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派遣法の制定と改正

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派遣法の制定と改正
第1部
派遣法の制定と改正
派遣事業は、自己の雇用する労働者を他企業に派遣し、その指
揮命令を受けて業務に従事するという特殊な形態であるために、
その問題点の解消を図り、一定のルールを設けるために、昭和
60年(1985年)に「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び
派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(その後「就業条
件の整備」を「保護」に改正)が制定(施行は翌昭和61年)さ
れました。派遣法は、その後の社会経済情勢の変化などに対応し
て見直しがなされ、平成 2 年、平成 6 年、平成 8 年、平成11
年、平成15年、平成20年、平成24年、平成27年、平成28年に
それぞれ法改正などが行われています。
そこで、派遣法が制定される前の状況を概観した上で、派遣法
の制定と改正の経緯について解説します。
第
1章
派遣法制定前の状況
1
職業安定法が制定される前
我が国の労働力の需給調整は職業紹介を中心に展開されてきましたが、江戸時代
には既に肝煎、桂庵などの民営の事業として行われており、それが大正10年(1921
年)の職業紹介法の制定によって公営の職業紹介制度として整備されるようになり
ました。
一方、後に労働者供給事業と呼ばれる形態の事業については、仲仕、土木建築人
夫、工場雑役などを工場・事業場に供給する事業として、口入れ屋などと呼ばれ、
古くから存在していましたが、大正10年の職業紹介法では直接の規制の対象とはさ
れていませんでした。
その後昭和13年(1938年)に職業紹介法が改正され、同法第 8 条で労務供給事業
が許可を受けて行うことのできる事業になりました。
職業紹介法(昭和13年 4 月 1 日法律第61号)
第 8 条 労務供給事業ヲ行ハントスル者又ハ労務者ヲ雇用スル為労務者ノ募集
ヲ行ハントスル者ニシテ命令ノ定ムルモノハ地方長官(東京府ニ在リテハ
東京府知事及警視総監トス)ノ許可ヲ受クベシ
前項ノ労務供給事業及ビ労務者ノ募集ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之
ヲ定ム
第 9 条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ 6 月以下ノ懲役又ハ500円以下ノ罰金ニ
処ス
二 第 8 条ノ規定ニ依ル許可ヲ受ケズシテ有料又ハ営利ヲ目的トスル労務供
12 第 1 部 派遣法の制定と改正
給ヲ行ヒタル者
ただし、同法第 8 条第 2 項の規定に基づいて制定された労務供給事業規則(昭和
13年厚生省令第18号)は、同規則の適用を受ける範囲を「臨時ニ使用セラルル労務
者ヲ有料ニテ又ハ営利ノ目的ヲ以テ常時30人以上供給スル事業」とされるなどすべ
ての労務供給事業を対象としていた訳ではないようです。
労務供給事業規則(昭和13年 6 月29日厚生省令第18号)
第 1 条 本令ハ職業紹介法(以下法ト称ス)第 8 条ノ規定ニ依ル労務供給事業
ニ之ヲ適用ス
第 2 条 法第 8 条第 1 項ノ規定ニ依リ許可ヲ受クベキ労務供給事業ハ臨時ニ使
用セラルル労務者ヲ有料ニテ又ハ営利ノ目的ヲ以テ常時30人以上供給スル
事業トス
第 8 条 供給事業者ハ左ニ掲グル行為ヲ為スコトヲ得ズ
一 事業ニ関シ誇大又ハ虚偽ノ広告又ハ掲示ヲ為スコト
二 所属労務者ノ意思ニ反シテ供給ヲ為スコト
三 金品ヲ給与シ又ハ貸付ケテ所属労務者タルコトヲ勧誘スルコト
四 被傭中ノ者ヲ勧誘シ所属労務者トスルコト
五 所属労務者ニ対シ其ノ財物ノ保管ヲ求メ又ハ保管シタル財物ノ返還ヲ故
ナク拒ムコト
六 所属労務者ニ対シテ財物ノ売買又ハ質入ヲ勧誘スルコト
七 所属労務者ノ財物ヲ買受ケテ不当ノ利益ヲ得ルコト
八 所属労務者ニ対シ風俗ヲ紊ル虞アル行為ヲ為スコト
九 所属労務者ニ対シ遊興ヲ勧誘シ又ハ其ノ案内ヲ為スコト
一〇 所属労務者ノ外出、通信若ハ面接ヲ妨ゲ其ノ他所属労務者ノ自由ヲ拘
束シ又ハ苛酷ナル取扱ヲ為スコト
一一 当該官吏又ハ所属労務者ヲ保護スル者ニ対シ所属労務者ノ所在ヲ隠蔽
シ又ハ之ヲ偽ルコト
一二 所属労務者ノ宿泊施設ニ定員ヲ超エテ宿泊セシムルコト
一三 故ナク所属労務者ノ宿泊施設ニ所属労務者ニ非ザル者ヲ宿泊セシムル
第 1 章 派遣法制定前の状況 13
コト
労務供給事業規則は、昭和15年(1940年)の改正によりその適用範囲が常時10人
以上供給する者に拡大され、さらに昭和16年(1941年)の改正によりすべての労務
供給事業を行う者が同規則の適用を受けることになりました。
昭和14年(1939年)10月現在の労務供給事業の状況は、供給業者数2,461、所属
労務者数は124,805人で、その職種は、人夫、仲仕、職夫、土工、大工、左官、雑
役、派出婦、看護婦、附添婦、自動車運転手、メッセンジャー、店員、料理人、浴
場従業人などであったと言われています。
2
職業安定法制定から派遣法施行までの状況
( 1 )職業安定法の制定
太平洋戦争後、国民主権、恒久平和、基本的人権の尊重を基本原理とする日本国
憲法が制定されましたが、新憲法の職業選択の自由(憲法第22条第 1 項)、生存権
の保障(同第25条第 1 項)の実現を目的として職業安定法が昭和22年の第 1 回国会
に提出され、同年12月 1 日から施行されました(昭和22年11月30日法律第141号)
。
職業安定法は、従来の労務の統制配置を目的とした職業紹介法を附則により廃止
した上で、新憲法の精神に則る法律として制定されたものですが、労働者供給事業
については、労働者の保護と労働の民主化を図る趣旨から、労働組合が許可を受け
て無料で行うものの外は、中間搾取を行い、労働者に不当な圧迫を加える例が少な
くないという理由で、全面的に禁止されました。
すなわち、労働者供給事業は、臨時的な作業、常用労働者が嫌う作業である土
建、荷役、運送、鉱山、雑役などで行われていましたが、このような職業の性質
(臨時性、移動性)によって、たえず失業の危険があり、そのため生活の庇護が必
要であり、また、一人前の技術を習得するための修業の機会が必要であることなど
の理由により、部屋制度が生まれ、ここに親分・子分の関係に基づく労務供給的色
彩の濃い就労形態が発生すると考えられたため、封建的な雇用慣習の名残であり、
労働の民主化を図ろうとする日本国憲法の精神に反するものとされました。
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