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6 農場環境材料を用いた牛ヨーネ病サーベイランスの検討につい て

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6 農場環境材料を用いた牛ヨーネ病サーベイランスの検討につい て
6
農場環境材料を用いた牛ヨーネ病サーベイランスの検討につい
て
十勝家畜保健衛生所
○榊原
伸一
菅野
宏
はじめに
ヨーネ菌に感染した牛は、無排菌期、低度排菌期、高度排菌期を経て牛ヨーネ病の発症
に至り、病態の進行とともに排菌量は順次増加する[4,5]。これに伴い牛ヨーネ病患畜(患
畜)の感染力(病原体伝播力)が上昇するため[4,5]、牛ヨーネ病のまん延防止のためには
より早期に患畜を摘発・とう汰することが効果的である。現在の検査法では無排菌期に摘
発することはできないため、つづく低度排菌期の患畜を確実に摘発・とう汰することが牛
ヨーネ病のまん延防止に効果的と考えられる。典型的な患畜の排菌パターンにおいて低度
排菌期の期間は2年間程度とされていることから[10]、患畜摘発のためのサーベイランス
は2年以下の間隔で実施する必要があると考えられる。
現在、道内では牛ヨーネ病清浄化のため、5年間隔の血清学的検査によるサーベイラン
スが実施されている。効率的に清浄化を進めるには検査間隔の短縮が必要と考えられるが、
現行法では労力面から検査間隔の短縮は困難であり、検査の省力化が求められる。そこで、
省力的な検査法とされる農場環境材料を用いたヨーネ菌検査(環境検査)について
[1,2,3,6,7,9]、牛ヨーネ病清浄化のためのサーベイランスに活用可能か検討した。
Ⅰ
1
方法
患畜の感染力の推測
調査農場は、牛ヨーネ病まん延防止のための検査を1年以上実施した 56 農場(酪農場
31 戸、肉用繁殖牛飼養農場 25 戸)とし、初発患畜の糞便中ヨーネ菌DNA量と初発生
から1年間に摘発した患畜頭数を調査した。 ただし、複数の患畜が発生した場合は糞便
中ヨーネ菌DNA量が最も多いものを対象とした。
統計解析は糞便中ヨーネ菌DNA量の常用対数値を従属変数、摘発した患畜頭数を独
立変数、下限値を1頭としてトービット回帰モデルを用いて実施した[12]。なお、本調
査における統計解析は全てR(ver3.1.3)により実施した。
2 環境検査の感度の算出
環境検査は、患畜または糞便中にヨーネ菌DNAを含む牛が摘発された 14 農場におい
て、糞便中ヨーネ菌DNA量及び飼養頭数の調査並びに環境材料の採材を実施した(表
1)。ただし、複数の患畜が発生した場合は糞便中ヨーネ菌DNA量が最も多いものを対
象とした。環境材料の採材箇所は、採材に適した箇所と報告されている 堆肥舎床とし[9]、
採材数は農場あたり 10 検体とした。採材方法として、滅菌蒸留水で湿らせたキムワイプ
(日本製紙クレシア株式会社、東京都)で堆肥舎床の 15cm×15cm の範囲を拭い、糞便を
満遍なく付着させたものを環境材料とした。
環境材料からのヨーネ菌の確認は、ヨーネ病検査マニュアル(国立研究開発法人 農
業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)に基づきDNAの抽出及びリアルタ
イムPCR法により実施した。ただし、材料処理を行いやすくするため、環境材料に加
える滅菌蒸留水は 20mL を 30mL とした。結果の判定基準は、環境材料からヨーネ菌DN
Aが定性的に検出された場合を陽性とし、陽性の環境材料が1検体以上の農場を環境検
表1
環境検査実施農場の概要と環境検査結果
農場 No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
飼養頭数
(頭)
310
94
1,420
113
393
100
23
134
50
50
62
101
93
88
まん延防止
対策期間
(カ月)
過去 1 年間の
患畜摘発頭数
(頭)
6
0
31
0
91
6
24
0
4
9
24
23
8
90
8
0
6
0
2
8
0
0
2
13
1
1
2
2
糞便中
環境材料中
ヨーネ菌 DNA 量
ヨーネ菌 DNA 量
(pg/well)
(pg/well/10 検体)
5.3×10 0
8.0×10 -2
2.1×10 -2
2.0×10 -2
1.1×10 -2
1.0×10 -2
8.3×10 -3
7.8×10 -3
3.0×10 -3
2.1×10 -3
1.2×10 -3
5.3×10 -4
5.3×10 -4
2.1×10 -4
3.7×10 -1
1.4×10 -1
2.8×10 -3
1.0×10 -2
1.8×10 -3
3.1×10 -2
1.5×10 -3
0
2.1×10 -1
1.5×10 -2
0
0
0
0
Ⅱ
1
結果
患畜の感染力の推測
トービット回帰分析により式1が導出
され、初発患畜の糞便ヨーネ菌DNA量
と患畜頭数に有意な用量反応性が見られ
た ( 図 1 )。 回 帰 直 線 と下 限 値 の 交 点 は
3.7×10 -1 pg/well と算出された。
𝑦 = 2.34𝑥 + 2.02・・・式1
1年間に摘発した患畜頭数
査陽性、すべて陰性の農場を環境検査陰性とした。
環境検査の感度は、環境検査結果を従属変数、糞便ヨーネ菌DNA量の常用対数値並
びに飼養頭数を独立変数の候補としてロジスティック回帰モデルを用いて算出した。独
立変数の選択は赤池情報量基準に基づき行った。指標となる感度は過去の報告[3]を参考
に 90%とした。
3 プール材料による環境検査の検討
環境検査の省力化のためプール材料の利用を検討した。プール材料は、含まれるヨー
ネ菌DNA量が判明した環境材料1検体と、ヨーネ菌DNA陰性の環境材料4検体を併
せたものとした。プール材料を 24 検体用いてⅠ-2と同様にDNAの抽出、検出と判定
を実施した。
確 率 90% で 陽 性 と な る ヨ ー ネ 菌 D N
20
A量は、プール材料検査結果を従属変数、
プール材料中ヨーネ菌DNA量の常用対
15
数値を独立変数としてロジスティック回
帰モデルを用いて算出した。算出された
10
ヨーネ菌DNA量以上のヨーネ菌DNA
量が 14 農場の環境材料各 10 検体中に含
5
まれるか確認した。
0
-3
-2
-1
0
1
2
3
(log 10 pg/well)
初発患畜の糞便中ヨーネ菌 DNA
量
図1 トービット回帰分析による糞便
中ヨーネ菌DNA量に基づく患畜
の感染力の推測
実線:式1、破線:下限値
プール材料検査結果
環境検査の感度
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
-4
図2
-3
0.6
0.4
0.2
0.0
-1
0
1
(log 10 pg/well)
糞便中ヨーネ菌 DNA 量
ロジスティック回帰分析による
糞便中ヨーネ菌DNA量に基づく
環境検査の感度の算出
-5
-4
-3
-2
-1
(log 10 pg/well)
環境材料中ヨーネ菌DNA量
図3
ロジスティック回帰分析による
環境材料中ヨーネ菌DNA量に基
づくプール材料検査の陽性確率の
算出
◆プール材料検査陽性、◇:陰性
太線:式3、細線:式3の標準誤差
破線:確率 90%
環境検査の感度
14 農場中9農場が環境検査陽性となった(表1)。独立変数は飼養頭数が棄却され、
糞便ヨーネ菌DNA量の常用対数値のみのロジスティック回帰モデルが選択されて式2
が導出された。糞便中ヨーネ菌DNA量と環境検査結果には有意な用量反応性が見られ、
環境検査感度 90%となる糞便中ヨーネ菌DNA量は 9.3×10 -3 pg/well と算出された(図
2)。
𝑦=
3
0.8
-2
◆:環境検査陽性、◇:陰性
太線:式2、細線:式2の標準誤差
破線:感度 90%
2
1.0
1
・・・式2
1+𝑒𝑥𝑝(−9.69−3.89𝑥)
プール材料の利用の検討
ロジスティック回帰分析により式3が導出され、プール材料中のヨーネ菌DNA量と
判定結果に有意な用量反応性が見られた。確率 90%で検査陽性となるプール材料中ヨー
ネ菌DNA量は 1.4×10 -3 pg/well と算出された(図3)。環境検査陽性9農場の環境材
料各 10 検体中にはすべてそれ以上のヨーネ菌 DNAが含まれていた(表1)。
𝑦=
Ⅲ
1
・・・式3
1+𝑒𝑥𝑝(−15.8−4.77𝑥)
考察
糞便中ヨーネ菌DNA量が 3.7×10 -1 pg/well 以下の患畜は感染力が比較的弱く、この
閾値を超えると排菌量の増加に伴って患畜の感染力が強くなっていくことが明らかとな
った。実験感染例において感染の成立には一定のヨーネ菌数が必要であることが報告さ
れている[11]。牛ヨーネ病のまん延には、農場ごとの衛生管理状況の違い等に影響を受
けるものの、実際の農場においても一定量を超える排菌量を示す患畜が関与すると考え
られた。糞便中ヨーネ菌数が 10,000cfu/g 以上の牛を super shedder とし、優先して摘
発・とう汰すべきとの報告もされている[1]。患畜の排菌量に基づき同居牛検査の頻度や
期間を調節することで、より効率的な牛ヨーネ病清浄化対策が実施できる可能性がある
と考えられた。なお、本調査は酪農場と肉用繁殖牛飼養農場を併せて統計解析したが、
両者で飼養管理状況が異なることや搾乳牛では培養検査を実施していないこと等の差異
があることから、各々で調査することでより正確な患畜の感染力の閾値が得られると考
えられ、今後改めて調査を実施したい。
環境検査の感度は、農場の患畜の糞便中ヨーネ菌DNA量が 9.3×10 -3 pg/well で 90%
に達することが明らかとなった。これは環境検査によって、感染力が閾値を超える前の
患畜の存在する農場を摘発可能であることを示すと考えられた。糞便中ヨーネ菌DNA
量が 9.3×10 -3 pg/well 未満の患畜は見逃される可能性があるが、このような患畜は感
染力が比較的弱いため、直ちに同居牛等に感染を拡大させる可能性は低いと考えられた。
また、飼養頭数は独立変数として選択されなかったことから、環境検査結果に与える影
響は小さいと考えられ、過去の報告と一致した[2,7]。5検体毎のプール材料2検体の検
査で個別の環境材料 10 検体の検査と同等の感度が得られると示唆されたことから、環境
検査はどのような規模の農場でも基本的にプール材料2検体のリアルタイムPCR法に
より実施可能であると推察された。これより、過去の報告 [1,2,3,6,7,9] と同じく、環
境検査は牛個体検査に比べて省力的で低コスト、牛に対して非侵襲的であることから頻
回検査に適すると考えられた。一方、現在のサーベイランス体制では未だに牛ヨーネ病
発症牛が発生しているのが現状であるが、これは用いている検査法が低度排菌牛におい
て感度が低いとされている血清学的検査で[4,5,13]、かつ検査間隔が長すぎることが要
因と推察された。頻回の環境検査により感染力が閾値を超える前の患畜を確実に摘発す
ることで、現在よりも牛ヨーネ病の清浄化を効率的に進めることができると考えられた。
糞便中ヨーネ菌DNA量と環境検査結果には有意な用量反応性が見られたことから、
環境検査は現在農場に存在する患畜の排菌量を反映すると考えられた。一方で、ヨーネ
菌DNAが離農後の農場の環境中で2年間残存したとの報告がされている[8]。営農中の
農場では清掃・消毒によりヨーネ菌DNAが排除・分解されると推察されるものの、今
後、患畜の発生が1年以上見られない農場で環境検査を実施する等してヨーネ菌 DNA
の環境残存性を確認する必要があると考えられた。
以上より、環境検査は牛ヨーネ病清浄化のためのサーベイランスに活用可能と考えら
れた。また、患畜の排菌量が牛ヨーネ病のまん延状況に大きく関与することが改めて確
認された。今後は、シミュレーションモデル等を用いて環境検査と血清学的検査の比較、
及び患畜の排菌パターンを考慮した環境検査間隔の検討を実施し、より効果的な牛ヨー
ネ病防疫体制が構築されることが望まれる。
参考文献
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