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第4章 大気汚染常時監視システム

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第4章 大気汚染常時監視システム
第4章
大気汚染常時監視システム
大気汚染防止法では、都道府県知事の義務として大気汚染の状況を常時監視して、その結果を公表
すると共に、必要に応じて緊急時の措置をとることが定められている。このため、我が国のほとんど
の都道府県及び政令指定都市において、大気汚染常時監視システム(以下常時監視システムという)
が体系化されている。
常時監視システムにおいては、データ収録にテレメータによるオンライン・リアルタイム処理を導
入しており処理・記録されたデータは以下の事項に活用されている。
① 汚染状況を迅速に把握し、人の健康に影響する緊急事態に対処する。
② 広域的な汚染状況を把握するために近隣の地方自治体、あるいは、気象官署とのデータ交
換を行う。
③ 街頭表示盤やテレフォンサービスあるいは放送などを通じて、大気汚染状況を地域住民に
周知する。
④ 測定機の稼働状況を集中監視し、故障などに対処する。
また、収集された測定値は、第5章のデータの確定過程を経て、その評価がなされた後、大気汚染
状況の常時監視結果として公表されている。
本章では、常時監視システムを構成するハードウェアとソフトウェアに関するシステム設計上の要
件及びシステムの運用と維持管理について示す。
図4-1 常時監視システムにおける情報の流れ
- 301 -
1.ハードウェア
常時監視システムは、図4-2に示すように各測定局での測定機以降概ね、①データ伝送系、②データ
処理系、③データ交換系、④同時通報系の4つのサブシステムから構成されている。
常時監視システムでは、各種の自動測定機の測定値を1箇所で集中監視するため、測定機設置場所
から監視センター等にデータが伝送されている。さらに、このデータから1時間値として時報・日報
などを作成するためのデータ処理が、24時間連続的に行われている。
これらの常時監視システムはテレメータシステムと呼ばれ、一般に測定機設置局は測定局、観測局あ
るいは子局、集中監視局は中央局あるいは親局などと呼ばれている。
1.1
データ伝送系(収集系)
各地に設置した測定局と監視センターの中央局との間でデータ通信を行うシステムがデータ伝送
系であり、図4-2のとおり、!テレメータ子局(観測局)装置、"伝送路、#テレメータ親局(中央
局)装置などから構成されている。
データ伝送系の主な役割は次の2つである。
① 測定機のデータを、監視センターにオンライン・リアルタイムで伝送する。
② 保守点検などで通話する。
(1)伝送路
伝送路は、親局と子局の間でデータ伝送及び通話するための通信回線であり、有線回線と無線回
線に大別される。
データ伝送系(収集系)
測
定 ‰
機
データ処理系(解析系)
テ
伝
中
伝
テ
レ ‰ 送 ‰ 継 ‰ 送 ‰ レ ‰
メ
路
局
路
メ
|
|
記
タ
タ
録
子
親 · 計
局
伝
局
装
装
‰
送
‰
装
置
置
路
置
Â
操作卓
„
‰
オ
ン · オフライン
ラ
データ処理装置
イ
ン · データ表示装置
デ
| · 街頭表示盤
タ
処
理 ‰ データ転送装置
装
Â
置
他の監視センター
„
データ交換系
同時通報装置
Â
緊急時措置対象工場・事業所、関係機関などへ
同時通報系
図4-2
常時監視システムの構成例
- 302 -
1)有線回線
常時監視に用いられている有線回線としては、日本電信電話株式会社(NTT)の専用線の内で、
帯域品目の3.4 KHz規格あるいは、3.4 KHz(S)規格の専用線(以下専用線という)及び加入電話
回線がある。
① 専用線
専用線は、回線使用料金が回線距離で定まる定額制であり、回線の使用頻度が多いことと、
親局と子局の接続時間が不要である点から、従来から採用されている。専用線は、0.3~3.4 K
Hzの伝送周波数帯域をデータ伝送、電話、ファクシミリ通信などの目的に、単独であるいは、
周波数帯域の分割や交互切り換えにより組み合わせて使用できる回線であり、常時監視業務に
不可欠な音声通報や保守用連絡通話などをデータ伝送と同時に行うこともできる。測定局が広
範囲に分布している場合には、隣接した測定局をグループ化し、その中の1つの局を親局とグ
ループ内の他の測定局との中継局として用いて、回線使用料金を軽減する方法もある。
② 加入電話回線
加入電話回線は、回線使用料金が度数で定まる従量制であり、回線の使用頻度と接続時間が
少ないシステムでは経済的である。おおまかにいえば、1時間に1回の呼び出しで専用線と加
入電話回線の料金が同程度となる。
加入電話回線を使用する場合には、次の点に留意する必要がある。
・ 専用線のように親局と子局が直結されていないので、親局の自動ダイアルよって子局を呼び
出すまでのダイアリング時間が必要となり、データ収集に要する時間が専用線より長くかかる。
・ 通話で使用している場合の話し中や、災害時などの通話集中や電話交換機の故障などにより
伝送不能となることがある。
・ 間違い電話がかかることある。
③ 回線の使用手続
NTTの回線を使用するためには、NTTとの間に回線使用契約を結ぶ必要がある。また、使用す
る端末装置がNTTの標準でない場合は、(財)電気通信端末機器審査協会で郵政省令やNTTが定
めた技術基準などに適合するかどうかの認定を受けなければならない。さらに、利用者とNTT
の責任分界を明確にするために、利用者側の端末装置類とNTTの電気通信設備の間に分界点を設
定することと、これらが容易に分離できることが郵政省令で定められている。
2)無線回線
測定局が広範囲に分布している場合には、有線回線では回線使用料金が高額になることもあり、
伝送路として無線回線が採用されていることが多い。無線回線の場合は、400 MHz帯域の公害監視
用の電波(公害波)を使用する単一無線回線と多重無線回線(防災行政無線)が使用されているが、
さらに、これら双方の無線を使用して伝送路を構成している場合もある。無線回線は、電波法で免
許や検査などが規定されているため、次の事項に留意する。
① 無線局の開設
郵政省電気通信監理局に開設申請し、免許を受けること。また、設置後も定期的に免許を更
新すること。
② 机上設計
無線回線の設置に当たっては、プロフィールの作成、中継局の位置の選定、使用アンテナ型
- 303 -
名、アンテナの高さ、無線機出力、伝播損失、受信入力電圧などを計算して、予め机上での設
計を行う。
③ 電波伝播試験
机上設計で得られた計算値と電波伝播試験で得られた実測値を比較検討し、中継局の位置や
アンテナの高さの変更、あるいは一部有線回線を使用することなどの検討を行う。
④ 無線従事者免許の取得
無線設備の運用には、その内容に適合した電波法指定の資格取得者が必要である。
⑤ 400 MHz帯のナロー化
電波法関係法令(昭和59年9月13日郵政省令第37号)により、25 KHz間隔で従来割り当てら
れていた400 MHz帯の電波が、12.5 kHz間隔となる狭帯域(ナロー)化が実施された。
(2)伝送方式
1)信号変換方式
測定機からのアナログ信号やパルス信号を伝送路にのせる信号変換方式としては、測定量を電
圧などの物理相似量に変換するアナログ方式と測定量を数値符号に変換するデジタル方式がある
が、アナログ方式はノイズに弱く信頼性が低いので採用されてなくなってきており、誤り訂正機
能を持ち信頼性の高いデジタル方式が用いられている。
2)データの数値表現
測定値をデジタル変換した数値表現としては、16進数(0~F)の10進数部分を用いる2進化
10進数3桁(0~999)が用いられていたが、A/D変換器の分解能に対応して、2進数12桁(0
~4095)あるいは16桁(0~65535)も採用されてきている。
3)伝送速度
回線規格により異なるが、50~64,000 BPSの伝送速度が使用されている。有線回線で200 BPS以
下の場合は周波数帯域分割により、データ伝送と通話の同時使用が可能である。
なお、測定値の伝送の前後には親局と子局の間で通信の前処理と後処理が行われるため、実際
のデータ収集速度は、伝送速度の比ほどには速くならない。
4)通信方式
親局と子局の通信方式として一般的なポーリング・セレクション方式では、親局から各子局に
順次呼び出し信号(ポーリング信号)を送って子局を動作させ、子局に接続されている測定機の
出力を順次デジタル変換して、親局に伝送している。このように、1つの親局に接続されている
多数(N局)の子局が、親局により順次呼び出され(1:N方式)、時分割によりデータ伝送が
行われるため、情報量が多い場合には、1項目当たりの費用が経済的になる。ただし、この方式
では子局数が多くなると全データの収集時間が長くなるため、最初と最後に呼び出される子局の
間に時間差を生じ、伝送系としての応答性が遅いという欠点がある。
この対策としては、親局を複数化(n個、ただしn<N)して、それぞれの親局にグループ化
した子局を対応させる方法がある(n:N方式)。この場合、親局装置そのものを複数設置する
方式と、親局の収集機能をユニット化して複数のユニットで1個の親局装置を構成する方式とが
ある。複数の親局(又は親局ユニット)で一斉に子局を呼び出し、子局で事前に収集したデータ
- 304 -
を伝送する方式を採用すると、30~40秒程度で全局のデータ収集が可能となる例もある。
5)ポーリング方式の通信手順
一般的なポーリング方式の通信手順は、次のとおりである。
① 親局では、システム時計から一定間隔(3分、5分、10分、1時間など)で出されるトリ
ガー信号により子局呼び出し機能が動作する。
② 第1番目の子局が呼び出され、その子局からデータの受信待ちとなる。
③ 各子局では、常に受信状態で親局からの呼び出し信号を待っている。
④ 各子局には、固有の識別番号(局番)がつけられている。親局からの呼び出し信号にはこ
の局番が含まれており、子局では自分の局番であるかどうかを確認して、該当する子局のみ
が親局の呼び出しに応ずる。
⑤ 子局は、呼び出されると直ちに送信状態になり、各測定機の測定値を親局に送信する。
⑥ 子局は、送信が完了すると再び受信状態に戻る。
⑦ 親局では、呼び出しされた子局から送信されてきたデータについて、次の確認を行い、結
果に問題がなければ次の子局を呼び出す。
・返送局番照合確認
親局から子局が呼び出される時に、子局が自分の局番を親局に送信(返送)することに
より、親局側で呼び出した子局であるかどうかを確認する。
・水平・垂直パリティチェック
子局から送信するデータをまとめて2次元のビット行列を作り、この行列の水平及び垂
直方向について、”1”のビットの総数が常に奇数(又は偶数)となるように、誤り検定
用のパリティビットを付加してデータを伝送し、受信側で両方向の奇数(又は偶数)検査
を行うことにより、伝送過程でのデータの誤りの有無を確認する。もし、これらの確認で
誤りが発見されたり、呼び出した子局から応答がなかった場合は、一定回数同一子局を再
呼び出しする。
⑧ 親局は順次各子局のデータを収集する。
⑨ 親局は、最終子局のデータを収集し終えると、時計から次のトリガー信号が出されるまで
は休止状態に入る。
(3)通話
親局と子局及び中継局の間で、保守点検や伝送精度の確認などのために、テレメータ装置に付属
する電話器が使用されている。
有線回線の場合は、データ伝送と通話が同時に可能な周波数帯域分割方式、あるいは交互切り換
え方式が採用されている。単一無線回線では、データ収集時以外の空き時間を利用したプレストー
ク方式が採用されている。いずれにしてもデータ収集を優先し、データ収集に影響を及ぼさない方
式にする必要がある。
(4)測定機とテレメータ子局装置とのインターフェース
常時監視システムにおける測定機とテレメータ子局装置との間の信号のインターフェースは、次
の仕様が標準になっている。
- 305 -
1)測定信号
測定機の測定データの出力(テレメータ出力)は、アナログ信号とパルス信号が一般的である。
①アナログ電圧信号
出
力
電
圧:DC 0~1V
出力インピーダンス:500Ω以下
入力インピーダンス:100KΩ以上
ただし、測定機によっては、出力電圧がDC 0~1V以外の場合もあるので、入力電圧の
範囲が変えられるように設計することが望ましい。
なお、入力電圧がDC 0~1Vで設計されている場合で、放射収支計のように原理的にマ
イナスの電圧が発生する測定機を接続する時は、測定機と子局装置の間に定電圧発生装置を
挿入して、適当なプラスのバイアス電圧を付加することにより、全体としてプラスの電圧に
なるように調整する必要がある。
②パルス信号
出力形態:無電圧閉接点
接点容量:DC 50V、0.1A
パルス幅:100~150 msec.程度
パルス信号の例としては、浮遊粉じん(浮遊粒子状物質)自動測定機では1μg/‰を1パ
ルス、車輌通過台数計では1台(又は10台)を1パルスとしている。
2)測定機からの状態監視信号
測定機からテレメータ子局装置に対しては、測定レンジや測定機の稼働状況を示す状態監視信
号が、次の形式の接点信号として出力される。
出力形態:無電圧閉接点
接点容量:DC 50V、0.1A
状態監視信号としては、電源断、調整中、レンジ切り換えなどが一般的であるが、このほか表4
-1に示すように、測定機の種類により各種の状態監視信号がある。ただし、測定機によっては、
幾つかの測定機アラーム状態の信号をまとめて、アラーム信号としている場合もある。
3)測定機への制御信号
テレメータ子局装置から測定機に対しては、リセット信号、子局停止信号などが表4-2に示す形
式の接点信号として出力される。
① リセット信号
測定機や平均化装置、積算計などをリセット状態に戻すための信号である。親局がリセット
動作を制御するシステムの場合は、親局からの測定機リセット要求信号を受信すると、子局は
各測定機にリセット信号を出力する。もし、測定機リセット要求信号が前回の受信から1時間
以上経過しても受信されない場合は、子局の内蔵タイマーによりリセット信号が出力される。
また、常に子局の内蔵タイマーによりリセット動作を行う方式もある。
② 子局停止信号
テレメータ子局に障害が発生して子局が停止すると、各測定機に対して子局停止信号が発信
されて、リセット動作は測定機の内蔵タイマーによって制御される。
③ 自動校正開始信号
- 306 -
自動校正機能を持つ測定機に対しては、自動校正開始信号を出力することも可能である。
表4-1
分類
測
定
機
ア
ラ
|
ム
そ
の
他
信
号
項
測定機から出力される状態監視信号の例
目
内
容
電源断
校正不能
セル出力劣化
計量不良
異常値
大気流量
フィルタ詰まり
フレーム断
ガスポンプ停止
テープ断
電源が切れた。
ゼロ調整時、スパン調整時に校正範囲を超えた。
比色セルの出力電圧が低下した。
NOx計などの吸収びんに吸収液が計量されない。
NOx計などでマイナス指示となった。
大気流量が規定値より大幅に過不足となった。
フィルタが詰まった。
HC計のフレームが消えた。
SPM計のガスポンプが停止した。
SPM計のろ紙が切れたりなくなった。
レンジ切り換え
調整中
校正中
ろ紙移動
測定レンジを示す。
調整作業を実施中。
自動校正を実施中。
SPM計のろ紙が測定周期内で移動した。
注)NOx:窒素酸化物、HC:炭化水素、SPM:浮遊粒子状物質
表4-2
信号種類
出力形態
リセット
子局停止
自動校正開始
無電圧閉接点
無電圧開接点
無電圧閉接点
子局装置から出力される制御信号
接
点
容
量
DC 50V,0.1A
DC 50V,0.1A
DC 50V,0.1A
接点開閉時間
接点閉時間は500ミリ秒程度
子局停止時は接点開が継続
(5)テレメータ子局装置
1)基本機能
テレメータ子局装置は測定局内に設置されており、次の3つの基本的な機能を有している。
① 測定機からの測定信号や状態監視信号を受信して、指定されたフォーマットに加工編集し
て親局に送信する。測定信号を数値化する演算機器としては、アナログ電圧信号をデジタル
変換するA/D変換器、及びパルス信号を積算するパルスカウンタが用いられている。
② 測定機に制御信号を送信する。
③ 電話器により親局などと通話する。また、親局から定期的に発信される時刻校正信号によ
り、親局のシステム時計と時刻を一致させるための時刻校正機能もある。
なお、最近では子局装置のインテリジェント化に伴い、次の付加機能を装備する装置も採
用されている。
④ 内蔵メモリによるデータバックアップ
- 307 -
⑤ データ表示
⑥ 1時間値をそのままとる装置もある。
2)測定項目数
常時監視では、表4-1に示す測定項目の中から7~15項目程度を測定している例が多く、試料
大気流量や将来の測定項目の増加も考慮すると、システム設計上は最低20項目以上を処理できる
ことが必要である。
3)接点信号
システム設計に際しては、状態監視信号数の最大値を設定しなければならないが、測定機の種
類によって信号の種類及び数が異なるので、1項目当たりだけで設定すると項目数倍となるため、
1局当たりでは多数の接点数が必要となり、実際の接点数に比べて過大な設計となる可能性があ
る。この対策としては、項目ごとに接点数を可変とし、1項目当たりの最大値と1局当たりの延
べ接点数の最大値の2つを設定することにより、1局当たりの接点数を適正な規模に抑えること
が可能である。
1項目当たりの接点信号数としては、将来の余裕を見て16ビット程度は必要であるが、状態監
視信号が多くなると、多数の信号線が必要となり、子局装置への接続が煩雑になる。この対策と
しては、測定機からの多数の信号線をひとまとめに接続した50ピンなどのケーブルコネククター
を利用して、子局装置に接続する方法がある。
なお、調整中信号については、調整中信号がない測定機もあるので、子局側にマニュアルで設
定できる調整中スイッチがあると便利である。ただし、スイッチを切り忘れた場合に備えて、リ
セット時に自動的に解除したり、あるいは演算時に無視できる機能を付加することが望ましい。
項目ごとに調整中と測定機アラーム状態を表示できる2つのランプを子局装置に設けている
例もあり、測定機の保守点検の終了時には、これら2つのランプが消灯していることを確認して
から、退出する方法もある。
図4-3に状態監視信号を含むテレメータデータのフォーマットの例を示す。
アナログ項目の場合
項目番号
8ビット2進数
0~255
0ビット
7 8
状態監視信号の並び
16ビット列
0又は1
レンジ信号 アナログ測定信号
4ビット列 12ビット2進数
同左
0~4095
23 24
27 28
39
パルス項目の場合
項目番号
8ビット2進数
0~255
0ビット
7 8
状態監視信号の並び
16ビット列
0又は1
パルス測定信号
16ビット2進数
0~65535
23 24
※第0項目は測定局に関する情報を示す
図4-3
テレメータデータのフォーマットの例
- 308 -
39
4)データバックアップ機能
親局あるいはデータ処理系の停止に備えて、子局が収集したデータをバッテリーバックアップ
されているRAMなどに常に一定期間収録しておくことが望ましい。なお、収録可能な期間は、メ
モリ容量及び実装項目数、1時間当たりの収集回数、1項目当たりのバイト数で定まるが、年末
年始等の無人期間を考慮して、1週間程度は収録可能なように設定する
5)データ表示機能
伝送精度を確認するために、次に示すデータを液晶画面などに表示できることが望ましい。操
作方法は、メニュー選択方式などを採用して簡単で分かりやすくする。
① 現在子局に送られている測定データ及び、状態監視信号
② 定時呼び出し時あるいは、任意呼び出し時に親局に送信したデータ
③ 現在までに子局のメモリに蓄積されている任意時刻のデータ
6)保守用インターフェース
子局の設置調整、保守点検、システムの改造時には、保守用の端末装置を用いて作業すること
が多くなっているので、RS-232Cなどの通信インターフェースを装備することが望ましい。
(6)テレメータ親局装置
テレメータ親局装置は、予め定められた時間間隔と順序に従って子局を呼び出し、自動的にデー
タを受け取り(定時呼び出し)、これをデータ処理系へ渡している。もし、送られてきたデータに
誤りがあったり、子局が応答しない場合は、再呼び出しや次の子局への飛び越しなどの制御を行っ
ている。また、定時呼び出しの他に、定時呼び出し時以外の空き時間に任意の子局を呼び出す任意
(随時、特定)呼び出しも可能であり、伝送データの精度確認などに用いられている。親局装置に
内蔵されているシステム時計は、オンラインシステム全体の時刻の基準となるものであるから、子
局装置及びオンラインデータ処理系の時計は、常にシステム時計と一致している必要がある。この
ため、プログラムにより定期的にこれらの時計を確認して、常にシステム時計に一致させる機能が
必要である。このほか、データ処理系の停止時に備えて、呼び出した子局のデータを内蔵の磁気デ
ィスク装置に蓄積しておくバックアップ機能や、1時間値の演算処理機能を持つ装置もある。
なお、子局と同様に親局にも、点検調整用の端末装置を接続するための、RS-232Cなどの通信イ
ンターフェースを装備することが望ましい。
(7)操作卓
親局にはシステムの稼働状態の表示や子局との通話などを行う装置として、専用の操作卓が付属
しているが、表4-3に示すような機能を装備することが望ましい。
なお、マニュアル操作機能の中には、オンラインデータ処理系のコマンド入力により行われてい
る場合もある。
(8)記録計装置
子局の呼び出し間隔を3~5分程度に短くすることが可能な専用線方式のテレメータ装置では、
子局から伝送されてきた測定機の信号を親局から分岐させ、D/A変換器を経由して、アナログ記
録計に出力している例もある。この場合は、監視センター内においてリアルタイムで測定機の指示
- 309 -
値を確認することが可能であり、測定機の故障や回線断など異常の早期発見をはじめとして、緊急
時における汚染の広がりや推移の監視など日常の監視業務のために有用である。
(9)伝送系の留意事項
データ伝送系を設計する上での留意事項を以下に示す。
① 経済性と速報性とを勘案して伝送路を選択する。
② データ伝送と通話の同時使用を行うかどうかを決める。
③ 最大子局数を設定する。
④ 最大項目数を設定する。
⑤ 測定機当たり及び子局当たりの状態監視信号の最大点数を設定する。
⑥ 子局でのバックアップ日数を設定する。
⑦ 1時間当たりの収集回数を設定する。
⑧ 子局側で1時間値を演算するかどうかを決める。
⑨ 伝送精度の確認が容易な表示機能を設ける。
表4-3
分類
機
子
自
動
表
示
マ
ニ
ュ
ア
ル
操
作
1.2
操作卓の機能
局
能
子局の呼び出し状況の表示
子局の測定機の調整中及びアラーム状態の有無の表示
子局からの通話要求の表示(複数子局から同時に呼ばれても識別可能とす
る)
親
局
テレメータアラームの表示
システム時計の時刻表示
子
局
子局などとの通話
子局の任意呼び出し
子局の測定機の調整中スイッチの強制解除
子局の測定機の強制リセット
親
局
データ表示装置の表示内容の切り換え
システム時計の調整
データ処理系
データ処理系は、伝送系を経由して送られてきた測定機の信号を、オンライン・リアルタイム処理
するためのコンピュータシステムであるオンラインデータ処理系(以下オンライン系という)と、1
時間値の確定やデータ解析などのバッチ処理を行うためのオフラインデータ処理系(以下オフライン
系という)に大別される。
- 310 -
(1)オンライン系
オンライン系に用いられるコンピュータの種類としては、計測制御に適したミニコンピュータ
(以下ミニコンという)を使用することが多いが、汎用コンピュータを採用している例もある。ま
た、後述の小規模テレメータシステムでは、パーソナルコンピュータ(以下パソコンという)ある
いはより高性能のエンジニアリング・ワークステーション(以下EWSという)が用いられている。
オンライン系では、次の業務を自動的に処理している。
① テレメータデータの収録
② 1時間値の演算とファイルへの書き込み
③ 時報・日報などの印刷
④ 表示盤などへのデータ表示
⑤ 近隣の地方自治体などの常時監視システムとのデータ交換
⑥ オフライン系へのデータ転送
また、オンライン系においてプログラムをマニュアル起動して行われる次の業務がある。
⑦ ディスプレーなどによるデータ表示
⑧ 測定値修正
⑨ 修正済み測定値のオフライン系への転送
⑩ システムダウン時の子局のバックアップ呼び出しによる測定値補充
これらの業務の実行状況は、コンソールディスプレーやプリンタで確認することができ、コンソ
ールリストは日常点検のほか、障害発生時には重要な資料となる。
(2)オフライン系
測定値の確定、年報の作成、大量データの保存・解析などのために、オンライン業務用とは別に、
オフラインのバッチ処理用のコンピュータを設置している例が多い。
オフライン系のコンピュータの設置形態としては、次の形態がある。
① オンライン系の予備機
② デュープレックスシステム(後述)のサブマシン
これら2つは、同一機種であり、同一オペレーティング・システム(以下OSという)上で動
作するため、実質的にはオンライン系とオフライン系の区別はない。
③オフライン処理専用機
オンライン系から独立した専用機であり、大気汚染常時監視業務以外の業務も処理したりす
るなど多目的に使用される場合も多いため、オンライン系とは異なる処理能力の大きな機種
(汎用コンピュータなど)を採用することも多い。
(3)データ処理系の留意事項
データ処理系を選定する上での留意事項を次に示す。
① コンピュータの停止時のバックアップを考慮してCPUの構成を決める。
コンピュータの停止は、停電や障害発生時だけでなく、定期点検、プログラムの改造によっ
ても起きる。
② オンライン系とオフライン系に分担させる業務の振り分けを行う。
パソコンを端末装置とすることにより、安価で種類が豊富な市販の流通ソフトウェアを、オ
- 311 -
フライン業務で使用することも可能である。
③ バックアップ呼び出し中などのピーク負荷時を考慮して主記憶容量を決める。
④ 将来予想される局・項目の新増設によるデータ量の増大を考慮して磁気ディスク装置の容量
を設定する。
⑤ 異なるメーカーのコンピュータや端末装置を接続する際は、双方のインターフェースが合致
し、正常に通信可能なことを確認する。
⑥ データ表示装置は、設置場所や目的に適したものを選定する。
⑦ 監視センターの物理的制約条件(フロア面積、電源容量、冷房能力)を考慮し、制約条件内
で選定するか、あるいは付帯設備などの更新も行うかを決定する。
1.3
データ交換系
データ交換系は、近隣の地方自治体の間でオンラインによりデータ交換を行うシステムであり、デ
ータ処理装置に接続されたデータ転送装置及び伝送路から構成されている。
都道府県と市区町村の間のデータ交換は、都道府県内のデータを集中監視して、光化学スモッグの
予報、注意報、警報の発令や解除などの緊急時措置を都道府県が実施することを主目的に行われてい
る。
また、都道府県にまたがるような広域汚染を監視するため、隣接する都道府県の常時監視システム
を結ぶ広域ネットワークを形成している例もある。
オンラインによるデータ交換には、送信されてきたテキストを受信側のプリンタにそのまま印字す
るだけの場合と、送信されてきたデータを受信側のオンライン系に取り込み、受信側の本来の局・項
目と同一に扱う場合とがある。後者の場合は、送信元の局・項目の新増設や廃止に対応できるような
プログラムとする。また、双方のシステム更新に当たっては、支障のないように充分打ち合わせする
必要がある。
1.4
同時通報系
同時通報系は、多数の相手に対して同時に同一の情報を伝達するシステムであり、住民に対しては、
緊急時措置の発令や解除を関係機関を通じて迅速かつ広く周知させ、一方、緊急時措置対象工場・事
業所に対しては、必要な措置を要請・勧告するのに必要である。
(1)通報先
緊急時措置の発令や解除などの通報先としては、次に示す所がある。
① 市区町村あるいは保健所、消防署などの行政機関
② 幼稚園、保育所、学校(教育委員会)
③ 遊園地やプールなど人が多数集まる場所
④ 報道機関
⑤ 気象台
- 312 -
⑥ 緊急時措置対象工場・事業所
このほか、一般向けにはテレフォンサービスが用いられている。
(2)通報内容
通報すべき内容としては次の事項がある。
① 汚染物質の種類(光化学オキシダント、二酸化硫黄、二酸化窒素など)
② 発令地域
③ 緊急時措置の種類(前日予報、当日予報、注意報、警報、重大緊急時警報)
④ 発令あるいは解除時刻
(3)通報用回線
同時通報用の回線は、データ伝送と共用する場合と通報用の別回線を設置する場合とがある。
データ伝送路として専用線を使用している場合は、周波数帯域分割によりデータ伝送と同時に可
能な方式にしたり、データ伝送の空き時間に通報する方式としている例が多い。
データ伝送路として多重無線回線を使用している場合は、専用線と同様な方式をとることが可能
である。単一無線回線の場合は、データ伝送の空き時間に通報する必要がある。
なお、発生源常時監視システムを併設している場合は、工場・事業所に対する同時通報は、発生
源常時監視システムの機能が使用できる。
(4)通報装置
通報装置としては、音声に加え、同時通報用端末装置のブザーを鳴らしたり、緊急時措置の内容・
発令・解除などを表示するランプなどを装備している例が多い。
また、ファクシミリ通信網(F網)の同報機能を利用して、文書により通報を行う例が増えてき
ている。ファクシミリを使用する場合は、同時通報の性質上、短時間に処理しなければならないの
で、複数台設置することが望ましい。また、受信側が他と交信中の場合は、送達が遅れたり、不達
になることがあるので注意が必要である。
1.5
小規模テレメータシステム
従来の常時監視システムは、都道府県や政令指定都市など多数の測定局を有し、緊急時措置を実施
しなければならない地方自治体が設置しており、①伝送路として無線又は専用線、②テレメータ装置
として専用の親局と子局、③データ処理装置としてミニコンあるいは汎用コンピュータを用いて構成
しているのがほとんどであった。
しかし最近では、図4-4に示すように、①伝送路として回線使用料金が安くなる加入電話回線、②
テレメータ子局装置として安価な市販のデータロガー、③テレメータ親局装置兼データ処理装置とし
て安価なパソコンあるいはより高機能のEWSを用いたテレメータシステムが開発され、測定局数の少
ない大気汚染防止法の政令市や特別区などに普及してきている。
このシステムの最大の特徴は、従来のテレメータシステムに比べて、安価に設置、運用できること
である。
- 313 -
ここでは、この新しいテレメータシステムを「小規模テレメータシステム」と称し、その特徴及び
選定に際しての留意点を示す。
(1)システム構成
小規模テレメータシステムを構成する装置の概要を次に示す。
1)伝送路
伝送路は、回線使用料金の軽減のため加入電話回線を使用する。
2)子局装置
子局装置としては、通信機能を備えたデジタル式データレコーダ(以下データロガーという)
が一般的であるが、パソコンを用いている例もある。「小規模テレメータシステム」で用いられ
ているデータロガーには、大気汚染測定専用に開発されたものと汎用品とがある。
データロガーの記憶媒体としては、RAMカセットやRAMカードのほか、磁気バフルメモリ、フロ
ッピーディスクなどが用いられており、バックアップメモリとして使用することが可能である。
測定機からの測定値の収集や親局への送信など基本的な機能は、従来のテレメータ子局装置と
同様である。
加入電話回線を使用して回線使用料金を節約するため、呼び出し間隔は1時間に1回が基本で
あり、子局側で1時間値の演算を行い、親局に送信している。また、夜間や休日はデータ収集を
行わず、職員が出勤してシステムを起動した時に、未収集のデータを収集するようにしている例
もある。
3)親局装置
従来のテレメータシステムとは異なり、単独の装置としてのテレメータ親局装置は存在せず、
変復調装置(モデム)を装備したデータ処理装置がその機能を兼ね備えている。
4)データ処理装置
16ビットあるいは、32ビットのパソコンを用いているのがほとんどであるが、EWSを採用してい
る例もある。予備機を兼ねたオフライン処理用として、同種のコンピュータを設置することが望
ましい。周辺装置としては、ハードディスク及びプリンタが最低限必要であり、停電時に備えて
パソコン用の無停電電源装置を設置することが望ましい。
(2)小規模テレメータシステムの留意事項
小規模テレメータシステムを選定するに当たっては、次の事項等に留意する必要がある。
① ダイアリングに10秒以上要するので、1局のデータを収集するのに30秒~1分程度かかり、
専用線と比較するとかなり遅くなる。このため、実用的には測定局数は10局程度が限界と考
えられている。
処理時間を短縮するためには、!専用線を用いるか、"回線数を増やすか、#回線ネットワ
ークを階層構造にする必要があるが、回線使用料金が高価になったり、廉価なパソコンでは
処理できなかったり、通信制御ソフトが複雑になったりして、高価なシステムとなる。
② データロガー側で1時間値を演算して、1時間に1回親局に送信するのが基本であるので、
- 314 -
データの細かな変動が見られない。
③ バッチ処理用の小型のデータロガーが基本なので、従来のテレメータ子局装置と比べると、
操作性などで機能的に若干劣っている点もある。
④ ソフトウェアについては、データの収録から確定に至るまでのもの、及び解析用のものが用
意されているが、標準装備機能とオプション機能を確認することが必要である。また、ソフ
トウェアの改造・追加が必要な場合は、別途料金が加算される。
⑤ 費用などの関係で一挙にオンライン化が困難な場合は、次の2段階に分けて導入する方法が
ある。当面は、データロガーとオフライン処理用パソコン及びデータ収録・解析ソフトウェ
アを導入して、測定局からデータ収録済みの記録媒体を交換回収し、監視センターに持ち帰
ってデータを読み出すバッチ処理を行う。その後、監視センター及び各測定局に電話を引く
とともに、オンライン処理用のパソコンとソフトウェアを導入し、オンライン処理に切り換
えることが考えられる。
図4-4
小規模テレメータシステムの構成例
- 315 -
1.6
システムのバックアップ方式
常時監視システムでは、システムを構成しているテレメータ子局装置、伝送路、テレメータ親局装
置、データ処理装置のいずれかに障害が発生すると、データが収集できなくなり、欠測が生じる。ま
た場合によっては、既に収集済みのデータが破壊される恐れもある。このようなことを防ぐために、
ここではデータ伝送系及びデータ処理系におけるバックアップ対策について示す。
(1)子局での対策
テレメータ子局装置や無線子局装置は、現用機のみで予備機が設置されておらず、故障対策はと
られていない。
停電対策としては、時計装置や収集済みデータのバッテリーバックアップが最低限必要である。
上位の伝送路、テレメータ親局装置あるいはデータ処理系の障害に備えて、子局が収集したデータ
を常時RAMなどの記憶媒体に収録する方法が有効である。
(2)親局での対策
一般的に、テレメータ親局装置、無線親局装置、無線中継局装置については、故障に備えて現用
機のほか予備機を設置する現用・予備方式がある。
停電対策としては、システム時計のバッテリーバックアップが最低限必要である。データ処理系
に障害が発生した場合の対策としては、子局から送信されてきたデータを磁気ディスク装置などに
収録する方法がある。
(3)データ処理装置での対策
データ処理装置の故障や誤操作、ソフトウェアのバグなどによるシステム障害などの障害対策と
しては、デュープレックス方式あるいはデュアル方式により、CPU及びファイル装置を2重化して、
互いにバックアップする方式が有効である。この場合、障害が発生した方のデータ処理装置のファ
イルのデータは、この期間欠測になっているので、復旧後にもう一方からデータ転送を行い、両方
のファイルの内容を同一にする必要がある。また、データ処理系では、障害が発生した装置をシス
テムから切り離して、他の装置に機能を代替するようなソフトウェアの構成を行うフォールバック
などの方法もある。
テレメータ親局装置とデータ処理装置全体をバックアップするための無停電電源設備を設置する
ことは、監視センターのスペースなどの面から困難な場合も多いので、実現可能な方式を選択する
ことが望ましい。
(4)バックアップ呼び出し
テレメータ子局装置や親局装置に記憶媒体を内蔵して、上位装置の障害時のバックアップとし、
上位装置が復旧した時点でバックアップ呼び出しを行い、データを上位装置に転送することにより、
データの欠測をうめることが可能である。このような記憶媒体の容量の設定に当たっては、連休期
間中の障害発生やシステム更新時などデータ処理系が長期間停止する場合を考慮することが望まれ
る。また、欠測期間中のバックアップ呼び出しとその期間の1時間値の演算処理は、通常のオンラ
イン業務と並行して実行しなければならないので、通常時より業務量が増大する。このためシステ
- 316 -
ム設計に当たっては、通常のオンライン業務に影響を及ぼさないように、充分配慮する必要がある。
2.ソフトウェア
ソフトウェアとは、データ処理システムの運用に関するコンピュータプログラム、手順、規則及び
それらに関する文書の総称である。
データ処理系においては、前述のハードウェアは一部を除き既成品であるが、利用技術としてのソ
フトウェアは利用者である地方自治体が独自に設計する注文品がほとんどであり、自由度が大きい代
わり性能及び操作性が設計に大きく依存する。最近の処理内容の高度化と性能面から見たハードウェ
ア価格の相対的低下により、システム全体に占めるソフトウェア費用は年々増加する傾向にある。
本項では、ソフトウェアとして重要なファイルとプログラムについて、基本的な考え方及び設計上
の留意点を示す。
2.1
ファイル
ファイルはコンピュータの入出力の単位となる関連したレコードの集合である。ファイルを大別す
ると図4-5に示すとおり、OSが使用するためファイル名やファイル構造などが規定されているシステ
ムファイルと、利用者が自由に作成できる利用者用ファイルとがある。なお、システムファイルの中
には、利用者がその内容を定義あるいは追加したり、入出力に使用できるものもある。
利用者用ファイルには、データ用及びプログラム用とがあるが、プログラム用のファイル(以下ラ
イブラリという)は、形式が規定されているので、本項では扱わない。
システム専用……利用者の使用不可
参照のみ可………メッセージやエラー情報のロギングファイルなど
システムファイル
入出力専用………SYSIN,SYSOUTなど
フ
ァ
イ
ル
定義・更新可……外字フォント、辞書、プリンタ制御情報、
フォームオーバーレイ、マクロ化JCL、
カタログ化情報、利用者管理情報など
データファイル
利用者ファイル
ライブラリ……ソース、オブジェクトモジュール、ロードモジュル、
JCLなど
図4-5
ファイルの分類
(1)オンライン処理用のファイル
1時間値の演算や時報、日報の作成などオンライン処理に必要なデータを格納するファイルとし
ては、表4-4に示すファイルがある。これらのファイルは多くのプログラムで利用されており、アク
セス回数の多さに伴う高速アクセスの必要性から、ランダムアクセス可能な磁気ディスク装置に作
- 317 -
成されている。
なお、磁気テープ装置は、1時間値データなどの出力ファイル及び磁気ディスクファイルのバッ
クアップとして用いられている。
表4-4
ファイル種別
テレメータデータ
1
時
定数
オンライン処理用のファイル
対
象
主
な
用
途
測定信号
状態監視信号
1時間値の演算
レンジ判定、欠測判定
1時間値データ
1時間値の収録、表示
局に関す
るもの
現在測定中の局番号
局名称
局の有無、最大局番号
時報・日報などの局名表示
項目に関
するもの
現在測定中の項目番号
項目名称
単位名称
上下限値
項目の有無、最大項目番号
時報・日報などの項目名表示
〃
単位名表示
異常値の確認
測定フラグ
測定レンジ
吸気時間
測定機バイアス値
測定の有無
測定レンジの設定
1時間値の演算
〃
間
値
局・項目
に関する
もの
(2)コード化
常時監視システムにおいては、1時間値のような数値の他に、各種のコードも使用しており、こ
れらのコードは定数ファイルを参照することにより内容が定まる。
データ処理の効率化を図る上で、コード化することが望ましいものとしては、次の例がある。
①局番号
②局世代番号…………………移転後も同一局番を使用する場合
③サンプリング位置番号……差温や車線別の車輌通過台数のように同一項目を複数のサンプリ
ング位置で測定する場合
④局種別………………………一般環境大気、自動車排出ガス(沿道局、車道局)、高度別気象
などの区別
⑤項目番号
⑥測定方法……………………測定原理の区別(SPMなど)
⑦単位
(3)1時間値ファイル
1時間値ファイルの設計に際しての留意事項について次に示す。
1)ファイル容量
磁気ディスク内に確保すべきファイル容量は、局数、項目数、保存期間で定まる。
- 318 -
通常オンライン系では、1時間値ファイルなどの時系列データを長期間収録しておくことはな
く、ある周期で繰返して同じ領域を使用するサイクリック形式となっていることが多い。オンラ
イン系での保存期間の設定に当たっては、年末年始などの無人期間を充分カバーできるような余
裕を持った期間とすることが望ましい。
オフライン系では、磁気ディスクの大容量化に伴い、数十年分の1時間値データが収録可能と
なっているので、測定開始以来の全データを収録して、任意のデータの利用を可能とすることが
望ましい。
2)ファイル編成
磁気ディスクへのデータの入出力に要する時間(アクセスタイム)を短縮するため、ダイレク
トアクセス可能な直接編成とすることが望ましい。
3)1時間値の収録方式
入出力の単位である1レコードに1時間値を収録する方式としては、次に示す方式があるが、
業務全体としてアクセス回数が過大とならないような方式を選定することが望ましい。
① 1局全項目1時間分
② 全局1項目1時間分
1時間値の書き込みプログラムから見ると、①又は②の時報形式がアクセス回数が少ない。
なお、これら2つの形式は、項目数あるいは局数が一定ではないので、可変長レコード形式
(V、VB)を採用することも可能である。固定長レコード形式(F、FB)を採用する場
合は、レコード長が短いと1レコードで収録しきれないこともあるので、継続レコードを用
いて複数レコードに分割収録することになる。
③ 1局1項目1日分
日報形式の固定長レコード形式である。
①~③はレコード長が128バイト以内に設計することも可能なので、レコード長を大きくする
ことが困難なミニコンなどで用いられている。
④ 1局1項目1月分
744時間分のデータが収録可能な月報形式であり、レコード長が1500、あるいは3000バイト
程度と比較的大きいため、レコード長を大きくとることが可能な汎用コンピュータ、あるい
は一部のミニコンで用いられている。
⑤ 1局1項目1年分
国立環境研究所の1時間値データベースで採用されているが、レコード長が19Kバイトを超
えるため、ミニコンなどでは扱えない場合があり、1か月単位で月報修正を行う地方自治体
のファイルとしては使いにくい面がある。
4)欠測値
欠測値は、正常な測定値と明確に区別できる数値(例えば-999以下)とする必要があり、欠
測事由により欠測値を変えることが望ましい。また、測定開始以前や測定終了以後及び存在しな
い日(例えば4月31日)などは、未測定値として通常の欠測値と区別することが必要である。こ
のため、1時間値の出力以前にファイルを未測定値で初期化しておくことが望ましい。
- 319 -
5)1時間値の付加情報
1時間値に対応する状態監視信号やデータ修正の有無、環境基準の評価対象とするかどうかな
どの情報は、ビット列又はコードにより1時間値に付加すると、測定値の利用や管理上有用であ
る。状態監視信号については、特に測定値が欠測となる場合には、欠測値を各情報に対応させる
ことが可能である。
なお、付加情報は、1時間値ファイルと同じレコードアドレスを持つ別個のファイルに収録す
ることも1つの方法であり、この場合は既存の1時間値ファイルの設計変更を要せず、1時間値
ファイルと同一のレコードアドレス算出用サブルーチンを用いることができる利点がある。
6)レコード属性情報
レコード内には、1時間値やこれに対応する付加情報の他に、1時間値の属性を表す前述の各
種コードやレコードアドレス、収録データの年月(日時)、最終修正年月日などから構成される
ヘッダー部を付けておくと、レコードのダンプやプログラムでのレコード確認に便利である。特
に、ファイルの内容変更を行うプログラムについては、必ずこのヘッダー部を参照して、レコー
ドアドレス算出に用いたキー(引数)と一致していることを確認することが望ましい。
なお、将来の機能拡張に備えて予備項目を数個用意しておくとよくい。
表4-5に1局1項目1月分を1レコードとした場合のレコード属性情報の例を示す。
表4-5
№
内
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
↓
20
レコード属性情報の例
容
レコードアドレス
局種別
局番号
局世代番号
サンプリング位置番号
項目番号
測定方法コード
単位コード
測定年
測定月
収録年月日
最終修正年月日
修正回数
修正フラグ
測定フラグ
予備
↓
予備
説
明
一般局=1,沿道局=2,車道局=3,高度別気象局=4
移転回数と同じ,移転なし=0
通常は0
通常は0
西暦年4桁
yymmdd形式の6桁
yymmdd形式の6桁
データ修正の回数
未修正=0,修正中=1,速報値=2,確定値=3
未測定=0,テレメータ収録=1,バッチ収録=2,2次演算項目
=3
7)フォーマット
レコード内のデータを記述するフォーマットとしては、次の4種類が一般的である。
① 書式付き形式
プリンタなどにファイルの内容を印字(ダンプ)した時に、文字として直読できるように、
属性情報及び測定値をすべて文字コード(外部表現形式)で記述する方式である。コンピュー
- 320 -
タの内部処理で用いられる2進数表現(内部表現形式)との間でコード変換が必要であり、入
出力に時間がかかるので、大量のデータを扱う場合は、1時間値の磁気ディスクファイルのフ
ォーマットとしてはあまり使用されていない。ただし、データ交換用の磁気テープあるいは、
フロッピーディスクのフォーマットとしては、OSや機種によらず文字として直読可能なこの形
式が望ましい。
② 書式無し形式
内部表現形式を用いるためコード変換がなく入出力が速いので、磁気ディスクのファイル及
びセーブテープのファイルとして用いられている。しかし、プリンタにダンプする時は16進数
あるいは8進数表示となり直読できないため、文字の部分は外部表現にコード変換し、数値の
部分は2進数から10進数への変換を行わなければならない。
③ 書式付き・書式無し混在形式
属性情報は書式付きで文字として記述し、レコード長を短くするため、測定値は内部表現形
式で記述する①と②の折衷案である。属性情報の部分は文字なので、ダンプリストで直読可能
である。なお、この形式の場合は、書式無し部分はEQUIVALENCE文などで文字型及び整数型(あ
るいは実数型)として2重定義して、書式付き形式として入出力する必要がある。
②あるいは③の場合、測定値は各種のプログラム言語間で互換性があり、演算誤差が生じな
い4バイトあるいは、2バイトの2進固定小数点形式(整数型)で定義することが望ましい。
④内部10進数方式
COBOLを用いて作成されたファイルで、16進数で表記するため①の文字型の場合の1/2のレコ
ード長になるが、ダンプリストでは直読できない。
(4)定数ファイル
定数ファイルは、プログラムの中で使用される定数の内で、複数のプログラムで共通に使用され
るものや、変更の可能性があるものをファイル化したものである。定数ファイルを用いることによ
り、プログラムを修正せずに定数の変更を行うことができるため、オンラインシステムを停止せず
に定数の変更ができる。
1)定数ファイルの内容
定数ファイルには、表4-5に示す情報が、前述のコードを用いた表形式で収録されており、内
容的には次の3種類に大別される。
① 測定局及び測定項目に関する属性情報
② 1時間値ファイルのレコードアドレスの算出に必要な局・項目の並びに関する情報
③ 1時間値の演算に必要な各種の設定値
2)定数ファイルの設計
定数ファイルの設計方法としては、次の2つがある。
① 定数の種類ごとに個別にファイルを作成する方法
ファイルごとに他と独立に設計できるので、ファイルの修正や設計変更も行いやすいが、プ
ログラムで使用するファイル数が多くなる。
② 複数の定数を単一のファイルで扱うために、定数の種類ごとに特定範囲のレコードアドレス
- 321 -
を割り当てる方法定数ファイルは1個ですむが、ファイル容量の拡張やレコード長の変更など
の設計変更は、すべての定数に影響が及ぶことが考えられるため容易ではなく、将来の測定局・
測定項目の新増設や新規定数の追加などを充分考慮して、レコード長やアドレス範囲などに余
裕を持った設計をする必要がある。
図4-6(省略)にオフライン系で用いられている定数ファイルの一種である局項目属性情報フ
ァイルの例を示す。
3)定数の変更
測定局・測定項目の新増設や廃止、機種の変更などにより、定数はしばしば変更されるので、
これらの定数は、文字として直読可能な書式付き形式で収録することとし、スクリーンエディタ
あるいは対話形式のプログラムなどを用いて容易に修正できることが望ましい。また、ダンプリ
ストだけでは分かりにくいので、定数の種類ごとにファイルの内容を編集して印刷するプログラ
ムを作成するこが望ましい。
(5)統計値ファイル
オフライン系においては、前年度分のデータが確定すると、年報や環境庁報告を作成して、環境
基準の適合状況などについて測定値の評価が行われる。この場合、1時間値ファイルから直接演算
して年報などを作成する方法もあるが、経年変化などの場合は、大量のデータを扱うことになるの
で、結果が出るまでに時間かかることがある。結果をプリンタやCRTに出力する時間を短縮する方法
としては、月間値や年間値を事前に演算して、統計値ファイルと呼ばれる中間ファイルに作成して
図4-6 局項目属性ファイルの例
- 322 -
おき、統計値ファイルを入力することによって、演算時間なしで結果を出力する方法がある。
統計ファイルの用途としては、年報及び環境庁報告様式の磁気テープや帳表の作成のほか、経月
変化や経年変化のグラフの作成など他のプログラムでも利用できる。
1)ファイルの内容
統計値ファイルには、環境庁報告に必要な月間値レコードと年間値レコードが作成されるが、
年間値レコードがなく、月間値レコードから年間値を演算する方式もある。
① 月間値レコード
局・項目・月別に、測定時間数、月平均値、月最高値、有効測定日数、日平均値の最高値な
どの月間統計値が作成される。
そのほか、項目によっては環境基準の超過時間数(日数)などが加わる。
② 年間値レコード
局・項目・年度別に月間値と同様に、測定時間数、年平均値、年最高値、有効測定日数、日
平均値の最高値などの年間統計値が作成される。
そのほか、項目によっては環境基準の超過時間数(日数)や、日平均値の2%除外値や98%
値、環境基準の長期的評価による環境基準の超過日数などが加わる。
2)留意事項
① 環境庁報告に必要な事項はすべて盛り込む。
② 1時間値に修正があった場合は、必ず統計値ファイルの該当する局・項目の月間値及び年間
値のレコードを作成し直す。
③ 年度途中で測定局や測定項目の属性が変更された場合の対策を考慮する。
④ 将来の集計項目の増加に備えて、集計項目の予備を設けておく。
2.2プログラム
プログラムは、コンピュータに動作を指示する命令やデータを記述したものである。
プログラムは大別すると、コンピュータ自体を制御するプログラムの集合であるオペレーティング
システム(OS)と、実際の業務を処理するためのアプリケーションプログラム(業務プログラムある
いは応用プログラムともいう)とがある。また、アプリケーションプログラムには、メーカーが既成
品として作成している汎用性のあるものと、利用者が個々の業務を処理するために個別に作成するも
の(以下利用者プログラムという)とがある。
(1)メーカー提供のプログラム
メーカーが既成品として提供するプログラムはすべて有償であり、その選定に際しては、業務目
的、使用頻度、機能、対象装置、関連プログラムなどを充分検討することが望ましい。
1)OS
OSは、コンピュータプログラムの実行を制御するソフトウェアであって、スケジューリング、
デバッキング、記憶割り振り、入出力制御、通信制御、プログラム管理、データ管理、運用管理
- 323 -
及びこれらに関連した諸サービスを行うものであり、基本ソフトウェアと呼ばれることもある。
OSには、機種に固有のOSと、パソコンにおけるMS-DOSや、パソコンから汎用コンピュータに
至るまで幅広く採用されているWindows、UNIXのような機種によらない汎用性のあるOSとがある。
2)アプリケーションプログラム
システム生成作業が終了するとコンピュータが運用可能となるので、特定の業務を行うために
用意されている既成品のアプリケーションプログラムの中から業務内容に適したものが、システ
ムに組み込まれる。
常時監視業務でよく用いられているアプリケーションプログラムとしては、統計解析、数値計
算、図形処理、日本語処理、データベース作成などがあり、これらは、FORTRANのサブルーチン
ライブラリあるいはロードモジュールのパッケージとして用意されている。グラフィックディス
プレーやXYプロッタなどを用いてグラフなどを出力する場合は、装置専用のサブルーチンライブ
ラリが必要である。
なお、各装置に対応するデバイスドライバーと呼ばれるプログラムを交換することより、各種
の図形表示装置に対応できる統合型の図形処理用アプリケーションプログラムもあるが、実際に
はハードウェアの相違に起因する各装置に固有の装置依存事項があるため、完全には装置独立に
なっていないことに注意する必要がある。
(2)利用者プログラム
利用者プログラムの内、オンライン処理に関するプログラムは、テレメータからのデータの取り
込みや他系とのデータ交換の制御などの他に、リアルタイム処理のため処理時間の短縮など特殊な
プログラミング技術が要求され、プログラム構造が複雑である。このため、オンライン処理プログ
ラムについては、その開発と改造についてメーカーの情報処理部門に委託するのが適当である。ま
た、それによりコンピュータの機能を充分生かしたオンライン処理プログラムの作成が可能となる。
一方、オフライン系においても、月報、年報、環境庁報告などの作成やデータ提供、データ解析
などの目的で随時実行されるバッチ処理プログラムを、メーカーあるいはソフトウェア開発会社に
委託している例が多いが、地方自治体の職員が作成する場合は、地方自治体側で管理する必要があ
る。
(3)プログラムの作成委託と著作権
著作権法では、プログラムに関する著作者は、プログラムを実際に創作した者と規定している。
このため、地方自治体がメーカーなどにプログラム作成を委託する場合は、単にプログラムの機能
あるいは基本的な仕様を示しただけでは、プログラムの作成に創作的に関与したとはみなされず、
地方自治体が著作者となることはできない。したがって、プログラムに係る著作権及び著作者人格
権は受託会社に帰属することになる。このため、委託により作成したプログラムの著作権が受託会
社にある場合は、プログラムの改造を他社に委託したり、システム更新時にプログラムを他社に引
き渡すことはできない。作成を委託したプログラムの著作権を取得する必要がある場合は、委託契
約の中に著作権の譲渡に関する規定を盛り込む必要がある。
なお、著作権法上のすべての権利を譲渡対象とする場合は、著作権法第27~28条に規定する権利
をも含むことを明示しておく必要がある。
- 324 -
(4)プログラム形式とライブラリ
プログラムは、作成過程により3段階に分類されており、これらのプログラムは、それぞれの専
用ライブラリあるいは統合型ライブラリに登録することが可能である。
ライブラリは、ディレクトリ構造を持つプログラムを格納するための専用ファイルであり、ファ
イル構造はシステムにより定められているが、システムライブラリ以外の利用者が作成するライブ
ラリについては、ファイル名や容量は自由に設定できる。また、ライブラリを更新するためのユー
ティリティプログラムも用意されている。
1)原始プログラム
FORTRAN、COBOL、PL/I、Cなどの高水準言語やアセンブラ言語の文法に従って、人間が扱え
る文字で記述されたもので、ソースプログラムとも呼ばれる。
プログラムの新規作成や修正は、この段階で行われるため、最も重要なプログラム形態である。
プログラムの破壊あるいは消滅に備えるとともに、修正前の状態を保存するためにも、ソースラ
イブラリのセーブあるいは予備を用意しておくことが必要であり、原始プログラムがあればロー
ドモジュールは復元可能である。
2)目的モジュール
ソースプログラムをコンピュータが扱える機械語に翻訳したプログラムである。サブルーチン
や関数は、目的モジュールライブラリに登録することによって、他のプログラムで簡単に引用す
ることができる。
3)ロードモジュール
コンピュータで実行可能な形式になっているプログラムである。作成されたロードモジュール
は、ロードモジュールライブラリに出力(登録)することによって、直ちに実行できる。
(5)オフライン系で必要なルーチン業務プログラム
オフライン系において最低限揃えておかなければならないルーチン業務プログラムとしては、フ
ァイルの保守用プログラムとデータの収録から確定に至る過程で使用されるプログラムがある。こ
のほか、データ表示用や解析用などのプログラムについては、必要に応じて作成することが望まし
い。
1)ファイルの保守に関するもの
ファイルの保守を行うためにレコードを扱うプログラムでは、レコードアドレスを直接指定す
る場合と、局・項目・年月などをキー変換サブルーチンに入力して、レコードアドレスを間接的
に指定する方法の2とおりがあり、パラメータの指定方法だけが異なるプログラムを用意し、目
的に応じて使い分けることが望ましい。
次に示すプログラムには、ユーティリティプログラムにはない属性情報の表示やキー変換によ
るレコードの抽出などの機能を付加して、使いやすく設計することが望ましい。
① レコードの初期化
直接編成ファイルでは、データ収録が行われていないレコードを読むと、リードエラーが発
生することがある。このため、1時間値ファイルに限らず、直接編成ファイルの領域を確保し
- 325 -
た後は、データ収録に先立って、全レコードにダミーデータを書き込む初期化を行うことが望
ましい。
② レコードのダンプ
内部表現形式のデータは10進数に変換して表示する。
③レコードのセーブとリストア
④テスト用ファイルなどへのレコードのコピー
2)データの収録から確定に関するもの
① 局・項目情報の更新
新増設あるいは廃止された局・項目の属性情報を追加登録する。
② オンライン系からの1時間値データのオンライン収録
1時間単位あるいは1日単位に全局全項目をデータ転送する。
③ オンライン系の磁気テープに収録された1時間値データのバッチ収録
更新などによりオフライン系が長期間停止した場合や、オンライン系とオフライン系とが回
線接続されていない場合に用いる。
④ 異常値確認(第5章参照)
⑤ データ修正
ア プログラム分類
データ修正プログラムは実施時期により次の3つに大別される。
・特定日の特定局の全項目24時間分の1時間値を、時間方向あるいは項目方向に順次修正す
る日報修正
・特定局の特定項目の1か月分の月報修正
・特定局の特定項目の任意期間の修正
イ 付加機能
データ修正プログラムには次の機能が必要である。
・NO、NO2、NMHC、CH4を修正した場合は、NOxやTHCの再演算を自動的に実
施する。また、NOxやTHCなどの2次演算項目を指定することはできない。
・風速をカーム値以下に修正した場合は、風向をカームに自動的に修正する。また、風速が
カーム値を超えたままで風向をカームに修正することはできない。
・CRTに表形式でデータを表示させて対話形式により修正する場合は、修正したデータは色替
えする。
⑥ 日報、月報、年報などの印刷
⑦ 環境庁報告の作成
環境庁報告様式の磁気テープや帳表の作成及び磁気テープのエラー確認
⑧ データ交換用の磁気テープあるいはフロッピーディスクの作成
(6)1時間値の算出
1)演算場所
1時間値の演算は、従来は子局から伝送されてきたテレメータデータを用いて親局側で集中処
理していたが、最近では子局のインテリジェント化に伴い、子局側で演算する分散処理方式も採
- 326 -
用されてきている。
親局側で演算する方式は、演算機能が1箇所で済み、演算に必要なすべての情報を親局で集中
管理できる長所があるが、親局に大きな演算負荷がかかる。一方、子局側で演算する方式は、親
局の負荷がない代わりに、すべての子局に親局で演算する場合と同じ演算機能を持たせなければ
ならないこと及び子局側で演算定数を持つ必要がある。
2)演算方式
1時間値の演算方式は、測定機の種類によって異なり、瞬間の値をとる瞬時値型(風向風速な
ど)、瞬時値の時間平均をとる平均値型(オキシダントなど)、最終値と初期値の差をとる積算
型(二酸化硫黄など)、及びこれらの和をとる2次演算型(窒素酸化物など)がある。1時間値
の演算フローを図4-7に示す。
① スケール変換
個々の演算に先立ち、テレメータデータに対してスケール変換を行い、濃度などの物理量を
算出する。ただし、テレメータデータに伝送エラーや測定機の異常信号がある場合を除く。
・スケール値の決定
テレメータデータから測定レンジ信号を取り出し、その測定レンジに対応する最大目盛値を、
局・項目別に登録されている最大目盛値の定数ファイルから求める。
・スケール変換値の算出
スケール変換値の算出は次式により行う。
d=INT[S×TM/Dmax]+B
d
:スケール変換値
INT
:四捨五入関数
S
:スケール値(演算定数)
TM
:テレメータデータ
B
:測定機の最小指示値(演算定数)
通常はゼロ、温度や放射収支量などではマイナス値となる。
Dmax:テレメータデータの最大目盛値(演算定数)
A/D変換機の分解能や1時間当たりの最大パルス数で定まる。
なお、測定機の異常などにより、有り得ない測定値が算出された時は、このスケール変換値
を無効とする。
② 瞬時値型の演算
風向以外の場合は、スケール変換値を1時間値とする。
風向の場合は、まず風速の演算を先に行い、カーム(静穏)かどうかの判定を行う。カーム
の基準となる風速は、風車型の微風向風速計では、0.3m/sあるいは0.5m/s未満が一般に採
用されている。カーム以外の場合は、0~540度にスケール変換されたものを16方位に対応させ
る。
なお、16方位の風向コードとしては、次の2種類が用いられている。
・NNE=1、NE=2、……………、N=16;C=17
・N=0、NNE=1、…………、NNW=15;C=16
- 327 -
テレメータデータ
項目判定
2次演算か
YES
NO
YES
異常か
YES
NO
欠測か
NO
レンジ判定
スケール変換値の算出
風向風速
型演算
瞬間値
型演算
平均値
型演算
欠測か
積算値
型演算
2次
演算
YES
NO
正常値
図4-7
欠測値
正常値
1時間値の演算フロー
③ 平均値型の演算
伝送エラーや調整中などで無効となった測定値を除いたスケール変換値の総和を有効収集回
数で除し1時間平均値とする。ただし、有効収集回数が規定している回数未満の場合は1時間
値を欠測とする。
④ 積算型の演算
二酸化硫黄や窒素酸化物のように、バッチ式の測定機の1時間値の演算は、ゼロ点が変動す
ることを考慮して、測定開始直後のスケール変換値(初期値)とリセット直前のスケール変換
値(最終値)との差を用いて、基本的には次式により行う。
d=INT[(de-ds)×DT/(Te-Ts)]
d
:1時間値
INT:四捨五入関数
- 328 -
de
:最終値
(スケール変換値)
ds
:初期値
(
Te
:最終値の時刻
(経過時間)
Ts
:初期値の時刻
(
DT
:吸気時間
(演算定数)
〃
〃
)
)
この場合、有効収集回数が規定している回数未満の場合は1時間値を欠測としている例もあ
る。
なお、最近は初期値を常にゼロと見なして、最終値のみを採用している例や、最終値読み取
り時刻以降リセット時までの間を外挿演算により補正している例もある。また、リセット時に
パルスカウンタがゼロクリアーされるシステムや、日射計のアナログ積算計のようにリセット
時に出力がゼロになる測定機では、原理的には最終値のみを採用すればよい。
5) 2次演算型の演算
窒素酸化物や全炭化水素のような2次演算項目の場合は、2項目の和とする。ただし、いずれか
1項目でも欠測の場合は、欠測とする。
2.3
ドキュメント類の整備
各種のファイルやプログラムに関するドキュメント類を整備することは、プログラムの新規作成や
変更を容易にするために重要である。整備すべきドキュメント類としては、次の事項がある。
(1)ファイル仕様書
ファイルの構造を説明するもので、次の事項を記述する必要がある。
① 磁気テープやフロッピーディスクの場合は、ボリューム形式(マルチボリュームかどうか)、
ファイル形式(マルチファイルかどうか)、ラベル形式(IBM、JIS、ラベルなしなど)
② 記録コード(EBCDIC、JIS8、ASCIIなど)
③ ファイル編成、レコード形式、ブロック長、レコード長などファイルの構造
④ ファイルがレコードアドレスにより性格の異なる領域に細分されている場合は、レコード
アドレスで表現したファイル全体の構成図
⑤ レコード内のデータの並び方を示すバイト単位あるいはワード単位で表現したレコード
レイアウト図
⑥ ファイル容量とその算出根拠
3.監視センター
監視センターは、常時監視業務の中枢となる場所であり、テレメータ親局装置やデータ処理装置を
はじめとして、各種の電子機器が設置されている。これらの機器の設置条件は機器により多少異なる
が、コンピュータに細かい設置条件があるので、コンピュータに係る要件を重点的に検討する必要が
ある。このことから、ここではコンピュータの設置条件及び安全対策について示す。
- 329 -
3.1
設置条件
コンピュータを設置するに当たっては、電源、温湿度に関するコンピュータの設置条件を満足する
他、室と面積、床などについても充分な配慮が必要である。
(1)室と面積
監視センターには、一般にコンピュータ室、電源室、空調室、管理室、プログラミング室などが
設置されている。
1)コンピュータ室
コンピュータ室には、テレメータ親局装置やデータ処理装置のほか、通常次の付帯設備が設置
されるので、これらを操作・保守管理する上で必要な面積を確保する必要がある。
①分電盤
②消火設備
③磁気テープやフロッピーディスクなどの媒体保管庫
このほか、未使用あるいは、廃棄する連続用紙の一時保管スペースも必要である。また、コン
ピュータ室は通常土足禁止であるから、見学者などのために靴からスリッパに履きかえるための
スペースも必要である。
2)電源室
定電圧定周波装置(CVCF)を設置する場合は、形状が大きく、また騒音もかなり大きくなるの
で、独立した室に設置することが望ましい。自動電圧調整装置(AVR)を使用する場合は、コンピ
ュータ室内にも設置可能である。
3)空気温湿度調製装置室
コンピュータ室は年間を通じて冷房する必要がある。室内に設置される空調設備としては、空
調機の他に、空調用制御盤、温湿度自動制御装置、給排水管、エアダクトなどがあるので、これ
らの設置面積も考慮しなければならない。ただし、空調室は必ずしも設置する必要はなく、コン
ピユータ室内に空調設備を設置してもよい。
なお、建築物の空調設備と共用することは、24時間運転であることや冬期も冷房することなど
の点から好ましくなく、独立したコンピュータ室専用の設備とすることが望ましい。
4)管理室
机や椅子、電話、ファクシミリなどのほか、次のものを保管する棚やロッカーが設置できるこ
とが望ましい。
① コンピュータのマニュアル
② テレメータ装置やコンピュータなどの配線図
③ ソフトウェアのドキュメント類
④ トナー、インクリボン、記録紙などの消耗品
⑤ シンクロスコープ、電圧(電流計)、標準電圧電流発生装置、ラインモニタ等の保守用の機
器、工具類及び部品
- 330 -
5)プログラミング室
システム設計、プログラミング、デバッキン
グなどは思考が主体の業務であるため、騒音や
冷房などの点で条件があまり良くないコンピ
ュータ室と独立した室を設けることが望まし
い。
(2)床
図4-8 ケーブルカバー(床上ダクト)方式
1)構造
電源ケーブル及び信号ケーブルを配線するた
めの床構造を次に示す。
① ケーブルカバー(床上ダクト)方式
図4-8(省略)のとおり、床面に何らの加工
を施さず、ケーブルにカバー(鉄板、木箱な
ど)をかけて保護する方式である。
② レースウェイ(ダクト)方式
図4-9(省略)のとおり、床面に溝を掘って
図4-9 レースウェイ(ダクト)方式
ケーブルの通路を作る方式である。
③ フリーアクセス(上床)方式
図4-10(省略)のとおり、床を2重構造にし、取り外し可能なアルミダイキャスト製の上床と
コンクリートの下床との間に、ケーブルを自由にはわせる方式である。この方式は装置のレイア
ウト変更などに容易に対処できることや、床下送風が可能なため、多く用いられている。
これら3方式を比較して表4-6に示す。
図4-10 フリーアクセス方式
- 331 -
表4-6
方式
比較項目
床面加工
ケーブルの敷設
ケーブル長の調節
ケーブルの保護
レイアウトの変更
床の強度
床下送風の空調
工事費
床構造の比較
ケーブルカバー方式
レースウェイ方式
フリーアクセス方式
実施せず
床上
調節可能
不充分
容易
強度に影響しない
不可能
安い
溝を設置
溝の中
調節不可能
充分
困難
強度にやや影響する
不可能
比較的安い
実施せず
床下
調節可能
充分
容易
強度に影響する
可能
高い
2)強度
床の強度は、設置するコンピュータの種類によっても若干の差があるが、ミニコンでは300㎏/
㎡以上、汎用コンピュータでは500~600㎏/㎡の荷重に耐えるように設計する必要がある。ただし、
これは平均荷重であるので、場合によっては補強を行う必要がある。
なお、フリーアクセス方式の場合は、局部的な荷重をある程度分散させることができる。
一般の建築物は、通常300㎏/㎡程度に設定されているので、既設建築物の中に設置する際には
充分注意する必要がある。
3)表面材料
コンピュータ室の床の表面材料としては、一般的な条件の他に、静電気が帯びにくいことが要
求される。また、安全上、床面に金属を露出してはならない。
(3)電源
一般に、ミニコンでは単相100V又は200V、汎用コンピュータ及び空調機では3相200V、パソコ
ンや端末装置などでは単相100Vが使用されている。コンピュータには、電圧、周波数、波形歪みに
ついて基準値及び許容変動範囲が設定されているので、許容変動範囲を超える場合は、安定電源の
供給について検討する必要がある。
1)安定電源供給装置
電圧の瞬時変動、停電、他からのノイズ侵入などで、電源条件が満足されない場合は、表4-7に
示す電源方式により、入力電源を安定化することが可能であるが、バッテリー装置や自家発電装
置については、既設建築物では困難な場合が多いので、実現可能な方式を採用することが望まし
い。
2)電源容量
電源容量は、将来の装置の増設などの余裕を見て、システム導入前に必ず容量確保の見通しを
つけておく必要がある。
なお、既設建築物に設置する場合は、事前に庁舎管理部門などと打ち合わせする必要がある。
3)分電盤
分電盤をコンピュータ室内に設置し、装置ごとにブレーカーを設け、かつ装置の増設に備え予
- 332 -
備ブレーカーを数個確保することが望ましい。分電盤には電圧計、周波数計、電流計を付設する
と便利である。また、壁、柱などには保守用のコンセントを設ける必要がある。
表4-7
電源安定化装置の比較
装置
AVR
項目
電圧変動
周波数変動
電圧不平衡
波 形 歪
瞬時停電
停
電
電
源
改
善
設 置
価
面 積
格
回転形CVCF
○
×
△
×
×
×
小
安い
○
○
○
○
○
×
CVCF
+バッテリー
CVCF
+バッテリー
+自家発電装置
○
○
○
○
○
5分間程度対応
○
○
○
○
○
○
中
やや高い
大
高い
大
最も高い
4)停電対策
システムの無停電化のレベルとしては、次の事項がある。
① システム時計の電源
この対策は必ず行われている。また、一般にシステム時計はテレメータ親局装置内に収納され
ており、無停電電源装置専用の筐体は特に必要としない。
② データ収集系のみの電源
テレメータ親局装置やバックアップ装置などデータ収集に関係する装置のみを無停電化する。
この場合、データ処理系は停電期間中は停止しているので、停電復旧後に、停電期間中に収集
したデータの演算処理を行う必要がある。
③ 主要装置の電源
データ表示盤やオフライン系などを除き、オンライン処理に関係する装置について無停電化し、
停電による欠測を防止する。
④ システム全体の無停電化
停電が頻発したり電源の質が悪い場合に行われるが、空調機の電源も含む必要があるなど、非
常に大がかりな設備になる。
(4)温湿度
コンピュータを構成している電子部品は、その許容範囲外の温度では特性が変化するなど正常に
機能しなくなるため、一定の温度を保つことは、コンピュータが正常に稼働するための必須条件で
ある。
また、湿度については、高湿度は、錆の発生を誘発する装置内部の結露をもたらし、低湿度はコ
ンピュータの誤動作の原因となる静電気が発生しやすくなる。さらに、このような装置や記録媒体
に及ぼす影響とは別に、コンピュータを操作する職員の作業環境を良好に維持することも重要であ
る。
- 333 -
1)コンピュータの温湿度条件
コンピュータの温湿度条件としては、動作及び休止時における温度、湿度、温度勾配が機種ご
とに規定されている。表4-8に装置の空気吸込口周辺における温湿度の許容値の例を示す。
項 目
温度
相対湿度
温度勾配
表4-8
温湿度条件の例
動 作
時
15~32℃
30~70%
10deg/h
休
止
時
5~45℃
90%(結露しないこと)
25deg/h
2)室内の温湿度条件
コンピュータを正常に稼働させるためには、室内の温湿度を適切に管理することにより、コン
ピュータの結露及び腐食、室内での静電気の発生などによる障害を防止する必要がある。湿度は、
結露防止のためには、休止時でも70%以下であることが望ましく、静電気防止のためには40~6
0%が望ましい。また、作業する職員のためには、温度20~25℃、湿度50~60%程度の環境を維
持することが望ましい。
そのほか、連続用紙や磁気記録媒体などを、温湿度条件が異なる別室に保管している場合には、
コンピュータ室内の温湿度になじませてから使用することが必要である。
3)空調機
コンピュータ及びコンピュータ室内は、常に一定の温湿度と正常度を保つ必要があり、空調機
の設置は不可欠である。
① 熱交換方式
空調機は、熱交換の方式により、空冷式と水冷式とに分類される。
空冷式は、冷媒を室外機で直接熱交換する方式であり、水冷式は、空調機内部の冷媒の熱を、
水で再度熱交換する方式である。
② 送風方式
冷気の送風方式は、大別すると次の3種類がある。
・天井ダクト方式
図4-11(省略)のように、コンピュータ室
内あるいは別室に設置された空調機から
の冷気を、天井裏あるいは天井下に敷設し
たダクトを用いて送風する方式である。こ
の方式は雰囲気空調であるため、空調機の
停止後もしばらくはコンピュータの運転
が可能である。ただし、室内温度分布を一
定にし、空気の滞留を防止するため、空気
吹き出口からの空気の流れを考慮して、装
置のレイアウトを決定しなければならな
い。
- 334 -
図4-11 天井ダクト方式
・床下送風方式
フリーアクセス方式の床でのみ可能な
方式であり、図4-12(省略)のように、
コンピュータ室の基礎床とフリーアクセ
ス床との間を送風ダクトとして利用し、
フリーアクセス床に開けた穴から真上の
装置の底部に冷気を吹き込む方式である。
この方式は冷却効率がよい他、吹き出し
口の位置の変更が容易であるため、装置
のレイアウトを制約しない利点がある。
しかし、送風が停止すると装置内の温度
図4-12 床下送風方式
が急上昇して装置が停止するため、送風
機の故障からコンピュータが停止するま
での許容時間が、雰囲気空調の場合と比
べて非常に短い欠点がある。また、床上
の粉じんによる影響には注意を要する。
また、図4-13(省略)のように、床下
からはコンピュータ用の送風を行い、天
井からは職員のための送風を行うと、よ
り良い作業環境が可能となる。
・パッケージ直接送風方式
図4-13 床下・天井併用送風方式
図4-14(省略)のように、コンピュー
タ室に設置したパッケージ型空調機から
直接冷気を吹き出す方式である。この方
式は、ダクトなどが不要で安価であるが、
室内温度分布が悪く空気の滞留などの問
題が発生しやすい。このため、空調機の
近くには背の低い装置やじんあいを発生
しにくい装置を配置する必要があるなど
レイアウト上の制約が多い。また、職員
に直接冷気が当たらないようにする配慮
図4-14 パッケージ直接方式
も必要である。したがって、この方式は
補助的な送風手段とするのが望ましい。
③ 冷却能力
空調機の容量である冷却能力は、装置や照明器具などからの発熱、天井、壁、窓などコンピュ
ータ室の周囲からの侵入熱、室内の人員数、湿度調整による影響などを考慮して、これらの合計
× 0.9(稼働率)以上とするのが望ましい。
- 335 -
④ 設置上の留意事項
・ コンピュータの負荷変動は、使用状態により20~100%位の間を変動するので、この負荷変動
に充分対応できる空調設備でなければならない。
・ オンライン系は、年間通じて24時間運転であるから、信頼性の高い空調設備を設ける必要が
ある。故障や保守点検により空調機が停止する場合に備え、複数の空調機で負荷を分担したり、
予備の空調機を設けることも考慮することが望ましい。オフライン系が設置されている場合は、
日中とオフライン系が停止している夜間及び休日の負荷が大きく異なるので、オンライン系の予
備も兼ねて、2台で負荷分担することが望ましい。
・ コンピュータ室の冷房負荷は、主に顕熱負荷であるため、室内への吹き出風量が一般空調と
比較して過大になるので、職員が不快とならないように吹き出方法に充分配慮する。
・ 外気の取り入れは、冷房負荷、冬期の加湿負荷を減らすため、在室者にとって必要最小限の
外気量とすることが望ましい。
・ コンピュータ室内の温湿度を確認するため、温湿度計を数箇所に設置する。
・ 空調機の起動停止時に発生する電源変動やノイズからコンピュータを守るため、電源、配線、
接地などはコンピュータ用と分離して別系統とする。
・ 超音波式などの噴霧式の加湿器は、水中のカルシウム分なども同時に空気中に散布し、これ
がコンピュータに付着すると接点不良などの障害を発生させることがあるので、蒸発式加湿器を
使用する。
(5)じんあい及び腐食性ガス
室内空気中のじんあいは、磁気ディスクやフロッピーディスクなどの記録媒体の入出力エラーの
原因となることがある。媒体交換が可能なディスクパックなどでは、媒体交換時にじんあいの多い
空気に触れると、磁気ヘッドやディスク面にじんあいが付着するため、磁気ヘッドがディスクを物
理的に破壊するヘッドクラッシュ現象が発生することがある。
じんあいの主な発生源としては、プリンタなど紙を扱う装置の紙送り機構のほか、人の通行や喫
煙などに伴うものなどがある。このため、装置のレイアウトに当たっては、磁気ディスク装置など
をじんあいの発生する装置や通路及び出入り口からできるだけ離す必要がある。
なお、空調設備などの更新やレイアウトの変更などにより、床やダクトなどの工事を行う場合は、
作業に伴ってじんあいが発生することがあるので、作業範囲を限定して防じんシートなどで間仕切
りするなどの対策を講じる必要がある。
また、コンピュータは腐食性ガスにも弱いので、コンピュータ室内の塗装を行う場合は換気を充
分行う必要がある。
3.2
安全対策
コンピュータ室で予想される災害は、地震、火災、漏水、機械的・電気的事故などであるが、その
他の室についても防災上の配慮が必要である。
なお、コンピュータの安全対策の詳細については、通商産業省機械情報産業局監修の「電子計算機
システム安全対策基準解説書」を参照する。
- 336 -
(1)地震
コンピュータ及び付帯設備の地震対策
は「人身の安全確保」を優先する。この
ため次の対策を講じる必要がある。
1)避難路の確保
① パーティションの床及び天井面と
の接続を堅固にし、倒壊を防止する。
② 扉は避難時に有利なドア式とし、
非常ドアも設けることが望ましい。
2)フリーアクセス床の対策
フリーアクセス床の場合は、地震時に
図4-15 ストリンガ方式による支柱の補強例
床上に設置されている装置に被害を与
える崩壊、床板のずれなどを防止するた
め、次の対策をとることが望ましい。
① 支柱の補強
図4-15(省略)のとおり、支柱をボ
ルトなどで床に固定した上、支柱相互
をストリンガなどで連結する。
② 床板の固定
図4-16(省略)のとおり、ストリン
ガや固定金具を利用して、ねじ止めす
図4-16 床板の固定
る。
③ 外周部の補強
図4-17(省略)のように、間仕切
り壁などの周囲を補強する。
④ フロア分割
床を幾つかのブロックに分割して、
ブロック周囲を強固に支持した支柱
で囲み、支柱回りの床板をこの支柱
に固定することによって、床板の隙
間が累積するのを防止する。
⑤ フロアカット部
床下送風の吹き出口としてフロア
パネルを外した場所には同寸法のス
チール製グリルなどをはめ込む。ケ
図4-17 外周部の補強
ーブル用のカットは、装置脚部の転
落防止のため、最小限の大きさに止
めるとともに、カット部に補強枠、
ストッパ、補助支柱などを取り付け
- 337 -
る。
3)装置などの移動・転倒防止対策
地震時には、装置や媒体保管庫などが移動したり、重心位置の高い装置は転倒する危険性があ
るので、次の方法で装置を固定する。
① 滑り止め方式
装置脚にゴム板を履かせ、床との摩擦係数を大きくし、移動を少なくする。
② 吸着盤方式
装置脚に取り付けた吸着盤の吸引力により装置を固定する。
③ 床固定方式
装置脚を床固定金物で基礎床に確実に固定する。
④ 上部連結方式
重心位置が高い装置が複数設置されている場合は、相互に装置の上部を金具で連結し、移動
や転倒を防止する。
⑤ 卓上装置の場合
装置を金具などで卓に固定する。
⑥ 媒体保管庫などの場合
媒体保管庫や棚などを金具などで壁や柱などに固定したり、収納物の移動や落下を防止する
ため、飛び出し防止用の固定ストッパーやベルトなどを取り付ける対策もある。
(2)火災
コンピュータ室内には、連続用紙等の紙製品のほか、プラスチック製の磁気テープなどかなりの
量の可燃物が存在しているため、次の対策を講ずることが望ましい。
1)設備の不燃化
フリーアクセス床、壁の吸音材、天井、空調ダクトなどの設備のほか、媒体保管庫、棚などの
備品は不燃材料製のものとする。また、ブラインドやカーテンも不燃材料製のもの又は消防庁が
認定した防炎性能を有するものを使用する。
2)延焼防止
他の室からの延焼防止策として、防火壁、防火扉、防火シャッターなどで各室を分離する対策
があり、既設建築物では困難であるが、新築する場合は可能である。既設建築物の一画をパーテ
ィションで間仕切る場合は、建設省の認定を受けた耐火パーティションを使用する。この場合は、
天井下だけでなく、床板も同時に間仕切る必要がある。
3)自動火災報知設備及び消火設備
コンピュータ室などには、自動火災報知設備を設置することが望ましい。コンピュータ用の消
火設備としては、職員がスイッチを操作したり、自動的に火災を発見、消火するハロン1301消火
設備あるいは、二酸化炭素消火設備を導入している例もある。初期の火災を消火するために、二
酸化炭素消火器をコンピュータ室などに配置する必要がある。
なお、消火器には有効期限が定められているので、有効期限切れ以前に消火剤の詰め替え又は
消火器の交換が必要である。
- 338 -
(3)漏水
コンピュータは、いったん水に濡れると電子部品やコネクター部分の腐食、絶縁不良、錆の発生な
どの障害が発生するので、コンピュータ室などを漏水事故から守るため、次の対策が必要である。
1)位置の選定
屋上の高架水槽、冷却塔などの設備からの漏水や雨の浸水の恐れがあるので、コンピュータの
設置階は、できるだけ最上階を避けることが望ましい。また、中間階であっても、直上階が化学
実験室、食堂、洗面所など水を使用する場所も好ましくない。そのほか、建築物の給排水管が通
っている場所も避けることが望ましい。
なお、コンピュータ室の直上階の床は、防水加工を行うことが望ましい。
2)室内空調機
コンピュータ室内に設置される空調機には、冷却水配管、加湿器の給水管、除湿した水のドレ
ン配管などの給排水管がある。なかでも、ドレン管の詰まりにより浸水することがあるので、ド
レン管は清掃しやすいように点検口を設け、定期的に清掃する必要がある。また、万一漏水した
場合に備えて、空調機から出水した水が室内に広がらないようにする防水堤や、排水溝を設ける
ことが望ましい。
なお、コンピュータ室の天井裏に空調用の給排水管を通すことは避ける。
(4)機械的・電気的事故
コンピュータの機械的事故としては、磁気ディスク装置のエアフィルタの不良などにより、磁気
ディスクのヘッドクラッシュが発生して、磁気ディスクが損傷することがある。
空調機の機械的事故としては、空調機の停止により、コンピュータ内部の温度が上昇して、コン
ピュータの温度条件に適合しなくなることがある。また、湿度制御装置などの故障による湿度上昇
のため、コンピュータ内部が結露することもある。
このような事故を未然に防止するために、コンピュータ、電源設備、空調設備などの稼働状況を
監視し、定期的に保守点検を行う必要がある。
4.常時監視システムの運用
常時監視システムの中枢となるコンピュータシステムは、システムの起動と停止、システムの環境
設定、ジョブの投入、データの入力、記録媒体の装填・交換、装置の操作など職員の操作・介入が必
要な場合がある。このように人間がコンピュータと関わる部分については、コンピュータの稼働状況
に対応した適正な操作を実施し、誤操作などによるデータやプログラムの破壊を防止するために、コ
ンピュータの運用管理体制を整備する必要がある。
本項では、日常業務として行われているコンピュータシステムの運用管理について示す。
4.1
オペレータ制御言語
- 339 -
システムに対する積極的な介入を行い、システムと通信をし、ジョブの流れやシステムの稼働状態
を制御するためには、職員がコンソールから制御コマンドを入力する必要があるが、このとき用いら
れるのがオペレータ制御言語(OCL)である。
よく用いられるオペレータ制御言語として次の項目がある。
① システムの起動と停止
② 周辺装置のオフライン化及びオンライン化
③ ジョブの起動、一時中断、再開、強制終了
④ 出力の一時中断、再開、取り消し、出力先や出力形式の変更
⑤ ジョブの多重度や優先度などの変更
⑥ センススイッチの変更による実行制御
⑦ コンソール入出力によるプログラムとの通信
⑧ ポーズ状態の解除
⑨ 媒体名自動認識システムにおける非標準媒体のセット
4.2
システムの起動と停止
コンピュータシステムを起動させるためには、コンピュータに電源を投入した後、システムの初期
化動作を行う必要があるが、現在では煩雑な設定を行わなくとも、簡単な操作で初期化が可能な自動
IPL機能が装備されている。オンライン系の場合は、一度システムを起動すると通常はシステムを停
止させることはない。一方、オフライン系の場合は、日中のみ運転する場合が多いので、日常業務と
して、システムの開始と停止作業がある。
システムの停止に当たって、出力が全部終了しない場合などは、次回の起動時に前回の停止時に残
っていたジョブの後処理が可能なシステムもある。
4.3
消耗品の交換・補充
コンピュータで使用する消耗品は多種類にのぼる。連続用紙や磁気テープ、フロッピーディスクな
どはJIS規格があり、市販品も豊富であるが、インクリボンのように機種専用もある。これらの消耗
品が切れたり消耗が著しい場合は、装置はアラーム状態となり、正常に機能しなくなる。このため、
日常点検において消耗品の交換・補充を早めに行うと同時に、消耗品の在庫量が少なくなった時は、
発注から納入までの期間を考慮して、早めに手配する必要がある。
4.4
ユーティリティプログラムなどの利用
プログラムやデータの作成、記録媒体やファイルの保守管理又はシステムファイルの更新を行うた
めには、OSに装備されている次のプログラムを用いる。
① テキストエディタ
ソースプログラムやJCLあるいはデータの作成・編集に必要である。
② コンパイラとリンカ
実行プログラムの作成に必要である。
- 340 -
③ボリューム管理ユーティリティ
磁気ディスク、フロッピーディスク、磁気テープなどのボリューム(記録媒体)自体を取り
扱い、次の機能がある。
・初期化(ボリューム名の設定とフォーマッティング)
・名称変更
・コピー(複写)
・セーブ(退避)とリストア(復元)
・ディレクトリやファイルの一覧表(領域の使用状況)の印刷
・ダンプリストの印刷
・2つのボリュームの内容の比較
④ ファイル管理ユーティリティ
記録媒体に作成されたファイル(ライブラリを含む)を取り扱い、次の機能がある。
・領域確保と削除
・名称変更
・ディレクトリやファイルのカタログ化
・コピー
・セーブとリストア
・ダンプリストの印刷
・2つのファイルの内容の比較
⑤ システムファイルの定義・更新
利用者が利用できるシステムファイル用のユーティリティとしては、次の例がある。
・新規に作成した文字や記号のフォントパターンの外字登録
・語変換辞書への単語登録
・プリンタの用紙情報、使用フォント、オーバーレイなどの登録
・マクロ化JCL(ジョブ制御言語)の登録
・ディレクトリやファイルのカタログ化情報の登録
・利用者管理情報の登録
・メッセージやエラー情報のロギングファイルの印刷
4.5
利用者管理
大気汚染常時監視業務に用いられているオフライン系コンピュータは、大気発生源や水質の常時監
視業務をはじめとして、他の業務にも利用されていることが多い。この場合、端末装置を用いてTSS処
理を行うなど、コンピュータのオープン利用が行われている場合は、コンピュータの利用者名と使用
できる機能を登録する利用者管理機能が用いられている。
利用者管理を採用しているシステムでは、利用者はコンピュータを使用するに当たって、端末装置
を使用する場合はログイン時に、カードリーダーなどからバッチジョブを投入する場合はJCLのジョブ
文に、利用者の部門名や個人の識別名を記述する他、必要に応じてパスワードの設定も可能である。
そして、システムに登録されている情報との照合を経て、一致している場合に限り、コンピュータの
- 341 -
使用が許可される。
利用者は、システムのすべての機能を使用できる権限を持ったシステム管理者と、それ以外の一般
利用者に分けられる。
システム管理者は、一般利用者が行わないシステムの変更を伴う次の業務を行う。
① 磁気ディスクの媒体処理、ファイルの領域確保・削除、セーブとリストアなどの磁気ディ
スクのファイル管理
② システムの稼働状況の変更
③ システムファイルの更新
また、このようなシステムによる利用者管理機能の他に、対話形式の利用者プログラムにおいては、
利用者の区分に対応したパラメータを入力することによって、表示メニュー変更したり、ファイルを
限定したりするプログラム側での管理も可能である。
4.6
ファイルの保護対策
1時間値は、その量が膨大でかつ時間とともに増加していく。また、測定値が確定するまではたび
たびデータ修正が行われ、その値も変化する可能性がある。また、定数ファイルについても、局・項
目の新増設や廃止あるいは機種の変更のたびごとにその内容が変更される。
一方、プログラムについては、新規業務の追加、既存プログラムの機能強化、処理装置や処理方式
の変更などにより、その内容が変化する。したがって、これらのデータやプログラムが万一破壊され
た場合は、その復元に多大の労力と時間を費やすことになったり、最悪の場合は復元が不可能であっ
たりする。このため、ファイルの破壊や消滅を予防するために、次の保護対策をとることが必要であ
る。
(1)書き込み禁止
ファイルの保護対策としては、ファイルへの書き込みを禁止することが有効であり、スイッチな
どでハードウェア的に行う場合と、JCLなどでソフトウェア的に行う場合とがある。
1)ハードウェア的方法
磁気ディスク装置や磁気テープ装置には、媒体を書き込み禁止にできるプロテクトボタンを付け
る。また、媒体自体を書き込み禁止にすることもできる。
2)ファイル属性の設定
入力専用ファイルかどうかを規定するファイル属性を、ファイルに記録する。
3)入出力モードの設定
プログラムにおいて、ファイルが入力用か出力用かを規定する入出力モードを、プログラム内あ
るいはJCLで記述する。入出力モードには、入力専用(READ)、出力専用(OUTPUT)、追加出力も
可(APPEND)、入出力とも可(UPDATE)がある。
4)排他制御
複数のプログラムが同時に同じファイルを共用する場合は、他のプログラムでのファイルの使用
を制限するファイルの排他制御を考慮する必要がある。排他制御には、共用不可、入力のみ可、共
用可、ディレクトリのみ可、などがある。
5)利用者の限定
- 342 -
多くの部門がオープン利用している場合は、他部門のファイル破壊を防ぐために、利用者管理機
能を用いて、ファイルごとに利用者ごとのアクセスレベル(入出力不可、入力のみ可、入出力共に
可など)を定めることもできる。
(2)読み込み専用サブルーチン
データ解析などでプログラムを作成する場合は、1時間値ファイルは入力専用となる。このよう
に、ファイルを読み込むだけで書き込みを行わないプログラムでは、誤ってファイルがWRITE文など
により破壊されることを防止するために、ファイルからのデータの入力は、読み込み専用サブルー
チンを使用することが望ましい。
(3)テスト用ファイル
データ修正の目的で、1時間値ファイルの書き込みを行うプログラムを作成する場合には、常用
のファイルを用いてプログラムのテストを行うことは、非常に危険である。テスト時には、常用フ
ァイルと同じ構造の書き込みテスト用ファイルを別に作成し、常用ファイルからデータをコピーし
て、テストすることが望ましい。
磁気ディスクの容量に制約があり、別のファイルを作成することが困難な場合は、テスト前に必
ずファイルセーブを行う必要がある。
4.7
ファイルの復元対策
磁気ディスク内に作成されたデータファイルやプログラムライブラリは、そのデータ量が大量なた
め、ファイルの破壊や消滅が発生した場合の影響は非常に大きく、事前にファイルの復元対策をとっ
ていない場合は、復元が困難である。このため、ファイルを直ちに復元させるには、その最新版の内
容を別の媒体に退避させておく必要がある。
(1)復元方法
ファイルの復元方法としては、OSのユーティリティプログラム、利用者が作成したプログラムを
用いたコピー、あるいはセーブが行われている。ただし、データやプログラムが復元された場合は、
その内容が復元対策を実施した時点まで遡ることに注意する。
1)コピー
同一のファイル構造を保持したまま、他の記録媒体又は同一媒体の他の領域にコピー(複写)す
る方式で、媒体あるいは領域の位置の違いを除けば、プログラム上はマスターとコピーは同一に取
り扱える。
① ボリュームコピー
磁気ディスク、フロッピーディスク、磁気テープなどの記録媒体(ボリューム)全体を同一
規格の他の媒体にコピーする方法である。媒体の安全対策として最も簡単な方法であり、一般
に用いられている。ただし、固定式の磁気ディスク装置の場合は、ディスクパックと異なり、
通常は媒体数が限定されていて予備がないので、この方法は採用されていない。
なお、媒体の自動認識を行っているシステムでは、コピー先の媒体名は異なるので、同一名
- 343 -
称にしたい場合は、コピー後に媒体名の変更が必要である。
② ファイルコピー
磁気ディスク、フロッピーディスク、磁気テープなどに作成された個々のファイル、あるい
はディレクトリを、他の媒体あるいは同一媒体の他の領域にコピーする方法である。
なお、ファイル編成によっては、異なる規格の媒体には複写不可能な場合がある。
2)磁気ディスクのセーブ
磁気ディスク内の種々の形式のファイルを、順編成ファイルである磁気テープに、磁気ディス
ク内の絶対番地などの情報を付加して、トラック又はセクター単位に退避(セーブ)する方法で
ある。ユーテイリティプログラムで作成されたセーブテープは、磁気ディスクのファイルとはフ
ァイル構造が異なるため、利用者プログラムでは通常使用できず、セーブと対をなす復元(リス
トア)により、同一規格・同一媒体名の媒体に復元する必要がある。
① ボリュームセーブ
磁気ディスクの媒体全体を磁気テープ数本にセーブする方法である。リストアに当たって、
ファイル単位にも指定可能な方式もある。
② ファイルセーブ
磁気ディスク内の個々のファイルを指定して、ファイル全体を磁気テープにセーブする方法
である。
なお、プログラムライブラリの場合は、セーブ及びリストアに際して個々のプログラムを指
定することも可能である。
③ レコード単位のセーブ
1時間値ファイルのレコードアドレスを局、項目、期間などを指定して、任意に抽出し磁気
テープにセーブする方法であり、利用者が作成するセーブプログラムを用いて行う。
(2)セーブの実施時期
ファイルのセーブは、定期的に実施しない場合は、ファイルの内容を大きく書き換える前後にそ
れぞれ実施することを原則とする。
1時間値などのデータファイルのセーブは、①データ収録された段階、②データ修正が行われた
前後、③データが確定した段階のそれぞれで行われる。オンラインで収集される1時間値データに
ついては、データ確定が完了するまでは定期的に実施することとする。バッチ入力されるデータに
ついては、入力と同時に修正して確定が可能なものも多く、その場合は収録時だけでもよい。また、
大量のデータ修正を行う場合も、修正ミスに備えて事前にセーブする必要がある。
なお、データ確定が完了したものについては、確定版として永久保存する。
ライブラリについては、オンライン系では、メーカーがプログラム改造した時に実施する。一方、
オフライン系では、TSSなどにより多数の利用者がオープン使用している場合は、定期的にセーブす
る必要がある。
このほか、利用者が内容を定義又は更新したシステムファイルについても、変更する段階でセー
ブする必要がある。
(3)セーブの多重化
セーブのたびごとに、セーブテープを作成・保存することは、保存すべき磁気テープ本数の増大
- 344 -
につながるため、実際には限られた本数で実施することも多い。この場合、セーブ用磁気テープが
1セットしかないと、ファイルの破壊に気づかずにセーブを行い、前回のセーブ内容が消去された
めに、ファイルの復元が困難になることがある。この対策として、セーブ用磁気テープを複数セッ
ト用意して、サイクリックに使用する方法、あるいはセーブのたびごとに更新部分を履歴として保
存する方法などを採用する必要がある。
(4)分散保管
現在では、磁気テープ専用の防災保管設備を有する専門の保管業者が媒体の交換・運搬・保管業
務を行っているので、地震や火災などの事故に備えて、セーブテープやコピーした媒体を、監視セ
ンター以外の場所にも分散して保管することも考慮することが望ましい。ただし、定期的あるいは
データが更新されるたびごとに、最新版と交換する必要がある。
なお、オンラインあるいは磁気テープ渡しにより、他のシステムとデータ交換を実施している場
合もデータが分散されていると考えられ、万一の場合、交換先から磁気テープでデータ提供を受け
ることも可能である。
5.常時監視システムの維持管理
常時監視システムは、年間を通じた連続稼働が原則であるため、各機器の保守点検を定期的に行う
他、各系においてデータの伝送精度の維持が必要である。
ここでは、テレメータ子局装置からデータ処理装置に至る常時監視システムを円滑に維持管理して
いくために必要な事項について示す。
5.1
機器の保守点検
常時監視システムの機器に関する保守点検には、次の3種類がある。
(1)日常点検
日常点検では、消耗品の交換・補充を行うとともに、システムの障害を早期に発見するために、
監視センターに設置されている機器の稼働状況を目視により確認する他、オンラインで収集したデ
ータの状況などから、測定局の測定機やテレメータ子局装置など監視センター外に設置されている
機器の稼働状況も把握する必要がある。
表4-9に点検・確認すべき項目の概要及び消耗品を示す。
(2)定期点検
機器のメーカーが定める点検基準に従って、障害の早期発見と予防を目的に、定期的に実施する。
機器のレンタル・リース化及び複雑化に伴い、定期点検はメーカーに委託するようになってきてい
る。
データ処理系の定期点検は、メーカーが実施しているので、ここでは、データ伝送系及び空調機
の定期点検について、概要を表4-10に示す。
(3)緊急点検
- 345 -
システムに障害が発生した場合に、障害原因を究明して、早急に復旧するために実施するもので
ある。この場合、業務の実行状況を記録しているコンソールリスト及びメッセージやエラーのロギ
ングファイルのダンプリストは重要な資料となる。
5.2
保守点検の委託
レンタル契約の場合は保守点検費用込みの価格であるが、リース契約あるいは買い取りの場合は、
一般に機器の保守点検は含まれないので、保守点検を別途契約する必要がある。
機器の保守点検を委託する際の留意事項について示す。
(1)委託契約
機器の保守契約には、定期点検と緊急点検が両者一括して含まれているのが一般的である。この
内、定期点検は、機器のメーカーが定める点検基準の内容と頻度に準拠して実施する必要がある。
また、緊急点検は前年度の実績などを参考にして工数を算出するが、機器の老朽化に伴い、緊急点
検の頻度は年々多くなると思われる。
(2)保守点検報告書
保守点検の結果については、保守点検業者から各装置ごとに保守点検報告書が提出されるが、次
の内容が記載されている必要がある。
① 各種の点検確認及び調整の内容
② 消耗品や老朽化部品の交換状況
③ 注油や清掃の実施状況
④ 点検前後の機器の稼働状況
⑤ 修理が必要な機器がある場合はその機器名及び該当箇所
テレメータ子局装置の定期点検報告書の例を図4-18(省略)に示す。
(3)定期協議
委託業務が適切に実施されるように、保守点検項目や機器の稼働状況などについて、委託業者と
地方自治体の間で、定期的に協議する場を設け、意見交換を行うことが望ましい。
- 346 -
図4-18 定期報告書の例
- 347 -
表4-9
区
分
点
システム全体
の状況
テ
レ
日常点検
検
確
認
項
目
使用する消耗品
時報、日報などの1時間値
エラーメッセージによる異常の表示
――――――――
全機器に共通
アラーム表示ランプなどの点灯状況
異常音の有無、冷却ファンの動作
――――――――
操
子局呼び出し状況、
測定機の調整中とアラーム状況
――――――――
主
メ
作
卓
|
要
タ
親
記録計
記録紙残量、インクの状態
時間ずれ
記録紙、インク、インクパット
表示盤など
表示素子の状態
ランプ
磁気テープ
磁気テープ残量
ヘッド、ピンチローラー、テープガイトの清掃
磁気テープ、ヘッドクリーナー、
綿棒、ガーゼ
プ
全般
用紙残量、紙送り機構部の清掃、
印字むらの点検
連続用紙、カット紙
ラインプリンタ
シリアルプリンタ
インクリボンの状態
インクリボン
ン
タ
ページプリンタ
トナー、定着剤残量
トナー、定着剤、感光ドラム
ディスプレー
画面及びVDTフィルタの清掃
画面クリーナー
ハ
|
ド
コ
ピ
|
熱転写式
記録紙、インクシート残量
記録紙、インクシート
写真式
フィルム残量
フィルムパック
レーザー式
記録紙、トナー、定着剤残量
記録紙、トナー、定着液
機
局
装
置
器
リ
お
の
よ
び
稼
コ
ン
ピ
働
ュ
|
状
XYプロッタ
記録紙、インク残量、ペンのかすれ 記録紙、各種ペン、
フラットベッド面の清掃
インク
せん孔装置
せん孔くずの処分及び清掃
カードやテープ残量
タ
況
空
調
機
室内温湿度の変化、吹き出し風量
- 348 -
紙カード、紙テープ
区
分
装
置
デ
テ
レ
メ
|
タ
|
子
局
装
置
点
表4-10
定期点検項目と実施頻度の例(1/2)
検
整
調
項
目
実施頻度
送受信レベルの点検
A/D変換器の精度の点検
パルスカウンタの精度の点検
測定機状態監視信号の動作点検
測定機制御信号の動作点検
測定機とのデータ比較
随時呼び出しによる測定信号と状態監視信号の伝送精度の点検
監視センターの時報とのデータ照合
親局や中継局との通話試験
直流電圧及びリップル電圧の点検
周波数変調部バランスの点検
各スイッチの動作点検
データ表示機能の点検
内蔵タイマーの点検と校正
バックアップメモリの点検
腐食や傷の有無の点検
年数回
タ
伝
送
テ
レ
メ
|
タ
親
局
装
置
無
線
系
機
送受信レベルの点検
タイマー入力動作の点検
各スイッチの動作点検
直流電圧及びリップル電圧の点検
子局呼び出し制御機能の点検
アラーム機能の点検
停電時のバックアップ機能の試験
周波数変調部の出力波形の点検
各部主要波形及びタイミングの点検
電源電圧の点検
送信出力、空中線系の点検、調整
送信周波数偏差の点検、調整
最大周波数偏移、標準変調感度、歪率の点検、調整
スプリアス輻射の点検、調整
受信局発周波数偏差の点検、調整
スケルチ感度の点検、調整
スケルチ設定
受信電界の点検
通話試験
テレメータ信号ラインレベルの点検、調整
回線S/N比の点検
- 349 -
年数回
年数回
区
分
装
置
デ
操
|
作
タ
卓
点
表4-10
定期点検項目と実施頻度の例(2/2)
検
整
調
項
目
実施頻度
電源電圧の点検
各スイッチの動作点検
子局データ収集状況、機器アラーム表示機能の点検
システムタイマーの点検
子局あるいは中継局との通話試験
表示盤などのデータ表示、切り換え機能の点検
ブザー、チャイムの鳴動試験
年数回
電源電圧の点検
親局からの定時受信データの点検
受信データの打点記録計への信号出力の点検
受信データのメモリ、及び収録データの読出点検
打点記録計のオーバーホール
年数回
伝
記
送
録
系
計
空
室
内
調
機
機
室
外
機
エアフィルタの清掃
ドレンパンの清掃
アース線の外れの点検
電線被覆の損傷及び端子の緩み・外れの点検
冷媒配管のガス漏れの点検
圧縮機の点検
サーモスタット、ヒューミディスタットの点検、調整
電気ヒータの点検
加湿器の点検及び清掃
各スイッチの作動確認
ファンモータ及びファンベルトの点検、調整
ファンベアリングの点検及び注油
ドレン配管の清掃
凝縮器の洗浄
安全装置の点検
電気回路の点検
能力の確認
冷却塔、冷却水ポンプの動作点検(水冷式)
冷却塔の水槽及びストレーナの清掃(水冷式)
室外機の動作点検(空冷式)
室外機のコイルの清掃(空冷式)
室外機フィンの清掃(空冷式)
- 350 -
年数回
1年
毎月
5.3
機器の修理
保守点検などにより発見された障害は、直ちに修理する必要がある。また、老朽化などにより障害
が頻発する恐れのある機器については、更新する必要がある。
なお、機器に障害が発生した場合には、メーカーは保守契約を結んでいる利用者を優先するので、
保守契約を結んでいない場合は、修理が遅れる場合がある。このため、別途購入した端末装置などに
ついても、保守契約を結んでおくことが望ましい。
また、障害発生時の原因究明や機器更新時期の判断材料とするため、障害が発生した機器、現象、
日時、原因、修理内容などを記録した障害及び修理に関する記録簿を整備しておくことが望ましい。
5.4
収集データから障害機器を識別する手順
常時監視システムにおける障害の発見には、日常点検が重要な役割を果たしており、収集データに
異常が発見された場合には、次の手順に従って障害箇所を識別し、緊急点検や修理を行う必要がある。
(1)収集データの確認
まず、現象面から次に例示したデータがあるかどうか調査する。
① 欠測値
② 外れ値
③ 一定値又は変動が極端に小さくほぼ一定値に近い測定値
④ 単調増加又は単調減少している測定値
次いで、このような測定値がある場合には、その出現状況を調査する。
・出現は1回限りか、継続しているか又は断続的なのかどうか
1回限りの場合は現象の再現を待つこととなる。断続的な場合は規則性があるかどうか。
・出現は特定局の特定項目だけか、特定局の全項目か又は全局の全項目かどうか
親局が複数ある場合は、特定の親局に接続されている子局のみかどうか。
(2)特定局の特定項目に限定される場合
測定機自体あるいはテレメータ子局装置との接続不良に原因することが多いので、まず該当する
測定機を点検する必要がある。点検の結果、測定機に異常がなければテレメータ子局装置の点検を
行う。
1)欠測の場合
① 測定機が調整中になっていないか又はアラーム信号が出力されていないか
② 接続端子が外れていないか又は緩みや腐食がないか
2)欠測以外の場合
① 測定機が故障していないか
② 信号線が測定機及びテレメータ子局装置に正しく接続されているか
例えば、NOとNO2の接続が逆になっていないか。
- 351 -
(3)特定局の全項目の場合
1)欠測の場合
原因として、次のことが考えられる。
① 局舎の停電
② テレメータ子局装置の電源断
③ 有線の場合は、NTTの通信回線との接続部又は通信回線内の不良に伴う送信レベルの低下に
よる断線状態化あるいは事故などによる回線の切断
④ 無線の場合は、無線機の故障による送信レベルの低下による断線状態化
2)欠測以外の場合
テレメータ子局装置の故障あるいは伝送路の障害が考えられる。点検の結果、テレメータ子局装
置に異常がなければ、伝送路の点検を行う。
(4)全局全項目の場合
テレメータ親局や中継局の点検を行う。
① テレメータ親局装置が正常にスキャニングを行っていない場合は、テレメータ親局装置の異
常が考えられる。
② 親局からの呼び出しに対して子局の応答がない場合には、中継局の異常が考えられる。
③ 特定の子局の送信機(無線機など)の障害で、その局のみのデータが連続的に送信され、他
の局のデータが受信不能となることも考えられる。
以上の点検で伝送系に異常が発見されない場合は、データ処理系の異常が考えられる。
(5)データ処理系に原因がある場合
データ処理系の異常の原因としては、ハードウェアの故障、プログラムのバグ、実行環境の設定
の不備、主記憶やファイル容量の不足ほか、装置の誤操作やプログラムの入力パラメータの誤指定
なども考えられる。コンピュータのハードウェアに明らかな障害がある場合を除いて、次の確認を
行う必要がある。
なお、これらの確認を行った上でも、原因が不明の場合は原因調査の資料とするため、①コンソ
ールプリンタの出力リストを保存し、②メモリのダンプやロギングファイルのセーブなどを行うと
ともに、③メーカーのシステム設計担当部門に連絡した上で、プログラムを再スタートさせる必要
がある。
① 局・項目の新増設あるいは廃止を行った場合は、定数ファイルに所定のデータが収録されて
いるか。
② ファイル容量は充分か。
③ 主記憶を大きく占有するプログラム(例えば図形処理)が投入されていないか。
④ ジョブの多重度や優先度などシステムの環境設定に不備はないか。
⑤ テレメータ親局装置に内蔵のシステム時計とコンピュータの時計は一致しているか。
⑥ テレメータ親局装置からデータが正常に取り込まれているか。
⑦ OSあるいは利用者プログラムからのエラーメッセージが出力されていないか。
⑧ 入力パラメータが正しかったか。
- 352 -
⑨ 2月29日~3月1日に異常が発生した場合は、プログラムでのカレンダーの閏年の処理に誤
りがないか。
⑩ プログラムのコンパイル、リンクが正常に行われているか。
修正したプログラムのコンパイルに失敗した場合は、修正前のプログラムが実行されている可
能性がある。
5.5
伝送精度の確認
伝送データは、テレメータ子局、テレメータ親局、データ処理系のそれぞれで確認することができ
るので、各装置には伝送データを確認する機能を持たせることが望ましい。特に、テレメータ子局装
置に入力データの表示機能を持たせることは、アナログやパルスの測定信号だけでなく、状態監視信
号も確認することができるため、伝送精度を確認する上で非常に有用である。
親局で伝送精度を確認するためには、子局から伝送されてきた測定信号、状態監視信号及びスケー
ル変換値などを項目ごとに表示するプログラムが必要である。
伝送精度を確認する方法としては、次の方法がある。
(1)測定機の保守点検時の確認
次に示す確認は、対象が測定機に限られており、親局とは直接関係ないので、測定機の保守管理
業務の中で実施する。
① 測定機に基準となる等価液、標準ガスなどを入れて、記録計出力とテレメータ出力を電圧計
で確認する。
② 直流標準電圧電流発生装置などを用いて基準電圧(電流)を記録計に入力して、記録計の指
示を確認する。
(2)テレメータの保守点検時の確認
テレメータの保守点検時には、親局から子局の任意呼び出しを行い、次の確認を行う。
① 直流標準電圧発生装置を用いて基準電圧をテレメータ子局のアナログ入力に入れ、親局で確
認する。これは、子局のA/D変換器と伝送路の確認である。
② 測定レンジや調整中などの状態監視信号を設定して、親局で確認する。
(3)測定機の校正時の確認
測定機の校正時に行う総合的な確認である。
測定機に基準となる等価液、標準ガスなどを入れて、子局では、①記録計出力と②テレメータ出
力を電圧(電流)計で確認すると同時に、親局で任意呼び出しをかけて、③ポーリング時の子局に
おける測定データと状態監視信号を子局のモニタ画面で確認する。親局では、④子局から親局に伝
送されてきた測定データと状態監視信号を確認し、最終的には⑤スケール変換値を確認する。
5.6
伝送路の障害対応
(1)有線回線
有線回線において伝送路に障害が発生した場合は、まず障害箇所がNTTの責任範囲であるかどう
- 353 -
かを見極めることが必要である。一般的には、テレメータ子局及び親局において原因を調査し、
異常が発見されない場合に、NTTに調査依頼する必要がある。
(2)無線回線
1)電波障害の原因
無線でデータ伝送する場合には、送受信する2地点間は見通しがきき、直接波で送受信できる
ことが望ましい。しかし、都市部ではビルなどの新増設があるため、設置当初には直接波で送受
信できた回線も、途中で送受信不可能となることがある。テレメータ親局あるいは子局に近いと
ころに建設されたビルだけでなく、中間地点に建設されたビルなどなどによっても、直接波が妨
げられることがある。さらに、直接波は妨げられなくとも、近隣のビル、鉄塔あるいは金属製の
煙突などに起因する間接波によって、電波障害が発生することもある。
2)電波障害の対策
電波障害を防止するためには、テレメータ親局、中継局、子局の周囲を常に注意し、ビルなど
の建設に対しては、早急に対処するできるようにしておく必要がある。しかし、かなり遠くの建
築物、特に金属製の煙突群やタンク群によっても影響を受けることがあり、年に1回程度は子局
の電界測定を実施し、アンテナの移動などを検討することも必要である。
公害波(400 MHz)の場合には、直接波と間接波との関係から、アンテナの位置を上下、左右
あるいは前後に数m移動しただけで、良好に受信できる場合もあるので、電波の状態が悪化した
場合には、アンテナ周囲の電界を測定し、電界値の高い地点を調査することも電波障害を解消す
る1つの方法である。地上の建築物などの境界条件は複雑であり、最適受信地点を理論的に計算
することは事実上困難であるため、一般的には、現地で実地に最適地点を求めている。一方、防
災行政無線については、直接波による送受信が保証されているので、電波障害の恐れはほとんど
ない。
6.常時監視システムの増設改造及び更新
常時監視システムは、新しい機能の追加、処理方式の変更、局・項目数の増加に伴うデータ量の増
加、ハードウェアの老朽化などにより、増設改造あるいは更新が必要となる。
なお、増設改造にするか更新にするかの一般的な基準はないが、次の場合には、増設改造よりも更
新することが望ましい。
① テレメータやコンピュータなどのハードウェアが、設置・稼働時から10年程度経過して、老
朽化による故障が頻発したり、部品の製造中止により保守が困難になる場合。
② 増設改造しなければならない部分が多く、相当の費用を要する場合。
③ 既設システムのサポート対象外のハードウェアやソフトウェアを導入する場合。
④ システムの基本的な機能の変更に伴い、運用管理が複雑化する場合。
6.1
システムの増設改造
- 354 -
システムの増設改造においては次の事項に注意する必要がある。
① 新しい機能の追加やデータ量の増加に伴って、ハードウェアを増設する時に、既存のソフト
ウェアの大幅な改造、また場合によっては新規作成が必要となることがある。
② コンピュータの主記憶容量は、当初予定した業務処理に必要最小限な量しか実装されていな
い場合が多いため、OSのバージョンアップ及びハードウェアやソフトウェアの増設により、
主記憶容量が不足する場合があるので、主記憶容量の増設も考慮する必要がある。
③ 周辺装置や端末装置を増設する場合は、それらの専用制御装置や通信制御装置の増設が必要
になる場合もある。
④ オンライン処理プログラムを改造する場合は、デュアル方式などの場合を除いて、システム
の停止期間が生じるので、緊急時措置が頻発する時期を避けることが望ましい。
6.2
システムの更新
システムを更新する場合には、①更新対象装置の範囲、②更新時期、③更新システムの仕様、④移
行措置について充分検討する必要がある。
(1)更新対象装置の範囲及び更新時期
常時監視システムの更新に当たって、システムの全体的な機能向上を図るためには、データ伝送
系及びデータ処理系の全部を同時に更新することが望ましい方法である。データ伝送系の更新に当
たっては、伝送方式、伝送路、伝送フォーマットなどの変更に伴い、データ処理方式を変更しなけ
ればならなくなるので、オンライン系の更新も同時に行われる場合が多い。このように、データ処
理系とオンライン系はシステムとしての関連性が強く、同時更新が望ましい。しかし、費用などの
面からシステムを分割して数年にわたって更新する場合もあるので、その際の注意事項を次に示す。
1)データ伝送系の更新
テレメータ親局と子局は、データ伝送上一体として設計されており、密接な関係があるため、
一括更新が望ましい。やむを得ず親局と子局に分割して、数年にわたって整備する場合は、次の
ことに留意する必要がある。
① 新旧親局を併設する場合
データ処理系に新旧双方の親局を接続でき、かつ、新旧のデータ形式が異なっても対応でき
ること。
② 旧親局を撤去して新親局を設置する場合
・新親局は、新旧双方の子局と接続できること。
・ランダムに子局が更新されても対応できること。
・データ処理系において、新旧のデータ形式が異なっても対応できること。
2)データ処理装置の更新
データ処理系の更新では、周辺装置や端末装置を含めて全体を一括更新するのが一般的である。
周辺装置や端末装置の一部を更新後も利用するのは、装置が買い取りであって、かつ、次の条件
に当てはまる場合に限られる。
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① 新コンピュータに特別のインターフェースなしでそのまま接続可能である。
② 製品寿命が相当残っている。
③ 更新時点で廃止機種となっていない。
(2)更新システムの仕様
1)システムの基本構想
更新システムの仕様を定めるに当たっては、まず現状のシステムの問題点を整理した上で、次
のことを検討し、更新システムとして必要なシステムの基本構想を立てる必要がある。
① 現在保有するデータの種類と量
② 将来予想される局・項目数
③ 新規業務の内容と頻度及びデータ量
④ 他の常時監視業務(大気発生源や水質など)を実施する場合のシステム間の関係
互いに独立したシステムとするか、あるいは統合システムとするかを決定する。
⑤ システムのバックアップ方式
⑥ 契約方法
買い取りとするか、レンタル・リースとするかを決定する。なお、リース契約の場合には期
間の設定が必要である。
2)システムの基本設計
システムの基本構想がまとまった段階で、システムの各系について次に示すような事項を検討
して、更新システムのハードウェア及びソフトウェアの基本的な仕様を定め、メーカーにシステ
ムの基本設計を依頼する。システムの価格は基本設計の段階でほぼ決定するので、基本仕様の決
定に当たっては充分な検討が必要である。メーカーは基本設計を提案書として提出する。
① データ伝送系
伝送路、子局数、項目数、状態監視信号数、1時間当たりの収集回数、バックアップ日数、
子局側での1時間値演算の有無など
② データ処理系
データ量、業務内容などから要求されるハードウェア及びアプリケーションプログラムの選
択、バックアップ方式、ソフトウェア作成に必要な業務処理の概要など
③ データ交換系
データ交換先とのインターフェース、交換頻度など
④ 同時通報系
伝送路、通報装置、通報先など
3)システムの詳細設計
システムの基本設計が承認された段階で、ハードウェア及びソフトウェアの各部分についての
詳細設計に取り掛かる。
なお、詳細設計の段階で、ハードウェアやソフトウェアに若干の変更が生じる場合もある。
(3)移行措置
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旧システムから新システムに更新する場合、必ず移行期間が生じる。この移行期間中におけるデ
ータの欠測を極力防止し、運用に支障を来さないためには、データを新旧のシステムに分岐したり、
あるいは切り換えたりして並行運転を行うことが望ましい。
なお、更新システムの親局を別の場所に設置する場合以外は、同一場所で並行運転を行うことと
なる。このため、並行運転の期間中は、新旧の両システムが併設されるため、監視センターのフロ
アレイアウト、電源、重量、発熱量などの物理的制約条件を充分検討する必要がある。
6.3
更新に当たっての留意事項
(1)バックアップ対策
システムの各段階において、バックアップ対策を検討し、効果的で実現可能な方式を採用するこ
とが望ましい。
(2)主記憶容量
処理業務の増大だけでなく、OSのバージョンアップによっても必要な主記憶容量が増加するので、
主記憶容量にはこれに対応できる余裕が望まれる。
(3)OS
更新システムのOSが、従来のOSと同一あるいは同一シリーズの上位OSである場合は、既存のソフ
トウェアの変更は不要であるか、あるいはJCLなどの若干の変更で済む場合が多い。また、システム
の操作法が同じなど、従来と同様な運用管理を行うため、新システムへの移行が比較的容易である。
一方、異なるOSの場合は、プログラムの変換作業が必要となるが、新OSがサポートしていない機
能を用いているなど、互換性がない場合もあるので、新規に作り直すことも多い。このため、プロ
グラムの本数が多くなると、既存プログラムの新システムへの移行が非常に大きな問題となってく
る。
(4)媒体変換
磁気ディスクは、異なるOS間の互換性がほとんどない。また、同一OS間でも媒体規格が異なると
媒体間の互換性がなく、ボリュームセーブテープは使用できない。このため、磁気ディスクに存在
するファイルは、すべて更新システムで入力できるように、利用者が作成したセーブプログラムな
どで、事前に磁気テープに媒体変換しておく必要がある。
磁気テープは、現在では9トラックの1600RPI又は6250RPIの装置がほとんどであるから、これ以
外の装置を使用している場合は、事前に委託などにより媒体変換しておく必要がある。
(5)ファイル容量
磁気ディスク装置は大容量化するに従い相対的に低価格化しており、必要最小限とせずに、将来
の業務の変化にも対応できるような容量を確保することが望ましい。また、磁気ディスクを有効利
用するためには、ファイル容量の大きな1時間値ファイル中に無駄な空きレコードを作成しないこ
とが重要である。このためには、図4-5に示すような局・項目の有無を期間(年月など)ごとに管理
した局項目情報ファイルを作成し、このファイルを参照して1時間値ファイルのレコードアドレス
を算出することにより可能となる。
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(6)フォーマット
ソフトウェアの変更に伴い、磁気テープなどのフォーマットを変更することが多い。保存されて
いるデータを更新後もそのまま利用できるようにするためは、更新後もフォーマットを変更しない
場合を除き、保存データを更新前のフォーマットから更新後のフォーマットに変換するかどうか検
討する必要がある。
(7)データ交換
近隣の地方自治体と磁気テープあるいはフロッピーディスクによりデータ交換を行う場合は、フ
ォーマットを調整することが望ましい。また、オンラインによりデータ交換を行う場合は、データ
交換の手順を調整するとともに、データ交換の頻度を考慮して、適当な通信回線を選定することが
望ましい。
(8)設置条件
更新前に比べて、設置面積、消費電力、発熱量が増加する場合は、フロアの拡張や電源設備、空
調設備の追加あるいは更新を考慮する必要がある。
(9)データ補充
旧システムから新システムに切り換える時に、システムを停止させることになるが、これが長期
間に及ぶ場合は、大量のデータが欠測となり、業務に支障を来すため、データの補充方法を別途考
慮する必要がある。
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