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大豆のサポニン
マニュアル参考様式 Ver.1 食品中の健康機能性成分の分析法マニュアル 平 成 23年 1月 26日 受 理 産技連四国食品健康産業分科会 食品機能成分分析研究会 編 [email protected] ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 大豆のサポニン 作成者:近畿中国四国農業研究センター 大豆育種研究近中四サブチーム 主任研究員 高田吉丈 1.大豆について 1.1 概要 大豆は「畑の肉」と呼ばれ、良質な蛋白質や脂質を豊富に含み、さらにイソフラボ ンやサポニン等の機能性成分を含んだ優れた食材である。大豆は豆腐、味噌、醤油等 の原材料であり、国民の健康に対する関心の高まりから見直されている日本型食生活 の 中 心 的 な 役 割 を 担 っ て い る 。 し か し な が ら 、 大 豆 の 自 給 率 は 5%で 、 食 用 に 限 っ て み て も 自 給 率 は 21%で あ り 、 日 本 の 大 豆 需 要 量 の 大 部 分 を 輸 入 に 頼 っ て い る 。 四 国 4 県 の 大 豆 作 に つ い て 見 る と 、 2009 年 の 作 付 面 積 は 845ha で 、 全 国 ( 14 万 5 千 ha) 対 比 0.6%、 収 穫 量 は 1,172t、 10a 当 た り 収 量 は 131kg で あ っ た 。 栽 培 さ れ て い る 品 種 と し て は 約 8 割 が 黄 大 豆 で 、そ の う ち の 90%を 豆 腐 加 工 適 性 に 定 評 の あ る「 フ ク ユ タカ」が占めている。それ以外は、黒大豆を中心に各地の在来種等が少量作付されて いる。 2.大豆サポニンについての説明 大豆サポニンはトリテルペノイドサポニンに分類され、ソヤサポゲノールA及びB の 2 種 類 の ア グ リ コ ン ( 非 糖 部 ) に 糖 が 付 加 し た 配 糖 体 の 総 称 で あ る ( 図 2 . 1 )。 付 加 す る 糖 の 種 類 に よ り 多 種 多 様 な 分 子 種 が 存 在 す る 1 ) 。ソ ヤ サ ポ ゲ ノ ー ル A を ア グ リ コ ン と す る グ ル ー プ A サ ポ ニ ン は 不 快 味 の 原 因 物 質 と 報 告 さ れ て い る が 2 ) 、ソ ヤ サ ポ ゲ ノ ー ル B を ア グ リ コ ン と す る DDMP サ ポ ニ ン と そ の 分 解 物 類 に は 、 抗 高 脂 血 症 作 用 3 ) 、 ヒ ト 大 腸 ガ ン 細 胞 増 殖 抑 制 作 用 4,5)等 の 生 理 活 性 が 報 告 さ れ て い る 。 1) 塚 本 知 玄 , 大 豆 の す べ て , 喜 多 村 啓 介 他 編 , ( 株 ) サ イ エ ン ス フ ォ ー ラ ム , 東 京 , pp.145-149 (2010). 2) Okubo K. et al., Biosci. Biotech. Biochem., 56, 99-103(1992). 1 マニュアル参考様式 Ver.1 3) Murata, M. et al., Soy Protein Research, 8, 81-85 (2005). 4) Ellington AA et al., Carcinogenesis, 26, 159-167 (2005). 5) Ellington AA et al., Carcinogenesis, 27, 298-306 (2006). H3C H3C CH3 CH3 OH OH CH3 OH CH3 CH3 CH3 CH3 CH3 CH3 CH3 HO HO CH2OH H3C CH2OH H3C ソヤサポゲノールA H3C ソヤサポゲノールB CH3 H3C CH3 OH O OH O CH3 O CH3 CH3 CH3 CH3 O CH2OH H3C HO CH2OH O H O H H O H OAc CH2OH OH HO OH OAc H3C O O OH O COOH O HO O HO CH3 CH3 O COOH CH3 OAc O HO OH OH H H O O CH2OH O HO O CH3 OH H H HO OH OH グ ル ー プ A サ ポ ニ ン : Aa OH DDMP サ ポ ニ ン : β a 図2.1 大豆サポニンの構造 ( グ ル ー プ A サ ポ ニ ン と DDMP サ ポ ニ ン は 一 例 ) 2 O CH3 マニュアル参考様式 Ver.1 3. 定量分析の方法について ここでは、大豆子実(全粒)に含まれる大豆サポニンを高速液体クロマトグラフィ ーにより定量する手順を述べる。なお、分析対象とする大豆サポニンは標準品の入手 可能なアグリコン(ソヤサポゲノールA、ソヤサポゲノールB)とする。 3.1 準備する器具等 1. 粉 砕 機 ( メ ー カ ー 、 粉 砕 方 式 は 問 わ な い ) 2. 遠 心 機 ( 12,000~ 15,000rpm、 1.5ml マ イ ク ロ チ ュ ー ブ 用 ) 3. ブ ロ ッ ク ヒ ー タ ー ( 80℃ 定 温 が 可 能 な も の 、 サ ー マ ル サ イ ク ラ ー で 代 用 可 能 、 0.5ml マ イ ク ロ チ ュ ー ブ 用 ) 4. 1.5ml マ イ ク ロ チ ュ ー ブ 、 0.5ml マ イ ク ロ チ ュ ー ブ 5. 高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ 装 置 一 式 ( 2 液 グ ラ ジ エ ン ト 可 能 な ポ ン プ 、 イ ン ジ ェ ク ク タ ー ま た は オ ー ト サ ン プ ラ 、 UV 検 出 器 ま た は PDA 検 出 器 、 カ ラ ム オ ー ブ ン 6. ODS カ ラ ム ( Imtakt Unison UK-C18: 3μ m・ 150x3mm、 イ ン タ ク ト ) [試 薬 ] 1. ア セ ト ニ ト リ ル (HPLC 用 ) 2. 蒸 留 水 (HPLC 用 ま た は 超 純 水 ) 3. エ タ ノ ー ル (HPLC 用 ま た は 特 級 ) 4. 酢 酸 (HPLC 用 ま た は 特 級 ) 5. 塩 酸 ( 特 級 ) 6. 流 動 パ ラ フ ィ ン ( 特 級 ) 7. ソ ヤ サ ポ ゲ ノ ー ル A 、 ソ ヤ サ ポ ゲ ノ ー ル B 標 準 品 ( 小 城 製 薬 ) 標 準 品 約 10mg を 精 秤 し 、エ タ ノ ー ル に 溶 解 し て 標 準 原 液 と し 、使 用 時 に 最 終 濃 度 が 10mg/l と な る よ う に 70%エ タ ノ ー ル( 含 0.1%酢 酸 )で 希 釈 す る 。標 準 原 液 は -20℃ 以 下 で 冷 凍 保 存 す る 。 3.2 分析用試料の抽出方法 試 料 の 抽 出 法 は 多 検 体 が 取 り 扱 え る よ う に 、 Tsukamoto et al .(1995) 1 ) の 抽 出 法 をスケールダウンしたものに改変した。 1. 大 豆 粉 体 試 料 約 60mg を 精 秤 し 、 1.5ml マ イ ク ロ チ ュ ー ブ に 入 れ る 。 2. 70%エ タ ノ ー ル ( 含 0.1%酢 酸 ) を 0.6ml 加 え 、 ボ ル テ ッ ク ス で 撹 拌 後 、 遠 心 機 で 壁 面 の 水 滴 等 を 落 と し 、 25℃ で 48 時 間 静 置 す る 。 3. 抽 出 終 了 後 は 、 分 析 時 ま で - 20℃ で 保 存 す る 。 3.3 分析用試料の加水分解 1. 「 3 . 2 」 の 抽 出 液 を 12,000~ 15,000rpm で 10 分 間 遠 心 後 、 上 澄 み ( 必 要 に 応 じ て フ ィ ル タ ー 濾 過 ) 100μ l を 0.5ml マ イ ク ロ チ ュ ー ブ に 分 注 し 、 塩 酸 10μ l 加えてボルテックス。 2. 流 動 パ ラ フ ィ ン を 重 層 す る [ 蒸 発 防 止 の た め ] 。 3. ブ ロ ッ ク ヒ ー タ ー で 80℃ 、 6 時 間 加 熱 。 3 マニュアル参考様式 Ver.1 4. 放 冷 後 、 HPLC 分 析 サ ン プ ル と し て 使 用 す る 。 3 . 4 HPLC に よ る 分 析 方 法 使 用 し た HPLC 装 置 構 成 は 、ポ ン プ:日 立 L-2130 形( 低 圧 グ ラ ジ エ ン ト ユ ニ ッ ト 、 デ ガ ッ サ 装 着 )、オ ー ト サ ン プ ラ : 日 立 L-2200 形 、カ ラ ム オ ー ブ ン : L-2300 形 、UV 検 出 器 : 日 立 L-2400 形 、 デ ー タ 収 集 ・ 解 析 : EZChrom Elite for Hitachi、 で あ る 。 (1)移動相の調製 移 動 相 A 及 び 移 動 相 B を ア セ ト ニ ト リ ル (HPLC 用 )、 蒸 留 水 ( HPLC 用 ) ま た は 超 純 水 、 酢 酸 ( HPLC 用 が 望 ま し い が 特 級 で も 可 ) を 用 い て 以 下 の よ う に 調 製 す る 。 【 A 液 】 水 : 酢 酸 (100: 0.1、 v/v) 【 B 液 】 ア セ ト ニ ト リ ル : 酢 酸 (100: 0.1、 v/v) (2)分析条件 ① 検出器、恒温槽、溶媒の流量の条件 検 出 波 長 : 210nm カ ラ ム 温 度 : 40℃ 流 量 : 毎 分 0.44ml 注 入 量 : 5μ l ② 移 動 相 溶 媒 の 混 合 比 (グ ラ ジ エ ン ト )は 以 下 の よ う に 調 整 す る 。 1) 初 期 状 態 : ア セ ト ニ ト リ ル 濃 度 65%の 状 態 で 保 持 す る 。 2) 0 分 か ら 12.5 分 間 : ア セ ト ニ ト リ ル 濃 度 65→ 75%に な る よ う に 直 線 濃 度 グ ラジエントを行う。 3) 12.5 分 か ら 13 分 間 : ア セ ト ニ ト リ ル 濃 度 75%の 状 態 を 保 持 す る 。 4) 13.1 分 か ら 15.5 分 間 : ア セ ト ニ ト リ ル 濃 度 100%の 状 態 を 保 持 す る 。 5) 15.6 分 か ら 24 分 間 : ア セ ト ニ ト リ ル 濃 度 65%の 状 態 を 保 持 す る 。 (3)定性及び定量 ① 分離された物質の定性は標準試料の保持時間との比較により行う。 ② 定量は検量線法により行う。検量線は標準試料の濃度と検出出力結果との関係 を回帰分析して作成する。検出出力結果にはピーク面積を用いる。 4.分析例 3.4で述べた条件で分析したソヤサポゲノールA及びBのクロマトグラムを以下 に示す。 4 マニュアル参考様式 Ver.1 0 0 1 100 0 8 80 1 0 6 60 2 U A m 0 4 U A m 40 0 2 20 0 0 5 . 2 2 0 . 0 2 5 . 7 1 0 . 5 1 5 . 2 1n i m 0 . 0 1 5 . 7 0 . 5 5 . 2 0 . 0 図4.1 サポニン標準品のクロマトグラム 1:ソ ヤ サ ポ ゲ ノ ー ル A 、 2:ソ ヤ サ ポ ゲ ノ ー ル B 0 4 1 2 140 0 2 1 120 0 0 1 1 100 0 8 80 U A m 0 6 U A m 60 0 4 40 0 2 20 0 0 5 . 2 2 0 . 0 2 5 . 7 1 0 . 5 1 5 . 2 1n i m 0 . 0 1 5 . 7 0 . 5 5 . 2 0 . 0 図4.2 大豆種子(全粒)のクロマトグラム 1:ソ ヤ サ ポ ゲ ノ ー ル A 、 2:ソ ヤ サ ポ ゲ ノ ー ル B 5 マニュアル参考様式 Ver.1 5.食品の分析結果例 生大豆(大豆種子)及び大豆加工品に含まれるソヤサポゲノールA及びBの分析結 果 を 以 下 に 示 す 。 な お 、 豆 腐 、 味 噌 、 煮 豆 か ら の サ ポ ニ ン 抽 出 は 、 約 1g の サ ン プ ル に 5ml の 70%エ タ ノ ー ル ( 含 0.1%酢 酸 ) を 加 え て 、 ホ モ ジ ナ イ ズ 後 、 室 温 で 24 時 間 振 と うして行った。その後の操作は「3.3」に従った。 表5.1 大豆加工食品中のソヤサポゲノールA及びB含量 含有量(μg/gFW) ソヤサポゲノールA ソヤサポゲノールB 生大豆 フクユタカ 499 899 サチユタカ 870 1071 タマホマレ 983 1667 豆腐 60 104 味噌 61 163 煮豆 62 181 (*注意)本測定結果は一例であり、大豆及び大豆加工品一 般の分析結果ではない。 6.分析上の留意、注意点 HPLC 注 入 サ ン プ ル に 流 動 パ ラ フ ィ ン が 入 ら な い よ う に 注 意 す る 。 7.その他 特になし。 8.定量法に関する引用・参考文献 1) Tsukamoto, C. et al., J. Agric. Food Chem. 43, 1184-1192 (1995) -以上- 6