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京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地
京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 平成 21 年 1 月 20 日 指導教員:草薙信照 経営情報学部ビジネス情報学科 M05-5149 4年 64 組 21 番 竹内猛人 目次 はじめに ................................................................ 1 研究の背景 ............................................................ 1 研究動機 .............................................................. 1 分析方法 .............................................................. 1 第1章 お菓子の分類と定義............................................... 2 1.1 歴史的背景に基づく分類 ~和菓子と洋菓子~ ......................... 2 1.2 その他の分類 ....................................................... 3 第2章 京都市と神戸市における店舗分析 ................................... 4 2.1 店舗数と割合 ....................................................... 4 2.2 京都市の立地傾向 ................................................... 5 2.3 神戸市の立地傾向 ................................................... 8 第3章 京都市内における店舗立地分析 ..................................... 11 3.1 上京区 ........................................................... 12 3.2 中京区 ........................................................... 14 3.3 下京区 ........................................................... 16 第4章 考察 ............................................................ 18 あとがき ................................................................ 19 参考文献・サイト ........................................................ 20 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 はじめに 研究の背景 一年に四季折々が廻るように、私達の一生にも数々の節目がある。喜びの時、悲しみの時、 お菓子はその時に欠かせない人々気持ちを伝えるものである。和菓子ではハレの祝い事に赤 飯・紅白饅頭あるいは松竹梅や鶴亀のデザインのものが用いられ、仏事には黒豆入りの黒 飯・青白饅頭あるいは蓮・椿・水仙などのデザインの菓子が用いられるなど、菓子の色・形 でその意を表す。他にも端午の節句、桃の節句に用いられる柏餅、ちまき、桜餅・ひなあら など、和菓子は日本の行事・冠婚葬祭と結びつきが強く、その歴史は古い。 また近年では日本の年行事・冠婚葬祭にも洋菓子が大いに用いられている。その切り口が 樹木の年輪を思わせるバウムクーヘンは「年輪のように喜び、幸せが年々積み重なるように」 という意味合いがあり、進物にも人気である。他にもバースデーケーキ、クリスマスケーキ やウエディングケーキ、 今やすっかり日本の行事となっているバレンタインのチョコレート など、洋菓子の台頭には目を見張るものがある。 今日ではお菓子は年行事や冠婚葬祭の進物以外にも他にも “甘い”が語源で“デザート” などの意をもつ「スイーツ」として和菓子・洋菓子ともに多くの人に気軽に楽しまれており、 私たちの日常生活に溶け込んでいる。そんな私たちの身近なもの“お菓子”について研究を 行う。 研究動機 私の家は代々和菓子店を営んでおり、その関係で就職活動も同業者を中心に行っていた。 就職活動で和菓子、洋菓子の企業について調べるうちに、全国に展開するような企業の本社 または本店が和菓子は京都、洋菓子は神戸に多いことがわかった。私も含め、多くの人が「日 本古来の文化と伝統が息づくまち京都」は“和菓子”のお店が多く、 「古くから海外に開港 している外来のまち神戸」は“洋菓子”のお店が多いというイメージを持っているのではな いだろうか。 私が就職活動で発見した傾向は大企業でのみのものであったが、果たして本当に京都には 和菓子店が多く、神戸には洋菓子店が多いのかを検証する。またその立地についても分析を 行う。 分析方法 まず、京都市と神戸市の和菓子店・洋菓子店の件数を各区ごとに調べる。それを人口・ 面積のデータとともに「Arc GIS」に挿入しマップを作成、各都市・区の傾向を分析する。 それより判明したことをもとに立地分析に適当な区を選出し、和菓子店・洋菓子店のアド レスデータを収集、XY データに変換し同じく「Arc GIS」に挿入しマップを作成、立地の分 析を行う。 1 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 第1章 お菓子の分類と定義 1.1 歴史的背景に基づく分類 ~和菓子と洋菓子~ 日本の菓子の由来は果物や木の実などの果実の「果子」からきたもので、古代の日本 では橘や柿、栗の実が食されていた。その後、穀物加工の技術が生まれ、小麦粉、うる ち米、もち米を主原料とする餅や団子が作られるようになる。 奈良時代に入ると仏教と共に大陸から「唐菓子」が伝来し、唐菓子の粉をこねたり、 油で揚げたりする技術が後に饅頭や煎餅などに応用され日本独自の菓子へと発展してい く。唐菓子は伝来当時、宮廷の行事や大寺・大社の供物として用いられ、その行事は現 在でも下鴨神社、春日大社、祇園神社などで行われている。 その後、室町時代末期にポルトガルからカステラ、ボーロ、コンペイトウなどの「南 蛮菓子」が伝わる。 全国菓子工業組合の定義によると和菓子にはいくつか見解があり、「有史以来の我が国 独自のお菓子に、唐菓子の技術の応用から発展したもの」 (出典:全国菓子工業組合「お 菓子何でも情報館」)とするものと、それに「南蛮菓子」を加えたものがある。なぜ海外 から伝来した「唐菓子」や「南蛮菓子」を「和菓子」と呼べるかというと、上記のように 伝来してからの長い歴史を経て、新たな製法や材料によって日本風にアレンジし、日本で 育て上げられた菓子であるからである。今回の研究は全国菓子工業組合が定義する後者の もの(表1参照)を和菓子とし、その取り扱いのある店舗を「和菓子店」として調査する。 洋菓子は明治維新以降西欧文化とともに導入され普及した菓子類の総称であり、 種類は さまざまである。洋菓子も当初は南蛮菓子と称されていたが、後に和菓子へと発展してい ったものと区別するために「洋菓子」と称された。 現在では時代のニーズにあった和菓子作りが進められており、洋菓子の素材・製法を取 り入れた和菓子、 「ヌーヴェル和菓子」が注目されている。将来、 「唐菓子」や「南蛮菓子」 のように今現在は洋菓子とされているものから新たな和菓子が誕生するかもしれない。洋 菓子においても全国菓子工業組合の定義するもの(表1参照)の取り扱いのある店舗を「洋 菓子店」として調査する。 なお、両菓子店の取扱商品の調査には「i タウンページ」、 「京都菓子工業組合」、 「兵庫 洋菓子協会」から主な取り扱い商品を割り出した。 2 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 1.2 その他の分類 和菓子、洋菓子ともに保存性による分類と、製法・原料による分類がある。 保存性による分類は水分含量を基準に生菓子、半生菓子、干菓子に分類される。水分 30% 以上含むものは生菓子、10~30%以下のものは半生菓子、10%以下のものが干菓子である。 半生菓子、生菓子の中には、最中、どら焼やデコレーションケーキのように、生地自体は 干菓子、半生菓子のものに、餡、ジャム、クリームなどの水分量が多いものを加えること で、干菓子が半生菓子へ、半生菓子が生菓子へ変化するものがある。(表1参照) 次に製法・原料による分類は「蒸す」、「焼く」、「発酵」などの製法による分類と「米」、 「豆」、「バター」などの原料による分類、加えて洋菓子は「スポンジ生地」、「シュー生 地」など生地の形態によるの分類がある。(表1参照) 表 1 全国菓子工業組合が定義する和菓子・洋菓子 和菓子 洋菓子 保存性による分類 製法・原料による分類 もち菓子 生 菓 子 半 生 菓 子 スポンジケーキ類 バターケーキ類 蒸し菓子 じょうよう饅頭 どら焼、栗まんじゅう、カステラ 流し菓子 ようかん、水ようかん 練り菓子 ねりきり(上生菓子) 揚げ菓子 あんドーナツ あん菓子 石衣 おか菓子 最中 焼き菓子 茶通、桃山 流し菓子 きんぎょく 練り菓子 ぎゅうひ 砂糖漬け菓子 甘納豆 押し菓子 むらさめ ひなあられ 焼き菓子 ボーロ あめ菓子 おきな飴 揚げ菓子 かりんとう 米菓 生 菓 子 シュー菓子類 発酵菓子 フィュタージュ類 ワッフル類 デザート菓子 半 生 菓 子 干 菓 子 懐中しるこ 掛け菓子 豆菓子 保存性による分類 製法・原料による分類 おはぎ、大福 焼き菓子 打菓子 干 菓 子 例 おのろけ豆 あられ、せんべい 参考:全国菓子工業組合お菓子何でも情報館 3 例 ロールケーキ、デコレーションケーキ パウンドケーキ、チーズケーキ、バウムクーヘン シュークリーム サバラン タルト、アップルパイ、ミルフィーユ ワッフル パンケーキ、クレープ、プディング スポンジケーキ類 バターケーキ類 ー 発酵菓子 キャンディー類 チョコレート類 ビスケット類 ー 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 第2章 2.1 京都市と神戸市における店舗分析 店舗数と割合 ここでは各市の和菓子店・洋菓子店の店舗数を調査し、各都市の傾向を分析する。両 菓子店の店舗数は「i タウンページ」 、 「京都菓子工業組合」、 「兵庫洋菓子協会」より重複 するものを省いて割り出した。 表 2 より、京都市は全区で和菓子店の件数のほうが多く、京都市全体の和菓子店の割 合は 66%であった。神戸市は兵庫区を除く8区で洋菓子店の件数ほうが多く、神戸市全体 の洋菓子店の割合は 65%と「京都市には和菓子店の方が多く、神戸市には洋菓子店の方が 多い」という推測通りの結果となった。 しかし、各都市の両菓子店の総数をみると和菓子店は神戸市に比べ京都市のほうが圧 倒的に多いが、洋菓子店は京都市の 331 件に対し、神戸市は 369 件と圧倒的に多いわけ ではなかった。 表2 各都市の店舗数 和菓子店 洋菓子店 京 都 市 和菓子店 洋菓子店 北区 56 33 東灘区 19 47 上京区 66 25 灘区 15 35 左京区 66 52 兵庫区 30 25 中京区 100 49 長田区 18 21 東山区 90 13 須磨区 15 23 下京区 69 28 垂水区 22 26 南区 25 12 北区 22 25 右京区 55 32 中央区 46 120 伏見区 56 42 西区 10 47 山科区 28 21 総数 197 369 西京区 31 24 総数 642 331 神 戸 市 次にこのデータを「Arc GIS」に挿入し、さらに各区の面積、昼間人口※・夜間人口※も 加え、それぞれ店舗密度、昼夜間人口比※を割り出し、比較を行い傾向を探る。なお、面 積データは「国土地理院」、人口データは「政府統計の総合窓口」より入手した。 ※ 夜間人口:常住人口 ※ 昼間人口:常住人口に他の地域から通勤してくる人口を足し、さらに他の地域へ通勤する人口を 引いたもの。 ※ 昼夜間人口比: 「昼間人口/夜間人口」これが 1.0 を超えると働く場所が多く、1.0 を下回る と居住区が多い。 4 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 2.2 京都市の立地傾向 京都市は京都府南部の都市で右京区・上京区・北区・左京区・中京区・下京区・西京区・ 東山区・伏見区・南区・山科区からなる。府庁所在地で、国から政令指定都市の指定を受 けており、東京特別区を含めて全国第 7 位(昼間人口は神戸市を抜いて第 6 位)の人口を有 する京都府の中心。京都府の和菓子店・洋菓子店の約 70%を占める。 ①店舗数 京都市の和菓子店は表 2 で見たように中京区、東山区、下京区、順に多く、図 1 でみる と和菓子店は市の中心にあたる区に多いことが窺える。 一方、洋菓子店は中京区に多いのは同じだが、次いで左京区、伏見区が多く、以外に上京 区、下京区に少ない。 図1 京都市和菓子店数 北区 右京区 左京区 上京区 中京区 下京区 東山区 和菓子店数 山科区 西京区 30店舗以下 60店舗以下 90店舗以下 伏見区 南区 90店舗超 図2 京都市洋菓子店数 北区 右京区 左京区 上京区 中京区 下京区 洋菓子店数 東山区 山科区 西京区 20店舗以下 30店舗以下 伏見区 南区 40店舗以下 40店舗以超 5 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 ②店舗密度 図 3 は各区の和菓子店の密度を表している。店舗密度で見ても中京区、東山区、下京区に和菓子 店が集中している。逆に店舗数では多かった左京区や伏見区は店舗密度が低く、左京区、伏見区の 店舗数の多さは区の面積によるものであることがわかる。 洋菓子店も同じく上京区、中京区、下京区と市の中枢に集中しており、左京区・伏見区の店舗密度 は低い(図 4)。 図 3 京都市 1km2 あたりの和菓子店密度 北区 右京区 上京区 左京区 中京区 和菓子店密度 和菓子店数/面積 下京区 東山区 1店舗以下 山科区 西京区 5店舗以下 10店舗以下 伏見区 南区 10店舗超 図4 京都市の 1km2 あたりの洋菓子店密度 右京区 北区 上京区 左京区 中京区 洋菓子店密度 下京区 洋菓子店数/面積 東山区 山科区 1店舗以下 2店舗以下 西京区 伏見区 南区 4店舗以下 4店舗超 6 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 ③昼夜間人口比 店舗密度と昼夜間人口比を比べると、日中に人口が集中する区、いわゆるオフィス街に和菓子店、 洋菓子店ともに店舗が集中している。洋菓子においてはオフィス街である南区に店舗数、店舗密度と もに集中の傾向がみられない。 図 5 京都市昼夜間人口比 北区 右京区 上京区 左京区 中京区 昼夜間人口比 下京区 昼間人口/夜間人口 東山区 山科区 1.0未満 1.2以下 西京区 南区 伏見区 1.5以下 1.5超 7 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 2.3 神戸市の立地傾向 神戸市は兵庫県南部に位置する政令指定都市であり、東灘区・灘区・中央区・兵庫区・長田区・須磨 区・垂水区からなる。海と山の迫る東西に細長い市街地を持ち、十分な水深の有る扇状の入り江部に発 展した理想的な港湾・神戸港を有する日本を代表する港町である。開港以来、多くの異文化に触れてき た神戸、外国人居留地が設けられ神戸に留まる外国人も多く、そこより洋服・靴・コーヒーなどの地場 産業が発展した。洋菓子もそのうちの1つで、 『第1次政界大戦時に日本軍捕虜となりそのまま日本に留 まった H.フロインドリーブ、ロシア革命を避け来日したマカロフ・ゴンチャロフ、F.モロゾフなど海外 の洋菓子職人たちが本場の洋菓子づくりを神戸に持ち込んだ』(出典: 「神戸の地場産業」)とされている。 ① 店舗数 表 2 で見たように、洋菓子店は中央区、東灘区・西区に多い。西区を除けば、中央区から東の区 に集中している。 和菓子店も最も多いのは中央区である。次いで兵庫区に多いがあとはどの区も近い店舗数である。 図 6 神戸市洋菓子店数 灘区 東灘区 西区 北区 中央区 東灘区 兵庫区 洋菓子店数 須磨区 長田区 30店舗以下 40店舗以下 垂水区 50店舗以下 50店舗超 図 7 神戸市和菓子店数 灘区 東灘区 西区 北区 中央区 東灘区 兵庫区 須磨区 和菓子店数 長田区 10店舗以下 垂水区 20店舗以下 30店舗以下 30店舗超 ②店舗密度 8 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 図 8 は神戸市の洋菓子店の店舗密度を表している。店舗数で見たときより、さらに海岸沿いに集中 していることがわかる。神戸市は洋菓子店数では京都市を上回り、両都市の区ごとに見ても中央区の 120 件が最も多い。しかし、店舗密度では京都市中京区 7.8、下京区 4.9、神戸市中央区 4.2 と店舗数 では最も多い中央区が 3 番手である。 神戸市の洋菓子店は中央区を中心に海岸沿いに多い傾向があるが、 京都市に比べ 1 区、1区の密度は低い。 和菓子店も値は低いものの海岸沿いに多い傾向を示している(図 9)。だが、やはりある一定の区への 極度の密集はなく、あくまで海岸沿い全体への傾向である。 図 8 神戸市 1km2 あたりの洋菓子店密度 灘区 東灘区 西区 北区 中央区 東灘区 兵庫区 洋菓子店密度 洋菓子店数/面積 須磨区 長田区 1店舗以下 1.5店舗以下 垂水区 2店舗以下 2店舗超 図 9 神戸市 1km2 あたりの和菓子店密度 灘区 東灘区 西区 北区 中央区 東灘区 和菓子店密度 兵庫区 須磨区 和菓子店数/面積 長田区 0.2以下 垂水区 0.5以下 1.0以下 1.0超 9 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 ③昼夜間人口比 店舗密度では洋菓子店、和菓子店ともに海岸沿いの区に多いことがわかった。図 10 の昼夜間人口比 と比べると、海岸沿いに多い中でもさらに高い店舗密度を示しているのはやはり中央区・兵庫区・長田 区といったオフィス街であることがわかる。京都市と違うのは、洋菓子においてベットタウン(東灘区) にも密集の傾向があることだ。 図 10 神戸市昼夜間人口比 灘区 東灘区 西区 北区 中央区 東灘区 兵庫区 須磨区 昼夜間人口比 昼間人口/夜間人口 長田区 1.0未満 垂水区 1.2以下 1.5以下 1.5超 10 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 第 3 章 京都市内における店舗立地分析 第2章より京都市は神戸市に比べ、和菓子店・洋菓子店の総数が多く、またその立地の傾向はオフィ ス街への密集と顕著に表れた。このことから第 3 章では、両菓子店が多く立地する京都市から特に傾向 が著しかった上京区・中京区・下京区の3区を取り上げ、両菓子店の立地を分析する上で、基点となる ものの XY データで追加し、和菓子店、洋菓子店それぞれどのような立地傾向があるのかを各区ごとに 分析する。 両菓子店の立地を分析する上での基点としては「駅」と「寺社」の XY データを追加する。 寺社を基点とする理由としては、京都市に多く存在しており、唐菓子が『宮廷の行事や大寺・大社の供 物として用いられ、その行事は現在でも下鴨神社、春日大社、祇園神社などで行われている。 』(1.1 よ り)ことや、 『上御霊神社前に店を構える「水田玉雲堂」の銘菓「唐板」は平安時代に行われた御霊会で 配られた疫病除け菓子に由来している』 、 『 「笹屋伊織」が東寺の僧侶のためにドラ焼きを発明した』(出 典:京都らしいもの現在)など寺社とのエピソードがあり、他にも寺社で行われる茶会や法要に用いら れており、和菓子との関係が推測されるためである。 両菓子店のアドレスデータの収集には「i タウンページ」 、 「京都菓子工業組合」 、寺社のアドレスデ ータ収集は 「i タウンページ」 を使用、 また参考にした。 アドレスデータのXY データへの変換には 「Google マップ」を使用し、駅の XY データは「Map Server」の「eki.shp」を引用した。 11 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 3.1 上京区 上京区の立地は、寺社の半径 100m圏内に立地する和菓子店の割合が 54%、洋菓子店 19%、駅の半 径 500m圏内には和菓子店 10%、洋菓子店 10%であった。 上記の推測通り和菓子店はやはり寺社周辺への立地傾向が強いが、洋菓子店の立地に寺社は関係 はないようだ(図 11)。駅周辺には両菓子店ともあまり立地していない(図 12)。これは上京区に京都 御所があり 3 区の中で最も寺社が多い反面、3 区の中で最も駅数が少ないためと考えられる。 図 11 上京区(寺社バッファ) 鞍馬口 L % # * # * # * 今出川 # * # * L % # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * 和菓子店 # * 洋菓子店 寺社 L % 駅 寺社の半径100m 上京区 12 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 図 12 上京区(駅バッファ) 鞍馬口 L % # * # * # * 今出川 # * # * L % # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * # * 和菓子店 # * L % 洋菓子店 駅 駅の半径500m 上京区 13 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 3.2 中京区 中京区の立地割合は、寺社の半径 100m圏内に立地する和菓子店 28%、洋菓子店 25%、駅の半径 500 m圏内に立地する和菓子店 48%、洋菓子店 47%と、寺社周辺への立地、駅周辺への立地の割合が和菓 子店、洋菓子店であまり差が見られず、和菓子店・洋菓子店ともに駅周辺への立地傾向の方が強く 表れた。これは中京区が 3 区の中で最も駅数が多いことと、中京区全駅の 500m圏内に立地している 和菓子店・洋菓子店のうち、和菓子店 21%、洋菓子店 35%が河原町駅に集中しており全駅中最も多 い。また寺社も全体の 27%が河原町駅周辺に立地しており、和菓子店・洋菓子店・寺社の 3 者が河原 町の駅周辺の繁華街に密集したためである。(図 13・14 参照) 図 13 中京区(寺社バッファ) # # 丸太町 # & 3 # # ## 丸太町 # # # & 3 # # 二条 御池 & 3 & 3 ## # # # # # 三条口 三条口 & 3 # # # # # & 3 # # # # # 西院 西院 & 3 # 阪急大宮 四条大宮 & 3 & 3 & 3 # # 和菓子店 # 洋菓子店 寺社 & 3 駅 寺社の半径100m 中京区 14 四条烏丸 & 3 # # # 河原町 & 3 四条 & 3 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 図 14 中京区(駅バッファ) # # 丸太町 # & 3 # # ## 丸太町 # # # & 3 # # 二条 御池 & 3 & 3 ## # # # # # 三条口 三条口 & 3 # # # # # & 3 # # # # # 西院 # 阪急大宮 四条大宮 & 3 西院 & 3 四条烏丸 & 3 & 3 & 3 # # # # # # # # 和菓子店 # # # # # 寺社 & 3 # 洋菓子店 駅 駅の半径500m # # 河原町 中京区 & 3 15 # # # 河原町 & 3 四条 & 3 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 3.3 下京区 下京区は両菓子店とも多く百貨店内に出店しており(以後、店内店 ※阪急百貨店への出店はない)、 その割合はそれぞれ、下京区に立地する全体の和菓子店 45%、洋菓子店 70%である。百貨店外の店 舗(以後、 店外店)のみでの立地割合は、 寺社の半径 100m圏内に立地する和菓子店 18%、 洋菓子店 25%、 駅の半径 500m圏内に立地する和菓子店 37%、洋菓子店 50%である。店内店を含むと、寺社の半径 100 m圏内に立地する和菓子店 10%、洋菓子店 3%、駅の半径 500m圏内の和菓子店 65%、洋菓子店 93%で ある。店外店のみでも駅周辺への立地傾向の方が強く、さらに店内店も含むと、百貨店自体が駅近 辺に立地しているため駅周辺への立地割合が圧倒的に高い。その中で値は小さいものの洋菓子店に 比べ、やはり和菓子店の方が寺社周辺への立地傾向がある。 図 15 下京区(寺社バッファ) 四条烏丸 ’ 4 四条大宮 ’ 4 大丸 河原町 ’高島屋 4 五条 ’ 4 # 丹波口 # ’ 4 五条 ’ 4 # # 京都 ’ 4 伊勢丹 和菓子店 # 洋菓子店 寺社 ’ 4 駅 百貨店 寺社の半径100m 下京区 16 # 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 図 16 下京区(駅バッファ) 四条烏丸 ’ 4 四条大宮 ’ 4 大丸 河原町 ’高島屋 4 五条 ’ 4 # 丹波口 # ’ 4 五条 ’ 4 # # 京都 ’ 4 伊勢丹 和菓子店 # ’ 4 洋菓子店 駅 百貨店 駅の半径500m 下京区 17 # 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 第 4 章 考察 まず第 1 章では和菓子と洋菓子の定義をおこなった。定義を行う中で、日本の「菓子」とは日本で発 生した菓子に加え海外から伝来した技術・菓子を長い年月をかけて応用・発展させてきたものであり、 明治以降普及した洋菓子の素材・製法すら取り込み、今現在もその製法技術の研究は絶えず行われてお り、菓子の種類は増え続けている歴史とともに進歩するものであった。今回は全国菓子工業組合の定義 するものを「和菓子」「洋菓子」としたが、日本の「菓子」に関する見解はさまざまであり、また上記 のように今現在も発展を続けているため一概に定義しがたいものである。 第 2 章では京都市と神戸市で、両菓子店の店舗数と店舗密度を昼夜間人口比と比較して立地分析を行 った。 まず、各都市での和菓子店と洋菓子店の割合は、京都市は和菓子店の割合が高く、神戸市は洋菓子店 の割合の方が高いという結果になった。これは、古都である京都は宮中や公家・寺社・茶家との関係、 神戸市は神戸港からもたらされた西洋文化、それぞれの都市の歴史と風土が大きく影響している。 次に店舗数では、和菓子店は京都市が圧倒的に多く、洋菓子店は神戸市の方が多いが京都市の洋菓子 店数との大差はない。また店舗密度において各都市で最も密度の高い 3 区どうしを比較すると、店舗密 度は両菓子店とも京都市の方が高い。これは両都市の昼夜間人口比と比較し店舗密度みたとき、各都市 の和菓子店、洋菓子店ともに夜間人口に比べ昼間人口の増すオフィス街に集中する傾向がみられたこと から、神戸市より昼間人口の多い京都市(2.2 より)の方が和菓子店・洋菓子店が多く立地していると考え られる。 第 3 章は京都市から両菓子店が特に集中する区を 3 区選出し、駅と寺社の XY データを追加してさらに 細かく立地を分析した。 上京区・中京区・下京区での分析より、和菓子店の立地は上京区では最も寺社に影響を受け、中京区・ 下京区では寺社より駅に立地が影響された。これは京都の和菓子が古来、宮中や公家、寺社、茶家の特 別な行事に用いられていたことから、和菓子店の立地もそれらを中心にしたものであり、上京区には京 都御所もあることから今もその名残がある。しかし、時代が進むにつれ和菓子が大衆化し、その需要が 寺社よりも大きくなったため、和菓子店の立地もより需要の望める場所へと変化していった。中京区・ 下京区の和菓子店の立地傾向が寺社より駅周辺に強く表れたのは、上京区より昼間人口が多く、その便 宜上駅数も多い。そのため、より需要のある駅周辺に立地したと考えられる。 洋菓子店は上京区では駅周辺への立地傾向はみられなかったが、中京区・下京区では駅周辺への立地 傾向が強く表れた。これは洋菓子が普及したのが明治時代以降であり、寺社などとの関係もなく、和菓 子店同様、より需要の高い駅周辺に立地したと考えられる。 18 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 あとがき 本研究は自己の研究への取り組みの姿勢と時間管理が甘かったため、なんとか外枠の形式状としては 論文が完成したが、文章・構成が拙く、全体的に分析不足である。もし、時間が許せば分析したかった ことは、京都市の観光客数と店舗数・店舗密度の関係の分析、京都市の和菓子店立地の時系列での分析、 神戸市での店舗立地分析などできなかったことは多い。特に第 3 章の和菓子店の立地については和菓子 店を創業年別に色分けしマップに示し、また時系列的にその立地を分析できたらさらに深い研究ができ ただろう。 19 京都市と神戸市における和菓子店・洋菓子店の立地 参考文献・サイト 高橋重雄「事例で学ぶ GIS と地域分析 -Arc GIS を用いて-」古今書院 2005.3 早川幸男「菓子入門 改訂版」日本食糧新聞社 2004.9 奥川由希子「東大阪市のコンビニエンスストアとファーストフード店の立地に関する分析」 大阪経済大学 草薙ゼミ 2007.1 水田 晋「京都市周辺における銀行の立地分析」大阪経済大学 草薙ゼミ 2008.1 Google マップ: http://maps.google.co.jp/ 政府統計の総合窓口: http://www.e-stat.go.jp/ 国土地理院: http://www.gsi.go.jp/ i タウンページ: http://itp.ne.jp/ 全国菓子工業組合連合会「お菓子何でも情報館」 : http://www.zenkaren.net/ 全国和菓子協会: http://www.wagashi.or.jp/top.html 京都菓子工業組合: http://www.kyokakouso.jp/kasikougyou.html 兵庫洋菓子協会: http://www.yogashikyokai.com/ 神戸の地場産業: http://kouhou.city.kobe.jp/ 京都らしいもの現在: http://www.onozomi.com/book_kyoto/sweets/sweets4_shop2.html 20