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着陸料体系の視点から捉えた空港利用コンセプトに関する考察* A Study

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着陸料体系の視点から捉えた空港利用コンセプトに関する考察* A Study
着陸料体系の視点から捉えた空港利用コンセプトに関する考察 *
A Study on Airport Management Policy from a Viewpoint of Landing Charge *
石倉智樹 **,千田奈津子 ***
By Tomoki ISHIKURA **, Natsuko SENDA ***
読 み と る こと が で き る, 空 港 運 営の コ ン セ プト に
1.はじめに
ついて考察を行う.
空港の直面する競争環境は,地理的な差や規模
的 な 差 に よっ て 大 き く異 な る . 例え ば , 大 型機 利
2.着陸料体系の比較分析
用 が 中 心 とな っ て い る混 雑 空 港 と, 低 頻 度 のリ ー
ジ ョ ナ ル 路線 が 主 で ある 空 港 と では , 性 格 が異 な
る. 発着 回 数の 容量 が 逼迫 して い る混 雑空 港 では,
(1)主要空港における着陸料システム
一般に空港利用に対して課される料金は,
輸 送 効 率 を高 め る た めに 小 型 機 の混 入 を 抑 制さ れ
Landing Charge( 着 陸 料 ), Lighting Charge( 照 明
るこ とが 考 えら れる . 需要 の密 度 が薄 い空 港 では,
料 ), Parking Charge( 駐 機 料 ), Passenger Charge
低 需 要 で も運 航 を 可 能と す る よ うな 工 夫 が なさ れ
( 主 に 空 港施 設 使 用 料) な ど が 挙げ ら れ る .こ の
るであろう.
他に Noise Charge や Terminal Navigation Charge,
こうした,空港による運営のコンセプトは,空
Security Charge が課される場合がある.これらの
港 使 用 料 に表 れ る と 考え ら れ る .す な わ ち ,空 港
内 , Passenger Charge は , 旅 客 の ( タ ー ミ ナ ル 施
管 理 者 が 望む 利 用 形 態が 実 現 す るよ う に , シグ ナ
設 ) 利 用 に課 さ れ る 性質 の も の であ り , 航 空チ ケ
ルとしての料金体系が設定されうる.
ッ ト 料 金 にア ド オ ン され , 旅 客 がチ ケ ッ ト 購入 時
例えば,多くの空港において最大離陸重量
に直接支払う場合が多い.
( MTOW) を 着 陸 料 設定 の 基 準 とし て い る が, そ
本研究はこの中で着陸料に着目する.着陸料は
の 単 価 が 機材 サ イ ズ によ っ て 異 なる . 空 港 によ っ
滑 走 路 占 有に 対 し て 課さ れ る 料 金で あ り , エア ラ
て は , 大 型機 優 遇 の 料金 体 系 や 小型 機 優 遇 の料 金
イ ン か ら 直接 徴 収 さ れる . 着 陸 料の 課 金 方 法と し
体系 など , 使用 料設 定 のパ ター ン が異 なっ て いる.
ては,MTOW あたり単価を設定し機材サイズに応
空港の需要マネジメント方策として,運航規制
じ て 着 陸 料が 決 定 さ れる 体 系 が 一般 的 で あ るが ,
政 策 , 料 金体 系 に よ る経 済 的 政 策, こ れ ら の組 み
一 部 の 空 港で は , こ れと は 異 な る方 法 が 採 用さ れ
1)2)3)
.我
て い る . また , 航 空 機の 騒 音 レ ベル や , 着 陸が 行
が 国 の 空 港使 用 料 体 系は , 民 営 化空 港 の よ うな 一
わ れ る 時 間帯 に よ っ て着 陸 料 が 変動 す る シ ステ ム
部の 空港 を 除き ,概 ね 画一 的な 設 定と なっ て いる.
が採用されている場合もある.
合わせによる政策が主として用いられる
ま た , 需 要マ ネ ジ メ ント を 明 確 に目 的 と し た料 金
世界の主要空港において採用されている着陸料
政 策 は 採 用さ れ て い ない . し た がっ て , 混 雑空 港
体系の概要を表-1 に示す.ここでは対象空港とし
や 需 要 密 度の 薄 い 空 港な ど で は ,料 金 体 系 を検 討
て,ACI World Airport Traffic Report 4) における年間
す る こ と によ り , よ り効 率 的 な 利用 を 実 現 する こ
需要実績を基に,2003 年において国際航空旅客需
とができる可能性がある.
要に関して上位 20 位の空港を対象とした.
本研究は,経済的アプローチである料金政策に
着陸料設定が MTOW に対して線形関係の料金体
つ い て , 特に 着 陸 料 に着 目 し , 空港 毎 の 比 較分 析
系 と な っ てい る 空 港 が主 だ が , London の 3 空港
を 行 い , 世界 に お い て, い か な る料 金 政 策 が採 用
( Heathrow, Gatwick, Stansted) は , こ う し た 線 形
さ れ て い るか を 把 握 する . さ ら に, 料 金 設 定か ら
料金体系を採用していない.具体的には一定の
*キーワーズ:空港計画,着陸料,需要管理
**正員,博(情報科学),国土技術政策総合研究所
(横須賀市長瀬 3-1-1,TEL: 046-844-5032,
E-mail: [email protected])
***正員,独立行政法人港湾空港技術研究所
MTOW の範囲内において一律の料金が設定されて
いる.こうした固定料金体系の場合,MTOW が大
き く 座 席 数が 多 い 機 材ほ ど , 座 席数 あ た り の着 陸
料 負 担 が 軽減 さ れ る ため 機 材 規 模の 経 済 性 がは た
らき ,結 果 的に 大型 機 優遇 の料 金 体系 体系 と なる.
なお,これら 3 空港はいずれも BAA が管理する空
表-1 世界の主要空港における着陸料体系の概要
空港
最大離陸重量に対して
線形の料金体系
※備考
時間帯によって料金が異なる
※備考
London
Heathrow
Paris
Charles de
Gaulle
Frankfurt
Amsterdam
Schiphol
Hong Kong
London
Gatwick
Singapore
Changi
Tokyo
Narita
Bangkok
Seoul
Incheon
×
○
○
○
○
×
○
○
○
○
○
×
○
×
○
peak,
off-peak
○
off-peak
discount
×
×
○
×
×
○
○
×
○
peak,
off-peak
機材の騒音レベルにより
着陸料に差がある
※備考
同じ機材でも飛行区間(路線)
に応じて着陸料が異なる
夜間割増
夜間割増
○
○
○
○
×
○
○
×
×
×
×
×
×
×
international international
, domestic
, domestic
※備考
空港
×
貨物専用機
は夜間割引
Madrid
Dubai
○
○
最大離陸重量に対して
線形の料金体系
※備考
時間帯によって料金が異なる
×
×
※備考
機材の騒音レベルにより
×
着陸料に差がある
※備考
同じ機材でも飛行区間(路線)
○
に応じて着陸料が異なる
※備考
EU, non-EU
Manchester
Zurich
Copenhagen
London
Stansted
Munich
New York
JFK
Dublin
△
○
○
×
○
○
○
off-peark時
のみmax
charge設定
○
peak,
off-peak
×
×
×
○
○
○
22:00~6:00 15:00~20:00 stand,
は割増
追加料
off-peak
Brussels
△
max charge,
min charge
を設定
○
day, night
×
○
○
×
○
○
×
○
○
×
×
×
×
×
×
×
×
×
source: IATA Airport and Air Navigation Charges Manual (2004 年 12 月現在)
港であり,同一の経営主体の管理下にある.
に あ る コ ンセ プ ト が 大き く 異 な る. し か し ,経 済
時間帯により料金設定が変化する空港が数多く
学 的 な 意 味に お い て は, 混 雑 外 部性 に 対 す る課 金
見られるが,そのコンセプトは大きく 2 つのパタ
政 策 , あ るい は 騒 音 によ る 外 部 不経 済 へ の 課金 政
ー ン に 分 けら れ る . 一つ は , 空 港混 雑 の ピ ーク 時
策 と い う ,外 部 性 を 内部 化 す る ため の 手 段 とし て
と オ フ ピ ーク 時 に 料 金差 を 設 け て, ピ ー ク 時需 要
プラ イシ ン グが 用い ら れて いる 点 で共 通し て いる.
を コ ン ト ロー ル す る ため の ピ ー クロ ー ド プ ライ シ
また,一部の空港においては,路線(方面)別
ングの方法である.表-1 の中でこの手法を採用し
に着陸料が差別化されている.成田空港と
ている空港は,London Heathrow, London Gatwick,
Bangkok で は , 国 内 線と 国 際 線 での 料 金 差 が設 定
Singapore, Manchester, New York JFK, Dublin の各空
されている.Madrid では,EU 路線と非 EU 路線で
港である.
着 陸 料 が 異な る . し かし , 国 際 ・国 内 機 能 分担 等
もう一つのパターンは,夜間時に昼間よりも高
の ル ー ル が設 け ら れ てい る 場 合 には , プ ラ イシ ン
く 着 陸 料 が設 定 さ れ る方 法 で あ る. こ れ は 夜間 に
グ に よ る 市場 を 通 じ た需 要 者 差 別化 と は 異 なる こ
騒 音 を 発 生さ せ る こ とに 対 す る 課金 で あ り ,機 材
とに留意が必要である.
の 騒 音 レ ベル カ テ ゴ リー に よ っ ても 差 別 化 され る
場 合 が あ る . 表 -1 の 中 で は , Paris Charles de
(2)最大離陸重量と着陸料の関係
Gaulle, Amsterdam Schiphol, Munich, Brussels が夜間
前節では,MTOW と着陸料の関係について,線
割 増 料 金 を設 定 し て いる . ま た ,時 間 帯 に よる 料
形 体 系 で ある か に 着 目し て 比 較 を行 っ た . 実際 に
金 差 が 設 定さ れ て い ない 場 合 に おい て も , 航空 機
は,着陸料と MTOW の関係はより複雑であるため,
騒 音 レ ベ ルカ テ ゴ リ ー毎 に 着 陸 料が 差 別 化 され て
機 材 サ イ ズ毎 の 負 担 の差 を 把 握 する た め に は, さ
いる空港も存在する.
ら に 詳 細 に観 察 す る 必要 が あ る .本 節 で は ,い く
ピーク時とオフピーク時に料金差を設定するこ
つかの空港を対象により詳細に比較を行う.
と と , 夜 間( 一 般 に はオ フ ピ ー ク時 間 と 考 えら れ
図-1 から図-4 は,それぞれ,London Heathrow,
る ) に 騒 音対 策 と し て課 金 す る こと は , そ の背 景
Manchester, Frankfurt, 成 田 の 各 空 港 に お け る 着 陸
London Heathrow
4000
CRJ200
3500
A320
2500
CRJ200
B747-400
B767-200
2000
A340-300
1500
peak
A320
2500
B767-200
1500
A340-300
500
500
off-peak
0
off-peak
0
0
0
50 100 150 200 250 300 350 400
100
図-1 Heathrow の着陸料
B767-200
2000
1500
500
0
0
400
B767-200
1500
500
200
300
MTOW(ton)
A340-300
A320
2000
1000
100
B747-400
B737-500
2500
1000
0
CRJ200
3000
A340-300
着陸料(US$)
着陸料(US$)
3500
B747-400
A320
2500
400
成田
4000
CRJ200
3000
300
図-2 Manchester の着陸料
Frankfurt
B737-500
200
MTOW(ton)
MTOW(ton)
3500
B747-400
2000
1000
1000
4000
peak
B737-500
3000
着陸料(US$)
着陸料(US$)
3500
B737-500
3000
Manchester
4000
0
100
200
300
400
MTOW(ton)
図-4 成田の着陸料
図-3 Frankfurt の着陸料
料について,MTOW との関係を示したグラフであ
が就航しやすい状況である.その一方で,off-peak
る . 参 考 の た め , 図 中 に 左 側 よ り ,
時には一定以上の MTOW について固定料金制とな
CRJ200(21.5ton),
って おり , 大型 機の 着 陸料 負担 が 軽減 され て いる.
B737-500(52.2ton),
B767-200(136.1ton),
A320(74ton),
A340-300(260ton),
B747-
400(394ton)の MTOW を加えた.
peak 時については,MTOW の区間毎に単位料金が
異なっている.
固定型の着陸料を採用する London Heathrow 空
Frankfurt 空 港 と 成 田 空 港 で は , 一 定 以 上 の
港では,CRJ200 のような小型機にとっては不利な
MTOW に対して線形着陸料体系となる,最も標準
料 金 体 系 であ り , 小 型機 の 乗 り 入れ は 排 除 され や
的 な 課 金 体系 を 用 い てい る . こ のよ う な ( ほぼ )
すい.一方で,B747-400 に代表される大型機につ
線 形 の 料 金体 系 で は ,最 低 料 金 の範 囲 に あ る小 型
いて,MTOW あたり単価が小さい Frankfurt 空港よ
機のみ負担が大きいが,比例的料金となる MTOW
りも,着陸料が安くなる.
の 機 材 に つい て は , 特定 の 大 き さの 機 材 に 対し て
Manchester 空港は,一定の MTOW 以下では線形
着陸料体系となっており,CRJ200 のような小型機
有利になることはない.
図中のグラフにおける傾きが,MTOW あたり着
陸料単価となるが,成田は Frankfurt と比べて傾き
除する手法として有効な体系である.
大 き く な って い る . 同一 形 態 の 料金 体 系 で あっ て
も,Frankfurt は機材が大型化することによる着陸
3.空港利用コンセプトの傾向
料 負 担 の 増加 割 合 は 小さ い が , 成田 空 港 で はそ れ
着陸量政策は市場を通じて機材の乗り入れイン
が比較的大きい.
セ ン テ ィ ブに 影 響 を 及ぼ す た め ,課 金 体 系 に, 空
港 が い か なる 機 材 利 用コ ン セ プ トを 意 図 し てい る
(3)peak と off-peak の着陸料差体系
表-1 では,ピークロードプライシング政策を採
か が シ グ ナル と し て あら わ れ る .本 研 究 の 対象 と
用 す る 空 港が 幾 つ か 存在 す る こ とを 示 し た .実 務
し た 大 規 模空 港 で は ,英 国 の 空 港で は , ピ ーク 時
的には peak 時と off-peak 時にどのように料金差を
需 要 制 御 を意 図 し た 着陸 料 政 策 を採 用 す る 事例 が
設 定 す る かが 重 要 な 課題 と な る .事 実 と し て, ピ
多 く , 欧 州大 陸 系 空 港で は , 夜 間騒 音 対 策 とし て
ー ク ロ ー ドプ ラ イ シ ング に お け る料 金 体 系 は, こ
の 着 陸 料 体系 を 採 用 する 事 例 が 多い と い う 傾向 が
れを採用する空港の間でも異なる.peak 時と off-
把握できる.
peak 時の着陸料の差について,MTOW との関係を
4.おわりに
図-5 に示す.
本研究は,着陸料システムに着目して,空港間
時間帯による料金差(US$)
2500
の 比 較 分 析を 行 っ た .着 陸 料 設 定は , 市 場 を通 じ
Manchester
2000
て 乗 り 入 れ機 材 を 制 御す る 手 段 とな る が , 特に 欧
州 で は 実 際に ピ ー ク ロー ド プ ラ イシ ン グ 等 によ り
Dublin
1500
需 要 管 理 政策 と し て 採用 さ れ て いる . こ う した 事
London Gatwic
1000
例 は , 我 が国 の 空 港 にお い て も ,容 量 制 約 や騒 音
Singapore
London Heathrow
New York JFK
500
問 題 に 対 する 需 要 管 理政 策 と し て参 考 に な ると 考
えられる.
0
0
100
200
MTOW(ton)
300
参考文献
400
1) De Neufville, R. and Odoni, A.: Airport Systems,
Planning Design and Management, McGraw-Hill, 2003
図-5 peak と off-peak の料金差
2) Wells, A. T. and Young, S. B.: Airport Planning &
Management, 5th Edition, McGraw-Hill, 2003
London Heathrow, London Gatwick, New York JFK
では,MTOW の大きさに対して peak 対 off-peak の
料 金 差 が 変化 し な い ,定 額 加 算 型の 料 金 体 系を 採
用している.したがって,大型機ほど peak 時にお
ける追加的な着陸料負担が軽くなるため,off-peak
へ シ フ ト する イ ン セ ンテ ィ ブ が 小さ い . し たが っ
て,これらの空港においては,小型の機材ほど
peak 時利用を排除するような料金システムになっ
て い る と 解 釈 す る こ と が で き る . 特 に London
Heathrow では,MTOW が小さな機材について料金
差が大きいため,この特性がより顕著である.
一方,Manchester, Dublin, Singapore の各空港は,
peak 対 off-peak の着陸料差が MTOW に応じて大き
くなる,すなわち MTOW あたり着陸料単価に差を
つ け る シ ステ ム を 採 用し て い る .こ れ ら の 空港 で
は,大型機ほど peak 時に加算される着陸料が大き
くなるため,peak 時間帯から大型機乗り入れを排
3) Caves, R.E. and Gosling, G. D.: Strategic Airport
Planning, Pergamon, 1999
4) Airport Council International: ACI World Airport Traffic
Report 2003, 2003
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