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抄録集 - 中部大学

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抄録集 - 中部大学
第 3 回日本安定同位体・生体ガス医学応用学会大会
抄録集
12
〈市民公開講座〉
ヒトと微生物の不思議な関係
−結核・AIDS・インフルエンザは微生物からの警告だ!!−
講師:伊藤 守弘
先生
(中部大学生命健康科学部スポーツ保健医療学科
司会:小橋 恭一
先生(富山大学
准教授)
名誉教授)
我々は 2009 年春に世界中を震撼させるインフルエンザの世界的流行(パンデ
ミック)経験した。このパンデミックを引き起こした豚由来の新型インフルエン
ザウイルスは、異なる 4 つのウイルス遺伝子が混じり合って誕生したものであっ
た。その複雑な誕生システムを知ると、ウイルスの巧妙な生態に驚く。
“結核”と聞くと、昔の病気と思う人が多い。しかし、世界中で年間に 940
万人が新規に結核を発病し、130 万人が結核で亡くなられている。現在、世界中
で結核が注目され、特に患者が多いのが発展途上国である。日本においても現在
の治療薬では効かない結核が増えるきざしを見せている。それが多剤耐性結核と
言われ、深刻な問題となっている。
ペニシリンの発見によって人間は細菌との戦いに勝利したかに思われたが、細
菌も生き残りをかけて薬剤に対する耐性を持つように進化している。それ以後、
新薬の開発と細菌の進化の戦いが繰り返されている。
人々の生活が、劇的に変化したこの戦後 60 年。感染症はヒトとどのように関
わり、どのように変遷してきたのか。今回の市民公開講座では、ヒトと微生物の
不思議な関係について考えてみたいと思う。
13
〈一般演題 1〉
糖尿病治療前後に glucose 呼気試験で特徴的な変化が認められた一例
○竹本 育聖 1)、瓜田
純久 1)、荒井
宮崎 泰斗 1)、竹内
基 1)、原
中西 員茂 1)、中嶋
均 1)、島田
太一 1)、田中
規子 1)、本田
長人 1)、杉本
英樹 1)、渡辺
善子 1)、松崎
利泰 1)
淳人 2)
元信 1)
1)東邦大学総合診療・救急医学講座、2)同
卒後研修センター
【はじめに】われわれは[1-13C]、[2-13C]、[3-13C]glucose を用いた呼気試験を用
いて、糖尿病において呼気中
13
CO2 排出パターンが健常人と異なることを報告し
てきた。今回、糖尿病治療の前後で glucose 呼気試験を行ったところ、示唆に富
む結果が得られたので報告する。
【症例】38 歳、男性。2ヶ月前から持続する倦怠感を为訴に来院。血糖 359mg/dl、
HbA1c 11.2%であり、血糖コントロール目的で入院となった。入院後インスリン治
療を導入。入院3日目から[1-13C]、[2-13C]、[3-13C]glucose を連日行った。徐々
にコントロール良好となり、4 週後に再度呼気試験を実施した。治療前は[1-13C]、
[2-13C]glucose 呼 気 試 験 で
13
CO2 呼 気 排 出 は 同 等 で あ っ た が 、 治 療 後 は
[2-13C]glucose で高値となった。[3-13C]glucose 呼気試験では治療後に 60 分以降
の 13CO2 排出が大きく減尐する特徴的パターンを示した。
【まとめ】糖尿病治療後には TCA 回路で効率よく ATP を産生でき、その結果建機
的解糖系で産生される ATP は減尐し、エネルギー効率が改善していることが示唆
された。
14
〈一般演題 2〉
13
C-glycocholic acid 呼気試験-抗生剤投与前後での検討-
○久保田 千尋 1)、柳町 悟司 1)、松本 敦史 2)3)、三上 絢子 1)、佐藤 史枝 1)
三上 恵理 1)、長谷川 範幸 4)、柳町
明樂 一己 5)、見留
幸 3)、田中
光 3)、松橋 有紀 4)、佐藤 江里 3)
英路 5)、石岡 拓得 6)、丹藤 雄介 3)、中村 光男 1)
1) 弘前大学医学部保健学科 病因病態検査学、2) 八戸市立市民病院 内分泌糖尿病科
3) 弘前大学医学部 内分泌代謝内科、4) 国民健康保険板柳中央病院 内科
5) 松山大学 薬学部、6) 愛生会病院栄養科
【目的】Bacterial overgrowth syndrome(小腸細菌増殖症候群)の状態では、小腸内細菌
叢の異常増殖に伴い、小腸からの脂肪吸収に必要な抱合胆汁酸が大量に脱抱合され、脂
肪吸収障害が出現する。今回我々は、13C-glycocholic acid (以下 13C-GCA)呼気試験にお
いて、抗生剤投与前後での Δ13CO2 の変化について検討した。【対象と方法】健常者 3 例
および bacterial overgrowth syndrome が疑われる患者 1 例に対し抗生剤を投与、その
前後で 13C-GCA 呼気試験を施行した。患者は 83 歳男性(身長 166.6cm、体重 44kg)で 22 歳
時に十二指腸潰瘍のため胃亜全摘、62 歳時に糖尿病を発症、66 歳に残胃癌に対し胃全摘
(Roux-en-Y 法)、膵尾部切除、横行結腸部分切除、胆嚢・脾切除術を施行した。糖尿病お
よ び 膵 切除 後の 膵 外分泌 機 能 不全 ( 消化 酵 素補 充 の 無い 状態 で 糞便中 脂 肪 排泄 量
11.4g/day、 正常は 5g/day 未満)に対して、インスリン療法(超速効型 insulin 16 単位
/day)および消化酵素補充療法(ベリチーム 9g/day)が施行されていたが、栄養状態は不良
であった。平成 23 年 2 月中旬、腹部膨満感・げっぷが出現、便の性状は軟便となり、食
欲不振も出現したため bacterial overgrowth syndrome を疑い、抗生剤治療(オーグメン
チン®(250)3T3×毎食後/day 7 日間)を施行した。【成績】Bacterial overgrowth syndrome
が疑われる 1 例では、抗生剤投与前、Δ13CO2 は 3 時間後にピークに到達し、以降は緩や
かに低下した。一方、抗生剤投与後の呼気試験では、8 時間後まで Δ13CO2 の明らかな上
昇を認めなかった。また、抗生剤投与前に認めていた腹部膨満感・軟便などの消化器症
状は抗生剤投与後に消失した。健常者では抗生剤投与前、Δ13CO2 は明らかなピークを示
さずになだらかに上昇した。投与後も明らかな Δ13CO2 のピークを認めず、全ての時間で
投与前の Δ13CO2 よりも低値を示した。【結論】Bacterial overgrowth syndrome が疑
われる患者 1 例では、抗生剤投与前には Δ13CO2 の早期の上昇を認めていたが、投与後に
は上昇を認めず、消化器症状が改善したことから、抗生剤が著効したものと考えられた。
また bacterial overgrowth syndrome の例、健常例ともに、抗生剤投与後は全ての時間
で Δ13CO2 が低値を示しており、抗生剤投与によって胆汁酸の脱抱合が抑制されたもの
と考えられる。
15
〈一般演題 3〉
脳内グリコーゲン代謝について
- [1-13C]-glucose を用いて―
○金松 知幸、小栗
清美、岡
明弘、國分
丈治、新津
隆士
創価大学工学部環境共生工学科
代謝エネルギーの貯蔵体であるグリコーゲンは、脳内にはわずか(肝臓の 1/10)
しか存在しておらず、そのわずかなグリコーゲンは、アストロサイトに局在して
いることが知られている。また、脳機能は、瞬時の虚血、低血糖等で停止するこ
とから、脳内グリコーゲンのエネルギー貯蔵体としての役割については、ほとん
ど注目されてこなかった。しかし、近年、脳内のグリコーゲン量が血糖値の低下
に伴い低下すること、長期の低血糖状態後の血糖値回復時に、脳でも肝臓同様に、
一時的にグリコーゲン量が正常値より増加すること等が、[1-13C]-ブドウ糖を用
いた非侵襲的研究により明らかにされてきた。そこで今回、我々はラットを 24
時間絶食させた後、10%の[1-13C]-ブドウ糖溶液のみを与え、0、3、6、12 時間後
にそれぞれ軽い麻酔下で採血した後、頭部にマイクロウエーブを照射し、脳、肝
臓を摘出し、血液中及び脳と肝臓のブドウ糖量を測定するとともに、肝臓と脳の
グリコーゲンをアミログルクロニダーゼで分解して得られたブドウ糖量よりグリ
コーゲン量を求めた。また、組織内ブドウ糖とグリコーゲン由来のブドウ糖の両
者の 13C 濃度(13C-F.E.)を求め、肝臓と脳のグリコーゲン代謝動態を比較検討し
た。今回は、13C-F.E.測定法として 1H-NMR 法と微量サンプルでも測定可能な GC-MS
及び FAB-MS 法の可能性を検討したので報告する。
16
〈特別講演Ⅰ〉
『呼気 NO とその調節因子』
講師:荻野 景規
先生
(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
司会:下内
章人
長寿・社会医学講座
公衆衛生学分野
教授)
先生
(国立循環器病研究センター
心臓生理機能部
室長)
一酸化窒素(NO)は、L-アルギニンを基質として NO 合成酵素(NOS)により産生さ
れ、気管支、腸管、血管の平滑筋の拡張因子として作用している。さらに、炎症
においては、誘導型の NOS2の強発現により多量の NO が産生され、チオール基の
ニトロシル化や、スーパーオキシド(O2-.)との反応を介した ONOO-産生によるチロ
シンのニトロ化に関与し、蛋白質の機能に影響している。
気管支喘息においては、呼気 NO の上昇が気道炎症を反映し、喘息の診断・治療に
有用なバイオマーカーとして認識されつつある。しかしながら、一方で、喘息動
物モデルを中心に炎症病態による NOS2 の誘導にも拘わらず、アルギナーゼの強発
現による L-アルギニンの消費に伴う NOS からの NO 産生不足が指摘されている。
本講演では、喘息実験モデルにおける肺組織 NO 産生の低下機序を示すと共に、
健常者及び喘息患者において、呼気 NO を調節する因子を明らかにし、気管支喘息
における肺組織 NO 産生低下と呼気 NO 上昇の謎に迫りたい。
17
〈一般演題 4〉
炭素安定同位体標識エストラジオールの生体内挙動
○岡本 真由美 1)、永野
清水 勇佑 1)、清水
祐 1)、佐藤
里恵 2)、小林
瞬 1)、新関
一馬 1)、
功雄 1)
1) 早稲田大学大学院先進理工学研究科、2) SI サイエンス株式会社分析センター
エストラジオール(E2)は、エストロゲンレセプター(ER)に作用し、乳ガン
などの原因化合物としても知られ、ER に機能する化合物はガン治療の創薬候補と
もなる。エストロゲンの生体内での多彩な作用について ER との作用機構など新た
な ER の新機能発見、様々な抗エストロゲン剤の開発などにおいて、レセプタータ
ンパク質との相互作用解明が期待されている。
我々は、炭素安定同位体標識 E2([13C6]-E2)プローブを合成した (第 1 回日本
安定同位体・生体ガス医学応用学会)。そこで、マウスの皮下投与実験により、
[13C6]-E2 の生体内挙動を子宮重量測定および安定同位体比精密分析にて調べた。
体重当たりの子宮重量は、対照群と比較して E2 投与群及び[13C6]-E2 投与群に
おいて有意に増加し、[13C6]-E2 はエストロゲン活性を保持していることが示され
た。また同位体比から、投与した[13C6]-E2 は血清、尿、各臓器内にはほとんど存
在していないが、糞には同位体増加が認められ、体外への排出が確認できたと考
えられる。よって、本研究法により生体内低分子化合物の動態解明のための
[13C6]-E2 がトレーサーとして応用可能であることが示唆された。
18
〈一般演題 5〉
15
N 標識トレーサによる MDMA(3,4-methylenedioxymethamphetamine)
光学異性体のラットにおける体内挙動
○五郎丸 毅、本屋敷
敏雄、向井
一樹、中村
景子
福山大学薬学部放射薬品化学研究室
【目的】合成麻薬である MDMA には光学異性体 R(-)体と S(+)体が存在し、これ
ら異性体間で体内挙動にも相違のあることが予想される。そこで R(-)-15N-MDMA
と S(+)-MDMA の等モル混合物をラットに経口投与し、15N 標識を指標に R(-)体
と S(+)体の血中濃度ならびの尿中排泄量の相違を検討した。
【方法】15N-MDMA は 3,4-methylenedioxyphenyl-2-propanone と 15N-methylamine・
HCl より、還元して合成した。得られた 15N 標識体および非標識体を光学活性カラ
ムにより、R(-)-15N-MDMA と S(+)-MDMA に分離精製した。Wistar 系雄ラットに
R(-)-15N-MDMA:S(+)-MDMA の等モル混合物を経口投与し、経時的に採血あるい
は採尿を行った。得られた血液あるいは尿に内部標準として別に合成した MDMA-d5
を添加し、抽出後、LC-MS により測定した。
【結果】MDMA 投与 24 時間尿中には、未変化体 MDMA として投与量の約 50%が排泄
され、MDMA の R(-)体/S(+)体の排泄量比は 1.56~1.62 であり、血液より得ら
れた R(-)体/S(+)体の AUC 比は、1.24~1.33 となった。このことから両異性体
の体内挙動には相違があり、R(-)体に比べて S(+)体の方の代謝が早いことが示
唆された。
19
〈一般演題 6〉
NMR メタボノミクスにおける化学シフトの変動を抑制する試料処理法に
関する検討
○明樂 一己、比知屋
寛之、集田
麻希、見留
英路
松山大学薬学部、薬品分析化学研究室
【目的】NMR メタボノミクスは、尿や血液中の代謝物を網羅的に測定し、データ
を多変量解析することで代謝変化を明らかにする方法であり、薬効・毒性や疾患
の研究への応用が期待されている。1H NMR を用いた場合、スペクトル上でのシグ
ナルの重なりが激しいために充分な代謝情報が得られないことがあるが、13C NMR
はシグナルの分離が優れているため、弱点である感度を向上させればメタボノミ
クスに利用できる。我々は、高血圧自然発症ラット(SHR および SHRSP)尿の 1H NMR
および
13
C NMR メタボノミクスを行ない、これらが相補的手段として有用である
ことを実証してきた。ところが、その過程で検体間で代謝物の化学シフトが変動
し、解析に支障をきたす事例を経験した。そこで本研究では、化学シフトの変動
を抑える尿処理法を検討した。
【方法】検体として SHR と SHRSP の尿を用い、尿を等量のリン酸緩衝液と混和す
る従来法と、尿を凍結乾燥後、各尿試料のクレアチニン濃度に比例した体積のリ
ン酸緩衝液で再溶解し、濃縮度を一定にする改良法で試料処理を行ない、pH と 1H
NMR 化学シフトの変動を比較するとともに、メタボノミクス解析に与える影響を
検討した。
【結果と考察】改良法により検体間での pH と化学シフトの変動を顕著に抑制する
ことができた。本法は、1H NMR メタボノミクスにおいて、より多くの情報を得る
ために有用であり、13C NMR メタボノミクスや 13C 標識基質を用いた動的メタボノ
ミクスにも有効であると考えられる。
20
〈特別講演Ⅱ〉
『放射性同位元素による脳機能評価
-画像統計解析による客観的評価法-』
講師:水村 直 先生
(東邦大学医療センター大森病院
司会:原田 雅史 先生
(徳島大学放射線科
放射線科
准教授)
教授)
放射性同位元素を用いた核医学検査は被曝を伴う点や検査費用がかかるなど、
非放射性同位元素を用いる検査法に比較してデメリットを有する検査である。し
かし、同位元素から放出されるγ線によって生体内情報を画像化するという他の
検査にはない特徴を有す。近年では、特に脳核医学診断では脳血管障害のみでな
く、アルツハイマー病に代表される認知症などに対する診断にも広く用いられて
おり、方法論的にも統計学的解析手法を用いた、statistical parametric mapping
(SPM)や three-dimensional surface projections (3D-SSP)などの自動解析手法
が臨床応用され、情報量の多い脳画像を客観的、定量的評価する方法が導入され
ている。加えて、MRI などの形態画像についても VOI specific region analysis for
Alzheimer’s disease (VSRAD)などの画像統計解析の臨床応用が拡大されている。
さらに我々は画像解析を用いた機能、形態の両者の情報を統合的評価の試みも行
っている。今回、こうした核医学画像評価法の方法論を述べるとともに、画像統
計解析の実際の臨床応用についての現状を紹介する。
21
〈一般演題 7〉
ウコン飲料はアルコール代謝を変化させるか?
○瓜田 純久 1)、今井
宮崎 泰斗 1)、竹内
中嶋 均 1)、杉本
常彦 2)、渡辺
基 1)、原
利泰 1)、田中
規子 1)、本田
英樹 1)、竹本
善子 1)、島田
育聖 1)
長人 1)
元信 1)
1)
東邦大学総合診療・救急医学講座、
2)
同
衛生学
【はじめに】ウコンはショウガ科に属する多年草植物で、その色素成分であるク
ルクミンは肝機能を強化し、胆汁分泌を促進する作用や利尿作用があるため、胆
炎などの肝機能障害に有効とされている。今回、安定同位体 13C を含む 13C-ethanol
呼気試験を用いて、ラットにおいてウコン摂取によるアルコール代謝の変化を検
討した。
【方法】生後 6 ヶ月の Fischer 系雄性ラットを用い, 24 時間絶食後に呼気試験
を行った。初めにゾンデを用いて胃内に 5mg/kg の 13C-ethanol を、日本酒 0.25
mL、水 0.25mL とともに投与した。10 分間隔で 120 分まで呼気を採取し、13CO2
濃度を測定した。 1 週間後に,同じラットを用いて、5mg/kg の 13C-ethanol を、
日本酒 0.25mL、ウコン飲料 0.25mL と混入して投与し、13CO2 排出パターンの変
化を検討した。
【結果】呼気中平均 13CO2 濃度を(10,20,30,40,50,60,70,90,120 分)と表示する
と、ウコンなしでは(43,124,197,240,249,253,236,176,93‰)、30mg クルクミン
含有飲料では(51,138,207,242,244,245,207,163,108‰)、さらに 100mg クルクミ
ン含有飲料では(48,132,203,240,245,230,205,151,88‰)であった。
【結論】有意差はみられないものの、ウコン飲料を同時に投与すると、10-30 分
の呼気中排出が増加し、ピークが早くなり、90 分以降の 13CO2 濃度が低下する傾
向を示した。
22
〈一般演題 8〉
運動による呼気中アセトン濃度の変動(Ⅱ)
○野津 真知子1)、永峰
康一郎1)、石田浩司2)、片山敬章2)
1)名古屋大学
情報文化学部自然情報学科
2)同
総合保健体育科学センター
本研究では、呼気ガス中のアセトンが脂質代謝の指標として糖尿病診断など
様々な治療の評価法に用いられていることを応用し、呼気ガス中のアセトンを運
動効果の指標として確立することを目的としている。これまでに、運動により呼
気ガス中アセトン濃度が増加すること、そして有酸素運動と無酸素運動の順序を
変えて行った場合の呼気ガス中アセトン濃度の変化を比較したところ、有酸素運
動の後に無酸素運動を行った場合よりも、有酸素運動の前に無酸素運動を行った
場合の方が、より呼気ガス中アセトン濃度が増加することを見出した。これまで
の実験で被験者が行った運動は速歩など定量化しにくいものであったため、今回
はエルゴメーターなどを用いて運動負荷を定量化し、より厳密に運動負荷に対す
る呼気ガス中アセトン濃度の増加について評価を試みる。
23
〈一般演題 9〉
生体ガスを題材とした小学生対象の理科環境教育5年間の歩み
○澤野 誠 1)、小正
和彦 2)
1) 埼玉医科大学、2) 横浜市立幸ヶ谷小学校
【はじめに】2006 年度から横浜市立つつじヶ丘小学校6年生児童を対象として行
ってきた「おならがかたる人体の不思議と地球の生き物や太陽系の歴史」と題し
た体験型授業については以前にも本学会において報告した。今回はその5年間の
実践を振り返りながら、その間のコンテンツの変遷や成果、未来への展望につい
て報告する。
【目的】①医療用に開発された「放屁モニター」を子供たちに自由に操作しても
らい最先端科学技術を体感する機会とする。②おなら(腸内ガス)が原始大気や
他の惑星大気と同組成であることから、人間の体内に地球や太陽系の歴史が刻ま
れていることを紹介し、人体・生命・宇宙の進化と歴史の不思議さに Sense of
Wonder を体感させる。④酸素を含んだ大気や環境が、地球や太陽系の歴史の中で
も稀有であることを認識させ、環境問題への関心を持たせること。
【実践の枞組】教材としてミトレーベン研究所製水素ガス検知器 BAS1000 を使用。
2007、2008 年度に日産財団理科環境教育助成を受けた。
【コンテンツの変遷】この 5 年間の間にも「はやぶさ」のサンプルリターンなど
太陽系の生成や生物進化の定説を揺るがす数々の発見がなされてきた。これらの
最新の知見に対する子供たちの欲求や反響は大きく、できる限りそれらを取り入
れて授業のコンテンツを update してきた変遷についても報告する。
24
〈一般演題 10〉
皮膚アセトン放出の温度による影響
○水上 智恵、野瀬
和利、白井
幹康、下内
章人
国立循環器病研究センター研究所心臓生理機能部
アセトンは、空腹・運動時に脂肪酸のβ酸化の過程で生成される。生成された
アセトンは呼気や尿のみならず、汗や皮膚ガス中にも排泄されることが報告され
ており、血液以外の試料中のアセトン計測によっても脂質代謝レベルを評価でき
る可能性がある。本研究では、アセトンの皮膚からの放出機序を解明するために、
皮膚局所への温度負荷の制御可能な皮膚ガス計測用チャンバーを作製し、温度刺
激がアセトンの放出量に及ぼす影響について検討した。実験は、特に食事制限を
行わない成人の前腕部をチャンバーに挿入し、手から放出される皮膚ガスを採取
し、GC-MS を用いてアセトン濃度の定量を行った。チャンバー内温度は、予め室
温 25℃から約 40℃の間で設定し、各実験日の同時刻に実験を行った。チャンバー
内実測温度 28 - 35℃の範囲では、温度変化に対するアセトン放出量の差は顕著
に現れなかった。しかしチャンバー内温度をさらに 40℃に上げたところ急激なア
セトン濃度の上昇が認められた。強度の皮膚局所の加温により皮膚組織内の動静
吻合が開くことによる皮膚血流量の増加、発汗の促進、ガス透過性の亢進のみな
らず、全身性の皮膚温の上昇と脂肪酸代謝の亢進を引き起こし、皮膚アセトンの
放出を急激に促進させることが考えられた。発汗によるアセトン放出を評価する
ため、汗中のアセトン濃度も同時に測定した結果も合わせて報告する。
25
〈一般演題 11〉
皮膚ガスと皮膚特性の関連に関する探索的検討
○野瀬 和利 1)、川村
宮本 恵宏 2)、白井
杏沙 1)、水上
幹康 1)、下内
智恵 1)、渡邊
至 2)、小久保
喜弘 2)、
章人 1)
1)国立循環器病研究センター研究所
心臓生理機能部、2)同
予防健診部
呼気や皮膚ガスといった生体ガスは非侵襲的に採取可能な生体試料として生
体内代謝情報を知る上で有力な手がかりとなる。しかし、生体ガスはそれぞれの
局所的な影響を受けやすいものと考えられる。例えば呼気は口鼻腔を含む気道や
呼吸法、気流などの影響を受けやすい。他方、皮膚ガスは直接外界と接するため、
温湿度、機械的刺激、化学物質、微生物/異物との接触などによる多様な物理化
学的/生物学的因子や皮膚組織に特徴的な生理解剖学的な影響を受けている可能
性がある。従って、生体ガスによる非侵襲的診断法を確立するには様々な局所的
要因を網羅的に調査しておく必要がある。そこで本研究では先行研究がほとんど
ない皮膚ガスと皮膚特性の関連について検討したので報告する。
実験方法は、利き手を対象に皮膚ガスを採取し、他方の手の皮膚特性を測定す
ることにより、同時にガス採取と特性の計測を行った。皮膚ガスはポリフッ化ビ
ニル製のバッグを装着し、バッグ内のガスを 200 mL の高純度空気に置換して 5
分保持することで得られるガスを回収した。皮膚特性は専用のプローブ
(Cutometer MPA-580)を手のひら及び手首に当て、皮膚表面の水分、pH、蒸散量
など各種計測を行った。また、手洗いや化粧の影響を考慮するために皮膚に関す
るアンケート調査も実施した。
得られたデータは为に Pearson の積率相関係数の有意差検定を行い、各種皮膚
ガス成分及び皮膚特性との相関性を検討した。その結果、メラニンや紅斑といっ
た皮膚特性とアセトンなどの皮膚ガス成分との間に有意な相関が認められた。ま
た、アンケート調査の結果を踏まえることにより、手洗いなどの外的要因が皮膚
ガスに及ぼす影響に関する知見も得られた。
26
〈一般演題 12〉
ヒト皮膚ガス測定による環境物質の人体への取込み量の推定(4)
○津田 孝雄 1)、久永
真央 1)、大桑
哲男 2)、伊藤
宏 2)
1)ピコデバイス、2) 名工大院工
(1)はじめに
ヒトの皮膚表面から放出されるヒト皮膚ガスには、アセトン、アンモニア、一
酸化炭素、アルコールなどが含まれている。また、食事やサプリメント等の摂取
により、ニンニク臭やバラの香りのゲラニオール、加齢臭といわれるノネナール
なども皮膚ガスとして放出される1,2。また、VOC関連物質、床材の可塑剤(フタル
酸エステルやその分解物である2-エチル-1-ヘキサノール)、防虫剤のp-ジク
ロロベンゼンなどが皮膚ガスとして放出されている。皮膚ガスとして放出される
化学物質の量は、その人をとりまく環境(労働・生活など)により影響されると
考えられる。
(2)実験
本研究では、ヒト皮膚ガスを採取し、オンライン低温濃縮―GC/MSで測定を行い、
環境条件(労働・生活など)の違いにより、ヒトの体内に取込まれたVOC関連物質
や可塑剤関連物質がヒト皮膚ガスとして放出される濃度差について検討を行った。
(3)結果
被験者の環境条件(生活・労働など)の違いにより、被験者の皮膚ガス中に
存在する化学物質の濃度に違いが有意に認められた。
皮膚ガスは環境からの被曝量の推定に利用できる。また環境依存により発症し
た疾病の治癒に利用できる。
1. Naitoh, Tsuda, Nose,Kondo 他
INSTRUMEN. SCI. & TECH. Vol. 30, 267-280,
2002
2. 津田 孝雄
AROMA RESEACH (VOL.9 No.1 2008) 63-72.
27
〈一般演題 13〉
膵疾患術後脂肪消化吸収機能および糖代謝異常の解明と臨床応用
○森藤 雅彦1)、中村
浩之2)、中川
直哉2)、坂本
昭雄1)
1)千葉県地方独立行政法人 さんむ医療センター
2)広島大学大学院病態制御医科学外科
【目的】膵切離時の切離断端組織学的所見と術後脂肪消化吸収機能および糖代謝
異常を比較し臨床応用の可能性を検討。
【対象】膵体尾部切除(DP)40 例、幽門輪温存膵頭十二指腸切除(PPPD)52 例。
【方法】膵切離断端部位の H.E.染色標本から、DP 症例は islet cell の面積比を
PPPD 症例は残存膵実質面積率を測定。実際の糖代謝異常の変化は術前後の HbA1C、
外分泌機能は 13C 標識混合中性脂肪呼気試験 7 時間 13C 累積回収率、さらに栄養状
態の指標として BMI(Body Mass Index)を検討。
【結果】
DP 症例:術前 non-DM 群は 26 例でそのうち術後 1 年での DM 群 12 例(46%)、
術後 non-DM 群 14 例(54%)。術後 DM 群は、non-DM 群に比して、islet cell 面積比
が有意に低値(P<0.05)。術後 DM 発症例は islet cell 面積比2以下の症例だった。
PPPD 症例:13C 呼気試験 7 時間 13C 累積回収率(%)は健常者 15.5±6.0 に対し、
PPPD 6.8±4.8 と累積回収率は術後有意に低下(p<0.01)、累積回収率 5.0%以下
の消化吸収能低下症例(EPI)は、切離断端部残存膵実質面積率 67.8±8.5%と累
積回収率 5.0%以上の症例の 81.7±5.4%に比較して有意に低率で(p=0.01)、術後
体重増加も尐ない傾向(p<0.1)。また PPPD 術後 non-DM 症例は術後 DM 症例より
も有意に 13C 累積回収率(%)が保たれていた(p<0.01)。
【結論】DP 症例の切除断端 islet cell 面積比、PPPD 症例の断端残存膵実質面積
率、13C 標識混合中性脂肪呼気試験は術後膵機能変化予測として有用で、高い臨床
応用価値があると考える。
28
〈一般演題 14〉
膵頭十二指腸切除術後の膵外分泌機能-残膵形態との関連ならびに機能障害の危
険因子の検討-
○中川 直哉 1)、村上
首藤 毅 1)、橋本
義昭 1)、森藤
泰司 1)、中島
雅彦 2)、中村
享 1)、末田
浩之 3)、上村
健一郎 1)
泰二郎 1)
1)広島大学病態制御外科、2)さんむ医療センター内科、3) JA 広島総合病院外科
【目的】膵頭十二指腸切除術(PD)後の膵外分泌機能障害は脂肪消化吸収機能低下
により患者の QOL を損ねるため、術後膵機能の把握と機能障害に対する治療は重
要な課題である。PD 後の画像所見による術後膵外分泌機能の予測ならびに膵外分
泌機能障害(EPI)の危険因子について検討。
【対象と方法】PD 後膵外分泌機能を評
価した 61 例を対象。膵外分泌機能はクロレラ産生 13C 標識混合中性脂肪呼気試験
の 7 時間 13C 累積回収率で評価し、回収率 5%未満を膵外分泌機能障害(EPI 群)、
5%以上を正常(N 群)(Surgery 2009)。CT で为膵管径が最大になる部位の膵前後径
と为膵管径を計測、その差を膵実質幅とした。宿为因子、周術期因子と術後 EPI
との関連を検討。
【結果】膵実質幅は術前から EPI 群が N 群より有意に萎縮(P=.029)。
術後も EPI 群が N 群より有意に萎縮(P<.001)。術後膵実質幅は 13C 累積回収率と
有意に相関(R2=.457,P<.001)。術後膵実質幅は境界値 13mm で術後 EPI 診断の感
度 86.8%、特異度 86.4%。単変量・多変量解析ともに術前耐糖能障害、硬化膵、術
後膵管拡張が EPI の有意な独立因子(P<.05)。
【結論】CT で計測した術後膵実質幅
は術後 EPI の予測に有用。術前耐糖能障害、硬化膵を持つものは術後 EPI の高危
険群で、CT 上、術後膵管拡張を認めるものを含め、消化酵素補充療法を考慮する
必要がある。
29
〈一般演題 15〉
呼気膵外分泌機能検査法-腎不全例での検討○松本 敦史 1)2)、丹藤 雄介 2)、柳町 幸 2)、田中 光 2)、松橋 有紀 2)
佐藤 江里 2)、久保田 千尋 3)、柳町 悟司 3)、三上 絢子 3)、佐藤 史枝 3)
三上 恵理 3)、葛西 伸彦 1)、中村 光男 3)
1) 八戸市立市民病院 内分泌糖尿病科、2) 弘前大学医学部 内分泌代謝内科
3) 弘前大学医学部保健学科 病因病態検査学
【目的】Benzoyl-L-tyrosyl-[l-13C]alanine(以下 13C-BTA)呼気試験は膵外分泌機
能不全診断のための検査法である。本邦では、糞便中脂肪排泄量 5g/day 以上の場
合を脂肪便と診断し、膵性消化吸収不良に伴い、食事による脂肪摂取量が 40g/day
以上で脂肪便を来す場合を、膵外分泌機能不全と定義している。13C-BTA 呼気試験
では Δ13CO2 ピーク値が健常者 35 例の Mean-2.5SD(31.2‰)以下となる場合を陽性、
即ち膵外分泌機能不全と診断する事で、膵外分泌不全診断の感度・特異度とも良
好であった。今回我々は、腎機能低下がある場合の 13C-BTA 呼気試験への影響に
関して、糖尿病の有無に分類した上で検討した。
【対象と方法】消化器疾患を有さない慢性腎不全例のうち、糖尿病性腎症に伴う
慢性腎不全 15 例[DN 群] (eGFR<30ml/min/1.73m2 で顕性蛋白尿あり、男性 10 例、
女性 5 例、 59.1±8.94 歳、血液透析導入例 5 例を含む)、糖尿病以外の原因によ
る慢性腎不全 8 例[CK 群] (eGFR<30ml/min/1.73m2、男性 3 例、 女性 5 例、
72.3±15.7 歳、血液透析導入例 1 例を含む)を対象として 13C-BTA 呼気試験を施行
した。DN 群における糖尿病発見時期からの期間は 17.9±9.86 年であった。また
DN 群 15 例中 10 例で自律神経機能の指標である心電図 R-R 間隔変動係数(CVRR:
Coefficent of Variation of R-R intervvals)を測定し、CVRR 2%以下を自律神
経低下と定義した。
【成績】Δ13CO2 ピーク値は DN 群で 46.3±16.3(‰)、CK 群で 55.9±7.50(‰)で
あり、DN 群の方が低値であった。DN 群のみで 20%(3/15)に Δ13CO2 ピーク値の低
下を認めた。また CVRR を測定した DN 群 10 例中 9 例(Δ13CO2 ピーク値の低下を認
めた 3 例を含む)に自律神経機能低下を認めた。
【考察】13C-BTA 呼気試験において、DN 群のみに Δ13CO2 ピーク値の低下を認める
例があり、偽陽性と考えられた。糖尿病性腎症に伴う腎不全例では多くの場合、
糖尿病性自律神経障害を有しており、それに伴い胃麻痺を合併する事が多く、呼
気試験への影響が示唆された。
30
〈一般演題 16〉
13
C 呼気試験法を用いた胃全摘 Roux-en-Y 再建術後の消化吸収動態の評価
岩崎 泰三 1)2)、中田
浩二 1)2)、川村
雅彦 1)2)、古西
英央 1)2)、小村
伸朗 1)2)
石橋 由朗 1)2)、三森
教雄 1)2)、羽生
信義 1)2)、柏木
秀幸 1)2)、矢永
勝彦 2)
1)慈恵医大外科学講座消化管外科、2)慈恵医大外科学講座
胃切除術が消化管機能へ及ぼす影響を調べることは、胃術後障害の病態を明ら
かにし、適切な治療を行う上で重要である。しかし、臨床的に簡便・非侵襲的に
行える信頼性の高い検査法は確立しておらず、臨床の場で行なわれることは稀で
あった。13C 呼気ガス診断を応用した消化管機能検査法(13C 法)は、簡便・非侵
襲的に行える新しい検査法として注目される。われわれは、長年の検討により 13C
法を用いて消化-吸収動態を調べる検査法を開発した。
【目的】13C 法により胃切除
後の消化吸収能評価を試みた。
【方法】健常人(HV)7 名、胃全摘 Roux-en-Y 再建
患者(全摘 RY)7名に試験食(液状食ラコール 200ml+生クリーム 35ml[脂肪負
荷 20g、総カロリー355 kcal]に 13C-トリオクタノイン 100mg(TO)または
13
C-オ
クタン酸(OA)100mg を混和)を投与し、摂取後 4 時間まで呼気を採取した。呼
気中 13CO2 存在比を測定し、Wagner-Nelson 法解析を行うことで各試薬の経時的な
吸収量を算出した。吸収能 Aa=AUC∞・Kel・Vd、半量消化時間(HDT;T1/2-TO[半
量消化吸収時間]-T1/2-OA[半量吸収時間])を両群間で比較検討した。また各
群の TO および OA 吸収曲線を比較することで消化吸収動態を検討した。
【成績】健
常人、全摘 RY 患者の順に、Aa (TO)は 23, 17* %dose/hr、HDT は 37, 12* min で
あった(* p<0.05)。全摘 RY では健常人と比べ TO 吸収曲線と OA 吸収曲線の乖離
が顕著であった。【結論】全摘 RY では健常人と比べ有意な消化吸収能の低下と消
化に要する時間の延長がみられ、このような脂肪の消化吸収動態の変化は胃切除
後の栄養障害発生の一因になるものと考えられた。13C-TO, OA 呼気試験による消
化吸収動態評価は、消化器外科術後の消化管機能障害の病態評価に有用である。
31
〈特別講演Ⅲ〉
『分子状水素の生体作用 -過去 4 年間で何が明らかとなったか-』
講師:市原 正智
先生
(中部大学生命健康科学部生命医科学科
司会:中村 光男
教授)
先生
(弘前大学医学部
教授)
2007 年に分子状水素(以下水素)の新たな一面が、日本医大・太田成男教授
のグループにより nature medicine 誌に報告された。この報告では、水素は活性
酸素のヒドロキシラジカルを選択的に消去する抗酸化剤として機能し、脳梗塞、
臓器移植などの虚血再灌流病態の臓器障害を軽減するとしている。太田教授らの
報告以降現在までに、为に齧歯類を用いた多種にわたる疾患モデル動物に対する
効果が、多施設より 100 編程度報告され水素は NO, CO, H2S に続く第4の生体ガ
スとして機能すると認知されつつある。水素の生体効果の知見が蓄積されるにつ
れて、水素は虚血再灌流病態とともに炎症性疾患に対して奏効することが明らか
となり、ヒドロキシラジカルの選択的消去以外の未知の作用点があると推察され
ている。生体への水素の投与ルートは、当初水素ガス添加空気として水素を吸入
させる方法が用いられた。しかし最近の研究の多くは、水に水素を溶存させた状
態で水素水として水素を経口投与する方法が为流である。水に溶存可能な水素ガ
スの量は極めて微量である。一方 40 年以上前に報告された研究などから、生体中
では腸管ガスとして多量の水素が産生されていることが明らかにされている。水
素水として投与された微量の水素が,なぜ生体内で産生されている多量の水素を
凌駕した効果を示すかの明確な説明は未だされていない。本講演では過去 4 年間
に示された水素の生体効果を総括すると共に、共同研究者および講演者が得た水
素の生体作用の最近の知見を紹介したい。
32
〈シンポジウム〉
「呼気ガス測定の臨床応用とその可能性」
司会:石井
敬基
先生
(日本大学医学部
中田
医学研究企画・推進室
浩二 先生
(東京慈恵会医科大学
33
外科
講師)
講師)
〈シンポジウム 1〉
3D超音波法と 1H MR Spectroscopy による脂肪肝診断と治療への応用
・・・ 今後の 13C 呼気試験への応用を考慮して ・・・
○森藤 雅彦、大藤
正雄、坂本
昭雄
千葉県地方独立行政法人さんむ医療センター
【目的】食生活欧米化に伴い非アルコール性脂肪性肝疾患(Non –alcoholic fatty
liver disease : 以下 NAFLD)は増加傾向にある。その病態は必ずしも瀰漫性で
なく、診断が確立されていないのが現状である。我々は3D超音波法(以下 3D-US)
と 1H MR Spectroscopy(以下 1H MRS)により脂肪の化学的定量を実施した。
【対象】高 LDL-cho 血症を呈し 2D 超音波検査法(以下 2D-US)にて脂肪肝の所見
を認める20歳以上の成人を対象。
【方法】3D-US により脂肪沈着の肝内分布を立体的に検索し、さらに 1H MRS によ
り肝脂肪化域に対応して局所脂肪の化学的定量を施行。血液生化学的検査と比較
検討した。
【結果】脂肪の分布が門脈を中心として点状散布分布する中心部型の健常者は、
脂肪沈着部位での 1H MRS 測定値は 0.042±0.024 と 0.1 を超える症例は認めなか
った。脂肪が斑状分布する両葉拡大型(NAFLD typeⅠ)は 1H MRS 値 0.214±0.115、
融合斑状分布するびまん型(NAFLD type Ⅱ)は 1H MRS 値 0.351±0.044 であった。
【結論】3D-us と 1H MRS の併用により画像に基づいて非侵襲的に肝脂肪を定性定
量が可能と思われ、治療効果の判定にも有用な方法と考える。今後は
13
C 呼気試
験による定量との比較検討を考慮中であるが標識化合物として phenylalanine、
Methionine、Glucose、Methacetin など検討中である。
34
〈シンポジウム 2〉
空腹時 13C-glucose 呼気試験を用いた非侵襲肝臓糖代謝評価法の検討
―コンピュータ解析ソフト SAAMⅡを用いた代謝シミュレーション―
○松浦 知和 1)、田中
賢 1)、中田
1)東京慈恵会医科大学
浩二 2)、池脇
克則 3)、鈴木
政登 1)
臨床検査医学講座、2)東京慈恵会医科大学
3)防衛医科大学校
医学部
外科
老年内科
【目的】近年、インスリン抵抗性が大きく注目されている。前 回、空腹時
13
C-glucose 呼気試験(FGBT)を用いた肝臓インスリン抵抗性評価法に関して報告
したが、その呼気中 13C の動態曲線より体内 glucose 代謝のシミュレーションを
試みた。
【方法】健常者および糖代謝異常患者で検討した。空腹時に
13
C-glucose を経口
投与し、経時的に呼気を採取した。呼気中の 13CO2 存在比を 13C 排出量に換算して
動態曲線を作成した。これをもとに、コンピュータ解析ソフト SAAM IITM で 5 コン
パートメントモデルを作成し、実際の動態曲線にフィッテイングさせ
13
C の体内
動態を推測した。
【結果】個々の症例の検討では、一部の症例では肝内への糖の取り込みが、ほと
んどの症例で肝内代謝の低下がシミュレーションにより推測できた。
【結語】この FGBT は、肝臓のインスリン抵抗性を簡易かつ鋭敏に判定できる非侵
襲検査法であり、その代謝シミュレーションの併用は、実際の臨床において個々
の病態解釈や患者説明に有用である。
35
〈シンポジウム 3〉
幽門側胃切除術における消化管再建術式と術後脂肪消化吸収機能および
栄養状態との関連性
○中村 浩之 1)、森藤
雅彦 2)、中川
直哉 3)
1)JA 広島総合病院外科、2)さんむ医療センター内科
3)広島大学大学院病態制御外科
【目的】胃癌に対する幽門側胃切除術の消化管再建法と術後脂肪消化吸収機能、
栄養状態との関連を検討。
【対象と方法】健常者 17 例、幽門側胃切除術後患者 35 例(Billroth I 法再建(BI)
17 例、Billroth II 法再建(BII)3 例、Roux-en Y 法再建(RY)15 例)を対象。
脂肪消化吸収機能はクロレラ産生 13C 標識混合中性脂肪呼気試験の 7 時間 13C 累積
回収率(%)で評価(Surgery 2009)。患者因子、腫瘍関連因子、周術期因子と術
後消化吸収機能との関連性、術後栄養状態を術前後の体重比(%)で検討。
【結果】健常者、BI 群の 13C 回収率は有意差なし(13.9±7.2% vs 11.1±3.7%)。
BII+RY 群の 13C 回収率(8.3±3.3%)は健常者、BI 群より有意に低値(P<0.05)。
術前後体重比は 2 群間に有意差なし。諸因子と術後消化吸収機能との関連では、
再建法のみ有意差あり(P<0.05)。
【結論】食餌が十二指腸を通過しない BII+RY 群では消化吸収機能低下を認めた
が、術後遠隔期の栄養状態には差を認めなかった。
36
〈シンポジウム 4〉
13
C-glycocholic acid を用いた呼気試験による bacterial overgrowth syndrome
診断法の検討
○柳町 悟司 1)、久保田 千尋 1)、松本 敦史 2)3)、三上 絢子 1)、佐藤 史枝 1)
三上 恵理 1)、長谷川 範幸 4)、柳町
明樂 一己 5)、見留
幸 3)、田中 光 3)、松橋 有紀 4)、佐藤 江里 3)
英路 5)、石岡 拓得 6)、丹藤 雄介 3)、中村 光男 1)
1) 弘前大学医学部保健学科 病因病態検査学、2) 八戸市立市民病院 内分泌糖尿病科 3)
弘前大学医学部 内分泌代謝内科、4) 国民健康保険板柳中央病院 内科
5) 松山大学 薬学部、6) 愛生会病院栄養科
【目的】Bacterial overgrowth syndrome(小腸細菌増殖症候群)は消化管術後や、消化管
運動の低下する糖尿病性神経障害、小腸切除例などの基礎疾患を有する場合に発生し易
く、慢性下痢・腹部膨満・腹痛・吐気などの消化器症状を伴い、長期に及ぶと栄養障害
を生じるため、早期の診断・治療が重要である。今回我々は、新たな基質 13C-glycocholic
acid (以下 13C-GCA)を用いた呼気試験による bacterial overgrowth syndrome の診断を
試み、診断方法に関して検討をした。
【対象および方法】健常者 12 例(男性 6 例、 女性 6 例、 37.7±14.4 歳)および消化管術
後の患者 11 例[胃部分切除後 4 例(BillrothⅠ法 2 例、BillrothⅡ法 2 例)、 胃全摘 4 例、
小腸切除 1 例、 膵全摘術後 1 例、 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術後 1 例]を対象として
13
C-GCA 呼気試験をおこなった。健常者 12 例では、明らかな消化器症状の訴えを認めな
かったが、消化管術後の患者では、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術後 1 例を除く全例で
何らかの消化器症状を認めていた。13C-GCA 呼気試験は以下のように行った。早朝空腹時、
被験者の呼気を専用の呼気採取バッグに採取した後にパン 90g、マーガリン 15g および
13
C-GCA500mg を含む牛乳 200ml を摂取させ、1 時間毎に 8 時間後まで呼気を採取し、呼気
中 Δ13CO2(‰)を測定した。
【結果および考察】健常者では Δ13CO2 は明らかなピークを示さずに緩やかに上昇し 8 時
間後に最大(2.06±1.43‰)となった。消化管術後例の中では、胃全摘後の 2 例、膵全摘
後の 1 例で早期に高いピーク値を認め、それぞれの Δ13CO2 ピーク値は 7.7‰(3 時間後)、
8.6‰(2 時間後)、6.1‰(4 時間後)と高値であり、3 例とも消化器症状(軟便、下痢、腹部
膨満、嘔気など)を認め、bacterial overgrowth syndrome と考えられた。
【結論】13C-GCA 呼気試験において、bacterial overgrowth syndrome が疑われる例では、
Δ13CO2 が経時的変化でピークを認め、早期に高値を示した。本検査法が bacterial
overgrowth syndrome 診断に有用であると考えられた。
37
〈シンポジウム 5〉
女子大学生における呼気中メタン濃度と便通の関係
○藤木 理代1)、池邨
治夫2)
1)名古屋学芸大学管理栄養学部、2)ヤクルト本社中央研究所
「背景と目的」
ヒトの呼気中にはメタンが検出されることがある。欧米では、潰瘍性大腸炎で
メタン排出者の割合が低く、便秘者で高いことが報告されている。日本人ではメ
タン排出者の割合が低く、腸内疾患との関連も明らかではない。そこで本研究で
は、女子大学生を対象にメタン排出量を測定し排便習慣との関連を調べた。
「方法」
20~22歳の女子大学生149人を対象に、呼気ガス分析機(トライライザ
ーmBA‐3000)を用いて、チューブ法により呼気中メタン濃度を測定した。更に、
被検者のうち便秘自覚のある24人(メタン非産生者19人、メタン産生者5
人)の排便習慣を2週間記録し、排便頻度とメタン産生量の関係を調べた。
「結果」
測定値 2.5 ppm 未満の非メタン産生者は 129 人(86.6 %)、2.5ppm 以上のメタ
ン産生者は 20 人(13.4%)であった。便秘自覚のあるメタン産生者の週平均排便
回数(2.7±0.9 回)は、メタン非産生者(3.7±1.0 回)より有意に尐なかった
(p<0.05)。
「考察」
今後、便秘自覚者のみならず様々な対象についても検討が必要である。また、
メタン産生者のカットオフ値を 3.0 ppm にした場合の検討も必要である。
38
〈シンポジウム 6〉
水素水飲水に伴う生体内水素消費量の計測
○下内 章人 1)、野瀬
和利 1)、水上
智恵 1)、白井
幹康 1)、近藤
1)国立循環器病研究センター
孝晴 2)
心臓生理機能部
2)中部大学生命健康科学部スポーツ保健医療学科
近年,水素水の摂取や水素ガス吸入が種々の酸化ストレス性疾患モデルで有効
であることが報告されている.障害部位前後における水素ガス濃度の動静脈較差
があることから,この低下分が水素は障害部位で消費され,活性酸素(特にヒド
ロキシルラジカル)を消去したことの傍証とされている.しかし,摂取した水素
が全身でどの程度消費され,どれだけ未反応のまま呼気中に排気されるのかを定
量的に計測した報告はない.本研究では特筆すべき疾患のない健康成人7例を対
象に,水素水を飲水した際の水素バランスを検討した.被験者は前夜からの絶食
状態で水素水 500mL (平均 0.4mM)を 1 分間で飲水し,マウスピースを介した人工
空気呼吸下で分時呼気排気量と呼気水素濃度(2 分間隔)の変動を 60 分間計測し,
摂取水素分子と排気水素分子量のマスバランスを計測した.水素水の水素含量は
密閉容器内でのヘッドスペース内水素濃度から算出した.その結果,摂取した水
素分子のうち 59%は呼気中に排気されるが,残り 41%は消失していることが判明
した.別の予備的検討で,開放系に置いた水素水中の水素消失は 1 分間で 2%以内
であること,全身皮膚からの水素分子放出量は摂取量の 0.1%程度であること,
抗生物質を連日内服し腸内醗酵を抑制した上で水素消失量は不変であること,ア
スコルビン酸投与後では水素消失量は容量依存的に低下すること,運動負荷中の
水素消失量は前後の安静時と比較して増大することなどから,消失した大部分の
水素分子は活性酸素種の消去に関与していることが推測された.仮に水素分子の
消失分が全て活性酸素種の消去によるものとすれば,尐なくとも 1.0µmol/min/m2
(29nmol/min/kg) の活性酸素(特にヒドロキシルラジカル)が全身で生成されて
いることになる.
39
〈シンポジウム 7〉
安定同位体トレーサ分析を用いた内因性 CO の体内動態に関する定量的検討
○澤野 誠 1)、下内
章人 2)
1) 埼玉医科大学
2) 国立循環器病センター研究所
心臓生理機能部
【背景】近年内因性一酸化炭素(CO)は信号伝達物質として注目されている。し
かし血中ヘモグロビン(Hb)と結合した CO が組織へ移行する pathway は証明され
ておらず信号伝達は細胞内に留まるものとされてきた。我々は 13CO を用いたトレ
ーサ分析により CO が血中から組織内へ移行し酸化される pathway を確認し、内因
性 CO の体内動態につき定量的検討を行ったので報告する。
. .
【方法】被験者に 13CO 飽和自己血を投与後,呼気中 CO,CO2 分時産生量(VCO,VCO2)
を連続測定した。呼気・静脈血を採取し呼気 13CO2/12CO2 の変動(Δ13CO2/12CO2)及
び血中 COHb%を測定した。
.
【結果】CO 飽和血投与終了後 36 時間にて VCO,Δ13CO2/12CO2,COHb%は投与前レベル
に復した。血中投与された 13CO のうち 81%は呼気に 19%は組織へ移行した。呼気
に排出された 13CO2 は投与された 13CO の 2.6%,組織へ移行した 13CO の 13%であった。
【考察】Coburn らは内因性 CO の body store は 8 割が血中 Hb,2 割が組織ヘム蛋
白と結合すると報告しており興味深い一致である。呼気中Δ13CO2/12CO2 が導入した
13
CO の組織移行・各種ヘム蛋白との結合の定量的指標となる可能性を示唆するも
のである。
40
協賛企業
天野エンザイム
小野薬品工業株式会社
大日本住友製薬株式会社
武田薬品工業株式会社
(五十音順)
第 3 回日本安定同位体・生体ガス医学応用学会大会の開催にあたり、上記の協賛企業3社お
よび広告掲載いただきました6社、ならびに企業展示をしていただきました、株式会社タイ
ヨウ、アルファ・モス・ジャパン株式会社およびフィガロ技研株式会社のご協力とご支援の
もと、本会が運営されましたことに深く感謝申し上げます。
大会プログラム委員およびスタッフ
【プログラム委員】
近藤孝晴
中部大学生命健康科学部スポーツ保健医療学科
尾方寿好
中部大学生命健康科学部スポーツ保健医療学科
堀田典生
中部大学生命健康科学部スポーツ保健医療学科
下内章人
国立循環器病センター研究所
野瀬和利
国立循環器病センター研究所
瓜田純久
東邦大学医学部医学科総合診療・急病科学講座
【運営スタッフ】
尾方寿好
中部大学生命健康科学部スポーツ保健医療学科
堀田典生
中部大学生命健康科学部スポーツ保健医療学科
野瀬和利
国立循環器病センター研究所
水上智恵
国立循環器病センター研究所
41
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