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一 庫ダム管理開始30年
特集 地域とともに30年、これからも地域とともに ひ と く ら 一 庫ダム管理開始 30 年 一庫ダム管理所 ◆はじめに い な が わ ひとくらおおろじがわ 淀川水系猪名川の左支川の一庫大路次川にある一庫 ダムは、昭和 58 年 4 月に管理を開始してから 30 年が 経過しました。 一庫ダムは、総貯水容量 3,330 万 m3 の重力式コンク リートダムで、洪水調節、水道用水の供給(最大 2.5m3/s) および河川環境の保全等を目的とした多目的ダムです。 管理開始以来、兵庫県・大阪府の 6 市 2 町に水道用水 を供給するとともに、猪名川流域における洪水被害の軽 減に寄与してきました。 一庫ダムは、大阪の中心部から電車や車で約1時間 で来ることができる、都市近郊のダムです。ダム貯水池 ちみょうこ である知 明湖はダム湖百選にも選定されており、周辺 には日本一の里山といわれる「黒川地区」や、日本三大 みょうけん の せ 妙見の一つといわれている能勢妙見山があり、ハイキン グやサイクリング等多くの方が訪れています。 4 ● 水とともに 水がささえる豊かな社会 豊能町 一庫ダム管理開始30年 また、一庫ダムがある川西市は、清和源氏発祥の地であ ない量を放流する操作)により、昭和 58 年と比較して、 り、多田神社をはじめ多くの歴史的建造物も残っています。 格段に洪水被害を軽減することができました。 現在の洪水調節計画は中小出水に効果があることは実 証されましたが、計画規模(約 20 年に 1 回の確率で発 生する洪水) を超える洪水が発生した場合には、当初の洪 水調節計画の放流量より多い流量を下流へ放流しなけれ ばなりません。従って、今後下流河川の整備状況等を勘 案しつつ、洪水調節計画の見直しも必要になってきます。 〔水道用水の供給〕 一庫ダムは、兵庫県・大阪府の 6 市 2 町に水道用水 を供給しています。兵庫県の市町には県営多田浄水場か ら、大阪府の市町には池田市古江浄水場から、それぞれ 供給されています。下流の川西市へは市全体の水使用 量の 8 割超 *、池田市へは 4 割超 ** が一庫ダムから供 給されています。 「 * 川西市水道ビジョン(H21.3) 」 (川西市) 、 **「池田市上下水道ビジョン(H23) 」 (池田市) 貯水池容量配分図 ◆一庫ダム 30 年のあゆみ 〔洪水調節〕 一庫ダムの洪水調節は、ダムへの流入量が 150m3/s に達した後は、150m3/s の一定量を放流する方法で行 います。これまでの 30 年間に 10 回の洪水調節を行い ました。 ダム管理当初は 100 年に 1 回の確率で発生する洪水 を対象とした計画でしたが、平成 12 年に下流河川の整 備状況等を勘案し、より中小規模の出水に効果があるよ うに約 20 年に 1 回の確率で発生する洪水を対象とした 計画に変更しました。 平成 16 年には、昭和 58 年と同じく管理開始以降最 大となる約 411m3/s の最大流入量がありましたが、平 成 12 年の洪水調節計画の変更と減水時操作(特定の 条件を満足した場合に限り、本来の洪水調節計画より少 昭和 58 年台風 10 号と平成 16 年台風 23 号の洪水被害の比較 年 月 日 原 因 累計雨量 (mm) 最大流入量 (m3/s) 最大放流量 (m3/s) 洪水調節計画 主な洪水被害 昭和58年 9.27~9.30 台風10号 239 410.93 287.58 1/100 家屋半壊8戸、床上浸水 358 戸、床下浸水 2869戸、田畑被害 107ha、道路被害 35箇所、被害 額約 27億円 平成16年 10.20~10.21 台風23号 207 410.90 149.04 約1/20 床上浸水 5戸、床下浸水 3戸、 道路被害 7箇所 *累計雨量は、一庫ダム流域平均総雨量。 特集 ● 5 特集 〔河川環境の保全等〕 〔水質保全〕 猪名川における既得取水の安定化及び河川環境の保 一庫ダムでは管理開始以降、ほぼ毎年のように水質障 全を図るために、河川流量が少ない場合でも一庫ダムか 害(夏季はアオコ)が発生していました。平成 18 年度よ ら水を補給しています。 りアオコ対策として、浅層曝気設備を設置しました。平成 せんそうばっき 18 年度から 2 基運用し、平成 23 年度からは 6 基運用、 〔水力発電〕 さらに平成 24 年度から 8 基(深層曝気設備の浅層併用 一庫ダムには管理用水力発電設備があり、発電施設 の規模は最大出力 1,900kW で、下流への放流水を利 型 2 基を含む)運用した結果、平成 24 年度には 18 年 ぶりにアオコが確認されませんでした。 用して 1.5m /s ~ 4.2m /s の流量により発電を行ってい 3 3 ます。30 年間で年間平均約 5,000MWh の電気を発電 しています。発電した電気はダム管理施設で使用し、余 剰電力は売電しています。これにより、ダム管理費の軽 減に寄与しています。 ◆河川環境の改善への取り組み ダム完成により、下流への土砂の供給がなくなったこ と、流況が安定し流量の変化が少なくなったこと等によ り、ダム下流の河川環境が変化しました。 河川環境改善の方策として、①貯水池外来魚駆除、② 「川を耕し隊」、③下流土砂供給などに取り組んでいま す。これらの取り組みにより、徐々に河川環境が改善され てきています。 貯水池外来魚駆除は、主に洪水期に向けた貯水池の 水位低下時期に、貯水池内に網を張り、魚類を捕獲し、 在来魚は再放流、外来魚は持ち帰り処理後、畑の肥料等 にしています。 また一庫ダムには、ダム湖を海と見立てて流入河川 を遡上する「湖産アユ」が生息しています。 「川を耕し隊」 〔ダムサイト〕 〔出合地区〕 H22.8.27 撮影 アオコの発生状況の変化 6 ● 水とともに 水がささえる豊かな社会 H23.8.26 撮影 H24.8.24 撮影 一庫ダム管理開始30年 漁業協同組合との協働による河川環境改善の取り組み や、能勢電鉄株式会社との共催による夏のダム内部見学 会、回収したダム湖の流木にペイントし作品を作りあげ る流木ペインティング大会などを実施しています。 見学希望者も随時受け付けており、平成 24 年度は 1,500 人を超える方がダム見学に訪れ、職員が説明・ 案内をしました。 また、地元主催の「黒川里山まつり」、「猪名川クリー ン作戦」、「川西一庫ダム周遊マラソン大会」等にも積極 的に参加しています。 川を耕し隊 一庫ダム内部見学会 湖産アユの遡上 は、アユが産卵場で産卵しやすいように、水資源機構と 猪名川漁業協同組合が協働で、産卵期に河床をかき起 こしています。その結果、多くの湖産アユが遡上してい ます。 ダム下流河川では、洪水期に向けた貯水池の水位低 下に合わせて年 1 ~ 2 回、河川への土砂供給を行って います。これにより魚類の産卵場が確保されると共に、ア 流木ペインティング ユやオイカワの餌となる藻類更新の促進が図られます。 この結果、オイカワはじめ、在来魚の数が増加しています。 ◆地域との連携 ◆おわりに 一庫ダムは、皆様のご支援・ご協力により、管理開 始 30 年を迎えることができました。出水時の情報の ダム周辺には毎年多くの方々が訪れています。ダム湖 共有など、地域一体となった適切な対応や、渇水に備 利用実態調査によると、年間約 30 万人が訪れています。 えたきめ細やかな管理、さらには水質の改善や河川環 主に「散策」や「野外活動」 を楽しんでいます。 境改善への取り組みなどを進めて参りました。 一庫ダムでは、水源地域の持続的な活性化のための 今後も引き続き、皆様のご理解・ご協力のもと、猪 活動として、平成 15 年 4 月に「一庫ダム水源地域ビジョ 名川流域の洪水被害の軽減、水道用水の安定供給、 ン」を策定しました。その他、さまざまなイベントを通じ、 並びに水質保全対策や河川環境の改善に努めて参り ダムに関する情報提供を行うよう努めています。猪名川 ます。 特集 ● 7