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2014年7月 - bicoid
bicoid note aug 2014 140714:0024 数の成り立ち マークを与える打 も無駄なほどに、その二点には関連性し かない。ここでエクスクラメーションマーク。 五月と六月のテキストをまとめました。 二ヶ月間のうち、当サイトに文書を記したのは全四日間の み。すごいですね。片手で数えられますね。 以前読んだ「数」の成り立ちを考察した本に、「……そも そも上空を飛んでいる二羽の鳥と、地面に転がっている二つ の林檎について、そこに『二』と抽象される共通の概念を人 類はどのように見出したのか」と指摘される一文があったの だけど、「……あるいは四回だけ更新される個人サイトと、四 時間だけ睡眠をとる生活の間にも、何らかの関連性はあるの だろうか」と述べた疑問文の末尾に、仰々しくクエスチョン 3 140715:0114 ロボットのような 眠い。仮に今、堅く閉ざされた天岩戸の外側からアメノウ ズメが賑やかに舞う音が聞こえてきたとしても、完全に無視 して暗闇の洞窟で寝返りを打つほど眠い。こんな状態が続く と、あなたの眠りをサポートみたいなことを言われてもあま り有用でなく、むしろ朝のトーストにジャムを塗るのを手伝 ってくれた方がありがたい。 思い出した。これは数日前に気がついたのだけど、ジャム をスプーンで塗り広げようとするのではなく、スプーンは静 止させて左手に持ったトーストの方を動かすと、まるで自分 が試作段階のロボットになったような気がして楽しい。まぁ 会社員の八割は、試作段階のロボットのようなものだけれど (唐突に鋭いことを言えた気になっているロボット)。 4 140716:0233 回答 人はどこから来てどこへ向かうのか、という根源的な問い に対する唯一の具体的な回答は「布団から来て布団に向か う」なのだけど、うっすらと狐色に焦げ目がついた回答用紙 に適量のマーガリンを塗って食べてしまいそうなくらい眠 い。 5 140719:0333 種の繁栄にまつわる事情 「哺乳類の祖先は夜行性だったおかげで、巨大な恐竜の目を 盗んで生き延びることができた」みたいな説を聞くけれど、 あれはたぶん間違いだと思う。僕の洞察では、おそらく哺乳 類は昔から残業を山のように抱えていたので、湖面に月影の 揺れる深夜にしかブログの更新ができなかったのだ。 帰宅する電車の中で、オスプレイ、押すプレイ、雄プレ イ、御スプレー、といったきらびやかな単語たちの並びでぐ るりと結ばれた数珠が、孫悟空の頭にはめられた緊箍児のよ うに僕の思考を取り巻いていた。疲れていないといえば嘘に なるし、疲れているといえば報告になる。 6 140721:0009 オーバーダビングシュート はじめて風という字を目にしたとき、まるで誰かの顔のよ うに見えたことを今でも覚えている。という一文から短編小 説がはじまりそうな気配を感じるけれど、一方で、その短編 小説が全体として四行くらいで終わることも容易に想像でき る。 愛用のレコーダDR-05のファームウェアが更新されて、今 更ながらオーバーダビング、リバーブ等の目立つ機能向上が 果たされた。素晴らしい。思わずうっとりして溜め息を多重 録音してリバーブかけたくなる。そしたらきっとベイダー みたいになる。眠くなる。なにを書いているのかわからなく て、私は今にも眠くなっていく。 7 で、ややもすると六年間くらい延々と再生し続けてしまう気 140721:2322 運動と圧縮 がする。 わりと頻繁にアルバイト店員の代わりゆく馴染みのコーヒ ー屋で、「豆は かずに、真空パックは要らないです」と注 文したマンデリンが、粉々に砕かれたうえ「しんかい6500」 の収集物かと見紛うほど美しく圧縮されて手渡されたとき、 この四月から、とくに脈絡もなくはじまった「毎月一枚ず つGREAT3のアルバムを買い足していく運動」は、七月の半 ばに至って五枚目のアルバム『May and December』に あなたは夕立のあとに映える虹のように美しい笑みを浮かべ られますか。 り着 いた。微妙に計算が合わないけれど、なんでも計算できる世 界がお好みなら、両足の裏にそろばんを括り付けて飽きるま で逆立ちの練習でもすればいい。 せっかく村上君が貸してくれた『Without Onion』も、 1998年リリース版のCDには収録されていなかった四曲 (『I.Y.O.B.S.O.S』含む!)が惜しくて、結局iTunes Storeで 買い直した。登校中のベックが宿題を忘れた言い訳を延々と 考えているような、独特な緊張感と深淵に迫った趣のある曲 8 せめてこう、iPadで電子書籍を横開きにした時には、残っ 140724:0028 電子書籍と手触り ているページ数に応じてiPadの重心が左右に変動したりする と、「本を読んでいる」という感覚を身体が信じると思うん だけど、そこまでするなら紙の書籍にiPadを貼付けた方が早 い。 なにか書籍を読んでいて、どこか過去の段落にあった記述 わりと長い期間検討した結果、技術系の電子書籍はKindle を選ぶことにした。というか、べつに決心したわけでもない けれど、自然とそう成りつつある。心情的にはiBooksで たいところだけど、こうあからさまに品 え えに差があると、 その魅力から目を背けることは難しい。 を、あいまいな記憶で ってふと読み返したいと思ったと き、やはり紙の書籍でそれを試みる方が数倍速い。目的の記 述を以前目にしたときに親指の腹で抑えていたページの厚み だとか、そこから今のページに り着くまでにページをめく る音を何回耳にしたとか、そういった無意識下で働くアナロ グなセンサが、思った以上にたくさん機能しているのだろう か。 それはそれとして、やはり電子書籍というのは便利なよう でいて、身体感覚とちぐはぐで、いつまでも馴染めない感覚 もある。「馴染めない」という言葉が本当にしっくりくるほ ど、書籍との間の交流みたいなものを感じ取る事ができな い。 9 140725:0155 イリュージョン 二日前の夜、布団に横になったまま眠れずにいた娘から、 「なぜ眠ると夢を見るの?」と質問を受けた。「なぜ起きて いる時には、夢を見ていないと言えるの?」と尋ね返そうか と思ったけれど、話し終わる前に夢の世界に行ってしまう気 がしたので、とりあえず記憶の箱を抱えて橋をわたる小人の 話をした。 出版当初から「ユーザーイリュージョン」と「神々の沈 黙」をずっと読みたくて我慢しているのだけど、ふと振り返 って自室の本棚の中板が美しく歪んでいるのを目にすると、 何らかのイリュージョンが起きるまで沈黙するしかなくな る。 10 140727:0246 価値があろうものなら 自動解放プールと児童開放プールはどちらがより安全と言え るのか……、仮にレストランが閉店したら水野真紀はどうなっ てしまうのか。他人が言うほどには水野真紀と水野美紀を間 違えることはないけれど、そんな冷静な意見を口にしても場 が盛り上がるはずもなく、我々を乗せた列車は闇を つトン ネルをただひたすらに北上する。 御堂筋線で列車を待つ間、ずいぶん多くの若者たちがホー ムに居合わせていることに気がついた。いくら休日とはい え、人々の年齢のバランス、その偏りに違和感がある。浴衣 を着ているわけでもないし、なにかコンサートグッズを手に 激しさを増す鼓動と反比例するように、やがて列車は少し ずつ速度を弱めていった。まるで眠りに落ちていく意識のよ うに。もしくは、眠りに落ちていく意識が時折書き記す、誰 かに伝え残す価値がゼロの文章のように。 しているようにも見えない。けれども、おしなべて二十代中 盤くらいの、多くは男女の組である。 車両が動き始めてしばし経過した頃、僕の右斜め前に立っ ていた金髪の男女と、僕を挟んで正対する位置に立っていた 幾らか大人しめなファッションの女性グループが、同時に水 野真紀の話をし始めたことで僕の混乱は激しさを増した。揺 れる車両の中で、僕の脳裏には何度も水野真紀の笑顔がルー プする。記憶のループ。記憶のプール。@autoreleasepool…… 11 140728:0155 高野豆腐とスアレス ここまでの段落から、今日、僕の家の玄関で杉尾さんから もらったクワガタの雌が三週間ぶりに動いたことを推察でき た人は、ずいぶん察しが良い。なにしろ僕さえも、動くと思 っていなかったのだから。 そもそも、杉尾さんから丸い容器で成虫を受け取ったその 日から、ただの一度も地表にいる姿を見たことがなく、手渡 された容器に詰められていたマットは、定年退職した叔父が レシピも読まずにはじめて作った高野豆腐のように硬かっ ものごとを言葉に置き換える理由は何だろう、と考えてみ た。仮に地面の下に潜っているのだとしたら、二度と出られ ると、誰かと共有するためか、あるいは未来へ残すためだと るはずがない。あまねく節足動物的な死あるのみ。 思える。ここで未来の自分も「誰か」に含めるならば、「共 有するため」と言い切ってしまっても良いのかもしれない。 ところが、昼下がりに玄関で、三番のサビまでお経を唱え てから厳かに土を掘り起こしたところ、そこに表れた黒い背 もしも対象が、たとえば言葉よりも音楽として表現する方 中は、わりと元気にむくむくと動いた。うわ動いた、って言 が誰かと共有しやすく、本質を汚さずに残しやすいと思えた った。そして掘り起こした瞬間に、その生き物(スアレスと ならば、そのことに気がついた誰かが 名付けた)は僕の指を力強く噛んだ。 盤に指を置くだろ う。写真も、彫刻も、たぶんそんな風にして僕の生きるこの 瞬間まで紡がれてきたのだ。 12 140729:0133 邪悪の塊 何ヶ月かぶりにTSUTAYAヘ行った奥様が、嬉々として映画 『グーニーズ』を借りてきた。時代錯誤ぶりを茶化したいと ころだけど、僕はまだその映画を見たことがない。 本当はギターを「好きになれない」のではなく、単にうま くならない。 やや唐突に、村上君のところで秋田道夫さんとの会話を納 めたPodcastが公開されはじめた。 僕は秋田道夫さんのことを、顔も文章もずいぶん前から拝 見、拝読しているので勝手に見知った人のように思えていた のだけど、当然ながらそれまでになかった、声帯の伝えるパ ーソナリティというのはやはり見過ごせない(聞き流せな い)ものがある。「……ああ、想像していたよりもずっと少年 のような、やんちゃな声だったんだな」と面白がりながら聞 いた。と思ったらそのとき喋っているのは村上君の方だっ た。どうりで、聞き慣れた邪悪の塊に片栗粉でとろみをつけ たような声だ。終始一貫してエクソシスト2の予告編のナレー ションのような声だ。 13 140730:0149 スタンダップ白羽の矢 四時間睡眠が板についてくると、昼休みに公園のベンチで 休んでいるわずか十五分ほどの間に、様々な思念が心の水面 を揺らすことに気がつく。たとえば「四時間睡眠が板につい てくる」という日本語を冷静に読み返した際にひっかかる奇 妙さだとか、「白羽の矢が座った」みたいな使い道のない言 葉の切れ端だとか、まぁそういうことだけど。つまり、おお むね平常運転ということ。 気がついたらアイスチョコモナカを食べている。一つのブ ロックを口に放り込むたびに、モナカ、モナコ、モニカ、ハ イヒールモモコ、の順に平等に思考をめぐらせている。 15 140731:0225 うさぎのはしか退治 春に国立科学博物館を訪れた際、特別展として催されてい た古来の医学を紹介する展示で、「うさぎのはしか退治」と 題された絵を見たのを思い出した。ずいぶんコミカルで勇ま しいうさぎが、タイトル通り「はしか」をやっつける絵。 なぜ思い出したかといえば、昨日、和服を着たうさぎを見 たからである。それが夢の中の出来事であったか否かはさほ ど大きな問題ではない。幾分遠回しに、寝不足と疲労をアピ ールすることが主目的だからだ。 16 copyright © 2014 Nobuyuki Okahisa all rights reserved. 18