...

2. 生命の大切さを知るためにⅡ—生命倫理

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

2. 生命の大切さを知るためにⅡ—生命倫理
2. 生命の大切さを知るためにⅡ—生命倫理
1) シラバス
2 年 薬学科必修
生命の大切さを知るためにⅡ
医学・薬学研究、薬剤師が関わる倫理
薬科学科自由選択
1 単位
春学期
先端医療に関わる倫理
<授業の一般目標>
・
臨床における基本的な倫理原則(医療倫理の 4 原則)を理解し、日常の薬剤師業務との関係で解釈
できる知識・技能・態度を習得する。
・
インフォームド・コンセントの法理、守秘義務、個人情報保護といった基本的な義務についての知識・
技能・態度を習得する。
・
生殖医療、臓器移植、高齢者医療について考え、生命倫理の基本的な知識・技能・態度について習
得する。
<学生へのメッセージ>
本科目「生命の大切さを知るために 2」は薬学教育モデル・コアカリキュラムの「生命の尊厳」、「医療の
目的」、「医療の担い手としての心構え」の領域に当たる内容について学習します。1 年次に学んだ倫理的
基盤を基に薬学に向けられている社会や患者のニーズを的確に捉えて、将来の医療の担い手として社会
に貢献出来るようになるために必要な知識や心構えを身につけ、生涯に渡って、自ら研鑽する使命がある
ことを学びます。
<教科書>
「ヒューマニズム・薬学入門」日本薬学会編 東京化学同人
<成績評価方法>
グループワークおよび発表、レポート、出席などを総合して評価します。
春学期授業計画・内容
回 月日 曜日
担当教員
1 4/11 金 奈良雅俊
項目
導入
2
4/18
金
奈良雅俊
インフォームド・コンセント
3
4/25
金
奈良雅俊
医療従事者・患者関係
4
5/9
金
奈良雅俊
守秘義務
5
5/16
金
奈良雅俊、小林他
チューター教員
6
5/23
金
奈良雅俊、小林他
チューター教員
守秘義務(HIV パートナー
への通知)についてグルー
プワーク
グループ別発表と総括
- 148 -
到 達 目 標
医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状
況
インフォームド・コンセントを理解し、パター
ナリズム、自己決定、判断能力、知る権利等
の言葉について概説できる。
医師・患者関係モデルを理解し、コンプライ
アンス等の言葉について概説できる。
守秘義務を理解し、プライバシー等の言葉
について概説できる。
グループ内コミュニケーションを円滑に行う。
対立意見を尊重し、協力してよりよい解決方
法を見出すことができる。
効果的なプレゼンテーションを行う工夫をす
る。グループディスカッションで得られた意見
をまとめ、分かりやすく他者へ伝えることがで
きる。無危害、自立尊重について理解し、概
説できる。
7
5/30
金
奈良雅俊
生殖医療(出生前診断、選
択的中絶)
生命の神聖さ、人格論、障害等について理
解し、その言葉について概説できる
8
6/6
金
奈良雅俊
脳死と臓器移植
医療資源の配分、正義、人体の尊厳等につ
いて理解し、その言葉について概説できる
9
6/13
金
奈良雅俊
治療の不開始・中止
10
6/20
金
奈良雅俊、小林他
チューター教員
11
6/27
金
奈良雅俊、小林他
チューター教員
宗教上の未成年者の輸血
拒否についてグループワー
ク
グループ別発表
12
7/4
金
奈良雅俊
医療従事者の法的責任について理解し、患
者と家族の意向が対立する場合の医療の進
め方について考え、説明できる。
グループ内コミュニケーションを円滑に行う。
対立意見を尊重し、協力してよりよい解決方
法を見出すことができる。
効果的なプレゼンテーションを行う工夫をす
る。グループディスカッションで得られた意見
をまとめ、分かりやすく他者へ伝えることがで
きる。未成年者の自己決定、最善利益、パタ
ーナリズム等について考え、概説できる。
患者の権利、医療倫理の 4 原則について理
解し、概説できる
全体のまとめ
2) 講義概要
講義について
1. 講義は 8 回
2. 各回の講義は、最初に VTR やペーパーによる事例の提示を行う。次に、事例の状況や問題
点の整理を行う。最後に、生命倫理学や医療倫理学の原理を解説する。
3. 全体の構成としては、最初に、総論として医療倫理の基礎(インフォームド・コンセント、医師・
患者関係、守秘義務)を学び、学習の確認としてグループワーク GW(1)(2)を行う。次に、各
論として生殖医療、臓器移植、治療中止について学ぶ。1 回~9 回までに学んだ知識や考え
方がどこまで理解されているかを確認するために、GW(3)(4)を行う。最後に、患者の権利や
医療倫理の 4 原則について解説する。
グループワーク(GW)について
1. GW は 2 セット
2. GW は 2 回をもって 1 セットとする。最初の回では、まず VTR やペーパーによる事例の提示
と問いの提示を行う。次に、各グループで話し合いをさせ解答を準備させる(2 問とも解答を
準備させる)。
3. 次の回は、発表会と総括を行う。半数のグループに Q.1 を、残りの半数に Q.2 を解答させる。
最後に、講師が総括を行う。
3) グループワークのテーマと成果
GW(1)(2):パートナーへの通知
HIV 感染が判明した男性 A さんは、パートナーへ通知することを断固として拒み続けている。
考えるためのキーワード:自律尊重、善行、無危害、守秘義務、プライバシー、警報義務、
タラソフ事件、ロウの5要件
- 149 -
Q1.Aさんの妻に知らせることのメリットは何でしょうか?
・感染者の増加防止
・家族ぐるみでの治療の手伝い
・妻が HIV に感染しているかもしれない⇒検査を受けさせることができる。
・性教育
・感染の危険性をより減らせる
・感染していた場合、早期治療につながる(検査を含む)
・妻が病気のことを知ったり、理解した上で夫と接することが出来る
・夫婦間に秘密を作らせない
妻が HIV 抗体検査を受けられる。
→ もし、陽性だったら
きちんと治療できる
これ以上感染を防げる
→ もし、陰性だったら
自分に感染しないように予防できる
◎ 妻が A さんの治療に協力できる
◎ 人に話すことで、A さんの気持ちが楽になる
◎
○妻も感染している可能性があるため、その検査や処置が必要
○家族間の信頼関係を築くためにもウソをついてはいけない
○感染拡大を防ぐ(夫一人が気をつけるより、家族で気をつける方が感染のリスクを減らせる)
○Aさんの治療に家族の協力が必要になるため(HIV感染の進行がかなり進んでいると考えられる)
Q2.B医師はどのような対応をとるべきでしょうか?
A さんの説得←妻に検査を受けさせる。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
A さんは説得に応じないから妻に直接言って検査を受けさせる!! →警報義務
まず A さんを説得する
応じる場合・・・妻には話すが、子供には伝わらないようにする
妻も検査する
応じない場合・・妻が感染する危険もある
病気がする危険もある
→ ロウの5要件を満たせば、話す
(法的な機関に聞く)
・
・
・
・
守秘義務解除の条件(ロウの 5 条件)を満たす
HIV 感染の事実だけを妻に言う(そのためには上記条件の第 5 番目を解消!!)
A さん自身に、妻に白状させる(ただし、息子は受験期!時期を考える)
HIV への偏見や引け目をなくす精神的フォローして告白の環境を準備
- 150 -
B医師は最終的には妻に知らせたい。そのためにも患者(Aさん)の同意を得てから知らせるのが最善
である。そこで、
■まずは夫を説得すべき。
○A さんは今後の家族への感染に十分注意すると言っているが、むしろ重要なのは、 現在妻
が感染しているかどうかである。A さんはすでに自覚症状が出ている段階で、最悪の場合妻
も早期に治療が必要かもしれない。
○また A さんは離婚による子供への影響を懸念しているが、ウソがばれれば、
子供(家
族)に大きなショックを与える可能性もある。
■それでも A さんが知らせることに拒否したら、妻に知らせるべきである。
○妻は、感染の可能性を考えて一刻も早く検査を受ける必要がある。
このため、ロウの 5 要件を満たしていると思われ、A さんに対する守秘義務より、 妻への警報
義務が優先されると思われる。
・ B 医師は感染経路を伏せて A さんが、感染していることを妻に告げて検査をすすめるべきである。
・ 妻が HIV に感染していない可能性があるため感染を防ぐ努力をすべきだ。
・ A さんのプライバシーを最大限に守るために HIV 感染経路を伏せて妻への告知をすべきであ
る。
・ 妻に告知をする際には治療に必要な事実のみを伝える。
・ 妻に HIV の包括的な正しい知識を与える。
・ 妻の精神的ケアをきちんと行う。
GW(3)(4):花のプレゼント(「生命倫理を考える:終わりのない 8 編の物語」(丸善、1995)より)
エホバの証人を信仰する未成年の女性。白血病に冒されているが、輸血を拒否している。
考えるためのキーワード:自律尊重原則、善行原則、判断能力、未成年者、信仰の自由
考えるための問い: それが死をもたらすものだとしても、治療を拒否する権利が患者に
はあるのか? 人が自分のことについて決めることができるのは何歳からか?
Q1 主治医はキャロラインの意見を尊重すべきでしょうか?
尊重すべきである・・・6人
<その理由>
 宗教は自由
 無理やり輸血しても精神的な苦しみを与えてしまうことになる
 尊重するべきではあるが、信仰が人生の全てではないことを伝えるべき
 信仰は簡単にはくつがえせない
 なぜ医師はそこまで延命したがるのかもわからない部分がある
 宗教で戦争が勃発するぐらいであり、宗教というものを甘くみてはいけない
尊重すべき。無理やり輸血しても拒絶するだろうし、苦しみを与えることになる。
キャロラインは未成年であるし、親も交えてよく話し合い、信仰が人生の全てでないことをきちんと伝える
べき。むしろ本人も親も輸血を断った場合は、無理してそこまでして延命する必要はあるのか?
- 151 -
〈尊重すべきである〉…3人
・説得できない。…だからこそ(無理に輸血をするという)法律があるのでは?
・長生きだけが全てではない。 cf.脳死
・親も信仰しているので考えが変えづらい。
・自分の意志は人生の全て。
・この状況では自分が培ってきたものだけで考えてしまうのでは?
〈尊重しなくてもよい〉…4人
・医者として命を救うのが先決。
・5,6年長生きする中で、(まだ未成年だから)考え方が変わるかもしれない。
・輸血をしたことによる精神的苦痛から自殺もありえるのでは!?
→どうせ死を選んでしまうならとりあえず輸血しておいても…
→輸血してみて…魂変わらないでしょ?
・考え方さえ変われば、輸血をするという選択が一番良い。
→冷静になればそう考えられるかもしれないが、余命が少ない状況で考え方を変えることはできるの
か?
・医師は「こういう風に考えてみては?」など彼女を誘導。
①尊重すべきである 3人 ②尊重しなくてもよい 4人
【理由】
①・個人個人の生き方があるので、自分の考えだけを押し付けられないから。(自己決定)
・宗教に背いて生きる辛さ。(キャロラインの言葉より)
両親もエホバの証人を信仰しているので、今後の家族関係がギクシャクしてしまう。
・患者の命を守ることが医師の義務であるが、患者の意見を尊重せずに一方的に輸血してしまうこと
が本当の医療行為ではないと思う。
・元々の運命を受け入れる死も有りなのでは?
②・医師が延命治療を諦めてはいけないと思うから。
・キャロラインは、もっと生きたいと思っている又は迷っているかもしれないから。
(本当に輸血をしたくないなら医師を変えるのでは?)
・親も生きてほしいと思っているはず。
・裁判所の命令に従わない→刑事的責任問題の可能性。
・「死」を望む患者を救わなくて良くなってしまう。
⇔医師が助けることが出来る命を諦めることは許されないのではないか。
Q2. この物語の結末を教えてください。
キャロラインは結局、輸血はしたくないと主張しつづけた。カークランド医師は裁判所の命令を得て、
キャロラインに輸血をすることにした。輸血に至るまでの間も、輸血をした後も、カークランド医師はキャロ
ラインと話を続け、花をプレゼントしていた。キャロラインは輸血によって大きくショックを受けていたが、
自らの信じる教義に反したから命を断つという事はしなかった。
やがてキャロラインは回復し、退院していく。彼女はカークランド医師の努力によって、これからも生きて
いきたいと気持ちを持つことができた。
- 152 -
・ 医師がキャロラインの意思を尊重して輸血せずに終わる。(二人の意見)
(輸血する意見)
・ キャロラインが生き延びたことによって命に対する考え方が変わって、最終的に輸血して良かったと
思う。
・ 医師が患者の意思とは反対に輸血してしまうのではないか。(病院弁護士の電話番号を聞いていた
ことから。)
・ 輸血を行い治癒する。その過程としては
① 子供の考えを医師側に近づける(理解を得る)
手段→子供をがんばって説得(医師または親から)
② 理解を得ないまま無理やり輸血
手段→法的にむりやり または
両親を説得して親の協力を得る
・ 輸血して、結局患者の気分が悪くなる
裁判所の命令を得て強制的に輸血を行うが、カークランドに心を閉ざし、引きこもってしまう。道路に
身を投げて自殺未遂を図る。そこでカークランドが命がけで救うが、カークランドは意識不明の重体にな
ってしまう。キャロラインは自分を責め、毎日病院に通い、カークランドがくれた同じ花をプレゼントする。
突然カークランドが目を覚まし、起きると目の前に花が。そこでカークランドがキャロラインに言う。
「この花の花言葉を知ってる?」「知ってるわ。健康よ。」「実はね、もう1つあるんだ。それは『深い愛情』
だよ。」
主治医はキャロラインと両親に輸血をするように説得するが、キャロラインも両親も説得には応じず、主
治医はキャロラインの意思を尊重するしかなくて、キャロラインは1、2 週間で亡くなってしまう。
4) 学生による感想・授業評価
この授業に対する総合評価
4.3

命に対する考え方が変わった。

人の命を大切にする授業があって良かった。

宗教や人によってそれぞれの価値観がこんなにも違うのか、複雑なのか、それによってさまざまな問
題が起きてくるのかと思った。

ビデオが良かった。 2

薬剤師の立場の話が欲しかった。 3

今の自分は患者さんの立場でしか考えられないが、今回の授業は高学年になってから役に立つと
思う。

自分の倫理観が変わった。 5

医療倫理は医療者を縛り付けているが、やはり、患者の思うようにしてあげることが大切だと思う。1人
の人生なんだから。

これまで薬剤師は医療の現場では舞台に立てなかったことが分かった。これから、薬剤師はどのよう
に関わっていくのでしょうか?

奈良先生は意見を否定したりせず、耳を傾けところから始めるので、すごいと感じた。自分も「傾聴姿
勢」を身につけたい。

講義が多く、もう少し意見交換やプレゼンをやりたかった。 7

グループワークが少なく、少し物足りなかった。 8
- 153 -
3. 生命の大切さを知るためにⅢ—患者から学ぶ
1) シラバス
3 年 薬学科必修
生命の大切さを知るためにⅢ
医学・薬学研究、薬剤師が関わる倫理
先端医療に関わる倫理
薬科学科自由選択
1 単位
春学期
<授業の一般目標>
全学を通して学ぶことになっているヒューマニズムに関する内容と、C17(1)の薬害を併せた「患者から学
ぶ」を開講する。医療人 GP の中に組み込まれた内容でもあり、前半は、患者からの医療や薬剤師に対す
る意見を聞くことで、これから必要な知識や社会に出てからただして行かなくてはならない態度について考
える。また、障害者からの話からはバリヤフリーについて検討し、障害者が困っていたときにどのようにサポ
ートすべきなのかを考える。後半は、薬害の被害者から、副作用の発生時の様子などを知り、副作用発生
を避けるための薬剤師の役割を検討する。併せて企業からの意見等も交え、薬害について考える。
<学生へのメッセージ>
患者さんに薬を渡す最後の役職として薬剤師がいます。患者さんの安全を守るために、薬剤師は何を
しなくてはいけないのか、それぞれのお話の中から考えて下さい。
<教科書>
プリントを配布する。
<成績評価方法>
出席、レポート、グループワークへの参加度、試験などにより総合的に評価します。
春学期授業計画・内容
曜
担当教員
回 月日
日
1
4/9
水 ささえあい医療人
2
4/16
水
権センター
コムル 辻本好子
早瀬久美
3
5/7
水
外来講師
4
5/14
水
福島
5
5/21
水
6
5/28
水
7
6/4
水
8
6/11
水
財団法人いしず
え
増山ゆかり
SJS 患者会
湯淺和恵
HIV 患者
ネットワーク医療と
人権 花井十伍
千葉
9
6/18
水
服部
項目
到 達 目 標
患者から学ぶ
患者の医療関係者に対する声を聞き、薬
剤師としての役割を考えることができる。
障害者から学ぶ
障害者の気持ちを知り、薬剤師としての対
応を考えることができる。
リウマチの症状を知り、服薬等に必要な補
助について考えることができる。
薬害の歴史と、安全対策についての法制
度の変遷について概説することができる。
被害発生の状況及び社会的被害につい
て学び、薬害を繰り返さないための方策を
考える。
被害発生の過程及び症状を学び、副作用
の早期発見について検討する。
被害発生の状況及び社会的被害につい
て学び、薬害を繰り返さないための方策を
考える。
医薬品を製造販売するに当たって、薬害
を起こさないために、製薬企業はどのよう
な対策を取っているのかを学び、企業の
立場からの薬害防止対策を検討する。
サリドマイドなど薬害を起こした医薬品の
使用に際しての対策を学び、薬害を起こさ
患者から学ぶ
薬害とは(概論)
薬害被害者から学ぶ
サリドマイド
薬害被害者から学ぶ
スティーブン・ジョンソン症候群
薬害被害者から学ぶ
薬害エイズ
医薬品開発の立場から
使用する臨床の立場から
- 154 -
10
6/25
水
小林、福島、石
川、岸本 他
SGD
11
7/2
水
SGD
12
7/9
水
小林、福島、石
川、岸本 他
福島
ないための薬剤師の役割を検討する。
いくつかの課題についてグループディスカ
ッションをし、その成果をポスター発表す
る。
グループディスカッションのまと
め
患者、消費者の医薬品使用の安全管理に
対する薬剤師の役割を考えることができ
る。
2) 講義概要
平成 18 年より構築してきた 1 学年、2 学年と継続したヒューマニズムに関する教育に、これまで C17(1)
で行っていた薬害を組み込み、平成 20 年度の 3 年生を対象に科目名「患者から学ぶ」を開講した。低学
年での生命倫理、医療倫理に続き、薬剤師の職業倫理に繋げる教育プログラムを実施した。
本科目では、患者や、健康被害者による患者の立場からの医療に対する意見と企業、医療現場からの
意見を聴くことで、薬剤師としての行動・態度を考え、薬剤師としての倫理観を身につけることを目標とし
た。従ってこの科目は、多くの外部講師で構成される。前半は、患者や障害者などからの講話とした。後
半は、薬害の被害者からの講話を組み入れた。被害者を巡る社会的背景なども含め医薬品被害につい
て考えることと、副作用の発生時の様子などを知り、副作用発生を避けるための薬剤師の役割を検討す
る。その後で医薬品開発立場や臨床の立場からの講義を組み込み、一連の話を客観的に検討できる構
成とした。
第 1 回 辻本好子さん(ささえあい医療人権センター コムル)
がん患者でもある辻本さんが行っている活動「ささえあい医療人権センター」に集まる患者さん達の医
療に対する不満や要望などから、医療人としての自覚やコミュニケーションの重要性を学んだ。
第 2 回 聴覚障害者 早瀬久美さん (昭和大学医学部附属病院 薬剤師)
障害を持ちながら薬剤師として働いている水野久美さんの手話での講義を目の当たりにして、障害者
に対する考え方や差別についても自分たちの度量の狭さに気がついたといったレポートが多く見られた。
第 3 回 リウマチ患者と医師による講義
医学部(東京女子医大)で行われている患者を講師とする医学教育で、リウマチ患者でありながら医師
に講義ができるよう教育を受けた患者さんからの話は、説得力があり、薬学部でもこのような講義をしてほ
しいとの声が多くあった。この講義では、医師によるリウマチ発症機序などの講義と患者による症状や生
活環境などについての話を伺った。
第 4 回 学内教員による講義
薬害の歴史や日本における現状などの講義を行い、「薬害」についてのイントロダクションとした。
第 5 回 サリドマイド被害者 増山ゆかりさん
第 6 回 SJS患者会 湯浅和恵さん
- 155 -
第 7 回目 薬害エイズ
花井十伍さん
薬害の被害者からは、被害の発生の状況や、医療従事者の対応、また、家族を含めた社会的被害な
どを話して頂き、薬害を起こさないためには、何をしなくてはならないかなどを真剣に考えたことがうかがえ
るレポートが多く見られた。
第 8 回 学内教員による講義: 企業の立場(千葉康司准教授)
第 9 回 学内教員による講義: 医師の立場(服部豊教授)
客観的に薬剤師の立場を考え、薬害を起こさないために薬剤師の役割を考えられるようにした。
第 10 回 講義
川村和美氏により、医療人としての倫理について学んだ。
第 11,12 回 SGD
最後に、薬剤師の職業倫理について検討するため、薬剤師として直面するジレンマを題材に、薬剤師
の職業倫理に基づいた対応について SGD を行い、ポスターにて発表を行った。本プログラムについて、
学生による全般的な感想と、SGD 前後に実施した倫理に関する質問に対する 5 段階評価の差より評価し
た。
ポスター発表
授業全体に対する感想では、「患者さんの生の声を聞くことができてよかった」、「考えさせられた」が多
く見られ、将来薬剤師になったときにどう対処すべきか等を考える良い機会であったことがうかがえた。ま
た、SGD 前後で有意差が見られた質問の中に、「倫理観は個人の問題であるから個々の判断に任せる
べきで、教育の必要はない」があり、教育の必要性を感じるようになったことが示された。
- 156 -
Fly UP