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基調講演 カナダ・イギリスの地域環境政策 - C-faculty

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基調講演 カナダ・イギリスの地域環境政策 - C-faculty
文部科学省現代 GP シンポジウム 2006(2006 年 11 月 25 日(土) 中央大学多摩キャンパス)
基調講演
カナダ・イギリスの地域環境政策
薮田雅弘(中央大学経済学部教授)
先ほど八王子市長の大変感銘深いお話を頂きました。この様な機会を頂きましたので、現代 GP
の研究者の一員として話をさせて頂きたいと思います。コメントする立場にはありませんが、先ほど
の市長の話を聞いておりますと、やはり首長さんの姿勢が大変重要だなという感じがしております。
積極的かつ果敢に環境政策に取組んでおられる様子がひしひしと伝わってまいりました。やはり環
境問題は、結局、持続可能性のために、我々は何ができるのかということだと思います。ごみ問題
もそうですし、河川の問題もそうです。また、自然環境の問題もそうです。
私が今日お話をさせて頂きたいのは、観光政策と環境保全ということです。現代 GP で今年の 2
月にカナダに行かせていただきました。一週間程度だったのですが、大学を 3 つ、NPO を 1 つ、そ
して行政を 1 つ回って参りまして、そこから何を得られるのかということを八王子との関係で話ができ
ればと考えております。これは八王子だけではありません。地域の協働や住民参加が重要であるこ
と、地域の診断や持続可能性などと大いに関わりますので、どうか話を聞いていただければと思い
ます。
先ほど市長が言われましたように、高尾山には年間 250 万人が来訪するということですけれど、八
王子全体では今 306 万人くらいの観光客が来ているわけです。これをもう数年致しますと、340 万、
そして更には 400 万人くらいにまで観光客を増やしていこう-こういう計画をお持ちなのです。つま
り、八王子にいたしましても、他の多くの市町村にしてもそうですが、観光によるまちづくりというの
が射程に入ってきているわけです。しかし、私が考えますことは、今日お話させていただくテーマと
直結するのですが、観光だけでいいのかということです。観光から産業開発という形で地域づくりを
求めていくのは間違いではないかということです。世界の状況を見ておりますと、観光業あるいは
観光発展から、あるいは開発から物事を見ていくのではなくて、むしろ、社会は環境から開発を見
ていくという方向に変わっております。ですから、私がこれからお話する内容から言いますと、やは
り観光業の展開もそう、地域開発もそうですが、環境というものから見ていく-こういった姿勢が大
事ではないかと思います。
八王子の歴史を紐解くと、トロイ遺跡の発掘、あるいはその自伝で有名なシュリーマンが訪れて
います。最近私も読みましたが、『シュリーマン旅行記』という本があります。彼は、1865 年に八王子
にやってきておりまして、八王子のことを次のように書いております。「田園は至る所爽やかな風景
が広がっていた。高い丘の頂きからの眺めはより一層素晴らしいものだった。10 マイルほど彼方に
高い山々を頂いた広大な渓谷が臨まれる」-このように 1865 年 6 月の日記に書いています。八王
子は大変美しい町であると。その美しい町、おそらく高尾を含む山々、そして街の並木道、これらが
大変印象深く感じられたのではないかということだと思います。ちょうど横浜から町田、そして八王
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子を通って、また横浜に帰るという短い旅行でしたが、彼は八王子の印象をこのように語っている
のです。こうした自然環境の保全と非日常的経験を会得しようとする観光-八王子のエコツーリズ
ムの展開について、少し考えたことを述べさせていただきたいと思います。
現代 GP の意義と課題は何だったのかをまとめてみると、三つあると考えることができます。現代
GP の課題は、地域の持続可能性を保証する必要性をまず明確化するということが第一で、二番目
に、地域の持続可能のための操作可能な条件や指標の開発を行う事、三番目は、住民参加を促
進する地域活性化に寄与する成果の達成と住民参加ということです。そして、これは、持続可能な
地域活性と住民参加ということがつながっていくということですが、大学や研究機関が果たすべき
役割を果たし、そして、大学・住民・事業所・行政の協働があって、その結果として、持続的発展あ
るいは地域活性化がもたらされるということでなないかということです。その場合の根底にある考え
方が 3E と呼ばれているもので-これは私の言葉ではなく、田中教授の言葉ですが-Environment、
Economy and Equity、すなわち、環境、経済および公平性などを睨みながら発展を図っていくとい
うことだと思います。
先ほど、三点が重要であるという話をしました。つまり、地域の持続可能性を保証する必要性の
明確化と指標の開発、ならびに住民参加です。これは、そのままエコツーリズムという考え方に直
結します。最近エコツーリズムという概念が流行のように使われています。単なる観光ではなくて、
環境を重視しながら地域開発を行っていこうという考え方ですが、エコツーリズムの理念は、まず第
一に、エコツーリズムによる持続的な地域発展の必要性の明確化であり、第二が、エコツーリズム
の条件や指標の開発、エコツーリズムの指標を明確化し把握することであり、第三が、住民参加を
促進するエコツーリズムによる地域活性化の実現ということに他なりません。これらの点は、まさに
現代 GP の三つの目的とぴったり重なるのではないかと考えています。さらにいえば、エコツーリズ
ムの目的は、環境、経済、そして公平性ということであります。まず三つの要素のうち、エコツーリズ
ムによる持続的な地域発展がなぜ必要なのかということですが、何よりも、エコツーリズムのイメージ
は、地域発展と環境保全、文化、自然の保全ということです。イメージ的にはこれら二つと観光を結
びつけて、トライアングルを作るということです。ただ先程も言いましたように、環境保全ということが
1 番大事です。つまりエコツーリズムは、地域発展と環境保全の両立ですが、環境が最も重要であ
るにもかかわらず、実際には、開発・発展と環境保全のトレードオフが残念ながらあるわけです。
八王子の高尾山の開発でも、既にいくつかの問題が出てきております。250 万人も年間に来る、
奥多摩でも我々の調査では 170 万人程度なのです。ですから、それ以上来るわけですから大変混
むであろうということです。自動車の問題などが実際に生じているだろうと思います。それから、当
然ながら観光客が出すごみ問題、これも発生しているだろうと思われます。得てして、地域の観光
政策を現在のレベルで見ておりますと、ほとんど環境保全というのは付け足しのような感じがして、
開発・発展優先の政策が採られている。だから、観光ということがメインになって、環境の部分が忘
れさられるという傾向もないことではない。こういうことで様々な問題が起こってくるわけですが、これ
は、見方を変えると、地域環境資源が過剰に利用されているという証であると考えられます。文化
財にしても使い過ぎる、自然環境にしても利用しすぎということで、河川で、例えば人々が楽しむと
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いうことは良いのですが、レクレーションの中でキャンピング、夏には、バーベキューもするでしょう
が、そうしたことが自然を侵していくわけです。そういう地域の環境資源について過剰利用傾向とい
うのはどうしてもあるわけです。
先ほど言いましたように、エコツーリズムというのは地域発展と環境保全の両立ですが、実際に
は、地域環境資源の過剰利用傾向があるということでした。なぜこうしたことが生じるのでしょうか。
先ほど市長のお話の中に、コミュニティーボンドの話がありました。これは財産権を移す、あるいは
確保するということですが、実際に緑の計画や、環境の計画において立ちはだかるのは財産権の
問題です。ところで、本来、大気・水・森林の緑といったものは、地域環境資源と呼ばれておりまし
て、基本的には、誰のものでもない、みんなのものである。誰のものでもなくてみんなのものであると
いうことは、所有権は事実上確定していないということです。そのような地域環境資源のことを我々
はコモンプールと呼んでいるわけですが、このようなコモンプールは、誰もが利用できる反面、誰か
が利用すればそのほかの人が利用しにくくなる、といった性質を持っています。清水も、静かな湖
畔も、誰もが利用するので過剰な利用傾向がある。しかし、過剰な利用によって、清水は濁り、静
寂はかき消されるのです。緑にしても川にしても自然環境や文化財、色々なものがあるかとは思い
ますが、こうした傾向が現れた場合には、みんなで保全する必要があるわけです。みんなでという
所は今日の住民参加になるわけですが、保全を実現させる手段としては、大きく分けて二つありま
す。
一つは経済的手段ということです。今年ゼミの学生たちは東京都の御蔵島という所に行き調査を
してきました。エコツーリズムの調査です。ここでは、宿泊所が確定していなければ船に乗ることは
できません。そして、御蔵島の中で観光をしようとすればガイドが付かないとできないことになって
います。ガイドツアーには料金が掛かります。これは一種の経済的手段として、あるいは規制的手
段ということもあるかもしれませんが、一定の利用制限を加えている事に他なりません。地域環境資
源をこういう形で、みんなで守っていこうという一つの方法です。他の例では、大宰府は駐車場に
関して税金を取っていますが、これは観光税の一種だと思います。大量の自動車が押し寄せてくる
ものですから、これに対して税金をかけるということ、そしてできれば公共交通機関で来て頂く、車
で来ることはコストが高くつくという方法であるわけです。これが経済的手段です。他方、住民参加
の方法があります。多くの方々は環境を保全しようとして、自主的に参加しているわけです。お金は
関係がない。自分たちの街を自分たちがきれいにしたい、自分たちが管理したい。公園を住民が
自主的に管理・運営するアドプト制度もそうです。八王子やその他いろいろな町で行われていると
思いますが、公園を市民の方々が管理・運営する。このような地域における協働的な管理・運営シ
ステムの構築がエコツーリズムに関して大事でないかと考えます。アメリカの経済学者のオストロム
教授は、こうした地域の管理・運営システムのルールをコモンプールの保全原則として提唱してい
ます。
ところで、エコツーリズムという言葉はお聞きになったことがあるかと思います。色々な形で呼ば
れております。グリーンツーリズム、ルーラルツーリズム、アグロツーリズム、ネイチャーベイスドツー
リ ズ ム 、 コ ミ ュ ニ テ ィ ー ベ イ ス ド ツ ー リ ズ ム 、 そ し て エ コ ツ ー リ ズ ム 。 実 は 国 連 は 、 2002 年 に
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International Year of Ecotourism というものを提案しました。これは、 アジェンダ 21 の目的を達成す
るための 1 つの手段なのですが、様々な主体が連携して、エコツーリズムを発展させていこうという
ものでした。2002 年でエコツーリズム年が終わっていますが、その後多様な形でエコツーリズムは
展開されています。WTO-これは国際観光機関であって世界貿易機関と間違えないようにしてい
ただきたいのですが-はエコツーリズム、グリーンツーリズムは、農水省主体で推進されていますし、
わが国の場合、エコツーリズムは環境省などが推進しています。2002 年には、エコツーリズム沖縄
大会が開催されています。
ところで、日本全体では観光客の数はなかなか把握されておらず、大変難しいわけですが、イン
バウンド、アウトバウンドはよく分かっておりまして、大体アウトバウンドが 1500 万人、インバウンドが
500 万人程度で、1000 万人くらいの差がありますので、日本に来ていただく人たちを 1000 万人くら
い、つまり今の倍増を目指したいというのが小泉前首相の提唱した観光立国、ビジット・ジャパンキ
ャンペーン、つまり観光立国を目指した施策です。すでに 1980 年代からそのくらいは目指そうとい
うことは、ずっと言われ続けてきたことですが、これほど実現されない施策も珍しいのではないかと
思います。もう 20 年近くいろいろ行われてきたのですが、なかなか物価が高いとか、遠いといことも
あるでしょうが、外国の方には来ていただけないということもあります。その反面、地域レベルではエ
コツーリズムであるとか、グリーンツーリズムというものがずっと展開されてきたわけです。エコツーリ
ズムというのは先ほど言いましたように、環境保全、地域発展、ならびに観光開発の三つのトライア
ングルを実現していくというものですが、これらの関係はどのようなものだろうかということです。
観光が経済にどういう影響を及ぼすかということですが、国土交通省のデータでみますと、大体
全体で、生産で 5 パーセント、そして雇用で 6 パーセント、地域によって随分違いますが、一定の経
済効果があることは認められているわけです。沖縄は特に観光地、観光立県として有名ですが、雇
用シェアは 14 パーセント、それから県外収入ですと全体の 25 パーセント程度は観光によって得ら
れているとされています。ですから、観光が経済に及ぼす影響は大きく、観光は魅力的であるとい
うことで、ツーリズムを展開することで地域開発が可能ではないか考えられうるのです。
これは私の研究室で調べたものですが、各都道府県の中から一つエコツーリズム地域を選び出
して、客観データとアンケート調査に基づいて分析を行いました。このようなエコツーリズム地域が
どのようなイメージをもっているかという点ですが、わが国の場合には、大体高齢化が進んでいて人
口減少が続き、雇用者も企業も減っていて、失業率は 1 次産業が多いために比較的低く、一次産
業の構成比が高いということです。結論を簡単にまとめますと、こうした地域でエコツーリズムが展
開される場合、何が不足しているかということなのですが、結局のところ、住民の不十分な参加、そ
れから計画資金が不足し、レストランとか交通インフラ等の観光供給能力の不足、それにも増して,
エコツーリズムの原則が不徹底であるということです。眺めてみますとエコツーリズムを推進するた
めの諸条件が不足しているのではないかと考えられます。
東京都の場合は、どうなっているかということですが、東京観光まちづくり基本指針というのがあり
ます。この中で、高尾山については、既存のレクリエーション拠点のネットワークの整備をしたりして、
自然公園の整備などを行っていきましょうということですが、東京都は非常に良くまとめておりまして、
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多くのキーワードが列挙されています。例えば、アクセスの改善であるとか、観光ルートの設置とか、
イベントの開催であるとか、安全なまちづくりであるとか、情報発信のまちづくりであるとか、ブランド
イメージの確立といったようなものをキーワードとして並べていますが、残念ながらこれは観光業を
展開する上で必要な要素なのですが、エコツーリズムの展開へ向けた施策とはなりにくいのではな
いかと思うわけです。つまり、エコツーリズムというのは先ほど言いましたように、開発や観光といっ
た所から環境を見るのではなく、逆に環境からこういうものを見て、環境が保全されるということ、文
化財が保全され、歴史が保全されるということ、その町並みを未来の人たちも享受できるということ、
そのために地域発展があるわけですから、順番が逆ではないかという感じがあるわけです。
それではエコツーリズムの展開にはどのようなことが必要なのでしょうか。次の表 1 は、私がまとめ
てエコツーリズムの基本原則と呼んでいるものです。WWF や WTO などを参考にして先ほどのコモ
ンプールの管理・運営の方法を組み合わせたものです。まとめると大体このようになります。このエ
コツーリズム基本原則の中に、例えば、持続可能な資源の利用とか、過剰消費を抑えるということ、
それから多様性を維持するということ、それから地域計画策定し地域経済を維持するということ、地
域共同体との連携、組織間の協働、関係者の教育、先ほどボランティアガイドというものがありまし
たが、地域ボランティアガイド、さらには適切なマーケティング、モニタリングと研究調査、これらを総
括する諸指標や原則の束がエコツーリズムの原則なのです。これは今日のポイントですが、診断と
いうことに関係して言えば、地域のあるがままの現状を適切に把握し、地域のキャリングキャパシテ
ィを診断することは何よりも大事であり、これをまず計画の最初に据えなければならないのではない
かと私はずっと考えていたわけです。ですから、これからこのようなことを的確に項目付けして、この
部分から地域発展はどうあるべきか、観光業の展開はどうあるべきか、ということを考えなければい
けないと思い研究を始めたわけです。これに関連して、先ほど言いましたように、本当なら今日イギ
リスのということもテーマに入っていたのですが、カナダの話だけをさせていただきたいと思います。
カナダでは実は、グリーンツーリズムについて、既に興味ある試みが実行されています。とくに、地
域の持続可能のための操作可能な条件、指標の開発ということです。これはそんなに難しいことで
はなく、例えばグリーンツーリズムへの 10 の途というものが、誰にでも理解されやすい形で提唱され
ています。ここにガイド本がありますが、この中にきっちり入っているわけです。翻訳しますと、①み
どりを夢み、みどりを想う、知って行動する。②グリーンアドベンチャーの企画。③みどりへ:持続可
能な交通へ。④グリーンに泊まる。そこで摂れたものをそこで食す。⑤リデュース、リユース、リサイ
クル-観光の原則にこれが入っているわけです。それから、⑥みどりのお店、みどりの支出、みどり
の企業。⑦みどりで健康的なものを楽しむ。⑧富の配分-これは Equity の話です。さらに、⑨みん
なで豊かに。⑩みどりへの参加・活動へ。以上で合計 10 の途です。これに関連して、先程のエコツ
ーリズムの原則をもう 1 度振り返ってみますと肩苦しそうに見えますが、これは分かりやすく言えば、
このようなことだと思ったわけです。
カナダのトロントになぜ行きたいと思ったのかと言えば、Urban-green-tourism というものが提唱さ
れていたからです。グリーンツーリズムは、先ほど言いましたように、エコツーリズム地域の特徴にあ
るように、過疎地域、そしてどちらかと言えば田舎のイメージですが、トロントは大都市ですよね。
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Urban-green-tourism、これは八王子や東京都市圏の各地域に当てはまる考え方ではないか-こう
考えたわけです。八王子市は人口 56 万人でいわば中堅都市ですね。大都市でしょう。ですからそ
のような所に当てはまるのではないかと。それで、どのようなことをやっているかと言いますと、様々
な市民団体の関与であるとか、行政との協働、グリーンマップづくり、これはキーワードかなと思って
お り ま す が 、 幅 広 く 活 動 し て い ま す 。 大 変 上 手 で す 。 ま ず 私 が 行 っ た の は 、 Green Tourism
Association という所です。General Manager の Lafontain さんと会ってお話をしまして、いろいろなこ
とを聞いて参りました。大変ユニークな試みが行われています。まず Urban-green-tourism という用
語ですね。本来理解しにくいのですが、Urban というのと green というのは普通に考えると対峙しま
すよね。しかし Lafontain さんによると、都市における文化、自然環境を取り戻し、より良い居住空間
を提供することで、環境への理解を深め、生産者、市民および旅行者がともども環境配慮方向に
向 か う た め の 運 動 で あ る と い う こ と で す 。 例 え ば Hotel な ど の 事 業 者 に つ い て は 、 実 際 に
eco-friendly であるかがチェックされ、パンフレットなどで紹介されているということです。逐一モニタ
リングが行われるということです。グリーンツーリズムマップというものがありまして、これ大変面白い
仕組みになっています。この地図の裏表紙には、貢献した企業の名前が書いてあります。これは実
際には無料で配っているのですが、価格、値段が付いております。ここが 1 つキーポイントだと言っ
ておりました。ダダのものを貰っても嬉しくない、捨ててしまう。やはり価格付けが行われていると捨
てにくいですよね。捨てるということは前提ではありませんが、貰ってもやっぱり価値があるなという
ことです。これは 3.95 カナダドルと書いてあります。400 円か 500 円くらいですかね。もう 1 つ面白い
仕組みが、これは 15 万部くらい発行されていますが、ここに固有番号が書いてあります。地図の冊
子ごとの固有番号が。私のは 202325 という番号のものを貰っていますが、この番号を持って、URL、
ホームページにアクセスするのです。そうすると、この提供した企業は、「この人たちは見てくれたん
だ」ということでポイントになります。そうするとこの企業は、これにお金を出して良かったなと肌で感
じることができます。そしてその結果、最初はスポンサーの数は少なかったのですが、段々スポンサ
ーの数が増えてきたということと、一社あたりの donation、寄付が大きくなって資金確保につながっ
ているということです。この辺のマネジメントが大変上手だなと感じました。多くの観光マップを市や
市町村が出していますが、ほとんどタダですよ。そしてあまり使わないまま多分捨てられるのだろうと
思うのです、残念ながら。一回で捨てられるのではないかと思います。それと同時に、このグリーン
マップはニューヨークから始まって、今子供たちがマップ作りをしているわけです。グリーンマップ運
動は大変興味深いので、後ほどまたお話します。
他に、トロント市の行政機関の支部である Toronto City Planning の Cycling & Transit Organizer
である Pauline Craig さんにお話を聞くことが出来ました。市内を走るバスに自転車を積んでいます。
自転車 2 台くらい積めるということで、バスで都心まで来ると後は小回りの利く自転車を利用するの
です。これは Rack It and Rocket というらしいのですが、そのようなものができるというわけです。トロ
ントでは、一般的には自転車は、車両、地下鉄の搬入というのはラッシュアワー以外で可能ですが、
ラッシュアワーでの搬入についても将来拡充が望まれるということです。起伏の大きい多摩では難
しいかもしれませんが、自動車よりは自転車。そして Car-sharing は、かなり発達しているということに
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驚きました。HUB という考え方で、HUBS という new
mobility の観点からの交通体系が行われて
いるということです。これは、Waterloo 大学の Eagles 教授と話をしたのですが、どうも日本の観光や
自然公園管理の研究者は少ない。もう少し、観光とか、地域の施策に関係する学生をもっと育てる
必要があるのではないかという話をしていました。いずれにしても先ほどのグリーンマップというもの
には大変興味を持ちました。グリーンマップはすでに世界の多くの地域多く展開されておりまして、
日々増えていまして、日本でももう既に 32 のまちで製作されています。世田谷でもグリーンマップ
が作られています。グリーンマップの特徴は、観光や文化財、自然などのラベリングにあるわけで
す。エコマークと言いますか、マーキングにあるわけです。その色々な拠点-例えばリユース、リサ
イクル拠点、コミュニティー拠点といったものを地図の中に組み入れていって、地図を作成し活用し
ようとする運動です。このような運動がすでに展開されつつあることに将来の持続可能な地域づくり
と観光を結びつける鍵があるのではないかと思います。
表 1 エコツーリズムの基本原則と地域の管理・運営
エコツーリズム
の基本原則
持続可能な資源利用
持続可能なコモンプール財
施 策
の原則および条件
最大持続可能捕獲水準の推計(物理的、生 明確なコモンプールの境界
態学的、社会的、環境的飽和水準および受 持続可能な利用水準の知識
容可能変化上限(LACs)などの測定)
過剰消費や浪費の抑制 産業規制(政府規制、自主的規制、企業の 利用・調達ルールの確定
社会的責任)、観光客管理(ゾーニング、交
通規制、観光客分散など)
環境的多様性の維持
保全地域規制(国立公園、生物保護地域制
定、特定領域指定など)
地域計画策定、地域経 環境インパクト評価(費用便益分析、マテリア 集団的選択の調整、紛争解決
済の維持
ルバランスモデル、地理情報システム、エコラ 手段
ベル、環境会計など)
地 域共 同体 との連 携 、 審議および参加技術(情報開示、関連する会 利用者集団の境界と協議なら
組織間の協働
議の運営、住民行動調査、表明選好調査、 びに相互義務の明確化
デルファイ法など)
関係者の教育
観光知識および技術訓練(地域ボランティア
ガイド、環境教育など)
適切なマーケティング
訪問者の管理・運営技術(観光客・業界の管
理規則、条例など)
モニタリングと研究調査 持続可能性を示す諸指標(各種持続可能性 モニタリングと制裁規定
指標の作成および活用)
(出所)薮田雅弘『コモンプールの公共政策』新評論、2004.
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時間も近づいてきたのでまとめなければいけません。いずれにしても、今日私がお話してきた内
容は、エコツーリズムというのは可能性のある地域開発のあり方の一つであるということで、このこと
を敷衍して、中大・八王子方式の考え方のもとで行われている様々な施策が、観光にも適用できな
いかということです。さらに、エコツーリズム原則の適用と展開は、先にまとめたような地域の目標で
ある、環境とか、経済とか、公平性の実現にぴったりであるということです。そこで、最後にまとめた
いと思いますが、八王子は大変政策評価については厳しい所だと思います。詳細に政策評価が
公表されていて、八王子市については施策評価があり、観光関連で調べますと、現在五つぐらい
のポイントが挙げられています。これについては、図 2 を参考にして下さい。一般観光の推進、交
流拠点施設の整備、魅力の発信、観光関連施設等環境整備、および観光資源の開発・活用とい
った具合です。一般的な観光の推進-先ほど言いましたように、400 万人に増やしたい。増やした
いというのはよいのですが、先にそれが来ると、やはり開発を間違えてしまうということだと思います。
それから交流拠点を整備したり、魅力を発信したり、施設等の環境整備とか、環境資源の開発・活
用というものがあるのですが、確かにこれを見ていると、大変素晴らしいという感じはするのですが、
ちょっと立場を入れ替えてみますと、そうではなくて、このようなことを行う 1 つの基本的な考え方に
まとまったものがないという感じです。観光をとにかく発展させれば良いというのではなく、根本は、
一つの例ですが、先ほど挙げたグリーンツーリズムの 10 の途とか、グリーンエコツーリズムの原則と
か、そのようなことを出発点に政策を立案させる必要があるのではないでしょうか。するとしてもその
ような開発をしなければこれからはいけないのではないか。従って、エコツーリズムに関しては、こう
した原則を守りながら、実態調査研究と政策提言と、そして市民組織・事業者との協働に向けた形
で設計をしていくことが大事になると思います。このような活動に対する大学の役割は極めて大き
いと思います。
図 2 Ecotourism の基本原則と観光開発の方向性
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今日はカナダなどの外国の話よりも日本の話が多かったような気もしますが、最後に八王子を話
さなければならないということで、一つ『八王子の底力』という本を紹介したいと思います。意外な観
光スポットや八王子の魅力が多く掲載されています。「高尾山が呼んでいる」と書いてあります。今
日は大変紅葉も美しいと聞いておりますので、できれば明日お出かけ頂ければと思います。これで
私の話を終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
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