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地理情報システム(GIS)体制構築 コンサルティング

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地理情報システム(GIS)体制構築 コンサルティング
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技術レポート Technical Report
技術レポート
地理情報システム(GIS)体制構築
コンサルティング手法の開発
中村 秀至
要 約
2007 年 5 月 23 日、国民が安心して豊かに暮らせる空間情報社会の実現を期し、
それに向けた施策を総合的に推進することを目的として「地理空間情報活用推進基
本法」(以下、「基本法」)が成立した。本法では国・地方公共団体と民間とが協力
して大縮尺の地図情報を整備し、利活用を促進することが謳われているが、日常業
務で日々空間情報を生成し、活用している地方公共団体の力なくして効率的な空間
情報の整備・更新は困難といわざるを得ない。そうした期待がある一方、地方(都
道府県、市町村)の取り組みは必ずしも順調に進んでいるとはいい難い。こうした
状況を踏まえ、本研究では府県と市町村が協力して空間情報の整備と共用に取り組
んでいる事例を参考として、地方の特性に合った取り組み体制を作っていくための
検討方法を定式化した。取り組み体制作りは、地方公共団体の地理情報システム
(GIS)導入プロジェクトのスタートステップである「現状把握」よりさらに前の
段階であるが、この体制作りがうまくいけばプロジェクトは円滑に動き、ひいては
大縮尺空間情報の普及、関連ビジネスの活性化に寄与するものと考えられる。
目 次
1.手法開発の背景とねらい
2.望ましい推進体制構築のために
2.1 誰の仕事なのか
2.2 手法としての整理
2.3 検討手順
2.4 実証実験の提供
3.地方発の空間情報社会に向けて
付録.地理空間情報活用推進基本法の成立
地理情報システム(GIS)体制構築コンサルティング手法の開発
Technical Report
Development of the Consulting Technique
to Build up the Framework for the
Geographic Information System (GIS)
Hideshi Nakamura
Summary
With the intention of realizing a spatially enabled society in which citizens can
lead peaceful and affluent lives, and in order to promote measures integrally for
that purpose, the“Basic Law for the Advancement of Utilizing Geospatial Information”(hereinafter referred to as“the Basic Law”) came into effect on May 23,
2007. In this law it is advocated that the government / local municipal entities and
private sector cooperate to organize and promote the utilization of large-scale geospatial information, though it does have to be said that it is difficult to organize and
update geospatial information efficiently without the work of local public authorities that generate and make use of geospatial information daily as their routine
activities. While there is such an expectation, it cannot necessarily be said that the
efforts of the local public authorities (municipalities) are being advanced smoothly.
In consideration of such circumstances, in this research the study method was
formulated for the prefectural and municipal governments in cooperation to build
up the framework for the approach suited to the characteristics of the local public authorities, drawing upon the instances in which they improve and jointly use
geospatial information in collaboration. Although the creation of the framework for
the approach comes before the starting step for the“Recognition of the Current
State”in the project for the local municipal entities to introduce the Geographic
Information System (GIS), it is considered that the successful framework will allow
the project to operate smoothly, leading to the contribution to the dissemination of
large-scale geospatial information and revitalization of the related business.
Contents
1.Background and Aim of the Technique Development
2.To Build up a Desirable Framework for Promotion
2.1 Whose Job Is This?
2.2 Improvement as a Technique
2.3 Study Procedure
2.4 Provision of the Demonstration Experiment
3.Looking to a Geospatially Enabled Society Transmitted from Local Municipal
Entities
Appendix.Enactment of the Basic Law for the Advancement Utilizing Spatial
Information
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技術レポート Technical Report
1.手法開発の背景とねらい
昨年(2007 年)5 月、地理空間情報活用推進基本法(付録参照)が成立した。この法律は
空間情報を活用して国民が安心して豊かに暮らせる空間情報社会の実現を期し、それに向け
た施策を総合的に推進することを目的としている。では、誰が空間情報を整備するのか。
基本法では、国が主役となって空間情報の整備を推進するとしている。しかしながら、日
常業務において大縮尺の地図情報(空間情報の中でも根幹となるもの)との接点が最も多い
のは地方公共団体であり、その力を有効に活用していくことは、全国をカバーしかつ充実し
た空間情報を整備していくには不可欠である。
地方公共団体では道路、上下水道、都市計画、固定資産税などの業務で地理情報システム
(GIS)の導入が進んでおり、整備した地図情報を共有して、さらに幅広い業務で利活用し
ていこうという統合型 GIS も普及してきた(図 1 参照)。ところが、こうした動きが、財政
が厳しいなどの制約でペースダウンしているのが実情である。また、市町村間の取り組み格
差が大きく、全国をあまねくカバーする空間情報の整備という観点からは、甚だ心もとない
状況である。
図 1.統合型 GIS の普及状況(2006 年度)
都道府県
市町村
導入済み
15.9%
4.3%
1.7%
29.8%
0.6%
4.2%
2.7%
40.8%
42.6%
データ・システムとも
整備中
導入検討中
0.0%
10.6%
システムのみ整備中
調査中
2.1%
10.6%
データのみ整備中
34.1%
未検討
出所:特定非営利活動法人 国土空間データ基盤推進協議会ホームページ
こうした現状にあって、地方発の空間情報整備を推し進めていくには、市町村の地道な
GIS への取り組みと、それらを都道府県レベルで調整・集約する取り組みが、相互に補完し
あって進められることが重要である。
GIS で注目を集めてきた三重県、岐阜県、大阪府などは、いずれも府県と市町村が協力し
て県域で共有する空間情報を整備しようとして活動してきたもので、これらの先進的取り組
みでは推進の意志を具現化する体制が作られている。本検討は、有効な推進体制こそ地方の
活動を回す鍵と考え、地方の特性にあった推進体制を構築するための手法を確立しようとし
たものである。
適切な体制が構築され、図 2 に示すような地方のニーズと地方への期待に応えられるよう
な活動が回るようになれば、基本法のめざす空間情報社会の実現に近づくことができる。
地理情報システム(GIS)体制構築コンサルティング手法の開発
図2.地方への期待と地域のニーズ
地方への期待:基盤地図情報の整備・利用・更新の基本的なサイクルを確立
空間情報を取得・活用する業務
行政の
業務システム
行政の
業務システム
(空間情報が主役でない)
情報提供
更新情報
業務別空間情報
基盤地図情報
情報提供
地方のニーズ: 空間情報を上手に活用した
わかりやすく効率的な業務
システム
市民へのわかりやすい情報
提供
空間情報ビジネスの振興
作成:三菱総合研究所
民間企業の
業務システム
空間情報
ビジネス
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技術レポート Technical Report
2.望ましい推進体制構築のために
2.1 誰の仕事なのか
県と市町村が協力して空間データの整備、利活用に取り組んでいる事例に共通しているの
は、空間情報の共有に意義を感じ、強力に推進している個人が存在していることである。こ
れは、市町村の GIS についても同様で、先進的取り組みをしていると評判の自治体の多く
には、そうしたリーダーを見出すことができる。ここから学ぶことは、次の 2 点である。
①自分の仕事として、強力かつ粘り強く取り組むリーダーがいないと、空間データの共
有は進まない
②逆に、そうした個人に依存しない形の推進体制を構築することが課題である
このような問題認識から、主に県域統合あるいは県域共同で空間情報の整備・利活用を
推進する、すなわち統合型 GIS 推進のための望ましい組織体制を構築する方法を検討した。
次節以降に、その概要を紹介する。
2.2 手法としての整理
通常、地方公共団体(都道府県レベル)における統合型 GIS の推進手順は、図 3 に示す
ように、庁内の既存の取り組み、地図情報の棚卸し調査から始まる。このステップは、概ね
情報企画部門、情報政策部門が主導して実施されることが多い。本検討では、そこに最初の
問題点が潜んでいると考えた。すなわち、統合型 GIS に取り組むはじめの段階で、このプ
ロジェクトを自分が最後まで完遂するという意識を持ってスタートが切られていない、また、
将来関係してくる部署、機関が初めから参加していないことで、当事者意識を持ちにくい状
況を作ってしまっているということである。そこで、このスタートステージに入る前に関係
者を巻き込み、誰の仕事なのかを明らかにするようなステップを設け、そこで検討すること
をテンプレート化した。それが、本手法である。
図3.統合型 GIS の推進手順
既存GIS、データ等の調査
統合型GIS整備計画策定
共有空間データ整備
利活用システム開発
活用・普及促進
作成:三菱総合研究所
地理情報システム(GIS)体制構築コンサルティング手法の開発
2.3 検討手順
( 1 )手法の構成と範囲
本手法は図 4 に示す構成となっている。従来の統合型 GIS 推進の計画策定フェーズで調
査されてきた現状把握についても概略の調査を行うが、必ずしもデータの細かい仕様や管理・
運営方法を把握する必要はない。
望ましい推進体制を検討するために、まず人材、組織、データ、技術の 4 つの視点から、
リソースをチェックする。ここで集めた情報にもとづいて、望ましい推進体制を導く。その
参考情報を提供するのが、
「推進組織の選択肢」であり「分析 WS(ワークシート)」である。
本手法が提供する方法の特徴の一つが、実証実験の並行実施である。その目的は、住所の
ついた台帳情報を簡易に地図に載せて閲覧・検索できるような安価な GIS を提供し、地図
活用のリテラシー向上を図り、将来の検討や事業推進の環境を整えることにある。
図4.手法の構成
基盤地図情報整備・利活用体制構築コンサルティング
調査項目
人材
組織
データ
技術
推進組織の選択肢
分析WS
実証実験計画テンプレート
作成:三菱総合研究所
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技術レポート Technical Report
( 2 )基本情報の把握
まず、前述の 4 つの視点から、基本的な情報を収集する。項目は、表 1 に示す通りである。
表 1.調査項目
評価の軸
評価の視点
【人材に関すること】
・推進リーダーの存在
・トップのサポート
・技術力のあるスタッフ
【組織に関すること】
・既存組織
・部局間協力の文化
・県・市町村の連携
・公益企業の協力
【データに関すること】
【技術に関すること】
・既存データ
・既存システム(リソース / 制約)
・電子自治体共通基盤
・供給サイドの技術力
・利用者のリテラシー
調査項目
首長の支持
CIO、CIO 補佐の支持
実権リーダーの有無等
実権担当者の有無等
大学等のサポート
庁内組織
市町村が参加した研究会等
民間が参加した研究会等
推進母体になり得る協議会等
関連 NPO
庁内連携
市町村連携
その他制約条件(過去の失敗、財政、タイミング等)
既存デジタルデータ
既存ラスターデータ
共有データ
既存 GIS
既存インフラ
ベンダー技術力
職員リテラシー
CALS、電子納品
電子自治体対応
作成:三菱総合研究所
「人材に関すること」では、空間情報の共有化・利活用の推進をリードしていけるようなリー
ダー候補がいるか否かを把握する。担当者クラスは、必ずしも情報部門の職員である必要は
なく、地図活用や新しい情報技術の活用に前向きであることが重要である。また、管理職レ
ベルは、直接リーダーとして庁内を動かしてもらえる人材がいれば明快であるが、そこまで
の推進力でなくてもプロジェクトへの理解と支持を表明してくれる人材が重要である。以上
のことは「個人に依存しないこと」と矛盾することではない。プロジェクトに当事者意識を
持って取り組むリーダーと、次の世代の育成も含め、リーダーを支える組織的な対応があっ
てこそ、永続的な取り組みが可能になる。
「組織に関すること」では、庁内はもとより地域に目を広げて推進母体になり得る取り組
み、協力することでよりよい運営ができる可能性がある組織や活動を、幅広く把握する。ま
た、県としての情報化全体の取り組みからみた投資のタイミングや財政状況も把握する。さ
らに、過去に GIS への取り組みで大きな負荷が生じたり、動かないシステムを開発してしまっ
たなどの失敗のトラウマがあると、推進にあたって思わぬ制約になりかねない。そうした経
緯も把握しておくのが望ましい。
「データに関すること」では、既存の空間データ資産を把握する。これは、検討体制がで
きてから詳細に把握すべき項目であるが、体制を考える上でも、既にどのような空間情報が
どこで使われているかを把握することは必須である。そうしたデータや部署を抜きに、空間
データの共有プロジェクトは進められないからだ。ただし、本手法を適用して組織のあり方
地理情報システム(GIS)体制構築コンサルティング手法の開発
を検討する段階で、全庁を対象にかつ詳細な調査をかけることは、大きな労力と長い期間を
要して効率的でないため、次のステップの取り組みと考えている。
「技術に関すること」では、高度な GIS に関する技術を持っているかなどということでは
なく、電子自治体の進捗状況、職員の ICT(情報通信技術)リテラシー、地域の空間情報
関連企業の技術力などを確認する。
( 3 )強み/弱みの把握
把握した基本情報を、空間情報の共有、利活用の観点から整理し、強み/弱みを把握する。
強みを活かし、弱みを補う推進体制が求められる。表 2 は某地方公共団体の例である。調査
項目をそれぞれ評点し、視覚化することで、庁内の組織面では対応するポテンシャルが高い
ものの、リーダーとなる人材の面で何らかの補強が必要であることが浮かび上がっている。
表 2.強み/弱みのイメージ
強 み
項目
首長
CIO
実権リーダー
実権担当者
大学
庁内組織
市町村参加
民間参加
協議会
NPO
庁内連携
市町村連携
既存デジタル
既存ラスター
共有データ
既存 GIS
既存インフラ
ベンダー技術力
職員リテラシー
電子自治体
人材
組織
データ
技術
弱 み
評価
項目
3.0
5.0
人材
5.0
5.0
4.0
組織
5.0
3.0
データ
3.0
4.0
5.0
4.0
3.0
5.0
技術
首長
CIO
実権リーダー
実権担当者
大学
庁内組織
市町村参加
民間参加
協議会
NPO
庁内連携
市町村連携
既存デジタル
既存ラスター
共有データ
既存 GIS
既存インフラ
ベンダー技術力
職員リテラシー
電子自治体
評価
3.0
0.0
0.0
0.0
0.0
3.0
0.0
0.0
3.0
3.0
注:表中の評価欄に記入された数値は、調査結果から算定される 5.0 を満点とするスコア。
「強み」の表では、スコア 3.0 以上を活かすべき強みとして着色。
「弱み」の表では、スコア 3.0 以下を克
服すべき弱みとして着色。
作成:三菱総合研究所
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技術レポート Technical Report
( 4 )望ましい推進体制の検討
推進体制と言っても、計画検討段階から利活用開始後の運用段階まで、同じ組織形態で推
進できるわけではない。推進組織としては、表 3 に示すようなものが考えられる。
表3.推進体制の選択肢
組織形態
意味
庁内
研究会
県・市町村
県・市町村・民間
県・市町村
協議会
県・市町村・民間
公益法人
推進法人
LLP(有限責任事業組合)
株式会社
アウトソーシング
条件
通常、こうした取り組みが出発点
交流組織としての意義大
推進に向けた第一歩
必須ではない
必須ではない
公益追求。ただし新設は困難
自由度が高い。ビジネス追求志向。
明確なビジネス追求
当面、様子を見つつ、利用技術を蓄積
既存組織のリニューアル
主体性を持った参加者
安定株主としての出資者
作成:三菱総合研究所
図 5 は、表 3 に示した組織形態がプロジェクトの進捗に応じて進化するパターンを例示し
たもので、研究会的な活動から実際にデータの管理を行う組織化に至るまでのイメージを示
している。
図5.推進体制の発展イメージ
スタート
庁内研究会
2nd Step
県・市町村研究会
3rd Step
協議会
4th Step
県・市町村研究会
県・市町村協議会
協議会
(官民協議会)
官民協議会
推進法人準備会
推進法人
Goal
推進法人準備会
(県外)アウトソーシング
作成:三菱総合研究所
前段で把握した地域の強み/弱み、現在の取り組み状況等から地域の特性にあった体制を
考える上でのチェックポイントを、判断ツリーのイメージで示したのが図 6 である。この例
は、
庁内及び県・市町村の調整を行う組織作りを行う際のイメージである。電子自治体をキー
ワードとし、庁内と県・市町村間で既存の調整組織が存在する場合は、その組織を母体とし
た体制作りが有力な選択肢ではないかと考えている。
地理情報システム(GIS)体制構築コンサルティング手法の開発
図6.体制検討のチェックポイント(調整組織の場合のイメージ)
調整組織の立ち上げ
既存の組織
有
既存の組織の
機能拡充
電子自治体
推進組織
有
市町村連携で
活用できる組織
推進の核を中心に
県・市町村の連携
組織を新規立ち上げ
作成:三菱総合研究所
有
電子自治体推進組織
の機能を拡充するか、
部会を設ける
既存組織の機能を
活用した連携組織化
有
市町村連携で
活用できる組織
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技術レポート Technical Report
2.4 実証実験の提供
以上のような調査・検討結果を踏まえて推進体制を確立した後は、図 3 に示したオーソドッ
クスな推進手順を踏んで、データの整備、システム開発、運用に本格的に取り組むことにな
る。しかしながら、ここでもう一つ並行して実施する取り組みを提供する。
これまで述べてきた推進体制・組織の議論は、どちらかと言えば供給サイド、空間情報を
整備して提供する側に着目した検討である。供給サイドの議論だけで GIS のプロジェクト
を動かそうとすると、地図データの更新など維持・管理に手間がかかるわりに使われない
システムを作ってしまいがちである。そこで、本手法では、推進体制の構築と並行して GIS
利用の実証実験を提供する。空間情報の利用がサステナブルになるためには、利用者が育つ
ことが不可欠である。利用者がいれば空間情報の供給はストップできないし、利用者がまた
新たな空間情報の供給者ともなって、情報の共有や利活用の高度化が期待できる。
本手法で提供しているのは、図 7 に示すように台帳情報を地図上に表示したり、地図上に
簡易な図形を新たに書き込んだりするような初歩的な GIS の活用である。とは言え、土木
系など GIS のヘビーユーザーではない部署の、地図で場所を確認したい、あるいは地図上
に情報を書き込みたいという基本的なニーズには、十分応えられる仕組みである。この実証
実験をする意義は、統合型 GIS を実現するために、次の 3 点を整理しようとするものである。
①どのようなデータが活用できるのか
② GIS をどのように使ったらいいのか
③どのようなインフラが必要なのか
これらを明らかにする中で、GIS を利用したデータ管理の有効性が検証できる。
図7.実証実験システムでできることのイメージ
Excel
Excelのデータを別のテーブルで管理する。
集計・統計処理で利用可能
地図
主題データ
関連図書
属性情報
Excelのツールバー
に機能追加
Excelに記入された内容を
データベースに登録できる。
作成:三菱総合研究所
地理情報システム(GIS)体制構築コンサルティング手法の開発
3.地方発の空間情報社会に向けて
空間情報社会を支える位置の基準としての基盤地図情報(付録参照)を整備するという点
においては、国、特に国土地理院の役割が大きい。とは言え、国土地理院だけの力で全国津々
浦々の基盤地図情報を整備し、これを永続的に更新していくのは容易ではない。何と言って
も、日常業務の中で空間情報を作成し活用しているのは地方公共団体の行政の現場であり、
その活動成果を活かさない限り、全国津々浦々に行き渡り、地方レベルで活用できる空間的
精度を持った情報を維持していくことはできない。そういう意味で、空間情報社会が目標と
する姿を実現するには、地方公共団体が統合型 GIS を持続可能な仕組みとして確立するこ
とが鍵である。
三菱総合研究所では、これまでに地方公共団体の GIS 整備計画立案に係るコンサルティン
グ(刈谷市等)や、地方推進組織に係るコンサルティング(大阪府大縮尺空間データ共有化推
進協議会)を手がけてきた。本手法はそれらの経験を集大成し、とりわけ誰がリードし、誰
がそれを盛り立てるのかという点に絞って、テンプレート化したものである。本手法は、こ
れから体制作りを始める地方公共団体はもとより、既に取り組みをスタートしたものの思う
ように推進できていない団体に対しても、取り組み体制のレビューという観点で有用である。
図 8.空間情報社会に向けて
高度空間情報社会に向けて…
基盤情報の整備・更新
● 基盤空間情報の定義・品質管理
● 効率的な整備・更新の仕組み
−地域の取組み
−電子納品
● 過去の取組みとの整合
−国土空間データ基盤
−統合型GISの共通基盤データ
等
基盤情報に関わる
研究開発・人材育成
● 都市計画
● 公共施設の整備・管理
● 森林・農地などの管理
● 税務、登記、地籍調査
● 防災
● 緊急通報、弱者保護
● 全国に渡るシームレス
な提供
−全国的な流通機構
−地域の取組みとの
連携
等
行政
● 権利の明確化
● 個人情報保護・情報
セキュリティの確保
研究開発
● 電子納品、品質評価など
効率的な整備・更新・流通に
関する研究開発
● 個別利用、情報共有などでの
基盤空間情報の利用に関する
研究開発
● 利用状況の把握と
課金
等
人材育成
● 行政での空間情報の利用・共有
の推進などの教育・人材育成
基盤情報の利用
基盤情報
の流通
等
出所:東京大学空間情報科学研究センター資料
産業
市民
● ユビキタス・LBS
● 農業の近代化
● 漁業の安全操業
● ロジスティックス
● 車両走行支援
等
● コミュニティ活動
支援
−地域安全情報
−電子町内会
● ボランティア活動
支援
−環境情報
等
情報発信・情報受信へ
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技術レポート Technical Report
付録.地理空間情報活用推進基本法の成立
今から 15 ~ 20 年ほど前、情報技術が産業や生活の隅々に行き渡り、豊かで活力のある社
会が実現されるという、明るい情報化社会像が描かれていた。実際ブロードバンド・ネット
ワークが普及し、いつでもどこでも情報の海に飛び込めるような時代が来た。ところが、誰
もが容易にネットに参加できるようになったため、飛び交う情報が爆発的に増え、情報洪水
社会になってしまった。有用な情報を要領よく選び出す力がないと、普通に暮らすことさえ
おぼつかない時代になっているのかもしれない。
位置に紐付けして情報を扱うのは、有用な情報を要領よく選び出す方法の中で、最も期待
される方法の一つである。必要な情報は、場所と時間を持ったものである場合が多いからで
ある。カーナビゲーションシステムが、そうしたニーズに応える仕組みの典型例である。こ
のようにあふれる情報の中から、その場、その時に必要な情報が容易に利用できるような社
会が、空間情報社会と呼ばれるようになってきている。
位置に紐付けして情報を扱う空間情報社会においては、位置を特定する技術と特定された
位置を空間の中に表現する技術が、技術面で車の両輪となる。位置を特定する技術の代表は
カーナビでお馴染みとなった GPS(Global Positioning System)であり、空間を表現する技
術の代表がデジタル地図である。これら二つの技術を土台として、望まれる空間情報社会を
速やかに実現することをめざして基本法が成立した。
基本法は 2007 年 5 月、第 166 回通常国会において可決成立した。自民、公明の与党に加
え民主党も加わった 3 党の議員提案によるもので、空間情報社会への体制整備の重要性は政
治的立場を超えた共通認識であった。その理念は、次の 3 点に集約できる。
1) 我が国における基盤的な空間データを整備するため、総合的・体系的に施策を実施
し、それら関係する施策の相乗効果を発揮
2) 信頼性の高い衛星測位サービスを安定的に享受できる環境を確保
3) 防災対策の推進、行政運営の効率化・高度化、多様な事業の創出、民間事業者の技
術提案・創意工夫の活用、個人の権利利益侵害への配慮等
こうした理念を実現するため、次のような内容が規定されている。
1)
地理空間情報
*1
の活用の推進に関する施策全体として、政策研究、知識普及、人
材育成、行政における地理空間情報の活用、個人情報の保護を推進
2)
地理情報システムに係る施策として、基盤地図情報* 2 の整備や地籍や登記などの
行政事務での基盤地図情報の相互活用、国が保有する基盤地図情報等の原則無償提
供などに関する施策を推進
* 1
地理空間情報:次の1の情報または1及び2の情報からなる情報をいう。
1 空間上の特定の地点または区域の位置を示す情報(当該情報に係る時点に関する情報を含む。
)
2 1の情報に関連付けられた情報
* 2
基盤地図情報:地理空間情報のうち、電子地図上における地理空間情報の位置を定めるための基準と
なる測量の基準点、海岸線、公共施設の境界線、行政区画、その他の国土交通省令で定めるものの位
置情報(国土交通省令で定める基準に適合するものに限る。
)であって電磁的方式により記録されたもの
をいう。
地理情報システム(GIS)体制構築コンサルティング手法の開発
3) 衛星測位に係る施策として、GPS を運用しているアメリカ政府等の地球全体にわ
たるシステムの運営主体との連絡調整、衛星測位に係る研究開発・技術実証、利用
実証、その成果を踏まえた利用促進を推進
4) 以上の施策を総合的・計画的に推進し、新産業・新サービスの創出、安全安心、国
民生活の利便性向上、行政の効率化・高度化、弱者保護力の強化、国土の利用・整
備・保全といった効果を期待
基本法の成立を受け、まさに 2007 年度から、空間情報社会に向けての取り組みが加速さ
れたところである。
参考文献
[1]
柴崎亮介:
「地理空間情報活用推進基本法と空間情報社会の展望」
『JACIC 情報』87 号(2007/9)
.
[2]
村上広史:「地理空間情報活用推進基本法及び政府の取組」『地図中心』422 号(2007/11).
[3]
飯島昭憲:「岐阜県の大縮尺ハイブリッド地図」『地図中心』422 号(2007/11).
[4]
GIS 大縮尺空間データ官民共有化推進協議会:「GIS 官民協議会の取組」『第 5 回総会資料』
(2004/10)
.
[5]
GIS 大縮尺空間データ官民共有化推進協議会:「GIS 大縮尺空間データ官民共有化推進協議会」
をベースとした事業化調査報告『第 6 回総会資料』
(2005/3).
[6]
GIS 大縮尺空間データ官民共有化推進協議会:
「位置参照点システムの拡張」『第 7 回総会資料』
(2006/3)
.
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