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外部領域における線形熱方程式の解の漸近挙動 Large time behavior for the linear heat equation in exterior domains 数学専攻 太田 悠介 OHTA Yusuke 1 序 本研究は外部領域における線形熱方程式の解の漸近挙動についてである。研究内容は Zhang [Zh2] による 線形熱方程式の基本解の評価をもとに、解の Lp − Lq 評価を導出した。 次の外部領域における線形熱方程式の初期値境界値問題 (LH) について考える: (LH) ∂u ∂t − ∆u = 0 u=0 u(x, 0) = f (x) in D × (0, ∞), on ∂D × (0, ∞), in D. ここで D ⊂ Rn , n ∈ N は C 1,1 級領域とし、初期値 f ∈ C0∞ (D) とする。∆u = ∑n ∂2u j=1 ∂x2j は n 次元 Laplace 作用素とする。 定義 1.1. D が C 1,1 級であるとは、任意の点 x0 ∈ ∂D に対して、 D ∩ B(x0 , r) = {x = (x1 , · · · , xn ) ∈ B(x0 , r); xi > f (x′i )} となるような r > 0 と C 1,1 級関数 f : Rn−1 → R が存在するときである。ここで 1 ≤ i ≤ n に対して x′i = (x1 , · · · , xi−1 , xi+1 , · · · , xn ) である。 なお、f が C 1,1 級関数であるとは、f が次の 2 つを満たすときである。 (1) f ∈ C 1 (B(x0 , r)), (2) 定数 L > 0 が存在して、∂D ∩ B(x0 , r) 内のすべての y, z に対して |Dx′i f (yi′ ) − Dx′i f (zi′ )| ≤ L|yi′ − zi′ | が成り立つ。ここで Dx′i f (yi′ ) ( = ) ∂f ∂f ∂f ′ ∂f ′ ∂f ′ ′ ′ (y ), (y ), · · · , (y ), (y ), · · · , (y ) . ∂x1 i ∂x2 i ∂xi−1 i ∂xi+1 i ∂xn i 定義 1.2. (LH) の基本解を G = G(x, t; y, 0) とする。G(x, t; y, 0) は次を満たす。 ∂G ∂t − ∆G = 0 G(x, t; y, 0) = 0 G(x, 0; y, 0) = δy 2 Zhang の結果 本研究の基となっている Zhang [Zh2] を記す。 1 in D × (0, ∞), on ∂D × (0, ∞), in D. 定理 2.1 (Qi S.Zhang [Zh2]). Ω ⊂ Rn を C 1,1 級の有界領域、D = Rn \ Ω を Ω の外部領域とする。このと き以下が成り立つ。 e を D の非有界な部分集合とする。このとき D に依存する正定数 C1 と C2 が存在して、任意の (A) D e に対して、 t > 0, x, y(∈ D )( ) ρ(x) ρ(y) C1 −C2 |x−y|2 t √ √ ∧1 ∧1 n e t∧1 t ∧ 1 ( t2 )( ) 2 ρ(x) ρ(y) 1 − |x−y| C2 t √ ≤ G(x, t; y, 0) ≤ √ ∧1 ∧1 n e C1 t 2 t∧1 t∧1 が成り立つ。ただし、 ρ(x) = d(x, ∂D), a ∧ b = min{a, b} とする。 (B) D′ を Ω ⊂ D′ となるようなコンパクト集合とする。このとき D に依存する正定数 C1 と C2 と λ が ′ 存在して、任意の t > 0, ( ) x, ( y ∈ D \ Ω)に対して、 ρ(x) √ ∧1 t∧1 が成り立つ。 ρ(y) C1 −λt−C2 |x−y|2 t √ ∧1 n e t ∧ 1 ( t2 )( ) 2 ρ(y) 1 −λt− |x−y| ρ(x) C2 t √ ∧1 ∧1 ≤ G(x, t; y, 0) ≤ √ n e C1 t 2 t∧1 t∧1 なお、各領域の取り方、(A)(B) のときの x, y の位置は以下の図のようにする。 図1 各領域の取り方 図 2 (A) のとき 図 3 (B) のとき 3 Lp − Lq 評価 (LH) の解 u は初期値 f と基本解 G (x, t; y, 0) を用いて ∫ ∫ u (x, t) = χD′ (y)G(x, t; y, 0)f (y)dy + Rn Rn (1 − χD′ (y))G(x, t; y, 0)f (y)dy で表すことができる。ここで、特性関数 χD′ は { 1 χD′ (x) = 0 2 x ∈ D′ x∈ / D′ としている。 この解の表示と Zhang [Zh2] の定理を使って以下が得られた。 命題 3.1 (Lp − Lq 評価). p, q を 1 ≤ q ≤ p ≤ ∞ とする。このとき ∥u(·, t)∥Lp (D) ≤ C n 1 1 2 (q−p) t ∥f ∥Lq (D) , t>0 となるような C > 0 が存在する。 Proof. (LH) の解 u の表示の各項に対し、Zhang [Zh2] の定理を用いて評価式を得る。 )( ) ∫ ( 2 ρ(x) ρ(y) 1 −λt− |x−y| c′2 t √ √ f (y)dy u(x, t) ≤ ∧1 ∧1 ′ n e c1 t 2 t∧1 t∧1 D′ )( ) ∫ ( 2 ρ(x) ρ(y) 1 − |x−y| c2 t √ √ + ∧1 ∧1 f (y)dy n e c1 t 2 e t∧1 t∧1 D ∫ ∫ |x−y|2 |x−y|2 − c′ t 1 −λt 1 2 e e− c2 t f (y)dy ≤ ′ ne f (y)dy + n c1 t 2 c1 t 2 De D′ 1 1 = ′ n e−λt I + n II. c1 t 2 c1 t 2 得られた評価式の両辺に対して Lp ノルムをとる。 ∥u(·, t)∥Lp (D) ≤ Et (x) = e − |x|2 c′2 t 1 n c′1 t 2 とおく。I について考える。 p1 = e−λt ∥I∥Lp (Rn ) + 1 r 1 q + 1 n ∥II∥Lp (Rn ) . c1 t 2 − 1 を満たす 1 ≤ r ≤ ∞ をとり、Young の不等式を 使うと ∥I∥Lp (D) ≤ ∥Et ∥Lr (Rn ) ∥f∥Lq (D) が得られる。1 ≤ r < ∞ と r = ∞ で場合分けをする。まず 1 ≤ r < ∞ の場合は t > 0 に対して、 ∫ ∥Et ∥rLr (Rn ) z= √ r c′2 t = e − r|x|2 c′2 t dx. Rn とおくと ( ∫ ∥Et ∥rLr (Rn ) 1 ≤ r < ∞ より 0 < = Rn c′2 t r ) n2 e−|z| dz. 2 1 ≤ 1 なので r ∥Et ∥rLr (Rn ) ≤ (c′2 πt) 2 . n よって ∥I∥Lp (Rn ) ≤ (c′2 πt) 2r ∥f∥Lq (D) . n また r = ∞ の場合は ∥Et ∥L∞ (Rn ) = sup |Et (x)| x∈Rn =1 3 となり、p = ∞, q = 1 となるので ∥I∥L∞ (D) ≤ ∥f∥L1 (D) 同様に計算することで 1 ≤ r < ∞ の場合は n ∥II∥Lp (Rn ) ≤ (c2 πt) 2r ∥f∥Lq (D) , r = ∞ の場合は ∥II∥L∞ (Rn ) ≤ ∥f∥L1 (D) , が得られる。以上より 1 ≤ r < ∞ の場合は ∥u(·, t)∥Lp (D) = ここで C = (c′2 π) r = ∞ の場合は n(pq−p+q) 2pq c′1 + (c2 π) C t n 1 1 2 (q−p) n(pq−p+q) 2pq c1 としているので、C は D, n, p, q に依存している。 ∥u(·, t)∥L∞ (D) ≤ ここで C = ∥f ∥Lq (D) . C n ∥f ∥L1 (D) t2 1 1 + としているので、C は D に依存している。 c′1 c1 参考文献 [E] Lawrence C.Evans, Partial Differential Equations SECOND EDITION Graduate Studies in Mathmatics Volume 19 (American Mathematical Society 2010) [Gi] 儀我美一, 儀我美保『非線形偏微分方程式-解の漸近挙動と自己相似解-』共立講座 21 世紀の数学 25 (共立出版,1999) [Ko] 小薗英雄, 小川卓克, 三沢正文『これからの非線型偏微分方程式』(日本評論社 2007) [MI] 望月清,I トルシン数理物理の微分方程式(培風館 2005) [Zh2] Qi S. Zhang. The global behavior of heat kernels in exterior domains Journal of Functional Analysis 200 (2003) 160-176 4