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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
Title
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Journal
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無脳児における胸腺の解剖学的研究
戸塚, 陽子
東京女子医科大学雑誌, 56(1):45-64, 1986
http://hdl.handle.net/10470/5669
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
45
〔東女医大誌 第56巻 第1号頁 45∼64 昭和61年1月〕
原
著
無脳児における胸腺の解剖学的研究
東京女子医科大学 第一解剖学教室(主任:
ト
ツカ
戸 塚
ヨウ
串田つゆ香教授)
コ
陽 子
(受付 昭和60年10月3日)
Anatomical Study of the Thymus in Anencephaly
Yoko TOTSUKA, M.D.
Department of Anatomy(Director:Prof. Tsuyuka KUSHIDA)
Tokyo Women’s Medical College, Tokyo
14Anencephaly cases(9 males,5females)were prepared under binocularmicroscopy to inspect the
weight, the position of the thoracic cavity and the vessels of the thymus.
1)The weight of the thymus ranged from O.04 g to 14.5g, and T.W./B.W.(Thymus Weight Body
Weight Ratio)ranged from O.7%o to 6.9%o. Thymuses weighed above average in 10 cases, and no
significant difference was found between females and males.
2)The position of the thymus;The upper border of the thymus, espesially;situated at high level.
They extended upward beyond the first rib in 13 cases, and they reached the lower border of the thyroid
gland and pressed the left brachiocephalic vein in 10 cases. The position of the thymus in the thoracic
cavity showed various patterns;relatively flat shaped and largely spread in the anterior mediastinum,
widely extended to the posterior part and deeply invaded to the superior mediastinum. Large thymuses
reached to the hilum ir14cases.
3)The arteries to the thymuses were derived from the internal thoracic artery(13 cases), the
brachiocephalic artery(4 cases), the common carotid artery(3 cases), the ascending aorta(2 cases)and
the right superior thyroid artery(1 case). These arteries arised relatively high level and ran into lateral or
posterior part of the thymus.
4)The main veins occured from the back of each thymus and ended in the brachiocephalic vein(13
cases)and the superior vena cava(2 cases). The small veins frequently ended in the internal thoracic vein
and the inferior thyroid vein.
緒
対象および方法
言
対象は当教室に保存する男児9例,女児5例,
無脳児における胸腺は正常胎児に比較し,より
大で,またその重量も大であるとの報告は現在ま
計14例の無脳児である.体重は60gから3,580g,頭
でに数多くなされている1)∼13).しかし,それらの多
既払は10.5cmから39.Ocmに達する症例である
くは,摘出した胸腺の計測および組織学的検索に
(Tab亙e 1).
14例の無脳児に対し,7∼10倍の実体顕微鏡下
限られていた.
本研究は,無脳児の胸腺について,1)重量,2)
に開胸後,胸腺,甲状腺および肺を剖出し,さら
局所解剖学的検索(立体的な大きさ,周囲器官と
に胸腺への血管走行を観察した.胸腔内における
の関係.について)および,3)血管系の観察を試み
胸腺の拡がりと周囲器官との位置的関係を観察し
た結果,従来とは異なる知見が得られたので報告
た後,胸腺を摘出し,最大横径,縦径,厚径およ
する.
び重量を計測した.
45一
46
Table 3
Table l The cases of anencephaly in T.W.MC.
Case
sex
Body weight
@
M
M
1
2
3
4
5
6
7
60
10.5
660
16.5
F
1980
30.5
M
M
M
M
2320
3⑪.5
F
F
8
9
Crown−rump
撃?獅№狽?icm)
(9)
hypoplasia of upPer
?凾?│lid
1−BV, InTV, ITV
1−BV, ITV
8
ITA, BA
BV, SVC, InTV, ITV
9
ITA
1−BV, InTV, ITV
10
ITA, r−STA,1−CCA
1−BV, InTV
11
ITA,1−CCA
1−BV, InTV
12
1−BV, ITV
13
ITA
ITA
14
BA
3580
39.0
1690
28.0
2010
polydactyly
polydactyly
29.5
2250
cleft lip, polydactyly,
31.5
モ撃浮a@foot
T.W.M.C,:Tokyo Women’s Medical College
BA:Brachiocephalic Artery
CCA:Common Carotid Artery
ITA:Internal Thoracic Artery
the thymus of anencephaly.
Level
Highest Lowest Length
Width
imm)富
5
6
7
F
13
11
4
11
8
F
F
3
M
15
11
F
7
12
M
M
8
9
10
13
14
F
8
0
10
3
Thick
EneSS
2C
3C
4C
41C
STA:Superior Thyroid Artery
BV:Brachiocephalic Vein
Weight
Size(mm)
9
BV, InTV, ITV
SVC, InTV, ITV
Ao:Ascend三ng Aorta
Table 2 Metric values(Level, Size and Weight)in
M
M
M
M
1−BV, InTV
r−ITA, Ao
27.0
3
1−BV,
7
1890
4
ITA, Ao, r−CCA
29.0
M
M
3
BV, InTV, ITV
4
1930
12
2
ITA
ITA BA ,
31.5
5
1−BV
3
ITA
32.5
M
M
1−BV, InTV
6
2190
1
1−ITA, BA
r−ITA,
5
2000
Sex
1
2
31.5
F
No.
Vein
Artery
31.0
M
F
No
2430
11
14
Complication of other
?wternal anOmaly
2360
10
13
The vessels in the thymus of anence一
phaly
InTV:Inferior Thyroid Vein
/B.W.
ITV:Internal Thoracic Vein
i%。)
8
6
2
0.04
0.7
15
28
4
0.5
0.8
42
92
14
12.4
6.3
51
45
7
4.2
L8
47
42
20
10.4
4.4
4C
4C
5C
5C
2C
45
78
1‘
10.5
4.3
42
78
9
10.3
5.3
55
63
13
11.1
3.1
24
26
12
3.7
2.2
31C
46
42
20
14.5
6.6
5C
4C
52
72
14
ユ3.7
6.9
50
65
14
9.5
5.0
31C
31C
36
72
12
8.4
4.2
25
55
13
7.4
3.3
SVC:Superior Vena Cave
脈の下方へわずかに入り込み,.上縦隔における後
方への侵入は軽度である.細葉の境界は明らかで,
扁平な形態を呈している.肺は胸腺による圧排は
認められない.動脈は左内胸動脈胸腺枝が第一肋
骨上方で側方から,三頭動脈の枝(最下甲状腺動
脈と共通起始をもつ)が正中部上部後方から分布
している.静脈は胸腺の正中後方からの1条が左
腕頭静脈へ,なお,胸腺の上部後方から細小な静
皐upward distance from the丘rst costae
脈が下甲状腺静脈へ環流している(Photo 1, Fig.
C :Costal IC:Inter Costal
1a, Fig.2a, Fig.3a).
例2:男児,約6胎月,体重660g,頭弓長16.5cm
観察結果
14例の無脳児についての計測結果はTable 2,
の症例である.胸腺の上縁は第一肋骨より3mm
血管系の詳細はTable 3に示したが,以下は,おの
上方で甲状腺下縁に接し,その両端は甲状腺の下
おのの症例別の剖出所見についてのべる.
方に2.5mm侵入している.胸腺は気管,総頚動
例1:男児,体重60g,頭殿長10.5cmの症例で
脈,三頭静脈,上行大動脈および両心房の前面を
ある.胸腺の上縁は三葉がより高位で第一肋骨よ
被い,下縁は第三肋骨に達する.胸腺右葉は上縦
り5mm上方で,左上上端は甲状腺下縁に接して
隔後方へ拡大し,上大静脈に接している.右肺上
いる.胸腺は気管,腕頭静脈,右心耳前面を被い,
葉は胸腺に圧排され,後方に位置している.動脈
下縁は第二肋骨の高さに達する.右葉が右腕頭静
は右内胸動脈胸腺枝が第一肋骨の高さで側方から
一46一
47
分布する.静脈は胸腺の後方からの2条が左腕頭
の症例である.胸腺上縁は第一肋骨より4mm上
静脈へ還流している(Photo 2, Fig.1b, Fig.2b,
方で,甲状腺右葉の下縁に接している.胸腺は気
Fig.3b).
管・腕頭静脈および心臓前面の大部分を被い,下
縁は左葉がより低位で第四肋骨の高さで横隔膜に
例3:女児,10七月,体重1,980g,頭殿長30.5cm
の症例である.胸腺の上縁は第一肋骨より13mm
接している.胸腺二葉は心臓左側面を被いながら
上方で,甲状腺下縁に接している.胸腺は気管,
後方へ深く侵入している.動脈は内胸動脈胸腺枝
左総頚動脈・腕頭静脈,上行大動脈および心臓上
が第一肋間の高さで側方および後方から分布して
部の前面を被い,下方では二葉は分離するが,そ
いる.右胸腺枝は先端が三叉にに分れている.静
の下縁は二葉ともに第四肋骨の高さである.分離
脈は胸腺の正中後方からの1条が左腕頭静脈へ還
した二葉は心臓側面から後方へむかい,深く後縦
流し,その他,胸腺の上後方から細小静脈が下甲
隔にまでおよび,とくに三葉は右肺門部まで達し
状腺静脈へ還流している(Photo 5, Fig.1e, Fig.
ている.二品上葉は胸腺に圧排され後方に位置し
2e, Fig.3e).
ている.甲状腺の左葉は胸腺の左上縁に圧排され
例6:男児,10二月,体重2,430g,三殿長31.5cm
三葉に比較して小さく,さらに甲状舌管の遺残が
の症例である.胸腺の上縁は第一肋骨より11mm
認められる.動脈は内胸動脈胸腺枝が第一肋骨の
上方で甲状腺下縁に接している.胸腺は気管・総
高さで側方から分布している.静脈は胸腺後方か
頚動脈・腕頭静脈,上行大動脈および心臓上部の
らおこる2条が,それぞれ左腕頭静脈と左右腕頭
前面を被い,下縁は二葉がより低位で第四肋骨の
静脈の合流部へ還流している.その他,細い静脈
高さに達する.下方へ向うにしたがい両葉は分離
が胸腺上部後方から下甲状腺静脈へ,また胸腺下
し心臓側面を囲み,とくに右葉は後方に深く侵入
部後方から内胸静脈へ注いでいる(Photo 3, Fig.
し,二二二部まで達する.右肺上葉は胸腺の後方
に位置している.動脈は内山動脈胸腺枝が右側は
1c, Fig.3c, Fig.3c).
第一肋骨の高さで側方から,左側は二コ口分れ第
例4:男児,10三月,体重2,320g,頭気長30.5cm
の症例である.左上眼瞼低形成が認められる.胸
一肋間の高さで前方から分布している.さらに乱
郭は前後径が横径に比較し大である.胸腺上縁は
頭動脈の枝が右内胸動脈胸腺枝に沿って分布す
第一肋骨より111nm上方で甲状腺下縁に接し,下
る.静脈は1条が胸腺正中後方からおこり左腕頭
方においては気管および左腕頭静脈の前面を被
静脈へ,その上方から細小静脈が下甲状腺静脈へ
い,心臓前面に沿い縦長に下行し,胸腺下縁は第
還流している.また内胸動脈胸腺枝に伴行ずる細
四肋間の高さに達する.胸腺は上行大動脈,心臓
小静脈もみられる(Photo 6, Fig.1f, Fig.2f, Fig.
前面を半周状に拡がり,さらに上大静脈をも被う.
3f).
肺は胸腔後方に偏位している.本証の胸腺は小で
例7:男児,10回目,体重1,930g,頭上長29.Ocm
あるにもかかわらず,その分布動脈は豊富に認め
の症例である.胸腺の上縁は第一肋骨より8mm
られる.右内胸動脈胸腺枝は第一肋間の高さで胸
上方で,甲状腺下縁に接している.胸腺は気管・
腺の右側方から入り,なお左心膜横隔膜動脈の胸
総頚動脈,腕頭静脈,上行大動脈および心臓上部
腺枝が第一肋間の高さで左側方から分布してい
の前面を被いながら,下方へ向うにしたがい二葉
る.上行大動脈の枝が第一肋骨の高さで胸腺後方
は分離する.その下縁は三葉がより低位で第五肋
から,さらに右総頚動脈の枝(最下甲状腺動脈と
骨の高さに位する.二葉は心臓右側面を被いなが
共通起始をもつ)が上部後方から胸腺へ分布して
ら上大静脈に接し,二葉は肺動脈の側面を被いな
いる.静脈は胸腺後方からの4条が左腕頭静脈へ
がら左肺門部まで達している.右肺上葉は強く圧
還流している(Phot 4, Fig.1d, Fig.2d, Fig.3
排されて後方に,なお左肺も後方に位置している。
d).
動脈は右内胸動脈胸腺枝が第一肋骨の高さで胸腺
例5:男児,10胎月,体重2,360g,三殿長31.Ocm
の右側方から,上行大動脈の枝が第一肋間の高さ
一47一
48
り15mm上方で,甲状腺下縁に接している.胸腺
で正中後方から分布している.静脈は胸腺後方か
らの1条が左腕腕頭静脈へ,下後方から細小静脈
は気管・総:頚動脈・腕頭静脈および心臓三半の前
が内胸静脈へ還流している(Photo 7, Fig.1g,
面を被い,下縁は第三肋間の高さで横隔膜に接し
Fig.2g, Fig。3g).
ている.写真(Photo 10)で胸腔の前方に認めら
例8:女児,10乙舳,体重3,580g,頭二三39.O
れるのは主に二葉である.胸腺右葉は縦隔の後方
cm,右側第四肋骨と第五肋骨の融合が認められる
へ深く入り込み,右肺門部まで達し,さらに頚部
症例である.胸腺の上縁は第一肋骨より3mm上
においては右腕頭静脈の上部に深く侵入している
方で甲状腺との間には広い間隙を有している.胸
(Photo 15).胸腺と心臓とが胸腔内の前部大半を
腺は三頭静脈,上行大動脈および心臓右二部の前
占めるため,肺は胸腔前面からは全く認められな
面を被い,下縁は二葉がより低位で,第五肋骨の
い.動脈は内胸動脈胸腺枝が第一肋骨の高さで胸
高さで横隔膜直上に達している.胸腺右葉の大部
腺の側方から,右上甲状腺動脈の枝が上方から分
分は縦隔後方へ入り込み,心臓右側面から上大静
布している(Photo 16).さらに二丁頚動脈の枝は
脈を被っている.右肺上葉は後方へ圧排されてい
1,5cm下行した後,胸腺後方から分布している.
る.動脈は2本の左内胸動脈胸腺枝が第一肋間の
静脈は胸腺の後方から3条おこり左腕頭静脈へ注
高さで胸腺の前方から,右心膜横隔膜動脈の枝が
ぎ,細小静脈が上後方から下甲状腺静脈へ還流し
第一肋骨の高さで側方から,さらに腕頭動脈の枝
ている(Photo 10, Fig.1j, Fig.2j, Fig.3j).
が上方から分布している.静脈は胸腺後方から2
例11:女児,10二月,体重2,000g,高殿長31.5
条が左腕頭静脈へ,その雲外側面から1条が上大
cm,頚部の剖出過程で,胸骨甲状筋の表面に斜走
静脈へ還流している.さらに細小静脈が左内胸動
する異常息筋束が認められる症例である.なお,
脈に伴行して上弓静脈へ,下後方からも内胸静脈
胸腺重量の体重比が14例中最大(6.9%・)の例であ
へ還流している(Photo 8, Fig.1h, Fig.2h, Fig.
る.胸腺の上縁は第一肋骨より7mm上方で甲状
3h).
腺下縁に接し,さらに右葉上端は甲状腺の下部へ
例9:女児,10忌月,体重1,690g,二二長28.Ocm
侵入している.胸腺は気管,総頚動脈・腕頭静脈・
で,小さい胸腺の症例である.胸腺の上縁は第一
上行大動脈および心臓前面の大部分を被い,下縁
肋骨より8mm上方で,甲状腺との間には広い間
は二葉が,より低位で第五肋骨の高さに達する.
隙が認められている.胸腺は気管下部。総頚動脈
胸腺表面には肋骨による数本の圧痕が認められ
起始部,腕頭静脈および上行大動脈の前面を被い,
る.胸腺右葉は心臓右側面を被いながら後方へ深
下縁は第二肋骨の高さに位する.肉眼的にはその
く入り込み,上大静脈側面にまで達する.右肺上
外記がハート型を呈し,右葉と二葉の境界は明瞭
葉と左回とは後方へ圧排されている.甲状腺には
ではない.肺には圧排は認められない.動脈は内
甲状舌管の遺残が認められる.動脈は内胸動脈胸
乱動脈胸腺枝が,右側は第一肋骨の高さで分枝し
腺枝が長い走行の後に胸腺へ分布している.右胸
内下方へ走った後胸腺下後方から入り,左側は第
一肋骨の高さで側方から分布している.静脈は胸
腺枝は1枝は第一肋間の高さで胸腺の右前方か
ら,他の1枝は上内方へ長く走行して分岐し正中
腺の正中部後方からおこる1条が左腕頭静脈へ,
後:方に分布する.左胸二二は1枝は第一肋骨の高
細小静脈が上後方から下甲状腺静脈へ,また左側
さで前方から,他の1枝は二曲を描いて下方へ走
方から内胸静脈へ還流している(Photo 9, Fig.1
行した後,第三肋骨の高さで前方から分布してい
i,Fig.2i, Fig.3i).
る.左記頚動脈の枝は上後方から入る.静脈は胸
例10:男児,10二月,体重2,190g,頭殿長32.5
腺の後方からの2条が左腕頭静脈へ,細小静脈が
cm,二二症が認められる症例である.なお,胸腺
上後方から下甲状腺静脈へ還流している(Photo
重:量の体重比(T.W./B.W.値%・)が14例中2番目
11,Fig.1k, Fig.2k, Fig.3k).
に大であった例である.胸腺の上縁は第一肋骨よ
例12:男児,10丁目,体重1,890g,頭弓長27.0
一48一
49
cm,多指症が認められる症例である.胸腺被膜内
腺下後方から内胸静脈へ,また上後方から下甲状
に出血がある.胸腺上縁は第一肋骨の高さで,甲
腺静脈へ還流している(Photo 14, Photo 17, Fig.
状腺との間には狭い間隙を有する.胸腺は腕頭静
1n, Fig.2n, Fig,3n).
考
脈を上下から深くはさみ込み,上行大動脈および
察
1.無料児の発生頻度(Table 4)
心臓前面上部と乱丁部を被い,下縁は第四肋骨の
高さで横隔膜に接する.胸腺右葉は上縦隔後方へ
重症の中枢神経系奇形である無脳児の発生頻度
侵入し,上大静脈を被っている.右肺上葉および
に関する報告は数多くなされている14)帽26).それら
左心は後方に位置している.動脈は内義動脈胸腺
の発生頻度は人種によって異なり,アイルラン
枝が,右側は第一肋間の高さで前方から,左側は
ド・アラビア半島およびニュージランドなどに多
外下方へ走行の後,第二肋間の高さで前方から分
く,東洋には少ないといわれている27)∼29>.諸外国
布している.静脈は胸腺上後方から2条が左腕頭
においては,出生1,000に対し北インド4.8
静脈へ,また細小静脈が下後方から内胸静脈へ還
(Verma 1978)19),トルコ1.99(Buckley 1979)20),
アイルランド1.81(Elwood 1982)21>の高い発生率
流している(Photo 12, Fig.11, Fig.21, Fig.31).
例13:男児,10詠口,体重2,010g,湯殿長29.5cm
が報告されている.一方,U.S.A O.46(Ravin,
の症例である.胸腺の上縁は第一肋骨より10mm
1983)24),オランダ0.4(Ramijn 1980)25)などのご
上方で,右葉上縁は甲状腺下縁に接している.胸
とき低い頻度の発生率の報告もみられる.本邦に
腺は気管,総頚動脈起始部・腕頭静脈,上行大動
おいては今泉の0.47(1969∼78)22)があり,諸外国
脈および心臓前面の上部を被い,㌔下縁は第三肋間
に比して低い頻度の発生率を示している.
男女比は諸外国では,0.325(ハンガリー,
の高さに達している.一葉は大動脈起始部におい
て後方へ侵入し,上大静脈前面に接している.肺
1963∼67)14),0,7∼1.0(オランダ,1980)25)とさま
は圧排されていない.甲状腺には甲状舌管の遺残
ざまだが,いずれも女児が多いとの報告がなされ
が認められる.動脈は内証動脈胸腺枝が第一肋間
ている。本邦の今泉によれぽ0.88∼1.22
の高さで側方から分布している.静脈は胸腺後方
(1969∼71)18)であり,男女比は,ほぼ同率であると
からの3条が左腕頭静脈へ,またその右外側から
述べている.
II.無冠児における胸腺
1条の静脈が右腕頭静脈へ還流している.細小静
無記児における胸腺は正常胎児に比較し,重量
脈が胸腺上後方から下甲状腺静脈へ,また左後方
が大であるという三谷(1936)1),Ch■in(1938)2),
から内胸静脈へ還流している(Photo 13, Fig. l
m,Fig.2m, Fig.3m).
例14:女児,10胎,月,体重2,250g,頭出品31.5
Table 4
1ncidence of anencephaly
cm,兎唇,外出低形成,多指話症,内反足および
Author
左上大静脈遺残が認められる症例である.胸腺の
上縁は第一肋骨より3mm上方で,甲状腺下縁と
へ
の間には間隙を有している.胸腺は腕頭動脈,上
大静脈,上行大動脈および心臓前面の上部を被い,
Nation
Year
Frequency per
@1000births
Imaizumi
Japan
1969−78
0.47
Elwood
Ireland
1982
1.81
〃
Scotland
〃
0.67
〃
England, Wales
〃
0.82
Sex ratio
iM/F)
0.88−1.22
Romijin
Netherland
1980
Czeize1
1963−67
1ユ0
0,325
Elwood
Hungary
Canada
1965−69
0.97
0.48
心臓側面を被いながら後方へ侵入し,上大静脈に
(Minesota)
U.S.A,
1967−73
0.46
Danks
Australia
1981
0.58
接している.左肺は圧排され後方に位置している.
Buckley
Turkey
1974−76
1.99
0.9
Naggan
Awadi
Damyanov
Verma
Israe1
1971
0.86
0.79
Kuwait
1983
1.33
Shiraz, Iran
1966−70
下縁は高話がより低位で第三肋間の高さに達して
いる.胸腺両葉は下方へ向うにしたがって離れ,
動脈は山頭動脈の2本の枝が胸腺後方へ分布して
いる,静脈は胸腺正中部後方からおこる3条が合
流して,上大静脈へ還流している.細小静脈が胸
一49一
North India
0.4
1.6
4.8
0.7−1.0
0.77
50
対する相対値(TW./BW.)をもって比較した.
Table 5 The weight in the thymus of norlnal
Japanese 10 month fetuses and newbom infants
Author
Case
TW(9)
mlnl rnax
TW(9)
average
平均値として,工数が多く平均値の幅の広い国友
ら(1928)33)の値(2.82∼4.46%。)を参考とした.
TW/BW
(%。)
①胸腺の重量の詳細:平均値より大なもの5
10month fetuses
Kunitomo
rasaura
39
例,平均値以内のもの5例,平均値より小なもの
7.14−14.42
@(11.26)
9
6.31−14.85
10,226
3.75
5
6.5−11.7
9.10±3,60
2.89
@ (1928)
が,最大値は6,9%。であり,著明に大ではなかった.
Tobari
@ (1938)
Iwabuchi
@ (1952)
Urano
2例であった.12例中10例が平均値以上であった
2.82−4.46
4.2−20.0
M33
e26
@ (1958)
Kawamoto
5
@ (1958)
諸家の報告の中には,21.8%。(土山)3),14.2%。(中
山)6),12.6%。(橋本)8)など,きわめて大きいもの
がある.
9.06−11.35
V.49−10.48
10,203
W,935
6.50−12.80
②性差:男児7例の胸腺重量の体重比(T.W./
B.W)平均は4.4%。,女児5例では4.5%。で,性差
3.43
は認められな:かった.
newborn infants
Aimi
M67
@(1952)
Shoji
@(1973)
17
③体重との相関:体重の重いものが,胸腺重量
18.68±0.97
P8.92±0.80
e71
7.0−42.0
の体重比(T.W/B.W)がより大である傾向は,み
られなかった(Fig.4).
18.3
2)胸腺の拡がりと周囲器官との位置的関係
無脳児の胸腺は一般に大であるという報告がな
土山(1956)3),林(1960)4),井口(1961)5),中山
されているにもかかわらず,その位置および拡が
(1968)6),宮原(1971)7),橋本(1972)8),Potter
りについて検討した報告は見当らない.
(1975)9),浅本(1976)10),加藤(1978)11),上田
日本人正常胎児について,胸腺の上縁と下縁と
(1979)12),林,岡本(1984)13)らの多くの報告があ
の位置についての報告は照井(1931)40),深田
る.一方,著しい変化がないと報告したのは石橋
(1947,48)4D,高橋(1954)42)および河本(1958)38)
(1962)30)で,Kiyono(1925)31)はやや低重量である
らによってなされている.しかし,本研究による
と述べている.
胸腺が上縦隔において後方へ侵入するという三次
1)胸腺の重量
元的拡がりを報告した例はなく,興味深い所見と
胸腺の形態に関しては,飢餓状態・感染状態・
考える.
①胸腺の上縁:14例中13例が第一肋骨より上
副腎皮質ステロイド投与・放射線照射その他の影
方にあり,その中10例が甲状腺下縁に接し,さら
響によりその大ぎさが容易に変化するといわれ,
形態学的概念をつかむのが困難な器官と考えられ
に2例は上端が甲状腺の下部へ侵入していた.胎
ている32)∼43).
齢の小さい2例も10二月と同様に高い位置にあっ
本研究において,無活現の胸腺の重量を検討す
た.
正常胎児胸腺の上縁に関する報告は照井40>,深
るにあたり,正常日本人胎児(10長月)および新
生児の重量に関する報告33)∼39)を参考とした
田41)および河本ら38)によりなされているが,二二
(Table 5).胸腺重:量の平均値は,10胎月では10g
にもよるが,本研究での甲状腺下縁に接するもの
前後とするものが多いが,新生児では18g前後と
が14例中10例という結=果は,相対的に高い位置の
約2倍も大であることや,いずれの報告でも最小
ものが多いと考えられる.
②胸腺の下縁:第二肋骨の高さ2例,第三肋骨
値と最大値の巾は大きいことがわかる.10逸出の
無白白は14例の中,12例であったが,これらの多
の高さ1例,第三肋間の高さ3例,第四肋骨の高
くは体重が軽く,なお長期間の固定標本であるこ
さ4例,第四肋間の高さ1例,第5肋骨の高さ3
とを考慮し,胸腺重量(T.W.)ではなく,体重に
例であった.また横隔膜に接しているものは3例
一50一
51
T.W/B.W(%o)
8,0
7.0
6.0
5.0
\\\ト\ご\\\ト1\w>::\\\\論。瀬\\\\\\\\\\\φ\\\\\\\、\\
\
\
\
\
\
\
\
\
\
\
\
\
\
\
\
\
\\
\
3.0
\\
●
2.0
\
\
●\
\
\
\
\
\\
4.0
\
\
■
1..0
O
1600
2000
2500
3500
B.W,
(9)
Fig.4Relationship between the B.W.(g)and the TW./B.W.(%。)
Pleur
であった.胸腺の下縁についての報告は正常胎児
例において,照井40)は心膜中央部より下1/3とし,
Sternum
R
L
深田4nは平均第二∼四肋骨としている.また,河
Thymus
本38)は平均第四肋間と報告しているが,それらと
Asce ?X妾モ…9
比較し,とくに大差はなかったように思われる.
SVC
③胸腺の胸腔内深部への侵入:胸腺は主とし
Trachea
ESQphagus
て上縦隔および前縦隔に位置している.上縦隔に
おいては,14例中12例が大血管基部の前面から側
Desce駐9舗
面をとり囲みながら後方へ深く侵入していた.後
Lung
方への侵入は下葉が深いものが多かった.胸腺全
4th thoracic vertebrae
体が右へ偏位し,右葉のみが後方へ侵入している
Fig.5 Special invasion pattern of the thymus in
もの3例(例8・10・12),右葉がより深いもの4
our cases.(Horizontal section at the level Qf the
例(例2・3・6・11),両葉が同程度に侵入して
4th thoracic vertebrae)
いるもの3例(例4・13・14),左回がより深いも
の2例(例5・7)であった.その深さの程度は,
12),第三型:若葉と左葉とはほとんど離れず前縦
上大静脈を被っているもの5例,肺門に達してい
隔に顕著に拡がり,心臓前面をほとんど被う形態
るもの4例である(Fig.5の第4胸椎の高さの断
2例(例5・11)である.
面仮構図を参照).
無脳児は,胸郭における頭殿径の短小(Potter9),
前縦隔における胸腺の拡がりは,およそつぎの
Warkany27)・Nanagas44)・Dziallas45))と肺の低形
三型に大別される.第一型:胸腺の右葉と三葉と
成(林13)・町田46))などの特性を有するものが多い.
が離れて心臓の側面を被う形態4例(例3・6・
無脳児における比較一大なる胸腺が胸腔内へ多様
7・14),第二型:右回と三葉は離れず心臓の右前
性に拡がりを示すという詳細な局所解剖学的所見
半部から右側面にかけて被う形態3例(例8・10・
の結果は,胎児診断・治療に際し,胸部単純X線
一51一
52
撮影・断層X線撮影・気縦隔造影法およびCTス
とは,胸腺の発生段階(第3咽頭嚢由来48))の高さ
キゼンなどのための,一つの基礎データーになる
を知る上での指標になると考えられる.
④甲状腺動脈との関連:全症例を通じ,上甲状
ものと考えられる.
腺動脈からの分枝が1例であり,最下甲状腺動脈
④肺所見:胸腺の拡がりに応じて,肺にしぼし
ぽ圧排がみられる.なお,多くの胸腺は右後方に
と共通起始をもつもの2例が認められるのみであ
入り込んでいるため,右肺上葉が後方に位置する
る.しぼしば記載されている下甲状腺動脈からの
ものが多く認められている.
分枝49)50)は本例では認められなかった.
⑤甲状腺所見:胸腺に圧排される形で三葉が
⑤腕頭静脈への還流静脈:主静脈と思われる
小さいもの1例(例3)と,中央が結節状を呈し
ものは,胸腺後方からおこり腕頭静脈へ還流する
ているもの1例(例9)を除き,甲状腺の発達は
静脈で,つねに最も太く1∼二条認められる.他
に内胸静脈および下甲状腺静脈へ注ぐ静脈がみら
おおむね良好であった.
れたが,これらのほとんどは細小静脈である.
3)胸腺の血管系について
結
無脳児胸腺の供給動脈および還流静脈について
語
無二児の胸腺について,男児9例,女児5例,
の詳細な肉眼解剖所見は,本研究を除き未だ報告
計14例の1)重量,2)局所解剖学的検索(立体的
をみない.本研究における無脳児の胸腺の重量が
とくに大であったことおよびしぼしぼ大血管奇形
な大きさ,周囲器官との関係について)および3)
を合併すること(宮原12.67)%,林ら12)5.6%)など
血管系の観察を試み,つぎのような結果が得られ
から,血管系の異常を想定しての剖出を試みたが,
た.
1)固定後の胸腺の重量は0。04gから14.5gで
正常胎児例(山田47))と比較しとくに変化を示す動
あり,胸腺重量の体重比は0.7%・から6.9%。である.
脈はみられなかった.
14例中10例が平均以上の重量であり,性差はとく
①胸腺への動脈の内訳:動脈は,内胸動脈胸腺
に認められなかった
枝13例,腕頭動脈の分枝のみ1例が認められる.
2)胸腺の位置は,とくにその上縁が比較的高位
なお,内胸動脈胸腺枝に加えて,腕頭動脈3例,
上行大動脈2例,総頚動脈3例(右側1例,左側
2例)および右上甲状腺動脈1例の分枝が認めら
にあったのが印象的で,第一肋骨より上方に位す
れている.
縁に接し,左腕頭静脈を圧排している.
るものが14例中13例で,そのうち10例は甲状腺下
胸腔内における胸腺の位置は局所解剖学的検索
②胸腺への動脈数とその分布部位:1動脈か
ら分枝を受けるもの7例,2動脈から分枝を受け
の結果,多様性を示し,扁平に前縦隔に拡がる型,
るもの5例,3動脈から分枝を受けるもの2例で
後方へ広く拡がる型および上縦隔をその大半が占
あった.胸腺の重量と動脈数との間にはとくに相
める型に区別することができた.とくに大きな胸
関は認められていない.それぞれの動脈は異なる
腺が肺門部に達するという特徴的所見が4例にお
部位で胸腺実質内へ入り,とくに門とみなされる
いて認められた.
3)胸腺の供給動脈は,内胸動脈胸腺枝13例,腕
部位はなかった.
③内山動脈胸腺枝とその分布位置:主な動脈
頭動脈の分枝4例,総頚動脈の分枝3例,上行大
は内胸動脈胸腺枝で14山中13例に認められ,両側
動脈の分枝2例および上甲状腺動脈の分枝1例が
性10例,片側性3例(右側2例,左側1例)であ
観察された,これらの動脈は,頚部から第二肋骨
る.これらのほとんどは,第一肋骨付近の高さで
の高さまでの比較的高位で分岐し,胸腺へは主に
内胸動脈から分岐し,短い走行ののち主に側方か
側方,時に後方から分布している.
ら胸腺実質へ分布している.前縦隔に大きく拡が
4)胸腺の還流静脈は,胸腺後方からおこり田頭
り下縁が第四肋骨以下の低位置の胸腺において
静脈へ注ぐもの13例と,2例は上大静脈へ注いで
いた.なお,しぼしぼ下甲状静脈および内胸静脈
も,動脈供給のすべてが高い部位から分布するこ
一52一
53
へ還流する細小静脈もみられる.
Israe1. Pediatrics 47577∼586 (1971)
17)Elwood,」.M.:Anencephlus in Canada,1943
∼70.Am J Epidemio1100(4)288∼296(1974)
稿を終えるにあたり,御校閲頂きました串田つゆ香
18)Imaizymi, Y.: Statistical analysis on anence−
教授,御指導頂きました関口幸子講師に深甚なる謝意
phaly, spina bi且da, and congenital hydroce・
を表します.
phaly in Japan Jap J Human Genet 19115∼135
(1974)
本論文の要旨は,日本解剖学会第69回関東地方会
(昭和59年10月28日),第25回日本先天異常学会総会
(昭和60年7月11−13日)においつ発表した.
文
defects in North India, Lancet(8069)879∼880
(1978)
献
20)Buckley, M.R.:The epidemiology of anen,
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一53一
54
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一54一
55
戸塚論文附図〔1〕
灘論調
5灘 @ 魂.
麟
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,繁・
Photo 2 Thymus of case 2
Photo l Thymus of case 1
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Photo 4 Thymus of case 4
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一55一
・}嚢
灘、.
56
塚論文附図〔II〕
駆総
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一56一
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57
塚論文附図〔III〕
難論ごで溢難燃・・
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case 10
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一57一
58
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Fig. 2 (a--n) Arteries in the thymus of case 1-14
Fig. 3 (a-n) Veins in the thymus of case 1-14
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