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概況
スイスは欧州中央アルプス山岳地方の山と湖に囲まれた人口 800 万人足らずの小国である。
しかしながら、20 世紀前半に起こった 2 回の世界大戦を辛うじて中立を保ってくぐり抜けた結
果、戦後の経済的繁栄と産業の発展は目覚ましく、90 年代の経済不況、2000 年初頭の IT 不況、
2009 年の金融危機、経済不況をも乗り越え、現在、欧州で最も経済および産業が高度に発達し
た先進国の一つとなっている。
周囲を EU 諸国に囲まれた陸の孤島でありながら、実際には EU 諸国とは 100 を超える 2 国
間協定によって、経済的に EU 経済圏に深くインテグレートしているのが実態である。
スイスの公共調達市場は、年間総額 400 億スイスフラン(約 3 兆 4,000 億円、1 スイスフラ
ン=85 円で換算)にのぼり、国のサイズが小さい割には看過できない規模である。その調達内
容は、建設工事から IT ソフトウエアまで広範囲な様々な製品がかかわっている。2010 年 1 月
から 10 月までの公共調達案件数は、3,505 件にのぼる。以下はスイスの公共調達市場の主な特
徴である。
スイスの公共調達市場は、連邦政府、州政府、市町村および公共事業会社の 4 つのレベルの
発注元がある。世界貿易機関(WTO)において取り決められた国際協定に基づいて外国企業も
応札が可能になっている。2010 年 1 月から 10 月までに発表された 3,505 件の落札案件を数字
によって概観すると以下のような状況である。
全体
3,505 件
総額 400 億スイスフラン
・5百万スイスフランを超える案件
152 件
合計 33 億スイスフラン
(内 外資系企業獲得分) 15 件・外資系企業落札件数
(内ドイツ企業落札件数
158 件
85 件)
(内スイス日系企業落札件数) 10 件 総額 4,440 万スイスフラン)
(在独日系企業が落札件数
1 件)
スイスの主要なインフラ・プロジェクトは今後 20 年から 30 年間において、スイス国内で
実現されるプロジェクトであり、鉄道網、道路網などが主要なものである。特に外国の企業は、
スイスに何らかの拠点を持つか、合弁事業(JV)として応札することで落札件数を増やすこと
ができる。
スイスの公共調達・・・定義と法的ベース
プロジェクト案件の発注元は以下のように区別される。
1. スイス連邦政府
2. スイス連邦公共事業体(スイス国鉄など)
3. 26 州の各政府
4. 各州政府事業を請け負う組織又は団体
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5. 約 2,000 の市町村
6. 各市町村の事業を請け負う組織又は団体
他の先進諸国と同様にスイスにおける公共インフラ事業は、道路、鉄道、エネルギー供給な
どの基礎インフラ設備から、学校や病院の建設、コンピューター設備、ソフトウェアまで幅広
い製品や物品、サービスをカバーしている。
スイスの公共調達事業は、3 つの法的レベルに区別される。
1. 国際協定に基づくレベル
・ 政府調達に関する WTO 協定(GPA)
同協定によれば、建設プロジェクトや商品やサービスの公共調達において、ある一
定金額を越える場合、国際入札を行わなければならない。その目的は国内公共調達
市場を開放することによって、透明性と競争を高めるためである。
・ EU との 2 国間協定
WTO 協定の適用範囲を拡大する公共調達システムに関する EU とスイス間における
協定。同協定では政府の公共調達分野のみならず、地域や市町村の調達プロジェク
トもカバーしている。
2. 連邦レベルにおける関連法規
・ 公共調達に関する連邦法(FAPP)
2010 年 5 月、政府は FAPP の修正法案を議会に提出した。
・ 公共調達施行法(OPP)は 2009 年 11 月に修正及び改正された。
・ 2010 年 6 月の財務省規則により公共調達金額の限界値が決められた。
3. 州および市町村レベル
・ 連邦法を基礎として、公共調達に関する各 26 州間における法的枠組みが取り決めら
れた。
スイスの公共調達プロジェクトは、以下の金額を越える場合、上記の法規制に従わなければ
ならない。
・ 23 万フランを超える場合
・・・
商品およびサービス
・ 70 万フランを超える場合
・・・
SwissPost(郵便公社)による車両購入
・ 870 万フランを超える場合
・・・
建設工事
* FAPP、OPP 法規の原文は、フランス語又はドイツ語
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スイスの主要なインフラプロジェクトは以下の分野である。
A.公共輸送
鉄道インフラプロジェクト
①新アルプス横断鉄道トンネル(NLFA/NEAT)計画
②DIF 鉄道インフラ開発計画
③LGV 高速連結計画
④CEVA 計画
⑤鉄道 2030 計画
B.公共輸送
高速道路網整備
①高速道路 A5
ビエンヌ市
②高速道路 A9
ヴァレー州
③高速道路 A16
A.
ジュラ縦貫通
鉄道インフラ
スイス国鉄は、毎日、90 万人が利用している。人口当たりの鉄道利用率は世界トップレベルで
ある。国際鉄道連盟によるとスイス人は一人当たり年間 2,422km 電車に乗っているという
(2008 年)。日本人が第 2 位で 2,010km。3 位はかなり離れてフランス人の 1,377km である。
スイスでは毎日、9,000 車両の電車が鉄道網を走っている。スイスの鉄道網は世界で最も使用
頻度が多い鉄道であると言われている。
スイスにおける鉄道利用率は、6 年前に比較して 17%増加している。スイス国鉄が予想したよ
りも利用客数が増えており、結果として、スイス国鉄の電車とインフラ設備はフルキャパシテ
ィで使用されているといえる。鉄道乗客数は 2030 年には現在より 50%増加すると推測される。
スイス国鉄にとっての課題は、電車のスピードアップよりもむしろ輸送能力(キャパシティ)
をいかに高めるかが問題なのである。この課題を念頭に置き、スイス国鉄経営陣および連邦政
府関係者は、スイスの鉄道インフラをいかにして改善するかについて、いくつかのプランを発
表した。以下にその主なものを紹介する。
① 新アルプス横断鉄道トンネル計画(NLFA/NEAT)
このプロジェクトは、2010 年秋に世界最長のトンネルとして貫通式が行われたゴッタル
ド基礎トンネル工事(57km)とロッチエベルグ・トンネルである。中央アルプスを横断す
るこれら 2 つのトンネルが、このプロジェクトのコアであり、欧州のアルプスの南側と北
側を結ぶ鉄道幹線となるものである。道路による物資や旅客の輸送を鉄道輸送にシフトさ
せるというスイスの目玉プロジェクトである。計画当初180億フランとい推定された(1998
年)予算は、10年後の2009年には物価上昇の影響もあり192億フランと見積もられている。
この新トンネルが正式に開通するのは2017年か2018年と予定されてい る。
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② DIF(仏語で「鉄道インフラ開発」の意味)計画
DIF プロジェクトは NLFA プロジェクトを完成させるためのインフラ整備計画である。
鉄道線の密度からくる問題を解決し、新ゴッタルドトンネルへのアクセスを容易にする。
下の図で赤線になっている区間の路線整備である。総額 54 億フランのプロジェクト。
第 1 段階は 63 のプロジェクトからなり、全プロジェクトが終了するのは 2025 年である。
Rail2030 計画への第 1 ステップとなる重要なプロジェクト。
DIF プロジェクト(赤線部分)
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③ LGV
高速鉄道線
EU 諸国の鉄道プロジェクトは時速 230Km を超える高速鉄道が少なくないが、都市間の距
離が比較的短いスイスにはそのような高速鉄道を建設する計画はない。しかしながら、ス
イス国鉄の電車は TGV(フランス高速鉄道)、ICE(ドイツ高速鉄道)に接続しているため、
160 Km から 230 Km で運行が可能になるようインフラ整備(高速用車両導入など)が計
画されている。
仏 TGV・・・ジュネーブ、ローザンヌ、ベルン、チューリッヒに毎日乗り入れている。
独 ICE・・・バーゼル、ベルン、チューリッヒに乗り入れている。
国際列車は、チューリッヒ/シュッツガルト(独)、チューリッヒ/ミラノ(伊)、バーゼル/
ベルン/ミラノ(伊)、ジュネーブ/ブリッグ/ミラノ(伊)を結ぶ。 下図参照。
LGV プロジェクトの総予算は 10 億 9,000 万フラン、2015 末までに終了予定。
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④ CEVA プロジェクト
ジュネーブ中央駅と仏領アヌマス市を結ぶ 16km の電車線であるが、3 分の 2 はトンネル
工事である。このプロジェクトはジュネーブ州とスイス国鉄のジョイント・ベンチャー(JV)
事業である。フランス領にかかる部分はフランス側が建設する。
工期は 6 年間で 2016 年には開通予定。推定予算は 9 億 5,000 万フラン。
工費の 58%はスイス国鉄、42%はジュネーブ州政府が負担する。
ジュネーブ州市街地を横断してフランス領に接続する新規電車線予定図
⑤ Rail
2030 プロジェクト
スイス国鉄と連邦政府関係当局は、現在、Rail
2030 プロジェクトを立案中である。
スイス国鉄は朝夕の通勤客を運ぶ車両および車両座席のキャパシティを増大させ、電車の
停車駅を近代化する計画である。多くの駅が長くなる電車の車両数にあうようプラットホ
ームを延長しなければならない。全体の総合ビジョン策定は 2010 年に終了し、現在、政治
レベルで検討議論されている。2011 年春には最終的なプロジェクトが決定される見込みで
ある。現在の案が議会で承認されると、プロジェクト遂行期間は 2017 年から 2040 年まで
となる。プロジェクトは、総額 120 億スイスフランと、210 億スイスフランの二つからな
る。
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B.
道路インフラ
スイスでは旅客輸送の 80%、貨物輸送の 50%が道路によって行われている。
良好な道路網および高速道路網を整備することは、経済活動の重要な要素である。
連邦政府が高速道路網(下図、緑の線)を管轄する。各州および市町村が青線の道路を管
理している。新規道路建設ばかりでなく、道路補修メンテナンスの予算は大きい。
௨ୗ࡟≉࡟኱ࡁな 3 つの道路インフラプロジェクトを紹介する。
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① 高速道路 A5
ビエンヌ/ビール市
本プロジェクトはビエンヌ市近郊まで敷かれた高速道路を同市郊外で接続する環状道路
建設プロジェクトでもある。
この計画は 30 年来検討されてきたが、ようやく 2007 年に実際の工事がスタートした。
本プロジェクトはいくつかにわかれており、最終的に工事が終了するのは 2025/2026 年
の予定である。総額 27 億フランにのぼる。工費の 87%は連邦政府によって負担され、残
りの13 %はベルン政府が負担する。以下のウェブ サイトで さらに詳しい情報を見ることが
できる。
www.a5-biel-bienne.ch
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② 高速道路 A9
ヴァレー州
本プロジェクトは、シエール / ビスプ間の高速道路建設工事である。
高速 A9 線は 1975 年に 31.8km 建設された。環境問題が提起されたため、計画は大幅に延
期され、25 年後に工事再開となった。最終プロジェクトの工事費は、7 億 9,400 万スイス
フランである。96%は連邦政府、4%をヴァレー州政府が負担する。さらに詳しくは ウェブ
サイトを見られたい。 www.a9-vs.ch
(出所:連邦政府道路局)
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③ 高速 A16 プロジェクト(ジュラ山脈横断高速道路)
本プロジェクトはジュラ地域関係者の長年の夢のプロジェクトである。
最初の計画は 1960 年にできたが、連邦政府の道路計画に組み入れられたのは 24 年後の
1984 年であった。この高速道路はビエンヌからジュラ山中のボンクールを結び、同地域が
スイスの高速道路網の恩恵にあずかれるようにすることが目的である。A16 は全長 85km
で現在 48km まで完成している。全線開通するのは 2016 年の予定である。
A16 の総工事費は、61 億 7,700 万スイスフラン、ベルン州内の建設工事は 87%を連邦政府
が負担し、ジュラ州内の建設工事は 95%を連邦政府負担で行われる。
(出所:連邦政府道路局)
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