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テクニカルレポート - 日立化成株式会社

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テクニカルレポート - 日立化成株式会社
第
45号
2005. 7
テクニカルレポート
Hitachi Chemical Technical Report
ISSN 0288-8793
■半導体用ダイボンディングフィルム HIATTACH DF
ICチップとリードフレームなどの支持基材との接合に用
いるダイボンディング材は,半導体パッケージの高性能化,
高機能化,および小型・薄型化を実現するためのキーテク
ノロジーとなっており,その重要性とマーケットは今後も
ますます拡大していくことが予想される。当社が開発した
フィルム状の新規なダイボンディング材は,従来のペース
ト状ダイボンディング材が抱えていたパッケージの製造歩
留まりおよび信頼性を飛躍的に向上させ,HIATTACH(ハ
イアタッチ)DFシリーズとして販売されている。
ドメイン
エポキシ樹脂成分の網目鎖
PI-PSX成分のポリマー鎖
(ポリシロキサン成分と他の共重合成分)
DFシリーズでは,主成分であ
る熱可塑性ポリイミドの共重合
組成によって,系のモルフォロ
ジーが変化するため,硬化物の
レオロジー特性を制御できる。
詳細は P.11「エポキシ樹脂含有
ポリイミド系コンポジットフィ
ルムの相構造とレオロジー挙動」
をご参照ください。
テクニカルレポート
第 45
号
2005年 7月
巻頭言
5
わたしの研究の極意
山口 由岐夫
論 文
7
リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂
真下 清孝・鈴木 健司・福地 巌・伊藤 敏彦・西村 伸
エポキシ樹脂含有ポリイミド系コンポジットフィルムの相構造とレオロジー挙動
11
増子 崇・武田 信司・長谷川 雄二
ポリエチレン系分解性樹脂デグラレックスの微生物分解性
17
宮田 裕幸・太田 伸一・藪下 諭
COG用低温接続異方導電フィルム アニソルムAC-8408
23
富坂 克彦・竹田津 潤・廣澤 幸寿・竹村 賢三
27
FPD用防湿絶縁塗料 タッフィー
杉下 拓也・鈴木 雅博・志賀 智・進藤 尋佳・木村 昌宏
31
環境対応高耐熱基板材料 MCL-E-679FG
宮武 正人・村井 曜・福田 富男・島岡 伸治
36∼38
製品紹介
環境対応高周波多層材料 MCL-EX-77G
MCL-LZ-71G
高耐熱多層用材料 MCL-E-679F(J)
粘着テープ用背面処理剤 テスファインシリーズ
分解性ラップ フィルム エレージュ
3
Contents
Commentary
Yukio Yamaguchi
5
Anode Binder Resin for Lithium Ion Batteries
Kiyotaka Mashita・Kenji Suzuki・Iwao Fukuchi・Toshihiko Itho・Shin Nishimura
7
Morphological and Rheological Behavior of Composite Films Based on Polyimide/Epoxy Blend Resin
Takashi Masuko・Shinji Takeda・Yuji Hasegawa
11
Microbial Degradability of Degradable Resin Degralex based on Polyethylene
Hiroyuki Miyata・Shinichi Ohta・Satoshi Yabushita
17
Low-Temperature-Curable Anisotropic Conductive Film ANISOLM AC-8408 for COG Interconnection
Katsuhiko Tomisaka・Jun Taketatsu・Yukihisa Hirosawa・Kenzo Takemura
23
Conformal Coating Material TUFFY for FPD
Takuya Sugishita・Masahiro Suzuki・Satoshi Shiga・Hiroka Shindou・Masahiro Kimura
27
High Heat Resistance Substrate Material MCL-E-679FG for Environmentally-Friendly Printed Wiring Board
Masato Miyatake・Hikari Murai・Tomio Fukuda・Shinji Shimaoka
31
Products Guide
36∼38
Licensing Business ──────────────────────────────────────────────── 50
4
巻 頭 言
わたしの研究の極意
研究らしきものに初めて手を染めるのは,やはり卒業研究でしょうか。自分
の研究スタイルが身につき始めたのは30才位の気がします。この頃から,研
東京大学大学院工学系研究科教授
究で飯を食っていける自信らしきものがつき始めました。会社では専門の異
なる人と一緒に仕事ができ,自分の専門性を意識する機会が多く,しかも課
題解決型が多いため,アプローチの仕方や考え方など参考になることが色々
とあり,常に前を向いて何かを得ようと頑張っていた。しかし,自分の専門性
といっても深いわけでなく,
「あせり」の気持ちがあり,自分を鍛えたいという
山口 由岐夫(やまぐち ゆきお)Yukio Yamaguchi
思いが常にありました。学生時代にしっかりと勉強しなかったつけがまわっ
略歴:
1975年 東京大学大学院化学工学専攻修士
修了
1975年 三菱化成
(現:三菱化学)
入社
1981年 MITのDept. of Chemical Engineering
留学
1983年 三菱化学非平衡領域研究室室長,
計算科学研究所所長,材料工学研
究所所長等を歴任
2000年 東京大学大学院 教授
2005年 現職
ていたのでしょう。
著書:
「ナノテクノロジー用語集」など
30才前に研究留学を薦めてくれる上司があり,真剣に考え,まずMITに
決めました。次に,分野として「石炭のガス化」を選びました。そして,
この分野の第一人者であるJack Howard教授にレターを書いて,国井大蔵
先生に推薦状をもらいに行きました。しっかりと説教されました。これま
で,ガス化を研究したこともなく,しかも推薦状を書いてくれなど,日本
と違って,推薦状を書くことは簡単ではないと言われました。そこを粘っ
て,何とか書いてもらいました。
夏の暑い日,ボストンに着きました。研究留学の肩書きはvisiting scientistで,
Howard教授に具体的な研究テーマの話をしました。燃焼の際に排出される
「粒子状汚染物質」の低減に関するテーマで,ポスドクの指導下で実験をする
ということでした。ガス化のテーマは終わりに近いということでした。
そもそも,これまでガス化の研究をしたこともなく,自分の甘さを痛感し,研
究留学をやめようと決意しました。これからが大変で,不安材料が一杯の状
況の中で,GREを受け学生になる準備をしました。会社の総研所長には事後
承諾することにし,Howard教授に真摯に話をしました。
最終的に,大学院学生になり,コースワークをしつつ,全く新しいテーマで
研究を開始しました。それは,
「Multiple Buoyancy-driven Flows in a Vertical
Cylinder Heated from Below」
という熱対流における多解性を数値的に解くも
のでした。徹底的に非線形数値モデルを勉強しました。この時のsupervisor
はRobert Brown教授で現在MITの学長です。当時は新進気鋭のassistant
professorでした。毎週1時間,議論しました。これは結構タフで,毎週進捗を
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
5
問われているわけです。でも,このおかげで研究の厳しさを学んだ気がし
ます。
この後の研究者そして研究マネージャーとして進んでいくための自己形
成の道程は,30才過ぎのこの時期がポイントだったと思います。かくあり
たいという姿と現実の乖離からくる,居心地の悪い「あせり」がこの後も
続きますが,ふとしたことで出会った言葉が,「あせり」を「学び」に変
えてくれたと思います。それは,今は亡き英文学者の中野好夫(シェクス
ピア翻訳)の翻訳の極意に関するものです。
難しいことは,解りやすく
解りやすいことは,面白く
面白いことは,深く
研究の極意も同じではないか,面白く,しかも深く追求していないから,
「あせり」が生まれるのであって,研究を職業に選んだのだから,思い存
分やれるだけやってみよう。これまでは,「解りやすいことを難しく」言
っていた自分は本当のプロではない。少しずつ変えよう。どんなテーマに
も潜む本質(メカニズム)を把握しよう。面白くない,身が入らないのは
テーマが悪いのではなく,自分の取組み方が浅いからだ。これから成長し
始めた。
現場のトラブルから始まり,さまざまな開発研究,さらに探索研究と
色々な分野を渡り歩いた結果,「非平衡相転移」の概念化にたどりついた
のは40才のころでした。モード論といってもいいかと思いますが,平衡か
らはるかはなれた領域で起きる構造形成の学理に興味を持ちました。なぜ
突然「転移」するのか,なぜ「空間の不均一化」が起きるのか,なぜ「振
動」が起きるのか。この当時,よく議論できた相手はボストン大学の
H.E.Stanley教授でした。彼は若くして,「Phase Transitions and Critical
Phenomena」を書きました。まさに,「臨界現象」は私の研究者(求道者)
としての始まりでした。
時は移り,大学で研究と教育を行う身として,学生さんに,「知識の量」
ではなく,「知識のネットワーク」を強調しています。しかも,just in
time に使えない知識は無きに等しいと。現在,「材料ナノテクノロジーの
知識の構造化」プロジェクトのリーダをしています。小宮山宏教授(東大
総長)がさまざまな分野で知識を構造化し,さらに統合化することにより,
「知の社会」が来る,と言っております。産業も,それを支える科学技術
も,「知の構造化」が必要でしょう。各人各様の構造化の手法があるでし
ょう。そのため,私的な研究の極意を皆様に贈り,皆様のさらなる活躍を
期待し,巻頭の辞にかえさせていただきます。
6
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
U.D.C.
621.315.616:678.6.029.4:546.34-71:621.352.035.2
リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂
Anode Binder Resin for Lithium Ion Batteries
真下清孝*
Kiyotaka Mashita
伊藤敏彦**
鈴木健司*
Toshihiko Itho
福地 巌*
Kenji Suzuki
西村 伸***
Iwao Fukuchi
Shin Nishimura
モバイル機器高性能化に伴ない,使用するリチウムイオン電池の高出力,高エネル
ギー密度化が求められており1),今後は電気自動車用への展開も期待されている2)。そ
のような中で,バインダ樹脂も電池に用いられる材料の一つとして特性の向上が望ま
れている。
当社では,電池の高性能化に対応するため,耐電解液膨潤性と接着性に優れた新規
負極用バインダ樹脂を開発した。開発材は,少量でも比表面積の大きい高性能黒鉛系
負極材のバインダ樹脂として十分に機能し,電極を高密度化しても高い容量を維持で
きることから,電池の高容量化に有効である。
Lithium ion batteries have been increasingly requested to have higher power and
energy density to be used as the power sources of higher performance mobile tools and
further as the power sources of hybrid electric vehicles.
The binder resin to be used in such higher performance batteries is also required to
improve its performance.
To meet such demand we have developed a new type of anode binder resin having
lower swelling and higher adhesive properties.
A small amount of the new binder resin can afford good electrode properties even
when the specific surface area of the active materials used is large. As it can maintain
high capacity even with higher electrode density, the new binder resin will be able to
improve the capacity of lithium ion batteries.
バインダ樹脂の特性について報告する。
〔1〕 緒 言
リチウムイオン電池は,ニッケルカドミウム電池やニッケ
〔2〕 耐電解液膨潤性
ル水素電池と比較して,体積エネルギー密度と重量エネルギ
リチウムイオン電池は,正極活物質であるリチウム複合酸
ー密度が大きく,小型軽量化が可能である。また,高電圧が
化物と負極活物質である炭素材の間を非水系電解液を介して
得られることから電池の使用本数を少なくすることができ
リチウムイオンが移動して,充放電を繰り返すことによって
る。リチウムイオン電池は,使用されるモバイル機器等の高
二次電池として機能する(図1)5)6)。バインダ樹脂の役割は,
性能化の要求からさらなる高エネルギー密度化,急速充放電
特性の向上が求められている。
当社ではこの要求にこたえるため,高性能な塊状人造黒鉛
負極材(MAG)を開発し上市している。一方で負極用バイン
活物質
集電体
(リチウム複合酸化物)
(アルミ箔)
充電時
ダ樹脂としては,有機溶剤系のポリフッ化ビニリデン
正極
(PVDF)あるいは水分散系のスチレン-ブタジエンゴム(SBR)
が使用されている。有機溶剤系のバインダ樹脂であるPVDF
e−
は,接着性に劣るために,活物質に対して使用量を多くする
電解液
Li
能黒鉛系負極材の特性を十分に引き出せないという問題があ
+
放電時 活物質
(炭素材)
膨潤による電池特性の低下が生じる3)4)。
ンダ樹脂を開発した。本報では,樹脂開発の経緯と開発した
負極バインダ樹脂
電解液中での結着
活物質 ― 活物質
or
活物質 ― 集電体
負極
ちらのバインダ樹脂も耐電解液膨潤性が不十分で,電解液の
密度化しても高い容量を維持できる新規な溶剤系負極用バイ
+
e−
e−
(CMC)を併用する必要がある等の問題点がある。また,ど
検討を進め,高耐電解液膨潤性と高接着性を有し,電極を高
Li
充電時 放電時
る。また水分散SBRは,わずかな使用量の違いで電池特性が
当社では,耐電解液膨潤性に優れた負極用バインダ樹脂の
セパレータ
e−
必要があり,当社のMAGを代表とする比表面積の大きい高性
変化したり,増粘剤としてカルボキシメチルセルロース
正極バインダ樹脂
集電体
(銅箔)
図1 リチウムイオン電池の構造とバインダ樹脂の役割 バインダ樹
脂は活物質同士および活物質と集電体を結着して,導電ネットワークを形成する。
Fig. 1 Structure of a lithium ion battery and the function of binder resin
Binder resin binds an active material to the other active material or the
current collectors to form a conductive network.
*
当社 機能性材料研究所 **当社 化成品事業部 ***株式会社 日立製作所 日立研究所
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
7
活物質同士あるいは活物質と集電体を結着させ,導電ネット
を溶剤のSP値より低い領域,あるいは高い領域にずらすこと
ワークを形成してその構造を維持することにある。
により電解液に対する膨潤度を下げることが可能となる。
リチウムイオン電池用の電解液には,極性が大きく溶解力
樹脂の電解液膨潤度と電池特性の関係を図4に示す。電解
の高いカーボネート系有機溶剤が使用される。バインダ樹脂
液による過度の膨潤が電池特性低下を引き起こすことがわか
は,この電解液に対して溶解や過度の膨潤を引き起こさない
る。当社では,特定の高極性基を導入し高SP値化した樹脂系
必要がある 7)。バインダ樹脂が過度に膨潤すると,活物質同
を用いることで,優れた耐電解液膨潤性を達成した。開発材
士,あるいは活物質と集電体間の接触不良が生じ,導電ネッ
と現在使用されているバインダ樹脂の電解液膨潤度の比較を
トワークが崩壊して電池容量や出力の低下が起こる(図2)
。
表1に示す。開発材は,他社材に比べて膨潤度が1桁小さい。
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート
(DMC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1/1(体積比)
〔3〕 活物質被覆性
の混合溶媒に,電解質としてLiPF6を1mol/L溶解した電解液を
耐電解液膨潤性に優れる樹脂系であっても,負極用バイン
用いた場合の,各種樹脂と電解液に対する膨潤度の関係を図
ダ樹脂として使用した場合に電極の内部抵抗が高くなる場合
3に示す。溶解度パラメータ(以下SP値と表記する)がDMC
がある。バインダ樹脂が電極の内部抵抗を増大させるのは主
やDECに近い樹脂の膨潤度が大きくなっている。樹脂のSP値
に樹脂による活物質表面の被覆によると考えられる 8)。その
電解液膨潤度:小
電解液膨潤度:大
電解液
e−
100
e−
90
50℃,50サイクル後
活物質
80
集電体
導電ネットワーク保持
導電ネットワーク崩壊
充放電が阻害されない。
充放電が阻害される。
放電容量維持率(%)
バインダ
70
60
50
40
30
20
図2 バインダ樹脂の膨潤による導電ネットワークの崩壊 バインダ
樹脂が電解液で膨潤すると導電ネットワークが崩壊し,充放電が阻害される。
10
Fig. 2 Disruption of a conductive network by the swelling of binder resin
Swelling of the binder resin by electrolytic solution causes disruption of a
conductive network to impede charging and discharging.
0
10
100
1,000
負極バインダ樹脂の電解液膨潤度(%:50℃,24 h)
図4 負極バインダ樹脂の電解液膨潤度と50サイクル後の放電容量
の関係 バインダ樹脂の過度な膨潤により,電池の放電容量が低下する。
電解液膨潤度(%:50℃,
24 h)
溶解領域
Fig. 4 Relationship between the degree of swelling of the binder resin and the
residual discharge capacity of a battery after 50 cycles of discharge
Excessive swelling of the binder resin will lead to the degrease in discharge
capacity.
100
表1 各種バインダ樹脂の電解液に対する膨潤度 開発材は優れた耐電
解液膨潤性を示す。
Table 1 Degree of swelling of several binder resins by electrolyte solution
The newly developed binder resin showed far better one order of magnitude
resistance to the swelling by electrolyte solution.
10
低膨潤域
低SP値樹脂
1
NMP溶剤系
高SP値樹脂
バインダ樹脂
15
電解液溶媒
EC
PVDF
SBR/CMC=
2/1
(質量比)
室温
2
18
13
50℃
2
24
19
フィルムの電解液
膨潤度(%)
1/2
溶解度パラメータ(MJ/m3)
図3 溶解度パラメータ(SP値)と電解液膨潤度の関係 電解液溶媒
に近いSP値を持つ樹脂は電解液膨潤度が大きくなる。
Fig. 3 Relationship between the solubility parameter of electrolytic solution
and the degree of swelling of the binder resin
Degree of swelling increases when the solubility parameters of both binder
resin and solvent are near.
8
開発材
25
DEC DMC
水系
フィルム作製条件:80℃熱板上/1 h+120℃真空中/5 h
電解液:1M-LiPF6、EC/DMC/DEC=1/1/1(体積比)
電解液浸漬時間:24 h
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
被覆が起こる過程としては,図5に示すように,
(1)合剤スラリー
ラス基板上に電極合剤層を形成・乾燥した後,電解液を滴下
調整時の樹脂による活物質の被覆,
(2)電極乾燥時の樹脂溶融
して電極合剤上の液滴残存量を測定した(電極合剤のプレス
に伴う活物質の被覆,
(3)電極乾燥時の合剤層表面への樹脂の
なし)
。開発材を用いた電極合剤層は,PVDFやSBRを用いた
偏析などがある。
(1)では樹脂の極性基の種類や量,主鎖への
場合よりも電解液の浸透が早く,窒素吸着可能な表面積も大
結合の様式,
(2)
では樹脂の融点,
(3)
では樹脂の分子量,樹脂
きいので(図8)
,活物質が表面に露出している割合が高い
とスラリー溶媒との親和性などが大きく関わっている。開発材
と推定する。すなわち,開発材による活物質表面の被覆割合
はこれらを考慮に入れて樹脂設計した。
は他のバインダ樹脂よりも低く,活物質の持つ性能を十分に
図6には内部抵抗評価の一例として行った,単極試験(負極
材は比表面積2.1×103 m2/kgの球状黒鉛)
による直流抵抗
(DCR)
の評価結果を示す。放電直後の電圧変化が単極セルのDCRと
想定できるので,グラフの傾きがDCRの大きさと見なせる。開
引き出せると推察される。
〔4〕 接着性
溶剤系バインダ樹脂であるPVDFは接着性が乏しいため,
発材を使用した電極のDCRは従来材(PVDF)
のものと比べて小
比表面積の比較的小さな活物質には適用可能であるが,当社
さく,電池の出力を向上できることがわかった。
のMAGに代表される大きな比表面積を有する高性能な炭素材
活物質表面のバインダ樹脂による被覆の様子を直接確認す
に対しては添加量を大きくする必要があり,活物質が持つ特
ることは困難であるが,被覆性の評価として,黒鉛負極材
性が十分に発現しない場合がある。これに対して,開発材は
(比表面積4.3×103 m2/kg,当社MAG)を用いて電極合剤層へ
接着性付与基の導入が容易な樹脂設計となっているため,接
の電解液の浸透性の測定,および電極合剤層中の活物質の比
着力を高めることが可能である。このため,比表面積の大き
表面積測定を行った結果を図7,図8に示す。図7では,ガ
な炭素材に対しても少量で電極作製が可能となっている。
80
活物質に対する吸着性
負極スラリー調整工程
開発材(2.5 %)
70
PVDF(5.5 %)
SBR/CMC
(1.25/1.25 %)
未吸着分
吸着分
溶融被覆性
塗布・乾燥製膜工程
膜厚方向への偏在
(表面偏析)
合剤層
残液率(vol%)
60
50
活物質 MAG
40
30
20
10
0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
着液後の時間(s)
図5 バインダ樹脂が活物質を被覆する過程 主として次の3つの過程
図7 電解液浸透性の評価 バインダ樹脂として開発材を用いた電極は電
が考えられる。
解液が浸透しやすい。
(1)負極スラリー調整時の吸着、
(2)電極乾燥時の溶融被覆、
(3)電極乾燥時の樹脂の偏析
Fig. 7 Evaluation of the permeability of electrolyte solution into electrode
Electrode prepared with our new binder resin has the highest permeability.
Fig. 5 Timing and mechanism for the binder resin to cover active materials
The following must be the three main :
(1) adsorption during the preparation of anode slurry, (2) melt adhesion during
drying, and (3) segregation during drying.
開発材
PVDF:5 %(6.1 vol%)
開発材:3 %(5.6 vol%)
活物質 球状黒鉛
対極:金属リチウム
0
10
比表面積(×103 m2/kg)
放電 1s 後の電圧変化ΔV(V)
5
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
3
2
1
放電:1.13∼22.65 mA/cm2CC, 1 min
0
0.6
40
50
SBR/CMC
4
充電:CC 0.28 mA/cm2
CV 0 V, 0.01 mA/cm2カットオフ
20
30
放電電流(mA)
PVDF
電極作製後,
合剤層をかきとり測定
活物質 MAG
活物質のみの比表面積=4.3×103 m2/kg
0.8
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
電極合剤密度(×103 kg/m3)
図6 直流抵抗(DCR)評価 開発材を用いた電極のDCRは従来材と比較し
図8 各種電極合剤層のBET比表面積評価 開発材を用いた電極合剤の
て小さい。
比表面積は従来材を用いた場合に比べて大きい。
Fig. 6 Evaluation of direct current resistance(DCR)
The electrode with our new binder resin has smaller DCR than that with the
cnventional binder resin(PVDF).
Fig. 8 Evaluation of the specific surface area of various electrodes
The electrode with our new binder resin has a larger specific surface area
than those with the conventional binder resins.
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
9
図9には接着性の比較を示す。当社のMAGを用いて厚さの
異なる電極を用意し,プレス圧力を除々に上げながらそれぞれ
の電極をプレスして,合剤層が集電体から剥がれ始めるときの
開発材:
d=1.51×103 kg/m3
電極合剤密度を測定した。図9では合剤塗布量で表現したが,
開発材:
d=1.80×103 kg/m3
SBR/CMC:d=1.53×103 kg/m3
合 剤 層 の 厚 さとの 関 連 から 接 着 性 を 評 価した 。開 発 材 は ,
SBR/CMC:d=1.81×103 kg/m3
PVDFに比べて添加量が少ないにも関わらず高電極密度まで剥
がれが起きないので,接着性が大幅に向上していることがわか
った。
100
〔5〕 高密度電極での放電負荷特性
80
放電容量維持率(%)
リチウムイオン電池のさらなる高容量化のためには,電極
の高密度化が必要である。しかし,一般に電極を高密度化す
ると,電池性能が低下する傾向にあるため,高密度化しても
電池性能低下が少ない電極が望まれている。そこで,当社の
MAG材を用いて密度が1.5 kg/m3と1.8 kg/m3の電極を作製し,
60
活物質 MAG
40
対極:金属リチウム
放電負荷特性を調べた結果を図10に示した。開発材を用いる
充電:CC 0.28 mA/cm2
20
と,SBRを用いたときに比べて,電極を高密度化したときの
CV 0 V, 0.01 mA/cm2カットオフ
放電:0.28∼8.15 mA/cm2CC, 1 Vカットオフ
0
0
0.5
1
1.5
2
接着を維持できる限界密度(×103 kg/m3)
放電レート
(C)
開発材 3 %
開発材 2.5 %
開発材 2 %
PVDF 5.5 %
図10
PVDF 5 %
異なる電極密度での放電負荷特性 開発材を用いた電極では電極
の密度を高めた場合でも高い放電容量を維持している。
Fig. 10 Discharge rate characteristic of the electrodes having different density
The electrodes prepared with our new binder resin showed higher discharge
capacity at higher discharge rate.
2
1.9
1.8
1.7
参考文献
1.6
1)機能材料, 6月号, p.48-53 (2002)
1.5
1.4
2)電子技術, 1月号, p.21-25 (2002)
活物質 MAG
1.3
11.5
12.5
13.5
14.5
15.5
塗布量(×10−2 kg/m2)
3)伊藤,
外:特開平11-135379
4)杉田,
外:特開平11-219709
5)R.Fong,et al.:J.Electrochem.Soc.137,p.2009-2013 (1990)
6)吉野,
外:特開昭62-90863
7)高密度リチウム二次電池:(株)テクノシステム, p.217-228
図9 各種電極の接着性評価 開発材は接着性が高く少量の添加量でも高
比表面積の負極材に適用可能である。
(1998)
8)細川,
外:特開2003-249225
Fig. 9 Evaluation of the adhesive property of various electrodes
Our new binder resin showed better adhesive property with smaller amount.
容量低下が少ない。すなわち,開発材は電極の高密度化に対
して優位な材料であり,電池の高容量化に寄与することが期
待できる。
〔6〕 結 言
耐電解液膨潤性に優れたリチウムイオン電池負極用バイン
ダ樹脂を開発した。開発材は高い接着性を有しており,溶剤
系でありながらも,比表面積の大きい高性能黒鉛系負極材の
特性を十分に引き出すことができる。また,電極を高密度化
したときの容量低下が少ないことから,電池の高容量化に有
効なバインダ樹脂であると考えられる。さらにリチウムイオ
ン電池負極だけでなく,電気二重層キャパシタ
(EDLC)
など類似
の用途のバインダ樹脂としても用途展開が期待できる。
10
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
U.D.C.
621.3.049.77:621.791,35:678.686.073-416:532.135:544.01:620.187.5
エポキシ樹脂含有ポリイミド系コンポジットフィルムの相構造とレオロジー挙動
Morphological and Rheological Behavior of Composite Films Based on
Polyimide/Epoxy Blend Resin
増子 崇*
Takashi Masuko
武田信司**
Shinji Takeda
長谷川雄二*
Yuji Hasegawa
電子機器の高速化および小型化の要求に対応するための要素技術として,低温接着
性と耐はんだリフロー性を兼ね備えるフィルム状ダイボンディング材が求められてい
る。当社が開発した“ハイアタッチDF”は,熱可塑性ポリイミド,エポキシ樹脂,
およびフィラーをコンポジット化した設計であるため,硬化前の熱溶融特性と硬化後
の耐熱性を有効に両立できる。この材料系の物性に及ぼす内部構造の影響を把握する
目的で,使用ポリイミドの構造とフィルムのレオロジー的特性との関連性について検
討した。その結果,ポリイミドの共重合成分間の相分離により形成されたポリマー鎖
のミクロドメイン構造は,ガラス転移温度を超える温度領域でのフィルムの流動抑制
に寄与することを,粘弾性解析,破断面の走査型電子顕微鏡観察,および圧縮試験に
より明らかにした。
Die attach films with lower attaching temperatures and sufficient reliability
performance during reflow soldering are required as a key technology for higher
response speeds and further compactness of electronic devices. HIATTACH DF series,
developed as novel die attach films, are fusible at temperatures above their Tg’s before
curing, but will hold restricted flow behavior even above their Tg’s after curing, because
they are composed of a thermoplastic polyimide, an epoxy resin, and a filler. The
relationship between the chemical structure of the polyimide used and the rheological
properties of the film was studied through dynamic mechanical analysis, scanning
electron microscopy (SEM), and compression tests to explain the effect of the
morphological structure on the various properties of the film. These analyses suggested
that the microdomain structure formed by the microphase separation between the
copolymerization segments of the polyimide used will restrict the flow of the film even
above the Tg.
有するため,力学特性や成形加工過程における溶融物の流動,
〔1〕 緒 言
変形などのレオロジー的な性質は,単一高分子材料に比べて
ICチップと支持基材との接合に用いるダイボンディング材
複雑な挙動を示す場合が多い 5)。したがって,目的とする物
は,半導体パッケージの高性能化,高機能化,および小型・
性または機能を得るためには,材料の構造と物性,使用環境
薄型化を実現するためのキーテクノロジーとなっており,そ
における内部構造,およびレオロジー挙動との関連性につい
の重要性とマーケットは今後もますます拡大していくことが
ての詳細な把握が必要である。筆者らは,これまでに前述の
予想される。当社が開発したフィルム状の新規なダイボンデ
組成を有するフィルム(以下,コンポジットフィルム)の相
ィング材は,従来のペースト状ダイボンディング材が抱えて
構造および種々の特性に及ぼすポリイミド構造の影響6)7),フ
いたパッケージの製造歩留まりおよび信頼性を飛躍的に向上
ィルム組成比依存性8)9),フィラー性状の影響10)について詳細
させ,
“ハイアタッチDFシリーズ”として 販売 している 1)2)。
に検討してきた。
DFシリーズは,熱可塑性ポリイミド,エポキシ樹脂,および
本報では,主鎖に柔軟な分子構造を有するポリイミドをベ
必要に応じてフィラーを配合した組成を有している。この組
ース樹脂に用いたコンポジットフィルムのレオロジー的特性
成により,Bステージでの熱溶融特性と硬化後の耐熱性を確
を詳細に解析し,それらに及ぼす要因について考察した結果
保でき,ダイボンディング材として要求される低温接着性と
をまとめる。
耐はんだリフロー性を両立できる3)4)。
このような材料系は,性質の異なる素材をコンポジット化
〔2〕 柔軟な分子構造を有するポリイミドの合成
した設計であるため,ポリマー系複合材料(polymer
低温接着性を付与する目的で,コンポジットフィルムの溶
composite materials)とみなすことができ,単一素材では達
融温度を下げるためには,使用ポリイミドの構造をより柔軟
成が困難な特性を実現できるだけでなく,それらの組成比に
にしてガラス転移温度(Tg)を下げることが有効である。こ
よって物性を広範囲に制御できるという特長を有している。
の設計は,出発原料である酸二無水物またはジアミンとして,
しかしながら,このような材料系は,内部に不均質な構造を
屈曲性に富む分子鎖を有するモノマを選択することによって
*
当社 電子材料研究所 **当社 機能性材料研究所 工学博士
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
11
達成できる。そこで,酸二無水物として,1,10-(デカメチレ
めて示す。なお,硬化熱履歴は180℃/1時間とし,この条件は,
ン)ビス(トリメリテート)二無水物(DBTA)を,またジ
含有するエポキシ樹脂のDSCによる発熱挙動が,それぞれT
アミンとして,2,2’ -ビス[4- (4-アミノフェノキシ)フェニ
init : 118,T onset : 158,T exo : 171,T end : 199,Tg : 97℃
ル]プロパン(BAPP)
,
であり,180℃/1時間の熱履歴で発熱ピークが消失することに
1,3-ビス(3-アミノプロピル)テト
ラメチルジシロキサン(TSX)
,およびビス(γ-アミノプロ
基づいて設定した。
ピル)ポリジメチルシロキサン(PSX, 分子量:914)をそれ
未硬化フィルムの貯蔵弾性率(E’
)は,Tgを超える温度領
ぞれ選択し,表1に示すTgの異なる3種のポリイミド(それ
域において大きく低下し,熱可塑型フィルムに典型的な挙動
ぞれ,PI-BAPP,PI-TSX,およびPI-PSX)を合成した。なお,
を示したが,硬化フィルムのE’は,これらの温度領域での
使用した酸二無水物およびジアミンの構造を図1にまとめて
低下が抑制され,熱硬化型フィルムの挙動を示している。こ
示す。
の差は,含有するエポキシ樹脂成分の架橋効果によるもので
DBTAとBAPPとから合成したPI-BAPPの示差走査熱量計
あり,この樹脂設計によりダイボンディング材としての硬化
(DSC)によるTgは120℃であった。Ultem(米国GEプラスチ
前の熱圧着性と硬化後の耐熱性を両立できることが示されて
ックス社の商標)のような従来の芳香族エーテル系ポリイミ
いる。
ドのTgは200℃を超えることから 11)12),このポリイミドの低
未硬化フィルムの損失弾性率(E”
)および損失正接(tan
いTgは,主鎖に柔軟性に富むデカメチレン基を導入したこと
δ)のピークの挙動を見ると,硬化熱履歴によってそれらの
による効果と考えられる。さらに,シロキサン基の導入によ
温度位置が上昇しており,ここでも含有するエポキシ樹脂成
って,Tgは120℃よりも低くなることが示された(PI-TSX,
分の架橋効果が認められる。ここで,硬化フィルムのE”ピ
PI-PSX)
。特に,ポリシロキサン基を導入したPI-PSXのTgは
ークは,わずかに2本に分離しているのが観測され,それぞ
30℃まで低下している。
れの温度位置は115および121℃であった。PI-BAPPおよびエ
ポキシ樹脂硬化物のDSCによるTgはそれぞれ120,97℃であ
〔3〕 コンポジットフィルムの粘弾性挙動
ることから,このピークの分離は,含有するポリイミド成分
PI-BAPP 100重量部に対して,エポキシ樹脂(エポキシ化
とエポキシ樹脂成分の部分的な相分離を示していると考えら
合物,硬化剤,硬化促進剤を含む)を10重量部,および銀フ
れる。しかしながら,このフィルムのtanδピークにおいては,
ィラーをフィルム組成全体に対して40 wt%配合したコンポジ
そのような分離は観測されていない。この樹脂系のモルフォ
ットフィルムについて,硬化前後の粘弾性挙動を図2にまと
ロジーは基本的に相分離系ではあるものの,ポリイミドリッ
チの樹脂組成であり,かつ線状ポリイミドの分子鎖とエポキ
シ樹脂の網目鎖が互いに複雑に絡み合った,いわば半相互貫
O
C
入高分子網目(semi-interpenetrating polymer network; semi-
O
C
COO (CH2) OCO
10
O
IPN)構造13)を形成していることに起因して生じる現象と推
O
C
O
察される。
C
O
DBTA
一方,未硬化フィルムのtanδピークの広がりが硬化フィルム
と比較してブロードになっているのが観測されているが,これ
は測定温度の上昇とともに徐々にフィルムの硬化が進み,見か
CH3
C
O
H2N
O
NH2
CH3
次に,PI-TSXおよびPI-PSXをそれぞれベース樹脂に用い,
同様のエポキシ樹脂および銀フィラーを同様の比率で配合し
BAPP
CH3
H2N
(H2C)
3
Si
たコンポジットフィルムを調製し,同様の条件で加熱硬化し
たフィルムの粘弾性挙動を,PI-BAPPを使用したフィルムと
CH3
O
Si
CH3
けのTgが上昇していることによるものと考えられる。
CH3
(CH2)
3
NH2
n
合わせて図3にまとめて示す。
使用したポリイミドが,PI-BAPP,PI-TSX,PI-PSXの順に,
室温付近のフィルムのE’は低くなった。特に,PI-PSXを使
n=1 :TSX
用したフィルムにおいて,E’が大きく低減している。これ
n=10 :PSX
は明らかに使用ポリイミドの主鎖に可とう性に富むポリシロ
キサン基を導入したことによる効果である。一方,PI-TSXお
図1 使用した酸二無水物およびジアミンの構造
Fig. 1 Chemical structures of the dianhydride and diamines used
よびPI-PSXをそれぞれ使用したフィルムのTgを超える温度領
表1 合成ポリイミドの組成と特性 屈曲性に富む分子構造を有する酸二無水物またはジアミンを使用することにより,ポリイミドのTgを有効に低減できる。
Table 1 Monomer compositions and characterization of the polyimides synthesized
The lower Tg is due to introduction of the decamethylene connecting groups with long and flexible molecular chains into the polyimide backbone.
ポリイミド
モノマ組成(mol%)
酸二無水物
ジアミン
収 率
GPC*
(%)
Mn
Mw
Mw / Mn
Tg
(℃)
**
PI-BAPP
DBTA(100)
BAPP(100)
95.0
32500
121000
3.73
120
PI-TSX
DBTA(100)
BAPP(50)/ TSX(50)
95.0
26900
080800
3.01
064
PI-PSX
DBTA(100)
BAPP(50)/ PSX(50)
92.5
23800
068600
2.89
030
* ゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン換算)
** DSCにより測定
12
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
104
104
貯蔵弾性率 E′
(MPa)
貯蔵弾性率 E′
(MPa)
PI-BAPPフィルム
3
10
102
101
硬化
103
PI-TSXフィルム
102
PI-PSXフィルム
101
未硬化
104
104
103
損失弾性率 E″
(MPa)
損失弾性率 E″
(MPa)
PI-BAPPフィルム
102
硬化
101
103
PI-TSXフィルム
102
PI-PSXフィルム
101
未硬化
101
101
PI-BAPPフィルム
0
100
硬化
損失正接 tan δ
損失正接 tan δ
10
未硬化
10−1
10−2
10−3
−150 −100 −50
PI-TSXフィルム
10−1
PI-PSXフィルム
10−2
0
50
100
150
200
250
300
10−3
−150 −100 −50
温度(℃)
0
50
100
150
200
250
300
温度(℃)
図2 PI-BAPPベースコンポジットフィルムの粘弾性挙動におよぼ
す硬化熱履歴依存性 未硬化フィルムは,Tgを超える温度領域において流
図3 コンポジットフィルムの粘弾性挙動におよぼすポリイミド構
造の影響 使用ポリイミドの主鎖に導入したシロキサン基の長さによって,
動するが,硬化フィルムについてはこれらの温度領域でも流動が抑制される。
共重合成分同士の相溶性が変化し,コンポジットフィルムのモルフォロジーが
Fig. 2 Effect of curing on the dynamic mechanical properties of the composite
film using PI-BAPP
The composite films showed fusible thermoplastic behavior above their Tg's
before curing, but thermosetting behavior with restricted flow even above their
Tg's after curing.
変化する。
域でのE’は,いずれもPI-BAPPを使用したフィルムより低
トしていることから,エポキシ樹脂成分が一部ポリイミド成
くなっているが,温度上昇に伴うE’の顕著な低下は認めら
分に相溶していることが示唆されている。また,このフィル
れなかった。含有するエポキシ樹脂成分の架橋効果により,
ムのtanδピークは,PI-BAPPを使用したフィルムと同様,単
Tgを超える温度領域でのフィルムの流動は一様に抑制される
一ピークであり,使用ポリイミドの構造による顕著な違いは
ことがわかった。
見られなかった。
Fig. 3 Dependence of the dynamic mechanical properties of the composite
film on polyimide structure
The length of the siloxane unit introduced into the polyimide backbone will
affect the compatibility between the copolymer segments to change the
morphological behavior of the composite film.
PI-TSXを使用したフィルムのE”ピークは,PI-BAPPを使
一方,PI-PSXを使用したフィルムのE”およびtanδの温度
用したフィルムと同様,わずかに2本に分離しているのが観
依存性は,明らかに他のポリイミドを使用したフィルムと異
測され,このフィルムにおいても樹脂成分の相分離が示され
なる挙動を示した。PI-PSXのTgに相当する温度において,明
ている。このE”ピークのショルダー形状は,PI-BAPPを使
確なE”ピークは観測されず,tanδにおいてはピークが確認
用したフィルムと同様,使用ポリイミドのTgに相当するピー
されるものの,他のポリイミドを使用したフィルムよりもブ
クの方が高くなっており,エポキシ樹脂硬化物のTg(97℃)
ロードであり,その強度も小さいことが示された。さらに,
に相当するピークの位置が,使用ポリイミドのTg付近にシフ
E”およびtanδともに,−110℃付近にポリシロキサン基に
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
13
由来する転移温度のピーク14)∼16)が観測されていることから,
これらのSEM写真から明らかなように,樹脂硬化物の相構
このフィルムの樹脂硬化物においては,PI-PSXのポリシロキ
造は,各成分の配合比から,いずれもポリイミド成分が連続
サン成分と他の共重合成分が互いに非相溶の傾向にあり,こ
相,エポキシ樹脂成分が分散相と推測される海島型であるこ
の不均質性が転移領域を広げる要因になっていると考えられ
とが示された。これらの結果から,PI-TSXおよびPI-PSXとエ
る。また,これらのフィルムの主分散ピークの温度位置は,
ポキシ樹脂成分は互いに非相溶の傾向にあることがわかる。
使用ポリイミドのTgが低くなるにつれて低下方向に進むこと
さらに,使用したポリイミドのシロキサン鎖長によって,熱
が示されている。このように,ポリイミドリッチの樹脂組成
処理による相構造の経時変化に明らかな相違が認められた。
を有するコンポジットフィルムにおいては,使用ポリイミド
PI-TSXを使用した樹脂硬化物については,熱処理による相構
の構造がフィルムの粘弾性挙動に大きく反映することがわか
造の変化は観測されず,また連続相と分散相の界面が不明瞭
った。
であることから(図4
(a)∼(d)
)
,PI-TSX成分とエポキシ樹
〔4〕 ポリイミド/エポキシ樹脂ブレンドの相構造
上述の粘弾性挙動の解析から,ポリイミドの主鎖に導入し
たシロキサン基の長さによって,共重合成分同士の相溶性が
脂成分が一部相溶していることがわかる。PI-TSXを使用した
フィルムにおいて観測されたTg付近のE”ピークのわずかな
分離(図3)は,このような相構造と密接に関係していると
考えられる。
変化し,コンポジットフィルムのモルフォロジーが大きく変
一方,PI-PSXを使用した樹脂硬化物については,熱処理前
化することを示した。この点についてさらに詳細に検証する
の段階では,連続相と分散相の界面が不明瞭である点,PI-
ため,PI-TSXおよびPI-PSXをそれぞれ使用したコンポジット
TSXを使用した樹脂硬化物と同様の相構造を示した(図5
フィルムの樹脂成分の硬化物を調製し,それらの相構造を調
(a)
)
。ところが,熱処理時間が長くなるにつれて,連続相と
べた。それぞれのポリイミドを使用した樹脂硬化物の破断面
分散相の界面が明瞭になり,相分離がさらに進行することが
走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4および図5にそれぞれ
示された(図5
(b)∼(d)
)
。これらの結果は,使用したポリ
示す。
イミドのシロキサン基が長くなるにつれて,エポキシ樹脂成
(a)
(b)
(a)
(b)
(c)
(d)
(c)
(d)
図4 PI-TSX/エポキシ樹脂硬化物の破断面SEM写真 (a):熱処理前,
図5 PI-PSX/エポキシ樹脂硬化物の破断面SEM写真 (a):熱処理前,
(b):(a)の拡大写真,(c):180℃/4時間加熱後,(d):(c)の拡大写真
(b):180℃/2時間加熱後,(c):(b)の拡大写真,(d):180℃/4時間加熱後
Tgを超える温度でPI-TSX/エポキシ樹脂硬化物を加熱しても相分離構造に変
Tgを超える温度でPI-PSX/エポキシ樹脂硬化物を加熱すると相分離構造が変
化は見られない。
化する。
Fig. 4 SEM photographs of the fracture surfaces of PI-TSX/epoxy resin blend
(a): Before heating, (b): Enlarged photograph of (a), (c): After heating for 4 h
at 180℃, (d): Enlarged photograph of (c).
The change in phase separation structure of PI-TSX/epoxy resin blend was
not observed after heating above the Tg.
Fig. 5 SEM photographs of the fracture surfaces of PI-PSX/epoxy resin blend.
(a): Before heating, (b): After heating for 2 h at 180℃, (c): Enlarged
photograph of (b), (d): After heating for 4 h at 180℃.
The change in phase separation structure of PI-PSX/epoxy resin blend was
observed after heating above the Tg.
14
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
分との相溶性が低くなることを示している。ただし,エポキ
ことを明らかにした。そこで,これらの挙動がコンポジット
シ樹脂成分に相当する分散相の形状,大きさ,および量につ
フィルムの塑性変形に及ぼす影響を検討するため,PI-TSXお
いては,PI-TSXを使用した樹脂硬化物と同様,熱処理による
よびPI-PSXをそれぞれ使用したコンポジットフィルムについ
顕著な変化は見られなかった。このように,分散相の構造が
て,180℃/1時間加熱硬化した後,さらに180℃での熱処理時
固定されているのは,前述したように,樹脂硬化物を調製し
間とフィルム圧縮時のフロー量との関係を調べた。フロー量
た段階(180℃/1時間の硬化熱履歴)で,含有するエポキシ
は,50 µm厚に調製したコンポジットフィルムを10 mm×10
樹脂の硬化がほぼ終了しているためであると考えられる。
mmの形状に打ち抜き,同サイズのユーピレックスフィルム
さらに興味深いことに,連続相の状態が,PI-TSXを使用し
上に載せ,2枚のスライドガラスに挟み,180℃の熱盤上で
た樹脂硬化物においては,熱処理時間によらず比較的平坦で
10 MPaの面圧を加え,120秒間プレスしたときにサンプルの
あったのに対し,PI-PSXを使用した樹脂硬化物においては,
端部からはみ出した樹脂の長さの最大値とした。結果を図6
熱処理時間とともに徐々にいびつな形状に変化しているのが
に示す。
観測された(図5
(b)∼(d)
)
。図3に示した E”およびtanδ
初期のフロー量は両者のフィルムともに同等レベルであっ
の挙動から,PI-TSXを使用したフィルムにおいては,比較的
たが,熱処理時間が長くなるにつれて,両者のフィルム間で
均質構造であることが示されているのに対して,ポリシロキ
フロー量に明らかな差が認められるようになった。PI-TSXを
サン成分を含有するPI-PSXを使用したフィルムにおいては,
使用したフィルムについては,4時間熱処理してもフロー量
PI-PSXのポリシロキサン成分と他の共重合成分間の相分離が
の変化は認められなかったのに対して,PI-PSXを使用したフ
示唆されていることから,上記の連続相の状態変化は,PI-
ィルムについては,熱処理時間とともにフロー量の低下が認
PSXの共重合成分間の相分離により,各成分鎖の凝集が起こ
められるようになり,塑性変形が抑制される方向に進むこと
り,その凝集構造(ドメイン)の寸法が熱処理時間とともに
が示された。両者のフィルムの塑性変形挙動に及ぼす使用ポ
大きくなっていることによるものと推測される。その結果,
リイミドの流動特性を比較するため,エポキシ樹脂成分のみ
エポキシ樹脂成分に相当する分散相との相分離がさらに進ん
を取り除いたフィルムについて,図6と同様の熱処理を加え
だと考えられる。また,図3の粘弾性挙動において,PI-PSX
たときのフロー量の変化を調べた(図7)。しかしながら,
を使用したフィルムのTg付近の分散ピークが,E”において
いずれのポリイミドを使用したフィルムについても熱処理に
は不明瞭であり,かつ tanδにおいてピークの明確な分離が
よるフロー量の変化は認められず,それらの値はよりTgの低
観測されないのは,系全体が不均質構造であるものの,ポリ
いPI-PSXを使用したフィルムにおいてむしろ大きいことが示
イミドリッチの樹脂組成であることと,連続相のいびつな形
された。エポキシ樹脂成分を含有するフィルムの初期のフロ
状と分散相の大きさがともに微細であることが影響している
ー量は約300∼350 µmであるのに対して(図6)
,エポキシ樹
と考えられる。
脂成分を含有しないフィルムのフロー量は熱処理時間によら
ず3000∼4000 µmと大きな値を示した(図7)
。これらのフィ
〔5〕 コンポジットフィルムの塑性変形挙動
ルムは架橋構造を有しないため,図2で示された未硬化フィ
ポリイミドの主鎖に導入したシロキサン基の長さによっ
ルムのE’の挙動と同様,使用ポリイミドのTgを超える圧縮
て,エポキシ樹脂成分を含む樹脂硬化物の相構造が変化する
温度において大きく流動し,熱可塑型フィルムに典型的な挙
400
PI-PSXフィルム
4,000
300
フロー量(µm)
フロー量(μm)
3,000
PI-TSXフィルム
200
100
0
1
2
3
2,000
1,000
PI-PSXフィルム
0
PI-TSXフィルム
4
0
0
加熱時間(h/180℃)
1
2
3
4
加熱時間(h/180℃)
図6 コンポジットフィルムのフロー量におよぼす熱履歴依存性
PI-PSXを使用したフィルムにおいて,熱履歴による塑性変形量の低下が認め
図7 エポキシ樹脂成分を含有しないコンポジットフィルムのフロ
ー量におよぼす熱履歴依存性 エポキシ樹脂を含有しないフィルムは,使
られる。
用ポリイミドの構造によらず,熱履歴による塑性変形量に変化は認められない。
Fig. 6 Dependence of the flow length of the composite films on heating time at
180℃
The restricted of plastic deformation after heating above the Tg was
observed only for the composite film based on PI-PSX.
Fig. 7 Dependence of the flow length of the composite films without epoxy
resin on heating time at 180℃
The restricted of plastic deformation after heating above the Tg was not
observed for both the composite films without epoxy resin, irrespective of the
structural differences of the polyimides used.
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
15
動を示したと考えられる。これに対して,エポキシ樹脂含有
のポリマー鎖が複雑に絡み合っているため,系全体の見かけ
系においては,図3においても示されるように,Tgを超える
の架橋密度が増大する。こうして,Tgを超える温度領域での
温度領域での温度上昇によるフィルムの流動抑制が達成され
フィルムの流動が抑制され,結果として,図6に示されるよ
ている。さらに,PI-PSXを使用したフィルムの方が,PI-TSX
うな圧縮方向の外力に対する塑性変形が抑制されるようにな
を使用したフィルムよりもtanδピークの強度が小さいことが
ったと考えられる。これに対して,PI-TSXの場合は,共重合
示されている。tanδピークの強度はポリマー鎖のミクロブラ
成分鎖同士の相溶性が良好であるため,それぞれの成分鎖同
ウン運動の量と密接な関係にあることから17),PI-PSXを使用
士の凝集が起こりにくく,熱処理による塑性変形領域が維持
したフィルムの方が,Tg付近での緩和に基づく分子鎖運動の
される。結果として,圧縮方向の外力に対する塑性変形量の
量が少なく,結果的に塑性変形に及ぼす流動が抑制されると
変化が小さかったと考えられる。
いうことがいえる。
〔7〕 結 言
〔6〕 ポリイミドの構造とコンポジットフィルムの
塑性変形挙動との関連性
PI-PSXを使用したコンポジットフィルムの樹脂成分におい
熱可塑性ポリイミド,エポキシ樹脂,および銀フィラーか
らなるコンポジットフィルムの粘弾性挙動は,使用ポリイミ
ドの共重合成分鎖同士の相溶性によって大きく変化すること
て,推定される相構造の模式図を図8に示す。PI-PSXにおい
を明らかにした。また,前記の相溶性が低くなるにつれて,
ては,互いに非相溶のポリシロキサン成分と他の共重合成分
系全体の不均質化が進み,Tgを超える温度領域でのフィルム
が共有結合で連結されているため,それぞれの成分鎖が寸法
の塑性変形が抑制される方向に進むことがわかった。このよ
の限られた別々の空間に凝集したミクロドメイン構造を形成
うな内部構造の不均質性に起因して発現するポリマー鎖のミ
していると考えられる。ここで,樹脂成分のTgを超える温度
クロドメイン構造を有効に利用,または制御することによっ
での熱処理を加えると,これらの成分鎖の凝集がさらに進み,
て,ダイボンディング材のみならず,他用途向けに新たな特
各々のドメイン寸法が大きくなる。凝集が進んだ密度の高い
性を付与した材料の開発が期待できる。
ポリマー鎖中にエポキシ樹脂成分の網目鎖が存在し,それら
ドメイン
エポキシ樹脂成分の網目鎖
図8 PI-PSXベースコンポジットフ
ィルムの樹脂成分におけるポリマー鎖
のミクロドメイン構造の模式図 PIPSX成分のミクロドメイン構造とエポキシ
樹脂成分の架橋構造からなるポリマー鎖の
絡み合いによって,フィルムの見かけの架
橋密度が増大する。
PI-PSX成分のポリマー鎖
(ポリシロキサン成分と他の共重合成分)
Fig. 8
Schematic diagram of the
microdomain structure of the polymer chain
in PI-PSX composite film
The polymer chains entangled between
the microdomain structure of PI-PSX
component and the network structure of the
epoxy resin component will increase the
apparent crosslinking density of the
polymer.
参考文献
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日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
U.D.C.
678.742.092:044.046:663.1:678.742:678.002.68:504.056:546.264-31:546.212
ポリエチレン系分解性樹脂デグラレックスの微生物分解性
Microbial Degradability of Degradable Resin Degralex based on Polyethylene
宮田裕幸*
Hiroyuki Miyata
太田伸一*
Shinichi Ohta
藪下 諭*
Satoshi Yabushita
プラスチックによる環境汚染対策の一つとして,使用廃棄後に微生物による分解が
進行し,最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解プラスチックが開発されている。
しかし,これらの材料は高価,成形性が悪い,また,加水分解性があり保存性に欠け
るなどの問題がある。さらに,生分解性プラスチック材料の多くは植物由来と言われ
ているが,LCAでは原料となる植物栽培のために多量の石油エネルギーを駆使して作
製した肥料を使用するため,必ずしも環境に良いとは言い難い面もある。本報では,
汎用プラスチックであるポリエチレンをベースとし,①熱/光分解による低分子量化,
②低分子量物の微生物分解という設計思想による分解性材料(デグラレックス)を開発
し,その分解機構の確認結果を報告する。
Numerous biodegradable plastic products, which fully decomposed into water and
carbon dioxide due to the action of microbes, have been developed to counter
environmental pollution.
However, these resins are expensive, difficult to mold and they have poor
preservation properties, as they are easy to hydrolyze. Besides, though it is said that
most of the biodegradable plastics are derived from the plants, there are some aspects
that it is difficult to say that they are necessarily environmentally-friendly because they
consume fertilizer which is produced by a lot of petroleum energy. Consequently, we
selected a general-purpose resin, such as polyethylene and we developed the
degradable material (Degralex) that has a following design concept. It has two-stage
degradation steps: 1. It degraded into low molecular weight resin by exposing it to heat
and/or light, 2. this low molecular weight resin was degraded by microbes. We applied
various methods of estimating degradability through which we confirmed the
degradability of the composition.
剤を入れることにより一定条件下で多く発生させて低分子量
〔1〕 緒 言
化させる,②低分子量化したポリエチレンを微生物により水
20世紀における技術革新の大きな成果として挙げられるプ
と二酸化炭素にまで分解させる,というものである。この分
ラスチックは,広く社会に受け入れられると共に使用量が増
解過程をJIS及びISO規格に沿った分解性評価試験で検討した
大している。しかし,それは同時に廃棄物として地上にあふ
結果を報告する。
れ,地球環境汚染の原因の一因ともされ,自然界の物質循環
を乱すものとして憂慮されている。これに対し,最近着目さ
れているのが植物由来成分を原料とするポリ乳酸を代表とす
〔2〕 汎用樹脂ベースの分解性樹脂デグラレックス
とその分解機構
る生分解性プラスチックである。これらは加水分解と微生物
分解性樹脂デグラレックスの検討として,まずポリエチレ
分解により最終的に水と二酸化炭素に分解されるため,自然
ンと澱粉の系に少量の添加剤を混合することで均一な混合物
界における炭素循環を乱さないと言われているが,原料植物
を得た。澱粉量はフィルムの強度等の特性と分解性のバラン
を育成するには多量の肥料を必要とするため,かなりの石油
スから自由に変えることができるが,本報告では約20%の配
エネルギーを消費するといわれており,トータルな炭素循環
合品で検討した。この樹脂組成物によるフィルム成形品の分
は必ずしも目標通りとなっていない。そこで,石油からダイ
解性を調べたところ,澱粉部の分解は見られたが,ポリエチ
レクトに製造されたプラスチックを生分解させることを考え
レン部の分解は見られなかった。そこで,ポリエチレン部も
た。まだ一般的ではないが,プラスチックといえどもある一
分解させるために,遷移金属化合物などの触媒作用によりラ
定の条件を与えれば微生物分解するということが確認されて
ジカルを発生させポリエチレンの主鎖の分解(レドックス反
おり1)2)3),これを発展させれば,低コスト,保存安定性が良
応)を促進させる組成物(分解促進剤)を検討し4),種々の
いという汎用プラスチックの特性を維持したまま生分解可能
分解促進剤から,分解特性,コスト,入手の容易さ等からA
な材料が得られる。材料の設計思想は,①通常の材料では添
社の分解促進剤を選定した。以下にこの分解促進剤添加系の
加剤等により発生を抑制しているラジカルを,逆作用の添加
分解性について検討した結果を示す。
*
日立化成フィルテック株式会社 開発本部
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
17
分解性樹脂デグラレックスのベース樹脂としてはポリエチレ
ンおよびポリプロピレンがあるが,本報告ではポリエチレン
140
について報告する。
分解促進剤添加量
0%
ポリエチレン等の汎用樹脂の分解機構については図1のよ
120
1.0%
より,熱および/または熱光(紫外線)による汎用樹脂成分の
低分子量化,並びに微生物の働きによる澱粉成分の分解が起
こり,それに伴って樹脂の多孔化,表面積の増大が起こる。
分解促進剤は,酸化触媒である遷移金属塩と脂肪酸を主成分
とするものである(劣化,崩壊)
。分解第二段階では低分子
破断伸度保持率(%)
うに考えた。即ち,分解第一段階では,分解促進剤の働きに
100
80
60
40
劣化,崩壊
微生物の働き
20
澱粉の分解
熱の作用
0
ポリエチレンの
低分子量化
光の作用
0
100
200
微生物が低分子量化された
ポリエチレンを分解
分解第一段階
分解第二段階
CO2, H2O
評価・確認
300
400
500
経過時間(h)
図3 紫外線照射における分解促進剤の添加量と破断伸度保持率変
化の関係 分解促進剤の添加により,破断伸度の低下が見られる。
微生物分解
Fig. 3 Relationship between amount of degradation accelerator and keep ratio
of break elongation under ultraviolet-rays irradiation
The degradation accelerator lowers break elongation.
図1 分解性樹脂デグラレックスの分解機構 分解は,樹脂の低分子量
化,微生物による低分子量化された樹脂の微生物分解の2段階で行われると推
促進剤の添加量を変えたポリエチレン,澱粉系のフィルムを
定した。
作製し,加熱試験による破断伸度の変化を測定した。80℃で
Fig. 1 Degradation Mechanism in degradable resin, Degralex
Degradation has two stages: The first is degradation of resin, and the second
is the degradation of degradated resin by microbes.
加熱した結果を図2に,サンシャインウエザーメータで紫外
線照射した促進試験結果を図3に示す。
図2,3から分解促進剤を添加することで熱および/または
量化された汎用樹脂成分が微生物の働きにより分解される
光(紫外線)で破断伸度が低下していることが確認でき,ま
(微生物分解)
。以上のように推察した分解機構の確認のため,
た添加量が増加するに従い破断伸度が低下する時間が早まる
各種評価方法による評価を行った結果を以下に報告する。
〔3〕 デグラレックスの分解性評価(分解第一段階)
ことが明らかとなった。
次にサンプルの劣化に伴い,低分子量化も起こっているこ
とを確認するために,分解促進剤を1%添加したデグラレッ
分解第一段階の評価にあたり,汎用樹脂に分解促進剤を添
クスの分子量分布をゲルパーミエイションクロマトグラフィ
加した際に,汎用樹脂におよぼす影響を検証するため,分解
ー(GPC)により求めた。図4に80℃×3日,80℃×9日およ
100
分子量分布曲線
0.8
0.7
分解促進剤添加量
60
0%
0.5%
40
60℃,26日後
Mw 6,423
80℃,
9日加熱
Mw 3,194
Blank
Mw 236,548
0.6
dwt/d(logM)
破断伸度保持率(%)
80
1%
2%
0.5
0.4
0.3
0.2
3%
80℃,
3日後
Mw 11,069
0.1
20
0
1.5
2.5
3.5
4.5
5.5
6.5
Log分子量
0
0
3
5
7
9
経過日数(d)
図2 80℃加熱における分解促進剤の添加量と破断伸度保持率変化の
関係 分解促進剤の量が増すにつれ,破断伸度保持率の低下が早く大きくなる。
図4 加熱処理による分子量分布の変化 加熱温度が高く,加熱時間が
Fig. 2 Relationship between amount of degradation accelerator and keep ratio
of break elongation at 80℃ heating
As the amount of degradation accelerator increases, the lowering rate of
break elongation becomes fast and large.
Fig. 4 Change in molecular distribution after heat treatment
As long as the heating temperature is higher and the heating time is longer,
molecular weight is lower.
18
長いほど低分子量化していることがわかる。
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
び60℃×26日間加熱処理したデグラレックスのGPC測定結果
一方,加熱処理品では表面の広範囲に酵素で溶解したよう
を示す。加熱温度が高く,加熱時間が長いほどGPC曲線が左
な多数の微細な空孔が生じており,また,部分的に深く欠損
側にシフトしており,低分子量化が起きていることが明らか
しており,広範囲に微生物(バシュラス菌)の増殖が認めら
となった。
れた。以上のように,微生物による微生物分解の証拠となる
以上の結果から,劣化および崩壊時に熱および/または紫外
線のエネルギーによりデグラレックスが崩壊し,低分子量化
多数のボディーマークが鮮明に観察された(図5の写真 1, 2,
3, 5, 6 参照)
。
が起きていることが確認された。また,この破断伸度の低下
このことから,加熱処理をすることによりデグラレックス
がポリエチレン成分の分子量低下によって引き起こされてい
中のポリエチレン成分が低分子量化され,さらに低分子量化
ることも明らかとなった。さらに分解促進剤の添加量を調整
されたポリエチレン成分が微生物により分解されていること
することで劣化および崩壊速度を調整できることから,最終
的な分解速度を調整できる分解性樹脂を作製することができ
が示唆された。
(2)顕微鏡フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)
による分析
ポリエチレンが劣化,崩壊を経て低分子量化され分解する
る。
〔4〕 デグラレックスの分解性評価(分解第二段階)
過程の中で起こる構造変化をFT-IRにより分析した。ポリエ
チレンが劣化すると1800cm-1∼1600cm-1付近にかけて各種カ
分解第二段階の評価として低分子量化されたポリエチレン
ルボニル基の吸収ピークが減少する傾向が見られることか
の微生物分解性を証明するため,土中埋設試験,コンポスト
ら,これをポリエチレン分解の指標とした。図6に未処理品
試験および水系培養液試験評価を行った。以下にその結果を
の埋設前後の赤外チャートを示す。未処理品では3300cm-1及
示す。
び1020cm-1付近に認められる添加剤の澱粉に起因する吸収が
4. 1
埋設後では減少していた。しかし,ポリエチレンの分解の指
土中埋設による微生物分解性評価試験結果5)
厚さ25µmのフィルムにしたデグラレックスを4ヶ月間土中
標となる1710cm-1付近のケトン型カルボニルに起因する吸収
に埋設し,その分解状況を分析,観察した。フィルムにした
ピークの減少が見られないことから,澱粉の分解は進んでい
デグラレックスは①未処理品 ②80℃9日間加熱処理品の2種類
るものの,主成分であるポリエチレンの分解は進行していな
である。
いことが示唆された。
図7に加熱処理品の埋設前後における赤外チャートを示
(1)SEMによる観察
図5に土中埋設前後のSEM写真を示す。未処理品では表面
す。加熱処理品についても未処理品と同様に3300cm-1および
の広範囲で微生物の増殖が認められたが,フィルム表面から
1020cm-1付近に認められる添加剤の澱粉に起因する吸収が埋
の著しい欠損および微生物による分解の証拠となるボディー
設後では減少していた。また,1710cm-1付近のケトン型カル
マーク(微生物が分解した跡)が確認できなかったことから,
ボニルに起因する吸収の大きな減少が認められ,フィルム加
分解が全く進行していなかった(図5の写真 1, 4 参照)
。
熱処理品についてはポリエチレンの分解が進行していること
ボディーマーク
写真 1
写真 2
埋設前( ×1,000)
写真 3
加熱処理品埋設後
( ×1,000)
加熱処理品埋設後
( ×5,000)
写真 4
写真 5
未処理品埋設後
( ×1,000)
写真 6
加熱処理品埋設前断面図
( ×2,000)
フイルム表面からの
著しい損失を確認
加熱処理品埋設後断面図
( ×2,000)
図5 デグラレックスの土中埋設品のSEM写真 加熱処理品では4ヶ月土中に埋設後,微生物の活動跡である多数のボディーマークが観察された。
Fig. 5 SEM micrographs of Degralex film buried under ground
Many body marks, which are traces of microbe activity, can be observed in the heat treated sample four months after being buried in the ground.
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
19
が明らかとなった。
以上より土中埋設試験範囲内において,デグラレックスは
.6 No.1 mishori
2919.9
微生物による分解を受けているものと判断され,またこの現
象は加熱処理したフィルムにおいて顕著であった。
ISO14855(JISK6953:2000 )
(制御されたコンポスト
条件下の好気的生分解度および崩壊度の求め方)に準
718.5
1027.8
933.3
.1
4. 2
1,020 cm−1
1243.7
1153.5
1455.5
1375.8
1705.5
.2
3,300 cm−1
3328.7
吸光度
.4
2851.0
.5
.3
埋設前
拠した微生物分解試験(MODA試験)結果
この試験は,58℃に保たれた好気的コンポスト条件下にサ
ンプルを投入し,発生する二酸化炭素を定量することで分解
.0
度を求めるもので,試験機としては微生物酸化分解測定装置
3,500 3,000 2,500 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800
Wavenumber
717.6
1026.7
合品である。易分解成分である澱粉と添加剤が先に分解した
1154.3
1459.5
1376.7
スは汎用樹脂,分解促進剤,澱粉およびその他の添加剤の混
1701.1
1662.2
.1
ラレックスの52日後の分解率が32%となった。デグラレック
埋設後
2854.6
.3
3329.2
吸光度
.4
.2
日間加熱処理品の測定結果を図8に示す。測定の結果,デグ
No.1 mishori-4m-4
2925.2
.5
(MODA)を用いた。フィルムにしたデグラレックス80℃×9
と仮定すると,この成分の分解率は,図8に点線で示したよ
うに16%である。従って実際のポリエチレン成分の分解率は
32−16=16%となり,16%分がポリエチレンの分解による寄
.0
与と考えられる。
以上の結果から,分解するスピードは緩やかであるが,汎
3,500 3,000 2,500 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800
用樹脂であるポリエチレン成分も確実に分解していることが
Wavenumber
明らかになった。
図6 未処理品の赤外チャート 3,300cm ,1,020cm 付近に認められ
−1
−1
さらに,ポリエチレン成分の分解について別な観点から検
る添加剤の澱粉に起因する吸収が埋設後では減少している。
討を行った。MODA試験の52日後の残存成分を熱キシレンで
Fig. 6 IR charts of samples without heat treatment
The absorbance peaks seen near 3,300cm−1 and 1,020cm−1 decrease after
samples are buried. These peaks were derived from starch.
抽出し,試験前のポリエチレン成分も合わせて分子量分布の
測定を行った。その結果を図9に示す。図9に示したように
Q値の減少が確認された。Q値とは重量平均分子量を数平均
埋設前
30
デグラレックス
719.0
25
分解率(%)
1025.2
936.3
862.5
1153.7
1,020 cm−1
1462.2
1410.5
1370.4
1711.0
2849.3
35
3294.4
吸光度
2917.3
.24 No.2:kanebj, 80c, 9days-2
.22
.20
.18
.16
1,710 cm−1
−1
.14 3,300 cm
.12
.10
.08
.06
.04
.02
2920.3
3,500 3,000 2,500 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800
Wavenumber
No.2 kanetu-4m-2
埋設後
.5
5
717.6
1471.8
1237.0
1172.0
1064.9
.1
1709.9
.2
3393.9
吸光度
.3
澱粉,添加剤の分解率
15
10
2951.8
.4
20
0
0
20
40
60
経過日数(d)
.0
3,500 3,000 2,500 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800
Wavenumber
図7
加熱処理品の赤外チャート 澱粉の分解に加え,1,710cm−1付近の
図8
MODA試験結果 澱粉および添加剤の分解以上の分解率が確認され,
ケトン型カルボニルに起因する吸収の大きな減少が見られたことからポリエチ
ポリエチレンも分解していることが明確になった。
レンも分解が進行していることが示唆された。
Fig. 8 Test results for MODA
The degradability ratio more than for starch and additives and it is clear that
polyethylene has also degraded.
Fig. 7 IR charts of samples with heat treatment
In addition to starch degradation, We can see that polyethylene also is
degraded because of the large reduction in the peak near 1,710cm−1, which
was derived from keton type carbonyl.
20
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
分子量で割った値であり,この値が減少することは,分子量
したときの理論酸素消費量は30.7mgであり,これは図1
0に点
分布が狭くなったことを示している。またGPCチャートも
線で表示した。デグラレックスの80℃×1ヶ月間加熱処理品
MODA試験後には低分子量側が低くなっていることから
70日目の酸素消費量は54.9mgであることから,汎用樹脂成分
MODA試験によりポリエチレンの低分子量成分が分解するこ
の酸素消費量は54.9−30.7=24.2mgとなり,これが汎用樹脂
とが明かとなった。
であるポリエチレン成分の分解による酸素消費量である。ま
4. 3
ISO14851(JISK6950:2000 )
(水系培養液の好気的究
た,易分解成分が同量であるにもかかわらず,試験投入前の
極性分解度の求め方)
に準拠した微生物分解試験(クー
加熱処理時間により酸素消費量が大きく違うことから,低分
ロメータ試験)結果
子量化されたポリエチレンが澱粉や添加剤よりも優先的に微
この試験では,密閉された瓶の中で水系培養液中にサンプ
生物分解されていることが示唆された。
ルを投入して微生物分解させ,発生した二酸化炭素を吸収剤
以上の結果から,加熱処理をすることにより低分子量化さ
で除去して,瓶内が負圧になった分だけ酸素を供給し,その
れたポリエチレン成分が,微生物により水と二酸化炭素にま
酸素量から分解度を求めるものである。測定器にはクーロメ
で分解されていることが明らかとなった。
ータを用いた。80℃で所定時間加熱処理したフィルム状デグ
ラレックスを25℃に保たれたクーロメータに入れその分解度
〔5〕 結 言
を求めた。結果を図1
0に示す。サンプルとして,80℃×9日
ポリエチレンのような安価な汎用樹脂への分解促進剤,澱
間,80℃×1ヶ月間加熱処理品および未処理品の3種類を投入
粉およびその他添加剤の配合による分解性樹脂の検討に取り
した。図1
0より加熱処理時間が長いものほど多くの酸素を消
組み,この検討に際し最大の課題である汎用樹脂の微生物分
費していることがわかった。70日後の検体の状況を観察する
解性の確認を行った。その結果,ポリエチレンのような汎用
と,加熱処理品は粒子が崩れさらに細かくなっていた。この
樹脂に分解促進剤を添加したデグラレックスは当初の推察の
ため表面積が大きくなったことも酸素消費量の増大に寄与し
通り,図1のような機構で分解が進行し,分解第一段階(劣
たと考えられる。デグラレックスの澱粉と添加剤が全て分解
化,崩壊)では分解促進剤の働きにより,熱および/または光
Molecular Weight Distribution
1.60
dW/d(Log M)
1.20
MODA試験後
MODA試験前
0.80
0.40
0.00
1.00
3.00
2.00
5.00
4.00
6.00
Log MW
分子量分布
項 目
数平均分子量
重量平均分子量
Q値※
MODA試験前
1.03×103
2.83×103
2.75
MODA試験後
1.18×103
2.94×103
2.49
※Q値:
(重量平均分子量/数平均分子量)
図9 MODA試験(試験期間52日)後の分子量分布変化 MODA試験後にQ値が減少し,低分子量側の値が低下していることから,ポリエチレンの低分子量部
分が分解されたことがわかる。
Fig. 9 Change in molecular distribution after MODA test(52 days)
The degradation in lower molecular weight of polyethylene is obvious from the results were the Q value is lower and the lower part of the GPC curve is lower after
the MODA test.
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
21
デグラレックス80℃×1ヶ月間加熱処理品
酸素消費量(mg)
60
50
デグラレックス80℃×9日間加熱処理品
40
30
澱粉,添加剤の酸素消費量
20
デグラレックス未処理品
10
0
0
20
40
60
80
経過日数(d)
図10 クーロメータ試験結果 加熱処理品では,澱粉寄与率以上の酸素
消費量が確認され,ポリエチレンも分解していることが明確になった。
Fig. 10 Test results for coulometer
The ratio of degradation in the heat theated samples is more than that of
starch and polyethylene has also degraded.
(紫外線)による汎用樹脂成分の低分子量化,並びに微生物
の働きによる澱粉成分の分解,それに伴って樹脂の多孔化,
表面積の増大が起こり,分解第二段階では低分子量化された
汎用樹脂成分が微生物の働きにより最終的には水と二酸化炭
素にまで分解されることが確認された。
なお,これらの成果は農林水産省平成14年度食品産業技術
開発支援事業成果報告会 6)および第14回廃棄物学会研究発表
会7)にて,論文報告および発表を行った。
今後は分解性樹脂デグラレックスについて,本報告の分解
機構に適した用途および自然環境下へ流出する可能性のある
分野への製品展開を図っていく。
参考文献
1)大武義人,小林智子ら;日本ゴム協会誌,66(4),266(1993)
2)大武義人,小林智子ら;日本ゴム協会誌,66(7),504(1993)
3)Albertsson.A-C, Polymer Degradation and Stability, 18(1987)73
4)Peter P. Klemchuk, et al., Polymer Degradation and Stability, 27
(1990)183
5)試験報告書 No.15-2A-2526:生分解性プラスチックの土壌埋設評価
試験( I )
「4ヶ月埋設後の評価」
,財団法人化学物質評価研究機
構(2003)
6)太田伸一,藪下諭ら;農林水産省平成14年度食品産業技術開発支援
事業成果概要集,(2003)134
7)太田伸一,藪下諭ら;第14回廃棄物学会研究発表会講演論文集
(2003)410
22
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
U.D.C.
621.315.06-416.001.6:532.783:537.311.3:621.397.4.049.77
COG用低温接続異方導電フィルム アニソルムAC-8408
Low-Temperature-Curable Anisotropic Conductive Film ANISOLM AC-8408 for COG Interconnection
富坂克彦* Katsuhiko Tomisaka
廣澤幸寿* Yukihisa Hirosawa
竹田津 潤* Jun Taketatsu
竹村賢三* Kenzo Takemura
異方導電フィルム(アニソルム)は,LCD(Liquid Crystal Display)を中心とした
FPD(Flat Panel Display)の実装材料として広く用いられており,TCP(Tape Carrier
Package)やCOF(Chip on Flex)によるLCDパネルとプリント基板(Printed Wiring
Board)の実装や駆動用ドライバICをLCDパネルに直接搭載するCOG(Chip on Glass)
実装に採用されている。
近年,LCDモジュールは大型化,狭額縁化,薄型化の傾向にあり,特にCOG実装に
おいては,実装時に発生する駆動用ICとLCDパネル間の温度勾配に起因する基板反り
によって,表示品位が低下する問題が出てきている。そこで,アニソルムの接着剤組
成の検討を行った結果,低温硬化系の採用と弾性率の最適化によって,COG実装の反
り低減による表示品位の向上と高信頼性を両立ができることがわかった。開発品は,
従来品よりも40℃低い条件(150℃/10 s)で接続できるため基板反り量が半分以下で,
かつ従来品と同等の信頼性を有するCOG用異方導電フィルムAC-8408として販売され
ている。
Anisotropic conductive film (ANISOLM) has been widely used as an interconnecting
material in flat panel displays (FPDs) or mainly liquid crystal displays (LCDs) for
connecting the electrodes of LCD panels to those of printed wiring boards (PWBs), via
either tape carrier packages (TCPs) or chip on flexes (COFs). In addition, it has been
used for connecting driver IC chips directly to LCD panels in chip on glass (COG)
packaging.
Recently LCD modules tend to have larger panel areas, narrower frame widths, and
thinner glass substrates. In COG packaging especially, substrate warpage due to the
temperature gradient between IC and LCD panel will lower the display quality. To cope
with this problem, we designed on adhesive resin composition by using a new curing
agent to create lower temperature curing of ANISOLM and by optimizing the elastic
modulus of ANISOLM. As a result, we developed a new low-temperature-curable
ANISOLM for COG packaging, AC-8408, which will decrease the warpage to less than
half that of the conventional ANISOLM while still being reliable.
より一層の高信頼性が要求されている。しかしながら,良好
〔1〕 緒 言
な表示品位と高信頼性の両立は難しくなる傾向にある。特に
異方導電フィルム(アニソルム)は,熱硬化性樹脂を主体
COG実装(図1)において,実装時に駆動用ICとLCDパネル
とした接着剤中に,金めっきプラスチック粒子やニッケル粒
子などの導電粒子を均一に分散させた回路接続用接着フィル
ムである。その特長は,導電粒子によって電極間の電気的接
LCD パネル
(ガラス基板)
アニソルム
続を行う機能と,接着剤によって電極間を接着しさらに隣接
電極間の絶縁性を保持する機能とを,同時に発現できること
である1)。
このためアニソルムは高密度実装回路の接続材料として,
TCP入力用(TCPとPWBの接続)
,TCP出力用(TCPとLCDパ
IC チップ(駆動用 IC)
ネルの接続)およびCOG用(駆動用ICとLCDパネル接続)な
LCD モジュール(COG 実装品)
ど,LCDパネルを電気的に接続する用途を中心に広く使用さ
れている2)∼ 6)。
図1 アニソルムを用いたCOG実装 COG実装では,アニソルムを用い
こうした中で近年の大型TFT-LCDモジュールは,画面寸法
の大型化,狭額縁化,軽量化を図るためにガラス基板の薄肉
化が進められており,アニソルムに対しても接続材料として,
て駆動用のドライバICを直接LCDパネル上に搭載している。
Fig. 1 LCD module using ANISOLM for COG interconnection
In COG packaging, ANISOLM is used to connect driver IC chips directly to
LCD panels.
*
当社 実装フィルム事業部 実装フィルム開発部
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
23
間に温度勾配が発生することに起因して実装部に反り(歪み)
が発生し,この反りが液晶表示面のギャップに影響を与える
ことから,チップ実装部近傍の表示面の色調が不均一になり
〔3〕接着剤の組成検討
3. 1
低温硬化性接着剤の採用
接着剤の硬化挙動にはDSC(示差走査熱量計)による解析
表示品位が低下する現象が見られている。
本報では,低温硬化系接着剤の適用および弾性率の最適化
が有効であり,アニソルムの接着剤においても,種々の硬化触
を図ることによって,表示品位向上に対応したCOG用低温接
媒を検討して,DSCで測定した硬化反応のピーク温度が低下
続異方導電フィルムAC-8408を開発した経緯を述べる。
する系を採用して低温接続化を図った例が報告されている8)。
図3に従来品(AC-8501)と低温硬化系接着剤(開発品(1)
)
〔2〕COG実装における反り発生メカニズム
を用いた場合のDSCのピーク温度と,各温度で10秒処理した
アニソルムを用いたCOG実装では,図2に示す様にチップ
場合のアニソルムの反応率を示す。ここで,反応率は初期と
側から圧着ヘッドを用いて熱を加えるため,被着体間での温
加熱処理後のDSCの発熱量の差より算出した。また従来品は
度勾配が生じる。例として,これまでCOG用途に広く用いら
190℃/10sで反応率が80%を超えて安定した接続特性を示すた
れているアニソルムAC-8501 を使用した実装では,アニソ
め,80%を反応率の指標とした。
7)
ルムの最終到達温度を190℃程度にするために,圧着ヘッド
の温度を210℃程度に設定し,チップの温度を190℃以上にす
る必要がある。一方,圧着ステージと接触しているガラス基
150
板下部の温度は,ステージの材質の影響を受けるものの,
100℃まで到達することは無く,チップとガラス基板の間に
は大きな(100℃程度の)温度差が生じることがわかった。
140
その結果,熱圧着時は基板側の伸び量に対してチップ側の伸
ピーク温度(℃)
び量の方が大きくなり,圧着終了後に圧着ヘッドを開放して
実装品が冷却されると,基板側に対するチップ側の縮み量が
大きくなることから,チップ側に凹型の反りが発生すると考
えられる。
以上のことから,COG実装品の反りを低減する方法として,
130
120
(1)圧着時の温度勾配を小さくする,
(2)アニソルムの弾性
率を低減して残留応力を緩和することが有効であると考えら
110
れる。そこで,実装時の到達温度を低温化させることで温度
勾配を小さくするため,低温圧着可能な材料組成とすること
にした。同時に接着剤の弾性率を最適化することで低基板反
100
りを実現する材料設計を行うことにした。
低温接続に
よる方法
チップ
(190 ∼ 210℃)
従来品
温度差:大
100
90
圧着ヘッド
(210℃)
80
70
反応率(%)
アニソルム(190℃)
ガラス基板
(100℃以下)
開発品(1)
圧着ステージ
(低)
温度
(高)
縮み(大)
縮み(小)
50
40
20
伸び(大)
伸び(小)
従来品
10
0
120
②圧着ヘッド開放∼室温冷却
チップ縮み(大)
,ガラス基板縮み(小)となり,縮み量による力関係から
凹型の反りが発生する。
縮み(大)
縮み(小)
60
30
①実装時(熱圧着時)
温度勾配により,チップ伸び大,ガラス基板伸び小となる。
伸び(大)
伸び(小)
10s 処理
開発品(1)
140
160
180
200
220
240
実装温度(℃)
図3
従来品(AC-8501)と開発品(1)のDSCピーク温度と反応率 開
発品(1)は,昇温速度10℃/minで測定したDSCのピーク温度が従来品と比較し
て20℃以上低減しており,150℃/10sの加熱処理条件で80%以上の反応率が得
図2 COG実装における反り発生メカニズム 熱圧着時に発生する温
度勾配により,実装終了時にICチップとガラス基板の収縮量が異なるため,チ
ップ側に凹型の反りが発生する。
Fig. 2 Mechanism of the warpage development in COG packaging
During COG bonding, the IC chip expands more than the glass substrate due
to the temperature gradient, causing concave warpage.
24
られている。
Fig. 3 DSC peak temperature and the reaction rate of both conventional
ANISOLM (AC-8501) and newly developed ANISOLM
The new low-temperature-curable ANISOLM has a DSC peak 20℃ lower
than the conventional ANISOLM, but has an equally high reaction rate at about
a 40℃ lower curing temperature.
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
図3より低温硬化系接着剤を採用した場合,ピーク温度が
20℃低減し,150℃/10s処理で80%以上の反応率を示すことが
チップの変形回復力
わかった。一方,検討したアニソルムのCOG実装品の基板反
り量は,図4に示すような当社の試験体を用いて,チップ実
IC チップ
Au バンプ電極
装部のガラス基板側背面を25mm測定した時における最大反
り変形量とした。その結果,従来品(AC-8501)では,実装
条件が190℃/10sにおいて,基板反り量が15µmであるのに対
基板電極(ITO)
して,開発品(1)の基板反り量は150℃/10s実装品で,10µm
にまで低減できることを確認した。
ガラス基板
基板の変形回復力
接着剤の接着力
接着剤と界面の収縮力
反り測定端子
反り変形量
図5
アニソルムによるCOG実装概念図 接続は接着剤の接着力および
収縮力によって保持される。
Fig. 5 Mechanism of COG connection through ANISOLM
The strong adhesion strength of ANISOLM, the contraction stress at the
interface, and the restoring force of the deformed substrate will sustain the
connection between the electrodes.
アニソルム
ガラス基板
25mm
チップ
10
12
8
10
6
8
4
6
COG実装品の基板反り量測定方法 チップ実装部のガラス基板側
接続抵抗(Ω)
図4
背面を接触式のプローブで25mmスキャンした際の反り変形量を測定する。
Fig. 4 Method of measuring warpage in COG packages
The warpage was measured by scanning the glass substrate surface with a
surface profile analyzer.
3. 2
接着剤の低弾性率化
基板反り量(µm)
ガラス基板サイズ:28mm × 38mm × t0.7mm
チップサイズ:1.7mm × 17mm × t0.55mm
COG実装品の基板反り量の低減には,接着剤の低弾性率化
も有効であると考えられる。図5にはアニソルムによるCOG
実装の概念図を示す。アニソルムの電気的接続は導電粒子を
2
介しての電極の接触接続であり,この接触は実装部に働くIC
1
1.2
チップやガラス基板の変形回復力,接着剤の接着力,および
1.4
1.6
1.8
2
4
2.2
硬化物の弾性率(GPa)
界面の収縮力から構成される電極間の収縮力によって保持さ
れる。しかしながら,接着剤の過度の低弾性率化は接着剤の
収縮力の低下を伴うため,接続信頼性試験で接触接続の維持
図6 接着剤(硬化物)の弾性率と基板反り量および信頼性試験後の
接続抵抗 接着剤の低弾性率化で基板反り量は低減可能だが,弾性率が
ができなくなり,導通不良が発生する可能性がある。このた
1.7GPa未満では温度サイクル試験後の接続抵抗が上昇する。
め,接着剤の弾性率に関しては最適化を必要とする
Fig. 6 Influence of elastic modulus of ANISOLM on amount of warpage and
electrical contact resistance after reliability test
The warpage decreased with the decreasing elastic modulus, but the
connection resistance through ANISOLM interconnections steeply increased
when the elastic modulus was below 1.7 GPa.
。
8)∼ 9)
図6に低弾性率化した低温硬化系接着剤の,40℃での弾性
率と実装品の基板反り量,および温度サイクル試験処理(-40
∼100℃)後における接続抵抗を示す。基板反り量は接着剤
の低弾性化に従って減少する傾向にある。しかし,1.7GPa未
満の弾性率では接続抵抗が急上昇することがわかった。そこ
で,基板反り量の低減と高接続信頼性を両立するためには,
接着剤の弾性率を1.8GPa以上にする必要がある。
〔4〕接続信頼性
4. 1
高温高湿試験および温度サイクル試験での接続信頼性
以上の検討結果に従って,接着剤としては150℃/10s実装が
図7にAC-8408と従来品(AC-8501)を用いて,Auバンプ
可能な低温硬化系の採用,および弾性率の最適化を行い,高
電極(電極サイズ2,500µm 2)を持ったICチップと,表面に
接続信頼性を維持した状態で基板反り量を従来品の15µmか
ITO電極回路を配したガラス基板を,実装条件①150℃/10s,
ら7µmまで低減した。さらにアニソルム中の樹脂組成の官能
②190℃/10sで実装した試験体の高温高湿試験処理(85℃
基種や導電粒子の最適化を図ることによってCOG用異方導電
85%RH)における信頼性を接続抵抗変化によって示す。AC-
フィルムAC-8408を得た。
8408は低温条件①で接続した場合でも,1,000時間後に5Ω以
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
25
1 × 10
実装条件 ① 150℃/10s
14
10
13
1 × 10
AC − 8408
従来品
12
1 × 10
11
1 × 10
6
絶縁抵抗(Ω)
接続抵抗(Ω)
8
4
10
1 × 10
1 × 10
1 × 10
9
8
2
1 × 10
0
1 × 10
0
200
400
600
800
7
6
1,000
時間(h)
1 × 10
5
0
200
400
600
800
1,000
時間(h)
図8
実装条件 ② 190℃/10s
10
AC − 8408
従来品
接続抵抗(Ω)
8
AC-8408の面内絶縁信頼性 AC-8408は高温高湿試験1,000時間処理
後も高い面内絶縁特性を維持している。
Fig. 8 Insulation reliability of ANISOLM AC-8408 in planar direction
AC-8408 showed satisfactory insulation resistance in the planar direction
even after 1,000 h of high temperature/humidity (85℃, 85%RH).
〔5〕 結 言
6
COG実装における基板反りを低減し,表示品位の向上を可
能としたCOG用低温接続アニソルムAC-8408は,ノートパソ
4
コン,液晶モニタ,液晶テレビといった大型LCDモジュール
を中心に採用されている。LCDモジュールの市場が引き続き
2
拡大する中で,LCDモジュールの大型化,狭額縁化,薄型化
はさらに進行し,それに対応した異方導電フィルムによる表
示品位の向上は,今後ますます重要になると考えられる。当
0
0
200
400
600
800
1,000
社では,今後はさらなる低基板反り対応を目指し開発を行っ
ていく予定である。
時間(h)
参考文献
図7
高温高湿試験(85℃85%RH)における接続信頼性 AC-8408は
各接続条件で良好な接続信頼性を示す。
1)山口,外:異方導電フィルム,日立化成テクニカルレポート,
No.6(1987-7)
Fig. 7 Reliability of connection at high temperature/humidity (85℃, 85%RH)
AC-8408 showed excellent connection reliability in each bonding condition.
2) H. Kristiansen et al.: Overview of Conductive Adhesive
Interconnection Technologies for Display Applications in Johan
Liu,Conductive Adhesives for Electronics Packaging,Chapter 15,
下の接続抵抗を維持し,従来の実装条件②を適用したAC8501と同等の信頼性を示している。また,温度サイクル試験
処理(-40∼100℃,1,000サイクル)においても,同様に低接
続抵抗を維持することが確認できた。
4. 2
5)塩沢,外:金属電極用異方導電フィルム,アニソルムAC-2052,
図8にはAC-8408を用いて,Auバンプ電極(隣接電極間ス
ペース15µm)を持ったICチップと,表面にITO電極回路を配
したガラス基板を,150℃/10sで実装した試験体の高温高湿試
験処理(85℃85%RH)時間と15µm電極間の絶縁抵抗の関係
を示す。絶縁抵抗は,試験体を所定時間処理後に隣接電極間
に直流電圧50Vを60秒間印加した後に測定した。その結果,
1,000時間後も109Ω以上の高い絶縁抵抗値を維持することを
26
Displays,369,vol2, IDW ’96 (1996)
4)塚越,外:高精細回路接続用アニソルムAC-7144の開発,日立化
成テクニカルレポート,No.16(1991-1)
絶縁信頼性
確認した。
Electrochemical Publications,p.376 (1999)
3)I. Watanabe et al.:Anisotropic Conductive Films For Flat Panel
日立化成テクニカルレポート,
No.23(1994-7)
6)渡辺,外:二層構成異方導電フィルムの開発,日立化成テクニカ
ルレポート,No.26(1996-1)
7)高精細COG用アニソルムAC-8501,日立化成テクニカルレポート,
No.36(2001-1)
8)藤縄,外:入力用低温接続異方導電フィルム アニソルムAC9000,日立化成テクニカルレポート,No.39(2002-7)
9)有福,外:COF出力用異方導電フィルム アニソルムAC-4000,
日立化成テクニカルレポート,
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
No.41(2003-7)
U.D.C.
621.315.617.001.6:667.629.2:667.637.233:678.7:621.397.4.049.77
FPD用防湿絶縁塗料 タッフィー
Conformal Coating Material TUFFY for FPD
杉下拓也*
Takuya Sugishita
進藤尋佳*
鈴木雅博**
Hiroka Shindou
志賀 智*
Masahiro Suzuki
木村昌宏*
Satoshi Shiga
Masahiro Kimura
FPD(Flat Panel Display)のパネルとFPC(Flexible Printed Circuit board)の接続
部およびドライバーICのインナーリード部の絶縁信頼性を高めることを目的に防湿絶
縁塗料の塗布が行われている。しかし,不具合部を除去して再度接続をやり直すこと
がしばしば行われ,この際に一旦塗布した塗料を除去し塗り直す工程(リペア工程)
が必要になるが,従来の防湿絶縁塗料では除去し難く,この工程に多大な労力がかか
っていた。一方で絶縁信頼性の観点から,基材との密着性が重要であり,リペア性と
密着性とを両立させる必要がある。当社では新たに,溶剤型防湿絶縁塗料タッフィー
TF-4200シリーズと,UV硬化型防湿絶縁塗料タッフィーTF-3348-741を開発した。こ
れらは,基材との密着性および絶縁信頼性に優れており,しかも簡便にリペア可能な
材料であるため,FPDの生産性向上に貢献できると考えている。
Conformal coating material is applied to the electrodes of flat panel display (FPD)
panels connected to flexible printed circuit boards (FPCs), and to the inner leads under
the driver ICs, to enhance insulation reliability. However, rejected FPD modules are
often re-assembled after defective parts are removed, and a "repair process", in which
the coating materials should be removed and reapplied, is necessary. This process
requires a great effort for conventional coating materials, because they are difficult to
remove. However, coating materials must adhere well to substrates for the sake of
insulation reliability, which requires the compatibility of adhesion and repair-ability. We
developed new repairable coating materials, the solvent type TUFFY TF-4200 series and
the UV cure type TUFFY TF-3348-741, which have excellent adhesion and insulation
reliability. Using these materials will allow for higher productivity of FPD modules.
〔1〕 緒 言
LCD(Liquid Crystal Display)
,PDP(Plasma Display Panel)
,
有機EL(Electroluminescence)などのFPDでは,FPCにより
映像信号の入力を行っている。このパネル本体とFPCの接合
部,およびドライバーICのインナーリード部の回路接続は,
タッフィー塗布位置
FPC
ACF(Anisotropic Conductive Film)によって行われるが,こ
LCD
シール材
の部分では配線が剥き出しの状態であるため,絶縁信頼性を
高めることを目的に防湿絶縁塗料の塗布が行われている(図
1)
。この防湿絶縁塗料には信頼性保持の必要性から,防湿
ドライバーIC
性,絶縁性と共に基材であるガラス基板やポリイミドフィル
ムとの密着性が求められる。
ガラス
一方で,FPDの高精細化により配線の微細化が進み,FPC
ITO電極
銅電極
の接合部にしばしば不具合が発生している。その場合には,
不具合部のみを除去して再度接続をやり直す1)ので,一旦塗
布した塗料を除去し塗り直す工程(リペア工程)が必要にな
る。しかし,従来の防湿絶縁塗料では塗膜強度が弱いために
除去し難く,削除した後に研磨工程が必要であったり,溶剤
で少しずつ溶かしながら除去するなど,このリペア工程に多
図1 タッフィーの塗布位置 TUFFYはFPDのパネルとFPCの接続部およ
大な労力がかかっている。そこで,十分な絶縁信頼性を維持
びドライバーICのインナーリード部の,防湿絶縁用に塗布する。
しつつ,リペアの際には容易に除去できる防湿絶縁塗料が望
まれている。
Fig. 1 Location of TUFFY application
TUFFY is applied to the electrodes of FPD panels connected to FPCs, and to
the inner leads under the driver ICs to enhance insulation against moisture.
*
当社 化成品事業部 山崎開発グループ **当社 化成品事業部 山崎製造部
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
27
期待通りの柔軟で強靭な塗膜が得られたが,基材との密着性
〔2〕 TF-4200シリーズの開発
2. 1
に劣ることがわかった。これはソフトセグメント部分の表面
ポリマ設計
エネルギーが基材の表面エネルギーと大きく異なる4)からで
一旦塗布した塗料を除去するもっとも簡便な方法は,塗膜
ある。しかし塗膜の構造的特性を活かすため,ベースポリマ
の端を引張り,引き剥がすことである。しかし,従来の防湿
は変更せず,粘着付与剤を組み合わせることで密着性を向上
絶縁塗料では基材との密着力よりも塗膜強度が弱いため,引
した2)(図3)
。
き剥がそうとすると塗膜が切れたり,凝集破壊を起こし樹脂
の残渣が基材上に残ったりした。したがって,塗膜をきれい
に引き剥がすためには,
塗膜強度>基材との密着性
である必要がある。ここで絶縁信頼性保持の観点から密着性
を低くすることはできないので,塗膜強度を上げる必要があ
る。塗膜強度を上げる手法としては,次の二つが考えられ
500
180°はく離強さ(N/m)
る。
①樹脂の重合度を上げる。
②架橋点を増やす。
ここで,樹脂の重合度を上げると塗料の粘度が上がり塗布
性が著しく悪化してしまう。また溶剤型の塗料の場合,塗布
時には化学反応を伴わないため,化学的に架橋点を増やすこ
ともできない。そこで,物理的にしっかりとした架橋点を形
10
成させることを考えた。通常,溶剤型の塗料では樹脂鎖間に
粘着付与剤なし
水素結合等により擬似的な架橋点が作られる。さらに,ブロ
粘着付与剤あり
TF-4200シルーズ
ック型コポリマの場合は,図2のように各々のセグメント同
士が凝集しミクロ相分離構造をとるため,セグメント凝集部
が物理的に強固な架橋点となり,強靭な塗膜が作られる2),3)。
そこで,ブロック型コポリマをベースポリマとして,樹脂組
成を検討した。
図3
TF-4200シリーズの密着性改良 粘着付与剤の配合によりガラス基
材との密着性は大幅に改善される。
Fig. 3 Improvement of adhesion to the glass for TF-4200 series
The addition of the tackifier improved the adhesion dramatically.
〔3〕 TF-3348-741の開発
ハードセグメント凝集部
UV硬化型塗料は通常,①反応性オリゴマ,②反応性モノマ,
③光重合開始剤からなる。塗布,硬化時に化学反応を伴うの
で,3次元的に架橋して強靭な塗膜が得られそうであるが,
実際はもろい樹脂となることが多い。これは,反応性オリゴ
マの鎖長が短いことと,強いエネルギーで大量のラジカルを
発生させ短時間で硬化させるので重合度が上がらないことに
よる。しかし反応性オリゴマの鎖長を長くすると,硬化前の
ソフトセグメント
塗料の粘度が高くなり,塗布性が悪化するので好ましくない。
またラジカル発生量を減らして重合度を上げるように設計す
ると,速硬化性が損なわれてしまう。
そこでラジカル重合反応について考えてみると,次の四つ
の素反応で進む5),6)。
図2 TF-4200シリーズの塗膜強度発現機構 ハードセグメント部が凝
開始反応
: I
kd
2R・
ki
R・+M
集し,擬似的に架橋点を形成する。
Fig. 2 Mechanism of exerting film intensity for TF-4200 series
Hard segments coheres to make quasi-cross-linkages.
また,塗布部分であるパネルとFPCの接合部,およびドラ
イバーICのインナーリード部の回路部は,形状が立体的で応
生長反応
: Mn・+M
停止反応
: 2Mn・
ktc
2Mn・
ktd
連鎖移動反応 : Mn・+A
RM・
(≡Mn・)
kp
Mn+1
P(再結合)
2P(不均化)
ktr
P+A・
式中,M,I,PおよびAはそれぞれモノマ,開始剤,生成ポリ
力集中し易いので,冷熱衝撃時の信頼性を考えて,ハードセ
マおよび連鎖移動剤である。また,R・は開始剤の分解によ
グメントとソフトセグメントの組み合わせとした。
りできる一次ラジカル,M・は生長ラジカルである。ここで,
2. 2
残存モノマ量を無視して考えると,生成するポリマの鎖長は,
密着性の向上
ハードセグメントとソフトセグメントからなるブロック型
生長反応と停止反応および連鎖移動反応の競合反応により決
コポリマと溶剤を用いて塗料組成物を作成し,検討した結果,
まることがわかる。つまり,生長反応が速いほど,すなわち
28
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
モノマの反応速度(kp)が大きいほどポリマの重合度が上が
高反応性モノマを使用したところ,塗膜強度を上げることに
ることになる。
成功した。
したがって,鎖長の短い反応性オリゴマを用いて塗料の粘
〔4〕 TF-4200シリーズ,TF-3348-741の特性
度を高くすることなく,モノマに反応性の高いものを配合し
4. 1
て硬化・架橋時の重合度を上げ,架橋密度を高くすることで,
リペア性
表1に各塗料の引張り破断強さと180°
はく離強さの値を示
より強靭な塗膜を得ることができる(図4)
。そこで特殊な
す。TF-4200シリーズおよびTF-3348-741は,塗膜強度(引張
り破断強さ)が上がり,はく離強さを上回っていることが確
認できた。また,図5,図6のように,塗膜をきれいに引き
剥がすことができる。
4. 2
一般特性
TF-4200シリーズおよびTF-3348-741の一般特性を従来品と
高反応性モノマによる架橋
比較して表2に示す。TF-4200シリーズは,粘度の違いによ
反応性オリゴマ
り3つの品番がある。どの品番も従来の溶剤型塗料よりも乾
燥時間が短くなっている。TF-3348-741も従来UV硬化型塗料
よりも硬化性が良くなっている。また,どちらの塗料も伸び
が大きく柔軟性に優れる。
4. 3
絶縁信頼性
TF-4200シリーズおよびTF-3348-741の絶縁信頼性の評価
結果を図7に示す。評価は,ガラス基材上に形成したライン/
スペース=40/10 µmのITO櫛型パターン電極上に,これらを
夫々塗布・硬化した試料に,60℃/90%RH雰囲気下で電極間
に直流電圧10 Vを印加して行った。図7よりTF-4200シリー
ズ,TF-3348-741ともに,試験時間500 hにおいても109Ω前後
の高い絶縁抵抗を維持しており,優れた絶縁信頼性を持つこ
とが確認できた。
図4
TF-3348-741の塗膜強度発現機構 高反応性モノマの配合により重
〔5〕 結 言
合度を上げ,架橋密度を高くすることができる。
ハードセグメントとソフトセグメントからなるブロック型
Fig. 4 Mechanism of exerting film intensity for TF-3348-741
New reactive monomers promote polymerization and cross-linkage.
表1
コポリマに,粘着付与剤を組み合わせることで,密着性と絶
はく離強さと比較すると塗膜の引き剥がしの可否がわかる。
引張り破断強さと180°
はく離強さの比較 引張り破断強さを単位厚さ当りに換算し,180°
Table 1 Tensile strength and 180°peeling strength for various coating materials
Comparison of the tensile strength and the 180°peeling strength accounts for whether each coating film can be peeled or not.
項 目
単 位
TF-4200シリーズ
従来溶剤型塗料
TF-3348-741
従来UV硬化型塗料
破断強さ
MPa
20
7
14
0.4
試験片厚さ
µm
150
150
300
300
単位厚さ当りの破断強さ
引張り試験
N/m
3,000
1,000
4,200
110
180°
はく離強さ
N/m
500
N.D.
400
N.D.
塗膜の引き剥がし
―
可
不可
可
不可
表2 一般特性 TF-4200シリーズは粘度違いで3つの品番がある。TF-4200シリーズおよびTF-3348-741は優れた硬化性(乾燥性)を持つ。
Table 2 General properties of various coating materials
TF-4200 series has three products with different viscosities. TF-4200 series and TF-3348-741 have excellent curability.
項 目
TF-4200シリーズ
EB-45
外 観
EB-451
従来
EB-452
溶剤型塗料
TF-3348-741
従来
UV硬化型塗料
青色透明
淡黄色透明
黄色透明
不揮発分(%)
25
28
30
28
100
100
粘度〔25℃〕
(Pa・s)
0.4
0.7
1.2
0.6
1.8
硬化条件
青色透明
1.8
タックフリータイム
常温/10 min
常温/12 min
1,000 mJ/cm
完全硬化時間
常温/6 h
常温/24 h
(at 365 nm)
12
400
120
2
700
5
60
20
引張り弾性率〔25℃〕
(MPa)
引張り破断点伸度〔25℃〕
(%)
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
2
1,500 mJ/cm2
(at 365 nm)
29
縁信頼性に優れ,かつ引き剥がしによる塗膜のリペアに対応
可能な,溶剤型防湿絶縁塗料TF-4200シリーズを開発した。
また,特殊な高反応性モノマを使用し硬化・架橋時の重合度
を調整することにより,速硬化性で絶縁信頼性に優れ,かつ
引き剥がし可能な,UV硬化型防湿絶縁塗料TF-3348-741を開
発した。
TF-4200シリーズは,特にリペア性が求められている大型
LCDにすでに採用されており,TF-3348-741も現在PDP用途を
中心に適用検討中である。今後は,高耐熱化,および狭ピッ
チ化に対応するさらなる高絶縁信頼性を目指し,開発を行っ
ていく予定である。
参考文献
1)第4世代のLCD製造・検査技術,プレスジャーナル(2000)
図5
TF-4200シリーズの引き剥がし TF-4200シリーズは引き剥がしに
2)高分子学会編:高分子新素材 One Point-18
高機能接着剤・粘着
剤,91-104,共立出版(1989)
よりリペアできる。
3)プラスチック・機能性高分子材料事典,411-416,産業調査会
Fig. 5 Peeling of TF-4200 series
TF-4200 series can be repaired through peeling.
(2004)
4)向井,金城:実学高分子,66-87,講談社サイエンティフィク
(1999)
5)日本化学会編:新実験化学講座19
高分子化学[Ⅰ]
,44-51,丸
善(1978)
6)高分子学会編:入門 高分子材料設計,15-22,共立出版
(1983)
図6
TF-3348-741の引き剥がし TF-3348-741も引き剥がしによりリペ
アできる。
Fig. 6 Peeling of TF-3348-741
TF-3348-741 can also be repaired through peeling.
絶縁抵抗(Ω)
1010
60℃/90%RH,印加電圧10V
109
108
TF−4200シリーズ
107
106
TF−3348−741
0
100
200
300
400
500
600
時間(h)
図7
絶縁信頼性 TF-4200シリーズおよびTF-3348-741は絶縁信頼性試験
500 h後でも高い絶縁抵抗を維持している。
Fig. 7 Insulation reliability
TF-4200 series and TF-3348-741 kept excellent insulation resistance even
after 500 h of the high temperature and high humidity bias test.
30
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
U.D.C.
621.39.049.7.002.3:621.791.3:536.49:678.6.046:612.314.49
環境対応高耐熱基板材料 MCL-E-679FG
High Heat Resistance Substrate Material MCL-E-679FG for Environmentally-Friendly Printed Wiring Board
宮武正人* Masato Miyatake
福田富男* Tomio Fukuda
村井 曜* Hikari Murai
島岡伸治** Shinji Shimaoka
電子機器の小形化や高機能化に伴い,半導体パッケージに使用されるプリント配線
板は薄形化,高密度化,高剛性化等が強く望まれている。また,環境保護の取り組み
として実装時の鉛フリープロセスに対応した基板,および燃焼時に有毒ガスが発生し
ないハロゲンフリー基板への要求も高まっている。
当社では耐熱性やフィラーの分散性,樹脂−フィラー界面の接着性を向上させる独
自の界面制御技術(FICS: Filler Interface Control System)を確立した。本技術を適用
して開発したMCL-E-679FGは,高耐熱性,低熱膨張性および高剛性を有し,かつハ
ロゲン化合物,リン化合物を用いずに難燃性UL 94 V-0を達成している。また,MCLE-679FG(S)はMCL-E-679FGと同様の特性を有する上に,さらに耐熱性やピール強度
が向上しており,フリップチップパッケージ等への適用も可能である。
According to the recent improvements in miniaturization and performance of
electronic equipment, lower thickness, higher wiring density and higher elastic modulus
are required of printed wiring boards (PWBs) for semiconductor packages. In addition,
substrates suitable for lead-free soldering processes and also halogen-free without
generating harmful gases are required because of an increasing desire to protect the
environment.
We have developed a new filler treating technology called the Filler Interface Control
System (FICS) that improves heat resistance, filler dispersion, and adhesion between
resins and fillers. By applying this technology, we have developed MCL-E-679FG, which
satisfies UL 94 V-0 without halogen and phosphorus compounds and has high heat
resistance, low thermal expansion, and a high elastic modulus. MCL-E-679FG(S) has
higher heat resistance and peel strength than MCL-E-679FG, and is particularly
suitable for flip chip packages and the like.
んでおり,鉛フリーはんだボールの特性変化と相まって,は
〔1〕 緒 言
んだボール接続の信頼性が高い材料という要求がある。その
近年,携帯電話,ノートパソコン等の携帯端末の小形化や
高機能化に伴い,それらの電子機器に使用される半導体パッ
ケージは小形化,薄形化,高密度化がますます進んでおり,
ため,用いられる基板にはピール強度の向上が強く望まれて
いる。
また,半導体パッケージにおいてチップの接続方式は,汎
多ピン化や端子の狭ピッチ化およびチップの微小化は年々加
用のワイヤボンディング接続に加え,近年はフリップチップ
速の一途をたどっている。同時に環境保護に関する問題意識
接続も使われるようになってきている 2)。フリップチップ接
の高まりから,用いられる基板や実装部品のハロゲンフリー
続の場合,配線の微細化や高密度化を目的に,ビルドアップ
化や鉛フリー化が進んでいる。
層を設けた配線板が用いられる場合が多く 3),この様なパッ
一般にプリント配線板や半導体パッケージに用いられる基
ケージ基板ではビルドアップ層の熱収縮に伴う反り等の変形
板には,難燃性を付与するためにハロゲン系難燃剤(主に臭
を低減するために,基板側にはガラス転移温度(以下,Tgと
素系)が用いられているが,燃焼時に猛毒のダイオキシン類
略す)や弾性率,耐熱性が高い材料が要求されてきている。
の発生が懸念されるため,使用しない方向にある。一方,部
本報では,難燃性を確保し,かつ,高耐熱性,低熱膨張性,
品の実装においては従来Sn-Pb系はんだが主に使用されてい
高弾性率,高ピール強度等の性能を発揮し,信頼性向上に有
たが,近年は廃棄処理時などに土壌を汚染するので鉛を用い
効なパッケージ用基板材料を開発したので報告する。
ないはんだ材料への転換が進んでいる。鉛フリーはんだでは,
融点が10℃から40℃ほど上昇するため 1),実装時におけるリ
〔2〕 MCL-E-679FG, MCL-E-679FG(S)
の開発
フロー温度も同程度上昇する。このような状況なので,環境
従来,ハロゲンフリーで難燃性UL 94 V-0を達成する手法と
保護に対応するパッケージ用基板には,ハロゲンフリー化と
しては,リン系化合物を主体に窒素化合物や金属水酸化物を
ともに,鉛フリープロセスに対応可能な,優れた耐熱性が要
併用する方法が知られている。しかし,この手法ではリン系
求されている。また,パッケージのパッド面積は微小化が進
化合物のため高い耐熱性の発現は困難であった。
*
当社 電子材料研究所 **当社 配線板材料事業部
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
31
開発品の難燃化コンセプトは,①難燃性と耐熱性に優れる
高Tgを発現する。
樹脂,②金属水酸化物を主とした無機フィラー,③界面制御
金属水酸化物を適用する際の課題としては,充填量の増加
技術(FICS)3)でフィラーを高充填化することにより,ハロ
とともに難燃性が向上する一方で耐熱性は低下する点があげ
ゲン化合物,リン化合物を用いずに難燃性UL 94 V-0を達成す
られる。そのため従来は難燃化に必要な量を充填した場合,
ることとした(図1)
。
鉛フリーはんだプロセスに対応可能な高い耐熱性を得ること
図2に示すように,エポキシ樹脂内に占める耐熱成分の比
はできなかった。そこで金属水酸化物を充填し,難燃性UL
率が高いほど難燃化に必要な臭素(Br)含有量を少なくでき
94 V-0を維持したまま耐熱性を向上させる手法として,金属
る。本開発の樹脂系は,樹脂骨格中に占める耐熱成分の比率
水酸化物に対して界面制御技術(FICS)を適用した。本開発
が高く基板の難燃化に大きく寄与している。さらに,樹脂組
のFICSは金属水酸化物の表面に嵩高い応力緩和処理層を形成
成物中にリン化合物を含んでいないため耐熱性が高く,かつ
するもので,金属水酸化物中から水分が発生しても樹脂に直
接ダメージを与えることがない。そのため実装温度領域にお
いて水分発生に起因した樹脂クラックが抑制され,表1に示
すように未処理と比較してFICSは耐熱性が大幅に向上する。
フィラー
また,高耐熱性金属水酸化物とFICSを併用すると,さらに耐
難燃性
低熱膨張率
高弾性率
熱性のレベルが向上する(表1)
。
さらにFICSは,フィラーの高分散性を発現し,フィラーを
高充填化した際に発生する樹脂ワニスの粘度上昇を抑えるこ
高耐熱性樹脂
とができる。図3に示すように,FICSを用いたフィラー高充
難燃性
高耐熱性
填化ワニスの粘度は未処理と比較して,回転数に関わらず非
常に低いことがわかる。このため,樹脂にフィラーを高充填
化しても,ガラス基材への良好な含浸性を実現し,この材料
界面制御(FICS)
表1 フィラー高充填基板のはんだ耐熱性 FICSは優れた耐熱性を発現
高耐熱性
(嵩高い応力緩和処理層)
フィラー高分散性
樹脂―フィラー界面接着性
する。
Table 1 Solder heat resistance of highly filled printed wiring board
The FICS can afford higher heat resistance.
図1 MCL-E-679FGの開発コンセプト MCL-E-679FGの難燃性は高耐
熱性樹脂と,独自の界面制御技術(FICS)を用いたフィラーの高充填化によ
金属水酸化物
単位
はんだ耐熱性
260℃
s
60-100
>600
>600
(float)
288℃
s
10-30
200-300
>600
(未処理) (FICS)
(FICS)
2.0
35
30
25
ワニス粘度(Pa・s)
難燃性(V―0)
に必要なBr量(%)
高耐熱性
測定条件
り発現する。
Fig. 1 Concept for developing MCL-E-679FG
MCL-E-679FG will have excellent flame retardant property depending on
high-heat-resistant resin and the FICS-based filler treating technology.
金属水酸化物 金属水酸化物
項 目
20
15
10
1.5
未処理
1.0
処理(FICS)
5
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
0.5
0
エポキシ樹脂内の耐熱成分比較
(%)
10
20
30
40
50
60
測定回転数(rpm)
図2 必要な臭素量とエポキシ樹脂の耐熱骨格の関係 V-0を達成する
図3 フィラー高充填ワニスの粘度特性 FICSは高充填化ワニスの低粘
ために必要な臭素の量は耐熱成分を多く含むエポキシ樹脂ほど少ない。
度化に有効である。
Fig. 2 Relationship between the amount of bromine required and that of heatresistant elements in the epoxy resin
The ratio of bromine to heat-resistnat epoxy resin required for attaining V-0 is
very small.
Fig. 3 Viscosity of highly filled varnish
The FICS is effective in decreasing the viscosity of highly filled varnish.
32
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
で作製した基板の耐CAF(Conductive Anodic Filament)性は
行い,AEで解析した場合,低振幅側から樹脂の微小クラック,
非常に良好である(図4)
。
樹脂−ガラスクロス界面の剥離,樹脂−フィラー界面の剥離
の順で分布する6)。FICSの適用の有無でAE解析を行った結果
FICSの適用の有無による樹脂とフィラーの界面接着性を,
アコースティックエミッション(以下,AEと略す)で解析し
を図5に示す。未処理では樹脂−フィラー界面での破壊が目
た。AEは,材料の破壊試験において材料中の微視的な損傷,
立つのに対して,FICSを適用すると樹脂−フィラー界面での
樹脂亀裂,界面剥離等の不連続現象に伴って発生する弾性波
破壊はほとんど見られないことから,界面接着性が大きく向
を検出することができ,界面接着性の評価に有効であること
上していることが確認できた。推定される界面破壊機構の概
が知られている 5)。フィラーを充填した基板の引張り試験を
要を図6に示す。未処理ではまず樹脂−フィラー界面での破
1015
1014
1013
処理(FICS)
抵抗値(Ω)
1012
1011
測定条件
1010
印加電圧 100V
109
85℃85%RH
T/H壁間 0.3mm
108
未処理
図4 フィラー高充填基板の耐CAF性
107
FICSによりフィラーの分散性が向上し,優
れた絶縁特性を発現する。
106
Fig. 4 CAF resistance of highly filled printer
wiring board
The substrate adopting the FICS exhibits
excellent insulating characteristics due to the
high dispersion of filler.
105
0
500
1,000
1,500
処理時間(h)
未処理
処理(FICS)
ヒット数(hit)
250
250
樹脂―フィラー界面の破壊
200
200
150
150
100
100
50
50
0
40
50
0
60
70
80
90
振幅(dB)
図5 フィラー高充填基板のAE解析
40
100
樹脂―ガラスクロス界面の破壊
50
60
FICSでは樹脂−フィラー界面の破壊がほと
70
80
90
100
Fig. 5 Acoustic emission analysis of highly
filled printed wiring board
The substrate adopting the FICS has
hardly any destruction between resin and
filler, supporting that the adhesion of the
interface is improved.
伸び率
1.0∼1.5%
樹脂の微小クラック
1.5∼2.0%
未処理
樹脂
んど無く,界面接着性が改善されている。
処理(FICS)
破断部
フィラー
界面破壊
FICS
図6 推定破壊機構の概要 FICSでは
界面の表面処理層により,界面の接着性が
クラックの成長
高くなり,かつ界面近傍の応力を吸収する
ことができる。
Fig. 6 Presumed mechanism of destruction
In the FICS, interfacial surface treatment
layer improved the adhesion of the interface
and also reduced the stress at the interface.
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
33
壊が発生し,その破壊を起点として樹脂へとクラックが成長
とFICSの併用により開発したMCL-E-679FG(S)の一般特性
する。一方,FICSは界面接着性が高くフィラー表面の処理層
も同時に示す。
が界面近傍での応力を吸収することができるため,フィラー
MCL-E-679FGはハロゲンフリー,リンフリーで難燃性
を高充填しているにも関わらず,樹脂本来が持つ延性を十分
UL94 V-0を達成している。また図7および図8に示すように,
に引き出すことができると考えられる。
MCL-E-679FGの曲げ弾性率は現行のパッケージ用基板に比べ
〔3〕 MCL-E-679FG, MCL-E-679FG(S)の特性と特長
MCL-E-679FGの一般特性を現行のパッケージ用基板MCLE-679と比較して表2に示す。また,高耐熱性金属水酸化物
て1.2倍以上と高く,表面硬度は各基板温度において高いレベ
ルを維持している。このため,パッケージの薄形化によるそ
りの低減やワイヤボンディング接続工程の高速化等にも有効
である。
は難燃性と高耐熱性のほかに,高弾性率や低熱膨張率の特長を有している。
表2 MCL-E-679FGとE-679FG(S)
の一般特性 MCL-E-679FGとE-679FG(S)
Table 2 MCL-E-679FG and E-679FG(S)exhibit good flame retardant and high heat resistance, together with a high elastic modulus and low thermal expansion.
項 目
測定条件
単位
E-679FG
E-679FG
(S)
E-679
Halogen free
Halogen free
High-Tg FR-4
難燃性
UL-94
―
V-0
V-0
V-0
ガラス転移温度(Tg)
TMA法
℃
160-170
165-175
173-183
厚さ方向(Tg前)
ppm/℃
27-32
27-32
50-65
厚さ方向(Tg後)
ppm/℃
130-170
130-170
240-270
たて方向
GPa
27-29
27-29
22-24
バーコール硬度
200℃
―
48-50
48-50
40-45
吸水率
PCT 5h処理後
%
0.40-0.45
0.40-0.45
0.50-0.60
耐湿耐熱性(dipping)
288℃, 20s
―
PCT 5h OK
PCT 5h OK
PCT 1h OK
260℃
s
>600
>600
>600
288℃
s
200-300
>600
>600
ピール強度
12µm
kN/m
0.75-0.85
0.85-0.95
1.00-1.10
比誘電率
1GHz
―
4.6-4.8
4.6-4.8
4.2-4.3
誘電正接
1GHz
―
0.017-0.019
0.017-0.019
0.021-0.022
熱伝導率
A
W/m・K
0.79-0.83
0.79-0.83
0.30-0.40
熱膨張係数
曲げ弾性率
はんだ耐熱性(float)
注)上記表中記載のデータは代表的な実験結果であり,保証値ではありません。
80
30
E-679FG,
E-679FG(S)
75
E-679FG,
E-679FG(S)
曲げ弾性率(GPa)
E-679
25
E-679FG,
E-679FG
(S)
20
バーコール硬度
70
65
E-679
60
55
50
E-679
15
45
40
10
0
25
200
50
100
150
200
基板温度(℃)
温度(℃)
MCL-E-679FGとE-679FG(S)
の曲げ弾性率 MCL-E-679FGとE-
図8 MCL-E-679FGとE-679FG(S)
のバーコール硬度 MCL-E-679FG
679FG(S)
の曲げ弾性率は高Tg FR-4(E-679)よりも高い。特に200℃の高温
図7
とE-679FG(S)の表面硬度は高Tg FR-4(E-679)よりもさらに高いレベルであ
領域では1.2倍以上である。
る。
Fig. 7 Bending elastic modulus of MCL-E-679FG and E-679FG(S)
MCL-E-679FG and E-679FG(S)have higher modulus than the conventional
high-Tg FR-4(E-679):1.2 times higher at 200℃.
Fig. 8 Barber-Colman hardness of MCL-E-679FG and E-679FG(S)
MCL-E-679FG and E-679FG(S)have much higher surface hardness than
high-Tg FR-4 (E-679).
34
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
図 9 に 板 厚 方 向 の 熱 膨 張 特 性 を 示 す 。 開 発 品( MCL-E679FG, E-679FG
(S)
)は現行のパッケージ基板(MCL-E-679)
と比較して,フィラーの高充填化によりTg前後での熱膨張率
がそれぞれ約1/2と非常に小さい。このため,温度サイクル試
等に加え,フリップチップ接続を用いたハイエンドグレード
のパッケージにも対応可能な材料と考えられる。
〔4〕 結 言
高耐熱樹脂とフィラー,および耐熱性を発現する独自の界
験などのスルーホール接続信頼性の向上が期待できる。
MCL-E-679FG(S)はMCL-E-679FGの特性に加えて,さらに
耐熱性とピール強度が向上した基板である。特に,基板の両
面制御技術(FICS)の併用により,パッケージに対応可能な
MCL-E-679FGおよびMCL-E-679FG(S)を開発した。
面にビルドアップ層を配した層構成において,リフロー
MCL-E-679FGは,ハロゲン化合物,リン化合物を使用せず
(Max.260℃)で10サイクル以上通しても基板の膨れが発生せ
に難燃性UL 94 V-0を達成すると同時に,鉛フリープロセスに
ず,優れた耐熱性を発現する(表3)
。また,ピール強度も
も対応可能な高耐熱性や高弾性率,低熱膨張率を発現してい
向上しており,高い接続信頼性が期待できる。MCL-E-679FG
る。MCL-E-679FG(S)はMCL-E-679FGの特性に加えて,さら
(S)
は,今後の小形化,薄形化,高密度化するBGA(Ball Grid
に優れた耐熱性とピール強度を有しており,ハイエンドグレ
Array)
,CSP(Chip Scale Package)
,BOC(Board on Clip)
ードのパッケージにも適用可能と考える。
大
E-679
変位(板厚方向)
リフロー
試験領域での
変位差
熱サイクル
試験領域での
変位差
E-679FG,
E-679FG(S)
図9 MCL-E-679FGとE-679FG(S)
の
(S)
熱膨張特性 MCL-E-679FGとE-679FG
の熱膨張率は高Tg FR-4(E-679)の約半分
である。
Fig. 9 Thermal expansion of MCL-E679FG and E-679FG(S)
MCL-E-679FG and E-679FG(S)have a
thermal expansion about half that of high-Tg
FR-4 (E-679).
小
50
100
150
200
250
温度(℃)
表3
ビルドアップ層構成の耐熱性 MCL-E-679FG(S)
はビルドアップ層構成においても優れた耐熱性を発現する。
Table 3 Heat resistance of build-up PWBs
Build-up PWBs using MCL-E-679FG(S)showed excellent heat resistance.
項 目
サイクル数
MCL-E-679FG
MCL-E-679FG
(S)
3
○○○
○○○
5
○○○
○○○
10
×××
○○○
層構成
銅
リフロー耐熱性
ビルドアップ層
(Max.260℃)
基板
ビルドアップ層
○:膨れ無し
×:膨れ発生
(n数:3)
銅
参考文献
4)武田,外:高弾性・低熱膨張材 MCL-E-679F,日立化成テクニカ
1)西村:鉛フリーはんだ問題点と実用化状況,実装技術,8,26-29
ルレポート,32,29-32(1999)
5)大塚:複合材料の非破壊検査−2.アコースティックエミッショ
(2004)
2)佐藤:SiP実装技術,エレクトロニクス実装学会誌,2,111-115
ン,日本複合材料学会誌,3,102(1984)
6)島岡,外:アコースティックエミッションを用いた樹脂−充填剤
(2004)
3)高根沢,外:次世代パッケージ基板用ビルドアップ材料 AS-11G,
日立化成テクニカルレポート,41,35-38(2003)
界面接着性の解析,MES 2000(第10回マイクロエレクトロニク
スシンポジウム)論文集,139-142(2000)
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
35
製品
紹介
環境対応高周波多層材料
MCL-EX-77G MCL-LZ-71G
情報通信分野の電子機器で使用さ
伝送損失の大幅な低減が可能です。
ては,さらに高速用PKG用途への展
れる信号の高速大容量化(高周波数
いずれの開発品も低熱膨張率(CTE)
開が期待されます。
化)が進んでいます。これらの機器
であり,耐CAF性も良好で信頼性の
に搭載される基板材料には,信号の
高い材料です。
高周波数化対応として低誘電率,低
これらの開発品はネットワーク関
誘電正接化が求められています。ま
連機器,携帯電話基地局,高周波部
た,環境に対応した電子機器の要求
品等の用途と,MCL-EX-77Gについ
(配線板材料事業部)
もあり,基板材料には鉛フリーはん
だに対応できる高耐熱化やハロゲン
フリー化が求められています。
表1
このような背景から当社では,優
れた誘電特性を維持しつつ,ハロゲ
ンフリーで高耐熱性(高Tg)を実現し
環境対応高周波多層材料MCL-EX-77G,MCL-LZ-71Gの特性
項 目
条 件
単 位
MCL-EX-77G
MCL-LZ-71G
難燃系
−
−
ハロゲンフリー
ハロゲンフリー
比誘電率
1GHz*1)
−
3.7∼3.9
3.5∼3.7
1GHz*1)
−
0.011∼0.013
0.005∼0.007
1GHz*2)
−
0.008∼0.010
0.004∼0.006
DMA法
℃
210∼220
210∼220
TMA法
℃
160∼170
165∼175
Z ( < Tg)
ppm / ℃
40∼50
40∼50
T-288*3)
min
>10
>20
288℃ 10 s float*4)
cycle
>10
>10
−
OK
OK
>1,000
>1,000
誘電正接
た,環境対応高周波多層材料MCLTg
EX-77G,および MCL-LZ-71Gを開
発しました。
CTE
MCL-EX-77Gはミドルレンジの通
耐熱性
信分野に適合した誘電特性で,高い
Tgを有しており,耐熱性に優れて
吸湿耐熱性
います。MCL-LZ-71Gはさらに優れ
耐CAF性
PCT 2 h+
260℃ 20 s dip
85℃ 85%RH,100 V
h
たハイレンジの通信分野に適合した
*1)
トリプレートライン共振器法
誘電特性を有しており,GHz帯での
表1のデータは当社における代表的な測定値であり,保証値ではありません。
*2)
マテリアルアナライザー法
*3)
IPC-TM650 2.4.24.1
*4)
22層板
高耐熱多層用材料 MCL-E-679F(J)
近年,環境問題への関心が高まり,
て,膨れなどの異常がみられませ
してきましたが,高多層分野ではさ
ん。
電子機器に使用される物質の規制が
らなる高耐熱,高信頼性化の要求が
強化されています。この流れを受け,
高まっています。そこで,独自の界
(2)基材の熱膨張係数を現行材より
プリント配線板には,鉛フリーはん
面処理技術による無機フィラーの均
約30%低減したことにより,スルー
だが使用されるようになってきまし
一分散により,樹脂の低熱膨張化を
たが,従来のはんだに比べ融点が高
図り,高信頼性化を実現した,高耐
いため,プリント配線板に使用され
熱多層用材料MCL-E-679F(J)を開発
る基板材料には,高い耐熱性が要求
しました。
されます。この要求に対し,当社で
は,高Tg多層材料MCL-E-679を上市
ホール信頼性に優れています。
(3)張り合わせ高多層板作成時の
IVH穴埋め性に優れています。
今後,これらの特性を生かし,高
多層分野,車載分野への展開が期待
本材料の特長
されています。
(1)
鉛フリー対応の試験条件である,
(配線板材料事業部)
288℃のはんだフロート試験におい
表1
t1.6 mm
プリプレグ樹脂で
IVH穴埋め
プリプレグ層
(t0.1 mm×2 ply)
図1
張り合わせ4層板のIVH穴埋め性
(t1.6 mmの基板2枚をt0.1 mmのプリプレグ2
枚で張り合わせた4層板,IVH径0.3 mm,壁
間1.27 mmピッチ)
高アスペクト比のビア内でも穴埋め性は良好です。
36
MCL-E-679F(J)
の特性
高Tg FR-4
項 目
条 件
単 位
MCL-E-679F(J)
はんだ耐熱性
288℃,10 sフロート
cycle
>10
7
T-288
−
min
>20
>20
170-175
173-183
195-205
205-215
ガラス転移温度
TMA法
(Tg)
DMA法
熱膨張係数
厚み方向(<Tg)
(CTE)
厚み方向(>Tg)
スルーホール信頼性
℃
-65℃,30 min ⇔
150℃,30 min
耐電食性
85℃,85%RH,100 V
(耐CAF性)
壁間0.3 mm
35-45
50-60
180-240
200-300
cycle
>1,000
600
h
>1,000
>1,000
ppm/℃
表1,図1のデータは弊社における代表的な実験結果であり,保証値ではありません。
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
製品
紹介
粘着テープ用背面処理剤
テスファインシリーズ
粘着テープの背面やラベルの台紙
コーン変性背面処理剤は導入するシ
以上のように離形層にテスファイ
には , 離形処理が施されています。
リコーンの構造や量により離形層の
ンシリーズを用いることで容易に表
一般にはシリコーン樹脂が塗工され
表面自由エネルギーをコントロール
面自由エネルギーを制御できるた
ていますが,粘着テープの多機能多
することができ,剥離性を調整した
め,従来の粘着テープ用途だけでな
用途化に伴い,離形層にもシリコー
り,筆記性(図2)を持たせたりす
く,近年要求性能が多様化している
ンでは発現できない中∼重剥離性や
ることがでます。一方,非シリコー
様々な粘着加工製品に対応できま
筆記性という特徴が求められるよう
ン系背面処理剤はアミノアルキド樹
す。特に非シリコーン系剥離剤はシ
になりました。
脂に表面自由エネルギーの低い長鎖
リコーンの移行がなく電子材料用途
当社ではこれらの要求に対応した
アルキル基を導入し,剥離性を発現
の粘着加工製品に好適で,将来の需
背面処理剤テスファインシリーズを
しています。長鎖アルキル基の炭素
要の伸びが期待されます。
上市しています。
(表1,図1)テ
数や量により,剥離性能をコントロ
スファインシリーズは,主成分とな
ールすることができます。またこれ
るアミノアルキド樹脂にシリコーン
ら背面処理剤は熱架橋型で,基材上
を少量( 5wt% 以下)変性したシリ
で三次元架橋構造をとることによ
コーン変性背面処理剤と,シリコー
り,粘着層への離形成分の移行が少
ンを一切使用しない非シリコーン系
なく,紙,フィルムなど基材との密
背面処理剤から構成されます。シリ
着性に優れています。
表1
(日立化成ポリマー株式会社)
テスファインの性状と表面特性
非シリコーン
シリコーン変性系
単 位
項 目
TA31-209E TA31-086
性 状
表面特性
319
TA31-082A
テスファイン テスファイン テスファイン
備 考
305
303
加熱残分
%
45
45
45
45
50
48
61
108℃×3h
粘度
mPa・s
75
75
75
75
60
40
220
B型
(25℃)
表面自由エネルギー
mN/m
22.4
24.6
27.8
30.5
29.0
31.3
34.8
剥離力
N/50mm
1.1
2.2
3.3
4.3
4.9
7.4
13.2
筆記性
−
×
×
×
○
△
○
○
15
剥離力(N/50mm)
テスファイン
(長鎖アルキル基変性)系
314
接触角計
アクリル系
粘着剤
油性インキ
テスファイン314
PET
10
長鎖アルキル基変性
アミノアルキド樹脂系
テスファイン303
5
0
テスファイン305
一般的な
TA31-082A
シリコーン樹脂系
テスファイン319
TA31-086
TA31-209E
シリコーン変性アミノアルキド樹脂系
20
25
30
35
表面自由エネルギー
(mN/m)
テスファイン
シリコーン樹脂
塗工品
塗工品
(TA31-082A)(市販クラフトテープ)
図2 筆記性
40
図1 テスファインの表面自由エネルギーと剥離力
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
37
製品
紹介
分解性ラップフィルム エレージュ
プラスチックによる環境汚染対策
終的には微生物により水と二酸化炭
植物生育に悪影響を与えたりしない
の1つとして,生分解性樹脂を原料
素にまで分解する分解性樹脂の開発
環境への負荷の少ないラップフィル
とした種々の製品が開発されていま
に成功しました。この分解性樹脂を
ムです。また基本機能に優れ,一般
すが,これらの樹脂には高価で成形
用いて,開発されたのが分解性ラッ
のラップフィルムと同様にご使用い
性および保存安定性が悪いなどの問
プフィルム エレージュです。
ただけます。
題がありました。そこで当社ではポ
分解性ラップフィルム エレージ
環境適応製品として,分解するラ
リエチレン等の安価な汎用樹脂をベ
ュは誤って自然界に放出・廃棄され
ップフィルムの第一号として期待さ
ースに,安価で成形性および保存安
てしまっても,太陽の光と熱および
れています。
定性に優れた分解性樹脂の開発を行
微生物によって分解され,自然環境
い,熱と光により分解が進行し,最
中に長年残存して美観を損ねたり,
使用中
(日立化成フィルテック株式会社)
紫外線,
熱による分解,
樹脂の低分子化 微生物の働きによる生分解
第一段階:3ヶ月∼6ヶ月
図1
38
分解性ラップフィルム エレージュ
図2
分解性ラップフィルム エレージュ分解機構
日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)
第二段階:1年∼2年
水
と
二
酸
化
炭
素
編集後記
お問い合わせ先
今回は日立化成グループの有機系高機能材料製品の技術論文
を取り上げました。お客様の多様なニーズに合わせてこれらの
製品開発を進めるには,これまで培ってきたプラットホーム技
術に科学的知見をうまく組み合わせることが重要です。ごらん
頂いたように,これまで培ってきたフィルム技術にプラスチッ
クの分解メカニズムを組み合わせることや,塗料樹脂技術や耐
熱性樹脂技術に分子間会合や分子内会合のメカニズムを組み合
わせることで,相反する製品特性の両立を実現してきました。
今後も製品開発に直結するプラットホーム技術の育成と科学的
知見の深耕に努めて,お客様の多様なニーズにお答えしていこ
うと考えています。
Y.T.
・掲載事項に関するお問い合わせにつきましては,弊社
インターネットホームページの下記アドレスのお問い
合わせフォームをご利用くださるか,または下記事務
局までお問い合わせください。
お問い合わせページアドレス:
https://www.hitachi-chem.co.jp/cgi-bin/contact/other/toiawase.cgi
・「製品紹介」に関するお問い合わせにつきましては,弊
社インターネットホームページの下記アドレスの各製品
紹介をクリックして,お問い合わせフォームをご利用
ください。
製品紹介ページアドレス:
http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/products/index.html
編集委員
相
原
章
雄
板
橋
雅
彦
市
村
茂
樹
大
森
英
二
岡
関
泰
幸
塚
越
功
坪
松
良
明
戸
部
豊
男
中 島 文 一 郎
村
昌
彦
中
村
吉
宏
中
山
憲
一
沼
田
俊
一
藤
岡
厚
堀
部
治
前
川
麦
山
寺
隆
横
澤
舜
哉
太
田
文
彦
宮
崎
安
弘
日立化成テクニカルレポート 第45号
発 行
発
行
2005年 7月
元 日立化成工業株式会社
3346−3111
(大代表)
〒163-0449 東京都新宿区西新宿二丁目1 番1 号
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事務局 研究開発本部 研究開発推進グループ 電話
(03)
5381-2389
編集・発行人 義之
印
刷
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