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シナリオ - Shell Global

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シナリオ - Shell Global
ニューレンズ
シナリオ
移行期にある世界への新たな展望
前書き
05
はじめに
06
新時代に向けた新しい「視角(レンズ)」
09
パラドクス
10
道筋
12
パノラマ:ニューレンズシナリオ
16
マウンテンズ
22
マウンテンズ・シナリオの概要
23
西から東方への地政学的な勢力移行
26
経済が辿る道筋 -好況と不況
30
エネルギー:ガスの存在感の高まり
34
オーシャンズ
46
オーシャンズ・シナリオの概要
47
多様な岸辺
50
経済 -高成長と大不況
56
エネルギー :需要の大波
59
経済発展と持続可能性についての考察
70
結びの言葉
78
補足:各シナリオの比較、定量分析、用語集、
ニューレンズシナリオ は、シェルの経営陣が将来の事業環境に対
する捉え方に自ら一石を投じるために、過去40年間採用してきた
経営戦略手法:シナリオ作品のひとつです。
シナリオは、
将来に対する仮説を因果関係に基づく
「もっともらしい」
ストーリーとしてつむぎあげ、
さらにエネルギーモデルを通した
定量化を行い、将来に起こるかもしれない事業環境の大きな変化
を経営陣が認識できるよう設計されています。
従ってシナリオは、
将来もっとも起こりそうな事象や結果を
「予測」
することを目的としていません。投資家の皆様におかれましては、
ロイヤル・ダッチ・シェルへの投資をご検討される際、
このシナリオに
基づいて投資判断をなさいませんようお願いいたします。
データの出典
80
時系列で語るニューレンズシナリオ
92
ニューレンズシナリオ 目次 01
目次
そこで世界を大局的に眺めるために、
「視角(レンズ)」
を二セット、用意しました。これらを通して二つの未来
を探索し、今日の選択が世界にもたらすかも知れない
結末に焦点を当てていきましょう。
オーシャンズ
マウンテンズ の世界は、今日影響力を持つ人々や
組織によって権力が固定化されてゆく、
現状維持の
世界です。社会システムの安定こそが最も重要
であり、
権力の頂上にいる人々は、天然資源の
開放を徐々にかつ慎重に行い、市場原理にのみ委
ねないよう調整してゆきます。結果、社会経済体制
は硬直化して経済は活力を削がれ、社会の流動性
は抑制されます。
オーシャンズ の世界は、少数の人々だけが影響力
を持つ世界ではありません。権力が広く委譲され、
利害衝突は調整されてゆきます。ここでは妥協
こそが最も重要なルールです。経済活動は改革
の大波に乗って高まりますが、社会の一体性は時
に損なわれ、政治が不安定化します。そのため
個別政策が停滞せざるを得ず、結果、市場原理
による調整が大きな役割を果たします。
ニューレンズシナリオ マウンテンズ と オーシャンズ 03
移行期にある不安定な時代にあっては、一つの
「視角(レンズ)」だけを通して明日の世界を見
ようとするのは現実的ではありません。ネットワー
ク化された権力、政治におけるアジェンダ変化の
速さ、天然資源の将来展望など、様々な重要課題が
存在する中、大局観こそが見識を生み出します。
マウンテンズ
先般、
シェルのシナリオプランニング活動が40周年を迎
えました。シナリオの制作に費やしたこの40年間を振り
返り、そしてその間シナリオに携わった多くの才能ある
人々のことを思い起こすと、
シナリオがいかに幅広い問題、
議論、そして経営の意思決定に影響を与えてきたか、
に心打たれます。
思い返せば1970年代初頭と現在は、
ビジネス環境に多
くの類似点があることに気づきます。世界経済や一部の
国や地域の政治体制の不安定さは、その一例です。一方
で今日的な特色も現れています。それは天然資源システム
全体にかかわる複雑な課題です。この課題は、
シェルの
ニューレンズシナリオ は複雑な内容を含んでいます。
私たちがどのように環境変化に順応し、対応し、そして
制約するかもしれません。
強靭なビジネス創造するかを問うています。この問いに
ついて更に考え、
シナリオで考察される問題を議論して
2011年、
私は社内の戦略検討チームに
「水、
エネルギー、
ゆくプロセスが重要です。今後数年にわたり発表
食糧の問題連関」
を調べるよう依頼しました。これこそが
してゆく補足スタディは、議論を前に進めるための手助
課題です。私たちはこの複雑な課題を
「ストレスネクサス
けとなるでしょう。
(ストレスの連鎖)
」
と呼んでいます。私は、
シェルの成功、
そして広い意味では社会全体の成功は、
ストレスネクサス
このシナリオが読者のアイデアを喚起することを願って
に対処してゆく共働作業にかかっていると信じます。私た
います。またこの機会に、皆様も討論に参加して下さいま
ち企業は、
効果的なビジネスを構築することにより社会に
すようお願い申し上げます。■
貢献します。イノベーションと効率性が高収益をもたらし
ます。が、
シェルとしてなお一層改善し、
迅速に遂行すべき
は、
他の企業や、
他産業や、
世界の様々な地域政府および
Peter Voser
民間団体との協力を、
さらに強化すること。これによりわれ
ロイヤル・ダッチ/シェル社CEO、
われの世界は、
はじめてシステムレベルでの協調から得ら
2013年3月
れる効率性を享受できるのです。
将来の発展を考えるにあたって、私たちの創造的活力を
ニューレンズシナリオ は、水、エネルギー、食糧といった
必要不可欠な資源に対する需要が2030年までに40%~
50%増加すると予想しています。従来通りのビジネスを
行っていては、
環境を大きく損なわずにこの規模の需要を
満たすことはできません。これまでと違うやりかたが求
められます。私たちは、遠からずパートナーシップ強化
のための詳細を発表し、引き続きエネルギーシステムの
変革に向けて積極的に活動していくつもりです。
ニューレンズシナリオ 前書き 05
前書き
今後40年に向けた
ビジョン
私たちは皆、数年後あるいは数十年後の未来に影響する
シナリオのアプローチはまた、意思決定者にある重要な
選択に、今、直面しています。それが新たな機会を切り開
見識をもたらします。それは、自身にはない発想や見方を
くものであれ、大きな脅威を引き起こすものであれ、私
他者が持ちうること、それらに効果的に関わっていく必要
たちは将来の展望に基づいて選択をします。
したがって、 があること、そして、他者の意思決定が自身の未来に大
きな影響を与えるということについての、
より深い認識
未知の未来を形成する様々な原動力、
トレンド、不確実性、
です。だからこそシェルのシナリオは、一見人間の意志や
選択肢、ならびに問題が繰り返される様などを可能な限
行動を介在しないように見える経済現象や政治現象、
ある
り把握しておくことには、計り知れない価値があります。
いは社会現象を書いているのみならず、
登場人物たちと
ところが未来のあり様は、
見る人が変わればまったく異
その行動様式を考察し、登場人物同士の関係性を強調し
なって見えることがあります。
て書かれます。
未来を完璧に予想することはできません。
しかしだからと
いって全くの無秩序でもありません。未来像を探究して
ゆくと、必ずや別の未来像が浮かび上がってきます。シェ
ルは今日まで40年以上にわたって、対照的な構造を持
ったシナリオを作成し、
未来について深く考え、
戦略的思考
を深めてきました。またわれわれのシナリオ作品が、人類
が直面する課題と選択にかかわる公共の場での議論に
寄与すると思う際には、
シナリオ作品の概要を公開して
きました。
これらのシナリオは、
シェルの経営陣が全くなじみのない
困難な状況に取り組む時に、未来に起こりそうな展開を定
量的に示し、議論のための共通言語を提供するものです。
シナリオは思考を刺激する目的で作られますが、荒唐無
稽であってはなりません。シナリオはすでに表面化している
問題だけでなく、
いずれ浮上してくる出来事までも明るみに
出します。そして対照的な複数のシナリオを効果的に活用
すると、経営陣の間で見解が分かれる、むつかしい課題
に対しても、協働して取り組むことができます。
私たちシェルがその力を体感したように、
シナリオ作品
とは、戦略的思考のプロセス、調査と分析、
シナリオ作製
メンバー間の相互作用、そしてなによりも個人やグルー
プを探求と発見に導く推進力、
これらが溶け合った「合
金」のようなものなのです。
ドナルド・ラムズフェルド元米国防長官が語ったように、
シ
ナリオの効用のひとつは、人々を団結させて未来を探究
させ、
「存在すら知られていない」分野を顕在化させるこ
とにあります。
こうした探求がめざすのは、
魅力的な小冊子
や報告書を作ることではありません。もちろんシナリオは
魅力的な小冊子たり得ますし、それもまた良いでしょう。
しかし重要なのは、
シナリオが人々を探究の旅に連れ立
ち、世界をより深く考察させ、人々がより良い選択ができ
るよう導くことです。
この探求は困難な場合もあります。哲学者のショーペン
ハウアーが指摘したように、新たな真実というものは最初
は無視されるか冷笑されます。次に激しく反対され、最後
にようやくそれが正しいことが理解されるようになります。
時にシナリオは、見当違い、ばかげている、不愉快、ある
いは不必要、
とみなされる場合もあるでしょう。
しかしこ
れまでのシェルの経験ではこの探究は行っていく価値
がある、
とされているのです。■
JEREMY BENTHAM
ビジネス環境担当副社長
シェルシナリオ責任者
ニューレンズシナリオ はじめに 07
はじめに
シナリオの力
■ 技術革新が進み、
シェールガスや超軽質原油の資源
前回発表されたシェルのシナリオ作品は、私たちの
開発が急速に拡大する可能性があります。北米での
経済、政治、社会、そしてエネルギー・環境システムが、
シェール革命はその影響を全世界に及ぼしています。
不安定な時代に、そして複雑な移行期に入ったことを
しかし他地域での普及は依然不透明です。また太陽光
示してきました。
発電などの再生可能エネルギーを活用する技術も
進歩、確立し、供給量が急速に伸びつつあります。
■ 景気循環パターンに変化が見られます。
1980年代半
ばから2000年代半ばまでの期間、先進工業諸国の
■ 生態学的な研究が進んで問題がより明確になり、
われ
経済は、いわゆる
「大いなる安定期」でしたが、今や景
われの社会は大いなる挑戦を受けています。例えば
気循環サイクルが不安定になっています。
水、エネルギー、食糧の間でストレスネクサスが生じて
おり、それぞれの需要と供給が逼迫しています。これら
■ 経済の不安定が一因となり、
政治的、社会的不安が高
は連携しているために共食いの様相を呈しており、
ストレ
まりました。
スは複合的かつ加速度的に増大しています。
■ 国際機関は、
新興諸国の勃興に因って国家間の調整に
こうした変化と不確実性を目の当たりにして、
どんなに将
苦慮し、国際秩序に緊張が生じています。そして、既存
来展望を立てても、結局は大雑把で不完全なものになっ
の調整枠組み以外にも、
さまざまな調整手法が生まれ
てしまう、
と嘆く人もいるでしょう。
しかしシェルは、多くの
てきています。
新しい「視角(レンズ)」を持って、新たな角度から見慣れ
た景色を眺めると、未来にはっきりと焦点を合わせられる
■ ある地域では高齢化が進み、
他の地域では若年層が膨
ことに気づいたのです。
らむなど、
大規模な人口変動が生じています。急激な
経済成長を遂げつつある国でも発展の遅れている途上
これからご紹介する
「パラドクス」
と
「道筋」の「視角(レン
国でも、
間断なく都市化が進んでいます。
ズ)」は、変化のトレンドや原動力を詳細まで拡大して観
察する助けとなります。他方で、大局的なシナリオ作品
■ 人口増加と経済発展に因ってエネルギー需要が急増
(パノラマ)
は、将来展望のより広いパターンをハイライ
しています。従来型のエネルギー供給が需要増に追
トしていきます。
いつかず、新たなエネルギー源が現れています。一方
で、石炭消費が伸びていて温室効果ガス排出量が増加
しています。
「現状維持を望むなら、
改革が必要だ」
ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ
(GIUSEPPE TOMASI DI LAMPEDUSA)
「山猫」
(原題:The Leopard)
ニューレンズシナリオ 新時代を見通す新しい「視角(レンズ)」 09
新時代を見通す新しい
「視角(レンズ)」
3つのパラドクスの「視角
(レンズ)
」
を
通して未来を見通すと、鍵となるいく
つかの特徴が浮かび上がってきます。
「繋がり」のパラドクス
人々の繋がりはグローバルに広く強くなっていきます。
それによって創造性が刺激されますが、同時に知的財産
がリスクにさらされます。人々が繋がることによって個人
の表現力と影響力が高まりますが、同時に群集行動を促
し、自信や欲求が過剰になる可能性があります。インター
ネットから入手可能な情報が急増して見識は深まり、物事
の透明性がもたらされましたが、情報の蔓延により混乱と
曖昧さも生まれています。
「繋がり」のパラドクスは他の2つのパラドクスを深め
ます。情報通信技術の整備により、経済のグローバル化
密に繋がったことにより、不安定さが異常ともいえるほど
強まっています。密な繋がりによって個人が力を持つよう
になるからです。たとえば、貧乏な露店商人が中東全域
で政府転覆の火付け役になることができます。一人のハ
ッカーが大手企業や国営事業の機能を崩壊させることが
できます。
「アノニマス」を名乗り、少数の「ハクティビス
ト」が企業に数百万ドルの損失を与えることができます。
スコットランドの教会で歌っていた聖歌隊の女性がテレ
ビのオーディション番組に出演したらその映像が急速に
広まり、彼女のアルバムが世界中のチャートでナンバー
ワン。一夜にしてスターになるのです。
が進みました。貿易、
財政、
および研究活動の結びつきが拡
資源を巡る
「ストレスネクサス」
国連機関及びシェルの分析によれば、
2030年までには
世界の水、
食糧およびエネルギーに対する需要は現在より
40~50%増加すると予測されています。これらの資源の
相互依存システム
(ストレスネクサス)
も不安定さを増します。
エネルギー需要が増加すれば水の需要も増加し、
食糧と水
に対する需要が増加すればエネルギー需要も増加します。
気候変動は異常気象をもたらし、農業や生活に打撃を与
える長期的な干ばつや激しい洪水などが発生します。
水不足は、社会的、政治的な不安定さを増す要因となり、
紛争を引き起こし、回復不能な環境破壊の原因となる
可能性があります。
大・深化し、豊かになりましたが、
リ-ダーたちが抱える課
題も増えました。政治、経済、社会における不安定さは、
「豊かさ」のパラドクス
これまでも私たちに付きまとっていましたが、
ソーシャル
ネットワークサービス等を通して人々がかつてないほどに
食糧需要の増加とともに、食事が炭水化物からタンパク
質中心に移行すると、資源のフットプリント
(土地、水、エネ
「豊かさ」のパラドクス
ルギーの利用)
が大幅に拡大する可能性があります。
「リーダーシップ」のパラドクス
経済発展によって、数億もの人々の生活水準は向上して
世界規模のストレスに対処するためには、政策決定者
いきます。
しかし他方で、
環境、
資源、
財政、
政治、
社会にお
を支持している様々なグループの間で政策協調が必要
けるストレスも増加する結果となり、経済発展から得
です。
しかし関与するグループが多様化すればするほど、
られる利益の一部は蝕まれています。個々人の利益の
それぞれに抱えている既得権益が全体の進歩改善を妨
追求が図らずも公共セクターのコスト負担を増やしてし
げてしまう傾向があります。
「速く行くならひとりで行こう、
まいます。また今日の快適さは明日の大きなリスクとなり
遠くへ行くなら皆で行こう」
というアフリカのことわざが
得るのです。グローバル化によって国と国との間の所得
あります。
しかし、増大するストレスに対処するには、速く、
格差は縮小したものの、
一国内での格差は拡大しています。
かつ遠くへ行くことが必要です。すなわち、ひとりで行
効率的なモノやサービスが現れると、人はますます消費
きたいが皆で行かなければならない、
という矛盾。この
社会が直面する問題が、
より大きく、
より技術的なもので
あるほど、政府単独で問題解決を図ることは難しく、
ビジ
ネスその他のセクターの支援を求めざるをえません。
他方で、成熟した民主主義国家では、ひとびとが団結して
特定の圧力団体を作って政府に働きかける力が大きくな
るほど、政府は国民共通の利益となる政策をとりにくくな
ります。さらに、多くの国々では新しい情報通信技術によ
って、個人が力を持つと同時に、政府が個人を監視する
力も強くなっています。
を刺激されます。経済発展は人々を幸せにしていきますが、
矛盾を解消するためには、国家間、公と私、産業セクター
ある段階を超えると、経済発展が続いても主観的な
を分ける見慣れた境界を超えた斬新な形の協力・連携が
幸福感が向上せず、むしろ低下する場合さえあります。
求められます。
しかし、
そうした理想的な協力・連携の実例
たとえば、豊かな人々が増えるほど、他の人が豊かになる
はなく、
各グループはそれぞれの目の前にある問題に
のを見るほど、欲求や自分自身または子供たちへの期待
集中し、自分の責任範囲のみに気をとられ、新たな協力・
が大きくなります。そして欲求が満たされないことへの
連携の実現に向けて動き出せずにいます。
そのものからもパラドクスが生じます。公共性の高い
すべての国のリーダーは困難な政策ジレンマに直面して
自分が短期的な犠牲を払おうとはしなくなるのです。■
不満もまた増していくのです。
います。政府は変化のスピードについていけずに、対応が
後手に回る傾向があります。長期的な問題、
複雑な問題、
またはあまり人気のない問題は政治家の権力争いに利用
されてしまい、解決に向けて前進しません。
このようにグローバル化によって各国政府のリーダー
たちは、
パラドクスに直面しています。
グローバル化の力が
強まれば強まるほど、各国中央政府の能力は低下します。
また、差し迫った危険がある場合を除き、人間の本性
長期的な解決策が必要になればなるほど、個人の側は
「リーダーシップ」のパラドクス
各国政府は、
たとえ水、食糧、
エネルギーの相互依存シス
テムについて十分に理解できないままであったとしても、
「ストレスネクサス」
に対応していく必要があります。バイオ
燃料を巡るいわゆる
「食糧と燃料の競合」問題は、全ての
食糧と燃料にはトレードオフがあると示唆しています。
問題は複雑です。利害関係者間の議論枠組みが問題解決
の方向を決定していくでしょう。
「繋がり」のパラドクス
大半の国は、食糧、エネルギーおよび水が相互依存する
「ストレスネクサス」の下で自給自足の状態にありません。
国家レベルでの食糧供給保障とエネルギー供給保障の間
のトレードオフとは何でしょうか?世界の商品市場で価格
のボラティリティが増したら、それは国家の食糧やエネ
ルギー供給保障にどのように影響するのでしょうか?
ところで、資源を巡る
「ストレスネクサス」は課題と同時に、
機会も提供します。すなわち、思いがけない人、国、組織
との新たなコラボレーションが展開するかもしれません。
ニューレンズシナリオ パラドクス 11
パラドクス
「裁量による改革」
以下例を挙げて説明しましょう。
3つのパラドクスに内在するストレスが、
変革の時代を加速
します。各国それぞれに、
経済モデル、
政治体制、
社会体制
既得権側が今までに蓄積してきた財政的、
社会的、
政治的
に課題を抱えています。米国は、長期にわたる世界的影
または技術的な能力が、政策当局をして次の一手を前倒
響力の低迷、そして最近は深刻な経済不況や政治的難局
しで実行させ、効果的な変革が起きます。
からの回復の遅さが大きな課題となっています。中国
■ 世界金融危機で生じた混乱で深刻な打撃を受けたも
のの、
インド、中国、
ブラジルなどの国は、少なくとも
金融危機直後は、強靭であり続けました。これらの国
はそれぞれ、対応や改革を行うための財政、社会、政治
をはじめとする新興大国は、2008年には盤石に見えま
「膠着状態」
既得権側の財政的、社会的、政治的または技術的な能力
に、
もはや余力がなく、諸々のストレスを克服できません。
政策当局はストレスに対して受身の対応に終始し、
変革が
遅れ、事態は最終的に大変革や崩壊に至るまで悪化
します。
的資源、あるいは鉱物資源等の一次産品を持ち、
したが、安定かつ継続的な成長を模索する中で、現在様
「裁量による改革」を模索する道筋を歩んでいます。
々な不確実性と戦っています。
■ EU経済はこのような強靭さを持っておらず、
「膠着状態」
ストレスが生じて危機に陥る時、一部の国や共同体は
の道筋に捕まっています。
リーダーが政治的、社会的な
柔軟性を発揮して適応し変革ができるかもしれません。
小康状態を作ろうと努力する一方で、課題の解決のた
しかし、危機が増長し、劇的で苦痛を伴う大変革や崩壊
めの意思決定が先送りされています。そのためいつま
を強いられるまで、もがき続ける国や共同体もあります。
でも危機を脱せず、小規模な危機に繰り返し襲われて
これまでの歴史を振り返ると、二つの典型的な「道筋の
います。最終的には財政面・政治面で、既存システムが
視角(レンズ)」が、現状の理解と洞察に役立つでしょう。
破綻
(国家主権の共同管理等による)
し、再編や、ユーロ
私たちは、
この二つの「視角(レンズ)」を「裁量による
圏の解体につながる可能性もあります。
改革」
と
「膠着状態」
と呼びます。
もちろんすべての国や共同体が、
「裁量による改革」
または
「膠着状態」のいずれか一方の道筋を辿るわけではなく、
また全ての課題で、常に一つの道筋を辿るわけではあり
ません。あるひとに
「裁量による改革」
と映るものが、他
のひとにとっては「膠着状態」に見えることもあります。
道筋の視角(レンズ)
停滞
危機から脱する変革
初期の
危機的状況
更なる停滞/
悪化
が埋められます。
しかしギャップが埋まってゆく過程では遅延が生じ、
また
多くの阻害要因が立ちはだかります。ギャップの与える
不安が動機付けとなり、
解決をめざした新しいアプローチ
を促しますが、
同時に新しいアプローチを取り入れること
への不安・反対も発生するでしょう。変革を推進する社会
的、知的、政治的資源なしに、既得権益に打ち勝ち、
新たな
アプローチを実現するのは困難でしょう。他の阻害要因もあ
ります。制度機能不全、
社会の不平等や不安定などです。
社会システムの中にこうした阻害要因がありながらも、
変化が進むためには、
システム全体にわたって促進作用
を担う
「何か」が必要です。たとえばクイック・ウィン
(すぐ
に刈り取れる成果)。停滞を打破し既得権益に打ち勝
つためには、社会的にも政治的にも、変化を促すための
蓄積が必要なのです。
将来展望を通して繰り返されるパターンを、浮かび上
いた場合、移行できないままの「膠着状態」に陥ります。
がらせていきます。
けれども促進要因が働けば、
「裁量による改革」の道筋
が生まれるのです。■
拡大した
危機的状況
衰退/
崩壊
膠着状態
大変革
膠着状態
停滞
が不安や不満を生み、新たな問題解決手法を生み出
したり、既存の対応法の改善を促します。そして、ギャップ
このように阻害要因と促進要因との間の力のバランス
いにまったく異なる視座を持つことを考えてみてください。 によって「移行期」が形成されます。このバランスはケー
それでも、
この「道筋の視角(レンズ)」はこれから述べる
スバイケースで異なります。均衡力学が阻害要因に傾
国、
企業、
そして個人ですらも、
分岐点に直面します。
「裁量
による改革」の道筋を歩み、適応と改革によって直面する
課題に対処するでしょうか。あるいは変革が先送りされ、
ストレスの
増加
社会システムの観点から見ると、
「移行期」は、現実と理想
にギャップが生じたときに発生します。これらのギャップ
ひとつの部屋に一緒に閉じ込められた猫とネズミが互
裁量による改革
ストレスの
増加
「移行期」の力学
初期の
危機的状況
更なる停滞/
悪化
「膠着状態」の道筋に捕えられた揚句、大変革や崩壊に
至るのでしょうか。
拡大した
危機的状況
衰退/崩壊
ニューレンズシナリオ 道筋 13
道筋
2050年までに、
世界人口の約4分の3が都市に住むよう
になると予測されています。都市居住者が顕著に増えるの
は、
中国、
インド、
ナイジェリア、
米国の4カ国で、
何千もの
小さな町が急速に都市化し、
都市住民が劇的に増えます。
けれども新たに生まれるほとんどの都市では、未だイン
フラ整備計画がありません。Booz & Companyは、都市
インフラの整備と運営に今後30年間で350兆ドルを超
える巨額の投資が行われる、
と見込んでいます
(世界自
然保護基金(WWF)の調査報告書)。その大部分を新興
諸国が占めますが、必要な資金をいかに調達するかが大
きな課題で、国際金融システムに画期的なイノベーション
を起こす必要があります。この資金需要を満たすことが
できれば、都市インフラ整備は長期間にわたり世界経済
に巨大な需要を生み出すでしょう。
今日、世界のエネルギーの66%が都市で消費されてい
ますが、今後30年間でその割合は80%近くまで上昇す
る可能性があります。これまでの都市開発は、比較的安
価なエネルギーがあることを前提としていました。エネ
ルギーの安定供給と都市計画の必要性を十分に認識し
ニューレンズシナリオ 道筋 15
都市を見る新たな
「視角(レンズ)」
「豊かさ」のパラドクス
潤沢な資源に恵まれた健全な都市は、成長の勢いにまか
せるとスプロール化して無秩序に膨張し、
きわめてエネ
ルギー効率の悪い都市構造になる傾向があります。貧しく
人口密度の高い都市にも同様のリスクがあります。これ
らの都市は、自然の成り行きで短期的にコストの安い
解決策を選び、結果的に非効率なインフラから抜け出
せなくなるおそれがあります。
「リーダーシップ」のパラドクス
Mounting
Stress
地方政府のリーダーたちは、自分たちの手に負える問題
ではなく解決策を講じても不評を買うだけ、
と判断した
場合、都市のストレスを住民の居住性が脅かされるまで
放置するでしょう。政治は常に短期志向、他方でインフラ
整備は長期にわたります。この時間軸のギャップを埋める
のはきわめて困難ですが、それでも、都市の健全な発展
のためにはこれを埋める必要があります。
City growth virtuous cycle
都市成長の好循環
「繋がり」のパラドクス
ないまま都市開発が進められたために、都市は無秩序に
都市の成長に伴う諸問題を解決するためには、社会のす
膨張し、非効率なエネルギー利用が行われてきました。
べての構成員が力を合わせなければなりません。政府は、
■
競
商業的 争上の
優位性
■
賢明な都市開発に向けてより効果的なインセンティブや
制裁を導入する。社会は、個々人の物欲を和らげる努力を
競争上の優位性を生かすための企業投資:
‒ 生産拡大
‒ 効率的な技術
‒ 新製品ーサービス産業
■
政府のインフラ投資による事業環境の
効率化、快適性の向上
‒ 交通 ‒ サービス ‒ 快適性
‒ 通信 ‒ 教育
■
雇用と富を得る機会が、都市の外
から労働力を引き寄せ、労働力
プールと国内市場が拡大
■
教育と技能向上による人材と起業家
精神の育成
膠着状態
■ 先見性のあるリーダー層が協調して成長を推進
■ 市場原理だけで決まる経済成長
■ 政策当局が都市問題を予測し、
統合的な土地・交通・
エネルギー・水・廃棄物計画を実施
■ コンパクトシティ開発や公共交通の整備など、
構造的
にエネルギー利用効率を向上させる解決策
■ 知見の共有と尊重
■ 政策当局は、
問題は手に負えず解決策を講じても不評
を買うだけ、
と判断してしまう
■ 都市問題は居住性が脅かされるまで放置され、
インフラ
の再設計は困難
■ その場しのぎの個別の解決策
構 せ、
築
投
裁量による改革
寄
き
人 材 の 引 ルの
ー
人 材プ
の「ダンス」をマスターするのは至難の技です。
資
ートで統合的なインフラ・住宅・交通問題の解決策を提供
ゆる部門が協調していかなければなりません。
しかし、
こ
競争優位性の要素:
‒ 貿易ハブ
‒ 専門技術・知識の集積
‒ 経済特別区
■
し、全体のインフラ整備を優先する。そして企業は、
スマ
する。このように、今後豊かになるためには、社会のあら
持続的な商業的競争上の優位性の
継続的構築
地政学的状況が流動化して国際政治がより不確かになると、
われわれの世界はより対立的なものになる可能性があります。
この先の10~20年の移行期における地政学的課題を考
えると、以下の四要素が際立つでしょう。
米中関係
米国は、世界最大の大国であり続けるものの、多極化していく
世界を受け入れざるを得なくなります。どういう世界を構築
すべきかについては、米国は、異なる価値観や目的を持つ
他国と交渉しなければなりません。独自に行動するのではなく、
「変化を可能にする」
ことを学ぶ必要があります。米国は国際
秩序を支えてきた世界の公共財を、
もはや単独で提供しようと
はしないでしょうし、仮に提供しようとしてもできないでしょう。
米国に代わる新たな覇権国が現れなければ、あるいは米国が、
他国が自分と同等の立場に足を踏み入れることを認めないの
であれば、
リーダーシップの空白が生じるおそれがあります。
経済大国として成長を遂げる中国は、国際社会でより大きな
役割を担おうとせず、狭い自国の興味を追い続けます。これ
までは米中間に内在する構造的な違いは、貿易、人民元と
新たな国際体制:東方への勢力移行
移行期における地政学的課題の二つ目は、中国やインド
といった新興勢力が思い描く国際システムがどんな形
のものかということです。中国は、
これまで一貫して「平和
的台頭(和平崛起)」
という温厚な表現で、国際社会にお
ける自国目標を示しており、その裏付けとして、王朝時代
の朝貢制の下でも他国の内政に干渉したことはなかったと
主張しています。
しかし、朝貢制は、主権国家間の対等な
関係に根ざした世界ではなく、覇権国たる中華王朝を中心
とした制度でした。他の諸国は、中華王朝に忠誠を誓い、
朝貢を行い、良好な関係を維持できる政策をとっていた
のです。
ツキジデスの罠
ハーバード大学ケネディスクール(公共政策大学院)の
グレアム・アリソン教授は、
中国と米国が「ツキジデスの罠」
を回避できるか否かによって、
数十年後の世界秩序が決
まると述べます。歴史家の喩えが言わんとしているのは、
新興国が覇権国に挑戦するときに両者が直面する危険
です。歴史上、同様の挑戦がなされた場合、ほとんどが
紛争に至っています。平和的解決が図られた事例では、
当事国双方の政府と市民がお互いに相当な妥協をする
必要がありました。
古代アテネの勃興は、覇権国家スパルタに大きな衝撃を
この制度を、そのまま今日の地政学的秩序に当てはめ
与えました。不安に突き動かされて覇権競争が始まり、
るのは容易くありません。多くの国々にとって、
中国の
それが対立を生み、
やがて紛争に至りました。そして30
勢力圏に入ることは魅力的な選択肢ではないのです。
年後、
両国家はともに崩壊しました。ツキジデスは、
「アテネ
可能性として、2つのアジアの未来を描くことができ
の台頭とそれに対するスパルタの不安が戦争を不可避
ます。アジアは世界経済で最も活力に満ちた地域であり
なものとした」
と記しています。アリソン教授は、中国の
続けるかもしれません。
しかし、
まかり間違えば、世界
台頭が米国の当惑と不安をかきたてている今日の状況
秩序の中で最も紛争の起こりやすい、危険な地域にな
に、
これと同じ構図が見て取れると述べています。
るおそれがあります。
ドルの為替レート、徐々に増大する経済的不均衡といった
米中覇権競争
問題で顕在化しました。
しかし、今日、アジア太平洋地域への
影響力をめぐる両国間の地政学的競争が高まりつつあります。
「…米国と中国の覇権競争は不可避である。米中両国の
この地域では、日本が技術と投資と多額の政府開発援助
リーダーたちは、
この競争が世界秩序を脅かすような衝突
(ODA)
を通して大きな影響力を維持しているものの、今、
に発展することはない、
と楽観的な主張をしている。
米中両国の動きが活発化しています。米国が能力の限界
しかし、ほとんどの研究者の分析はそれほど楽観的では
まで影響力拡大を図る一方、自信過剰に陥った中国は自らの
ない。…米中両国の政治体制の違いを考慮すると戦争が
能力を超えてこの地域での自国利益を追求しようとします。
起きる可能性はさらに高い、
と悲観論者は考えるかもし
果たして米中のいずれかが決定的な影響力を持つことにな
れない。…[しかし]異なる政治勢力間の国際競争を方向
るのでしょうか?それとも、米中が互恵的な分野を見つけて
づける上で、
さらには勝者と敗者を分かつ上で、道徳が
協力してゆくでしょうか?
重要な役割を果たし得る。…最終的な勝敗は、いずれの
勢力がより多くの人心を獲得できるかによって決まる。
「より道義的な権威
(王道)
を示した国家が勝つ」
閻学通(Yan Xuetong)
清華大学国際政治学教授
そして、古代中国の哲学者が予言したように、
より道義的
な権威(王道)
を示した国家が勝つ」。
閻学通(Yan Xuetong)
清華大学国際政治学教授
‘How China Can Defeat America,’New York Times, 2011
ニューレンズシナリオ パノラマ 17
パノラマ
ニューレンズ
シナリオ
押し縮められる経済成長とゼロサム思考
第三の要素は、保護貿易主義、気候変動、核軍縮といった
第四の要素は、世界金融危機に対処するにあたり先進
グローバルな問題を解決する上で、
既存の国際組織・制度
諸国が、
2008年以前のモデルであるリベラル資本主義
がますます不適切になりつつあるということです。主要
にとってかわる画期的な新たなモデルを提示しなかった
な先進国と途上国が共に参加する
「主要20カ国・地域」
という事実です。つまり、今後は各国が経済政策や社会
(G20)
が国家首脳レベルの対話枠組みに格上げされ
政策を形成し実施していく上で、国家の役割が再び大き
たのは、世界金融危機への対応のためでした。世界の経
くなるかもしれません。
しかし、その一方で、景気後退や
済大国の中で中国とブラジルを入れていない主要8カ国
長期にわたる低成長によって、
政府が改革のために政策を
(G8)
に比べて、G20は実際の世界の勢力図をより正確
講じる余地は小さくなっています。分配すべき成長の
に反映しています。
しかし、G20は、議論の透明性と説明
分け前はなく、政治は、調整の痛み分けをいかに行うかに
責任に疑問が投げかけられており、
有意に機能する持続的
終始しています。その場合の重要課題は、成長が押し縮
な制度枠組みとして進化するに至っていません。
められ、経済のパイが小さくなったとき、誰が得をし、
誰が損をするかということです。政府に対する信頼が低下
また、国際通貨基金(IMF)
と世界銀行による政策介入は
する時代にあって、
この問いは人々の間で議論を呼び、
必ずしも全て成功しているとは言い難く、両機関のガバ
場合によって激烈な政治変動が起こり、危険なまでに先
ナンスはかつての経済大国による指導体制に固定され
の見えない不確実な状況に陥るおそれがあります。
たままです。振り返って実務官僚レベルでは、国際協力や
国際協調の既存枠組みを維持しようとしていて、そのた
結局、途上国であろうと先進国であろうと、世界経済に組
めの活動は拡大しつつさえあります。
み込まれた国はすべて、政治的正当性と社会的安定を
世界経済の構造
少数エリートが統治する貴族制の下では、統治者は一般
米国の南北戦争など注目すべき例外があるものの、
ほとん
大衆の大多数に対して、
安定と公正を提供することに政権
どのアングロサクソン諸国において、
この道のりは
「革命」
の正当性を得ました。が、過去一世紀の間に、経済成長の
追求が国家として不可欠の特徴となり、
成長の果実の分配
をめぐって統治者と被統治者の駆け引きがより複雑なも
のとなりました。
経済協力開発機構(OECD)諸国が20世紀に経験した自
由民主主義とは、各国が経済成長、富の分配、社会秩序
という3つの目標の間の緊張を緩和すべく取り組み、
最終的に成功するまでの道のり、
と言えるでしょう。これら
諸国は、1850年から1950年にかけて国家間関係を歪
めてきた植民地主義と国家総力戦による負の遺産を解消
しました。女性や少数派グループの政治参加も抜本的な
拡大が図られました。
バート・フーバー大統領の失策の後を襲い、大胆な改革に
乗り出しました。西欧のイタリア、
ドイツ、
スペインでは
国家統一後の日が浅く、両大戦が国土に与えた影響、
ファシズムの台頭といった要因もあり、
状況は複雑でした。
え、今日の新興諸国や途上国とかつての先進諸国との間
なく、
また失業しているか否かにかかわらず、激化する
影響を考慮しなければなりません。かつては約1世紀かかっ
た経済成長が、今日では、
ほんの一世代もあれば達成でき
される中間層から始まるのかもしれません。1918年革
そうです
(下の表を参照)
。
命後のドイツで、政治の過激化を招く原因となったのは
Human Societies)
ャンダルと大恐慌に対して、適切に対処できなかったハー
に単純な類似を見るのは誤りです。植民地支配の歴史的
グローバル競争の圧力の下で生活水準の低下を余儀なく
「銃・病原菌・鉄―1万3000年にわたる人類史の謎」
ングとカルヴィン・クーリッジの両大統領時代の汚職スキ
の主要新興諸国と、
さほど変わらない水準でした。とはい
する危険があります。先進国の崩壊は、貧困層からでは
(原題:Guns, Germs, and Steel: The Fates of
の行き過ぎを是正すべく改革に着手しました。そして、
フランクリン・D・ルーズベルト大統領は、
ウォレン・ハーディ
すが、
当時のこれら諸国の一人当たり国民所得は、今日
し、
スケープゴートを求める大衆心理に乗じてこれが増長
ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)
危機を回避すべく自ら率先して改革を押し進めたのです。
やがて、
こうした比較的豊かな国々は徐々に発展を遂げま
不安が高まれば、新たな原理主義的イデオロギーが台頭
ような新興諸国では、新中間層の高まる要求が、先進国
「人類史の大部分を
とは別の意味で、
しかしおそらく同じくらい大きな危険
占めるのは、持てるも をはらんだ圧力となって政府に重くのしかかっています。
のと持たざるものとの 北京コンセンサス対ワシントンコンセンサスという対峙
あいだで繰り広げられ する二つの統治モデルをめぐる論争の行きつく先がいか
なるものであろうと、国際政治は最終的に、自国の利害を
他国に押し付けるのではなく、交渉による利害調整が
た衝突の数々である」 できるような体制に移行してゆく、
ということなのかもし
セスでした。エリートたちは決定的な場面で体制存亡の
米国では、
セオドア・ルーズベルト大統領が金メッキ時代
維持していくためには、経済成長する必要があるのです。
中産階級の崩壊でした。一方、中国、
インド、
ブラジルの
というよりも
「進化」
という表現がふさわしい漸進的なプロ
歴史的推移 新興市場諸国と先進諸国の比較
同程度の水準が達成された年
中国
インド
れません。
韓国
年
一人当たりGDP*
米国
ドイツ
日本
英国
1985
1,519
1840
1856
1916
1820
2008
6,725
1940
1958
1967
1940
1985
1,079
1820
1820
1894
1820
2008
2,975
1880
1900
1957
1865
1985
5,670
1925
1955
1965
1935
2008
19,614
1986
2006
1994
2000
*1990年米ドル基準の実質GDPを購買力平価で換算したドル値
アンガス・マディソン
(Angus Maddison)氏(グローニンゲン大学)のデータによる。
ニューレンズシナリオ パノラマ 19
国際制度を待ち受ける険しい道のり
未来の地政学的枠組みにおいては、市場とは、富を生み
マウンテンズ・シナリオとオーシャンズ・シナリオ
これから述べるマウンテンズ とオーシャンズ という対照的
見ると世界経済が発展を遂げ、技術が拡散してきたにも
出すとともに不平等と不安定をも生み出す仕組みとして、
権力の分布と利用可能な天然資源の有無、そしてこの二
な二つのシナリオは、
これらの問題を考えるための新たな
かかわらず、一部の人々は、
グローバル化とはゼロサムゲ
現在より批判の対象となるでしょう。国家や市場に関
点が国家の政策や、市民、市場、経済成長へ与える影響を 「視角(レンズ)」を提供します。マウンテンズ は、高い山
ームである、
と考えるようになったのです。地政学的論争
する次なるコンセンサスがどういう着地点を見出すかに
見ていくと、世界各地で繰り返されるパターンがあらわ
々が連なり、高みに位置するメリットが発揮され、そこに居
も、既存勢力の犠牲の下に新興勢力が利益を享受してい
よって、21世紀の国際政治の方向性が定まり、今後の
になってきます。
る特権が擁護される世界で、
影響力を有する者たちが権力
るというゼロサム思考で展開されています。こうした考
グローバル化のあり方が決まっていくでしょう。現時点で
え方は、国際社会が気候変動問題に対して効果的な行動
は、
グローバル化に代わる選択肢は見えていませんが、
未来の世界が向かう先は、
「豊かさ」
と
「リーダーシップ」
をとれない一因であるだけでなく、
供給不安を背景とする
その影響力は、否定的な影響と肯定的な影響が入り混
と
「繋がり」のパラドクスそれぞれがもたらす、既存の
まな主体や事象が激しく入り乱れ、相反する利害が不規則
資源獲得競争を生み出しています。
じった複雑なものとなっており、先の方向は定かではあ
制度疲労や不平等、不安定化の問題に、人々や政府が今
に調整されます。
りません。
後どのように向き合っていくのかによって決まります。
多くの人々が論じているように、
グローバル化は、勢い
■ どのパラドクスがより深刻化するか
が衰えることがあってもその流れを止めることはない
■ どのパラドクスが解決されるか
でしょう。が、
グローバル化それ自体が、自由市場や自由
民主主義を促す傾向を備えているわけではありません。
実際、
グローバル化は労働者層のみならず、先進諸国の
中間層をも蝕むというのが一般的な見方です。途上国
側の労働者のスキルが向上し、技術水準も高まってゆく
からです。
資本主義とグローバル市場経済の歪みが、各国のナショ
ナリズムと衝突しはじめ、資源や環境負荷の限界が近
国家や市場に関する次なるコンセン
サスがどういう着地点を見出すかに
よって、21世紀の国際政治の方向性
が定まり、
今後のグローバル化のあり
方が定まってゆくことになるでしょう。
づき、緊張が高まります。グローバル化の次なる段階は、
間違いなく、過去1世紀に経験したいかなる混乱にも劣
らぬ波乱の道筋となるでしょう。
世界の所得分配
最富裕層と一般大衆の経済力は、今後どうなるか? 近年の傾向を参照して考える
80
実質所得増加率(%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
10
20
30
40
を保持しようとします。オーシャンズ は、大きな潮が押し
50
世界の所得分配の百分位
Branko Milanovic,‘Global income inequality by the numbers: in history and now’
, November 2012
60
70
80
90
100
■ どの産業、
どの企業、
どの国、
どの集団が「裁量による
改革」
に乗り出すか
■ どの産業、
どの企業、
どの国、
どの集団が「膠着状態」
に
陥ってしまうか
■ 資本力や、
ひとの協調する力や想像力はどう発展して
ゆくか
■ 権力や影響力の分布は、
どうなるのか
寄せ、激しい潮流が流れる大海原のような世界で、
さまざ
この二つの世界
(パノラマ)
には、
この先20年間にあらわ
になってくる社会、経済、政治の特徴が組み込まれてい
ます。この特徴が、今後半世紀にわたってエネルギー開発
に影響を及ぼします。更に、2100年以降の地球環境へ
の見通しは、
2つのパノラマによって形づけられます。
これ
が21世紀を見通すためのニューレンズシナリオ です。■
ニューレンズシナリオ パノラマ 21
グローバル化に対する不満の声も挙がります。長期的に
マウンテンズ 山頂の眺望 23
マウンテンズ
山頂の眺望
マウンテンズ の世界は、現在、優位な立場
(山頂)
にある
者が、
現状の体制を維持するかたちで社会の安定を生み
出そうとする世界です。そこでは、
既存の勢力と既存の
制度が自己増強し、
そのまま固定化してゆきます。社会
の中の一部の、
既得権を持つセクターは市場の力を活用
して、
巨額の資金と新たな技術を要する資源開発に取り組
んでゆきます。他方で、
既得権を持たない残りのセクター
の潜在経済力は抑えこまれます。恵まれていない人々に
マウンテンズ では富裕層が増えているので、
目を向けると、
彼らの寄付によって数々の基金が設けられるなど慈善活動
が活発です。が、社会のセーフティネットは薄く、慈善によ
って完全に補われるものでもありません。
振り返って、経済成長の勢いが衰えるとエネルギー需要
の増加はある程度緩和されます。コンパクトシティ開発
の推進などの政策が功を奏して、需要の伸びはさらに鈍
化します。
タイトガスやシェールガス、そしてコールベッドメタン
(CBM)
は、各地域で採掘が成功し、天然ガスが世界の
エネルギーシステムを支える基幹(「ガス・バックボーン」)
となります。液体燃料需要は伸び悩み、国際石油価格は
安定し、産油国側の増産余地は限定的です。
早い段階で経済成長が鈍化し、長期的に石炭から天然ガ
スへの転換が進み、二酸化炭素回収・貯蔵(CCS)技術や
政治、
ビジネス、そして社会生活におけるエリート層の
再生可能エネルギー利用に対するインセンティブ政策が
権力に対する潜在的な反発が存在しています。
しかし
行われます。結果、温室効果ガス排出量が抑制されます。
ながら、反発は最小限に抑えこまれ、社会の流動性がど
が、それでも地球の平均気温上昇は、現在目標とされて
んどん小さくなってゆきます。供給サイドへの投資は
いる温度上昇幅2℃を超えてしまうでしょう。■
活発です。
しかし、
どれだけ投資が行われても大規模な
構造改革や財政調整がないままでは、いずれ先進諸国
のGDPは伸び悩み、貿易も縮減するでしょう。急成長
を遂げてきた新興諸国も「中所得国の罠」に陥ります。
これは、途上国の国民の大部分が中所得レベルに達した
後に、経済成長が頭打ちになる現象を指し、複雑化する
経済活動に既存の国内政治・経済制度が適応できないこ
とが主因で起こります。
マウンテンズ・シナリオの概要
■ 優位性が優位性を呼び、
影響力は既存権力に集中し続
ける
■ 固定化された権力構造と制度によって経済発展が妨
げられる
■ 政策決定権者の数が比較的少ないので、
コンパクトシ
ティ開発、エネルギー、環境ストレスなどの分野で
効果的な政策が実施できる
■ 資源開発支援のための政策枠組みが設けられ、
天然
ガスが世界のエネルギーシステムを支える基幹となる
■ 経済成長の鈍化、
石炭から天然ガスへの燃料転換、
CCS技術の成功によって、
二酸化炭素排出と環境
ストレスが抑制される
リーダーシップ
既得権層に有利な体制が長く維持されると、長期的に
社会で不平等が拡大します。
マウンテンズ の世界に君臨する指導者層は、富と機会、
人々の期待、
人脈、
イデオロギー、
社会的な地位そして
文化を掌握する既得権層の人々です。社会の底辺にいる
人々が地位を高める道もありますが、そのためには、現状
の支配的なイデオロギーをさらに強化するようなビジ
ネス、教育、芸術あるいは大衆文化での目覚しい功績が
必要となります。
米国は、財政運営と政府の役割をめぐる政治の両極化
傑出した個人が上り詰めていく成功物語が、
「人は誰
に悩まされ続けます。政府が国内政治で手詰まり状態
しも自らの運命の主人」
という考え方を強化します。
になり社会的抗議活動がたびたび起こりますが、根底
現体制が長く続くことによって生じる社会のストレスは、
経済の活力が損なわれます。富裕層がますます裕福
になる一方、貧困層は貧しい状態のままに置かれ、教育
機会に恵まれた層とその子供たちが最高の教育機会を
独占するようになります。その結果、階級制度が存在しな
かった国でも、階層化が進み、定着してゆきます。多くの
にある米国の強さは引き続き健在です。一方、ユーロ
「身分の高い者は相応の社会的責任を果たすべきで
圏では国家主権をめぐる論争が続くために経済危機を
ある」
というノブレスオブリージュの精神と慈善活動
効果的に解決できず、経済の低迷が長引きます。
によって緩和され、不満の声は社会の奥底に埋もれた
マウンテンズ では起業家個人や企業、さらには国家レベ
ルで、いくつかの顕著な成功事例が現れます。積極的な
大規模投資と、創造性と、過剰な労働者不満を生まない
範囲での安価な労働力とを組み合わせたモデルが成功し
ます。こうした成功事例は、多くの貧しいアフリカ新興諸
国で顕著に現れます。これらの国々はやがて縁故主義と
汚職にまみれた最悪の状態を脱してゆきます。
まま。
リーダーたちが守ろうとするのは、限られた支持
者層と利益です。時折実現する福祉平等の増進を目指
した新政策は、迅速ではあるものの広範囲な社会に
影響を及ぼすことは稀です。
頂上に立つ一握りの既得権層に権力が集中しているの
で、短期的な問題には、迅速かつ決定的な対応ができ
ます。
しかし、
こうした対応は往々にして、社会全体を豊
かにするための長期的な投資を犠牲にします。目的はあく
繋がり
マウンテンズ の世界では、デジタルな繋がりと金融活動
の繋がりが深化し続けます。同時に、
ファイアウォールが
強化されたり、既得権ビジネスによる「プライベート、
立ち入り禁止エリア」がたくさん出来ることでしょう。セキ
ュリティを盾に、政府はインターネットに対する規制を強
め、地域ごとや国ごとにネット世界が分断される
「バル
カン化」が起こります。国家や既得権層は、自らの意見
や価値観を体現するネット世界に閉じこもり、考え方が
固定化しはじめます。他方で、若者はたびたび反乱を起こ
し、情報の自由と社会正義を求める抗議行動が繰り広げ
られます。賃金の安い途上国へ労働力やサービスを
アウトソースする例のように、先進国と途上国の共通利
益が既存枠組内で一致するケースを除いて、
グローバル
化の勢いがなくなります。
までも現体制を安定的に守ることです。既得権層はこう
した迅速果断な対応策の賢明さを喧伝し、一般大衆の
不安に対処してゆくのです。公共財は、
既得権層の中で
利害が一致すれば提供されます。たとえば、
エネルギー
政策では安定供給政策やCCS技術は
「今の暮らし方」
を
維持するために必要不可欠な公共財と位置付けられ、
前進します。■
新金メッキ時代
19世紀最後の四半世紀、米国では、社会的・経済的格差
が豪奢な華やかさに覆い隠され、資本家は善悪の見境
がないどころか、場合によっては非合法な手段を使って
巨万の富を築き、
ほんの一握りの既得権者による腐敗政治
がはびこっていました。マーク・
トウェインはこの時代を
「金メッキ時代(Gilded Age)」
と呼びました。
現代版の「新金メッキ時代(New Gilded Age)」では、
格差は二つの面で拡大しています。一つは大卒者と非大
卒者の間の技能格差です。もう一つは所得格差で、
最上位
1%(実際には0,1%)の所得を得ている富裕層の所得額
全体に占める割合は大きく上昇しています。19世紀の
エリートがそうであったように、新金メッキ時代のニュー
エリートも政府の規制緩和に乗じて富を築きあげました。
この新金メッキ時代は健在です。2008年に金融市場が
崩壊し、経済が依然として停滞しているにもかかわらず、
所得と富の格差が広がったまま一向に縮まる気配があり
ません。果たして、19世紀の金メッキ時代と同じような
改革は起こるのでしょうか?
今も政府の役割は重要です。が、
政府が格差解消のための
政策を講じる裁量余地は、
グローバル化と技術進歩によ
って狭められてしまっている可能性があります。現代の
グローバル化した経済と、19世紀米国の金メッキ時代に
終焉をもたらした経済状況とは、決定的に違います。国の
政策はきわめて重要ですが、それだけでは不十分でし
ょう。新金メッキ時代の格差問題に対しては先例と根本的
に違った解決策が必要です。
マウンテンズ 山頂の眺望 25
豊かさ
こうしたジレンマの中、時の権力者は自国・自地域の利益
グローバルゲームの新たなる「古いルール」
マウンテンズ の世界で米国は、
まずそのパワーを行使して
自国の価値観と米企業の利益に適う国際システムの
ルールをつくろうとします。
しかし、
軍事的には圧倒的優位
とします。つまり、既得権層の多くは市場のグローバル
を保っているものの、米国はもはやグローバル市場で
化による恩恵を享受してきたにもかかわらず、
今や市場
支配的地位を占めているわけではありません。世界経済
はある程度国家の管理下に置くべき、
と考え始めます。
におけるパワーは拡散し、
その結果、
貿易や金融規制に関
そこで象徴的な意味に過ぎないとしても保護主義が唱
えられて、
グローバル化の流れに歯止めがかけられます。 する米国発の要請に対して、他国が異議を唱える場面が
増えます。米国の提案が採用されない場合も見られます。
このように、既得権層と非既得権層いずれにとっても、
国家というしくみは市場のグローバル化に伴う不安を遮
世界の勢力均衡が変わりつつある中、米国は主導権を
る防波堤の役割を果たします。結局、市場と国家の綱引
きがどちらに転んでも既得権層は自らの利益を守れるわ 手放そうとせず、忍び寄る紛争の恐怖に常に怯えます。
米中の覇権争いは冷戦時代の代理戦争さながら、威圧的
けです。
な外交、海上封鎖、領海近くでの武力衝突の危険性を伴
マウンテンズ の世界には抑圧的な傾向がありますが、
いながら繰り広げられます。
それは法の下で社会の安定を維持するという大義名分
中国は、
高まる国家主義的感情に突き動かされて東アジア
によって正当化された抑圧です。世界中の国々で、社会
がより豊かになるにつれ、
不公正や恣意的な行為は徐々に における独占的利権を求め、同地域の現秩序の庇護者
容認されなくなり、
法令順守が求められるようになります。 たる米国と、緊迫したにらみ合い状態になります。
を主張しはじめます。グローバル化現象が権力基盤を蝕
む政治的脅威であることに気づき、締め付けを強めよう
抑圧と責任
マウンテンズ
の世界におけるグローバル化は、特定の
つの変化にさらされることになります。今、先進諸国が
経済危機によって変革を迫られているのと機を一にして、 経済大国への権力集中を促すだけでなく、各国内で
世界の地政学的・経済的パワーが西から東方へ移行し続け 特権層への権力集中をもたらします。この二つの権力
集中によって、図らずも、国家の枠を超えたコスモポリタ
ています。既存の勢力に対して、新興勢力は自らの利害を
ンエリートが目に見える形で生まれてきます。多国籍
主張します。経済危機が先進諸国の権威を失墜させたこ
企業を率いるリーダーたちもこのグローバルエリート
とが背景です。
しかしながら、パワーが東方に移行しても
集団の一部とみなされます。この集団は、多くの利害と
なお、アジアはマウンテンズ の世界秩序の中で最も紛争
課題を共有します。が、何をもって権力や富の源とし、
の起こりやすい危険な地域です。
正当性の拠り所としているか、
は異なっています。これが、
国際法の適用をめぐってあるいは競合する国益をめぐっ
てしばしば衝突を引き起こすのです。
現状の地政学システムは、今後しばらく同時進行する二
いつの時代でもそうだったように、エリート層は人々への
抑圧と懐柔によって権力を維持しようとします。自らの
利害を守りつつ新たな才能を取り込み、停滞に陥らない
仕組みを作れた者たちが、権力者として長らえ、大きな
成功をおさめます。
また、国境の意味が薄れていって、それが各国それぞれ
の国内政治に影響を及ぼします。大衆社会運動がネット
ワーク化され、多くの人々を巻き込んで直接行動を伴う
反グローバル化運動が繰り広げられます。ソーシャルメ
ディアは、
ローカルな問題をグローバル経済の被害者だ、
と決めつけて拾い上げ、問題を煽ります。時に、民主主義
やポピュリズムは市場のグローバル化に反対を唱えるわ
けです。
この動きはソーシャルメディアの台頭によって増幅します。
強固で強権的な国家は規制当局を増強させて国内政治
で権力を振い、結果、公的部門と民間部門のバランスが
変化してゆきます。
復権を遂げてゆく国家こそが、マウンテンズ における
米中両国は、自国の利益を守ろうとして互いを出し抜こう
としますが、守るためには攻撃の脅しが必要です。核兵器
の存在によって全面戦争は抑止されますが、世界秩序
はきわめて難しく緊迫した危険な状況になります。
マウンテンズ の国際システムは優勢なパワーとこれに
々が主導するかたちで統治されますが、
いかにしてこれら 対峙する一時的な連合勢力という構図が特徴で、激しい
争いが起こります。米国と欧州の間では、相互不信の
大国間の合意形成を図るか、
とりわけ米国と中国の間の
雰囲気が漂う中、
安全保障問題をめぐる隔たりが生じます。
協力をどう確保するかが問題です。第一次世界大戦に至
既存の多国間制度や国際合意の実効性は弱まります。
ったプロセスを振り返って考えれば、大国が責任を持って
これら制度は、象徴的な意思表示に終始していき、国際
節度ある権力行使を行うのか、それとも自らの行動
システムを動かしている現実政治に対処できない、もは
の結果を予測できず、世界秩序を崩壊させる危険を冒
すのか、が2020年代から30年代にかけての問題です。 や見当違いな制度であることを自ら露呈するのが関の
山でしょう。
国際システムの基軸です。国際システムはより強大な国
マウンテンズ 西から東方への地政学的な勢力移行 27
西から東方への
地政学的な勢力移行
かつての「欧州協調
(1815~1914年)
」の事例と同じよ
2020年代に入ると、米中は利害の相互依存関係を現実
うに、
中核グループの国々のエリート集団が主導して
「大国
として認識するようになり、事実上、二大大国
(G2)
による
協調」
が構築されますが、その中には米国と中国だけで
世界システム統治の時代になります。これは、両国が同盟
なく、
インドとEU、そしていくつかの選ばれた国々が含
関係を結ぶということではなく、むしろ、現実政治上の
まれます。が、かつての欧州協調とは異なり、21世紀の
打算によって結びついた政略結婚と呼ぶにふさわしいも
大国協調は、広範な国際安全保障上の脅威に対処する
のです。いずれの国の経済も相手方の影響を受けざる
必要があります。つまり、参加国同士の権力争いから生
を得ない構造にあり、ゆえに、互いに影響を及ぼし合う
じる脅威のみならず、財政問題、環境問題、食糧、水その
国内政治問題を抱えているのです。米中対立の世界は、
他資源の供給制約ストレスにも向きあうのです。
今や、米中順応的な
(ただし決して友好的ではない)世界
に代わり、
「肘鉄」
を収めて相手と付き合うようになります。 マウンテンズ の世界の国際秩序形成では、安全保障上の
懸念と対応の枠組みが共有されますが、価値観は共有
米国と中国は利害を共有しても価値観は共有せず、
ライ
バル関係が維持され、覇権争いは続きます。かつての
されません。21世紀の大国協調の課題は、状況や各国
多国間国際システムは復活しません。このG2主導モデル
の思惑がめまぐるしく変化する中にあって、いかにこの
です。各国が直面
の国際秩序は米中間で揺れ動く緊張が外交の中心軸で、 仕組みに柔軟性を持ち続けられるか、
その状況に対処するための枠組みも恒久
欧州諸国をはじめとする主要国は二次的な立場に置き去 する状況も、
りにされます。
不変ではあり得ません。
しかしながら時間の経過とと
もに、大国協調を支える協力関係や合意や枠組みは
2030年代に入ると、
他の国々の経済が発展してきて国際
制度化され、深化拡大し、徐々に強固な体制となり得
秩序はさらに複雑化します。インド、
トルコ、南アフリカ、
るでしょう。そうすると、世界中の人々はこの「21世紀大
ブラジルなど地域覇権国家が台頭し、それぞれの地域
国協調システム」を、あって当然と考えはじめます。
における重要課題に大きな影響力を及ぼすようになり
19世紀の欧州協調システムの存在を当時の人々が
ます。先行した中国と同様、
これらの国々も成熟した外交
当然視してしまい、
やがて1914年に至ったときに酷似
政策を展開しはじめ、新たな世界秩序の構築に向けてそ
してゆきます。■
れぞれに支持基盤を拡大します。気候変動問題、
資源制約
ストレス、
高齢化問題などが未来の国際社会が対応すべき
課題です。いくつかの大規模な国家で、政府が国内秩序
「グローバル化は世界を小さくする。
政府の権威に対する民衆の挑戦が起こって、一気に国家
その結果、世界または世界の一部
が崩壊してしまうという懸念もまた存在します。
が裕福になるかもしれない。
しかし、
これら国際問題の課題に対して、各国のエリート層は、
グローバル化によって世界が平和
新たな国際協力の仕組みの必要性を認識しはじめます。
になったり、
自由になったり、
まし
互いに被害をこうむる争奪戦を回避するには各国が折り
ト化したりは、決してし
合いをつけて共存する術を学ぶより他に道はありません。 てやフラッ
やがて、地域覇権国家諸国の損得勘定が折り合って
ない」
の安定化という難題の克服に失敗してしまった場合、
21世紀の「大国協調」体制が出現します。
ジョン・グレイ(JOHN GRAY)
The World Is Round
マウンテンズ 西から東方への地政学的な勢力移行 29
相互利益に基づく実務的な世界へ
オットー・フォン・ビスマルク
とサイモン・コーウェルに
学ぶ教訓
裁量による改革
国家間が緊張関係にあるにもかかわらず、
グローバル化
先進工業国では、経済成長と正規雇用者賃金上昇との
を背景に生み出された、自由奔放な、国境を超えて活躍
相関が徐々に失われます。雇用は不安定になり、
「非正
するコスモポリタンエリートたちは、大きな富と影響力を
規化」が進みます。3Dプリンターが普及しインターネット
エリート層は、
一般市民の反発をかわして体制の基本構造
を支える新たな制度を取り入れながら、裁量による改革
手に入れて存在感を増します。良きにつけ悪しきにつけ、 や通信技術の利用がさらに進めば、
製造業の生産要素の
彼らが世の中の主潮と価値観、規範をかたちづくるの
中で、労働力がこれまでほどには重要でなくなってゆき
です。国民国家レベルで見ると、
コスモポリタンエリート
ます。各国政府は自国の雇用を守るために障壁を高くし
は政策形成にますます影響力を持つようになりますが、
ますが、企業経営ではあいかわらず資本収益性が重視
その言説とは裏腹に、社会の一体感を維持することにか
されています。ここで保護主義が台頭しはじめ、国家間
つての貴族エリート層ほどには関心を持ちません。
の摩擦が増えていきます。
米国では、
中間層の所得が伸び悩み、
社会的流動性が低下
政府の保護主義政策の背景には、国内労働市場の保護
する一方、実力主義を標榜する高等教育制度が寛大な
だけでなく既得権層の権益を守る意味合いがあります。
税額控除で支えられていて、成功者たちの子供がその
各国はグローバル化を全面的に受け入れるのではなく、
の余地を生み出してゆきます。
ドイツは1889年、世界で初めて社会保険制度を導入
しました。これは、当時のドイツ帝国首相オットー・フォン・
ビスマルクの設計によるものです。労働者の福祉を向上
させ、
ドイツ経済の効率を最大限まで高め、結果として
過激な社会主義的改革を求める動きに歯止めをかける
ことこそが、社会保険制度導入の目的でした。
身近な例としては、国営宝くじやテレビで流行りのリアリ
恩恵を享受し、
所得と富の格差は拡大し続けます。ここで、 自国の既存権益が生かせるかたちでグローバル市場
社会保障制度を介して高齢者に支払われるべき給付金
ティ娯楽番組。ここでは一握りの人たちに経済的、社会的
に参加しようとします。
この
に恵まれた地位に上りつめる経路を提供しています。
財源や、経済・社会インフラ再構築に充てる財源が犠牲
になってしまい、結果として世代間格差が深刻化します。
先進諸国政府は、草の根イノベーションを応援し中小企
欧州でも高齢化が進行する状況下で、高水準の社会保
業支援金融システムを抜本的に改革する、
と力説するも
障給付制度を財源が不十分なまま維持してゆきます。
のの一向に実現しません。とはいえ、大恐慌の再来によ
それが社会的な歪みと政治的な歪みが混在する状況を
って既存システムの存在意義が問われかねない事態を
生み、EU全体が直面する構造的経済問題から注意がそ
望んでいるはずもありません。そこで、金融規制が、徒
れてしまいます。
らに強化されます。それは金融仲介サービスへの実質的
な課税であり、参入規制となるのです。各国規制当局は
統制経済の下にある諸国家では、初期の発展段階で企業
外資系金融機関による国境を超えた活動を懐疑的に見
や利権集団の強力なしがらみが形成されるために、経済
るようになり、国内で得た利益を、他国の本社に還流
政策はこのしがらみに縛られ柔軟な変更ができなくなり
させずに現地に留め置くよう要請しはじめます。
ます。こうして2030年まで、先進諸国でも新興諸国で
も、経済は強者である少数エリート支配の下におかれ本
来可能なはずの経済成長ができません。
種のテレビ番組は、現代社会にはいかにも大きな社会
流動性があるかのような印象を与える仕組みです。
既存の世界金融秩序の本質的な部分には大きな変化
はありません。
ドルは依然として主要準備通貨で、米国は
IMFと世界銀行では支配的な地位を維持します。その
背景には、米国のライバルである中国が緊迫化する国内
情勢への対応に追われ、アジア地域でより重要な役割を
担うことで、
かえって国内の金融システムが揺らぎかねず、
身動きがとれないという事情があります。
2020年代と30年代、世界経済システムがさまざまなか
たちで支障をきたします。先進諸国の経済は硬直化から
抜け出せず、かつて急速な経済発展を遂げた新興諸国も
中所得国の罠に陥り、世界経済は期待を裏切り、
この期間
の世界の平均GDP成長率は2%を下回ります。■
中所得国の罠
裕福な国々の経済成長に比べて、現在貧しい国々が遂
げる成長は、
しばしば相対的に低い経済水準からの急速
な成長となります。こうした国々では潜在力が引き出され
ないまま残っていて、
かつ模倣は発明より簡単だからです。
とはいえ、すべての貧しい国々が一足飛びに先進国に追
いつけるわけではありません。1960年に中所得国だった
国々のほとんどは、50年後も中所得国のままです。
この
間に中所得国の罠を抜け出して高所得国になったのはわ
ずか13カ国で、
韓国とシンガポールが顕著な成功例です。
経済が複雑化するにつれて、中央集権的な体制では
マクロ・ミクロ経済の調整がうまくできなくなります。
すなわち、経済成長力を維持するには、経済や金融シス
テムの構造を抜本的に変える大胆な改革を、次々と実施
する必要があるのです。
マウンテンズ 経済が辿る道筋―好況と不況 31
経済が辿る道筋
―好況と不況
豊かさ
一部の経済学者や政策立案者は、低い所得税率は、格差
しかし、それほど単純な話ではありません。これらの国々
を拡げ国内貯蓄を増やす一方で、個人の努力と企業投資
の多くでは、経済発展の初期段階における高度成長があ
を促す、
と主張しています。
しかし近年の経験では、
この
ったからこそ結果的に現体制が正当化されたのです。
メリットの大部分が、所得の低迷と財政ストレスがもたら
また中央集権と言っても、独裁政治体制下で発展の初期
す消費者需要の落ち込みによって相殺されていることが
段階を経験した場合には、民主主義体制下より人的資源
判っています。
や天然資源の無駄が多かったであろう、
という推論もおそ
らくは真実でしょう。これらは現在貧困段階にある国にと
かつて、格差は経済活力を生み出すために不可欠な要素
って無視できない論点です。
である、
というのが経済学者の一般的な捉え方でした。
しかし、
今日、
この見方に疑問が投げかけられています。
IMFのジョナサン・D・オストリーとアンドリュー・G・バーグ
は、
最近発表した格差問題に関する調査報告書で、
富裕層
への所得集中は社会をより不平等にするだけでなく、
不安定な経済成長と、成長の停滞をもたらす可能性
がある、
と結論付けています。
所得格差は、経済成長の成否に対して、対外直接投資、
貿易自由度、為替レート、政治安定度といったファクター
よりも、
よほど大きな影響を与えるようで、
多くの経済学者
「格差の拡大は経済の脆弱化をもた
らし、その結果、格差がさらに拡大
発展に必要な資源などの供給に制約がある新興国の経
し、さらなる経済の弱体化がもた
済では、
エリート官僚の指揮による中央集権的な発展を
らされる。その経済格差が経済の
進めることで、
ヒト・モノ・カネの配分を調整できると主張す
る経済学者もいます。実際、
ソビエト連邦、日本、韓国、
政治化に拍車をかけ、経済を
シンガポール、台湾、中国といった国・地域が中央集権体制
安定化させる力はさらに弱まる」
がこの見解に同意しはじめています。また、規制緩和政策
のもたらす危険性についても警告がはじまりました。
の下、長期にわたりめざましい産業発展を遂げました。対
してインドはしばしば、早過ぎる民主化が成長の妨げにな
っている社会の例として挙げられます。
ジョセフ・E・スティグリッツ
(JOSEPH E STIGLITZ)
ノーベル賞受賞経済学者
マウンテンズ 経済が辿る道筋―好況と不況 33
格差、経済学者、経済成長
水素―マウンテンズに蘇る不死鳥
マウンテンズ の世界では世界経済の停滞によって、エネ
ルギー需要の増加がある程度緩和されます。さらに、供給
サイドの政策によって、
これまで認められなかった資源
開発ができるようになります。楽観的な可採資源量見通
しは正しかったのです。
2020年代、30年代には、急速な成長を遂げてきた一部
輸送燃料としての水素の可能性は1990年代にさかんに
2020年には、あちこちの国で従前の小規模共同プロジ
新興諸国が経済発展のペースを維持すべく産業・金融シ
取り沙汰されましたが、2000年代半ばにすっかり鳴りを
ェクトを足掛かりとして自動車メーカー、
エネルギー関連
ステム改革に取り組みますが、政治的抵抗や社会的抵抗
潜めました。その一方で水素は、
ひそかにアンモニア製造
が出現しその克服に苦闘、成長率が下がります。つまり、
や石油精製など工業原料として重要な役割を果たしてい
世界人口が増加し続けるにもかかわらず、資源(エネル
ます。今日、
世界で生産されている水素全体のエネルギー
ギー、水、食料)
への圧力は緩和します。
含有量は、世界のエネルギー需要の2%、もしくは世界の
タイトガス、
シェールガス、
コールベッドメタンは、広い地
域で採掘が成功し、
世界のエネルギーシステムを支える
「ガス・バックボーン」
となります。戦略的な都市計画が
さまざ
発電量の10%に相当します。マウンテンズ では、
しかし、今世紀半ばまでには、多くの国々が中所得国の罠
まなセクターの力が融合して好循環が生まれ、水素はよ
を抜け出して経済大国となり、世界の経済成長率は再び
実施されてコンパクトシティ開発と移動手段の電化が進
上昇しはじめます。が、
コンパクトシティ開発や電化政策
みます。長期的には、分散型で負荷変動の大きい再生可
の効果が期待できるため、経済成長は急激なエネルギー
能エネルギーの貯蔵・輸送手段として水素インフラが整
需要増加を起こしません。エネルギー多消費型ではない
備されます。
サービス産業が発展してゆきます。ここで、
これまで見
うやくエネルギーミックスの主流に組み入れられるよう
になるでしょう。
電力会社はベースロード電源と再生可能エネルギー電源
のバランスをとることがますます大変になり、独力で電力
られた経済成長とエネルギー需要の強い相関関係が終
液体燃料の需給が緩和して石油価格は総じて安くなり
システムの安定性を維持するのが難しくなります。スマー
わりを告げるのです。
トグリッド
(次世代送電網)
が電力システムの安定化に貢献
ます。国際天然ガス価格は、
シェールガスをはじめとする
する、
という期待も徐々に薄れてきます。計画停電のお
低コスト資源開発プロジェクトが世界各地で進む結果、
それが高まります。普段ほとんど稼働しないバックアップ
比較的低い水準で落ち着きます。国際価格が安いまま
電源設備の建設、維持はコスト高です。そこで、水素エネ
だと、高コスト資源は開発困難になり地中に埋もれたま
ルギーの持つ電力貯蔵機能に注目が高まります。それとは
まです。その結果、資源輸出収入に財政を依存してき
た一部の国は窮地に追い込まれます。
石炭から天然ガスへの燃料転換やCCS技術の普及インセ
ンティブ政策が功を奏し、温室効果ガス排出量は2030
年以降、急減します。それでもなお、排出量は地球平均気
エネルギー源別一次エネルギー総供給量
1000
が期待どおりにゆきません。
21世紀初頭の世界金融危機
の影響でエネルギー需要は長期にわたり伸び悩んでい
ます。
400
Nuclear
200
Biomass Traditional
■ 石油
■ バイオ燃料
■ 天然ガス
■ ガス化バイオマス
■ 石炭
2020
■ 廃棄物系バイオマス
■ 伝統的バイオマス
■ 原子力
■ 水力
■ 地熱
2030
年
2040
■ 太陽光
■ 風力
■ その他の再生可能エネルギー
2050
2060
立に対する要望が高まってきていることを認識します。
ここで、化石燃料の使用と二酸化炭素の回収を一体化
させて、
より柔軟で効率的なクリーンエネルギーシステム
を構築するという魅力的な選択肢が浮上するでしょう。
規模の経済を持つ重工業分野でのオンサイト型水素製
造を補完するように、
まずは地域内、続いて広域の水素
供給網が構築されてゆきます。天然ガスを主原料とする
水素製造は、次第に電力システムに組み込まれます。
水素の利用は、
まず発電所のエネルギー貯蔵手段として
始まりますが、
他方で、
運輸部門や分散型発電システム
での直接利用可能なエネルギー担体として最終消費
される事例も増えてきます。2060年までには、交通
燃料としての水素使用量が工業用需要を上回ります。
きっかけは乗用車用水素燃料の普及ですが、貨物輸送車
用も続きます。
には手の届くものとなった、
数々の「高いのにはワケがある」 今世紀末、世紀初めにすっかり影をひそめていた水素は、
高性能水素電池車を特集するでしょう。
不死鳥のように蘇ることになるかもしれません。
Hydro-electricity
2010
確保と、
都市交通における温室効果ガス排出量削減の両
Wind
600
2000
供し始めます。政策当局は、
低廉かつ安定的な電力供給の
を記念して、欧米諸国や急成長するアジア諸国の富裕層
Geothermal
0
模な水素インフラ建設計画の支援やインセンティブを提
Other Renewables
Solar
800
EJ/年
一部地域では景気の減速が続き、経済成長や貿易活動
きます。Top Gear™は2017年、番組放送開始40周年
1200
温上昇幅を2℃未満に抑える目標水準を上回ります。
伸び悩む需要
別に、次世代燃料電池車に対する人々の関心も高まって
企業、
水素供給企業からなる共同事業体が設立され、
大規
Biomass / Waste Solids
Coal
Biomass Gasified
Natural Gas
Biofuels
Oil
マウンテンズ エネルギー:ガスの存在感の高まり 35
エネルギー:ガスの存在感の高まり
多くの新興国では、圧縮天然ガス
(CNG)
を燃料とする
中国やインドのように多くの都市人口を抱えたエネルギー
自動車が普及します。天然ガストラック
(LNGトラック)
が
輸入国では、
コンパクトシティ開発が政府のインセンティブ
早い時期に市場に投入され、
続いて一部の配達用トラック
政策によって進展します。大企業が大型コンパクトシティ
の電気自動車化が進みます。加えて、都市設計は「ハブ&
開発プロジェクトの計画づくり、資金調達、遂行に協力し
スポーク」型輸送システムを採用して低炭素化への移行
ます。効率的で住みやすい都市の開発によって、都心部
を促します。
で集中的に発生しがちな社会不安を軽減できるとみな
されます。そこでさらなるコンパクトシティ開発が各地で進
世界中の道路からガソリン車を完全になくすのは、実に
み、
結果、
国民一人当たりの年間乗用車走行距離は、
今日
途方もない企てです。移動需要が伸び悩み、車両燃費
世界の多くの地域で見られる低密度型都市に比べて平均
効率が向上し、天然ガス車、電気自動車、水素自動車の
2,000km削減されます。これは平均移動距離が短くな
普及が進むことによって、乗用車用の液体燃料需要は
ることに加え、自家用車から公共交通機関や二輪車への
2035年をピークに低下してゆきます。
転換も効いています。さらに、
コンパクトシティ開発促進
と連動するかたちで自動車の燃費規制が導入されます。
コンパクトシティでは、小型車やハイブリッド車に好んで
乗る人や電気自動車(電池式電気自動車および水素電気
自動車)
を購入する人が多く、燃費規制は比較的容易に
導入できます。排ガス規制、公害防止策、燃料税、
さらには
製品ライフサイクル全体の二酸化炭素排出量に課す炭素
課税も全体として燃費向上を助けます。
2070年までには乗用車市場からガソリン車がほぼ消え
去ります。今世紀末に向かって水素インフラが広域で
整備され、
長距離重量トラック用燃料も軽油から水素への
転換が進みます。電気自動車や水素自動車が大勢を占
めるようになり、手頃な価格で購入できる
「プラグインハ
イブリッド水素自動車」が究極のフレキシビリティと燃費
効率を実現しているかもしれません。
年間全乗用車走行距離(10億km/年)に占める割合(%)
エネルギー担体別自動車輸送の構成
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2000
■ 液状炭化水素燃料
■ ガス状炭化水素燃料
■ 電気および水素
2010
2020
2030
年
2040
2050
2060
マウンテンズ エネルギー:ガスの存在感の高まり 37
変化する交通インフラ
60
百万boe/日
50
40
30
20
10
0
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
■ OPEC加盟国
■ OPEC非加盟国
ガス・バックボーン
北米が上昇に転じ、中国が主要生産国の仲間入りを果
マウンテンズ の世界におけるエネルギーの物語は、天然
ガス台頭の物語です。21世紀最初の10年間で、天然
ガス可採埋蔵量は倍以上に増えました。これは掘削・破砕
技術の進歩によって解き放たれたタイトガス、
シェールガ
ス、
コールベッドメタンによるものです。
たします。米中エネルギー消費大国は、石炭需要を減
らしていき最終的には石油需要も低下させます。
世界経済の成長率が比較的低い水準にとどまり豊富な
天然ガス資源がある、つまりは、一次エネルギー生産国
が消費国からの価格引き下げ圧力にさらされるというこ
世界中で新たな開発プロジェクトが次々と成功をおさめ、 とです。資源国の多くは、収入を確保できなくなり、
ここで
供給が増すにつれて、天然ガスの需要も大きく拡大しま
市場の自動調節機能が働きます。資源国の投資が減少
す。供給サイドの支援政策がこの成功を支えます。
して、いつか、再び供給が逼迫し始めるのです。
未発見の天然ガス資源がどれだけ存在するか定かでは
産油国側は、価格低迷に直面します。非OPEC産油国で
ありませんが、
タイトガスやシェールガスが世界の天然
多く試みられている巨額投資、最新技術、辺境プロジェ
ガス生産量に占める割合は増えており、
この傾向は今世
クトが窮地に追い込まれます。主要資源国
(MRH)
では国
紀半ば過ぎまで続きます。長期的には、
メタンハイドレート
家収入が減少し、
社会不安が高まります。
の開発が政策支援を受けて研究、開発、実証実験に進
みます。天然ガス供給量は21世紀末に向けてさらに増加
産油国の中の一部の国々では、政治改革を求める一般大
し続けます。
衆の要求に政府の側が応える動きを見せます。が、国際
石油価格レベルの低迷は総じて、供給の不安定化と長期
2012年時点で世界の天然ガス生産量の60%を占めて
的には供給制約を引き起こします。その結果、価格の急
いた8カ国は、今後30年間にわたりシェアを拡大し続
騰が周期的に起こります。石油輸入国では、輸入依存度
けます。
しかし、新たな天然ガス資源の出現は新たな世界
低減政策が「公益にかなう」
という理由で正当化され、脚
秩序を生んでゆきます。生産量の減衰が見込まれていた
光を浴びます。ただし、別のストーリーもあり得ます。イラ
クからの原油増産がOPEC加盟諸国間の競争圧力を高
める結果、生産枠に対して周期的に過剰生産となり、価格
低迷に陥ることがあるかもしれません。
マウンテンズ エネルギー:ガスの存在感の高まり 39
石油、コンデンセート、天然ガス随伴油(NGL)の生産量
地政学的緊張の高まるこの世界では、米国は引き続き、
地域平和を含む世界の公益を守る最も有力なプレイ
ヤーとして積極的な中東外交を行います。
タイトガス、
シェールガス、
コールベッドメタン、
リキッドリ
水資源に乏しい地域では、
フラッキングに必要な水の確保
ッチシェール(別名ライトタイトオイル)
などの非在来型
が問題になる可能性があります。また、地中の天然ガス
層は帯水層より何千メートルも深いところにありますが、
資源は、炭化水素が地中深くの低透水性岩盤層に閉じ込
それでもフラッキングによってガスが浅い帯水層に浸透
められたもので、事実上固定化され、従来の石油・ガス
するのでは、
という不安の声があります。フラッキングに
採取方法では回収が困難でした。これら資源は、
きわめて
よる小規模な地震が 数多く報告されています。非在来型
高密度の砂岩(もしくは炭酸塩岩)、頁岩、石炭岩に含
の石油・ガス資源を開発するためには大量の機材が必要
まれており、
「フラッキング」
と呼ばれる水圧で岩石を破砕
ですが、その運搬もストレスを生んでいます。
する方法によってのみ回収できます。
によってさまざまです。北米は、今までのところ、最も
世界のガス生産量の15%超を占めており、いずれは約
寛容な姿勢を示しています。これは主に鉱物権が個人に
40%を占めると見込まれます。この3つを合わせた原始
属し、個人は自由にその権利を貸与し、利益を得ることが
埋蔵量は、現在の世界天然ガス消費量の水準で、約100
できるという独自の事情によります。
しかし、その他の多
年分と推定されます。
リキッドリッチシェールはそれほど
確かではなく、現時点で世界の石油生産量の1%、将来的
にもせいぜい5~10%を占める程度と予想されています。
最近の推定によると、原始埋蔵量は現在の石油消費量の
の需要が安定的に推移する結果、石油消費量は2030
年代に頭打ちとなり、その後数十年間は徐々に減り続け
ます。
また、豊富な天然ガス資源が交通燃料の電化に向けた道
を切り開き、
新たに整備される水素インフラが再生可能
エネルギーの貯蔵・輸送手段を提供できるようになります。
フラッキングに対する一般社会や政策当局の見方は国
タイトガス、
シェールガス、
コールベッドメタンはすでに
大量の天然ガスが世界に出回る一方でエネルギー全体
くの国々は、
フラッキングを禁止しており、その中にはEU
内で最も有望視されている国の1つであるフランスも含
まれます。
ガス配給網が整備されてゆき、
これは、将来わずかな追加
投資で水素インフラに移行します。水素インフラが整備
されると、燃料電池車の普及が進みます。海運業や陸上
貨物輸送業での燃料が天然ガス
(具体的にはLNG)
に転
換します。総じて液体燃料から気体燃料への着実な移行
が見られるようになります。
天然ガスの需要構造は今世紀を通して変化し続けます。歴
史的に見ると、特に温帯地域の国々でガスは暖房目的で
ガス利用
用いられてきました。マウンテンズ の世界では、
15年分と見込まれます。
は、数十年かけて、従来の暖房需要や発電目的を超えて
多方面に広がるかもしれません。陸上貨物輸送・海運分野
を中心として、
さらには石油化学分野でも新たな市場が
形成されます。メタンを原料とする化学工業の進歩によ
タイトガス、シェールガス、コールベッドメタン
って天然ガスが化学工業原料となり化学製品市場が活
地下水を汚染
から守り、他の
地層から分離
するためのケーシング
気づきます。
2030年代には、
天然ガスは世界最大の一次エネルギー源
コールベッド
となり、
70年間にわたる石油時代に終止符が打たれます。
薪、
泥炭、
糞、
農業廃棄物などの伝統的エネルギー源を代
替した石炭をもって最大の一次エネルギー源とした時代
が約50年間(1910~1960年頃)続いた後、石油にと
って代わられたエネルギー転換の歴史が、
また繰り返
移動層
■ 飲料用帯水層
■ 被り(オーバーバーデン)
表土:数多くの不透水層
から成り、貯留層にガスを
トラップしている
■ 塩性帯水層
数十キロメートル*
■ コールベッドメタンガ ■ 構造的な在来型ガス
ス貯留
貯留
■ 在来型石油貯留
■ 非在来型ガス
貯留(タイトガス、
シェールガス)
*概略図。原寸には比例していません
約3キロメートル*
地表
されるのです。■
マウンテンズ エネルギー:ガスの存在感の高まり 41
新たな資源
フラッキング」は、
これまで採取不可能と考えられていた
技術革命は世界に広がるか?
す。その潜在規模は、今日までに全世界で消費された石
ール革命は世界各地で進み、
アルゼンチンなどいくつかの
「
大量の石油・ガス資源を解き放つ可能性を秘めていま
油・ガス量を上回りますし、将来に生産回収が見込まれて
いる在来型石油・ガス資源埋蔵量のほぼ半分に匹敵しま
す。北米ではガス産業をとりまく環境が一変しました。
2008年には天然ガスの自給が困難になるとの予測の下
に、価格が12ドル/百万BTUに急騰しましたが、
現在天
然ガス生産量は10%増加、
価格は4ドル/百万BTUを下
回っています。北米大陸では、今後長期にわたってエネル
ギー供給が拡大し、低廉な天然ガス価格が維持されま
マウンテンズ エネルギー:ガスの存在感の高まり 43
シェール革命
克服すべき技術・社会・環境面の課題があるものの、
シェ
国々で油井やガス井の試掘が成功しています。中国の
シェールガス埋蔵量は米国を上回る可能性があるとも言
われており、経済が急成長を続ける中、石炭に代わるエネ
ルギー源として試掘が進められています。タイトガスとシ
ェールガスは、世界のエネルギー秩序に変革をもたらす
かもしれません。
豊富なガス資源の出現によって再生可能エネルギー技術
の進歩が妨げられるのではないかという不安の声があり
す。LNG輸入基地の建設計画は棚上げされ、代わりに輸
ます。
しかし、再生可能エネルギーによる発電が増加し、
出基地の計画が進行しています。
電力供給の不安定性が大きな問題となる中、天然ガス火
安価な燃料・原料としての天然ガスとコンデンセート
ができます。天然ガスは、石炭に取って代わることで二酸
(NGL)
は、米国の重工業を活性化させ、運輸分野でも
化炭素排出量を削減するにとどまらず、天然ガスの開発
力発電は、系統電力の周波数と電圧の安定化を担うこと
新たな市場を切り開く可能性があります。炭化水素資源
生産技術をCCS技術と連動させることによって再生可
の新たな生産拡大期に入った米国では、
ピークオイル論
能エネルギーのバックアップを提供できるのです。
は捨て去られ、2030年までにエネルギー自給化達成の
可能性も見えはじめました。
しかし、
シェールガスやリキッドリッチシェールといった類
の資源が、将来どの程度盛んになるかについては不確実
米国はこの分野の技術開発で世界に先駆け、その技術
性が残ります。可能性を実際の生産に結びつけるには、
新
を使ってどの国よりも大きなメリットを享受しています。
たな技術、技能、政策支援が国際的に広まってゆき
米国に原油を輸出してきた産油国は新たな市場をめざし
実用化されなければなりません。
ます。米国内で発電用燃料が石炭から天然ガスに替
わった結果、米国産石炭は今や欧州に輸出されています。 これらの資源が市民社会に受け入れられるためには、
社会的責任に配慮した開発・操業が不可欠です。この
新たな資源は未来をかたちづくる可能性を秘めている
のです。
メタンハイドレート
メタンハイドレートは、低温かつ高圧の環境下で氷のような
水分子構造の結晶の中に封じ込めらているメタンガスです。
海洋や北極圏の永久凍土地帯に堆積物として広く分布して
います。採取方法はまだ試行段階で、米国(アラスカ州)
と
日本が先行しています。比較的採取しやすい場所(北極圏
および海底砂)
でさえも、
21世紀半ばまで採取が始まる見込
はありません。
原始埋蔵量の推計は、
現在の技術で回収可能なものはゼロ
という見解から、
現在の世界の年間天然ガス生産量の100
倍を超えるというものまで、
きわめて大きな開きがあります。
曇り空
初期の取り組みが功を奏して、CCSはエネルギー利用
炭化水素エネルギーの利用が続き、温室効果ガス排出量
に起因する二酸化炭素の排出を、
2050年までに30%
は、緩慢な経済成長の影響を受けるものの、2020年代
以上回収しています。CCSを用いた回収率は2075年頃
の終わりまで拡大し続けます。重要なのは産業セクター
までに70%を達成します。そのため、
新興諸国が台頭して
マウンテンズ エネルギー:ガスの存在感の高まり 45
と発電セクターにおける石炭からガスへの燃料転換です。 世界のエネルギー需要が再び急拡大しても、
石炭発電を
2030年代以降は、原子力発電やバイオマス発電が拡大
CCSとセットにして導入できます。CCSはバイオマス発
し、CCSが発電施設に組み込まれるようになり、
カーボン
電にも取り入れられます。第二世代バイオ燃料の生産に
ニュートラルな電力セクターの実現が現実味を帯びてき
よって、
「負の排出」が発電システムに活用されれば大気
ます。政策当局はCCS導入に伴うコストを消費者に転嫁
中の温室効果ガス濃度は実質的に削減されはじめます。
します。二酸化炭素の価格付けは一部の地域でしか行
われず取引価格が低迷する一方で、温暖化対策コストは
2060年までに発電部門からの二酸化炭素排出量は実質
発電コストの一部として 暗黙裡に電力料金に反映される
ゼロになります。2090年までには、脱炭素化が困難な
ようになります。
運輸、産業セクターの二酸化炭素排出も発電部門での
炭素回収によって相殺されます。
今世紀半ばまで、温室効果ガスの累積排出量は、全体
として、地球平均気温上昇幅を2℃未満に抑えるための
目標水準を上回り続けますが、
世界全体の温室効果ガス
の正味排出量のやり繰りに向けた道筋を切り開くために
は、CCSの利用拡大が重要な役割を果たします。■
セクター別二酸化炭素排出量
45
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
40
35
30
25
20
15
Gt CO2/年
今世紀半ばまで、温室効果ガス排出量は
地球平均気温上昇幅を2℃未満に抑えるために
目標とすべき水準を上回り続ける
10
5
0
-5
-10
2010
2040
2070
2070
-15
-20
-25
-30
年
* CCSと組み合わせることによって「炭素吸収源」となるバイオマス発電を含む。
**「炭素クレジット」とみなされるバイオ燃料を含む。液体燃料からの二酸化炭素排出量は運輸部門に含まれる。
*** 食糧資源と競合しない商用バイオマス。
2100
2100
重工業・農業・その他の産業
サービス
運輸
住宅
発電*
石油精製・バイオ燃料生産**
非エネルギー用バイオマス生産***
その他のエネルギー生産
製造業でのCCS
石油精製でのCCS
発電でのCCS
その他のエネルギー生産部門
でのCCS
合計
オーシャンズ 海辺の遠望 47
v
オーシャンズ
海辺の遠望
オーシャンズ は、様々な動きが競合し、利害関係者がどん
新興諸国の経済が台頭し、エネルギー需要が押し上げ
どん増えてゆき、ぶつかりあい波立ち、なんとか収まろう
られ、
効果的な政策メカニズムが存在しないままに需給
とする世界です。この世界では、
より多くの人々が経済力
をつけ、発言力を増してゆきます。時の権力者は自分の
地位を維持するためには妥協が必要と理解します。急速に
台頭する新興諸国では経済発展に合わせて経済・金融
システム改革が着実に実施され、社会の色々なセクター
で生産性が改善しはじめます。
しかしながら、変化の激
しさと利害調整の難しさ故に改革がうまくゆかない分野
もあります。エネルギー資源開発がその典型でなすすべ
なく、需給逼迫のあげくに市場メカニズムの力によって、
はじめて変化が訪れます。
この世界では当初、停滞する経済が社会の一体感を弱
めて、それが経済・政治の変革を促します。改革はひとび
との願望を高め、福祉問題や社会構造、
さらには既存の
国際的な枠組みについても、抜本的変革を期待するよう
が逼迫しはじめます。ところがタイトガス、
シェールガス、
コールベッドメタンの生産が北米以外ではあまりはかど
らず、
当初の期待が裏切られます。政府の開発支援政策に
一貫性がないことや、
地質調査の結果や技術開発が期待
はずれに終わることなどがその要因です。エネルギー需給
の逼迫は厳しさを増します。
オーシャンズ の世界では、当初、いくつかの資源大国で
リーダーシップの世代交代がうまくゆかず石油生産が伸
び悩みます。
しかし、ひとたび政治的な安定が取り戻され
ると、開発投資は再び上向きます。石油価格の高騰を背
景として、新たな資源・技術開発への道が開かれている
わけです。そして液体燃料が使い続けられる
「オイルゲ
ーム」が長期にわたり続きます。
天然ガス生産量が期待されていたほど伸びないため、
になります。人々の願望の高まりにつれて、
生活の質の向
石炭が暖房および発電用燃料として引き続き重要な役割
上を当然のように期待する、そんな風潮の社会が出現し
を果たします。エネルギー価格高騰と供給危機は、
需要サ
ます。グローバル化は進み、途上国は先進国を追って成
イドの省エネ投資を強力に推進させます。
しかし省エネ
長を続け、主要な新興国は徐々に均衡のとれた成長へと
のみでは地球環境問題への対処は不十分です。温室効
向かいます。
果ガスの排出により大きな気候変動が起こり、大規模な
しかし食糧、水、
エネルギーなどの資源をめぐるストレス
が高まり始めます。社会的・政治的緊張が生まれるでし
ょう。が、
たび重なる政変と声高に要求を掲げる市民たち
の圧力によって有効な政策展開が妨げられるのがオーシ
ャンズ の世界です。そこでエネルギー資源不足への対応
は、全面的に市場に委ねられることになりますが、古い政
策フレームワークのままでは外部経済性
(例えば、温暖化
対策コストなど)
が充分に反映できないのです。
対策が求められていきます。■
オーシャンズ・シナリオの概要
■ 新たな経済的
・政治的利害が互いに競合し、政権側は
場当たり的な対応を余儀なくされる
■ 改革が新たな生産性を解き放ち、
さらなる改革が熱望
されていく
■ 新たに既得権益を手に入れ強大化したグループが次の
政策展開を妨げる。都市のスプロール化への対応策
や、
CCSプロジェクト等が先延ばしとなる
■ 国際資源価格が高騰し、
巨額な資金を要するエネル
ギー資源開発プロジェクトが実施可能。最終消費者側
では省エネが加速する
■ 今世紀後半に太陽光に取って代わられるまで、
液体燃料
と石炭がエネルギーミックスの中で重要な役割を担い
続ける。天然ガスの生産は拡大するものの、政策支援
枠組みが不適切で開発も期待はずれな結果となり、
当初の期待を大きく裏切る
■ 温室効果ガス排出は増加。
バイオマス、CCSと太陽光
の普及によって排出が削減されるまで、長期にわたり
高い水準にとどまる
繋がり
リーダーシップ
先見の明のある時の有力者が中間層の不満へ対応す
オーシャンズ では、既得権を持たない人々からリーダー
が生まれていきます。中間層の中から、より幅広い利益
を代表するリーダーたちが輩出されるようになり、強い
社会の紐帯が生まれます。ここでは、中間層は狭い利害
得失に囚われることを避けようともします。
できるでしょう。
オーシャンズ の世界では、制度改革が概ね国家単位でな
されるため、
リーダーたちの関心は自国の問題に向けら
れます。その一方で、
ローカルな関心とグローバルに拡散
する話題、
そのどちらにも焦点を当てようとするパワフル
なデジタル世界の中で、地域主義と国際主義が結びつい
ていきます。ITの活用によって個人は「運命共同体」のイ
デオロギーを保持したまま、国家への帰属意識とは別の
さまざまな繋がりを築いていきます。そのため、人々は国
家レベルの問題に関心を寄せながらも、保護主義の思潮
はさほど高まりません。
途上国の力強い経済が先進諸国を刺激します。ユーロ
ネット世界は広がりと深みを増し、開かれた世界であり続
色彩を強めてゆきます。この思潮を、協力的というよりも
る形で、政治、財政、法律、金融の各分野で制度改革
が始まります。が、既得権層から中間層への権限移譲
が不十分な国では、
急激な大変革が起こります。場合に
よっては暴力が使用されることもあります。破壊的な
暴力によって、一部の国では投資が妨げられるでしょ
う。が、総じて主要な新興国は他国の失敗から学び、
問題を回避するための措置を講じ、国家の崩壊を招く
ことなく改革を実施し、政治の規範を立て直すことが
他方で一部の既得権層は、国家が強くあるためには社会
のさまざまなセクターが強くなければならず、そのため
には社会の公正さを高めることが実利的にも倫理的に
も重要であると認識します。ここで大衆イデオロギーは、
「自分の運命は否応なく他者と絡み合っている」
という
圏の改革(国家主権の移譲を伴う改革)
は「ヨーロピア
けます。この開放性が、創造性や多様性を支える一方、人
競争的な仕事環境に慣れ親しんだ科学界やビジネス界
ンルネサンス」とも呼ぶべき状況を生み出します。
々が自分の親しみのあるものだけを追い求め、
「似た者
のリーダーたちでさえもが強調しはじめ、
さらに有力な
米国経済は安定を維持しますが、政府の役割をめぐる
同士」で結びつくことで逆に、人々の考え方を狭めていく
信仰コミュニティによって広められます。
激しい政治の二極化に制約されて、米国国内では
働きもします。その背景にあるのは、個人の好みを反映す
比較的硬直した状況が続きます。
る検索エンジン技術やその他のビッグデータ利用です。
新たな政治的地位や立場の出現に伴ってまず緩やかな
つまり、
ネット世界は、新たな課題に取り組もうとする新た
変化が起こり、それが数々の深く幅広い変革へとつなが
な連携を生み出すこともありますが、他方で、孤立し、排
ってゆく。
しかしこの変革はやがて新たな既得権益を生
除され、顧みられない集団をも生み出していきます。
み出し、
もう一段の改革が妨げられてしまう。これが、
繋がりの力は、科学、
ビジネス、金融、そしてサプライチ
ェーンでの効率化を目指した調整を容易にします。が、
その一方で時には、世論を非合理的に扇動し、世界の
組織や制度への信頼を大きく貶める力も持っているの
です。その結果、世界はますます不安定化します。
オーシャンズ における
「リーダーシップ」のパラドクスで
す。それでも、
地域や国の公共財は長期にわたって増進し
ています。政治の関心の向き方次第で、
グローバルな公
共財も増進します。■
オーシャンズ 海辺の遠望 49
豊かさ
改革が始まると人々はさらなる高みをめざし、
新しい、
より 「ネット市民」の台頭
ますますネットワーク化されてゆく世界では、人々の力
声高に主張する政治勢力が勢いを得ます。オーシャンズ
の世界での政治は、政策選択をめぐる論争や利害対立の
解決手法について、政策当局の設定するアジェンダを超
えた広がりを見せることがあります。これは、活発な市民
社会が権利意識に目覚めて政府に物言い、公共政策の
及ばない問題にまで解決を求めようとするからです。
この世界では、政治家は
(ビジネス上の利益に関すること
であれ、政治的権益に関することであれ)ある勢力に偏り
過ぎていると見られると、台頭する幾多のリーダーたちと
の競争に敗れ、影響力を失ってしまうリスクがあります。
■ 自分の子供にできる限り良い教育を受けさせたいと願
う多様な背景を持つ親たちと、他の行政サービスを
犠牲にしてまで教育に力を入れることを快く思わない
人々との間で、教育論争が起こります。
■ 気候変動問題については、
これまで議論を牛耳って
きた古い世代と、なんとか解決策を見出して将来に及
ぼす悪影響を回避したい若い世代との間で論争が起
こります。
■ 金融界エリートに対する抗議行動がロンドンやニュー
ヨークで巻き起こります。
■ 情報技術によって力を得た
「ネット市民(ネチズン)」が
専横的な社会体制に挑戦します。
が政治を動かし、市場のルールを決め、自分たちの意に
沿うように国家の進む方向を定めます。ネット市民たちは
国家に対する個人の責任よりも、個人と集団の権利こそが
尊重されるべきと考えます。人々は、かつてジョン・F・ケネ
ディが大統領就任演説で述べた有名な言葉を逆転させ
て、
「自分たちが国のために何をできるのか」ではなく、
「国が自分たちのために何をできるのか、そして何をす
べきなのか」を問うようになります。
非政府組織
(NGO)
が復活します。とりわけ、個別の問題
を超えて幅広い問題に関与し、社会全体に波及するアプ
ローチをとるNGOが活気を取り戻します。対照的に、
市民社会は既存の政治家と彼らに追随する官僚の誠実
さと有用さに対して重大な疑念を抱いてゆくでしょう。
大企業も同類と見なされます。政府と癒着関係にある、
と疑われた企業は「政治化」
していると見なされます。一
般大衆の容赦ない目が光る中、企業も政府も外部の評判
によって命運が定まります。その評判が正当なのか否
かは関係ありません。
情報技術は社会に強い影響を及ぼす力に、そして政府と
つながる新たな接点になっていきます。この技術によっ
て集団的アイデンティティが形成されます。各国政府は
この種のネットワークを規制・支配しようとして失敗するで
しょう。情報革命は人々の期待と願望を膨張させ、現状
の改善を求めます。同時に、既存の社会支配構造は、変革
を押しとどめてきた仕組みと見なされるようになり、激し
い憤りの対象となります。オーシャンズ の世界はポピュリ
ストたちであふれかえります。彼らは、新たな発想や新た
な方向性もたらしますが、時として偏狭で利己的な考え
方を広めます。
オーシャンズ 多様な岸辺 51
多様な岸辺
2025年までには米国の影響力は相当弱まり、
グロー
現代のグローバル化はもはや米国モデルと同義ではなく
このような国々では、民主主義という理念がポピュリスト
バル化と、自由化と、技術進歩に追随する以外に選択肢
なり、多くの異なる岸辺を持つ大海のように、欧州に見
勢力と衝突してしまいます。また、民主主義の理念は、
グローバル化についての私たちの理解が変わります。
がない「TINA(There Is No Alternative)
」は、実現
るような確固たる社会民主主義の伝統に基づく道筋もあ
市場理念(そして市場の恩恵の享受者と見られている
1990年代は米国の覇権とワシントンコンセンサスが
可能な複数の選択肢が存在する
「TARA(There Are
れば、アジア的な開発経済の道筋もあります。世界のさ
少数派)
との間でも激しく衝突します。こういう国々では
グローバル化を支配していて、各国は自由市場原理に基
Real Alternatives)」に取って代わられます。グロー
まざまな場所で地域文化圏の独自性が強調されている、
自国内の少数富裕者層への反感と呼応するように、依然
づいたリベラルな経済運営を追求しました。つまり、米国
バル化、自由化、技術進歩といった流れそのものが弱
そのようなグローバル化が起こることでしょう。
として強大な権力を振うように見える米国にも敵意が向
経済モデルに倣うことがグローバル化だったのです。
まるということではなく、むしろ、他の国々が米国に追
が、
グローバル化はその本質上、影響力の分散化と権力
りに参加してきて、
この秩序から自国の利益を引き出
の拡散をもたらします。多くの国々がグローバル化の波
そうとしてゆくダイナミックなプロセスが始まるのです。
に乗って成長するのに伴い、
グローバル化によって推進
TARAへの移行によって米国の相対的な力は低下しま
されるあらゆる事象に各国固有の文化的、社会的、経済
すが、生産性や技術水準において米国は依然として世界
的、政治的特徴が刻み込まれてゆきます。例えば、北京
トップの座に君臨し続けます。
いつき、開かれた国際秩序に対応するためのルール作
けられます。市場経済民主主義を標榜したグローバル
「少数国間主義(ミニラテラリズム)」の台頭
オーシャンズ の世界秩序が直面する問題とは、世界がま
すます複雑化して国境を超えた国際的なやりとりが増殖
することです。こうなると既存国際制度を使った調整
方法では、もはや対応しきれません。新たな手法が
必要です。
コンセンサスがワシントンコンセンサスに匹敵する影響力
自らの価値観やサクセスストーリーの魅力で他国を引き
ここで、国家間調整の手法としては、過去の大がかりな
権威主義的な政治手法を唱えはじめます。国家による
付け、他者の考え方に影響を与える
「ソフトパワー」はも
多国間アプローチとは対照的な「少数国間主義(ミニラ
関与のレベルが異なるさまざまな統治モデルが出現
はや米国の独壇場ではなくなります。他の国々が米国
テラリズム)」が効果的なことが明らかになります。ミニ
するのです。
モデルに代わり得る魅力的な政治モデルや経済モデル
ラテラリズムとは、必要最小限の国々の関与で効果の
を提供し、それぞれのソフトパワーを振って国際政治に
最大化を図る手法、
と定義されるもので、複雑な性格を
影響を及ぼすようになるでしょう。
国々も巻き込みながらグループが拡大、
これが普遍的な
存在となってゆき、その正当性が広く認められるように
なります。今後20年間はこのような少数国主導型の
問題解決が増えることで、
グローバル化の流れは維持
「暴走する文明―『進歩の罠』
に落ちた人類のゆくえ」
(原題:A Short History of Progress)
しかしながらオーシャンズ の世界に見られる不均一な
グローバル化が、必ずしも矛盾・衝突を生むということ
秩序に共通の利害を見出し、
協力することもあり得ます。
オーシャンズ の世界では、流動的であるがゆえに漸進的
な改革の余地が生まれ、競合する勢力が手を結び、全体
として好ましい結果を得る解決策を見出せるかもしれ
ません。
持つグローバルな問題に、迅速かつ柔軟に対応できます。
やがて少数の国々が中核グループを形成し、徐々に他の
ロナルド・ライト(Ronald Wright)
移行期を経て、再び経済成長へと向かうのです。
ではありません。各国は、
自由で開かれた安定した世界
を持つようになり、米国とは別の、国家中心の経済運営と
「驚異的なのは、暴走的展開とも
呼べる変化の加速度、言いかえ
れば時間の圧縮である。
たとえば、
最初の打製石器から最初の製鉄
までは三百万年近くかかったと
いうのに、
人類最初の鉄から水爆
までは、
わずか三千年しかかかっ
ていないのだ」
化は破壊的かつ暴力的な反動を引き起こしてしまい、
グローバル化はいったん頓挫します。そして激動の
されます。
グローバル化のかたちをめぐって様々な力が押し寄せ、
さらに旧来の国家構造が弱体化するにつれて、社会は
不安定化し混乱が訪れます。たとえば少数派の特定の民
族集団に富が集中する国では、多数派との対立が起
きます。特に若年人口の多いところでそうなります。
それでも緊張は続きます。福祉と公共サービスに対する
人々の期待と願望が高まり、各国政府は人々を満足させ
ることを迫られるからです。オーシャンズの世界では、流
れが速く変化の激しい潮流が新たな機会と社会の流動
性をもたらす一方、怒とうのストレスと衝撃が続きます。
この先10年間は、難しい綱渡りを強いられることになる
でしょう。国内では、気分が移ろいやすい市民社会が、
国家による統制を受け入れようとしませんが、
その一方で、
安全保障や市場機能の確保のために必要不可欠なサー
ビスは、引き続き国家が提供することが期待されます。
他方で、市場のグローバル化が進み市民社会が声高に
権利を主張する中、国際システムにおける国民国家主権
は限定的な状態となります。
グローバル化の活力と経済成長が回復した後の世界でも、
各国は依然として主権を主張します。多くの国々は、人権
のように
「全人類に関わる」問題に関する法規則や倫理
原則を合意しようとする提案に抵抗します。国際社会が
課してくる義務が自国の伝統的な価値観に反する、
と感
じる国々も現われるでしょう。
オーシャンズ 多様な岸辺 53
TARAとTINA
グローバル化が続いていますが、その性格、あるいは
世界の資源供給が逼迫し、かつ環境ストレスが高まった
2030年までに世界秩序は、国家の枠組みを離れた
とき、強国として浮上するのは大規模な国ではなく、経済
国際的な経済関係が支えるようになり、一層の国境開放
活動の効率が高く、持続的発展に向けて急進的な道筋を
を求める動きが出てきます。市場は効率的である、
という
辿ってきた機敏な中規模な国々です。その中には、
「足る
信念に基づくものです。ところが、社会の一体感への悪
を知る」を悟った若い世代が主導する日本のほか、韓国
影響やグローバル市場の負の効果を懸念する国が現れ
やノルウェー、そして加盟国に裁量の余地を与えて再生
はじめ、
ここで国境開放に歯止めがかかるでしょう。
しか
したEUが含まれるでしょう。
し、
やがて途上国が先進諸国に近づき、先進諸国もさら
新たな世界秩序
「縦横に繋がる政府間ネットワークからなる新たな世界秩序
は、
中央集権的な国際機関を設けることなしにグローバル
な法の支配を構築し、
世界各国のあらゆる種類の行政官
を引き入れ、
交流させ、
支援し、
律することができるかもし
に成長してゆき不満が抑制されます。そして思潮は再び
規模の大きな国々は、持続的な成長のために分権化と
れない。未来では、
分散化された統治機関、
すなわち政府
国境開放に戻るのです。
革新を進めなければなりません。米国は2030年代までに
間ネットワークに登録された各国の行政官が、
各国の国
何とか刷新を図り、本来のイノベーションの力を取り戻
オーシャンズ の世界では、新たなルールを国際的に合意 します。中国も統治モデル改革を果たし、ダイナミックな
することが困難です。合意された国際ルールを実行に移
起業家の波を原動力として、革新してゆく力に満ちた
すことも困難。ミニラテラリズムによる国際間交渉が若干 「新中国」に生まれ変わります。
の成果を挙げますが、
このあたりが課題です。
市民社会はかつてなく大きな力を持つようになります。
時とともに、国際間の「基本構造(アーキテクチャー)」を
しかし、市民社会が世界に与える影響は必ずしも好まし
構築しようとする国々が互いに協力しはじめ、その中から いものばかりではありません。様々な団体が、新たな形
新たな地政学が生まれて来ます。この動きは、国際機関
態のコミュニケーション手段やメディアを使って自分た
や各国政府に属する官僚たちの実務者レベルでの繋が
ちの考えを主張し、
グローバルな課題に対する影響力を
りから生まれるものです。国際システムのあり方を決め
強めます。こうした主張は、
リベラルで民主的なものから
るのは、各国政府閣僚レベルの会議でもなければ、非政
極めて偏狭なものや犯罪にあたるものまで、実にさまざ
府組織の参集するグローバルな会議でもありません。原
まです。グローバルメディアネットワークは今日と同じよ
動力となるのは、実務レベルの官僚による国家の枠を超
うに、世界的視点に立った見解であろうと視野の狭い偏
えた協力ネットワークなのです。このネットワークは、ほと 狭な考えであろうと区別なく、あらゆる情報を、同じ扱い
んど共通の価値観を持たない官僚たちの繋がりです。彼 で、拡散します。
らは価値観を共有する必要があるとは考えていません。
オーシャンズ の物語の主役は、地域性や
それでもなお、
世界共通の政治や経済のあり方を定めて調印したいわ
利害関心や問題解決の実行能力にも違いがある様々な
けでもありません。
コミュニティなのです。コミュニティが全体的な地政学的
構造の基盤となります。世界というこの巨大システムの
新世代の官僚たちは自分たちがグローバルかつ民主的
命運は、様々なコミュニティがどのような意思決定をし
な責任を備えていないことに悩むことでしょう。彼らが
どのように協力してグローバルな取り組みを行える
発する命令を執行するグローバルな権威など存在しない て、
のか、
にかかっているのです。■
のです。彼らのエートス(精神)
は、
「面白くはない、が重
要、そして実効的」
といったところかもしれません。
家主権の実際の実行者となるだろう。
この秩序は、
行政官
たちの力を強めるとともに、
行政官たちに具体的な法的義
務を負わせる… これが未来世界における世界秩序であり、
各国内で分散しながら活動している統治機関によって
構築され、
構成されるだろう。
この世界秩序の下では、
国民
国家は民間部門の変化に遅れることなく、
しかも国民国家
の力を拡大するように進化できる。紙に書かれた原則を
個人や組織の行動にまで具体化できるという意味で、
実効性のある秩序となろう。
しかし、
真の実効性を確保す
るには、
この世界秩序ができる限り包含的で、
配慮に満ち、
寛容かつ平等な、
公正なものでなければならない」
アンネ=マリー・スローター
(Anne-Marie Slaughter)
プリンストン大学教授
A New World Order, 2004
オーシャンズ 多様な岸辺 55
新世代の官僚たち
大反乱の胎動
成功の果実の分配
また、地方分権化と地方政府への財源移転を組み合わせ
このインフラ投資の大部分は公的資金によって賄われま
オーシャンズ の世界では、
グローバル化が進む中、
スカン
ると
「裁量による改革」の余地が生まれます。開放経済を
すが、株式や債券を介した国外からの投資を呼び込む金融
ジナビア諸国が、社会モデルと財政モデルの転換を図る
敷く中規模な国は比較的容易く分権化に適応してゆきま
仲介機能も重要です。群集心理の働く国際金融・債権市場と
す。G20諸国・地域は、社会革新のスピードでは先陣を切
のリンクが不可避となり、
「BRICsインフラ銀行」やその他
るというより、むしろ後塵を拝することになります。
さまざまな信用補完の仕組みが資金調達のセーフガードと
ことに、
しばしば優れた手腕を発揮します。
「平等化」
とは
貧困層が巻き起こす動乱により実現する場合もあります
が、多くの場合、貧困層の要求に対処しようとエリートが
主導してゆくプロセスなのです。オーシャンズ では巨大
な人口を抱える新興国は比較的貧しいままで、世界の労
して導入されるでしょう。このような新興の貸し手は米国や
先進諸国では引き続き、優れた教育制度が経済的成功の
決め手となります。具体的には、高等教育の機会均等、生
涯教育のための効果的な仕組み、高水準の義務教育とい
った仕組みを備えることが国の成功の鍵です。社会保障
制度問題では、高齢者層が増加中にも関わらず、所得補
償や医療保障などの政策の重点を、若年層に移してゆか
ねばならない、
という政治課題を何とか克服した国が成
功をおさめます。この移行は、統制経済の国にあってもた
やすくなく、
グローバル化した世界では更に困難です。
V・S・ナイポールは、1990年にインド社会を鋭く描いた
「大反乱の胎動
(A Million Mutinies Now)
」の中で、
カースト制度の下に正当化された息の詰まるような社会
階級制が千年の長きにわたり続いた後、独立と豊かさと
不安定な移行期を経て困難を克服し、生産的で競争力
欧州の国際金融機関と競合してゆき、今世紀半ばまでに、ニ
民主主義が結びつき、ありとあらゆる場所で一斉に旧来
のある雇用を提供できる社会が成長を加速させます。
ューヨークとロンドンに加えてシンガポール、上海、
ムンバイ
の秩序と権威に疑問を投げかけ、
まさに百万もの暴動が
が国際金融市場へと成長してゆきます。
起きようとしていると述べています。小説家でもあり紀行
働力は主に南アジアとサハラ以南アフリカによって供給
されます。
リーダーシップ
新興市場諸国:
「中所得国の罠」を切り抜ける
オーシャンズ では、一般市民や民間セクターが参画でき
る包含的な社会に移行できた新興諸国が経済成長とい
う果実を手にし、
「中所得国の罠」を回避します。これらの
国は、先進諸国の仲間入りをめざして進化し続けます。技
術水準にしろ、都市化にしろ、先進諸国との差は依然とし
て大きいからです。成長の一部は、若年層の多い人口構
成に因るものです。オーシャンズ では、圧倒的に豊かにな
ってゆくインドと中国が世界をけん引するでしょう。この
二国は分権的で一般市民を巻き込んだ経済システムに
移行します。アジアが世界経済の中で最もダイナミック
な地域になります。
国外の投資を受け入れるべく、アジア新興諸国の多くはゆ
るやかな対外赤字傾向と自国通貨の上昇を容認します。が、
輸出頼みの国内経済の下では、自国通貨高によって雇用機
会は伸び悩むでしょう。
エリート層による独占をかき乱す
投資ブームが起きるでしょう。1950年代から60年代に
かけて米国、西欧、日本で見られたインフラ投資拡大の
時代に匹敵する大ブームです。
とでした。
しかし、
その著述には、
起業家精神や人的生産性
の解放という重要な指摘も含まれています。インドに関
指摘は現実のものになっています。
サハラ以南アフリカ諸国と多くの南・東南アジア諸国では、
中央政府に対する地方の不満や宗教的な不満が増加して、
エリート層による権力独占がかき乱されます。ガーナをはじ
めとする多くの国々が着実な進歩を遂げますが、それ以外
の国々では統治システムやインフラの改善は長続きせず、
好ましい経済的効果も生み出せません。
います。都市化に伴って住宅建設などの大規模なインフラ
動乱が人々や政治にどのような影響を与えるかというこ
する限り、
この著作が出版されて以降、そこに示された
規模は大きいものの比較的貧しかったアジア諸国が、
国内で、
さらには地域安全保障において重要な役割を担
作家でもあるナイポールにとっての関心事は、
こうした
オーシャンズ は新興諸国が成長と繁栄を遂げる物語ですが、
急激な移行期には不安定さがつきものです。既存の大規模
投資家や投資ファンドにとっては、
このような政治情勢の不
安定性が問題でしょう。■
「人類の自由獲得に向けた偉大なる
解放の勝利は、制度に基づく秩序
ある手続きによってもたらされたの
ではなく、社会の底辺から既存の社
会秩序を突き破ろうとする無秩序で、
予測不可能で、自然発生的な行動
によってもたらされた」
ジェームズ・C・スコット(James C. Scott)
Two Cheers for Anarchism
オーシャンズ 経済―高成長と大不況 57
経済―高成長と大不況
豊かさ
2つの異なる金メッキ時代が互いに影響を及ぼし合いな
がら、世界中で同時並行的に進行します。米国をはじめ
英語圏の先進諸国のほとんどが「新金メッキ時代」を迎
える一方、新興諸国は、今日の時代における
「第一次金
メッキ時代」に突入します。新興諸国は、19世紀の西欧
諸国と同じように、
グローバル化と工業化と都市化によっ
てもたらされる機会を活用するだけでなく、昨今の進歩し
た技術や密接に繋がる世界経済の恩恵も受けるのです。
最も多くの利益を享受するのは新興諸国の既得権層です。
途上国におけるこの金メッキ時代は、人口の大部分を
貧困層から中間層に引き上げます。先進諸国と途上国
のエリートたちは今や互いに結び付き、都市住民化・工業
労働者化する途上国の労働力を使って利益を手にしま
す。先進国でも途上国でも、最も搾取されるのは、経済階
層を這い上がろうとする労働者です。一方、欧米諸国で
は工業経済に取って代わってゆくデジタル経済の下、
雇用がどんどん少なくなっていきます。
新興諸国でめざましい成長が続きエネルギー需要が増大 られます。エネルギー需要が大幅な拡大を続ける一方、
CCSへの取り組みが後手にまわり、温室効果ガス排出量
歴史の教訓とは?
する中、供給を増やす政策は遅々として進まず、エネル
米国の金メッキ時代の歴史を振り返ってみましょう。当時
ギー需給の逼迫に拍車がかかります。
は、地球平均気温上昇幅を2℃未満に抑えるための目標
り、世論が行き過ぎに反対を唱えはじめた後、1901年に
タイトガス、
シェールガスおよびコールベッドメタンの
果として、気候変動の影響にどう適応するかが焦点とな
セオドア・ルーズベルト大統領が登場し、
「進歩主義時代」
開発は、政策と地質学的条件と技術面の問題が重なって
へと移行しました。介入的な政府が出来、小企業や農民
北米以外の地域では大きな成果は得られません。
の資本家による搾取と権力の乱用を懸念する声が高ま
水準をはるかに超え、憂慮すべき勢いで増加します。結
や労働者の利益に配慮した政策を講じ、政治プロセスか
ってゆきます。
揺れ動くエネルギー需要
ら不正を一掃するとともに、巨大企業と独占企業を解体
リーダーの世代交代による国内政治の不安定化が投資
して市場支配力の乱用を阻止しようとしました。イーダ・
行動に影響して、一部資源国で石油生産が滞る事態も生
ターベルのようなジャーナリストや活動家は、
こうした動
じます。こうしてオーシャンズ は、石油と天然ガス価格が
きに大きな影響を与えました。
しかし実際に所得格差が
きわめて高い世界になります。これが結果的に新たな資
縮小しはじめたのは、
ウィルソン大統領による相続税・所
源・技術開発の機会を切り開き、
「長期にわたるオイルゲ
得税の導入と反トラスト政策に続いて、
フランクリン・D・
ーム」が起こるとともに、世界的にソーラー発電が重要に
ルーズベルト大統領がニューディール政策を実施してか
なります。
増加の一因は人口増大ですが、はるかに重要なのは急成
終焉させ、繁栄が広く共有される社会を実現し、長期間
世界の天然ガス生産は期待されていたほどには伸びず、
けて、時折の混乱を伴いつつも発展し続けることです。
の安定成長を実現しました。それは1980年代のレーガ
天然ガス資源が乏しい地域では価格が高騰、
資源ストレス
ン大統領時代に社会的格差と経済格差が再び広がるま
は深刻化。価格高騰と周期的に訪れる供給危機が契機
で続いたのです。
となり、需要者側では省エネに向けた積極的な動きが見
21世紀初頭の世界金融危機は、長期にわたる経済・政治
の構造改革の時代をもたらします。改革ができないとこ
ろでは、劇的な大修正(リセット)
が起こる可能性もあり
ます。このような経済・政治改革によって世界経済は不況
から脱し、エネルギー需要が再び増えていきます。需要
長する新興諸国のほとんどが2020年代から30年にか
らでした。ニューディール政策は事実上、金メッキ時代を
続いて貧しい国々も次から次へと発展の波に乗ってくる
のです。
同時に発生する新興諸国と先進国の2つの金メッキ時代
配されるでしょう。ここで、新興国側の新金メッキ時代は、
いつ大修正(リセット)
が起きてもおかしくない状況に陥
ります。その予兆はまず、所得格差や社会的格差の拡大
と、新興中間層の高まる怒りと憤りというかたちで現れま
す。彼らは、縁故資本主義によって結びついた支配者層
とビジネスエリートが職権を乱用し、汚職にまみれている
ことに気付きます。新興国では大修正に陥る以前でも、
いつ突発的な変化が起きてもおかしくありません。
エネルギー源別一次エネルギー総供給量
米国の金メッキ時代とその後
1200
60
53
46
長期の金メッキ時代
巨大格差出現
1000
EJ/年
会変動が起こり、それによって生ずる利益は不均等に分
高所得者上位10%が国民総所得
に占める割合(%)(資産売却益は除く)
が衝突し、政治的、社会的緊張が高まります。破壊的な社
大恐慌
800
600
400
39
中間層の時代
32
200
0
2000
25
10
20
02
20
97
19
92
19
87
19
82
19
77
19
72
19
67
19
62
19
57
19
52
19
47
19
42
19
37
19
32
19
27
19
22
19
17
19
年
出典:Thomas Piketty and Emmanuel Saez, amended Paul Krugman
■ 石油
■ バイオ燃料
■ 天然ガス
2010
■ ガス化バイオマス
■ 石炭
■ 廃棄物系バイオマス
2020
■ 伝統的バイオマス
■ 原子力
■ 水力
2030
年
■ 地熱
■ 太陽光
■ 風力
2040
2050
■ その他の再生可能エネルギー
2060
オーシャンズ エネルギー:需要の大波 59
エネルギー:需要の大波
2つの金メッキ時代
70億人の人々が暮らす今日の世界には、所得やエネル
ギー消費のきわめて大きな格差が存在します。ハンス・
ロスリングは、世界人口のうち20億人が1日2ドル未満
で暮らしていると指摘し、格差問題を強調しました。残
りの50億人は次の3グループに分類されます。
■ 30億人が1日2ドル以上40ドル未満で暮らし、
家庭の
エネルギー消費量は必要最小限で、電球とおそらく
ストーブが使える程度
■ 10億人が1日40ドル以上80ドル未満で暮らし、
洗濯
機くらいなら余裕をもって回せる
■ 10億人が先進諸国並みの生活を享受し、
たとえば、
飛行機に乗って休暇旅行を楽しむ余裕がある
オーシャンズ エネルギー:需要の大波 61
持続可能な消費
今世紀末までに、化学原料の3分の1をリサイクルある
いはリユースが占めるかもしれず、世界の重工業のエネ
はエネルギーシステム改革の足かせとなります。エネル
ルギー効率は全体として80%向上します。
オーシャンズ エネルギー:需要の大波 63
逆説的ではありますが、経済財政改革によって経済力を
つけ、生活の豊かさを楽しみ始めた人々の台頭が、今度
ギー政策が需要の増加に立ち遅れ、供給不足が頻発し
エネルギー価格は本格的に高騰します。
建物も、
新規の建築・改築で冷暖房を最小限に抑える
「パッ
シブハウス」
や、
省エネ型建物への大改造が増えます。燃
世界エネルギー需要の変化は劇的です。2000年時点
料が高騰しているので高額な省エネ投資が見合うので
では、OECD加盟国が世界のエネルギー需要の55%を
す。住宅のエネルギー効率は2060年までに平均60%
占めていましたが、中国の台頭によりその割合は2010
改善し、もしかすると、2100年までに90%改善するか
年、45%に下がりました。オーシャンズ の世界では西か
もしれません。
ら東方への需要の移行が続き、2030年には更に33%
程度まで低下し、世界のエネルギー貿易の流れに大きな
多くの貧しい国々でも個人所得が増えていく結果、
これ
影響を及ぼします。
らの国々の住宅部門で伝統的バイオマス燃料からいき
なり太陽光エネルギー(ソーラー発電)
への転換が可能
急成長する新興諸国は構造改革によって比較的早い時期
になります。地域の特徴に応じた発電技術が導入され、
に重工業から軽工業への転換を遂げます。脱物質化の流
省エネ家電が普及し、結果として社会生活が大規模に電
れに沿ってサービス産業経済が構築されます。資源逼迫
化されてゆきます。
への懸念が、省エネや資源の再生・再利用を促します。
重工業では鉄やアルミニウムが再利用され、多くの家庭
北米以外のシェールガス・オイル資源量が期待はずれで
でヒートポンプが使われ、電化製品の省エネ化が飛躍的
政策支援も途切れがちな中、新たな資源プレイは限定的
に進みます。
な成功にとどまります。天然ガス供給は逼迫し、世界の乗
用車市場は、液体燃料自動車に代わろうとする天然ガス
自動車、電気自動車、水素自動車の開発普及に悪戦苦闘
します。内燃機関技術の飛躍的な進歩によってガソリン
車やディーゼル車の優位性が保たれ、
この先20年間、代
替燃料自動車はさほど普及しません。
自動車メーカーは、先進的エンジンの開発にしのぎを削
長期的には、価格高騰によって、高コスト石油資源開発
り、ハイブリッド技術の普及によってガソリン車やディー
プロジェクトやバイオ燃料生産が躍進します。今世紀の
ゼル車の燃費がさらに向上します。高い燃料代を懸念
半ばまで、依然として全乗用車走行距離の70%が液体
する新規自動車購入者にとっても、小型電池搭載のハイ
燃料によって賄われるでしょう。
ブリッド車は
(プラグイン型電気自動車に必要な大型電池
「中国の31の省・直轄市・自治区の
うちの6つは、世界で最も購買力
の高い32カ国の中に入るだろ
う。上海はサウジアラビアに匹敵
する」
ジョナサン・フェンビー(Jonathan Fenby)
Tiger Head, Snake Tails, 2012
とは異なり)
まだ手が届く価格です。高い燃料価格と高齢
石油需要は、2020年代から2030年代にかけて増大し
化を背景として、自動車の小型化が進みます。材料科学
続け、2040年代になってようやく頭打ちとなり、それが
や石油化学製品が進歩して自動車の軽量化も続きます。
長期的に続きます。液体燃料需要全体は2060年まで
これら技術発展による燃費改善の結果、代替燃料自動車
増大し続け、長期的なオイルゲーム
(液体燃料ゲーム)
に対するガソリン車とディーゼル車の反撃が成功します。 が起きますが、それを支えるのはバイオ燃料供給の
大成長です。今世紀末までに輸送用液体燃料の約3分の
2をバイオ燃料が占め、石油は、付加価値が最も高い石
油化学原料向けの利用にほぼ限られるようになります。
バイオマスも水素と同様、未来の低炭素エネルギーシス
されるようになります。原料需要の高まりから工業規模
テムにおいて要となる役割を果たします。オーシャンズ
で利用されるようになり、2060年までにはバイオマス
では経済的インセンティブと消費者や企業の選好が一致
して、バイオマスは最も価値ある選択肢となり、
まず運輸
部門で普及しはじめ、後にはプラスチック原料としても使
われます。
由来の化学原料が全体のほぼ10%、今世紀末までに
25%に達する可能性があります。
途上国では、生活の電化がバイオマスの商業化をさらに
後押しします。太陽光発電の普及によって、人々の暮ら
石油価格の高騰は高コスト石油資源の開発生産を促
すだけでなく、バイオ燃料生産者にもインセンティブを
提供します。第一世代バイオ燃料の生産は着実に拡大し、
2050年には日量400万 boeを少し超える水準に達し
ます。その後、持続可能性基準の厳格化に伴い、バイオ
燃料栽培に利用できる作物の種類や栽培場所が変わ
ってゆき、結果、熱帯地域でのサトウキビ由来のエタノ
ール生産にほぼ限定されます。が、第二世代バイオ燃料
(非食用作物や農産物廃棄物を原料とするもの)の開発
が成功すると、生産が急拡大します。第二世代バイオ燃料
は2020年代には商業生産が始まり、2050年までに
その生産水準は第一世代バイオ燃料に追いつきます。
バイオマスは石油やガスに比べて化学原料にするには扱
いが難しいのですが、消費者はバイオプラスチックを広く
受け入れていき、需要が高まるにつれて商業規模で製造
しは伝統的エネルギー源(農業廃棄物、薪、泥炭、糞)
に
頼る生活から、調理もほとんど電気で賄うような電化生活
に一足飛びに移行します。こうして伝統的バイオマスへの
需要が弱まると、多くの地域コミュニティは、その土地を
使ってバイオマスの商業生産に取り組みはじめます。
今世紀末までに、伝統的バイオマスのエネルギー用途利
用はほとんどなくなります。
バイオマスは、超長期的には原始資源量の限界によって
制約されます。
しかし、今世紀末には、
さまざまな形態で
供給されるバイオマスが全体として一次エネルギーの5
分の1近くに達し重要な役割を担います。バイオ燃料は輸
送用液体燃料の3分の2を占めます。バイオプラスチック
を介しての炭素吸収や、
バイオ燃料生産工程に組み込ま
れたCCSの効果によって、世界エネルギーシステムに残
る化石エネルギー起源の二酸化炭素排出は、最終的にす
べて相殺されます。
バイオ燃料の可能性:輸送用液体燃料需要
80
70
EJ/年(液体燃料)
60
50
40
■ バイオ燃料資源の潜在的原始資源量*
30
2010年の輸送用液体
燃料需要
20
10
2060年の輸送用液体燃料需要
(オーシャンズ)
0
北米
南米
欧州
* 第二世代バイオ燃料の生産が原始資源量の限界に到達
出所:Ecofys社調査(シェル委託研究)
アジア
アフリカ
大洋州
オーシャンズ エネルギー:需要の大波 65
オーシャンズのバイオマス:
エネルギーの栽培
環境に悪影響を与えるにもかかわらず、石炭は、少なくと
オーシャンズ におけるエネルギー情勢は、それまでのト
価格変動を経験し、新たな商業的・戦略的石油備蓄シス
も今世紀半ばまで、エネルギー安定供給確保のための最
レンドを引き継ぎ、高石油価格に後押しされるかたちで
テムが出現します。より長期的には、
OPEC加盟国は安定
も経済的な基幹発電燃料でありつづけます。それ以降
を取り戻して投資も上向きますが、生産余力はぎりぎ
になると、異常気象が頻発し、それがきっかけで気候変
りの状態が続き、価格は高止まりのまま。その結果、非
動対策に関する実効的な国際合意が成立し、CCS技術
資源開発と技術進歩が進みます。
過酷な環境での掘削が可能になり、深海や北極圏での
資源開発が進みます。石油増進回収法(EOR)技術が次
々と実用化され、
フラッキングによって岩石層内のライト
タイトオイル/リキッドリッチシェール開発が可能になり
ます。高価格の下でカナダ、ベネズエラ、
ロシア、
カザフ
スタンといった国々における超重質油の開発生産技術が
OPEC産油国では高コスト在来型資源プレイの開発余
への大規模投資が促され、石炭利用にも歯止めがかかり
地が出てきます。
ます。次いでCCS技術が確立してくれば、世界の石炭需
米国では、2030年代までに国内供給量の増加や省エネ
エネルギー集約的な発展段階に入るためです。なお
基準の厳格化を背景として、石油輸入量が徐々に減少
原子力発電は、
ほとんどの国々で政策の後押しが得られず
します。価格高騰も需要抑制につながります。
しかし、
進みません。
2100年までに太陽光が主流に?
太陽光
37.7%
石油
10.1%
バイオ燃料
9.5%
要は2050年ころに再び拡大しはじめます。新興国が
向上し、本格生産がはじまります。
リキッドリッチシェールの重要性が高まる一方で精製設備
やパイプラインシステムが対応できず、将来も石油製品
エネルギー価格の高騰と需要増大が追い風となって、
オーシャンズ では、2012年時点で世界の石油生産の
75%超を占めていた大産油国がシェアをさらに拡大
します。OPEC加盟国は低開発コストの石油生産余力
の過半を保持し、
さらに高コスト技術を活用して回収可
オーシャン ズ の初期段階
能埋蔵量を拡大します。が、
では、OPEC加盟国のほとんどが地政学的に不安定
であり、高コストプロジェクトは投資不足に陥るでしょう。
や原油の輸出入が必要です。米国は海外発の石油ショック
再生可能エネルギーは着実に拡大します。バイオ燃料
に引き続き悩まされるわけです。加えて外交上の理由
は、
これまで確実な代替燃料がなく液体燃料に依存
から、世界のエネルギーシステムの安定が米国の国益
してきた運輸セクターで、
ますます重要な存在になります。
にとって重要である状況は変わりません。
他方で、風力発電や地熱エネルギーシステムのように、
北米での成功を足掛かりに天然ガス生産は拡大し続
クトは、地元の反対に直面します。
地域住民の同意を要する再生可能エネルギープロジェ
けます。
しかし、世界規模でのタイトガス、
シェールガス、
コールベッドメタン開発は、技術的に困難、あるいは
こうした状況が分散型である太陽光発電に有利に働き、
経済的に回収できる資源量が少な過ぎるなどの理由
太陽光発電は主要エネルギー源になってゆきます。
太陽光は、現時点では13番目のエネルギー源に過
で期待どおりには進みません。
ぎませんが、今後大きく普及拡大し、2040年までに
石油、
ガス、石炭に次ぐ4番目、
さらに、2100年には最大
天然ガス
7.5%
ガス化バイオマス
5.3%
風力
8.4%
廃棄物系 原子力
バイオマス 6.3%
4.1%
水力 2.2%
地熱 4.4%
伝統的バイオマス 0.3%
その他の再生可能エネルギー 0.03%
のエネルギー源になります。太陽光が世界のエネルギー
石油の原始埋蔵量
35000
7000
30000
6000
25000
5000
20000
4000
10億bbl
tcf
ガスの原始埋蔵量
15000
3000
システムを支配するようになるのです。
が試される一方、冷蔵庫や洗濯機などの家電製品が住宅
太陽光発電の普及は、電力経営の「メリットオーダー」
ティが共同で太陽光発電ネットワークを構築すると需給
Methane Hydrates
Kerogen
Unconventional Gas
Extra Heavy Oil / Bitumen
Yet to Find
Light Tight Oil / Liquid Rich Shale
げるよう政府に働きかける世論の圧力によるところもあ
Scope for Recovery - General
Yet to Find Conventional
ります。太陽光発電は時間帯や天候等に発電量が左右
(限界費用の安い電源を優先的に採用し、全体の発電
コストを抑えること)
において、太陽光の優先順位を上
10000
2000
Undeveloped
Scope for Recovery Conventional
されるため、系統連系においては、一日を通して他の
5000
1000
Developed
Undeveloped
電源による出力調整が必要となります。調整用電源には
0
0
Produced
Discovered Conventional
可能な地域では水力発電が用いられることが多く、
それ
Produced
以外ではガス、石炭、バイオマス火力発電が使われます。
マウンテンズ
■ 既生産分
■ 在来型ガス既開発分
■ 在来型ガス未開発分
■ 在来型ガス未回収分
オーシャンズ
■ 在来型ガス未発見分
■ 非在来型ガス
■ メタンハイドレート
マウンテンズ
■ 既生産分
■ 在来型石油既開発分
■ 在来型石油未開発分
■ 在来型石油未回収分
■ 在来型石油未発見分
オーシャンズ
■ ライトタイトオイル/
リキッドリッチシェール
■ 超重質油/
ビチュメン
■ ケロジェン
規模が拡大するにつれ、
規制当局はこのような電力需給
調整に伴うコストを電力の消費者に転嫁せざるを得なく
なります。するとこれが契機となって、最終ユーザーの側
で一日の電力消費の平準化を図る動きが出てきます。
蓄電池の利用やエネルギーを温水として保存する方法
オーシャンズ エネルギー:需要の大波 67
やがて、
OPECの生産余力はなくなります。市場は激しい
長期にわたる液体燃料ゲームと太陽光発電の普及
用太陽光発電システムに接続されます。小規模コミュニ
パターンの安定化に貢献するでしょう。
一日の需給を平準化するのはそれ自体大変なことですが、
太陽光発電にとって四季を通して供給を安定させるのは
さらに困難な課題です。多くのOECD加盟国が属する
温帯域では、太陽光発電による電力の80%は夏に発電
されます。そこで、
夏期の発電で水を電気分解して冬期用
に水素を製造・貯蔵するシステムが重要となり、
とりわけ、
工業向けの水素利用と組み合わせることによって大きな
効果を発揮します。オーシャンズ の世界では国際的な政
策調整が困難なことから、分散型水素システムの導入構
想は、大陸横断規模の電力系統構築構想より現実的です。
石炭
3.9%
100%再生可能なエネルギーシステムは可能か?
部門別二酸化炭素排出量
な国々ですが、長期的に広く普及するのは多くの新興諸
国です。2060年までに、OECD加盟国と非加盟国いず
45
れも、電力の40%近くが太陽光発電によって賄われるよ
40
増え続け、今世紀末までに60%に到達します。これは
驚異的な快挙です。世界の発電量が2012年の水準の7
Electricity CCS
われるのは、いつになったら再生可能エネルギーだけで
30
Refining CCS
100%賄えるエネルギーシステムが実現するのか、
という
25
Industry CCS
問いです。
20
倍に増える中でこれが達成されるのです。
世界経済が成長し、発電燃料として石炭が引き続き重要
エネルギーシステムの将来転換に関する議論でよく問
35
うになります。OECD非加盟国においては割合がさらに
5
オーシャンズ の世界では温室効果ガス排出量が増大
-15
します。エネルギー効率の向上と再生可能エネルギーの
-20
が、その頃までに大気中の二酸化炭素濃度上昇が、頻発
する極端な異常気象の原因であることが証明され、
Refining & Biofuels
0
-5
-10
に頭打ちとなり、
その後2050年代まで横ばいになります。
Biomass - Non Energy
10
な地位を占め、運輸セクターで化石燃料が使われる結果、
導入による削減効果を差し引いた排出量は、2030年代
Other Energy Production
15
Gt CO2/年
嵐の空
Other Energy Production CC
■
■
■
■
■
2070
2010
2070
2040
2100
2100
2100
今世紀前半、CCSプロジェクトはほとんど進みませんが、
2060年以降は二酸化炭素排出量の削減が緊急課題と
位置付けられ、気候変動対策が進みます。CCS実施例が
増え、
エネルギー起源の二酸化炭素の回収率は2050年
の5%から、2075年には25%に上昇します。今世紀末
までに、二酸化炭素排出量のほぼ全量が回収または相殺
されるようになります。
CCSは、
まず先進諸国で導入されますが、
急成長を遂げる
新興諸国でもきわめて短期間のうちに普及します。2050
年以降、新興発展途上国では比較的早い経済/産業発展
の段階で、主に発電部門や石油精製部門の排出量削減
を目的としてCCSが導入されます。
CCSがバイオマス火力発電に導入されれば、
ここで初
めて、
大気中の二酸化炭素濃度が低下しはじめます。発電
部門では、2090年代になってようやく、二酸化炭素排
出量が実質ゼロとなるカーボンニュートラルを達成。
しかし、
脱炭素化が困難な運輸セクターや製造業セクター
では、2070年代からカーボンオフセットへの取り組みが
始まります。■
Residential
Transport
年
重工業・農業・その他の産業
サービス
運輸
住宅
発電*
■
■
■
■
■
石油精製・バイオ燃料**
その他のエネルギー生産
非エネルギー用バイオマス***
製造業部門CCS
石油精製部門CCS
■ 発電部門CCS
■ その他のエネルギー生産部門CCS
合計
ついに、政策が変わります。棚上げされていた温暖化対策
技術の活用が蘇り、排出権の価格付けも動き出します。
Electricity Generation
ニューレンズシナリオでは、マウンテンズ と オーシャンズ
いずれの世界においても、再生可能エネルギーは2060
年までに全体の30~40%を占め、
さらに将来まで時間
を延長すれば、
おそらく60~70%にはなるでしょう。失望
する人々がいるかもしれませんが、
この水準に達するだけ
でも上出来と考えるのには、それなりの理由があります。
* CCSと組み合わせて「炭素吸収源」と見なされるバイオマス発電を含む。
**「炭素クレジット」と見なされるバイオ燃料を含む。液体燃料からの二酸化炭素排出量は運輸部門に含まれる。
*** 食糧資源と競合しないバイオマス。
Services
まず一つめの課題として、再生可能エネルギー資源の
Industry
地理的腑存があります。再生可能エネルギーはしばしば
需要の中心地から遠く離れた場所に存在しています。
太陽光が豊富な地域(砂漠地帯など)
は、人口密集地
から遠く離れていることが多く、国境や大陸をまたがって
すらいます。需要地の近場に立地が可能な場合には他の
問題が出てきます。風力や太陽光などの再生可能エネ
ルギーを活用するためには広大な敷地が必要です。
普及が進んでくると土地利用の社会的優先順位が問題
になってくる可能性があります。たとえばインドやナイジ
ェリアといった国々では特に問題で、今世紀末、
インドと
ナイジェリアの二カ国だけで世界人口の4分の1近くを
占めるようになりますが
(国連人口推計中位値)、実質的
に利用可能な土地面積は両国合わせて世界の3%しか
ありません。
二つめの課題は電力で対応できる需要セクターの限界
です。今日、再生可能エネルギーは主に発電に利用され
ていますが、2010年現在、電力がエネルギー需要全体
に占める割合はわずか18%です。他の部門のエネルギー
需要を電力に転換するにしても限りがあります。化学製品
は炭化水素を原料とし、運輸セクター(特に航空機輸送)
は炭化水素燃料を必要とし、製鉄には炭素の添加が必要
なのです。
いずれ運輸セクターで水素が広く使われるかもしれま
せん。
しかし、当面、その水素は石炭か天然ガスを原料
にして生産されます。再生可能資源を利用した電気分解法
による水素生産は現状費用がかかり過ぎ、熱学的にも
非効率です。
三つめの課題は、
コスト競争力のある蓄電技術と長距離
送電をどう実現するかです。再生可能エネルギーがエネ
ルギーシステムの重要な構成要素となるためには、電力
供給が需要を下回ったり上回ったりする場合に備えて、
当面、何らかの蓄電設備を整備する必要があります。
すでに多額の資金を投じて研究が行われていますが、
蓄電研究はいつのまにか発電技術に先を越されています。
早く追いつかないと再生可能エネルギー発電の導入
ペースを遅らせることにもなりかねません。
問題の多くは大陸をまたぐスーパーグリッド
(大陸間送
電網)
と海中ケーブルによって解決できる、
と考える人々
がいます。また水素を持ち運び可能な液体に加工変換して
長距離輸送しよう、
という提案もあります。これらは技術的
に可能なものの、いずれも巨額の資金を要する大規模
国際プロジェクトです。エネルギーシステムの脱炭素化
を目指すこうしたプロジェクトを前進させるには、並はず
れた国際協力と巨額の資本投資が必要です。
完全に再生可能な未来を思い描こうとする楽観主義は、
政治的・社会的な課題は言うまでもなく、技術水準、地理
的条件、市場の情勢に応じた実用性を正しく理解したう
えで修正される必要があります。未来のエネルギーミッ
クスについての楽観的な見解がめざすものが、CCSと
バイオマス発電の組み合わせを取り込んだゼロエミッショ
ンエネルギーシステムというのであれば、再生可能エネ
ルギーだけを100%利用するシステムと比べて、
はるかに
実現可能な選択肢のように思われます。
オーシャンズ エネルギー:需要の大波 69
したがって、太陽光発電をいちはやく導入するのは裕福
ニューレンズシナリオ 経済発展と持続可能性についての考察 71
経済発展と持続可能性
についての考察
世界のエネルギー由来二酸化炭素排出量
50
45
40
ニューレンズシナリオ は、社会・政治・経済領域で未来に起
この厳しい結論は、
シナリオの物語そのものだけでなく、
こりそうな展開を示しながら、長期的にエネルギーとその
シナリオに触発されて今後繰り広げられる幅広い対話
関連分野にはどのような限界があるのか、
を探ろうとした
と、そこから導き出される選択がいかに重要かを示して
ものです。
います。
しかし、社会・経済・政治領域のシナリオとそれがもたらす
当然、経済成長は資源逼迫の原因となりますが、成長
エネルギー・環境問題とは、短絡的に結びつくものではあ
オーシャンズ における力強い世界経
りません。たとえば、
済の下でマウンテンズ で想定されているエネルギー資
めの目標水準を依然として上回っているからです。経済
成長率が低く、石炭から天然ガスへの転換が急速に進
み、エネルギー効率に優れたコンパクトシティの開発が
進み、
CCSの導入が加速する、
というマウンテンズの
世界ですら脅威は変わりありません。
25
20
15
5
そのものは概して明るい材料なのです。これが「豊かさ」
0
のパラドクスです。
しかしながら、エネルギー分野の政策
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
迅速かつ協調的な政策の効果は二酸化炭素排出量の
推移を示したグラフから見てとることができます。この
グラフはオーシャンズ に描かれた世界経済の軌跡を前提
マウンテンズ のエネルギー資源開発や供給サイド
にして、
オーシャンズ で書き込んだ省エネ政策の早期
の動向と、
:クリーン&グリーン )
とを組み合わせ
実施
(オーシャンズ て感度分析を行ったものです。排出量の観点からすると、
なお理想には届かないものの相当な効果が示されており、
勇気づけられる結果です。
2040
2050
2060
2070
2080
2090
2100
年
オーシャン
が迅速に打ち出されず、対応が後手に回ると、
ズ で示された限界に近い状況へ向かうことになり、資源
開発プロジェクトの経済性と地球環境に大きなストレス
ンズ の物語の中に見られるエネルギーと環境の間の
極端なストレスはいくらか軽減されることでしょう。また、 がかかります。つまり、単に二酸化炭素排出量が増えると
いうだけでなく、エネルギー資源開発によって水資源や
マウンテンズ におけるタイトガス、シェールガス、
コール
食糧にも影響が及ぶということです。
ベッドメタンの開発の順調な進展が両方のシナリオで
実現する可能性もあります。
持続不可能な事態を回避するために肝に銘じるべきは、
積極的かつ総合的な政策を実施する必要があるという
オーシャンズ では、今世紀中に排出される二酸化炭素量
こと、
加えて、途上国経済の不調によって温室効果ガス
がマウンテンズ に比べて25%近く多くなります。この
排出量が抑制されるだろう、
といった主張は断固として
シナリオでは気候変動への深刻な懸念が巻き起こり、
行わないことです。
実際、
賢明な政策を促すには、
各国
温暖化適応に向けてヒト・モノ・カネが動員される必要を
オーシャンズの「緊迫した」状況 経済が活力に満ちている必要があります。経済が低迷
訴えています。もちろん、
を身近に感じると目を覚まされる思いがします。
しかし、 すると環境問題への対応が後回しにされる傾向があるか
マウンテンズ の世界の「余裕のある」状況でさえ、長期的 らです。
温室効果ガスの量は、
気温上昇幅を2℃未満に抑えるた
30
10
源開発が実現するかもしれません。そうなればオーシャ
な持続的発展にとっては脅威です。大気中に蓄積される
Gt CO2/年
35
実績
オーシャンズ
オーシャンズ―
クリーン&グリーン
オーシャンズ:クリーン&グリーン で得られた感度分析結
果によれば、エネルギー需要が増大してゆくと、初期段階
では化石燃料の供給増とCCS技術の組み合わせ、すな
わち増進回収法(EOR)
への適用が起こります。2030
年代に至ればさまざまな再生可能エネルギーがそれなり
の規模で経済活動に組み入れられるようになります。当
初は需要の新規増加分を賄う程度ですが、徐々に石炭や
石油の一部をも代替し、都市計画の省エネ化が起こり、
経済発展に必要とするエネルギー消費量が低下しは
じめます。
これらが一緒になって、
天然ガス、
石炭とCCS、
そして再生
可能エネルギーを基盤とするエネルギーシステムは効率的
になってゆきます。エネルギー資源は豊富で供給力に余
裕を持ち、需要を満たし、価格は妥当な水準で、最終的
に環境への影響も軽減されています。
つまり、ニューレンズシナリオ から導き出せるひとつの
マウンテンズ
気温上昇幅を2℃未満
に抑えるためのに目標水準(例示)
現在の金融危機が最悪期を脱すれば、誰にとっても好
ましくない結果をもたらす厳しい見通しを振り返り、
社会は再び地球温暖化問題に関心を高めるでしょう。
オーシャンズ
問題が対処されないまま放置されると、
で示した緊迫した状況が現実のものになります。
しかし
科学界の大勢が認める気候変動予測が正しいとすれば、
逆説的ではありますが、
この緊迫した状況は起こりにく
くなります。オーシャンズ の温室効果ガス排出量の上昇
が経済に深刻な打撃を与える結果として、エネルギー
需要は大きく減少するでしょう。すなわち、好ましくない
道筋を経由するものの、温室効果ガス排出量は削減
されてしまうわけです。
ここで示した感度分析では気候変動が世界の経済、
社会、
政治状況に深刻な混乱をもたらす想定にまで踏みこんだ
温室効果ガス排出量の推移を示してあります。
しかし、
長期的な未来は常に不確実なため、そのような極端な
結論は、大変化は単独要因で起きるのではないという
フィードバックを今回の二つの大局的なシナリオ作品に
こと。価格変動という単独要因、あるいは危機に対する
組み入れる意義は小さいのです。私たちは、未来へ続く
政策的な対応の遅れというような単独要因では大きな
軌跡がどの方向に向かっているのかを明確に示すことで、
変化は起こっていません。逆に言えば、好ましい結果を得
起こり得る結果について十分な情報に基づいた対話
るためには、事前に将来を見据えて、国内的にも国際的
がなされるよう支援したい、
と考えています。
にも協調のとれた様々な政策を講じる必要があるので
すが、現時点では望み薄のように見えます。
世界の淡水利用の約70%は農業用水です。
したがって適切 エネルギーと水の関連について詳細なモデルを作って
検証したところ、2060年までにエネルギー産業の淡水
な水利用のあり方を検討するには農業部門に焦点をあ
てる必要がありますが、一方で産業部門においてはエネ
ルギー産業が最も淡水消費量の多いセクターのひとつ
です。
消費量が2倍以上に増えるという結果でした。これは、
内訳は若干異なるものの、マウンテンズ と オーシャンズ
水とエネルギーと食糧の必要量は、
世界全体で、2030年までに今より
40~50%増加します。
の両方にあてはまります。主な要因は、石炭火力発電の
増加ですが、他の発電方式での水の消費量も増していき
水は発電用途で最も多く消費されますが、掘削、油田
への注水、
石油精製、
バイオ燃料生産にも水が必要です。
国際水管理研究所(IWMI: International Water
Management Institute)
の推計によると、米国の
エネルギー産業だけで世界の淡水取水量の40%を使
っています。
ます。バイオ燃料の生産や石油・ガス生産における使用量
の増加も大きな要因です。けれども発電所におけるワン
スルー冷却方式が段階的に廃止されるなど、水利用効率
の高い発電設備への転換が進んでゆくため、エネルギー
産業の淡水取水量は早ければこの先10年以内に頭打
ちになります。
しかし逆に、水の供給や浄化、配水、廃水処理のためには
エネルギーが必要です。戦略国際問題研究所
(CSIS)
の
「Clear Gold」報告書によると、一部中東諸国では、海水
淡水化のために国内の石油・天然ガス利用の65%を使用
しています。米国エネルギー省によれば、米国における水
のコストの75%はエネルギー使用によるもので、米国の
世界の淡水取水量(セクター別)
公共セクター
10%
農業セクター
70%
発電電力の4%は水の運搬と処理に使われています。
淡水消費量(マウンテンズ)
150
産業セクター
20%
120
Electricity - Geothermal
Electricity - Solar
10億m3/年
Electricity - Biomass
90
Electricity - Nuclear
60
Electricity - Coal
30
Electricity - Gas
Electricity - Oil
0
2010
■ 化石燃料の生産
■ バイオ燃料の生産
■ 石油精製
■ 石油火力発電
■ ガス火力発電
2035
年
2060
■ 石炭火力発電
■ 原子力発電
■ バイオマス火力発電
■ 太陽光発電
■ 地熱発電
Refining
Biofuels production
Fossils production
ニューレンズシナリオ 経済発展と持続可能性についての考察 73
ストレスネクサス:
水とエネルギーの繋がり
2020年代になると、
これまでにない激しい嵐がいくつも
アジアを襲い、
海面が上昇し、
海岸沿いの主要都市が甚大
な洪水被害に見舞われます。こうした事態に対応すべく、
各国政府は早急に堤防や防護壁を築き、風力発電や太陽
光発電など新たなエネルギーインフラの建設を進めます。
しかし10年後、再び、尋常でない洪水がいくつも発生し、
防護壁やインフラを破壊します。
裕福な人々は自前で発電機やその他の緊急時のエネル
ギー供給装置を整備していましたが、貧しい人々は、被害
をもたらした原因者を特定して修復費用を負担させる
よう政府に迫ります。さらに、裕福な人々も貧しい人々
も一様に
「根本的原因」をどうにかしなければならない、
つまり、今の世代のうちに二酸化炭素排出量を大幅に
削減しなければならないと主張しはじめます。
このような社会的合意を受けて、新たな現実に応じた
インフラ整備資金を賄うために、化石燃料の開発・生産・
加工各段階への課税が引き上げられます。この増税に因
る追加コストは最終的に末端消費者に転嫁されることに
なりますが、
不意を突かれた石油産業は当初、
大いに動揺
するでしょう。
新たな世界では、石炭よりも天然ガスが優先され、バイ
オ燃料の使用義務が急速に導入されます。2030年代の
終わりまでに、二酸化炭素回収・貯蔵も加速度的に普及
します。
「適切な」エネルギー利用に関する規制が導入
され、その一環として、
ゼロエミッション住宅、建物一体型
の太陽光発電もしくは風力発電、小型熱電併給システム
(CHP)
など、気候変動や災害に強い建物やエネルギー
供給システムの建設・設置が義務付けられます。運輸部門
のエネルギー消費削減に向けて、都市のコンパクト化
と物流拠点の整備効率化が図られると共に、二酸化炭素
排出量削減施策(公共交通機関の電化など)
が優先実施
されます。車の利用機会も制限されます。
ニューレンズシナリオ 経済発展と持続可能性についての考察 75
劇的な変化の可能性:
都市化
2020年代に入ると、米国が長期にわたる干ばつに見舞
われる一方、世界の他の地域では大雨と洪水が起こり、
その後20年間にわたり食糧生産が大きく落ち込む可能性
があります。米国の農地のほとんどを保有する多国籍
企業は、別のビジネスに転出しようと農地を売却しはじめ
ます。途上国の貧しい農民は、
とうもろこしや米や小麦の
値段の急騰を目の当たりにします。
異常気象は、農場、輸送インフラそして世界の食糧サプ
ライチェーンに大きな影響を及ぼします。海面上昇が
メコン川やガンジス川流域に塩害をもたらします。海洋
酸性化も食物連鎖に大きな被害をもたらします。サンゴ、
石灰質植物プランクトン、二枚貝、巻貝、
ウニその他の
海洋生物が、炭酸カルシウムから殻や骨格を作りにくくな
るからです。これらの海洋生物が徐々に消滅すると海洋
生態系にストレスが発生し、その他の海洋生物の生息域
の大規模な移動や、場合によっては種の絶滅すら起こる
今日、エネルギーの将来をめぐる議論は二つの陣営に分
かれていて、大きな隔たりがあります。今現在の現実、
人間行動の特性、経済的・技術的に達成可能な範囲を勘
案して「ここまでが限界」
と考える将来像を提言する人々。
他方で、彼ら
(彼女ら)
が「こうあるべき」
と思う野心的な
目標をまず設定し、それに向かうわれわれの行動を奨励
するために目標の実現可能性を数学的テクニックで証明
しようとする人々。
レジリエンス
(回復力)の観点から考えれば、前者のアプ
ローチは、長期的に見て生じうる結果の全てが環境的に
持続不可能であり、
よって経済的にも持続不可能である
という問題を抱えています。後者のアプローチは私たち
人間の態度を劇的に変え、今日からただちにエネルギー
消費を減じることを前提にします。さらに、気候変動に関
する議論は、歴史的な緊張関係を背景として政治問題化
され、二極化したイデオロギーの対立によって大きく歪
められてきました。
本書で紹介した用語を使って表現するなら、世界の気候
変動政策をめぐる動きは現在、
「膠着状態」にあります。
ようになります。
これは漂流している状態のようなもので、
困難な選択がし
地球温暖化に大きく影響を受ける食糧資源に依存して
しか見られません。対応の遅れは、地球の生態系の変化
きた人々は大挙して別の場所に移住しはじめます。各国
政府は、可能な限り灌漑事業や洪水対策を講じて事態に
対処しますが、強制移住というきわめて不人気な手段に
訴える場合もあるでしょう。二酸化炭素の排出に重税が
課せられます。CCSについては、石炭火力発電のクリーン
化を進める中国が先行し、石炭は長期的には天然ガスの
強力なライバルとして復活します。バイオ燃料をはじめ
とするバイオマスエネルギーは食糧生産が優先される
ために生産が減少します。
ばしば何年も先まで延期される中、前進はほんのわずか
の時間尺度がきわめて長いために許されるものです。
しかし、漂流状態が長く続けば続くほど、後で必要となる
大軌道修正とそのために費やされる財政的、社会的、
政治的資源が大きくなってしまうことは、過去の例を振り
返れば明らかです。
私たちは、
この問題を次世代に残すことを道徳的に許
せるでしょうか。仮に何らかの措置が前倒しで講じられる
場合でも、私たちはそこに生ずる経済的な損失を受け入
れることができるでしょうか。また図らざる政策の間違
いや、
制度にただ乗りするフリーライダーへのフラストレ
ーションを甘受できるでしょうか。民間企業はひとびとの
欲求を満たすのが本来の役割ですが、
グローバルな公共
の利益のために民間部門の力を解き放つ政策を、われ
われ市民社会が選択できるでしょうか。■
ニューレンズシナリオ 経済発展と持続可能性についての考察 77
劇的な変化の可能性:
食糧と水
この繋がり合った複雑な世界にあって、私たちは今、
どの
ような選択と協力をすれば、均衡のとれた好ましい未来
を手に入れることができるでしょうか。シェルは、ニューレ
ンズシナリオ がそのための議論を喚起する一助となるこ
とを願います。シェルでは、
このシナリオで描かれた分析
フレームワークや、大局的なシナリオ世界(パノラマ)
を
社内で活用し始め、一企業として、そして未来のエネル
ギーシステムを形作るプレイヤーとしてどのような選択
を行うべきか、
をとことん考え始めています。
シナリオは、
世の中のさまざまな動きがどう繋がり合って
いるのかを教えます。フィードバックを繰り返すことで当
初めざした方向がどう修正されるのか、ある方向に向か
おうとする流れがそれに逆行する流れを生み出し、結果、
物事は不可避的に循環し、繰り返し起こることを教えてく
れます。
マウンテンズ の冒頭で示した緩慢な政治改革は、社会的
緊張を生み出し、いずれ政治的行動に結び付き、変化が始
まります。オーシャンズ で描いた改革の姿では、新たな
既得権益を手にした多様なグループが生まれて、
もう一段
の改革を抑える、
とされました。需給の緩急は市場での
価格変動とそれに対する当事者たちの反応を呼び起こし、
その結果、需給バランスは調整されます。つまり片方の
シナリオの中にもう片方のシナリオの種が埋め込まれて
おり、その逆もまたしかりということです。こうしたシナリ
オストーリーの語り口は、東洋の伝統的な考え方によって
立つ読者には比較的なじみがあるかもしれません。一方、
西洋の思考様式を身につけた読者には、定量化され一方
向に向かうシナリオの語り口の方が、括目して聞いてもら
えるのかもしれません。東西が繋がった世界に住む私た
ちは、両方の「視角
(レンズ)
」
を通して見ることを学びつ
つあります。
ですが、それは未来の世界がマウンテンズ とオーシャンズ
を「平均」
したようなものになるだろう、
と言っているので
はありません。
どちらを見ても
「豊かさ」
と
「リーダーシップ」
と
「繋がり」のパラドクスが見え、
「膠着状態」
と
「裁量による
改革」の道筋があり、
どの方向にもマウンテンズ の世界と
オーシャンズ の世界を見ることになるのです。
戦略立案におけるシナリオアプローチの目的は、従来の
世界観と異なる行動パターンを、
的確に見抜けるリーダー
を生み出すことにあります。またシナリオは、起こり得る
結果には一定の幅があり、
これを完全にコントロール
したり無視したりはできなくても、ある程度影響を与えら
れる可能性があることを教えてくれます。
重要なのは、私たちが個人としてそして集団として、
いかに賢明な選択を行うか、
ということです。いずれの
シナリオにも良い側面と課題を抱えた側面とがあり、
多くの場合、その違いは私たちがどういう視点に立って
物事を見るかにかかっています。もし未来の世界の複雑
な力学を見きわめることができれば、賢明な進路選択と
緊密な協調により乱気流をうまく通り抜け、
より穏やかな
海、そして山頂の高みに到達することができるかもしれ
ません。
読者の皆様が、共に熱意をもってよりよき未来に向かって
邁進してゆかれることを願っています。そしてニューレン
ズシナリオ が、私たちの未来への展望をより明らかにす
べく役立てるのであればこれほどの幸いはありません。
シェルシナリオチーム
2013年3月
ニューレンズシナリオ 結びの言葉 79
結びの言葉
区分
シナリオを形
づくる動因
基調
パラドクス
道筋
オーシャンズ
区分
シナリオを形
づくる動因
マウンテンズ
オーシャンズ
生まれ備えた地位と、 既得権、既存制度の固定化と硬直化
行動パターン
高まる期待と欲望、競合する利害の調整
エネルギー需要
選択
規制
市場
反転流
既得権グループが主導し、一定レベルの改革
が前進
利権グループの増殖、
もう一段の改革が遅れる
価格
外部経済
(例えば炭素価格など)
は暗黙に
価格に反映
エネルギー価格高騰
豊かさ
社会階層の多層化と富の集中
富の分散化と分配問題
リーダーシップ
既得権層が既存のシステムを活用し問題を
解決
競合する利権グループが、それぞれの
代表を求める
繋がり
グローバル化の停滞
グローバル化の激流
ネット世界のバルカン化
開かれたネット世界の発展
現体制下で影響力を振るっている経済・政治
権力システム
中間層が、新しい政治・経済体制を構築
してゆく
裁量による改革
マウンテンズ
「現状維持」
を脅かすことのない政策分野が
進展
膠着状態
その他の特徴
創造性
守るべきもの
経済財政システムの根本改革による
高度経済成長
経済改革が進まず「中所得の罠」
に陥
る一部の新興諸国
優先分野以外では、新しい利権グループ
がもう一段の改革進展を妨げる
政治・社会システムにストレスがかかる
地球温暖化問題にストレスがかかる
芸術、技術開発、起業活動で優れた功績を挙
げた個人が社会的地位を高めていく
政治、
ビジネスモデルにおけるイノベーション
「私たちの生き方こそ」
エネルギー資源
エネルギー技術
非効率は良くないこと
国民国家、
エリート層の同質意識
大衆イデオロギー
自らが運命の主人
絡み合い共有される運命
卓越した個人への報償
団結
人は分に応じたものを手に入れる
自分が属するシステムの出来不出来
によって、手に入るものも違う
外部経済
(例えば炭素価格など)
は明示的に
価格に反映
省エネ技術
製品基準
市場主導
省エネ行動
社会制度に組み込まれる
価格感応型
エネルギー事業の経
済性
当初はトレンドを下回る
現状のトレンドが続く
石油
需要減少
長期の液体燃料ゲーム
天然ガス
シェールガス開発の世界的成功
北米以外でのシェールガス開発の頓挫
石炭
クリーンコール
旺盛な石炭需要
原子力
再興
(ルネッサンス)
市民の反対
再生可能電力
コスト面に課題
太陽光発電が主力
バイオマス
電力向け燃料
輸送用および
(後に)
化学原料用
技術革新
知的財産権保護
オープンイノベーション
応用エリア
大規模供給プロジェクトに注力
地域分散型
(供給および省エネ)
運輸セクター
天然ガス燃料と電化
ガソリン車およびディーゼル車の燃費改善
都市部での移動距離が短縮
社会正義
人と人の関係性
中庸なエネルギー価格
発電セクター
「物言わぬ多数派
(サイレントマジョリティ)
」
の同質意識
環境
集中管理型
分散化
発電がCCSや水素製造・貯蔵システム
と一体化
再生可能エネルギー電力の不安定性の管理
が課題
土地利用
コンパクトシティ
食糧生産とエネルギー生産の競合
公害
規制基準の事前交付、
事業者側の
事前対応
地方ごとに、
様々に防止対策を模索
気候変動・
生物多様性
保全地域の設定および森林再生
遺伝子組換え作物の受容
地方ごとに異なる森林再生施策
温暖化適応
防護措置
移住
ニューレンズシナリオ 補足:各シナリオ世界の比較 81
補足:
シナリオ世界の比較と
それぞれの課題 ― 例示
マウンテンズ 総一次エネルギー
(エネルギー源別)
オーシャンズ 総一次エネルギー
(エネルギー源別)
一次エネルギー需要(EJ/年)
年
石油
バイオ燃料
天然ガス
ガス化バイオマス
石炭
固形廃棄物系バイオマス
伝統的バイオマス
一次エネルギー需要
(EJ/年)
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
52,0
98,0
130,3
135,7
153,3
173,1
190,2
199,6
188,7
160,5
132,4
0,0
0,0
0,1
0,3
0,5
2,5
6,6
8,6
10,0
10,2
13,5
18,9
35,3
51,6
70,2
87,3
114,8
149,7
188,8
226,2
237,7
234,8
0,0
0,0
0,0
0,0
0,2
1,3
5,4
11,5
18,2
33,9
41,7
52,2
61,6
75,9
94,2
100,1
146,2
184,8
199,0
191,4
211,8
247,0
年
石油
バイオ燃料
天然ガス
ガス化バイオマス
石炭
6,6
7,7
9,8
11,6
13,3
17,1
14,0
10,5
16,3
26,3
31,9
固形廃棄物系バイオマス
14,9
18,0
21,5
26,0
29,3
33,2
35,1
37,6
39,9
42,0
45,9
伝統的バイオマス
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
52,0
98,0
130,3
135,7
153,3
173,1
196,4
214,0
221,8
220,7
201,4
0,0
0,0
0,1
0,3
0,5
2,5
4,6
5,5
7,2
14,2
25,9
18,9
35,3
51,6
70,2
87,3
114,8
147,9
169,2
187,3
185,6
175,4
0,0
0,0
0,0
0,0
0,2
1,3
7,8
19,8
20,4
22,1
26,8
52,2
61,6
75,9
94,2
100,1
146,2
202,7
222,3
201,7
218,6
204,2
6,6
7,7
9,8
11,6
13,3
17,1
18,7
14,1
15,5
17,7
21,4
14,9
18,0
21,5
26,0
29,3
33,2
28,9
26,9
24,2
24,3
22,5
原子力
0,0
0,9
7,8
22,0
28,3
30,1
37,5
55,6
74,6
91,9
107,5
原子力
0,0
0,9
7,8
22,0
28,3
30,1
33,3
42,1
47,2
52,4
54,7
水力
2,6
4,2
6,2
7,8
9,5
12,4
13,2
14,7
16,7
18,7
20,7
水力
2,6
4,2
6,2
7,8
9,5
12,4
13,5
14,8
16,8
18,7
20,6
地熱
0,1
0,2
0,5
1,4
2,1
2,4
4,0
6,1
9,4
14,7
30,8
地熱
0,1
0,2
0,5
1,4
2,1
2,4
5,1
9,7
18,9
26,4
34,1
太陽光
0,0
0,0
0,0
0,1
0,2
0,8
3,6
11,3
19,5
32,1
51,3
太陽光
0,0
0,0
0,0
0,1
0,2
0,8
4,4
25,2
70,1
132,6
209,6
風力
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
1,2
3,0
5,2
11,5
21,8
34,3
風力
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
1,2
4,7
13,2
24,7
42,4
59,3
その他の再生可能エネルギー
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
その他の再生可能エネルギー
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
0,2
147
226
304
369
424
535
647
749
822
902
992
147
226
304
369
424
535
668
777
856
976
1056
1960
1970
1980
1990
2060
合計
マウンテンズ 総エネルギー最終消費
(セクター別)
合計
オーシャンズ 総エネルギー最終消費
(セクター別)
エネルギー消費量
(EJ/年)
年
エネルギー消費
(EJ/年)
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
年
2000
2010
2020
2030
2040
2050
重工業
16,0
28,2
36,4
36,4
43,5
56,8
71,0
77,5
76,2
76,5
80,6
重工業
16,0
28,2
36,4
36,4
43,5
56,8
74,3
76,7
80,0
90,0
92,5
農業およびその他の産業
29,8
41,2
51,7
57,1
45,5
56,9
69,5
76,0
74,5
73,8
73,8
農業およびその他の産業
29,8
41,2
51,7
57,1
45,5
56,9
69,1
76,8
81,0
85,4
89,0
98,4
サービス業
6,1
12,7
16,9
19,2
23,6
30,0
36,6
43,3
52,1
59,7
68,2
サービス業
6,1
12,7
16,9
19,2
23,6
30,0
41,4
54,2
63,8
80,7
旅客輸送(船舶)
0,2
0,2
0,3
0,5
0,6
0,7
0,9
1,0
1,0
1,0
1,0
旅客輸送(船舶)
0,2
0,2
0,3
0,5
0,6
0,7
0,9
1,1
1,1
1,1
1,0
旅客輸送(鉄道)
1,3
0,7
0,7
0,9
0,6
0,7
1,0
1,2
1,3
1,4
1,5
旅客輸送(鉄道)
1,3
0,7
0,7
0,9
0,6
0,7
1,0
1,2
1,4
1,7
2,0
旅客輸送(道路)
9,1
16,9
25,1
31,9
39,5
48,5
56,1
64,0
68,9
62,7
50,4
旅客輸送(道路)
9,1
16,9
25,1
31,9
39,5
48,5
56,8
62,2
65,4
67,7
66,2
旅客輸送(航空)
2,3
3,7
4,8
6,2
7,5
8,4
9,9
11,2
12,1
14,0
15,7
旅客輸送(航空)
2,3
3,7
4,8
6,2
7,5
8,4
10,2
13,0
16,9
21,5
24,8
17,9
貨物輸送(船舶)
5,4
5,6
5,7
5,9
7,7
9,8
12,1
13,5
13,8
14,0
14,2
貨物輸送(船舶)
5,4
5,6
5,7
5,9
7,7
9,8
12,3
13,7
15,1
16,9
貨物輸送(鉄道)
2,7
2,6
2,5
1,6
1,3
1,5
1,6
1,7
1,6
1,5
1,4
貨物輸送(鉄道)
2,7
2,6
2,5
1,6
1,3
1,5
1,8
2,0
2,1
2,2
2,4
貨物輸送(道路)
4,1
7,2
11,4
15,2
20,4
25,1
29,8
36,2
42,6
48,1
53,0
貨物輸送(道路)
4,1
7,2
11,4
15,2
20,4
25,1
31,3
40,3
49,9
59,2
66,1
貨物輸送(航空)
0,5
0,9
1,0
1,5
2,0
2,1
2,6
3,3
4,0
5,0
6,2
貨物輸送(航空)
0,5
0,9
1,0
1,5
2,0
2,1
2,6
3,5
4,4
5,7
6,9
住宅(暖房・厨房)
30,0
40,6
49,4
58,1
67,2
74,1
77,0
80,4
82,8
84,3
87,7
住宅(暖房・厨房)
30,0
40,6
49,4
58,1
67,2
74,1
72,5
73,1
70,7
73,8
76,6
住宅(照明・電化製品)
0,9
2,1
4,0
6,0
8,8
12,8
16,8
21,9
25,7
27,7
28,8
住宅(照明・電化製品)
0,9
2,1
4,0
6,0
8,8
12,8
18,3
22,4
25,5
27,6
27,2
非エネルギー用途
3,7
9,4
14,8
20,0
25,8
33,4
45,7
58,6
69,2
79,9
91,3
非エネルギー用途
3,7
9,4
14,8
20,0
25,8
33,4
44,8
56,3
66,8
79,6
91,6
112
172
225
260
294
361
430
490
526
550
574
合計
112
172
225
260
294
361
438
496
544
613
663
合計
*合計値は端数四捨五入
ニューレンズシナリオ 補足:定量分析 83
定量分析:
マウンテンズの世界とオーシャンズの世界
オーシャンズ 総一次エネルギー
(地域別)
一次エネルギー需要
(EJ/年)
年
米国およびカナダ
一次エネルギー需要
(EJ/年)
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
年
46,0
71,0
83,9
89,6
106,9
105,0
107,0
106,7
112,0
123,2
130,2
米国およびカナダ
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
46,0
71,0
83,9
89,6
106,9
105,0
104,6
100,1
98,4
97,6
97,9
EU
31,5
53,2
65,8
69,7
72,4
74,2
71,8
71,2
73,2
80,5
88,0
EU
31,5
53,2
65,8
69,7
72,4
74,2
69,8
68,8
68,1
69,5
70,1
その他の欧州諸国
22,4
30,1
44,9
58,2
40,6
46,4
51,3
58,6
63,7
64,9
66,7
その他の欧州諸国
22,4
30,1
44,9
58,2
40,6
46,4
56,9
63,3
63,9
62,5
61,0
OECD加盟のアジア・大洋州諸国
5,1
13,9
19,6
26,9
35,6
38,0
39,2
37,9
37,5
39,3
41,1
10,5
15,6
25,2
36,5
49,5
101,3
152,0
193,4
213,8
211,3
199,8
中国
インド
4,9
6,4
8,6
13,3
19,2
29,1
49,4
70,7
76,1
99,1
138,7
インド
中国
OECD加盟のアジア・大洋州諸国
5,1
13,9
19,6
26,9
35,6
38,0
38,3
36,1
34,7
34,1
34,0
10,5
15,6
25,2
36,5
49,5
101,3
159,5
198,4
190,9
176,5
162,6
4,9
6,4
8,6
13,3
19,2
29,1
51,9
80,3
111,1
142,9
156,3
その他のアジア・大洋州諸国
8,6
11,3
17,9
24,2
30,8
43,0
55,7
68,3
77,4
87,2
102,1
その他のアジア・大洋州諸国
8,6
11,3
17,9
24,2
30,8
43,0
55,2
71,9
94,4
133,2
158,2
ラテンアメリカおよびカリブ諸国
7,1
9,8
16,3
19,8
25,4
33,6
41,3
49,6
63,9
78,2
88,7
ラテンアメリカおよびカリブ諸国
7,1
9,8
16,3
19,8
25,4
33,6
51,9
63,5
73,9
84,1
87,8
中東および北アフリカ
1,6
3,0
7,5
13,5
21,2
34,8
43,3
49,4
53,6
57,8
66,2
中東および北アフリカ
1,6
3,0
7,5
13,5
21,2
34,8
42,3
45,2
51,2
67,7
83,2
サハラ以南アフリカ
5,3
6,9
9,5
12,7
16,0
21,3
25,8
30,9
38,9
47,7
57,6
サハラ以南アフリカ
5,3
6,9
9,5
12,7
16,0
21,3
26,8
37,5
56,2
92,5
128,5
バンカーオイル(船舶用燃料)
4,5
4,5
4,6
4,8
6,4
8,4
10,4
11,8
12,1
12,4
12,8
バンカーオイル(船舶用燃料)
4,5
4,5
4,6
4,8
6,4
8,4
10,6
11,8
13,2
15,2
16,4
147
226
304
369
424
535
647
749
822
902
992
合計
147
226
304
369
424
535
668
777
856
976
1056
2060
合計
マウンテンズ 発電用エネルギー源
オーシャンズ 発電用エネルギー源
エネルギー消費
(EJ/年)
年
エネルギー消費
(EJ/年)
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
石油
0,8
2,9
5,0
4,1
3,6
3,0
2,6
1,8
1,1
0,6
0,4
石油
0,8
2,9
5,0
4,1
3,6
3,0
1,7
0,8
0,3
0,0
0,0
バイオ燃料
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
バイオ燃料
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
天然ガス
0,9
1,9
2,9
5,0
8,2
14,4
20,0
25,7
26,8
21,5
18,9
ガス化バイオマス
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,4
1,3
3,4
7,7
9,1
石炭
3,8
6,1
9,3
13,0
17,8
26,2
34,9
39,0
39,0
41,8
46,4
固形廃棄物系バイオマス
0,1
0,1
0,1
0,4
0,5
1,0
1,3
1,5
3,2
5,7
6,6
原子力
0,0
0,2
2,1
5,9
7,7
8,3
10,4
15,5
20,9
25,8
29,3
年
天然ガス
0,9
1,9
2,9
5,0
8,2
14,4
21,8
27,1
30,8
27,0
17,9
ガス化バイオマス
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
1,2
3,8
3,7
3,3
2,9
41,8
石炭
3,8
6,1
9,3
13,0
17,8
26,2
37,7
41,9
36,9
44,0
固形廃棄物系バイオマス
0,1
0,1
0,1
0,4
0,5
1,0
2,9
2,7
2,8
2,8
2,7
原子力
0,0
0,2
2,1
5,9
7,7
8,3
9,3
12,0
13,7
15,3
16,1
水力
2,2
3,5
5,1
6,3
7,6
10,2
10,9
12,1
13,9
15,7
17,4
水力
2,2
3,5
5,1
6,3
7,6
10,2
11,1
12,4
14,3
16,2
17,9
地熱
0,0
0,0
0,0
0,1
0,2
0,2
0,3
0,5
0,9
1,4
3,0
地熱
0,0
0,0
0,0
0,1
0,2
0,2
0,5
0,8
1,2
0,8
0,6
太陽光
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
1,6
7,2
13,2
19,9
29,7
太陽光
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
1,9
14,2
41,1
74,7
112,0
風力
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
1,1
2,5
4,0
8,2
15,1
22,6
風力
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
1,1
3,5
8,3
14,5
24,1
33,0
その他の再生可能エネルギー
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
その他の再生可能エネルギー
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,1
0,2
8
15
25
35
46
65
85
109
131
155
184
8
15
25
35
46
65
92
124
159
208
245
合計
*合計値は端数四捨五入
合計
ニューレンズシナリオ 補足: 補足:定量分析 85
マウンテンズ 総一次エネルギー
(地域別)
オーシャンズ 正味二酸化炭素排出量
(部門別)
正味排出量
(Gt CO2/年)
年
重工業
正味排出量
(Gt CO2/年)
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
1,07
1,79
2,12
2,09
2,43
3,16
3,70
3,72
3,20
2,62
2,05
年
重工業
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
1,07
1,79
2,12
2,09
2,43
3,16
4,23
4,08
3,53
2,99
2,33
農業およびその他の産業
2,07
2,66
3,34
2,87
2,40
2,91
3,58
3,69
3,15
2,64
2,23
農業およびその他の産業
2,07
2,66
3,34
2,87
2,40
2,91
3,36
3,39
3,19
3,02
2,90
サービス業
0,42
0,78
0,91
0,81
0,77
0,89
0,99
0,94
0,91
0,84
0,76
サービス業
0,42
0,78
0,91
0,81
0,77
0,89
1,12
1,27
1,43
1,77
2,27
旅客輸送(船舶)
0,02
0,02
0,02
0,04
0,04
0,05
0,07
0,07
0,07
0,07
0,07
旅客輸送(船舶)
0,02
0,02
0,02
0,04
0,04
0,05
0,07
0,08
0,08
0,08
0,07
旅客輸送(鉄道)
0,11
0,05
0,03
0,02
0,02
0,02
0,03
0,03
0,02
0,01
0,01
旅客輸送(鉄道)
0,11
0,05
0,03
0,02
0,02
0,02
0,02
0,02
0,01
0,01
0,00
旅客輸送(道路)
0,64
1,20
1,78
2,26
2,79
3,41
3,92
4,36
4,37
3,43
2,15
旅客輸送(道路)
0,64
1,20
1,78
2,26
2,79
3,41
3,98
4,29
4,35
4,18
3,74
旅客輸送(航空)
0,16
0,27
0,34
0,44
0,53
0,59
0,70
0,79
0,86
0,95
1,02
旅客輸送(航空)
0,16
0,27
0,34
0,44
0,53
0,59
0,73
0,92
1,20
1,51
1,73
貨物輸送(船舶)
0,39
0,39
0,41
0,42
0,55
0,69
0,86
0,96
0,97
0,98
0,98
貨物輸送(船舶)
0,39
0,39
0,41
0,42
0,55
0,69
0,87
0,97
1,06
1,19
1,25
貨物輸送(鉄道)
0,23
0,20
0,18
0,12
0,08
0,08
0,09
0,10
0,09
0,07
0,06
貨物輸送(鉄道)
0,23
0,20
0,18
0,12
0,08
0,08
0,10
0,11
0,09
0,07
0,05
貨物輸送(道路)
0,29
0,51
0,81
1,08
1,45
1,78
2,11
2,55
2,90
2,99
2,85
貨物輸送(道路)
0,29
0,51
0,81
1,08
1,45
1,78
2,21
2,84
3,49
3,99
4,09
貨物輸送(航空)
0,03
0,06
0,07
0,10
0,14
0,15
0,19
0,23
0,28
0,35
0,44
貨物輸送(航空)
0,03
0,06
0,07
0,10
0,14
0,15
0,18
0,25
0,31
0,40
0,48
住宅(暖房・厨房)
1,09
1,47
1,57
1,84
1,81
1,88
1,90
1,87
1,81
1,69
1,55
住宅(暖房・厨房)
1,09
1,47
1,57
1,84
1,81
1,88
1,92
1,70
1,29
0,95
0,76
石炭等固形燃料生産
1,00
0,91
0,91
0,91
0,84
1,53
1,56
1,54
1,35
1,23
1,16
石炭等固形燃料生産
1,00
0,91
0,91
0,91
0,84
1,53
1,77
1,66
1,39
1,24
1,06
石油等液体燃料生産
0,41
0,74
0,92
1,07
1,01
1,05
0,99
1,00
0,84
0,47
-0,22
石油等液体燃料生産
0,41
0,74
0,92
1,07
1,01
1,05
1,26
1,77
2,12
1,58
0,53
天然ガス等ガス状燃料生産
0,30
0,49
0,60
0,73
0,96
1,26
1,72
2,10
2,26
2,03
1,27
天然ガス等ガス状燃料生産
0,30
0,49
0,60
0,73
0,96
1,26
1,59
1,68
1,58
1,44
1,27
発電
1,89
3,25
4,94
6,46
8,35
11,76
15,13
16,67
14,09
7,18
0,89
発電
1,89
3,25
4,94
6,46
8,35
11,76
16,19
17,99
16,58
16,87
13,75
水素生産
0,00
0,00
0,00
0,00
0,00
0,00
0,00
0,02
0,10
0,30
0,58
水素生産
0,00
0,00
0,00
0,00
0,00
0,00
0,00
0,01
0,03
0,09
0,23
熱生産
0,18
0,38
0,69
1,24
0,97
1,08
0,94
0,79
0,64
0,45
0,32
熱生産
0,18
0,38
0,69
1,24
0,97
1,08
1,02
0,89
0,74
0,63
0,57
-0,10
-0,16
-0,19
-0,73
-0,85
-0,99
-0,87
-0,75
-0,74
-0,78
-0,98
-0,10
-0,16
-0,19
-0,73
-0,85
-0,99
-0,95
-1,01
-1,15
-1,50
-2,25
10
15
19
22
24
31
38
41
37
28
17
10
15
19
22
24
31
40
43
41
40
35
バイオマス
(非エネルギー用途への転用)
合計
マウンテンズ エネルギー分野の淡水消費量
バイオマス
(非エネルギー用途への転用)
合計
オーシャンズ エネルギー分野の淡水消費量
水消費量
(10億m /年)
水消費量
(10億m3/年)
3
年
化石燃料生産
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
1,2
1,5
3,1
4,1
5,1
7,6
10,4
13,8
15,9
16,1
17,2
化石燃料生産
年
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
1,2
1,5
3,1
4,1
5,1
7,6
10,6
14,3
17,7
19,5
21,6
39,5
バイオ燃料生産
0,0
0,0
0,6
1,2
1,6
8,4
21,4
27,6
28,3
23,6
21,0
バイオ燃料生産
0,0
0,0
0,6
1,2
1,6
8,4
14,3
17,8
22,0
32,3
石油精製
1,7
3,2
4,1
4,4
5,0
5,7
6,2
6,6
6,3
5,3
4,3
石油精製
1,7
3,2
4,1
4,4
5,0
5,7
6,7
8,3
9,6
9,6
8,9
石油火力発電
0,2
0,7
1,4
1,1
0,6
0,4
0,3
0,2
0,1
0,1
0,1
石油火力発電
0,2
0,7
1,4
1,1
0,6
0,4
0,2
0,1
0,0
0,0
0,0
ガス火力発電
0,9
1,4
1,6
2,2
2,0
2,5
2,1
2,6
2,8
2,5
2,6
ガス火力発電
0,9
1,4
1,6
2,2
2,0
2,5
2,3
2,7
3,2
2,7
1,7
石炭火力発電
7,6
11,2
17,0
23,7
29,7
36,6
46,4
50,4
48,6
54,5
64,0
石炭火力発電
7,6
11,2
17,0
23,7
29,7
36,6
51,1
58,3
50,6
52,2
46,2
原子力発電
0,0
0,1
1,0
2,6
3,1
3,2
3,3
4,3
5,2
6,1
6,8
バイオマス火力発電
0,1
0,1
0,1
0,7
0,6
1,0
1,5
2,3
5,1
10,2
12,2
太陽光発電
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,3
0,7
2,4
6,8
15,4
地熱発電
0,0
0,0
0,1
0,3
0,4
0,5
0,7
1,1
1,8
2,9
6,2
合計
12
18
29
40
48
66
93
110
116
128
150
*合計値は端数四捨五入
原子力発電
0,0
0,1
1,0
2,6
3,1
3,2
3,1
3,4
3,5
3,5
3,5
バイオマス火力発電
0,1
0,1
0,1
0,7
0,6
1,0
2,5
3,7
3,8
3,6
3,4
41,8
太陽光発電
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,0
0,5
3,0
9,1
21,7
地熱発電
0,0
0,0
0,1
0,3
0,4
0,5
0,9
1,6
2,5
1,6
1,3
合計
12
18
29
40
48
66
92
113
122
147
168
ニューレンズシナリオ 補足: 補足:定量分析 87
マウンテンズ 正味二酸化炭素排出量
(部門別)
3Dプリント
原料を積層することによって3次元の物体を原型どおり
に複製する比較的高速で低コストの製造技術。
BRICs G8(主要8カ国)
1975年に発足した国際協調枠組みで、世界の主要8カ
国政府が毎年会合を開き、
世界の問題について議論する。
フランス、
ドイツ、
イタリア、日本、英国、米国、
カナダ、
ロシアの8カ国に加えて、欧州連合の代表者も参加
している。
急成長する新興諸国であるブラジル、
ロシア、
インド、
中国、
南アフリカ
(インドネシアを含む場合もある)
の総称。 GDP(国内総生産)
CCS(二酸化炭素回収・貯蔵)
一国の一年間の経済活動を測る尺度。国内の生産者によ
って生み出された付加価値の総額とこれにかかる税金を
二酸化炭素を回収し、長期的に地中に貯蔵する技術。
足し合わせたものから補助金の額を差し引いたもの。
CHP
リキッドリッチシェール/ライトタイトオイル(LTO)
熱電併給システム。
低透水性岩盤層に含まれる低粘度原油またはコンデン
石油増進回収法(EOR)
熱攻法、
ケミカル攻法、
または石油に溶解するガスを注入
するミシブル攻法などによって油層(油田)
からの石油採
取量を増やす技術。
フラッキング(水圧破砕)
砂と化学物質を混ぜた水を高圧で地下に注入することに
よって岩盤層に亀裂をつくり、閉じ込められていた天然ガ
セート。
LNG(液化天然ガス)
メタンを主成分とするガスで、輸送のために超低温で
液化し、使用地で再びガス化して発電用燃料や一般家庭
用燃料として利用される。
MRH(主要資源国)
石油、
ガス、石炭、金属、鉱物などの埋蔵資源を大量に
スが流れ出るようにすること。
保有する国家。
G20(主要20カ国・地域)
NGO(非政府組織)
世界経済と金融に関する問題について議論するために
1999年に発足した国際協調枠組みで、主要19カ国と
欧州連合の代表者によって構成される。
地域、国、国際レベルで組織される非営利団体やボラン
ティア団体。
OECD(経済協力開発機構)
エネルギー関連の省略形:
加盟国の持続的な経済成長と雇用、生活水準の向上をめ
boe=石油換算バレル
ざして1961年に発足した国際組織で、現在、西欧先進
CO2=二酸化炭素
諸国を中心に34カ国が加盟している。
Gt=ギガトン
kWh=キロワット時
OPEC(石油輸出国機構)
石油価格に関する政策協調を図るために1961年に設立
された産油国組織。現在の加盟国は、アルジェリア、アン
ゴラ、エクアドル、
イラン、
イラク、
クウェート、
リビア、ナイ
ジェリア、
カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、
ベネズエラ。
mbd=100万バレル/日
ppm=体積比100万分の1
t=メトリックトン
tcf=兆立方フィート
国際単位系(SI)の単位:
MJ=メガジュール=106ジュール
太陽光発電
ソーラーパネルに太陽光が照射されると自由電子が生成
される仕組みを活用して、電流を生み出す技術。
ストレスネクサス(ストレスの連鎖)
GJ=ギガジュール=109ジュール
TJ=テラジュール=1012ジュール
EJ=エクサジュール=1018ジュール
単位間の換算:
1 boe=5.63 GJ*
エネルギー、水、食物の各資源システムの間の相互関係。 1 mbd=2.05 EJ/年
タイトガス、シェールガス、コールベッドメタン(CBM)
透水性のきわめて低い石炭、砂岩、頁岩などでできた
地下岩盤層に閉じ込められたガス資源。一般的に、水平に
掘削された抗井に水圧破砕で刺激を与えることによって
採取される。
天然ガス100万立方メートル=34450 GJ*
天然ガス100万トン=46100 TJ*
石炭1トン=25 GJ*
一次バイオマス1トン=12 GJ*
1 kWh=3.6 MJ
*上記は広く用いられている標準的な換算率ですが、燃料
によって発熱量が異なる場合があります。
ニューレンズシナリオ 補足:用語集 89
用語集
謝辞
本書には、
シェルの財務状況・業績およびロイヤル・ダッチ・ (i) 途上国や国際的な制裁措置の対象となっている国
ニューレンズシナリオ および過去に出版されたシェル
のシナリオの作成に携わったシェルの社員および外部
の専門家の皆様に感謝いたします。
シェルの事業に影響を及ぼす可能性のある将来予想に
関する記述が含まれています。
で事業を行うことに伴うリスク
(j) 気候変動対策など、立法、財政、規制措置の動向
(k) さまざまな国・地域の経済・金融市場状況
過去の事実に関するもの以外の記述はすべて、将来予想 (l) 政府組織による接収、政府組織との契約条件の
に関する記述もしくはこれに該当する可能性のある記述
再交渉、事業承認の進捗・遅滞、分担費用支払いの
です。将来予想に関する記述とは、現時点における経営陣
の期待や仮定に基づく将来への期待を述べたもので、
シェルシナリオに関するその他の資料は当社ウェブサ
イト
(shell.com/scenarios)
に掲載しています。
遅れなどを含む政治リスク
(m)取引条件の変更
これらの記述で明示的もしくは黙示的に示されたものとは
© 2013 Shell International BV
著作権所有。本書のいかなる部分も、
シェル・インターナショナル
大きく異なる結果、業績、事態をもたらす原因となり得る
本書に含まれるあらゆる将来予想に関する記述は全体
既知および未知のリスクや不確実性を含んでいます。
として、
ここに示す注意書きによって明示的に制限され
ることなく、
いかなる方法または手段によっても複製、
検索シス
ます。
テムへの保存、
出版、
送信してはなりません。
(Shell International BV)
から事前に書面による許諾を得
将来予想に関する記述には、たとえば、
ロイヤル・ダッチ・
シェルの市場リスクへのエクスポージャーに関する記述
読者の皆様は、将来予想に関する記述に過剰に依拠する
や、
経営陣の期待、
意見、
推定、
予測、
見積り、
仮定に関する
ことのないようお願いいたします。
記述が含まれます。こうした将来予想に関する記述には、
「予測する」
「信じる」
「可能性がある」
「推定する」
「期待
する」
「目標」
「意図する」
「かもしれない」
「目的」
「予想」
将来の結果に影響を及ぼし得るその他の要因については、
ロイヤル・ダッチ・シェルの2011年度
(期末:2011年12
「計画」
「おそらく」
「見積もる」
「リスク」
「しようとする」
月31日)の年次報告書(20-F)
に記載しています。
「すべき」
「めざす」
「する予定」などの言葉や表現が使わ
同報告書は、www.shell.com/investorおよび
れることが多く、
これによって見分けることができます。
www.sec.govで入手できます。
これらの要因についても検討していた
ロイヤル・ダッチ・シェルの将来の事業活動に影響を及ぼし、 読者の皆様には、
本書の将来予想に関する記述に示されたものとは大きく だくようお願いします。将来予想に関する記述はそれぞれ、
異なる結果をもたらす原因となり得る要因は数々存在
本書の日付である2013年3月の時点におけるものです。
ロイ
します。たとえば、
以下に掲げるものが含まれます
(ただし、 新たな情報、将来の事象、その他の情報が生じても、
ヤル・ダッチ・シェルとその子会社は、本書に含まれている
これに限定するものではありません)。
将来予想に関する記述を公式に更新・訂正する責任を負
(a) 原油および天然ガスの価格変動
いません。
(b) シェルの製品に対する需要の変動
(c) 為替相場の変動
(d) 掘削・生産の結果
(e) 埋蔵量の推定
(f) 市場シェアや業界での競争力の落ち込み
(g) 環境リスクや物的リスク
(h) 買収対象資産・企業の特定や、買収をめぐる交渉
とその完了に関するリスク
これらのリスクを踏まえると、実際の結果は本書の将来
予想に関する記述に明示、暗示、示唆されたものとは大
きく異なるものになる可能性があります。
データの出典
本書に掲載したシェルのシナリオ分析や図表の作成に使用した主な
データのうち別途記載していないものの出典は以下のとおりです。
■ 国際エネルギー機関
(IEA)
“World
Energy Statistics and
Balances 2012”© OECD/IEA 2012(シェル・インターナショ
ナルが一部修正)
■ 国際連合経済社会局人口部
■ 米エネルギー情報局
(EIA: Energy Information Administration)
■ Booz & Company
■ 国際水管理研究所
(IWMI: International Water Management
Institute)
■ 戦略国際問題研究所
(CSIS: Center for Strategic and
International Studies)
■ 世界銀行
ニューレンズシナリオ 補足:免責事項謝辞 91
免責事項(英語表記の原文を正文といたします)
急成長の新興諸国。
効果的な経済改革を実施
社会的・
政治的圧力によって
根本的な改革と体制変革
が促される
世界の太陽光発電容量 500 GW
世界の二酸化炭素排出量 40 Gt/年
中国、米国を追い抜き世界最大
の石油消費国となる
時系列で語る
シナリオ:
オーシャンズの世界
中国の国民一人当
たりGDP 2万米
ドル(購買力平価ベース)
に到達
タイトガス、シェールガス、
コールベッドメタンの開発は北米
を除き限定的
石油生産量 1億bd
インド、世界最大のガス
消費国となる
乗用車用燃料としての液体燃料の終わり
世界の乗用車走行距離、
2012年比3倍
(限界に到達)
世界の
正味二酸化炭
素排出量ゼロ
多くの国々が中所得国
の罠を抜け出して経済大国、
世界経済成長率、再上昇
2090
2100
アジアの総人口、
減少に転じる
世界人口 90億人
欧州の総人口、
減少に転じる
世界のエネルギー需要 1,000 EJ/年
2080
欧州の都市化率 80%
2030
2020
2010
社会・経済・政 治 分野の変遷
アジアの都市化率 50%
中国の自動車台数 1億1400万台
アフリカの都市化率 50%
世界の電力の10%が
バイオマス発電由来
電力の脱炭素化
世界の原子力発電容量 1,200 GW
ガスがエネルギーシステム
のバックボーン(主に天然ガス、
バイオガスも増加)
乗用車用液体燃料の需要、
世界的にピークに到達
タイトガス、シェールガス、
コールベッドメタン開発、
北米に続き世界規模で成功
世界人口 80億人
世界の風力発電容量
400 GW
世界のCCSによる回収量 1 Gt CO2/年
米中主導による
国際関係の運営
既得権層の協調、
既得権保持をめざした
選択的政策対応
進行中の金融・
経済改革は高成長率維持
に不十分なことが判明
エネルギー分野の変 遷
中国、180 GW
の原子力発電所
建設・稼働
世界のCCSによる回収量 10 Gt CO2/年
2070
社会的・政治的圧力
によって既得権益
の固定化が促される
世界の航空機
エネルギー効率 2012年比50%
向上
天然ガスが最大エネルギー源、
初めて200 EJ/年に到達
世界の自動車平均燃費(道路走行) 35マイル/米ガロン(2010年比45%向上)
2060
世界のCCS
容量 20 GW
世界の天然ガス火力発
電量2,000 GW
(2012年比40%増)
非化石エネルギー、世界の一次エネルギーの30%
日本の全乗用車走行距離の10%、
電気自動車または燃料電池車
2050
水素自動車、
商業化
世界の二酸化炭素排出量 40 Gt/年
2040
エネルギー分野の変 遷
石炭、最大のエネルギー
源となる
ニューレンズシナリオ 時系列で語る 94
時系列で語る
シナリオ:
マウンテンズの
世界
世界の高齢者率 15%
インドの国民一人当たりGDP 1万米ドルに到達
石油需要、
長期高水準を維持
アフリカ大陸が欧州
と北米を追い抜き、
(アジアに続)く世界第2位
のエネルギー消費大陸
エネルギー価格高騰、
技術開発進展、
政府による支援策は遅効
再生可能エネルギー、
EUの自動車平均燃費
世界の一次エネルギー
(道路走行)
の20%
50マイル/米ガロン
(2010年比45%向上)
米国の自動車平均燃費
(道路走行) 30マイル/
米ガロン
(2010年比45%向上) 世界の太陽光発電容量 1,800 GW
インドの自動車台数 5億台
電力、最終エネルギー
需要の30%
世界のエネルギー需要 1,000 EJ/年
世界の太陽光発電容量 2万GW
世界の乗用車走行距離、
2012年の3倍に
インド、世界最大
のエネルギー
消費国となる
世界の建物の
平均暖房効率、
2012年比2倍に向上
電力、最終エネルギー
需要の40%
世界の最終エネルギー
需要がピークに到達
太陽光、最大の一次
エネルギー源となる
世界の重工業の平均エネルギー
効率、2012年比2倍に向上
世界の航空需要、2012
年比5倍(22兆旅客キロ)に到達
電力の脱炭素化
世界の二酸化炭素排出量
2 Gt/年に減少
世界の自動車平均燃費(道路走行) 70マイル/米ガロン
(2010年比ほぼ3倍)
是非、議論にご参加ください。
#ShellScenarios
www.shell.com/scenarios
© 2013 Shell International BV
著作権所有。本書のいかなる部分も、
シェル・インターナショナル
(Shell International BV)
から事前に書面による許諾を得ること
なく、いかなる方法または手段によっても複製、検索システムへの
保存、出版、送信してはなりません。
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