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新 疾病薬学 てんかん(epilepsy) - 医療関係者のための医薬品情報 第
てんかん (epilepsy) 百瀬 弥寿徳 東邦大学名誉教授 てんかんは大脳皮質の神経細胞(ニューロン)の過剰な電気的興奮に伴うけいれんや 意識障害などの発作症状を繰り返す慢性疾患である。てんかん発作は一過性で、発作 終了後は速やかに元通りの状態に回復する。てんかんは頻度の高い神経疾患であり、多 くは小児期に発病する一方、近年高齢者の脳血管障害によるてんかんも増加している。 正常な脳は興奮性と抑制性のシグナルが調和し情報伝 とがある。 達を行っているが、てんかん発作ではこのバランスが崩れ ②部分発作 ニューロンの過剰興奮が起こる(図)。てんかんの原因は 過剰な電気的興奮が脳の一部に限局されて起こる。意 様々である。原因不明なてんかんを「特発 性てんかん」、 識がはっきりしている単純部分発作と、意識障害が伴う 外傷、感染、炎症、腫瘍、脳血管障害、脳の先天奇形、中 複雑部分発作に分けられる。 毒、Na+ チャネルの異常など原因が明らかなてんかんを 単純部分発作:意識があり、発作の開始から終わりまで、 「症候性てんかん」と呼ぶ。てんかんの診断は、問診によ 症状をすべて覚えている。多くは運動性発作であり、けい る意識障害の有無やてんかん発作の特徴および脳波検 れん症状が手や口唇など身体の一部から始まり全身に広 査、画像検査(MRI、CT)などにより確定される。 がる。 脳波:大脳皮質ニューロンの興奮を反映する突発波と、脳 複雑部分発作:意識がなくなり、周囲の状況がわからな の機能異常を反映する徐波を調べる。 くなるような意識障害がみられ、また記憶障害が起こる。 MRI、CT:脳の構造異常を調べる。MRI は脳の詳細な構 しかし、意識障害中に倒れることは少なく、急に動作を止 造を画像化し、CT では脳の石灰化を診断する。 めてボーっとするといった発作(意識減損発作)や、辺り SPECT:核医学検査で、てんかん病巣の部位診断に用い をフラフラと歩き回ったり、手をたたく、口をモグモグさせ る。 るといった無意味な動作を繰り返す(自動症)などの症 てんかん発作は、大きく全般発作と部分発作に分類さ 状がみられる。 れる。発作分類は抗てんかん薬の選択、患者への対応に 極めて重要である。1981年の国際抗てんかん連盟の分類 てんかん発作は、飲酒、疲労、睡眠不足、月経、精神的 にもとづいて解説する。 ストレス、運動、音や光の刺激、興奮などによっても誘発さ ①全般発作 れる。発作はいつ起こるかわからないことから、運転、高 大脳の両側半球が広い範囲で同時に過剰興奮して始 所での作業、1 人での入浴などはできるだけ避けることが まる。発作時には、ほとんどの患者で意識はない。 大切である。一般的に多くのてんかん発作は一過性であ 強直間代発作:突然意識を失うことが多く、その後全身 り短時間で回復するので救急車を呼ぶ必要はなく、呼吸 が硬直化する。身体がこわばって倒れる時に舌を噛んだ を確保し頭などを打たないように処置すれば十分である。 り、尿失禁あるいは呼吸困難などが起こる。従来は大発 てんかん発作を防ぐためには適正な服薬が極めて重要で 作と呼ばれていた。 あり、薬剤師の役割が大きいことを改めて認識する疾患 欠神発作:けいれんを伴わない数秒間程度の短い意識 である。 消失発作で、一時的に動作が中断し、ボーっとしているよ うにも見えるが本人は発作に気づかない。過呼吸により誘 〔参 考文 献 〕病気がみえる vol.7 脳・神 経 第 1 版(メ ディックメディア)2011. 発される。学 童期や就学前に症状が現れることが多く、 女児に多い。従来は小発作と呼ばれていた。 図 てんかん発作の病態 正 常 ミオクロニー発作:意識消失はなく、全身あるいは手足な ど、どこか一部分の筋肉が一瞬ピクッとする発作である。 ニューロン 瞬間的な症状のため、自覚することが少ない発作で、連続 して数回起こることもある。光によって誘発されることも 病 態 てんかん重積状態:けいれん発作が5〜10 分以上持続 の発作が起こり、死亡率の高い重篤な緊急状態に陥るこ 抑制性 シグナル 受容体 異常 興奮性 シグナル 正常な 興奮 あり、寝起きや寝入りに起こりやすい傾向がある。 する状態、あるいは発作後に意識が回復しないうちに次 てんかん発作 脳 波 抑制性 シグナル が減弱 興奮性 シグナル が過剰 過剰な 興奮 てんかん発射 [参考文献より抜粋] ファーマシストぷらす 2016 No.2 11