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第10回レスキューロボットコンテストにおける 計算機システムの概要
第 10 回レスキューロボットコンテストにおける 計算機システムの概要 ° 小枝 正直(大阪電気通信大学),小島 篤博(大阪府立大学), 山内 仁(岡山県立大学),桝永 沙織(全日本空輸株式会社), レスキューロボットコンテスト実行委員会 Summary of Computer System for 10th Rescue Robot Contest ° Masanao KOEDA, Atsuhiro KOJIMA, Hitoshi YAMAUCHI, Saori MASUNAGA and Executive Committee of Rescue Robot Contest Abstract— レスキューロボットコンテストでは,遠隔操縦型ロボットを用いて被災地を模したフィー ルドに配置された被災者ダミーの救助能力が評価される.筆者らが構築している計算機システムは, データベースを基幹とした構成となっており,逐次入力された競技状況と被災者ダミーから送信された データに基づく救助能力の定量的評価と,観客らへの情報提示が主な役割である.第 10 回レスキュー ロボットコンテストでは,被災者ダミーの識別という評価項目が強化され,これに伴い,競技チーム による識別結果入力システム等の新規構築および改変が必要となった.本報告では,本コンテストに おける本計算機システムの概要と新規に追加した機能等について述べる. はじめに 1. 近年,ロボット技術への関心が高まり,様々な ミッションを設定したロボットコンテストが数多 く開催されている [1, 2, 3].筆者らが運営するレ スキューロボットコンテスト(以下レスコン)[4] は,大規模都市災害における救助活動を想定した もので,遠隔操縦型ロボットにより被災者を模し たダミー (以下,ダミヤン [5]) をやさしく,かつ迅 速に救助することが重要な評価項目となっている. 本コンテストでは競技運営のために,独自開発 した Web アプリケーション型システム [6] を運用 している.これはリレーショナルデータベース(以 下 DB)を核として, • • • • • • 競技状況の入力及び管理 ダミヤンから得られるデータの蓄積 得点の計算 観客への競技状況提示 ダミヤン情報の入力 識別情報の入力 等の処理を行う複数のモジュール群から構成され ており,これまでに DB の性能評価やシステム全 体の負荷調査等を行ってきた [7, 8]. 第 9 回より新たな評価項目 (識別) が追加され, 紙によるデータ収集をしていた.この評価項目は, 各ダミヤンに持たせた 5 つの識別因子(眼の色,声 の周波数,体重,胴部に貼り付けられた 3x3 マス の白黒マーカパターン,眼の点滅パターン)をそれ ぞれ正しく識別することにより得点が与えられる ものである.第 10 回からは,計算機を用いてチー Master Server HTTP Web Server Entry x2 Web Browser PHP Receiver RDBMS ODBC Ident Java Damiyan Mouse Visual Basic JDBC Score Bluetooth Visual Basic UDP Display x2 Team Member in Control Room VGA Visual Basic Projector x2 Fig.1 System Overview ムメンバが識別情報入力することになり,計算機 システムの大幅な改変が必要となった.本稿では, この変更点について述べるとともに,第 10 回レス コンにおける識別情報入力の傾向を分析する. 2. 計算機システム概要と第 10 回レスコン での変更点 本計算機システムは,Master Server, Receiver, Entry, Display, Ident, Score で構成され,Fig.1 の ように接続されている.それぞれの機能の概要を 以下に示す. Master Server(基幹システム)最 新 の 競 技 状 況,ダミヤンのセンサ値等を蓄積するための DB,後述する Entry に必要な Web サーバ と PHP 等が動作している.OS には Ubuntu 8.04 LTS Server amd64(kernel 2.6.24-19server SMP),DB には postgresql(8.4.4-1), Web サーバには apache(2.2.8-1),その他関連 するアプリケーションとして,php(5.2.4-2), sun-java-jdk(6.07-3) を用いた.識別情報入力 に対応するために,スキーマや関数の変更お よび新規作成を行った (Table.1, Fig.2). Receiver(ダミヤンデータ受信システム)ダ ミ ヤンからのセンサ値を Bluetooth により無線 で受信し,Master Server の DB に逐次記録 する.第 10 回では各競技で用いられたダミ ヤン数は 6 体で,データ送信周期は,それぞ れが 10[Hz] と設定した.本サブシステムは, Visual Basic により実装されている. Entry(情報入力インタフェース)競技中に発生 するイベントの入力やダミヤンのセンサ補正 情報を入力するインタフェースを提供する. PHP, JavaScript により実装されている.ダ ミヤン情報の入力インタフェースに識別正答 値を入力するための変更を加えた (Fig.3).さ らに,識別の正答値/入力値/正解不正解を可 視化するインタフェース (Fig.4) を新規に作 成した. Display(競技情報表示システム)競技会場内に 設置された大型ディスプレイ等に競技情報を 表示する (Fig.5).VisualBasic により実装さ れている.各識別項目の正答値/入力値/正解 不正解を観客に提示するために,Fig.6 に示す アイコンを表示するように変更した. Ident(識別情報入力システム)競技チームが識 別情報を入力するためのシステムで,各チー ムのコントロールルーム内に設置されている. VisualBasic により実装されている.本システ ムは,新規に作成され,(Fig.7) 競技中の緊張 状態における誤入力を低減するために,マウ スオペレーションのみで入力可能とした.ま た,万一の事態を考え,ローカルな記憶領域 にもテキスト形式でデータを保存する機能を 持たせた. Score(競技進行管理システム)競技進行を管理 し,その情報を Display へ送信する.Java に より実装されており,DB との連携には JDBC を用いている.Master Server 上で動作して いる. 3. 識別情報入力の総括 第 10 回レスコンの全ミッションにおける識別情 報入力において,各識別因子の回答率及び正答率 の違いを調査し,その結果を Table 2 にまとめた. Fig.2 Relationships of Schemata (* means new added or renewed schema) Fig.3 Screen shot of dummy parameter input in Entry module Fig.4 New Entry page for ident result この結果より,マーカの回答率,正答率は総じて 高く,周波数の回答率,正答率は総じて低いこと が見て取れる.また眼の色は回答率は高いが,正 答率が低いという傾向も見られる.小型ロボット に搭載できるカメラの性能では,色判別は困難で あること分かる. 4. 識別入力タイミングの分析 Fig. 8 は,各ダミヤンにおける救出完了時刻と 識別情報入力時刻の差と,識別情報入力時刻と搬 送完了時刻の差を各ミッションごとに分けて示し たものである.救出完了時刻と識別情報入力時刻 の差が負値のものは,救出完了より先に識別入力 を完了していたことを意味する.また,ここに掲 載したデータは,全ミッションで使われたダミヤン Table 1 第 10 回レスコンにおけるスキーマと各サブシステムの入出力関係 (+は書込み,-は読込みを示す) Schema team tbl comp tbl field tbl dummy tbl ident tbl current field status current dummy status current robot status dummy data corrected dummy data DB Entry + + + + + Receiver + + + - Score Ident + - (a) No input (b) Correct (c) Wrong Fig.6 Status indicators of ident responses (From left, eye, voice, weight, marker and blink) Fig.5 Screen shot of Display module (13 競技*6 体=78 体) のうち,搬送完了され,かつ 識別情報が入力されたもの (ファーストミッション 20 体,セカンドミッション 7 体,ファイナルミッ ション 11 体=38 体) のみである. これらのデータより,識別情報入力から搬送完 了までの時間間隔が,極端に短いもの(5 秒以下) が幾つか見られた.搬送完了直前にロボットがベー スゲート付近で立ち止まる状況が散見された.識 別情報は搬送完了前に入力を終えなければ加点さ れない,という規定がある.そのため搬送完了前 に識別情報入力を行っていたのであろうと思われ たが,このデータはそれを裏付けるものである.実 Fig.7 Screen shot of Ident module 際の救助活動に即して考えた場合,このような活 動は好ましいとは言えず,今後,運用上の対策を 検討すべきであろう. 5. おわりに 本稿ではレスコン第 10 回競技会において運用し た計算機システムの概要と,第 10 回で新たに追加 された識別機能について述べた.また識別入力結 Table 2 各ミッションにおける識別情報入力 350 (a) ファーストミッション(識別入力数 25) 眼の色 周波数 体重 マーカ 点滅 回答数 21 17 18 25 19 正答数 12 3 8 25 4 84 57 68 18 72 44 100 100 (b) セカンドミッション(識別入力数 14) 眼の色 周波数 体重 マーカ 回答数 13 8 9 12 正答数 6 1 0 11 回答率 [%] 正答率 [%] 93 46 57 13 64 0 86 92 76 21 点滅 11 3 250 200 150 time[sec] 回答率 [%] 正答率 [%] transport time - ident time ident time - rescue time 300 100 50 0 -50 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 dummy -100 79 27 -150 -200 (c) ファイナルミッション(識別入力数 16) 眼の色 周波数 体重 マーカ 点滅 回答数 11 6 9 15 9 正答数 4 1 4 13 3 (a) First mission 350 transport time - ident time ident time - rescue time 300 回答率 [%] 正答率 [%] 69 38 56 94 56 36 17 44 87 33 (注:回答率 = 回答数 / 識別入力数, 正答率 = 正答数 / 回答数) 250 200 謝辞 株式会社富士通岡山システムエンジニアリング 様には毎年,多数の機材を無償レンタル頂いてお ります.ここに心より感謝の意を表します. 参考文献 [1] ロボカップ: http://www.robocup.or.jp/ [2] NHK ロボコン: http://www.nhk.or.jp/robocon/ [3] ET ロボコン: http://www.etrobo.jp/ [4] レスキューロボットコンテスト: http://rescue-robot-contest.org [5] 沖,升谷他:“レスキューロボットコンテストにおける 新レスキューダミーの提案” ,第 7 回計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会(SI2006)講演 論文集, 1G3-5, pp.294-295, 2006. time[sec] 150 100 50 0 1 -50 2 3 4 -100 5 6 7 dummy -150 -200 (b) Second mission 350 transpose time - ident time ident time - rescue itme 300 250 200 150 time[sec] 果についてまとめ,識別因子による回答率,正答 率の違いと入力タイミングを調査した.第 10 回で は,全ミッションにおいて計算機システムに関す る大きな問題は発生せず,滞りないデータ収集と 得点計算,画面表示が提供できた.新しいシステ ムを構築・導入してから今年で 3 年目になり,こ れまでの細かな調整により,安定性は年々向上し ていると感じる. 識別情報の入力は,チーム側から直接データベー スへのアクセスを許可するものであり,これまで にない大きな変更であった.特に,使いやすいイ ンタフェースの設計や,意図しない書込みへの処 理などに注意を払って構築した. 今回の計算機システムは,識別情報入力用の計 算機や主審用モニタの追加等により,前回よりも システムが肥大化してしまった.今後は計算機の 集約を行い,システムのスリム化を目指したい. 100 50 0 -50 -100 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 dummy -150 -200 (c) Final mission Fig.8 Time of ident input [6] 小島,小枝,山内:“レスキューロボットコンテストのた めの競技運営支援システムの開発と評価”,電子情報通 信学会論文誌,Vol.J93-D, No.10, pp.2317-2325, 2010. [7] 小枝,小島,山内他:“第 8 回レスキューロボットコン テストにおける計算機システムの性能評価”,第 9 回計 測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会 (SI2008)講演論文集, 3A3-4, pp.935-936, 2008. [8] 小枝,小島,山内他:“第 9 回レスキューロボットコン テストにおける計算機システムの性能評価”,第 10 回計 測自動制御学会 (SICE) システムインテグレーション部 門講演会 (SI2009), 3M3-6, pp.1999-2002, 2009.