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マンションの屋上に 携帯電話の基地局を設置する際

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マンションの屋上に 携帯電話の基地局を設置する際
法 律 知 識
消費者問題にかかわる判例を
分かりやすく解説します
国民生活センター相談情報部
マンションの屋上に
携帯電話の基地局を設置する際に
総会の普通決議で足りるとした事例
本件は、電気通信会社が携帯電話の基地局等を設置するため、マンション管理組合と
の間で、10年間、マンション屋上の一部を賃借する契約を締結したが、マンションの
居住者から設置工事を妨害されたため、賃借権の確認および設置工事の妨害禁止を求め
て訴えを提起したものである。
本件では、共用部分である屋上の一部を賃借して設置工事を行うための必要な要件が
問題となった。
第一審では、賃貸借期間が民法602条の期間(3年)を超える賃貸借については、共
有者(区分所有者)の全員一致が必要であるとして賃借権の存在等を認めなかったが、
控訴審では、マンション管理組合総会の普通決議を経ればよいとして、第一審を取消し、
賃借権の存在等を認めた。(札幌高裁平成21
年2月27日 判 決、『 判 例 タ イ ム ズ 』1304号
201ページ)
原告・控訴人:X(電気通信会社)
被告・被控訴人:Y(甲マンション管理組合)
賃料年額60万円で電気通信事業の設備設置(基
事実の概要
地局等)
を目的とする賃貸借契約書を作成した。
Xは甲マンション付近で携帯電話の基地局の
アンテナは8m棒状。屋上コンクリートに約10
設置を計画し、甲の管理組合Yの理事と交渉を
cm深さの接着系アンカー(コンクリートに埋め
進めていたところ、2005年10月29日にYの臨
込んで使用するボルト)を打ち、鉄筋・生コン
時総会で上記基地局設置が提案され、議決権総
ンクリートで基礎を設置。機械収容箱はおよそ
数の4分の3以上の賛成多数で可決された。
幅1.7m×奥行0.66m×高さ1.65m、アンテナ
との総重量約1.5トン。地階電気室配電盤からの
同年11月、XとY理事間で、賃借期限10年、
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電力供給のため、
供用部分のパイプシャフト
(ケ
理 由
ーブルや配管を通すため、各フロアに設置され
ている箇所)に穴を開け電気ケーブルを通すと
建物の区分所有等に関する法律(以下、
「区分
いうもの。なお、Yが契約期間内に解除できる
所有法」
)は、区分所有関係が成立している建
のは、Xの債務不履行などもっぱらX側に帰責
物の共用部分を対象とする限りにおいては、民
事由がある場合のみとされていた。
法の特別法に当たるから、共用部分の賃貸借に
その後、電磁波への不安から甲マンションの
ついては民法602条の適用は排除され、同条に
住人の一部がXの工事を妨害するなどしたた
定める期間内でなければならないものではない。
め、XがYに対して賃借権の確認と工事妨害の
区分所有法17条1項は「共用部分の変更(そ
禁止を求めたのが本件である。
の形状又は効用の著しい変更を伴わないものを
Yの管理規約には、建物の専有部分以外は共
除く。
)
」
が特別決議事項であると定めているが、
用部分と定められており、屋上および電気室が
ここにいう「共用部分の変更」はその文言から
これに含まれる。また、
次のような規定もある。
明らかなように、
「形状又は効用の著しい変更を
◦管理組合は総会の決議を経て敷地および共用
伴」うものである。したがって、本件管理規約
部分等の一部について、第三者に使用させる
46条3項2号の「敷地及び共用部分の変更」も
ことができる(16条2項)
区分所有法17条1項と同じく、
「形状又は効用
◦総会の議事は出席組合員の議決権の過半数で
の著しい変更を伴」うものであると解される。
決する(46条2項)
さらに、本件管理規約においては「形状又は効
◦敷地及び共用部分等の変更
(改良を目的とし、
用の著しい変更を伴」うものであっても、
「改良
かつ、著しく多額の費用を要しないものを除
を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しな
く)には、組合員総数及び議決権総数のそれ
いもの」については、特別決議事項から除外さ
ぞれ4分の3以上の賛成がなければならない
れていると解すべきである。
(46条3項2号「特別決議事項」
)
以上によれば、共用部分を第三者に賃貸して
◦その変更が、専有部分等の使用に特別の影響
使用させる場合に必要な決議は、第三者に使用
を及ぼすときは、その専有部分を所有する組
させることにより
「敷地及び共用部分の変更(改
合員等の承諾を得なければならない(46条7
良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要し
項)
ないものを除く。
)
」
をもたらすときは特別決議、
原審(札幌地裁平成20年5月30日判決、
『金
これをもたらさないときは普通決議であると解
融・商事判例』1300号28ページ)は、管理組
される。
合が締結できる賃貸借契約の範囲を、管理行為
これを本件についてみると、管理規約には、
の範囲、つまり民法602条に限定し、それを超
本件建物により電波障害を受ける近隣居住者が
える場合は民法の共有の原則に戻り全員の合意
受信設備を設置するためにマンション共用部分
を必要とするとした。また、管理規約46条7項
を使用する場合は、総会決議を不要とする旨の
につき、電磁波の影響を問題視して設備等設置
定めがある(16条1項)
。この場合と比較して、
に反対する人間が一定数存在し、設備等の存在
本件アンテナの大きさは異なるが固定方法は類
が区分所有建物の市場価格に影響を与える可能
似すると推認される。
性も否定できないと評価し、Xの請求を棄却し
また接着系アンカーを打ち込んだ部分の復旧
たためXが控訴した。
も容易であるから、基地局を設置しても「形状
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又は効用の著しい変更」が生じるとは認められ
容認せざるを得ない事項と、契約を介して積極
ない。したがって、本件で共用部分をXに使用
的に変更を加えることは、同列に論じられない
させるに当たり必要な決議は、普通決議で足り
のではないか。さらに、通常の受信アンテナは
るとした。
数㎏、大きさも家庭用アンテナを若干上回る程
度で済む模様である。形状の違いは歴然として
また、電磁波の影響については、付近の住戸
いる。
の居住者に健康被害が生ずると認めるに足りる
また、電磁波の人体への影響について、科学
証拠はなく、漠然とした不安感に過ぎないとし
的な見解は一致をみていないが、電磁波に対す
て46条7項の承諾も不要とした。
る不安感は社会的には大きな存在といえるので
はないか。
解 説
原審は「電磁波による人体への影響が科学的
に裏付けられているかどうかはともかくとして」
本件第一審は、マンション管理組合が締結で
きる敷地および共用部分の一部の第三者への賃
と断りつつ、
「区分所有建物の市場価格に影響を
貸借契約の範囲を、管理行為の範囲、具体的に
与える可能性も否定できない」として経済的価
は民法602条所定期間内に限定し、住民の要請
値の低減を正面から捉えた。しかし、控訴審は
を認めた。
この問題を規約46条7項の専有部分所有者等の
しかし、本判決では区分所有法は民法の特別
承諾の要否の判断の局面で捉え、付近住戸の健
法であるとして、民法602条による制限を認め
康被害に限定し、しかも立証責任を承諾の必要
ない。そのためマンション管理規約自体の解釈
性を主張する側(住民側)に課し、
「電磁波の発
に踏む込みこととなる。
生による漠然とした不安感にすぎず」としてい
る。健康被害はともかく、少なくとも経済的価
区分所有法17条1項が特別決議事項として共
値の減少は現時点でも生じ得ると考えられる。
用部分の変更を定めつつ、
「形状又は効用の著し
い変更を伴わない」場合を除外していること、
さらに規約46条3項2号が「改良を目的とし、
かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く」
としているため、本判決は特別決議(4分の3
参考判例
の賛成)が必要な事項を「形状又は効用の著し
い変更を伴い」
、しかも「改良を目的としないか、
マンション管理と賃貸借に関し、
または著しく多額の費用を要する」共用部分の
総会決議を無効としたものとして
変更に限定している。
①那覇地裁平成16年3月25日判決、
一方、具体的な規約適用に際しては、近隣住
『判例タイムズ』1160号265ページ
民の電波障害対策として通常の受信用アンテナ
および受信設備の設置を規約が容認しているこ
電磁波の影響に関して
とから、携帯基地局について、アンテナの大き
②福岡高裁平成21年9月14日判決、
さは異なるものの固定方法は類似しているなど
『判例タイムズ』1337号166ページ
として、
「形状又は効用の著しい変更」は生じな
③福岡高裁平成21年9月14日判決、
いとしている。
『判例タイムズ』1332号121ページ
しかし、近隣住民とのトラブル回避のために
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