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「男運」の構造
日心第71回大会 (2007) 「男運」の構造 村上幸史 (神戸山手大学人文学部) key words:「個別運」・マッチング仮説・偶然性 (問題)一般に占いでは、総合的な運勢を示すものに加えて「仕 事運」や「金運」など特定の事象に関連した運勢があるかのように 提示がなされている。このような運勢では「仕事運がよくても、金運 は悪い」など相互に独立したものとされており、事象に限定された 「運」を村上(2002)は「個別運」と呼んでいる。総合的な運勢と同 じように、「個別運」もまた、しろうと信念的には特定の運勢(状態) だけを指すだけでなく、個人の「運の強さ」を示すような形で特性 的に用いられている。 「個別運」の中でも恋愛に関する「運」は、女性誌の占いには必 ずといっていいほど設けられており、関心の高さが伺える。しかし ながら、これとは別に「男運」という言葉があり、近年はいわゆる「ダ メ男」を渡り歩く女性を描いたマンガ「だめんず・うぉ~か~」など に代表されるように、日常生活の中でもしばしば用いられているの ではないかと推測される。 特に恋愛に関する「運」は男女共通なのに対して、「男運」という 言葉は「女運」という言葉に比べて用いられる頻度が高く(例えば google で検索すると、検索結果の件数は「男運」が約 160000 件な のに対して、「女運」は約 45000 件と 3 倍以上も違う)、特別な意味 を持つのではないかと考えられる。 このように語られる「男運」のよしあしとは何を指しているのであろ うか。そこで本研究では、どのような状況で「男運」という言葉が用 いられるのかについて調査を行い、その構造について検討した。 (方法)回答者は大学生・看護学生の女性 40 名(平均年齢 21.5 歳)であった。「運に関するアンケート」として、1. 回答者自身が 「男運」のよしあしを感じた経験、2. 回答者が他者に感じた「男 運」のよしあしの経験、3. 回答者が「男運」のよしあしについて他 者から語られた経験について、具体的にその判断理由や背景と 共に自由記述で回答を求めた。また回答者自身の特性的な「男 運」のよしあしの程度(5 段階、高いほどよい)や、主観的な魅力の 程度(7 段階)、恋愛経験の豊富さなどについても同様に回答を 求めた。 (結果)回答された記述は、社会心理学専攻の大学院生 2 名に筆 者を加えた計 3 名によって、各項目ごとに KJ 法が行われた。 まず「男運」として連想された内容を見ると、1 例を除いて恋愛に 関するものが挙げられていた。事例の数だけを単純に比べると 「男運が悪い」という事例は「いい」という事例よりも多かった。また 回答者自身や回答者が他者に感じた経験に比べて、他者から語 られた経験は少なかった。ここでは「男運が悪い」という事例のみ 考察する。 分類結果(Table1~Table3)に示すように、回答者自身や回答者 が他者に感じた経験、他者から語られた経験の内容は一貫して おり、「男運」を語るのは付き合う前と付き合った後の内容に大きく 分類されると考えられる。 付き合った後に該当する記述内容は「相手に感じる不満」である に対して、付き合う前では「出会い自体がない」ことと「いい出会 い」との複合的なものであった。つまり相手と出会う機会が本当に ないことと、自分にふさわしい相手と出会わないことという両方の 理由が考えられる。ただし純粋に出会い自体の有無だけが理由と されていたのはごく少数であった。この理由は最後に考察する。 回答者自身のよしあしと、他者に感じたものとの違いは他者に関 する魅力の言及であった。「魅力的であるのにふさわしい彼氏が できない」というカテゴリーがそれに該当する。このことからは他者 に向けられた「男運が悪い」の意味は三通りあり、基本的には魅力 がある他者に対して、何かしらの障害が生じたり(外的要因)、他 者の相手のネガティブな特性や行動(相手の責任)だけではなく、 「他者が相手を見る眼がないのでは」という他者自身に選択の責 任を帰している面がある。 このような「男運」のよしあしの程度については、年齢との相関は 見られなかった(r=.04)。また主観的な魅力の程度とは高い負の 相関が見られた(r=.-62)。つまり、自己の魅力が低いと思う者ほど 「男運」が悪いと判断していた。程度の平均値は 2.92 であった。 (考察)以上から「男運」の判断には、二つの興味深い要因が絡ん でいると考えられる。一つは「いい人にはいい人が現れる」という 因果応報的な考え方である。「男運」に限らず「運」に関するしろう と信念の大半は、努力と結びつきが強く因果応報的である。ただ し、例えば「金運」ではお金自体のよしあしは区別されないのに対 して、「男運」で示される相手についてはそのよしあしが意識され ていることは特徴的である。 もう一つは、このよい相手には、その人に合った相手という意味 合いが含まれており、「いい人にはいい人、悪い人には悪い人が ふさわしい」という考え方は Walster らのマッチング仮説に類似して いる。このことは裏を返せば、「男運」という言葉を用いた時に、純 粋に出会いがないというよりも、むしろ自分にふさわしい相手を選 んでいる場合があることを示唆する。純粋に出会いがないのでは なく選んでいると思われたくない、あるいは相手を見る目がないと いう選択者の責任に帰される面を考えれば、「いい出会いがない」 ことは他者からあまり語られていないのかもしれない。 ただし自分の魅力と「男運」の程度との相関が高いという結果か らは、全体として自分自身の魅力の高さに釣り合った相手が現れ ない(選んでいる)ために「男運が悪い」と判断している可能性は 小さいと言える。 選択という点では、山田(1996)も未婚化・晩婚化が進む理由と して、女性が自分にふさわしい人が現れるのを待つようになったこ とを「もっといい人がいるかもしれないというシンドローム」と表現し ている。同時に出会いを「運」に頼ろうとする傾向が強くなったこと も指摘されているが、「男運」が頻繁に語られるようになった背景と しては、出会いが偶然性に左右されることよりも、むしろその偶然 性に特別な価値が付与されていることが挙げられるかもしれな い。 (MURAKAMI Koshi) N=29 Table1 自分の「男運が悪い」と感じた状況 N 機会がない 男性と知りあう機会がない 理想の機会がない 片想い (出会いはある) 好きでない人から誘われる 理想の人に巡り会えない つきあいへの不満 後から未練 代表的な記述 4 「であいが他の人よりあまりないので」 4 「好きになる人には好きになってもらえない」 4 「自分が苦手な人に限って気に入られる」 2 「いい男にめぐりあえない」 つきあいが続かない 2 「いい人がいてつき合っても、続かない」 つきあう人がダメ男 12 「実はだらしのない人ばかり、好きになってしまう」 後から未練 1 「別れた人はみんないい人生を送ってんだもんね」 N=36 Table2 他者の「男運が悪い」と感じた状況 N つきあうまでいかない つきあうまでいかない 理想の機会がない 片想い (出会いはある) 恋に恋している 好きでない人から誘われる 魅力的なのにふさわしい 彼氏ができない 恋に恋している つきあいへの不満 相手に浮気される 付き合う人がダメ男 相手に振り回される つきあいが続かない 遠距離 つきあうとすぐ別れる 代表的な記述 2 「いい年なのに結婚していない人を見るとき」 4 「恋には進展せず、友達で終わってしまう」 1 「メガネに好かれる子」 8 「私から見て顔もきれいで性格もいいのに彼氏ができない」 1 「ほれやすい。周りの男のことをすごくよく知っている」 9 「何度も浮気されているにも関わらず、謝ったら許してしまう」 4 「相手にいつも何かしらの問題がある」 「都合のいいように使われる子。どんなにいじめられても好きだ 4 からついていっちゃう」 1 「遠距離になる」 2 「付き合ってはすぐ別れの繰り返しの友達がいてて」 Table3 他者から他者自身の「男運が悪い」と言われた状況 N=16 N 代表的な記述 1 「気をもたされるのに恋人関係まで発展しない」 つきあうまでいかない つきあうまでいかない 2 「恋人になりたいほどの男がいない」 理想の機会がない いい出会いがない 1 「好きになる人ほとんどに相手やおくさんがいる」 (出会いはある) 相手がいる人を好きになる 5 「付き合うとうまくいかなくて、冷たくされたり、浮気されたり」 つきあいへの不満 相手に浮気される 5 「高収入だった職をやめたりする」 付き合う人がダメ男 1 「遠距離である」 つきあいが続かない 遠距離 1 「付き合うとすぐに別れたりすること」 つきあうとすぐ別れる