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14 章 シグナルの設計:生態と進化

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14 章 シグナルの設計:生態と進化
14 章 シグナルの設計:生態と進化
担当 大嶋
ほとんどの個体間相互作用には情報伝達が含まれ,情報伝達には特別に作られたシグナル
やディスプレイが用いられる.この章は,効率的に情報伝達を行うためにシグナルがどのようにし
て自然選択によって作られてきたのか,ということについて書かれている.今回は,シグナルに対
してかかる 2 種類の選択圧(環境から受ける生態学的制限要因とシグナルを向けられた個体の反
応)が与える影響について論じる.
情報伝達とは
特徴:大抵の場合で, 1 個体(動作主)が発したシグナルやディスプレイが何らかの方法で他個
体(反応者)の行動を変える.
反応者の反応
・迅速で明快な場合
(ホタル♂…点滅の仕方から種を判断し,正しい種のメスのほうへ素早く飛んでゆく.)
・微妙で見抜くことが難しい場合
(アンテロープ♂…居住者のにおい標識を見つけると,縄張り境界を超えないようにわず
かに歩く向きを変える.)
・遅れる場合
(セキセイインコ♀の卵巣…オスのさえずりに刺激されその結果徐々に成長する.)
・常には反応しない場合
(縄張りを持つクロウタドリ♂…侵入者が何羽だろうと,さえずりを聞いて撤退するまで何
時間も鳴き続ける.)
→これらの問題はあるが,もし反応を見抜くことができれば『情報伝達=動作主が反応者の行
動を変えるために,特別に設計されたシグナルやディスプレイを使う行為』と見なせる.
⇢情報伝達の定義が広義になることを防ぐ.
*この定義付けが絶対というわけではない.
1)生態学的制限要因と情報伝達
情報伝達に用いる感覚伝達経路は動物によって様々.
なぜ?
⇒伝達経路の有効性が,種の習性や生息環境に制約を受けるため.
e.g. 夜行性の小型哺乳類:視覚的シグナル<音や嗅覚
密集した茂みに生息する鳥類:お互いを見る<お互いの音を聞く
ノロジカ:(密林)鳴き声やにおい,(開けた土地)視覚シグナルで縄張りに印付け.
伝播性だけで伝達経路のコストと利益が評価されるわけではない
(表 14.1:各伝達経路の利点).
e.g. キツネなど
・縄張りが大きく数時間か数日おきにしかマーキングできないためにおいが好都合
・鮮やかな体色は,メスを引き付けたり競争相手を阻んだりするには有利かもしれないが,
捕食者を引きつける点でかなりの損害になり得る.
音
順応性
におい
非常に高い
エネルギー
安価
持続性
長い
Ex.1 アリの情報伝達
〈制限要因=摂餌生態〉
働きアリは餌を見つけて採餌トリップからコロニーに戻ってくると,その餌をコロニーまで運ぶた
めに他のアリを召集する.
3 種類の補充方法がある(Hölldobler, 1977).
1.タンデム・ランニング
タカネムネボソアリ属(Leptothorax)など動かない餌生物を捕食する大型の種.餌の一部を
吐き戻し腹部から他のアリを引きつける化学物質を分泌する.補充された 1 匹は,先を行く
アリの腹部に自分の触覚を接触させた状態でついていく(図 14.1a).
2.におい道
カミアリ(もしくはヒアリ,Solenopsis トフシアリ属)など大きく動く餌生物を捕食する種.餌を
見つけると腹腺から分泌されるにおいの跡を引きながらコロニーに戻る.においは他個体を
列に加わるよう刺激する.におい道に沿って行き餌を見つけると,自分のにおいで跡を引き
ながらコロニーへ戻る(図 14.1b).働きアリの数が増えるとにおい道は急速に増加するが,
更新をやめるとすぐに崩壊する.これはにおいが揮発性に富むためで,動く餌に遅れない
ように道の位置を変えられる.
3.索餌道
ハキリアリ(Atta)やシュウカクアリ(Pogonomyrmex)のような種子食種.長持ちするか回復
する餌パッチで採餌するため,長期間同じ道を使う.跡をつける方法には,持続性のあるに
おいを用いるのと道沿いの植物を切る 2 通りがある.
Ex.2 鳥類と霊長類の鳴き声
〈制限要因=生息環境構造と気象条件〉
●鳥類
Morton(1975)
パナマにある熱帯林に生息する種の鳴き声は同国の草原に生息する種よりも,周波
数が低く純音の比率は高く,周波数帯域は狭い(表 14.2).
一般的に
熱帯林に生息する種の鳴き声:低音で澄んだホイッスル音を含む
草原に生息する種の鳴き声:ブンブンというトリル音に聞こえる
・地理的な違い=生息環境型に関係している
Fernando Nottebohm(1975)
南米の森林に生息するアカエリシトド(Zonotrichia capensis)は,草原に生息する仲
間よりも遅いトリル音で鳴く(図 14.2a).
Mac Hunter & John Krebs(1979)
シジュウカラについて,地理的な位置に関わらず一貫性のある鳴き声の違いが,開
けた森林・草原と密林という 2 種類の対照的な生息環境型で見られた(図 14.2b).
⇒生息環境型と鳴き声の相関関係は著しい.
これらの違いがもたらす生存する上での有用性は何か?→まだ確かではない
・Morton の仮説
鳴き声はなるべく遠くまで届くように設計された.
生息地ごとの違いは音の減衰率の違いに関係しているのかもしれない.
↓
検証
2 つの生息環境型で周波数の異なる純音の減衰率を測定.
どちらの場所でも高周波は急速に減衰(予測通りのこと).
およそ 2kHz の音が,草原ではなく森林中でよく通った.
↓
森林の鳥はおよそ 2kHz で鳴く=減衰が最小となる 周波数の窓 に合わせている
草原種の鳴き声が高音で周波数帯域が広い理由はより不明瞭になった.
反論
減衰率の違いはごくわずか
森林:枝や葉によって高周波が減衰
開けた土地:局地的な乱気流
同様の効果
開けた地域はたいてい森林よりも遮へいされていない
→それぞれの生息環境で別々の原因によって,結果的には全体的に類似した減衰パター
ンになる傾向がある.
周波数の窓 =生息地の違いよりも,低周波が地面によって減衰されることに関係?
・【森林と開けた土地の違いに対する別の説明】Wiley & Richards(1978)
・減衰…雑音にまぎれて感知できなくなる
・劣化…他の音と混同されてしまう
《原因》森林:反射(葉や枝),開けた土地:振幅の不規則変動(突風)
→減衰に比べ劣化で生息環境間に大きな差
設計上の特徴により軽減されている
①反射
低周波よりも高周波の音に対して強く作用
→鳴き声が速く繰り返す音を含むトリル音である場合に問題(元の音と反射音が混同)
→克服するように設計された鳴き声=低周波
純音を含む(トリル音とは対照的)
または大きく広がる響きを含むトリル音
のはず
→まさに Morton やアカエリシトドとシジュウカラの研究で観察された傾向
②振幅の不規則変動
高速トリル音に有利
→短くかつ速く反復する響きで突風の不規則な短い間隔に組み込む必要
→開けた土地の高周波の説明になるかもしれない(低周波よりも周期が短い)
この仮説から予測される傾向は,野外観察の結果と合致する.
・縄張りの大きさの違い
Morton の研究とシジュウカラの研究:森林性の鳥が大きな縄張りに生息していた
→最大限感知できる距離ではなく最適距離に適応している
最適距離:個体密度の違いから生息環境ごとに異なる
⇒さらに複雑化
●霊長類
・人の口笛言語
鳥の鳴き声についての研究の解釈と類似.
世界 4 つの地域の共通点: 長距離の情報伝達のために設計された口笛
急斜面で岩石の多い谷間があり山が多い
→全ての音エネルギーを低周波帯に集中
森林性の鳥のように長距離でも感知されるよう設計されている
・サル
全ての鳴き声が長距離のために使われているわけではない.
短距離の音は必要以上に遠くまで届かないように設計されているかもしれない.
ホホジロマンガベイ(Cercocebus albigena)(図 14.3)
森林に生息.群れで生活し群れで縄張りを守る.
2 つの鳴き声を持つ
①フープ・ゴブル:集団間の信号伝達.低音で狭い周波数範囲.→遠くへ届く
②スクリーム:グループ内の競争対決
→周波数構造と到達力の違い=異なる距離を越えるための設計の違いを反映
遠くまで届かない鳴き声:捕食者を呼び寄せないため
捕食者を引きつけないもう 1 つの方法=居場所を確認できない音を発する
タカが上空にいるとき小型鳥類の多くが出す シート 音
…弱い高音域で人間の耳では場所を見つけにくい
→発信者のリスクを減少させている(Marler 1955)
⇕
検証しようとすると結果はあいまい
・スズメフクロウとオオタカについての検証→容易に見つけられそう
・アカオノスリとアメリカワシミミズクについての検証→見つけにくそう
2)反応者とシグナルの設計
シグナルの設計は環境から制限を受ける.この場合シグナルを発達させる方法は,反応者の
行動変えさせる効果を増加させる選択に由来する.反応者はシグナルの進化上の起源において
も,その後の進化においても重要な役割を果たす.
Q.1 どのようにシグナルは始まったのか
『多くのシグナルは,たまたま反応者に有益だった動作や動作主の反応から進化してきた.』
(Lorentz や Timbergen)
付随的な動作(噛み付く前に歯をむき出す)
↓
その後の行動を予測(攻撃を予測し逃げる)
↓
予測できた反応者に対して選択が働く
↓
付随的動作を行う動作主に選択が有利に働く(噛み付く前に歯をむき出して追い払う)
↓
ディスプレイに進化し始める(脅しのディスプレイ)
⇒魚類,鳥類,哺乳類で行われている研究によって支持される.
多くのシグナル:意図的な運動(鳥の離陸動作など)から進化してきた
その他にも,大きな動きから別な動きに移り変わる瞬間の動作からも,ディスプレイが進化する
e.g. 攻撃と逃走の間で揺れ動く
→動機付けの葛藤や優柔不断さを表す
(表 14.4:ディスプレイとその起源と考えられる動作の例)
・転位行動
:矛盾した動機付け状態がつりあっている瞬間に生じる,一見無関係な動作
e.g. 求愛するアヒルの,水を飲んで羽づくろいをする動作
排尿(赤面,毛の逆立ち)=緊張の瞬間
…祖先は縄張りの境界で敵にあって抑えきれずに排尿していたかも
↓
入るな というディスプレイへ進化
ディスプレイの構造は動機付けの葛藤を反映していると見ることができる.
e.g.
イトヨ(Gasterosteus aculeatus)の ジグザグ ディスプレイ
…接近と回避の葛藤
シジュウカラの脅しディスプレイ
…動機付けの葛藤(攻撃 vs.逃避)と攻撃の阻止
Q.2 進化の過程でシグナルはどのように修正されたのか:儀式化
シグナル:偶発的な動作として生じる
→効果を向上させるよう選択によって修正される
儀式化
・ステレオタイプ,反復的,大げさな動作
・明るい体色などによって強調
e.g. アヒル,オシドリ(Aix galericulata),キジ科鳥類の求愛行動
→進化的変化を観察することは不可能
近縁種のディスプレイについての比較から説明することができる
(図 14.4:キジ科の儀式化された求愛ディスプレイ)
シグナルの機能を向上させる…厳密には何を意味するのか?
求愛シグナル=性選択の結果?
→一般的な説明にはならない(脅しのディスプレイにも儀式化の形跡が見られる)
A. シグナルの設計の進化に対する仮説
(a)あいまいさの減少
儀式化=多様なディスプレイを混同する確率を下げられた個体に選択が有利に働いた結果
実際…脅しと緊張緩和のシグナルは対極(威嚇するイヌ:直立↔おびえるイヌ:かがむ)
あいまいさ減少の原則→求愛ディスプレイで説明
近縁種のディスプレイ…混同を避けるためにはっきり区別できる
(図 14.5:近縁種でのシグナルの違い)
・定型化した動作 増→シグナルの明瞭さ 増
→情報量 減
先祖:正確な動作→攻撃と恐怖の正確なバランス
⇕
儀式化:動作主についての情報の正確さが損失
⇒ 典型的強度 (Morris 1957) =あいまいさ減少の代価
・情報量の減少→動作主に有利?
もし 2 個体が儀式化されたディスプレイで競争しているとしたら,正確な情報を伝えること
は利益にならない.
ディスプレイの進化=反応者が利用可能な情報量を減少させられるため?
⇒2 つ目の仮説
…反応者を操作しようとする動作主のシグナルの利用を重視
(b)操作
シグナル:動作主が反応者の行動を都合よく変えさせる(=操作する)ように進化
→儀式化はどのように説明されるか?
A に都合よく
B の行動を操作
A
B
さらに抵抗を
シグナルに対する
圧倒するシグナルを
反応に抵抗
発達させる
発達させると B に有利
・シグナルを豊富にする
・反復する
A,B:単一個体ではないが
何世代もかけて変化
・大げさにする
⇒シグナル=操作的手段として生じたならば,抵抗力(反応者)と操作力(動作主)の間の共
進化的軍拡競争(4 章)に従う.
→儀式化=単純に抵抗を圧倒
重要なのは操作のみ(情報の概念,あいまいさではない)
操作 →シグナルの起源は同様に反応者が得る利益
→反応者=動作主のために自分が得る利益を変えさせられている
e.g. カッコウ
ヒナは育ての親に餌をねだる
→育ての親は親としての行動をとる(=餌を与える)
=カッコウの遺伝子にとっては利益,育ての親の遺伝子にとっては明らかな損害
・情報伝達が協調的だった場合
反応者の先祖は抵抗よりもシグナルの感受性を高めていたかもしれない
動作主はシグナルの種類を減らしコスト減
→(協調的シグナル)静かで目立たない
(非協調的シグナル)儀式化され目立つ
→体系的比較はまだ行われていない
(c)正直さ
性選択を受けたディスプレイ=遺伝的形質を表す
→ディスプレイに使う本質的な特性は持続するのにコストがかかる(ハンディキャップ)ため,
生まれつき質のよいオスにのみ発現する.
→Amotz Zahavi(1979, 1987)が一般化
反応者:不正直または操作的なシグナルを見破ろうとする進化的選択圧下
軍拡競争の結果正直なシグナルのみ生き残り,他は無視される.
3 つの特徴
①シグナルには信頼性がある
②信頼性は情報伝達のコストによって維持されている
③シグナルの設計と示された形質には直接的つながりがあるはず
(e.g. カエルの競争:鳴き声と体サイズに生理学的関係)
3)現在のシグナルから得られる証拠
Ex.1 虚勢もしくは操作的なシグナルの例:シャコ類
競争で使われるシグナルはたいてい正直で犠牲が大きい(7 章)
→時々うそをつくことで成功する
e.g.
シャコ(Gonodactylus bredini,フトユビシャコの仲間 (Plate 14.1(a),pps 212−213)
硬い外骨格で覆われた前肢
前肢を広げる脅しのディスプレイ
2 ヶ月おきにある脱皮期間(3 日間)…骨格が柔らかく弱い
→同じ脅しのディスプレイ(Adams & Caldwell 1990)
(小型の敵に対して使われる傾向)
→コスト:脅してもし攻撃されたら,殺される可能性が逃げたときよりも高い.
Ex.2 正直なシグナル:トムソンガゼル
トムソンガゼル…捕食者を見つけると 弾む (Plate 14.1(b),pps 212−213)
=接近を警告するシグナル?
→捕食者に逃走能力を示すシグナル
Ex.3 受信者の心理:トゥンガラガエルとソードフィッシュ
シグナルの設計の進化を説明する仮説
=反応者がシグナルを見つけて認識する能力にかかる制約も含まなければならない
Tim Guilford & Marian Dawkins(1991)
= 受信者の心理
e.g. ●2 種のトゥンガラガエル Physalaemus pustulosus,P. coloradorum
両種ともメスの耳は約 2.1kHzの音に最も敏感
P. pustulosus のオスのみがこの周波数に近い鳴き声( チャック 音)を持つ
→メスの嗜好性が先に進化?
P. pustulosus のみがこの偏りに適応?
→実際に P. coloradorum のメスも同種より P. pustulosus の鳴き声を好む
●クシフォフォルス(Xiphophorus)属魚類
プラティー(X. maculates)とソードテール(X. helleri)
ソードテールは長い尾鰭を持つがプラティーは持たない
両種ともメスは長い尾鰭に嗜好性を示す(Basolo 1990)
→なぜオスの P. coloradorum とプラティーは,メスの嗜好性に適応しなかったのか
→・遺伝的変異を起こすのに時間が不十分だった?
・配偶利益を上回るような種特有のコストが存在?(捕食の増加など)
4)シグナルと情報のばらつき
シグナルは情報伝達の中でどのように使われているか
・動物と人間の違い
動物は抽象概念や遠くのものについて意思疎通は行わない.
その代わりに動作主またはその周辺に関する今起こった出来事について意思疎通させる.
例外:ハチのダンス
→もし動物が単純な内容しか伝えていないならなぜこんなにシグナルは多様なのか
→1 つの内容に対して何通りかのシグナルがある(Box 14.1)
■Box.14.1 動物のシグナルと情報
動物のシグナルについての文献では, 情報 という言葉が 2 つの異なった方法で使わ
れている.
(a)専門的な意味
反応者がシグナルから予測する動作主のその後の行動の不確実性を減少させる.
2 つの行動(攻撃と避難)のうちどちらか
→決まった動作のシグナルを示すことで不確実性は減少
ほとんどの動物のシグナルがこの意味で情報を伝えているのは間違いない.
(b)日常会話での意味
日常的には 何かについての 情報を意味する.
(動物の情報伝達:動作主の種,サイズ,歳,意思,配偶状態など)
主なポイント
1. 協調的な相互関係である場合を除いて,動物たちは自分の意思についての情報
を伝えるつもりはない.いくつかの証拠がこの考えを支持している.
2. シグナルはサイズや歳,強さについての情報を伝えているのかもしれない.また虚
勢やだましを受けにくい変異を持つことによって伝える傾向がある(いわゆる信頼でき
る手がかり)(7 章).
3. シグナルは,たとえば近くにいる捕食者の種類(Seyfarth et al. 1980)や餌の位置
(von Frish 1967)など環境についての情報を伝える.
・脅しの「シグナルの個体内変異
個体間変異:強さや闘争能力の違いに関連
個体内でも変異が見られる
e.g. ●フルマカモメ(Fulmaris glacialis)
低コストのディスプレイ:翼を立てる(コスト=0.017)
高コストのディスプレイ:背後から急に攻撃する(コスト=0.28)
競争相手を退かせる効果は(低コスト)12%,(高コスト)28%
→コストと効果に相関
どれだけ空腹かということに基づいてディスプレイを選択
(Enquist et al. 1985; Enquist 1985)
●オオトウゾクカモメ(Stercorarius skua)
11 種の脅しのディスプレイ
…動作主のその後の行動,反応者への影響がわずかに異なる
→その後の攻撃の可能性の違いはあまり大きくない
場所や年齢によっても異なる
⇒単純に解釈はできない
シグナルとその後の行動にはもっと複雑な関係があるのかもしれない
または単純にある範囲内の行動をとっているだけかもしれない
(攻撃するまたはされるときの位置の違いから)
5)信号伝達と操作,動物の知能
操作 …感情的に聞こえるかも知れないが,動作主の意識的思考や意図性は含んでいない
(ランとミツバチの関係を見て,ランが意識的な意図を持っているとは誰も連想しない.)
霊長類は意識的に他を操作しているのか
●サバンナモンキー(Cercopithecus aethiops)
Dorothy Cheney & Robert Seyfarth(1990)
集団で生活し,1 頭が捕食者を発見すると警戒音を発して他個体を逃げさせる.
警戒音…捕食者の種類ごとに異なる(ヘビ,タカ,ヒョウなど)
→特定の捕食者に注意を向けて適切な反応をさせるが,意識的意図を含んではいない.
無意識にそれぞれ異なる鳴き声を引き起こす.
⇕
・他の集団メンバーがいないと警戒音を発する可能性 低
→ 観客効果
他個体に鳴き声を聞かせようと意図している?
↔機械的な反応を刺激する要因が,捕食者と仲間の両方の存在であるとも言える.
・シグナルを操作的に用いる
Kitui(…下位のオス):侵入者♂に対してヒョウの警戒音(ヒョウはいない)
→侵入者は木の上に逃走
侵入阻止に成功
→意識的意図の存在を暗示しているのか?
↔より単純な説明も可能
Kitui→高い性的興奮状態
突然の動き対して敏感
→警戒音を発する基準点が低かった
警戒音を発した後,木から降りて侵入者の前を横切って歩き回ることがあった.
→(a)突然の動きに対して 間違えて 警戒音を発したわけではない.
(b)もし操作的な使い方だったのならば,危険状態でないことを見せるのは不適切.
ということを示している.
操作的な使い方はまれだった(全体の 2%)
→うその鳴き声を無視することをすぐに学習した
…他個体が出した同じ警戒音,同個体が出した別の警戒音の両方を無視
→不適切に使われた個体または警戒音,両方の記憶ができる
→操作的な使い方の可能性に制限?
⇒サバンナモンキーの分析:動物の感情を見抜くためにその情報伝達を用いることの,難しさと
面白さ両方を明らかにしている.
6)要約
動物の情報伝達は,特別に設計されたシグナルもしくはディスプレイを,1 個体が他の行動を変
えるために用いるときに生じる.シグナルの設計は生態学的要因と反応者の行動を変える効果の
両方から影響を受けている.生息環境は,異なる情報伝達の感覚伝達経路(たとえば嗅覚信号と
視覚信号)の有効性や,感覚伝達経路内でのシグナルの正確な形に影響を与えることがある.後
者の主張は,異なる種類の植生に生息する鳥が持つ,鳴き声の違いから説明される.
シグナルが進化するにつれて,ステレオタイプで反復的,かつ誇大にすることで選択はその有
効性を向上させる.儀式化のこの進化の過程は,シグナル送信者(=動作主)と反応者の間の共
進化的競争を通して生じてきた.
この共進化の終点は,正直な信号伝達か操作的な信号伝達かどちらかかもしれない.
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