LSPに区切る
100
200
300
時間[s]
境界をハッシュ境界と呼ぶ。TEロードバランスを行う
ためには,上述した各LSPのρeffが,LSP群全体の平
図-5 TEロードバランシング結果
Fig.5-Result of TE load balancing.
均負荷に近づくようにハッシュ境界を移動することによ
り,負荷を調整する。
あるLSPiに関するハッシュ境界の移動量Δb_LSPiは
シュ移動量の50%だけのハッシュ境界を移動する。こ
以下の式を用いて計算する。
のパラメタによって,フローをLSP間で移動した場合に
∆b _ LSPi =
move _ traffic _ LSPi
× 65535 × move _ granularity …(3)
∑ρeff _ LSPi
発生する,過剰な振動を抑制することが可能となった。
(3) トラヒックエンジニアリング評価プラットフォー
ムの開発
ここで move_traffic_LSPi は LSPi に関する,LSP全
上記方式の妥当性を検証するために,評価プラット
体の平均負荷との差分を表す。また整数値65535はハッ
フォームを構築した (8)
。そのネットワーク構成を図-4に
シュ演算がとりうる値の範囲(ここでのハッシュ演算は
示す。
CRC16としたため,その範囲は0∼65535となる)で
ネットワークトポロジーをOSPFで自律的に把握し,
ある。
RSVP-TEシグナリングを用いてLSPを設定することを
なおmove_granularity は1.0以下の値をとり,1回の
確認した。またリンクの輻輳を自動的に感知し,TE
フローの移動量を抑制するためのパラメタである。例え
ルーティングを用いて輻輳を回避するルートを検索し
ば move_granularity =0.5 であ れ ば, 計算 さ れた ハ ッ
LSPを設定することを確認した。さらにエッジ−エッジ
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FUJITSU.52, 4, (07,2001)
次世代ネットワークアーキテクチャ -バーチャルルータネットワークにおけるトラヒックエンジニアリング-
LSR間に2本のLSPを自動設定し,ロードバランシング
ネットワーク内ではラベル転送される。概念図を図-6に
が行われたことを確認した。TEロードバランシング結
示す。バーチャルルータネットワークによるIP-VPN
果を図-5に示す。
サービスの特徴を以下に示す。
入力トラヒックとして,合計で93フロー,50 Mbps
(1) アドレス体系の柔軟性
とし,統計情報通知のためのOSPF flooding間隔を10秒
バーチャルルータネットワーク内は,外部ネットワー
とした。図-5中,リンク1はLSR1-4-5-3のパスのスルー
クから閉じているため,各ルータにはネットワーク運用
プットを示し,リンク2はLSR1-2-3のパスのスループッ
者が意図した管理上のIPアドレスを設定可能である。
トを示す。評価結果より,エッジノード−エッジノード
そのため,各加入者のIPアドレスと,バーチャルルー
間で入力トラヒックの半分である25 Mbpsずつにロード
タネットワーク内の管理用IPアドレスを対応させ,
バランシングされていることが分かる。
ネットワーク内では管理用IPアドレスを用いてルー
なお,上記のトラヒックエンジニアリング技術に関し
ティングを行うことにより,加入者のプライベートな
ては,今後富士通IPスイッチングノードGeoStreamシ
IPアドレス体系に影響を与えず,VPNをサービスする
リーズへの適用を進めていく予定である。
ことができる。実際にはバーチャルルータネットワーク
バーチャルルータネットワークのサービス
内は,管理用IPアドレスに対応したラベルで転送され
るため,NAT(Network Address Translator)などの
本章では,トラヒックエンジニアリング技術などの
複雑なアドレス変換機構を用いることなく転送可能で
ネットワーク制御技術を適用したバーチャルルータネッ
ある。
トワークにおいて,提供されるサービスの一つとして考
(2) 各種ルーティングプロトコルへの対応
えられるIP-VPN(Virtual Private Network)の特徴に
各VPNごとの外部ネットワークのユーザが使用して
ついて述べる。
いる様々なルーティングプロトコル(OSPF,RIP,
IP-VPNは,レイヤ3レベルで仮想プライベートネッ
BGPなど)に対応可能である。加入者が使用している
トワークを構築するサービスである。各加入者間はバー
ルーティングプロトコルをエッジで終端し,バーチャル
チャルルータネットワークを介して接続され,加入者か
ルータネットワーク内では,固有のルーティングプロト
らは1ホップとして対向の加入者が見える。つまり加入
コルを使用する。この固有のルーティングプロトコルは
者からはネットワークが一つのルータとして見える。各
OSPFなどのIGP(Interior Gateway Protocol)を用い,
加入者ごとにラベルが割り振られ,バーチャルルータ
加入者には流れないようにしている。
管理システムによる加入者
情報の一元管理
企業A
OSPF
VPN#1
バーチャルルータ
ISP
BGP
企業B
RIP
VPN#3
ラベルパスによるセキュリティ確保
VPN#2
企業B
RIP
TEによる信頼性実現
アドレス体系の柔軟性
マルチプロトコル対応
企業A
OSPF
ISP
BGP
ISP:Internet Service Provider
図-6 バーチャルルータネットワークでのIP-VPN
Fig.6-IP-VPN in virtual router network.
FUJITSU.52, 4, (07,2001)
P293-298:7月号−本文(6)白校→青校.doc 297/5 最終印刷日時:01/08/02 13:34
297
次世代ネットワークアーキテクチャ -バーチャルルータネットワークにおけるトラヒックエンジニアリング-
(3) セキュリティの確保
果を示した。最後に,本アーキテクチャにより提供され
パケット転送処理にMPLSをベースとしたラベル方式
るサービスの一つとして,IP-VPNサービスについて紹
を採用することにより,加入者ごとに異なるラベルを割
介した。
り当てるため,セキュリティが確保できる。つまり加入
今後はバーチャルルータネットワークの実現に向け,
者ごとにラベルで区切られたセキュアなパスを提供する
光ネットワークを含めた,各レイヤでの機能分担の明確
ことになり,従来のATMやFrame Relayを用いた専用
化,試作システムの構築の検討を進める予定である。
線と同レベルのセキュリティを確保できる。
(4) 信頼性の確保
トラヒックエンジニアリングによる輻輳回避,プロテ
参 考 文 献
(1) E. C. Rosen et al. : Multiprotocol Label Switching
Architecture,RFC3031,IETF,January 2001.
クション・レストレーションの適用により,高信頼な通
信を提供することができる。ラベルベースのプロテク
(2) P.
Signaling
ション機能を用いることにより,数十msの短い時間で
(3) D.
(4) Y.
Description
MPLS-
(draft-ietf-mpls-
Awduche
et al. : Requirements
for
Traffic
Nomura
et
al. : Policy
Based
Networking
Architecture for Enterprise Networks,ICC’99,1999.
より加入者情報を一元的に管理できる。例えば,品質ク
ラスに応じたラベルパスの管理を行う場合,PBNを用
al. : Generalized
Engineering Over,RFC2702,IETF,September 1999.
ネットワーク内のトポロジーを加入者から隠蔽するこ
とができる。PBNなどの管理システムを用いることに
Functional
et
generalized-signaling-02.txt),IETF draft,March 2001.
障害時のパス切替が可能になる。
(5) 運用管理の一元化
Ashwood-Smith
(5) K.
Takashima
et
al. : Concept
of
IP
Traffic
Engineering (draft-takashima-te-concept-00.txt) , IETF
いることにより設定の簡易化を計ることが可能になる。
draft,November 1999.
む す び
(6) 宗宮利夫ほか:IPトラヒックエンジニアリングにおける
高速大容量を伝送可能なフォトニック技術と,制御の
ロードバランシング方式の検討.電子情報通信学会交換機
柔軟性が高い電気処理技術を融合させたバーチャルルー
研究会,SSE2000-53,p.19-24(2000)
.
タネットワークのアーキテクチャを提案し,そのアーキ
(7) 仲道耕二ほか:IPトラヒックエンジニアリングの安定性
テクチャを実現するMPLS,トラヒックエンジニアリン
評価.電子情報通信学会情報ネットワーク研究会,
グ,PBNについて概説した。またトラヒックエンジニ
.
IN2000-225,p.249-256(2001)
アリングを実現する上で課題となるTEルーティング方
(8) 高島研也ほか:IPトラヒックエンジニアリングの実装と
式とTEロードバランシングアルゴリズムを提案し,そ
評価.電子情報通信学会交換機研究会,SSE2000-142,
の詳細について述べた。さらに,開発したトラヒックエ
.
p.161-166(2000)
ンジニアリングの評価プラットフォームを用いた評価結
298
P293-298:7月号−本文(6)白校→青校.doc 298/5 最終印刷日時:01/08/02 13:34
FUJITSU.52, 4, (07,2001)
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