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Title Author(s) 地域福祉における行政の課題 右田, 紀久恵 Editor(s) Citation Issue Date URL 社會問題研究. 1983, 32(2), p.191-203 1983-03-01 http://hdl.handle.net/10466/7008 Rights http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/ 地域福祉における行政の課題 右 田 紀久恵 は じ め に 地域福祉の概念が強調される背景に、過去の社会福祉が地域社会から遊離し て機能したり、存在したことへの反省という要因がみられる O このことを前提 とすれば、従来の社会福祉行政の検討、すなわち、地域福祉における行政の果 すべき役割や機能を明確にすることが不可欠となる O しかし、最近の地域福 祉や在宅福祉サービスのさかんな論議にくらべて、そ乙での行政の果すべき役 割や機能の論調は低く、不鮮明であり、そのことが「公私協同原則」さえも、 あいまいなものにしている傾向がみられる O それは、地域福祉における行政の 課題が、社会福祉行政の検討であり、さらには、現代的行政を問うという、ぼ う大な課題であるという点にあるとしても、乙の課題を避けたままで地域福祉 や在宅福祉を論じるのは、片手おちといわねばならない。 このような課題の大きさからも、本稿でそのすべてを論じることはできない が、最近の地域福祉や在宅福祉が具体的に歩みはじめている状況のもとで、さ しづめ当面の課題として若干の指摘をしておきたい。 ところで、地域福祉における行政を考える際、次の 2点を確認しておく必要 がある O まず第 1に、地域福祉の目的が過去の社会福祉における隔離主義を克 服し、社会福祉サービスの利用者を地域社会における生活主体として認識する ということである。この視点を根拠とした、 「生活困難を生みだした家族や地 域社会の環境条件」への対応は、単に通所施設や訪問サービスの量的増加や、 安易な民間資源の動員にとどまるものではない。隔離主義や I n s t i t u t i o n a l i s m が、主体的存在としての個の尊厳そのものを疎外する側面をもつことに対する 検討から、コミュニティ・ケアの発想がうまれ、地域福祉に展開しているとい うのが一般的理解である O したが って、行政との関連でいえば地域福祉は、個 ι -191ー 地域福祉における行政の課題(右田) 人や家族を行政の対象としてではなく、主体的存在として認識することに、そ の原点があることを確認しておかねばならないり。 第 2!こ、地域福祉が「問題の当事者のみならず、その家族や地域社会の住民、 さらには各種の生活関連施設等の機関・団体を援助して、それらのあいだの社 会関係を改善し、地域社会が全体として、生活問題の発生を予防したり、早期 に解決できるような体制をつくる乙とを目的とするわ」のであれば、単なる一 定地域におけるネットワークの強調や、民間資源と活力の創造・動員にとどま るものではなし 1。そこには、最も基本的課題としての、 的改革 Jをはじめ、 「タテ割り行政の抜本 r r 「地方分権 J 行政責任」や「公私協同原則 J 行政参加」 などの、現代行政における重要な課題が存在することを指摘しておかねばなら ない。すなわち、地域福祉は現代における、あらたな行政の責任と機能を問う ているのである o 地域福祉の目的が、 「遠大な展望をもつものであるの」 ζ と の所以も、ここに存在するとみなければならない。とりわけ、地域福祉の目的 実現のために、地域社会内の各種のサービス資源を整備したり、環境条件を改 善する際に果す行政の役割がきわめて大きいことはいうまでもない。 1 . 地域福祉と社会福祉行政の課題 従来の社会福祉行政は、生活困難に直面した時点での、対症療法的対応に主 力がおかれていた(例えば、児童福祉法における施設収容に比して、児童の健 全育成に関する行政措置の比重が偏っているなど)。しかし、地域福祉は対症療 法的対応もさることながら、予防的対応や措置を重視するから、このための政 策形成や実践方法を行政として、どのようにうち出すのかが問われている O 現行法における行政措置として、生活保護の適用、保育所への入所、心身障 害児通園施設の利用、母子世帯への資金貸付などのいわゆる「居宅保護サービ ス」がある O 問題は、これらの「居宅保護サービス J =地域福祉ではないところ にある o 上記のサービスは、いわば一過性の行政措置と理解 され、一時的な生 1 活困難や部分的ニーズに対する法の適用=行政措置という性格のものである o ある場合は、単なる現金給付事務であり、ある場合は行政窓口における通過 サービスにすぎないものさえある o それに加えて、タテ割り行政のもつマイナ -192ー 地域福祉における行政の課題(右田) ス面が、既存のサービス効果を必ずしも発揮しきっているとはいえなかった。 他方、現行社会福祉各法にすでに明記され、かつ、本来行政が担うべき、ま たは、都道府県知事の権限を具体化すべき、地域福祉視点を有する措置や制度 が活用されていないという問題も存在する O たとえば、精神薄弱者福祉法上の 職親制度(第 1 6条 1項 2号)、児童福祉法上の同居児童の届出(第 30条)は、殆 んど活用されていないし、社会福祉各法のそれぞれに明記された、社会福祉主 事による指導条項も、社会福祉主事そのものの充足率が低位であるために、必 ずしもその効果を発揮しているとはいえない。この状況の背景には財政的理由 のみならず、行政の制度に対する取り組みと、住民意識が大きく影響している といえる o 里親制度およびその運用水準は、各地域によって相当の禿がみられ i t i 買 るo それは、行政の地域への働きかけと、行政内部において要保護児童の t を、いかなる視点でおこなうかということにかかわっている O また、職親制度 についても同様で、地域福祉が今日のように強調される以前に、長期にわたる 社会教育や地域住民意識にかかわる行政のとりくみが積極的なととろは、職親 制度を活性化させて来ている O したがって、地域福祉は地方自治のあり方を基本に、地方自治体行政・社会 福祉行政のあり方、社会福祉サービスの体系、援助のあり方などを根本的に問 い直すことでもある O この意味から、地域福祉における社会福祉行政の課題に は、多くのものを挙げることができるが、ここでは次の 2点を基本課題として あげておきたい。それは、乙の点の具体化がみられなければ、地域福祉はその 本来の概念や目的から離れた、変質したものとならざるをえないからである。 ( 1 ) 法治主義原則と地域福祉 従来の社会福祉行政は憲法原理をうけて、国家行政組織法・厚生省設置法・ 地方自治法・地方財政法を基本として、社会福祉諸法により組織的に運営され て来た。乙の構造と行政概念に地域福祉の意味は織り込まれていないし、社会 福祉事業法をはじめとする社会福祉諸法にそれを見出すことも困難である O 前 述したように個別法の条文の中に、地域福祉視点を内在させた(内在させう る)規定はみられるが、それはきわめて限定的なものにすぎない。 さて、地域福祉が強調されるなかで、その具体化として在宅福祉サービスが -193- 地域福祉における行政の課題(右田) 地方自治体の要綱にもとづいて実施されるというのが最近の傾向である。すな わち、 「遠大な展望をもっ」地域福祉がその体系化やサービス基準、さらには 計画に沿って具体化されるというよりは、ホームヘ Jレパ一派遣・給食・入浴・ ボランティアによる援助等の限られた内容のサービスが在宅福祉として、国の 通達と地方自治体の要綱によってすすめられている。通達行政と要綱行政のす べてを否定するわけではないが、法律にもとづかない行政は法治主義原則から みても、必ずしも好ましいとはいえない。現行社会福祉各法を改正し、地域福 祉概念を導入した法の整備が早急に望まれるが、乙の具体化に相当の時間を必 要とすることは明らかであり、かつまた、法そのものの限界を含め、条例にも とづく地域福祉・在宅福祉の具体化が当面の課題であろうぺ在宅福祉を含む 対人的サービスを地方自治体の分担とする限り、法が地域福祉に関する一般基 準を明示し、地域特性に応じた地域的行政としての地域福祉や在宅福祉サービ スは、要綱行政ではなく条例原則によって具体化すべきであろう O すなわち、 法律・条例併存主義による地域福祉・在宅福祉の運用が望ましい。地域福祉と いう新しい理念を具体的に明文化し、地方自治体が主体的に実施する基準とし てのそれである o 法治主義原則が行政権の優位性を抑えようとする点にあるの は、人権保障の視点=主体性の承認に由来する O これをふまえて、地域福祉や 在宅福祉サービスが、一定の基準と法的根拠にもとづいて運用されるべきは自 明の乙とである o 戦後の地方自治体の条例は、法律との関係で一定の機能を果し 5)、各種条例 制定過程を含めて地方自治の象徴的意味を示して来たといえる O 条例を法律と の関係においたとき、理論上の一致がみられないとしても、地域福祉・在宅福 祉が地方自治体の役割とされる以上、条例固有説に基づき、条例を制定法とし て法律と同様の覇束性をもつものとすべきであろう O また、きわめて消極説を 法令に違反しない限りにおいて J条例を定め とり「法律の範囲内において J r ることが、地域福祉・在宅福祉の具体化過程で、何ゆえに手がけられなかった のかを検討しなければならなし」条例に法との同質性が与えられなかったとし ても、行政事務条例のレベルのそれが、在宅福祉サービス基準を確立するうえ からも、不可欠であると考えられる O -194ー 地域福祉における行政の課題(右田) ( 2 ) 社会福祉行政の多元性と地域福祉 社会福祉行政の多元性というのは、社会福祉サービスが民生部(局)の組織 内でのみ機能の自己完結をおえるのではなく、労働・教育・農林・保健・医 療・環境などの他の行政領域におよぶ性質をもつことをいう。この多元性を地 方自治体レベノレにおいて、統合化と一元化をはかることが、地域福祉を目的と する行政の課題となる O これは、府県レベ lレ・市町村レベノレを問わず、地域福 祉の視点で窓口業務を含む機能の調整をはかる乙とを意味する(例えば、老人・ 障害者・児童に対する地域福祉をすすめるには、民生・教育・保健・医療・労 働の行政機能が、地域福祉視点で従来の行政の欠陥を検討し、協力・調整・連 絡の方法をうち出す必要があるなど)。 乙のような、従来の行政のもつ多元性を調整する点に加えて、さらに、今後 の行政のあり方は、人びとのライフステージにそった多面的援助を原理として 求められることが予測される(福祉ニーズの多様化と行政需要など〉から、多元 性はさらに幅鞍することが考えられる。それは、リハビリテーションや医療に 関する保健医療行政や、就労に関する労働行政はいうまでもなく、住民意識に かかわる社会教育、生活圏域との関係での道路・交通・都市計画、さらに、住 宅、レクリエーション、防(火)災に関する土木・建築・警察・消防などにお よぶ広範囲なものとなる O さしづめ、府県レベルでは、これら広範囲の行政領 域の協議体制の具体化、地域福祉視点での連絡・調整を恒常的におこない、そ れにもとづく具体的な地域福祉計画を明示して行く乙とが必要となろう O 2 . 地域福祉と行政の責任 ( 1 ) 行政責任の検討 地域福祉の論議は行政責任にその比重をおくのではなく、住民組織化や民間 活力と資源の動員にあると強調する乙とも可能である o しかし,従来の地域福 祉に関する論議が、行政責任にふれないままにすすめられがちであった乙と が、地域福祉=安上り政策という批判を生んだ一つの要因であったといえる O 行政責任は不確定な概念ではあるが、行政学の領域ではとれを次の 4領域に 分けて考える乙とができるとしている O 第 1は任務的責任であり、もっとも基 hd 同 ny 地域福祉における行政の課題(右田) 本的な職業人として果すべき一定の事務・機能を意味し、英語の t h i n g ,wark, j o b,duty,o b l i g a t i o n を含む主体的義務である O 第 2は、応答的責任で一定の a l l i n g , 任務の受任者として委任者の要求に合致すべき責任であり、英語の c r e s p o n s i b i l i t y に当る。第 3は、弁明的責任で、行為者がその任務の遂行にあっ て、最大限の応答の努力をしたのにその結果が不十分であったときの責任で、 英語の a c c o u n t a b i l i t y に該当する O そして、第 4は、受難的責任で行為者がそ の不成功について弁明できなかったとき制裁をうける責任で、英語の l i a b i l i t y に該当する的。 このような責任論を自治体と市民との関係におき直してみるとき、また、地 域福祉をすすめる際のそれに置いてみるとき、きわめて興味深い展開がみられ るのである O わが国の地方自治体行政がややもすれば、中央政府の委任事務の 代行になりがちであり、その行政責任は住民に対しての責任ではなく、政府に 対する法律的・制度的責任にウエイトが置かれていたとの批判に応える意味で も、上述の責任論をたたき台として地域福祉におけるそれの検討が必要となろ う。たとえば、行政指導のあり方や、専門職の充実を、地域福祉の目的と上述 の行政責任論に照して検討するのも大きな課題である O 行政指導は、法の画一 的機能や限界を補うためのものであり、その運用は国や地方自治体に効果をも たらすというよりも、住民に対するそれでなければならないことは、上にいう任 務的責任・応答的責任からも明らかであろう。地域福祉に関する行政指導は、 地方自治体の行政に血を通わせ、行政の機能を住民生活により効果的なものと するためのものであろう O また、行政責任の遂行のために、どのような努力を したかという、弁明的責任も問われるであろうが、乙の点は、むしろ住民の主 体性と大きくかかわっている O けだし、行政責任を確定化する要因は、住民の 主体力の形成と相関関係、にあるからである O 地域福祉における「公私協同原 則 Jは、一方での任務的責任・応答的責任・弁明的責任を合む行政責任の明確 化を基礎に、他方での、住民の主体力の形成と参加が必要となる O 乙れを欠い たままの「公私協同原則」は、負担の共有にとどまり、住民の主体性が内在さ せている発展的開発的機能を、喪失することになりかねない。 ( 2 ) 行政価値の検討 一196- 地域福祉における行政の課題(右田) 行政責任を対国民・対住民との間でのみ論じたり、司法・立法・行政の三権 領域で論じるのが、従来の行政責任論であった。しかし、現代の社会福祉行政、 とりわけ地域福祉を具体化するに際しての課題は、こうした一般論ではなく、 社会福祉行政領域における固有の行政価値を問うことにある O 地方自治体と住 民との関係、では、住民からの信託にもとづいて自治体が行政サービスを行って いるという、信託関係が確認されるべきであるし、そこでの社会福祉行政やサ ービスは住民の信託を前提とした、生活困難の解決を目標とし、地域福祉は住 民の生活圏域におけるそれを具体化することにほかならないといえる O 審議会 ・諮問機関さらには、住民参加をより具体的に制度化した地方オンプズマン制 9 7 0年代の行政改革でも実施されている)の背景には、行政が国民 度(英国の 1 ・住民の信託にもとづくものであるという前提がある O 地域福祉の匝有の意味 ・価値を明確にしつつ、行政価値とそれとの整合性を住民と地方自治体がとも に確認し、その上に公私協同の理論をつみ上げて行くべきであろう O 行政価値 を問い、それを評価することはきわめてプリミティプな作業であるかもしれな いが、地域福祉において当然生じて来る、行政責任分担・公私協同・基準設定 等々の具体的課題を展開させる基礎的作業として不可欠であろう O ( 3 ) 行政責任の明確化 一般に行政責任がややもすれば暖昧にされるのは、行政責任の範囲が法律上 一義的に限定できないのが一因であるといえる O しかし、他方、行政責任と行 政裁量の関係があることも否めない。行政裁量の余地を少しでも多く残す ζ と による、行政機能効果というメリットがそれである O しかし、行政責任の明確 化は行政裁量の幅を、可能な限り狭くすることと連動せざるを得ない。行政裁 量を含みつつ行政責任を明確にするためには、①法律の規定の仕方を明確にす る乙と。②判例を積み重ねること。③事務配分を明確にすること o ④財政関係 との関連を密にすること o ⑤行政政策・地方条例などによって具体的基準を設 定することが一般的通説とされる O ところが、地域福祉・在主福祉の具体的サ ービスについては、法律にその規定が必ず存在するものではないし、供給体 制や行政措置についても明らかではない。それゆえに、地域福祉における行政 責任を何らかの方法で明らかにする必要があり、そのーっとして、条例原則を -197- 地域福祉における行政の課題(右田) 前述したのである o 条例原則による行政責任の明確化は、すでに公害防止条例、環境・自然保護 条例、消費者保護条例などの先例がみられる O また、住民の生命にかかわる条 例によって、はじめて行政責任が明確になったケースとして、注目されるもの に救急医療条例がある。すなわち、救急医療については、地域福祉・在宅福祉 と同様に法律の明文の規定はない。 r 救急搬送 Jについては、昭和 2 6年市町村 消防が分担するものとして法上の義務化がなされている。その時点で、 「救急 搬送」と「救急医療」の問題整理と行政責任の明確化(国・府県・市町村)が 行われないまま放置されてきた。乙の点について、法律上、地方自治体の責任 として規定し、交付税・補助金などの財政措置をとって来ておれば、救急医療 の実態と水準は現在と相当ちがったものとなっていたと予測されている O 大阪 府民による「救急条例 J制定の住民運動は、上のような法律の不備・行政責任 規定のあいまいさを問うたものであるという背景をもっている O 高齢化社会へ の対応,障害者の参加をさらに具体化する方向として、地域福祉を展望し、そ の具体的サービスのあり方を考える際、乙の行政責任をどのように認識し明確 にするのか、多くの検討課題を含んでいる O 地域福祉が社会福祉の、一つの展 開の意味をもつものだとするだけに、この点はきわめて重要であるといわねば ならない o ( 4 ) 地域福祉における行政責任の特殊性 地域福祉における行政責任論は、かなり非制度的責任の領域 l こまで拡大し て、検討する必要があると言っても過言ではない。その一つの理由は、すでに 現在実施されている、いわゆるメニュー方式による具体的サービスに関する当 面の行政責任をどう規定するのか、第二に、地域福祉の具体的サービスが地域 特性や住民の生活課題の変化により、きわめて流動性と多元性を有するからで ある o とりわけ、すでに実施されているサービスの中には、法的保障や統制手 段をもたないが、その責任性が明らかである性格のものを相当含んでいる(た とえば、在宅重度障害者の介護サービス、入浴サービスなど、従来、社会福祉 事業法による第一種社会福祉事業として、収容施設内で行われていたものと同 質の労働やサービス)。 一198ー 地域福祉における行政の課題(右田) 法律に明示が無い場合、ある行為を行政に請求しうるという保証がないこと はもとより、行政が現実にどの程度非制度的な統制に応答しているのかを確認 することも、行政がどのような努力をどの程度はらっているのか確認するとと さえ困難なことも予測される o 地域福祉が地方自治体レベルで、実施されるべ き性質のサービスであるとすれば、その法上の規定が社会福祉各法にみられな い場合(また、規定が存在する場合も)、地方自治法上の規定をもってあてると するのか。地方自治法第 2条規定をあて、それをうけた、条例により運用を具 体化するとしても、前述の流動性・多様性をカバーしうるか否かが課題とな るO また,地方自治法一条例による運用と、社会福祉行政としての「措置」の 関係も重要である O 都道府県知事が措置権者である場合は、機関委任事務を団 体委任事務とすべきではないかめ。 I 措置 J概念に該当しないとすれば、地域 福祉サービス費用の措置費化はあり得ないのか(現行の入浴サービスなどにみ られるような、補助金方式にとどまるのか)。その他、多くの整理すべき問題 が存在している。 フリードリッヒは、行政責任の原点を論じ、 「自己の作為不作為について他 人に弁明できる状態で行動すること」とし、責任関係には、 「誰の J I 誰に対 する J I 何についての」責任かという三つの要素があるとしている ( C .F r i e d fA d m i n i s t r a t i v e Respons i . b i l i t y1 9 6 0 )。そして、法的 r i c h, The Dilemma o A c c o u n t a b i l i t y ) を補完するものとして、①機能的責任 ( F u n c t i o n a l 責任 ( R e s p o n s i b i l i t y ) と②市民感情 ( P o p u l a r Sentiment) に対する直接責任をあ げている O 機能的責任というのは、客観的に確立された技術的・科学的なく標準・基準> にしたがって判断・行動する責任である o 具体的には、地域福祉をすすめるた めの技術的・専門的責任ということになるから、地域福祉の方向性・計画・基 準化やマンパワーに関する責任ということになる O 地域福祉における行政責任 は、法律上の責任に加えて、フリードリッヒのいう、上記①、②の責任が重複 されるのではないだろうか。 法律上の規定の不存在によって〈地域福祉における行政責任が問われないの ではなくて、①機能的責任、②市民感情に対する直接的責任を、地方自治体は担 -199- 地域福祉における行政の課題(右田) わされているというべきであろう。それゆえに、条例によって地域福祉サービ スのあり方や、体系、さらにサービス基準を決める必要に迫られるし、その決定 に際して住民や利用者の参加という方法も講じられねばならないといえよう O 3 . 地域福祉と地方自治体行政の当面の役割 地域福祉をすすめる際の地方自治体が、行政として果すべき役割を、府県と 市町村のそれぞれのレベルにある程度分担することが、その効果の面からみて 望ましいといえる O しかし、その基本には伝統的行政観の転換が、必要なこと はいうまでもない。行政における国→地方自治体→住民の流れを、住民→地方 自治体→国にかえるための、また、地域民主主義を地域社会において構築する ことが必要である O 地域福祉は住民主体の、草の根民主主義をぬいては成り立 たないと言っても過言ではない。この点をふまえながら、当面の地方自治体の 役割として以下のものが考えられる o ( 1 ) 府県の分担すべき役割としては、次のものがあげられよう o ア、行政領域相互間の調整・協議体制の確立(福祉行政の多元性から来る問 題の調整をめざして) イ、条例の制定(地域福祉の具体的実施に関する内容、行政責任、行政分担、 財政、公私協同原則など、国レベソレの社会福祉各法に相当するもの〉 ウ、地域福祉基準の設定(地域福祉サービスとして最低必要な種類・条件、 各サービスの最低基準とネットワークまたはモデルをシビノレ・ミニマム の一部として設定) 工、地域福祉施設設置の許可権の委譲(地域福祉サービスの具体的実施責任 の大半が市町村に移されるとすれば、市町村立通園施設をはじめ地域社 会福祉施設は都道府県の許可を得なくても厚生省の認可を得る方式で、 都道府県は基準提示をすることで可とすべきではないか。例えば、現行 9条 2項と社会福祉事業法第 5 7条についても、市町 精神薄弱者福祉法第 1 村対厚生省の関係で設置許可手続を完了させるべき) オ、地域福祉サービスへの助成と財政保障(市町村の行う地域的な施策、地 域福祉サービスについて、できる限り助成を行うとともに財政保障をす -200- 地域福祉における行政の課題(右田) る 〉 力、専門職員の養成・研修(付)児童相談所・福祉事務所・保健所レベルでの 専門職員ζ l対する地域福祉教育、(ロ)社会福祉協議会専門職員の増員と研 修、け施設職員及びボランティアを含めての地域福祉に関する教育・研 修) キ、貨幣的サービス(府県単独事業としての手当等)と移送サービス ク、報道機関・企業・一般民間団体に対する啓蒙・指導と、地域福祉の目的 を具体化するための連携(とくに環境整備・移送手段確保についての義 務づけは不可欠) ケ、地域福祉サービスに関する恒常的調査研究体制の確立 ( 2 ) 市町村の役割 地域福祉の基盤は、地域社会であり市町村である。しかし、それは地域福祉 の実践の場が市町村であるということで終ってはならない。実践の場であると 同時に、政策形成の起点の位置をもたねばならないことは、前に述べた通りで ある O そのためには、地域福祉活動を志向してあらゆる(既存の施設を含め て)機能が活動するよう、市町村レベ Jレでの福祉サービスの地域志向への転換 が求められる o たとえば、地域福祉実践の単位を小学校区とする場合の、小学 校校庭開放と住民による管理方式の構築や、保育所機能の地域社会への開放な ども今後の課題であろう。既存施設機能の地域開放は、従来からも住民の強い 要求であったが、施設目的の不適合や管理の側面が大きな壁になって来た。乙 の壁が国→地方自治体→住民の流れでの、通達や管理運営規則であった。地域 福祉論の中で老人ホームの機能の地域への開放が強調されることと、他の既存 施設が地域社会資源として、地域福祉の視点で開放されることとが相反するも のである筈はない。乙の点に関しては、地域福祉の目的にそった、行政の柔軟 な対応が必要となる O 地域福祉は行政施策のみでは、成り立たないことも事実 である o 民間活動を促進し支持する柔軟な対応は、財政的援助を含めて必要と なる(英国のボランティア活動に対する公費補助は、ボランテイア団体の歳入 の約 90%にのぼると言われるが、それによってボランティア活動が拘束される ことはない。また、わが国の私学助成も乙の型といえよう)。国レベルでの行 -201- 地域福祉における行政の課題(右田) 政の柔軟な対応が早急に望めないとすれば、市町村レベソレでの実現をその原型 として示す必要がある o また、市町村ではシピノレ・ミニマムと、コミュニティ・ミニマムを確立すべ きである O ナショナノレ・ミニマムが不明確な状況を批判的におさえる乙とを前 提として、地域特性に基づく基準設定が、市町村の行政責任を明示することと なる O 同時に、住民参加によるフローおよびストック両面の、コミュニティ・ ミニマムの設定が、地域福祉活動の手がかりとなり基盤となる O 乙のようなシ ピノレ・ミニマムとコミュニティ・ミニマムの設定に、地域における社会福祉サ ービス、施設の体系化が位置づけられてこそ、地域福祉ストックとしての収容 施設・中間施設・通所施設や、フローとしての訪問・援助サービスの適性配置 といえるのである。 なお、地域福祉を促進させるため、行政相互の調整をはかり、条例を制定す べきなどの点は、市町村も府県レベルと同様であることはいうまでもない。ま た、①住民立体原則による社会福祉協議会活動の推進,②地域福祉センター的 助言機関の設立(福祉事務所や社会福祉協議会の中にその機能を設けるなど)、 ③相談援助活動の充実、④府県レベルとの協同による移送サービスの保障、⑤ 地域福祉の推進主体としての民間団体・ボランティア団体に対する活動助成等 々、きめ細かい多様な役割が地域の実態にそって果されなければならない。 お わ り に 以上、地域福祉における行政の課題を、ごく限られたものについて述べて来 たが、本稿は、冒頭にもふれたように、最近の地域福祉の具体的サービスの状 況を前提として、とりあえず、当面の課題にふれたにすぎない。さらに、理論 的整理や現状分析を加えた詳論を、他稿にゆずることとするが、地域福祉は地 域住民とその生活課題への一定の認識と、地方分権・地方自治に内在する思想 の総体として概念化するものであり、社会福祉実践の方法としてのみ地域福祉 をとらえるものではない点を加えておきたい。 ( 19 8 2 .1 2 . 3 1 ) -202ー 地域福祉における行政の課題(右田) 注 1 ) 拙稿、 「地域福祉の本質 J W 現代の地域福祉 j 1973年、第 1章参照。 2) 3 ) 岡村重夫、 「地域福祉の目的 J r 地域福祉の推進に関する調査・研究報告書』 1 9 8 1年、大阪府民生部。 4) この点については、すでに指摘を重ねてきた。拙稿「自治体行財政と地域福祉J W現 頁以下参照。 代の地域福祉』、 63 5) 原田尚彦、 「地方自治の現代的意義と条例の機能」ジュリスト特集『現代都市と自 治j 1 9 7 5 年 。 6) 足立忠夫、 「責任論と行政論 J r 行政学講座工 J1968 年 7)機関委任事務の検討に関しては多くの論議がみられるが、高寄昇三氏は、生活保護 事務さえも「団体委任事務で十分に国の指揮監督は保障されるはずであり、機関委 9 8 1年 、 任事務とすべき理由はない」としている。伊東地晴編『地方自治の潮流 J1 6 2 頁 。 -203-