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グローバルビジネスパーソンのための株式市場塾

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グローバルビジネスパーソンのための株式市場塾
グローバルビジネスパーソンのための株式市場塾
マーケット・インテリジェンスという考え方
-第2回「マーケットの英知を経営に取り込む」-
2014年7月17日
インサイトフィナンシャル株式会社
代表取締役 手島直樹
1
前回のテーマ
株式市場に関する私の見解
株式市場の理論
株式市場の特性
2
株式市場に関する私の見解
前回資料より
私の見解
株式市場は効率的であり、株価は大体正しい(毎日100%正しいとは言えないが、わざわざ異を唱えるほどの誤りで
もない)ため、株価から学べることは多い。
理論
・効率的市場仮説:情報が新たに公表されれば、素早く株価に織り込まれる
・行動ファイナンス:人間は合理的とは限らず、欲や不安により誤った判断をするため、ミスプライシングが生じえる
現実
・ 株価が割安だと公言する経営者が数知れない(無知を晒しているだけ)
・インデックスを持続的に上回るアクティブマネージャーはいない(インデックス投資の優位性)
・短期投資家が増えたため、マーケットも短期的になり、株価は短期的業績で決まると考える経営者が多い
・その結果、信じがたいことだが、日本でも短期的な経営を行う経営者が増えている
・決算数値に対する意識が過度に高くなっている印象がある
・規模の拡大を目的としたM&Aが多くなっているが、株価が下がることも多い
あるべきアプローチ
・株価は正しいという前提に立ち、変動があった場合にその原因を社内で検討する(誰も正解はわからない)
・株価は将来の期待キャッシュフローの現在価値であるため、長期的な視野で経営を行う
・短期的には株価は会社の実力よりも、期待と実績の差で変動するため、過度に気にする必要はない
・1年から3年間の株価パフォーマンスは、その4割がマクロ経済(最近ではGPIFなど)や業界動向に左右されると言
われており、過度に気にする必要はない
・長期的にはキャッシュフローの改善と株価パフォーマンスは比例するので、経営者は株価よりも、業績の改善に
注力すべきである
・内部者であっても株価の計算は困難であるため、想定株価が市場価格のプラスマイナス15%程度のレンジにあれ
ば(大体このレンジに収まっているケースがほとんど)、割安だの割高だの騒ぐ必要はない
3
株式市場の特性
1.株式市場は情報を素早く株価に織り込む
2.株式市場は長期的である
3.株価は大体正しい
4.株価は短期的にはサプライズで決まる
4
本日のテーマ
株式市場に関する誤解
マーケット・インテリジェンスとは何か
人と組織
マーケット・インテリジェンス実践
5
誤解:インデックスに組み込まれると株価が上がる
6
JPX日経インデックス400
JPX日経400連動投信、資産額1000億円超に 資本効率に関心高く
1月に算出を始めた新しい株価指数「JPX日経インデックス400」と同じ値動きを目指す投資信託が
人気を集めている。投信評価会社イボットソン・アソシエイツ・ジャパンによると、5月末で新指数に
連動した22本の投信の運用資産は1010億円に達した。
新指数は、日本経済新聞社や日本取引所グループなどが共同で開発した。資本を効率的に使っ
て利益を稼いでいるかを示す指標である自己資本利益率(ROE)の高さなどで選んだ400社で構成
する。連動する投信は、指数構成銘柄に投資し値動きが一致するように運用する。こうした投信の
運用資産の増加は、個人の間で資本効率の高い企業に投資したいという要望が強まっているのを
示す。
新指数の年初からの動きは、日経平均株価に比べ底堅い。海外投資家を中心にROEが高い銘
柄を買う傾向が目立っている。4月には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、国内株の
運用成績の指標にこの指数を採り入れた。金属加工機械大手アマダが配当などで利益をすべて株
主に配分すると決めたように、上場企業にも資本効率への意識は広がっている。
新指数に連動する投信の運用資産は他の主要株価指数に比べまだ少ないが、指数の普及が進
めば一段と増えそうだ。
日本経済新聞2014年6月2日
7
JPX日経インデックス400の選定基準
定量的要素のみならず、定性的要素も考慮している点が画期的です。
■定量的な指標によるスコアリング
各3項目のウェイトを加味した合計点によって総合スコア付けを行う
・3年平均ROE:40%
・3年累積営業利益:40%
・選定基準日時点における時価総額:20%
■定性的な要素による加点
上記のスコア付けの後、以下の3項目を勘案してスコアの加点を行う。
・独立した社外取締役の選任(2人以上)
・IFRS採用(ピュアIFRSを想定)または採用を決定。
・決算情報英文資料のTDnet(英文資料配信サービス)を通じた開示
出所:東証HPのデータを利用
8
株価インパクト:期間限定のインパクト
インデックス投資家の売買により、採用されれば株価は上がり、除外されれば株価は下がります
が、所詮需給の問題に過ぎずインパクトは一時的です。
インデックス除外
インデックス採用
超
過
リ
タ
ー
ン
上昇
超
過
リ
タ
ー
ン
下落
下落
-20
0
45
日数
-20
上昇
0
45
日数
マッキンゼーの調査によれば、採用(除外)の20日前から株価は上昇(下落)し始め、
採用(除外)の45日後には、上昇(下落)の影響は消滅していました。結局は、バリュー
ドライバーをどれだけ改善できるかが勝負のカギとなります。
9
誤解:ROEが高いと株価が上がる
10
ROEとPERの関係:弱い
ROEとPERの関係は以下のチャートを見る限り低くなっています。現在の水準のROEは株価に織り
込まれてしまうため、ROEに関してもサプライズが株価に影響すると思われます。
マーケット反射鏡:株主重視なら株価は「タテ」に動く
日本経済新聞2014年6月19日
11
ROE増加幅とPERの関係:相関関係がある程度存在する
ROE増加幅が高まると、PERも上昇する傾向が見られます。要するに、ROEを上昇させることがポ
イントということになります。
(予想PER)
(ROE増加幅)
出所:日経ヴェリタス6/22~28のデータを利用し回帰分析を実施。
データ数は29。30社中1社のデータを異常値として除外。
12
ROEの分解
日本企業の財務レバレッジは十分に高く、利益率の低さがROEが低い原因となってます。まずは
利益率を高めることを優先すべきです。
日米ROE比較
出所:生命保険協会調査
みさき投資株式会社による日米欧の製造業、非製造業別のROE比較でも同様
の結果となっています(伊藤レポート)。
13
誤解:規模が大きいと時価総額も大きい
14
企業規模が大きいほど時価総額は大きい
時価総額は当期純利益や簿価ではなく、キャッシュフローの持続的な収益力で決定されます。収
益力の低い事業の売却で企業規模は縮小しますが、企業価値が高まることが一般的です。
事業売却前
収益性
(ROICなど)
ハードル値
事業A 事業B
事業C
事業D
事業E
事業F
事業G
事業H
事業売却後
収益性
(ROICなど)
ハードル値
事業C
事業D
事業E
事業F
事業G
事業H
15
LIXILの戦略
矢継ぎ早のグローバルM&Aで暴走気味の感もあるLIXILですが、藤森社長はジャック・ウェルチ
流の経営を目指しているようです。
「非中核事業の場合は、売上高営業利益率が10%なけれ
ば徐々に売却する。中核事業でも同様に8%に達していな
ければ、他社との提携を検討する」
(日経ヴェリタス6/8~14)
企業が保有する資産や事業の中には、リターンが不十分なもの、他社の方がうまく管理
できるもの(高値で売却可能)もあるため、定期的なチェックが必要です。
16
味の素によるカルピス売却
味の素は調味料分野への「選択と集中」によりカルピス社を2012年5月にアサヒグループホール
ディングスに売却しました。
カルピス社
・売上高:1074億円
・営業利益:56億円
・当期純利益:36億円
・ROE:6%←味の素が目標とするROE8%を大きく下回る
味の素
・シナジー効果が限定的との判断
・売却と同時に500億円を上限とする自社株買いを発表し、株価は7.4%上昇
アサヒグループホールディングス
・飲料企業としてカルピスの所有者としては適切
・高値づかみで株価は4.6%下落
資産効率性を意識している姿勢が投資家に伝わるため、味の素は投資家としては安心して
投資できる会社であると言えます。
17
味の素:株価パフォーマンス(5年)
TOPIXを大幅にアウトパフォームしています。
18
日立製作所:当期純利益
FY08に記録的な最終赤字を記録してから、事業ポートフォリオの再構築に着手し始めました。
(百万円)
19
日立製作所:売上と資産規模
FY07から売上と総資産は減少傾向となっています。
(百万円)
20
日立製作所:事業ポートフォリオの再構築
■FY07
GEと原子力事業を統合
■FY09
上場子会社5社を完全子会社化
■FY11
HDD子会社を米社に売却
■FY12
東芝、ソニーと中小型液晶パネル事業を統合
■FY13
三菱重工業と火力発電事業を統合
味の素のように業績が良い時に事業ポートフォリオの再構築を行えれば理想的です(パナソ
ニックも日立と同じで業績悪化が事業ポートフォリオ再構築のきっかけ)。
21
日立製作所:株価パフォーマンス(5年)
企業規模は縮小しましたが、TOPIXを大幅にアウトパフォームしています。
22
誤解:業績が良ければ株価は上がる
23
期待という重荷
期待が低いとポジティブ・サプライズも容易ですが、期待が高くなるとそうはいきません。よって、良
い会社ほど株価を上がるのは大変なのです(良い会社は良い投資対象とは限らない)。
期待のマトリクス
競合他社対比の期待短期成長率
高
Sprinters
World champions
簡単
Out-of-shape
runners
Marathon runners
低
低
競合他社対比の期待長期成長率
高
24
日産自動車:株価パフォーマンス比較
日産は、1999年のルノーとのアライアンス以降業績を急回復させ、株価が急上昇しましたが、その
後株価パフォーマンスは低迷しました。
【株価パフォーマンスの推移】
25
日産自動車:営業利益率の比較
競合他社と比較して大きく劣っていることはありませんでしたが、営業利益率の下落による利益成
長の鈍化がネガティブサプライズとなり、株価パフォーマンスの低迷につながりました。
前述のカプコンも日産と同様な理由で株価パフォーマンスが悪化していると考えられます。
26
誤解:利益成長は株価上昇につながる
27
EPS成長を目標とする企業が増えている
「1株利益」経営目標に 株主重視の動き広がる
上場企業、自社株買い活用も
上場企業の間で1株当たり利益(EPS)を中期的な経営目標に掲げる動きが広がっている。オムロ
ンは2017年3月期に1株利益を14年3月期に比べ4割増、ナブテスコは同6割増やす計画。1株利
益の増加は株高や増配につながりやすく、株主重視の姿勢として市場関係者が注目している。自社
株買いを通じて発行済み株式数を減らし1株利益を増やす動きも目標設定を促している。
(以下略)
日本経済新聞2014年6月18日
28
PL実績と企業価値創造の関係は弱い
利益増加が一過性の利益や本業との関連が低い利益によるものであれば、企業価値創造にはつ
ながりません。また利益調整は長期的な企業価値創造にマイナスに働くので、避けるべきです。
■企業価値創造に影響しない利益変化の一例
・IFRSへの会計基準変更によりのれん償却が不要になり利益が増える
・減価償却の定率法から定額法への変更で利益が増える
・莫大なプレミアムを支払い企業を買収し、利益が増える(資産効率性の悪化)
・事業(資産)売却益により利益が増える(資産効率性の改善により企業価値が高まる可能性はある)
■利益調整の一例(将来投資を削減することで目先の利益を高める)
・研究開発費の削減
・人材採用の中止
・広告宣伝費の削減
29
成長のタイプと企業価値の創造
成長のタイプによって企業価値に与える影響は異なります。
長期的に高成長を維持するのは不可能なため、ROICの改善へのフォーカスを高める
のが望ましいと考えられます(コカ・コーラなどはROICフォーカス)。
30
誤解:株主還元政策で企業価値が創造される
31
株価は上がるが・・・・
一般的に株価が上昇することが多いですが、株主還元変更という情報がポジティブ・サプライズと
なっているだけであり、企業価値が創造されるわけではありません(情報の非対称性の緩和)。
■株主還元に株式市場がポジティブな要因
・資本効率性が上昇する(後述のアマダのケース)
・M&Aなどの無駄遣いが無くなる(村上ファンドなどのターゲットはこのタイプ)
・将来の業績が改善するとの期待感(配当)
・現在の株価が割安とのシグナル(自社株買い)
■配当と自社株買いへの反応の違い
配当はコミットメントであるため持続的な業績改善が見込まれる時のみに増配されるが、自社株買
いはコミットメントではなく、一過性の収益の還元であることも多く、両者に対する株式市場の反応
は異なる。
■株主還元は、バリュードライバーではない
株主還元は、キャッシュフローの分配の問題でしかなく、分配の仕方自体で企業価値に変化は生
じない
■株主還元による株価上昇に病みつきになってはいけない
株価に対しての影響に即効性があるため、病みつきになりかねませんが、株主還元で引き寄せた
株主は株主還元が原因で去っていきます(株主の質の悪化)。
32
続アマダ
自社株買い完了の公表後、3日間で株価は7.3%下落しました(TOPIXは0.6%下落)。自社株買い
狙いの投機家が去って行ったといことでしょう。
自社株買い完了の公表
33
本日のテーマ
株式市場に関する誤解
マーケット・インテリジェンスとは何か
人と組織
マーケット・インテリジェンス実践
34
IRに関する私の見解(1/2)
私の見解
情報開示を中心とする広報機能(インサイド・アウト)から、マーケット分析を中心とする戦略機能(アウトサイド・イン
によるマーケット・インテリジェンス機能)への変身が求められている。つまり、外向きよりも内向きの活動が大事(情
報開示は単なるエサ)。
理論
情報開示により不透明性が減少することにより資本コストが下がり、企業価値(株価)が上昇する
現実
・ IR活動を通じて入ってくる投資家やアナリストの声に翻弄される経営者が多い(今の社長は持ち合い世代)
・マーケットを理解する人材を社内で育成するプロセスが確立されていない(構造的要因)
・スチュワードシップ・コードにより対話を求める投資家が増える一方、彼らと同じ土俵に立てる人材が育ちにくい
(マーケットに翻弄される理由? )
・マーケット・インテリジェンスを持つ人材のスキルは、属人的で社内で共有されていない(そもそも共有不可能)
・中期経営計画や数値目標(ROE、配当性向など)を開示してその実現に躍起になる(短期志向のリスク)
・IR部門が広報部門と一体化するケースが過半数
・IR部門の外部評価はディスクロージャ水準で決まる(社内での活動は評価されない)
35
IRに関する私の見解(2/2)
あるべきアプローチ
・情報開示の努力は継続(ただし、情報開示は大幅に進化しており資本コストへの追加的なインパクトは減少する)
・戦略機能を果たせる人材を金融機関からIRのトップに持ってくる(エーザイ、かつての日産、コロプラ、DMG森精
機、スタートトゥデイなど)→資本コストがすぐに下がるはず
・社内の人材の育成プロセスを確立し、会社とファイナンス理論の両方を理解する人材をIRのトップに持ってくる(資
本コストは時間はかかるが、徐々に下がるはず)
・IRのトップが理解すべきファイナンス理論は実はそれほど多くない(後述の最低限のファイナンス理論で十分)
・アクティビスト・インサイド:物言う株主に指摘される前にやるべきことをやっておく(マーケット・インテリジェンスが
活きる)
・マーケットの声を活かす経営を投資家に示すことで、彼らに安心感を与え、資本コストを下げる
・マーケット・インテリジェンスを活かした双方向のIR活動で、質の高い投資家を株主として引き付ける
・ファイナンスの知識の少ない経営陣にわかる言葉で説明する(これができないといつまでも経営者は今のまま)
36
IRの一般的な定義:情報開示にフォーカス
一般的な定義
企業が株主や投資家に対し、投資判断に必要な企業情報を、適時、公平、継続して提供する活動のことをい
います。企業はIR活動によって資本市場で適切な評価を受け、資金調達などの戦略につなげることができま
す。株主・投資家も、情報を効率よく集めることができるようになります(IR協議会HPより一部抜粋)。
想定されるIR活動の対象者
株主、投資家、アナリスト(マーケット・プレーヤー)
私の見解
Relationsの解釈がおかしい。Investor Relationsとは、本来は「投資家との関係構築」。
誤った解釈のインパクト
・日本企業による情報開示が短期間に進化し、今では情報開示量は世界トップクラス
・IR部門が広報部門と一体化しているケースが多い
・東証、日本証券アナリスト協会、IR協議会が情報開示に優れた企業を表彰(東証は中止)
・業界団体の圧力により、アナリストがレポートを書くには好都合になった
アクティブマネージャーは、もはや情報優位性による超過リターンの獲得は不可能と考えており、情報
の開示がかなり進化したと言えるでしょう(これ以上の進化には意味が無さそう)。
37
私のIRの定義:経営者にフォーカス
私の定義
IRとは、マーケット・プレーヤーとの対話及びその対話の経営者へのフィードバック(主に財務戦略への提言)
を通じて、資本コストを減少させる活動である
IR活動の対象者
経営者>マーケット・プレーヤー
IR組織に与える変化
・広報機能をエサにして、マーケットの動向を分析するアナリスト業務の重要性が増す
・企業価値創造アドバイザリー部門として経営者に財務アドバイザリーサービスを提供する
・企業内財務アナリストとして、事業とファイナンスの両方を深く理解する人材がIR責任者となる
・IR責任者はマーケット・プレーヤーと同じ土俵に立ってもそん色がないこと(スチュワードシップコード)
・経営者を対象とするため、IR関係者は経営者目線を持つことが求められる
・社外取締役に代わり、株主の視点で経営者にアドバイスをする
・マーケットは効率的である考え、フェアプライスの算出には注力せず、資本コスト減少を目的とする
38
その前に:企業価値創造のドライバーの確認
資本コストを減少させることにより、仮に将来の期待キャッシュフローが一定であるならば、企業価
値が向上します。これが私の考えるIRの役割です。
事業バリュー
ドライバー
他のバリュー
決定要因
売上成長率
現金ベース
の税率
営業利益率
追加投資率
資本コスト
予測期間
フリーキャッシュフロー
株主価値
営業利益
-現金ベースの税金
NOPAT
-投資額
FCF
事業価値
+非事業資産
-負債
株主価値
出所:Expectations Investing
39
NIRIのIRの定義:IRは経営上の戦略的機能
NIRIではIRを広報機能ではなく、戦略機能と定義し、また経営者とマーケットの双方向のコミュニ
ケーションであることを強調しています。
NIIRの定義
Investor relations is a strategic management responsibility that integrates finance, communication, marketing and
securities law compliance to enable the most effective two-way communication between a company, the financial
community, and other constituencies, which ultimately contributes to a company‘s securities achieving fair
valuation.
IR活動の対象者
経営者とマーケット・プレーヤー
私の定義との共通点
・戦略的機能が求められている
・ファイナンスの理解が求められている
・会社からマーケットへの情報開示ではなく、両者間の双方向なコミュニケーションが求められている
私の定義との相違点
IR協議会と同様に、フェアプライスの実現を目標としており、資本コストに関しては明示的には意識していない
Relationsを「広報」と捉えるか、「関係(構築)」と捉えるかの違いが出ています。
40
変化の兆候:東証の「企業価値向上表彰」への移行
東証は「ディスクロージャー表彰」を平成22年度を最後に中止し、「企業価値向上表彰」と「企業行
動表彰」に移行しています。審査基準は以下の通りです。
1.経営計画および経営戦略について
・重視する経営目標において、投資者視点を意識した企業価値向上の観点が含まれているか。
・経営目標を達成するための事業戦略や事業態勢が構築されているか。
2.財務戦略および株主還元政策について
・財務戦略(新規投資、投資撤退含む)および株主還元政策に投資者視点が含まれているか。
3.株主・投資家とのコミュニケーション態勢について
・投資者視点を意識して各種の経営情報の公表に係る判断がなされているか。
4.企業価値向上経営の推進について
・企業価値向上を図るための経営・財務上の取り組みが社内に浸透し、 企業価値向上に向けた経営が全社
一丸となって推進されているか。
5.企業価値向上に向けた取組みとその成果について
・上記1~4の取り組みの結果として、実際に企業価値の増大が図られているか。
「投資家視点」、つまり「アウトサイド・イン」による企業価値創造が強調されており、従来型の「投資家
向け広報」は評価されません。東証が新たなIR像に向けて企業を啓蒙する意向と考えられます。
41
情報開示と資本コスト
従来の広報型のIRにより資本コストは減少してきましたが、限界に来ているというのが私の考えで
す。従来の延長線上にIRの未来はないと言っても良いでしょう。
資
本
コ
ス
ト
満
足
度
情報量
情報量を増やせばアナリストが喜び、
さらなる情報を求められる
かつて
現在
情報量
情報量の追加的な増加が、資本コスト
の減少に与える影響が逓減している
これまで多くの情報を開示してきた以上、これからの新たな情報開示のコストは資本コスト減少というリ
ターンを上回りかねません。別のアプローチで資本コストを減少させる必要があります。
42
資本コスト減少へのアプローチ
情報開示に加えて、資本構成の調整とマーケット・インテリジェンスを実施することにより、効果的
に資本コストを減少させることが可能です。
現状維持で十分
情報開示
資本構成
資本コストに定量的なインパクト
知覚リスク(安心感)に定性的
なインパクト
マーケット
インテリジェンス
企業価値創造の視点が反映されていることを示す
(例:資本コストを開示する)
資本構成は、負債と資本の比率を調整することにより、資本コストに直接的なインパクトがありますが、
情報開示とマーケット・インテリジェンスは投資リスクの減少という形で資本コストに影響します。
43
マーケット・インテリジェンスのイメージ
株価から株式市場の声なき声を聞き分け、経営陣にフィードバックし、企業価値創造に向けた提言
をすることがIR機能のあるべき姿だと考えます。
未開拓
かなりの進化
社内での経営・財務
戦略の議論
経営陣
市場目線での
フィードバック
分析に基づき
フィードバック
経営・財務戦略の
コミュニケーション
マーケット
IR部門
フィードバック
(ノイズを含む)
危険な予感
マネジメントコンサルタントのスキル
(経営者目線)
アナリストのスキル
(マーケット目線)
知識武装が不十分な場合、自分で考えることができないため、ノイズに振り回されます。都合の悪
いことに、上場企業(IR部門)は、声の大きい人間(アナリストやトレーダー)が生む出すノイズに取
り囲まれています。
44
マーケット・インテリジェンスのポジショニング
マーケット・インテリジェンス業務では、客観的な立場で、長期的かつ経営者視点に基づき分析業
務を行い、「経営者のためのレポート」を作成します(これが弊社の提供サービスです)。
投資家視点
セルサイド
レポート
アナリストレポートは、今や
ヘッジファンドの読み物
バイサイド
レポート
分析の視点
長期的だが、やはり投資家
向けの読み物(非公開)
客観的な立場から、意思決
定をサポートするレポート
マーケット
インテリジェンス
経営者視点
短期的
分析の時間軸
長期的
出所:弊社会社案内資料を修正
45
マーケット・インテリジェンスの分析のスコープ
マーケット・インテリジェンスは、市場分析、企業分析、企業価値分析、財務戦略診断の4つの分析
から構成されます(弊社のマーケット・インテリジェンス・サービスのスコープでもあります) 。
企業価値分析
インプット
・中期経営計画など
財務戦略診断
市場分析
企業分析
(競合他社含む)
(競合他社含む)
インプット
・株価データ
インプット
・財務データ
出所:弊社会社案内資料を修正
46
私の日産IR部でのマーケット・インテリジェンス業務
経営者にとって付加価値のある業務を指示を受けることなる経営者のニーズに先んじて行ってい
ました。なお、以下の業務はすべて一人でやっていました。
企業価値評価
・DCFのバリュエーションモデルを構築し、内在価値を算出
・バリュードライバー改善による株価インパクトのシミュレーション
財務戦略の策定
・資本構成:回帰分析を用いた最適な資本構成、手元資金額の特定
・株主還元政策:配当額や自社株買いの価格の算出
マネジメント・レポート
月次、四半期、年次ベースでマーケット分析を行い、CEOにレポート
CEOの投資家コミュニケーション戦略の策定
・決算数値に合わせたコミュニケーションのトーンの決定
・決算発表時のCEOのスピーチやアニュアルレポートのCEOメッセージのライティング
ファンドマネージャーとの対話による仮説検証
優秀なファンドマネージャーとの対話を通して、自分の仮説を検証し、CEOにレポート
ベンチマーク分析
競合するグローバル自動車メーカー(欧米含む)のベンチマーク分析を行い、日産のポジショニングを客観的に把握
役員を対象とした研修
ファイナンスのバックグラウンドを持つ役員が少ないため、株式市場や株価形成のメカニズム、投資家のタイプなど
投資家と接点を持つ前に理解すべき知識を研修で提供
上場連結子会社の企業価値評価
株式買い増しに備えた適正価格の評価
47
サマリー:マーケット・インテリジェンスの利点
投資家としては、投資家視点を持つ、マーケットを理解する企業には安心して投資ができるため、
要求リターン、つまり資本コストが下がります。
投資家視点を取り入れることによる経営の改善
投資家に物を言われる前に自ら経営を変革する(ROE重視による資本効率的な経営など)ため、業績が改善す
るのはもちろんだが、それ以上に投資家からの信頼が高まるため、資本コストが下落する。
株主の質の向上
マーケット・インテリジェンスのある企業は、対話を求めるような質の高い(手ごわい)投資家に高い評価を受ける。
そうした投資家による投資は、さらに企業の信頼を高め、資本コストを下げる。
知識武装によるブレない経営
経営者が、知識武装によりマーケット・インテリジェンスを持つことにより、劇場型経営のように経営がブレて、企
業価値を破壊するリスクが減る。これも資本コストの下落につながる。
資本構成の変更とディスクロージャーの改善が資本コスト削減のこれまでのアプローチでしたが、今後
はマーケット・インテリジェンスによる資本コストの削減も狙うべきです。
48
本日のテーマ
株式市場に関する誤解
マーケット・インテリジェンスとは何か
人と組織
マーケット・インテリジェンス実践
49
マーケット・インテリジェンスが実施されない構造的な要因
社内の人材が、金融機関からヘッドハントされた人材のようにマーケット・インテリジェンスを実践で
きない原因は構造的なものだと考えられます。
経営者がIRに望むべき役割を理解していない
アナリストが行うような分析を社内でも行い、定期的にレポートせよ、と指示する経営者はほとんどいない。
IR部門自体が歴史が短く、そもそも人材育成のベストプラクティスが存在しない
・経理や財務のように歴史のある部門では人材育成のベストプラクティスが存在しており、OJTを通じて優秀な人
材が育ちやすい。
・IR部門は歴史が浅い上、今後あるべき姿が広報機能から戦略機能へと大きく変わるため、人材育成のベストプ
ラクティスが存在しない。OJTでは「経理の広報」の経験を積むことになる。
年4回の決算対応だけで大変
マーケット・インテリジェンスの重要性を認識していたとしても、四半期決算により、その準備、投資家・アナリスト
対応で精一杯。決算関連業務以外まで手が回らない。
そもそも金融業界が嫌いだから、事業会社に入った
・金融業界なんていかがわしいと考えて、事業会社を選択する人は結構多い。しかし、コーポレート・ファイナンス
(企業財務)と金融(カネを左から右に回してカネ儲け)は別物なので、金融業界が嫌いでも問題なし。
・ファイナンスへの苦手意識は、実は金融機関の罠が原因。つまり、ファイナンスの難しい問題は金融機関に相談
すべきだという彼らの洗脳から解放されればよし。実際はそんなに難しくない。
構造的な要因ではありますが、時間を作り、必要な知識(後述)を身につけ、ファイナンスに対する苦手
意識や不信感を解消すれば、マーケット・インテリジェンスの実践は可能です。
50
日産IR部での業務分担(私が在籍した期間中)
IR責任者(財務出身)
CEO
実質的なレポーティング
ライン
国内投資家担当
・経理出身者が就任
・会社情報の図書館
・決算説明Q&A作成
・ロードショー
・個別ミーティング等
投資家からの信頼が高く、
資本コストを下げたはず
(社外向けの頭脳)
海外投資家担当
・外国人(中途採用)
・元会計士(デロイト)
・国内担当者が作成し
た資料に基づきIR活動
外国人投資家にとっては
貴重な存在
MI担当
・中途採用の専門家
・市場分析
・財務戦略策定
・CEOスピーチ作成
・マネジメントレポート等
経営陣に重宝がられ、
社内での評価が高い
(社内向けの頭脳)
IR組織へのインプリケーション
・経理出身者が不可欠
・財務出身者では担当不可能
・中途採用者では担当不可能
・バイリンガルは必要
経理出身者に向く
・重要性は増すはずだが、活躍は
経営者やIR責任者の能力次第
・キャリアパスに要工夫
・社内に即戦力はいない
・アウトソ―シングの選択もある
経理もしくは財務出身者に向く
(即戦力にはならない)
51
ケーススタディ:エーザイ
エーザイでは、マーケット・インテリジェンスを実践できる人材がIRの責任者となっているのが理想
的です。IR責任者の存在により、社内外でIR部門のプレセンスが非常に高くなっています。
エーザイのIR部門組織イメージ
IR執行役員兼デュプティCFO
(MBA、Ph.D、UBS証券出身)
投資家対応担当
(若手社員)
マーケット・インテリジェンスには
最適な経歴
投資家対応担当
(若手社員)
こうした人材がIR責任者であることで投資家の信頼が高まり、資本コストが下がります(私は担当者だったた
め、投資家へのインパクトはなし)。また、デュプティCFOを兼務されているのも財務戦略策定上大きなメリッ
トがあります(後述)。
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ケーススタディ:バリュエーション(BSベース)
エーザイのPBRとMarket-to-Capitalは、大手5社の中で非常に優れています。
(倍)
(株価は2014年6月20日ベース)
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
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ケーススタディ:ベータ(5年月次ベース)
エーザイのベータは、大手5社の中で非常に低くなっています。
(大塚HDのみ2010年12月の
IPO以降のデータに基づく)
(株価は2014年6月20日ベース)
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
54
構造的要因の解消とIR責任者の選抜
ヘッドハントをするか、経理・財務部門の人材を選抜しトレーニングなどを通じてIR責任者を育成す
るかのどちらかのアプローチとなります。
プロフェッショナル型組織:社外からプロをヘッドハント
マーケット・インテリジェンス業務が実践できる人材を金融機関などからヘッドハントする。前述の通り、オーナー
系企業はアナリスト経験者などをヘッドハントするケースがある。「投資家目線」を持つため、企業価値へのコミッ
トメントが高い経営者には貴重な存在。また、こうした人材が社内にいること自体が、投資家を安心させる。
インハウス型組織:教育を施し、社内人材を活用
経理・財務部門からトップクラスの人材を集めて、研修などを通じて(OJTは無理)マーケット・インテリジェンスをた
たき込む。上記の金融機関出身者ほどの役割は足せないものの、最低限のファイナンス理論(後述)をフル活用
すれば、経営者に有効な分析や提言などのマーケット・インテリジェンスは可能。
ハイブリッド型組織:外部組織(コンサル会社など)とのコラボしながら、社内人材を活用
マーケット・インテリジェンス業務をコンサル会社などの外部組織と実施しながら、マーケット・インテリジェンスのプ
ロセスを組織に定着させ、最終的に上記のインハウス型組織に移行する。つまり、構造的な問題を外部リソース
を一定期間活用することで解消するアプローチ。
後述するように、CFOは内部昇進者が望ましく、またIR責任者のポジションがCFO昇進への登竜門である
と考えているため、社内人材を活かすインハウス型もしくはハイブリッド型が適切だと判断しています。
55
本日のテーマ
株式市場に関する誤解
マーケット・インテリジェンスとは何か
人と組織
マーケット・インテリジェンス実践
56
最低限のファイナンス理論
ファイナンスの四本柱
投資判断
(M&A)
資本構成
株主還元
資本コスト
57
企業価値創造のドライバー
おなじみのこのチャートに基づいて分析してみましょう。
ROIC
事業バリュー
ドライバー
他のバリュー
決定要因
売上成長率
現金ベース
の税率
営業利益率
フリーキャッシュフロー
営業利益
-現金ベースの税金
NOPAT
-投資額
FCF
WACC
追加投資率
株主価値
事業価値
+非事業資産
-負債
株主価値
資本コスト
予測期間
出所:Expectations Investing
DCFモデルにしか利用し
ないため、今回は対象外
キリンとアサヒのベンチマーク分析をしますが、株価パフォーマンスに関しては、キリンが短期、
中期、長期のすべてでアサヒをアンダーパフォームしているため、どう考えてもキリンの分析結果
の方が悪くなるはずです。
58
株価パフォーマンス比較(1年、5年、10年)
アサヒの勝ち
アサヒGH
10年
キリンHD
TOPIX
アサヒGH
5年
TOPIX
キリンHD
アサヒGH
TOPIX
1年
キリンHD
59
マルティプル分析
アサヒの勝ち
PER(予想EPSベース)を除けば、アサヒがキリンを上回っています。マーケットがアサヒに高い期待
を寄せていることがよくわかります。
【マルティプル分析】
*キリンの予想EPSに平準化EPSを利用
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
60
事業バリュードライバー:売上成長率
アサヒの勝ち
直近の売上成長率はアサヒの方が高く、モメンタムがあるように思われます。
【売上成長率】
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
61
事業バリュードライバー:営業利益率
キリンの勝ち
営業利益率(のれん償却費調整ベース)は、アサヒがコンスタントにキリンを上回っています。
【営業利益率】
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
62
事業バリュードライバー:追加投資率(1/3)
アサヒの勝ち
運転資金は、アサヒがキリンよりも効率的となっています。
【運転資金/売上比率】
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
63
事業バリュードライバー:追加投資率(2/3)
アサヒの勝ち
在庫は、アサヒは低水準を維持していますが、キリンは上昇傾向にあります。在庫管理の差が運
転資金の差となっています。
【在庫/売上比率】
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
64
事業バリュードライバー:手元現金(参考)
アサヒの勝ち
運転資金には入れていませんが、手元現金及び現金等価物の効率性に関しても、アサヒが上回っ
ています。
【手元現金/売上比率】
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
65
事業バリュードライバー:追加投資率(3/3)
引き分け
有形固定資産の効率性に関しては、両社は同水準です。
【有形固定資産/売上比率】
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
66
アサヒの勝ち
ROIC(投下資本にのれんを含む)
アサヒがコンスタントにキリンを上回っています。アサヒの方が、投下資本からより高いリターンを
生んでいます。この結果は、株価パフォーマンスと合致しています。
【ROIC(投下資本にのれんを含む)】
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
67
ROIC(投下資本にのれんを含まない)
引き分け
投下資本からのれんを除くと、ROICはほぼ同水準です。これはオペレーション上の資本効率性は
同等だということです。キリンの現場は結果を出していると言えるでしょう。
【ROIC(投下資本にのれんを含まない)】
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
キリンののれん込みのROICがアサヒに劣るのは、M&Aによるのれんが利益につながっていな
いからです。高値づかみなど経営者の経営判断ミスが原因と言えます。
68
他のバリュー決定要因:ベータ
アサヒの勝ち
同一業界にいるとは思えないくらいの差となっています。
*
*
*5年月次ベース
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
過去5年間には、キリンはM&Aバトルを繰り広げ、減損損失を計上し、格下げになるなど、リスク
が裏目に出続けていたため、これがアサヒと比べて高水準のベータにつながったと思われます。
69
他のバリュー決定要因:株主資本コスト
アサヒの勝ち
ベータと同様、株主資本コストも同一業界にいるとは思えないくらいの差となっています。
(リスクフリー:2%、マーケットリスクプレミアム:6%)
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
70
他のバリュー決定要因:負債コスト
アサヒの勝ち
キリンは格下げの影響により負債コストが高くなったと思われます。
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
結局、負債コストの差も、経営者の経営判断ミスによるものです。
71
アサヒの勝ち
WACC
キリンの高株主資本コスト、高負債コストが、高WACCにつながっています。
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
72
キリン:ROIC/WACCスプレッド
企業価値破壊
のれん込みでは、大幅に企業価値を破壊していますが、のれんを除くと、ほぼROIC=WACCであ
り、企業価値を破壊も創造もしていません。
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
M&Aバトルに入る以前は、リスクも低かったため、おそらくWACCも低く、ROICがWACCを
上回っていたと思われます。
73
アサヒ:ROIC/WACCスプレッド
企業価値創造
過去10年間のほとんどでROICがWACCを上回っており、企業価値を創造しています。株価パ
フォーマンスが高いのも当然です。
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
74
ROICツリー(FY13)
キリンの販管費と運転資金は改善余地があります。特に運転資金は減らした分のすべてがキャッ
シュフローの増加につながるため(課税されないため) 、企業価値に与える影響も多くなります。
粗利益率
営業利益率
税前ROIC
ROIC
(のれん込み)
キリン:4.0%
アサヒ:4.6%
キリン:8.5%
アサヒ:7.6%
キリン:42.9%
アサヒ:39.7%
販管費率
ROIC
(のれん除く)
キリン:8.3%
アサヒ:8.0%
キリン:36.6%
アサヒ:32.9%
キリン:5.1%
アサヒ:5.1%
税率
減価償却率
キリン:38.0%
アサヒ:37.7%
キリン:4.5%
アサヒ:3.7%
簿価に対する
プレミアム
キリン:1.3
アサヒ:1.7
運転資金/売上
売上/投下資本
キリン:0.966
アサヒ:1.086
キリン:20.6%
アサヒ:18.5%
有形固定資産/売上
キリン:33.9%
アサヒ:34.1%
75
経営の質:減損損失
アサヒの勝ち
のれんの減損がたびたび発生しているため、マーケットがキリンの経営(陣)に対して信頼感を持
つことは期待しにくいです。
【減損損失】
(億円)
出所:インサイトフィナンシャル上場企業データベース
76
サマリー
・キリンは経営ミスにより資本コストが上昇した
・ROICを見る限り、現場は強いが、経営のミスはカバーできていない
・在庫、販管費はアサヒの水準にまで下げる努力をすべき
・M&A→高値づかみ→のれん減損では経営は信用されない
・M&Aから足を洗うべき
・ M&Aで無駄遣いをするよりも、株主還元を強化すべき
・買収した会社を売却して資本効率性を上げるべき
社長にレポートしにくい内容ではありますが、IR責任者がレポートしなければ、物言う
投資家に指摘されるだけです。彼らよりも先に行動しましょう。
77
まとめ
企業価値創造のための6つ柱
優秀な
経営者
優秀な
社員
優れた商品
・サービス
管理会計
パートナーと
しての株主
Market
Intelligence
78
ご清聴どうもありがとうございました!
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