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楽式論
高校講座 学習メモ 29 音楽 Ⅰ 楽式論 今回は、曲の成り立ちについて学習します。 ■一部形式 曲の成り立ちは、生物の体のしくみと同じです。 1つの細胞、それが「1小節」です。2つの細胞が結びついて組織になりま すが、音楽ではこれを「動機」といいます。 動機は通常「2小節」です。組織が2つ結びつくと、今度は器官のようなも しょうがくせつ のになりますが、音楽では、「動機」が2つ結びつくと「 小 楽節」になります。 これだけで最も小さい曲の前半部分(4小節)になります。この「小楽節」が だいがくせつ 2つあると「大楽節」になります。これで8小節になり、これが最も小さい曲 の形になります。1つの大楽節だけでできている曲のことを「一部形式」とい います。 ▼ ♪・♪・♪ 〔文部省唱歌「海」〕 ■二部形式 二部形式は、一部形式の二倍で、普通は16小節になります。2小節の動 機からみると8つ、4小節の小楽節からみると4つ、8小節の大楽節からみる しょう か と2つになります。一般に歌われる 唱 歌や歌曲などに多く見られます。 ♪・♪・♪ 〔フォスター(1826~64)作曲、『スワニー河』〕 ここまでで重要なのはヤマ場の設定です。クライマックスとも言いますが、 音楽のような時間芸術では、あとのほうに来るのが望ましいとされます。 『スワニー河』は、そのサビと呼ばれる部分が、曲の後半のはじめの部分(最 高音がでてくるところ)にありますが、もう1つは、最後の小楽節にフェルマー ト記号が付けられているので、こちらが真のヤマ場とも言えます。一部形式で 説明した『海』にもヤマ場(最高音のでてくるところ)がありました。 ■三部形式 三部形式は、一部形式の三倍で、24 小節になります。ここまでくるとかな り高度な作品になります。簡単なピアノ曲もこの形式でよく作られています。 A(8小節)B(8小節)A(8小節)という3つの大楽節で作られることが −1− 講師:青 島 広 志 高校講座 学習メモ 音楽 Ⅰ 多いです。 ♪・♪・♪ 〔キング(1862-1932)作曲、『コロラドの月』〕 このABAという形が西洋音楽の基本となります。真ん中のBの部分にクラ イマックスがくると、あとがつまらなくなるので、ABCのような形にするこ ともあります。これまでの一部形式、二部形式、三部形式をまとめて、「歌謡 形式」あるいは「歌曲形式」と呼ぶこともあります。 ■変奏曲 一部形式、二部形式、三部形式で作られた短い曲を基にして、変奏曲(ヴァ リエーション)が作られます。その場合、基になる曲を「主題」といいます。 厳格変奏や装飾変奏と呼ばれる作曲法では、変奏の部分は「主題」から大きく 離れることはありません。変奏は、その基になるメロディーに、少しずつ別の 音を加えていく方法が一般的です。そのためにリズムも変わり、和音も変化す ることがあります。 ▼ ♪・♪・♪ 〔シューベルト(1797-1828)作曲、ピアノ五重奏曲「ます」〕 もともとこの曲は、歌曲として作曲したものを、シューベルト本人が変奏曲 として編曲しました。 第一変奏・第二変奏・第三変奏・三連符・第四変奏・第五変奏・第六変奏 このようにテーマをだんだん変えていった曲を変奏曲というのです。 ■複合三部形式 三部形式(ABA)のなかでも、その一部分が二部形式以上になっているも のを、「複合三部形式」と呼びます。これは、踊りのメヌエットによく使われ るので、「メヌエット形式」と呼ばれることもあります。その場合、Bの中間 部を「トリオ」と言い、そのあとで最初の部分Aが繰り返されます。楽譜で表 記する場合、Bの最後の部分に、D.C.(ダ・カーポ)記号を記し、初めのAの 部分に戻ることが多いです。また、古いイタリアのダカーポアリアとも言われ ます。 ♪・♪・♪ 〔ベートーヴェン(1770~1827)作曲、『メヌエット』〕 第一部(A)は二部形式になっています。そして中間部も二部形式になって います。そして始めに戻り、まったく同じAが繰り返されて終わります。つま −2− 第 29 回:楽式論 高校講座 学習メモ 音楽 Ⅰ 第 29 回:楽式論 りこの複合三部形式は、各部分が二部形式であることがわかります。 ほかにも、三部形式が3つ集まった複合三部形式もあります。 ■ロンド形式 複合三部形式が更に大きくなったものに、 「ロンド形式」「ソナタ形式」「フー ガ形式」があります。 ぐん ぶ ロンドとは、もともと踊りのための曲で、ABACADAE……と、群舞と どく ぶ 独舞が交互にある形でした。つまりAでは、全員でいつも同じ踊りをし、B/ C/D/E…では、独りで即興的に違う踊りをしました。しかし、次第に作り 方が変わり、ABACABAという形になり、始めのABAを第一部、真ん中 のCを中間部、そしてABAを第三部とする、三部形式すなわちロンド形式に なりました。 ♪・♪・♪ 〔ベートーヴェン(1770~1827)作曲、『ピアノソナタ「悲愴」』より第三楽章〕 Bの部分は音階が中心、Cの部分は 2 つの声部で書かれていて落ち着いて います。この部分は中間部ですので比較的長く書かれるのが普通です。Aが戻っ てきた後、またB、そしてAが現われて、コーダで締めくくられます。 ▼ ■ソナタ形式 西洋音楽上、最も完成された形式が「ソナタ形式」です。ソナタ形式は、 「提 示部」「展開部」「再現部」の 3 つの部分からなります。ヤマ場は「展開部」 にあり、演奏も難しく、聴く側にとっては興味深い部分でもあります。 まず提示部には、「第一主題」と呼ばれる、はつらつとした気分の主題がで ます。これは最も重要で、とくに展開部では何回も使われます。この第一主題 を覚えてもらうための「確保」が続くと、次に「経過句」といい、調が変わり ます。ここから「第二主題」が始まります。第二主題は柔らかな感じなので、 「歌 しょう けつ び 謡主題」とも呼ばれます。そして「 小 結尾」という締めくくりが続いて、提 示部が終わります。 展開部は、この2つの主題のうち、おもに第一主題を用いて盛り上げていく だけで、特に決まりはありません。主題は細かく分けられ、転調も頻繁に行わ れます。展開部の終わり近くでは、もとの調の五番目の音が低音で鳴り響き、 その音の上でクライマックスが繰り広げられます。 そして再現部は、第一主題も第二主題も転調せず、ほとんど提示部と同じ形 で終わります。 ♪・♪・♪ 〔モーツァルト(1756~1791)作曲、『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク』〕 −3− 高校講座 学習メモ 音楽 Ⅰ 第一主題は力強く、主題の後に「確保」といって覚えてもらうための部分が あります。次の「経過句」は転調の部分です。第二主題は滑らかな感じです。 提示部は「コデッタ」という締めくくりの部分で終わります。 その後、展開部では、まず第一主題の展開があります。短調で、悲しくなっ ています。次に、第二主題の展開、山場です。 再現部はこの曲では、第一主題が最初よりオクターヴ低く出ます。経過句は 提示部から形が変わりました。そして転調せずに第二主題はハ長調で戻ります。 最後の締めくくりのことを「コーダ」といいます。 ソナタ形式は、ピアノのためのソナタやヴァイオリンのためのソナタ、室内 楽、例えばピアノ・トリオ(三重奏曲)や弦楽四重奏曲、そして独奏とオーケ ストラが一緒に演奏する協奏曲、大きなオーケストラのための交響曲に用いら れ、これらの曲の第一楽章は、ほぼすべてソナタ形式で書かれます。つまりソ ナタ形式は、古典派以降ヨーロッパの音楽が到達した、もっとも完成された形 式といえるでしょう。 ■フーガ形式 フーガはバロック時代に流行した曲で、一定の構造は持ちません。ただ一つ の主題だけを用いて、いろいろな調に移る(転調する)だけです。主題は、と ▼ きには変形されることもありますが、主題が使われている部分のことを「提示 部」、次の提示部の移る間奏の部分を「嬉遊部」といいます。 また、最後に基の調に戻るころに、主題が重なってでることがあり、それを ストレッタ(せまり)と呼びます。これはクライマックスを作るのに有効な手 段になります。 ♪・♪・♪ 〔バッハ(1685~1750)作曲、『小フーガ ト短調』 BWV.578〕 最初に演奏するのがソプラノということになり、これが主題です。次に新し いパートが入ってきます。これはアルトで、これは「主題」ではなく「応答」 と呼ぶ場合が多いようです。さらに、低いところでまた主題が入ってきます。 これはテノールです。そして足のペダルで新しいメロディーが入ってきます。 これはバスで、「応答」と呼ばれます。この部分が、主題と応答が使われてい るので、「第一提示部」といいます。 続く部分は、主題は使われません。そのため「嬉遊部」と呼ぶわけです。そ の後にまた主題が出てきたところを「第二提示部」といいます。その先で応答 が入ります。テーマがなくなったところが「第二嬉遊部」です。その後、低い 音でテーマが入ると「第三提示部」ということになります。次の「第三嬉遊部」 の後、高い音域でテーマが出てきます。おそらくここからの部分は「再現部」 と呼ぶのがふさわしいでしょう。バスに主題が出ると、もうすぐ曲が終わります。 −4− 第 29 回:楽式論 高校講座 学習メモ 音楽 Ⅰ ■まとめ これまで申し上げた一部形式、二部形式、三部形式までを「歌曲形式」と呼 ぶことがありますが、これを基本としてその上に複合三部形式が存在します。 そして、歌曲形式を元にして変奏曲が書かれるわけです。 さらに、三部形式が大きくなった形として、ロンド形式、ソナタ形式があり ます。そして、「形式」という考え方ではくくれないフーガという形式がある、 と考えるのがよいでしょう。西洋の音楽のほとんどは、この形のどれかになっ ています。皆さんも曲を聴くときにそのようなことを意識して聴くようにして ください。 ▼ −5− 第 29 回:楽式論