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北欧のバイオガスの現状(その 2)
情 報 報 告 ウィーン 北欧のバイオガスの現状(その2) 8 月 27 日、28 日にアイスランド・Reykjavik で、隔年開催の北欧のバイオマス市場に関 する会議(Nordic Biogas Conference)が行われた。今年の主催者は、廃棄物管理企業である SORPA 社(アイスランド)である。 今回は、フィンランド・バイオガス協会からの同国におけるバイオガスの現状、そして、 デンマークの Aarhus 大学から家畜排せつ物と藁の混合消化に関する講演を報告する。 3.北欧諸国におけるバイオガスの現状 Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 3.1 フィンランドにおけるバイオガスの生産 (1) 概要 2013年の状況として、フィンランドには95ヵ所のバイオガス生産施設がある。その内訳 は、埋立て地ガスが42ヵ所、反応槽(消化槽)施設が53ヵ所である。また、図3-1に示すよう に、分野別(農業系、工業用廃水処理、混合反応、自治体の廃水処理、埋立て地)の生産能力 としては、埋立て地ガスが最も大きい。要点としては以下のとおりとなる。 ・全体では、以前からの施設で年間に0.7テラワット時(TWh)のバイオガスを生産できる ・0.6TWhが利用されている(国内で生産される再生可能エネルギーの1%に相当) ・利用の拡大は反応槽を持つ施設からのバイオガスのみである ・埋立て地ガスの利用は僅かに減少した(2011年から2012年) 農業系 産業廃棄物(事業系廃水処理) 有機系ごみ(複合反応槽) 下水処理(下水汚泥) 埋立て処分場 生産能力(×100 万 m3) 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-1 フィンランドにおけるバイオガスの生産量(2012年) (2) 2011年のバイオガスの利用状況 利用されたバイオガスは、600ギガワット時(GWh)だけであり、その大半は、熱(56%)お よび電力(23%)として利用されるが、輸送部門での使用割合は、0.3%とかなり低い。しか しながら、バイオガスの輸送部門での消費量が急激に増加しつつあるので、約20%を占め るフレア(燃焼)処理を行う必要性は低減する(図3-2 ― 25 ― 参照)。 情報報告 ウィーン 生産能力 生産能力・消費量 (GWh) 消費量 年 (2013年と2014年の数値は予測値) 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-2 フィンランドにおけるCBGの生産能力と運輸部門での消費量 (3) バイオガスの精製、供給スタンド、ガス自動車 図3-3に、フィンランドにおけるバイオガスの精製施設、公共の圧縮バイオガス供給スタ ンド、圧縮天然ガス自動車の数を示す。2010年以降から増加が顕著である。 公共の CBG 補給スタンド CNG 自動車 (×1000) 合計 精製施設 年 (予測) (予想) 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-3 フィンランドにおけるバイオガスの精製施設とガス自動車の数 (4) フィンランドにおけるバイオガスの供給スタンド フィンランドには、21ヵ所の公共のバイオガス供給スタンドがあり、圧縮バイオガス (CBG)の多くが、既存の圧縮天然ガス(CNG)スタンド用ガスグリッドを介して送られている。 要点は以下のとおり(図3-4 参照)。 ・21ヵ所の公共のバイオガス供給スタンドがある ・それら全てが圧縮バイオガス(CBG)を販売している ― 26 ― 情報報告 ウィーン ・17ヵ所は圧縮天然ガス(CNG)を販売している、 フィンランドの天然ガス大手Gasum社など ・さらに、21ヵ所の供給スタンド、2つのスタンドは圧縮天然ガスのみを取り扱う ・上記の数値には、家庭または個人のスタンドは含まれていない ・青で四角く囲まれた地点は既存の圧縮バイオガスのスタンドを示す ・星(★)印は、予定されている圧縮バイオガス供給スタンドを示す ・EUでは2020年までに、供給スタンドは150kmごとに設置される予定 ・TornioからNuorgamまでに3ヵ所のスタンドが必要となる ・国内全体では、最大で20ヵ所のスタンドの追加が必要となるが、大半は人口密度の低 い地域である ・既存のスタンドは、人口の50%を占める地域に設置されている 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-4 フィンランドにおけるバイオガス補給スタンドの状況 また、図3-5にフィンランドにおけるガスグリッドの敷設状況を示す。バイオガス供給ス タンドのネットワークは、ガスグリッドの外へと拡大している(図3-5内の番号1、5、6)。 21ヵ所ある公共の供給スタンドでは、以下の6社がバイオガスを販売している ①Metener ②Gasum ③Haminan Energia ④Envor Biotec ⑤Joutsan Ekokaasu ― 27 ― 情報報告 ウィーン ⑥Jeppo Biogas (2014年9月開始予定) 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-5 フィンランドにおけるガスグリッドの敷設状況 3.2 フィンランドにおけるバイオガスの精製施設 (1) 概要 フィンランドには、9ヵ所のバイオガス精製施設があり、そこでは3種類の異なる技術(水 洗浄、高圧水洗浄、膜処理)が採用されている。先に述べた各社の特徴は以下のとおり。 ① Metener ・2つの洗浄装置 ・高圧水洗浄方式 ②Gasum ・17ヵ所の供給スタンド (ガスグリッドに統合) ・3つの洗浄装置 ・Espoo、Lahti、Kouvolaにある(図3-6内で赤丸で囲われた施設) ・水洗浄方式 ③Haminan Energia ・14ヵ所の供給スタンド (ガスグリッドに統合) ・Espooで生産されたバイオガス ④Envor Biotech ・膜処理方式 ⑤Joutsan Ekokaasu ・高圧水洗浄方式 ⑥Jeppo Biogas (2014年9月開始予定) ・水洗浄方式 ― 28 ― 情報報告 ウィーン 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-6 フィンランドにおけるバイオガス精製施設の所在地 (2) 運輸部門におけるバイオガスの成長への課題 フィンランドの運輸部門におけるバイオガスの課題として、現在は下記のように、6社が 3種類の異なる支払い方法によってバイオガスを販売していることがある。事業展開を加速 させるためには、統一された支払い方法を整備し、取引きを容易にする必要がある。 ①クレジットカードのみ ・Jeppo Biogas ・Haminan Energia ・Joutsan Ekokaasu ②個人への請求書のみ ・Envor Biotech ・Gasum ③現金または請求書のみ ・Metener (3) 各社の精製施設の説明 ①Metener ・昔からの家族経営の農場をベースにしたバイオガス施設で、その後、バイオガスメー カーのMetenerに展開 ― 29 ― 情報報告 ウィーン ・2002年から自動車用燃料への精製を行っている(フィンランドで最も古い) ・2014年には、同じ場所に2基目の洗浄装置を設置したので、精製能力は2倍(2GWh)と なった ・特許を所得しているMetenerのバイオガス精製技術は、水洗浄技術の応用である ・一般的な水洗浄方式との大きな違いは、バッチ式の吸着コラム内で高圧水を利用する ことにある ・利点:洗浄と加圧の組合せによる単純さと施設の小型化 この技術は、1時間あたり30㎥から100㎥の原料ガスの処理に適している ・Metenerは、Joutsan Ekokaasuに精製技術を提供している また、高圧水洗浄装置のプロセスは以下(a)から(e)のとおり(図3-7 参照)。 (a)未処理のバイオガスは、精製コラムを完全に満たすまで流す貯留槽を緩和するために 圧縮される。そして、ガス流れが送り出される。 (b)それから、コラムは高圧水ポンプによって水で満たされ、二酸化炭素(CO2)と硫黄化 合物が水に吸収されると同時にガスは150bar(15MPa)まで加圧される。 (c)洗浄サイクル後、水はリサイクルされる。フラッシュおよび水の再生タンク内での再 生後、コラムは再び未処理のバイオガスで満たされ、次の精製サイクルが開始される。 (d)2つの並列したコラムは異なる状態で運転される(一方は充填、他方は空の状態)。 (e)精製後のガスは圧力容器内に回収され、吸湿剤で除湿される。そして、ガスは中圧 のボトルバンクでの貯蔵または燃料補給スタンドの高圧ボトルバンクへと圧縮機に よって昇圧される準備が行われる。 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-7 Metener社の高圧水洗浄装置 ― 30 ― 情報報告 ウィーン ②Gasum ・フィンランドの天然ガスグリッドのシステム運営事業者であり、同国において天然 ガスの輸入と販売をしている。 ・年間の天然ガスの販売量は、33.2TWhである。 ・Espoo Suomenoja, Kouvola Mäkikylä& Lahti LabioOy (9/2014)のバイオガス施設か ら30GWh(最大80GWh)のバイオメタンを提供できる。 ・ガスグリッドに沿ったバイオガス施設からのバイオガスを購入し、ガスグリッドに 供給する前に、購入したバイオガスの精製と加圧(30barから40bar)を行う。 ・グリッドを介してHaminan EnergiaにEspooのバイオメタンを販売している。 ・全てのバイオガスを水洗浄で精製している。 ・Kouvola:Greenlane社 (ニュージーランド)製の水洗浄装置。 ・EspooとLahti:Malmberg社(スウェーデン)製の水洗浄装置。 ・バイオメタンの運輸、熱および産業用の容量 (この数値はCBGの全てを使用した場合) 2011年 :7GWh Kouvokan Mäkikylä 2012年 :20GWh Espoon Sumenoja 2014年 :50GWh Lahti Labio Oy 2018年 :1,600GWh Joutseno biorefinery 図3-8に、Gasumが採用する水洗浄装置の基本原理を示す。 脱着コラム 吸着コラム 空気 + 除去された CO2 精製後のバイオメタン 圧縮機 空気 フラッシュ コラム 原料ガス 水抜き 補給水 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-8 Gasumが採用する水洗浄装置の基本原理 ③Envor Biotech ・2009年にバイオガス施設を設立。 ・バイオガスは地元産業、所有する2.8メガワット(MW)の熱電併給施設(CHP)または補 給スタンドで消費している。 ・バイオガスは、2013年12月以降から運輸用燃料のために精製されている。 ― 31 ― 情報報告 ウィーン ・フィンランドで唯一のバイオガスの精製に膜処理技術を使用する企業である。 ・分子選択性膜によって原料ガスからCO2と流化水素(H2S)が除去される。 原理は分子サイズの違いに基づいている。 ・生産能力は1GWhである。 ・処理膜は補給スタンド自体と同じコンパクトなコンテナで配送することが可能である。 開かれた市場に対する商業用補給スタンドを提供している。(図3-9 参照) ・処理膜への供給圧力は最大4barである。 ・膜処理後、ガスは250barまで加圧され、補給用コンテナ内のガスタンクに貯蔵される。 ・処理膜の基数を増やすことで容易に処理能力を大きくすることができる。 ・洗浄におけるメタン(CH4)の損失は、10%少ない。 ・膜処理の後のガス中のメタンの比率は、97%から98%である。 ・ガス精製のためのメンテナンスを必要としない方法である。 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-9 Envor Biotechのバイオガス精製装置の例 ④JeppoBiogas ・2013年にバイオガス施設の運転を開始。 ・原料は主に4ヵ所の養豚場からの発生物である。 ・スラリーを入手するために12kmのパイプラインがある。 ・消化プロセスの後、350ミリbarのバイオガスは乾燥(冷却)され、熱電併給(CHP) /地元産業/燃焼処理または精製装置のどちらかに送られる。 図3-10に、JeppoBiogas社のバイオガス施設の概略フローを示す。バイオガスの精製に ついては、以下のとおりである。 ・精製方法は水洗浄方式を採用。 ・精製後のガスは圧縮機によって250barまで加圧される。 ・圧縮ガスはLuxfer社のコンテナベースのガスタンクに貯蔵される。 ・各コンテナは、250barに圧縮された5,045Nm3のメタンを貯蔵できる。 ・各々のコンテナの充填時間は、最大10時間である。 ― 32 ― 情報報告 ウィーン ・ガスコンテナは食品産業またはJepuagas補給スタンドでの使用のために40kmの距離 を搬送される(図3-11 参照)。 ・輸送用燃料としての販売は、1GWhから5GWhと想定される。 ガスグリッド ボイラー / CHP フレア 養豚場の汚泥 (全固形物 4%) 前処理 養豚場の汚泥 ミキシング 草木類 (全固形物 20%) 消 化 受入れ / (全固形物 4%) バイオガスの 前処理 その他 残渣の無害化 (全固形物 20%) バイオガスの 精製 自動車用 CNG バイオガスの 圧縮 タンク CNG 固形物 の分離 腐植 肥料 濃縮液 貯 蔵 液状 肥料 残渣 (廃材) 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-10 JeppoBiogas社のバイオガス施設の概略フロー 出典:Teemu Aittamaa氏、フィンランド・バイオガス協会 図3-11 JeppoBiogas社の精製されたバイオガスの搬送の状態 (参考資料) ・Nordic Biogas Conference 2014講演資料、Teemu Aittamaa氏、 フィンランド・バイオガス協会 ― 33 ― 情報報告 ウィーン 4.家畜排せつ物と藁および多年草との混合消化 Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学(デンマーク) 4.1 バイオガスのための藁と多年草 (1) 藁や多年草を使用する理由 家畜排せつ物ベースのバイオガス施設に対する大きな課題の1つとして、バイオガスの生 産を高めることによる産業用廃棄物の不足がある。トウモロコシのような専用のエネルギ ー作物が多く使用されているが、これによる環境面での利点は少なく、経済性においても 良くない。そのため、ガスの生産量を高めるための基質となる他の資源が将来的に必要と されている。一方で、既存のバイオガス施設では、藁や多年草からバイオガスの生産を行 っているため、家畜排せつ物(糞尿)については共同発酵用基質としての価値は高く見ていな い。エネルギー作物は段階的に廃止すべきである。藁は最も高いエネルギーを持つ農業副 総エネルギー (PJ/年) 産物である。また、牧草地の収穫は数多くのプラスの効果をもたらす。 藁 多年草 家畜 産業廃棄物 農業系 家庭ごみ 下水汚泥 社会から出される有機系廃棄物 家畜 焼却 バイオガス エネルギー回収に未使用 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-1 デンマークにおける各原料からのエネルギー回収量の検討 満たすべき条件としては、以下の2点が考えられる。 ・経済性でプラスの効果を持っている必要があり、短期的にはトウモロコシと同等で なければならない ・バイオガスの技術は、バイオマスの取り扱いと変換のために最適化すべきである (2) バイオガス研究施設 ①概要 図4-2に、Foulum のAarhus大学のバイオガス研究施設の外観を示す。Aarhus大学で は過去数年間に渡って、高いエネルギー量を持つ様々な農業ベースの副生成物が実験室 ベース、パイロットベース、そして、実機ベースでの消化を試験してきただけでなく、 ― 34 ― 情報報告 ウィーン 前処理のための様々な方法の効果を調査してきた。 出典:Henrik Bjarne Møller 氏、Aarhus 大学 図4-2 Aarhus大学のバイオガス研究施設の外観 ②研究施設での草/藁の取扱いと前処理 調査では藁や多年草に着目し、前処理にはブリケット(造粒)化や押出しを主にしてきた。 前処理工程中には、酸やアルカリのような異なる添加材をバイオガスの生産量を高める ために使用した。実験は、15リットル、30立法メートル(m3)、そして、1,000 m3のバッ チ式の消化槽で行った。 図4-3に、Aarhus大学のバイオガス研究施設における草および藁の貯留、供給、前処理、 そして、消化の流れについて示す。前処理の系列は、固形分が20%から80%の湿ライン と固形分が80%を超える乾きラインの2系統がある。 湿ライン 乾きライン 貯留 供給 前処理 消化 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-3 Aarhus大学の研究施設での草/藁の貯留、供給、前処理、消化の流れ ③トウモロコシから繊維の豊富な材料への移行 ― 35 ― 情報報告 ウィーン 図4-4に示すとおり、温かい期間はガスの販売量の低下のために固形材料の供給を減少 する必要がある。使用されたバイオマスの種類と供給量について、図4-5に示す。 バイオガス (m3/月) 有機的な期間 押出し開始 ブリケット化開始 トウモロコシ 押出し処理された材料 ブリケット化された材料 バイオガスの生産 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 ブリケット 図4-4 各種バイオマスの供給量とバイオガス発生量の変化 牧草地の草 藁 飼料廃棄物 生ごみ 押出し バイオマス供給量 (トン/月) 有機的な期間 牧草 サイロに貯蔵した牧草 牧草地の草 クローバーの草 トウモロコシ 固形バイオマス (kg/日) 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-5 研究施設におけるバイオマスの種類と供給量 ― 36 ― 情報報告 ウィーン (3) リグノセルロースの前処理 図4-6に、リグノセルロースの前処理の効果に関する概念図を示す。また、前処理の利点 および欠点は下記のとおりである。 利点: ・粘性の低下と撹拌性の向上 ・より大きなメタン発生量 欠点: ・より多くのエネルギー需要 ・投資および運転コストが必要 ヘミセルロース リグニン セルロース 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-6 リグノセルロースの前処理の効果に関する概念図 【ヘミセルロース】Hemicellulose ヘミセルロースとは、糖質で構成される「半繊維素」であり、植物の細胞壁のうち、セルロースとペ クチン以外の不溶性食物繊維の総称で、キシラン、マンナン、ガラクタンなどの糖質からできています。 ヘミとは「半分」の意味。 【リグニン】Lignin 木質素とも呼ばれる高分子物質で、木材中の20~30%を占める。3種のプロピルベンゼン化合物を主 体とする網状高分子化合物。主として中間層や細胞壁にセルロース、ヘミセルロースと結合して存在、 細胞間を接着・固化する。 リグノセルロースの前処理の方式には、機械式と化学式がある。機械式には、浸軟(水分 に浸して柔らかくすること)、ブリケット化、そして、押出しがある(図4-7 参照)。一方で、 化学式には、酸(酢酸、硫酸)、アルカリ(アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム) がある。 ― 37 ― 情報報告 ウィーン (a)未処理材 (b)浸軟 (c)ブリケット化 (d)押出し 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-7 機械式前処理の種類とバイオマスの状態 (4) 試験結果 図4-8に、藁と牧草のガス発生量の潜在性とブリケット化または押出しの効果を示す。未 処理の藁を基準として比較した場合、機械式で前処理された藁では、15日から30日の滞留 時間においてガス発生量の増加が認められた。 ブリケット化 された牧草 押出し された藁 ブリケット化 された藁 未処理の藁 (基準) リットル-メタン(LCH4)/kg-有機物(VS) 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-8 機械式前処理の種類とバイオマスの状態 図4-9に、ブリケット化されたバイオマスへのアルカリ添加によるメタン発生量の効果を 示す。水酸化カリウム(KOH)では30日と60日でメタン発生量の割合に差異が若干認められ たが、水酸化ナトリウム(NaOH)の場合では、30日と60日のメタン発生量に差異は認められ なかった。また、両方のアルカリにおいて、その添加率は1%から2%程度が最も効果があ るといえる。 図4-10に、前処理の方式と必要エネルギーの関係を示す。全体的に固形分の増加に伴い 必要なエネルギー量も増加し、ブリケット化の方が押出しよりお多くのエネルギーが必要 となる。 ― 38 ― 改善されたメタン発生量 (%) 情報報告 ウィーン アルカリの添加率(質量%) 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-9 ブリケット化とアルカリ添加によるメタン発生量の関係 混合 / 注入 ブリケット化 粉砕 必要エネルギー (kWh/トン-バイオマス) 押出し 押出し(合計) ハンマーミル ブリケット化(合計) 固形分 (%) 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-10 前処理と必要エネルギーの関係 図4-11に、各バイオマスと前処理のエネルギーバランスを示す。藁、生ごみ共に前処理(押 出し)をすることで、未処理の場合よりも多くのエネルギーを発生できる。また、その量は、 比較対象のトウモロコシよりも多い。 ― 39 ― 情報報告 ウィーン 藁 貯蔵トウモロコシ 生ごみ 液状の肥やし エネルギーバランス(kWh/トン-バイオマス) 液状の肥やし 生ごみ 貯蔵トウモロコシ 藁 供給装置の必要エネルギ 押出しの必要エネルギー エネルギー生産量 押出しによる追加の 発生量 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-11 各バイオマスと前処理のエネルギーバランス 図4-12に、押出し方式の場合の経済性の検討結果を示す。検討項目には、必要機器の消 費電力、消耗部品や潤滑油などが含まれる。 表4-1に、藁を前処理した場合のトウモロコシとの経済性の比較結果を示す。押出しおよ びブリケット化の方式を問わず、前処理を行うことでトウモロコシよりも多くの収益が得 られる可能性があることがわかる。 バイオ ミキサー 押出し機 分散機 消費電力 チェーン ベアリング 消費電力 消耗部品 オイル交換 消費電力 カッター刃 オイル交換 コスト (デンマーク・クローネ/トン-バイオマス) 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-12 押出し方式に必要なコスト(2013年~2014年) ― 40 ― 情報報告 ウィーン 表4-1 藁を前処理した場合のトウモロコシとの経済性の比較 項 目 単 位 未処理 押出し - 通常能力 ブリケット 最大能力 藁 最大能力 バイオマス 種類 トウモロコシ 藁 ガス発生量 m3 CH4/トン 100 200 200 200 消費電力 kWh/トン 10 120 120 120 投資額 (前処理装置) デンマーク クローネ 0 4000000 10000000 4000000 能力 トン/年 25000 5000 25920 7000 電力コスト クローネ/トン 7 84 84 84 投資額 (前処理装置) クローネ/トン 0 800 385 571 投資額 (バイオガスのインフラ) クローネ/トン/年 50 50 50 50 減価償却費 (年間 15%) クローネ/トン 7,50 127 65 93 運転コスト (消耗品) クローネ/トン 2 61 25 61 合 計 (人件費除く) クローネ/トン 17 272 174 238 追加のガス発生量 % 0 10 10 10 追加のガスの相当額 クローネ/トン 0 96 96 96 総収入 (人件費除く) クローネ/トン 463 784 882 818 基質の購入費 クローネ/トン 350 550 550 550 正味の収入 (人件費除く) クローネ/トン 113 234 332 268 正味の収入 (人件費除く) クローネ /トン・固形物 282 292 415 335 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 反応槽の撹拌や浮遊層の蓄積などの技術的問題無しに14%の固形分を有するバイオマス を処理することは可能であった。 4.2 藁の混合消化の試験 藁タイプ、草種、収穫方法、前処理および接種タイプによって影響を受けるガス生産量 は、バッチ式消化槽で確認を行った。家畜排せつ物だけで行うプロセスとガス生産量、ガ ス物性、プロセスの安定性を比較するために、家畜排せつ物と8.5%以上の前処理を施した 藁の高温混合消化を20日間の水利学的滞留時間で調査を行った。 (1) パイロットスケール パイロットスケールにおける試験条件とその結果は以下のとおりであった。 (試験条件) ― 41 ― 情報報告 ウィーン 連続撹拌槽型反応器(CSTR) 容量:15リットル、温度:49±1℃、撹拌速度:100rpm、原料滞留時間:20日間 (試験結果) 100%の家畜排せつ物:167.81リットル-CH4/kg-有機物(VS) 95%の家畜排せつ物+5%の貯蔵トウモロコシ:211.10リットル-CH4/kg-有機物(VS) 95%の家畜排せつ物+5%の藁のブリケット:218.06リットル-CH4/kg-有機物(VS) (2) パイロットスケール パイロットスケールにおける試験条件とその結果は以下のとおりであった。 (条件) 連続撹拌槽型反応器(CSTR) 容量:30m3、温度:50℃、原料滞留時間:25日間 (結果) 100%の家畜排せつ物:263.72リットル-CH4/kg-有機物(VS) 91%の家畜排せつ物+9%の藁のブリケット:351.33リットル-CH4/kg-有機物(VS) 図4-13に、家畜排せつ物のみの消化によるガス発生量と藁との混合消化によるガス発生 量の比較を示す。全期間を通して混合消化の方がバイオガスの発生量が多かった。 家畜の肥やし+藁 家畜の肥やしのみ 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-13 家畜排せつ物と藁の混合消化によるガス発生量への効果 図4-14に、藁の高温混合消化によるバイオガス中の硫黄分への影響を示す。藁にはガス 中の硫黄含有率を1,900ppmから365ppmに減少させるといった追加の良い効果があった。 ― 42 ― 情報報告 ウィーン 排せつ物+8%の藁 流化水素 (ppm) 排せつ物(90%養豚、10%畜牛) 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-14 家畜排せつ物と藁の高温混合消化時の流化水素発生量への効果 図4-15に、藁の混合消化に対する原料滞留時間のバイオガス発生量への影響を示す。家 畜排せつ物のみよりも、藁との混合消化の方が20日以降の温度に関係無くバイオガスの発 生量が多かった。また、滞留時間を長く取る必要がある場合は、中温条件で十分である。 さらに、反応槽の撹拌や浮遊層の蓄積などの技術的問題無しに14%の固形分を有するバ イオマスを処理することは可能であった。 高温 / 中温 バイオガス (m3/トン) 高温 +30% 滞留時間 (日) 家畜排せつ物 (消化後中温) 家畜排せつ物 (消化後高温) 家畜排せつ物+藁 (消化後中温) 家畜排せつ物+藁 (消化後高温) 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-15 藁との混合消化と原料滞留時間のバイオガス発生量への影響 ― 43 ― 情報報告 ウィーン (3) バイオガス施設での優先事項と消化後の調整 上記より、システム内の滞留時間は約13日間と非常に短い結果であったが、プロセスは 安定していた。また、図4-16に示すように、その後のガスの発生量には大きな可能性があ り、37%のガスは非常に短い滞留時間中には生産できないが、貯蔵槽の内部温度が25℃未 満に低下する最も寒い月を除いて、まだガスが生産できる可能性がある。 中温 / 低温 中温(25~30℃)×40 日 低温(10~20℃)×40 日 低温(0~20℃)×100 日 バイオガス (m3/トン) 高温(53℃) ×13 日 滞留時間 (日) 家畜排せつ物+藁 (消化後低温) 家畜排せつ物+藁 (消化後中温) 出典:Henrik Bjarne Møller氏、Aarhus大学 図4-16 藁との混合消化と原料滞留時間のバイオガス発生量への影響例 4.5 まとめ ①藁は家畜の肥やしとの混合消化に対して上手く使用することができ、前処理はバイオ ガス発生量を高めることができる。 ②バイオガス発生量の増加は、バイオガス施設の技術および滞留時間に依存する。 ③機械式および化学式前処理はブリケット化と組合せることが可能である。 ④Foulumのバイオガス施設では、価格の高いエネルギー作物から藁への移行を上手く達成 できた。 ⑤藁の使用はバイオガス中の硫黄分を大幅に減少させる効果がある。 (参考資料) ・Nordic Biogas Conference 2014 講演資料、Henrik Bjarne Møller 氏、Aarhus 大学 ・AU Foulumホームページ、(http://dca.au.dk/en/about_dca/au-foulum/) ― 44 ―