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環境対応機能性樹脂材料
U.D.C. 621.315.61:678.61.7.026.3:667.6:504.06:621.38.04 総 説 環境対応機能性樹脂材料 Environment-Friendly Advanced Performance Resins 化学製品事業部門 小島 靖 Yasushi Kojima 当社は創業以来,ポリマテクノロジを基盤技術として絶縁ワニス,成型用熱硬化型 フェノール樹脂,FPR用不飽和ポリエステル樹脂,電子機器用防湿塗料などへ応用展 開を進めてきた。その中で,コーティング用途や接着剤用途向けの機能性樹脂として, アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,アミノ樹脂,フェノール樹脂など,幅広い種類の 合成樹脂材料を提供している。従来の合成樹脂製品は通常多くの有機溶剤を含んでい るが,近年の環境問題への関心の高まりや各種の環境関連法令の導入を背景に有機溶 剤を削減した水系樹脂や紫外線(UV)硬化樹脂など環境対応製品への要求が高くな っている。 本報告では,当社の環境対応機能性合成樹脂について説明するとともに,強度や接 着性等の機能が要求される電子材料関連,フィルム材料,情報機器関連などの各分野 向けの機能性樹脂材料としての展開を紹介する。 On the basis of the polymer technology cultivated since the establishment of our company, we have insulating varnishes, thermoset phenol molding resins, unsaturated polyester resin for FRPs, conformal coating resins for electronic parts, etc. We are also supplying a variety of resins with advanced performance, such as acrylic resin, polyester resin, amino resin and phenol resin for coatings or adhesives. Conventional types of these synthetic resins include a great amount of organic solvent in general. However, recent concern for environment problems and related laws requires us to develop environment-friendly products such as organic solvent reduced water-borne resins and ultraviolet (UV) curable resins. Our environment-friendly advanced performance resins and our approaches to electronic-, film- or information technology (IT)- related fields are presented. Pollutants ) 規 制 な ど が 進 め ら れ て い る 。 欧 州 で も SMP 〔1〕 緒 言 (Solvent Management Plan)による規制などが拡大されてい 当社は創業以来,各種合成樹脂の合成・精製・分子設計な る。日本においても公害対策基本法,大気汚染防止法を始め どの基盤技術,すなわちポリマテクノロジを幹として,絶縁 として,環境関連規制が進んでおり,塗料や接着剤,インキ ワニスに始まり,成型用熱硬化型フェノール樹脂,FRP用不 等に使用される合成樹脂のVOC削減対策として,水系樹脂や 飽和ポリエステル樹脂,電子機器用防湿塗料などへと応用展 紫外線(UV)硬化型樹脂などの環境対応製品への期待が増加 開を進めてきた。 している1)。 さらにその応用として,塗料分野や接着剤分野向けにアク 本総説ではVOC削減等の環境規制に関する最近の状況と当 リル樹脂 , アルキド樹脂 , ポリエステル樹脂 , アミノ樹脂 , 社の環境対応機能性樹脂製品及びその応用展開について報告 変性エポキシ樹脂,フェノール樹脂など,幅広い種類の機能 する。 性合成樹脂材料を提供している。しかしこれらに希釈溶剤と して含まれているトルエン , キシレンといった有機溶剤は , 塗工後その大部分が揮発性有機化合物(VOC=Volatile 〔2〕 環境対応の現状 1992年の国連環境開発会議(地球サミット)を受け, Organic Compounds)として大気中に放出されるため,環境 OECD(経済協力開発機構)によってPRTR(Pollutant への影響を危惧する声が年々高まってきている。 Release and Transfer Register)制度,すなわち行政が事業者 VOC規制は60年代に米国で光化学スモッグの蔓延に対して の報告や推計に基づき,化学物質の排出量及び廃棄物に含ま 制定されたRule 66(Rules and Regulation, Air Pollution れる移動量を把握,集計して公表する仕組みの導入勧告がな Control District, Los Angels County)に始まり,米国ではEPA された。 (Environment Protection Agency)の設立を契機に , CAA 我が国でも , 『特定化学物質の環境への排出量の把握等及 (Clean Air Act), 特定化学物質のHAPs(Hazardous Air び管理の改善の促進に関する法律』 (化学物質排出把握管理 日立化成テクニカルレポート No.42 (2004-1) 15 総 説 促進法)いわゆるPRTR法が2000年3月に施行され,法律に基 13種類のVOCの室内濃度指針が発表されている12)。また2002 づいた全国規模のPRTR制度が導入されることになった。こ 年7月には建築基準法が改正され , 接着剤や塗料から発散す のPRTR法では354物質が対象物質(第一種指定化学物質)と るおそれのあるホルムアルデヒドの規制が始まっており , して選択されており , その初めての集計結果(2001年度分) 近々トルエンやキシレンといった有機溶剤の規制も始まる予 が2003年3月に公表されている2)。 定である。この改正建築基準法の施行(2003年7月)に伴い, それによると2001年度の国内PRTR対象物質の届出排出 建築材料にはホルムアルデヒド放散量により等級が付けら 量・移動量は総計53万7千トンであり , 中でも大気への排出 れ,放散量の多い建築材料には,その使用制限が設けられて 量が52%を占めている。また排出量の上位2物質トルエン , いる13)。 キシレンが対象化学物質全体の全排出量(31万4千t/年)の約 その他に , 内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン) 60%であり, ,さらには,その排出先の99.9%が大気 (図1) に関連する樹脂材料への関心も強い。環境省は内分泌攪乱作 であった 3)。これにPRTR届出外の排出量推計値を加えると , 用を有すると疑われる化学物質のリストを公表している 14)。 トルエン 22万1千トン/年,キシレン 11万1千トン/年という膨 例えばビスフェノールAはエポキシ樹脂などの樹脂原料とし て多くの分野で使用されているが,使用そのものを制限する 大な量が大気中へ排出されていることになる3)。 同様な傾向は米国でも見られ , TRI(The Toxic Release Inventory)制度による2001年度集計でも,トルエンの排出量 は約80万t/年と非常に多い4)。さらに国立環境研究所の調査に よると固定排出源からのVOC発生量の50%以上が塗装工程か 例が増えている15)。 〔3〕 環境対応製品例 3. 1 建築外装用非水分散型アクリル樹脂 らであり,印刷インキ,接着剤からのVOCを含めると大部分 住宅・ビルなどの建築物の塗装は屋外施工が主であり,塗 を合成樹脂関連が占めており,その環境対策が急務となって 料中の有機溶剤の大部分は大気中に排出されるため,特にそ いる5)∼ 8)。 の環境対策が注目されている。加えて悪臭防止法の観点から, 加えて各産業界ではレスポンシブル・ケア活動の一環とし トルエンなどの強溶剤の臭気あるいは塗膜中に残留するアク て,環境負荷物質の低減を進めている。その例として,図2 リルモノマ等の樹脂材料の臭気の低減も大きな課題となって にトヨタ自動車におけるPRTR対象物質の排出量の推移と排 出量構成を示した 9)。2002年度のPRTR排出量のうち , 実に 94%が塗装工程からのトルエン,キシレン,エチルベンゼン 6,000 5,800 (キシレンの異性体)で構成されている。そのためトヨタ自 排出量( t / 年) 動車ではPRTR対象溶剤の代替溶剤への切替を促進するとと もに,水溶性塗料の計画的導入などによるVOC排出量の低減 化を進め , 過去5年間に30%以上のVOC排出量低減を実現し ている 9)。ホンダや日産自動車などの自動車メーカも同様な 状況であり,VOC削減が強力に進められている10),11)。 一方で , 大気中への大量のVOC排出とは別に , 室内環境 5,100 5,000 3,900 4,000 2,000 1,000 VOCの問題も最近クローズアップされている。これは建物の 0 気密性が高くなったことに加えて,接着剤の使用が多くなり, '99 '00 ホルムアルデヒドや残留溶剤などの化学物質を原因としたシ 1, 3, 5トリメチルベンゼン 3% ている。 室内環境VOCに関しては厚生労働省より室内空気汚染物質 4.7 ヒ素およびその無機化合物 6.0 トリクロロエチレン 6.3 N, N-ジメチルホルムアミド 6.6 二硫化炭素 7.1 エチルベンゼン 9.1 鉛およびその化合物 9.3 塩化メチレンキシレン キシレン エチル ベンゼン 17% '02 その他 3% キシレン 43% トルエン 34% 27.1 52.4 排出量の構成(’02年度) トルエン 0 '01 (年 度) ックハウス症候群が大きな社会問題になったことを背景とし スチレン 3,600 3,000 131.8 50 100 150 (千t / 年) 図2 自動車メーカ(トヨタ)におけるPRTR対象物質の排出量推移 と構成9) 排出量は年々削減されている。大部分はキシレン,トルエンであ る。 図1 PRTR排出量上位10物質3) トルエン,キシレンが突出して多い。 Fig. 1 Top 10 chemical substances released The major substances released were toluene and xylene. 16 Fig. 2 Quantity change and ratio of released PRTR substances at Toyota Released quantity was reduced year after year. Most of the released substances were toluene and xylene. 日立化成テクニカルレポート No.42 (2004-1) 総 説 いる。例えばハイソリッド化(塗料固形分を多くすることで である。例えばNADとの相溶性に劣る可溶ポリマの配合によ 溶剤量を低減)する方法もあるが,低臭気化の点では効果は り , NAD粒子と可溶ポリマとの間で層分離構造が形成され, 少なく,通常は樹脂の低分子量化を伴うために性能上も劣る つや消し塗膜や凹凸模様の新意匠性塗膜が得られる17)。また 場合が多い。そこでトルエン等の強溶剤に代わり,高沸点で 分散安定剤組成の選択によっては弱溶剤以外の各種の溶剤を 低臭気の脂肪族炭化水素が主成分のミネラルターペンを溶剤 用いたNAD化も可能である。このようにNADに各種の機能を とした非水分散型樹脂(以下NAD=Non-Aqueous polymer 付加させることにより,微粒子をキーワードとした新しい用 Dispersion)が,建築外装塗料用樹脂として開発されている。 途への応用の可能性が拡大している。 NAD樹脂の例を図3に示した。NAD樹脂は,分散安定剤と しての機能を示すシェル部分と分散粒子であるコア部分から 3. 2 建築外装用シリコーン変性アクリルエマルション VOC削減の点では水系樹脂が有利である。しかしながら, なる複合粒子(平均粒径数百nm程度)が,溶剤中に安定に分 2002年度の国内塗料生産量179万トン/年のうち水系塗料は 散した構造をしている。そのために塗膜乾燥時には粒子間の 21%を占めているが,1998年度(20%)から大幅な増加は見 毛細管現象により,溶剤が揮発しやすく,高沸点溶剤を使用 られず,水系への転換は停滞気味である18)。しかしPRTR法の しても乾燥性の低下を抑えることが可能である 。一方で粒 施行と自動車メーカや建築メーカを始めとする各企業の環境 子構造は塗膜の造膜性や樹脂の貯蔵安定性が劣るという欠点 対応方針が明確になってきたことから,今後,塗料あるいは があるが,NADのコアとシェルの各々の組成や比率を制御す 接着剤などの水系化は急激に進むと考えられる19)。 16) ることで,塗膜の造膜性に必要な乾燥時の粒子同士の融着の これまで水系樹脂への転換が進まなかった要因のひとつに し易さと塗膜の物性とのバランスを取ることを可能とした。 水の性質が挙げられる。希釈溶剤として考えた場合,水は比 当社では2液常温硬化型塗料用に従来のキシレン溶媒タイプ 熱と蒸発熱が大きいため,蒸発速度が遅いなど,通常の有機 と同等の塗膜性能を有しながら低臭気のヒタロイド6500を開 溶剤と比べて不利な点が多い。特に屋外塗装では,湿度,温 発・上市している17)。 度の影響で塗膜の乾燥が遅くなり易い。さらに樹脂を水に溶 このようなNAD樹脂はコアとシェルの各々で組成を変える ことにより,逆に相分離構造を積極的に形成することも可能 解あるいは分散させるためには,一般に樹脂中に親水性基を 導入する必要があるが , その多くは塗膜中に残存するため , 溶剤型樹脂に比べて塗膜の耐水性が低下する場合が多い。現 在,建築外装の下塗り塗料用には安価なエマルション塗料が 立体反発層:50∼100Å シェル 普及しているが,上記の理由から長期の耐候性が必要な上塗 り塗料では全面的に有機溶剤型塗料を代替するに至っていない。 しかし,近年VOC削減の要求に加え,省資源の観点から塗 り替え周期の長期化が進められており,高い塗膜耐久性を持 った水系樹脂が強く求められている。そこで当社は弱溶剤型 NADと同様にエマルション粒子をコアシェル型とし,各々の 部分に役割分担をさせることにより,各種特性をバランス化 させた,シリコーン変性エマルションを開発した。図4に示 すように,樹脂中に導入したアルコキシシリル基が強固なシ コア 粒径:0.3∼1.0µm 図3 NADの構造 分散粒子であるコアの周囲にシェルが立体反発層とし ロキサン結合を形成する自己架橋型のため,耐温冷サイクル 性や低汚染性,各種基材との付着性といった様々な特性に優 て存在する。 れている。 図5 に開発したヒタロイドSW6011の耐候性試験 Fig. 3 Structure of NAD A shell layer exists as a stabilizer surrounding the core particle. 結果を示した。従来のアクリルエマルションに比べて優れた コア(弾性ポリマ) 【シロキサン橋架け反応機構】 〔加水分解反応〕 R-SiOCH3 + H2O → R-SiOCH + CH3OH (アルコキシシラン) (シラノール) 〔脱水縮合反応〕 2R-SiOH (シラノール) 〔脱メタノール縮合反応〕 R-SiOCH3 + R-SiOH → → 耐候性を示している。 R-SiOCH-R + H2O (シロキサン結合) ・塗装柔軟性の付与 ・温冷サイクル性 HOSi SiOH ROSi SiOR ROSi SiOR R-SiOSi-R + CH3OH 120nm シェル (架橋基高含有ポリマ) ・高い粒子間橋架け ・高耐候性/低汚染性 ・各種基材付着 図4 シリコーン変性アクリルエマルションの構造と橋架け反応機構 コアシェル構造とシロキサン架橋により優れた特性と各種機能が発現する。 Fig. 4 Structure and cross linking reaction formula of silicone modified acrylic emulsion Unique core-shell and siloxane cross linking will yield excellent properties and various functions. 日立化成テクニカルレポート No.42 (2004-1) 17 総 説 水系樹脂を開発している。柔軟性と強度,耐水性,造膜性を ヒタロイドSW6011 同時に満足させるため,単純なコアシェル構造ではなく,柔 100 軟性に優れるウレタン樹脂をアクリルエマルション粒子内で 光沢保持率(%) 80 複合化してウレタン変性アクリルエマルションとすることに より,強度・耐水性との両立化を図っている。このようなオ 60 NAD型アクリル樹脂 レフィン系素材への接着性に優れた水系樹脂材料は自動車 , OA機器,携帯電話などのプラスチック塗料分野に限らず,接 40 着剤分野や電子関連材料への応用が今後も拡大すると予想し 従来型アクリルエマルション 20 ている。 3. 4 0 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 紫外線硬化樹脂 紫外線(以下UV)硬化系のシステムが本格的に利用され始 3,000 めたのは1960年代後半である。当初は木工塗料やUV硬化型イ 促進耐候性試験時間(h) 図5 ヒタロイドSW6011の耐候性(サンシャインウェザオメータ) ンクに使われていたが,現在では接着剤,刷版材,光ディス ヒタロイドSW6011は従来型アクリルエマルション,NAD型アクリル樹脂と ク用などに用途が拡大している。対象基材も木材からプラス 比べて優れた耐候性を示す。 チック,金属,ガラスなどと幅広く,各々の用途に適合する Fig. 5 Weatherability of Hitaloid SW6011 measured by a sunshine weatherometer Hitaloid SW6011 has excellent weatherability compared with the conventional acrylic emulsion or NAD acrylic coatings. いる。 様々なUV硬化樹脂,オリゴマ,モノマ,開始剤が開発されて UV硬化系の最大の特長は室温で短時間硬化が可能な点であ る。従って , 高温で長時間の加熱が必要な熱硬化系に比べ , 省エネルギーなどの点で環境に優しいシステムといえる。ま このシリコーン変性エマルションについても,NAD樹脂と たプラスチック部材のように,高温加熱による変形が避けら 同様にコアシェル構造の内容と粒子サイズをコントロールす れない基材へのコートが可能であることも特長である。さら ることにより,様々な特性を持たせることが可能であり,微 にアクリレートモノマなどを反応性希釈剤として使用するこ 粒子材料として , 塗料 , 接着剤以外の用途分野への応用が , とにより,無溶剤化が可能であり,VOCを発生しないクリー 今後期待できる。 ンなコーティング材料としても優れている15)。 3. 3 UV硬化系の種類を大別すると,ラジカル硬化タイプとカチ 自動車内装用ウレタン変性アクリルエマルション オン硬化タイプがある。カチオン硬化系は,酸素による硬化 塩化ビニルなどの塩素含有材料は環境への影響が危惧さ れ,他の材料に替わられつつあり,自動車の内外装部品や各 阻害がなく表面硬化性に優れ,さらに硬化時の体積収縮の程 種シート材料ではオレフィン系素材への転換が進んでいる。 度が小さく,UV照射後も重合が進行するなどの特長があるが, ポリプロピレンや各自動車メーカが開発しているオレフィン 樹脂や開始剤などの種類が少なく,現在はラジカル硬化系が 系新素材は環境負荷が小さく,リサイクルもし易いため,今 主流である。またラジカル硬化系の主剤としては各種アクリ 後 , 使用量がさらに増えると予測される 9)。しかし他の基材 レートや不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられるが,種類 に比べてオレフィン系素材の表面には極性基が少ないため , の多さと硬化性の点から,現在はアクリレート系が多く使用 各種樹脂材料との密着性に劣ることが課題となっている。 されている。 当社では既にポリプロピレンへの付着性に優れる自動車内 表1に各種アクリレート系UV硬化樹脂,オリゴマの代表的 装・外装部品塗装用の溶剤系樹脂を上市しているが,続けて な特徴と用途例をまとめた。一般にUV硬化塗料は高硬度であ 表1 紫外線(UV)硬化樹脂・オリゴマの一般特性比較と用途例 Table 1 Comparison of general characteristics and uses of various UV curable resins and oligomers 樹脂系 耐 薬 品 性 耐 水 性 耐 熱 性 剛 直 性 柔 軟 性 光 沢 耐 候 性 造 膜 性 硬 化 収 縮 低 粘 度 対 応 相 溶 性 電 気 特 性 エポキシアクリレート ◎ ○ ◎ ◎ × ◎ × △ × × ○ ◎ 軟質 △ △ △ × ◎ △ ○ ○ ○ × △ △ 塗料(床,家具,建具,プラスチック) 硬質 ○ ○ ○ ○ × ○ ○ △ △ × △ △ インキニス (オフセット,スクリーン) ポリエステル 高分子量タイプ △ △ △ △ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ △ 塗料(全般) アクリレート 低分子量タイプ ○ ○ ○ ○ △ ○ △ △ △ ○ ○ △ インキニス,接着剤(高分量タイプ) 高分子量タイプ(溶剤系) ○ ○ △ ○ △ ◎ ◎ ◎ ○ × ○ ○ インキニス,接着剤,アンダーコート,エナメル系, ○ ○ △ ○ △ ○ ○ △ △ ○ ○ ○ EB硬化系 △ △ △ △ △ △ △ × △ ◎ ◎ △ ウレタンアクリレート アクリル樹脂 アクリレート 低分子量タイプ ポリエーテルアクリレート 注)◎ 優 ,○ 良 ,△ 可 ,× 不適 18 日立化成テクニカルレポート No.42 (2004-1) 用 途 塗料(床,家具,建具など) インキニス (オフセット,スクリーン) ,レジスト剤 反応性希釈剤 基材濡れ性調整剤,レジスト架橋剤 総 説 るが , 柔軟性に劣るというイメージがあるが , 主骨格の組 によるエステル交換反応法で製造しているため,スルホン酸 成・分子量・Tg・官能基量などを選択することにより多様 エステルやアルカリ金属の混入が原因の着色が少なく,安定 な製品設計が可能であり,強度と伸びとの両立化も可能であ 性に優れている。 る。 表2には当社の各樹脂系製品の樹脂特性と硬化塗膜特性 3. 5 の一例を示した。当社は木工塗料用 , プラスチック塗料用 , 高耐熱性接着剤 機能性樹脂材料の応用として,フレキシブルプリント配線 フィルムコート用などの幅広い用途に,各種のUV硬化樹脂系 板(以下FPC)用の高耐熱接着剤を開発している。ベースレ 製品を開発している。表3には特長のある適用例として硬度 ジンとして優れた耐熱性,電気絶縁性,耐久性を有する芳香 や可とう性に優れたUV硬化樹脂を示した。これらはUV硬化 族ポリアミドイミド構造の一部に,ソフト成分としてポリジ 前においても,ある程度の伸びと強さを有する不粘着性のフ メチルシロキサン構造を導入したシリコーン変性ポリアミド ィルムを形成可能であり,転写方式のコーティング用途やフ イミド(以下SPAI)を用い,これとエポキシ樹脂硬化剤等を 組み合わせることにより,ハロゲンフリーであり,かつポリ ィルム加工品への応用が開始されている。 以上に示したようにUV硬化樹脂は,その多様性から応用分 イミドフィルムや銅箔への接着性に優れたノンハロゲン難燃 野が拡大している。特に近年では,電子分野と通信・光学材 高耐熱性接着剤KS6500,KS6600を開発している。SPAIは高 料分野の需要が増大し,より高度な信頼性と品質が要求され 弾性率と高耐熱性を示すハードセグメントと,低弾性率と可 るようになっている。当社においても,それらの多種多様な とう性を示すソフトセグメントを主骨格中に有しており,そ 要求に答えるために,ベースレジンの設計,製造方法の確立 れらが相分離構造を形成している。その結果として,応力緩 に注力している。また当社では反応性希釈剤としてUV硬化樹 和効果により接着性が向上し,また毛細管現象により高沸点 脂材料と組み合わせて使用可能な機能性アクリレート,メタ 溶剤の乾燥性が向上するなどの特長を持つ20)。表4にKS6000 クリレート“ファンクリル”を提供している。特にジシクロ シリーズの特性例を示したが,ハードセグメントとソフトセ ペンタジエン骨格を有するシリーズは金属等との密着性に優 グメントを構成する組成と構造を変えることにより,相分離 れ,他材料との相溶性が良好な特長を持つとともに 独自技術 構造を任意に制御可能であり,高接着力と低弾性率化が実現 ヒタロイド7851 項 目 ヒタロイド7970 ヒタロイド7841 ウレタンアクリレート ポリエステルアクリレート アクリル樹脂アクリレート mJ / cm2 50 100 50 伸び率(%) <5 40 10 15 破断強さ(N/cm2) 3,500 830 2,100 1,400 Pa / 20℃ 2.12×109 3.55×108 6.99×108 7.53×108 ℃(DMA法) 75 45 55 62 鉛筆硬度 破壊 2H H 2H H 加熱重量 200℃(%) 4 1 5 3 変化 300℃(%) 6 11 7 8 硬化速度 塗膜強度 塗 膜 特 性 例 エポキシアクリレート ヒタロイド4861 弾性率 Tg 100 表2 各UV硬化樹脂系の特 性比較 各々の樹脂が異なった 特長を持っている。 Table 2 Film properties of Hitaloid UV curable resins Each resin has a different feature. 表3 ヒタロイド7900シリーズの一般特性例 これらの樹脂は,UV硬化前においても,ある程度の伸びと強さを有する不粘着性のフィルムを形成する。 Table 3 General properties of Hitaloid 7900 series These acrylic resins will form an unsticky film with satisfactory tensile strength and elongation without any UV radiation. アクリル樹脂 項 目 特 性 フ ィ ル ム 特 性 フ ィ ル ム 特 性 U V 硬 化 前 U V 硬 化 後 条 件 ポリウレタンアクリレート アクリレート 単 位 ヒタロイド7975 ヒタロイド7981 ヒタロイド7903 ガラス転移温度 DSC ℃ 80 70 40 分子量 GPC PS換算 80,000 30,000 2,000 表面硬さ JIS K 6400 鉛筆硬度 F 4B 3B 伸び率 引張り試験 % 5∼10 250 <5 破断強さ 引張り試験 N/cm2 1,000 200 2,000 ガラス転移温度 TMA ℃ 100 70 100 表面硬さ JIS K 6400 鉛筆硬度 H F 4H 伸び率 引張り試験 % 5∼10 150 <5 破断強さ 引張り試験 N/cm2 1,500 1,300 3,000 塗料配合:試験樹脂/光重合開始剤=100/5(固形分比) フィルム作成条件: ①膜厚約30µm ②UV硬化前フィルム; 溶剤乾燥 70℃×5分(熱風乾燥) ③UV硬化後フィルム; UV照射(80W/cm2 高圧水銀灯,400mJ/cm2 照射) 日立化成テクニカルレポート No.42 (2004-1) 19 総 説 表4 KS6000シリーズの一般特性例 SPAIの相分離構造により,優れた接着性と耐熱性が両立している。 Table 4 General properties of KS 6000 series Phase separation structure of SPAI assures the compatibility of excellent adhesion and heat resistance. 項 目 難燃性 Tg フ ィ ル ム 特 性 KS6500 KS6600 − V-0相当 VTM-0相当 DMA DMA 25℃ / 250℃ 熱膨張率 TMA α1 / α2 ℃ 200 150 MPa 1,600 / 15 970 / 5 150 / >500 ppm 45 / 400 引張り強さ RT MPa 60 30 伸び率 RT % 35 100 TG-DTA 比重 耐 熱 性 単 位 UL-94 弾性率 熱重量減少温度 密 着 性 条 件 剥離強度 (90°ピ−ル) はんだ耐熱性 5%減少 25℃ ℃ 350 350 − 1.21 1.23 1.0 / 0.8 1.2 / 0.8 1.1 / 0.9 1.2 / 0.8 圧延銅箔 光沢面 RT / 100℃ 圧延銅箔 粗化面 RT / 100℃ カプトン100V(25 µm) RT / 100℃ 0.9 / 0.8 1.4 / 0.9 圧延銅箔/KS 常態 300 300 /カプトン100V 40℃/90%RH/168h 240 260 KN/m ℃ できる。現在,このようなSPAIの特長を活かして,種々の分 参考文献 野への応用検討を進めている。 1)小松澤:環境保護と主要法規制 , 塗料の研究 , 138,pp.42-45 3. 6 その他の取り組み 以上に紹介した以外にも,当社では環境対応機能性樹脂製 品の開発を進めている。電気絶縁用や高耐熱塗料用の機能性 ワニスの環境対応品としては水溶性ワニスがあり,鉄道車両 や自動車の表面補修などのパテ塗料には,空気乾燥性を有す る高分子量アクリルモノマを反応性希釈剤として選択した, 低臭気性ノンスチレン型樹脂などが挙げられるが,詳細は省 略する。 (2002-7) ,140,pp.35-41(2003-5) 2) 経済産業省・環境省:平成13年度PRTRデータの概要(2003-3) 3) 経済産業省・環境省: 平成13年度PRTRデータの概要 , 別添 (化学物質の排出量・移動量の集計結果) (2003-3) 4) U. S. Environmental Protection Agency: 2001 Toxic Release Inventory Executive Summary(2003-7) 5) 小川:VOC・アウトガス測定とその周辺 , TECNO-COSMOS, pp.59-64(2002-2) 6) (独)国立環境研究所:VOC−揮発性有機化合物による都市大気 汚染,環境儀, (2002-7) 〔4〕 結 言 7) (社)日本塗料工業会:VOCの環境負荷と塗料業界の対応(2003- 本報では塗料用途を中心に最近の環境規制の状況と当社の 環境対応機能性樹脂について説明をした。環境への関心が個 人レベルまで高まっている現状では環境をキーワードにした 企業経営は当然であり , 今後は「リサイクル化」 「ゼロエミ ッション」を含めた環境コストの管理や,それに伴う環境対 応をいかに進めるかの巧拙が企業競争の勝敗を決めるといっ ても過言ではない。当社は『環境に優しい製品』を提供する ことによって , 顧客の要求に答えていくことが義務と考え る。 6) 8) 寺田:環境対応オフセットインキの現状 , 印刷雑誌 , 85(8), pp.7-12(2002) 9) トヨタ自動車株式会社:Environmental & Social Report 2003, (2003-8) 10) 日産自動車株式会社:環境・社会報告書 第11版, (2003-8) 11) ホンダ技研工業株式会社:2002 Honda環境年次レポート (2002-7) 12) 厚生労働省:シックハウス問題に関する検討会 中間報告 (2002-1) 一方ではコーティングや接着剤の用途において,わずか数 十µmの薄い膜が金属やプラスチックを保護し,接着する機 能を発揮しているように,当社の機能性樹脂材料を一種の機 13) 吉田, (財)日本塗料検査協会:塗膜からのホルムアルデヒド放 散量測定,色材協会講演会資料, (2003-5) 14) 環境庁:内分泌攪乱物質問題への環境庁の対応方針について− 能性フィルムとして応用展開することも可能と考える。一部 環境ホルモン戦略計画SPEED ’98, 2000年11月版(2000-11) の例は紹介したが,コーティングや接着剤用途と同様に強度 15) 瀬古:環境対応塗料技術,塗料の研究,138, pp.25-32(2002-7) や接着性などの機能が要求される電子,基板,パッケージな 16) K.E.J.Barrett (Edition): Dispersion Polymerization in Organic どの電子材料関連やフィルム関連,情報機器関連などの様々 な分野向けの機能性樹脂材料として,ポリマテクノロジの複 合・融合をさらに進めて,適用を拡大したい。 Media, John Wiley & Sons, London (1975) 17) 間宮,葛原,会津:非水分散型アクリル樹脂,日立化成テクニ カルレポート NO.35(2000-7) 18) (社)日本塗料工業会:塗料出荷統計(2003-4) 19) 高木:環境対応樹脂エマルジョン,接着,46(7), pp.301-306 (2002) 20) 竹内,田中,伊藤,七海:新規なシロキサン変性ポリアミドイ ミドそのモルホロジーと物性,第53回ネットワークポリマー講演 要旨集,pp.85-88(2003) 20 日立化成テクニカルレポート No.42 (2004-1)