...

西洋ナシ「ゼネラル・レクラーク」 に発生した黒斑病の症状

by user

on
Category: Documents
52

views

Report

Comments

Transcript

西洋ナシ「ゼネラル・レクラーク」 に発生した黒斑病の症状
西洋ナシ「ゼネラル・レクラーク」
に発生した黒斑病の症状
県南果樹研究センター
小笠原博幸
近年、県南地方で西洋ナシ「ゼネラル・レクラーク」の葉および果実に黒色∼黒
褐色の斑点症状が発生し、問題となっている。本障害の原因を検討したところ
Alternaria alternata に起因するセイヨウナシ黒斑病であることが明らかになったの
で紹介する。
1.「ゼネラル・レクラーク」における黒斑病の症状
1)葉の症状
最初、黒褐色で針頭大の小斑点が生じ、やがて褐色∼灰褐色、やや輪紋を呈した
円形∼楕円形の病斑へと拡大する。数個の病斑が癒合して不正形の大型病斑が生ず
ることもある。(写真1、2、3)
写真1
葉表の病斑
写真2
葉裏の病斑
写真3
葉表の大型病斑
2)果実の症状
主として果点に、表面が平滑∼ややへこんだ0.5∼1.5mm程度の黒色∼黒褐色の小
型病斑が生じる。これら果実病斑では、生育期並びに追熟期においても腐敗が生じ
ることがない。(写真4、5)
写真4
果実の病斑
写真5
果実の病斑
2.発生実態
南部町、名川町および五戸町の「ゼネラル・レクラーク」の11園地全てにおいて被
害果の発生が確認された(表1 )。被害果率が40%を越える園地が全体の半数以上
を占め、さらに被害度が50を越える甚発生の園地も見られた。
当センターほ場での実態調査では 、「ゼネラル・レクラーク」の他に 、「ル・レ
クチエ」の葉や果実でも被害の発生が確認された。一方、「ラ・フランス」や「バー
トレット」、「フレミッシュ・ビューティー」などでは被害がみられなかった。
表1
ゼネラル・レクラークにおける黒斑症状の被害実態と
Alternaria sp.の分離頻度1)
分離頻度3)
調査地点
南部町A
南部町B
南部町C
南部町D
南部町E
南部町F
南部町G
名川町
五戸町A
五戸町B
五戸町C
調査果数
(個)
150
150
150
150
150
150
150
150
150
150
150
被害果率
(%)
36.0
72.7
83.3
28.0
40.7
5.3
52.0
65.3
15.3
56.7
38.7
被害度2)
21.3
52.7
59.8
12.9
20.4
2.2
25.3
37.3
6.2
27.3
16.0
果実
葉
10/10
8/10
8/9
10/10
8/10
−
9/9
6/10
−
−
−
2/10
1/10
1/10
−
1/10
1/10
2/10
2/10
2/10
2/10
−
1)平成15年8月26日に三戸地域農改セの協力を得て調査した。
2)1果当たりの斑点数が1∼5個を1、6∼15個を2、16個以上を3とする指
数別に調査し、被害度を算出した。
3)果実および葉の黒色∼黒褐色斑点から分離される Alternaria.sp.の割合を分
離数/供試病斑数で示した。
3.病原菌の分離と同定
「ゼネラル・レクラーク」果実の斑点部位から高い割合で Alternaria sp.が分離
された。葉においても低率であるが、Alternaria sp. が分離された(表1)。
分離菌株をPDA培地で25℃、連続照明下で5日間培養したところ、菌叢は暗緑
色を呈し、分生子は大きさが 33.5 ∼ 42.8×12.3 ∼ 13.0µm、隔壁数は縦が0∼8本、
横が1∼8本であった。これら分離菌の形態は、ニホンナシおよびセイヨウナシ黒
斑病菌として報告されている Alternaria 菌とほぼ一致した(表2)。
表2
分離菌(AKK3、J3K、NIK4)の分生子の性状
大きさ(μm)
隔壁数(本)
菌株名
AKK3
J3K
NIK4
西洋ナシ黒斑病菌(Alternaria alternata)1)
日本ナシ黒斑病菌(Alternaria kikuchiana)2)
(注)1)は棚橋(2001)、
長さ×幅
縦
横
33.5×12.8
37.3×13.0
42.8×12.3
0∼8
1∼5
0∼7
1∼8
1∼7
1∼8
33.2×11.1
0∼4
1∼7
10∼70×6∼22
1∼10
1∼10
2)は田中(1933)より引用。
4.症状の再現試験
西洋ナシの新梢葉と果実に分離菌を接種したところ、葉では「ゼネラル・レクラ
ーク」と「ル・レクチエ」のみに病徴が再現され、接種菌が再分離された。発病の程
度は「ル・レクチエ」に比べて「ゼネラル・レクラーク」が高かった。(表3)。
果実においても、「ゼネラル・レクラーク」と「ル・レクチエ」で病徴が再現され、
接種菌が再分離された(表3)。
以上から、分離菌は「ゼネラル・レクラーク」と「ル・レクチエ」の葉と果実に強い
病原性を示すことが明らかになった。
表3
セイヨウナシの葉と果実に対する分離菌の病原性1)
葉の発病度
品
種
果実の発病度
ゼネラル・レクラーク
ル・レクチエ
バートレット
ラ・フランス
試験1
試験2
84.9
0
0
84.2
27.5
-
65.0
80.0
-
注)葉では接種3∼4日後、果実では接種7日後のそれぞれ
の時期に、0∼4の発病程度別に調査し、発病度を求めた。
発病度=
Σ(指数×該当葉・果数)
調査葉・果数×4
×100
5.有効薬剤の検索
平成15年西洋なし病害虫防除暦に採用されている主な薬剤を供試した。「ゼネラ
ル・レクラーク」の新梢葉に供試薬剤を散布し、分離菌を接種した。
その結果、キノンドーフロアブル、デランフロアブル、ポリオキシンAL水和剤
およびベフキノン水和剤は高い防除効果を示した。ベルクート水和剤、トモオキシ
ラン水和剤およびストロビードライフロアブルは、防除価がやや低かったが、無処
理との比較で、ある程度の防除効果が期待できると判定された(表4)。
これら防除効果の認められた薬剤は、いずれも日本ナシを主体とした防除試験に
基づいて、既に黒斑病に対して農薬登録を取得していた。一方、黒斑病に農薬登録
を取得していない薬剤(キャプレート水和剤)は、防除効果が期待できないことも
明らかになった。
表4
ゼネラル・レクラークの新梢葉における各種薬剤の防除効果
発
供試薬剤
度
倍数
防除価
接種3日後
キノンドーフロアブル
デランフロアブル
ベルクート水和剤
トモオキシラン水和剤
ストロビードライフロアブル
ポリオキシンAL水和剤
ベフキノン水和剤
キャプレート水和剤
無処理
病
800
1000
1000
500
2000
1000
1000
600
16.9
18.8
21.9
25.0
39.4
24.4
16.3
53.0
84.9
接種5日後
24.4
32.5
58.8
49.4
61.3
30.6
31.3
85.0
93.8
74
65
37
47
35
67
67
9
-
注)防除価は接種5日後の発病度で算出した。発病度は表3に同じ。
6.まとめ
「ゼネラル・レクラーク」の葉および果実に発生している黒色∼黒褐色の斑点症状
は、セイヨウナシ黒斑病であった。
「ゼネラル・レクラーク」の新梢葉を用いた接種試験により、西洋なし病害虫防除
暦に採用されている薬剤の多くは、今回解明された黒斑病に対しても比較的高い防
除効果を示した。今後、果実での防除効果を含めて、ほ場レベルでの実証試験を行
う必要があるが、現在の輪紋病を主体とした防除体系においても、問題なく防除で
きる可能性が高いと考えられた。
Fly UP