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Gn-RH 製剤を用いた経膣採卵法の検討

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Gn-RH 製剤を用いた経膣採卵法の検討
Gn-RH 製剤を用いた経膣採卵法の検討
尾形 康弘1) 日高 健雅1) 松重 忠美1) 堀内 俊孝2) (受付:平成1
8年5月3
1日)
Investigation using gonadotropin-releasing hormone on transvaginal
ultrasound-guided follicular aspiration in cattle.
YASUHIRO OGATA 1), TAKEMASA HIDAKA 1), TADAMI MATUSHIGE 1),
and TOSITAKA HORIUCHI 2)
1)Hiroshima Prefectural Livestock Technology Research Center
584, Nanatuka-cho, Shobara, Hiroshima 727-0023
2)Hiroshima Prefectural University
562, Nanatuka-cho, Shobara, Hiroshima 727-0023
SUMMARY
We examined the efficiency of Gn-RH treatment in synchronizing follicular wave emergence as a
pretreatment for transvaginal ultrasound-guided follicular aspiration, which increases the number of
follicles and the quality.
After Gn-RH is given, the number of follicles increases, and follicle size is maximal 48hrs before
ovum pick-up.
This time is the most suitable for ovum pick-up.
Gn-RH is produced from fertirellin acetate, which can increase the number of follicles.
The quality of the ovum collected by ovum pick-up is good.
In summary, the results of our study indicated that a suitable timing for Gn-RH injection as a
pretreatment is 48hrs before ovum pick-up.
要 約
今回,我々は,性腺刺激ホルモン放出ホルモンを利用して,優勢卵胞を人為的に排卵させ,卵
胞波を誘起することで,経膣採卵時の卵胞数増加と卵子の品質向上に効果があるか検討を行った.
Gn-RH製剤を投与後4
8時間目が,卵胞数が最も増加し,平均卵胞径も最も大きくなることが確
認され,この時期が経膣採卵に適している.
Gn-RH製剤のうち,酢酸フェルチレリン製剤の方が効果的に卵子数を増加させ,採取される卵
子数と品質が良好であった.
以上のことから,経膣採卵4
8時間前の Gn-RH 製剤投与が有効であることが示された.
1)広島県立畜産技術センター(〒727‐0023 広島県庄原市七塚町58
4)
2)県立広島大学 (〒7
27‐0023 広島県庄原市七塚町56
2)
− 20 −
広島県獣医学会雑誌 №2
1(2006)
時間)
,2
4,4
8及び7
2時間後の卵胞数と卵胞の長径を超音
序 文
波画像診断装置で観察した.
牛体外受精胚を作出するために,超音波画像診断装置
実験2
を用いて,生きた牛から反復して卵巣内卵子を採取する,
現在,市販されている代表的な2種類の Gn-RH 製剤,
1)
経膣採卵法
酢酸フェルチレリン製剤(商品名ボンサーク注 第一製
が利用されている.
経膣採卵時の未成熟卵子の採取個数を増加させるため,
2,3)
優勢卵胞の除去
4,5)
や低単位の卵胞刺激ホルモン
の
投与などが行われているが効果的な方法は確立されてい
薬)
200μg/頭と酢酸ブセレリン製剤(商品名 エストマー
ル注 川崎三鷹製薬)20μ g/ 頭を投与して,経膣採卵成
績に対する影響を比較した.
ない.
成 績
今回我々は,経膣採卵前に牛に性腺刺激ホルモン放出
ホルモン(Gn-RH)製剤を投与することで,新たな卵胞
実験1
波を誘起し,その後に発育する小卵胞の数を増加させ,採
Gn-RH 投与後の卵胞数の推移は,投与直後2
2.4±2.6
卵個数の増加や卵子の品質を向上させることが可能であ
個,2
4時間後2
1.4±2.2個,
4
8時間後2
5.1±2.5個及び7
2
るか実験を行った.
時間後2
4.9±1.6個であった.
材料と方法
当センター及び県立広島大学に繋養されている黒毛和
種経産牛7頭を用いて行った.
経膣採卵は,超音波画像診断装置(アロカ社 S S D 1
20
0)に経膣穿刺用コンベックス探触子(アロカ社UHT910
6-7.5)を装着し,ダブルルーメンニードル(クック
社 K-OPSD-1760)及び卵子吸引システム(クック社 KMAR-511
5)を用いて行った.
生体内卵子の回収は3%ウシ胎児血清(FCS)及び1.8
図1 Gn-RH 投与後の卵胞数の変化
ユニット/mlのヘパリンを添加した乳酸加リンゲル液を用
いた.
卵子吸引は吸引圧11
5mmHg,吸引速度0.10ml/min の
Gn-RH投与後の卵胞径の推移は,無処置のもので,投
条件で卵胞液を吸引した.
与直後3.2±2.4mm,2
4時間後4.0±2.5mm,4
8時間後
卵胞数やその大きさは,ビデオテープで録画したもの
3.8±1.6mm 及び7
2時間後3.8±2.4mm であった.Gn-
を再生してモニター上で確認した.
RH 投与区では,投与直後3.7±2.1mm,24時間後4.1±
採取した未成熟卵子は,顆粒層細胞の付着状態や卵細
2.5mm,4
8時間後4.4±1.7mm 及び72時間後3.9±1.7
胞質の形態,色調によって Grade Ⅰ∼Ⅳに区分した.
mm であった.
実験1
実験2
Gn-RH(酢酸フェルチレリン製剤200μg/ 頭)投与後の
投与したGn-RH製剤の種類が,4
8時間後の卵巣内卵胞
卵巣内の卵胞数推移について検討を行った.投与直後
(0
数に与える影響については,無処置区2
5.4±4.5個,酢酸
表1 採取卵子の品質区分
区分
GⅠ
卵子の状態
顆粒層細胞が4層以上存在
GⅡ
顆粒層細胞が1∼3層存在
GⅢ
顆粒層細胞の付着が1/3以下
GⅣ
裸化,変性,顆粒層細胞が膨化
表2 Gn-RH製剤投与後の卵胞径の推移
試験区
供試頭数
Gn-RH投与
無処置
10
10
0h
3.7±2.1
3.2±2.4
24h
4.1±2.5
4.0±2.5
48h
72h
b
3.9±1.7
a
3.8±2.4
4.4±1.7
3.8±1.6
※異符号間に有意差あり(p<0.05)
表3 投与したGn-RH製剤が経膣採卵に与える影響
試 験 区
供試頭数
卵胞数±S.E.
採卵数±S.E.
酢酸ブセレリン製剤
10
27.3±4.5
23.7±4.8
酢酸フェルチレリン製剤
10
30.5±3.8
27.8±3.7
無 処 置
10
25.4±4.5
18.6±5.4
− 21 −
広島県獣医学会雑誌 №2
1(2006)
表4 投与したGn-RH製剤が卵巣内卵子の品質に与える影響
供試頭数 採取個数
酢酸ブセレリン製剤
10
237
酢酸フェルチレリン製剤
10
278
無 処 置
10
186
GⅠ(%) GⅡ(%) GⅢ(%) GⅣ(%)
38
42
95
62
(16.0) (17.7) (40.1) (26.2)
31
65
143
39
(11.2) (23.4) (51.4) (14.0)
21
39
89
37
(11.3) (21.0) (47.8) (19.9)
48時間後には更に4∼5 mm
の卵胞が多くなり,逆に8
mm 以上の大きな卵胞が無く
なる.このことはGn-RH製剤
により,優勢卵胞が排卵もし
くは黄体化し,新しくリク
ルートされた卵胞が発育して
きた12) と考えられる.そし
ブセレリン区27.3±4.5個及び酢酸フェルチレリン区
て,72時間後には,卵胞径が2 mm と5 mm を中心に2
3
0.5±3.8個であった.
峰性に増加してくる.
経膣採卵によって採取された卵子数は,無処置区1
8.6
±5.4個,酢酸ブセレリン区23.7±4.8個及び酢酸フェル
チレリン区2
7.8±3.7個であった.
採取された卵子の品質区分は,無処理区でGⅠ1
1.3%
(21/186個)
,GⅡ2
1.0%(3
9/186個)
,GⅢ47.8%(89
/1
86個)及びGⅣは,19.9%(37/1
86個)であった.酢
酸ブセレリン区は,GⅠ1
6.0%(3
8/237個)
,GⅡ1
7.7
%(42/237個),GⅢ40.1%(95/237個)及びGⅣは,
2
6.2%(62/2
37個)であった.酢酸フェルチレリン区は,
GⅠ1
1.2%(3
1/2
78個)
,GⅡ23.4%(65/278個)
,GⅢ
5
1.4%(143/278個)及びGⅣは,1
4.0%(39/2
78個)で
あった.
図2 Gn-RH 投与後の卵胞長径の分布
考 察
これらのことから,経膣採卵を行うためには,4
8時間
経膣採卵は,供卵牛の性周期に関わらず,週1∼2回
前のGn-RH製剤の投与が卵胞数とその大きさ共に適して
6,7)
の頻度で卵胞内卵子を採取できる
.また,妊娠初期の
いると考えられる.
牛8)や繁殖障害牛9)からも卵子が採取できるなど大きな
実験1の結果をふまえ,現在市販されているGn-RH製
メリットがある技術である.
剤のうち,酢酸フェルチレリンと酢酸ブセレリンを含む
超音波画像診断装置の獣医学領域への導入によって卵
製剤のうちどちらが経膣採卵の前処置剤として適してい
巣内の卵胞の消長が解明されており,卵胞波が発情周期
るか調査した結果,卵巣内の卵胞数は,フェルチレリン
10)
中に2∼3回存在することも分かってきた
製剤が3
0.5±3.8個とブセレリン製剤よりも平均3.2個多
.
Gn-RH製剤を投与後の卵巣内卵胞数の推移は,2
4時間
く,無処置のものよりも5.1個多くなっていた.
後には,優勢卵胞が排卵されるため2
1.4±2.2個と投与前
このことは,ブセレリン製剤は半減期が長く持続的作
より1個程度減少していた.このことは,Gn-RH投与後
用と高いFSH-RH作用がある13)のに対し,半減期が短い
2
4∼3
2時間で優勢卵胞が排卵し,その後新しい卵胞波が
フェルチレリン製剤は,LHサージを誘発することに向い
11)
誘起されるという報告
ていると考えられる.
と一致している.
4
8時間後には,新しい卵胞波によって卵巣内の卵胞数
今回の目的である優勢卵胞を排卵させ,その後の小卵
が2
5.1±2.5個と増加していたが,7
2時間後には,優勢卵
胞をリクルートするには,徐放性の製剤より,一過性の
胞が選択されはじめるために減少していた.
フェルチレリン製剤が優れていると考えられる.
卵胞の長径は,4
8時間後に4.4±1.6mmで最大となり,
Gn-RH投与の効果により卵巣内小卵胞が増加し,実際
無処置区より有意に大きくなっていた.今回利用した超
の経膣採卵でも,フェルチレリン製剤の採卵数が平均
音波診断装置は2 mm 程度の卵胞からモニター上で確認
27.8±3.7個と,ブセレリン製剤よりも4.1個,無処置の
できるが,実際の経膣採卵を行う場合には4∼5 mm の
時より,9.2個多く,Gn-RH投与により,卵巣内の小卵胞
卵胞径があると吸引作業が効率的に行うことができる.
が増加し,それにより,採卵される卵子数も増加するこ
卵胞長径の推移も,Gn-RH製剤処置前では,2∼3mm
とが確認された.
の卵胞が多くみられると同時に8 mm 以上の卵胞も数個
採取された未成熟卵子は,体外受精等に利用できる.G
存在している.Gn-RH製剤処置2
4時間後には,3∼4mm
Ⅰ∼GⅢがフェルチレリン製剤で8
6.0%と最も高く,ブ
の卵胞が多くなってくる.これは,優勢卵胞が排卵され
セレリン区はGⅠの比率が16.0%と最も高くなったが,
ることで,新しい卵胞波が動き出していると考えられる.
逆にGⅣの比率も2
6.2%と高くなり,バラツキが大きく
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広島県獣医学会雑誌 №2
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in-vitro embryo production in cattle pre-treated with
FSH, progestogen and estradiol, Theriogenology, 45,
355 (1995)
5)Goto. K. et al. : Evalution of once-versus twice-weekly
transvaginal ultrasound-guided follicular oocyte aspiration with or without FSH stimulation from the same
cows, J Reprd Dev., 41, 303-309 (1995)
6)Gibbons. J. R. et al. Effects of once-versus twiceweekly transvaginal follicular aspiration on bovine
oocyte
recovery
and
embryo
development,
Theriogenology, 42, 405-419 (1994)
写真1 経膣採卵で採取された牛未成熟卵子
7)谷本保幸ら:超音波ガイドによるウシ卵子の経膣採
卵と成績 , 家畜繁殖技術会誌,15,181−1
85(1994)
8)Meintjes, M. et al. : Transvaginal aspiration of bovine
なった.
以上のことを総合すると,フェルチレリン製剤による,
oocytes from hormone-terated pregnant beef cattle for
前処置のほうが回収される卵子数を増加させ,品質向上
IVF, Theriogenology, 39, 226 (1993)
9)坂口慎一ら:超音波診断装置を利用した繁殖不適和
にも効果があることが分かった.
同じGn-RH製剤でも酢酸ブセレリン製剤は,卵子数は
牛からの連続経膣採卵,日本胚移植学雑誌,
9
4−1
0
1,
増加させるが卵子の品質は,良好なものとそうでないも
17(1995)
10)Ginther, O. J. et al, : Temporal associations among
のに分かれてしまう可能性があることが示唆された.
ovarian events in cattle during oestrus cycles with two
文 献
and three follicular waves, J. Reprod. Fert, 87, 223-230
1)Pieterse, M.C. et al. : Transvaginal ultrasound guided
follicular aspiration of bovine oocytes, Theriogenology,
(1989)
1
1)Pursley. J. et al. : Synchronization of ovulstion in dairy
cows using PGF2 α and GnRH, Theriogenology, 44,
35, 19-24 (1991)
2)Simon, L. et al. : Repeated bovine oocyte collection
by means of a permanently rinsed ultrasound guided
915-923 (1995)
12)Stubbings, R, B. and Walton, J. S. : Effect of ultrasonically-guided follicle aspiration on estrous cycle
aspiration unit, Theriogenology, 39, 312 (1993)
3)Chaubal. S. A., : Comparsion of different transvaginal
and
and embryo production over a 10-week period in
follicular
dynamics
in
holstein
cows,
Theriogenology, 43, 705-712 (1995)
ovum pick-up protocols to optimise oocyte retrieval
13)Chenault, J. R, et al. : LH and FSH response of Holstein heifers to fertirelin acetate, gonadorelin and
cows, Thriogenology, 65, 1631-1648 (2006)
4)Goodhand, K. L. et al. : In-vivo oocyte recovery and
− 23 −
buserelin, Theriogenology, 34, 81-89 (1990)
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