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エネルギーと持続可能性会議 2013(その 1)
情 報 報 告 ウィーン エネルギーと持続可能性会議 2013(その1) 6 月 19 日から 21 日にかけて隔年開催のエネルギーに関する会議である Energy and Sustainability 2013 が、ルーマニア・Bucharest で開催された。主催は Wessex Institute of Technology (英国)である。今回は、再生可能エネルギーによるアイランドシステムに関す る講演と英国の需要側管理システムに関する講演を紹介する。 1.アイランドシステムによる再生可能エネルギーの技術的且つ経済的取り組み E. Franzen氏、Younicos社(ドイツ) 20%へ再生可能エネルギーのシェアを増加させることは、グリッドの安定性に対する挑 戦となるが、100%の再生可能エネルギー供給に向けての作業については、完全に新しい取 り組みが必要となる。小さな島のグリッドは、未来のエネルギーコンセプトを実行するた めの理想的なプラットホームといえる。高レベルの再生可能エネルギーを持つアイランド システムに必要な技術を開発するために、Younicos社はハードウェアとソフトウェアの試 験場をドイツのBerlinに建設した。実際のシステムのテストではディーゼル発電機の遮断が 可能であることを示した。すなわち、回転質量などの貯蔵技術は使用せずに変動する再生 可能エネルギーとバッテリーを使用してグリッドの安定性を保証できる可能性を示し、そ のことは、再生可能エネルギーの構成を0%から100%の間で任意に選択する自由を与えて くれるということである。その結果、再生可能エネルギーシステムの構成は、島の生態系 と経済的目標に応じて設定することが可能となる。大きな再生可能エネルギーの普及によ る複数の再生可能エネルギー技術によるハイブリッドシステムでは、発電用燃料の大部分 に代わることによって、温室効果ガスの実質的な削減を生み出すことが可能となる。した がって、技術的なソリューションに加えて、手順とビジネスモデルは、与えられた気候と 負荷状態の組合せによって、独立したシステムの経済的に最適な環境設定を特定するため に開発されている。 ここでは、技術的な取り組み、試験段階の結果、および再生可能エネルギーと貯蔵に基 づく供給システムの重要なパラメーターをまとめている。 1.1 はじめに 欧州の国々が自国のエネルギー供給の持続可能性を保証するために、2020年までに20% または長期的にはさらに高く、自国の再生可能エネルギーの割合を増加させるという目標 を設定している。さらに2050年のエネルギー供給が、50%以上の再生可能エネルギーで賄 われることになれば、エネルギーの大半が再生可能エネルギー由来となる。再生可能エネ ルギーの割合を20%または30%増加させることは、グリッドの安定性に対する挑戦と考え られるが、50%以上へと割合を高めるためには新しい取り組みが必要となる。再生可能エ ネルギーが生産されないときのために、余剰のエネルギーを貯蔵し且つ利用できるように するためのエネルギー貯蔵システムが必要とされている。風力発電、太陽光(PV)発電、そ してますます多くのエネルギー貯蔵システムが市場で購入することができる。しかしなが ― 19 ― 調査報告 ウィーン ら、メガワット(MW)レベルでの分散化した再生可能エネルギー由来の発電と貯蔵容量に基 づいたグリッドの安定性を可能にする制御のためのソリューションが必要とされている。 そこでは、貯蔵の管理、インテリジェント・パワーエレクトロニクスと最上位のエネルギ ー管理システムの開発の全てが、重要な役割を果たす。再生可能エネルギーの割合を50% 以上へ上昇させることは、本土のグリッドの場合、長期的な視点が必要となるが、島のネ ットワークのような“小さなグリッド”では、この目標をはるかに速く達成することが可 能である。ほんの数基の風力タービンまたは1つの太陽光発電所を設置することで、多くの 場合、グリッドの技術的限界に達するのに十分である。しかしながら、同時に島のグリッ ドが一般的に重要な従来型の電力供給としてディーゼル発電機を使用するようなとき、遮 断されて孤立したグリッドでは、しばしばエネルギーの自立性の課題に直面する。ディー ゼル油は高いコストで輸入する必要がある。したがって、化石燃料からの脱却を可能にす る新しいエネルギーコンセプトを確立することは、自給自足の供給構造のための経済的観 点から特に興味深いことである。 1.2 再生可能なアイランドシステムにおける技術的課題 現在のグリッドの安定性は、従来型の発電所によって維持されている。それらの発電所 では、グリッドの安全性に必要なアンシラリーサービスの提供が可能となる最低レベル(通 常は公称能力の30%から50%)での運転が要求されている。ディーゼル発電機のような従来 型発電ユニットで使用されている同期発電機の回転質量は、慣性力が動作点からの全ての 偏差を吸収するので、グリッドの短期間の貯蔵技術として機能する。負荷がプラス側また はマイナス側であるかによって、機械は増速または減速される。一般的に一次側制御と呼 ばれるのは、結果としての周波数の変化が発電所内のコントローラーによって記録され、 電力の調整によって無効にされることである。このように、ネットワークの集中管理が設 定点に調整され、そして発電所の慣性力と制御が、グリッドの安定化に作用する。さらに、 発電機は公称出力の何倍もの電流レベルを簡単に提供することができる。これらの性能が、 通常、グリッドの保護の基本となっている。 風力や太陽エネルギーがある時点で電力の需要をカバーできたとしても、このことが、 これらの発電所が運転継続を要求されている意味である。結果的に、風力発電所と太陽光 発電所はパワーダウンさせられる。このことは、再生可能エネルギー由来のエネルギー供 給量の割合を制限することになる。例えば、今、これら従来型の発電所がグリッドから切 断されたとすれば、再生可能資源と貯蔵システムといったグリッドに残されたユニットが、 エネルギーの生産と貯蔵に加えて、従来の発電所の責務を引き継ぐことになる。再生可能 エネルギーとバッテリーの両方は、インバーターを介してグリッドに接続されているので、 その同期発電機の特性は、グリッドを安定させるためにもはや使用できない。限られた短 絡容量を持つグリッドにおいて、短絡時の分散した発電所の挙動は特に重要である。 要約すると、電力品質に関する欧州統一規格のEN 50160に規定されているように、島の グリッドに対する供給の安全性や電力の質のために、次のような要件を新世代の構造によ って達成する必要がある。 ①エネルギーバランス:再生可能エネルギー資源の利用は供給の安全性を危険にさらす ― 20 ― 調査報告 ウィーン ことなく、最大化されるべきである。 ②パワーバランス:発電の変動にかかわらず、グリッドの安定性を確保するために構成 要素間の信頼性の高い連携を通じて全時間で電力はバランスを保たなければならない。 ③電力の品質:周波数と電圧は、許容される範囲と品質に関する電力品質基準の要件に 応じて調整されなければならない。 ④通信規格:発電所が問題無く拡張されることを可能にするため、関係者は統一された 通信規格を介して接続されるべきである。 ⑤保護方式:十分な短絡容量または代替の保護方式は、既存の回路保護を活用するため に短絡発生時に機能しなければならない。 1.3 再生可能な島のグリッドシステムへの技術的取り組み (1) 技術的コンセプト 貯蔵設備は高い再生可能エネルギーの割合を達成するための重要な役割を果たす。地質 学的形成が許せば、揚水式発電所を貯蔵システムとして選択できるかもしれない。ここで 述べる取り組みでは、場所に関係無く適用可能なインバーターシステムを含めた電気化学 バッテリーに焦点を当てている。消費者によって要求される以上の電力を再生可能資源が 生産するようなとき、バッテリーは余剰電力を吸収し、反対に、負荷が再生可能エネルギ ー由来の発電量を超えるようなとき、バッテリーは電力を放出する。このようにして、エ ネルギーバランスを満たすことが可能になる。制御方式は、回転式発電機に依存すること なく、再生可能な島のグリッドの安定した運用のために導入されている。制御コンセプト に関して図1-1に示す。 データの測定・記録 予 警 測 報 最適化 ヒューマン・マシン ・インターフェース(HMI) 処 理 通信用レイヤ 標準化された通信 生産者 特定の協定事項 電力 ネットワーク 消費者 出典:Energy and Sustainability 2013 講演資料、E. Franzen 氏、Younicos 社 図1-1 アイランドシステムのコンセプト ― 21 ― 調査報告 ウィーン 【SCADA System】Supervisory Control And Data Acquisitionの略 産業制御システムの一種であり、コンピュータによるシステム監視とプロセス制御を行う。 対象プロセスは、以下のような生産工程やインフラや設備に関するものである。 製造、生産、発電、組み立て、精錬などを含む工業プロセスであり、連続モード、バッチモード、 反復モード、離散モードなどがある。 水処理、水道、排水、下水処理、石油やガスのパイプライン、送電網、大規模通信システムなど のインフラ。 ビルディング、空港、船舶、宇宙ステーションなどの設備。空調、アクセス、エネルギー消費な どを監視し制御する。 標準的な通信手段からグリッドを切り離すためには、グリッド内の構成要素が常に安定 したグリッドの動作を保証するための十分な機能性を持っていなければならない。グリッ ドを形成するバッテリーインバーターの制御のアルゴリズムは、電圧と周波数の制御、停 電時の起動、予備電力などの求められる全てのグリッドサービスを実行するバッテリーシ ステムを動作可能にする。百万分の1秒で作動可能であることで、瞬時電力が相殺され、安 定性の確保を確実にしている。これは、電力ネットワーク内でのよく確立された制御方式 を持ったインテリジェント且つ高速な演算の組合せによって達成される。生産ユニットへ のインターフェースは、従来型発電所と再生可能エネルギー由来の発電所の統合を制御お よび通信に対して可能にする。最も重要な機能として、エネルギー管理が負荷の予測だけ でなく風力や太陽光(PV)の発電状況に基づいて、グリッドの最適で迅速な処理を行う。エ ネルギーのバランスが取れて、長期的な供給の安全性の保証を確保している。エネルギー 管理によって制御されるプロセスは、一般的に時間の点から重要ではない。 (2) 技術センター アイランドシステムにおける高いレベルの再生可能エネルギーの開発、最適化そして実 証を行うために、技術センターをドイツのBerlinに建設した。自給自足な供給グリッドで発 生する全ての電力の流れをシミュレートすることが可能である。図1-2に示された技術セン ターでは、エネルギー供給システムの構成要素そして特定の場所からの負荷の測定と気象 データに基づくテストシナリオを実現するための装置を備えている。核となる構成要素の 機能と性能データは以下の通りである。 ①ディーゼル発電機:1MW 本土と海底ケーブルで接続されていない島のグリッドの大部分で現在使用されている ディーゼル発電機は従来からのエネルギー生産の形態を示す。 ②太陽光(PV)発電所:210kW 太陽光発電所は、システム全体の変動する電力供給の影響を調査するために調整用測 定器(テストベイ)に接続することができる。 ③ナトリウム・硫黄電池(NAS電池):500kW/3MWh×2ブロック バッテリーシステムは、バッテリーインバーターをそれぞれ有する2つの別々のブロッ クで構成されている。インバーターのAC効率は75%である。 ― 22 ― 調査報告 ウィーン 出典:Energy and Sustainability 2013 講演資料、E. Franzen 氏、Younicos 社 図1-2 島の制御システムのコンセプト ④資源シミュレーター:1MW×2系列 風力タービンまたは太陽光(PV)発電所の動的応答は、これらのインバーターを使用し てシミュレートすることが可能である。シミュレーターでは、入力データと同様に高 解像度の気象データとして、風力タービンと太陽光(PV)発電所の数学的モデルを使用 する。 ⑤負荷シミュレーター:1MW このインバーターは島の負荷応答をシミュレートするのに役立つ。消費量の測定は基 準の設定のために、ここを使用する。 ⑥補助電源 運転の状況に応じて、エネルギーをシミュレーターの運転のために公共のグリッドか ら受けるかまたは供給することが可能である。島のグリッドは、テストを実施するた めの最大限の柔軟性をもたらすDCカップリングを介して電圧と周波数の面でメイン グリッドから切り離される。 ⑦中電圧グリッド 数MW程度の接続電力を有するグリッドにおいて、電気は通常、中電圧の配電ネットワ ークを介して輸送される。このことを考慮するため、2kmから8kmの長さの送電線用 の遮断器、変圧器そしてシミュレーターを含む15kVの中電圧グリッドを設置した。 ⑧制御室 監視用データ収集とヒューマンインターフェース(HMI)を含む制御システムを制御室 に装備した。 ― 23 ― 調査報告 ウィーン ⑨短絡用スイッチ 短絡用スイッチを、特定の短絡や地絡(単相、2相または3相)が中電圧グリッドで発生さ せることができるようにシステム内に設置した。その機能を使用して、事故発生時の 保護のコンセプトとシステムの応答性を分析し最適化することができる。 (3) テスト結果 負荷、風そして日射量の測定データに基づいたテストベイで実施されたテストシーケン スの結果は、次の節で詳しく説明している。図1-3は周波数(上)と全ての運転装置の電力(下) の変動を示している。以下の装置が試験で使用された。 ・バッテリー1(緑色) ・バッテリー2(赤色) ・電力負荷シミュレーター(灰色) ・風力発電シミュレーター(水色) ・太陽光シミュレーター(青色) ・ディーゼル発電機(黄色) 周波数は、試験全体を通じて“EN50160”の島のグリッドによって49Hzから51Hzの許 容周波数域内で制御されている。 A: テスト(セクションA)開始時に、グリッドは2つのバッテリーインバーターによって形 成されてから、負荷が接続されている。バッテリーは負荷を供給し、放電電力を均等 に充電する。 B: 風力タービンのテストと太陽光発電シミュレーターが接続される。 再生可能エネルギー資源からのエネルギーが負荷を賄うのに十分でない場合、バッテ リーが放電をし続ける。再生可能エネルギー資源からのエネルギーに余剰がある限り、 バッテリーは充電される。 C: ディーゼル発電機は並列運転を示すために、バッテリーのグリッドに同期される。 バッテリーとディーゼル発電機との間の負荷の分散は、各々のコントローラーの設定 によって影響を与えることができる。ディーゼル発電機は、セクションCの終わりに向 かって中断することなく、再度、停止させられる。 D: セクションDでは、電源系統の故障が発生した場合、風力と太陽光(PV)発電が同時に 切り離される。再生可能エネルギー資源の切り離しの少し前に、負荷全体(約500kW) は再生可能エネルギー資源によって供給され、そしてバッテリーは約500kWの充電が 行われる。電源系統の故障などによる再生可能エネルギー資源の切り離しは、バッテ リーによって瞬時に補われる。電池は約500kWの充電から約500kWの放電を交互に行 う。 ― 24 ― 調査報告 ウィーン 51.5 周波数(Hz) 51.0 50.5 50.0 49.5 49.0 48.5 15:42 15:43 15:44 15:45 15:46 15:47 時間 15:48 15:49 15:50 15:51 15:52 1,000 電力(kW) 500 0 -500 -1,000 15:42 15:43 15:44 15:45 15:46 15:47 時間 15:48 15:49 15:50 15:51 15:52 出典:Energy and Sustainability 2013 講演資料、E. Franzen 氏、Younicos 社 図1-3 島の制御システムのコンセプト 別々に実施したテストにおいて、3相短絡テストは15kVのブスバーで意図的に行われた。 ディーゼル発電機だけでなく、負荷および資源シミュレーターもまたこの試験の目的のた めに切り離される。バッテリーシステムによって発生する短絡電圧と短絡電流は、図1-4に 示すとおりである。このような設定によって、バッテリーは公称電流値の約3.5倍の短絡電 流の供給が可能となる。特定のプロジェクトに対して必要な短絡容量は、保護計画に基づ き選択される。 -0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 時間(s) 出典:Energy and Sustainability 2013 講演資料、E. Franzen 氏、Younicos 社 図1-4 短絡時の電圧(上)と電流(下) 1.4 再生可能な島のグリッドシステムの商業化の側面 技術的な制約による再生可能エネルギーの割合の制限を取り除くことができれば、経済 的または環境的な目標に応じて最適なエネルギーミックスを選択することが可能となる。 ― 25 ― 調査報告 ウィーン 再生可能な島のグリッドプロジェクトは、経済的にツールと分析の異なる組合せが必要で ある。 ここでは、従来のディーゼルベースの島の電力システムと再生可能資源ベースの島の電 力システムの経済性のいくつかの違いを明らかにしていく。 これらの違いの主要事項は以下のとおりである。 ①変動費とは反対にプロジェクトの経済性における固定費の優位性 ②現地特有の要因の影響、特にプロジェクトの経済性の全体的な実行可能性における現 地に輸送されるディーゼルのコスト ③追加のインフラの要件と潜在的に不安定な資産の活用 これらの事実の全てにおいて、既存の固定価格買取り制度(FIT)を超える新しい補償や資 金調達スキームを必要とする。 (1) 固定費と変動費の構造 従来からの化石燃料ベースの電力供給システムのコスト構造において、変動費が一般的 である。これらは通常、変動する運転と維持補修コストの少しの割合と燃料入手コストの 大きな割合から構成されている。設置された容量は、想定される全ての可能性を考慮した ピーク需要を賄うのに十分でなければならない。それから、必要とされる燃料の量はエネ ルギー消費量に比例し、エネルギー需要の変化に容易に対応できる利点を持つ。しかしな がら、その欠点は不安定でたいていは上昇する燃料価格に対して非常に弱いことである。 再生可能エネルギーと貯蔵システムは、それとは逆に、主に資本金と財務費用から決定 されるコスト構造を持つ。先に述べたように、燃料は太陽と風なのでコストはかからない。 しかしながら、この燃料を電力に変換し貯蔵する技術を事前に調達する必要がある。そし て、全体のシステムコストを比較する場合、まずはディーゼル発電機のセットと20年間(ま たは再生可能エネルギーシステムの信頼できる寿命)のディーゼル燃料を購入するコストに 対する再生可能エネルギーシステムの全体コストを比較する必要がある。要するに、再生 可能エネルギーシステムは安定且つ予測可能なコストの算出を可能にするが、関連するプ ロジェクトの経済性は、システムの実際の出力にかかわらず年間費用はむしろ一定なので、 負荷の変動に関してより敏感である。加えて、同じ年間発電能力を持つ化石燃料ベースの 発電装置と比較して、初期投資額が著しく高い。その結果、商業的に実現可能な再生可能 エネルギーに基づいた島のプロジェクトは、新しく異なる資金調達のツールと手段を必要 とする。 (2) 現地特有の要因による影響 再生可能エネルギーベースの島のグリッドプロジェクトの商業化の実行可能性を最適化 するには、現地の状況を詳しく分析する必要がある。再生可能エネルギーのアイランドシ ステムプロジェクトの経済性の上記で述べた固定費を考えるならば、プロジェクトの商業 化の実現可能性は高くなるが、再生可能エネルギーのハイブリッドシステム(2つの再生可能 資源、貯蔵および管理システム)の特定の生産コストが、燃料ベースの発電の変動費と等し くなる点を超えることは無い。この点を超えるような追加の再生可能エネルギー設備の設 ― 26 ― 調査報告 ウィーン 置は、全体的に電力コストを高くするだろう。再生可能エネルギーによって経済的に置換 することが可能な負荷の割合は、以下のようないくつかの現地の要因に依存している。 ①再生可能資源の大きさ(例、平均風速や平均照度)と動態(ダイナミクス) ②負荷特性と再生可能資源の時間的な相関関係 ③規模の問題と効果における構成要素のモジュール化 ④燃料ベースの発電機の特性 ⑤資本金、税率およびインフレ率のような財務上の変数 ⑥物流の制限または土地入手の可能性のような現地特有の条件 ⑦燃料価格のレベル 特に、燃料ベースの発電における変動費を左右する燃料価格は、供給システムの全体的 な経済性が最適となる再生可能エネルギーの割合に関して大きな影響を持つ。したがって、 現地の資源、技術的かつ資金的状況を分析することに加えて、燃料価格レベルの合理的な 仮定が最適な全体システムを設定するために必要である。実際の燃料価格のレベルや短期 予測または長期平均燃料価格の予想のいずれかを、化石燃料と再生可能資源の最適な組み 合わせを決定するために用いることは可能である。 図1-5は、最適なシステムの輪郭を決定する化石燃料の発電と再生可能エネルギーとの採 算水準に関する燃料価格の影響をグラフ化したものである。アイランドグリッドプロジェ クトに基づいた再生可能エネルギーの商業的実現へと発展させるとき、プロジェクトの構 造と技術的構成要素のモジュール化が可能であれば、実際の燃料価格レベルに沿って再生 可能エネルギーの割合を高めることで、効率的な投資のリスクを減少させるので、より好 ましい。しかしながら、後になって再投資する可能性は提供されないかもしれないし、特 定の機器の設置が高いオフセット(相殺)コスト(例、非常に遠い場所に風力タービンを設置 するためのクレーンの輸送費)を暗示しているかもしれない。これらのケースでは、予測さ れる長期の平均燃料価格にシステムを合わせて、プロジェクト寿命のために一度に投資す ることが好まれる。 (3) インフラ資産の要件と利用 従来の化石燃料による発電の大部分を再生可能エネルギーによる発電に置き換えるとき、 2つの効果が見られる。図1-5のグラフで示すように、再生可能エネルギーに対する1kWhあ たりの特定のコストは、現在のグリッドに接続されている再生可能エネルギー発電所で知 られているレベルを超えて増加する。 ①追加のインフラ、すなわち貯蔵とより洗練されたエネルギー管理システムが、供給の 安全性と電力の質を維持するために必要とされる。 ②再生可能エネルギー由来の発電所では、発電可能量が需要電力と充電電力を超えるか または設置された貯蔵システムが完全に充電されているときに発電出力を低下させる。 その結果、再生可能エネルギーの利用率は低減するかもしれない。貯蔵システムが無い 場合には、この効果は悪化する。 ― 27 ― 調査報告 ウィーン 変動する燃料コスト コスト(ユーロ/kWh) 再生可能エネルギーおよび貯蔵 による電力に対するコスト 長期の平均燃料価格 中期の予想燃料価格 現在の燃料価格 再生可能エネルギーの割合(%) 出典:Energy and Sustainability 2013 講演資料、E. Franzen 氏、Younicos 社 図1-5 再生可能エネルギーと化石燃料の発電コストの関係 商業的に実現可能な再生可能エネルギーのアイランドグリッドプロジェクトでは、再生 可能エネルギー由来の発電施設の活用で回避できるように、システム全体を慎重に計画し、 そして必要なエネルギー貯蔵そして管理システムのような追加と統合化に必要なインフラ を整備するための増強された収益源を考える必要がある。 (4) 革新的な補償と融資制度 再生可能エネルギー資源に対する現在の固定価格買取り制度(FIT)は、再生可能エネルギ ー由来の発電に優先的に付与され、投資の安全性を支援するためにプロジェクト継続期間 中は1kWhあたり固定された報酬を得ることを可能にする。これらの買取り価格制度は、全 体的に再生可能エネルギーの普及が低くそして要求される規模の欠如による構成要素のコ ストが高かった時代に再生可能エネルギーの導入と利用を促進するために考案されたもの である。再生可能エネルギーシステムが大きく普及してきたので、もはや同じ買取り価格 は適用されない。新たな報酬と融資制度が、これらのプロジェクトの固定費の構造、現地 の特定要因の長期的影響、特に燃料価格の変動、そして追加のインフラ資産で必要となる 投資を考慮することで検討されている。再生可能エネルギーのハイブリッドシステムの全 資産が、現地のユーティリティ企業のような電力の供給と分配に対して責任のある機関に よって取得されるような場合、資本回収期間と予想収益は投資の決定に対する重要事項で ある。独立系発電事業者(IPP)またはプロジェクト会社が再生可能エネルギー発電所または 貯蔵システムを所有する場合、適当な報酬体制が異なる団体の関心を保つように開発され る必要がある。電力会社は燃料の入手と比べて節約を最大化しようとしている一方で、IPP またはプロジェクト会社は十分な収益と投資の安全性を必要としている。 1.5 Graciosa島プロジェクト パイロットプロジェクトは、ポルトガルのAzores諸島の1つであるGraciosa島で開発中で ― 28 ― 調査報告 ウィーン ある。Graciosa島は人口4,500人で70km2の面積を持ち、ピーク負荷は約2.5MWで、年間の 電力消費量はおよそ13ギガワット時(GWh)である。現在、必要電力の85%がディーゼル発 電機によって賄われており、残りの15%は既存の風力発電所からの電力である。Azores諸 島の政府は、2018年までに再生可能エネルギー資源で電力供給の大半を行うという政策的 目標を設定している。Azores諸島のエネルギー・プロバイダーであるElectricidade dos. Açores社 (以下、EDA)は、水力発電から地熱および風力へと島に異なる再生可能エネルギ ー資源を導入した。EDAとの共同作業の下、Graciosaは、風力、太陽光(PV)そしてバッテ リーから島の電力の大半を供給する政策的目標の達成を最初に実証する候補地として認定 された。その事業計画の概要を図1-6に示す。 EDA は、電力の発電、配電そして販売の信頼できる団体であり続けており、その特別目 的会社(SPC)が再生可能エネルギーのハイブリッドシステムを所有と運転をしている。SPC のエネルギー管理システムはディーゼル発電所に接続されており、バッテリーの充電状態 によってディーゼルエンジンの起動および停止が行われることで、システムが幅広く最適 に対応することを可能にしている。 貯蔵(バッテリー) ディーゼル発電機 風力発電所 太陽光(PV)発電所 出典:Energy and Sustainability 2013 講演資料、E. Franzen 氏、Younicos 社 図1-6 Graciosa島のプロジェクトの概要図 そして、Younicos社は、配置、システムのシミュレーションとシステム計画を含むプロ ジェクトの開発事業者且つターンキーサプライヤーだけでなく、商業的そして法的なプロ ジェクト開発の役割を担っている。EDAとの電力購入契約の条件は合意され締結されてお り、2013年に建設が開始され、2014年には試運転が予定されている。 1.6 まとめ ディーゼル発電機を停止し、回転質量を使用せずに変動する資源とバッテリーを使用す るだけで安定したグリッドを保証できるということは、再生可能エネルギーを0%から ― 29 ― 調査報告 ウィーン 100%の間で利用する選択肢を与えてくれる。つまり、最適化されたシステム構成では、生 態的且つ経済的な目標によって設定することが可能となる。再生可能エネルギーの割合の 高いハイブリッドシステムは、高い割合の化石燃料の代替になることによって実質的な節 約を行うことができる。すべての島が、気象条件、コスト構造および資金調達の選択肢と いった個々の特徴を持っている。したがって、注意深く分析することが、特定の島のため の経済的且つ生態的に最適な事項を決定するために必要となる。原材料のコストの上昇と 持続可能なエネルギー供給に関する意識の高まりによって、この種の分散型電源のコンセ プトはまた、再生可能エネルギー由来の電力量の増加を望んでいる国のグリッド内の地域 にとって価値を持つものである。 (参考資料) ・Energy and Sustainability 2013 講演資料、Dr.Rune M. Moen 氏、DNV KEMA ・Younicos 社ホームページ、(http://www.younicos.com/en/home/) ― 30 ― 調査報告 ウィーン 2.電力需要側管理:英国のベストプラクティスプログラム P. Warren氏、UCL Energy Institute(英国) 2.1 はじめに 環境とエネルギーの安全保障の問題は、ますます政治的話題の中心へとなりつつある。 エネルギーの生産と消費は、人為的な気候変動に大きく関与する事項として幅広く見なさ れている。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のエネルギー生産の約70%は、主に石 炭(42%)、次いでガス(21%)といった化石燃料の燃焼を通じて行われており、そしてエネル ギー分野が人為的な二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量の40%を占めていると 推定している。特に新興国のエネルギー需要は国の人口増加ならびに社会におけるガジェ ット(携帯用の電子機器など)や技術の成長とともに増えている。 エネルギーバランスにおける需要と供給の関係は、多くの国々で困難な挑戦である。人々 が人気テレビ番組の後かまたは寒い冬の夜に湯沸し器に電源を入れるような時のピーク需 要に対応するために20%の予備電源の余裕が一般的に使われている。そして、多くの国々 で、需要と供給の一致は化石燃料によって発電する柔軟な発電所によって、効率的に管理 されてきた。伝統的に、エネルギーのユーティリティ企業は、エネルギー需要の長期的な 増加に対応するために自身の施設能力の拡大に投資してきた。しかし、気候変動に対する 化石燃料由来の発電の寄与への意識の向上によって、エネルギーユーティリティ企業は、 低炭素な代替エネルギーへと多様化に向けた政策的圧力の下で事業活動を行っている。 化石燃料由来の発電容量を拡大するためのソリューションには、少ない炭素量、エネル ギー貯蔵技術の開発、他の国々との相互接続数の増加、そして電力需要側管理(以下、DSM) への投資が含まれている。 この調査で焦点を当てているDSMは、全体の電力システムの消費量の低減または炭素排 出量削減や電力の需要と供給のバランスのような政策目標達成に貢献するために、管理ま たは電力消費量の低減を目的とした電力用計器の需要側の技術、アクションそしてプログ ラムを指している。この定義は、DSMの文献の広範な評価に基づき提案されている。 2011年の英国において、電力が燃料由来の全エネルギー消費量の18.5%を占めており、 それは374.343ギガワット時(GWh)の容量に相当する。最も大きな消費部門は、一般家庭用 (30%)がトップで、産業(30%)、商業(21%)が続く。これらの部門の需要低減にDSMがどの ような役割を果たすことができるのかが、この調査の動機の1つである。輸送、燃料生産者 と地域熱供給からの電力を使用しない暖房、ガスそして熱電併給(CHP)のような他の部門は、 焦点を絞るためにここでは除外している。 この調査では、文献調査からの知見の概要を説明し、世界中で実施され、そして英国に とってベストプラクティスとなるDSMプログラムの体系的な予備的結果を議論している。 2.2 議論されてきた定義 広い意味で、“需要側管理(DSM)”は需要(顧客)側の電力メーターで行われるアクション を指している。アメリカにある電力中央研究所(EPRI)のClark Gellings氏が、1984年に“需 要側管理”という用語を造り出した。DSMには、コージェネ(熱電併給)、地域熱供給そし てマイクロ発電技術のような非電気エネルギー対策を包含することができるが、過去の ― 31 ― 調査報告 ウィーン DSMプログラムでは、(非電気式)の暖房や輸送よりも電力需要の管理により集中してきた。 200以上の学術刊行物(主に、雑誌論文、書籍および視聴資料)の評価では、DSMの定義にお いてそれらを含む場合と含まない場合が見られた。いくつかの出版物は電力需要の管理を 含んでいるが、エネルギー需要の他の形態は含まれておらず、他の文献ではスマートグリ ッドを同意と定義して使用している。その他ではDSMをピーク負荷時間のエネルギー需要 を低減する手段とし、それ以外にも同じような定義が使用されているが、価格変更に対す る消費者の対応やオフ・ピーク時間に負荷をシフトすることもまた含まれている。マイク ロ発電技術はいくつかの定義に含まれており、そしてエネルギー効率化対策を含むものの 含まないものがある。しかし、Gellings等は、包括的な定義を与えている。 DSMの活動は、直接的または間接的にユーティリティ企業に刺激されて、需要側の電力 メーターに関する行動を伴うものである。これらの活動には、一般的に負荷管理、戦略的 抑制、電化、戦略的成長または計画的な市場シェアの増加が含まれる。 DSMでは、エネルギーユーティリティ企業にとって新しい発電容量に投資するよりもよ り安価な代替策として、利用可能な電力と需要の一致を目指している。Gellings等は、DSM はユーティリティ企業が需要側の対策を供給側の選択肢と同じレベルにすることを奨励し ようとしていることを主張している。さらに、消費者が自身のエネルギー使用の管理に関 心を持つことを目指しているので、消費量をより“見える化”することでどれくらいお金 が節約可能かを消費者が分かるようにすることは重要である。 単純な負荷の時間帯のシフトではなく、全体のエネルギー需要が減少した場合、DSMは 二酸化炭素(CO2)排出量を削減し、エネルギーの安全保障問題も克服することが可能となる。 Gellings等の定義は便利であるが、多くの国の現在の政策の優先順位であるCO2排出量削減 のための手段の1つとしてエネルギー消費量を削減することが含まれていない。DSMは、戦 略的抑制や負荷管理だけでなく戦略的な負荷の成長を含めた、負荷の形状の目標を完全に カバーする。 Kerr等は、DSMが単に全体的なエネルギー需要を低減するプログラムだけを指すのでは なく、負荷の管理を通じた需要と供給のバランスと戦略的負荷の増加を通じた消費量の増 加に上手く対応することを指摘している。対照的に、Didden等は、特定の技術や経済的ツ ールよりもDSMプラグラムによってもたらす習慣的な訓練と行動に焦点を当てている。し かしながら、Gellings 等のようなEissaの定義は全体論であり、完全な行動の変動範囲と特 定の技術をカバーしている。この定義はGillings等よりも最近であり、大きなカテゴリー(負 荷の管理、エネルギー効率化、デマンドレスポンス、エネルギー貯蔵と分散型の発電)をカ バーしている。 2.3 提案された定義 ここでは、Eissaの定義を拡張した定義を提案し、定義に含まれる技術、訓練、手段、プ ログラムそして政策に関する重要な情報を照合する。DSMは、排出量の削減または需要と 供給のバランスのような政策的目標達成への貢献またはエネルギーシステムの調達費の低 減のために、エネルギー消費量の制御または低減を目指す需要側の電力メーターに関する ― 32 ― 調査報告 ウィーン 技術、行動そしてプログラムに関係する。調査では、電力消費量の最も多い住宅、商業施 設および産業部門において、電力需要の低減または時間をシフトするDSMに焦点をより具 体的に当てている。図2-1は提案されたDSMの定義のより詳細なもので、エネルギー効率性、 デマンドレスポンス、分散型の発電および分散型の貯蔵の4つの大きなカテゴリーへのDSM の技術、行動そしてプログラムを備えている。 分散型の発電は、ディーゼル発電機や太陽光パネルのような、現地を支える発電装置に よる局所的なエネルギーの局所的な生産である。それは、特に需要がピークの間、グリッ ドからのエネルギー需要を減らすため、グリッドのバランス維持のために含まれている。 分散化された貯蔵システムは、ピーク負荷の期間や価格が高いとき、お湯の貯槽や電気自 動車のバッテリーのように、オフピーク期間中のエネルギーの貯蔵に関することである。 同様に、特にピーク負荷時間帯のグリッドのバランスを保つ目的のために含まれている。 デマンドレスポンスとエネルギー効率化はDSMの定義の大半に含まれるものである。 前者は、価格変更またはインセンティブの支払いのための消費者の対応に関係する。 室内用 直接負荷制御 スマートメーター ディスプレイ付き (ダイレクトロード コントロール) スイッチ の運用展開 スマートメーター エネルギー 効率化の義務 (ロールアウト) ネットワーク デマンド エネルギー レスポンズ 効率化 アグリゲータ― 技 術 運用者 政 策 大きな 需要側管理 市場の カテゴリー (デマンドサイドマネジメント) 原動力 プログラム 挙 動 分散型 分散型 顧客 ユーティリティ 発 電 貯 蔵 (消費者) 企業 ダイナミックピーク 情報 /オフピーク 教育 タリフの価格設定 キャンペーン エネルギー効率化 エネルギー効率化 アプリケーションの購入 対策措置の導入 出典:Energy and Sustainability 2013 講演資料、P. Warren 氏、UCL Energy Institute 図2-1 提案された定義におけるDSMのカテゴリー ― 33 ― 調査報告 ウィーン 図2-1において、提案された定義には、物理的なDSMの対策、実施と行動のための方法が 含まれている。したがって、ツール/手段、訓練、行動、技術、プログラムそして政策が 含まれている。 2.4 DSMの歴史的影響 DSMについては、低炭素化への課題、エネルギー安全保障の問題、そしてスマートグリ ッドの発展により調査対象としての拡大と政治的関心が高いものの、需要側の柔軟性を活 用することは新しいことではない。政策におけるDSMのコンセプトは、1978年のアメリカ の『公共事業規制政策法(以下、PURPA法)』が、1970年代のエネルギー安全保障問題の解 決策として国家的に最初に制定されたときまで遡る。 PURPA法の主な目的は、国内の再生可能エネルギーの利用拡大を促進することであった が、1978年のアメリカの『国家省エネルギー政策法(NECPA法)』につながった。この法律 は、ユーティリティ企業が自身の顧客である住民に対し、現地でエネルギー監査を提供す ることを要求するものであった。それにもかかわらず、伝統的なユーティリティ企業の全 般的な負荷管理または家庭でお湯のタンクや貯槽用ヒーターの使用を考えると、DSMの概 念は長い間周り道をしてきた。しかし、PURPA法は政府の政策の初の実例(instance)であ った。1970年代のエネルギー危機は、1973年から1974年のアラブ石油輸出機構(OAPEC) のアラブ諸国による石油禁止と1978年から1979年のイラン革命によって引き起こされ、ア メリカは大きな影響を受けた。PURPA法では、エネルギーユーティリティ企業が将来の電 力需要を満たすための選択肢を評価することと最小限の社会的コストで顧客にエネルギー サービスを提供することを含めた統合資源計画”を導入した。その選択肢には、従来から の供給側管理に加えてDSMが含まれており、企業は資源の最小コストの組合せを選択する。 DSMプログラムは1980年代から1990年代のアメリカで成長し、1995年までに600のエネル ギーユーティリティ企業は、2,300におよぶプログラムを2,000万の参入者を含めて実施し てきた。特に、1989年から1995年の間、260,000GWhのエネルギーが、累計140億ドルの 支出によって削減された。DSMプログラムは、エネルギー安全保障問題があまり重要でな くなった1995年以降、アメリカでは減少した。 アメリカで行われてきたこととは異なり、欧州でDSMが同じような興味や成功を得られ ることはなかったが、この理由は、1993年の欧州連合の形成までにできたPURPA法に匹敵 するような欧州の法律が欠如していたことが挙げられるが、Gellingsは欧州にも1980年代 から1990年代にかけて、アメリカと同程度の発展はあったと推測している。省エネルギー とエネルギー効率化の対策がエネルギー危機に続く1980年代の政界に大きく注意を与えた にもかかわらず、1990年代の市場の自由化と規制緩和が多くのエネルギーユーティリティ 企業からDSMへの関心を奪い去ることとなった。政策は電力の販売量に基づく市場を重視 したので、多くのユーティリティ企業は自身のビジネスの収益性に対して省エネルギーは 相反することと認識していた。それでも、気候変動とエネルギー安全保障の問題が政治的 課題の最重要事項になった結果、2000年代から2010年代にかけて再度、DSMへの関心が高 まることとなった。このことは、先進国ではDSMの開発が減少し続けるだろうと主張した Gellingsの予測とは反対である。最近の数値では、アメリカの18の州の複合年次ユーティリ ティ支出は9億ドル以上であり、それによって、1年間に280万MWhのエネルギーが低減さ ― 34 ― 調査報告 ウィーン れている。国際エネルギー機関(IEA)のDSMプログラムは、1993年以来、最先端のDSMの 研究を世界的に支援し、それは情報の重要な供給源になることを目指している。 2.5 英国におけるDSM この調査の対象国である英国のDSMの現状を概説する。英国では、非効率、高炭素そし て運転コストのかかる予備発電によって対処されてきたピーク時間中の需要と供給のバラ ンスを維持するための“バランシング・メカニズム”を持っているが、その予備発電は年 間に数時間しか運転されていない。DSMはバランシング・メカニズムの中で限定されてき たとしても、貯蔵、相互接続、そしてDSMはその代替技術である。英国の電力システムを 運営するNational Grid社には、2011年から2012年に4.7GWの総需要があり、約1.5GW分 のDSMの容量が契約されたと推定されている。それらの大半が、約200メガワット(MW)の 需要の対応に寄与する現地の予備発電(主にディーゼル発電機)によって提供された。アンシ ラリーサービスが、短期予備運転力(STOR)、瞬動予備力、常時周波数応答と周波数制御を 通じて提供されている。約1.5GWの既存のDSM容量は主に短期予備運転力に寄与し、そし て大規模な事業者との“遮断可能負荷/負荷の抑制”の契約を通じて提供されている。 短期予備運転力に参入するためには、National Gridより240分以内に最低2時間以上送る ことができる最低3MWの要件がある。(これは、(小型の)商業的且つ家庭用負荷のアグリゲ ータ―に対する潜在的市場の開発を提供するような異なる場所から集めることが可能であ る。)瞬動予備力に対する要件では、最低15分間に1分あたり25MWを送ることよりも大き い、2分以内に最低50MWを送れることが求められている。不正確な予測の結果や発電の中 断事故などが発生すると発電機が少し減速し、周波数が低下することで、需要が電力供給 周波数(英国では50Hz)を超えるような場合、周波数応答が必要となる。常時周波数応答は、 周波数の変化に応じて需要(または出力)を自動的に変化するもので、参入には最低10MWの 容量が求められる。さらに、周波数制御は需要側の参加を通じて1日24時間有効でなければ ならず、最低3MWの参入容量と2秒以内に最低30分間の送りができなければならない。こ れは同じ場所からの負荷から集めることができる。 2011年において、National Gridから契約された短期予備運転力の平均使用額は1MW時 あたり225ポンドであった。短期予備運転力の3MWの需要側参加からの経済的収益は、年 間に66,000ポンド(有効性収益)そして35,000ポンドから55,000ポンド(1年間に50%か80% の負荷率で1時間使用した場合)となる。したがって、バランシング・メカニズムに参入への 要件を満たすために異なる小さな負荷からの削減量を集めることが、ユーティリティ企業 または別のDSM企業に対しての役割である。 2010年の一般家庭以外の分野の全エネルギー消費量は約40.6GWhであり、2012年の同分 野において、1.2GWhから4.4GWhの潜在的削減が、既存および提案されたデマンドレスポ ンスの下で達成可能であると試算されていた。 温水は約50%の高い柔軟性を持っており、照明(調光や不必要な照明の消灯)、エアコン、 そして他の最終用途では約20%の柔軟性を持っている。暖房、ケータリング、計算機や冷 蔵で、英国において最も大きなデマンドレスポンスの可能性(非生産業)のある最終用途とし て、小売業(0.7GW)、教育(0.3GW)そして商業用事務所(0.3GW)の分野があり、住宅や小規 模な商業部門では、英国産業貿易省(DTI)は、約1GWのDSMの容量が可能であると表明し ― 35 ― 調査報告 ウィーン ている。 2.6 体系的評価 本調査の現在の作業としては、DSMに関する世界中のベストプラクティスとそれらの英 国への導入について分析している。体系的評価では医療科学で広く使用されている方法が あり、特にCochrane共同計画があるが、他の学術分野での関心は限られたものであった。 【Cochrane共同計画】Cochrane Collaboration 1992年にイギリスの国民保健サービス(NHS)の一環として始まり、現在、世界的に急速に展開してい る治療、予防に関する医療技術評価のプロジェクトである。無作為化比較試験(RCT)を中心に、世界中 の臨床試験(clinical trial)の体系的評価(sytematic review:収集し、質評価を行い、統計学的に統合する) を行い、その結果を、医療関係者や医療政策決定者、さらには消費者に届け、合理的な意思決定に供す ることを目的としている。 しかし、Cochrane共同計画は、教育、犯罪や正義そして社会福祉などの他の政策分野の 評価方法として適用され始めているにもかかわらず、この方法はまだエネルギー政策の分 野に適用されておらず、これに着手することを求める声があった。この方法では、何が機 能して何がそうでないかをより良く理解するための特定の介入、試験またはプログラムに 関して実施された全ての作業を重ね合わせることが必要となる。関連するかもしれない文 献は、発表と非発表資料、学術的且つ一般の出版市場で流通しない“グレー”書籍(政策文 書や産業レポートなど)、そして査読と非査読文書がある。しかし、伝統的な評価と異なり 体系的評価の重要部分は、調査戦略、包含と除外の基準、そして評価した文書の方法論の 質の基準の判断の詳細である。体系的評価では、より多くの設定と解釈(主に定性的で、少 しの定量的側面を持つ)があるものと、そしてより集約的で統合的(主に定量的で、少しの質 的な側面を持つ)であるものに分類することが可能である。前者には、物語の概要、テーマ 別分析、グラウンデッド・セオリー(質的な社会調査の手法)とメタ・エスノグラフィーが含 まれている。そして、後者には、メタ・研究、統計的メタ・分析、Milesらのクロスケース 技術、内容の分析、事例調査と質的比較分析が含まれる。 【グラウンデッド・セオリー】grounded theory 特徴は、患者へのインタビューや観察などを行い、得られた結果をまず文章化し、特徴的な単語など をコード化しデータを作ることである。その上で、コードを分類し分析することになる。ただ、得られ たデータが少数でもそれはやむを得ないこととしてしまっており、あまり少数では、そもそも分類自体 が不可能なので、研究法として限界があることも否定できない。研究を始める段階で、問題設定や仮説 探索目的で使う上では有用なこともあり、おもしろいと感じることが多い手法だが、直感に頼る部分が 多い。したがって、分析結果としての結論(あるいは理論構築)にたどり着かないことも多いため、実 証研究で用いるには十分な注意が必要である。 【メタ・エスノグラフィー】meta-ethnography エスノグラフィーとは、社会学や文化人類学における、インタビューや観察によるフィールドワーク と調査記録をまとめた文書のこと。あえて事前に仮説を立てずに、定性調査を重ねて豊富な情報から仮 ― 36 ― 調査報告 ウィーン 説を見つけ出すのが特徴。従来型の消費者調査が仮説検証型とすれば、エスノグラフィーは仮説発見型 といえる。データベースやアンケート、グループインタビューなどに比べて、より深く消費者の本音や こだわりに迫ることができる。 【メタ・研究(解析、分析)】meta-study 複数のランダム化比較試験の結果を統合し、より 高い見地から分析すること。またはそのための手法 や統計解析のことである。 【クロスケース技術(分析)】cross-case techniques 個々のケーススタディからの知識を集結することができる調査方法である。 Pawsonによって提案された現実主義の合成のようなタイプでは、方法と内容物が定性的 且つ定量的に混ぜ合わさっている。この調査では、方法の本来の強みが、なぜどのように 特定のプログラムが、成功または失敗するかどうかを決定する基本的メカニズムの審査に よって機能しているのかを理解することなので、現実主義の合成を採用している。 いくつかの方法論的な品質評価基準が、体系的評価を現在使用するこの分野で開発され てきた。医療科学では、Jadadスケールが広く使用されており、多くの与えられた質問に対 する “はい/いいえ”の回答が含まれている。しかし、DSMプログラムは調査したDSMの タイプについてだけでなく、プラグラムが実施され、評価された方法およびそのプロセス を誰(政府、ユーティリティ、機関など)が管理したのかも大きく異なっている。医療科学で は、介入は学識経験者や業界の専門家によって行われる傾向があり、しばしば、均一な方 法を使用し、その結果は査読されている。通常は社会科学分野のケースであるDSMの分野 で、プログラムが特に国家的または地域的な背景において、ある場所では機能するが他の 場所では機能しないことに注目するとき、プログラムが統計学的に集められることはあま り公平ではなく不適切である。つまり、政策にとって役立つことは、導入時に影響を与え る可能性のある場所の背景の類似点と相違点を評価し、プログラムが機能している理由の 背後にあるメカニズムを理解することである。DSMの研究では、あまり地域に密接した方 法論でない傾向があるので、以下のような提案されたスケールは、エネルギー政策分野の 体系的評価を実施する方法を示唆するように適合している。 ①4 点:プログラムの実施のためのプロセスが明確に説明されているか? (誰がデータ、適応されたサンプリング手順の詳細と関連するエラーを収集し、参加 者の加入率または離脱率が与えられているかどうか) ②4 点:プログラムの評価のためのプロセスが明確に説明されているか? (利用される方法と何故利用されたのか、誰がデータと潜在的な偏りを評価し、ネガ ティブな結果の明確化に関して報告された結果の客観性) ③2 点:文書は査読されたかまたは認知された査定社によって独立して審査されたか? ④2 点:著作権声明、調整必要条件の遵守の声明と文書における起こり得る利害対立に 関する声明があるか? ⑤1点:出版組織の当局は信頼できて認められているか? ⑥1点:パーセンテージが与えられている所で、合計は与えられているか? ― 37 ― 調査報告 ウィーン 各質問は最初に1点の価値があるが、さらに6点が問題の重要性によって重み付けされる。 よって、達成可能な最大スコアは12点であり、最小スコアは0点である。文書は少なくとも 分析に含まれる獲得可能ポイント(すなわち6点)の半分を獲得しなければならない。Jadad スケールのようなよく知られた方法では、多くの場合、3分の2のしきい値を持っている。 【Jadadスケール】Jadad Scale ハダッドスケールは、臨床試験の方法論の質を独立して評価するための手順であり、世界中で最も幅 広く使用されている評価手順である。時には、ハダッドスコアまたはOxford品質スコアシステムとして 知られている。 しかし、この調査における多くの研究が全く違った背景にあるだけでなく、数が少ない ようなとき、しきい値の半分以下の値が、コンプライアンスの表明または利害関係のよう な“表面上の”特徴を含まないために他の方法で品質評価のスケールを失敗する潜在的に 重要な研究を含めるために使用される。その評価では、与えられた次の情報を組み合わせ る。 ①DSMプログラムの重要な条件(定量的) ・全体的なエネルギーの節約 ・ピーク負荷の低減 ・ユーティリティ企業へのプログラムコスト ・炭素排出量の低減 ・エネルギー料金の節約 ・ユーティリティ企業の収益(または収益の中立性) ・ユーティリティ企業に対する(潜在的な)収益の損失 ・政府へのプログラムコスト ・消費者へのプログラムコスト ・生産基盤への延期された投資 ②DSMプログラムの機構(定性的) ・特定のDSMプログラムが選定された理由 ・DSMプログラムが実施された方法 ・プログラムの成功で明らかにされた情報 (成功したのかどうか、どのようにまたはなぜ機能しまたは失敗したのか) ・DSMプログラムが評価された方法 ③DSMプラグラムの背景(定性的) ・電力システムの構造 ・電力市場の構造 ・政府介入の度合い ・DSMへの消費者の意識と親しみ DSMプログラムの重要な条件とメカニズムの分析は、DSMプログラムのベストプラクテ ― 38 ― 調査報告 ウィーン ィスを構成するものを決定し、背景にある要因の評価は、政策的提言を提供しながら特定 のプログラムの英国への導入を安定させるだろう。 2.7 まとめ 電力需要側管理(DSM)は、全体の電力システムの支出(消費量)の低減または炭素排出量削 減や電力の需要と供給のバランスのような政策目標達成に貢献するために、管理または電 力消費量の低減を目的とした電力用計器の需要側の技術、アクションそしてプログラムを 指している。DSMのプログラムと政策面の関係は、ほとんど調査されておらず、その調査 は何がDSMにおける最適なプロセスのプログラムと政策を構成しているのかを決定するた めに、電力に焦点を当てたDSMプログラムのケーススタディのグローバルで体系的な評価 を実施することによってこのギャップを埋めることに貢献する。体系的な評価は、主に医 療科学の分野で使用されている方法であり、現代のエネルギー政策への適用は限定されて いた。DSMの“ベストプラクティス”は、環境的、経済的そして社会的に有益であり、地域 と国との間で移動可能である措置を通じて、全体的な電力需要の低減またはオフピーク期 間へと負荷をシフトさせるといったプログラムおよび政策として定義されている。ベスト プラクティスは静的なものではないが、状況が変化するとき常に進化し、そして新たな証 拠に光が当てられる。 英国では、自国の電力市場改革の政策提言において需要側を含める方法が議論されてお り、この調査の主な成果は、この政策提言へのプロセスに情報を与えるために国際的なベ ストプラクティスの導入の可能性を検討することである。DSMの研究では、あまり地域に 密接した方法論でない傾向があるので、本調査で提案したスケールは、エネルギー政策分 野の体系的評価を実施する方法を示唆するようにした。また、DSMプログラムの重要な条 件とメカニズムを分析することは、DSMプログラムのベストプラクティスを構成するもの を決定し、背景にある要因の評価は、政策的提言を提供しながら特定のプログラムの英国 への導入を安定させることにつながる。 (参考資料) ・Energy and Sustainability 2013講演資料、P. Warren氏、UCL Energy Institute(英国) ― 39 ―