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平成 24 年度 環境経済の政策研究 (低炭素地域づくりに資する

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平成 24 年度 環境経済の政策研究 (低炭素地域づくりに資する
平成 24 年度
環境経済の政策研究
(低炭素地域づくりに資する温暖化対策の地域経済への影響・効果の把
握、統合的評価、及び環境経済政策への反映に関する研究)
報告書
平成 25 年 3 月
名城大学
南山大学
高知大学
青森中央学院大学
東京大学
エックス都市研究所
目次
Ⅰ
研究の実施経過
1.研究計画
1
1
1.1
研究の背景と目的
1
1.2
3か年(又は2か年)における研究計画及び実施方法
3
1.3
本研究で目指す成果
10
1.4
行政ニーズとの関連及び位置付け
11
1.5
研究成果による環境政策への貢献
12
2.平成24年度の進捗状況
13
2.1
平成24年度の実施体制(研究参画者と分担項目)
13
2.2
平成24年度の進捗状況(研究成果の概要)
14
2.3
対外発表、ミーティング開催等の実施状況
35
2.4
平成25年度の研究方針
38
Ⅱ
研究の実施内容
40
要約
40
1.序論
43
1.1 本研究の背景・必要性・ねらい
43
1.2
本研究の特徴・独自性
46
1.3
研究を進めるに当たっての基本的考え方・留意点
49
1.4
本年度(平成 24 年度)研究の位置づけ
50
1.5
調査・検討の全体像
51
2.温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例調査
57
2.1
概観調査
57
2.2
詳細調査
69
2.3
結論
140
3.温暖化対策が地域経済に与える影響構造のモデル化、及び効果定量化のための基礎的知
見収集
142
3.1 温暖化対策の地域経済への影響等に関する既存文献等のレビュー
142
3.2 地域での温暖化対策の体系化及び地域経済への影響関係の構造化
165
3.3 温暖化対策の地域経済への波及効果の定量化手法の検討
174
3.4 地域温暖化対策がもたらす非市場的経済価値に関する整理
183
3.5 温暖化対策が地域にもたらす非市場経済価値の定量化手法の検討
187
3.6 経済効果の定量化に必要となる基礎情報項目の整理
191
3.7
210
結論
4.温暖化対策が地域に与える経済効果を統合的に評価するための考え方・評価指標等の検
討
212
4.1 温暖化対策の統合的評価の考え方等に関する既存文献等のレビュー
212
4.2 温暖化対策の地域経済効果の総合的評価の考え方・指標等の整理
220
4.3 結論
223
5.事例調査・理論モデル検討等を踏まえた地域での環境経済政策の方向性等に関する示唆
(政策インプリケーション)の整理
資料編
224
244
Ⅰ
研究の実施経過
1.研究計画
1.1
研究の背景と目的
(1)社会的背景
我が国における中長期的な温室効果ガス削減に資するため、地域においても効果的な温暖化対策を
進めていく必要があるが、多くの地域・地方圏では、高齢化や地域経済停滞等の社会問題が喫緊の課
題であり地球温暖化対策を優先し難い状況がある。また、森林資源や風力等の自然資源が豊富に賦存
しながら、疲弊する経済・財政状況の下で、それらを活用した温暖化対策のための資金が調達できな
いという課題もある。
一方、温暖化対策は、エネルギー費用削減や関連産業の発展等を通じて地域経済に資する側面があ
る。また地域の環境活動の活性化による半公共的サービスの増加等が、非市場的な経済価値である地
域住民の満足度向上等に資する面も考えられる。そのため温暖化対策を地域経済活性化や住民満足度
向上等にも資する形で進めていくことが重要となる。
実際に持続可能な地域づくりの先進地域である欧州各国等(ドイツ、デンマーク、オーストリア等)
では、地域資源を活用して再生可能エネルギーを生み出し地域自立を図っている事例・地域が多数あ
り、我が国でも、温暖化対策を地域経済活性化や住民満足度向上等にも資する形で進めていくことが
重要である。
(2)地域における環境経済面からみた課題
温暖化対策と地域経済を両立させ、持続可能な地域づくりを進めていくためには、温暖化対策がど
の程度、温室効果ガス削減に資するかといった観点からみた「環境性」、温暖化対策事業の収支・利益
は確保可能かといった観点からみた「事業性」に加えて、地域経済に対して、有形・無形の経済価値
(市場価値、非市場価値)をもたらしているかといった「地域経済性」を分析・評価し、これらの観
点から統合的かつ定量的に温暖化対策の効果を明らかにすることが重要である。
なぜなら地域経済に資する温暖化対策は、事業性が多少劣っていたとしても公的支援等により具現
化していくことが地域にとって望ましい場合も考えられるからである。ますます厳しくなる財政状況
のなか、限られた資源・資金投入により地域に最大限の効果をもたらすためには、このような統合的
な観点から温暖化対策の費用対効果を評価し、その結果を踏まえ、環境と地域経済を両立させた地域
環境経済マネジメントを実現していくことが不可欠である。
(3)研究面での課題
上述のように、今後、地域で温暖化対策を進めるにあたっては、地域経済との関係性について分析・
評価し、地域の環境面と経済面を統合的にマネジメントしていくことが重要となるが、こうした分野
の既存研究は少なく、知見蓄積が求められている。先駆的な研究として中村他(2009~2011)1があり、
地域資源(木質バイオマス等)を活用した温暖化対策による地域経済への波及効果等を分析している。
今後の研究課題としては、①多様な温暖化対策を対象とした地域経済効果分析、②地域特性や対策
1
第Ⅰ期 環境経済の政策研究
に関する研究」
「環境・地域経済両立型の内生的地域格差是正と地域雇用創出、その施策実施
1
種類に応じた経済効果の差異等に関する知見蓄積、③経済波及効果以外の非市場的経済価値の影響分
析、④各種経済効果の統合的な評価・取り扱い、⑤環境経済政策への反映方策の検討等が挙げられる。
(4)政策面での課題
政策面に目を移すと、財政逼迫や地域経済の低迷を背景に、温暖化政策を地域経済活性化へ結び付
けることへの政策ニーズが顕在化しつつあるものの、具体的方法論が不明であるため政策現場レベル
での取組が十分に実施できていない状況にある。また環境問題と地域経済を結び付け統合的に政策立
案・実施していくという考え方や試みは、一部の先進地域で取り組みの萌芽がみられるものの、一般
には普及していない。また、住民等に潜在している非市場的な経済価値を具体的・定量的に評価し、
その結果を政策に反映させるといった形での試みは、ほとんど進められていない。
今後、政策面において温暖化対策の地域経済への影響・効果を定量的に把握していく際の課題とし
ては、①分析・評価等に必要となる地域経済データの収集、②地方公共団体等において実施可能な分
析・評価の方法論の検討、③複数の対策効果を統合的に把握・評価する方法・指標等の検討、④評価
結果を活用した地域環境政策の立案・実施や他部門計画・施策(都市計画、産業振興施策等)との調
整等が挙げられる。
(5)本研究の役割・位置づけ
上記で述べたような政策面、研究面の課題を解決するための環境経済的知見は十分でなく、高度な
専門的知見を有する研究者による知見蓄積と政策立案者への提供により、地域においてどのような政
策・施策を立案していけばよいか、また国はどのような政策・施策で、それらを後押ししていけばよ
いかといった点を明らかにすることが必要である。
その意味で、本研究は地域経済性を含めた温暖化対策効果の統合的な分析・評価と、その環境経済
政策への反映(実装)に資する知見提供という、先進的な政策ニーズへの対応をにらんだ研究として
位置づけられる。
(6)本研究の目的
本研究は、地域における温暖化対策が地域経済に与える影響に関する各種調査・分析(国内外先進
事例調査、地域産業連関分析、非市場価値分析等)を通じて、地域における温暖化対策が温暖化防止
に資するのみならず、地域経済に直接・間接的な効果をもたらすことを定性的・定量的に示すととも
に、それを具体化するための地域環境経済政策の立案・実施に係る方法論・課題等についても調査・
分析・考察を行い、それらの結果を踏まえて国レベル及び地域レベルでの政策提言を行うことを目的
とする。
2
1.2
3か年における研究計画及び実施方法
1.2.1
研究計画
(1)温暖化対策と地域経済活性化の両立に関する先進事例等の調査と把握に関する研究
(事例研究)
【初年度(平成 24 年度)】
z
温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例調査
【中間年度(平成 25 年度)】
z
温暖化対策と地域経済活性化の両立を図る地域を支援する政策・施策等に関する先進事例
調査
【最終年度(平成 26 年度)】
z
温暖化対策と地域経済活性化の両立に資する政策手法の政策現場での適用方策等に関する
調査
(2)温暖化対策が地域経済に与える影響・効果の定量化に関する研究
(シミュレーション)
【初年度(平成 24 年度)】
z
温暖化対策が地域経済に与える影響構造のモデル化、及び効果定量化のための基礎的知見
収集
【中間年度(平成 25 年度)】
z
各種温暖化対策が地域経済に与える効果の定量化分析
(⇒複数地域でのケーススタディと地域間比較)
【最終年度(平成 26 年度)】
z
複数の温暖化対策が地域経済に与える効果の全体像に関する定量分析
(⇒特定地域における総合的ケーススタディ)
3
(3)温暖化対策の統合的評価と地域での環境経済政策への反映のあり方に関する研究
(実装研究)
【初年度(平成 24 年度)】
z
温暖化対策が地域に与える経済効果を統合的に評価するための考え方・評価指標等の検討
【中間年度(平成 25 年度)】
z
温暖化対策の統合的評価のケーススタディ、及びその結果を地域行政計画に反映するため
の方法論の整理
【最終年度(平成 26 年度)】
z
温暖化対策の地域経済効果の定量化から地域行政計画への反映に至る一貫したプロセスに
関するケーススタディ
(4)環境経済政策へのインプリケーションの整理及び提言
【初年度(平成 24 年度)】
z
事例調査・理論モデル検討等を踏まえた地域での環境経済政策の方向性等に関する示唆の
整理
【中間年度(平成 25 年度)】
z
温暖化対策の統合的評価と地域行政計画等への反映に関する政策的示唆の整理
【最終年度(平成 26 年度)】
z
国及び地域レベルでの地域環境経済政策に関する政策提言
4
1.2.2
実施方法
(1)温暖化対策と地域経済活性化の両立に関する先進事例等の調査と把握に関する研究
(事例研究)
初年度
温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例調査
z
温暖化対策を地域経済活性化に結び付けている国内外先進取組等を調査(文献調査、現地
調査・ヒアリング等)し、取組の特徴や課題等について整理・考察する。
z
調査対象取組としては、温暖化対策全体(再生可能エネルギー導入、省エネ対策、交通対
策、循環型社会づくり等)から、特に地域経済への効果が高いものや定量化が図られてい
るものを中心に選定する。
z
対象地域については、国内先進地域(環境未来都市等)に加え、海外において再生可能エ
ネルギー等(風力、森林バイオマス等)による地域自立を目指している欧州先進地域(ド
イツ、オーストリア、デンマーク等)から選定する。
中間年度
温暖化対策と地域経済活性化の両立を図る地域を支援する政策・施策等に関する先進事例調
査
z
地域での温暖化及び地域活性化への取組を図る地域を支援する政策・施策等(国・広域行
政レベル等)について、最新状況(背景、プロセス、課題等)を調査(文献・現地調査・
ヒアリング等)するとともに、今後の環境経済政策への適用可能性、課題等について考察
する。
z
調査対象としては、国内各省庁及び都道府県等の取組現状をレビューする他、EU、欧州各
国政府、州政府等の関連機関及び、それらから各種支援を受けている先進地域等から選定
する。
最終年度
温暖化対策と地域経済活性化の両立に資する政策手法の政策現場での適用方策等に関する調
査
z
本研究で提言する温暖化対策と地域経済の両立に資する環境経済政策等について、今後、
スマートコミュニティ等の取組進展が見込まれる国内外各地域の行政機関の政策担当者等
に、提案・意見交換することを通じて、本研究成果の政策現場レベルでの具体的適用のあ
り方等について考察する。
(2) 温暖化対策が地域経済に与える影響の定量化に関する研究(シミュレーション)
初年度
温暖化対策が地域経済に与える影響構造のモデル化、及び効果定量化のための基礎的知見収
集
z
各種温暖化対策から特に地域経済との関わりが深い(域内産業との連関が強い等)対策を
選定し、その影響構造をモデル的に整理するとともに、既存研究の方法論を発展させ、各
温暖化対策の地域経済波及効果を推計できる方法論を検討する。具体的には、各温暖化対
5
策に対応した環境部門を必要に応じて組み込んだ地域産業連関表を構築・活用し、各種温
暖化対策実施時の地域経済循環構造の変化を踏まえた地域産業連関分析により地域経済波
及効果を算出できる方法論を検討する。
z
また各種温暖化対策実施における地域住民の関わり方等を整理した上で、地域での温暖化
対策への参画等を通じて地域住民の満足度が向上すること等による非市場的な経済価値向
上効果を定量化できる方法論を検討する。
z
あわせて定量化に必要となる基礎的知見・データを収集する。
中間年度
各種温暖化対策が地域経済に与える効果の定量化分析
(複数地域でのケーススタディと地域間比較)
z
初年度に検討・開発した温暖化対策による地域経済波及効果や非市場価値向上を把握・計
測する方法論をベースに、具体的な地域における効果の定量化(ケーススタディ)を行う。
z
対象地域としては、環境モデル都市、環境未来都市等の先進地域の中から、地域の規模や
重点的に取り組んでいる温暖化対策の種類等のバランスを考慮して、複数地域を選定する。
z
各地域での分析結果については、地域特性(規模、気候、産業構造、住民意識等)や分析
対象とする温暖化対策の取組内容よる経済効果の差異等について考察する。
最終年度
複数の温暖化対策が地域経済に与える効果の全体像に関する定量分析
(特定地域における総合的ケーススタディ)
z
中間年度での各地域における分析結果を踏まえ、特定地域を対象に中長期的に低炭素化を
実現するための温暖化対策の全体像を想定した上で、それら複数の温暖化対策が地域経済
に与える効果の全体像について定量的に分析する。
z
具体的な対象地域としては、環境モデル都市・環境未来都市に選定されており、木質バイ
オマスを中心とした地域産業連関表における地域経済への波及効果分析の実績がある「北
海道下川町」等を候補とする。
z
なおケーススタディに当たっては、行政ニーズに対応した分析結果となるよう、当該地域
行政機関及び地域の地元研究機関との密接な連携を図る。
(3) 温暖化対策の統合的評価と地域での環境経済政策への反映のあり方に関する研究
(実装研究)
初年度
温暖化対策が地域に与える経済効果を統合的に評価するための考え方・評価指標等の検討
z
温暖化対策が地域に与える効果を、環境性、事業性、地域経済性等の側面から捉え、それ
らを統合的に評価するための考え方・指標等について検討する。具体的には、温暖化対策
に係る公的投資(金銭面に加え、組織・人材・時間等も含む)に対する地域効果について
費用対効果を見る考え方等を検討する。
z
なお地域経済性については、地域全体としての経済波及効果の他、域際収支改善効果、域
内経済循環強化効果、経済波及効果の帰着、税収増、住民満足度向上等による非市場価値
向上等、幅広くその具体内容を検討し、体系化を図る。
6
中間年度
温暖化対策の統合的評価のケーススタディ、及びその結果を地域行政計画等に反映するため
の方法論の整理
z
初年度成果、及び上述研究項目(2)で実施する各地域での地域経済効果のケーススタデ
ィ結果を活用し、具体的な地域を対象に温暖化対策の統合的評価のケーススタディを実施
し、定量化に際した課題や地域や温暖化対策種類による評価差異等について考察する。
z
さらに、評価結果を地域の行政計画(実行計画等)に反映するための方法論について整理
する。具体的には、統合的評価結果を踏まえた、実行計画における温室効果ガス削減目標
の想定の考え方や、費用対効果や環境効率の最大化を目指した温暖化対策・施策代替案選
定の考え方、上位及び他の行政計画(総合計画、都市計画、産業振興等)との連携の考え
方等について整理する。
最終年度
温暖化対策の地域経済効果の定量化から地域行政計画への反映に至る一貫したプロセスに関
するケーススタディ
z
中間年度成果、及び研究項目(2)で実施する特定地域での総合的ケーススタディ結果を
踏まえ、具体的な地域において温暖化対策の地域経済効果の定量化、統合的評価、及びそ
れらを踏まえた地域行政計画への具体的な反映に至るまでの一貫したプロセスについてケ
ーススタディを実施し、本研究で開発した計測・評価手法等を地域政策・計画に反映(実
装)する際の手順検討、課題抽出等を行う。
z
具体的な対象地域としては、研究項目(2)での統合的ケーススタディに合わせ「北海道
下川町」等を候補とする。なおケーススタディ実施に当たっては、具体的な既存行政計画
等を踏まえた地域実行計画への反映(案)の作成を試みる等、当該地域行政機関のニーズ
や実務的課題に対応した検討を行う。
(4)環境経済政策へのインプリケーションの整理及び提言
初年度
事例調査・理論モデル検討等を踏まえた地域での環境経済政策の方向性等に関する示唆の整
理
z
国内外の先進事例調査や温暖化対策が地域経済に与える影響構造の整理等を踏まえ、地域
経済への好影響を与える温暖化対策を実施していくために地域に必要となる環境経済政策
のあり方に関する示唆を整理する。
z
また温暖化対策が地域経済に与える影響に関する優良事例、地域経済への影響構造と着目
点、効果評価の考え方、必要となる地域データ、評価の考え方等についてに地域における
温暖化対策計画立案・実行等に資する知見として整理する。
中間年度
温暖化対策の統合的評価と地域行政計画等への反映に関する政策的示唆の整理
z
地域を支援する政策の先進事例調査結果等を踏まえ、温暖化対策と地域経済の両立を図る
自治体等への支援等に関する政策的示唆を整理する。
z
また温暖化対策の経済効果の定量化や統合的評価ケーススタディ結果から得られた知見
7
(地域特性や対策種類に応じた地域経済効果の差異等)や実行計画反映の考え方等につい
て整理する。
最終年度
国及び地域レベルでの地域環境経済政策に関する政策提言
(地方公共団体地域実行計画及び策定マニュアルのあり方等)
z
温暖化対策の地域経済効果を総合的に定量化・評価し、行政計画に反映する一貫したケー
ススタディ結果を踏まえ、地域経済効果の定量化・評価手法等を行政計画(実行計画、総
合計画等)に反映させるための具体的な考え方、方法論、手順等について整理するととも
に、今後の実行計画のあるべき方向性や実行計画マニュアルの更なる改訂ポイント等につ
いて提言する。
z
また本研究知見の政策適用に関する行政現場担当者等との意見交換等を踏まえ、地域温暖
化政策の進捗確認や評価のあり方、取組状況に応じた支援政策・施策の立案・実施のあり
方、本研究成果全体の国内外の諸地域への情報発信と適用のあり方等について提言する。
8
初 年 度
( 平 成 2 4 年 度 )
中 間 年 度
( 平 成 2 5 年 度 )
最 終 年 度
( 平 成 2 6 年 度 )
(1)温暖化対策と地域経済
活性化の両立に関する先進
事例等の調査と把握に関す
る研究(事例研究)
(2)温暖化対策が地域経済
に与える影響・効果の定量
化に関する研究(シミュレ
ーション)
温暖化対策により地域経
済の活性化を目指してい
る先進取組等に関する事
例調査
温暖化対策が地域経済に
与える影響構造のモデル
化、及び効果定量化のため
の基礎的知見・データ収集
温暖化対策が地域に与える効果
を統合的に評価するための考え
方・評価指標等の検討
温暖化対策と地域経済活
性化の両立を図る地域を
支援する政策・施策等に関
する先進事例調査
各種温暖化対策が地域経
済に与える効果の定量化
分析(複数地域でのケース
スタディと地域間比較)
温暖化対策の統合的評価のケー
ススタディ、及びその結果を地
域行政計画等に反映するための
方法論の整理
温暖化対策と地域経済活
性化の両立に資する政策
手法の政策現場での適用
方策等に関する調査
複数の温暖化対策が地域
経済に与える効果の全体
像に関する定量分析(特定
地域における総合的ケー
ススタディ)
温暖化対策の地域経済効果の定
量化から地域行政計画への反映
に至る一貫したプロセスに関す
るケーススタディ
研 究 T
体制
大野、石川
松本
(3)温暖化対策の統合的評価と地
域での環境経済政策への反映の
あり方に関する研究(実装研究)
大野、石川、中澤、
中谷、森田、松本
大野、石川、中谷、
松本
外 部
先進地域とのネットワークを有する機関
(4)環境経済政策へのインプ
リケーションの整理及び提
言
事例調査・理論モデル検討
等を踏まえた地域での環
境経済政策の方向性等に
関する示唆の整理
温暖化対策の統合的評価
と地域行政計画等への反
映に関する政策的示唆の
整理
国及び地域レベルでの環
境経済政策に関する政策
提言(地方公共団体地域実
行計画及び策定マニュア
ルのあり方等)
大野、石川
松本
ケーススタディ対象地域自治体
注)国内調査や地域行政機関と連携したケーススタディ等に際しては、先進的な環境対策を実施している自治体
等との密接なネットワークを有する専門機関やケーススタディ対象地域自治体と外部連携し、その知見活用
や本研究成果のフィードバックを図る等、研究を円滑化なするための工夫を行う。
図Ⅰ-1-1.3 カ年における研究フローと体制
9
1.3
本研究で目指す成果
本研究の実施を通じて得られる直接的な研究成果としては、以下が想定される。
① 地域経済活性化に資する温暖化対策の実施や効果把握に関する国内外の先進事例等に関する知見
の把握
地域経済に好影響を与えている温暖化対策の実施や、その影響・効果把握という視点から、国
内外における先進的な地域・取り組み事例(環境モデル都市、環境未来都市等、欧州先進地域等)
を調査することで、最新の動向・知見を把握することができる。
② 地域における温暖化対策が地域経済社会に与える影響・効果を把握する手法の開発及び、定性的・
定量的知見の蓄積
温暖化対策が地域経済に与える構造を定性的に整理した上で、地域産業連関表や仮想市場法等
の経済分析ツールを用いた分析手法を検討し、具体地域等において実施することで、温暖化対策
の地域経済への影響(波及効果、費用対効果等)に関する知見を得ることができる。
③ 地域環境経済政策の立案・実施の際に目指すべき方向性やあり方の明確化
地方公共団体が温暖化対策と地域経済活性化を両立させる政策を立案・実施する際に目指すべ
き方向性やあり方として、温暖化対策を統合的に評価し、それを具体的な環境経済政策に反映す
る際の基本的考え方、方法論、課題等について明らかにすることができる。
10
1.4
行政ニーズとの関連及び位置付け
本研究に関連する行政ニーズとしては、まず国レベルでは、温暖化対策地方公共団体実行計画(区
域施策編)策定マニュアルの改訂、地方・地域における温暖化対策の支援策(モデル事業、人材育成
支援、普及啓発活動支援、専門・技術知見提供等)等が挙げられる。また、地域レベルでは、実行計
画(区域施策編)の策定、関連計画(総合計画、産業振興計画、都市計画、農林関連計画等)との連
携方策の検討、地域経済活性策と一体となった部局横断型の温暖化対策・施策の実施等が挙げられる。
本研究において検討する温暖化対策の地域経済効果の分析・評価の方法論やケーススタディ結果は、
これらの各種行政ニーズに対して、施策立案の参考となる基礎的知見やノウハウを提供するものであ
る。具体的には、国内外の先進取組地域の最新状況、温暖化対策の地域経済への影響構造の整理と定
量化方策、温暖化対策の統合的評価の考え方、国内外の取組支援政策に関する知見、環境対策、地域
特性に応じた温暖化対策の地域経済への定量的影響の差異、統合的評価ケーススタディ結果、行政計
画への反映の考え方、効果定量化・評価手法等を行政計画に反映させる際の考え方、方法論、手順等、
政策現場との意見交換を踏まえた実行計画のあるべき方向性や実行計画マニュアルの更なる改訂ポイ
ントに関する知見や示唆を提供する。
初年度
研 究 成果
◆ 国内外の先進取組地
域の最新状況
◆ 温暖化対策の地域経
済への影響構造の整
理と定量化方策
◆ 温暖化対策の統合的
評価の考え方
示唆
提示
参考となる基
礎的知見提供
中間年度
最終年度
◆ 国内外の取組支援政
策に関する知見
◆ 環境対策、地域特性に
応じた温暖化対策の
地域経済への定量的
影響の差異
◆ 統合的評価ケースス
タディ結果
◆ 行政計画への反映の
考え方
◆ 効果定量化・評価手法等を
行政計画に反映させる際
の考え方、方法論、手順等
(ガイドライン的整理)
◆ 政策現場との意見交換を
踏まえた実行計画のある
べき方向性や実行計画マ
ニュアルの更なる改訂ポ
イントに関する知見
示唆
提示
参考となる基礎
的知見提供
国レベル
地域レベル
行政ニーズ
実行計画マニ
ュアル改訂
改訂マニュアルの
普及啓発
環境経済政策全般の
基礎的検討
計画実施自治体に対す
る支援政策検討
政策提言
実行計画のあるべき方向性
実 行 計 画 策 定 マニュアルの 更 な
る改訂ポイント
実行計画策定後の進捗確
認・評価及び取組支援
研究成果の国内外への情報
発信と適用 等
実行計画(区域施策編)の策定
関連計画(総合計画、産業振興計画、都市計画、農林関連計画等)との連携方策の検討
地域経済活性策と一体となった部局横断型の温暖化対策・施策の実施 等
図Ⅰ-1-2.本研究と行政ニーズの関係性・位置づけ
11
1.5
研究成果による環境政策への貢献
本研究成果によって見込まれる環境政策への貢献としては、地域経済に好影響を与える温暖化対策
を促進する地域環境経済政策のあり方(国レベル、地域レベル)を提言できることが挙げられる。
より具体的な貢献としては、地域における温暖化対策を総合的に進める立場にある自治体が、
「地球
温暖化対策地方公共団体実行計画(区域施策編)」(以下、実行計画)等の検討において温暖化対策と
地域経済を結び付けた視点や方策を盛り込んでいくことができるよう、以下のような知見を提供する
ことを想定している。
z 温暖化対策を契機とした地域経済の活性化に関する国内外の先進的取組事例等の最新知見
z 温暖化対策が地域経済に与える影響構造等に関する知見
z 温暖化対策の地域経済への効果に関する定量的評価の考え方・方法論に関する知見
z 具体的な地域による対策効果に関する定量的知見、及び対策種類や地域特性による差異等に関す
る知見
z 温暖化対策を環境面、事業面、地域経済面から統合的に評価する考え方と方法論に関する知見
z 温暖化対策の統合的評価を地域の行政計画(実行計画等)に反映させるための考え方、プロセス、
方法論等の知見
z 地域経済への効果を定量化・評価するために必要となる人材・組織育成、情報整備、普及啓発の
あり方に関する知見
z 温暖化対策と地域経済の両立を図る取組を支援する環境経済政策のあり方等に関する知見
等
経年的には、初年度である今年度(平成 24 年度)においては、実行計画策定等において参考とな
ると考えられる基礎的知見を提供するとともに、国内外の先進事例調査や温暖化対策が地域経済に与
える影響構造の整理等を踏まえ、地域経済への好影響を与える温暖化対策を実施していくために地域
に必要となる環境経済政策のあり方に関する示唆(温暖化対策に係る地域環境経済政策の検討・立案
における留意点等)を整理する。また中間年度においては、地域レベルの温暖化対策における環境経
済的視点の重要性等を地方公共団体等へ普及啓発していく際に参考となる知見を提供する。最終年度
においては、今後の実行計画のあるべき方向性等を提言するとともに、将来的な更なる策定マニュア
ル改訂に反映すべき視点・知見を提供する。また本研究全体を通して、本研究成果を活用して国内外
の各地域において環境・地域経済統合型の温暖化対策を展開するための政策的留意事項(実行計画に
関連する以外の部分を含む。例.先進モデル的事業の実施、人材育成拠点の創出、地域環境経済デー
タの体系的蓄積、研究成果の国内外への発信等)についても、今後の環境政策立案検討に資する基礎
的知見として適宜提供していく。
12
2.平成24年度の進捗状況
2.1
平成24年度の実施体制(研究参画者と分担項目)
表Ⅰ-2-1.に本研究の参加者と分担項目を示す。研究代表者である大野は、費用便益分析、環
境価値評価、産業連関表と多岐にわたる環境経済知見と研究実績を持つ観点から、研究全体の方向づ
けを与え、進捗を管理する等、研究全体を統括する役割を担った。石川、中澤、森田の 3 名について
は、それぞれに産業連関分析に関する専門的知見を有するが、中部、四国、東北と異なる地域に研究
拠点をもつことの他、石川は地域間産業連関分析等を含む多様な産業連関分析に対応可能であり、関
連する情報知見も多く有している点、中澤は主に小地域での産業連関表作成方法等についての豊富な
知見があるといった点、森田は地域経済分析とともに自治体行政に関する知見も有するといった点等
にそれぞれ特徴があり、研究者間で担当分野を補完しつつ研究を進めた。また中谷は、住民等の主観
的環境経済価値評価について、評価の枠組み検討のほか、具体的な調査票の設計等を担った。研究作
業全般に関わる松本については、産業連関分析に関する知見を有しているほか、環境価値評価の具体
的な調査分析実施や自治体に対する温暖化対策実行計画策定支援に関する経験を有していることから、
研究知見の政策現場への実装に関する研究を中心に担った。
表Ⅰ―2-1.本年度研究体制と分担項目
氏名
所属
大野
栄治
名城大学
都市情報学部
教授
石川
良文
南山大学
総合政策学部
教授
中澤
純治
高知大学
教育研究部
中谷
隼
森田
学
地域協働教育学部門
明
全体統括
(1)、(2)、(3)、(4)
【特に地域産業連関分析、政策プロセスへの反映等】
総合科学系
准教授
(2)
【特に地域産業連関分析等】
東京大学大学院工学系研究科都市工
(2)(3)
学専攻
【特に非市場価値の計測、統合的評価等】
都市資源管理研究室
助教
青森中央学院大学経営法学部
(2)
専任講師
【特に地域産業連関分析等】
(株)エックス都市研究所
松本
担当する分担項目※
(所属機関名・部局・役職名など)
サステイナブルデザイン部
政策デザインマネージャー
(1)(2)(3)(4)
【研究作業全般の進行管理、実施、取りまとめ等】
※分担項目
(1)温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例調査
(2)温暖化対策が地域経済に与える影響構造のモデル化、及び効果定量化のための基礎的知見・データ収集
(3)温暖化対策が地域に与える経済効果を統合的に評価するための考え方・評価指標等の検討
(4)事例調査・理論モデル検討等を踏まえた地域での環境経済政策の方向性等に関する示唆の整理
13
2.2
平成24年度の進捗状況(研究成果の概要)
<平成24年度
研究フロー>
図Ⅰ-2-1.に、本年度の研究フローを示す。
(1)温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例調査
①国内外先進取組・地域事例に関する文献調査
②現地調査対象地域・機関等のリストアップとコンタク
ト
③現地調査詳細計画の作成及び調査項目等の整理
④調査対象地域での現地調査実施
⑤調査結果の整理、環境経済政策への示唆の考察、及び、とりまとめ
(2)温暖化対策が地域経済に与える影響構造のモデル化、及び効果定量化のための基礎的知見収集
①温暖化対策の地域経済への影響等に関する既存文献等のレビュー
②地域での温暖化対策の体系化及び地域経済への影響
関係の構造化
④地域温暖化対策がもたらす非市
場的経済価値に関する整理
③温暖化対策の地域経済への波及効果の定量化手法の
検討
⑤温暖化対策が地域にもたらす非
市場経済価値の定量化手法の検討
⑥経済効果の定量化に必要となる基礎情報の収集
⑦研究成果の整理、環境経済政策への示唆の考察、及び、とりまとめ
(3)温暖化対策が地域に与える効果を統合的に評価するための考え方・評価指標等の検討
①温暖化対策の統合的評価の考え方等に関する既存文献等のレビュー
②温暖化対策の地域経済効果の総合的評価の考え方・指標等の整理
③研究成果の整理、環境経済政策への示唆の考察、及び、とりまとめ
(4)事例調査・理論モデル検討等を踏まえた地域での環境経済政策の方向性等に関する示唆の整理
①地域に必要となる環境経済政策のあり方に関する示唆の整理
②今後の実行計画策定等の際に参考となる基礎的知見整理
図Ⅰ-2-1.本年度研究フロー
14
(1)温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例調査
1)実施概要
温暖化対策を地域経済活性化に結び付けている国内外の先進取組等について最新状況を調査し、
取り組みのポイントや課題等について考察した。
2)実施項目・内容
以下に、研究作業の実施項目と内容を整理する。
①国内外先進取組・地域事例に関する文献調査等
文献調査、WEB 調査等により、温暖化対策と地域活性化に対する国内外の先進的な取組事例
を調査した。調査にあたっては、特に地域経済との関連に着目して情報を整理した。国内事例と
しては、国内で実施されている各種温暖化対策(再生可能エネ、住民・事業者活動、都市・地域
づくり、循環型社会づくり等)について、代表的な取組事例を調査した。また海外事例としては、
特に再生可能エネルギーに着目し、エネルギー自立地域の形成等の先進地域であるオーストリア、
スイス、デンマーク、ドイツ等における取組について調査した。
②現地調査対象地域・機関等のリストアップとコンタクト
上記①の調査から、取組の特徴、地域特性等を考慮して現地調査対象地域をリストアップし、
ヒアリング先となる担当機関にコンタクトした。調査対象としては、地域経済への効果が高い取
組や定量化が図られている取組に焦点をあて、国内先進地域に加え、再生可能エネルギー等によ
る地域自立を目指している欧州先進地域から地域規模・取組内容のバランス等を考慮して選定し
た。
③現地調査詳細計画の作成及び調査項目等の整理
現地調査時における行程や詳細ヒアリング項目等について整理した。
④調査対象地域での現地調査実施
上記③に基づいて現地調査を実施した。この際、温暖化対策が地域へどのような影響(環境面
に加え、経済面、社会面)を与えているかといった観点からヒアリングを行った。また調査対象
地域の行政機関担当者等との意見交換等を通じて、地域における温暖化対策の検討・立案におい
て、どのような地域環境経済的情報・知見が有用であるか等について調査した。
⑤調査結果の整理、環境経済政策への示唆の考察、及び、とりまとめ
文献調査、現地調査等の結果を整理するとともに、環境経済政策への示唆について考察し、報
告書として取りまとめた。
15
3)研究結果・成果
以下に、研究結果・成果を整理する。
○温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例の把握
温暖化対策により地域経済の活性化を目指している取組について国内外における先進的な地
域・取組事例(表Ⅰ-2-2~4)を抽出し、その取組内容・ポイントを把握した。具体的には、
温暖化に活用されている地域資源の種類・内容(図Ⅰ-2-2)、地域課題・行政ニーズ(表Ⅰ
-2-5)、地域経済等への影響・効果(表Ⅰ-2-6~7)、合意形成のポイント(表Ⅰ-2-
8)等について体系化し、具体内容を整理した。なお、把握した知見については、今年度検討し
た「分析・評価の方法論(モデリング)」や「分析シナリオ想定」に反映させている。(例.欧州
先進事例等において政策成功や合意形成のカギとして市民参画が挙げられていたこと等を踏ま
え、経済活性化の源となる市民協力がもたらす経済価値をWTW分析により計測した上で、それ
に基づく関連産業部門の労働投入係数減少の影響を地域産業連関分析により計測する等)
○ケーススタディ対象地域における行政現場でのニーズ把握等
現地調査等の実施時においては、本研究の趣旨・目的・内容等を政策現場担当者と共有し、関
係する行政現場でのニーズ等について把握した。また分析結果を行政ニーズにフィードバックす
るという位置づけのもと、次年度以降実施するケーススタディ分析における情報提供・交換等を
行うネットワークを構築した。
表Ⅰ―2-2.国内調査地域一覧
都市
取り組み概要
下川町
梼原市
中山間地域
綾町
地方部
飯田市
真庭市
都留市
地場産業集
積地域
瀬戸市
富山市
都市部
北 九 州
市
大都 市圏
横浜市
都市部
柏市
千 代 田
区
循環型森林経営の実施・森林バイオマスエネルギー導入事業(地域熱供
給システム)の実施・カーボンオフセットの実施
風力発電による売電益活用・森林資源の循環利用・町産材(木材)やエネ
ルギー(小水力発電)の積極利用
綾の照葉樹林プロジェクト・自然と共生・調和した町づくり・ユネスコ
エコパークに登録・地産地消の推進
市民出資太陽光発電 等
多方面でのバイオマス利用・森林資源の活用・林工一体型「SMART
工場」モデル
市民協働によるコンセプト「エコハウス」(小水力発電、水の再利用、森
林再生、地域素材活用、長寿命化、3R)
地場産業活性化、リサイクル原料「Re 瀬ッ戸」商品普及
公共交通沿線での都市の諸機能の集積・再生可能エネルギー利用・森林、
伝統産業などの地域資源の有効活用
低炭素型まちづくり推進・北九州環境みらい学習システム(ESD)・
産学官民の協働意識を活かした全市的な3R推進活動
市民出資の事業体「横浜グリーンパワー」・一定規模以上の施設でカー
ボンオフセットの義務付け・環境ポイント制度
スマートメータ導入によるエネルギー管理・ホワイト証書によるエコポ
イント・再生可能エネルギーの蓄電・公民学の創造的交流
既存の建物・設備への省エネ促進を対象としたグリーンストック作戦・
省エネ診断による省エネ対策支援
16
概要
調査
詳細
調査
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
表Ⅰ―2-3.海外先進事例調査対象地域一覧(文献調査)
国
ドイツ
デンマー
ク
オースト
リア
スイス
イタリア
地域名
ユンデ( Jühnde)
ダルデスハイム(Dardesheim)
ハンブルグ(Hamburg)
ペルヴォルム(Pellworm)
マウエンハイム(Mauenheim)
フライアムト(Freiamt)
モアバッハ(Morbach)
フライブルグ(Freiburg)
ニーダーベルクキルヒェン(Niederbergkirchen)
ミュンヘン市(München)
ティステード(Thisted)
ロラン(Lolland)
コペンハーゲン(Copenhagen)
サムセー(Samso)
ケッチャッハ・マウテン(Kotschach-Mauthen)
ギュッシング市・地域(Gussing)
ウアバースドルフ(Urbersdorf)
シェンケンフェルデン(Schenkenfelden)
ヴェルフェンヴェング(Werfenweng)
リンツ(Linz)
アンチーゼンホーフェン(Antiesenhofen)
バーゼル (Kanton Basel-Stadt)
ボルツァーノ(Bolzano)
主に取り組まれている再生可能エネルギー種類
バイオマス
太陽光
風力
小水力
その他
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○地熱
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○地熱
○
○
○
表Ⅰ―2-4.海外先進事例調査対象地域一覧(現地調査)
国
都市・地域
オ ス ナ ブ ル ク
(Osnaburuck)
ドイツ
ダルデスハイム
(Dardesheim)
フライブルグ
(Freiburg)
デンマー
ク
オースト
リア
オランダ
コペンハーゲン
(Copenhagen)
ロラン島
(Lolan)
グ ラ ー ツ 周 辺
(Almenland、
Hitzendorf 等)
ギュッシング
(Gussing)
アムステルダム
(Amsterdam)
調査概要
シュタットベルク(地域出資のエネルギー供給協同会社)における再生可能エネルギ
ーの導入推進等の取り組み。地域住民・事業者等の出資によるウインドパーク設立・
発電・運営、家畜糞尿と作物によるバイオガスエネルギー生産等の取り組みについて、
環境コンサルタント、地域発電事業者にヒアリング、現地視察を実施。
風力発電、屋根を用いた太陽光発電、バイオマスによる熱供給。地域住民・事業者等
の出資によるウインドパーク設立・発電・運営等の取り組みについて、地域発電事業
者にヒアリング、現地視察を実施
再生可能エネルギー中心の啓蒙活動や実践活動、サッカースタジアムの屋上に市民出
資 100%のソーラーパネル設置等の取り組みについて、地域再エネ発電普及市民団体
にヒアリングを実施。
地域住民・事業者等の出資によるウインドパーク設立・発電・運営の状況等について、
研究機関、公共事業会社、洋上風力発電事業者、業界団体、再エネ普及啓発団体等へ
ヒアリング、現地視察を実施。
再生可能エネルギー導入(風力発電、バイオマス等)による地域活性化の取り組み等
について関係研究機関等にヒアリングを実施(コペンハーゲンで実施)。
森林バイオマス等を活用した地域活性化、地域投資による地域エネルギー供給等の取
り組み等について地元農家・林家、バイオマスアドバイザー、研究機関事業者等への
ヒアリング、現地視察を実施。
バイオマスエネルギー供給等による雇用創出、地域活性化等の取り組みについて、地
域研究機関、自治体担当者等へのヒアリングを実施
スマートシティとしての取り組み等について、関係事業者等にヒアリング
17
温暖化対策に活用されている地域資源
自然資源
社会資源
温
対
直
立
源
暖
策
接
つ
化
に
役
資
自然エネルギー資源
例)森林資源、太陽光、地中熱、風力、小水力
未利用資源
例)林地残材、畜産廃棄物、農業残渣、食品廃棄物
等
等
温暖化対
策に間接
的に役立
つ資源
住民等の環境意識向上や地域アイデンティティ形成に
資する資源
例)河川・湧水、照葉樹林、地場産品原材料(陶土等)
等
産業資源
一次産業事業者
例)農業、林業等
地場産品製造事業者
例)製材・木製品製造業、窯業等
温暖化対策関連機器・設備等関連事業者
例)エネルギー関連設備・機器メーカー、住宅メーカ
ー、建設事業者・工務店、IT 事業者 等
観光・交通関連事業者
例)バス、鉄道会社、輸送業者等
地元産業関係団体
例)工業協同組合、商工会議所、森林組合、不動産関
連団体、観光連盟等
知的資源
地域の学術・研究機関
例)大学、試験研究機関等
地場産品関連技術・伝統・知恵等
人的資源
地域活動関連組織
例)地球温暖化防止活動推進センター、省エネルギー
センター等
産官学連携組織
例)地域推進協議会等
オピニオン・リーダー
図Ⅰ-2-2.先進地域における温暖化対策において活用されている地域資源
18
地
域
課
題
行 政ニーズ
表Ⅰ―2-5.先進地域における地域課題と行政ニーズの種類・内容例
種類
内容例
・ 風力発電施設置による景観確保をはじめとする合意形成
・ コンパクトな町づくりにおいて公的資金の集中投資をするための合意形成
・ 高齢化が進む地域におけるジェネレーションギャップの存在
・ 超高齢化の人口層の中での地域における社会的連帯感および一体感の向上
合意形成
・ 増加する移住民と従来住民との合意形成
・ 共通の課題を抱える地域(特に地方部)同士の情報共有、コミュニケーション
不足
・ 地域主体の協力によるシステム稼働率の向上
・ 地域ブランド向上といったメリットが十分に域内住民に伝わっていない
・ 地域住民等にとっては直接的なメリットが見えにくく、意義が十分に浸透
地域効果
していない
の把握・共 ・ 森林総合産業全体として見た時の地域全体への効果が定量的に把握出来て
有
いない
・ 木質バイオマス事業がもつ副次的メリット(森林保全、林業活性化等)が
評価されにくい
・ 地元住民等への利益還元を図る具体的な仕組みがない
利 益 還 元 ・ 観光客の増加による経済効果が一部産業(観光業、宿泊業等)にとどまっ
の仕組み
ている
・ 域外からの資金収集の仕組みづくり
・ 環境産業(再生可能エネルギー産業、森林総合産業等)や温暖化対策事業
におけるイニシャル/ランニング段階における持続可能性確保のための財源
財 源 確
確保
保・コスト ・ 視察収入、クレジットの活用等による多面的な財源確保
・ 事業成立性や利益配分を考慮した木質バイオマス燃料等の適切な価格設定
・ 地域システムコストの低減
人材・ノウ ・ 循環型農業、森林総合産業の担い手の高齢化による後継者不足
ハウ
・ 地域資源の有効活用に関するノウハウの蓄積不足
・ 万博以降の再生陶磁器の一般市場への展開が十分に進んでいない
市場開拓
・ 有機農業の他地域への普及によるブランド力の相対的な低下
・ 環境と経済が一体となった施策の進捗管理や効果把握のための定量化手法
や定量的指標の開発
・ 地域の施策効果を経済的視点から定量的に裏付けることが出来る知見
・ 地域全体での効果を分析・評価する方法論
・ 住民への説明責任を果たすための効果の明確化
定量的手
・ 域内における消費促進が地域に与える影響・効果の明確化
法・指標開
・ 貴重で豊かな自然資源の保全が地域経済や住民満足度に与える影響を明確
発
化
・ 先進的な温暖化対策が地域主体にとってどのような意義・価値を持つのか
を明確化
・ 全国的な取組へと展開するために、技術的側面だけでなく、地域経済への
波及効果等も明確化
・ 関連政策への住民関与の度合いを強め、地域の各主体が一体となった取組
住民関与
の実行、及びそれに伴う満足度向上を図るための施策
形態・度合 ・ 品ぞろえで不利な地域商店で消費を促すための啓蒙活動
の明確化
・ 公的コスト節約する際に、どのような形態・頻度の市民参加が必要であり、
市民側はどの程度までなら可能であるかといったことの明確化
19
表Ⅰ―2-6.国内外の先進事例に見られる温暖化対策の地域経済効果の例(地域経済面)
効果体系
初期投
国内
資の乗
数効果
海外
移
国内
入
削
海外
減
国内
エ ネ ルギ ー 代 替 効果
循
環
効
果
海外
効果(例)
環境関連製品・サービスを生産・販売にともなう投資による経済波及効果
太陽光発電システムの設備工事の発生による地域活性化・地元雇用創出
風力産業による地元雇用創出、風力発電メーカーの雇用開発
木質バイオマス(チップ、ペレット、パウダー)、太陽光、風力等の活用、化石燃料からの代替に
よる地域エネルギー費用削減、域外流出費用の抑制
・ 木質チップ等の利用による化石燃料(暖房用灯油等)の域外流出抑制
・ 石油からバイオマスへのエネルギー変換による中東地域へのオイルマネー流出減少
●農林業関連関連
・ 地域資源の活用による1次産業の活性化、雇用創出
・ 林業、林産業、バイオマス産業、森林サービス産業における新規中間需要の発生による経済循環
●地場産品製造業
・ 地域資源の活用による地場産品製造業の活性化、雇用創出
・ 陶磁器産業を持続可能な産業へと転換することによる産業活性化
●その他
・ 地域通貨活用による域内消費促進
●農林業関連
・ バイオガス施設用に発酵資源の家畜の糞尿、飼料トウモロコシ、穀物・牧草を提供することで新
たな収入源形成
・ 低価格農産物の有効利用による再エネ生産・販売により地域畜産農家や酪農家経営の新たな収入
源獲得、収入増
・ バイオガス発電施設事業、地域熱供給事業による新規収入源創出
・ 農家や森林業の副産物・廃棄物を買い取り、バイオマスエネルギーの資源とすることによる農家・
森林所有者・森林業者の収入増加。
・ バイオマス事業による地元製材業の活性化・収入増
・ バイオガス施設用に牛糞尿、リンゴ加工の残材などを利用することによる農家の収入増。
・ ペレット工場用におがくずを提供することによる収入増。
・ バイオマスプロジェクトを起爆剤とした林業需要による林家の雇用増
・ バイオマス事業関係において、伐採からボイラー導入までのすべての工程で雇用増加
・ バイオマスのための木材を各家庭から集積、輸送を行う林家の雇用増加
●環境関連産業
・ エネルギーコンサルタント企業や省エネ・ソーラー建築家が集まることによる経済活性化、雇用
の創出
・ 地元再生可能エネルギー研究・開発・普及機関を通じた地元エネルギー産業の熟成・拡大・輸出、
専門職トレーニング、雇用創出
・ 再エネ事業による雇用促進による所得増加
・ 地元エネルギー会社、エネルギー公社による雇用創出
・ エネルギー専門職の雇用の増加、所得増
・ 地元エネルギー会社(市、共同体が一部所有)等による雇用創出。
・ エネルギー費用削減分が地域内で循環し、住民、投資者、バイオマス供給農家・林家に分配。
・ 環境関連製品・サービスを生産・販売にともなう中間需要増による経済波及効果
・ 環境プログラム関連職員の雇用創出
・ 風力発電関係では、サービスやメンテナンスを中心とした地元建設関係の雇用増加
・ 地域ブランド向上・イメージアップによる競争力強化・機能集積等による民間投資推進、企業誘
致効果
●建設業
・ エネルギーパークに企業を新規に誘致したこと、地域企業が建設を請け負うことによる住民への
雇用増、収入増。
・ 省エネ住宅による地域建築産業活性化と雇用促進
●金融機関
・ 風力事業の成長に伴う、融資する地元の銀行などの金融機関の成長
●公共・自治体
・ 公共施設の再生エネルギー利用による域内資金循環増
・ 自治体の土地開発による自治体の収益増加(及び住民への利益還元)
・ 地域エネルギー企業等からの税収増
・ 地域住民合資エネルギー会社への土地賃借料、事業税による収入。
・ 市民太陽光発電事業、風力発電事業による自治体税収増
・ 地元エネルギー会社や地域産業が中心となった再エネ事業による税収増
・ 公共交通機関利用促進を通じた地域事業者や自治体の収益増加
●地域協働・住民還元
・ 生ゴミのコンポスト化・バイオガス作りによる新規収入源創造。
・ 企業誘致政策による雇用促進。
・ 市民と地元金融機関の出資による市民太陽光発電所の設置による地域経済活動活発化、事業出資
者収入増。
・ 再エネ事業による資金の地域内循環活性化
・
・
・
・
20
効果体系
・
・
・
・
・
国内
移出効
果
海外
生産費
用効果
国内
海外
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
効果(例)
企業誘致政策による税収増加
太陽光発電への市民出資(市民ファンドなど)等による利益還元。
個人出資による民家での太陽光発電事業、風力発電事業による地域住民への利益還元
通常市民出資に加え、出資力が低い市民のために地元金融機関が、低利子・無担保・リスク無し
で低収入層に貸し付け。
借金をした市民でも、配当金をもらうことにより、自動的に借金を返済でき、太陽光事業の利益
を共有。
市民共同出資地域エネルギー会社よる利益還元
再生エネルギープロジェクトに伴う新システムを民間が作ることによる市場の活性化
再エネ事業者(農家等)や維持管理事業者(職人等)、出資者(銀行等)への資金循環の活性化
域外との連携による流入資金の増加
認証・制度による資金流入(カーボンオフセット、FSC 認定)
オフセット・クレジット等による域外からの資金獲得
省エネスタンダードのブランド化による商品化・輸出。観光客呼び込み
エコツーリズム・施設見学による収入増、関連雇用増加による所得増加
再生エネルギープロジェクト視察目的の域外、国外からの観光による資金獲得
安価な再生可能エネルギーによる地域エネルギー費用削減
省エネによる自治体の新たな財源創出
安定エネルギー価格による地域産業の競争力強化
コンパクトシティ化による輸送コストの減少
表Ⅰ―2-7.国内外の先進事例に見られる温暖化対策の地域経済効果の例(社会面)
効果体系
暮らしの快適性向
上
地域活力の向上
生活の利便性向上
国内
地域 価値 向 上 効 果
地域活動、住民活
動、域内連携等の
活発化
地域ブランド化・
地域アイデンティ
ティ形成
域外とのつながり
強化
海
外
地域意識・当事者
意識醸成
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
地域自立性の向上
・
・
・
効果(例)
森林整備などによる美しい景観・レクリエーションの場の創出
環境資源を活用した快適な暮らしの形成
人口密度が高まることによる中心市街地の活性化
沿線の利便性向上による地価下落の抑制
地域内での出資が市経済活性化⇒公共サービスの向上⇒魅力的な町⇒人口流入⇒イ
ンフラ整備需要増⇒市経済活性化 の好循環が生まれる。
交通の利便性向上(移動距離の少ない町、移動しやすい町)
高齢者の利便性の向上(地域医療、バリアフリー)
高齢者の移動利便性の向上およびそれにともなう健康促進
環境活動を中心とした地域活動の活発化
関係者同士の連携・ネットワーク化
住民と就業者との交流促進
地域通貨を用いることによる住民参画が促進に伴う取り組みへの理解向上
市民参加意識の啓発
地元施工者との信頼関係の構築
環境先進地域としてのブランド力向上等
有機農薬品のブランド化
照葉樹林への誇りと愛着を背景とした良好な自然環境や居住環境の維持
観光客増加による地域活性化(エコツーリズム、相乗的なイメージアップ)
来街者との交流促進
先進的な環境配慮の取り組み地域としての視察等による短期滞在者増加
他地域交流等による市民の主体的取組や地域参加の活発化
自らが投資しているという当事者意識の醸成
地元企業中心の事業による、市民のブランド意識および地産地消意識の向上
自らが投資の権利を持ち、自らが配当を得られるインセンティブの発生による当事
者意識醸成
再生エネルギー各種事業の利益が、身近な部分(地元公共サービス)で還元されること
を実感できるインセンティブの発生による当事者意識醸成
地域の自立性への意識向上(脱原発依存、脱石油依存)
現在の賦存量を考慮した際に、石油はなるべく代替すべきという意識の向上
石油に比べ、価格変動が少ないバイオマスエネルギー活用による地域の安定性向上
21
表Ⅰ―2-8.地域レベルの温暖化対策推進における合意形成のポイント・内容
ポイント
内容
・ 自らに恩恵がない取組への賛同を得ることは難しいため、域内主体
(地元企業、住民等)の投資によって事業がおこなわれ、地域の住
民・事業者・行政等に利益が還元すること(例.地域産業の活性化、
住民への配当、自治体の税収増、地域管理の公的コスト低減等)を
地域にメリットが還
元されるということ
を分かりやすい形で
伝える
明示することが重要となる。
・ 例えば、事業から得られた利益が、地域住民にとった関心が高く、
目に見えやすい用途(例.地域の公共施設の整備、歩行者優先で歩
きたくなるような空間整備、高齢者の活躍の場創出等)に再投資さ
れることを見せるといった工夫が必要となる。
・ このような経済循環の仕組みに対する理解が浸透することにより、
地域社会にメリットのある取り組みは、自分自身にも還元されるこ
とが多いという意識が醸成され、次なる地域単位での取組に対する
公的投資等に理解が得られやすくなるという好循環が生まれる。
・ 温暖化対策事業に自ら投資することにより、“自分たちの事業”と
メリット還元型取組
への地域住民等の参
画を呼び掛ける
いった意識が醸成され、事業に対して好意的となること等が期待さ
れる。
・ 地域住民にメリットが還元されやすい仕組み(例えば、地域内住民
に優先的な株購入権利があり、配当利益を優先的に受け取るといっ
た仕組み)を導入し、住民の事業への参画を促すことが重要となる。
・ 欧州では、“脱原発”といった社会的課題への対応として、再生可
能エネルギーへの住民参加が広まっていった経緯があるが、地域に
おける温暖化対策を考える際には、温暖化や資源枯渇といった地球
レベルでの課題への対応に加え、地域にとっての社会的課題、
(例.
地域の社会的課題と
地域活性化、エネルギーや食糧の地域自立、地域防災性向上、地域
の結びつきについて
財政再建)との関係性において取組の意義やメリットを発信するこ
の普及啓発を進める
とが重要となる。
・ 例えば、将来的な資源枯渇や石油商品の価格変動の中で、地域資源
を活用した仕組みを構築することが、地域の活性化とともに、地域
の安心・安全の向上にも役立つといった点の理解促進を図ることが
重要である。
22
(2)温暖化対策が地域経済に与える影響構造のモデル化、及び効果定量化のための基礎的知
見収集
1)実施概要
各種温暖化対策から特に地域経済との関わりが深い対策を選定し、その影響構造をモデル的に
整理するとともに、各温暖化対策の地域経済波及効果を推計できる方法論を検討した 2。あわせて
定量化に必要となる基礎的知見を収集した。
2)実施項目・内容
以下に、研究作業の実施項目と内容を整理する。
①温暖化対策の地域経済への影響等に関する既存文献等のレビュー
環境対策や温暖化対策と地域経済の関係性に係る分析等に関する既存文献等をレビューし
た。
②地域での温暖化対策の体系化及び地域経済への影響関係の構造化
各種温暖化対策(再生可能エネルギー、省エネ、都市・地域対策、循環型社会づくり等)を
体系化するとともに、各カテゴリーにおける対策がどのように地域経済に影響を与える可能性
があるかについて整理した。
③温暖化対策の地域経済への波及効果の定量化手法の検討
各種温暖化対策の地域経済への波及効果の定量化手法を検討した。具体的には、各温暖化対
策に対応した環境部門を必要に応じて組み込んだ地域産業連関表を構築・活用し、各種温暖化
対策実施時の地域経済循環構造の変化を踏まえた地域産業連関分析により地域経済波及効果
を算出できる方法論を検討した。
④地域温暖化対策がもたらす非市場的経済価値に関する整理
地球温暖化対策が地域にもたらす可能性のある非市場的経済価値(地域住民満足度向上等)
の種類・内容等について把握、整理した。
⑤温暖化対策が地域にもたらす非市場経済価値の定量化手法の検討
温暖化対策の実施に伴い地域にもたらされる非市場経済価値の定量化手法を検討した。具体
的には、仮想市場法等を用いて、地域での温暖化対策実施による住民満足度や奉仕労働量
(WTW)等の代替行動が変化すること等による非市場的な経済価値を定量化できる方法論を
検討した。ここでは、金銭的な支払意思額に加え、住民参画活動への参加意思等も分析し、そ
の結果としての財政支出削減可能性や対策オプションの優先度の考え方等について研究を進
めた。
⑥経済効果の定量化に必要となる基礎情報の収集
上記を踏まえ、次年度以降ケーススタディを実施するための分析シナリオを想定し、必要と
2 本研究では特に<温暖化対策の地域経済効果の計測・評価>と<その政策プロセスへの実装・政策提言>に焦点を当ててい
る。そのため、経済評価モデル開発については、第Ⅰ期研究(中村他)で開発した環境産業連関分析用産業連関分析モデル、
及び大野らが提案している WTW(奉仕労働量)の計測モデル等をベースに、上記に資する範囲での改良を図るものとする。
23
なる基礎情報・参考知見等を収集した。
⑦研究成果の整理、環境経済政策への示唆の考察、及び、とりまとめ
上記結果を整理するとともに、環境経済政策への示唆について考察し、報告書として取りま
とめた。
3)研究結果・成果
以下に、研究結果・成果を整理する。
○温暖化対策が地域経済に与える影響構造・効果等の整理
地域レベルの温暖化対策(再生可能エネルギー導入促進、省エネルギー活動推進、低炭素都市・
地域づくり、循環型社会形成)を体系的に整理するとともに、それらがが地域経済に与える影響
構造や効果内容について定性的に整理した。(図Ⅰ-2-3)
○効果定量化のための分析手法の検討・整理
温暖化対策が地域経済に与える各種影響・効果を地域産業連関表や仮想市場法等の経済分析ツ
ールを用いて分析・評価する考え方、手法、手順等について整理した(図Ⅰ-2-4)。本研究に
おける手法面での新規性を以下に整理する(図Ⅰ-2-5)。
a.環境産業分析用地域産業連関分析手法
既存研究では、単一の環境産業部門(例.木質バイオマス燃料部門等)を対象とした分析
手法が提案されているが、本研究では、新たな分析手法として、①関連産業部門(例.林業
部門、森林サービス産業部門、他の再エネ部門等)を含めた複数部門を分析する手法、②事
業実施形態(例.域外資本 or 域内資本)による地域効果の差異を分析する手法、③地域資
源循環系の形成による地域経済効果を分析する手法、④地産地消促進策(地域通貨等)の影
響・効果を分析する手法等を検討・整理した。
b.非市場価値(環境価値)分析手法
既存研究においては、主に自然環境等を対象とした WTP(支払意思額)ベースの分析手
法に関する研究がなされているが、本研究では、新たな分析手法として⑤WTW(奉仕労働
量)も用いて、地域の社会・経済環境の改善や環境産業の発展に自ら関与することがもたら
す満足度を分析する手法について検討・整理した。
c. 二つの分析手法の接点
上記の 2 つの分析手法の接点について検討した。具体的には、非市場価値で計測される
WTW(奉仕労働量)を市場価値化されていない投入要素とみなし、地域産業連関表との対
応等を整理する等の検討を行った。
○地域の環境経済行政ニーズを踏まえた分析シナリオの想定及び参考となる知見収集
現地調査や関連機関との連携により把握した地域の環境経済行政のニーズを把握したうえ
で、それらに資する結果を提供する分析シナリオを想定し、併せて、シナリオ想定の際に参考
となる基礎的知見を収集した(表Ⅰ-2-9~10)。
24
<効果の体系>
<評価の考え方>
市場価値をもたらす効果
導
入
段
階
①初期投資に伴う乗数効果
域内産業での生産
額増、雇用創出、
域内家計所得増加、
税収増等 について、
産業連関分析によ
りマクロ的に評価
①初期投資に伴う乗数効果
②エネルギー代替効果
各種温暖化対策実施
各種設備・施設等への投資
実施段階での持続的な効果
●再エネ導入
●省エネ実施
●低炭素地域づくり
●循環社会形成
a.移入削減効果
b.循環効果
③移出効果
⇒再エネ(太陽光、風力等)の利活用施設導入 等
⇒省エネ設備導入 等
⇒面的エネルギー・インフラ整備 等
⇒地域循環システム構築 等
地域産業の需要増加
a.財・サービス移出効果
b.環境価値(クレジット)移出効果
関連産業生産波及
④生産費用効果
付加価値・所得増加
地域住民の効用増
加について、仮想
的市場法等によりミ
クロ的に評価
非市場価値をもたらす効果
⑤地域価値向上効果
②エネルギー代替効果
a.移入削減効果
消費(需要)増加
地域経済循環の活性化
b.循環効果
各種温暖化対策実施
各種温暖化対策実施
運用段階における原材料・サービス等の投入
●再エネ、省エネ、低炭素
⇒化石燃料、電力等
●循環社会
⇒原材料、製品等
域外に依存していたエネルギー等の支出削減
域外からの輸移入額削減
●再エネ
⇒維持管理サービス、
原材料提供 等
●省エネ
⇒設備管理サービス
●低炭素地域
⇒インフラ施設の維持管理
サービス等
●循環社会
⇒維持管理サービス、
原材料提供 等
地域産業の需要増加
関連産業生産波及
域際収支改善(域内留保資金増加)
付加価値・所得増加
<地域>
従
前
域内資金
対
化石燃料等 策
後
<地域>
消費(需要)増加
温暖化対策
化石燃料等
地域経済循環の活性化
域内資金
関連産業の事業利益(配当等)の発生
③移出効果
a.財、サービス移出効果
b.クレジット移出効果
各種温暖化対策実施
各種温暖化対策実施
GHG削減・吸収にともなうクレジット創出
●再エネ
⇒グリーン電力、木質燃料等
●省エネ
⇒省エネ診断サービス 等
●低炭素
⇒インフラマネジメントサービス等
●循環社会
⇒原材料、製品等
域外への新たな移出財・サービスの増加
域外への輸移出額増加
域際収支改善(域外獲得資金増加)
域内産業への生産波及
<地域>
域外への販売による移出額の増加
温暖化対策
域際収支改善(域外獲得資金増加)
オフセット
・クレジット等
クレジット関連サービスへの需要創出
関連産業生産波及
<地域>
温暖化対策
再エネ、グリーンサービス等
域外
資金
獲得
域外
移出
付加価値・所得増加
域外移出
消費(需要)増加
域外資金獲得
地域経済循環の活性化
⑤地域価値向上効果
④生産費用効果
各種温暖化対策実施
各種温暖化対策実施
【不確実性】 【時間範囲】 【地理範囲】
エネルギー費用削減
GHG削減
製品・サービスの供給費用低減
地域価値の向上
生産波及効果
住 民 効用向上
消費(需要)増加
小さい
高い
長期
地球
レベル
中間
中期
地域
レベル
低い
短期
個人
レベル
cf.地域レベルの対策
●再エネ:被災時対応 等
●省エネ:公共施設等の共有利用空間快適性向上
●低炭素地域:移動利便性向上、コミュニティ形成等
●循環社会:コミュニティ形成、被災時対応 等
粗付加価値(粗利益・雇用者所得等)の増加
製品価格低下
地球環境保全(影響緩和)
居住環境の向上(健康性・快適性・安全性・生産性
等のNEB:ノンエナジーベネフィット) cf.省エネ住宅等
地域経済循環の活性化
エネルギー費用削減(省エネ等にともなう直接的・
実質所得増加
金銭的な経済利益)
cf.省エネ家電製品等
大きい
図Ⅰ-2-3.温暖化対策がもたらす地域経済効果の体系と各効果の発現構造
25
②b 循環効果
①初期投資の乗数効果
温暖化対策実施に伴う域内産業からの中間投
入増加に着目し、それがもたらす生産額等の変
化(波及効果に伴う変化含む)を分析・評価
温暖化対策の初期投資に伴い発生する
産業部門別最終需要額の変化に着目
し、それによる波及効果を分析・評価
第一次
第二次
第三次
環境
最終
1
2
3
a
需要
移出
移入
生産額
第一次産業
1
X11
X12
X13
X1a
F1
E1
M1
Q1
第二次産業
2
X21
X22
X23
X1a
F2
E2
M2
Q2
第三次産業
3
X31
X32
X33
X1a
F3
E3
M3
Q3
環境産業(再エ a
ネ供給産業等)
Xa1
Xa2
Xa3
Xaa
Fa
Ea
Ma
Qa
粗付加価値
V1
V2
V3
Va
生産額
Q1
Q2
Q3
Qa
④生産費用効果
③移出効果
②a.移入削減効果
温暖化対策実施に伴うエネルギー費用低
減がもたらす粗付加価値の変化に着目
し、それがもたらす域内生産額等の変化
(波及効果に伴う変化含む)を分析・評
価
温暖化対策実施に伴う環境財・サ
ービスの移出変化に着目し、それ
がもたらす域際収支等の変化(波
及効果に伴う変化含む)を分析・
評価
温暖化対策実施に伴う化石燃
料等の移入額の変化に着目し、
それがもたらす域際収支変化
(波及効果に伴う変化含む)を
評価
⑤地域価値向上効果
温暖化対策実施に伴
う地域価値向上に見
合うだけの住民負担
(労働・金銭)許容量
を CVM/コンジョイ
ント分析により効果
を計測する。
地域レベルの温暖化対策実施
住民の協力・参加・参画・
協働
●再エネ:市民共同再エネ発電所等
●省エネ:地域省エネ診断等の仕組みづくり 等
●低炭素地域:地域エネルギー供給システムの導入等
●循環社会:地域循環システム形成 等
●個人レベル:省エネ行動、緑化参加、ごみ分別等
●地域レベル:市民共同発電所等の地域システム導入の
際の発案、計画、合意形成、導入、運営、更新等の各段
階における参画
CVM/コンジョイント分析による効果計測
住民負担発生
(労働[時間]・金)
地域価値向上
(公的投資削減等)
温暖化対策による地域価値向上に対して、どの程
度の負担を許容するかをWTP(支払い意思額)/
WTW(奉仕労働量)により計測・評価する。
●再エネ:インフラ整備費用削減、被災時対応 等
●省エネ:インフラ整備費用削減、公共施設等の共有利
用空間快適性向上 等
●低炭素地域:公的空間の緑化費用削減、移動利便性
向上、コミュニティ形成等
●循環社会:ごみ処理場整備費用削減、コミュニティ形成、
被災時対応 等
図Ⅰ-2-4.温暖化対策がもたらす地域経済効果の計測イメージ
26
本研究(新規性)
既存研究
⇒域外資本と域内資本の差異等、温暖化対策事業の実施形態の違いによ
る地域経済効果への影響を分析するため、本社部門等が域外にあった
場合の事業利益(粗付加価値)の域外流出等の効果を計測する産業連
関分析の考え方、手法等を検討する。
③地域資源循環系形成の経済効果分析手法
⇒地産地消型の地域資源循環系を形成した際に、その物質フロー(再生
資源等含む)とリンクした地域産業連関表を構築し、地域への経済効
果を分析する考え方、手法等を検討する。
④地産地消促進策の経済効果分析手法
⇒温暖化対策により地域で所得が増加しても、その消費が域外で行われ
ることになれば、やはり経済効果が域外に漏出するため、地域経済循
環の下流側(最終需要側)における対策として、地域通貨等を用いて、
地元産品を域内で消費することを促進した場合の地域経済効果を分
析する考え方、手法等を検討する。
⑤地域改善への関与がもたらす満足度を測る WTW 分析手
法
⇒地域レベルでの地球温暖化対策への参加・参画を通じて、地域価値が
向上することによる満足度を測るWTW分析の考え方、手法等を検討
する。通常の WTP による分析は、環境水準の変化に対する満足度を
計測するが、WTW は、地域の社会・経済環境水準が将来的に変化す
ることが見込まれた場合に、その水準の維持・向上に自ら寄与する行
為に対する満足度という意味合いをもつ。また、行為の結果、労働力
の投入という形で市場経済に影響を与える部分があると考えられる
ため、地域産業連関分析とも接点を持つ。
図Ⅰ-2-5.本研究の手法面での新規性
27
c.二つの分析手法の接点
自然環境保全等の満足度を
測るWTP 分析手法
②導入形態による地域経済効果分析手法
( 奉 仕 労 働 量 ) を 市 場価 値 化 さ れて い な い 投 入 要 素 と み な し 、
WTW
地域産業連関表との対応 等を整理
単 一環境産業部門(木質バイオマス 部門等)の分析手法
b.非市場価値分析
⇒森林総合産業部門(林業+製材業+森林バイオマス+森林サービス)、
複合再生可能エネルギー部門(バイオマス+風力+小水力+太陽光)
等、地域の環境経済政策のターゲットとなっている産業部門全体をカ
バーする複合産業部門を想定し、政策全体の効果を把握計測する考え
方・手法等を検討する。
非 市 場価 値 で 計 測 さ れ る
a . 環 境産 業分 析 用 地 域産 業 連 関 分 析
①関連産業部門を含めた複数部門分析手法
表Ⅰ-2-9.分析シナリオ一覧
シナリオ
種類
①太陽光発電
の地域経済効
果分析
②風力発電の
地域経済効果
分析
③木質バイオマス
エネルギーの地域
経済効果分析
④循環型社会
形成による地
域経済効果分
析
⑤温暖化対策
がもたらす非
市場経済効果
分析
候補
地域
対策オプション
A.域外資本によるメガソーラーの設置
B.域内資本によるメガソーラーの設置(市民発電所等)
C.住宅等での個別設置への支援
A.域外資本によるウインドファームの設置
B.域内資本によるウインドファームの設置(市民発電所
等)
A.森林総合産業のコア事業としての木質バイオマスエ
ネ導入
B.再生可能エネルギーポートフォリオの一つとしての木質バ
イオマスエネ導入
C.地域通貨と連携した木質バイオマスエネ導入
再生陶磁器技術を活用した温暖化対策
(地産地消型/広域連携型)
地域範囲・特性
市町村規模
都道
府県
B.コンパクトな都市づくり
小
再
省
低
分析手法*2
循
産
高知県
○
○
○
北海道
・北東北
○
○
○
○
○
北海道
下川町、
高知県
梼原町
○
愛知県
瀬戸市
A.市民参加型再生可能エネルギー等の導入
大
中
対策種類*1
○
長野県
飯田市
富山県
富山市
○
○
○
○
○
○
○
○
○
*1.【再】再生可能エネルギー導入促進、【省】省エネ等活動促進、【低】低炭素地域づくり、【循】循環型社会形成
*2.【産】環境産業分析用地域産業連関分析、【環】非市場価値評価分析(CVM による WTW 分析等)
表Ⅰ-2-10.温暖化対策に係る地域環境経済分析・評価のために必要となる情報項目
種類
項目
地域経済循環に
z
主要産業の移出入関連データ
係るデータ
z
主要産業の生産・販売関連データ
z
事業活動内容・分類(既存分類、新規分類等)
a.地域レベルの
温 暖 化 対策 に
環境産業関連デ
z
事業規模関連データ(産出額・販売額等)
係 る 環 境産 業
ータ
z
投入構造データ(産業別中間投入、営業余剰、雇用者所得等)
分 析 用 地域 産
z
販路データ(産業別中間需要、域内最終需要、移出需要等)
業連関分析
z
環境効果(CO2 削減効果等)
z
クレジット関連データ(クレジット単価、創出・販売状況等)
z
関連産業データ(観光産業への視察数等)
z
取組内容(主体、時期、実施内容、事業規模)
z
効果(環境効果、地域への影響・効果)
z
コスト・費用
z
取組における参加・参画等の形態
z
地域の住民参画状況に関する情報(地域組織、参加人数等)
その他
b.地域レベル温
地域レベルの温
暖 化 対 策が も
暖化対策の内容
た ら す 環境 価
に関する情報
値分析
地域情報
28
非
○
(3)温暖化対策が地域に与える経済効果を統合的に評価するための考え方・評価指標等の検
討
1)実施概要
温暖化対策が地域に与える効果を、環境性、事業性、地域経済性の 3 側面から捉え、それらを
促進する政策に反映させるために必要となる評価の考え方等について検討した。
2)実施項目・内容
以下に、研究作業の実施項目と内容を整理する。
①温暖化対策の統合的評価の考え方等に関する既存文献等のレビュー
環境面、経済面等、複数の側面からの影響の統合的な評価に関する既存文献等をレビューし
た。
②温暖化対策の地域経済効果の総合的評価の考え方・指標等の整理
行政現場ニーズ等を踏まえつつ、地域レベルでの温暖化対策が地域に及ぼす影響・効果を統
合的に捉えるための考え方・指標等を整理した。具体的には、地域レベルでの温暖化対策が地
域に与える環境面、経済面、社会面での影響・効果を統合的に捉えるためのアウトプット指標
や、これと公的投資・支援(インプット)との関係性等について検討・整理(体系化)した。
特に、経済面、社会面の影響効果については、地域全体としての効果(経済波及効果、域際収
支改善効果、住民満足度向上等)に加え、それらの効果・影響を主体別に捉えるための表現方
法についても検討・整理した。
③研究成果の整理、環境経済政策への示唆の考察、及び、とりまとめ
上記結果を整理するとともに、環境経済政策への示唆について考察し、報告書として取りま
とめた。
29
3)研究結果・成果
以下に、研究結果・成果を整理する。(図Ⅰ-2-6参照)
○温暖化対策が地域にあたえる影響・効果を総合的に捉える考え方等の整理
地域レベルでの温暖化対策が地域に与える影響・効果を経済面、社会面、環境面から統合的
に把握するための考え方等を整理した。
a.地域レベルでの温暖化対策への公的支援と地域効果の関係性の整理
地域レベルでの温暖化対策への公的支援と温暖化対策が地域にあたえる効果の関係性に
ついて環境面、経済面、社会面それぞれの側面において検討し、その全体像を示した。
b.温暖化対策の地域効果評価に関するインプット/アウトプットの整理
地域レベルでの温暖化対策に対する公的支援・投資をインプット、地域に与える影響・効
果をアウトプットとして整理した。またアウトプットについては、経済分析から算定される
数値から指標を想定するとともに、地域全体としての効果のみならず、地域内の主体(各産
業事業者、住民、行政等)への帰着を表現する考え方を検討・整理した。
○評価結果を統合的に捉え地域環境経済政策反映に結び付けるための考え方の整理
環境経済分析結果を統合的に捉え、どのように政策に反映していくかについて、効率性(費
用対効果)、公平性(効果帰着)、実現可能性(予算制約、住民参加可能性等)といった観点か
ら、政策判断に活用するための考え方や活用案(温暖化関連地域計画の進捗管理指標に使う、
他分野の関連計画に位置付ける等)を検討・整理した。
対策シナリオ・オプション毎に各指標(政策指標、地域経済効果指標)を比較考慮することにより政策を判断
初期投資
・域内事業者
・域外事業者
助成(イニシャル・ランニング)
環境産業分析地域産業連関表による分析
①初期投資に伴う乗数効果/②エネルギー代替効果(b.循環効果)
初期段階:各種施設投資(費用発生)
運用段階:維持管理サービス、原材料等の提供
利益創出、配当、雇用者所得配分、納税 等
地域産業の需要増加
人員
消費(需要)増加
運用時中間投入
・域内事業者
・域外事業者
・維持管理サービス
・土地代 他
域外に依存していた化石燃料等の移入削減
③移出効果(a.財・サービス移出効果、b.環境価値移出効果)
域内事業者育成
技術情報等の整備・提供
税制優遇
初期需要創出
(公共事業等)
普及啓発
(需要喚起、参加喚起等)
④生産費用効果
エネルギー費用削減
社会面
CV調査によるWTW分析
⑤地域価値向上効果
再エネ供給
・サービス提供等
・域内中間需要
・域内最終需要
・域外移出
市民参画・協働
・市民出資
・ボランティア・ワーク
地域へのマルチ・ベネフィットの発生
住民の協力・参加・参画・協働
環境面
雇用者所得増加
税収増
域内留保資金増加
地域価値向上
その他(
公的空間・
資産等)
再エネ・サービス・クレジット等の域外移出増
人材・ノウハウ支援
粗付加価値創出
・利益・配当分配
・雇用者所得分配
・納税
(固定資産税、事業税等)
粗付加価値増加
②エネルギー代替効果(b.移入削減効果)
域際収支改善
空間・インフラ整備
域内生産額増加
支払意思額(WTP)
奉仕労働量(WTW)
温室効果ガス削減・吸収量の算定
GHG削減・吸収量
温室効果ガスの削減/森林吸収量の増加 等
図Ⅰ-2-6.環境経済評価結果を統合的に捉え政策に反映するための考え方
30
家計・
住民
手続円滑化
地域への影響・効果
経済面
生産波及
予算(
資金)
融資
・域内金融機関
・域外金融機関
行政・
公共
地域レベルの温暖化対策実施
産業部門 n
温暖化対策促進施策
事業リスク分担・共有
主体別効果帰着指標
産業部門 1
公的投資
等
地域経済効果指標
(アウトプット)
・
・
・
政策指標
(インプット)
(4)事例調査・理論モデル検討等を踏まえた地域での環境経済政策の方向性等に関する示唆
の整理
1)実施概要
上記(1)~(3)の研究を踏まえ、政策インプリケーションとなる知見等を整理した。
2)実施項目・内容
以下に、研究作業の実施項目と内容を整理する。
①温暖化対策に係る地域環境経済政策の検討・立案における留意点等の整理
本年度研究結果を踏まえ、地域経済へ好影響を与える温暖化対策を実施していくために必要
となる地域環境経済政策のあり方に関するインプリケーションとなる知見として、政策検討・
立案における留意点等を整理した。
②温暖化対策に係る地域環境経済分析・評価のために必要となる情報項目の整理
本年度研究結果を踏まえ、温暖化対策に係る地域環境経済政策の立案・実施に資する環境経
済分析・評価を行うために必要となる情報項目を整理する。
31
3)研究結果・成果
以下に、研究結果・成果を踏まえた地域環境経済政策のあり方に関する示唆、及び地域におけ
る温暖化対策検討の際に参考となる環境経済的知見について整理する。
○温暖化対策に係る地域環境経済政策の検討・立案における基本的考え方
本年度研究結果を踏まえ、地域経済へ好影響を与える温暖化対策促進政策の検討・立案におけ
る基本的考え方として、以下の点を整理した。
a.地域経済面・社会面に着目した取組推進
地域レベルでの温暖化対策を進める際には、地域経済面や社会面での効果に着目すること
が重要である。特に、初期段階では経済面・社会面で各主体間の合意形成を図り、取組を進
めていくなかで環境面の配慮が高まっていくような取組の進め方が重要である。
b.地域への影響構造・効果の把握とアカウンタビリティの確保
温暖化対策が地域経済に与える影響を構造的に把握することが重要である。特に、地域レ
ベルの温暖化対策がもたらす地域効果を具体的・定量的に伝えていくことで説明責任を果た
すことが重要である。
c.地域の実情に応じた定量的評価システム構築の必要性
取組効果を明確化し、合意形成を進めるためには、地域資源や課題等の地域状況に応じて、
温暖化対策事業・施策が地域にもたらす経済効果を計測し、その結果を政策検討に活かすた
めの定量的評価システムの構築が必要である。
○地域環境経済政策立案における具体的留意点
今年度研究結果・成果を踏まえ得られた地域環境経済政策(地域レベルでの温暖化対策)を進
めるにあたっての具体的留意点として、以下の点を整理した。
<地域資源を活用する際のポイント>
①幅広い地域資源を組み合わせて活用する
温暖化対策に直接必要な自然資源(自然エネルギー資源等)に加え、地域のアイデンティ
ティを高める資源、産業・知的・人的資源等の社会資源を併せて活用していく政策が重要と
なる。
<地域効果を具体化する際のポイント>
②地域経済効果を定量化し域内主体に伝える
省エネ、再エネ等の取組により、地域に残る資金額や、地域全体のエネルギーコスト削減
額を具体的に計算し、その結果を域内主体に示していくことで、取組へのインセンティブが
働くような政策が重要となる。
32
③地域住民等への利益還元する仕組みを整える
新規地域産業分野として温暖化対策関連産業を位置付けるとともに、周辺産業との連携や
事業への行政や住民参画(投資等)により、具体的メリット(利益配当等)が地域の住民や
事業者に還元される仕組みを整える政策が重要となる。
④先進取組の域内外への発信により環境面での地域ブランド化を図る
地域発展の方向性と軌を一にする環境産業等からの投資促進や住民満足度の向上につな
げるため、地域内の各主体と一体となった先進的な温暖化対策を推進し、その成果を域内外
に発信していくことにより、環境面での地域ブランド化を図る政策が重要となる。
<合意形成の際のポイント>
⑤地域にメリットが還元されるということを分かりやすい形で伝える
域内主体(地元企業、住民等)の投資によって事業がおこなわれ、地域の住民・事業者・
行政等に利益が還元すること(例.地域産業の活性化、住民への配当、自治体の税収増、地
域管理の公的コスト低減等)を明示することが重要となる。
⑥メリット還元型取組への地域住民等の参画を呼び掛ける
地域住民にメリットが還元されやすい仕組みを導入し、住民の事業への参画を促すことで、
“自分たちの事業”といった意識を醸成することが重要となる。
⑦地域の社会的課題との結びつきについての普及啓発を進める
温暖化や資源枯渇といった地球レベルでの課題への対応に加え、地域にとっての社会的課
題との関係性において住民参画等を呼び掛けることが重要となる。
<地域環境経済分析と政策反映のポイント>
⑧温暖化対策の政策オプションの優先度を判断する
地域環境経済分析結果(生産波及効果、雇用者所得効果、粗付加価値効果、税収増、奉仕
労働量等)を踏まえ、それらを実現するための公的支援のオプション及び、必要となる公的
費用を整理した上で、その費用対効果を比較検討し、どの政策オプションの優先度が高いか
についての判断材料とすることが必要となる。
⑨地域の温暖化計画の進捗確認として活用
地域環境経済分析におけるアウトプット項目を地域温暖化計画(実行計画)や関連計画(総
合計画、都市計画等)の効果指標として位置づけるとともに、その結果をモニタリングする
ことで、計画の進捗管理を行うこと等が重要となる。
33
○温暖化対策に係る地域環境経済分析・評価のために必要となる情報項目
a.地域レベルの温暖化対策に係る環境産業分析用地域産業連関分析
—
—
—
地域経済循環に係るデータ
z
主要産業の移出入関連データ
z
主要産業の生産・販売関連データ
環境産業関連データ
z
事業活動内容・分類(既存分類、新規分類等)
z
事業規模関連データ(産出額・販売額等)
z
投入構造データ(産業別中間投入、営業余剰、雇用者所得等)
z
販路データ(産業別中間需要、域内最終需要、移出需要等)
その他
z
環境効果(CO2 削減効果等)
z
クレジット関連データ(クレジット単価、創出・販売状況等)
z
関連産業データ(観光産業への視察数等)
b.地域レベル温暖化対策がもたらす環境価値分析
—
—
地域レベルの温暖化対策の内容に関する情報
z
取組内容(主体、時期、実施内容、事業規模)
z
効果(環境効果、地域への影響・効果)
z
コスト・費用
z
取組における参加・参画等の形態
地域情報
z
地域の住民参画状況に関する情報(地域組織、参加人数等)
34
2.3
対外発表、ミーティング開催等の実施状況
2.3.1
対外発表
(1)海外研究機関における研究会開催
本研究では、海外先進地域での事例調査と合わせて、関係研究機関等において研究会を開催し、
意見交換を行った。次表に開催概要を示す。なお、これらの機関とは、関連する参考知見等の提供
等の情報交換や研究連携を継続していく予定である。
表Ⅰ-2-11.研究発表会開催概要
国
団体、地域
機関概要
日独での環境技術交流等の分野
に実績のある環境コンサルタン
ドイツ
ECOS
ト会社。シュタットベルクとよば
(Osnabruk)
れるエネルギー供給協同会社に
おける再生可能エネルギーの推
進等に関する豊富な情報を保有。
意見交換内容
本研究紹介・情報提供を行
うとともに、ドイツにおけ
る再エネ政策、地域エネル
ギー供給会社、市民出資の
地域性エネ事業、再エネ普
及促進活動等について意見
交換を実施。
大学研究機関。エネルギー技術・
Risø DTU
(Copenhagen)
デンマーク
SOG
(Copenhagen)
政策・CO2 削減の研究。再生可能
本研究紹介・情報提供を行
エネルギーをエネルギーシステ
うとともに、デンマークに
ムに統合する方法を検証してい
おける風力発電における地
る。
域主体の出資と利益還元、
エネルギー効率・風量・バイオ燃
市民参加、再生可能エネル
料などの取り組みを産業全体に
ギーの経済効果に関する研
広げることを中心に活動。情報発
究状況等について意見効果
信による自治体同士のかけ橋の
を実施。
役割を率先。
アムステルダム都市圏の知識経
済とイノベーションを推し進め
るために、アムステルダム市によ
Amsterdam
オランダ
Innovatotion
Motor (AIM)
って 2006 年に設立された団体。
持続可能な都市を目指すプロジ
ェクトである Green Metropole、
Amsterdam Smart city などの推
進母体として、企業、研究機関、
政府、その他の団体との調整役を
担う。
35
本研究紹介・情報提供を行
うとともに、アムステルダ
ムにおけるスマートシティ
の取り組み等について意見
効果を実施。
(2)国内関係機関への研究紹介・情報交換等
国内の先進的な地域・機関に対して研究紹介や情報交換を行った。これらの地域・機関とは、継
続的な情報交換等を図る。また、一部地域については、各地域の行政ニーズや最新データを反映し
たケーススタディを実施する。
表Ⅰ-2-12.研究紹介・情報交換等の対象地域(例)
地域
関係機関等
連携内容
本研究紹介、地元資本の再エネ導入政策等に関する
高知県
高知県(行政機関)
継続的情報交換、メガソーラー等に関するケースス
タディ協力
下川町(行政機関)/し
本研究紹介、森林総合産業、環境未来都市計画反映、
北海道
もかわ森林未来研究所
地域通貨、クレジット創出等に関する継続的情報交
下川町
(研究機関)/森林組合、 換、木質バイオマスエネルギーの地域経済効果分析
地域事業者、NPO
等
のケーススタディ協力
本研究紹介、複合型再生可能エネルギーのポートフ
高知県
梼原町
梼原町(行政機関)等
ォリオ形成等に関する継続的情報交換、木質バイオ
マスエネルギーの地域経済効果分析のケーススタデ
ィ協力
長野県
飯田市(行政機関)/地
飯田市
域再エネ事業者
等
本研究紹介、市民参加型再生可能エネルギー導入等
に関する継続的情報交換、市民参加型温暖化対策が
もたらす非市場経済効果分析のケーススタディ協力
本研究紹介、再生陶磁器技術を活用した温暖化対策
瀬戸市
瀬戸市(行政機関)/地
等に関する継続的情報交換、循環型社会形成とリン
場産業陶磁器関係事業者
クした温暖化対策の地域経済効果分析のケーススタ
ディ協力
36
2.3.2
ミーティング開催等
研究者間ミーティング、ワーキング等を 30 回程度開催した。
表Ⅰ-2-13.研究者間ミーティング、ワーキング等の開催状況
時期
議題
参加者
環境価値評価等に関する個別ミーティング①
大野、松本
地域産業連関分析等に関する個別ミーティング①
中澤、松本
環境価値評価、評価統合化等に関する個別ミーティング①
中谷、松本
環境価値評価等に関する個別ミーティング②
大野、松本
地域産業連関分析等に関する個別ミーティング②
石川、松本
前期:
地域産業連関分析等に関する個別ミーティング③
石川、松本
7~9 月
環境価値評価等に関する個別ミーティング③
大野、松本
地域産業連関分析等に関する個別ミーティング④
中澤、松本
地域産業連関分析等に関する個別ミーティング③
森田、松本
環境価値評価等に関する合同ワーキング①
大野、中谷、松本
中期:
10~12 月
後期:
1~3 月
地域産業連関分析等に関する合同ワーキング①
大野、石川、中澤、森田、松本
先進事例のとりまとめ等に関する合同ワーキング①
大野、石川、松本
地域産業連関分析等に関する個別ミーティング⑤
中澤、松本
環境価値評価等に関する個別ミーティング④
大野、松本
地域産業連関分析等に関する個別ミーティング⑥
中澤、松本
環境価値評価等に関する個別ミーティング⑤
大野、松本
環境価値評価、評価統合化等に関する個別ミーティング②
中谷、松本
地域産業連関分析等に関する個別ミーティング⑥
石川、松本
地域産業連関分析等に関する個別ミーティング⑦
森田、松本
地域産業連関分析等に関する合同ワーキング②
石川、中澤、森田、松本
環境価値評価等に関する合同ワーキング②
大野、中谷、松本
報告書取りまとめに向けた個別ミーティング①
中澤・松本
報告書取りまとめに向けた合同ワーキング①
大野・石川・松本、中谷
報告書取りまとめに向けた個別ミーティング②
石川・松本
報告書取りまとめに向けた合同ワーキング②
大野・石川・松本
報告書取りまとめに向けた個別ミーティング③
森田・松本
報告書取りまとめに向けた合同ワーキング③
大野・石川・松本
報告書取りまとめに向けた個別ミーティング④
大野・松本
報告書提出、評価委員会等に向けたとりまとめ
(数回程度)
報告書最終提出に向けたとりまとめ
等
大野、石川、森田、中澤、中谷、
松本
等
(数回程度)
大野、石川、森田、中澤、中谷、
松本
37
2.4
平成25年度の研究方針
(1)温暖化対策と地域経済活性化の両立に関する先進事例等の調査と把握に関する研究(事例
研究):
温暖化対策と地域経済活性化の両立を図る地域を支援する政策・施策等に関する先進事例
調査
[実施内容]
z
地域での温暖化及び地域活性化への取組を図る地域を支援する政策・施策等について調
査・考察する。
z
調査対象としては、国内各省庁及び都道府県等や、EU、欧州各国政府等の関連機関及び、
各種支援を受けている先進地域等から選定する。
[実施ポイント]
z
初年度研究では、先進事例地域において、産官民学が一体となり、地域全体として取り組
み成果を上げている状況等が把握された。そこで、次年度の政策・施策等に関する先進事
例調査では、地域レベルでの産官民学の連携体制及び、それらの活動基盤となる仕組みと
その支援政策・施策等を中心に調査を行う。
z
また既存の温暖化対策・施策においては、その進捗を管理・評価する指標として、どのよ
うなものが使われているのかについて調査・整理し、本研究における分析・評価項目との
関係性を整理する。
(2)温暖化対策が地域経済に与える影響・効果の定量化に関する研究(シミュレーション):
各種温暖化対策が地域経済に与える効果の定量化分析(複数地域でのケーススタディと地
域間比較)
[実施内容]
z
初年度に検討した地域経済波及効果や非市場価値向上を把握・計測する方法論をベースに、
具体的な地域における効果の定量化(ケーススタディ)を行う。
z
対象地域としては、環境モデル都市、環境未来都市等の先進地域の中から、地域の規模や
重点的に取り組んでいる温暖化対策の種類等のバランスを考慮して、本年度想定した分析
シナリオを参考に、複数地域を選定する。
z
各地域での分析結果については、地域特性(規模、産業構造、住民意識等)や分析対象と
する温暖化対策の取組内容よる経済効果の差異等について考察する。
[実施ポイント]
z
初年度研究では、複数のケーススタディ・シナリオを設定し、対象候補地域との連携体制
を構築した。次年度においては、各地域における関連行政機関等と連携し、適宜、最新の
地域情報等の提供を受けながらケーススタディ分析を実施する。
38
(3)温暖化対策の統合的評価と地域での環境経済政策への反映のあり方に関する研究(実装研
究):
温暖化対策の統合的評価のケーススタディ、及びその結果を地域行政計画に反映するため
の方法論の整理
[実施内容]
z
初年度成果、及び上述研究項目(2)で実施する各地域での地域経済効果のケーススタデ
ィ結果を活用し、具体的な地域を対象に温暖化対策の統合的評価のケーススタディを実施
し、定量化に際した課題や地域や温暖化対策種類による評価差異等について考察する。
z
さらに、評価結果を地域の行政計画(実行計画等)に反映するための方法論について整理
する。具体的には、統合的な評価結果を踏まえ、費用対効果や公平性に配慮した温暖化対
策・施策代替案選定の考え方、上位及び他の行政計画(総合計画、都市計画、産業振興等)
との連携の考え方等について整理する。
[実施ポイント]
z
初年度の研究において、地域情報の提供と連携体制構築が特に進んだ地域(北海道下川町
等)から分析対象地域を選定し、統合的評価及び行政反映のケーススタディを実施する。
(4)環境経済政策へのインプリケーションの整理及び提言:
温暖化対策の統合的評価と地域行政計画等への反映に関する政策的示唆の整理
[実施内容]
z
地域を支援する政策の先進事例調査結果等を踏まえ、温暖化対策と地域経済の両立を図る
自治体等への支援等に関する政策的示唆を整理する。
z
また温暖化対策の経済効果の定量化や統合的評価ケーススタディ結果から得られた知見
(地域特性や対策種類に応じた地域経済効果の差異等)を踏まえ、環境経済的知見を実行
計画等に反映させることの必要性や考え方等について普及啓発用する際に参考となる知見
を整理する。
[実施ポイント]
z
国レベルの行政ニーズに対応した政策インプリケーションの整理・提言に加え、ケースス
タディとして対象とした各地域に対して、地域での環境経済行政ニーズに対応した政策イ
ンプリケーションを整理・提言する。
39
Ⅱ
研究の実施内容
要約
(1)背景・ねらい等
少子高齢化、産業停滞、人口減少等の課題が山積している地方部等で、温暖化対策を効果的に進め
ていくためには、環境面での効果のみならず地域経済や社会面への影響・効果を明らかにすることが
重要であるが、その方法論等に関する知見蓄積は十分でなく、環境経済的な視点から政策現場に適用
可能な形での検討が求められている。海外先進地域では、地域資源を活用して温暖化対策と地域活性
化に同時に取り組んでいる事例や地域の関係主体が合意形成する取り組みが地元経済を活性化してい
る事例がみられる。日本においても、このような先進事例を模範としながら、日本型社会システムに
適合した地域温暖化対策促進のあり方を検討することが重要である。
本研究では、温暖化対策が地域経済に与える影響構造を明らかにするとともに、その効果を分析・
評価に関する考え方・方法論と具体例に関する材料・知見を示すことで、温暖化対策と地域経済が両
立する政策立案を支援するための知見を提供することを目指す。具体的には、温暖化対策が地域の環
境・経済・社会面に与える効果を環境経済分析手法(環境産業分析用産業連関表及び仮想市場法分析)
を用いて、分析・評価し、行政政策に反映するための考え方、方法論を検討する。また本研究は、地
方公共団体等における政策立案現場での活用に資することを目標としている。そのため、地域の具体
的な取り組みを対象に、関係自治体や研究機関との連携によりボトムアップ・アプローチで研究をす
すめ、政策現場での行政ニーズとの整合したアウトプットに努める。同時に、研究成果(地域環境経
済分析等)のノウハウを地域に移転していくといった点にも留意して研究を進める。
(2)本年度研究フェーズ・実施内容・結果・成果等
研究初年度は、特に「ロジック構築」「参考知見収集」「地域主体との連携体制構築」のフェーズと
なっている。具体的な研究項目・実施内容、研究結果・成果を以下に整理する。
1)温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例調査
温暖化対策を地域経済活性化に結び付けている国内外の先進取組等について最新状況を調査し、
取り組みのポイントや課題等について考察した。具体的には、①国内外先進取組・地域事例に関す
る文献調査等、②現地調査対象地域・機関等へのコンタクト、③現地調査詳細計画の作成及び調査
項目等の整理、④調査対象地域での現地調査実施といった項目を実施した。研究結果・成果として、
「温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例(温暖化に活用され
ている地域資源の種類・内容、地域課題・行政ニーズ、地域経済等への影響・効果、合意形成のポ
イント等)の把握」
「ケーススタディ対象地域における行政現場でのニーズ把握と連携体制構築」と
いった点を把握・整理した。
2)温暖化対策が地域経済に与える影響構造のモデル化、及び効果定量化のための基礎的知見
収集
各種温暖化対策から特に地域経済との関わりが深い対策を選定し、その影響構造をモデル的に整
理するとともに、各温暖化対策の地域経済波及効果を推計できる方法論を検討するとともに、関連
する参考知見を収集した。具体的には、①温暖化対策の地域経済への影響等に関する既存文献等の
40
レビュー、②温暖化対策の地域経済への影響関係の構造化、③温暖化対策の地域経済への波及効果
の定量化手法の検討、④地域温暖化対策がもたらす非市場的経済価値に関する整理、⑤温暖化対策
が地域にもたらす非市場経済価値の定量化手法の検討、⑥経済効果の定量化に必要となる基礎情報
の収集といった項目を実施した。研究結果・成果として、
「温暖化対策が地域経済に与える影響構造・
効果等の整理」
「効果定量化のための分析手法の検討・整理(環境産業分析用地域産業連関分析手法、
非市場価値分析手法等、両手法の接点)」「地域の環境経済行政ニーズを踏まえた分析シナリオの想
定及び参考となる知見収集」といった点を把握・整理した。なお、本研究における学術的新規性と
して、①関連産業部門を含めた複数部門分析手法、②導入形態による地域経済効果分析手法、③地
域資源循環系形成の経済効果分析手法、④地産地消促進策の経済効果分析手法、⑤地域改善への関
与がもたらす満足度を測る WTW 分析手法といった各種分析手法の検討や、⑥環境分析用産業連関分
析と CVM による WTW 分析の接点の検討等が挙げられる。
3)温暖化対策が地域に与える経済効果を統合的に評価するための考え方・評価指標等検討
温暖化対策が地域に与える効果を、環境面・経済面・社会面から捉え、それら政策に反映させる
際の考え方等について検討した。具体的には、①温暖化対策の統合的評価の考え方等に関する既存
文献等のレビュー、②温暖化対策の地域経済効果の総合的評価の考え方・指標等の整理といった項
目を実施した。研究結果・成果として、
「温暖化対策が地域にあたえる影響・効果を総合的に捉える
考え方等の整理(地域レベルでの温暖化対策への公的支援と地域効果の関係性の整理、温暖化対策
の地域効果評価に関するインプット・アウトプット項目の整理)」「評価結果を統合的に捉え地域環
境経済政策反映に結び付けるための考え方の整理」といった点を把握・整理した。
4)事例調査・理論モデル検討等を踏まえた地域での環境経済政策の方向性等に関する示唆の
整理
上記結果・成果を踏まえ、地域環境経済政策のあり方に関する示唆、及び地域における温暖化対
策検討の際に参考となる環境経済的知見について整理した。具体的には、
「温暖化対策に係る地域環
境経済政策の検討・立案における基本的考え方(地域経済面・社会面に着目した取組推進、地域へ
の影響構造・効果の把握とアカウンタビリティの確保、地域の実情に応じた定量的評価システム構
築の必要性)」、
「地域環境経済政策立案において参考となる具体的知見(地域資源を活用する際のポ
イント、地域効果を具体化する際のポイント、合意形成の際のポイント、地域環境経済分析と政策
反映のポイント)」「温暖化対策に係る地域環境経済分析・評価のために必要となる情報項目」等に
ついて、本研究を通じて得られた知見を整理した。
(3)次年度研究にむけて
次年度は、本年度研究において整理した知見(分析手法等)、及び分析シナリオを踏まえ、各地域
において定量的なケーススタディを積み重ねていき、そこから得られる知見や政策的示唆を取りま
とめる。
41
背景
z中長期的なGHG削減対策の必要性
z地方にある自然資源の活用が不十分
z高齢化・経済疲弊する地方における温暖化対策の難しさ(財政、住民の合意など)
目的
z温暖化対策が地域経済に与える影響を定性、定量的に分析
z市場価値(経済効果)および非市場価値(住民意識)を定量化する手法の検討
z政策に活かすための統合的評価の考え方等の検討
政策反映検討
分析手法検討
先進事例調査
z国内先進事例
1. 文献調査 ⇒ 取組事例、地域資源等
2. 詳細調査 ⇒ 地域課題・ニーズ等
z海外先進事例
1. 文献調査 ⇒ 取組事例、地域資源等
2..詳細調査 ⇒ 成功理由、地域効果等
(成果)
●地域資源の種類・内容
●地域課題・行政ニーズ
●地域経済等への影響・効果
●合意形成のポイント等)の把握
●ケーススタディ対象地域との連携体制
【 ※海外先進事例のポイント
⇒地域(地元)を中心に温暖化対
策による経済効果を明確化
⇒地元住民にメリットが還元する
仕組みがあり、合意形成が促進
されている(融資と還元など)
統合的評価の考え方
・指標
政策反映の考え方
等
市場価値分析
環境産業分析用産業連関表
非市場価値分析
WTWを用いたCVM法
(成果)
●地域経済への影響構造・効果等整理
●効果定量化のための分析手法整理
●分析シナリオ想定
●参考となる知見収集
(成果)
●地域にあたえる影響
・効果を総合的に捉える
考え方等の整理
⇒地域レベルでの温暖
化対策への公的支援
と地域効果の関係性
⇒温暖化対策の地域効
果評価に関するイン
プット・アウトプット項
目の整理
●評価結果を統合的に
捉え地域環境経済政策
反映に結び付けるための
考え方の整理
【 ※手法面での新規性
①関連産業部門を含めた複数部門分析
②導入形態による地域経済効果分析
③地域資源循環系形成の経済効果分析
④地産地消促進策の経済効果分析
⑤地域改善への関与がもたらす満足度
を測るWTW分析
⑥環境分析用産業連関分析とCVMによ
るWTW分析の接点
結論と政策インプリケーション
●温暖化対策に係る地域環境経済政策の検討・立案における基本的考え方
a.地域経済面・社会面に着目した取組推進
b.地域への影響構造・効果の把握とアカウンタビリティの確保
c.地域の実情に応じた定量的評価システム構築の必要性
↓
●域環境経済政策立案において参考となる具体的留意点
①幅広い地域資源を組み合わせて活用する
②地域経済効果を定量化し域内主体に伝える
③地域住民等への利益還元する仕組みを整える
④先進取組の域内外への発信(環境面での地域ブランド化)
⑤地域にメリットが還元されるということを分かりやすい形で伝える
⑥メリット還元型取組への地域住民等の参画を呼び掛ける
⑦地域の社会的課題との結びつきについての普及啓発を進める
⑧地域環境経済分析結果により政策オプションの優先度を判断する
⑨地域環境経済分析結果を地域の温暖化計画の進捗確認として活用
次年度に向けた課題
●先進事例調査
⇒地域レベルでの産官民学の連携体制、
活動基盤となる仕組み、支援対策、施策等
●効果分析
⇒対象地域の関連行政機関とのさらなる連携、
分析シナリオに基づいたケーススタディ分析
●政策反映
⇒ケーススタディ分析結果の統合的評価と
政策反映に関する具体的方法論、プロセスの
整理
●政策インプリケーション
⇒ケーススタディ結果等に基づく、国レベル、
地域レベルの環境経済政策に対する
インプリケーションの整理
図.本年度研究成果の概要(要約)
42
1.序論
序論として、研究の背景・必要性・ねらい、特徴・独自性・進め方の基本的考え方・方針、本年度
研究の位置づけ、全体の枠組み等について整理する。
1.1
本研究の背景・必要性・ねらい
本研究の背景となる社会動向・課題、本研究の必要性、本研究を通じて実現しようとするもの等に
ついて整理する。
(1)本研究の背景
温暖化対策を効果的に進めていくためには、技術開発や制度改革等の国レベルの取り組みに加え、
地域レベルで具体的な取組を積み重ねていくことが重要である。一方、地域では、少子高齢化、産
業停滞、人口減少等の課題が山積しているため、必ずしも温暖化対策の優先順位は高くない状況が
ある。このような状況を打破するためには、地域レベルでの地球温暖化対策を、環境・社会・経済
が統合・調和した持続可能な社会・地域づくりという文脈の中で検討していくことが必要となる。
近年、地域における課題を解決し、地域活性化を図るために、地域に賦存する各種資源を再発見
し、新たな活用方策を見つけることで付加価値の高い製品・サービスを開発・活用していく取り組
み(例.地域ブランド化、B 級グルメ等)が着目されている。一方、森林バイオマス等の地域資源
は、再生可能エネルギーの導入等の地球温暖化対策にも結び付くものである。そこで、環境問題(温
暖化問題)と地域問題を同時にとくためのカギとして「地域資源」に着目し、これを活用した持続
可能な地域づくりを活用していくことが重要となる。地球温暖化対策にも結び付く地域資源として
は、森林バイオマス、太陽光、風力といった自然資源が代表的であるが、これらを活用していくた
めには、地域産業や地域組織といった地域の経済的資源、社会的資源、人的資源を併せて活用する
ことも重要となる。
地域資源を活用して温暖化対策と地域活性化に同時に取り組んでいる先進事例は国内外に散見さ
れる。例えば、欧州(ドイツ、デンマーク、オーストリア等)は、風力やバイオマスといった地域
資源を活用して、地域の化石燃料消費を削減し、地域内から流出していた資金を地域内への投資に
振り向けることで、持続可能な地域づくりを進めている。国内でも、環境モデル都市や環境未来都
市に選定されている先進地域等(北海道下川町、高知県梼原町、長野県飯田市等)において、森林
バイオマス等の地域資源を活用した地域活性化の取り組みを進めている先進的な事例がみられる
(本編第 2 章参照)。
(2)本研究の必要性
上記からも示唆されるように、地域における温暖化対策実施における行政課題の一つとして、地
域経済活性化方策との連携をいかに行うかという点があげられる。地域経済に資する形での温暖化
対策の実施のあり方を検討する為には、温暖化対策の地域経済の影響構造を明らかにし、その効果
を定量化することが重要となる。
従前の温暖化対策の効果は、CO2 削減といった環境性、対策事業の採算といった事業性から、そ
の是非が判断されていた。このような視点からのみで判断すると、例えば、地域経済に好影響を与
えるが、事業単位でみると採算が合わない取組は行いにくくなる。しかしながら、温暖化対策によ
り化石燃料の使用削減による域外流出費用の抑制や、新規環境産業創出による経済波及効果・雇用
43
創出効果が見込まれることを勘案すると、事業性は悪くとも、地域全体の経済には良い影響を与え
る取り組みも存在すると考えられる。このような取り組みに対しては、環境性・事業性に加え、地
域経済性の視点からの評価を行い、必要に応じ公的支援を図ることが、地域全体からみて合理的で
ある。
今後、厳しさを増す財政状況の中では、限られた公的資金を最適投資すること、またその正当性
に関する説明責任を果たすことの必要性がますます高まることが予想される。その際、温暖化対策
による公的投資の是非を、地域全体への効果を勘案した視点から評価・判断する必要がでてくる。
その際、重要となる視点の一つとして、地域経済評価、環境経済評価の視点があげられる。温暖化
対策が地域にもたらす副次的な効果の全てを、経済面から分析・評価することには限界もあるが、
少なくとも、環境経済・地域経済の視点から地域効果を分析することにより、各種温暖化対策の地
域への影響・効果を比較考慮し、地域全体としてより合理的な政策判断を行うための材料を提供す
ることができる。つまり、どこにどれだけの政策資源(公的資金、人員等)を振り向けることが環
境・社会・経済面から考えて、地域にとって最適であるかといった点について、具体的かつ定量的
な手法を持って分析・評価(見える化)し、その結果を踏まえた政策判断を行うことが重要となる。
しかしながら、そのような環境経済的研究知見の蓄積は十分ではなく、政策現場に適用可能な形で
の知見蓄積が求められているといえる。
(3)本研究のねらい(めざすもの)
本研究では、環境対策(温暖化対策)と地域経済活性化を両立させる取り組みを、今後、国内各
地域で広げていくため、経済面や社会面と両立した地域レベルの地球温暖化対策に関する具体的な
シナリオを提示した上で、その環境面・経済面での効果を把握し、それらの取り組みを後押しする
政策・施策のあり方を検討し、その成果を社会還元していくことを目指す。より具体的には、温暖
化対策と地域経済に、どういう関係性・影響構造が存在するか、誰にどのような地域経済にどの程
度のインパクトがあるかといった点を明らかにするとともに、温暖化対策の地域経済効果を分析・
評価に関する考え方・方法論と具体例に関する材料・知見を示すことで、温暖化対策と地域経済が
両立する政策立案を支援するための知見を提供する。
その際、特に主眼を置くのは、地域の関係主体が合意形成しやすい取組が、結果として地域経済
の好循環、所得が回る効果を生みだし、地元経済を活性化していくというモデルを作ることである。
このようなモデルを実現するために、温暖化対策の環境面での効果のみならず、地域経済や社会に
与える影響・効果を捉える。海外先進事例をみると、例えば、デンマーク(コペンハーゲン)では、
地域住民・市民がお金を出し合うコミュニティが醸成されていることや、事業への出資の一部を地
域住民に割り当てることを規定した法律が整備されていることが市民風力発電(ウインドファーム)
が実現する背景・要因の一つとなっている。またアムステルダムでのコンソーシアム型の取り組み
や、ドイツでのエネルギー供給公社の取り組み等も地域社会に根差した組織形態が社会面での合意
形成に配慮しつつ、取り組みを進める仕組みとして機能している。一方、日本においては、社会面
への配慮が十分になされておらず、行政からの限定的な情報提供等にとどまっている状況がある。
欧州先進事例を模範としながらも、日本型の社会システムに適応した地域温暖化対策促進のあり方
を検討することが重要である。
そのため、本研究では、既存研究での環境面、経済面を捉えた分析・評価手法を踏まえつつ、仮
44
想市場法等の分析・評価手法を持ちいることで、温暖化対策が地域にもたらす効果を環境・経済・
社会面から総合的に捉え、その分析・評価結果を行政政策に反映するための方法論を検討する。具
体的定量的に捉えるための手法としては、環境産業分析用産業連関表(環境面、経済面)及び仮想
市場法分析(社会面)を想定する。またこれらの分析・評価結果を統合的に把握するために、各効
果が地域のどの主体に帰着するかを俯瞰的に整理した一覧を示す。さらに、その整理結果を政策投
資・支援の関係性を示すプロセスフローを模式化する。これらは、公的投資対効果を総合的に評価
し、取組の優先度等を判断する材料(基礎的知見)となる。
45
1.2
本研究の特徴・独自性
本研究においては、温暖化対策の地域環境産業連関分析、仮想市場法を用いた温暖化対策の環境
価値評価分析、及び、それらの分析結果の環境経済政策現場への反映を目指している。これらを実
施するにあたって、本研究の特徴・独自性がにどこにあるかについて以下に整理する。
(1)地域環境経済の産業連関分析における特徴・独自性
a.温暖化対策事業の地域への影響を環境経済面から分析
産業連関表を活用した温暖化対策事業の地域への影響を見た既存研究としては、主に経済波及
効果に伴う環境負荷排出量(CO2 等)の分析が中心となっている。一方、本研究では、環境産業
という視点から地域経済への影響を分析することに主眼を置く。
b.地域の具体施策に応じて分析対象範囲を拡大
温暖化対策の地域経済効果に焦点を当てた既存研究では、主に地域の自然資源を活用した再生
可能エネルギー導入事業に焦点を当てている。一方、本研究では、より広く温暖化対策全般を対
象とするとともに、温暖化対策に直接関連する環境産業だけでなく産業連関上密接な関わりを持
つ他産業(例.木質バイオマス部門に対する林業部門等)における経済効果を含めた複合的な分
析を行う。
c.環境産業分析用地域産業連関表作成手法の標準化とノウハウ移転
産業連関表を活用した温暖化対策の効果分析に関する既存研究は、主に全国表を活用したもの
が中心となっている。一方、本研究では、再生可能エネルギーや地場産業などの地域特性を考慮
した環境産業分析用地域産業連関表を作成するとともに、その手法の標準化、及び地域の行政機
関・研究機関へのノウハウ移転を図る。
(2)環境価値評価における特徴・独自性
a.対象範囲の拡大
環境価値評価における既存研究においては、主に自然環境の変化が人々の効用(満足度)にも
たらす影響に着目した分析を行っている。一方、本研究では社会・経済環境の水準変化や、自ら
の寄与(住民参加・参画等)にも着目し、これらが住民等の効用(満足度)にもたらす影響につ
いて分析する。
b.費用負担の多様性
環境価値評価における既存研究においては、主に金銭面での負担を WTP(支払い意思額:
willingness to pay)を尋ねることにより分析が行われている。一方、本研究では、人々が自発的
に労働を負担する側面があることにも着目し、WTW(奉仕労働量:willingness to work)によ
る分析を検討する。
(3)政策反映 における特徴・独自性
a.多面的な効果を持つ政策の評価
既存研究では、単独評価の積み上げる、個別提示する形が多いが、本研究では、温暖化対策が
46
地域にもたらす複数の効果をどのように統合的に評価・解釈するかを検討・提示し、政策判断へ
の貢献を目指す。
b.政策プロセス等への適用
既存研究では、評価結果の提示を主な目的としているが、本研究では、評価結果を政策プロセ
スのどの段階で活用が可能かについて、行政機関担当者等との連携のもと検討を進める。
(4)分析手法面での新規性について
a.環境産業分析用地域産業連関分析手法
既存研究では、単一の環境産業部門(例.木質バイオマス燃料部門等)を対象とした分析手法
が提案されているが、本研究では、新たな分析手法として、①関連産業部門(例.林業部門、森
林サービス産業部門、他の再エネ部門等)を含めた複数部門を分析する手法、②事業実施形態(例.
域外資本 or 域内資本)による地域効果の差異を分析する手法、③地域資源循環系の形成による地
域経済効果を分析する手法、④地産地消促進策(地域通貨等)の影響・効果を分析する手法等を
検討・整理した。
b.非市場価値(環境価値)分析手法
既存研究においては、主に自然環境等を対象とした WTP(支払意思額)ベースの分析手法に
関する研究がなされているが、本研究では、新たな分析手法として⑤WTW(奉仕労働量)も用
いて、地域の社会・経済環境の改善や環境産業の発展に自ら関与することがもたらす満足度を分
析する手法について検討・整理した。
c. 二つの分析手法の接点
上記の 2 つの分析手法の接点について検討した。具体的には、非市場価値で計測される WTW
(奉仕労働量)を市場価値化されていない投入要素とみなし、地域産業連関表との対応等を整理
する等の検討を行った。
47
本研究(新規性)
既存研究
⇒域外資本と域内資本の差異等、温暖化対策事業の実施形態の違いによ
る地域経済効果への影響を分析するため、本社部門等が域外にあった
場合の事業利益(粗付加価値)の域外流出等の効果を計測する産業連
関分析の考え方、手法等を検討する。
③地域資源循環系形成の経済効果分析手法
⇒地産地消型の地域資源循環系を形成した際に、その物質フロー(再生
資源等含む)とリンクした地域産業連関表を構築し、地域への経済効
果を分析する考え方、手法等を検討する。
④地産地消促進策の経済効果分析手法
⇒温暖化対策により地域で所得が増加しても、その消費が域外で行われ
ることになれば、やはり経済効果が域外に漏出するため、地域経済循
環の下流側(最終需要側)における対策として、地域通貨等を用いて、
地元産品を域内で消費することを促進した場合の地域経済効果を分
析する考え方、手法等を検討する。
⑤地域改善への関与がもたらす満足度を測る WTW 分析手
法
⇒地域レベルでの地球温暖化対策への参加・参画を通じて、地域価値が
向上することによる満足度を測るWTW分析の考え方、手法等を検討
する。通常の WTP による分析は、環境水準の変化に対する満足度を
計測するが、WTW は、地域の社会・経済環境水準が将来的に変化す
ることが見込まれた場合に、その水準の維持・向上に自ら寄与する行
為に対する満足度という意味合いをもつ。また、行為の結果、労働力
の投入という形で市場経済に影響を与える部分があると考えられる
ため、地域産業連関分析とも接点を持つ。(右記 c.参照)
図Ⅱ-1-1.本研究の手法面での新規性
48
c.二つの分析手法の接点
自然環境保全等の満足度を
測るWTP 分析手法
②導入形態による地域経済効果分析手法
( 奉 仕 労 働 量 ) を 市 場価 値 化 さ れて い な い 投 入 要 素 と み な し 、
WTW
地域産業連関表との対応 等を整理
単 一環境産業部門(木質バイオマス 部門等)の分析手法
b.非市場価値分析
⇒森林総合産業部門(林業+製材業+森林バイオマス+森林サービス)、
複合再生可能エネルギー部門(バイオマス+風力+小水力+太陽光)
等、地域の環境経済政策のターゲットとなっている産業部門全体をカ
バーする複合産業部門を想定し、政策全体の効果を把握計測する考え
方・手法等を検討する。
非 市 場価 値 で 計 測 さ れ る
a . 環 境産 業分 析 用 地 域産 業 連 関 分 析
①関連産業部門を含めた複数部門分析手法
1.3
研究を進めるに当たっての基本的考え方・留意点
本研究は、地方公共団体等における政策立案現場での活用に資することを目標としている。その
ためには、政策の現状やニーズと研究成果の齟齬が生まれないように留意することが重要である。
そのような趣旨から、本研究は、以下のような考え方に留意して進めていくものとする。
(1)ボトムアップ・アプローチにより研究への行政ニーズ等を把握する
環境経済的知見が蓄積されたとしても、政策現場レベルでの適用のためには、環境対策の地域
経済評価を政策現場で受け止められる形にしていくことが必要である。そこで、政策現場での現
状、ニーズ、キャパシティに合わせた分析・評価手法を提示することで、効果的かつ実現可能な
温暖化政策シナリオを、ボトムアップ的に見出していくものとする。さらにその結果を地方公共
団体の政策現場に提示すること等を通じて、研究知見の政策現場適用時における課題を洗い出し、
それへの対応方針を、研究面・行政面の双方から検討する。
(2)関係自治体や研究機関との連携により研究をすすめていく
具体的なケーススタディを進めていくため、事例調査等の機会を捉えて、地域行政機関に研究
紹介、協力打診を行い、本研究と地域での政策ニーズとのマッチングを図る。そのうえで、具体
的な対象フィールドを定め、関係行政機関等との研究協力体制を構築し、その連携のもとで研究
を進めていくものとする。
(3)地域環境経済政策現場でのニーズとの整合したアウトプットに努める
本研究で得られた知見・成果については、連携した行政機関や研究機関等にフィードバックし、
政策立案等への活用を図るものとする。なお、本研究は、「帰納的アプローチ」により、具体的
な地域での先進事例から見出される共通的な知見を収集・整理したうえで、
「演繹的アプローチ」
により、地域の現実の課題を踏まえた着実な分析手法、つまり環境分析の地域産業連関手法と非
市場価値の分析手法の構築を目指している。このようなアプローチにより、地方公共団体の政策
現場等での課題や行政ニーズに応じた、具体的な活用の姿を提示することが可能であると考える。
(4)研究成果(地域環境経済分析等)のノウハウを地域に移転していく
本研究の最終的な成果は、その結果としての知見のみならず、温暖化対策の地域経済効果の分
析・評価手法を含めて、自治体の関係研究機関等が継続的に担っていけるようにノウハウ移転を
図っていく。そのために、ケーススタディ実施を通じて、地域環境分析用産業連関表構築や非市
場価値分析(WTW分析)手法の標準化等を図るとともに、地域において継続研究が可能となる
担い手の発掘に努める。
49
1.4
本年度(平成 24 年度)研究の位置づけ
本研究は、関連分野における既存研究の知見・成果を踏まえつつ、先進事例等を参考に、地域への
経済効果が高いと見込まれる種温暖化施策・対策のオプション/シナリオを想定し、その地域経済効
果について分析、評価するとともに、政策に反映するプロセスについて検討するものである。
研究初年度である本年度は、特に「ロジック構築」
「参考知見収集」及び「地域主体との連携体制構
築」のフェーズとして位置づけられる。具体的には、1)温暖化対策と地域経済の両立を図る地域レ
ベルでの取組に関する先進事例を調査することで、取組のポイント等を整理する。併せて、2)各種
温暖化対策と地域経済の関係性を構造化した上で、3)温暖化対策の地域経済への影響・効果の計測・
評価方法の理論化を図る。さらに、4)経済効果が高いと思われる温暖化対策・施策のオプション・
シナリオを想定し、計測・評価方法論の具体化・詳細化を図る。加えて、5)地域経済効果の計測結
果の政策反映の基礎となる統合的評価の考え方を整理する。また、これらの検討にあたっては、現場
レベルでの地域ニーズを反映できるように、先進地域の自治体や関係機関との協議を行うとともに、
6)次年度以降において定量的分析・評価のケーススタディを実施するための連携体制を対象地域の
関係行政機関等との間において構築する。本年度における各種検討を踏まえ、次年度においては、各
地域においてテーマ別のケーススタディによる知見を蓄積し、最終年度では、それらの知見を総合的
に活用した地域環境経済の分析・評価、及び政策反映のあり方を示すこととなる。
初年度
(平成24年度)
中間年度
(平成25年度)
最終年度
(平成26年度)
(1)温暖化対策と地域経済
活性化の両立に関する先進
事例等の調査と把握に関す
る研究(事例研究)
(2)温暖化対策が地域経済
に与える影響・効果の定量
化に関する研究(シミュレ
ーション)
温暖化対策により地域経
済の活性化を目指してい
る先進取組等に関する事
例調査
温暖化対策が地域経済に
与える影響構造のモデル
化、及び効果定量化のため
の基礎的知見・データ収集
温暖化対策が地域に与える効果
を統合的に評価するための考え
方・評価指標等の検討
温暖化対策と地域経済活
性化の両立を図る地域を
支援する政策・施策等に関
する先進事例調査
各種温暖化対策が地域経
済に与える効果の定量化
分析(複数地域でのケース
スタディと地域間比較)
温暖化対策の統合的評価のケー
ススタディ、及びその結果を地
域行政計画等に反映するための
方法論の整理
温暖化対策と地域経済活
性化の両立に資する政策
手法の政策現場での適用
方策等に関する調査
複数の温暖化対策が地域
経済に与える効果の全体
像に関する定量分析(特定
地域における総合的ケー
ススタディ)
温暖化対策の地域経済効果の定
量化から地域行政計画への反映
に至る一貫したプロセスに関す
るケーススタディ
研究T
体制
大野、石川
松本
(3)温暖化対策の統合的評価と地
域での環境経済政策への反映の
あり方に関する研究(実装研究)
大野、石川、中澤、
中谷、森田、松本
外部
先進地域とのネットワークを有する機関
(環境自治体会議環境政策研究所、しもかわ森林未来研究所等)
大野、石川、中谷、
松本
(4)環境経済政策へのインプ
リケーションの整理及び提
言
事例調査・理論モデル検討
等を踏まえた地域での環
境経済政策の方向性等に
関する示唆の整理
温暖化対策の統合的評価
と地域行政計画等への反
映に関する政策的示唆の
整理
国及び地域レベルでの環
境経済政策に関する政策
提言(地方公共団体地域実
行計画及び策定マニュア
ルのあり方等)
大野、石川
松本
ケーススタディ対象地域自治体
(候補:環境未来都市【下川町等】など)
図Ⅱ-1-2.本年度研究の位置づけ
50
<ロジック構築>
<参考知見収集>
<地域主体との
連携体制構築>
テーマ別ケーススタ
ディによる知見蓄積
統合的ケーススタ
ディととりまとめ
1.5
調査・検討の全体像
本研究で実施する「先進事例調査」
「地域環境経済分析(地域環境産業連関分析)」
「地域環境経済分
析(地域環境価値評価分析)」が、相互にどのように関係しているか、またそれらがどのような点で「政
策インプリケーション」につながっていくかといった点について、本年度調査・検討の全体的な流れ
を整理する。
本研究は、温暖化対策が地域経済に与える影響としてはどのようなものがあり、それをどのように
計測・評価し、その結果を地域環境経済施策の立案・実施にどのように反映すべきかについて検討す
るものである。そのため、各種温暖化対策・施策の実施により、各価値がどのように発現・向上する
かといった影響構造を整理し、その影響・効果の把握手法を検討する。また同時に、国内外の先進的
取組を把握する。これらの結果を踏まえ、具体的な温暖化政策を分析・評価するためのシナリオを想
定する。最後に、評価結果を整理し、政策反映につなげるための考え方を整理する。
(1)検討手順
図Ⅱ-1-3.に、本研究における検討手順を示す。まず温暖化対策を実行計画策定マニュアル
における対策・施策分類等を参考に類型化し、各類型における地域単位での温暖化対策メニューと、
それらが地域にもたらす影響・効果を想定する。それらについて、国内外の先進的な取り組み事例
を調査するとともに、そこで得られた知見を踏まえて、ケーススタディ分析を実施する。ケースス
タディにおいては、先進地域を対象に典型的な地域レベルでの温暖化対策シナリオを想定した上で、
そこで想定される地域経済効果の把握方法を検討し、その効果分析・評価を行う。
1)温暖化対策の類型化/地域単位での温暖化対策の想定
2)地域への影響・効果の整理
3)先進事例調査(国内外)
4)ケーススタディ分析
a.各種分析シナリオ想定
b.地域経済効果の想定:市場価値、非市場価値
c.把握方法の検討:産業連関分析、CVM 等
d.地域経済効果の分析・評価
分析・評価結果の政策反映方策検討
図Ⅱ-1-3.本研究における検討フロー(概要)
1)温暖化対策の類型化/地域単位での温暖化対策
実行計画策定マニュアルに示された温暖化対策の類型(表Ⅱ-1-1)を参考に、①再生可能エ
ネルギーの導入促進、②省エネルギー等の活動促進、③低炭素都市・地域づくり、④循環型社会形
成の 4 区分に類型化する。
51
表Ⅱ-1-1.実行計画策定マニュアルにおける、対策・施策分野と主な内容
分野 1 太陽光、風力その他の化石燃料以外のエネルギーであって、その区域の自然的条件に適し
たものの利用の促進に関する施策
再生可能エネルギー分野に関する対策・施策
分野 2 その区域の事業者又は住民が温室効果ガスの排出の抑制等に関して行う活動の促進に関す
る施策
事業者又は住民が個別に実施する対策・施策
(再生可能エネルギー分野、自動車対策を除く)。
分野 3 公共交通機関の利用者の利便の増進、都市における緑地の保全及び緑化の推進その他の温
室効果ガスの排出抑制等に資する地域環境の整備及び改善に関する施策
都市計画・まちづくり(空間単位)に関する対策・施策:「地域環境の整備及び改善、土地利用・
交通分野」「地区・街区単位の対策、エネルギーの面的利用」「緑地の保全及び緑化の推進、熱環
境の改善」の3区分がある。
分野 4 その区域内における廃棄物等の発生の抑制その他の循環型社会の形成に関する施策策
循環型社会の形成に関する対策・施策:「廃棄物の発生抑制・再使用・再生利用等(CO2・CH4・
N2O 対策)」「熱回収等( CO2 対策)」「地域循環圏の構築」の3区分がある。
出典:地方公共団体実行計画(区域施策編)策定マニュアル第1版
本研究では、個々の主体が単独で行う取組よりも、地域単位で取り組むことが必要な温暖化
対策を主な対象とする。このような地域レベルの温暖化対策としては、例えば、表Ⅱ-1-2
のようなものがある。
表Ⅱ-1-2.地域レベルの温暖化対策の例
温暖化対策の類型
①再生可能エネルギーの導入
促進
②省エネルギー等の活動促進
③低炭素都市・地域づくり
④循環型社会形成
地域レベルでの対策例
共同太陽光発電・メガソーラー導入、共同風力発電、森林
バイオマス活用地域システム構築 等
地域省エネ診断等の仕組みづくり 等
コンパクトシティ、スマートコミュニティ、スマートシテ
ィ(地域エネルギー供給システムの導入、公共交通を中心
とした交通インフラ整備、地域緑化、 等)
廃棄物・資源循環システム構築(3R 対策)、地産地消シス
テムづくり 等
2)地域への影響・効果の整理
上記のような地域単位で取り組む温暖化対策がもたらす地域への影響・効果としては、例えば、
次のようなものが考えられる。再生可能エネルギーの導入においては、化石燃料費用等の流出抑制
のよる域内資源の留保・域際収支改善、被災時における非常時電源確保による防災性の向上等の効
果が考えられる。省エネルギー活動等の促進においては、地域単位で各主体が協働した取り組みが
地域コミュニティの熟度向上に資する面等が考えられる。低炭素都市・地域づくりにおいては、公
共交通網の整備等により、地域の移動利便性向上等が図られる。循環型社会形成においては、ごみ
処理場整備費用等の削減による公的負担や住民負担の軽減等が考えられる。このような温暖化対策
が地域にもたらす影響・効果(マルチ・ベネフィット)は、多様なものが整理されている(図Ⅱ-
1-4)。
52
(出所)「地域づくり WG とりまとめ」(平成 24 年 3 月 7 日、2013 年以降の対策・施策に関する検討小委員会)
図Ⅱ-1-4.低炭素地域づくりがもたらすマルチ・ベネフィット
3)先進事例対象地域の抽出
表Ⅱ-1-3に地域単位での温暖化対策の代表的なメニュー・概要及び、それらに対応する国内
外での代表的な先進取組地域を整理する。本年度研究では、これらの先進地域について調査を行っ
た。
4)ケーススタディ分析(シナリオ想定)
本年度研究では、各先進地域の調査結果等を踏まえ、温暖化対策が地域にもたらす影響・効果の
具体像を明らかにするための分析シナリオ候補を想定した。表Ⅱ-1-4に地域単位での温暖化対
策の影響・効果の分析シナリオの候補と対象となる地域経済効果および分析・評価方法を整理する。
53
表Ⅱ-1-3.地域単位での温暖化対策のメニューと先進事例
地域単位での温暖化対策
種類
対策・施策の概要
代表的メニュー
共同太陽光発電・
メガソーラー導入
マルチベネフィット
地域主体が出資して公共施設等に共同で太陽光発電を設置する。促進政策・施策としては、国レベルの
ものとしては FIT 活用やモデル事業の展開等、地域レベルでは公共空地等の提供、事業支援(税制優遇、
人材・ノウハウ支援等)等が考えられる。
地域主体が出資して公共空間等に共同で風力発電施設を設置する。促進政策・施策としては、国レベル
①再エネ導
共同風力発電
のものとしては FIT 活用やモデル事業の展開等、地域レベルでは公共空地等の提供、事業支援(税制優
遇、人材・ノウハウ支援等)等が考えられる。
入
森林バイオマス活
用地域システム構
築
森林資源から生産される木質バイオマス等を燃料利用する上流(林業等)
、中流(製材業、バイオマス燃
料製造業等)
、下流(需要施設等)が一体となった地域システムを構築。促進政策・施策としては、国レ
ベルのものとしては FIT 活用やモデル事業の展開等、地域レベルでは流通システムの構築、事業支援(税
代表的先進地域
高知県、長野県飯田市、ドイツ
地域での非常用エネルギーの
確保、他地域へのエネルギー依
存度の低減、非常用エネルギー
源の確保、インフラ維持コスト
の削減、行政効率の向上、低廉
な再生可能エネルギーの利用
など
(フライブルグ)
ドイツ(オスナブリュック、ダ
ルデスハイム)
、デンマーク(コ
ペンハーゲン)
北海道下川町、高知県梼原町、
和歌山県日高川町
制優遇、人材・ノウハウ支援等)等が考えられる。
他地域へのエネルギー依存度
②省エネ活
動
地域単位で家庭や小規模事業所を対象に省エネ診断を実施し、地域全体のストック改善(断熱性向上等) の低減、インフラ維持コストの
地域省エネ診断
を図る。促進政策・施策としては、国レベルのものとしては関連情報の整備・提供等、地域レベルでは
削減、行政効率の向上、地区・
人材育成、情報提供、普及啓発等が考えられる。
街区での安全・安心の提供、中
心市街地の活性化
千代田区、柏市等
など
中心市街地等の拠点部への集約性を高め、合わせて公共交通機関等を整備することで、利便性の高い生
コンパクトシティ
スマートコミュニ
ティ、スマートシ
ティ
④循環型社
会づくり
都市計画関連の制度改革(規制緩和等)
、モデル地域指定等、地域レベルでは低炭素都市づくり計画立案、
関連公共事業実施、関連民間事業支援(補助等)等が考えられる。
③低炭素地
域づくり
活圏等を形成するとともに、環境負荷を低減する。促進政策・施策としては、国レベルのものとしては
再生可能エネルギー等を含む複数のエネルギー源と需要家を結び、ICT 等による先進技術で需給コント
ロールを図る。促進政策・施策としては、国レベルのものとしてはエネルギー供給関連の制度改革等(規
制緩和等)
、モデル地域指定等、地域レベルでは関連計画立案、関連公共事業実施、関連民間事業支援(補
域内発生廃棄物や副産物の削減を図るとともに、地域内で再利用、再生利用するシステムを構築する。
システム構築(3R
促進政策・施策としては、国レベルのものとしては廃棄物処理関係の制度改革等(規制緩和等)等、地
対策)
域レベルでは人材育成、仕組みづくり、取組支援
づくり
富山県富山市
境の改善、日常生活のリスク低
減、生活の質の向上、自治体の
経営力強化、居住者の利便性、
地域経済への波及
神奈川県横浜市、オランダ(ア
ムステルダム)
助等)等が考えられる。
廃棄物・資源循環
地産地消システム
各種環境改善・保全効果、住環
等が考えられる。
地産の農林水産物等を域内で消費するとともに、有機性残さ等を地域内。に還元処理できるシステムを
構築する。促進政策・施策としては、国レベルのものとしては農林水産関係の制度改革等(規制緩和等)、
地域レベルでは人材育成、仕組みづくり、取組支援、地産製品の市場整備等が考えられる。
54
他地域への資源依存度の低減、
愛知県瀬戸市
インフラ維持コストの削減、行
政効率の向上
宮崎県綾町、徳島県神山町
表Ⅱ-1-4.地域単位での温暖化対策の影響・効果の分析シナリオの候補
温暖化対策
種類
代表的メニュー
③低炭素
地域づく
り
④循環型
社会づく
り
対象地域(候補)*1
市場
価値
非市場
価値
域際収支改善効果、域内循環効果を地域環境産業連関
分析で評価
住民満足度向上効果、CVM、コンジョイント分析で評
価
域際収支改善効果、域内循環効果を地域環境産業連関
分析で評価
市民参加型再生可能エネルギー導入による非市場価値
分析
◎長野県飯田市
風力発電(ウインドファーム)の地域経済効果分析
○北海道・北東北各県
○
森林総合産業のコア事業としての木質バイオマスエネ
導入
◎北海道下川町
○
再生可能エネルギーポートフォリオの一つとしての木
質バイオマスエネ導入
◎高知県梼原町
○
地域通貨と連携した木質バイオマスエネ導入
○日高川町
○
地域省エネ診断
地域省エネ診断
△千代田区、柏市等
○
住民満足度向上等 CVM、コンジョイント分析・非市場
価値(労働価値顕在化モデル)
コンパクトシティ
コンパクトな都市づくりによる非市場価値分析
○富山市
○
住民満足度向上等 CVM、コンジョイント分析・非市場
価値(労働価値顕在化モデル)
スマートシティ
スマートコミュニティ形成による非市場価値分析
△横浜市、北九州市
○
住民満足度向上等 CVM、コンジョイント分析・非市場
価値(労働価値顕在化モデル)
廃棄物・資源循環シス
テム構築(3R 対策)
再生陶磁器技術を活用した温暖化対策
→リサイクル分析の基本モデルとなる
◎瀬戸市
地産地消システムづく
り
自然資源をベースとした循環型地域づくり
○綾町、徳島県上勝町
共同風力発電
*1:◎優先度:高、○優先度:中、△優先度:低
○
経済分析・評価方法
◎高知県
森林バイオマス活用地
域システム構築
②省エネ
活動促進
シナリオ例
地域経済効果
太陽光発電の地域経済効果分析
共同太陽光発電・メガ
ソーラー導入
①再エネ
導入
分析シナリオ(候補)
○
域際収支改善効果、域内循環効果地域環境産業連関分
析、リサイクル、地場産業型
○
→テーマ内容、地域規模・特性、今年度研究における連携体制の構築状況等を考慮して検討
55
域際収支改善効果、域内循環効果を地域環境産業連関
分析で評価
○
住民満足度向上等 CVM、コンジョイント分析
(2)分析シナリオ(候補)の絞り込みについて
本研究では、各種温暖化対策(再生可能エネルギー導入推進、省エネ活動促進、低炭素都市・地域
づくり、循環型社会形成)の全体像を考慮しつつ、地域経済との関連が深いと考えられる施策・対策
のシナリオを想定し、その効果の分析・評価を進めていく。
具体的な施策・対策シナリオとしては、次年度以降における具体的地域を対象としたケーススタデ
ィの実施に留意しつつ、今年度研究の先進事例調査等で把握した施策・対策像や各対象地域との連携
構築状況を踏まえて、表Ⅱ-1-5.に示すものを候補として絞り込んだ。なお各地域における分析
シナリオは、参考となる先進事例の調査結果を踏まえて想定している。
表Ⅱ-1-5.分析シナリオの候補
候補地域
循 環型 社会 形 成
低炭素 都市・地 域づくり
省 エ ネ 等 活 動促 進
分析
小規 模
域経済効果
中規 模
光発電の地
名称
都道府県
(1)太陽
対策オプション
広域
分析
シナリオ
種類
対策種類
再エネ 導入 推進
市町村
地域範囲・特性
参考となる
先進事例
A.域外資本によるメガソーラーの設
ドイツ・フライブ
置
B.域内資本によるメガソーラーの設
○
高知県
○
ルグ、高知県、長
野県飯田市
置(市民発電所等)
C.住宅等での個別設置への支援
(2)風力
A.域外資本によるウインドファーム
発電の地域
の設置
経済効果分
B.域内資本によるウインドファーム
析
の設置(市民発電所等)
北
デンマーク・コペ
海
道・北東
○
○
ンハーゲン、ドイ
○
ツ・ダーデスハイ
北
ム他
A.森林総合産業のコア事業としての
(3)木質
木質バイオマスエネ導入
ハ ゙ イ オ マ スエ ネ ル
B.再生可能エネルギーポートフォリ
ギーの地域
オの一つとしての木質バイオマスエネ
経済効果分
導入
析
C.地域通貨と連携した木質バイオマ
オーストリア
北海道
ギ
ュッシング他、北
下川町
○
高知県
○
海道下川町、高知
県梼原町、和歌山
梼原町
県日高川町
等
スエネ導入
(4)循環
型社会形成
再生陶磁器技術を活用した温暖化対策
愛知県
(地産地消型/広域連携型)
瀬戸市
(5)温暖
A.市民参加型再生可能エネルギー導
長野県
化対策がも
入
飯田市
による地域
経済効果分
○
○
○
愛知県瀬戸市、美
濃、有田等
析
○
○
テルダム、長野県
たらす非市
場経済効果
分析
B.コンパクトな都市づくり
富山県
富山市
56
オランダ・アムス
飯田市、富山県富
○
○
○
山市
等
2.温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例調査
温暖化対策を地域経済活性化に結び付けている国内外の先進取組等についての調査結果を整理す
るとともに、その成功要因や課題等について考察する。
2.1
概観調査
文献調査、WEB 調査等により、温暖化対策と地域活性化に対する国内外の先進的な取組事例を概
観調査した結果を整理する。なお、調査にあたっては、特に、地域経済との関係性や地域への効果に
着目して整理を行った。
2.1.1 国内事例
国内で実施されている各種温暖化対策(再生可能エネ、住民・事業者活動、都市・地域づくり、循
環型社会づくり等)についての代表的な取組事例の調査結果を整理する。
(1)調査対象地域
都市部・地方部それぞれから、環境と経済・社会の両立を図る持続可能な地域づくりを先進的に進
めている「環境未来都市」
「環境モデル都市」を中心に、各種温暖化対策種類(再生可能エネルギー導
入促進、省エネ活動推進、持続可能な都市・地域づくり、循環型社会形成)において代表的な取組を
進めている地域を10地域程度選定し、その内容について整理した。下表に、調査対象地域を示す。
表Ⅱ-2-1.調査対象地域
対象
下川町
取組内容、キーワード
森林吸収、バイオマスエネルギー、
循環型森林経営、森林教育
地方部
梼原市
バイオマスエネ、風力、小水力
真庭市
バイオマスエネルギーの高度利用、
バイオマスツアー
都留市
小水力発電、アクアシティ
綾町
森林保全、循環型農業
瀬戸市
再生陶磁器、地場産業活性化
横浜市
市民活動、住民参加型リサイクル、
再
省
地
備考※2
循
モデル
未来
○
○
○
○
○
○
○
○
都市部
未利用資源回収、ごみ減量、スマー
トシティ
取組種類※1
○
○
○
○
○
○
○
○
等
千代田区
省エネ診断、グリーンストック作戦
富山市
交通・コンパクトシティ
北九州市
エコタウン(総合)
○
○
○
○
○
○
○
○
※1
再:再生可能エネルギー、省:省エネ活動、地:低炭素都市・地域づくり、循:循環型社会づくり
※2
モデル:環境モデル都市、未来:環境未来都市
57
(2)調査結果
調査対象地域の一覧を表Ⅱ-2-2に示す。また各地域における取組詳細、及び調査結果を、
巻末資料編:【1】国内先進地域における取組内容調査結果(概観調査)に整理する。
表Ⅱ-2-2.国内調査対象地域(一覧)
対象
取組概要
森林総合産業、循環型森林経営の実施・ヤナギ事業「バイオコークス」の実
下川町
施・森林バイオマスエネルギー導入事業
(地域熱供給システム)の実施・
カーボンオフセットの実施、プロジェクトの資金調達にも貢献できる「カー
ボンオフセット」導入により CO2 削減
等
風力発電による売電益活用・森林資源の循環利用・町産材(木材)やエネルギ
梼原市
ー(小水力発電)の積極利用、環境先進企業、高知県とパートナーズ協定を締
地方部
結し、豊かな森を守り・育てる活動
等
市民協働によるコンセプト「エコハウス」(小水力発電、水の再利用、森林再
都留市
生、地域素材活用、長寿命化、3R)、小水力発電の先駆的取組、都留市内の
森林業再生や地域活性化策に向け、バイオマスエネルギーを有効活用推進
等
綾町
瀬戸市
綾の照葉樹林プロジェクト・自然と共生・調和した町づくり・ユネスコエコ
パークに登録・地産地消の推進
等
地場産業活性化、Re 瀬ッ戸商品、リサイクル原料を活用した「リセット(Re
瀬ッ戸)」商品の普及、瀬戸焼ブランドの再強化プロジェクト等
住宅ゼロエミッション・市民出資の事業体「横浜グリーンパワー」、一定規
模以上の施設でカーボンオフセットの義務付け・環境ポイント制度(港北ニュ
横浜市
ータウン、Y150)・公共交通の充実と環境 PR、長野県内の市町村、飯田市等
との連携によって脱温暖化連合「大都市・農山村連携モデル」を構築。カー
ボンオフセット等
既存の建物・設備への省エネ促進を対象としたグリーンストック作戦・省エ
都市部
千代田区
ネ診断による省エネ対策支援、地方設置の市民風力発電の直接電力購入や木
質バイオマスプロジェクト
等
公共交通沿線での都市の諸機能の集積・再生可能エネルギー利用・森林、伝
富山市
統産業などの地域資源の有効活用、産業振興、人に選ばれる都市として市民
税の獲得・都市活動の活発化による市税獲得
等
小倉都心、黒崎副都心の低炭素型まちづくり推進・北九州環境みらい学習シ
北九州市
ステム(ESD)
・産学官民の協働意識を活かした全市的な
3R推進活動、
アジア低炭素化センター環境ビジネスの海外展開を支援し、地域経済の活性
化を目指す等
以下に、上記各地域における取組状況を踏まえて把握した知見を整理する。
58
1)活用されている地域資源
地域で活用されている地域資源は、大きく自然資源と社会資源に分けられる。自然資源として
は、特に地方部において、太陽光・風力・小水力等の再生可能エネルギー源、林地残材・家畜排
せつ物等の未利用資源、森林・湧水等の環境資源、地場産品の原材料となる陶土といった多様な
資源が活用されている状況がわかる。一方、都市部では、太陽光等の再生可能エネルギー等にあ
る程度限定的な活用となっている。
次に、社会資源の活用をみると、地方部では、森林組合、製材業、林業、農業等、自然資源を
取り扱う一次産業事業主体の活用がカギとなっている。また、大学等の地域研究機関や外部企業、
地元産業団体等との連携や、観光産業との連携も進められている。一方、都市部では、住宅メー
カー、エネルギー事業者、交通事業者等の都市・地域インフラに係る産業との連携が中心的な役
割を担っている。また、集積のある大規模事業者や専門研究機関との連携・活用による取組が推
進されている。
地域
下川町
梼原市
真庭市
地
方
部
都留市
綾町
瀬戸市
横浜市
都
市
部
千代田
区
富山市
北九州
市
表Ⅱ-2-3.先進事例地域で活用されている地域資源の例
活用している地域資源の例
自然資源
社会資源
森林資源
森林組合、製材業
地中熱、風力、小水力、
スギ、ヒノキなどの町産 林業、製材業、矢崎総合株式会社
材
林地残材、家畜排泄物、
農業残渣、食品廃棄物等 真庭木材事業協同組合、真庭観光連盟、バイオマ
を 含 む 多 方 面 に お け る スツアー関連事業者
バイオマス利用 等
森林、富士の湧水(十日 都留市エコハウス地域推進協議会、製材業、建設
市場、夏狩湧水群)
業、都留文科大学
照葉樹林、湧水、域内で
発生するゴミ、畜産廃棄
農業、観光産業
物、もみがら、野菜残さ
など
地元産業関係団体、試験研究機関、愛知県陶磁器、
瀬 戸 焼 の 原 料 と な る 陶 工業協同組合、瀬戸商工会議所、瀬戸焼(および
土 等
それに蓄積される技術、伝統、知恵)、分別協力し
ている市民
スマートシティ関連事業者(エネルギー事業者、
住宅メーカー、IT 事業者等)
早稲田大学、芝浦工業大学、地球温暖化防止活動
推進センター、省エネルギーセンター、不動産関
連団体、省エネ技術専門家などで構成される産官
太 陽 光 等 の 再 生 可 能 エ 学連携実行組織「(仮称)サポートセンター」、千代
田区地球温暖化対策懇談会・WGグループ、CE
ネルギー源 等
S推進協議会会員、大学、地元企業、NPO等の
知的資源、千代田エコシステム(CES)推進協議会
富山大学や富山市新産業支援センターなどの学術
機関、商工会議所、住宅メーカー等
北九州市、太陽光発電普及促進協議会、電源開発
㈱、各種バス、鉄道会社、輸送業者
59
2)地域への効果
先進事例の取り組み内容から、温暖化対策が地域へ及ぼす効果を経済面、社会面、環境面の3
つの面から整理する。経済面においては、「温暖化対策事業による直接的な効果」「ソフト施策に
伴う間接的な効果」「関連事業による間接的な効果」、社会面においては、「快適性向上」「利便性
向上」「地域活力の向上」、環境面においては、「温室効果ガスの削減・吸収」「廃棄物削減」「自
然保全」といった類型が考えられる。表Ⅱ-2-4に温暖化対策が地域に及ぼす効果の体系・内
容を、表Ⅱ-2-5に先進地域における温暖化対策が地域に及ぼす効果の例の一覧を示す。
表Ⅱ-2-4.先進地域における温暖化対策が地域に及ぼす効果の体系
効果の体系
・
・
温暖化対策事業によ
る直接的な効果
経済面
ソフト施策に伴う間
接的な効果
・
・
・
・
・
地域ブランド化に伴
う間接的な効果
・
・
快適性向上
社会面
・
・
利便性向上
地域活力の向上
環境面
温室効果ガスの削
減・吸収
廃棄物削減
自然保全
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
効果の内容
エネルギー費用の削減
地域資源(森林、畜産廃棄物、陶土等)の活用による1
次産業や地場産品製造業の活性化、雇用創出
環境関連製品・サービスを生産・販売にともなう投資(イ
ニシャルコスト)や中間需要増による経済波及効果
域外との連携による流入資金の増加
環境プログラム関連職員の雇用創出
認証・制度による資金流入(カーボンオフセット、FSC
認定)
観光客増加による地域活性化(エコツーリズム、相乗的
なイメージアップ)
地域イメージアップによる競争力強化・機能集積等によ
る民間投資推進、企業誘致効果
森林整備などによる美しい景観・レクリエーション等の
場の創出
環境資源・自然を活用した快適な暮らしの形成
交通の利便性向上(移動距離の少ない町、移動しやすい
町)
高齢者の利便性の向上(地域医療、バリアフリー)
環境活動を中心とした地域活動の活発化
関係者同士の連携・ネットワーク化、他地域交流等によ
る市民の主体的取組や地域参加の活発化
就業者、来街者との交流促進
自然エネルギーの利用による温室効果ガス排出削減
省エネによる温室効果ガス排出削減
環境に優しい交通体系の構築による温室効果ガス排出
削減(公共交通、徒歩、自転車、次世代自動車)
省エネ型製造プロセス採用によるエネルギー消費の削
減
森林の適切な管理による温室効果ガスの吸収
資源の循環による廃棄物削減(回収率工場、技術工場、
リサイクル商品の開発)
適切な管理による森林資源の維持・保全
60
表Ⅱ-2-5.先進地域における温暖化対策が地域に及ぼす効果の例(一覧)
対象
下川町
梼原市
地
方
部
真庭市
都留市
綾町
経済面
森林総合産業による雇用創
出、カーボン・オフセット
による域外資金獲得、集積
立地を生かした森林総合産
業、サービス業の効率化に
よる関連産業の発展 等
再生可能エネルギー産業に
よる域内循環効果および雇
用創出効果 等
製材業における未利用材活
用による生産費用削減、木
質バイオマス燃料移出によ
る域外資金獲得 等
製材業における未利用材活
用による生産費用削減、木
質バイオマス燃料移出によ
る域外資金獲得 等
新規農業の雇用創出、安
全・安心な食(有機野菜等)
の移出による域外資金獲得
等
地域への効果
社会面
環境面
FSC 森林認証を北海道で初
めて取得したことによる地
域ブランド向上 等
森林の適切な管理による温
室効果ガスの吸収量維持、
木質バイオマスボイラーな
どの利用による温室効果ガ
ス排出削減 等
自然エネルギー活用先進地
域としてのブランド化 等
森林整備による CO2 吸収
増、自然エネルギーによる
CO2 削減等
バイオマス活用先進地域と
してのブランド化 等
木質バイオマス燃料活用に
よる CO2 排出削減
「エコハウス」づくりによ
る、快適でエコな暮らしの
創出、小水力先進地域とし
てのブランド化 等
ユネスコエコパーク登録に
よる地域ブランド化、自然
豊かな住環境等を求めた人
口流入 等
木質バイオマス燃料活用に
よる CO2 排出削減
農産廃棄物の循環型農業の
確立による廃棄物削減 等
瀬戸市
瀬戸焼をはじめとする地場
産業の活性化 等
観光客増加による地域活性
化、
「せともの」ブランドの
再興 等
「Re 瀬ッ戸」商品普及によ
る廃棄物処分量の削減、低
温焼成によるエネルギー消
費・CO2 の削減
横浜市
横浜グリーンパワー立ち上
げによる新規産業創出、省
エネ住宅建設や省エネ家電
販売の増加、環境都市とし
ての魅力増大による観光客
の増加 等
エコリーダー養成、市民の
主体的な取組やネットワー
ク化、農山村との交流等に
よる市民参加の活発化、住
宅改修等による良好な住環
境形成、市民の環境文化発
信 等
CO2 排出量削減、再エネ需
要拡大、市営バス・地下鉄
のゼロカーボン化、間伐材
ビジネスによる水源林保全
の仕組みによる水源林の
CO2 吸収量増加
千代田区
環境性能の高い都心と都心
コミュニティを構築するこ
とによる国際競争力の強
化 ・ 民 間 投 資 推 進 、
HEMS,BEMS な ど の 新 サ
ービス産業と雇用の創出
等
国内及び海外に向けたショ
ーケースとするための公民
協力の取り組みの実施によ
る地域活性化、就業者、来
街者への環境活動参加促進
新築建築物の再生可能エネ
ルギー導入および既存建築
物の省エネ促進、風力発電
購入支援、環境負荷の少な
い自動車交通システムの整
備による CO2 削減 等
都
市
部
富山市
LRT 導入に伴う利用者の増
加、都心部への機能集積よ
る、都市経済の活性化と企
業誘致
北九州市
地域エネルギーマネジメン
ト機能実装のための事業に
よる雇用の創出とエネルギ
ー費用の削減、環境教育推
進事業などによるスクール
ヘルパーの需要増加および
経済界による学校支援事業
の対象校の増加 等
「チーム富山市」による市
民、企業合同の自主的エコ
活動の促進、LRT 全駅バリ
アフリー化におけ利便性の
向上、コミュニティサイク
ルによる都心部の回遊性の
向上
公共交通軸の高機能化によ
る交通の利便性向上、救急
医療体制、リハビリ体制の
充実による、地域医療への
満足度の増加、
「子育てしや
すい街」の実現、国際的な
研修プログラムによる国際
環境協力事業案件数の増加
等
61
都心部への住み替え時にお
ける省エネ住宅の増加やコ
ミュニティサイクルで車依
存を減らすことによる CO2
削減、森林資源保全による
吸収量増加
自転車利用環境の向上や次
世代自動車の普及など、環
境に優しい交通体系の構築
や大規模な太陽光、風力発
電の導入、省エネ等による
CO2 削減、リサイクル技術
の向上による廃棄物削減
等
3)行政支援策等
先進事例の取り組み内容から、温暖化対策への行政支援策等を整理する。支援策としては、経
済助成や需要創出等の直接的な「事業支援策」、情報発信、人材育成、技術開発等の温暖化対策
事業を間接的に支援する「ソフト施策」、仕組みや場を整える「制度支援」、インフラ整備や自然
保全等の「環境整備」といった施策がみられる。表Ⅱ-2-6に温暖化対策の行政支援等の種類・
内容(例)を示す。
表Ⅱ-2-6.先進地域における温暖化対策への行政支援策の種類・内容(例)
種類
内容(例)
環境に配慮している建物に対する補助金・税控除
経済助成
再生可能エネルギーの設置補助
森林産業への交付金
事業支援策
再生可能エネルギー(グリーン電力等)や環境サービス等
需要創出
の需要創出・支援
商品・技術のブランド化
環境(エコ)ポイント制度の展開
情報発信・提供
再生可能エネルギー関連の情報発信
観光との連携等の情報発信力強化
環境教育の推進
ソフト施策
普及啓発・教
環境人材教育(市民参加・主導の促進、研究者、プロフェ
育・人材育成
ッショナルの育成)
資格制度の構築
技術・商品開発
環境技術研究強化
市民ファンドの設置
制度支援
環境整備
仕組の構築
温暖化対策促進地域の指定
研究成果が地域に還元される仕組み構築
場の創出
地域協議会の設置
インフラ整備
環境負荷の少ない交通システムの整備
自然保全
森林保護と整備(自然森林、人口森林)
62
4)課題
文献調査等より把握された、先進地域における温暖化対策促進面での課題を整理する。表Ⅱ-
2-7に温暖化対策の現況における課題の体系・内容を、表Ⅱ-2-8に先進地域における温暖
化対策の現況におおける課題の例を示す。課題としては、財源確保のほか、合意形成・情報共有、
人材・ノウハウ不足等が挙げられる。
表Ⅱ-2-7.文献調査等より把握された温暖化対策促進における課題
課題種類
財源確保
合意形成・情報共有
人材・ノウハウ不足
内容(例)
・ 再生可能エネルギー産業や森林総合産業等などの開始時のイニシャ
ルコストおよび持続可能性確保のための財源の確保
・ 風力発電施設置による景観確保をはじめとする合意形成
・ 高齢化が進む地域におけるジェネレーションギャップの存在
・ 共通の課題を抱える地域(特に地方部)同士の情報共有、コミュニケー
ション不足
・ 循環型農業、森林総合産業の担い手の高齢化による後継者不足
・ 地域資源の有効活用に関するノウハウの蓄積不足
表Ⅱ-2-8.各先進地域における温暖化対策促進における課題の例
対象
地方部
下川町
梼原町
綾町
瀬戸市
横浜市
都市部
千代田区
富山市
北九州市
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
課題
森林総合産業を持続的なシステムにするためのさらなるコスト削減
莫大なイニシャルコストのための財源確保
風力発電 40 基建設に向けた、財源および景観確保
循環産業の担い手の高齢化と後継者不足
焼き物市場の買い手の徹底した把握、人材育成環境の確保
RPS 法など、現行法令との整合性
住民および事業者の合意
EV 重点ステーションのインフラ整備
エネルギーの面的利用にあたっては、大きな投資コストを確保
民間敷地にとどまらず公共用地の活用等に係る様々な調整
生グリーン電力購入の際の、電力事業者が管理する地域外への電力供
給などの法的課題
超高齢化の人口層の中での、地域における社会的連帯感および一体感
の向上
共通の課題を抱える地方都市同士のノウハウ等の共有
技術に加え、技術を活かす社会システムを同時に構築する必要性
63
2.1.2.海外事例
ここでは、持続可能な地域づくり先進地域である欧州を中心に、特に再生可能エネルギーの活用に
焦点を当て、先進的な取組事例の調査結果を整理する。
(1)調査対象地域
既存文献3を中心に、欧州等における再生可能エネルギーを活用した持続可能な地域づくりの先進
事例を対象とし、その取組内容について整理した。下表に、調査対象地域と導入されている再生可
能エネルギーの種類を示す。
国
ドイツ
デンマーク
オーストリ
ア
スイス
イタリア
表Ⅱ-2-9.海外調査対象地域(一覧)
地域名
再エネ種類
ユンデ(Jühnde)
バイオマス、バイオガス
ダルデスハイム(Dardesheim)
風力、水力、太陽光等
ハンブルグ(Hamburg)
風力発電
ペルヴォルム(Pellworm)
風力、バイオマス、太陽光
マウエンハイム(Mauenheim)
バイオマス、バイオガス
太陽光、太陽熱、バイオガス、木質バイオ
フライアムト(Freiamt)
マス、風力、小水力等
モアバッハ(Morbach)
風力、太陽光、バイオガス、バイオマス等
風力、太陽光、小水力、バイオマス、バイ
フライブルグ(Freiburg)
オガス等
ニーダーベルクキルヒェン
太陽光、バイオマス
(Niederbergkirchen)
ミュンヘン市(München)
太陽光、水力、太陽熱、バイオマス、地熱
ティステード(Thisted)
風力、バイオマス、バイオガス
ロラン(Lolland)
風力
コペンハーゲン(Copenhagen)
風力(洋上)
サムセー(Samso)
風力、バイオマス、太陽熱
ケッチャッハ・マウテン
小水力、風力、バイオガス、バイオマス、
(Kotschach-Mauthen)
太陽光、太陽熱
ギュッシング市・地域(Gussing)
バイオマス、バイオマス燃料(BTL)
ウアバースドルフ(Urbersdorf)
太陽熱、バイオマス
シ ェ ン ケ ン フ ェ ル デ ン
バイオマス
(Schenkenfelden)
ヴ ェ ル フ ェ ン ヴ ェ ン グ
太陽光、バイオマス
(Werfenweng)
リンツ(Linz)
バイオマス
ア ン チ ー ゼ ン ホ ー フ ェ ン
バイオガス
(Antiesenhofen)
バーゼル (Kanton Basel-Stadt)
水力、ごみ焼却、バイオマス、地熱
ボルツァーノ(Bolzano)
水力、太陽光、木質バイオマス
3 (参考文献)欧州等の再生可能エネルギー導入による地域づくり事例に関する各種文献(
「自然エネルギーが生み出す地域
の雇用」(大友詔雄)/「100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域」(滝川薫、村上敦、池田憲昭、田代かおる、近江
まどか)/「飛躍するドイツの再生可能エネルギー~地球温暖化防止と持続可能社会構築をめざして~」(和田武)等)から
整理した。
64
(2)海外先進事例にみられる地域経済効果
各先進事例における地域経済効果を表Ⅱ-1-10に整理する。地域経済効果としては、下記の
①~⑦の種類が挙げられた。まず地域資源を活用して安価な再生可能エネルギーを導入することに
より地域全体としてのエネルギー費用が削減される(①地域エネルギー費用の削減)。同時に、域外
に依存していた化石燃料等の購入費が削減されることで、地域内に留保される資金が増加する(②
域際収支改善)。次に、その留保された資金が再生可能エネルギー事業に投資されることで関連産業
に需要が生まれ、域内経済循環が活性化する(③域内資金循環活性化)。域内で循環する資金の一部
は、再生可能エネルギー事業に原材料やサービスを供給することで新たな収入源を獲得した域内事
業者等に流れる(④新規収入源創出による所得増)。また別の資金は、税金等の形で自治体の収入と
なる(⑤自治体の収支改善)。更に、事業への出資が住民等の域内主体からなされていた場合には、
事業利益の一部が出資者である住民等に還元される(⑥利益還元による所得増)。その他、副次的な
効果として、住民満足度・居住環境・地域アイデンティティ強化・地域ブランド向上・事業環境向
上といった点もあげられる。このように、海外の先進事例においては、地域全体として、あるいは
域内の事業者、住民、行政のそれぞれにその効果(利益)が帰着するような取り組みが進められて
いる。
<海外先進事例にみられる再生可能エネルギー導入による地域経済効果の種類>
①
地域エネルギー費用の削減:
安価な再生可能エネルギーの導入等により地域のエネルギー費用全体が削減される効果
②
域際収支改善:
再生可能エネルギー導入による域外からの化石燃料購入の減少等により、地域全体としての
域際収支が改善する効果
③
域内資金循環活性化:
再生可能エネルギー導入等により域内の関連産業の需要が創出され、資金循環が活性化する
効果
④
新規収入源創出による所得増:
再生可能エネルギーの生産等に伴い新たな需要が生まれ、そこに域内事業者等が原材料やサ
ービスを提供することで新たな収入を得る効果
⑤
自治体の収支改善:
再生可能エネルギーの導入事業から得られる事業税や土地代により税収が増加する効果
⑥
利益還元による所得増:
地域住民等が再生可能エネルギー事業への出資することで、事業利益の一部が還元し、所得
が増加する効果
⑦
副次的効果(マルチベネフィット):
対策導入に伴う住民満足度向上・地域アイデンティティ強化・地域ブランド向上・居住環境
改善、地域自立性向上等の副次的な効果
65
表Ⅱ-2-10.海外先進事例における再生可能エネルギー導入による地域経済効果の例
国
地域経済効果
地域名
マウエン
ハイム
フライア
ムト
分類
内容
地域エネルギー費用
再生可能エネルギーによる熱料金が灯油よる安価(6~7割)であることに
の削減
より地域全体としてエネルギー費用が削減。
域内資金循環活性化
域際収支の改善
灯油30万 L 分(25万ユーロ)の域外流出が地域内で循環し、住民、投資
者、バイオマス供給農家・林家に分配。
木質チップの利用により域外流出していた石油費用(5000ユーロ分)が
節約
新規収入源創出によ
低価格農産物の有効利用による再エネ生産・販売により地域畜産農家や酪農
る所得増
家経営の新たな収入源獲得、収入増。
自治体の土地開発による自治体の収益増加(及び住民への利益還元)。エネル
自治体の収支改善
ギーランドシャフト(ユーヴィ社:地域住民の合資会社)への土地賃借料(年
間35万ユーロ)、事業税(誘致10年後の2012年から)による収入。地
域企業の税収増加の間接的収入
モアバッ
観光関連事業者:エコツーリズム・施設見学による収入増。農家:バイオガ
ハ
新規収入源創出によ
る所得増
ス施設用に発酵資源の家畜の糞尿、飼料トウモロコシ、穀物・牧草を提供す
ることで新たな収入源形成。製材業者:ペレット工場用におがくずを提供。
エネルギーパークに企業を新規に誘致したこと、地域企業が建設を請け負う
ことによる住民への雇用増、収入増。
域内資金循環活性化
域内資金循環活性化
ドイツ
フライブ
ルク
新規収入源創出によ
る所得増
利益還元による所得
増
ダルデス
ハイム
生ゴミのコンポスト化・バイオガス作りによる新規収入源創造。環境関連産
業のエネルギーコンサルタント企業や省エネ・ソーラー建築家が集まること
による経済活性化、雇用の創出
太陽光発電への市民出資(市民ファンドなど)等による利益還元。
自治体の収支改善
省エネによる自治体の新たな財源創出
農業組合によるバイオガス発電施設事業、地域熱供給事業(計画中)による
る所得増
新規収入源創出。
利益還元による所得
個人出資による民家での太陽光発電事業、風力発電事業による地域住民への
増
利益還元
自治体の収支改善
域内資金循環活性化
再エネ事業者(農家等)や維持管理事業者(職人等)、出資者(銀行等)への
資金循環の活性化
太陽光発電事業、風力発電事業による自治体税収増
市民と地元の金融機関(Raiffeisenbank)の出資によるニーダーベルクキルヒ
ェン市民太陽光発電所の設置による地域経済活動活発化、事業出資者収入増。
自治体の収支改善
市民太陽光発電所の設置による自治体の税収増。
居住環境改善
市民太陽光発電所の設置による社会基盤強化
資金的に余裕のある市民のための通常の市民出資(出資金に平均6%の利回
ニーダー
ルヒェン
循環。
新規収入源創出によ
域内資金循環活性化
ベルクキ
公共施設の再生エネルギー利用による域内資金循環増
公共交通の積極的利用により、ガソリン等の購入に流出していた資金の域内
り)に加え、出資力が低い市民のために地元金融機関が90%の投資額を準
利益還元による所得
備し、低利子・無担保・リスク無しで低収入層に貸し付け。借金をした市民
増
でも、配当金をもらうことにより、自動的に借金を返済でき、太陽光事業の
利益を共有できる仕組み。投資額償還12年程度。13年目以降は出資額に
応じて毎月100~600ユーロの収入。
住民満足度向上
デンマー ク
新規収入源創出によ
ティステ
ード地方
る所得増
資金的に余裕のある市民のための市民出資だけでなく、出資力が低い市民の
ために出資のための貸付制度を地元金融機関が準備。
地元の再生可能エネルギー研究・開発・普及機関「ノルディック・フォルケ
センター」を通じた、地元エネルギー産業の熟成・拡大・輸出、専門職トレ
ーニング、雇用創出。
利益還元による所得
市民共同出資地域エネルギー会社「ティ=モース・エネルギー」による利益
増
還元
66
新規収入源創出によ
ロラン島
る所得増
利益還元による所得
増
自治体の収支改善
ケッチャ
ッハ・マウ
テン
風力産業による地元雇用(80 年代に失業率 20%
⇒90 年代 4%)
市民出資による利益還元
地元エネルギー会社「アルペン・アドリア・エネルギー」や地域産業(農家、
製材業者等)が中心となった再エネ事業による税収増
新規収入源創出によ
再エネ事業による雇用促進による所得増加。エコツーリズム促進による関連
る所得増
雇用の増加による所得増加。
域内資金循環活性化
同再エネ事業による資金の地域内循環活性化。公共施設(学校、役所、プー
ルなど)利用による資金循環。
地域自立性向上
安定エネルギー価格による地域産業の競争力強化
新規収入源創出によ
バイオガス発酵炉への牧草や家畜の糞尿、飼料用トウモロコシ提供によるに
る所得増
地元農家収入増。「廃棄物」削減による農家コスト削減による所得増。
エネルギー費用の削
公共施設(学校、役所、プールなど)に地域エネルギーを利用することによ
オー ストリア
減
自治体の収支改善
新規収入源創出によ
る所得増
るコスト削減。
地元自治体の税収増(2009年から1992年に4.4倍)。企業誘致政策
による税収増加(約 60 社)。
企業誘致政策による雇用促進(1000 人)。農家や森林業の副産物・廃棄物を
買い取り、バイオマスエネルギーの資源とすることによる農家・森林所有者・
森林業者の収入増加。
市民共同出資による利益還元
ギュッシ
ング
利益還元による所得
(例:ウルバースドルフ村の地域暖房設備は組合の共同出資)
増
※企業誘致政策(例)
:木工産業向けに木屑や端材等の廃棄物を燃料として買
取制度を導入等)
エネルギー費用の削
減
域際収支改善
域内資金循環活性化
スイス
新規収入源創出によ
バーゼル
る所得増
安価エネルギーによるコスト削減。
域外流出資金(石油購入費用)の留保(620 万ユーロ)。エコツーリズムによ
る域外資金流入。
ネ再エ導入による域内資金循環の活性化(1,300 万ユーロの増加)。安価エネ
ルギーによる経済活性化。
エネルギー専門職の雇用の増加(国の平均の 5 倍)、所得増。
利益還元による所得
バーゼル州営エネルギー会社(IWB)電力による雇用創出(750人)、利益
増
還元(6000万フラン)
地元エネルギー会社・102 市と四つの共同体が6%所要する株式会社「SEL」
等による雇用創出。バイオマス事業による地元製材業の活性化・収入増。バ
イタリア
ボルツァ
新規収入源創出によ
イオガス施設用に牛糞尿、リンゴ加工の残材などを利用することによる農家
る所得増
の収入増。省エネ住宅「クリマハウス」による地域建築産業活性化と雇用促
進。失業率低下(2.9%:全国ベスト)。「エネルツアー」などのエコツー
ーノ
リズムによる収入、経済活性化。
域内資金循環活性化
地域ブランド向上
地元エネルギー会社による雇用創出によって地域内資金循環活性化
省エネスタンダードのブランド化による相乗効果:
「クリマホテル」や「クリ
マワイン」の商品化・輸出。観光客呼び込み。
67
(3)国内先進事例と海外先進事例の効果の差異
前項で整理した国内先進事例における効果と、海外先進事例における効果体系を比較してみると、
国内事例では、エネルギー費用削減や新規製品・サービス・関連産業(観光業等)の増加等、メリッ
トが分かりやすい効果が強調されているのに対して、海外事例では、域際収支改善、自治体収支改善、
住民への利益還元といった地域経済循環の改善から得られる効果への言及が多いといった差異がみら
れる。また海外では地域全体としての経済効果について、定量的な効果を明確化している例が多いと
いう点にも特徴がある。
国内先進事例における経済効果
海外先進事例にみられる経済効果
温暖化対策事業による直接的な効果
・
エネルギー費用の削減
・
地域資源活用による1次産業や地場産品
①地域エネルギー費用の削減
製造業の活性化、雇用創出
・
②域際収支改善
環境関連製品・サービスを生産・販売に
ともなう投資や中間需要増による経済波
及効果
・
③域内資金循環活性化
域外との連携による流入資金の増加
ソフト施策に伴う間接的な効果
・
環境プログラム関連職員の雇用創出
・
認証・制度による資金流入
④新規収入源創出による所得増
⑤自治体の収支改善
関連事業による間接的な効果
・
観光客増加による地域活性化(エコツー
⑥利益還元による所得増
リズム、相乗的なイメージアップ)
・
地域ブランド向上イメージアップ・競争
力強化・機能集積等による民間投資推進、
⑦マルチベネフィット
企業誘致効果
図Ⅱ-2-1.国内先進事例と海外先進事例の効果体系の比較
68
2.2
詳細調査
2.2.1
国内事例
(1)調査対象地域・機関
先進的な取組を行っている地域の中から、取組の特徴や関連行政機関との連携状況からケースス
タディ対象候補地域となる可能性のある地域について詳細調査(文献調査、WEB 調査、現地調査、
関係者ヒアリング等)を行った。表Ⅱ-2-11に、調査対象地域を示す。
表Ⅱ-2-11.調査対象地域
特徴的な取り組み
対象
1)北海道
下川町
小 規模
2)高知県
梼原町
3)和歌山県
市町村
日高川町
4)宮崎県
綾町
5)長野県
中規模
飯田市
6)愛知県
瀬戸市
7)富山県
富山市
8)高知県
都道府県
※1
9)徳島県
(キーワード)
森林総合産業システムの形成
再生可能エネルギーのポートフ
ォリオ形成
木質バイオマスの利活用、地域通
貨活用
主な取組種類
※1
再
省
循
○
○
○
○
○
住民参加型の地域づくり、循環型
社会システム形成
太陽光発電導入への市民参加
地
○
○
再生陶磁器『Re瀬ッ戸(リセッ
○
ト)』の開発・普及
コンパクトな町づくり交通・コン
○
パクトシティ
域内資本型再生可能エネルギー
オフセットクレジット、ブランド
化
○
○
○
○
再:再生可能エネルギー、省:省エネ活動、地:低炭素都市・地域づくり、循:循環型社会づくり
69
(2)各地域における調査結果
1)北海道下川町
a.環境政策・地域活性化施策(概要)
町面積の 88%を占める森林資源の二酸化炭素吸収機能を活用したカーボン・オフセットの施行
や、再生可能エネルギーである森林バイオマスの活用による低炭素社会の構築、森林環境教育、
森林療法の取組など、森林の多面的機能の活用に取組実績をあげている。また、地域活性化施策
としては、「第 5 期下川町総合計画基本構想」(平成 24 年 3 月)の中で、基本目標の 1 つとして、
「地域資源を活用した町づくり」を掲げており、下記のような方向性が示されている。
農業振興
・ 農業者の経営責任を尊重しつつ、農業所得の向上を図るため「土づくり」を始めとした生産
基盤の拡充により単位生産性の高い農業経営を目指すとともに、費用の縮減を図る農業経営
と農業者の相互交流による農業技術向上の取り組みが促進されるよう支援します。
・ 「人づくり」を積極的に推進するため、担い手を確保し新規就農予定者並びに新規就農者に
対する営農環境を整えるための支援を拡充するとともに、農業従事者等の人材を確保する体
制づくりを進めます。
林業・林産業振興
・ 循環型森林経営の確立を目指し、FSC森林認証基準に基づいた計画的な森林施業を推進し、
雇用の場の確保、資源の充実と安定供給を図ります。
・ 林道網の整備、機械化、集約化を進め、生産コストの低減を図るとともに、木材生産・流通・
加工までのいわゆる「川上」から「川下」が一体となった、木材消費の拡大や生産流通体制
強化を進めます。
・ 森林バイオマスエネルギー利用により、低炭素社会の実現に貢献します。
・ 地域林業振興のための担い手(人材育成)づくりを進めます。
商工業、雇用の確保
・ 住民サービスの向上及び地域の雇用機会を確保します。また、地域の資源や地域産業に密着
した企業の誘致、誘致企業との経済交流を拡大します。
・ 再生可能エネルギー活用による地域のエネルギー自給率の向上を図り、地域密着型の産業振
興を促進します。
出典:第5期下川町総合計画基本構想より抜粋
また下川町では、人口が 10 年間で 16.4%減少し、高齢者率が 37.2%まで上昇しており、地域
商業に関しても、10 年前の水準以下を推移している状況があることから、NPO 法人下川森林未
来研究所や下川町ふるさと開発振興公社などが主体となって、「超高齢社会等に対応する地域社
会システムの構築」および「住民生活・コミュニティの基盤である地域商業の再創造」を柱に取
り組みを始めている。前者については、住宅やハートフルネット宅配、コミュニティレストラン、
介護施設などが同じ建物内にあるような複合施設(木造の高層建築)を建てるものであり、後者
についても、農業、林業、商業、工場などを集約した区画を構想したものとなっている。
b.特徴的取組:森林総合産業システム
森林関係産業において、林業、林産業、森林バイオマス産業などを総合化し、経済的自立を図
るための「森林総合産業システム」の構築が掲げられている。また、森林バイオマスを中心とし
た再生可能エネルギーによる地域内のエネルギー完全自給などを目指し、「森林未来都市構想」
を立案しており、
「環境未来都市」として選定されている。林業、林産業における平成 25 年度の
各種目標値(第 5 期下川町総合計画基本構想)は下記のとおりであるが、この目標の達成に向け
70
て、森林総合産業システムへの投資によるシミュレーションを行う意向を持っている。バイオマ
ス産業の活性化、林産業や林業の供給量、生産額の増加、および雇用創出を目指し、育林による
二酸化炭素吸収やクレジットの獲得、森林サービス産業の振興も推進している。獲得したクレジ
ットは炭素基金の収入となり、その一部を森林総合産業へ投資する流れとなる。
<林業、林産業における平成 25 年度の各種目標値(第 5 期下川町総合計画基本構想)>
・林業従業者数:43 人
(基準の平成 21 年度では 40 人
・木材、木製品従業者数:148 人
7.5%増)
(基準の平成 21 年度では 143 人
・木材、木製品製造出荷額:2550 百万円
3.5%増)
(基準の平成 21 年度では 2350 百万円
8.5%増)
図Ⅱ―2-2.森林総合産業連関イメージ
c.取組のポイント(地域効果・課題等)
下川町における森林総合産業システム構築が地域へ与える影響・効果としては、以下のものが
考えられる。まず環境面では、循環型森林経営が持続的に営まれることによる森林保全、森林吸
収量の確保・増大、森林バイオマス燃料活用による CO2 削減といった効果がある。次に、経済
面・社会面に目を向けると、まず木質バイオマス燃料の活用により地域のエネルギー費用が削減
される。次に、それが化石燃料に代替されることで域外に流出していたエネルギーコストが域内
に留保する。なお、化石燃料から再生可能エネルギーの転換を図る際には、地域産業として重要
な役割を担っている石油関連事業者(例.ガソリンスタンド等)等の生産・雇用への影響が問題
となるが、下川町では、バイオマス燃料の製造に石油関連事業者の関与を図ることにより、域内
の公平性等に配慮している。関連産業である林業、林産業、バイオマス産業、森林サービス産業
それぞれに新規の中間需要が生まれ、これらの産業に原材料やサービスを提供する域内産業部門
を含めて経済循環が活性化する。また森林サービス産業における森林教育サービスの提供やアロ
マ精油等の製品販売は、新たな収入源となり域内経済循環の更なる活性化を生む。バイオマス燃
71
料の一部は、林地残材や支障木を活用していることから、これらの処理費用の節減等を通じて、
自治体の収支改善にも寄与する。また副次的効果としては、環境先進地域としてのブランド力向
上等が挙げられる。
このように森林総合産業は、多面的な地域効果をもたらすと考えられるが、一方で、課題とし
ては、海外先進事例に見られるような地元住民等による共同出資を通じた利益還元といった住民
参画型の取組はみられていないこと、地域ブランド向上といったメリットが十分に域内住民に伝
わっていない面があり、取り組みによる住民満足度の向上等に改善の余地があること、居住環境
の改善等、目に見えやすい形での副次効果とのリンクが現時点では弱いこと、といった点が挙げ
られる。
d.本研究との接点となる行政ニーズ
上記の取組ポイントや関係行政機関へのヒアリング等を踏まえた行政ニーズとしては、以下の
点が挙げられる。一つは、森林バイオマス産業等の単体事業の収支は把握しているものの、森林
総合産業全体として見た時の地域全体への効果は定量的に把握できておらず、行政施策としての
進捗管理や効果把握のための定量的な指標が必要という点である。下川町は環境モデル都市・環
境未来都市として先進的な取り組みを行ってきたが、今後、これまでの成果をさらに進展させ、
環境行政のみならず地域全体の活性化や振興に資する政策としていくためには、環境と経済が一
体となった施策効果を表現する指標の想定や、それに基づいた進捗管理が必要であり、ここに行
政ニーズが存在している。また二つめとしては、関連政策への住民関与の度合いを強め、地域の
各主体が一体となった取組の実行、及びそれに伴う満足度向上を図るための施策が必要であると
いうことである。下川町では、上記の施策のほか、町独自に幸福度指標等の検討・実践を図って
いるが、それを経済的視点から定量的に裏付けることができる知見が求められている 。
72
2)高知県梼原町
a.環境政策・地域活性化施策
梼原町の環境政策としては、表Ⅱ―2-12に示した3つの計画・ビジョンが存在する。2001
年に樹立された総合振興計画「森林と水の文化構想」においては、「環境」に加えて「健康」「教
育」を三つの柱と位置づけ、CO2 削減施策以外にも様々な環境施策を行い、
「低炭素社会づくり」
に取組むことを規定している。また、他の2つの計画「梼原町地域新エネルギービジョン」「梼
原町バイオマスタウン構想」は、総合振興計画に定める「環境の里づくり」実現のためのアクシ
ョンプランをとなっている。省エネルギー・エコ対策、自然エネルギー活用といった CO2 排出
削減対策や森林による CO2 吸収対策などについての取組方針や具体的数値目標を掲げた梼原町
における「低炭素社会づくり計画」として、総合振興計画の策定に先行して樹立するものである。
表Ⅱ-2-12.梼原町の環境計画・ビジョン
計画の名称及び
策定時期
梼原町総合振興計画
「森林と水の文化構想」
(2001 年 3 月樹立)
梼原町地域
新エネルギービジョン
(1999 年 3 月策定)
梼原町
バイオマスタウン構想
(2006 年 3 月策定)
内容
「環境の里づくり」という施策の柱の中で、CO2 対策など地球環境課
題について、環境負荷の低減による「資源循環型社会づくり」への基
本理念や基本方針を規定している。
「教育の里づくり」
「健康の里づく
り」として、環境の取り組みを継続的にするために欠かせない「人づ
くり」「健康づくり」についての方向性についても定めている。
「森林と水の文化構想」に基づく個別計画のひとつとして、新エネル
ギー導入についての基本的な考え方、導入提案、推進方法等について
規定している。
新エネルギーのうち地域バイオマス資源の具体的利用方法を提案し
ている。木質バイオマス地域循環モデル事業の中核的事業として木質
ペレット、木質バーク、農産物残渣などの地域資源を有効活用するこ
とで温室効果ガスの削減を行うことを提案している。
b. 特徴的取組:再生可能エネルギーのポートフォリオ形成
上述した3つの環境計画・ビジョンを枠組みとして、檮原町は発電用風車の設置を中心に様々
な取り組みを行っている。四国カルスト地区に設置した発電用風車2基によって得た電力を四国
電力に売電することで外貨を獲得し、太陽光発電パネルの設置、小型水力発電機の設置、森林資
源活用のための木質ペレット製造などに対して補助金を出している。これら取り組みの実績が評
価され、梼原町は 2009 年 1 月 22 日に政府より環境モデル都市に選定された。檮原町は環境モデ
ル都市として、2050 年には温室効果ガス排出量 70%削減、吸収量の 4.3 倍増(1990 年)と、地
域資源利用(エネルギーの地産地消)によるエネルギー自給率 100%超を目指している。
梼原町では風車の売電益から、「CO2 吸収源の整備」として間伐を実施した森林所有者にはh
aあたりで 10 万円を交付、また「CO2 の排出削減設備の普及」としては太陽光発電設備の設置
に対して1kw当たり 20 万円の補助、ペレットストーブの設置に対しては 4 分の 1 を補助金と
して支払っている(図Ⅱ―2-4)。この制度により、2001 年度から 8 年間で山手線の内側の面
積に匹敵する面積(約 5.8 千 ha)の間伐がなされ、家庭における太陽光発電施設の設置率は、20 軒
に1戸を超える(全戸数の 5.5%)ものとなっている。この補助金の「CO2 の排出削減設備の普
及」への活用例としては、町内の公共施設に太陽光発電パネル設置、梼原川、梼原中学校に小型
水力発電機設置、道の駅「ゆすはら」に地熱利用の温水プール建設、町内の各家庭の太陽熱温水
73
器や太陽光発電パネルの設置、小型水力発電機の設置、間伐材を利用するペレットストーブの購
入等がある。また木質バイオマス地域循環利用の取組としては、間伐材や端材などから木質ペレ
ットを生産し、ペレットストーブ等の燃料に活用するとともに、ペレット生産、利用による事業
収入や企業との協働により森林づくりに取り組む循環モデル事業を展開している(図Ⅱ―2-
5)。また、官民一体となり森林資源の有効活用による環境と共生した循環型社会づくりを目指
し、その中核的事業として「木質ペレット工場」の整備に取り組んでいる。
図Ⅱ-2-3.梼原町の風力発電(左)/梼原川の小水力発電(中)とその電力の夜間街灯としての利用(右)
図Ⅱ-2-4.風車発電による売買益の活用
図Ⅱ-2-5.木質バイオマス地域利用の取り組みイメージ図
c.取組のポイント(地域効果・課題等)
梼原町における再生可能エネルギーのポートフォリオ形成が地域へ与える影響・効果としては、
以下のものが考えられる。まず環境面では、再生可能エネルギーの大幅な導入が森林保全や省エ
ネ施策等とも相まって CO2 削減に資する。梼原町では、風力発電(500kW×2 基)により約
500t-CO2/年、太陽光発電により約 200t-CO2/年、森づくり(間伐等)により約 62 千 t-CO2/年
といった削減・吸収実績があり、2050 年までには 1990 年比で約 7 割の CO2 削減を目指してい
74
る。次に、経済面・社会面に目を向けると、木質バイオマス燃料、太陽光、風力等の活用による
地域エネルギー費用削減、域外流出費用の抑制、関連産業(林業、再エネ関連産業等)への経済
波及効果、オフセット・クレジット等の新規サービスによる域外資金獲得、副次的効果としての
地域ブランド力向上、森林保全等が挙げられる。
一方で、課題としては、木質バイオマス事業がもつ森林保全や林業活性化等の副次的メリット
が評価されにくい点等が挙げられる。風力発電売電益の基金【環境基金】を利用した環境施策は、
自治体と生活者等との協働(コラボレーション)に優れた取り組みが評価され、自治体環境グラ
ンプリ(コラボレーション賞、2002年、(財)社会経済生産性本部)を受賞する等、全国的に
評価が高いが、地域住民等にとっては直接的なメリットが見えにくいといった面もあると考えら
れる。
d.本研究との接点となる行政ニーズ
上記の取り組みポイントや関係行政機関へのヒアリング等を踏まえた行政ニーズとしては、再
生可能エネルギーの導入促進にあたって、個別プロジェクトでは赤字になるが、トータルで見た
ときにプラスになるということを示したいという点があげられる。再生可能エネルギー導入は、
住民だれしもが実感できるような分かりやすい効果にはつながりにくいため、その効果を明確化
し、説明責任を果たすことが重要となる。そのため、再生可能エネルギー全体(風力、小水力、
ペレット等)と地域経済全体(新エネ、林業、観光など)という 2 つの視点からトータルの効果
を分析・評価する方法論や分析結果に対する行政ニーズが存在している。
75
3)日高川町
a.環境政策・地域活性化施策
循環型社会の形成や地域活性化(移住や定住化の促進等)を目指し、多面的な環境保全施策を
町民との協働のもとで推進している。具体的には、自然環境・景観の保全、地球温暖化防止実行
計画の策定と推進、新エネルギー施策の推進、日高川の水質汚濁防止対策の推進、野焼き等環境
問題への適切な対応、町民の主体的な環境保全活動の促進、美しい景観づくり等がある。また地
域活性化策としては、林業不振を背景に、森林の健全な育成と豊富な森林資源の有効活用を図る
ため森林・林業の再生を目指し、高性能機械の導入と効率的な作業道の整備による「低コスト林
業」を推進し、搬出間伐による資源の有効活用に取り組んでいる。
b. 特徴的取組:地域通貨を活用した木質バイオマス活用への住民参加促進
地球温暖化の防止、循環型社会の構築、山村地域の活性化といった多面的な観点から「木質パ
ウダーによる木質バイオマス利活用」が実施されている。製材所や公共施設(温泉施設)などで
の木質バイオマスボイラーを導入するともに、林地残材や樹皮などを原材料に木質パウダー燃料
を製造・利用することで、林地残材など等、地域の木質バイオマス利活用を促進している。日高
川流域で発生する未利用の木質バイオマスを地域内で利活用するという地産地消システムの形
成を目指している。具体的には、町内の林地残材、未利用間伐材を県森連御坊共販所が買い取り、
専用機械などで粉砕し、約 30 ミクロンの細かな木質パウダー燃料を年間 5000 トン製造し、
(財)
ふるさと振興公社へ販売される。その後、町内の温泉施設“愛徳荘本館・別館”、“高津尾のきの
くに中津荘”、“中津温泉あやめの湯鳴滝”(表Ⅱ―2-13参照)販売され、管理・運用される
仕組みである。全国初の試みである約 30 ミクロンの木質パウダーは、ガスのように噴射して直
接燃焼させることができ、燃焼効率が特に優れている(表Ⅱ―2-14参照)。また燃焼装置も
従来の重油ボイラーと同じ大きさで、非常にコンパクトであるといった利点がある。また環境面
の効果をみると、約 340t の CO2 が削減されている(表Ⅱ-2-15参照)。
表Ⅱ-2-13.木質バイオマスボイラーの導入施設
施設名
導入年度
ボイラー数
補助事業名
きのくに中津荘
H21
1基(116.3kw)
地域活性化・緊急安心実現総合対策交付金
美山温泉愛徳荘本館
H21
1基(116.3kw)
森林・林業・木材産業づくり交付金
美山温泉愛徳荘別館
H21
1基(116.3kw)
森林・林業・木材産業づくり交付金
中津温泉あやめの湯鳴滝
H22
4基(116.3kw×4)
地域グリーンニューディール基金事業
表Ⅱ―2-14.燃料形態別の発熱量
燃料形態
発熱量(kcal/kg・l)
発熱量比率
重油
9340
2.08
灯油
8760
1.9
パウダー
4500
1
ペレット
4000
0.89
チップ
1900
0.42
76
図Ⅱ―2-6.木質パウダー
図Ⅱ―2-7.木質パウダー製造施設
また特徴的な取り組みとして、地域通貨を活用した地産地消の取り組みがあげられる。森林所
有者が自家用トラックで、間伐材や残材を集積所に運搬すると、町内の店舗等で使用可能な地域
通貨券が受け取れる仕組みとなっている。これにより循環型社会システムへの住民参加や域内消
費削減が促進される。
図Ⅱ―2-8.地域通貨による住民参加・域内消費促進イメージ
c.取組のポイント(地域効果・課題等)
日高川町における木質バイオマスの利活用と地域通貨を活用した住民参加・域内消費の促進が
地域へ与える影響・効果としては、以下のものが考えられる。まず環境面では、森林間伐材等を
活用したバイオマス燃料活用による CO2 削減や森林保全に資することによる CO2 吸収効果が考
えられる。日高川町では、公共施設等における木質パウダー燃料の利用により、約 340t-CO2 の
削減、130 万円のクレジット取引を実現している。
表Ⅱ-2-15.環境面での効果
CC2 排出削減量
取引量(クレジット量)
くに中津荘
61
61
美山温泉愛徳荘
86
43
施設名
中津温泉あやめの湯鳴滝
計
77
197
26
344
130
次に、経済面・社会面に目を向けると、木質パウダー燃料の活用による地域エネルギー費用削
減、域外流出費用の抑制、関連産業(林業等)への経済波及効果、オフセット・クレジット等に
よる域外資金獲得等の効果に加え、域内消費が促進されることによる経済波及効果、特に第 3 次
産業に対する効果が大きくなると考えられる。また、地域通貨により木質バイオマス燃料の原料
収集への住民参画が促進されることにより、取り組みへの住民理解が進む点も効果として挙げら
れる。
一方で、課題としては、木質パウダー事業の採算性を確保するための供給側・需要側双方にメ
リットをもたらす適切な価格設定、需要側施設での意識向上やメンテナンス強化によるボイラー
稼働率向上、収集コストの低減(帰り便利用、中継地設置、運搬容の工夫)、観光資源としての
活用、林業における間伐・搬出作業との連携、多面的な財源確保(視察収入、クレジット等)、
住民参加促進といった点が挙げられる。
d.本研究との接点となる行政ニーズ
上記の取り組みポイントや関係行政機関へのヒアリング等を踏まえた行政ニーズとしては、以
下の点が挙げられる。一つは、域内における消費促進が地域にどのような影響を与えるかを明確
化することである。近隣都市部等の大型店舗等と比較すると規模等の点で不利な面がある域内商
店等での消費を促進するためには、地域通貨といった仕組みに加えて、その消費が地域にどのよ
うな意味をもつかを啓発するとともに、その効果を具体的に示すことが重要となる。
78
4)宮崎県綾町
a.環境政策・地域活性化施策(概要)
九州山岳地帯に位置し、日本最大級の原生的な照葉樹林や湧水等の豊かな自然資源の保全を重
要な地域課題とする地域である綾町では、「自然と共生・調和した町づくりをはかるとともに、
これらの環境問題解決のために自ら率先して取り組むことにより、あらゆる面で環境配慮を優先
した地域づくり」を目指して各種の取り組みを行っている。2012 年 7 月に、ユネスコエコパー
クに登録され、自然と共存する持続可能な地域の世界的なモデルを目指していること、自然を活
かしたまちづくりが全国から評価されていること(名水庭園手づくり郷土大賞の受賞、綾の照葉
樹林の水源の森百選への選定等)、森林保全市民団体の活動が自然を活かしたまちづくりの成功
事例としてメディアに取り上げられたこと等を背景に年間 100 万人を超える観光客が訪れている。
また、照葉樹林文化シンポジウム、九州地産地消推進シンポジウムなどの「自然」、
「食」、
「農業」
などをテーマにした各種コンベンションも数多く開催されている。
出典:綾町資料
出典:宮崎県資料
図Ⅱ―2-9.綾町におけるエコエネパーク登録(左)/観光客数推移(右)
b. 特徴的取組:循環型社会システム形成と住民参加型の地域づくり
総面積の 80%が森林で農地は 9%という地域特性を踏まえ、農業・森・土をベースとした循環
型社会システムのまちづくりと地域活性化の両立を目指した各種取組を進めている。その一つと
して、全国初の自然生態系農業の推進に関する条例を制定(1988 年)している等、有機農業を推
進しており、自然生態系農業の認証検査実施や土壌診断、住民の食生活の改善、「綾手づくりほ
んものセンター」(有機農産物、加工食品、工芸品等特産物の直売所)の設置などに取組んでい
る。また畜産業活性化を目指し、糞尿堆肥化、家畜糞尿・家庭(中心部全戸)のし尿・生ごみの
堆肥化に取り組んでおり、町内農家の堆肥需要をほぼまかなっている状況になっている。廃棄物
対策としては「綾町ごみ対策協議会」を設置し、ごみ減量・リサイクルを推進している他、木質
系廃棄物を敷き料(馬事公苑)や堆肥化の水分調整材として活用する等の取組を進めている。そ
の他、自然保全の取組として、照葉樹林を核とした「綾の照葉樹林プロジェクト」を進めており、
市民や地域企業参加のもと、原生的な照葉樹林の厳正な保護、人工林や二次林からの照葉樹林へ
の復元、照葉樹林の重要性等を学ぶ環境教育等を実施している。また住民参加型の地域づくりも
積極的に進められており、特に「自治公民館」と呼ばれる地域組織が行政と連携していて住民同
士の話し合い・連携の場として機能している。このような取組により、行政、農協、生産者、住
79
民等が連携した各種環境配慮の取組や循環型社会システムの形成が進められている。また、地産
地消への取組として、「家庭や学校、地域、行政等が相互に連携を図り、それぞれの役割と責務
において、食育・地産地消活動を推進に努める(綾町食育・地産地消推進計画、2012 年 3 月)」
との方針のもと、地場農畜産物の利用促進及び生産振興
育の推進
学校や保育所等の教育施設における食
事業所での地場農畜産物の利用促進などを、JA 青年部等の地域主体が中心となって
進めている。
c.取組のポイント(地域効果・課題等)
綾町における住民参加型の地域づくりと循環型社会システム形成が地域へ与える影響・効果と
しては、以下のものが考えられる。まず環境面では、有機性廃棄物等の削減やライフサイクルで
の CO2 削減、さらに取組を通じて住民環境意識が高まることによる各種生活環境負荷の削減等
が考えられる。また、経済面・社会面に目を向けると、有機農業にいち早く取り組んだこと等か
ら生まれる有機農産品のブランド化とそれに伴う販路(需要)確保、貴重な照葉樹林への誇りと
愛着を背景とした良好な自然環境や居住環境の維持、及びそれらにより観光客や定住・移住人口
の増加といった点が挙げられる。一方で、課題としては、有機農業等の取り組みが他地域でも広
がってきたなかでのブランド力の維持や、観光客の増加による経済効果をより広い産業に広げて
行くことこと、あるいは移住人口が増えてくるなかで、従来住民との価値観のすり合わせや合意
形成を図っていくこと等が挙げられる。
d.本研究との接点となる行政ニーズ
上記の取り組みポイントや関係行政機関等へのヒアリング等を踏まえた行政ニーズとしては、
以下の点が挙げられる。一つは、地域住民が誇りをもつ照葉樹林等の貴重で豊かな自然資源の保
全が地域経済や住民満足度にどのように影響しているかを明確化することである。森林等の自然
資源を生かした地域活性化を考える際には、木材利用やバイオマス利用といった“利用”という
文脈が前面に出ることが多いが、綾町においては、短期的には経済効果に結び付きにくい“自然
保全”を積極的に進めることにより、各種の経済効果(観光客増加、地域ブランド形成に伴う地
産品の販売促進、移住増加等)を生んでいるという面がある。そのため、地域での自然資源の保
全や、それを支える循環型社会形成の取り組みが、地域に与えている影響・効果を具体的に示し、
取り組みの継続と発展に向けた合意形成を図っていくことが重要となる。
80
5)飯田市 4
a.環境政策・地域活性化施策(概要)
2009 年に全国で 13 市町村が選定された「環境モデル都市」の一つである飯田市では、「公民
協働」の仕組みを取り入れながら再生可能エネルギー利用等の環境政策を進めている。
「環境モ
デル都市行動計画」の中では、2030 年に温室効果ガスの家庭部門からの排出を民生家庭部門で
05 年比 40~50%削減するという目標を掲げている。
「公民協働」に基づく仕組みの一つとして、地域による再生可能エネルギー事業を支援する
「コーディネート組織体」 の形成を目指している。この組織体は、市の附属機関として立ち上
げ、再生可能エネルギー利用に関するプランニングや事業評価、ファイナンス(資金仲介)、事
業の進行管理などについてアドバイスを行うことで、地域にとって良質で公益性の高い再生可
能エネルギープロジェクトを支援することが想定されており、公民協働の理念を具体化させる
ドライバーとなる役割を担うこと想定している。
b. 特徴的取組:市民参加型の再生可能エネルギー導入
公民協働の代表的な例として、おひさま進歩エネルギー(株)[2004 年 12 月発足]の取り組
みが挙げられる。飯田市は家庭の太陽光発電設置率が約 5%と高い水準にあるが、おひさま進歩
と連携し、「おひさま0(ゼロ)円システム」(2009 年度~)という仕組みや、補助金(1kW 当
たり 3 万円、1件当たり7万 5 千円を上限:H24 年度)により、さらなる導入推進をはかってい
る。「おひさま0円システム」では、おひさま進歩が設備を所有し、設置先(家庭等)と使用貸
借契約を結ぶことにより、設置先は 9 年間にわたり毎月定額料金をおひさま進歩に支払い、10
年目に設備が設置先に譲渡されるといった仕組みになっている。また設置先に電力を節約する
インセンティブを持たせるため、余剰電力売電収入は設置先が得るといった仕組みを導入して
いる。
出典:飯田市資料
4
参考文献:長野県飯田市「平成 22 年度緑の分権改革調査事業報告書」
(平成 23 年 3 月)、公民協働で再生可能エネル
ギー活用を進める長野県・飯田市(2011.10.25)農林中金総合研究所
81
図Ⅱ-2-10.飯田市における太陽光発電の導入状況
図Ⅱ-2-11.おひさま0円システム
出典:飯田市資料
おひさま進歩エネルギーグループが手掛けた 4 本のファンドの募集金額は 8.1 億円にのぼってお
り、環境・エネルギー政策上、公共性・公益性の高い分野への投資事業を行っている。その一つで
ある「南信州おひさまファンド」では、飯田市民のみならず全国から資金を集め、太陽光発電シス
テムを一般家庭や事業所、公共施設に設置するほか、省エネルギーの空調機器やヒートポンプの設
置、バイオマス利用や太陽熱利用のグリーン熱供給施設に投資運用している。また公民協働の例と
して、保育園や公民館、児童施設など市内の公共施設への太陽光発電システムの設置が挙げられる。
設置の際、投資回収の安定性を確保する観点から売電契約期間を 20 年とするとともに、市との公
共施設賃貸契約期間も 20 年とするといった連携を図っている。
82
表Ⅱ-2-16.南信州おひさまファンドファンド・プロジェクト概要
事業部門
主たる導入・実施先
計画・実績等
太陽光発電事業
太陽光発電電力の供
飯田市内の保育園、幼稚園、児童施設、公民館
発電量 24 万 2289kWh
給
等。
(計画値:22 万 8000kWh)
太陽光パネルを利用し
たソフト事業
太陽光発電施設の保育園・幼稚園において、園
児や保護者を対象に環境教育を目的とした「パ
ネルシアター」を実施。
イベント、商品、イベント・オフィスなどに販
グリーン電力証書販売
売
(販売:(株)自然エネルギー・コム)。
省エネルギー事業
(商店街エスコ事業)
一年間で 2,200 人以上(事業開始から延べ
7,200 人以上)の参加者
グリーン電力としての環境付加価値
合計 138,150kWh
飯田市美術博物館、公共展示施設、養護老人ホ
省エネ率[%](計画値):18.5%
ーム、その他、製菓販売店、飲食店、介護施設
二酸化炭素(CO2)削減量: 268 tCO2/kg・
デイサービスセンターなど
年
出典:おひさまファンドエネルギー会社
資料より整理
2004 年 5 月、飯田市内の私立「明星保育園」に初めて寄付型で NPO によっておひさま発電所「さ
んぽちゃん1号」が設置された。太陽光発電の発電表示器が屋内外に設置されており、保育園に
通う子供たちにおひさまの力で電気が生み出されていることを実感させ環境意識に働きかける
とともに、訪問者に対してもアピールしている。
出典:飯田市資料より
図Ⅱ―2-12.飯田市における太陽光発電事業を活用した普及啓発
83
c.取組のポイント(地域効果・課題等)
飯田市における市民参加型の再生可能エネルギー(太陽光発電等)導入が地域へ与える影響・
効果としては、以下のものが考えられる。まず環境面では、再エネ導入促進による CO2 削減が
挙げられる。また、経済面・社会面に目を向けると、太陽光発電システムの設備工事が地元の施
工業者によって行われることで、飯田市の地域活性化・地元雇用に寄与することが考えられる。
特に住宅の屋根面等に設置する太陽光発電については、現場施行の善し悪しが長期にわたる使用
に耐える条件となるという面があり、現場知識のある地元の施工業者によって行われるべきとい
う考え方が背景にある。地元施工業者による設置は、結果的に設置後のメンテナンス・故障時の
修理などを依頼しやすく、また、地元住民との信頼関係が構築されるなど、様々な波及効果をも
たらす面がある。また太陽光電池パネルは基本的に国産メーカーのものが使用されている。これ
は、機器メンテナンス・補修などについての長期サービス態勢の有無等を勘案してのものである。
一方で課題としては、おひさま進歩等の取り組みは、飯田市民のみならず全国からファンドを
通じて資金を集めていることが、逆に地域経済的視点からみれば域外資金流出につながる面もあ
ることが挙げられる。資金確保可能性を高めるために、対象を域内に限らないことは妥当な選択
であるが、一方で、地域資源を活用した取組で得た利益を、一定程度、域内に還流させるという
考え方もありうる。おひさま進歩グループは、太陽光発電による環境付加価値を証書化した「グ
リーン電力証書」の発行・販売を当初から投資運用のなかに組み込んできており、これらの制度
の活用によって再生可能エネルギー活用の社会的責任を目に見える形で認識してもらう「見える
化」に貢献している。このような社会的責任を地域で一定程度担うという面からも域内市民等か
らの出資率を一定程度高めておくという考え方も一考の余地がある。
d.本研究との接点となる行政ニーズ
上記の取り組みポイントや関係行政機関等へのヒアリング等を踏まえた行政ニーズとしては、
以下の点が挙げられる。一つは、これまでに進めてきた環境モデル都市等の取り組みが、住民等
の地域主体にとってどのような意義・価値を持つのかを明確に示すことである。環境政策として
一定の成果を上げてきた取組を、地域経済活性化策と結び付け、今後、一層発展させていくため
には、地域住民の理解の更なる醸成が必要となる。その際、これまでの取り組みや今後予定され
ている取組が住民の意識や満足度等に与える影響を明確化していくことが重要な行政ニーズと
なっている。
84
6)愛知県瀬戸市
a.環境政策・地域活性化施策(概要)
瀬戸市は古くから焼き物の町として知られており、その歴史は 10 世紀後半の平安時代にまでさ
かのぼる。伝統工芸品としての「瀬戸焼」に関する地域興しイベントとして、一般観光客向けから
本格的な瀬戸焼ファン向けまで、また展示観賞目的から販売促進目的までの、多様なイベントが開
催されている。
このような背景から、陶都瀬戸としての産地力向上に向け、「地域に埋もれた価値を発掘すると
ともに、こうした地域資源の活用と異業種や新規人材との連携、たゆまぬ努力により上質感と先進
性を兼ね備えたプレミアムを創出し、トレンドリーダーを目指していく」として、以下の 4 つの基
本方針を掲げている。
<陶都瀬戸としての産地力向上のための基本方針>
ブランド力の強化
「せともの」ということばが特定の産地を想起させない状況において、「瀬戸のやきもの」
の優位性や他産地との違いを的確に伝えるイメージやコンセプトを地元の視点やことばで
表現し、「瀬戸焼」ブランドを確立する。同時に、ファインセラミックスなど本市で生産さ
れる幅広い陶磁器関連産業の製品群、産地が育んできた風景や生活文化など、陶都瀬戸とし
てのイメージ向上を図るための魅力づくりに努める。
創造力と提案力の強化
国内外の市場が求める新しい製品を生み出し、新たな価値を提供するための組織力や提案
力を高めていく。事業者自らが、有望な市場を見極め、ニーズを正確に把握するとともに、
そこで「売れる」商品を生み出し、新たな市場に適した販路を開拓する。商品開発や販路開
拓の活性化のために、将来の陶磁器関連産業の担い手となる人材の市内での就業・起業を促
していく。
革新力と技術力の強化
産業発展の原動力はイノベーション=「革新力」であり、瀬戸市の陶磁器関連産業がこれ
まで培ってきた技術を継承するとともに、これから更に求められる環境負荷軽減など技術の
革新に挑戦する。産業集積地としての組織体制や事業基盤の強化により陶磁器関連産業の新
たな可能性を求めていく。
集客力と発信力の強化
地域資源を生かした観光との連携により、顧客層の拡大を図り、恒常的な集客力を高める。絶えず
新しい価値を創出し、国内外から注目され、魅力的な産地となるため、情報発信力を強化する。
出典:瀬戸市地場産業振興ビジョン~陶都瀬戸復活に向けて~(平成24年3月、瀬戸市)
85
b.特徴的な取組:再生陶磁器『Re瀬ッ戸(リセット)』の開発・普及
先に述べた焼き物のブランド力向上にむけた取組の一つとして、市民の手により家庭から回収さ
れた廃陶磁器をリサイクル原料として活用した再生陶磁器「Re 瀬ッ戸」商品の普及と新商品への
展開を図っている。きっかけとしては、環境配慮がテーマとなった愛・地球博5において、Re 瀬ッ
戸ブランド商品が開発・展示されたことが挙げられる。このイベントを契機に陶磁器産業を環境ビ
ジネスとして捉える動きが始まった。
図Ⅱ-2-13.
愛知万博で展示さた市民作成の Re 瀬ッ戸製品(右)と、
Re 瀬ッ戸ブランドの製品
「Re 瀬ッ戸」では、瀬戸市が市民から回収した陶磁器屑を製土業者が買い取って粉砕、精製加
工し、重量比で 50%配合し、再生陶磁器としている。取組のなかでは、リサイクル原料含有率の
更なる向上、低温焼成によるエネルギー消費・CO2 排出量の削減、焼成時に発生する熱エネルギー
の利用など環境性能を追求していくことを目指している。資源循環型生産技術として確立し、環境
配慮型製品を新産業分野として育成することで環境配慮と地域経済が両立した取組として推進し
ていくことができる。廃陶磁器は、市の資源リサイクルセンターに、市民が持ち込む形をとってお
り、市民参加型の対策となっている 6。
廃陶磁器
市民
(持ち込み)
廃陶磁器
瀬戸市資源リサイク
ルセンター
(買い取り)
製土業者
原材料
(粉砕)
製造業者
(精製加工、配合)
市場
(百貨店、旅館・飲食店等)
再生陶磁器
再生陶磁器
卸・小売業者
図Ⅱ-2-14.Re 瀬ッ戸の取組イメージ
c.取組のポイント(地域効果・課題等)
瀬戸市における再生陶磁器『Re瀬ッ戸(リセット)』の開発・普及が地域へ与える影響・効果
としては、以下のものが考えられる。まず環境面では、リサイクルによる天然資源採取量や埋め
立て処分量の低減(通常製品より約50%削減)、低温焼成によるエネルギー消費・CO2 排出量
の低減(通常製品より約30~40%削減)等の効果があるとされている。
5
2005 年に愛知県で開催された愛・地球博(愛知万博)は、循環型の持続可能社会の方向を世界に向けて発信したものとし
て、資源循環型生産技術を活用した様々な環境配慮型製品が実証試験や展示品として示された。
6
不要陶磁器の回収は一時中止されている。
86
また、経済面面に目を向けると、資源循環型生産技術を確立することで、低迷する陶磁器産業
を環境配慮型製品製造という持続可能な産業へと転換できること、新しいライフスタイルを発信
するという付加価値を創造することで地域活性化につなげること等が挙げられる。また社会面と
しては、下記に示すように「地域ブランド化による地域活性化」「市民参加意識の啓発」等の効
果が期待されている。
<「Re 瀬ッ戸」の特徴・効果>
1.廃陶磁器を市民・行政・企業の協同で、回収・資源化・製品化し、それを「Re 瀬ッ戸」と名づけ、
「地域ブランド」化する。国際間競争や物余りの時代に入り、低迷する国内の陶磁器産業を、
「Re 瀬ッ戸」で、環境に配慮した持続可能な産業へと転換し、新しいライフスタイルを発信する
付加価値型産業へと先駆的に取り組み、地域活性化を計る。
2.資源化するための先進性、独創性として、高磁力分離機(廃陶磁器の金属酸化物の除去を可
能にする)により、バージン原料に近い製品(粘土)が抽出可能であること。および、低温焼成
で、磁器製品完成を可能にしたこと。また、開発にあたり、新たな機械設備の導入が不要で、
長年の技術と設備を使うことで地域産業の特長を生かしたリサイクル技術であること。
3.啓発効果として、瀬戸市の資源リサイクルセンターに「廃陶磁器分別コーナー」を新設した
ことにより、循環型社会実現に、市民参加意識を啓発できた。またその際、必要者がリユース
できる(欲しい人が持ち帰る)場ともなり、省エネ効果につながった。また、愛・地球博の出
店作品について一般公募でデザインを募り、作者自らが絵付けした水受けボウルの製作をする
など、市民が廃棄物を資源化する輪の中の参画者となる喜びを作った。このことは、市民・行
政・企業の三方一両得を実現し、循環型社会の実現を具現化できた。
出典:愛知県陶磁器工業協同組合
一方で課題としては、以下の点があげられる。「Re 瀬ッ戸(リセット)」の取組は、“わが国で
初めて、廃陶磁器の高配合率・久付加価値リサイクル技術を開発するとともに、市民との協働に
よって、回収・資源化する新しい社会システムづくりに取り組み、今後の展開が期待できる”と
して、2005 年愛知環境賞を受賞7する等、取り組み当初は、高い評価を受けていた。しかしなが
ら、万博以降の一般市場への展開は、必ずしも十分に進んでおらず、市場開拓や商品開発が今後
の課題となっている。環境配慮という点を PR 材料に、都市部大手百貨店や地元と飲食・宿泊業
等の取引や見本市での販売促進、地元イベントでの商品提供による普及啓発等に取り組んでおり、
今後の市場拡大を模索している。地域事業者へのヒアリングによると、焼き物は、特に伝統的製
品の場合、その背景にあるストーリーが購入の動機づけとなるため、環境配慮・次世代への配慮
といった点が PR 材料になることもあるが、現時点では、そのような魅力が十分に伝えきれてい
ないという状況となっている。
7 受賞ポイントとしては「愛・地球博を契機にかわる環境ビジネスとしての陶磁器産業」
「資源化するための先進性、独創性」
「環境負荷低減効果」「啓発効果」が挙げられている。
87
d.本研究との接点となる行政ニーズ
上記の取り組みポイントや関係行政機関等へのヒアリング等を踏まえた行政ニーズとしては、
以下の点が挙げられる。一つは、販路形成等に課題がある中で、文化・伝統を受け継ぐ地場産業
の活性化という公益性や全国へ展開できる可能性があるモデル性に着目して、地域全体として、
あるいは長期的な効果を考える必要があるという点である。再生陶磁器の取り組みは、瀬戸地域
の「Re 瀬ッ戸」の他、美濃地域のグリーンライフ 21(GL21)、美濃「Re 食器」、有田地域のエ
コポーセリン 21「白磁再生」等、各地域で試験研究等の取り組みが進められている。「Re 瀬ッ
戸」が、瀬戸市が市民から回収した陶磁器屑を製土業者が買い取って粉砕、精製加工し、重量比
で 50%配合するのに対して、美濃「Re 食器」は家庭や学校から回収した陶磁器屑や美濃焼生産
地内で発生した不良品を粉砕加工し、20~50%%配合している。一方、有田「白磁再生」は有田
「せともの」の名称からも、シン
焼産地内で発生した白磁不良品粉砕物を 21%配合させている 8。
ボル的な存在であり、生産額割合(表Ⅱ-2-17参照)も比較的大きい瀬戸市での取組が、他
地域での取組と連携して、全国的な動きとなっていくことが期待される。各地域でのこれまでの
検討は、商品開発等の技術的な側面が強いが、地域経済への波及効果等を明確化することで、全
国的な取り組み展開へとつながる可能性がある。
表Ⅱ-2-17.陶磁器製和飲・洋飲食器の産地別生産
出典:林上「資源循環型陶磁器生産システムの構築と社会経済的意義」
8
出典:伊藤賢次、宮田昌俊「瀬戸産「Re 瀬ッ戸」を用いた健康市場向け商品の研究開発」
88
7)富山県富山市
a.環境政策・地域活性化施策
自動車への依存率が高い地域である富山市では、公共交通の衰退(JR や路線バスの利用者の大
幅な減少とそれに伴う路線・系統廃止等)が続いており、高齢者等の自動車が利用しにくい世代
にとっては、移動の利便性が低くなっている面がある。また、高齢化の進展に伴う人口移動等に
より低密度地域が増加する等、都市管理にかかるコストが増加傾向にある。今後の少子高齢化、
人口減少の中で、これらの課題に対応できる持続可能な地方都市のモデルをめざし、公共交通を
軸としたコンパクトな町づくり(公共交通の活性化および中心市街地や交通沿線への都市機能の
集積による都市活動の活発化等)、質の高い魅力的な市民生活づくり(中心市街地の活性化、歩
いて暮らせる町づくり、ソーシャルキャピタルの醸成等)、地域特性を活かした産業振興(地場
産業の薬業、自然を活かした再生可能エネルギー、企業誘致による就業機会の向上等)等の各種
取組が進められている。
また市民参加の取り組みとしては、市庁がキャプテンを務め、市民や企業が自主的に参加する
エコ活動組織「チーム富山市」を結成し、省エネ住宅やエコ機器の導入、ごみの減量化などを推
奨している。また産業活性化につながる環境対策としては、エコタウン事業があり、「ゼロ・エ
ミッション構想」を基軸にリサイクル関連企業の誘致、雇用創出を図っている。
b.特徴的な取組:コンパクトな町づくり
コンパクトな町づくりをめざして、以下のような各種取組が進められている。
富山港線のライトレール(LRT)化
利用者減少→サービスレベルの低下(運行本数の減少)→利用者減少の加速という悪循環の状
態にあった JR 富山港線を LRT として存続させ、その経営を第 3 セクターに移管するという「公
設民営」の考え方によって全国初の本格的な LRT システムが整備されている(平成 18 年 4 月)。
LRT システム化にともない、運行サービスの向上(駅数増加:9→13 駅、終電時間変更:21→23 時
台)、車両低床化・全駅バリアフリー化等による利便性確保、都市景観を形成するトータルデザ
イン等が行われている。また移動利便性を高める取組として、合意形成が難しいと考えられてい
た地方都市における LRT 導入が成功したことは他都市に対するモデルとなりうる取組と考えられ
ている。
まちなか・公共交通沿線居住推進事業
まちなか居住推進事業(平成 17 年 7 月施行)により、都心部における住宅の建設事業者や購
入・賃貸する市民への助成等が行われており、100 人を超える域外転出がみられていた地区が、
年平均 70 人程度の転入増となる等の効果がみられている。また、公共交通沿線居住推進事業(平
成 19 年 10 月施行)は、沿線内に住宅を建設・購入する事業者や住民を支援(事業者:建設費補
助 70 万円/戸、市民:建設、取得補助 30 万円/戸、区域外であれば 10 万円/戸上乗せ)する制度
で、実施後から平成 23 年 3 月までに約 500 戸が建築、購入されている。
89
自転車市民共同利用システム
CO2 排出量削減と中心市街地の活性化(回遊性強化)という環境と経済が両立する対策の一つ
として、中心市街地区や市内電車環状線沿線にコミュニティサイクルのステーションを設置して
いる。町中での移動選択手段を増やし、公共交通の利用促進や自動車への依存度を減らす狙いが
ある。コミュニティサイクルのステーションは地域事業者(シクロシティ株式会社)によって運
営されており、駐輪場に広告パネルを設置し、広告収入で運営を賄っている。また富山ライトレ
ールの IC カードも利用可能となっており、市民の移動利便性を高めている。
c.取組のポイント(地域効果・課題等)
富山市におけるコンパクトな町づくりが地域へ与える影響・効果としては、以下のものが考え
られる。まず環境面では、公共交通利用促進や徒歩・自転車利用の促進による運輸部門での CO2
削減や、中心市街地における省エネ住宅建築による民生家庭部門での CO2 削減等が挙げられる。
また経済面・社会面に目を向けると、人口密度が高まることによる中心市街地の活性化や、公共
交通機関利用促進を通じた地域事業者や自治体の収益増加、先進的な環境配慮の取り組み地域と
しての視察やコンベンションによる短期滞在者増加、高齢者の移動利便性の高まりによる健康促
進と医療費削減、沿線利便性向上等による地価下落抑制、これらの結果としての各種税収の維持、
都市インフラ管理コストの低減といった点が挙げられる。
一方で課題としては、コンパクトな町づくりをすすめていくなかで、公的資金の集中投資をす
るための合意形成が必要となると言う点が挙げられる。ある地域・地区に公的資金を集中的に投
資することで、少なくとも短期的には、その便益帰着に偏りが生じることとなる。その際、長期
的には市域全体のメリットにつながり、市民全体に便益が帰着することを示し、合意形成を図る
ことが重要となる。
なお、富山市で LRT 化が成功した理由としては、表Ⅱ-2-19のようなものが挙げられて
いる。新幹線導入といった地理的状況等、他の地域に適用しにくい項目もあるものの、財源確保
や政策決定プロセスにおいては、国の補助金制度の活用や市民の理解を得るためのビジョンや情
報公開など、先進的なモデルとなりうる部分も多い。
90
表Ⅱ-2-18.富山市における LRT 化の成功要因
項目
成功要因
・ 新幹線導入と連続立体交差計画の存在
・ 有効利用されていなかった鉄道施設の存在
技術、地理的状況
・ 一定規模の沿線人口,住宅地とオフィスの沿線立地,
・ 大規模集客施設の存在
・ 投資費用を公的負担すれば,ランニングコストは民でまか
なえる収支状況
・ 国の補助制度拡充の実現
財源
・ 先進事例としての扱いによる有利性
・ 既存事業者からの寄付金の獲得
・ ビジョンの正当性と首長のリーダーシップ
・ 議論の場のマネジメントと情報公開
政策決定プロセス
・ 制約条件をプラスに生かす前向きな姿勢
・ 関係者を動員するインセンティブ付与
・ フレーミングの調整と個別的利害調整
d.本研究との接点となる行政ニーズ
上記の取り組みポイントや関係行政機関等へのヒアリング等を踏まえた行政ニーズとしては、
以下の点が挙げられる。今後、財政状況が厳しくなる中で、集中的な投資を行うために必要とな
る資金そのものが不足する事態が生じる可能性がある。そのような状況に対応するために、これ
まで公的主体が担ってきた維持管理を、一部を市民参加により賄う(例.沿線の美観維持等)こ
とにより、公的コストを節約するという方策が考えられる。その際、どのような形態・頻度の市
民参加が必要であり、逆に、市民側はどの程度までなら可能であるかといったことを明確化し、
実現可能性の高い市民参加のあり方を模索するための方法論が必要となる。
91
8)高知県:こうち型地域還流再エネ事業
高知県では、固定価格買取制度をはじめとした再生可能エネルギー導入の契機を活かして、
「地
域が主体となって発電事業に参画し、地域にそのメリットを最大限還流させることが必要」との
考え方のもと、地域再エネ発電事業への支援等を行う「こうち型地域還流再エネ事業」を展開し
ている。
出典:高知県資料より
図Ⅱ-2-15.こうち型地域還流再エネ事業の考え方等
取組の第 1 弾として、安芸市における太陽光発電事業主体を官民出資により設立している。県
が主体的に設立した発電事業主体に対して、地域の金融機関が融資するとともに、県内民間企業
が運営や各種の下請け担うことにより、事業に伴う経済効果が地域主体に波及するような取り組
みとなっている。また、事業利益・配当は、地域サービスに活用され、地域住民にとっても、そ
のメリットが感じやすい仕組みとなっている。また将来的には、第2、第 3 段の太陽光発電事業
やその他風力、小水力等の発電事業に拡大し、その設立・管理ノウハウの蓄積を図るとともに、
収益を地域の産業振興や環境施策に活用することにより、持続的な環境経済循環の構築を目指し
ている。(図Ⅱ-2-16)
92
出典:高知県資料より
図Ⅱ-2-16.こうち型地域還流再エネ事業のイメージと今後の展開
93
9)徳島県:カーボン・オフセットの地域ブランド化
徳島県では、カーボン・オフセットの地域ブランド化を地域ぐるみで進めていく母体として、
企業の中間管理職、NPO 理事、若手研究者、徳島大学、環境コンサルタントなどから構成される
「徳島カーボンオフセット推進協議会」が発足している(平成 24 年 1 月 27 日)。同推進協議会
は、以下の 4 つの項目に取り組んでいる。
① 温暖化対策に必要な情報や、カーボン・オフセットの考え方を広める普及啓発活動
② カーボンオフセットについて興味を持ち、制度を利用しようと考えている企業や森林所有
者に対するオフセット支援
③ 自然との触れ合いと通じて自然環境や歴史文化社会への理解を深めるような「体験型」環
境教育プログラム
④ 地域の自然環境保全や再生エネルギーの活用、環境ビジネス等を通じて地域の活性化を促
進するエリアマネジメント
この協議会が主体となって「地産都商」プロジェクトを進めている。これは、徳島県の特産品
を徳島県内で創出されたオフセット・クレジットを活用してブランド化し、都市へ販売するプロ
ジェクトであり、様々なブランド商品が販売されている。
「地産都商」は、クレジットを創出する側にも実績が多くあり、那賀郡那賀町では古くから杉
を主体とする人工林が行なわれており、伐採された主に京阪神へと販売されている。この木頭林
業地において森林吸収源で創出されたクレジットは、郵便事業会社(日本郵便)の 2010 年度「カ
ーボン・オフセット年賀寄付金配当事業」に採択されている。また、「誇り」と「豊かさ」を実
感できる「21 世紀のとくしまづくり」を進めるための施策の一つとして「とくしま公有林化プロ
ジェクト(とくしま絆の森プロジェクト)」がスタートし、モデル的に J-Ver の取得、販売を開始
しており、約 450t-CO2 のクレジットを販売している。
94
(3)まとめ
a.温暖化対策が地域にもたらす効果
先進事例の詳細調査から、温暖化対策における地域への効果について整理する。
まず環境面においては、森林保全による CO2 吸収量の確保、再生可能エネルギー導入による CO2
排出量の削減が共通してみられる効果として挙げられる。地域によっては、リサイクル製品などの
普及による廃棄物削減や、コンパクトシティ化による運輸部門での CO2 削減等も挙げられる。
経済面における効果としては、再生可能エネルギー事業による域内でのエネルギー費用削減と、
域外に流出する化石燃料由来のエネルギーコストの削減、およびこれら新産業にともなう関連産業
への需要発生による雇用創出が共通してみられる。地域ごとにみると、オフセット・クレジットを
活用している地域は域外からの資金を獲得することができており、コンパクトシティによって中心
市街地が活性化する地域もある。
社会面においては、独自の資源を活用した先進的な環境都市としての地域ブランドの向上効果と
いう点が共通してみられる効果である。地域ごとには、イベントの開催等で住民参加を促進するこ
とによる各種温暖化対策の取組への住民理解の向上や、高齢者にとって利便性の高いコンパクトシ
ティでは移動する頻度が増し、健康促進につながるといった効果が期待されている地域もある。
95
都市
・
・
下川町
・
・
梼原町
・
・
・
・
日高川
町
綾町
・
・
・
・
飯田市
表Ⅱ-2-19. 詳細調査から得られた地域への効果
地域効果
経済面
社会面
木質バイオマス燃料の活用による地
域のエネルギー費用削減
・
化石燃料からの代替による域外流出
・ 環境先進地域としての
コストの削減
ブランド力向上等
・
林業、林産業、バイオマス産業、森
林サービス産業における新規中間需
要の発生による経済循環
バイオマス、太陽光、風力等の活用
によるエネルギー費用削減
・
域外流出費用の抑制
・ 地域ブランド向上
関連産業への需要発生による波及
オフセット・クレジット等による域
・
外からの資金獲得
木質パウダー燃料の活用による地域
・
・ 地域通貨を用いること
エネルギー費用削減
による住民参画が促進
域外流出費用の抑制
に伴う取り組みへの理
域内消費が促進されることによる波
・
解向上
及
・ 有機農薬品のブランド
・
化
有機農業にいち早く取り組んだこと ・ 照葉樹林への誇りと愛
による販路確保
着を背景とした良好な
・
自然環境や居住環境の
維持
太陽光発電システムの設備工事の発
・ 地元施工者との信頼関
・
生による飯田市の地域活性化・地元
係の構築
雇用に寄与
・
環境面
森林保全、森林吸収
量の確保・増大
森林バイオマス燃料
活用による CO2 削減
再生可能エネルギー
の大幅な導入による
CO2 削減
森林保全
間伐材を活用したバ
イオマス燃料による
CO2 削減
森林保全による CO2
吸収
有機性廃棄物等の削
減やライフサイクル
での CO2 削減
各種生活環境負荷の
削減
再エネ導入促進によ
る CO2 削減
瀬戸市
・ 低迷する陶磁器産業を環境配慮型製
品製造という持続可能な産業へと転
換可能
・ 地域ブランド化
・ 市民参加意識の啓発
リサイクルによる天
然資源採取量や埋め
立て処分量の低減
・ 低温焼成によるエネ
ルギー消費・CO2 排
出量の低減
富山市
・ 人口密度が高まることによる中心市
街地の活性化
・ 公共交通機関利用促進を通じた地域
事業者や自治体の収益増加
・ 先進的な環境配慮の取り組み地域と
しての視察等による短期滞在者増加
・ 沿線の利便性向上による地価下落の
抑制
・ 高齢者の移動利便性の
向上およびそれにとも
なう健康促進
・ 公共交通利用促進や
徒歩・自転車利用の
促進による運輸部門
での CO2 削減
96
b.課題および行政ニーズ
先進事例の詳細調査から、温暖化対策における課題と行政ニーズを整理する。共通課題に関して
は、第一に、地域全体で再エネ事業を行うことによるステークホルダーに対するメリット・波及効
果が不透明であることが挙げられる。このことに対する行政ニーズとしては、再エネ事業に関連し
た地域資源の保全が地域経済(観光客や移住増加、ブランド形成に伴う地産品販売促進)や住民満足
度に与える影響を明確化する。環境面・技術的な側面・地域経済面・社会面の波及効果等、それぞ
れを明確化することなどが挙げられる。
第二の課題として、再エネ事業を行っていく上で、経済面(資金面)
・社会面での住民の合意形成
がうまくいっていないことが課題として挙げられ、再エネ事業のための公的資金の使い方の“決め
方”と決め方に対する“市民の関与度合”について(市民との協議を通じて)明確にする必要があ
る。
また、再エネ事業が地域産業・住民にもたらす効果に対して定量的な評価がされていないことも
課題となっており、再エネ事業による地域への総合的な経済および環境効果を分析・評価する方法
論を確立する必要がある。また、環境面の影響・効果の定量的な裏付け・評価だけでなく、住民の
満足度・幸福度等の指標を経済的視点から定量的に裏付けることが出来るような知見の集積も必要
となる。また、特定のイベントに出店するにとどまっている地産商品などの場合には、その波及効
果が非常に限定的であるため、地域経済への波及効果等を明確化することで、全国的な取り組み展
開へとつながる可能性も残されている。
97
表Ⅱ-2-20.詳細調査から得られた課題および行政ニーズ
課題
行政ニーズ
・ 環境と経済が一体となった施策の
進捗管理や効果把握のための定量
・ 地元住民等による共同出資を通じ
的な指標
・ 関連政策への住民関与の度合いを
た利益還元
強め、地域の各主体が一体となっ
・ ・地域ブランド向上といったメリ
下川町
ットの域内住民への伝達森林総合
た取組の実行、及びそれに伴う満
産業全体として見た時の地域全体
足度向上を図るための施策
への効果の定量的な把握
・下川町独自の施策である幸福度等の
指標を経済的視点から定量的に裏付
けることが出来る知見
・ 再生可能エネルギー全体と地域経
・ 木質バイオマス事業がもつ森林保
済全体という 2 つの視点からトー
全や林業活性化等の副次的メリッ
タルの効果を分析・評価する方法
梼原町
トの評価
論
・ 地域住民等への取り組みメリット
・ ・住民への説明責任を果たすため
や意義の伝達
の効果の明確化
・ 木質パウダー事業における適切な
価格設定
・ メンテナンス強化によるボイラー ・ 域内における消費促進が地域にど
稼働率向上、収集コストの低減
のような影響を与えるかを明確化
日高川町
・ 林業における間伐・搬出作業との ・ 地域商店で消費を促すための啓蒙
連携
活動
・ 視察収入、クレジットの活用等に
よる多面的な財源確保
・ 照葉樹林等の貴重で豊かな自然資
・ 有機農業の他地域への普及による
源の保全が地域経済(観光客や移
ブランド力の維持
住増加、ブランド形成に伴う地産
綾町
・ 観光客の増加等による経済効果の
品販売促進)や住民満足度に与え
多様な産業への波及
る影響を明確化
・
対象
小 規模
中規模
飯田市
・ 域外からも資金を集めることと、
域内で経済循環を促進することの
両立
瀬戸市
・ 一般市場へのリサイクル製品の普
及・展開
富山市
・ コンパクトな町づくりをすすめて
いくなかで、公的資金の集中投資
をするための合意形成
98
・ 環境モデル都市としての取り組み
等が、住民等の地域主体にとって
どのような意義・価値を持つのか
を明確化
・ 全国的な取り組みへと展開するた
めに、技術的な側面だけでなく、
地域経済への波及効果等も明確化
・ 公的コスト節約する際に、どのよ
うな形態・頻度の市民参加が必要
であり、逆に、市民側はどの程度
までなら可能であるかといったこ
とを明確化
2.2.2 海外事例
概観調査結果等を踏まえ、先進的取組をしている地域関連機関等にアクセスし、コンタクトが取れ
た地域・機関において詳細調査(現地調査、関係者ヒアリング・情報入手等)を行った。
(1)調査対象地域・機関
表Ⅱ-2-22に、調査対象機関・地域を示す。
表Ⅱ-2-21.調査対象機関(地域)
国
機関(地域)
ECOS
(Osnabruk)
ドイツ
Gmbh
(Osnabruk)
RegModHarz
(Dardesheim)
Fesa
(Freiburg)
Risø DTU
(Copenhagen)
Copenhagen Energy
(Copenhagen)
Danish
Wind
Industry
Association(Copenhagen)
デンマーク
Middelgrunden Wind Turbine
Cooperative
(Copenhagen)
Business Lolland-Falster
(Lolan)
SOG
(Copenhagen)
Mr.Hubert lammler
(Almenland)
Holz-Bauer KG-Sa"gewerk
(Floing)
Mr. Robert Glettler
オーストリア
オランダ
AEEINTEC
Institut
für
Nachhaltige Technologien
Biomasse-Heizwerk Kaindorf
ökoEnergieland Europäische
Zentrum
für
erneuerbare
Energie(EEE)
Besichtigung
Solarschule
Güssing
Biomassekraftwerk Güssing
Besichtigung
Fernwärme
Urbersdorf mit Sola
Besichtigung
Biogasanlage
Strem
Hitzendorf 村 地 域 熱 供 給 事
業
Amsterdam Innovator Motor
(AIM)
機関概要
日独での環境技術交流等の分野に実績のある環境コンサルタント会社。シュ
タットベルクとよばれるエネルギー供給協同会社における再生可能エネルギ
ーの推進等に関する豊富な情報を保有している。
地域風力発電事業者。地元周辺住民等の出資でウインドパークを設立し、風
力発電・運営。動物の糞尿と作物によるバイオガスエネルギー生産も実施し
ている。
風力発電、屋根を用いた太陽光発電、バイオマスによる熱供給を実施。域内
のガソリンスタンド等に再生可能エネルギーを導入している。
再生可能エネルギー中心の啓蒙活動や実践活動を担う市民団体。サッカース
タジアムの屋上に市民出資 100%のソーラーパネルを設置している。
大学研究機関。エネルギー技術・政策・CO2 削減の研究。再生可能エネルギ
ーをエネルギーシステムに統合する方法を検証している。
エネルギー供給事業会社。150 年前に設立された公共事業会社。上水道、下
水道、ガスの整備・供給、地域暖房、地域冷却、風力、太陽エネルギーも供
給している。
風力発電事業者による業界団体。デンマークが風力発電に関して世界のリー
ダーとなり、50%以上の電力を風力でまかなうという目標を実現するため
の組織。
洋上風力発電事業者。2000 年に、デンマークで初めて、協同組合により発電
所を設立。「ローカルオーナーシップ」の成功例として注目されている。
産官学連携機関。石油危機による失業率増加と風の条件を背景に、風力発電
工場の誘致、産官学連携による研究を実施。ブルーバイオマス(宮城県東松島
市との協働)の研究も予定されている。
エネルギー効率・風量・バイオ燃料などの取り組みを産業全体に広げること
を中心に活動。情報発信による自治体同士のかけ橋の役割を率先。
エネルギーアドバイザー。地域や役所の人にアドバイスをする活動。として
おり、国のサステイナブルな林業とバイオマスに関する賞を受賞している。
地域へのエネルギー供給事業を自らの出資で行っている農家。
バイオマス設備アドバイザーとして各地域でのバイオマスエネルギー導入に
貢献している。
地域のエネルギー研究所。再生可能エネルギー導入等を実践している。
林家の投資が主体となって作られたバイオマスエネルギー供給事業者。
ギュッシングでのバイオマス発電事業等を担う組織
太陽光電池のモジュールやソーラーに関する研修や、エネルギーマネージャ
ーになるための長期研修も行う教育・研究機関
ギュッシングにおけるバイオマス発電事業者
「バイオエネルギー20+(プラス)」というエネルギー関連の研究施設
バイオガス自動車は、ガスとガソリンの両方に対応している。購入者に 1000
ユーロの補助が与えられる将来的にユーザーが増えることを期待している。
地元林家によるバイオマス発電地域エネルギー供給施設の運営主体。
アムステルダム都市圏の知識経済とイノベーションを推し進めるために、ア
ムステルダム市によって 2006 年に設立された団体。持続可能な都市を目指す
プロジェクトである Green Metropole、Amsterdam Smart city などの推進母
体として、企業、研究機関、政府、その他の団体との調整役を担っている。
99
(2)調査結果(取組概要、地域効果等)
調査結果を以下に示す。
1) ECOS(ドイツ)
団体名
ECOS
ドイツ・オスナブリュック
Westerbreite 7 D-49084 Osnabrück
Mr.Wilhelm Meemken, Mrs.Yuriko Meemken, Mr.Peter Beck,
Dr.Hans Rudiger Dehn
場所
担当者
業務領域
国・地域
コンサルタント、リサーチ、プロジェクトマネージメント
設立
1985
<ヒアリング内容>
○団体概要
z
環境政策と同時に産業政策にも位置付けられる再生可能エネルギーのような新しい産業の
効果を探求し評価するというプロジェクト。設立の目的は、地域の雇用の開発であり、コス
トをかけての CO2 削減ではなく、自然豊かなところで再生可能エネルギー(コスト不要)によ
る経済波及効果や地域活性化、雇用効果、同時に温暖化対策効果に関する研究をしている。
○シュタットベルク
z
エコノミーとエコロジーを両立させるために、地域の再生可能エネルギーは地域で生み出し
て、地域が恩恵を受けるようにするために設立された、民間の投資によるエネルギー供給協
同組合を指す。
z
もともとエネルギーを供給していたというベースがあり、それを会社化することで、独立採
算制を取るようにした。市が所有している有限会社、あるいは株式会社という形態を取って
いることが多い。分散型エネルギーの生産と分配をテーマに、独自にエネルギーを生産する
という傾向を強めている。
z
2020 年までに再生可能エネルギーを増強するために約100億ユーロを投資する準備をし
ており、大きなシェアを占めているのが、そのうちの風力発電である。
z
100%株式会社の場合は、自分の利益を生み出して自分で経営していく必要があり。投資も
利益から行う。市が株主のため、ここで得た利益によって市経済の活性化につながる。シュ
タットベルク同士の連携は強く、一つの自治体のではなく複数で協力して投資をすることも
多い。
z
主な事業内容は、電力、ガス。上水供給、地域によっては元帥処理や地域暖房、近距離交通
をおこなっているところもある。
z
オスナブリュックにあるシュタットベルクでは、太陽光や風力発電や水力発電といった発電
事業を独自に持っている。電気自動車の分野にも先導的に活動しており、電気ステーション
などの社会実験も行っており、他の都市との連携によって、一番望ましいコンセプトを追求
している。
z
また、コージェネレーションにも力を入れており、「マイクロコジェネレーション」(家庭に
おいてマイクロコジェネレーションを普及させる)というプロジェクトもある。
100
○分散型エネルギー
z
分散型エネルギーというキーワードの基に地域で作られた再生可能エネルギーを地域で消
費する。非常に大きなグリッドや給電配電網を使わずに、地域で作ったものを地域で供給す
るという分散型エネルギーのコンセプトに基づいている。
○雇用創出効果
z
雇用面では、オスナブリュックのシュタットベルクにより、直接の雇用が 1000 人生まれて
おり、間接的にも施工業者やメンテナンス業者、プランニングを行う会社などにより 1000
人ほど雇用が生まれている。地域に雇用をもたらしていることが、成功した理由の 1 つと見
ている。地域に雇用をもたらしていることが、小型の地域エネルギー供給会社が成功する一
番の要因と考えられる。
○住民の同意
z
地元が設備を立てるにあたって、地元の投資により作られる設備とそれ以外の設備では、住
民の受け入れ姿勢が変わる。単に外部者の投資による事業は住民の反対もまだまだ大きい反
面、地域が恩恵を受ける、地域の人による事業がについては、非常に受け入れられやすい。
○エネルギーの価格
z
電力は買わずに生産し、さらに分散型エネルギーを重要視することで、巨大電力会社への依
存度を低くすることが出来る。また、エネルギー価格が独占的に決定することへの抑制にも
つながっている上に、地域に根付いたものであるので、サービスの質も高い。
z
コジェネレーション等を入れることによって、そして電気だけでなく熱も入れることにより
売るといった収支全てを合わせることにより、電力会社の単価よりも抑えることができてい
る。
○仮想発電所に関する研究
z
100~1000 ほどの家庭にあるマイクロコジェネレーションを 1 つのネットワークで連携する
ことによる仮想発電所について研究しており、余剰電力を充電・売電して収益を上げるとい
う仕組みになっている。住宅供給公社のような多くの住宅を供給している組織が仮想発電所
のオーナーである。ネットワークで連携しているので、施工会社やメンテナンス会社によっ
ても経済効率を上げることが出来る。
z
将来的には、マイクロコジェネレーションだけでなく、太陽光発電、風力発電、バイオマス
などの様々な再生可能エネルギーを連携させた仮想発電所も視野に入れている。
z
発電したものを以下に効率的に給電・配電していくかがデーマになっている。
○エネルギー蓄電方法としての「パワーto ガス」
z
エネルギーの蓄電方法が問われている中で、ガス化して、あるいは水素として燃料電池とし
て使用する方法がある。風力発電の余剰電力として使用する方法もある。アウディが大量の
投資をしてドイツ北部にウインドガス用の工場施設を進めている。
○ドイツ国民の環境への意識
z
ドイツも日本同様に、環境にやさしいという理由のみで受け入れるのではなく、経済性をよ
101
り重視する傾向にある。脱原発への意識も理由として挙げられる。
z
全体的な考え方で再生可能エネルギーを推進することによって脱原発につながるという意
識により、税金なり間接的な電力料金が上がることについて許容するという国民の意識は強
い。最終処分の処理費から危機に伴う保険等そういうものをすべて含むと原子力発電という
ものは高いと認識している。
z
自分たちのエネルギーに対して支払ったもの、事業の収益が地元に還元されると住民は意識
して行動する。インフラでありプールであり、そういった設備の充実に還元されるというこ
とがあるので、住民がシュタットベルクを選ぶ。
z
オスナブリュックで走っているバスの購入等、常に新しい投資をシュタットベルクの中の事
業として投資をして、市民の生活のレベルに感じるものもあり、それが市の収入につながっ
ている。
z
シュタットベルクが市の所有であるから、シュタットベルクの利益は、地域の公共サービス
や同じ地域プロジェクトの拡大なと、市民の関心に近いところで収益が利用されている。
<地域への効果>
○経済面
z
シュタットベルクによる直接雇用、間接雇用がそれぞれ 1,000 人創出。
z
市が株主のシュタットベルクによる利益が、地域活性化につながる。
z
仮想発電所のネットワーク連携による、各種会社の経済効率化が図られた。
○社会面等
z
地元の投資によって作られることによる意識向上
z
住民関心の近いところで利益が利用されていることによる取り組みの普及啓発
z
脱原発という国民の意識
<成功要因となる仕組み等>
z
シュタットベルクは市所有の会社のため、地元に利益が還元され、インフラ設備等の充実に
もつながること。
z
分散型エネルギーがエネルギー価格の独占を抑制している。
z
ドイツでは、個人や企業が比較的自由に電気を作ることが出来る環境があること。
102
2) WINDPARK SCHÖPPINGER BERG GMBH & CO. KG (ドイツ)
団体名
WINDPARK SCHÖPPINGER
BERG GMBH & CO. KG
場所
担当者
業務領域
国・地域
ドイツ・メテレン
Naendorf 1 48629 Metelen
Mr.Heiner Konert
風力発電・運営
設立
2000
<ヒアリング内容>
○設立の背景
z
原子力発電への反対があり、風力発電の実証を始めることがきっかけとなり設立された会社。
将来性、経済性が両立できるビジネスとして風力発電と農業と並行的に事業を行っている。
z
風力発電については技術的な問題も経済的な問題が未知であったため、1992 年にウインド
パーク 1 号機を 2 基設置した。フィールドテストを行って確信が持てることによって、融資
の手続きをし、1994 年に中規模の風車を建設した。1997 年に有限合資会社(役員 10 名、農
地所有者 73、区画数 132)とコーカゲー会社(67 名の出資者)が設立された。自己投資額は合
わせて 1,500 万ドイツマルクに上り、銀行からの借り入れの 3,500 万マルクと合わせて
5,000 万マルクの投資によって出来た会社である。
○出資者の構成
z
出資者が、村、あるいはとなり村の人など地元の住民で構成されているため、農家の人たち
も許容している。地元の人が参加し、その利益を共有できるかどうかを、重要視している。
何らかの形で、生まれる利益を共有できる仕組みを作ることによって、継続してウインドパ
ークを事業として成り立たせている。
○ウインドパークの事業性
z
コストは人件費 3%、土地代 4%など、比較的ウエイトは小さい。また、ウインドパークと
して形ができた後は事業としての見通しが非常によい。リパワーリング(本数自体は減らす、
あるいは維持し、1 基本あたりの発電能力を大きくする)のため費用の積立も行っている。リ
パワーリングの意義は最新の技術を使うことにある。
z
他のウインドパーク業者との共通の意見として、地元の人に参加してもらい、いかに利益を
共有できるかがカギとなることが挙げられる。何らかの形でうまれる利益を共有できる仕組
みを作ることによって、自治体としても収入源になるので、継続してウインドパークを事業
として成り立たせることができる。
z
地域の人でない人がウインドパークに投資した場合は、影や音の問題に対し、自分のもの
という意識がないために地元の投資家との間に距離が出来てしまった例もある。
○合意形成の過程
z
最初の出資者(役員)10 人最初の賛同者であったが、コンサルタントに分析評価してもらうこ
とによって、少しずつ賛同を得ていった。環境アセスメントや書類提出、役人からの許可手
続き等にかなり苦労をしている。しかし、フィールドテストによる経済的データは説得力が
あり、2 年間という短い期間で、67 人の出資を得ることに成功した。
103
z
リンデンという町に原子力発電所、3か所の廃棄物貯蔵所があり、昔から原子力に大反対で、
単に反対でなくそれに代わる提案をしなければならないということで風力発電を自分の力
で立てて、実証するために始めた。農業従事者であるが、将来性、経済性のあるビジネスと
して風力発電を始めることを決めた。
○コーカゲー合資会社
z
先コーカゲーに出資した人は、最初の 5 年間、毎年配当金として 15%を受けていた。借入金
返済後は、30%を受けている。
z
維持や修理を含めたフルサービス契約をエナコンという会社と結んでおり、維持費が約 60
万ユーロである。銀行からの融資条件として、こういった費用がはっきりしていることが重
要である。
○バイオマス
z
バイオマスエネルギーは、10%が動物の糞尿を、残りを作物から利用している。作物は食物
用ではなく、普段の食物の収穫が終わったあとに栽培するので、CO2 吸収という面で環境バ
ランスも取れている。
○事業を成功させるためのカギ
z
ウインドパークスタートアップ時には、「1.数年はかかることを覚悟すること」
「2.関係
者をまとめていくためのキーパーソン(風力に関心のある団体とかが中心となること)が必要」
「3.自治体からの認可を取れる人がいて、投資金を十分に集めること」「4.チャンスリ
スクを明確に提示できること」「5.辛抱強くコミュニケーション・交渉をすすめること。」
「6.電力系統を少有している人と、電力事業計画について対話をすること」の 6 つが非常
に重要であると考えている。
<地域への効果>
○経済面
z
自地域で再生可能エネルギーを創出することによる雇用の開発、地域利益の創出。
○社会面等
z
地元企業が主体であるということにより、住民の当事者意が高まっている。
z
穀物栽培に使われている農地をつぶしてエネルギー作物を作るのではなく、収穫が終わった
後の時期に栽培したもので、二酸化炭素を吸収する。
<成功要因となる仕組み等>
z
出資依頼前のフィールドテストによる経済的データの蓄積があったこと。
z
経済性・技術的な安定が確信できたことで、銀行に融資の手続きをするためのデータベース
ができたこと。
z
一定期間以上発電が出来なくなってしまった場合に保険がきくこと。
z
道路に配管を通すときの規制等については、連邦法で決められているが、再生可能エネルギ
ーのための管を通す時に公共道を利用する場合コストはかからないこと。
104
3) Harz-Regenerativ E.V. (Energiepark Druiberg GmbH) (ドイツ)
団体名
場所
担当者
業務領域
Harz-Regenerativ E.V.
(Energiepark Druiberg GmbH)
国・地域
ドイツ・ダルデスハイム
Butterberg 157 C38836 Dardesheim
Mr.Ulrich Narup
太陽光発電、風力発電、バイオマス事業およびエネルギ
設立
ーミックス
2006
<ヒアリング内容>
○風力発電設置の経済効果
z
ウインドパークの規模や投資額の規模が未知数で、その調査に相当の時間を費やした。風力
発電設置の際には、風車の近くの住民に対して、投資額に対して 8%以上の配当、効率がい
いときにはさらに上乗せすることを条件に、住民の意識を高めた。現在では 29 基の風車を
含むウインドパークがあり、投資額は 7000 万ユーロに達したが、わずか 25%であり、残り
は銀行からの借り入れである。
z
労働コストが安かったことと、旧東ドイツの復興という意味で補助金があったことも風力活
性化の理由である。メンテナンスや修理をするサービス員などの雇用が合わせて 12 人あり、
売上の約 10%が修理やメンテナンスとなる。
z
また、隣接する村からの同意を得やすくするため、推進協会をその村に立ち上げ、それぞれ
に対して売上金の一部を渡している。現在は隣接村を含めて 8 つの風力発電施設があり、過
剰発電になった場合は、隣国のチェコに売っている。
z
エネルギーに焦点をあてた取り組みの中で、モビリティへの取り組みを現在は行っている。
また、増えてきた視察(環境ツーリズム)に対しては、村のレストランで食事をしてもらうこ
ともあるので、一定の経済効果もある。
○ダイレクトマーケティング制度
z
買取価格を利用して売電せず、自分で取引がしたければできるという制度があり、そのよう
な取引をする時に、バイオガス、太陽光発電、風力等ミックスすることによって、一つのプ
ールとしてまとまった安定した量を取引所に売ることができる仕組みとなっている。
○エネルギーマネジメント
z
また、これらのエネルギーはスマートグリッドによって効率的に管理されており、再生可能
エネルギーの発電量に応じて、リアルタイムにエネルギー価格に表示される仕組みとなって
いる。現在は 50 世帯に設置されており、モデルプロジェクトとして行っている。
z
現在は発電した分使用するという仕組みであるが、将来的には「必要な時に必要な分だけ」
発電することを目指している。バイオガスのような保存可能なエネルギーは、必要なときに
燃やして発電するなど、風力と太陽光を補完し合うような発電・使用方法の確率を目指して
いる。
<地域への効果>
105
○経済面
z
風力発電メーカーによる近隣地域での雇用開発。
z
ウインドパークでの知名度が上がり、見学者が増えることによる村の活性化。
z
企業運営よる法人税が村の税収となること。
○社会面等
z
自分たちのプロジェクトというアイデンティティーの形成。
z
自分たちに恩恵があることを共有することによる、近隣村との合意形成。
<成功要因となる仕組み等>
z
メーカーの工場が近い地域にあり、輸送コストが安いこと。
z
投資額に対して最低 8%以上の配当を約束したこと。
z
旧東ドイツのために労働コストが安かったこと。
z
復興という意味で投資に対する補助金が出たこと。
z
隣接する村からを含めた風力発電推進協会を設置し、苦情を抑えたこと。
z
売上の一定の割合を、風力発電推進協会に渡し、地元クラブへ資金サポートをしていること。
z
風車近隣住民はだれでも投資が可能であること。
z
大きな投資家が域外から来るのではなく、投資会社を作って地域の人が参加していること。
z
ハーツエネルギー協会というプラットフォームによって、ボランティアへの参加促進および
地域のアイデンティティ形成に効果的であったこと。
z
再生可能エネルギーで不安定要素によって電気価格が変動する場合、それを反映させて効率
的に電気使用を促す仕組みがあること。
106
4)Fesa (ドイツ)
団体名
場所
担当者
業務領域
Fesa
国・地域
ドイツ・フライブルグ
GERBERAU 5 FREIBURG, 79098, GERMANY
Nico Storz
再生可能エネルギー開発・啓蒙活動・運営コンサルタント
設立
1993
<ヒアリング内容>
○団体の概要
z
再生可能エネルギー中心の啓蒙活動や実践活動を行っている組織。以前は太陽光発電が中心
であったが、現在は風力・地熱発電を中心に活動している。また、再生可能エネルギー会議
を開いたり、学校に大気保護や気候保護に関する活動をしたりしている。また、環境意識の
高い地域でどのように組織を作り、運営していくかもアドバイスしている。行政と市民の話
し合いを取り持つことも行う。市民協会からの会費で活動しているため、収益を上げる目的
として、FESA とは別に有限会社を作っている。将来的に収益性の高い事業と見込まれる場
合には、州政府から FESA への補助金が出ることがある。
○サッカースタジアムの太陽光発電
z
Fesa が行ったプロジェクトとして、市民の 100%出資によるサッカースタジアムの太陽光発
電がある。無料で屋根を提供してくれる屋根の屋上に太陽光発電を設置し、市民に所有権を
分譲する仕組みである。中でも、地元の人気チームのスタジアムに設置した施設は、チケッ
トを優先的に購入できる等の特典などもあり、出資希望者が殺到し、環境教育効果もあった。
○学校などの公共施設
z
古い公共施設のエネルギー改修を行う際には、父兄と学校が出資し、市がそれをプールする
形で改修していく。それは基本的に収益をあげて返還されていく。
○風力発電について
z
大型のものを最初から作るのではなく、市民参加があってこそ、大型化が進むという方向が
望ましいと考えれれている。市民・行政・企業すべてが環境意識を持ち、その上で環境ビジ
ネスを考える方向が正しいと考えている。補助金という政策は、政策は意思とともに企業が
手を引いてしまう可能性が高いため、利益を前提にするのではなく、市民の意識から始まる
必要がある。
○エネルギー分野における組合(ゲセンシャフト)
z
農業分野などでは存在した組合は、それをエネルギーの分野でも、ゲセンシャフトという組
合の形で存在している。共同で活動し、共同のメリットを得ていくことを目的としている。
地域の経済や市民、自治体とは強く関与しながらも、形式上は 1 つの独立した組織のため、
銀行からも出資してもらえる可能性が高い。地域ごとに住民の意見を取り入れ、地域ごとに
プランを作る必要がある。組合で行うことのメリットとして、財政的な面があり、どのよう
な形の出資であっても、利息がついて返ってくることに加え、市民出資でプロジェクトを進
めることについては、市民の理解が得やすいことなどが挙げられる。また、地方においてコ
107
ンセンサスを得るためにも、組合として利益を集約したのちに還元する方法が多くの人に利
益がわたるという利点もある。
<地域への効果>
○経済面
z
再生可能エネルギーにおける雇用創出効果は、小さなものを集めて大きくしているという考
え方があり、それによって地域に雇用、利益が生まれ、その利益で再び施設を作るという好
循環が生まれるものと考えられている。
○社会面等
z
サッカースタジアムという地域文化に根差したスポーツ施設での先進的取組により、市民の
高い関心を引き起こしている。
<成功要因となる仕組み等>
z
FESA が 1994 年にソーラー発電施設を建てた際、FEW という地域のエネルギー公社が最初
の 2 年間は 2 ユーロ/kWh の補助を出したこと。
z
2000 年に再生可能エネルギー法が出来たことから事業環境が改善し、配当が出せるように
なったこと。
z
風車建設の際には、最初に組合を作ってしまって、その後に位置を決定し、利益を分配する
方法で、平等性をある程度保っていること。
108
5)ボーバン(ドイツ)
団体名
場所
案内者
業務領域
(ボーバン地区視察)
国・地域
ドイツ・フライブルグ
環境先進地区ボーバン(視察)
松田雅央
再生可能エネルギー開発・啓蒙活動・運営コンサルタント
<ヒアリング内容>
○フライブルグのまちづくり
z
都市計画と一体となって環境配慮のまちづくりが進められている。公共交通機関による移動
がしやすいように地区開発が進められている。1980年代ごろから、環境を目玉にした積
極的な視察を受け入れており他の東アジアの国々の方が来ている。
○太陽光発電と地域産業フライブルグのまちづくり
z
太陽光パネルが多くの住宅に導入されている。小規模のものは、市民の意識の向上や施工や
管理に人が多く必要であるということで地域の雇用創出にもつながっている。
z
フライブルグのような文化遺産保護を受けているような場所では、景観の面で、設置が難し
い状況にある。パネルを作っているメーカーは国内にあるものの、中国等のメーカーとの価
格競争にさらされている。
○中心市街地の活性化
z
自家用車の乗り入れを制限する代わりに、公共交通や周辺の地域の道路整備が行われている。
中心市街地の活性化のための方法として、「歩行者優先の街、歩きたくなる街、歩きやすい
街、楽しんで、思わず滞在したくなるような町」を目指している。また、歴史を感じ、時間
と空間を楽しむという点においては、郊外の大型ショッピングセンターなどとの差別化を図
ることができる。
○ボーバンの環境住宅地
z
自家用車を持たなくても、徒歩で行ける範囲で生活できる環境住宅地をコンセプトとしてい
る。町から公共交通で 10 分~15 分で行くことができる範囲に住宅を作ることが条件となっ
ている。自然を多く取り入れるために敷地を大きくとるのではなく、ある程度人口密度を上
げることが、環境負荷を下げることができるとともに、交通・インフラの整備の点からも有
利である。
z
環境住宅地のための道路整備には補助金が出され、連邦の補助が6割、州の補助が2割5
分、事業者が1割5分である。事業者100%市が経営している。
z
ボーバンでは、環境住宅地として特例で駐車スペースを必ずしも確保する必要がないが、
住民の考え方が変わったときのために、駐車場に出来るスペースを確保している。現在は子
供が遊ぶ場所など、自由に住民が使っている。
z
環境住宅地の価値は、一般住宅地よりも少し値段が高い。現在は建築費にはそれほど差がな
い代わりに、資産の落ち方が環境住宅のほうが遅いためである。しかし、光熱費に関しては
省エネを基本としている環境住宅地は一般住宅よりも安い。
109
○ボーバン地区にける CO2 削減目標
z
CO2 削減の意識は高いが、その他にコストや資源、環境といった観点も意識されている。例
として、昔の駐屯地の宿舎を改修するか取り壊すかに関する議論では、取り壊すのにかかる
エネルギーの効率性の悪さや、30 年後の損得などの観点から、改修するという決定がなされ
た。
○製材業における雇用創出
z
木造住宅が見直されており、雇用としては中小の林業家が中心である。さや、30 年後の損得
などの観点から、改修するという決定がなされた。酪農だけでは生計を立てることが難しい
ので、林業を兼業する人が多い。
z
木質バイオマスの利用促進のため、ボーバン地区において建物を作る際には、木材チップを
使うコジェネレーションセンターからの熱を使用することが条件となっている。市、住民、
エネルギー公社が中心となって行われた。
<地域への効果>
○経済面
z
戸建のソーラーおいては、市民意識の向上や施工や管理の面で雇用創出があること。
z
集まりやすい街を作ることによる中心市街地が活性化されること。
z
環境面での木造住宅の見直しにより、中小の林業家の雇用創出がある。
z
地域内の人が出資すると、市全体で収益を挙げられるので、公共サービスも向上していく。
○社会面等
z
歩行者優先、歩きたくなるような街に人は集まりやすい。
z
ジェネレーションミックスを考慮した作りになっている
z
自治体として参加することによる財政的メリットがある。
z
人口密度をあげることが環境負荷を下げることにつながる。
<成功要因となる仕組み等>
z
環境住宅地のための道路整備には補助金が出され、連邦の補助が6割、州の補助が2割5分、
事業者が1割5分である。事業者100%市が経営している。
110
6)Riso DTU (デンマーク)
団体名
場所
担当者
業務領域
Riso DTU
国・地域
デンマーク・コペンハーゲン
DTU Management Engineering, Danmarks Tekniske Universitet, Frederiksborgvej 399
Bygning 130 4000 Roskilde
Mr.Poul Erik Morthorst
エネルギー技術・政策・CO2 削減の研究
設立
1829 年
<ヒアリング内容>
○研究内容
z
エネルギー技術・政策・CO2 削減の研究をしている。再生可能エネルギーの大学院の管理も
している。風力発電の他、太陽光発電の研究室、燃料電池、バイオマス特にエタノール、LED
電気の研究室もある。
○陸上風力と洋上風力
z
陸上風力の場合、価格は、電力の補助金の上にプレミアムがついている(市場価格の 35 ユー
ロ/mwH であれば、20 ユーロ/MwH 上乗せ)。一部の地域では国境を超える送電線がある部
分に共通の電力市場があり、周辺各国にも電力市場があり、あと1~2 年で共通市場になる。
z
地元住民が近くにある風力タービンに投資する権力があり、一般住民は株を非課税で買うこ
とが出来る。住民参加型の風力発電に繋がっており、国民の 85%が風力に賛成している。
z
風力に関しては有利な政策があったため、エネルギーシステムに風力を組み込むことが容易
であった。現在は消費電力の 25%が風力で供給されている。今後 8 年で風力発電による供給
量を 2 倍にすることを目指している。また、電力市場の存在の上に隣国への送電線があるた
め、技術的な問題が無く風力を統合することが出来る。隣国への送電線を増やすことで風力
を 50%に上げることが可能であるとしている。価格は風力発量に応じて変動し、消費をコン
トロールしている。
z
洋上風力に関しては、近年開発・建設が重点的に行われている。デンマークの洋上風力は他
の国と違って国が陸上からの送電ケーブルの費用を負担している。陸上のプレミアムと洋上
のコストは税金ではなくて電力料金に上乗せされるため消費者全員が払う仕組みになって
いる。国の政府は負担していなくて実際は国の送電システム運営会社が kWh 毎の料金に上
乗せしている。
z
洋上は固定価格で販売されてお、落札した会社の価格となっている。固定価格が保証される
期間は洋上プロジェクトにより異なるがプロジェクトが 20 年とすればその内の約 12 年落札
した会社の価格となり、残りの 8 年は入札価格より安い市場価格での販売になる。
○経済効果
z
地域への支払い(還元)という形ではなく、国税で還元される。例えば農家の人が風車を所有
していたら風車があることによって少し農地の価値が上がり、課税の対象となる。また、地
元の住民が非課税で株を購入することができ、配当の利益は地元の住民のみがもらえる仕組
みのため、参加のインセンティブとなっている。
<地域への効果>
111
○経済面
z
陸上風力には周辺各国に市場があること。
z
風量に応じた値段の変化で節電バランスが取れていること。
○社会面等
z
自ら投資した風車という意識や利益インセンティブにより好意的な態度が形成されている。
<成功要因となる仕組み等>
z
自治体内の住民のみが株購入の権利があるので配当の利益も彼らしか貰えない仕組み。
z
風力発電からの利益は非課税であること。
z
洋上風力:建設前にスクリーニングプロセス、Mwh 発電価格の入札制度、入札価格が 10−12
年売電価格として確定していること。
z
風量に応じた値段調整にによって使用量をコントロールしていること。
z
国が陸上からの送電ケーブルの費用を負担していること。
z
陸上のプレミアムと洋上のコストは税金ではなくて電力料金に上乗せされるため消費者全
員が払う仕組みとなっていること。
z
国がまず全自治体に計画の策定を義務づける、風力発電の量を決めて、計画策定を命じる仕
組みとなっていること。
z
比較的手続きが簡素で、許認可コストが低いこと。
112
7) Copenhagen Energy (デンマーク)
団体名
場所
担当者
業務領域
Copenhagen Energy
国・地域
デンマーク・コペンハーゲン
restads Boulevard 35
DK-2300 København S
Mr.Morten Stobbe
都市ガス、水道、暖房、下水のインフラ整備・
設立
運営、および風力建設・運営
1850
<ヒアリング内容>
○コペンハーゲン・エネルギー(CE)の概要
z
150 年前に設立された公共事業会社。市議会の所有であるが、独立した株式会社となってい
る。公共会社で上下水道と地域暖房を独占しているため、収益を上げていない。
○コペンハーゲンとしての目標
z
再生エネルギー事業階層は、欧州連合・デンマーク中央政府・自治体・公共事業やエネルギ
ー会社・大学や研究機関・メーカー・最後が一般市民である。コペンハーゲン市として「ブ
ランド化」への関心があり、2014 年には「ヨーロッパ緑の首都」として表彰される予定で
あり、世界初のカーボンニュートラル都市を目指している。
「風力・バイオマス」
「消費削減、
太陽光」「公共交通、自転車推進」「市としての温暖化対策」を主な事業として掲げている。
z
ワイヤレス暖房メーターによる効率化、省エネ、太陽光ビジネスモデルの確立などに取り組
んでいる。また、エネルギー生産では、「バイオマスによる地域冷暖房」「風力とバイオマス
を主とした電力源」「消費量を超える生産量」「廃棄物」に主に取り組んでおり、特に風力に
おいては、市の計画と国の戦略が一致していることもあり、市場活性化において重要な点で
あると見ている。
○風力発電におけるコストベネフィット
z
風力発電では、近辺住民の合意を得るために、株の 20%まで所有できる体制を取っている。
太陽光においては、合意の難しい団地、住宅協会などの場合におけるビジネスモデルを作成
している。導入簡易化を目的として、設置、運営、管理をコンサルタントしており、パネル
代をまかなう代わりに、kWh あたり 2.2 クローネ(約 400 円)の利益のうち 1.8 クローネ(約
330 円)をもらう仕組みである。
z
経済効果測定は、「風力付近の住民の利益」「取得許可にかかるお金の一部を得た自治体が、
どの程度道路・学校建設等に使うか」「地元雇用」の 3 つの視点から行われる。前者 2 つは
規則で定められているが、地元雇用は企業の責任として推進している。
<地域への効果>
○経済面
z
許可取得にかかったお金の一部が地元自治体に還元される。・再エネ導入によるエネルギー
費用の削減、雇用創出
○社会面等
z
取得許可に係るお金を公共施設等に投資することによる地域環境・利便性等の向上
113
<成功要因となる仕組み等>
z
風力市場の活性化のためのローン保証等、再生可能エネルギーへの投資のために、信頼でき
る枠組みを提供すること。
z
アクションプランを作成する時に国の経済的補助の可能性も検討する仕組みがあること。
z
電気料金に上乗せされる Public Sense Obligation(PSO)があること。PSO は税金に類似した
もので、国の資金となり、再生可能エネルギーの補助として使用される。
z
建物規定がデンマークには存在し、エネルギー枠では住宅のエネルギー最大消費量が決めら
れていること。
z
市民が株を買うことが出来ることが法律で保証されているため、風力に賛成する市民が多い
こと。5 基以上のタービンは事業の 20%以上は市民が投資可能であること。
z
太陽光発電時にはメーターが下がっていく Net Metering Scheme 制度が存在すること。
z
合意の難しい住宅協会等に対し、コンサルタントを行っていること。
z
風力事業においては、可能な限り地元の人を雇用することを推進していること。
114
8) Business Lolland-Falster (デンマーク)
団体名
場所
担当者
業務領域
Business Lolland-Falster
国・地域
デンマーク・ロラン島
Embassy of Lolland-Falster Rosengården 7 1174 København K
Mr.Leo Christensen,
産官学連携による風力発電、ブルーバイオマス
<ヒアリング内容>
○ロラン等の風力までの歩み
z
1975 年の石油危機まで重工業地域であったものの、その後 10 年間で重工業の 6 割がなくな
り、失業率の上昇とともに、島の住民の 10%が移住した。市議会が環境に関するエネルギー
政策・戦略を打ち出す中で、風の状態がデンマークの中でも第 2 位に優れていたことを受け、
世界で一番風力を活用している場所にすることになった。風力発電の工場の誘致や、産官学
連携の取り組みを仕掛けるなどして、失業率を 2%まで下げた。
○風力発電施設
z
実際に風力発電施設作る時には 7%ほど多く投資し、その中にある一連のテスト機能を付け
加える。商業的に投資するものであると同時に、フルスケールでのテストの場所としている。
また、新しいシステムを民間が作ることで、市場が大きくなるので、民間にとっても大きな
利点となりうる。実際にプロジェクトが採用された際、自社内の資金でやりくりしなければ
ならない時期を浮かせることで、失業率を大きく減らすことに成功した。
○現在のエネルギー政策
z
現在は天然ガスを考えているが、一般的には夜中に発電されたものを昼間使うようにとって
おけるシステムを、日本のような企業と協力する意向を持っている。また、昼間は使用しな
い乗り物を、パワープラントとして使用するシステムも、北京の大学(世界で一番大きな工科
大学)と一緒に開発している。魚と藻を利用した「ブルーバイオマス」の研究もされており、
魚が成長する際に放出する CO2 を藻が吸収するという、魚と藻の CO2 循環システムであり、
震災復興を目指す宮城県東松島市との協働実験が決まっている。
<地域への効果>
○経済面
z
失業率が 22%から 2%まで減少した。
z
グリッドシステムで昼夜の電気消費量の改善と労働時間の損失をなくすことが出来た。
○社会面等
z
先進的地域となることによる住民意識向上、アイデンティティ形成
z
研究機関等との密なネットワーク形成
<成功要因となる仕組み等>
z
大学などの協力機関との連携
115
9) ミドルグリン洋上風力発電所(デンマーク)
ミドルグリン洋上風力
発電所
団体名
場所
担当者
業務領域
国・地域
デンマーク・コペンハーゲン
Middelgrundens Vindmøllelaug Rådhuspladsen 77, 1550 København V.
Mr.H.C. Sørensen
風力発電の投資、設置、運営
設立
1997
<ヒアリング内容>
○風力発電の許容に至るまで
z 風力発電関係においては、一般市民の方々や世論が、風力発電をどのようにして受け入れて
もらうかについての研究をしてきている。
z
2000 年にデンマークで初めて、協同組合により発電所を設立した。投資者は 45000 人であ
り、「ローカルオーナーシップ」の成功例となっている。投資総額は約 4,800 万ユーロであ
り、2MW×20 台の海上風車が弓状に並んでいる。弓状の配列は、女性のインダストリアルデ
ザイナーによるものである。
○投資の仕組み
z
投資は、組合に興味ある人に 50 デンマーククローネを払ってもらうという仕組みである。
返還は無く、風力発電建設に投資を希望する場合は、4,250 デンマーククローネ(約 6 万円、
現在の為替レート)を支払い、株式を購入し、所有権を得た上で、1年に 1,000kWh の電力
を受け取ることができる。また、株主には、600 デンマーククローネが1年ずつ6年間返済
される。 政策的支援として、株主は年間 3,000 デンマーククローネまでは、株式を売却し
ても税金が控除される。配当についても、3,000 デンマーククローネまでは非課税となる。
(3,700 まで引き上げ検討)
○予備の電力、余剰電力の貯蓄方法
z
2020 年を目途に、CHP(Combined Hidden Power)によって熱を保存する装置を作ることを
目指している。その他、スマートグリッドや風量予測による電力切り替えなどにより、電力
同士が相互補完できるようなシステムを考案中である。
<地域への効果>
○経済面
z
風力発電事業は、一度完成すると経費がかからず、ガスや石油に比べて雇用創出できること。
z
サービスやメンテナンスを中心に、建設関係で地元の雇用が増加したこと。
○社会面等
z
市民に受け入れられやすいデザインの導入等による、市民の環境意識の向上、合意形成促。
<成功要因となる仕組み等>
z
新しいシステムを作ってくれる企業等に対し、支援金を出す仕組み
z
ローカルオーナーシップ制度等による利益還元の仕組み
116
10) Danish Wind Industry Association (デンマーク)
Danish Wind Industry
Association
団体名
場所
担当者
業務領域
国・地域
デンマーク・コペンハーゲン
Vindmølleindustrien, Rosenørns Allé 9, 5. Sal 1970 Frederiksberg C
Mr.Sune Strøm
風力発電の技術開発
設立
1997
<ヒアリング内容>
○団体の概要
z
240 以上の風力関係の企業が参加している団体であり、風力発電の技術開発のリーダーとし
てのデンマークの力を強めている。
○風力発電技術の促進のための取り組み
z
技術開発においては、今後風力に関する高いレベルの技術や知識が開発・実証できるように、
風力発電に関する質の高い研究を維持し、風力タービンの実証実験を行いやすい環境を促進
している。そのために質の高い労働者の維持と若い有能な労働者を発掘するための活動を行
うとともに、風力産業の発展・成長のために必要な政策提言も行っている。
○地域、個人による風力発電運営
z
地域の人が主に役割を担ったようなケースとして、民間や個人が風車を所有することが挙げ
られる。統計によれば 83%が個人によって所有されており、このような形で地域の人たりが
参加することで資金面でもインセンティブが生まれやすい状況になっている。
z
今日のシステムでは、陸上の物を一基建てるごとに、ディベロッパーとしてはウインド・フ
ァームを作ろうとしているときに、20%はそこの地域の住民に提供することになっている。
○投資先のリスク知識の蓄積
z
地方の銀行に風力発電のリスク測定のノウハウがないために、メガバンクに任せるという日
本の状況に対しては、風力発電を設置する地域の地方銀行を対象にした、経済性やリスク等
に関する講習等を行うことを推奨している。
z
経済面と環境面の両方の投資者の立場を考慮するための機関として、エネルギーauthority
という組織がある。
<地域への効果>
○経済面
z
風力のような産業とともに、地元の銀行のような金融機関が成長したこと。
z
大型のウィンドファームはよい漁礁となり、食物連鎖が作られるため、漁業に好影響を与え
ていること。
○社会面
z
自分たちで投資を行うことが出来るので、メリットを感じることことによる住民意識の向上、
合意形成促進。
117
<成功要因となる仕組み等>
z
ウインドファームを作る際には、20%は地元の地域の住民に提供することが、法律で定めら
れていること。
z
風力のサプライチェーンにおいて、デンマークは国内で多くを生産しているので有利である
こと。
z
新しい技術に投資する際には知識が必要なため、ローカル銀行を対象にしたリスク・経済性
などに関する講習を行ったこと。
z
計画段階から住民が関与可能で、情報がオープンであること。
118
11) State of Green Consortium (SOG)
団体名
場所
担当者
業務領域
(デンマーク)
State of Green Consortium
(SOG)
国・地域
デンマーク・コペンハーゲン
Dansk Industri Sundkrogskaj 20, 2100 København Ø.
Mr.Iver Høj Nielsen
風力発電の技術開発
設立
1981 年
<ヒアリング内容>
○団体の概要
z
半分は国が、半分は工業会が所有している組織。工業会では主に風力関係・農業関係から構
成される。2009 年の COP15 をきっかけに、国(デンマーク)が注目されるようになった。
z
世界的に組織や政府、ビジネスにおいてパートナー見つける際の支援を行っている。もとも
と組織は COP15 のために作られた組織であったが、かなりの成功を収めたので続いている。
エネルギー効率、風力、バイオ燃料などの取り組みを産業全体に広げようとするときの取り
まとめを得意分野としている。
○デンマークにおけるエネルギー政策の特徴
z
再生可能エネルギーへの転換を進められる秘訣として、計画を作ることの意思があり、国と
しても実行できる体制にある。また、デンマークでは、年金基金のような団体が投資を行う
こともある。
○再生可能エネルギーの方向性
z
風力だけでは不安定であるため、その他のエネルギーと組み合わせる必要があり、エネルギ
ーの貯蔵方法についても考える必要がある。日本同様、デンマークとしても技術革新の一部
を担うことを意識しており、技術の進歩による解決方法は、自国の中で見つけていく意向で
ある。
○風力発電
z
洋上風力発電のリーダー格であるシーメンスという企業が成功を収めている。デンマークの
風力発電効率は上がってきており、シーメンスなどの投資の他、外資からの投資が、風力発
電産業の発達に一役買っていることがうかがえる。
○デンマークの電力市場と地域経済
z
デンマークでは、住民が電力会社を自由に選ぶことが出来る。電力の価格競争が生まれるた
め、安くなる傾向にある。また、近年では地方分権が進め、小規模の CHP を作られ始めて
おり、地元の人たちによる投資がある。そこで作られたエネルギーをローカルで売ることに
より、電力の自由市場が生まれている。
○つながり
z
風力のような再生可能エネルギーは、実施することともに、情報を発信することが非常にに
重要である。デンマーク国内では、コペンハーゲンと他の自治体との架け橋の役割を、SOG
が担っており、最終的には国内の企業が成功することを目指している。
119
<地域への効果>
○経済面
z
市場の自由化による電気料金の低減。
<成功要因となる仕組み等>
z
年金基金のような組織が投資を行っていること。
z
一般の世帯でも太陽光発電や熱を使用した際に、そこでエネルギーが余った場合には、ネッ
トグリッドに送ることができること。
z
エネルギー関連の請求書を貰う時、どこのエネルギー会社から買うかということを決められ
ること。
120
12) Mr. Hubert Klammler (オーストリア)
団体名
場所
担当者
業務領域
Mr. Hubert Klammler
(エネルギーアドバイザー)
国・地域
オーストリア・アルメンラント
Hohenau 102 8162 Austria
Mr. Hubert Klammler
再生可能エネルギー開発・啓蒙活動・運営コンサルタント
<ヒアリング内容>
○エネルギーアドバイザーという職種について
z
エネルギーアドバイザーは地域や役所の人にアドバイスをする人で、基本的には個人で活動
している。全体のコーディネートとともに、技術もあるので個人で事業を行う人も多い。
○森林連合の位置づけ
z
オーストリアでは、農林会議所の政治的影響力が強く、その下にある森林連合は、バイオマ
スにおいて最も権力のある組織である。国が政策を決定する際にも、この組合の許可が必要
である。森林連合は、各林家が持つ少量の木材を収穫から輸送・集約・販売まで手配し、小
規模の林家をまとめることで販売量を増やし、値段を確保することで林家の収入を増やして
いる。
○オーストリアにおけるバイオマス事業と収益性
z
1995 年から 2005 年の間が、最もバイオマス使用に対して積極的であった。利用し始めたき
っかけは石油危機による石油の高騰と、木質チップの値段が 2000 円程度と安かったことで
ある。森林は国有のものは少なく、利用するものは間伐材である。また、バイオマスに使う
木材と製紙会社が使用する木材が一致するようになると、競争が起こる。夏は燃料が余るた
め、サイロに保管して乾燥させる他、20km~50km圏内で売っている。バイオマス発電は、
燃料の輸送費用などを考慮に入れると、大規模な発電所よりも村や町単位のほうがうまくい
く傾向にある。
z
オーストリアでは、林家が始めるパターンが典型的である。自分の山材を売る際に、比較的
質の低い木材の販売先として、バイオマスによる地域暖房という発想が生まれた。灯油との
価格差を利用して、林家自身も収益を上げ、消費者も灯油より安い値段で利用することが出
来る仕組みとなっている。
○地域暖房
z
オーストリアでは地域暖房が多く、村の中心部において経済性が良いが、中心から離れた場
所では、コストの問題からバイオマスボイラーを個人で所有しているのが一般的である。
○太陽光発電
z
現在、オーストリアではバイオマス電力は 1kwh あたり 14 セントであるが、太陽光発電は
40 セント程度と高いことと、バイオマスがすでに全国に普及していることから、これ以上拡
大しにくい状況にある。
121
<地域への効果>
○経済面
z
森林連合組合が各家庭の木材を集約、輸送を手配してまとめて売り、林家の収入も増えてい
る。
z
地域暖房の普及によってチップの需要が増えたことによる単価向上と林家収入の増加。
○社会面等
z
地域エネルギー自給による住民満足度向上(消費者はチップの値段が上昇しても、ガスや石
油の上昇率の方が高いため、チップに対しての満足度が高いこと。)
<成功要因となる仕組み等>
z
林道においてあるバイオマスを自分でチップにする制度があること。
z
オーストリアのバイオマスプロジェクトは、行政ではなく個人の提案ことがきっかけになる
ことが多いこと。
122
13) Holz-Bauer KG-Sa"gewerk (オーストリア)
団体名
Holz-Bauer
KG-Sa"gewerk
場所
国・地域
オーストリア・フローイング
Unterfeistritz 19, 8183 Floing, Austria
<ヒアリング内容>
○概要
z
活動としては製材所であるものの、近年東から安い木材が入ってきているため、製材所とし
ては経営があまりうまくいっていない。現在は製材所を一旦休ませてペレット生産を行って
おり、こちらは需要が多く、かつ年々増えている。
○燃料としてのチップとペレットの比較
z
値段はチップのほうが安いものの、チップは詰まる危険性があるため、エネルギー供給を止
めることが難しい工場などではペレットの使用が多い。暖房の燃料等で使用する場合には、
安いチップの使用が一般的である。
z
販売ルートとしては、チップをペレットの材料として用い、ペレットを個人の家の暖房用に
販売するという流れが一般的である。
○コージェネについて
z
バイオガスなどのコージェネで電気を生産する予定があったが、小規模ボイラーの場合は経
済性が合わないことと、技術がまだ発達していないという理由で断念している。発電する国
は買取制度の値段が高い割に、発電しても熱の使用先が無いため廃棄しているという現状が
存在する。そのため、オーストリアでは買取制度の値段を下げている。
○ガス化発電の課題
z
当製材所では 300kw のサーマルに 150kw の電気という規模であるが、小規模である場合に
はガス化発電を行う。しかし、ガス化発電は 4 年前に始まって以来、技術の進歩がまりなく、
含まれるタールが原因でエンジンを破損してしまうおそれがある。また、初期コストが日本
円で 800 万円ほどと高く、他の発電に比べて危険性もあるため、国の許可がおりにくいこと
も問題となっている。
○国の支援・補助金
z
排熱の使い道が明確な場合には、国の補助金が出る。現在はある程度の経済性が確保できな
いければ、補助金が出ない仕組みとなっている。
○石油からペレットへ
z
石油からペレット用のボイラーを購入する際には、日本円で 200 万円ぐらいかかるが、燃料
コストが石油の 4 割程度(ペレット1トンあたり 220 ユーロで、石油 500L 相当)であるため、
5 年後に投資額分返還される計算である。石油使用の場合は資金が国外に流れるという認識
が高まり、地域のものを使用するようになってきている。
z
オーストリアでは工事を自分で行うことが多く、その費用がかからないため、経済的に採算
123
が取れることが見えやすく、バイオマス供給網につなげてもらうことが比較的簡単であるが、
日本の場合は環境意識のみで説得するのは難しい可能性がある。
<地域への効果>
○経済面
z
石油ボイラーからペレットボイラーに買い替えも、燃料コストを考慮すると、5 年後には投
資額分返還される。
z
石油ではなく地域のペレットを使用することで、資金の中東流出を防ぐ。
○社会面等
z
自分の地域の社会が好調な場合は、自分自身にも還元されることが多いという考えがあり、
地産地消費の意識が生まれてきている。
<成功要因となる取り組み内容>
z
排熱の使い道が明確な場合は、国から補助金が出る。
z
石油よりもバイオマスの方が安いことから、バイオマス供給に変えても、資金回収が短い期
間で終わる。
z
バイオマス発電は、買取か投資額補助のどちらかを選択する必要がる。投資の場合は、3 割
が補助され、そのうち半分は EU から、残りは国と州から出される。
124
14) Mr. Robert Glettler (オーストリア)
団体名
場所
業務領域
Mr. Robert Glettler
国・地域
オーストリア
A-8160 Weiz, Florianigasse 9
バイオマス設備アドバイザー
<ヒアリング内容>
○業務内容
z
バイオマス設備アドバイザーで、現在担当プロジェクト数は約 250 ほどある。このプロジェ
クトによる燃料の総量は 8200m3。であり、エネルギーに換算すると、石油 620 万 L 相当を
節減できたことになる。バイオマスへのシフトは、約 10 年前にピークを迎えた。
○オーストリアにおけるバイオマスの普及
z
まず最初に林家が投資をすることで始まるケースが多く、利益になることが分かると普及を
始めていく。地方では林家が市議会議員であることが多いため、プロジェクトを始めるとき
に、市役所だけでは経済的に難しいので、市議会議員である彼らが最初に投資をする形とな
る。石油をバイオマスに変えることで、(石油購入のために)地域外に出ていっていたお金が
地域に残るようになることに加え、バイオマス生産のための雇用も生まれるという利点が大
きい。
○料金制度
z
(単位なしはすべて【ユーロ/kWh】)
基本料金が「180+17×使用年数」、使用分に応じて 0.051 ずつ加算される。また、設備と一
緒に設置されている流量計のメンテナンスコストとして、月に 10 ユーロの支払いがある。
○バイオマスの値段比較
z
石油使用地域の場合は半額になるため、行政も市民も利益を確保できるため、経済面でも同
意を得やすい。しかし、ガス使用地域の場合は、10%程度の値下がりなので、説得は難しい。
○バイオマスが安い理由
z
まず、はじめの伐採にかかるコストが、日本の 10 分の 1 ほどであることが挙げられる。ま
た、チップの製造過程については、移動式チップのほうが安いことも理由となっている。そ
の結果、オーストリアにおけるバイオマスにかかるコストは、日本の約半分である。日本の
場合は大きな製材所が足りないことや、両国における林道の整備状況の差も大きな要因とな
っている。オーストリアでは観光の次に林業といわれるぐらい林業が重要視されており、林
道を作る際に補助金が出るため、トラックなども通行できる、丈夫な林道が整備されている。
z
例として、3 人の林家にハーベスター1 台を用意し、2 週間で 1000m3 の丸太を伐採する。
この中から、300~400m3 ほどを燃料として確保する。非常に効率的である。
○雇用創出
z
調査によれば、石油関連で 9 人の雇用を失う代わりに、バイオマス関連で 150 人の創出が生
まれる。石油の供給者は外国である一方、バイオマス作業者は国内であることが主要因であ
る。伐採からボイラー導入までのすべての工程で創出が生まれる。また、バイオマスの場合
125
はメンテナンスも必要となるため、さらにプラスされることになる。
○開始時の経済性の確保
z
チップボイラー導入にかかる工事等の初期費用を考慮すると、プロジェクト開始時の経済性
を確保するためには、電力の使用規模が大きい建物(学校などの公共施設)が導入を決定する
ことが非常に大事である。導入の際に、国から補助金が出る。補助金の割合は幅があるが、
燃料 75%以上が間伐材であるという条件を満たすと、最高 30%がもらえる。
<ヒアリング内容>
○経済面
z
石油関連で 9 人の雇用を失う代わりに、バイオマス関連で 150 人の創出が生まれる。
z
バイオマスが石油の半額のため、マージン 3 割乗せても 2 割は利益となる。
○社会面等
z
石油関係(ガソリンスタンドなど)の人も、将来的な賦存量を考えると、代替出来るものはな
るべく代替する意思を持っている。
<成功要因となる仕組み等>
z
オーストリアでは林道が整備されているため、伐採の効率がよく、人件費が日本に比べてか
からない、
z
林業活性化を観光客の次に重要視しているため、林道を作る際には補助金が出る。
z
導入する際には、初めに経済性が見込めないと(規模の 50%は導入確定、25%は近いうちに
導入確定)、国から補助金が出ない。
126
15) AEEINTEC Institut für Nachhaltige Technologien (オーストリア)
団体名
AEEINTEC Institut für Nachhaltige
Technologien
オーストリア
Feldgasse 19, Gleisdorf
Mr. Jürgen Fluch
場所
担当者
業務領域
国・地域
地域エネルギー研究所
設立
1987
<ヒアリング内容>
○会社概要
z
創立 25 年のエネルギー研究所で、従業員は 43 人。民間企業プロジェクトを研究している。
EU、オーストリアなどが対象であり、太陽熱システム、持続可能なエネルギーの種類、産
業用エネルギーシステムなどの研究を行っている。
○オーストリアのエネルギー政策
z
2050 年までにエネルギーの面で独立する(消費量分を国内で生産する)という目標をかかげ
ている。市町村の中の建物のエネルギー需要をマイナス 50%程度にすることや、、またヨー
ロッパで需要の多い熱需要の代替エネルギーへの変換が重要な課題となる。
z
EU 目標である、マイナス 20%のための具体的な政策として、新築ではエネルギーゼロが必
須となる。すなわち、使用するだけのエネルギーをすべて自分自身で賄えるシステムにする
必要がある。既存の家に関しても、エネルギーの値段を人間の行動意識とリンクさせる必要
がある。また、経済面も考慮し、使用量自体を減らすのではなく、廃熱の再利用などを推進
している。町としてエネルギー面で独立するための組織 EGO があり、現状把握及び改善策
を分析する活動を行っている。
○ソーラー熱利用
z
会社のコンセプトとして、ソーラー熱および熱ポンプによるエネルギーミックスを掲げてい
る。オーストリアの場合は保存可能なバイオマスと、ソーラー熱の併用がという形が最も望
ましい。したがって、日本でも初めから併用することを視野に入れることが効率的に進めら
れる可能性がある。ソーラーの設置コストは初期費用、貯蔵、システム運用費を合わせも 500
ユーロ程度と安く、オーストリアとしての強みになっている。
<地域への効果>
○経済面
再生可能エネルギー導入によるエネルギー費用等の削減。
<成功要因となる仕組み等>
z
経済面も考慮し、使用量自体を減らすのではなく、廃熱の再利用などを推進している。
z
林業を重要視しており、林道の整備に補助金を出している。バイオマスボイラー施設導入の
際には、補助金を出しており、間伐材の使用割合によって、最高 30%まで出す。
127
16) Biomasse-Heizwerk Kaindorf (オーストリア)
団体名
場所
業務領域
Biomasse-Heizwerk Kaindorf
国・地域
Hartberg in Styria, Austria.
オーストリア
バイオマス設備アドバイザー
<ヒアリング内容>
○施設設立の背景
z
ホームセンターのオーナーとバイオマス原料の話題になった際に、バイオマス原料を私から
買う方が安価であるということが分かったことがきっかけとなった。
○バイオマス設備の投資および雇用創出効果
z
カインドルフ村においては、投資家が林家のみであるため、波及させることは難しく、継続
的な雇用の創出としては、間伐のための雇用程度である。
○経済循環効果
z
オイルマネーの流出を抑制する効果は確実に存在するものの、一般市民への説得の材料とは
ならず、単純にバイオマスの方が安価で、かつ変動が少ないという点が大きい。
○バイオマス移設に関する住民の合意
z
暖房が古い家や、新築の場合は合意を得られやすい半面、最近石油ボイラー施設を買い替え
た人の場合は、メリットを感じにくいため、難しい。また、遠い場所に住んでいる場合、供
給網の設置コストの面から、逆にバイオマス移設の希望がしてもかなわないケースがある。
サーモステートという、自動空調制御装置を取り付け、使用した分だけ支払うことを強調す
ることによって、住民を説得させる場合もある。
○バイオマスコストの資金源、利益の内訳
z
費用の内訳は、22%が林家の投資、補助金が 30%、初期導入者たちからの費用が少々、残
りが銀行である。利益は、燃料コスト、管理コスト、純利益が 3 分の1ずつ。純利益は銀行
の返済にあて、のちに利益となる。
<地域への効果>
○経済面
z
投資家である林家への利益還元。間伐等による雇用創出。
○社会面等
z
オイルマネーの流出よりも、値段の変動の心配が少ないという安心感のほうが、バイオマス
に移行するきっかけとなっている。
<成功要因となる仕組み等>
z
バイオマスボイラー施設導入には補助金が 30%出る。
z
暖房が古い家や、新築の場合は合意が得られやすい。
128
17) ökoEnergieland Europäische Zentrum für erneuerbare Energie(EEE) (オーストリア)
団体名
場所
訪問者
ökoEnergieland
Europäische Zentrum für erneuerbare
国・地域
オーストリア・ギュッシング
Energie(EEE)
A-7522 Strem,Lindenstrasee 1 (EEE)
Mr. Bernhard(EEE エリアリーダー)
<ヒアリング内容>
1.EEE
○ギュッシング地域のバイオマス発電に至る背景
z
20 年前は貧しい地域であったギュッシングは、森林が 42%を占める特徴を活かし、チップ
の地域暖房を導入する実験を、世界初のパイロットプロジェクトとして、工科大学と一緒に
行った。
それ以降、エネルギー独立した地域となっている。
○代替エネルギーによる経済効果と雇用創出
z
代替エネルギーにすることで、これまで域外に流れていた 350 万ユーロが、現在は地域内で
循環している。また、雇用は 1100 人ほど生まれ、その内訳は、直接バイオマスに関わる人
や EE センターで働く人などが 150 人。また、おがくずを安い値段で買うことができる会社
に投資をしてきたことによる 450 人の雇用も含まれる。最初の 150 人の活動は、エネルギー
コンセプトを作る、視察対応をする、アドバイザー、研究員、間伐材御者、木材輸送などを
行う人である。特に研究員は、現在ではトップクラスの研究員の方からオファーがある。
z
土地が安いことも後押しして、工場の誘致などにも成功したため、全部で 1100 人程度の雇
用が生まれている。
z
代替エネルギーによって雇用が生まれ、流入や U ターンなどで人口が増えると、住宅や学校、
ショッピングセンターなどの需要が生まれ出す。このようにしてインフラが整備されると、
若者にとって魅力的な町となり、雇用がまた生まれていくという好循環となる。
○経済活性化を支える 5 つの柱
z
デモ施設(実験が重要)、研究開発(研究、技術進歩を意識すること)、教育(若者たちに意識を
持ってもらう)、サービス(地域の特性に応じた正確なアドバイス)、エコツーリズム(環境組織
だけでなく、一般客向けにも)
2.Besichtigung Solarschule Güssing
○主な研修内容
z
太陽光電池のモジュールやソーラーに関する研修や、エネルギーマネージャーになるための
長期研修も行っている。また、実際に太陽光電池を製作する体験もできる。
○エネルギーキャンプ(5 日間)
z
エネルギーの自給自足を体験し、エネルギーの大切さを実感させることを目的としており、
キャンプ中必要なエネルギーは太陽光など、自然エネルギーを利用する。学校で実施する教
129
育目的で始まったものであるが、最近はエネルギーマネージャーや日頃溜まったストレスの
解消を目的とした人々も参加するようになった。
○現場で必要な知識の提供
z
太陽光電池・ソーラーネット・熱ポンプ・床暖房などの仕組みを説明。部品同士がどのよう
に組み合わさって出来ているのか、どのようなシステムになっているのか、実際に部品から
学ばせる環境を提供している。
○新素材レンガ
z
ペットボトルを再利用した、プラスチックからできたレンガ。耐久性、軽量性に優れている。
多用途。このレンガ内に太陽光電池を入れてこと使用することも可能である。まだあまり普
及はしていないが、商品としての価値は高い。
3.Biomassekraftwerk Güssing
○バイオマス発電所の概要
z
このバイオマス発電所は、稼働し始めてから 3 年間は多くの問題を抱えていたものの、現在
は順調に稼働している。初期費用は 900 万円以上かかっている。このバイオマス発電所は、
実験の行いやすさから、発電所には壁を設置していない。
○木材について
z
燃料となる木材は 50km~ 25km 周辺からトラックで運ばれてきており、主に州の森林連合
が木材を提供している。運ばれてきた木材はまず計量され、含水率を測るために一部をサン
プルとして採取する。1 日に必要なエネルギーを生産するためには 1 日あたり 60tが必要で
ある。
z
搬入された木材は 2 日に 1 度 90cm の直径ドラムチッパ―によってチップに加工される。チ
ップは比較的粗く、比較的きれいなチップが望ましいとされている日本とは違う点である。
4.Besichtigung Biogasanlage Strem
○キュッシングにある企業の紹介
z
最近 15 年間でギュッシングの街には新しく多くの会社が出来ており、なかでも、オースト
ラリアで最大手のパスタ会社ウォルフは、4 万匹の鶏を所有しており、独自に建設したバイ
オガス設備で鶏の糞を発酵することでエネルギーを生産している。「糞⇒肥料製造⇒作物栽
培⇒鶏の餌」というサイクルを構築し、年間 6500tのパスタをつくっている。また、とあ
るバス会社は州にある 200 台のバスをガソリンからバイオガスにすることを検討中しており、
同時にガススタンドの設置も視野に入れている。
○バイオガスを燃料とする車と補助金
z
燃料は、ガスとガソリンの両方に対応しており、ガソリンは 14L、ガスは 21kg まで給油(給
ガス)することが可能である。ガスは 98%のメタンを 250 気圧で圧縮して、バッテリーに
補充する。燃費:100km あたり 4 ユーロと非常に高燃費であり、購入者に 1000 ユーロの補
助が与えられる。また、交通事故の場合、乗客の安全面を優先した上でガスの圧力が抜ける
130
ようになっている。
z
ガススタンドが将来増加することによって、ユーザーが増えることを期待している。
<地域への効果>
○経済面
z
代替エネルギーによる循環効果:350 万ユーロ、
z
雇用創出により人口流入が起こり、各種サービス(住宅、学校など)の需要、雇用が増加する。
雇用創出:1100 人
インフラが整備されると、再び人口が増加するという好循環が生まれる。
○社会面等
z
ソーラー学校はもともと教育目的で始まったものであるが、最近はエネルギーマネージャー
がストレス解消のために参加している。
<成功要因となる仕組み等>
z
経済活性化を支えるために、「デモ施設設置」、「研究開発促進」、「教育とサービスの充実」、
「エコツーリズム(環境組織だけでなく、一般客向けにも)の実施」を掲げている。
z
バイオガス自動車には、購入者に 1000 ユーロの補助金が与えられる。
131
18) Hitzendorf 村(オーストリア)
団体名
Hitzendorf 村
国・地域
オーストリア・Hitzendorf 村
<ヒアリング内容>
○Hitzendorf 村の概要
z
人口 250 人、77 世帯の村であり、地域暖房を利用している世帯が 75 世帯である。この州で
最も安い地域暖房を提供している(4 ユーロ/kWh)。
z
ソーラー発電所には 650kW のボイラーがあり、夏季は太陽光エネルギーだけを使用して給
湯する。リレーステーションまでは地域暖房が通っている。業者などに頼むと 10000~20000
ユーロかかる場合もあるため、メンテナンスのコストなどは各家庭が負担している。修理な
どは、大半の家庭が自力で行っている。
z
地域暖房システムにはデータケーブルが工事の際に取り付けられ、リアルタイムで使用熱量
や温度、消費量などがわかるため、メーターをわざわざ見に行く必要もなく、ON/OFF の操
作も遠隔で行うことが可能である。
z
レストランのオーナーはもともとこの地域暖房導入に反対していたが、視察が多くなった今、
オーナーが彼らをガイドするようになり、ツアーの一貫としてそのレストランでの食事が組
み込まれているほどである。
○ボイラーで燃焼させる木材チップ
z
組合のメンバーは所有する森林から木材をもってくることができる。木材は約 1 年間かけて
乾燥させられ、その後チップにし、トラクターでこの地域暖房施設まで運送されてくる。こ
の地区は 1 年あたり 1200m3 必要であり、Hitzendorf 村の半年分がギュッシングで必要な量
の 1 日分にあたる。
z
チップの管理は 3 人で行い、取引が行われるとその 3 人に連絡が行くようになっている。3
人のうちの誰かが運搬要因として行き、かかった時間に応じて賃金が支払われる。
z
これまで燃料としてトウモロコシを使用していたが、需要の高まりによってその価格が高騰
してしまい、現在では 1t あたり 70 ユーロとなっている。
○地域暖房の利点と欠点について
z
個人のペレットボイラーを設置すると 15000 ユーロのコストがかかる上に、メンテナンスコ
ストも自己負担である。一方、この地域暖房につなげれば初期投資としての 6000 ユーロの
みで、メンテナンスコストはかからないため、地域の人々は個人で設置するよりも既存の地
域暖房を利用している。
z
しかし、そもそも設置したバイオマスボイラーの規模が大きすぎたため、配管のための費用
が高く、遠距離地点の住民をつなげることが難しい状況となっている。
○地域の林家によるバイオマスプロジェクトへの投資とその運営
z
2003 年に新築された 4 軒の団地の地区に対して、3 人の林家がバイオマス発電施設建設(木
質チップ)とその運営に投資を行ったものであり、13 年契約、来年で 10 年目となる。
z
投資者の初期投資は 45000 ユーロで、全体の 2 割を占める。残りの 4 割を補助金、残りの 4
132
割を住民負担によってまかなった。エネルギーとしての熱を提供する代わりに住民から使用
料 8.5 セント/kw.hr を徴収しているが、既に初期投資分の費用は回収し(銀行に返済済み)
利益が出始めている。この 8.5 セント/kWh にメンテナンス費も全て含まれている。チップ
は 30 ユーロ/m3 以上の値段で取引している。
z
将来油の値段が上がると、それに連動して木材の値段も上がりバイオマス燃料価格も上がる
ことが予想されるが、顧客の使用料は上げない予定である。今の関係を維持することが、地
域住民にバイオマスプロジェクトを理解してもらえる要因だと考えている。
<成功要因となる仕組み等>
z
石油の値段を上げても、バイオマスの値段を上げないことで、住民にバイオマスプロジェク
トを理解してもらいやすくしている。
133
19) Amsterdam Innovator Motor (AIM) (オランダ)
団体名
場所
訪問者
業務領域
Amsterdam Innovator Motor (AIM)
ファシリテーション
国・地域
オランダ・アムステルダム
Distelweg 113, Amsterdam
Selma Hilgersom
設立
2006
<ヒアリング内容>
○団体概要
z
Amsterdam Innovation Motor(AIM)は、アムステルダム都市圏の知識経済とイノベーシ
ョンを推し進めるために、アムステルダム市によって 2006 年に設立された団体である。持
続可能な都市を目指すプロジェクトである Green Metropole、Amsterdam Smart city など
の推進母体として、企業、研究機関、政府、その他の団体との調整役を担っている。
○アムステルダムスマートシティの概要
z
アムステルダムスマートシティは、2009 年にアムステルダム市役所、AIM と電力配電事業
を行っている Leander によって始められたプロジェクトであり、後に電話会社の KPN が主
要パートナーとして参加した。目的は気候変動とエネルギー問題を解決するためのパイロッ
トモデルシティを想像することであり、EU におけるスマートシティのリーディングプロジ
ェクトとなることを目指している。また、アムステルダム市の CO2 排出を削減することに
貢献すると共に、エネルギーと関連部門のイノベーションを通じて経済成長をもたらすこと
を期待している。
z
アムステルダム市は 2025 年までに 1990 年比で CO2 排出量を 40%削減する野心的な目標を
掲げており、そのためには統合的なアプローチでかつ革新的で知識をシェアすることが必要
だと考えている。このプロジェクトはその目標に貢献するものであり、主な取り組みとして
以下の取り組みがある。
①事業所における照明、冷暖房などエネルギー消費のパターンを調査し、エネルギー消費を
削減するための方法を見つけ出すスマートビルディング(効果:ITO ビルでの実験で電気
のオフなどで 18%のエネルギー削減、LED により 42%のエネルギー削減が図られた。)
②17 世紀の作られたビルへのエネルギー技術の導入(効果:オランダの平均と比較して 50%
の CO2 削減、85%のエネルギー効率の向上が図られた)
③市民の意識を変化させ、電力に対する行動変容を促す家庭におけるスマートメーターの設
置(効果:500 件のスマートメーターが設置され、市民の意識が向上していると共に地域
住民で持続可能性についての議論が行われている。意識向上の結果は大学による研究が進
められている。)
④太陽光発電によるごみ圧縮機の店舗導入やごみ収集車の電気自動車の利用など、商業地域
におけるエネルギー削減(効果:地区の店舗の平均で約 9%のエネルギー削減、公共スペ
ースでは 36%のエネルギー削減がもたらされた)
z
このプロジェクトに参加している企業は、実に 70 を数え、フィリップス、IBM、ボーダフ
134
ォンなど大企業も参加している。また、アムステルダム大学、TNO(オランダ議会設立の欧
州最大のシンクタンク)なども参加し知識面でのサポートを得ている。
z
2009年にスタートした際には小さな規模で始め、そこから得た知見を基にさらに拡大さ
せ、段階を追ってプロジェクトを進行させるプロセスをとっている。2012 年現在、アムス
テルダム市内の3か所で主な実験を行っており、いくつかの効果の検証ができている。
<地域への効果>
○経済面
z
2009 年に開始され 2012 年までの 3 か年で試行的な第一期間の取り組みのため、経済面や社
会面までの大きな効果は検証されていないが、主要目的であるエネルギー削減、CO2 削減効
果は大きいことが検証されている。
○社会面等
z
500 世帯のスマートメーターの設置により、市民の意識が高まりその効果について住民によ
る情報共有もなされている。
<成功要因となる仕組み等>
z
新しい革新的な技術により地域の CO2・エネルギー削減を図るためには、多数のパートナー
と協調しつつ進めなくてはならない。そのため、アムステルダムでは AIM と呼ばれる官民
共同の別団体を組織し、そこが各パートナーの調整、協調推進を行っている点が特徴的な仕
組みである。
z
アムステルダム都市圏の産業連関表を TNO、Free Univetsity Amsterdam で作成しており、
その産業連関表を用いた環境影響の分析が検討されている。
135
(3)地域効果
海外先進事例における地域効果一覧について、国ごとに表に示したものを表Ⅱ-2-22、表Ⅱ
-2-23、表Ⅱ-2-24に、海外先進事例における地域効果の体系について表Ⅱ-2-30に
示す。
団体、地域
表Ⅱ-2-22.海外先進事例における地域効果一覧(ドイツ)
地域効果
経済面
社会面等
z
ECOS
(Osnabruk)
z
z
WINDPARK
SCHÖPPINGER
BERG GMBH &
CO. KG
(Metelen)
Harz-Regenerati
v E.V.
Fesa
(Freiburg)
z
z
z
z
自地域で再生可能エネルギーを創出す
ることによる雇用の開発、地域利益の創
出。
z
風力発電メーカーによる近隣地域での
雇用開発。
ウインドパークでの知名度が上がり、見
学者が増えることによる村の活性化。
企業運営よる法人税が村の税収となる。
再生可能エネルギーにおける雇用創出。
再生可能エネルギー導入による利益で
地域の公共施設等を作るという好循環
が生まれる。
戸建ソーラーおいては、市民意識の向上
や施工や管理の面で雇用創出があるこ
と。
集まりやすい街を作ることによる中心
市街地が活性化されること。
環境面での木造住宅の見直しにより、中
小の林業家の雇用創出がある。
地域内の人が出資すると、市全体で収益
を挙げられるので、公共サービスも向上
していくこと。
自治体として参加することによる財政
的メリットがあること。
z
z
z
z
z
z
(ボーバン地区視
察)
シュタットベルクによる直接雇用、間接
雇用がそれぞれ 1,000 人創出。
市が株主のシュタットベルクによる利
益が、地域活性化につながる。
仮想発電所のネットワーク連携による、
各種会社の経済効率化が図られた。
z
z
z
136
z
z
z
地元の投資によって作られることによ
る意識向上。
住民関心の近いところで利益が利用さ
れていることによる取り組みの普及啓
発。
地元企業が主体であるということによ
り、住民の当事者意が高まっている。
穀物栽培に使われている農地をつぶし
てエネルギー作物を作るのではなく、収
穫が終わった後の時期に栽培したもの
で、二酸化炭素を吸収する。
自分たちのプロジェクトというアイデ
ンティティの形成。
自分たちに恩恵があることを共有する
ことによる、近隣村との合意形成。
z
サッカースタジアムという地域文化に
根差したスポーツ施設での先進的取組
により、市民の高い関心を引き起こして
いる。
z
歩行者優先、歩きたくなるような街に人
は集まりやすいこと。
ジェネレーションミックスを考慮した
作りになっていること。
人口密度をあげることが環境負荷を下
げることにつながること。
z
z
表Ⅱ-2-23.海外先進事例における地域効果一覧(デンマーク)
団体、地域
z
Risø DTU
(Copenhagen)
Copenhagen
Energy
(Copenhagen)
z
z
z
Business
Lolland-Falste
r
(Lolan)
Middelgrunden
Wind
Turbine
Cooperative
(Copenhagen)
Danish
Wind
Industry
Association
(Copenhagen)
SOG
(Copenhagen)
z
z
z
z
z
z
z
地域効果
経済面
陸上風力には周辺各国に市場があるこ
z
と。
風量に応じた値段の変化で節電バラン
スが取れていること。
許可取得にかかったお金の一部が地元 z
自治体に還元される。・再エネ導入によ
るエネルギー費用の削減、雇用創出。
新しいシステムを民間が作って市場が
大きくなっていく。
プロジェクトが採用される際に、自社内
の資金でやりくりする時期を浮かせる z
事が出来。失業率が 22%から 2%まで減
z
った。
グリッドシステムで昼夜の電気消費量
の改善と労働時間の損失をなくすこと
ができたこと。
風力発電事業は、一度完成すると経費が
かからず、ガスや石油に比べて雇用も創 z
出できること。
サービスやメンテナンスを中心に、建設
関係で地元の雇用が増加したこと。
風力のような産業とともに、地元の銀行
z
のような金融機関が成長したこと。
大型のウィンドファームはよい漁礁と
なり、食物連鎖が作られるため、漁業に
好影響を与えていること。
市場の自由化による電気料金の低減。
137
-
社会面等
自ら投資した風車という意識や利益イ
ンセンティブにより好意的な態度が形
成されている。
取得許可に係るお金を公共施設等に投
資することによる地域環境・利便性等の
向上。
先進的地域となることによる住民意識
向上、アイデンティティ形成。
研究機関等との密なネットワーク形成。
市民に受け入れられやすいデザインの
導入等による、市民の環境意識の向上、
合意形成促。
自分たちで投資を行うことが出来るの
で、メリットを感じることことによる住
民意識の向上、合意形成促進。
表Ⅱ-2-24.海外先進事例における地域効果一覧(オーストリア)
団体、地域
z
Mr.Hubert lammler
(アルメンラント)
z
z
Holz-Bauer
KG-Sa"gewerk
(フローイング)
z
z
Mr. Robert
Glettler
z
AEEINTEC Institut
für
Nachhaltige
Technologien
Biomasse-Heizwerk
Kaindorf
ökoEnergieland
Europäische
Zentrum
für
erneuerbare
Energie(EEE)
および
Besichtigung
Solarschule
Güssing
地域効果
経済面
森林連合組合が各家庭の木材を集
z
約、輸送を手配してまとめて売り、
林家の収入も増えている。
地域暖房の普及によってチップの
需要が増えたことによる単価向上
と林家収入の増加。
石油ボイラーからペレットボイラ
ーに買い替えも、燃料コストを考
z
慮すると、5 年後には投資額分返還
される。
石油ではなく地域のペレットを使
用することで、資金の中東流出を
防ぐ。
石油関連で 9 人の雇用を失う代わ
りに、バイオマス関連で 150 人の z
創出が生まれる。
バイオマスが石油の半額のため、
マージン 3 割乗せても 2 割は利益
となる。
z
再生可能エネルギー導入によるエ
ネルギー費用等の削減。
z
z
投資家である林家への利益還元。
間伐等による雇用創出。
z
代替エネルギーによる循環効果:
350 万ユーロ、 雇用創出:1100
人。
雇用創出により人口流入が起こ
り、各種サービス(住宅、学校など)
の需要、雇用が増加する。インフ
ラが整備されると、再び人口が増
加するという好循環が生まれる。
z
社会面等
地域エネルギー自給による住民満
足度向上(消費者はチップの値段
が上昇しても、ガスや石油の上昇
率の方が高いため、チップに対し
ての満足度が高いこと。)
自分の地域の社会が好調な場合
は、自分自身にも還元されること
が多いという考えがあり、地産地
消費の意識が生まれてきている。
石油関係(ガソリンスタンドなど)
の人も、将来的な賦存量を考える
と、代替出来るものはなるべく代
替する意思を持っている。
-
z
オイルマネーの流出よりも、値段
の変動の心配が少ないという安心
感のほうが、バイオマスに移行す
るきっかけとなっている。
z
ソーラー学校はもともと教育目的
で始まったものであるが、最近は
エネルギーマネージャーがストレ
ス解消のために参加している。
表Ⅱ-2-25.海外先進事例における地域効果一覧(オランダ)
団体、地域
z
Amsterdam
Innovator
Motor
(AIM)
(Amsterdam )
地域効果
経済面
2009 年に開始され 2012 年までの
3 か年で試行的な第一期間の取り
z
組みのため、経済面や社会面まで
の大きな効果は検証されていない
が、主要目的であるエネルギー削
減、CO2 削減効果は大きいことが
検証されている。
138
社会面等
500 世帯のスマートメーターの設
置により、市民の意識が高まりそ
の効果について住民による情報共
有もなされている。
表Ⅱ-2-26.海外先進事例における地域効果(例)一覧(まとめ)
雇用増加
(直接)
z
z
z
z
z
雇用増加
(間接)
z
z
経済面
効率化
z
z
z
z
域内循環
z
z
域際収支
改善
z
地元意識
z
z
投資権利
・還元
社会面
等
意 識 変
革・向上
z
z
z
z
z
コスト比
較
z
z
効果(例)
エネルギー公社における雇用増加
風力発電メーカーの雇用開発
バイオマスプロジェクトを起爆剤とした林業需要による林家の
雇用増
バイオマス事業関係において、伐採からボイラー導入までのすべ
ての工程で雇用増加
バイオマスのための木材を各家庭から集積、輸送を行う林家の雇
用増加
風力事業の成長に伴う、融資する地元の銀行などの金融機関の成
長
風力発電関係では、サービスやメンテナンスを中心とした地元建
設関係の雇用増加
電力系統のネットワーク連携による経済効率化
コンパクトシティ化による輸送コストの減少
グリッドシステムで昼夜の電気消費量のバランスの改善および
労働コスト減少
地域内での出資が市経済活性化⇒公共サービスの向上⇒魅力的
な町⇒人口流入⇒インフラ整備需要増⇒市経済活性化 の好循
環が生まれる。
再生エネルギープロジェクトに伴う新システムを民間が作るこ
とによる市場の活性化
再生エネルギープロジェクト視察目的の域外、国外からの観光に
よる資金獲得
石油からバイオマスへのエネルギー変換による中東地域へのオ
イルマネー流出減少
自らが投資しているという当事者意識
地元企業中心の事業による、市民のブランド意識および地産地消
意識の向上
自らが投資の権利を持ち、自らが配当を得られるインセンティブ
再生エネルギー各種事業の利益が、身近な部分(地元公共サービ
ス)で還元されることを実感できるインセンティブ
脱原発依存、脱石油依存等意識変革
現在の賦存量を考慮した際に、石油はなるべく代替すべきという
意識向上
バイオマスエネルギーが石油の値段の半分であるという価格的
インセンティブ
石油に比べ、バイオマスエネルギーは価格変動が少ない
新築時に石油からバイオマスエネルギーへの移行
139
2.3
結論
1)本章の実施概要
本章では、温暖化対策を地域経済活性化に結び付けている国内外の先進取組等について最新状況
を調査し、取り組みのポイントや課題等について整理した。具体的には、以下の項目を実施し、結
果を取りまとめた。
①国内外先進取組・地域事例に関する文献調査等
文献調査、WEB 調査等により、温暖化対策と地域活性化に対する国内外の先進的な取組事例
を調査した。調査にあたっては、特に地域経済との関連に着目して情報を整理した。国内事例と
しては、国内で実施されている各種温暖化対策(再生可能エネ、住民・事業者活動、都市・地域
づくり、循環型社会づくり等)について、代表的な取組事例を調査した。また海外事例としては、
特に再生可能エネルギーに着目し、エネルギー自立地域の形成等の先進地域であるオーストリア、
デンマーク、ドイツ等における取組について調査した。
②現地調査対象地域・機関等のリストアップとコンタクト
上記①の調査から、取組の特徴、地域特性等を考慮して現地調査対象地域をリストアップし、
ヒアリング先となる担当機関にコンタクトした。調査対象としては、地域経済への効果が高い取
組や定量化が図られている取組に焦点をあて、国内先進地域に加え、再生可能エネルギー等によ
る地域自立を目指している欧州先進地域から地域規模・取組内容のバランス等を考慮して選定し
た。
③現地調査詳細計画の作成及び調査項目等の整理
現地調査時における行程や詳細ヒアリング項目等について整理した。
④調査対象地域での現地調査実施
上記③に基づいて現地調査を実施した。この際、温暖化対策が地域へどのような影響(環境面
に加え、経済面、社会面)を与えているかといった観点からヒアリングを行った。また調査対象
地域の行政機関担当者等との意見交換等を通じて、地域における温暖化対策の検討・立案におい
て、どのような地域環境経済的情報・知見が有用であるか等について調査した。
⑤調査結果の整理、考察、とりまとめ
文献調査、現地調査等の結果を整理、考察するとともに報告書として取りまとめた。
140
2)研究結果・成果
以下に、本章における研究結果・成果を整理する。
○温暖化対策により地域経済の活性化を目指している先進取組等に関する事例の把握
温暖化対策により地域経済の活性化を目指している取組について国内外における先進的な地
域・取組事例を調査し、最新動向を把握するとともに、地域経済等への影響・効果や取組のポイ
ントについて抽出・整理するとともに、次年度以降の分析シナリオ想定の際の参考知見として活
用した。
具体的には、文献調査等による概観調査においては、国内事例に関して「温暖化対策で活用さ
れている具体的な地域資源の種類・内容(例)」、「温暖化対策が及ぼす地域効果(経済面、社会
面、環境面)の体系・内容(例)」、「地域経済に資する温暖化対策への行政支援の体系・内容」、
「地域経済に資する温暖化対策の課題の体系・内容(例)」といった知見を整理した。次に、海
外事例に関しては、「先進地域における取組の具体内容」「温暖化対策が地域経済に及ぼす効果の
種類・内容(例)」等を把握した。また事例に比較により「重視されている経済効果の国内と海
外での差異」を把握した。また現地視察等による詳細調査については、「国内先進地域における
取組課題と行政ニーズ」、「海外先進事例における地域効果(社会面含む)の体系・内容」といっ
た知見を整理した。
更に現地調査・ヒアリング等による詳細調査においては、まず国内各先進地域における「環境
政策・地域活性化施策」「特徴的取組」「温暖化対策が地域にもたらす効果」「温暖化対策推進に
おける地域課題」「本研究の接点となる行政ニーズ」について把握・整理した。次に海外事例に
ついては、各先進地域・機関における取組概要、地域への効果(経済面、社会面)、成功要因等
を整理した。
○ケーススタディ対象地域における行政現場でのニーズ把握等
現地調査等の実施時においては、本研究の趣旨・目的・内容等を政策現場担当者と共有し、関
係する行政現場でのニーズについて把握した。また分析結果を行政ニーズにフィードバックする
という位置づけのもと、次年度以降実施するケーススタディ分析における情報提供等のネットワ
ーク、各対象地域(下川町、梼原町、飯田市、瀬戸市等)における行政機関等と構築した。
141
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