...

低温動作 Yb:YAG レーザーの開発

by user

on
Category: Documents
40

views

Report

Comments

Transcript

低温動作 Yb:YAG レーザーの開発
低温動作 Yb:YAG レーザーの開発
レーザー加工計測研究チーム
時田茂樹 1、河仲準二 1、藤田雅之、川嶋利幸 2、井澤靖和 1
1
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
2
浜松ホトニクス(株)
研究の目的:半導体レーザー直接励起超短パルス固体レーザーの開発。
今後の応用・発展:高出力超短パルスレーザー増幅器の開発
連絡先:TEL 06-6879-8732
FAX 06-6878-1568 or 06-6879-8732
E-mail
[email protected]
低温動作 Yb:YAG レーザーの開発
レーザー加工計測研究チーム
時田茂樹 1、河仲準二 1、藤田雅之、川嶋利幸 2、井澤靖和 1
1
2
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
浜松ホトニクス(株)
1. はじめに
系レーザーは準 3 準位であるために発振閾値が高く、
高強度励起が必要であるが、低温ではこの条件が著し
レーザーダイオード(LD)で励起される固体レーザ
く緩和され、効率が向上する 7)。
ーは、フラッシュランプ励起レーザーと比べて、高効
第三に、誘導放出断面積の上昇がある。Yb 系レー
率、低熱負荷、高信頼性といった利点を持ち、利用が
ザーの蛍光スペクトルは温度に大きく依存し、低温で
進んでいる。Yb(イッテルビウム)ドープ固体レーザ
はスペクトルの狭帯域化によって誘導放出断面積が上
ー媒質は、LD 励起が可能なうえ、短パルス発生・増
昇する。Yb 系レーザーは、室温で誘導放出断面積が
幅が可能であるため、注目されている。Yb系媒質は、
比較的小さいものが多い。したがって飽和フルエンス
小さな量子欠損、長い蛍光寿命を持ち、低熱負荷、高
が高く、パルス増幅で高い抽出効率を得ることが難し
1,2)
エネルギー蓄積という特徴を持つ 。
い。低温動作によって、より高効率のパルス増幅が可
Yb 系レーザーは、液体窒素温度レベルの低温動作
能になる 8)。
によって室温動作よりも著しく特性が向上する。特性
ここでは、Yb 系レーザー媒質のなかで特に優れた
の向上には次の三つの要因がある。
熱的特性を持つYb:YAGに注目し、液体窒素温度にお
第一に、ホスト媒質の熱特性の向上がある。高出力
けるモードロック発振実験について述べる。
固体レーザーの平均出力とビーム品質は、レーザー媒
質内で起こる熱レンズ、熱複屈折、熱破壊などによっ
2.モードロック発振実験
て制限される。サファイアや YAG などの結晶は低温
域において熱特性が著しく向上するため、これを利用
した高出力化が報告されている
3,4)
液体窒素冷却モードロックYb:YAGレーザー発振器
。例えば YAG 結晶
の構成を図1に示す。ドープ濃度25 at. %、厚さ 0.8
においては、液体窒素温度(77 K)において熱伝導率
mm のYb:YAG結晶は、100 cc程度の液体窒素容器
が室温の約10 倍 5)、dn/dT は1/7、熱膨張率は1/4
を持つデュワーを用いて冷却した。合成石英の窓板と
になる 6)。
Yb:YAG 結晶はブリュースター角で配置した。共振器
第二に、レーザー動作の4準位化がある。室温のYb
長1650 mmのX型共振器を構成し、半導体可飽和吸
Chirpedmirror
(- 400fs2)
Output coupler
(95%refrection
)
SESAM
LD
Cryo- cooled Focusing lens
assembly
Yb:YAG
図1 低温動作Yb:YAG受動モードロック発振器
1
1
Autocorrelation
τp = 6.8 ps
2
Spectrum
(sech )
0.5
FWHM
0.26nm
0.5
0
1028.5
0
–20
0
20
Delay time (ps)
1029
1029.5
Wavelength (nm)
図2 モードロックパルスのSHG自己相関波形 図3 モードロックパルスのスペクトル
収ミラー(SESAM)を用いて受動モードロック発振
低温動作のYb:YAGレーザーに着目し、短パルス発
させた。SESAM は 1030 nm において反射率が非飽
振特性を測定した。低温では、4 準位化と誘導放出断
和状態で 96%、飽和状態で>99.5%、飽和フルエンス
面積の上昇により発振閾値は著しく低下し、比較的弱
2
が30 μJ/cm のものを用いた。励起源として940 nm、 い励起強度で高い利得が得られる。これによって容易
コア直径50 μm、NA = 0.15 のファイバ出力レーザ
に高効率発振が可能となる。SESAM による受動モー
ーダイオードを用いた。励起光は収差を抑えた集光光
ドロックによりパルス幅6.8 psが得られ、低温でのピ
学系により、ファイバ端をYb:YAG結晶に1:1で像転
コ秒動作を実証した。70 K 以下でのYb:YAG の飽和
送した。Yb:YAG 結晶や窓板での正の郡遅延分散を補
フルエンスは1.3 J/cm2 であり、1 nsパルスに対する
償するため、1030nmで−400 fs2 の郡遅延分散を持つ
典型的な光損傷閾値より低い。したがって、効率の高
チャープミラーを用いた。
い短パルス増幅が可能であると考えられる。
励起出力2 Wのとき、平均出力450 mW、繰り返し
本研究はレーザー技術総合研究所と大阪大学レーザ
周波数91 MHzの安定したモードロックパルス列が得
ーエネルギー学研究センター、浜松ホトニクスとの共
られた。このとき、SESAM 上での共振器内パルスの
同研究として行われた。
光フルエンスはおよそ200 μJ/cm2 である。Qスイッ
チ発振を伴わないモードロック発振を得るには、
謝辞
SESAM の飽和フルエンスよりも十分に高いフルエン
本研究の一部は文部科学省科研費(No.14655276)
スを保つ必要がある 9)。出力パルスのSHG自己相関波
の支援を得て行われました。
形とスペクトルをそれぞれ図2と図3に示す。出力パ
ルスが sech2 型パルスであることを仮定すると、パル
参考文献
スの半値全幅は6.8 psであった。また、スペクトルの
半値全幅は0.26 nmであった。パルス幅とスペクトル
[1]
の周波数幅の積はΔtΔν =0.50である。
L. D. DeLoach, S. A. Payne, L. L. Chase, L. K.
Smith, W. L. Kway, and W. P. Krupke : IEEE
J. Quantum Electron. 29 (1993) 1179.
4.まとめ
[2]
T. Y. Fan : IEEE J. Quantum Electron.
(1993) 1457.
29
[3]
D. J. Ripin, J. R. Ochoa, R. L. Aggarwal, and T.
Y. Fan : Opt. Lett. 29 (2004) 2154.
[4]
P. A. Schulz and S. R. Henion : IEEE J.
Quantum Electron. 27 (1991) 1039.
[5]
G. A. Slack and D. W. Oliver : Phys. Rev. B 4
(1971) 592.
[6]
R. Wynne, J. L. Daneu, and T. Y. Fan : Appl.
Opt. 38 (1999) 3282.
[7]
J. Kawanaka, K. Yamakawa, H. Nishioka,
and K. Ueda, Opt. Express, 10 (2002) 455.
[8]
J. Kawanaka, K. Yamakawa, H. Nishioka,
and K. Ueda : Opt. Lett. 28 (2003) 2121.
[9]
U. Keller, K. J. Weingarten, F. X. Katner, D.
Kopf, B. Braun, I. D. Jung, R. Fluck, C.
Honinger, N. Matuschek, and J. Aus der Au :
IEEE J. Sel. Top. Quantum Electron. 2 (1996)
435.
Fly UP