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ウッデホルム株式会社
ウッデホルムの世界的販売ネットワーク どこでも入手できるスウェーデン鋼 ウッデホルム株式会社 本 社 〒105-0003 東 京 都 港 区 西 新 橋 3 - 1 6 - 1 1 袋井事業所 〒437-0046 静 岡 県 袋 井 市 木 原 38- 1 名古屋支店 〒464-0075 名古屋市千種区内山3-10-17 大 阪 支 店 〒532-0011 大阪市淀川区西中島5-5-15 エリア マネージャー 仙台、北関東、長野、広島、北九州 1 JBC 0200119 TEL.03(5473)4641 FAX.03(5473)7691 [email protected] TEL.0538(43)9240 FAX.0538(43)9244 TEL.052(733)3901 FAX.052(733)6307 TEL.06(6307)7621 FAX.06(6307)7627 本カタログの内容は変更させていただく場合があります。 営業品目 1 ●プラスチック金型用鋼●冷間金型用鋼●熱間金型用鋼●高速度工具鋼および粉末高速度工具鋼●刃物鋼●冷間圧延帯鋼●プラスチック金型用 モールドベース加工●機械加工サービス●完成バイト 03.06/500 Treatment of Tool Steel 工具鋼の使用例 工具鋼技術資料 HEAT TREATMENT OF TOOL STEEL 工具鋼の熱処理 1 目次 工具鋼とは 3 焼入れと焼戻し 3 寸法と形状の安定性 8 表面処理 10 機械的特性の試験 12 工具設計者へのアドバイス 13 Heat treatment このパンフレットは、工具鋼の熱処理に関する知識 の提供を目的としています。 特に、硬さ、靭性、および寸法安定性について記述 します。 金元素は、炭化物から生地中に溶け込みます。 焼入れ過程で、鋼を十分早い速度で冷却すると、炭 素原子が再配置される時間がなく、焼なましのように オーステナイトからフェライトが再形成されることは ありません。炭素原子は、十分な余地がないまま凝固 工具鋼とは 当社の工具鋼は、プラスチック成形、プレス加工、 ダイカスト、押出し、鍛造、木工などを主目的とした されるため、ミクロ応力が発生して硬さが増加します。 この硬い組織をマルテンサイトといいます。このため、 マルテンサイトは、フェライトの中に炭素を強制的に 固溶した組織とみることができます。 高合金鋼に限定しています。 なお、通常の高速度鋼とASPも含まれています。 工具鋼は通常、焼なまし状態で納入されます。その ため、材料は切削工具による加工が容易で、焼入れに ○=鉄原子 ●=炭素原子の侵入位置 適したミクロ組織が与えられています。 ミクロ組織は、炭化物が溶け込んだ軟らかい素地に なっています。炭素鋼の炭化物は炭化鉄で構成されま すが、合金鋼の炭化物は鋼の組成によって、クロム (Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、また はバナジウム(V)の炭化物から構成されています。 炭化物は、これら合金元素と炭素の化合物であり、非 常に高い硬さを持っているのが特長です。また、炭化 2.86Å 物の含有量が高いと、耐摩耗性が高くなります。合金 鋼では、炭化物が均一に分布していることが重要です。 ※1 フ ェ ラ イ ト 結 晶 中 の 単 位 格 子 。 B C C ( b o d y centered cubic:体心立方晶) 合金鋼では、コバルト(Co)やニッケル(Ni)など 他の合金元素も使用されますが、これらは炭化物を形 成しません。コバルトは通常、高速度鋼の赤熱脆性を 改善し、ニッケルは焼入性を改善するために使用され ます。 3.57Å 焼入れと焼戻し 焼入れを行った場合、多くの要因がその結果に影響 を与えます。 3.57Å 理論的特性 焼なまし状態の工具鋼では、合金元素の大部分が炭 化物の炭素で囲まれています。これ以外の合金元素で ※2 オーステナイト結晶中の単位格子。FCC(Facecentered cubic:面心立方晶) あるコバルトとニッケルは、炭化物を形成しないで、 生地中に固溶しています。 鋼を焼入れのために加熱すると、基本的に炭化物が 溶解して、合金元素が生地に捕捉され、粗粒化して脆 化することなく、焼入れ効果が得られると考えられま 2.98Å す。炭化物は部分的に溶解する事に注意してください。 つまり、生地は炭素と炭化物が形成する元素との合金 になります。 鋼を焼入れ温度(オーステナイト化温度)まで加熱 すると、炭化物が生地中に溶解して、生地も変化しま す。生地はフェライトからオーステナイトに変態しま す。つまり、鉄の原子が格子の中で位置を変更して、 炭素原子と合金元素の侵入位置を与えます。炭素と合 2.85Å ※3 マルテンサイト結晶中の単位格子。BCT(body centered Tetoragnal:体心正方晶) 3 Heat treatment 鋼を焼入れすると、生地が完全にマルテンサイトに 変化するわけではありません。オーステナイトの一部 が常に残り、「残留オーステナイト」と呼ばれます。 合金含有量が高く、焼入れ温度が高く、保持時間が長 いと、残留オーステナイト量が増加します。 工具鋼は、常に2回の焼戻しが必要です。 2回目の焼戻しは1回目の焼戻しに形成した2次マル テンサイトを安定化させます。 炭素含有量の高い高速度鋼では、3回の焼戻しを推 奨します。 焼入れ後の鋼は、マルテンサイト、残留オーステナ イト、および炭化物から構成されるミクロ組織となり ます。 この組織には内部応力が存在するため、容易に割れ の原因になります。これは、鋼を特定の温度まで再加 熱して、応力を減少させ、残留オーステナイトを変態 させることにより防止できます。その程度は、再加熱 の温度により異ります。 焼入れ後の再加熱を焼戻しといいます。工具鋼は、 焼入れ直後に、必ず焼戻しを行う必要があります。 低温の焼戻しはマルテンサイトにのみ影響を与え、 1回目の焼戻し後 2回目の焼戻し後 1000x 焼入れ、焼戻し後のRIGOR 高温の焼戻しは残留オーステナイトにも影響を与える ことに注意する必要があります。 高温で一度焼戻しを行った後のミクロ組織は、焼戻 実際の焼入れ、焼戻し処理方法 しマルテンサイト、新しく形成されたマルテンサイト、 金型が荒加工された状態では、焼入れによる歪みを 残留オーステナイト、および炭化物から構成されます。 考慮する必要があります。荒加工では、鋼の局部加熱 高温焼戻し時に二次析出(新しく形成)する炭化物と と機械的な作用により、内部応力が増加します。これ 新しく形成されるマルテンサイトにより、硬さが増加 は単純な設計の左右対称部品ではそれほど問題になり することがあります。これは通常、高速度鋼と高合金 ませんが、たとえばダイカスト金型のような非対称の 工具鋼の二次硬化と呼ばれます。 機械加工では大きな問題になります。この場合、片方 の金型は応力除去焼戻しを推奨します。 硬さ 増 加 応力除去焼戻し ← C 応力除去焼戻しは、荒加工後に行い、550∼650℃ B (1020∼1200° F)の加熱をします。 材料は全体が同一温度になるまで加熱して、たとえ D ば炉内でゆっくり冷却します。 応力除去焼戻しで、温度が上昇すると材料の耐力が 低下して、内部応力に抵抗できなくなります。耐力を A 超え、これらの応力が解放され、ひずみの程度は大き くなったり少なくなったりします。 焼戻し温度 →高い 機械加工の場合、荒加工、応力除去焼戻し、仕上加 工が正しい順序です。 A=マルテンサイト焼戻し B=炭化物析出 4 応力除去焼戻しに長時間がかかるからといって、省 C=残留オーステナイトからマルテンサイトへの変態 略することはあり得ません。焼入れした金型の寸法を D=高速度鋼と高合金工具鋼の焼戻しダイアグラム 調整するよりも、焼戻し後の材料を仕上げ加工時に修 A+B+C=D 正する方がコストがかかりません。 Heat treatment 焼入れ温度までの加熱 焼入れ温度まで加熱する場合、ゆっくり加熱するこ とが基本的に重要です。これにより、歪みが最小とな ります。 真空炉および制御された保護ガス雰囲気の炉では、 制御された保護ガス雰囲気炉、またはソルトバスは 酸化や脱炭を保護できます。 電気マッフル炉を使用する場合は、金型を木炭や鋳 鉄チップに埋込んで保護できます。 これらの梱包材料は、在来の熱間工具鋼などの炭素 温度がゆっくり上昇します。ソルトバスを使用する場 含有量の少ない鋼の処理では、浸炭の影響があるので 合は、予熱を行います。マッフル炉では、鋼を鋳鉄チ 注意する必要があります。 ップの中に埋込みますが、この処理では自動的にゆっ くり加熱されます。 流動層では、塩浴と保護雰囲気の長所が組み合わさ マッフル炉で加熱する場合は、ステンレス鋼箔で包 んで処理することが有効です。 脱炭は、表面硬さの低下と割れの危険性を高める原 れています。加熱と冷却の速度は、塩浴と同等です。 因になります。浸炭は、表層の硬さが増加して、悪影 酸化アルミニウムおよび保護雰囲気として使用される 響を与えることがあります。 ガスは、塩浴に比べ有害ではありません。 焼入れ温度での保持時間 金型は、酸化と脱炭を防止することが重要です。真 空では最良の保護が得られ、鋼の表面は影響を受けま せん。 すべての加熱条件を簡単に正しく説明することはで きません。 炉の種類、炉の定格、温度レベル、炉の大きさと相 対投入重量などの要素をそれぞれのケース毎に考慮す る必要があります。 ただし、殆どすべてのケースに有効な1つの推奨事 項があります。すなわち、鋼の全体が均一な焼入れ温 度に達したら、30分間同じ温度で保持してください。 この推奨の例外は、薄い部品又は高速度鋼を塩浴炉で 高温処理する場合です。この場合、均熱の保持時間は しばしば数分間です。 焼入れ 真空炉 高速焼入れと低速焼入れの選択は通常、下記の考え 方により決められます。最良のミクロ組織と工具性能 を得るには高速焼入れが推奨されますが、歪みを最小 限におさえるには低速焼入れが有効です。 低速焼入れでは、部品の表面と中心の温度差が小さ くなり、断面厚さが異なる場合でも冷却速度がより均 一になります。 このことは、Ms温度以下のマルテンサイト変態域 を通る焼入れの場合、非常に重要です。マルテンサイ トが形成されると、材料内の体積と応力が増加します。 このために焼入れでは、通常50∼70℃(120∼ 制御雰囲気のバッチ型炉 160° F)の室温まで冷却しないように注意する必要が あります。 ただし、断面積が大きい場合、焼入れ速度が低すぎ ると、ミクロ組織に望ましくない変態が発生して、工 具の性能が低下する危険性があります。 非合金鋼の場合の冷却媒体には、水が使用されます。 最適の冷却効率を達成するために、8∼10%の塩化ナ トリウム(食塩)または水酸化ナトリウムを水に添加 する必要があります。 塩浴炉 5 Heat treatment 温度 油焼入れは、ひずみと焼入れ割れの観点から、鋼の 焼入れで最も安全な方法ではありませんが、マルテン Ac3 Ac1 パーによって安全性を向上できます。マルテンパーで は、材料を2段階で焼入れします。第1段階では、Ms 温度よりわずかに高い温度の塩浴中で焼入れ温度から 冷却します。工具は、表面と中心の温度が等しくなる まで保持された後、マルテンサイト変態範囲を通過し て、温度が低下するまで空気中に放置します。 油焼入れ鋼のマルテンパーでは、材料の変態が比較 中心 的早いため、マルテンパー浴温度での保持時間が長い 表面 と、べイナイト変態が過剰になって硬さが低下する恐 れがあります。 高合金鋼は、油中で焼入れし、マルテンパー浴また Ms は空気中で冷却することができますが、それぞれの長 所と短所は下記のとおりです。 油は、仕上がりが良好で、硬さが高くなりますが、 マルテンサイト 時間 ひずみが過大になるか、または割れの危険性が大きく なります。厚い部品を高い硬さにするには、しばしば TTTグラフで表した焼入れ処理 油冷が唯一の方法になります。 水焼入れは、しばしば焼入れひずみや割れを生じま す。 塩浴中のマルテンパーは、仕上がりが良好で、硬さ が高く、過大なひずみや割れの危険性が少なくなりま 油焼入れはより安全ですが、空気中の焼入れまたは マルテンパーが最良です。なお、油は低合金鋼に使用 してください。 す。 鋼の種類によっては通常、塩浴の温度を約500℃ (930° F)に保持します。この温度では、熱衝撃が比 油は、良質であることが必要で、好ましいのは急冷 タイプです。清浄に保持して、一定の使用期間のあと は交換する必要があります。 較的小さくなりますが、相変態を防ぐのに十分な冷却 速度が得られます。 多くの場合、鋼をマルテンパー浴の温度から空気中 焼入れ油の温度は60∼70℃(140∼160° F)で、最 で冷却すると、完全なマルテンサイト変態には時間が 良の冷却効率が得られます。温度を下げると油の粘度 かかります。ただし、寸法が大きい場合は、鋼の焼入 が増加して濃くなり、攪拌しずらくなります。 れ性に従って、強制冷却速度の使用が必要となること がしばしばあります。 空気焼入れは、過大なひずみの発生を最小限にする 温度 ことができます。厚さが増すと、硬さが低下する傾向 が目立ちます。1つの欠点は、表面状態の悪さです。 材料が空気に触れると酸化が起り、高い焼入れ温度か Ac3 らの冷却速度が低下します。 Ac1 冷却媒体の選択は作業によって異なりますが、一般 に以下のように推奨できます。 マルテンパー浴は、ほとんどの場合に最も安全です。 空気は、寸法安定性が重要な場合に使用します。 油は、避けるべきで、大きい断面積で十分な硬さが 中心 必要な場合にのみ使用します。 表面 Ms マルテンサイト 時間 マルテンパー 6 Heat treatment 最大硬さが必要な場合は、約200℃(390° F)で焼 温度 戻しを行い、絶対に180℃(360° F)以下にならない 焼入れ温度 ようにします。高速度鋼は通常、二次焼入れ時の最高 温度より約20℃(36° F)高い温度で焼戻しを行いま 油 す。 空気 低い硬さが必要な場合は、焼戻し温度を高くします。 当社製品の説明書の靭性値を見てもわかるように、硬 表面 塩浴 さを低くすると、靭性が高くなるとは限りません。靭 Ms 性が低下する温度範囲内では、焼戻しを行わないでく ださい。寸法安定性が重要となる場合、温度の選択に 中心 室温 しばしば考慮が必要となります。ただし、できるだけ マルテンサイト 靭性を優先することを推奨します。 時間 様々な媒体の冷却速度 ここでは、3つの有名な冷却方法を説明します。新 式の炉では新しい概念が導入され、保護ガス雰囲気ま たはガス入り真空炉の中で冷却速度を制御する技術が 普及しています。保護ガス雰囲気中では、冷却速度は 空気中とほぼ同じですが、表面酸化の問題はなくなり ます。最近の真空炉では焼入れ中に加圧されることが あり、冷却速度が増加されます。真空焼入れ後の表面 対流式焼戻し炉 は完全に清浄です。 必要な焼戻し回数 これらの技術では、加圧を使用しない場合の真空炉 においても、空気中での焼入れと同様に、冷却速度が 工具鋼には2回の焼戻しが推奨され、たとえば1% 異常に低下する危険性がありますので注意する必要が 以上の炭素含有量の高い高速度鋼では3回の焼戻しが あります。冷却速度の低下による悪影響は通常、表面 必要と考えられます。 硬さが期待値より低くなることです。大きい断面積の 中心の硬さはそれに伴い更に低下します。 2回の焼戻しは、常に推奨されます。焼入れの基本 原則に従って、50∼70℃(120∼160° F)以下に下 この影響により、高速度鋼と熱間工具鋼の断面中央 げなかった場合、焼戻し前の材料にはオーステナイト の冷却速度が低い場合に、冷却過程で炭化物が析出す の一部が変態しないで残っています。焼戻し後に材料 ることがあります。この場合、生地の炭素と炭化物形 を冷却すると、オーステナイトの大部分がマルテンサ 成成分が不足します。その結果、中心の硬さと強度が イトに変態します。このマルテンサイトは、焼戻しさ 低下します。 れていません。2回目の焼戻しにより、材料は目的の 硬さで最適の靭性が得られます。 焼戻し 高速度鋼の残留オーステナイトにも、同じ理由があ 材料は、焼入れの直後に焼戻す必要があります。焼 てはまります。ただし、残留オーステナイトは合金濃 入れは50∼70℃(120∼160° F)で停止して、すぐ 度が高いために変態に時間がかかります。焼戻し中に に焼戻しをする必要があります。すぐにできない場合 オーステナイトは、ある種の拡散が発生して、二次炭 は、焼戻しができるまで、たとえば特別な「高温キャ 化物が析出するので、焼戻し後の冷却では、オーステ ビネット」で材料を保温する必要があります。 ナイトの合金濃度が低下して容易にマルテンサイト変 焼戻し温度は、しばしば経験によって選択されます。 態が起こります。この場合、残留オーステナイトが更 ただし、以下の要因を考慮してガイドラインを提供す にマルテンサイトに変態するため、複数の焼戻しが有 ることはできます。 利になります。 ● 硬さ ● 靭性 ● 寸法変化 焼戻しに関する保持期間 ここでも複雑な公式や経験則は除き、以下を推奨し ます。 材料を完全な温度で毎回2時間以上保持してくださ い。 7 Heat treatment 寸法と形状の安定性 工具鋼の焼入れと焼戻しによる歪み 工具鋼を焼入れ、焼戻しすると、通常、ある程度の 反りまたはひずみが発生します。ひずみは通常、高温 で大きくなります。 熱応力 熱応力は、鋼材が加熱されるときに生じます。応力 は、加熱が急速で不均一な場合に増加します。鋼の体 積は、加熱によって増加します。不均一な加熱による 体積膨張の局部的な違いが、応力とひずみの発生原因 となります。 複雑な形状又は大きい部品を加熱する場合は、予熱 このことはよく知られているため、焼入れ前の工具 には通常、一定の加工代を残します。これにより、焼 入れ、焼戻し後に、たとえば研削などによる寸法調整 段階の加熱によって部品の温度を均一にすることがで きます。 線膨張(mm/100mm) が可能になります。 ひずみが発生する原因 0,8 材料の応力が原因です。応力は以下のように分類で 0,6 きます。 ● 機械加工応力 ● 熱応力 ● 変態応力 0,4 0,2 機械加工応力 機械加工応力は、施削、フライス加工、研削などの 機械加工作業時に生じます。(こうした応力は、たと 100 210 200 390 400 750 500 930 600 ℃ 1110°F 温度 えば、打抜き、曲げ、引抜きなどの冷間成形作業でも よく発生します)。 300 570 焼なまししたミクロダイズド鋼ORVAR 2Mの線膨 部品の局部に蓄積した応力は、加熱によって解放さ 張に対する温度の影響 れます。加熱によって応力が減少して解放されると、 局部ひずみを生じます。その結果、全体的なひずみが 発生します。 部品全体の温度が均一になるように、常にゆっくり 加熱するように条件設定を行う必要があります。 焼入れ処理時の加熱によるひずみは、応力除去焼戻 加熱に関する注意事項は、焼入れ時についてもあて しによって除去できます。荒削り後の材料には、応力 はまります。焼入れでは、非常に大きな応力が生じま 除去焼戻しを行うことが推奨されます。その後、焼入 す。一般原則として、焼入れをゆっくり行うことがで れ前の仕上げ機械加工により、すべてのひずみを調整 きれば、熱応力によるひずみは小さくなります。 することができます。 焼入れ媒体は、できるだけ一様に適用することが重 要です。特に、強制空気または保護ガス雰囲気(真空 耐力Rp0,2(N/mm2) 炉など)を使用する場合に注意が必要です。焼入れ媒 体を不均一に適用すると、工具内部の温度差により、 400 ひずみが大きくなります。 300 250 200 100 100 210 200 390 300 570 400 750 500 930 600 ℃ 1110°F 温度 焼なまししたミクロダイズド鋼ORVAR 2Mの耐力 に対する温度の影響 8 Heat treatment 変態応力 ひずみの低減方法 変態応力は、鋼のミクロ組織が形成されるときに生 ひずみは、以下の方法によって低減できます。 じます。これは3つのミクロ組織、フェライト、オー ステナイト、マルテンサイトの密度、つまり体積が異 ● 単純で対照的な設計とする なるためです。 ● 荒削り後に、応力除去焼戻しを行い、機械加工応力 を除去する 最も影響が大きいのは、オーステナイトからマルテ ンサイトへの変態です。マルテンサイト変態では体積 ● 焼入れ時の加熱はゆっくり行う が増加します。 ● 適切な鋼種を使用する ● 焼入れでは、鋼の正常なミクロ組織を得るために必 速すぎる不均一な焼入れでは、マルテンサイト変態 要十分な冷却速度にする が局部的に増加して、その部位の応力が増大します。 応力は、ひずみの発生や場合によっては焼割れの原因 ● 適切な温度で焼戻しを行う になることがあります。 機械加工の取り代について、以下の値をガイドライ 体積 ンとして下さい。 鋼種 オーステナイト への変態 マルテンサイト への変態 Ms Ac1 Ac3 温度 組織の変態にともなう体積変化 機械加工の取り代 (寸法の長さと直径の%) ARNE RIGOR SVERKER 21 and SVERKER 3 CARMO VANADIS 4 VANADIS 10 ASP 23 CALMAX STAVAX ESR ELMAX ORVAR 2 Microdized(2M) ORVAR SUPREME VIDAR SUPREME QRO 90 SUPREME 0.25% 0.20% 0.20% 0.20% 0.15% 0.15% 0.25% 0.20% 0.15% 0.15% 0.20% 0.20% 0.20% 0.30% 9 Heat treatment 軟窒化 表面処理 窒化 窒化の目的は、鋼の表面硬さを増し、摩耗特性を改 善することです。窒化処理は、窒素を発生する媒体 (ガスまたは塩)により行います。窒化では、窒素が 鋼の中に拡散して硬くて耐摩耗性の高い窒化物を形成 します。この化合物の表層は、良好な耐摩耗性と摩擦 軟窒化の方法として、塩浴での窒化がよく知られて います。 温度は通常、570℃(1060° F)です。ばっ気によ り、塩浴中のシアン酸塩含有量がよく制御できるため、 窒化の効果は非常に良好です。 軟窒化の効果は、570℃(1060° F)のガス雰囲気 でも得られます。両方の結果は同様です。 窒化処理時間は、工具の種類と大きさにより変更す 特性を持ちます。 窒化は、約510℃(950°F)のガス、約570℃ る必要があります。所定の窒化温度での加熱時間は、 (1060°F)の塩またはガス、または通常約500℃ 工具のサイズが大きくなるに従い、非常に長くなりま (930° F)のイオン窒化が行われています。窒化を行 す。 う鋼は、中心の強度が低下しないよう高温戻しをする イオン窒化 必要があります。 イオン窒化は、新しい窒化処理技術です。これは以 下のように要約できます。 窒化する部品は、主に窒化ガスを充填した処理層内 に置きます。部品は電気回路の陰極を形成し、処理装 置の外殻が陽極となります。回路が接続されると、ガ スがイオン化されて、部品はイオン衝撃にさらされま す。ガスは熱と窒素の媒体となります。 イオン窒化の利点は、処理温度が低く、硬くて靭性 に富んだ表層が得られることです。拡散の深さは、ガ ス窒化と同等です。 窒化を行ったORVAR 2 M(倍率100x) 適用例 ● 窒化は、表面のへこみとパーティング面の欠陥発生 を防止するために、調質したプラスチック金型に使 用される場合があります。ただし、窒化表面は切削 工具による機械加工ができず、むずかしい研磨のみ が可能であることに注意する必要があります。窒化 した表面は、溶接による修理でブローホールの発生 などの問題があります。また、窒化には、応力解放 効果があります。そのため、多くの機械加工を行っ た部品では、機械加工による残留応力が窒化によっ ● この方法は、炭素を与える媒体(ガス、塩、または ことがあります。こうした場合、荒削りと仕上げ加 乾燥炭化コンパウンド)中で鋼を加熱します。炭素は、 工の間に、応力除去焼戻しを行うことが推奨されま 材料の表面内部に拡散し、焼入れ後の表層が硬くなり、 す。 耐摩耗性が向上します。肌焼きは、構造用鋼に適用さ 鍛造金型の寿命は、窒化により延長できます。ただ れますが、合金工具鋼には通常あまり推奨されません。 高くなるので注意が必要です。更に、フラッシュラ ンド部の端は丸みをおびた形状にする必要がありま す。 ORVAR 2 Mの金型の窒化は、特にアルミニウム合 金に対して有効です。ただし、金型の鋭角部位と薄 い断面は除きます。 10 肌焼き て解放され、窒化処理の間でわずかな変形を受ける し、窒化により鋭角部位に割れが発生する可能性が ● イオン窒化装置 Heat treatment これらの特性を最適の方法で使用するには、基材と クロムめっき して高品質な工具鋼またはASPパウダースチールを選 硬質クロムめっきは、工具の耐食性と耐摩耗性を向 択する必要があります。以下に示す2つのコーティン 上します。硬質クロムめっきは、電気めっきで行いい グが最も一般的です。 ます。めっきの厚さは通常、0.001mm∼0.1mm ● 蒸着法) は、突き出た角やエッジ部の膜厚が平らな表面や穴よ りも厚くなるため、均一な表層を得ることが困難です。 クロム層が損傷すると露出した鋼は急速に腐食される PVDコーティング:200∼500℃(390∼930°F) で行う(PVD=Physical Vapor Deposition:物理的 (0.00004∼0.004インチ)です。特に複雑な工具で ● CVDコーティング:約1000℃(1830° F)で行う (CVD=Chemical Vapor Deposition:化学的蒸着 法) ことがあります。 クロム層の別の利点として、表面の摩擦係数を非常 に小さくすることが可能となります。 コーティングの方法、工具のデザイン、および必要 な公差に応じて工具鋼に対する一定の要求が決まりま クロムめっき処理時には、水素が吸収されて表層が す。PVDコーティングは、寸法公差がうるさい場合に もろくなることがあります。この悪影響は、めっき直 使用します。PVDコーティングを使用する場合、高温 後に180℃(360° F)で4時間の焼戻しを行うことに 焼戻しの工具鋼を使用する必要があり、コーティング よって除去できます。 は熱処理後に行う必要があります。CVDコーティング コーティング では、処理後、焼入れと焼戻しを行います。約 1000℃(1830° F)のオーステナイト化温度の鋼を 工具鋼のコーティングは、近年著しく普及していま 使用する必要があります。CVDのコーティングは、寸 す。冷間加工のみならず、プラスチック金型や熱間加 法変化の危険性があるため、公差が厳しい工具には推 工用金型にも適用されています。 奨されません。 硬質被覆は通常、窒化チタンと炭化チタンの両方ま PVDコーティングに最も適した鋼は、VANADIS 4、 たはいずれかによって構成されます。非常に高い硬さ VANADIS 6、VANADIS 10、ASP 23であり、CVD と低い摩擦係数により、表面の耐摩耗性は非常に高く、 コーティングに最も適した鋼は、VANADIS 4および 凝着と融着の危険性を少なくすることが可能です。 VANADIS 10です。 工具と金型の表面被覆は、用途、被覆方法および寸 法公差の要求度に応じて個別に検討する必要がありま す。 コーティングされた工具 11 Heat treatment 機械的特性の試験方法 鋼を焼入れ、焼戻しすると、強度に影響を及ぼすの で、それらの特性の測定方法を説明します。 硬さ試験 ヴィッカース(HV) ヴィッカース硬さ試験では、四角柱状のダイヤモン ドの頂角136° を荷重Fで、硬さを測定する材料に押し 付けます。荷重を除いてから、痕跡の対角線d1および d 2を測定して、換算表から硬さ値(HV)を読み取り ます。 硬さ試験は、焼入れの性能を調べる最も一般的な方 試験結果を報告する場合、以下の例に示すように、 法です。硬さは通常、工具を焼入れする際に指定され 測定荷重値と(必要に応じて)荷重時間を示す添え字 ます。 とともに文字HVにより、ヴィッカース硬さを示しま 硬さの試験は容易です。材料は破壊されず、測定機 具は比較的安価です。最も一般的な試験法はロックウ ェルC(HRC)、ヴィッカース(HV)およびブリネル す。 HV 30/20=30kgfによる荷重を20秒間かけたヴィ ッカース硬さ (HB)です。 「強くヤスリをかけろ」という古い言葉を思い出す 必要があります。たとえば60HRCを超える硬さが十 分かどうかを確認する場合には、質の良いヤスリがよ き指標を示してくれます。 ロックウェルC(HRC) ロックウェル硬さ試験では、硬さを調べる材料の試 験片に対して、円錐状のダイアモンドを、最初に力F0 で押し、次にF0+F1で押し付けます。荷重をF0に軽減 ヴィッカース硬さの試験の原理 すると、F 1による痕跡の深さの増分(e)が決定され ブリネル(HB) ます。押し込み深さ(e)は硬さ値(HRC)に変換さ れるので、試験機の目盛りまたは表示から直接読み取 ります。 ブリネル硬さ試験では、硬さを測定する材料に球を 押し付けます。荷重を除いてから、痕跡の直径を互い に90° をなす2方向(d 1およびd 2)で測定し、d 1とd 2 の平均値から表のHB値を読み取ります。 硬さスケール 試験面 ロックウェル硬さ試験の原理 ブルネル硬さ試験の原理 試験結果を報告する場合、以下の例に示すように、 球の直径、測定荷重、および(必要に応じて)荷重時 間を示す添え字とともに文字HBにより、ブリネル硬 さを示します。 HB 5/750/15=5mmの球に750kgfによる荷重を 15秒かけたブリネル硬さ 12 Heat treatment 引張強さ 工具設計者へのアドバイス 引張強さは、引張試験機に固定した試験片が破断す 鋼の選択 るまでの徐々に増加する引張荷重により決定されま す。機械性質として通常は、耐力Rp0,2と最大抗張力Rm が記録されます。 形状の複雑な部品には、空気焼入れ鋼を選択してく ださい。 ただし、試験片では、伸びA 5と断面収縮率Zが測定 設計 されます。一般的に硬さは耐力と最大抗張力に依存し、 伸びと断面収縮率は延性と靭性を示すと言われます。 避けるべき点 耐力と最大抗張力が大きいと通常は、伸びと断面収縮 ● 鋭角 率の値が小さくなります。 ● ノッチの影響 ● 断面の厚さの大幅な違い 伸び試験は、構造用鋼に対して行われることが多く、 工具鋼ではほとんど行われません。55HRCを超える 硬さの鋼で、伸び試験を行うのは困難です。靭性の高 これらは、特に材料を冷却しすぎた場合や、焼戻し い工具鋼が高強度構造鋼として使用される場合に、伸 を行わなかった場合などに、しばしば焼き割れの原因 び試験が行われることがあります。たとえば、IMPAX になることがあります。 SUPREMEやORVA 2 Mがこれに含まれます。 衝撃試験 不適切な設計 好ましい形状 材料を破断するには、一定量のエネルギーが必要で す。このエネルギー量を使用して、材料の靭性を測定 することができます。エネルギーの吸収量が多ければ、 丸み 良好な靭性を示します。最も一般的で、容易に靭性を 決定できるのが、衝撃試験です。硬い振子を既知の高 さから自由に落下させて、振りの最下部で試験片を打 ちます。試験片を破断した後、振子が振れる角度を測 定することにより、試験片を破断するために吸収され はめ込み たエネルギー量を計算します。 衝撃試験には、いくつかの異なる試験方法がありま す。試験方法が異なると、試験片の形状が異なります。 試験片のノッチがV型の試験法はシャルピーV、U型の 試験法はシャルピーUと言います。 ほとんどの部品において、工具鋼は強度が高いため、 靭性は低くなります。低い靭性の材料ではノッチの影 響が大きいため、工具鋼の衝撃試験では、なめらかで 熱処理 ノッチがない試験片がよく使用されます。試験結果は 一般的に、ジュールまたはkgm(厳密にはkgfm)で記 使用目的にあわせて、適切な硬さを選択してくださ 述されます。特にシャルピーU 試験の場合など、 い。特に、焼戻し後に靭性が低下する温度範囲に注意 J/cm2またはkgm/cm2が使用されることもあります。 してください。 スウェーデン以外では、それ以外の衝撃試験法もい くつか使用されます。たとえば、DVM、Mesanger、 および特に英語圏の国で使用されるIzodなどが使用さ れます。 ひずみの危険性に注意して、機械加工の取り代に関 する注意書に従ってください。 図面上で、応力除去焼戻しを指定するのはよい方法 です。 13 Heat treatment