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次世代経営人材の育成の仕方

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次世代経営人材の育成の仕方
2014
1
HAYマネジメントセミナー
次世代経営人材の育成の仕方
−新たな成長の道を開拓するリーダーをどう育てるか−
情報革命やグローバル化の進展により、過去のビジネスモデルや、特定の職能の中で蓄積
した知見だけでは、問題を解決できない時代になりつつあります。
こうした環境の中で事業
を成長させる能力を持った次世代の経営人材をどれだけ育成できるかが、企業の将来を
左右するようになってきました。
ヘイグループでは、
多くの企業とともに、
各企業が実際に直面している市場や事業を題材に
しながら、新しい成長の可能性を見いだせる経営人材を育成するプログラムを設計・運用
しています。
そのプログラムの概要をご紹介します。
ヘイグループ 代表取締役社長
高野 研一
多くの経営者が抱える悩み
に握る台湾などがグローバルなネットワークを形成し
ています。このため、ユダヤ人、インド人、華僑など
が張り巡らせたネットワークの中に入って行って、ビ
ジネスを展開できるリーダーが求められるようになっ
近年、多くの企業経営者が次世代の経営人材
ています。
の育成において、悩みを抱えています。その背景
このような新しい環境の中で事業を成長させるこ
には、2 つの大きなビジネス環境の変化があります。
とのできる経営人材を、集中的に育成することが喫
1 つめは、業界の垣根を越えた戦いが激化してい
緊の課題となっているのですが、既存事業の中で
るという事実です。異業種から外敵が参入し、過
の OJT や年功序列型の配置による育成だけでは、
去の業界秩序が壊され、戦う相手や戦い方がこれ
当然ながらこの目的は達成できません。
までとは変わってきているのです。例えば、小売業
がプライベートブランドの強化でメーカーの機能を浸
食しています。また、アマゾンのようなEC 産業が、
小売店業界を切り崩しています。このような状況に
これからの経営人材に必須の
2つの能力とは
どう対応していくかが、多くの業界で課題になって
います。
過去の安定した経営環境下では、現状を分析し、
もう1 つは、情報革命を契機に産業構造がオー
課題を特定した後、過去の成功事例を調査し、解
プン化・グローバル化し、もはや一企業では解決で
決策を立案するという戦略立案プロセスが一般的
きないほど問題が大きく複雑になってしまったことが
であり、効果的でした。しかし、前述したような新し
挙げられます。それに伴い「エコシステム」
と呼ばれ
い環境下では、すでに表面化している課題の分析
る勝ち組企業連合が台頭し、そこに参加できなけ
や過去の成功事例の導入では、解決策にならなく
れば、いかなる大企業といえども、もはや開発スピー
なってきています。このため、新しい戦略立案プロ
ドでもスケールメリットでも太刀打ちできない時代に
セスが必要になります。ヘイグループの調査によると、
なってきています。情報通信産業の例を挙げると、
激変する環境の中で優れたビジネスリーダーとして
シリコンバレーを中心とした米国西海岸を中核として、
活躍している人は、ある種共通の戦略立案プロセ
暗号技術や高速ネットワーク通信に強いイスラエル、
スを持っていることがわかってきています。①見えに
ソフトウェア開発センターとしてのインド、製造を一手
くい市場や事業の構造を解明することで、新しい
13
成長ドライバーを発見する、②その仮説が本当に
有効かどうかを実践の中で検証し、事業の成功要
因や市場のスイートスポットを発見する、③成長要
新しい「ものの見方」
を獲得する
次世代経営人材育成プログラム
因を横展開し、最大限に事業価値を引き出すとい
うプロセスです(下図参照)。
ヘイグループでは、この 2 つの能 力の開 発に
そこで重要になるのは分析力ではなく、想像力や
フォーカスした次世代経営人材育成プログラムを、
創造性であり、実は成功した多くのベンチャー起業
多くの企業とともに設計・運営してきました。そこで
家はこうした発想法を持っています。いま必要とさ
は、
「成長戦略提言力」を獲得するために、優れた
れる経営人材には、こうした「成長戦略提言力」が
ビジネスリーダーが実践している戦略立案プロセス
求められています。
を、実際に体験してみることに主眼を置いています。
また、戦略の実行段階においては、不透明な環
特に、激変する環境の中で新しい成長ドライバー
境の中で進むべき方向性を示し、多様な価値観の
を発見するためには、市場の構造や事業のダイナミ
人の間でベクトルを合わせ、社内外の組織を巻き
ズムに関して、いままでとは異なる「ものの見方」や
込み戦略を実行する力、言い換えれば「ビジョン型
「メンタルモデル」を獲得することが重要になります。
のリーダーシップ」が求められます。リーダーシップ
その際に鍵を握るのが、脳の使い方です。
を発揮し、自分以外の人を動かせる人は、自然に
人の脳の活動の中で、我々が意識してコントロー
視野が広がり、選択肢も増えていきます。その結果、
ルできる領域は 20%しかなく、脳の 80%の活動は、
社 内 外の連 携がうまく進むようになります。逆に、
我々が意識できないところで行われていることがわ
リーダーシップが弱いと、自分だけで何かをしようとし、
かっています。この無意識の世界が、新しい「もの
その結果、自分の強みを発揮できる領域に視野が
の見方」を形成しているのです。新しいものの見方
狭まり、社内外の組織との連携が阻害されるように
は、ある日突然意識の世界に浮かび上がってきます。
なります。
「この市場はこうなっていたのか!」
と気づく瞬間です。
ヘイグループがこれまで蓄積したリーダーシップ診
そうした「ものの見方」が形成されると、我々は従来
断のデータを見ると、ビジョン型のリーダーシップを
とは異なる世界を見ることができるようになります。し
発揮している管理職は、日本人では5%程度に留
かし、新しいものの見方が形成される過程自体を、
まっており、諸外国に比べてかなり低い数字となっ
我々は意識することはできません。それは無意識の
ています。これでは、世界に広がるネットワークやエ
世界で行われているからです。
コシステムの中に参画して事業を展開するには、心
事業に精通するとは、その事業に固有の市場構
もとない感じがします。つまり、このようなリーダーは
造・事業構造・収益構造のリンケージを解明し、
成り行きでは育たないということです。意識して育て
ていく必要があるのです。
「この市場はこういう構造になっている。だからここ
にポジショニングすればこのぐらいの売上増につな
優れたビジネスリーダーの戦略立案プロセス
優れたビジネスリーダーは組織的な仮説の設定と検証を繰り返している
市場構造・事業構造・収益構造を踏まえた戦略を持つ
調査や実験を通じて仮説を検証する
担当事業に固有の市場構造・事業構造・収益構造を深く洞
察した上で、普通の人が気づきにくい成長ドライバーを
発見できている。
戦略の中に含まれる重要な仮説を、短期間で実行可能
な調査や実験に落とし込み、実践の中でその有効性を
検証している。
(抽象的な戦略では差別化できない)
成功パターンを横展開し成果を最大化する
ひとたび成功要因を発見すると、それを全社的に横展開
し、最大限の成果を刈り取ろうとする。そのために、プロ
セスや仕組みを考え、経営資源獲得に向けて経営に働き
かける。総花的に資源を分散させない。
(小さな成果では満足しない)
このサイクルを
(戦略とはあくまでも仮説に過ぎない)
次世代経営人材の
育成プログラムに
落とし込むことが重要 組織的学習を積み上げる
部下や関係部署を巻き込み、戦略や仮説を共有した上
で、一緒に検証活動に取り組み、組織的学習を積み上げ
る。また、それを通じて真の成功要因を発見するととも
に、組織のベクトルを合わせる。
(戦略を示しただけでは実行につながらない)
2014
1
がる。そのためにはこうした事業構造が必要で、そ
きる人材の育成が急務という認識に至っています。
れはコスト構造にこう跳ね返り、このくらい利益を伸
また、それを実現していくためには、自前主義を返
ばせる」
といったシミュレーションが行えるようになる
上し、社外の組織との連携や、M&Aに積極的に
ことを意味します。こうした「メンタルモデル」を獲得
取り組んでいくことも必要になってきます。しかし、従
するためには、知識を増やしたり、分析力を高めた
来の OJT 中心のやり方では、それを推進できる人
りといったやり方では限界があります。なぜなら、そ
材は育たないという結論に至りました。
れらは意識の世界を使う活動であり、無意識のうち
もちろん、従来から何もしていなかったわけではな
に形成されている「ものの見方」の外には出られな
く、次世代事業部長候補と次世代部長候補を毎年
いからです。
約 30 名ずつ選定した上で、ケース・スタディと、グ
新しいメンタルモデルを獲得するためには、実際
ループワークによる新規事業提案を行っていました。
に市場をくまなく歩き回り、事業のダイナミズムを体感
しかしアイデアの提案に留まり実効性に欠けるもの
し、これまで入ってこなかった刺激をさまざまな角度
が多く、現実のビジネスに寄与していないという声が
から無意識の世界に取り入れ続けるほかありません。
トップから出ていました。また、グループの中で特定
そうしていると、ある日突然新しい「ものの見方」が
の個人に作業が偏ったり、議論が迷走して参画意
意識の世界に飛び込んでくるようになります。こうし
欲を失う参加者が出てくるなどの問題がありました。
た経験をした人だけが、新しいメンタルモデルを獲
そこで、プログラムの内容を「実戦形式の練習」
得できるのです。
に改めることにしました。
実際にどのようにプログラムを行っているのか、あ
る企業の事例をご紹介します。
■
次世代事業部長育成プログラム
まず、ケース・スタディやグループワークを通じた
相互学習よりも、実際の事業を題材にした実践経
グローバルかつオープンな経営環境の
中で、経営をリードできる人材を育成
験の蓄積に重点を置いた内容に改めました。候補
者を毎年 10 名に絞り込んだ上で、個人別に担当事
業の成長戦略を提言し、かつその有効性を調査・
クラウド技術や通信インフラの発達、モバイル端
実験を通じて検証する内容にしました。担当事業を
末の高度化などに伴い、世の中の情報やコンテンツ
題材にすることで、実際に市場を歩き回り、これまで
の流れは大きく変わってきています。このため、この
会ったことのない人と会い、事業のダイナミズムを深
会社では、これまでのようにハードに依存したビジネ
く洞察することが可能になりました。そして、提言内
スモデルだけでは経営が成り立たず、情報の流れ
容から経営上の重要な論点や、さまざまな仮説が
そのものを変えにいくようなプラットフォームを構想で
浮かび上がるようになりました。また、調査や実験を
次世代事業部長育成プログラム
(実施例)
7月
8月
10月
12月
1月
2月
集 合 研 修︵1日 ︶
調 査・実 験による
仮 説の 検 証 を 踏 ま え た
戦 略の 見 直 し
集 合 研 修︵1日 ︶
個 別コー チング
個 別コー チング
行 動 改 革の
実行
個 別コー チング
行 動 改 革の
実行
個 別コー チング
行 動 改 革の
実行
実施
・多面観察診断を通じた、自己のリーダーシップの分析
・行動改革の実践と個別コーチングを通じた新しいリーダ
ーシップスタイルの習得
アセス
メントの
4. リーダーシップの診断と開発
行 動 改 革の
実行
・成長戦略の有効性を検証するため、調査・実験をデザイン
し実施
・事実に基づき仮説を検証し、成功要因を解明
11月
調 査・実 験による
仮 説の 検 証
3. 調査・実験を通じた仮説の検証
集 合 研 修︵2日 ︶
担 当 事 業の 成 長 戦 略 を 立 案
集 合 研 修︵1日 ︶
・成長戦略立案のベストプラクティス
・事例研究:同業界の3社の戦略比較
・担当事業の成長戦略立案と提言
集 合 研 修︵2日 ︶
2. 成長戦略の提言
事 前 課 題の 実 施
・問題解決思考を戦略立案に応用する
・事業価値が生まれるメカニズム
(ファイナンス)
・市場構造の解明・ユーザーの潜在ニーズの把握(マーケ
ティング)
担 当 事 業の 成 長 戦 略 を 立 案
1. 事業価値が生まれる構造の理解
9月
通じてその有効性について検証する過程から、い
ままで見えていなかったボトルネックや成功要因、市
場のスイートスポットなどが浮かび上がるようになっ
活用事例から見えてきた
効果的なプログラム設計の仕方
てきました。その結果、
トップとのディスカッションも意
味のある内容になっていきました。
このような形で、さまざまな業界の企業と次世代
また、リーダーシップ診断とコーチングを実施する
経営人材育成プログラムを開発し、運営してきてい
ことで、自分のリーダーシップスタイルの背後にある
ますが、これまでの試行錯誤の中から見えてきた、
「ものの見方」の偏りに気づく人が出てきました。こ
効果的なプログラムにするためのポイントをまとめる
れまでは自分の強みを活かすことが良いと感じて、
と下記のようになります。
自ら率先して仕事に取り組んできたのですが、実は
① 事業全体を捉える知見ができた部長職以上を
それが部下の当事者意識を弱め、組織全体として
対象にする
一体感や士気が高まりにくい原因になっていること
② 10 ∼ 20 名の選抜研修として実施
に初めて気づかされたのです。
③ 現実の市場・事業に即して成長戦略を提言する
④ 優れた経営者の思考プロセスを体験する
参加者のアセスメントを
昇格判断に反映させる
⑤ 提言した内容の有効性を検証する
⑥ アセスメントとコーチングを組み合わせてリー
ダーシップを開発する
⑦ 6カ月∼ 1 年の期間で実施
また、プログラム実施後、成長戦略提言力とリー
⑧ 昇格・登用・異動に連動させる
ダーシップの 2 つの軸でアセスメントを行いました。
経営者としての成功確度を評価したのです。そして
その結果を、配置やローテーションに反映させました。
成長戦略提言力もリーダーシップも高い人材は、
MBA型研修から
実践型のリーダー育成へ
1 つ上のポジションに上げたり、試練を伴うポストに
異動させ、さらに能力に磨きをかける機会を与えま
いま、自分の頭の中にない解決策を発見し、それ
した。成長戦略提言力は高いがリーダーシップに
を実行していく力を備えた次世代のリーダーを、経
課題がある人材は、大勢の人や多様な関連部署
営 理 論の習得やケース・スタディを中心とした
を動かす必要があるポジションに異動。逆にリー
MBAタイプの教育で育成することは難しくなってき
ダーシップは高いが成長戦略提言力に課題のある
ています。経営能力を高めることは、試験で高い点
人材は、企画部門など全社的な視野で戦略立案
を取ることよりも、スポーツや武道に熟達することに
能力が求められる部署に異動させるなどにより、計
似ています。スポーツや武道で上達するには、理論
画的に経営人材の育成に取り組む土壌ができてい
や演習だけでは不十分ですし、実戦だけでも上達
きました。
はしません。「実戦形式の練習」を繰り返すことが
つまり、経営人材の育成という目的に向けて、OJT
重要なのです。それによって無意識の世界が活性
とOff-JTを密接にリンクさせることに成功したのです。
化され、自然に望ましいものの見方や動き方ができ
以上のようなプログラムを実施した結果、そこで
る「メンタルモデル」が形成されていくのです。
出てきたアイデアが現実の事業で実行に移されたり、
ヘイグループの創業者の一人であるデービッド・
他社の動きが見えるようになりシェア低下の構造が
マクレランドは、この無意識の世界の構造を解明し、
解明されたり、事業の見方や戦略立案プロセスが
人がものの見方や行動パターンを変えるための方
全社的に共有されるなどの効果が出てきています。
法論を確立してきました。こうしたアプローチに基づ
しかし何よりも、参加した人たちが、①固定観念にと
く経営人材育成手法を通じて、企業が未来を拓く
らわれず、さまざまな角度から事業を見ることの意
ための支援をしていきたいと考えています。
味を理解したこと、②仮説を立てて検証することで、
●プログラムに関するお問い合わせは下記まで。
不確実性に対峙できる自信をつけたことが最大の
E-mail : [email protected]
成果であったと言えます。
TEL : 03-5157-7878 ( ヘイグループ代表 )
H
ヘイグループからのお知らせ
ヘイ・マネジメントセミナー
「人材の最適配置に関する方法論」
いま、多くの企業が人材配置の問題に頭を悩ませています。
日本企業の多くは「攻め」と
「守り」の両側面を事業運営の中に抱えていますが、その両側面に、
どのような「量」と
「質」
の人材を配置すべきかが大きな論点となっています。
このセミナーでは、人材の「量」と
「質」について検討した過去のプロジェクト事例をご紹介し、参加者の皆様に、人材の
最適配置について検討する際の一定の枠組みをご提供したいと考えています。
日 程
(木)15:00∼17:00(14:30開場 )
2014年 7月10日
・会 場 青山ダイヤモンドホール (東京都港区北青山3-6-8)
・講 師 ヘイグループ ディレクター 山口 周
・対 象 経営企画・人事のご責任者、ご担当者の皆様
・参加費 無料
プログラム
■事例紹介 A社 部門別の人員数の最適化について
B社 エリア別の人材配置の最適化について
C社 商品担当別のチーム体制の最適化について
■質疑応答
(内容は事前の予告なく変更となる場合がございますのでご了承お願いいたします)
ヘイグループ・ウェブサイトのセミナーご案内ページからお申し込みください。
http://www.haygroup.com/jp/
ヘイグループは1943年に米国フィラデルフィアで創設され、過去70年以上にわたり人事・組織に関わるコンサルティングを展開し
てまいりました。ヘイシステムはフォーチュン1000社の過半数以上でも採用され、報酬制度の世界標準となっております。現在
は、世界約50ヵ国に90近くのオフィスを構え、 2600人以上のコンサルタントを抱える人事経営コンサルティング会社として広
く認知されております。
日本支社は1979年に東京に開設され、各産業界を代表する数多くの日本企業や在日外資系企業に対して、人事制度の改革、人材能
力の開発、報酬制度の設計のみならず、企業変革のアーキテクトとして各種コンサルティング・サービスを提供してまいりました。
グローバル化やIT技術の進展で、ますます複雑化する人事・組織の課題解決に真正面から取り組んでおられるマネジメントの
皆様の、最も頼れるビジネスパートナーとして、今後とも満足度の高いサービスを提供していきたいと考えております。
〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-8-1 虎の門三井ビルディング10階
TEL 03-5157-7878 FAX 03-5157-7879
● Hay Group Newsletter Vol.15 No.1 2014 ● 2014年 6月発行 ●編集協力(有)MGI ●撮影 中川 学 ●印刷(株)ティー・プラス
Hay Group 2014( 本誌記事・写真の無断複写・転載はご遠慮ください)
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