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季節はずれの酔う怪にご用心

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季節はずれの酔う怪にご用心
№7 1998年 10月
アルコールはお祝い・パーティーなど、人が集まる所では必ず出てくるように、適量であれば
ストレスを取り除き、人間関係を円滑にする利点があります。しかし、飲み方を一歩間違えると、
酔う怪に取り付かれ、家族、友達や恋人を失ってしまうばかりでなく、命まで失くしてしまいま
す。これからの季節、お酒を飲む機会も多くなりますね。そこで、アルコールが私たちの体の中
に入ってどんな作用を及ぼすのか、失敗しない飲み方を知っておきましょう。
☆アルコール代謝の仕組み。強い人と弱い人
(*代謝:生物が栄養分を外から取り入れ、エネルギーや体の成分をつくり、不要になったも
のを外へ出すこと)
お酒を飲むとアルコールは、胃から20%・腸から80%が吸収されて、血中に運び込まれま
す。血中に入ったアルコールは、肝臓で分解されます。肝臓でのアルコール処理能力には個人差
がありますが、体重60kgの男性では、1時間に日本酒なら60ml・ビールなら210ml程度で
す。
アルコールはまず、その80%がアルコール脱水素酵素(ADH)により、残りの20%が、ミク
ロソームエタノール酸化系(MEOS)により代謝されてアセトアルデヒドになります。この物質は
有毒で、顔が赤くなる、胸がどきどきする、頭痛、吐き気、嘔吐などの症状を起こさせます。
次に、アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により、無害な酢酸に分解されます。
このALDHは、有害なアセトアルデヒドが、高濃度にならないと働かない1型と、低濃度でも働く
2型があります。日本人を含むモンゴロイド人種の約半数には、2型を遺伝的に欠損しています。
2型欠損の人は、少量のアルコールを飲んでもアセトアルデヒドがスムーズに分解されないため、
すぐ顔が赤くなる、動悸がする等の症状が現れます。このような人は「弱い体質」の人です。
では、アルコールに「強い人」とはどういう人でしょうか?
アルコールに強い人は、アルコールを分解するMEOS量が増えています。このミクロソームのア
ルコール代謝はアルコールを毎日摂取する人に大きな代謝能力が備わるようになります。そして、
MEOSがADHと違うのは、アセトアルデヒトと過酸化水素(活性酸素の一種)を作り出すことです。
この活性酸素は発ガン、老化に大きく関与しています。アルコールに強いといっても、はやり飲
み過ぎないようにすることが大切です。
自分がどちらの体質なのか、「アルコールパッチテスト」で簡単に調べることができます。興
味のある方は、保健室までお越しください。
☆酔いは脳の麻痺
血中に溶け込んだアルコールは、肝臓で分解代謝されるまで全身を循環し、血中アルコール濃
度の上昇とともに脳を麻痺させます。アルコールはまず理性や判断をつかさどる部分の働きを抑
制します。そのため、自制心を喪失し開放的で多幸感・自信過剰・寛大になります。さらに、麻
痺が進むと注意力が減退し、怒ったり泣いたりする・知覚鈍麻・立ち上がれない・まっすぐ歩け
ない・嘔吐する、終には意識がはっきりせず揺り動かしても起きなくなり、呼吸中枢のある延髄
にまで及び、呼吸が停止してしまいます。お酒は飲みすぎると大脳の高等な働きを麻痺させ、そ
の人の人格まで失わせてしまいます。最悪の場合は死に至るケースもあります。お酒の味や酔い
を楽しめる自分の適量を守り、お酒に支配されない飲み方に心がけましょう
☆アルコールと薬の関係
肝臓は、アルコールに限らず体に入ってきた色々な化学物質を代謝していますが、アルコール
と薬を一緒に飲むと、高濃度のアルコールの分解代謝が最優先され、薬の分解代謝が遅れるので
危険です。特に、睡眠薬・経口糖尿病薬・抗凝固剤などとアルコールを一緒に飲むと昏睡・低血糖・
出血傾向等の副作用が出やすくなるので注意してください。
大酒家は、アルコールを分解するMEOS量が増えており、このMEOSはアルコールだけでなく、他
の薬も分解代謝する作用があるので、お酒を飲んでいないときは麻酔薬、解熱鎮痛剤が効きにく
くなっています。
☆アルコールと脳細胞
アルコールは、若い脳神経細胞の破壊を促進させます。
脳の神経細胞には、情報を受け取る樹状突起と情報を与える長い軸策の二種類の突起があります。
アルコールによりこの突起が障害を受け、うまく情報受信ができなくなってしまいます。その結
果、知能力・記憶力・判断力などが低下します。
大量飲酒を長期にわたって続けた人の脳をCTやMRIを使って撮影してみると、脳の一部が萎縮し、
脳と頭蓋骨の間に隙間が見え、脳波に異常が出ることも確かめられています。
活発な若い細胞のほうが障害を受け易く、若年者の飲酒は、アルコール依存症になる確立も高
いので弱年者の飲酒に対し決して寛大であってはいけません。
☆アルコールと女性
女性ホルモン(エストラジオール)は、肝臓でのアルコールの分解代謝を遅らせるため、男性
に比べて短期間でアルコール依存症になったり、少ない飲酒量でも肝障害の進行を早めたりしま
す。生理前になるとエストラジオールが増加するため酔い易い状態になり、生理が始まるといつ
もの酒量では酔わなくなるためアルコール量が増えていきます。
更年期以後は、ホルモンの影響がなくなり、アルコールに強くなって今までより飲酒量が増え
る傾向にあります。
妊娠中の女性や授乳中のお母さんの飲酒は禁物です。妊娠中にアルコールを飲むと、胎盤を通
じて胎児にも運ばれます。細胞分裂が活発であればあるほどアルコールの障害を受け易く、胎児
にとっては有害な物質です。大量印所の妊婦ほど生まれてきた乳児の発育や知能の低下が目立ち
ます。
☆アルコールと外傷
少量のアルコールを飲んでいても、反射神経は鈍麻しており、判断力も鈍くなっています。ま
た、精神的な開放感から事故を起こしやすい状況にあります。足元がふらつくため、頭部、顔面、
頸部の外傷が多く見られます。転落死の約半数近くがアルコールによる事故との報告もあります。
☆死につながるイッキ飲み
お酒は体質的に強い人、弱い人、まったく飲めない人もあり個人差や体調による差が大きいの
で人に強制をしてはいけません。イッキ飲みによる死亡事故では、共用をしたあなたたち、企画
した人たちまでもが民事、刑事両面から加害者責任を問われます。
☆アルコールの効用
酒は「百薬の長」といわれるように適量であればストレスを取り除いてくれます。アルコール
には、抹消血管を拡張する作用があり、冷え性の人には良薬になります。また、少量のアルコー
ルであれば、冠動脈硬化を遅らせ、心筋梗塞を予防する働きがあるといわれています。しかしこ
れは適量の飲酒であって、適量とは人によって異なります。酒が「薬」から「毒」に変わる境目
を自分自身で自覚するのは難しいものです。まず、飲み過ぎないように十分注意しましょう。
☆アルコールと上手に付き合う方法
食べながら飲む
話をしながら楽しく飲む
人に酒の強要をしない
午前0時過ぎまで飲まない
週に2日は、休肝日を
チャンポンはしない
参考文献:石井 祐正:Newton別冊、184-189(1996)/重盛
康ABC辞典、社団法人アルコール健康医学協会
憲司、小宮山
徳太郎:お酒と健
健康に関する相談があればいつでも保健室へお越しください
桃山学院大学 保健室
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