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クリーンエネルギー自動車の普及評価モデルの構築

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クリーンエネルギー自動車の普及評価モデルの構築
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 3
クリーンエネルギー自動車の普及評価モデルの構築
A Diffusion Model for Clean Energy Vehicles
松 本 光 崇 *・ 近 藤 伸 亮
Mitsutaka Matsumoto
**
Shinsuke Kondoh
***
・ 藤 本 淳
・ 梅 田 靖
Jun Fujimoto
****
・ 槌 屋 治 紀
Yasushi Umeda
増 井 慶 次 郎
******
Haruki Tsuchiya
・ 李 賢 映
Keijiro Masui
*****
*******
Hyun-Young Lee
(原稿受付日 2007 年 11 月 6 日,受理日 2008 年 2 月 26 日)
We propose a diffusion analysis model that integrates logistic-curve diffusion model (Bass model) and consumer preference
model based on conjoint analysis. We built a diffusion model for clean energy vehicles (CEV) based on the proposing
framework. The major CEV in Japan today is Hybrid Electric Vehicles (HV). 258 thousand HV have been sold in Japan by
2006FY. As the results of our analysis, in the base case, 700 thousand CEV were estimated to diffuse in 2010 and it has the
effect of reducing CO2 emissions by 660 thousand ton-CO2. The model estimated that 4.0 million CEV diffuse in 2020, 16
million CEV diffuse in 2030, and 37 million CEV diffuse in 2050. We carried out two scenario analyses. In the scenario in
which the subsidy of 250 thousand yen (2 thousand US$) is granted to CEV until 2020, the diffusion increases by 18% in
2020 and 11% in 2030, respectively, compared with the base case. In the scenario in which the gasoline price rises
incrementally up to 4 times until 2050, the diffusion increases by 7% and 11%, respectively.
ブリッド車が国内で販売された(表 1).これは国内の乗用
1.まえがき
車保有台数約 5,600 万台の約 0.4%に相当する.本研究では
持続可能社会の形成のためには各種の技術による環境対
燃料電池車等それ以外の CEV については将来的に本格的
策が必須である.地球環境問題への技術的対策を促進する
な普及に至る可能性に不確実性が大きいため,ハイブリッ
ためには,技術開発を進めていくとともに技術の「普及」
ド車を念頭において普及モデルを作成した.本研究は次の
を図っていくことが必要である.特に一般の消費者の購入
ような問いに答えることを目標とした.
によって普及が浸透するものについては,消費者の選好を
•
把握し,各種の政策的な施策や技術開発,社会状況の変化
か.
がそれらの普及にもたらす影響を把握することが今後の環
•
境政策を考える上で必要である.
2010 年にはどの程度普及しているか.また 2020 年に
はどうであるか.
クリーンエネルギー自動車(CEV)は CO2 排出の抑制に
さらに,
寄与する技術である.CEV はハイブリッド自動車,電気自
•
動車,天然ガス自動車,燃料電池自動車,メタノール自動
CEV に補助金を付与したときに,その普及への影響
はどの程度であるか.
車等を指す.このうちハイブリッド自動車,電気自動車,
•
天然ガス自動車は今日政府のクリーンエネルギー自動車等
導入促進事業の対象とされ
CEV は今後どれくらいの早さでどこまで普及が進む
ガソリン価格が今後上昇すれば普及にどの程度の影
響をもたらすか.
1)
,政策的にも普及促進が図ら
等,政策や社会状況の普及への影響の分析を目標とした.
れている.本研究では CEV を対象にした普及評価モデルを
本研究ではこうした問いに答えるために三つのモデル枠
構築した.本稿ではその内容とモデルによる評価結果を示
組みを統合して用いた.一つは製品普及モデルであるロジ
す.CEV の中で今日すでに本格的に普及が始まっているの
スティック曲線モデル,第二は消費者選好モデルとしてコ
はハイブリッド自動車である.1997 年にトヨタ自動車がプ
ンジョイント分析,第三は製品の価格低下のモデルである
リウスを発売して以降,2005 年度までに約 26 万台のハイ
学習曲線モデルである.
以下本稿では第 2 節で関連研究を概観し,3 節でモデル
*
(独)産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門
〒305-8564 茨城県つくば市並木 1-2-1
e-mail [email protected]
**
(独)産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門
***
東京大学 先端科学技術研究センター
〒153-8904 東京都目黒区駒場 4-6-1
****
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘 2-1
*****
(株)システム技術研究所
〒103-0004 東京都中央区東日本橋 1-1-5-9F
******
(独)産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門
*******
(独)産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門
の構成,4 節で評価のためのパラメータの設定,5 節でシ
表1
ハイブリッド車の国内普及実績(乗用車)
単位:万台
年度
1997
98
99
2000
01
02
03
04
台数
0.4
2.3 3.7
5.0
7.5 9.1 13.3 19.8
出典:(社)日本自動車工業会.
2000 年度以降は各年の出荷台数を累積して算出した.
49
05
25.8
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 3
ナリオの設定,6 節で結果をそれぞれ示し,7 節で結論と課
3.モデル化の定式化
題をまとめる.
本研究ではロジスティック曲線モデルとコンジョイント
分析ベースの消費者モデルとを統合した.3.1 と 3.2 で両モ
2.関連研究
デルをそれぞれ示し,3.3 で本研究での両モデルの統合方法
を示す.3.4 でモデル設定の流れを示す.学習曲線モデルの
環境製品の普及分析の関連研究として,欧州の IIASA(国
際応用システム研究所)が 1980 年代に新エネルギー技術の
組み入れについては 4 節で示す.
普及評価にロジスティック曲線モデルを適用した.環境技
3.1
2)
ロジスティック曲線モデル
.ここで用い
ロジスティック曲線モデルは製品普及の推移を簡易にか
られたロジスティック曲線モデルは妥当性の高いモデルで
つ妥当性の高い形で定式化したモデルである.このモデル
あるが,購買者の選好や価格変化の影響が込みになったモ
では新しい耐久消費財等の普及推移(より正確には当製品
デルであるため,価格変化や性能向上の普及への影響を明
の消費者の最初の購入の時期の分布)について次の四つの
示的に分析することが困難であった.一方,国立環境研究
仮定を基礎として定式化する 7), 10).
所が開発した AIM End-use モデルでは購入者の意思決定
1.
術の普及分析として先駆的な研究であった
をモデル中で明示的に定式化した
3)
毎期の購入者は,自らの意思で購入決定する「革新者」
と,普及の様子を見ながら購入決定する「模倣者」と
.そのため初期価格や
から成る.
ランニングコストの変化の影響の分析が可能である.しか
2.
し意思決定ルールとして,コストが低い方を選択するとい
毎期の革新者数(Vt )は,その期における未購入者数
(Yt )の一定割合 p である.
う経済合理性を仮定したため,購入者が企業や政府である
3.
場合には妥当性を持つものの,一般の消費者の購買意思決
毎期の模倣者数(Wt )は,その期における未購入者数
定を捉えるのは困難であった.一般消費者の選好の調査や
の中の割合 pt' である.pt' はその期の普及率(nt )に
モデル化自体は数多くなされている.自動車について消費
比例する.つまり r を定数として pt'=r・nt で表され
者のライフスタイルや移動量,性格,旅行嗜好性などと車
る.
種選択の関係を分析した事例等も見られる
3)
4.
.消費者選好
最終的な普及数(N )は一定である.つまり未購入者
モデルを CEV の普及分析に適用した例としては,近久ら,
数 Yt と累積購入者数 nt・N は,Yt+ nt・N = N を常に
長谷川らはそれぞれ自動車を対象にしたコンジョイント分
満たす.また上で「最初の購入」と記したように,一
析を行い,その結果に基づく多項ロジット型の消費者選好
度購入した消費者が再度購入したとしても購入者には
モデルを構成し,燃料電池車等の普及予測を行っている
4) 5)
.
カウントしない.
これより t 期の新規購入者数 Xt は次のように表される.
しかし多項ロジット型の消費者選好モデルのみに基づく普
及分析は,短期の予測では妥当性を持つものの,数年を越
X t = Vt + Wt
Vt = p ⋅ Yt = p ⋅ (1 − nt ) ⋅ N
Wt = pt′ ⋅ Yt = r ⋅ nt ⋅ Yt = r ⋅ nt ⋅ (1 − nt ) ⋅ N
える長期の予測には適用が難しい.
本研究では次節で示すように,ロジスティック曲線モデ
ルにコンジョイント分析ベースの消費者選好モデルを統合
(1)
(2)
(3)
Vt,Wt を Xt の式に代入することで以下を得る.
したモデルを構築した.ロジスティック曲線モデルを利用
することで,例えば自動車に関しては普及の浸透に短くと
X t = ( p + r ⋅ nt ) ⋅ (1 − nt ) ⋅ N
も 40 年程度要するといった長期の傾向を反映することが
(4)
できる.またコンジョイント分析と統合することで,初期
式(4)は,t を連続値とすると Xt= dnt /dt・N が成り立ち式(5)
価格の変化(補助金等)やランニングコストの変化(ガソ
のように表される.t を離散値とすると Xt=(nt+1 – nt)・N で
リン価格変化等)の影響を動的に評価することが可能にな
あり式(4)は式(6)のように表される.
dn t
= ( p + r ⋅ nt ) ⋅ (1 − nt )
dt
nt +1 − nt = ( p + r ⋅ nt ) ⋅ (1 − nt )
る.ロジスティック曲線モデルは経営学やマーケティング
の分野では Bass モデルとも呼ばれる 7).同モデルは経営学
の分野等で様々な拡張が試みられてきており
8)
,価格の変
化の影響や広告の効果を分析するモデルも提唱されている
9) 10)
(5)
(6)
境界条件を nt=0=0 とすると,式(5)を満たす nt は次のとお
.本研究ではこれらの拡張モデルを参照して,コンジ
りである 7).
ョイント分析を組み入れた普及評価モデルを定式化した.
nt =
50
1 − e − ( p + r )t
1 + r p ⋅ e −( p + r )t
(7)
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 3
式(4),または式(5), (6)で三つのパラメータ p, r, N が決定
X t = ( p + r ⋅ nt ) ⋅ (1 − nt ) ⋅ N ⋅
されれば Xt の時間推移が定まる.パラメータ p, r, N はそれ
ぞれ,革新係数,模倣係数,最終普及数と呼ばれる.
ト分析の結果を反映して算出される値であり,次の定義と
それまで
する.まずコンジョイント分析の結果から消費者のハイブ
の普及推移(Xt の実績値)から p, r, N 値を推定する.
リッド車(HV)とガソリン車(GV)に対する選好差(Ui,HV
(2) 製品が市場に投入されたばかりであるか,まだ投入さ
–Ui,GV)の分布を求める.ここで H を,求めた分布でガソ
れていない場合: 過去の類似製品の普及における p,
リン車よりもハイブリッド車を選好する消費者の割合
r, N の値を適用する.
(Ui,HV –Ui,GV >0 を満たす消費者 i の割合)とする.現状の
(3) 製品がわずかに普及している場合((1)と(2)の中間の場
合):
属性値(現状での s 値)で求めた H 値を H0t とする.また t
r と N の値を(2)の方法で求め,p の値を(1)
期の H 値を Ht とする.H 値は補助金やガソリン価格変化な
の方法で求める.
どで属性値が変化すると変化する.式(10)は,t 期にハイブ
本研究では,(3)の方法で CEV の普及係数を設定した.
リッド車を選好する消費者の割合 Ht が変化するとすれば,
過去の製品普及の p, r, N 値を普及推移の実績値(Xt の
その変化率分だけ t 期の新規購入者 Xt が変化するとしたも
実績値)から算出するには,以下の式を適用して a, b, c を
のである.この形式は既存研究で価格φt の普及への影響を
推定し,p, r, N 値を算出する 7), 11).
X t = pN + (r − p) Z t −
()
Zt
r 2
2
Z t = a + bZ t + cZ t
N
(p+rnt)・eφt と定式化したものがあるが 9),p+rnt に係数を
乗じる同様の形式を採用したものである.式(10)で Ht が t
(8)
全体を通して H0t と同値であればロジスティック曲線モデ
= nt ⋅ N = ∑i = 0 X i
t −1
ルと同一の普及曲線となる.
3.4
ただしこの方法をそのまま適用すると p や r が負値で求ま
評価ではまず基本設定として普及係数 p, r, N と消費者選
式(7)が普及曲線に最も近い曲線になるようパラメータを
好モデルを設定する.消費者選好モデルは式(9)の形式であ
推計する.
る.式(9)の属性の項目 j を決定し,コンジョイント分析に
コンジョイント分析
よって選好重み係数 wij を設定する.属性の水準値 skj も設
コンジョイント分析は,消費者の製品に対する選好(好
定する.
ましさ,効用)が選好の要素の和として表されることを仮
次に基本ケースにおける属性の水準値の変化等を設定し,
定した上で,各要素を足し合わせるための係数を分析する
式(10)から普及曲線を計算する.これが普及予測の基本ケ
方法である.消費者 i の製品 k に対する選好 Uik を次のよう
ースである.
に設定する.
U ik = ∑ wij ⋅ s kj
(9)
1.基本設定
・普及係数(p, r, N )の設定
・消費者モデルの設定
・属性(式(9)のj )の決定
・コンジョイント分析の実施と、その結果に基づく
選好重み係数(式(9)のwij)の設定
・属性の水準値の設定(式(9)のskj )の設定
j
この j は選好要素項目(属性)であり,製品の初期価格や
各種機能が相当する.skj は製品 k の属性 j の値(水準)で
ある.コンジョイント分析では,消費者に,属性の値を適
当に割り当てたいくつかの選択肢(プロファイル)を提示
2.基本ケースの属性水準値の変化等の設定
・学習曲線モデルの設定等
し,各選択肢が消費者にとってどの程度望ましいかを回答
してもらう.その回答に基づき式(9)の wij の値を推定する
シミュレーション
手法である 10).4.2 節で具体的な適用を示す.
3.3
分析の流れ
以上の方法による評価の流れを図 1 に示す.
るなど不適当な結果になることもある.その場合には直接
3.2
(10)
式(4)に Ht /H0t を乗じた形である.Ht , H0t はコンジョイン
パラメータの値は次のように設定する.
(1) 製品がすでにある程度普及している場合:
Ht
H t0
基本ケースの普及評価
ロジスティック曲線モデルとコンジョイント分析の
3.シナリオケースの属性水準値の変化等の設定
統合
シミュレーション
本研究ではロジスティック曲線モデルとコンジョイント
シナリオケースの普及評価
分析とを統合して用いた.本研究ではロジスティック曲線
モデルの元々の式である式(4)を拡張して次のモデル式と
図1
した.
51
普及評価の流れ
オートマチック車割合
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 3
100
次に属性の水準値等の変化シナリオを設定する.特に政
策や技術進歩によって将来変化する項についてシナリオを
設定する.属性水準値 skj が変化すると消費者選好 Uik が変
化し,その結果 Ht が変化する.Ht が変化すると普及曲線が
変化する.式(10)から普及曲線を計算し,普及予測のシナ
リオケースが得られる.結果を基本ケースと比較すること
(%)
で,設定した変化が普及に及ぼす影響を分析する.
図2
4.モデルの設定
統計データから推計した割合推移
ロジスティック曲線による近似
80
60
40
20
0
1955
1965
1975
1985
年
1995
2005
保有乗用車に占めるオートマチック車の割合の推移
(推計)および近似ロジスティック曲線
4.1
基本設定
本研究ではクリーンエネルギー自動車としてハイブリッ
分かる.
ド自動車を想定し,乗用車購入に際して消費者が通常のガ
r 値はこのままハイブリッド車の普及の r 値として用い
ソリン車かハイブリッド車かの選択肢を持つとした.2050
る.p 値は次節で設定する.N’ 値は,ここで算定した値は
年までの普及曲線を予測した.
割合であり,絶対数(台数)の算定には母数が必要である.
普及係数の設定(1):模倣係数 r と最終普及数 N
4.2
母数は保有車両のうちハイブリッド車になり得る車両の数
ハイブリッド車は販売開始から 10 年が経ち現時点の普
である.母数を N’’ とすると,ハイブリッド車の最終普及
及率は約 0.4%である.普及率は低いが普及開始からはある
数 N は,上の N’ 値を参照して N’’ の中の N’ (=87.8%) と
程度時間が経ち普及曲線の立ち上がりの形状が現れている
仮定する.母数 N’’ を次のように設定した.ハイブリッド
ことから,普及係数の設定には 3.1 節の(3)の方法,つまり
車は搭載するバッテリーに重量があるため元々の車体重量
模倣係数 r と最終普及数 N は過去の類似の製品の普及係数
が軽量である自動車には導入効果が低い.そのため導入の
を参照して設定し,革新係数 p はハイブリッド車のこれま
対象を軽自動車を除く小型者と普通車とする.今日その台
での普及推移実績に基づき設定することとした.
数は約 4,200 万台であり,これを N’’ とした.これより,
ハイブリッド車に類似する過去の製品としてはオートマ
N = 3,700万台 (≒
チック自動車を参照した.オートマチック車は 1958 年に一
87.8
× 4,200万)
100
般乗用車向けにも導入され,今日では新車登録の 95%以上
であり,ハイブリッド車の最終普及数は 3,700 万台とする.
を占める.自動車の中で普及が浸透していく点で共通する
4.3
ことから参照製品とした.
普及係数の設定(2):革新係数 p
革新係数は普及曲線の立ち上がり形状と大きく関係する.
オートマチック車の保有乗用車に占める割合(ストック
前節で求めた模倣係数 r と最終普及数 N の値を固定し,ハ
ベースでの割合)の推移そのものの統計は存在しない.そ
イブリッド車の 1997 年から 2005 年までの普及実績値(表
のため推計を行った.新車登録に占めるオートマチック車
1)を近似する革新係数を算出した.最小二乗法で推定した
の割合(フローベースでの割合)のデータが 1976 年以降存
結果,
在する
p = 0.000418
12)
.1976 年の割合は 11.9%であり,1958 年から 1975
年までは 0%から 11.9%に線形に増加したと仮定し,このデ
を得た.ハイブリッド車普及の p 値にはこの値を用いる.
ータと,毎年の初年登録年別自動車保有車両数の統計デー
4.4
タ
13)
消費者選好モデルの設定:選好属性 j の設定
とからオートマチック車が保有乗用車に占める割合
消費者の自動車に対する選好の属性を設定する.本研究
の推移を推計した.図 2 の点線(青線)が推計した普及率
では,初期価格,ガソリン代,燃費性能,環境イメージ,
推移である.
その他,の 5 項目とした.これより各消費者(消費者 i)の
ハイブリッド車(HV),ガソリン車(GV)への選好 Ui,HV,
この普及率推移曲線を近似する普及パラメータを算定し
た.算定に 3.1 節の式(8)を適用したところ,p’ 値が負値で
Ui,GV は次のとおりである.
算定されたため(p’ =-0.0034, r =0.185, N’ =89.9),式(7)から
Ui,HV = wi, 初期価格 sHV, 初期価格 + wi, ガソリン代 sHV, ガソリン代
+ wi, 燃費性能 sHV, 燃費性能 + wi, 環境イメージ sHV, 環境イメージ
+ wi,その他 sHV,その他
直接推計した.以下の値を得た.
p ' = 0.000534 , r = 0.182 , N ' = 87.8 (%)
Ui GV = wi, 初期価格 sGV, 初期価格 + wi, ガソリン代 sGV, ガソリン代
+ wi, 燃費性能 sGV, 燃費性能 + wi, 環境イメージ sGV, 環境イメージ
+ wi,その他 sGV,その他
(11)
これらの数値を式(7)に代入して得られるロジスティック
曲線を図 2 に併せて示す(赤線).適当な近似であることが
52
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 3
表2
「その他」には例えば車内スペースや安全性能等が含ま
れるが,ハイブリッド車と通常のガソリン車で同等である
と見なす.つまり sHV,その他= sGV,その他 である.分析では選好
5 属性に対する選好重み係数の平均値
属性(j)
選好重み係数(wij)
価格
-0.366(ポイント/万円)
2.323(ポイント/(km/ℓ))
燃費
差 Ui,HV-Ui,GV の値を用いるので,wi,その他 は算出の必要が
-4.038(ポイント/千円)
ガソリン代(月額)
ない.よってそれ以外の 4 つの wij の値をコンジョイント分
5.838(ポイント(ハイブリッド車に対し
エンジン種類
て))
析で求める.
4.5
-7.058(ポイント/万円)
税金価格(年額)
コンジョイント分析:w 値の設定
コンジョイント分析を実施して式(8)の wij 値の分布を調
表3
査した.ウェブ上で統計的にサンプリングして 1,200 名の
j
回答者を選定し実施した.前節の 4 属性に,安全性能,税
k
ハイブリッド車
額,ハイブリッド車普及率の 3 項目を加えたプロファイル
属性水準値(sjk 値)の設定
初期価格
ガソリ
ン代
燃費性能
環境イ
メージ
216 万円※1
※2
20km/ℓ
1
ガソリン車
156 万円
※3
12km/ℓ
0
※1:初期値 216 万円から補助金や学習曲線効果で低下する.
※2,3: ※3 はアンケートで得た値を設定し,※2 はその値に燃
費向上分の(1-12/20)を乗じた値とした.
を作成した.図 3 にプロファイルの例を示す.図の 2 枚の
プロファイルはエンジン種類,価格,ガソリン代等の値が
異なる.各回答者に 8 枚ずつのプロファイルを提示し,各
プロファイルの望ましさを回答してもらった.回答をもと
ガソリン車の価格である 156 万円を設定した.ガソリン代
に各回答者 i の各属性 j に対する選好重み係数 wij を算出し
についてはコンジョイント分析と同時に実施したアンケー
た.
トの結果を設定した.燃費性能はハイブリッド車について
価格,燃費,ガソリン代,エンジン種類,税金,に対す
は 20km/ℓ,ガソリン車は 12km/ℓとした.属性水準値 sjk の
る係数を集計した結果を表 2 に示す.各値は 1,200 の回答
設定を表 3 に示す.
「環境イメージ」は,コンジョイント分
者の平均値である.
「エンジン種類」の 5.838 ポイントを基
析で「エンジン種類がハイブリッド型であるなど環境問題
準にすると,次の 5 つが回答者全体の平均として同等の価
に配慮した車である」ことの価値とした.ハイブリッド車
値を持つことが示唆された.
①
価格が 15 万円安い
②
燃費性能が 2.5km/ℓ 良い
③
ガソリン代が月 1,450 円安い
④
エンジンがハイブリッド型であるなど環境問題に配
に対して1と設定した.
4.7
コンジョイント分析で求めた wij の分布と表 3 の s 値を式
(11)に代入して選好差 Ui,HV-Ui,GV の分布を求めた結果を
図 4 に示す(図の実線).ガソリン車よりもハイブリッド車
慮した車である
⑤
を選好する消費者(Ui,HV-Ui,GV >0 を満たす i)は,1,200
自動車の税金が年額 8,270 円安い
名のうち 60.0%を占めた.よって式(10)の H0 は,H0t =0.600
①は,表 2 で価格の選好重みが -0.366 ポイント/万円 で
である.
あり,5.838/(-0.366)≒-15 から 5.838 ポイントは価格が 15
4.8
万円安いことに相当する.
4.6
選好差の分布
学習曲線による価格低下の設定
ハイブリッド車の価格は今後低下していく可能性がある.
属性水準値(s 値)の設定
新技術は量産とともにコストが低下する傾向を持つ.学習
ハイブリッド車とガソリン車の価格は,それぞれプリウ
スの価格である 216 万円と,プリウスと同程度の大きさの
160
140
120
100
80
60
40
20
0
-200
図4
-100
0
100
200
300
ハイブリッド車とガソリン車の選好差(Ui,HV-Ui,GV)
の分布
縦軸は人数(合計は回答者数の 1200).横軸は効用ポイント数.実
図3
線が sHV,初期価格=216 万円に,破線が sHV,初期価格=191 万円 に対応する.
コンジョイント分析で用いたプロファイル
53
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 3
表4
項目
曲線はその様子を記述するモデルであり,工業製品のコス
ト低下の分析に広く用いられる
14)
.過去の実測結果からは
ハイブリッド車の普及評価の設定(基本ケース)
設定値
とされる.本研究ではハイブリッド車とガソリン車の差分
予測開始年
予測終了年
最終普及数
模倣係数
革新係数
の 60 万円が,ハイブリッド車の累積生産台数が 40 万台の
初期価格
「累積生産が二倍になると生産コストや生産に要する時間
が一定割合だけ低下する」という原理が得られている.低
下の割合は半導体産業で 70-85%,機械組立産業で 80-95%
n
1997 年
2050 年
3,700 万台(4,200 万台の 87.8%)
AT 車普及の値(0.182)
普及実績に基づき算出(0.000418)
ハイブリッド車:216 万円
ガソリン車:156 万円
差額の 60 万円に,生産台数 40 万台
の倍数ごとに 10%の価格低下.
消費者アンケートの結果を反映
ハイブリッド車:20km/ℓ
ガソリン車:12km/ℓ
ハイブリッド車:1
ガソリン車:0
1
2 倍ごとに 90%に低下していくとしてモデル化した .国内
学習曲線モデル
出荷数と輸出数が今後もほぼ同数であると仮定して,生産
台数は国内の出荷数の 2 倍であるとした.
ガソリン代
4.9
燃費性能
基本ケースにおける補助金の設定
個人向けのクリーンエネルギー自動車の購入に 2002 年
環境イメージ
度から補助金制度が導入された.この制度により「通常車
2002 年から 2007 年まで 25 万円
2.34t-CO2/台 × 燃費改善率
補助金の設定
CO2 削減効果
両との価格差の 1/2 以内を補助」することが定められた 1).
本評価の基本ケースでは 2002 年から 2007 年までハイブリ
ッド車に 25 万円が補助され,その分 初期価格(sHV,,初期価格)
6.結果
が低下するとした.このときの選好差の分布が図 4 の破線
図 5 と表 5 に基本ケースと二つのシナリオケースの結果
である.ガソリン車よりもハイブリッド車を選好する消費
者の割合が 72.5%に増加する(Ht=0.725 になる).
を示す.過去のオートマチック車と同様に順調に普及が進
4.10
むとすれば,基本ケースで 2010 年に 70 万台,2020 年に 400
CO2 削減効果の設定
ガソリン車は一台あたり平均で年間 2.34t-CO2 の CO2 を
万台,2030 年に 1,630 万台普及し,2050 年には 3,700 万台
排出していると見積もった.これは 2004 年度の乗用車保有
普及してほぼ飽和するという結果が得られた.普及による
台数 5,528 万台
15)
CO2 削減の効果は,原単位を乗じる計算で,2010 年に 66
と同年の自家用乗用車由来の CO2 排出
量 1 億 2,949 万 t-CO2
16)
万 t-CO2,2020 年に 380 万 t-CO2,2050 年に 3,500 万 t-CO2
をもとに算出した.ハイブリッド
であった.
車の普及により 2.34t-CO2 から燃費向上分削減されると想
定した.例えば現状の燃費のガソリン車 12km/ℓ,ハイブリ
ハイブリッド車一台あたり 25 万円の補助金を 2020 年ま
ッド車 20km/ℓであれば,一台の普及あたり 2.34×(1-12/20)
で継続するシナリオでは,2010 年には普及が 73 万台に増
t-CO2 の削減として CO2 排出効果を算出した.
加し,2020 年,2030 年には基本ケースに比べてそれぞれ約
4.11
18%,11%の普及増加が見込まれた.また 2050 年までガソ
設定のまとめ
リン価格が 4 倍までに上昇するシナリオでは,2010 年には
以上の基本ケースの設定を表 4 にまとめる.
普及への影響はほとんどないが,2020 年,2030 年には約
7%,11%の普及増加が見込まれた.
5.シナリオの設定
学習曲線による価格低下の効果は,ハイブリッド車の価
前節の基本ケースに加えて次の二つのシナリオケースを
格が 2010 年では 4%低下(207 万円),2020 年で 10%低下
設定した.
1.
補助金継続シナリオ
2.
ガソリン価格高騰シナリオ
40000
基本ケース
補助金継続ケース
ガソリン価格高騰ケース
35000
補助金継続シナリオは基本ケースでは 2007 年に終了す
30000
25000
るとした補助金が 2020 年まで継続するケースを設定した.
20000
ガソリン価格高騰シナリオでは,ガソリン価格が 2007
15000
年から 2050 年にかけて線形に現在の 4 倍まで上昇すること
10000
を想定した.それぞれが普及に及ぼす影響を分析した.
5000
0
2000
1
ただしハイブリッド車のこれまでの販売価格の推移が,ここで仮
定する学習曲線に沿って推移したというわけではない.学習曲線
モデルは近年では太陽電池や燃料電池のコスト推移に適用した例
がよく見られる 14).
図5
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2045
クリーンエネルギー自動車(ハイブリッド車)の
普及予測結果(縦軸の単位:千台)
54
2040
2050
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 3
表5
謝辞
普及予測結果
(単位:万台,CO2 削減効果は基準ケースのもの)
実績
基本
ケース
本稿は経済産業省の平成 18 年度 地球温暖化問題対策調
補助金
ガソリン
CO2 削減
継続
価格高騰
効果(万
ケース
ケース
t-CO2)
査「温暖化対策の技術選択モデルに関する調査」の中で実
施した研究に基づくものである.
1998
23
15
15
15
1
1999
37
33
33
33
3
2000
50
55
55
55
5
2001
75
80
80
80
7
2002
91
112
112
112
10
2003
133
150
150
150
14
2)
W. Hafele eds.; Energy in a Finite World, (1981), Ballinger.
2004
198
195
195
195
18
3)
M. Kainuma, Y. Matsuoka and T. Morita eds.; Climate
2005
258
参考文献
1)
省エネルギーセンター編;省エネルギー便覧 2006,
(2007), 180.
249
249
249
23
2006
314
314
314
29
2007
391
391
391
37
2008
478
484
478
45
2009
580
595
582
54
people drive? The role of attitude and lifestyle in
2010
701
728
705
66
influencing vehicle type choice, Transportation Research
2015
1,725
1,911
1,775
163
2020
4,000
4,729
4,260
378
Part A, 38, (2004), 201-222.
2025
8,628
9,977
9,505
815
2030
16,261
18,123
18,164
1,537
Policy Assessment: Asia-Pacific Integrated Modeling,
(2003), Springer-Verlag.
4)
5)
S. Choo and P. L. Mokhtarian; What type of vehicle do
近久武美,福井博通,菱沼孝夫; 消費者の車両選好特
性モデルに基づく将来型自動車の普及分析,日本機械
学会論文集(B 編),69-677, (2003), 221-228.
6)
(195 万円)と計算され,その影響は普及後半に至るまで
長谷川貴彦,吉田好邦,松橋隆治; 消費者の選好を考
慮した燃料電池自動車の普及可能性評価, エネルギ
は大きくはなかった.
ー・資源 , 27-2, (2006), 46-52.
7)
7.結論と課題
F. M. Bass; A new product growth model for consumer
durables, Management Science, 15-1, (1969), 215-227.
本研究ではクリーンエネルギー自動車(CEV)を対象に,
8)
F. M. Bass, D. Jain and T. Krishnan; Modeling the
ロジスティック曲線モデル,コンジョイント分析,学習曲
marketing-mix influence in new-product diffusion, in
線モデルを統合した普及評価モデルを構築した.CEV のこ
V. Mahajan, E. Muller and Y. Wind eds., New Product
れまでの普及実績と類似製品の普及推移を元に普及係数を
Diffusion Models, (2000), Kluwer Academic Publishers.
設定し,コンジョイント分析で消費者選好を定量化してモ
9)
R. Dolan and A. Jeuland; Experience curves and dynamic
デルに統合した.初期価格の低下予測には学習曲線モデル
demand models: implications for optimal pricing strategies.
を組み入れた.
Journal of Marketing, 45, (1981), 52-62.
本稿のモデルの一つの課題として,これはロジスティッ
10) D. Horsky and L. Simon; Advertising and the diffusion of
ク曲線モデルそのものの課題であるが,普及係数の設定を
new products, Marketing Science, 2, (1983), 1-10.
いかにするかという問題がある.本稿のモデルでも基本的
11) 片平秀貴;マーケティング・サイエンス,(1987), 東京
には普及曲線は普及係数の値によって決定づけられ,消費
大学出版会.
者選好は曲線の傾きに変化を与えるという形である.類似
12) 日本エネルギー経済研究所編 ;2006 年版エネルギー
製品の普及係数を参照するにあたって,参照の仕方をさら
経済統計要覧, (2006), 135, 省エネルギーセンター.
に検討することが必要である.今後本稿のモデルを CEV 以
13) 自動車検査登録協力会;初年登録年別 自動車保有車両
外にも適用するとともに,本稿で前提とした旧製品か新製
数, (1967-2006).
品かの選択肢に加えて,新製品に複数の選択肢がある場合
14) 槌屋治紀,小林紀;学習曲線による燃料電池コストの
の評価も可能になるように評価モデルを拡張することを課
分析, エネルギー・資源 , 24-4, (2003), 57-64.
題としたい.
15) 自動車検査登録協力会;自検協統計 自動車保有車両数,
(2006).
16) 国立環境研究所 地球環境研究センター 温室効果ガス
インベントリオフィス; http://www-gio.nies.go.jp/about
ghg/nir/nir-j.html. (アクセス日 2007.3.1)
55
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