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政 策 提 言 書 「子どもの人権擁護の立場に立った周産 - H

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政 策 提 言 書 「子どもの人権擁護の立場に立った周産 - H
政 策 提 言 書
「子どもの人権擁護の立場に立った周産期医療モデル」
~正期産新生児の医療を公的医療保険化する~
研究代表者
中川裕章(医療提供者)
北川恵美(医療提供者)
赤池 弘(患者支援者)
常川知美(医療提供者)
吉村沙織(医療提供者)
石川雅俊(政策立案者)
上田由紀子(政策立案者)
昆 弘人 (メディア)
東京大学公共政策大学院 医療政策実践コミュニティー(H-PAC)
2015 年 5 月 7 日
1
〇本政策提言書の構成について
本政策提言書は、内容・量共に多岐に渡るため、政策提言書本文の前に、その要旨をより平易な形でま
とめたものを「ダイジェスト版」として掲載する。続いて「政策提言書 本文」を掲載する。
2
「政策提言書 ダイジェスト版」
3
Issue
「正期産新生児に対するケア(あるいは管理)の量的・質的不足」
、
①当然行われるべき最低限の管理すらされていない」
②質の高いケア・管理を実施する医療機関が限られている」
~日本の正期産新生児は一人の人として扱われていません。
そのために事故が起こっています~
生まれたばかりの赤ちゃんに起こっていること
あなたやあなたの大切な方がこれから、日本で赤ちゃんを産む、とイメージして
いっしょに考えてください
1.カンガルーケア(現:早期母子接触)の事故
赤ちゃんは生まれるとすぐにお母さんの胸に抱かれます。カンガルーケア、今は、
「早期母子接触」と
言いますが、お母さんと赤ちゃんの最初の出会いの場面で十分なスキンシップを図ることは、親子の絆を
結ぶために大切なことであると同時に、お母さんから健康な感染に強い細菌をもらい、感染予防につなが
るという医学的な重要な意味もあります。
このカンガルーケアを行っている時には、お母さんは、まだお産の直後のため、ふつうは、赤ちゃんの
お世話を元気よく行うことができません。そのために病院の助産師などがしっかり見守る必要があります。
生まれてからすぐの赤ちゃんは、子宮の外の環境に適応する時期にあるため、呼吸も循環もまだ未熟で、
時に何らかのお手伝いが必要なことがあります。
長崎県のコウタロウくんは、2009 年 12 月 9 日 22 時 13 分に、妊娠・分娩の経過の順調なお母さんか
ら元気に生まれて、分娩台の横でお母さんと向き合う形で添い寝をしていました。その直後にコウタロウ
くんは動かなくなり、周りにいたスタッフ(助産師か看護師かも区別できない施設だった)に「動かない
んですけど大丈夫ですか?」
「腕も白く爪も紫色なんですが本当に 大丈夫なんですか?」と繰り返しきい
ても、
「大丈夫ですよ」といって、コウタロウくんをちゃんとみてくれませんでした。お父さんは、心配
しながらも、おばあちゃんに出産の報告の電話のために席を外していました。改めてもう一度スタッフを
呼ぼうとしたとき、ナースコールは自分の手に届くところになく、分娩室は無人状態で、数十分以上たっ
てスタッフが来たときには、コウタロウくんの呼吸は止まっていました。コウタロウくんは、心臓マッサ
ージをされ、酸素をもらいましたが、状態は改善せず、院長の産婦人科医はオロオロして 「救急車呼ん
だ!救急車呼んだ!」と言うだけで、十分な説明もされずに、救急搬送されました。コウタロウくんは、
その後も自分では呼吸ができず、人工呼吸器が必要となり、2011 年 2 月 15 日に 1 歳 2 か月で亡くなり
ました。
2.
「1 人飲み」のこと、新生児室の「施錠」のこと
日本の分娩施設には「新生児室」があります。赤ちゃんがずっとお母さんといっしょにいる母児同室の
場合は、産後すぐのからだで赤ちゃんのお世話を元気よく行うことは難しいことが多いので、助産師や看
護師がお手伝いしながら、赤ちゃんといっしょに過ごして、育児に慣れて行けるようにしていきます。他
に、授乳の時間だけ赤ちゃんといっしょにいて、それ以外は新生児室に預かる母児別室や、夜だけ新生児
室にあずかる場合もあります。
新生児室に赤ちゃんを預かる間、ふつうは、助産師か看護師が赤ちゃんの面倒をみますが、一人で 20
人近いお子さんをみることもあります。人手がないと赤ちゃんを抱っこすることも、哺乳させることもで
きません。人手がない場合、寝たまま、口に哺乳ビンを立てかけてのませる「一人飲み」をしていること
があります。これは、窒息や誤嚥の危険があり、行う場合には十分な注意が必要です。2008 年に新生児
医療連絡協議会が、全国 92 か所の NICU(新生児集中治療室)のある施設に1人飲みの調査をしたとこ
ろ、一人飲みを「度々行っている施設」と「時に行っている施設」の合計は、50 か所(54.4%)でした。
回復病床(GCU)では、看護師一人あたりの受け持ちが 9 人をこえる施設は全て一人飲みを行っていま
4
した。その中でトラブルを経験した施設は、20 施設(41.7%)で当時、死亡事例はなかったものの、イ
ンシデントは頻繁に行っている施設の方に多くみられ、事故の多くは呼吸状態の悪化、嘔吐、家族に指摘
されたなどが多く、中には嘔吐から人工呼吸管理になった例もありました。
人手の少ない中、例えば、お産で呼ばれると、生まれた直後の赤ちゃんのお世話があるので、新生児室
は「無人」となることがあります。赤ちゃんが盗まれないように、鍵をかけて分娩室に行くこともありま
す。もしその間に一人飲みしている赤ちゃんが窒息しかけていたり、生まれたばかりで呼吸の止まりやす
い赤ちゃんに何かあっても、しばらくはわかりません。赤ちゃんをお預かりすることは、すなわち「託児」
をになっていることになるはずですが赤ちゃん達への目が行き届いているとは言えません。2003 年には、
入院中の新生児が窒息で死亡したとして、当時の担当看護師が、注意義務違反で有罪判決を受けています。
看護師は事故当時、15 人前後の新生児を1人で看護していたといいます。看護師1人で 15 人もの新生児
を看護することは、やはり危険で困難なことだと思います。
0 歳児保育の人員配置が保育士 1:乳児 3 であることから考えても、
この状況をおかしいと思いませんか?
2.何が問題なのか?
1)生まれてすぐの赤ちゃんの特徴と対応
赤ちゃんのお世話には手間がかかります。丁寧に扱わないと事故が起こります。また、おかあさんは多
くの方は妊娠前と同じように動くことはできませんので、必ず誰かのサポートが要ります
そして、時に医療が必要なことがあります。これも、生まれてすぐの赤ちゃんの特徴を理解しておかな
いと、悪い方向に行くことがあります。例えば、蘇生については、大人の場合は、まず、呼吸よりも心臓
マッサージを積極的に行いますが、新生児を含む子どもの場合は呼吸が循環に影響を及ぼすため、まず、
呼吸を安定させることを優先します。循環も、生まれてすぐは胎外の状態に完全に移行していないことや、
生まれつきの心臓の病気が隠れていることもあり、これらを考慮して対応する必要があります。
「正常新
生児」とよく言われますが、
「正常」かどうかは結果であって、正常かどうかの判断や異常とならないよ
う予防したり、また、異常となった場合に正しい方法で対応するために、十分な人数とトレーニングを受
けた専門家の存在が必要になります
2)日本の「正常?新生児」の環境
日本の赤ちゃんは 99.8%が病院や診療所で生まれます。半数は診療所での出生です。
分娩の費用は「現金給付」と言って、定額のお金がその妊婦さんが加入する保険から「出産育児一時金」
という名称で支払われます。現在は産科医療保障制度の掛け金 3 万円を含んだ 42 万円が支払われていま
す。このお金は、本来、その妊婦さんが出産や育児のために自由に使えるお金ですが、多くの方はこの費
用の全額を分娩費用として、病院や診療所に支払っています。
また、正常分娩は、
「自由診療」なので、健康保険が適用にならず、全額自己負担です。自由診療でか
かる医療費は、患者と医療機関との間の取り決めによって、病院側が自由に決められます。医療法や医師
法に従うことが前提ですが、診察内容や費用については保険医療機関同様の規制がありません。
自由診療は、通常、
「健康保険が適用される治療も含め、すべて全額自己負担となる」のですが、分娩や
新生児は、異常の場合や、予防の部分には保険が適用されます。
そして、
「正常な妊産婦の新生児は母親の附属物」とされていることから、正期産新生児については、
制度の対象にすらなっていないため、日本の赤ちゃんは、赤ちゃんのための規制のない医療機関で生まれ、
管理されています。
3)自由診療の功罪
「保険適用にすると、医療の標準化により質が下がる。自由診療で正常分娩が行われているから、質の
高い医療が提供できている。
」という意見もあります。確かに、自由診療をよい方に展開すれば、多人数
の助産師や、小児科医、麻酔科医などを配置して、手厚い医療体制の中で正常分娩を行うことができ、そ
の対価を平均より高額の代金として支払うというケースもあります。某国立の地域周産期センターの正常
5
分娩は 70-80 万円ですが、このケースに該当します。一方で、よくない方に展開すれば、同じ 70-80 万
円の分娩費用で助産師が一人もいない施設でも、職員に一人も最新の新生児心肺蘇生法(NCPR)をでき
る人がいなくても、その設備がなくても医業は行えます。この場合、設備費、人件費は抑えられるので、
利益は上がります。
もともと自由診療の中で質の高い医療を行っている施設にとっては、保険適用は質が下がる、ことも予
測されますが、助産師を数多く雇用して手厚い医療を行っていたり、また、高次医療機関で重要な社会的
責務を負っている施設の公益性は高いため、診療内容を評価した上で、有効で適正な医療に加算される仕
組みが構築されれば質は維持できると考えます。特に高次医療機関では、すでにハイリスク妊娠・分娩加
算が適用されているものの、施設基準が満たされていないことで加算がとれなかったり、加算できても収
益が施設全体のものとなり、直接勤務する医療者に十分に還元されていない現状があることからも、正常
分娩を保険適用にすることで現状に見合った報酬が施設側にもたらされ、医療の質が維持か向上する可能
性も出てくると考えます。
もともと質が高くない施設にとっては、保険を適用することで、分娩や新生児に対する人員配置基準がで
きれば、病院の経営上の問題に起因した「手薄な人材による安上がりな医療」をせずに済む、ことが可能
になり、十分な人員配置の中で、
「人手がないから分娩第 1 期に看護師が付き添うか、誰も専門職が付き
添わない」や「人手がないから母児同室できない、同室しても十分な監視ができない」という問題がなく
なり、安全・安心なお産や、安全な母子接触及び母児同室が可能になると考えます。
また、現在、施設持ち出しで行われている新生児の搬送設備や蘇生の設備や資格認定なども、新生児に特
化した安全管理基準を施設要件に加えることで、診療上の安全が担保できると思います。
自由診療は、ガイドラインなど診療体系以外の部分での規制で質を上げることも可能だという考えもあり
ますが、社会的にも個人的にも「医療の中身を可視化する」ことについては、保険診療ほどには十分にで
きるとはいえません。保険診療にすることによって、可視化され、点数の誘導によって、あるべき姿に誘
導しやすくなります。特に、正期産新生児にとっては、これまで医療の明確な対象とされてこなかったた
め、対象とすることで多くの事故が予防できる可能性が高まります。
4)なぜ、助産師なのか?
産科医や新生児科医は数が少なく、全ての正常新生児を見ることはできません。
正常新生児では母親の近くでの継続的な観察こそが重要で、それができるのは助産師なのです。
5)日本も正常分娩への保険適用をやっていた
現在は「妊娠・出産は病気ではない」という理由から、正常分娩には保険が適用されないと言われてい
ます。しかし、そもそも健康保険法が始まった当時、分娩は、病気やけがと同様に「予見不可能性のある
保険事故」として病気と同じように保険適用されていました。分娩給付は、母体の健康保護を目的とした
保険事故としての給付対象なのです。また、戦前の 1932-1942 年の間は、
「保険産婆」を指定することに
よって分娩は現物給付となっていました。そのため「妊娠・出産は病気ではない」から保険が適用できな
いということはありません。実際に、先進国において日本のような社会保険制度を持っている他の国でも、
病気ではないので保険適用されないという説明はされません。そのため、それが必要であるならば「正常
分娩に現物給付の保険適用をすること」は適切であると思われます。
6)まとめ
制度を変更することは、多大なエネルギーを必要とすることです。長年、自由診療の現金給付で行って
きた正常分娩にまつわる種々の問題を解決するには、既存の制度や、全く違う新しい制度設計で問題を解
決できる方法があるかもしれません。しかしながら、新生児が生まれる病院・診療所・助産所全ての分娩
取扱い施設全体の質の底上げを行い、効率化を測り、更に質の高い医療機関を増やすためには「現物給付
の保険適用」にすることが最適だと考えます。
6
目次
〇「政策提言書 ダイジェスト版」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
〇「政策提言書 本文」
◇政策提言要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・11
1.周産期医療の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
2.正期産新生児の現状と政策提言の背景
3.公的医療保険化の意義
1)一般的意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
2)妊娠・出産に公的医療保険を適用した場合のメリット・デメリット
(1)妊婦さんのメリット・デメリット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(2)保険給付の違い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
(3)診療形態の違いと分娩取扱い施設経営者のメリット・デメリット ・・・・・・・・・・・・・・・15
3)公的医療保険制度のある国の妊娠・出産関連費用負担などの比較
・・・・・・・・・・・・・・・19
4)資料
(1)-①助産師の適正配置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
-②助産師の採用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
(2)
「助産師の分娩取扱い施設への配置」の義務化について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(3)新生児を一患者として扱うこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
(4)妊婦さんの思い、市民の思い
○費用負担の実際と地域間・施設間格差・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
(5)少子化対策と出産育児医療無償化
(6)助産所という産む場所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
4.正常分娩における給付の経緯と新しい制度設計
1)問題提起 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
2)現金給付の問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
3)医療機関側に係る問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
4)過去の状況を踏まえた未来への意見提示
(1)これまでの出産への給付 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
(2)現物給付に対する日本産婦人科医会の意見 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
(3)日本も正常分娩への保険適用をやっていた ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
(4)ILOの定め ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
(5)周産期医療関係者以外の意見 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
5)現金給付から現物給付へ
(1)諸問題の解消と望ましい環境へ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
(2)公的医療保険による出産給付した場合の費用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
6)本章のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
7)資料
5.なぜ正期産新生児を公的医療保険化するのか?
1)妊婦健診・分娩は 99%が医療機関で実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
2)実態は自由診療と保険診療の組み合わせ
(1)妊婦健診 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
(2)分娩
3)
「妊娠・出産は病気ではない」から公的医療保険の適用にならない、といわれるが、
「医療は必要」
、
「
“正常妊産婦、正常新生児“というがそれは結果論」
(1)日本産婦人科医会発行「産婦人科診療ガイドライン」より ・・・・・・・・・・・・・・・・・36
7
(2)医療を必要とする妊産褥婦は増加傾向
①出産年齢の高齢化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
②合併症妊婦の増加 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
③社会的ハイリスク妊婦の増加 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
④DV 被害者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
(3)医療を必要とする胎児・新生児は増加傾向
①低出生体重児の増加 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
②先天異常児の増加 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
③早期新生児の死亡数は今も昔も生後 3 日間に集中 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
④NCPR(新生児心肺蘇生法) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
(4)未受診妊婦の問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
~今の時代にもし、医療なしで妊娠・出産すると「周産期死亡率は 19.7、40 年前の状態」~
4)適切な医療が行われていれば防ぎ得た死、障害がある事実
(1)妊産婦死亡、母体救急 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
〈緊急帝王切開〉
〈輸血準備〉
(2)早期新生児死亡 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
(3)新生児の管理
①正期産新生児の管理における人員配置とその内容
~日本の赤ちゃんは誰がみているのか?~
a.助産師・看護師 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
b.医師 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
〈産婦人科医〉
〈新生児科医・小児科医〉
c.保育士・医療保育士
②「不適切な」早期母子接触 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48
〈
「早期母子接触」と母子分離、母子関係構築の臨界期〉
③「1 人飲み」
・産科病棟新生児室の「施錠」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・50
④脳性麻痺患者数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
⑤産科医療保障制度 原因分析・再発防止委員会報告書より ・・・・・・・・・・・・・・・・・51
⑥正期産新生児の管理上の問題に起因した医療事故 ~裁判事例より検証~・・・・・・・・・・・55
⑦産科混合病棟と新生児のMRSA感染・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
⑧胎児期の診断 ~超音波検査~ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
5)本章のまとめ
6.公的医療保険化以外の方法での対策は不可能か? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
1)税金での対策(財源供給方法)
2)実態調査(可視化の方法)
3)ガイドライン(規制の方法)
7.海外の新生児を取り巻く環境整備状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
8.海外から日本の周産期医療への勧告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
9.公的医療保険下での「安全で満足な妊娠出産」と「質の高い正期産新生児への医療」のための
度設計(グランドデザイン) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
1)
「安全で満足な妊娠出産ケア」
2)
「安全で満足な妊娠出産ケア」と医療介入による公的医療保険上の経済的不整合・・・・・・・・・61
3)公的医療保険下での「安全で満足な妊娠出産」と「質の高い正期産新生児への医療」
のための包括的制度設計
8
4)新生児からの社会保障番号制度(マイナンバー制度)と「子ども家庭省」の創設・・・・・・・・・62
5)本章のまとめ
10.公的医療保険化する時の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
人材確保 ~助産師の継続就業~
11.地域包括周産期医療・母子保健モデルからみた「産科医療」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・65
12.推奨施策【巻末資料】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13.政策提言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69
14.考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70
15.まとめ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70
謝辞
巻末資料
引用・参考文献/サイト
9
「政策提言書 本文」
10
提言書要旨
「子どもの人権擁護の立場に立った周産期医療モデル:正期産新生児の医療を公的医療保険化する」
周産期医療チーム
[目的]
「正期産新生児に対するケア(あるいは管理)の量的・質的不足」により、正期産新生児に対する事故
が発生していると考えた。正期産新生児に対しては、現在の医療制度では、正期産新生児は「母親の附属
物」としての位置づけであり、①「当然行われるべき最低限の管理すらされていない」
、②「質の高いケ
ア・管理を実施する医療機関が限られている」ことが問題であると考え、正期産新生児が一人の人として
扱われ、適正な医療が提供されるためには、
「正常分娩及び正期産新生児の医療を公的医療保険化するこ
と」が最適の方法であると考え、政策提言することとした。
[検討内容]
・ 正常分娩は、長年、自由診療・現金給付で行われてきており、
「妊娠・出産は病気ではないため保険
適用できない」とされてきた。公的医療保険を適用するにあたり、その意義を検討するため、まず、保
険診療・現物給付になった場合の、妊産婦及び新生児のメリット・デメリット、更に経営者のメリット・
デメリットを検証した。次に他、先進国で公的医療保険を妊娠・出産に適用している国の制度を比較検
証した。更に、妊娠・出産を公的医療保険化することへの市民の意見を検証した。
・ 現在の妊産婦、新生児を取り巻く現状と過去の給付方法の検証などを踏まえ、公的医療保険を適用し
た場合の制度設計を検討、提示した。
・ 公的医療保険とする意義について、改めて正期産新生児に焦点を当て、新生児自身と新生児を取り巻
く環境として、母親である妊産婦、医療従事者における諸問題を検証した。
・ 国内の既存の制度を公的医療保険と比較し、正期産新生児における医療上の問題の解決の寄与の程度
について検証した。
・ 海外の新生児を取り巻く医療環境の整備状況について検証した。
・ 妊娠・出産及び正期産新生児に公的医療保険が適用された場合の包括的制度設計として、推奨施策を
提示し、補完する制度を挙げ、グランドデザインとして提示した。
・ 地域における産科医療機関の位置づけを検証するため、厚労省の「妊娠・出産包括支援モデル事業」
の対象自治体に向けてアンケートを実施し、その回答内容を掲載した。
[結果と政策提言]
国内では、戦後、正常分娩は自由診療・現金給付で実施されてきたが、他、先進国では公的医療保険適
用にし、更に妊娠・出産にかかる費用を無料化していた。また。日本でも戦前は、正常分娩に保険適用し
ていた時期もあり、
「妊娠・出産は病気ではないため保険適用できない」という理由は成り立たず、正常
分娩に保険適用することは妥当であることが確認できた。
正期産新生児を取り巻く多くの問題を解決するにあたり、自由診療下では実態が不明確で、保険診療同
様の規制は困難であり、医療の実態を可視化し、点数によりあるべき姿に誘導して、質の向上と効率化を
図るためには、公的医療保険化することが最適であることが確認できた。
国内では未整備の正常分娩や新生児のためのガイドラインや制度が、海外では整備、運用されているこ
とが確認できた。
アンケート結果からは、
自治体では、地域で安心して子どもを産み、育てられる環境を整備するために、
周産期医療機関も含めた切れ目ない支援を提供できるよう「妊娠・出産包括支援事業モデル」が運営され
ていた。
11
◇行政への提言
1)出産育児一時金を廃止し、正常分娩及び正期産新生児を公的医療保険化して、現物給付とする
公的医療保険化する際に、正期産新生児の標準的な医療の指標を「推奨施策」を参考に検討する。
2)公的医療保険化のための準備
標準的な医療の内容を検討するにあたり、公正・中立な視点で「ガイドライン」を作成する。
3)公的医療保険化の評価
正確な実態をもとに客観性のあるデータに基づいた医療の評価と改善策が実行される仕組みを構築
する。
4)その地域での分娩取扱い施設のあるべき姿を目指す
ハイリスクに限らず、全ての分娩取扱い施設が地域で「安全・安心なお産ができる役割を担う機能」
が果たせるよう、地域内で医療や施設を評価、支援できる医療整備計画を検討、実行する。次期周産
期医療整備計画では、その対象を正常新生児とハイリスク新生児を分けず、連続的な存在として策定
する。
1.周産期医療の現状
戦前、日本の出産は自宅で行われることが通常であった。当時は、栄養及び衛生状態といった社会的
環境の悪さとも相まって、多くの女性や子どもがお産の周辺で命を落としていた。2012 年に 4.0 の周
産期死亡率(出生 1,000 対、妊娠 22 週以後の死産と早期新生児(生後 1 週未満の新生児)死亡率)は、
国内で最も古い統計値の 1979 年では 21.6 であり、それ以前は更に高かったと思われる。
戦後、GHQ の指揮のもと 1960 年代から施設分娩への移行が国家主導で全国的に促進され、1980 年
代に施設分娩への移行が完了し、現在、日本のお産は 99.8%が病院・診療所、0.2%が助産所などで行
われ、医療機関で出産することが通常となっている。
近年の施策状況としては、出産年齢の高齢化や低出生体重児の増加など対象者のリスクの上昇や医療
の高度化が進む中で、1996年の「周産期医療対策整備事業」によって、高度な医療を提供する総合・地
域周産期医療センターが各地域に整備された。その後も、産科医療をめぐる訴訟の増加、周産期医療従
事者の深刻な不足等、さまざまな課題が山積する中、奈良県、福島県(2006年)や東京都(2008年) に
おける母体死亡事例が相次いで発生した。これを機に、2009年からは、各地で安全かつ迅速な連携・搬
送体制が十分に整備されるべく、情報システムの整備や妊婦健診の公費助成などの施策が進められた。
同じく2009年からは、「産科医療補償制度」として、分娩に関連して発生した脳性麻痺児に対する補償
と、発症事例の原因分析と再発防止に取り組む全国的な仕組みが創設された。これは、紛争の防止と産
科医療の質の向上を同時に目指すものである。
周産期医療全体の質の向上を図り、ハイリスク患者の支援体制を整備することで、疫学的指標上、国
際的にも高い水準の周産期医療が整備できたと考えられる。
2.正期産新生児の現状と政策提言の背景
新生児とは、生後28日未満の子どものことであり、正期産新生児とは、妊娠37週0日から41週6日の
間に出生した新生児を指す。
正期産新生児については、医療上及び制度上も医療環境の整備対象とならず、制度上の不備による障
害や死亡事例が発生している事実がある。私たちは、この背景に、
「正常妊産婦の新生児は母親の附属
物である」という制度上の正期産新生児の位置づけと、長年、現金給付・自由診療で行われてきた産科
医療の制度上の問題があると考えた。そこで、
「正期産新生児を公的医療保険化する」ことにより、全
ての正期産新生児が、どの地域でどんな環境で生まれても、質の高い医療が提供されると考え、政策提
言を行うこととした。
12
*「新生児は母親の附属物」という位置づけ
http://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/MEMBERS/TANPA/H14/020916.htm
《今回の政策提言の理念》
「赤ちゃんは環境を選べません」
・子どもは生まれるときから(母親の附属物としではなく)一人の人として尊重される。
・日本の子どもたちは、環境の状態によらず、親の状態に関わらず、質の高い周産期医療を
享受し、幸せな人生のスタートを切ることができる。
・子どもの未来は、日本の未来であり、社会全体で責任を持って支援していくものである。
・子どもは家族(か、それに替わる方)と共にいられる権利を持つ。
3.公的医療保険化の意義
1)一般的意義
公的医療保険には、一般的に以下の意義があるとされている。
・効果が明確なものに投資し、実態のあるものに報酬加算できる。
(★無効なものは非加算【ペナルティ】
、有効なものに加算【報酬】してあるべき姿に誘導しやすい)
・保険外併用療養費
:一定の有効性・安全性が認められた高度医療や差額ベッド代などの自由診療部分について、限定
的に保険診み合わせを認めるもの
・点数を動かすことで、あるべき姿に誘導できる。
・報酬改定により社会的要請の内容を反映させ、医療の課題を解決できる。
(★医療安全及び感染防止対策を必須包含、新生児の管理においては最重要の問題を解決しやすい)
2)妊娠・出産に公的医療保険を適用した場合のメリット・デメリット
(1)妊婦さんのメリット・デメリット
正常な妊娠・出産及び新生児に公的医療保険を適用した場合、当事者である妊産婦さんや新生児に
はどんなメリット・デメリットがあるかを示す。
なお、分娩取扱い施設が保険医療機関である場合、保険医療機関全てに適用されている基準は履行
されているものとし、これまで適用されてこなかった正常な妊娠・出産及び新生児に特化して、新た
に保険適用された場合を想定して列挙するものとする。
13
【概説】表 1
正常な妊娠・出産及び新生児に公的医療保険が適用された場合の変化(メリット) ~妊産婦版~
給付方法
診療形態
現在
原則全額自己負担
現金給付:妊婦健診費用公費助成
出産育児一時金
自由診療
・施設要件なし
・料金設定は施設の任意
・医療内容は施設の任意
(メリット)入院環境を豪華にしたり、最新の分娩台や
人員配置
公的医療保険適用
現物給付:自己負担分のみ支払い
*健診費用公費助成は継続
保険診療
・保険医療機関の施設要件あり
・監査あり
・診療報酬点数による料金設定の標準化
・診療報酬明細書
超音波器械などによる医療を受けられる
(*そのコストは健診・分娩費用に計上される)
〈デメリット〉
受けた医療の内容が不明確、その料金設定も
施設や自治体により異なり、不公平感がある
〈メリット〉
標準化された適正な医療内容を受ける
自分の受けた医療の内容がわかる
〈デメリット〉
豪華なアメニティやサービスがなくなる可能性
がある
人員配置基準なし
助産師の配置の義務付けなし
人員配置基準あり
★助産師の配置義務
〈 メリット〉助産師がより多く配置される(*その人件費分
は分娩費用に計上される)
〈デメリット〉助産師がいない施設での管理となる場合も
ある、助産師の有無が不明
〈メリット〉
どの施設でも助産師による健診、分娩やケアを
受けることができる(コストの上乗せなし)
医療費が安くなる
★新生児を一患者として算入した看護加算
〈メリット〉我が子に適正な医療やケアが提供される
医療安全管理基準
なし
あり
〈デメリット〉事故の可能性が高まる
事故発生時に適切な対応がされない
可能性がある
〈メリット〉事故の可能性が低くなる
事故発生時の対応が適切で、安心と安全が
担保される
感染防止対策管理基準 なし
あり
〈デメリット〉感染の可能性が高まる
感染症に対し、適切な対応がされない
可能性がある
〈メリット〉感染の可能性が低くなる
感染症に対し、適切な対応がなされ、重症化
を予防できる
表中の公的医療保険化した場合の「デメリット」への対応は、
「安全で満足な妊娠・出産」には快適性
の保障も重要であるとされていて、施設の環境が妊産婦さんにとって、安心で快適な環境となるための標
準的なデザインの指針とこれを保障する「保険外併用療養費」として「選定療養」の一つに盛り込まれれ
ば、デメリットは解消される可能性はあると考える。サービスについては、産後の回復を支援する施策と
して、国際的には、産後の助産師の訪問によるアロマセラピー(スウェーデン)や理学療法士の訪問によ
る骨盤ケア(フランス、ベルギー)が公費無料で受けられる制度がある。
(2)保険給付の違い
改めて、
「現物給付(医療給付)と現金給付(所得保障)の違い」について示す。
(
「公衆衛生がみえる」メディック・メディア 2015 年より)
14
(3)診療形態の違いと分娩取扱い施設経営者のメリット・デメリット
施設分娩に移行してもなお、妊娠出産にまつわる医療が公的医療保険化されない理由の一つに、経営
者(この場合、主として開業産婦人科医)の意向がある。公的医療保険化された場合に予測される経営
者としてのデメリットを下記のように考えた。産科医療が真に利用者である妊産婦、新生児のための公
益性の高い医療となるためには、公的医療保険化は必須であるが、経営者としての各々の事情・意向は
あるものの、これらの不安などを払拭し、経営者も守られた環境で医療にあたれる必要がある。
15
表2
【概説】
正常な妊娠・出産及び新生児に公的医療保険が適用された場合の変化(メリット・デメリット) ~経営者版~
給付方法
診療形態
現在
原則全額自己負担
現金給付:妊婦健診費用公費助成
出産育児一時金
自由診療
・施設要件なし
・料金設定は施設の任意
・医療内容は施設の任意
公的医療保険適用
現物給付:自己負担分のみ支払い
健診費用公費助成は継続
保険診療
・保険医療機関の施設要件あり
・監査あり
・診療報酬点数による料金設定の標準化
・診療報酬明細書
〈メリット〉
医療介入の多い診療内容にすれば、利益が上がる
人員配置
人員配置基準なし
助産師の配置の義務付けなし
人員配置基準あり
★助産師の配置義務
〈メリット〉 (例:一般産科クリニックなど)
・助産師を雇用せず、看護師採用で人件費を抑制して
〈メリット〉
助産師を雇用することで医療の質が向上し、妊産婦の
満足度が高まり、収入が増加
収益を上げる
(例:高次医療機関など)
〈デメリット〉
・特に分娩件数の少ない施設は、助産師による
・小児科医、麻酔科医などを雇用し、助産師を数多く雇用 医療介入の少ない分娩などにより保険収入が減少
し、その費用を計上し、収益を上げる
・既存の医療内容の方が標準医療内容の基準よりも
高いことにより、医療の質が下がる
★新生児を一患者として算入した看護加算
〈メリット〉新生児の事故予防適や適正な医療を実施
〈デメリット〉助産師・看護師が集まらないために
保険医療機関の認定がとれない
医療安全管理基準
なし:
あり:
〈メリット〉対策がなくても収益はある
〈メリット〉必要経費が支払われる
〈デメリット〉必要コストは施設の持ち出し
(全額施設持ち出しでなくなる)
〈デメリット〉これまで対策不十分だった施設は、
初期投資(設備・研修など)にある程度の費用
感染防止対策管理基準 なし:
あり:
〈メリット〉対策がなくても収益はある
〈デメリット〉必要コストは施設の持ち出し
〈メリット〉必要経費が支払われる
(全額施設持ち出しでなくなる)
〈デメリット〉これまで対策不十分だった施設は、
初期投資(設備・研修など)にある程度の費用
【詳説】
自由診療
:健康保険が適用にならず、全額自己負担になる治療で、本来健康保険が適用される治療も含め、すべて
全額自己負担となる。自由診療でかかる医療費は、患者と医療機関との間の取り決めによって、病院側
が自由に決められる。医療法や医師法に従うことが前提だが、診察内容や費用については保険医療機関
同様の規制がない。通常、先進医療や健康上の理由以外で行われる美容整形については自由診療になる
ことが多い。
〈一般的なメリット〉
(経営者は)利益を上げやすい。また金額に見合った治療環境や医療技術を提供するため、一般的に医療
16
の質が高まることが予想される。また自由診療は医師から自分に合った治療法を提案されたり、自分の納
得のいく治療を受けることができる。各個人の体質や病気の状態に合わせたきめ細かい診療は保険診療で
は難しいが、自由診療なら可能である。
産科医療の場合
(経営者のメリット)
医療介入の多い診療内容にすれば、利益が上がる。
安全管理や感染防止対策が不十分でも、利益は上がる(利益とは無関係)
。小児科医、麻酔科医、及び多
くの助産師の雇用による人件費、さらにアメニティや室料等をも分娩費用に計上し利益を上げることが
できる。
〈一般的なデメリット〉
医療格差がある。支払い能力により医療の内容・質が変わり、お金を持っていない人は自分の支払える
範囲の治療しか受けることができない。
産科医療の場合
(経営者のデメリット)
出産育児一時金の収入範囲で利益を上げるためには、人件費を抑制し助産師を雇用せず、替わりに看護
師・准看護師を雇用することもある。安全管理対策や感染防止対策を十分に行いたくても、その費用の
支出は施設の持ち出しになるため、経営を圧迫する。
保険診療
:健康保険が適用になる通常の治療のことで、通常自己負担は 3 割で高額療養費制度により、上限から超
えた部分は払い戻しが受けられる。
産科医療の場合
(経営者のメリット)
☆助産師の配置義務があれば、医療の質が上がる。妊産婦の満足度が上がり、収入増加が見込める。
☆新生児担当者の配置義務があれば、新生児の事故予防適や適正な医療が実施でき、経営者の安心と社
会的信頼度が高まる。安全管理対策や感染防止対策の費用が経費として支払われる(持ち出しにならな
い)
。
(経営者のデメリット)
助産師の配置義務があり、分娩数が少ない場合、医療の質は向上しても医療介入の減少により、収入が
減少し、経営上、減収になる(愛知県某産婦人科医院は、助産師を多く雇用し、自然分娩を追求するよう
になり、医療介入の多い分娩を実施していたときよりも保険収入は 10 分の1になった。助産師の手取り
収入は 20 万円未満で、助産師の定着も困難になりがち。助産院でも月当たりの分娩件数が少ないところ
は、同様の傾向がある)
。これまで、安全管理対策や感染防止対策を十分に行ってこなかった施設は、制
度が変更され、これらの対策を実施する場合、ある程度の初期投資が必要となる。
*ハイリスク分娩管理加算をとる医療機関があり、手厚い医療環境を整備しながら分娩を取り扱っている
施設への加算は制度上あるものの、施設要件を満たせない理由などから、該当施設の 10%程度のみが加
算取得できているという報告もある。
3)公的医療保険制度のある国の妊娠・出産関連費用負担などの比較
17
日本では、
「妊娠・出産は病気ではないため保険は適用できない。費用は自己負担」
「正常産婦の新生児
は母親の附属物」という考えに基づいて、妊娠・出産は現金給付、産科医療は自由診療となっている。
同じく、公的医療保険制度による医療を提供している国の妊娠・出産関連費用などはどのように運用さ
れているのかを示す。
18
表 3 医療保障制度:公的医療保険が中心の国の妊娠・出産関連費用負担などの比較
ドイツ
フランス
オランダ
スペイン
主な医療保
項目/国
国民皆保険制度
日本
疾病金庫(法的強制保険、
国民皆保険制度(公的保
2006 年から民間の保険会
スペインの社会保険制度
障
国民健康保険か社会保険
職域/地域別)と私的保険
険、償還制)と民間保険
社での皆保険制度(加入
(Seguridad Social) に
複数提供者制の社会保険
自由開業制
義務)
強制加入。公立病院で治
によるユニバーサルヘル
療費全額保険負担で治療
スケア、ドイツ連邦保健
を受ける(民間保険を併
省所管
用し、私立病院を利用す
保険の選択自由
る者も多い。民間保険会
国民皆保険
社と医療機関の直接決
ベルギー
社会保険
済)
。
主な財源
保険料
保険料
保険料
保険料
保険料
保険料
妊娠・出産
基本的に全額自己負担。
妊娠の診察費用から出産
産科医療はほとんどの費
民間の保険のため保険料
Seguridad Social(国の
かかる病院や地域などに
関連費用
健診は公費助成制度ある
する場合の入院費用まで
用が全額健康保険でカバ
も保証内容も異なるが、
社会保険)が適用されれば
もよるが、ベルギーの社
が、助成額の地域差あり、
全額保険でカバーされ、
ー。妊娠期間中の定期健
基本健康保
妊婦健診、出産費用は無
会保険に加入している場
自己負担あり。出産は、
無料。産後 2 か月まで助
診、各種検査などはもち
(Basispakket)の内容
料。私立病院の場合、全
合、健診費用がおよそ 20
各保険機関からの「出産
産師のケアが受けられる
ろん、出産費用も一般的
は法で規定されており,
額自己負担だが、民間保
ユーロ/回(ドクターに
育児一時金」による現金
が、これも無料。加入し
には無料。入院待遇がか
妊娠出産はどの保険会社
険会社の保険適用可能。
より異なる)
、分娩・入院
給付制度があるが、地
ている保険会社によって
なりよい私立病院で出産
に加入しても基本的には
費用が 600 ユーロ前後と
域・施設間格差あり、自
カバーされる内容が異な
すれば、入院費は多少払
無料、というのは同じ。
日本に比べかなり安価。
(
己負担分あり。
り、母親学級の参加費用
うことになるが、ここで
クラムソルグ(産褥期訪
2010 年時点、H. Hart 病
出産費用は、最高額は東
をカバーする保険会社も
も出産費用は無料。一般
問看護士)は公定料金で、
院@Leuven) 私立の病
京都 586,146 円、最低額
ある。
的な病院であれば、出産
一部は自己負担。
(2011
院との費用の差はかなり
費も入院費も無料。
年で 41.96 ユーロ(5,689 円)
大きい。
は鳥取県 399,501 円
/時間、自己負担は 3.9 ユー
(2012 年厚労省)。
ロ(528 円)/時間)
。
分娩場所
病院・診療所が 99.8%。
ヘパムという助産師兼保
帝王切開を除き、97%が
30%自宅、60%が病院(産
妊娠管理は、地域の総合
自然分娩、無痛分娩があ
健診から出産まで同一機
健師がお産を一手に引き
無痛分娩。
後 6 時間で退院)
、10%
診療所の産科医、妊娠出
るが、約 7 割の出産が無
正常分娩
関での管理が基本。助産
受ける。お産の専門家は
助産院でのお産も増加傾
がホームドクターで出
産教室も地域総合診療所
痛分娩。陣痛開始後に意
取扱い者
院での出産もある。
助産師である。産婦人科
向(約 5%)
。
産。自然な分娩をサポー
の助産婦、出産は 4,5 ぐ
思表示する(分娩経過に
産科医療は自由診療であ
医は何か異常があった場
トし てくれる助産師が
らいの市町村毎にある総
よっては無痛分娩が選択
り、分娩介助は、助産師
合の存在で、順調であれ
主体となり、産褥ケアも
合病院で、というのが普
不可となる)
。分娩は立ち
か医師だが、分娩第 1 期、
ば予定日近くになってド
徹底している。クラムソ
通。これは国の健康保険
会いも可能。約 5 日間の
産後は看護師のこともあ
クターから助産師のリス
ルグによる産褥ケアは、
がカバーするシステム
入院で、母子同室が基本。
る。分娩取扱い施設に助
トを渡され、このうちの
国から最低 3 時間/日を 8
で、完全無料である。 健
看護師による育児指導母
産師がいるとは限らな
誰か一人を決めるシステ
日間受けることが義務づ
診、出産、産後の担当医
子同室が基本。退院前に
い。
ム。
けられている。
が全て異なる場合が多い
キネジセラピスト(理学
分娩の方針、母児同室・
が、
「セカンドオピニオ
療法士、K&G)によるエ
異室、母乳育児の方針な
ン」を聞ける事、
「判断の
クササイズ指導など。助
どは施設ごとに異なる。
基準が明確であること」
産師もいて、病院、助産
などが保障されている。
院、完全フリーなど所属
先はいろいろ。
合計特殊出生率
1.41
1.4
2.0
1.8
19
1.5
1.8
4)資料
(1)-①助産師の適正配置について
助産師の適正配置とは、日本看護協会の定義によれば「全ての妊産婦と新生児に望ましい助産ケアを提
供し、職員のワークライフバランスが保たれる人員配置」とされている。国内の助産師の適正配置基準は
まだない。石渡の報告によれば「分娩数に関わらず、助産師が必ず全ての勤務帯において 1 人いることと
すると、3 交代制の施設では週に延べ 21 人の助産師が必要。また、外来や休暇を考慮すると 1 分娩取扱
施設につき、6~8 人の助産師が必要となる。
助産所には、1 施設あたり助産師が 2 人必要。これを、医会の調査より分娩取扱施設 2,905 施設と、助
産所 722 施設に乗ずる。ただし、分娩件数が多い施設では、各勤務帯に複数人の助産師がいる場合も考
える必要がある。
」としている。
イギリスでは、助産師の配置は、リスク別に(産婦:助産師)
「超高 1:1.4、高 1:1.3、中 1:1.2、低 1:1」
である。また、オーストラリアの産褥入院中の助産師配置基準は、助産師1人:母子 3 組、か新生児のみ
なら、助産師 1:新生児 5-6 人である。
2009 年 8 月の日本産婦人科医会勤務医部会全国調査によれば、1 施設当たりの常勤助産師数は、総合
周産期センター(高リスク)で 30.7 人、地域周産期センター(高リスク)17.8 人、一般病床(中~低リ
スク)11.4 人、診療所(低リスク)推定 2.8 人であった。このうち、一般病床と有床診療所については、
ローリスク・正常分娩の取り扱い施設であるが、高度医療の提供体制に主眼が置かれている周産期医療体
制整備計画では、人員配置について具体的な整備指針がなく、十分な検討がなされていない。
また、日本医師会総合研究所が行った、病院 621 ヶ所、診療所 1,020 ヶ所を対象とした 2009 年の全国
調査によると「病院、診療所ともに助産師不足の施設は多い。日本産婦人科医会調査では、2005 年 12 月
現在、少なくとも 66.9%の病院と 81.0%の診療所で助産師の不足が生じていた。また、助産師充足率 30%
未満の医療機関 597 施設
(病院 48 施設、
診療所 549 施設)
で年間計 158,587 件
(内訳は病院 14,048 件、
診療所 144,539 件)もの分娩が行なわれている事実が判明しており、
(中略)新卒採用実績・予定および
募集に対する応募状況などをみても、助産師の確保が困難であることが明らかになっている。特に診療所
では求人に対する応募が芳しくない。
」としている。
「第 5 回産科医療保障制度 再発防止に関する報告書」からは、2009 年から 2014 年 12 月までに原因
分析報告書が公開された 534 件のうち、常勤助産師が 0 人の事例は 21 件であった。
就業場所別助産師数については、平成 20(2008 年)年→23(2011 年)年の順に、病院 14,053→16,142
人、診療所 4,118→4,551 人であり、計平成 20 年 18,171 人、平成 23 年 18,693 人増加傾向であるが、既
述の助産師充足率が改善されたかは不明である。茅島、島田の報告では、出生数 103 万人の 2012 年での
助産師の必要人数は、妊産婦と新生児のプライマリケアへの所要時間と助産師の実働時間を考慮すると 49,646
~52,373 人必要とされており、また、石渡の 2008 年の報告では、各勤務帯に 1 人の助産師がいる体制
の場合の助産師必要人数は 24,684 人であった。いずれの報告からも、実働助産師数は必要数に達してい
ない。
(1)-②助産師の採用
一方で、平塚の報告によれば「日本看護協会中央ナースセンターの調べによると、2004 年の助産師就
業斡旋において、有効求人数は 3,597 人であるのに対し、有効求職助産師数は 3,755 人と、求職助産師数
の数が上回っているが、診療所からの求人は 296 箇所に過ぎない。
日本医師会総合政策研究機構の調査 (病院:1232、診療所:1575) によると、2005 年の新卒助産師の採
用状況は、病院が 45.2%であるのに対し、診療所はわずかに 2.9%であり、2006 年度の採用予定がある施
設は、病院が 34.8%であるのに対し,診療所は 3.7%である。さらに、助産師募集をしていない診療所は
25.3%である。
全国の月平均分娩数が 30 以上の診療所の医師 30 名を対象とした調査では、
「助産師は必要か」という
問いに、絶対必要と回答した医師は 8 名に過ぎず「いたほうが良い」が 12 名、
「不要」 が 8 名である。
(中略)
20
これらの結果は、施設側が助産師の採用に消極的であることによって助産師の需要が低く見積もられる
可能性があることを示している。とくに助産師不足が問題視されている診療所は、積極的な助産師の採用
の方策を講じていず、看護師等による助産行為の問題は、助産師確保が困難であるという理由だけでは説
明しきれない。すなわち,施設側が看護師等に内診のみならず直接的な分娩介助を含む助産行為を行わせ
ることによって、助産師を積極的に採用しようとしない実態も推測される。医療法指定規則で定数が定ま
っていない助産師の需要は、各医療機関が助産師の採用をどのように考えるのか、助産行為を誰が担うの
かにかかっている。
」としている。
(2)
「助産師の分娩取扱い施設への配置」の義務化について
助産師による妊娠出産ケアは、医療介入が少なく、満足度も高く、費用対効果もあるとされている。産
科医療を病院・診療所で行う場合、自由診療であるために、国や自治体による施設に向けての規制や標準
化の強制はなく、診療の中身、人員配置など全て、そこの経営者である医師などによる「自由裁量」で決
定されている。分娩取扱い施設の人員配置基準は、現在は他の診療科と同じく医療法上の医師・看護師の
配置基準はあるが、助産師の配置基準はない。
公的医療保険化する場合、下記のような「保険医療機関としての施設要件」があり、その基準を満たさ
なければ医業は実施できない。保険医療機関としての指定申請手続きには、
「病院又は療養病床を有する
診療所にあっては、看護師、准看護師及び看護補助者のそれぞれの数を記載した書類」を提出することが
義務づけられている。ここに、新たに「分娩を取り扱う病院または診療所は、助産師の数を記載」と追加
指定されれば、制度上、全ての医療機関に助産師が配置されるようになる。診療報酬の対象になれば、看
護師についてはより手厚い体制に加算して誘導でき、新生児を一患者として算入した配置基準を実現する
ことができる。あるいは、助産師の配置基準を新設することで手厚い体制に誘導できる。その他安全管理
体制整備への加算もできる。
●医療法上の配置基準
○病院
医師:一般病床は患者 16 人に対し 1 人。療養病床は 48 対 1。
看護師・准看護師:3 対 1(病院で何人を雇用しているかの数字。診療報酬と同じ 24 時間 365 日体制で計
算すると 15 対 1 程度に相当)
○有床診療所
医師:1 人
看護師・準看護師 :4 対 1
21
●診療報酬上の配置基準
○病院(病棟)
医師:基準なし
看護師:
7 対 1 入院基本料 1,591 点
10 対 1
1,332 点
13 対 1
1,121 点
15 対 1
960 点
それ以下
584 点
いずれの区分でも、夜間は看護師 2 人以上必要。
3 人以上で加算あり。その他の安全管理体制の整備で加算あり。
○有床診療所
医師:基準なし
看護師: 入院基本料は 14 日以内まで(夜間の配置で加算あり)
7 人以上
861 点
4 人以上
770 点
1 人以上
568 点
(3)新生児を一患者として扱うこと
平成 26 年 4 月時点での診療報酬改定時の全国保険団体連合会の報告では、日本看護協会は、下記の通
り提言している。
「入院患者の数に新生児を含めるかどうかの扱いについて、入院基本料の届出に関する施設基準におい
ては、
「正常の妊産婦や健康な新生児又は乳児、人間ドックなどの保険外診療の患者で看護要員を保険診
療を担当する者と保険外診療を担当する者とに明確に区分できない場合の患者は入院患者数に含むこと」
とされています。一方でこの場合、仮に保険外診療と保険診療を担当する者を明確に区分できたとしたら、
入院患者数に含まないと考えてもよいという解釈も、関係団体の疑義で示されています。
」
自由診療、現金給付の産科医療においては、十分な人員配置や高度な医療環境で医業を経営することは、
質が高く、患者の満足度も高い医療が提供できると考えるが、
(出産育児一時金の範囲など)最低限に抑
えた場合、結果的に正常分娩でき、
新生児にも異常がなければ、医療提供体制に見合った収益が見込めず、
減収となる。これらは、地域の公的病院などで想定される実状である。現金給付のうちの産科医療保障制
度の掛け金 3 万円を差し引いた 39 万円のみで、月 10 件に満たない分娩を新生児に十分な人手をかけな
がら医療を行えば、加算のない自由診療では、経営は成り立たなくなる。ちなみに、国内での出産費用の
内訳で、入院料とは「妊婦にかかる室料、食事料」で、新生児管理保育料とは「新生児の管理、保育に要
した費用。新生児に係る検査、薬剤、処置、手当に要した相当費用を含める。
」である。平成 24 年の実
績は以下の通りであり、妊婦と新生児の管理の経費には公的病院で約 4 倍の差があり、附属物としての位
置づけが経費の差にも反映されていると考えられる。
22
表 4 産科施設別の平均的な出産費用 (厚労省保健局:
「出産育児一時金」の見直し 平成 26 年 7 月)
実は、厚生労働省は、1968 年に医療法施行規則の新生児に係わる看護職の人数について一部を改正す
る省令を公布していた。当時、厚生事務次官通知では、省令は「新生児らに関する事故がたびたび発生す
ること等にかんがみ」公布されたものだと説明されていた。この省令の中では、新生児を 1 人と算定する
よう求められており、医療法上の配置基準では新生児は 1 人と算定され、医療法の中に、健康な新生児の
存在を認めることとなった。しかしながら、診療報酬上は、新生児が病気の場合は算定されるが、病気で
ない場合は無関係で、実際は、健常な新生児は、
「収容」されているだけの立場にとどまった。
上記の医療法施行規則改正後、約 50 年が経過しているが、現在、十分な人員配置があるために高額の
分娩料を提示している施設もあるが、自由診療下では「月に何件の分娩があって、助産師・看護師が何人
いるのか」という人員配置の実態は、当該施設が自発的に公開されなければ不明である。更に、現時点で
は、新生児も一患者として人員配置して入院料を請求する仕組みがないため、実質、新生児の人員配置に
ついては、その施設の裁量であり、
「新生児を一患者とする」法的規制は機能していない。
公的医療保険化することで、分娩取扱い施設は「新生児を一患者として算入し、助産師・看護師を配置
すること」
「全ての分娩に助産師を配置すること」を規定し、加算されれば、新生児に担当助産師か看護
師が配置され、安全が担保され、ケアの質が高まると考える。
(4)妊婦さんの思い、市民の思い
実際に、当事者の妊婦さんや市民は、妊娠・出産の制度や費用に対しどのように考えているのかを示す。
①妊婦さんの思い
http://www.sakuranokai.org/article/410447591.html
2014 年 12 月の記事より
1. そもそも健康保険の対象外であること。
出産は母子ともに命に係わる一大イベントです。それにも関わらず、
「健康保険の対象外」というのは
23
どういうとでしょうか。苦しんでいる方もいらっしゃいますし一律に比較することはできないかもしれま
せんが、禁煙外来、メタボリックシンドロームといった、本人の生活習慣に起因することが大半である治
療にも、条件付きとはいえ保険が適用されます。それなのに、
「妊娠」は保険適用外なのです。この制度
そのものが日本の少子高齢化を助長している一因ではないか、経済的理由による中絶が多い理由は学費な
どの将来の子育て費用だけではなく、目下の出産費用負担も一因にあるのではないかと思うのは、考えす
ぎでしょうか?
2. 自治体によって、支払い回数や費用に差があること。
妊婦健診公費負担については、国から自治体に妊婦ひとりあたり約 12 万円が助成されているが、使い
道が自由な地方交付税として助成されていて、最終的な負担額は自治体の裁量で決められます。従って、
自治体によって、負担額が異なっているのです。都市部における出生率の低さについては、公費負担額以
外の要因が当然あり、必ずしも出生率と公費負担額との相関関係が実証できるわけではありませんが、そ
もそも同じ日本で生まれる日本人の赤ちゃんおよびその母親の健康を守るための検診の額に、
物価要因な
どではなく自治体の裁量で差があること自体が問題ではないでしょうか。
公費負担が少ない
(特に地方の)
自治体に住む低所得層の母親が、節約のために妊婦健診の回数を減らしたり、費用を理由にあまり設備の
整っていない病院に通ったり、体調が悪くても必要な措置を受けないで状態が悪化するなど、本来必要の
ないはずの負荷を母子が負っているということはないでしょうか。
(中略)出産で節約すると、命や長期
的な健康を害することがあります。だからこそ、出産については、とりわけ公的な助成を手厚くするのは
非常に大切だと思います。
そこで、一当事者としての意見ですが、例えば・・・
1. (中略)
2. 妊娠検査をはじめ、妊娠に関して必要な検査や治療、入院は国民保健(=公的医療保険)適用にする。
(中略)
高齢者や個人の生活習慣起因とする疾病に偏った社会保障政策の配分見直しなどで財源を確保。
3. 保険適用化の自己負担分や、医療関係以外の費用の助成を自治体の裁量で。
4. 2 人目、3 人目(特に 3 人目以降)に手厚い助成を行い、所得にかかわらず 3 人目を産みたいという
動機づけにつなげる。
とすれば、出産の際の負担感も軽減され、日本人が子供を産みやすくなるのではないでしょうか。
②乳児の母親の思い (30 代女性)
「私は昨年 10 月 1 日に帝王切開で男の子を出産しました。妊娠がわかってからこれといった大した問
題はなく、8 割方、正常分娩でいくでしょうと言われていました。予定日まであと 3 週間という妊
婦健診の日、体調はいたってよく、徒歩で一人で病院に行きました。病院に到着するといつものよう
に赤ちゃんの心拍をみるための器械をつけてもらい、横になっていました。ところが、しばらくして、
突然、看護師が慌てた様子で医師を呼びにいったのです。私は酸素マスクをつけられ、車椅子に乗せ
られ、医師にこう言われました。
「入院です。今日、できるだけ早いタイミングで帝王切開の手術をします」。私は『胎児ジストレス』
と診断されました。モニタリングでおなかの赤ちゃんの心拍の低下が見られたのです。その数時間後
に帝王切開で出産をしました。
今は母子ともに元気にしていますが、この時、妊娠や出産は、いつ医療が必要となる状態になって
もおかしくない、医療とは隣り合わせなのだということを身を持って実感しました。」
③一般女性の思い (20 代女性)
「女性は妊娠して初めて今まで考えもしなかった悩みに直面します。出産育児一時金の存在や自治体の
助成が存在しても経済的な不安は拭い去れません。そして、どこの医療機関、産院でも同じ条件でサ
ポートを受けることができると勝手に思い込んでいます。さらに高齢出産が当たり前になったといっ
24
ても過言ではない時代に、少子高齢化、子育て支援と叫ばれている中で、安心・安全なお産ができる
ことは絶対条件だと思います。」
*****************************************
○費用負担の実際と地域間・施設間格差
療養担当規則第 20 条第 7 項では、
「入院:単なる疲労回復、正常分べん又は通院の不便等のための入
院の指示は行わない」とされており、これが正常分娩に診療報酬が規定されない根拠となっている。しか
しながら、病院・診療所で入院基本料の給付を受ける場合、本来、診療報酬の対象とならない「正常妊産
婦・褥婦」も入院患者の数に入れた看護要員を配置し、
(例えば入院基本料 7 対 1 で)給付を受ける。ま
た、分娩費用は、公的医療保険の適用になっておらず、
「現金給付」であり、妊産婦は、各々の加入する
医療保険から支給される「出産育児一時金」を分娩費用に充当し、更に、施設ごとに異なる分娩費用の差
額を自己負担している。最終的には、基本となる分娩費用と予防や異常時に適用される医療保険の部分と
の合計額を産婦は負担している。
実際は、窓口では、
(分娩費用+医療保険分)から出産育児一時金を差し引いた差額を窓口負担してい
る。
表 5 一般的な分娩費用の負担区分
医療保険分
分娩費用:出産育児一時金と自己負担
【公的な分娩費用の内訳】
異常分娩(吸引、鉗子分娩など)
・入院料、室料差額、
・帝王切開鎮痛剤
・分娩料(正常分娩時)か分娩介助料(異常分娩時、
・投薬:貧血、鎮痛
医療保険適用)
・陣痛促進剤、子宮収縮剤
・産科医療保障制度掛け金
・新生児の異常;酸素投与
*以下の内容は、
「療養の給付」の対象となった場合、 ・保育器収容
含まれない(か医療保険の適用となる)
・投薬
;新生児管理保育料、検査・薬剤料、処置・手当料
分娩費用は、施設ごとでも居住自治体によっても金額は異なり、近隣の公立病院の出産費用の金額が基
準となり、また、分娩取扱い施設立地地域の所得水準に合わせて設定されることが多いが、基本的にはそ
の施設の「言い値」である。
2012 年の出産費用の平均は、厚労省の調査によると以下の通りであった。
公的病院 477,740 円
私的病院 502,748 円
診療所 481,738 円
都道府県別では、最高額は東京都 586,146 円、最低額は鳥取県 399,501 円であった。また、公費助成
が促進されてきた妊婦健診費用であるが、これも自己負担額は自治体によって格差が大きく、一位は岐阜
県の 118,042 円。最下位は神奈川県で 62,607 円。全国でも出生率の低い東京都や大阪府も下位に入って
いる。また、収入の比較的多い都市部が少ないとは必ずしも言い切れず、愛媛、山形など、地方に位置す
る県においても下位となっている事例もある。医療の実態を反映した差ではなく、自治体関係者の意向、
財政状況によって左右されていると思われる。
25
表6
□ 妊婦健診公費負担額ランキング
*************************************************
(5)少子化対策と出産費用無償化について
一般市民を対象とした「子ども、結婚、妊娠・出産に関するアンケート」
(医学書院と河合蘭氏の調査)
によると約 1,000 名の回答があり(回答者の約 1 割は男性、子どもがいない人は全体の約 4 割)
、
「最も
有効だと思う少子化対策」については、男女共に「出産育児医療費無償化」が 5 位までにランキングして
26
いた。
既述の日医総研 2009 年の報告でも、896 人の妊婦を対象とした調査からは、今後の産科医療に対する
意見の上位 2 点は「安心してお産ができるようにしてほしい(18.6% )
」
「費用が高い、安くしてほしい
(14.5%)
」であった。
出産にかかる経費は大きく分けると、妊娠期間中にかかる健診費用、マタニティ用品の費用、出産準備用
品の費用、出産費用などで、大体 50~100 万円ぐらいが必要とされている。そのうち、公費補助制度で
ある、
「出産育児一時金」
「出産手当金」
「高額療養費制度」
「高額医療費控除」
「傷病手当」や、個人加入
の保険などにより医療にまつわる経費で自己負担分はかなり軽減できるにも関わらず、男女共に出産育児
費の無償化を希望していることは、少子化対策を講じる中でも加味する意義は大きいと考える。
多くの国が、分娩費用を公費で助成し、無償化を図っているが、適正な医療が行われていることが前提
であり、正常分娩を助産師が行うことを標準化することや新生児を一個人として医療制度上で扱うことな
ど「完全無償化」にする議論の前に、国内外の状況を鑑みて検討する必要がある。
第 3 者の評価と、社会情勢に応じた制度変更、診療報酬明細書により市民に医療の実際が可視化される
こと、施設要件が必要なことなど、長年自由診療・現金給付の形をとってきた産科医療を適正に標準化し
て「安心して子どもを産み、育てる」公益性の高い内容にするためには、今後、多角的に制度設計をする
必要があるものの、国内の既存の制度においては正常分娩を公的医療保険化することにより、実現するこ
とが大いに期待できると考える。
(6)助産所という産む場所
日本では、全出生数の 0.2%ではあるが 8282 人もの赤ちゃんが助産所で生まれている。公的医療保険
化した場合、その存続は医療機関でないがゆえに危ぶまれるものであるが、以下の理由により存続可能で
あり、必要であると考える。
・貴重な産む場所:分娩取扱い施設が減少する中では、貴重な産む場所としての意義がある。
・自由診療での開業継続、若しくは助産所を保険適用機関とする:鍼灸院、接骨院などのように、自由
診療で開業している施設と同様に開業は継続可能と考える。更に、日本助産師会発行の開業ガイドライ
ン、事故報告制度、医療機関との連携機構が確立しているため、施設の標準化が図られている施設であ
る。過去には、助産師が保険産婆制度下で現物給付の対象となっていた経緯もあり、制度変更により保
険適用機関となることも可能であると考える。
・教育機関としての機能:現在、院内助産所、助産師外来は増加傾向であるが、独立性・自立性のある
27
助産師の活動を学ぶことは、国内では助産所で最適であると考えられ、実際、どこの助産師教育機関で
も助産所実習がある。
・地域の産後ケア事業の担い手:既に自治体から委託されている助産所も多くあるが、地域での産後ケア
事業を「ネウボラ」の一環として担う重要な機能がある。
【引用・参考資料】
・医総研ワーキングペーパー「産科医療の将来に向けた調査研究」
http://www.jmari.med.or.jp/download/WP141.pdf
・日本看護協会「平成 25 年度 安全・安心な出産環境の提供体制の推進に関する検討委員会報告書 」
http://www.nurse.or.jp/home/innaijyosan/pdf/2014/25anzen-hokoku.pdf
・厚生労働省保険局「出産育児一時金の見直しについて」
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihos
houtantou/0000050441.pdf
・平塚志保「助産師資格のない看護師等の内診が意味すること(第一報) 一助産師不足とその背景―
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/35413/1/hiratsuka-2.pdf
・
「男女アンケート何が少子化に効くか」プレジデントオンライン http://president.jp/articles/-/11912
4.正常分娩における給付の経緯と新しい制度設計
1)問題提起
現在の健康保険法による出産育児一時金、出産手当金による現金給付(定額金銭給付)により、
「出産」
を取り巻く
環境を次の 3 つの区分(
「健康保険法」
「医療機関」
、
「妊産婦」
)に分けて、どのような問題があるのか確
認する。
出産を取り巻く環境で区分した「健康保険法」
、
「医療機関」
、
「妊産婦」の抱える問題を解決するには、公
的医療保険(診療報酬点数化による現物給付)による妊娠・出産への給付をすることで、現在の問題を解
消していく方向に進むと考える。喫緊に見直す重要性の高い問題である。
2)現金給付の問題
「健康保険法」では、当初から「出産育児一時金」
(分娩費)の現金給付があり、それは 1922 年(大
正 11 年)から今日まで継続している。
確かに 1950 年までは家庭における出産は 9 割以上であり、60 年でも 5 割程度で医療機関での出産で
ない。その後も都市部、郡部の「出産の施設化」の進行が異なり、郡部においては、医師あるいは助産師
の介助なく、ほとんどが産婆資格のない取り上げ婆によって行われ、多くの出産は地縁、血縁にある近隣
の女性であり、相互扶助形態により自宅における出産が行われた。全国的に標準化できない状態であり、
現金給付が続いている。また、戦後はアメリカの社会保障調査団は、助産師制度がないことなどから、分
娩給付は「出生に要する諸費用を支払うため現金給付をする」と報告された。しかしながら、現在は 9
割を超える妊産婦は医療機関で出産していることを考慮すると、健康保険法の創成期及び戦後の混乱期に
比べると出産は標準化されており、公的医療保険制度の診療報酬点数化による現物給付ができる状態まで
環境が整っている。現状維持の慣性により、このまま現金給付を続けていくのは、現状の実態に合ってお
らず、制度を見直す必要があると考える。
3)医療機関側に係る問題
「医療機関」
(病院・診療所・助産所という施設)は、当然ながら医療機関は市場原理に基づき、利益を
得ようとする。過剰剰な医療や検査等に加え、入院施設の個室ベッドのサービス等のグレードやアメニテ
ィーグッズ充実等による医療機関の設定する値段で自由となっている。例えば、
「うちは 100 万円、理由
28
なし」という言い値である。まさに、出産を取り巻く環境(全国の医療機関)は価格差があり、料金体系
が安価な最低限の医療サービスをする場所もあり、多く医療機関は様々な状況である。
社会保険審議会医療保険部会によると都道府県別の正常分娩の出産費用 1が提示された、2012 年度の
実績で全国平均 48 万 6734 円、最高は東京都の 58 万 6146 円、最低は鳥取県の 39 万 9501 円で 20 万円
近い開きがあった状態である。社会保障審議会 2で武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は「東京と
鳥取の差は分娩料よりも室料のほうが東京は高いのではないか。東京で子供を産む場合には土地代も高い
し人件費も高いと思う。産んでも保育所がない。分娩費用も高い。東京だとなかなか産めない」と地域格
差について意見を述べている。
4)過去の状況を踏まえた未来への意見提示
(1)これまでの出産への給付
健康保険法が成立した背景には労働関係の改善策として制定させ、結果として「労働者の生活の不安を
除去し、労働者の健康保持・労働能力の増進」を図ったものである。その健康保険法で出産育児一時金(現
金給付)が出産に必要になる費用や出産前後の妊婦健康診査等の出産に要する費用の経済負担の軽減を図
るため支給されている。出産手当金は、出産により会社に勤務できず、報酬が受けられない場合、支給さ
れる給付金で妊産婦の経済的負担を低減している。
(2)現物給付に対する日本産婦人科医会の意見
日本産婦人科医会は現物給付となった場合、診療報酬点数が助産師レベルで統一される可能性が高いと
考え、
「診療報酬点数を下げることにより、質が落ちる」
、
「公的医療保険とすると現場が混乱する」
、
「分
娩管理の連続性」
、
「正常分娩は自然現象」と現物給付に反対 3している。
(3)日本も正常分娩への保険適用をやっていた
現在は「妊娠・出産は病気ではない」という理由から、正常分娩には保険が適用されないと言われてい
1
これらの数値は、正常分娩に係る、直接支払制度専用請求書を国民健康保険中央会において集計の。
第 74 回社会保障審議会医療保険部会議事録(2014 年 4 月 21 日)より抜粋
3
日本産婦人科医会の現物給付に係る対応について、大西香世「公的医療保険における出産給付-現金給
付をめぐる政治過程」大原社会問題研究所雑誌№663
2
29
る。しかし、そもそも健康保険法が始まった当時、分娩は、病気やけがと同様に「予見不可能性のある保
険事故」であるため、として病気と同じように保険適用されていた。分娩給付は、母体の健康保護を目的
とした保険事故として給付対象なのである。また、戦前の 1932-1942 年の間は、
「保険産婆」を指定する
ことによって分娩は現物給付となっていた。そのため「妊娠・出産は病気ではない」から保険が適用でき
ないということはない。実際に、先進国において日本のような社会保険制度を持っている他の国でも、病
気ではないので保険適用されないという説明はされない。そのため、それが必要であるならば「正常分娩
に現物給付の保険適用をすること」は適切であると思われる。
(4)ILO の定め
国際労働機構(ILO4)は、1952 年の母性保護条約で出産費用の現物給付により、母性保護を提唱して
おり、
「出産に対して現物給付であること」
、
「本人の費用負担を認めないこと」と定めている。日本はこ
の条件を満たしていない状態である。
(5)周産期医療関係者以外の意見
周産期医療関係者以外からは、出産費用の給付方法に関し、以下のような意見が出されている。
① 社会保障審議会委員の意見
社会保障審議会 5で武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は「このような少子化のときに 1.36 人
しか産まなければ、2100 年には人口 4,000 万人を割るという推計もありますので、これをこの出産育児
一時金を健康保険から払うのが適切なのか。政策的な医療がもはや必要になってくるのではないかと私は
思います。時期的に言うと健康保険で全て見るという時期ではないかなと素直に思います」と出産育児一
時金に疑問を感じ、健康保険で全て手当してはどうかと意見をしている。
② 連合(日本労働組合総連合会)の意見
連合は、
「政策・制度 要求と提言 2010~2011 年度」の中で、次世代育成・子育て支援に関する連合の
「要求と提言として、出産、子育てにかかる経済的負担を軽減するため、種々の政策提言を行っている。
その中には「子育て支援と、安心・安全な出産のため、妊娠・出産にかかる費用について健康保険の適用
とし、出産育児一時金は廃止する。診療報酬の設定等のため、現在の分娩方法や費用の検証を行う。
」と
いう内容が盛り込まれている。
http://www.jtuc-rengo.or.jp/kurashi/jisedai/youkyu_teigen.html
③ 社民党の意見
社民党は、2008 年の政策の中で「妊娠・分娩の健康保険適用と本人負担の無料化」を提言している。
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/other/081006_ubugoe_2.htm
5)現金給付から現物給付へ
(1)諸問題の解消と望ましい環境へ
これらの背景や問題提起にあげた諸問題を踏まえると、現金給付(出産育児一時金、出産手当金)はそ
の必要性をなくしている。
健康保険法の現金給付(出産育児一時金・出産一時金)を廃止し、代わりに出産を公的医療保険の現物
給付にする。なぜ、公的医療保険(診療報酬点数化による現物給付)による出産給付は有益と考えるのか。
現在の出産を取り巻く環境である 3 つの区分(
「健康保険法」
、
「医療機関」
、
「妊産婦」
)が抱える問題を解
消する方向に進むと考えるからである。
4
ヴェルサイユ条約に基づいて設置されたILOは、労働者の労働条件と生活水準を目的とする国連最初
の専門機関であり、各国に対して社会政策の制定実現を勧告した。労働者の労働条件と生活水準を目的と
する国連最初の専門機関。
5 第 74 回社会保障審議会医療保険部会議事録(2014 年 4 月 21 日)より抜粋
30
(図 1)現状の出産における給付の流れと諸問題
出産は「正常分娩は疾病ではない」とする考えから公的な医療保険とならないと言われている。しかし
ながら正常分娩と医療保険介入する処置と紙一重の違いであり、正常分娩であったという結果論的な状況
であること。また、継続して現金給付が行われているが、その必要性や役割は曖昧である。
1950 年代の家庭による出産は 9 割以上であり、その後も都市部と郡部の違いもあり、標準化されてい
ない出産処置を診療報酬点数で対応することは大変困難な状況であったことは理解できる。しかし、現在
においては施設内による出産が 100%近い状況であり、都市部と郡部の違いもない状態となった。妊娠・
出産にまつわる給付を現金給付から、実態に合う現物給付に変更できる良い機会となっている。
また、医療機関側のサービスは、診療報酬点数化による現物給付により標準化し、加えて、診療報酬点
数の高低をコントロールして、望ましい出産環境に誘導できると考える。公的医療保険(診療報酬点数化
による現物給付)による出産給付で、これまでの医療機関の出産費用の「100 万円です、理由はなし」と
いう言い値状況は減少し、費用やサービスも標準化していく。妊産婦も経済的理由による「未受診妊婦」
や「飛込み出産」等も一定数減少していき、併せて、医療機関のサービスも標準化していくため、妊産婦
の口コミなどによるの「どこの医療機関がどうだ」等の情報収集作業も減少していく。公的医療保険によ
る妊娠・出産への現物給付をした場合のイメージ図を以下に示す.
(図 2)見直し後の改善イメージ図
31
妊娠・出産、その後の育児には、育児用品の費用や、家族が増えることによる光熱費の増加など、妊婦
健診及び分娩費用以外にも多くの負担が生じる。仮に公的医療保険から現物給付は 7 割の負担とし、残り
の自己負担額(3 割分)どうしても妊産婦側で厳しい状況が残る場合は、
「障害者の日常生活及び社会生
活を総合的に支援するための法律」障害者自立支援法、障害者福祉予算と同じく、これらを参考にして自
治体負担について検討しても良い。
(2)公的医療保険(診療報酬点数化による現物給付)による出産給付した場合の費用
医療費も確認したい。現在の公的医療保険から支出する「出産育児一時金、出産手当金」については、
いずれも近年、伸びている状況 6である。
・出産育児一時金 1,087,407 人 455,122 百万円(平成 23 年度)
・出産手当金
216,898 人 92,935 百万円(平成 23 年度)
正常な妊娠、出産に必要な経費は約 58 万円 7であり、これに、安全性と快適性を確保するための費用
や健診等の費用を加算すると、正常な妊娠、出産、産褥までの経費は、約 69 万円必要 8である。前者の
場合7割の 40.6 万円は、当時の出産育児一時金 39 万円(産科料保障制度掛け金 3 万円を加算し実質 42
万円)によっておおよそカバーしていると指摘する。
【想定】
2012年
出生103万人
中林正雄「産科領域における安全対策に関する研究」の安全な妊娠・分娩のために必要な費用の報告」より
6)本章のまとめ
日本の公的医療保険は既に創成期ではなく、成熟期にあると考える。現物給付の出産給付や自治体の補
助等により、国際労働機構(ILO)の理念を公的医療保険に組み込み「出産は無料化」
、
「現物給付化」を
実現するべきと考える。
公的医療保険(診療報酬点数化による現物給付)による出産給付が実現できた場合、給付額の支出増加
6
厚生労働省HP「医療保険に関する基礎資料」各医療保険制度の事業状況報告、調査等を基に、各制度
の適用・収支・医療費等について、保険局調査課において取りまとめた資料。
7
中林正雄、佐藤仁「安全な妊娠・分娩のために必要な費用」
。
8
主任研究者中林正雄「産科領域における安全対策に関する研究」の安全な妊娠・分娩のために必要な費
用の報告
32
は大きな負担とはならない。
医療機関側は診療報酬点数により、提供するサービスの標準化と目指すべき技術・管理体制の誘導、都
道府県の格差が減少する。また、妊産婦側には自己負担額の軽減、医療事故の減少、経済差異による出産
機会の喪失予防等のメリットがある。これらの医療機関、妊産婦の抱える問題を解決する方向に進展させ
ることを考慮するとプラス面が大きい。
7)資料
図 3 若者の年齢階級別失業率の推移(1980・2000・2012 年) ~完全失業率の上昇~
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/00000361
79_1_1.pdf
1980(昭和 55)年と 2012(平成 24)年を比較する と、15~24 歳では 3.6%から 8.1%へ上昇、25
~34 歳では 2.2%から 5.5%へ上昇している。
33
図 4 年齢階級別非正規雇用比率の推移 ~非正規雇用の増加~
15~24 歳までの非正規雇用率は、1991(平成 3)年の 9.5%から 2010(平成 22)年には 30.4% と
大幅に上昇しており、雇用が不安定、賃金が低いなど様々な課題があり、非正規雇用の労働者の増加は、
所得格差の増大や生活不安の増大の一因となっている
【資料】
平成 22 年 厚生労働委員会議事録
:少子化対策、妊婦健診や出産に係る経済的負担の軽減、出産費用の公的医療保険適用 ほか
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009717420100331013.htm
5.なぜ正期産新生児を公的医療保険化するのか?
私たちが「正期産新生児を公的医療保険化する意義」は以下の 4 つである。
注)今回、政策提言の対象とした正期産新生児については、制度上「正常産婦の子どもである新生児は、そ
の母親の附属物である」という位置づけのため、正期産新生児を出産する「妊娠 37 週 0 日から 41 週 6 日まで
の分娩」を主とした、産科医療全般を調査・検討の対象としている。
1)妊婦健診・分娩は 99%が医療機関で実施
2)実態は自由診療と保険診療の組み合わせ
3)
「妊娠・出産は病気ではない」から公的医療保険の適用にならない、といわれるが、
「医療は必要」
、
「
“正常妊産婦、正常新生児“というが、それは結果論」
4)正期産新生児の医療環境の適正化には、給付方法を現物給付に変更し、PDCA サイクル
にのせることで実効性が図れる。
1)妊婦健診・分娩は 99%が医療機関で実施
2012 年時点で、日本の分娩の 99.8%は施設で行われており、99%は病院・診療所といった医療機関で
行われており、医療でカバーされているのが実態である。
34
2012 年の分娩取扱い施設数は 3482 ヶ所(病院 1077、診療所 1508、助産所 897)
。
表7
2)実態は自由診療と保険診療の組み合わせ
(1)妊婦健診
厚生労働省令「保険医療機関及び保険医療養担当規則」
(以下、療養担当規則)第 20 条「診療の具体
的方針」第 1 項では「診察:健康診断は、療養の給付の対象として行ってはならない」とされている。妊
婦の診察は、健康な妊婦全員に行うスクリーニング検査であり、健康診断にあたるとされ、基本的には自
己負担とされている。ただし、予防的検査・投薬は診療報酬適応となっており、胎児は診療報酬の対象外
となっているものの、国内の産科医療機関でほぼ毎回の妊婦健診で実施されている超音波検査や NST(ノン
ストレステスト:胎児心拍数モニタリング)は診療報酬の適応となっていて、診断の対象には、妊婦のス
クリーニングと共に、胎児スクリーニングは通常、必須項目として実施されている。
また、妊婦健診は、1969 年には低所得妊婦向けの公費助成が実施されており、1998 年の地方交付税
による健診 2 回の公費助成、2008 年の健診 5 回への助成拡充を経て、現在、14 回が公費助成され、2013
年からは国庫補助金から使途は自治体の自由である地方交付税措置となっている(妊婦一人あたり約 12
万円)
。公費助成がある一方で、助成の方法・金額には自治体格差があり、健診受診券(票)に助成の対
象となる項目が明記されていて、妊婦はその差額を窓口負担として支払っている。この窓口負担には、地
域格差、施設間格差がある(既述)
。
※妊娠・育児・出産サイト「ベビカム」の調査では、2008 年当時、妊婦健診の費用の平均値は通常時 4,684
円、最高額の平均値は 11,812 円。
妊婦健診は、
「自己負担分」の公費助成による保険外診療の部分、診療報酬による保険診療の「予防・
異常部分」
、施設の裁量による「自由診療部分」といった実態がある。公費助成の金額の自治体間格差と、
診療内容・費用の施設間格差があり、個人レベルでは、健診を受ける地域や施設によって受ける医療と負
担に差があることも実態となっている。
35
表 8 一般的な妊婦健診の負担区分
妊婦健診:公費分
医療保険自己負担分
(医師・助産師による診察・保健指導、
検査(血液検査など)
、超音波検
計測:子宮底・腹囲、尿検査、体重測定、 査、
浮腫の有無・程度)
NST など
自由診療分
(言い値)
(2)分娩
既述の通りの仕組みである。
3)
「妊娠・出産は病気ではない」から公的医療保険の適用にならない、といわれるが「医療は必要」
、
「
“正常妊産婦、正常新生児“というが、それは結果論」
(1)日本産婦人科医会(=日産婦)発行「産婦人科診療ガイドライン 2011 前文」より
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2011.pdf
産科の特徴は、一見健康と思われる妊婦に、母児の声明を危うくするような合併症が妊娠週数依存性に、
ある一定の確率で起こることである。従って、産科診療では、全妊婦を対象として、一連の適切な検査法
によるスクリーニングを行い、種々の異常を発見した場合、適切に対応することが重要視される。
(2)医療を必要とする妊産褥婦は増加傾向
①出産年齢の高齢化
第 1 子出産年齢の平均値は、1975 年に 25.7 歳であったのが、2012 年には 30.3 歳となっていて、30
代以後の出産が増加し、40 歳代以後も増加傾向となっている(図 5)
。
日本の妊産婦死亡率が欧米並みになったのが 1990 年代とされていて、徐々に改善されてきてはいるも
のの、2011 年で 4.0 であり、世界最高水準ではなく、改善の余地があるとされている(図 6)
。また、年
齢調整した妊産婦死亡率では、年齢が上がるにつれ死亡率は上昇している。
【巻末資料】
日本産婦人科学会では「35 歳以上の初産婦を高年初産婦とする」と定義づけている。経産婦も含め、
一般的に高齢妊娠は、児の染色体異常の増加、母体合併症(糖尿病、妊娠高血圧症候群など)や分娩障害
(頸管熟化不全、軟産道強靭、微弱陣痛など)の増加により帝王切開率、周産期死亡率も上昇し、ハイリ
スク妊娠として、より手厚い医療により予防的介入と対応が必要とされている。
*出産年齢の高齢化は、他、先進国でも同様の傾向のある国もあるが、その中にあっても合計特殊出生
率を回復している国もある。
【巻末資料】
36
図 5 平均初婚年齢と母親の平均出生時年齢の年次推移(年区分間隔が時間経緯通り)(-2012 年)(再録)
(サイト:http://www.garbagenews.net/archives/2013446.html より
図6
②合併症妊婦の増加
【子宮筋腫】
非妊時 20-40 才代女性の 3-4 人に 1 人に子宮筋腫があるとされており、妊娠初期の 10.7%が合併し、
妊婦健診で判明することもある。
37
【早産:妊娠 22~37 週未満の出生】
年代を追うごとに出生妊娠週数のピークが早まっており、35 週を境に増加がとまっている。2005 年以
後 2012 年まで早産率(全出生数に占める早産の割合)は一貫して 5.7 であり、医療の進歩による救命率
の向上の一方で、母体・胎児要因による早産が増加していることを意味しており、その成因となるものに
高齢妊娠による合併症も含まれる。
【精神疾患】
a.近年、精神疾患患者の妊娠の機会が増加しており、その背景には以下の要因があると言われている。
・精神科医療における長期入院の減少と地域サポートの増加
・非定型抗精神病薬使用による高プロラクチン血症の改善
・体外受精などの生殖医療による不妊治療の適応の拡大
・若年女性の精神科受診率の上昇によりこれまで精神疾患という診断がなされなかった神経症圏や軽
症うつの女性が精神科を受診し、精神疾患合併妊婦とみなされる。
b.他、最近の傾向とリスクとして以下の事象がある。
・不安障害の好発年齢は挙児希望年齢と相同。パニック障害の多くは 20 歳台から 30 歳台前半まで
に始まり、女性に多い。女性の脅迫障害も 20 歳台に好発。
・気分障害の罹患女性の半数以上は、妊娠・出産期に症状の悪化・再燃・再発を経験する。このこと
が早産、発育不全、低出生体重児をはじめとする身体的リスクを上昇させ、母児双方の心身に悪影
響をもたらし、母子関係の悪化や、子どもの発達へも影響する。
・統合失調症患者の脱施設化、社会参加の促進、第二世代抗精神病薬の登場などにより妊娠する機会
が増加。
c.産後うつ
10-15%の妊産婦は妊娠期や産褥期特有のうつ病に罹患する。日本では、母親の 10.3%が産後うつ病
である。
d.知的障害の女性の妊娠
知的障害の女性が妊娠・出産されることもあり、妊娠期から産後も長期に渡り、医療と福祉の連携が
必要である。
上記全ての女性が、診療所レベルの医療機関でも対応されており、自主申告されなければ既往歴から
の要支援にならないこともあり、ノーリスクでも妊娠・出産を契機に発症することもあり、妊娠期から
産褥期まで一貫して潜在的ハイリスクとして全妊産婦を対象に支援する必要がある。また、精神疾患合
併女性の妊娠・出産、育児・授乳期の女性に対応できる精神科医は少なく、連携に難渋することも多い
のが現実である。
③社会的ハイリスク妊婦の増加
出雲市の母子保健の取り組みから、妊娠届出数のうち、以下のハイリスク妊婦の割合は、2011 年 22%、
2012 年 16%となっていた。
【12 ハイリスク項目】
①第 1 子妊娠時 10 代
②婚外子(母子家庭への移行)
③第 4 子以上
④届出週数 20 週以上
⑤育児に支障を来す程度の母の病気
⑥望まない妊娠
⑦死亡した兄弟あり
⑧経済的な不安の訴え
⑨外国人母子
⑩複雑な家庭(ステップ家族など)
38
⑪多胎妊娠
⑫その他(兄弟の障害、児童相談ケース、精神科既往 など)
児童虐待については、全国的には、平成 15・6 年当時から平成 23 年まで、概ね週 1.09 人のペースで
虐待死があること、虐待相談件数は平成 16 年度から 2 倍に増えているが、虐待死者数は並行しては増え
ていないこと、0 歳児死亡数が突出していることが確認されていて、0 歳 0 か月が最多となっている。ま
た、0 歳児の虐待死の原因の 1 位は「望まない妊娠」である。
図 7 平成 15 年 7 月からの児童虐待・心中による子どもの年齢別死亡数
「社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会 第 9 次報告」より
④DV 被害者
*DV(ドメスティックバイオレンス)
:同居関係にある配偶者や内縁関係の間で起こる家庭内暴力のこと
2011 年に内閣府が全国の成人男女 5,000 人を対象にした調査(回答 65.9% )では、ドメスティックバ
イオレンス(DV)被害を経験した、結婚しているか、結婚したことのある女性は 3 割に上っており、2008
年の調査結果と横ばいであった。DV 被害に遭った女性の4割は誰にも相談していなかったことも判明し
ている。
配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は年々増加傾向であり、未相談事例も考慮すると被害者数も
同様に増加傾向であると考えられる。
警察庁の調べによると、2013 年度の認知件数は、前年比 12.7%増(5,583 件)の 4 万 9533 件で過去
最多を更新している。
Mega R.Holmes は、0~3 歳までの間に DV を目撃し、3 歳以降は目撃しなかったという特殊な環境の
107 人の子どもを対象に、目撃した DV の時期、期間、内容が、その後の子どもの行動にどのような影響
を与えるかを調査した(DV を一度も目撃したことのない 339 人の子どもと比較)
。結果は、3~5 歳の段
階では、DV を目撃したことがある子と目撃したことがない子の問題行動の頻度に差は見られなかったが、
学童期になったあたりで、DV を目撃したことがある子は、より攻撃的な行動を示すようになり、逆に、
DV を一度も目撃したことがない子の攻撃的な行動は、年齢を増すごとに減少していくということが判明
した。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jcpp.12071/abstract
39
図8
(3)医療を必要とする胎児・新生児は増加傾向
①低出生体重児(出生時体重 2500g 未満)の増加
http://www.jafs.org/pdf/H26_Lecture.pdf
http://www.niph.go.jp/journal/data/63-1/201463010002.pdf
出生時の体重を単産-複産別にみると、単産の平均体重は、昭和 50 年には 3.20kg であったが年々少
なくなり、平成 21 年は 3.02kg と 0.18kg 少なくなっている。また、複産も同様に、昭和 50 年の 2.43kg
から、平成 21 年には 2.20kg と 0.23kg 少なくなっている。出生時の体重が 1.5kg 以上 2.5kg 未満の割合
をみると、単産では昭和 50 年には 4.6%であったが、年々増加し平成 21 年には 8.3%となっている。全
出生の 10 人に 1 人は低出生体重児であり(図 9)
、満期産での低出生体重児の増加が顕著である(図 10)
。
国際的にも増加傾向の国の一つとなっている(図 11)
。
40
図 9 低出生体重児の増加
出生数および低出生体重児の出生割合の推移
「出生数の 10 人に 1 人が低出生体重児」
図 10 分娩週数ごとにみた低出生体重児の推移
図 11 OECD 加盟国の 1980 年 から 2008 年の低出生体重児の頻度推移の比較
41
図 12
胎児発育不全の原因には、胎児側要因と母体側要因がある。母体側の要因には、妊娠高血圧症候群、糖
尿病、胎盤機能不全、喫煙などがあるが、低栄養も重要な要因である。日本人女性のやせの問題は胎児・
新生児の発育不良の原因ともなっている(図 12)
。
低出生体重児の分娩様式は、滝本の調査(平成 18 年度厚生労働科学研究。低出生体重児の増加要因に
関する検討)によると 2001 年から 2004 年にかけて、正常体重児の帝 王切開率が 10.4%から 22.1%と
増加したのに対し、低出生体重児は 20.3%から 39.8%と 2 倍での増加となっている。胎児発育不全児は、
既に軽度から中等度の低酸素状態に陥っている可能性が高いために、分娩様式を経腟分娩とする場合には
ハイリスク分娩として管理し、産科的適応による帝王切開分娩が選択される機会も増加する。
また、低出生体重児の予後は、長期的に肥満、成人期の心筋梗塞、2 型糖尿病、高血圧のリスクが高く、
日本の小児本態性高血圧は小児高血圧症の 11.3%で、アメリカやイギリスで 3-4%とされている中では高
率となっている。低出生体重児は、知的発達・社会性発達スコアは共に低く、低賃金、未就業など将来的
に経済的な影響を及ぼすことも懸念されている。
②先天異常児の増加
http://www.jsog.or.jp/PDF/59/5909-246.pdf
http://www.icbdsrj.jp/
年々増加傾向であり、特に二分脊椎については、日本は先進国でも増加傾向の国となっている。
42
図 13 日産婦「先天異常モニタリングデータより」
(サイト「ベビ待ちママのためのサプリメントガイド」から)
③早期新生児(生後 7 日未満の新生児)の死亡数は今も昔も生後 3 日間に集中
【巻末資料:
「日齢月例別、乳児死亡数及び割合」
】
新生児期は、胎外生活に適応する時期であり、呼吸・循環、他全身状態が安定するまで慎重な管理が必
要である。
出生直後の新生児では、呼吸停止などの重篤な事象は約 5 万出生に 1 回、何らかの状態の変化は約 1
万出生に 1.5 回発生すると報告されている(巻末資料「早期母子接触中の留意点」より)
。
④NCPR(Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitaion:新生児蘇生法、新生児心肺蘇生法)
http://www.ncpr.jp/
出生時に、約 10 %の新生児は、胎外の呼吸循環動態への移行が順調に進行せず、呼吸や刺激などのサ
ポートを必要とし、更に 1%の新生児は救命のために本格的な蘇生手段(胸骨圧迫、薬物治療、気管挿管)
を必要とし、適切な処置を受けなければ、死亡するか、重篤な障害を残す。日本では、約 10 万人の新生
児が出生時に呼吸循環が安定するために何らかの助けが必要、ということを意味する。重篤な仮死は、出
生直前まで予測できないこともある。
新生児蘇生は、周産期診療の中で必要時、日常的に行われている医療行為にも関わらず、医療従事者、
施設によって多くのばらつきがみられ統一化された方法がなかった。そこで米国を中心として、エビデン
スベースの新生児蘇生を広げる動きが起こり、現在 NRP (Neonatal Resuscitation Program)として世界
中に広がってきた。日本でもこの動きを受けて、2007 年より日本周産期・新生児医学会が、日本の医療
事情に考慮し、実技講習会を通じた「新生児心肺蘇生法普及事業」を開始した。これは「全ての周産期医
用関係者が標準的な新生児救急蘇生法を体得して、全ての分娩に新生児の蘇生を開始することのできる要
員が専任で立ち会うことのできる体制を実現する」ことを最終目標としていて、2014 年 9 月時点での受
講者は 75,990 人であるが、いまだ未受講の分娩取扱い施設があるのも事実である。
(4)未受診妊婦の問題
今の時代にもし、医療なしで妊娠・出産すると「周産期死亡率は 19.7、40 年前の状態」
大阪府 http://www.pref.osaka.lg.jp/kenkozukuri/boshi/mijyusin.html
東京都 http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2011/12/60lcr200.htm
43
全国的に未受診妊婦の問題が注目されているが、大阪府は全国に先駆け、2009 年から「未受診や飛び
込みによる出産等実態調査」を実施し、自治体全域での支援に取り組んでいる。
大阪産婦人科医会の 2009 年の第 1 回調査報告で、152 件の報告があり、その女性の個人的背景はある
ものの、周産期死亡率は 19.7 と 40 年前と同値となっており、未受診妊婦の問題は、社会的問題であると
同時に医学的問題であることが判明している。児童虐待とその世代間連鎖に起因した未受診や未受診妊婦
のその後の児童虐待のリスクも指摘されている。
2013 年時点でも年間 285 件の未受診妊婦の報告があり、これは 250 分娩に 1 件に割合となっている。
医療、福祉、行政の連携のもと、未受診妊婦は減少傾向となっているが、支援対象者は増加傾向となって
おり、有機的・恒久的な連携による包括的支援が必要とされている。
報告書では「未受診妊婦による妊娠出産は、最終段階で医療介入があったとしても 40 年前の周産期死
亡率となってしまっている。このことは、改めて『妊娠・出産』は本来危険性を抱えているものであり、
適切な医学的関与のある周産期管理が必要であるという再認識に繋がるものである」と明記されている。
「妊婦健診に行かなかった理由」の最多、
「経済的理由」であり、次いで「無知・妊娠に気づかず」とな
っていて、大阪、東京、他地域でも同様の結果であった。
図 14 大阪府未受診妊婦調査(2009 年)
:
「妊婦健診に行かなかった理由」
犯罪がら
み
精神疾患
3%
6%
孤立
7%
経済的理由
33%
複雑な家庭事
情
不明
10
忙しかっ
た
10%
無知
21
4)適切な医療が行われていれば防ぎ得た死、障害がある事実
(1)妊産婦死亡、母体救急
日本産婦人科医会 偶発事例報告事業 平成 24 年の事例解析結果
http://www.jaog.or.jp/all/document/72_140108.pdf
日本産婦人科医会 平成 22‐24 年妊産婦死亡症例検討実施 83 事例のまとめ ~母体安全への提言~
http://www.jaog.or.jp/all/document/67_130710.pdf
日本産婦人科医会は、2010 年より妊産婦死亡の報告事業を開始、2013 年からは周産期の偶発事故例の
報告事業も開始している。
我妻氏による産科医療訴訟の検証からは、
「特に診療所での分娩・産後の管理の問題がある」とされて
いて、学会のガイドライン、指針などがあっても罰則規定なく強制力がない中で、自由診療の場合、不適
切な内容の医療でも医業として成立する現実がある。実際、産科医療保障制度で脳性麻痺の症例の管理で
は、分娩監視装置の不適切使用、陣痛促進剤の不適切使用例がいまだにある。また、産科医療保障制度に
加入していない施設が 2%存在する。
日本産婦人科医会の母体死亡検証は全死亡数の 50%程度にとどまり、非学会員及び学会員でも未申告
44
の場合、医療の内容の実態は不明である。国、学会レベルでの妊娠・分娩・産褥期の異常の全容は把握さ
れていないため、国民の実態は不明である。
〈緊急帝王切開〉http://www.jmari.med.or.jp/research/research/wr_348.html
また、日医総研の平成 17 年度における各医療機関の帝王切開開始までの所要時間や搬送件数につい
ての調査では、病院における夜間の緊急の帝王切開実施までにかかる時間は、平均 47.7 分であり、実
施開始までに 1 時間以上かかる病院は 5 割近くに及んでいた。施設別にみると、総合期周産センター
では 32.8 分であるが、総合病院では 52.9 分である。産科医 の不足が緊急体制にも影響を及ぼして
いることが推測され、緊急帝王切開の「30 分ルール」が病院レベルでも順守困難な実態があると考え
られた。この調査は診療所は対象となっていなかったため、診療所での実態は不明であるが、施設によ
っては、帝王切開ができる環境にないにも関わらず、分娩を取り扱っている施設もあり、そのことによ
る胎児機能不全への不適切な対応により新生児の低酸素性虚血性脳症を来したケースもある。
「緊急帝王切開の 30 分ルール」
American Academy of Pediatrics(アメリカ小児科学会) と American College of Obstetricians
and Gynecologists(アメリカ産婦人科学会) が 2002 年に発行した書籍である Guidelines for
perinatal care(周産期ケアのガイドライン) にはいわゆる"30-minites rule" 「30 分のルール」が記
載されている。これは、分娩取り扱い施設に対し、帝王切開術の決定 から施行まで 30 分以内で行
うことが可能な能力を求めるものである。
日本では、2005 年 4 月 21 日付けで各都道府県知事あてに厚生労働省雇用均等・児童家庭局長が出
した「周産期医療対策整備事業の実施について」という文書において、
「周産期医療対策事業実施要
綱」が示され、そこの「周産期医療システム整備指針」の中に、この地域周産期母子医療センターに
望まれている要件として、産科については、帝王切開術が必要な場合 30 分以内に児の娩出が可能と
なるような医師及びその他の各種職員… を配置するよう努めることが望ましい、とされている。こ
れはその後の地域医療整備計画に反映するよう通達されている。
(サイト「小児科医のつぶやき」より)
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/searchdiary?word=30%CA%AC%A5%E
B%A1%BC%A5%EB
〈輸血準備〉 「産科危機的出血へのガイドライン」http://www.jspnm.com/topics/data/topics100414.pdf
生命を脅かすほどの分娩時・後の大量出血を起こす妊産婦は 300 人に 1 人とされ、基礎疾患(常位胎
盤早期剥離、妊娠高血圧症候群、子癇、羊水塞栓、癒着胎盤など)を持つ産科出血では中等量の出血でも
容易に DIC を併発する。予期せぬ大量出血、少量の出血での DIC もある。
2010 年に関連 5 学会(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本周産期・新生児医学会、日本麻
酔科学会、日本輸血・細胞治療学会)は「産科危機的出血へのガイドライン」を提言した。その中で「産
科危機的出血への対応」として「①直ちに輸血開始。②高次施設へ搬送。③赤血球製剤だけでなく新鮮凍
結血漿も投与。④血小板濃厚液、抗 DIC 製剤の投与考慮。⑤出血原因の除去。⑥動脈結紮術、動脈塞栓
術、子宮摘出術など。
」を提示しているが、診療所、一般病院での常時か迅速な輸血準備は困難であり、
高次施設への搬送については、地域差・施設間格差もあり、対応が遅延する可能性が高いことが予測され
る。京都産婦人科救急診療研究会による「京都プロトコール」のように地域全体で対応方法を共有し、日
常的に有機的に連携できる仕組みを確立しておくことが重要であると思われる。
(2)早期新生児死亡 *「早期新生児」=生後 7 日未満の新生児
2013 年人口動態調査より早期新生児死亡数は 752 人で、うち正期産新生児は 266 人である。統計上、
早期新生児死亡には妊娠 22~37 週未満の早産児を含めた統計上の死因別死亡数は公開されているが、新
生児死亡症例全ての死因検証は、一部の県で実施されているものの、国及び学会レベルでも実施されてい
45
ない。
正期産新生児の死亡原因で、先天異常の次に多い原因は「呼吸障害」である。この「呼吸障害」には、
早期母子接触、母児同室中の管理上の問題に起因したものも含まれている。
表 9 新生児管理事故の内訳
(日本産婦人科医会医療安全委員会「偶発事例報告事業」平成 25 年の事例解析結果より *既述)
正期産新生児の死亡原因で、先天異常の次に多い原因は「呼吸障害」である。この中には、早期母子
接触中、母児同室中の管理上の問題に起因した「呼吸障害」や「SIDS」も含まれ、平成 25 年までの新
生児管理事故の報告 125 件のうち 59 件を占め、47%にのぼる。
20 年
21 年 22 年 23 年 24 年 25 年 計
新生児の呼吸障害・SIDS 含む
2
3
7
11
10
13
46
早期母児接触中の呼吸障害
0
2
2
1
1
0
6
添い寝中の呼吸障害
0
0
3
1
1
0
5
うつぶせ寝中の呼吸障害
新生児転落
1
1
0
3
0
1
0
2
1
2
0
0
2
9
新生児黄疸
0
0
0
2
0
0
2
新生児奇形の診断遅延
0
0
0
3
0
1
2
0
0
5
0
0
2
9
誤診、薬剤の誤投与・投与忘れ
0
1
1
1
2
1
6
低血糖
0
0
0
1
1
1
3
児の取り違え
1
0
0
1
0
3
5
その他
0
0
1
6
5
14
26
5
13
17
28
29
33
125
循環不全
合計
(3)新生児の管理
①正期産新生児の管理における人員配置とその内容 ~日本の赤ちゃんは誰がみているのか?~
a. 助産師・看護師
日本で最高基準の看護基準は「7:1」
、他、
「10:1」
、
「13:1」
、
「15:1」の配置基準があり、入院基本
料をとる医療機関なら配置基準に乗っ取った看護師の配置がある。しかし、基本的に産科医療は自由診療
のため入院基本料をとらない施設の場合は、配置基準はない。
「正常な妊産婦の新生児は、母親の附属物」という制度のため、実質看護師 1 名に対し最高水準でも
14 名の患者をみていることになり、これ以下の水準の施設は更に多い患者を一人の看護者でみている。
新生児のための看護基準はなく、助産師の定数配置基準はない。
「第 4 回産科医療補償制度 再発防止に
関する報告書」からは、分析対象となった 319 件のうち 13 施設で常勤助産師が 0 名であった。
国内では、新生児看護について正常・異常児共に実務研修も含めて基礎教育の中で訓練されているのは
助産師のみである。妊娠・分娩・産褥期の専門家であるということから、胎児期から新生児期まで母体と
いう、新生児にとって唯一無二の環境を考慮しながら新生児を一貫してみることができ、母親のサポート
も同時にできる存在である。効率のよい、最適な人材であることから、国際的には、正常分娩は助産師の
みで実施している国が多いことも事実である。
国際的には、助産師一人に母子 3 組、新生児のみなら 5-6 人である。アメリカでは、生後 2 時間は特に
46
集中的に看護者が母子を管理できる人員配置となっている。
※ ちなみに 0 歳児保育の保育基準は、保育士 1 人に対し、乳児 3 人であり、4 人以上ではその後の社
会性に問題が出るため、とされていることが理由である。
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/51342/1/edu_51_19.pdf
b.医師
〈産婦人科医〉
http://www.jsog.or.jp/activity/pro_doc/index.html
産婦人科医になるにあたり、新生児科での実務研修は必須項目でない。日本産婦人科医会の認定医制度
上も、分娩取扱い 100 例という規定はあるが、新生児医療については、知識レベルでの規定はあるもの
の実務研修は規定されていない。標準化された卒後教育の制度はなく、特に新生児医療については、産婦
人科医は個人レベルで研鑽しなければ、医学部生レベルの可能性もある。
例:某国立大学の医学部では、5 年生で小児科研修あるが、1 日で、新生児については見学のみ。6 年
生の実習では小児科は 2 週間であるが、新生児については見学実習が主であり、担当患者を持つことはな
く、実習内容は医療機関によってばらつきがある。
産院開業時の基準はないが、施設管理・責任者として、新生児の診療にも関与し、異常時の判断、対応
への責任は医師が担う。
なお、宮崎大学では、1991 年より新生児医療にも参加できる産婦人科医師の養成が積極的に行われて
おり、このような研修を積んだ医師が宮崎大学より県内各地域に派遣されることで各地域において提供す
る周産期医療の質の維持が図られている。宮崎県では地域分散型の周産期医療体制を構築し、その充実の
ために人的なネットワークの強化および人材育成に努めてきたことにより、全国でトップレベルに低い周
産期死亡率を達成するに至っており、新生児死亡症例の検証もされている。
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/home/obgyn/for-those-who-aim-to/160
〈新生児科医・小児科医〉
新生児医療そのものが新しい分野で、20 年以上前の小児科医は現在の新生児医療の実際を知らない可
能性が高い。某国立大学小児科学教室では、最近の入局からの研修は、初期に 3 か月新生児を経験し、そ
の後、他の専門領域での研修をすることが可能となっているが、以前はこの制度がなく、新生児の研修を
受けたくても受けられなかった。開業・勤務医問わず、小児科医でも新生児の診療ができるとは限らない。
c.保育士・医療保育士
新生児の施設内での保育について、既に保育士が育児支援を担っている施設がある。
中でも「医療保育士」は、
「医療を要する子どもとその家族を対象として、子どもを医療の主体として
捉え、専門的 な保育支援を通して、本人と家族の QOL の向上を目指すことを目的とする」もので、疾病・
障害のある子どもが医療機関や施設で療養環境にある時に専門的な支援ができるよう、教育・トレーニン
グを受けた保育士である。養成機関は少なく、現在は、主に小児医療機関や障害児施設、病児保育室が活
動の中心ではあるが、胎外への移行時期にある全身状態の不安定な時期の早期新生児を扱う専門家として
は、医療保育士は、看護師・助産師不足を補うだけでなく、保育についてより専門性の高い支援を母子に
提供するため有効な機能のある職種であると考える。
以下に、某私立大学医療保育士養成コースのカリキュラムを掲載する。
【医療保育学科 授業内容】*抜粋
医療社会学、乳幼児の病態生理学、小児医学研究、保育看護、乳児保育研究、療育保育件腔、家族理
解と援助の社会学、カウンセリング研究、発達臨床心理学、音楽療法研究、障害児心理学研究、病児保
育研究、障害児保育研究、医療保育実習、 など
47
日本医療保育学会
http://www.iryouhoiku.jp/
医療保育学科
http://www.seitoku.jp/univ/junior_college/major/care_pediatrics.shtml
②「不適切な」早期母子接触(正期産新生児の出生直後に実施する母子の皮膚接触のこと)
サイト「がんばれ こうたろう」より
(既述「ダイジェスト版」1.カンガルーケア(現:早期母子接触)の事故 参照)
http://www.geocities.jp/southsweel/KOUTAROU.html
新生児医療連絡会を通じて、2006 年に全国の NICU にアンケートを実施された。カンガルーケアの最
中に急変した新生児が 14 人報告され、全国 12 か所の NICU に収容されていた。このうち 2 例は亡くな
り、植物状態になった新生児は 7 例あった。医療訴訟など医療側が責任を問われた例も、和解も含めると
4 例あった。
こども未来財団の研究「分娩室・新生児室における母子の安全性についての全国調査」で、2010 年の
早期母子接触の全国調査が行われた。我が国の全分娩施設の約 1/4 にあたる施設からの回答(自主申告、
軽症を含む)で、約 1 万件の母子接触中に 1.5 にの割合で児に変化があったと確認された。
早期母子接触は、その有効性は科学的に証明されており、母子にとっても当然の権利であり、積極的に
進められるものであるが、2012 年に日本周産期・新生児学会は「早期母子接触ガイドライン」を提言し、
早期母子接触が安全且つ適切に実施されるよう勧告している。
「カンガルーケアの事故報道から見えてきたこと」
http://www.web-reborn.com/topix/201006kangaroocare/kangaroocare.html
サイト「産科医療のこれから」より抜粋:http://obgy.typepad.jp/
「早期母子接触ガイドライン」http://www.jspnm.com/sbsv13_8.pdf
「早期母子接触」と母子分離、母子関係構築の臨界期
ヒトの脳は、胎児期から乳児早期にかけて一度未熟な神経回路で形成される。その後、未熟な神経
回路は児が生活する環境に適応するために、成熟し洗練された回路に再編成される。小児神経疾患や
環境要因により強いストレスがかかった児は、シナプスが余剰に形成されるべき時期に、脳内の生体
アミン濃度が低下し、シナプス密度も低下する。この場合、通常のシナプス除去プログラムによるシ
ナプス密度の顕著な低下やシナプス除去の選択が限られ、発達が未成熟になる可能性が考えられる。
新生児期は母子関係の確立にきわめて重要な時期で、新生児期に母子分離が行われると、その後、
様々な母子間の問題が起こることがわかっていて、母親から声をかけられたり、スキンシップ、やさ
しいまなざしなどの影響を受けることがその子の発達に良い影響を及ぼすと言われている。遺伝子は
5-10%程度のみが機能していて、その遺伝子がスイッチオンの状態になるメカニズムを「エピジェネ
ティクス」という。遺伝子のスイッチングには後天的要因、つまり環境因子が強く影響すると言われ
48
ている。癌抑制遺伝子の fosβ遺伝子は、養育行動の遺伝子であり、母の養育行動は嗅覚、視覚、聴覚
によって誘発される。出生直後からの母子分離による影響は、ハーロウによるマカクザルの実験では、
身体的には健康に育つが、指しゃぶり、身体をゆするなどの常同行動が目立ち、他のサルトの遊びや
性行動、育児などに大きな障害あることを報告している。スピッツの第二次大戦直後の孤児院での報
告では、孤児院では、栄養・衛生面では整っていたが、人間的ケアが著しく欠けており、61 人中 3 分
の 1 は生後 1 年以内に体重増加不良、易感染性のために死亡した、とされている。また、2000 年の「健
やか親子 21」の報告書から、出産体験は、長期的に虐待の発生にも影響し、虐待の発生の根本には、
。施設分娩で常態化している、医療介
30 年 2 世代に渡る問題が横たわっているとされている(図7)
入の多い分娩、孤独な分娩期の体験と共に、科学的根拠がない新生児室の存在、母児別室など出生後
早期からの母子分離もまたこの問題の要因となっていると思われる。
フィンランドで 1981 年に報告された、6,000 人を対象とした 18 年間の追跡調査によると、子どもた
ちが、行動や情緒面で非常に問題が少なく、社会的能力が高いのは、出生後すぐ、3 か月、3 歳、4 歳
に幸せであることであり、母親が産後幸せ感を感じることと最も強く関係していた。
出生後の 2 時間を「新生児覚醒期」というが、新生児は生後 2 時間を過ぎるとその後 1 日程度は深
い眠りに入る。生後 2 時間は、新生児にとっては、身体的に胎外生活に適応する過程で重要な時期で
あるが、母子関係構築のためにも重要な「臨界期」であると考える。
日本の分娩の 99.8%は医療機関で行われており、これは出生直後からの母子接触が、日本なら通常、
産科医療機関で行われることを意味する。母子関係、社会適応能力、正常な免疫系の発達や神経学的
発達の予後をはじめ、未解明のものも含め、人が社会的動物としてよりよく生きていくための基礎と
なる時期を産科医療機関が担っていることを改めて自覚する必要がある。
図 16 日本における虐待 その背景
*fosB 遺伝子 http://www.brain.riken.go.jp/labs/mdmd/topics.html#topics04
49
③「一人飲み」
・産科病棟新生児室の「施錠」
http://www.med.or.jp/nichinews/n210320n.html
一般産科病棟でも長年常態化している方法である。新生児医療連絡協議会が 2008 年に全国 92 か所の
NICU(新生児集中治療室)のある施設に1人飲みの調査をしたところ、一人飲みを「度々行っている施
設」と「時に行っている施設」の合計は、50 か所(54.4%)であった。回復病床(GCU)では、看護師
一人あたりの受け持ちが 9 人をこえる施設は全て一人飲みを行っていた。その中でトラブルを経験した施
設は、20 施設(41.7%)で当時、死亡事例はなかったものの、インシデントは頻繁に行っている施設の
方に多くみられ、事故の多くは呼吸状態の悪化、嘔吐、家族に指摘された、などが多く、中には嘔吐から
人工呼吸管理になった例もあった。
産科病棟の新生児室管理規定はなく、母児別室制か同室でも一時的に新生児室に預かる場合、業務上の
問題(人員不足、分娩などで多忙な時、など)のために、職員不在による新生児の盗難予防のために「施
錠」する管理方法がとられることがある。
新生児室自体が科学的根拠がないとして、他、先進国では廃止されており、
「一人飲み」
「新生児室の施
錠」共に、他国にはない管理方法とされている。
*網塚貴介氏提供資料より
図 15
50
④脳性麻痺患者数
「重症心身障害児を守る会」によれば、国及び学会レベルでの脳性麻痺患者数の把握はされておらず、
調査しない理由は不明、とのことであった。 産科医療保障制度運用開始時も補償対象となる重症の脳性
麻痺児の推定値を出す際、一部の研究者や自治体のデータを参考にして算出された。
日本産婦人科医会の平成 22 年から 25 年の「偶発事故」報告では、全国の実態数を反映したものでは
ないが、周産期に起因した脳性麻痺の原因として、妊娠期では胎児機能不全、常位胎盤早期剥離などがあ
り、早期新生児期は「新生児けいれん」
「呼吸障害」
「感染症」の他、
「早期母子接触中の心停止」もあり、
また、原因・詳細不明のものも多くみられた。
「産科医療保障制度」再発防止委員会委員からは、
「日本では、産科の医療事故被害者の子どもは、出
生時に心拍や呼吸が止まってしまっているような場合でも、蘇生され人工呼吸器を装着して一週間以上生
きるケースが多数ある。その後は、脳性麻痺となって長く生きるか、重度の場合、幼少期に肺炎や腎不全
等の病名で死亡するかに分かれていく。実際、日本は 1 歳~4 歳の子どもの疾患による死亡率が先進 13
カ国の中で最も高くなっており、肺炎による死亡率も特に他の先進国よりも多くなっている。
」とされて
いる。
脳性麻痺患者が障害にかかるコストについては、CDC(アメリカ疾病予防センター)の 2003 年の報告
では、11.3 億ドル(=1 兆 3560 億円、1㌦ 120 円換算)であった。
http://www.birthinjuryguide.org/cerebral-palsy/financial-support/cerebral-palsy-lawyer/
⑤産科医療保障制度 原因分析・再発防止委員会報告書より
2009 年から始まった産科医療保障制度は、2015 年 3 月現在全国の病院・診療所・助産所の分娩取扱い
施設のうち 3,298 施設(99.9%)が加入している(*未加入 4 施設)
。
保障対象は、運営組織が定めた重度脳性麻痺の障害程度基準によって、「身体障害者障害程度等級の 1
級または 2 級に相当する脳性麻痺であると認定されること(除外基準あり)」、保障申請期限は、「満 1
歳から満 5 歳までの誕生日まで」で、生後 6 か月以内の死亡は保障対象とならない(極めて重症であっ
て、医師が診断可能と判断する場合は、生後 6 ヶ月から可能)。総額 3,000 万円の補償金が支給されれる。
2009 年の制度開始からから 2013 年 12 月末までに 687 件の保障認定、319 件の原因分析報告書の要約
版が公開されている。
「第 5 回産科医療保障制度再発防止に関する報告書」からは、分析対象事例 534 件のうち、原因分析
報告書において脳性麻痺発症の主たる原因として記載された病態が明らかであった事例は 392 件
(73.4%)
であった。このうち単一の病態が記されている事例が 307 件(57.5%)であり、常位胎盤早期剥離が 120
件、臍帯因子が 91 件(臍帯脱出が 23 件、その他の臍帯因子が 68 件)、子宮破裂が 17 件、感染が 16 件、
胎児母体間輸血症候群が 14 件などであった。
2015 年 1 月から 3 月 6 日時点の間では、既に 53 件の原因分析報告書が公開されているが、正期産新
生児の保障認定者 39 名について、事故の原因分析内容に医療上の対応、特にガイドラインの未順守のも
のが明記されているものを以下の内容に分類して検討した。これは、産科医療保障制度保障認定者全体の
状況を反映したものではないが、医療に直接関係のない、管理上の問題に起因した脳性麻痺事例があるこ
とが改めて確認できた。
〈産科医療保障制度 脳性麻痺保障認定者の原因分析内容に医療上の対応のあるもの〉
・陣痛促進剤の不適正使用
・胎児心拍陣痛図(CTG)の不適正使用及び判読の問題とその対応における問題
・新生児心肺蘇生法(NCPR)の不適正実施
・早期母子接触及び母児同室中の管理不備
51
図 17
〈図中 項目説明〉
・「産婦人科診療ガイドライン 2014 産科編」
「促進剤」:陣痛促進剤の不適正使用
「CTG」:胎児心拍陣痛図(CTG)の不適正使用及び判読の問題とその対応
・「日本版新生児蘇生法(NCPR)ガイドライン 2010」
「NCPR」:NCPR の不適正実施
・「早期母子接触ガイドライン」
「早期母子」:「早期母子接触の留意点」の不適正実施と母児同室中の管理上の問題
原因分析委員会からは、産科医療において検討すべき事項として、国・地方自治体に対しては、「正期
産新生児は疾患を有していない限り入院患者としては扱われておらず、必要な人員の配置が不十分となっ
ている恐れがある。人的財政的なサポートについて検討されることが望まれる。」と提言している。
下記図 18-21 は、日本の全ての分娩の曜日別出生数の分布と時間別出生数の分布を全体と助産所で示し
たもの、帝王切開率の推移である。この傾向は 20 年以上変わらず、帝王切開率の上昇に伴い、平日・日
中の分娩が増加していることと、陣痛促進剤の使用によるバースコントロールが長年継続されていること
が原因であると考えられている。
子宮収縮薬は、その感受性の個人差が国内で 100 倍以上、海外では 1,000 倍以上とも言われている。
産科医療保障制度再発防止委員会の医師の報告では 2015 年 3 月の時点で、「重い脳性まひになった子ど
も 146 人について、延べ 180 回、子宮収縮薬が使われていたが、このうちのおよそ3割で日本産科婦人
科学会の指針に定められた使用量よりも多かった。子宮収縮薬を巡っては、使用量の逸脱が過去にも報告
され、この委員会も4年前に注意を呼びかけていたが、改善されていなかった」とされている。また、第
4 回の報告書では、妊婦本人に子宮収縮薬を投与する同意を文書で得ていたのは 2 割で、口頭で同意をと
ったとしている事例も 3 割弱であった。妊婦が知らない間に子宮収縮薬が使用され、赤ちゃんが重度の脳
性まひになってしまっているケースが半数もあったことが明らかになっている。
52
図 18
図 19
図 20
53
図 21
「産科医療保障制度」http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/
「脳性まひ児の補償対象数は、なぜ想定より少なかったのか?今年から対象範囲が変わる産科医療補償制
度を生かすために」http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4605
54
勝村久司氏
「2010.8.30 厚生労働省薬害を学び再発を防止するための教育に関する検討会公教育に対する要望」より
http://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000ovna-att/2r9852000000owli.pdf#search='%E5%8B%9D%E6%9D%91
%E4%B9%85%E5%8F%B8+%E9%99%A3%E7%97%9B%E4%BF%83%E9%80%B2%E5%89%A4+%E6%9B%9C%E
6%97%A5%E5%88%A5
「出産時の事故から身を守る 重度脳性麻痺とずさんな医療」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1692?page=4
「子宮収縮薬」 使用しすぎに注意を」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150328/k10010030451000.html
⑥正期産新生児の管理上の問題に起因した医療事故 ~裁判事例より検証~
下表は、過去の裁判事例を示したものである。1968 年の医療法施行規則改正後、前述の産科医療保障
制度の保障認定者の状況も踏まえると約 50 年間に渡り、正期産新生児の管理上の問題に起因した医療事
故例が継続発生していることがわかる。
2003 年には、入院中の新生児が窒息で死亡したとして、当時の担当看護士が、注意義務違反で有罪判
決を受けている。看護師は事故当時、15 人前後の新生児を1人で看護していた。
表 10
正期産新生児に関する医療事故 裁判事例
判決年 裁判所 罪名
有罪/無罪
平成3年 平成8年 静岡地裁 注意義務違反
有罪
観察義務違反
平成7年 平成13年 東京地裁 指導監督義務違反 有罪
債務不履行責任
不法行為責任
事故発生年
平成7年 平成15年 東京地裁 業務上過失致死罪
有罪
新生児日齢
2
3
3
平成19年 平成26年 福岡地裁 経過観察義務違反 一部有罪
0
平成21年 平成24年 仙台地裁 安全確認義務違反
監視義務違反
無罪
0
平成22年 平成25年 大阪高裁
無罪
0
被告
看護師
医師
病院
事故内容(直接)
事故原因(間接、診療体制など)
新生児室預かり中、窒息 看護師は最終授乳から約4時間、新生児を観察せず、
死亡
異常に気付かず。
うつぶせ寝、心肺停止 看護師は新生児室の6-7人の新生児と新生児集中治療室の
低酸素性虚血性脳症 重症新生児3-4人を一人で看護。
重度の脳性麻痺
生後7か月で死亡
看護師 うつぶせ寝、窒息
看護師は新生児15人を一人で看護。
死亡
助産師 母児同室中に心肺停止 当日分娩件数7件(うち2件は双胎のため9人出生)、被告病院の
病院 低酸素性虚血性脳症 通常分娩の3.66倍。事故発生時の準夜勤務帯2件の分娩、うち
1人NICU入院。2人の助産師で出生当日9人の新生児に対応。
助産師 母児同室中、窒息
分娩係含む助産師3名で勤務、周産期病棟はほぼ満床、妊婦を
呼吸停止
含む25名が入院、新生児は母児同室の8名のうち6名は
四肢麻痺の後遺症
当日出生、他入院児1名。
病院 早期母子接触中に
*窒息の原因は、医療関係者の関与がなくても注意を払えば
呼吸停止、
容易に回避でき、病院に窒息を防止する法的義務があるとまで
低酸素性虚血性脳症 言えない、と母親に責任があるという結果(実際は、急変に
脳性麻痺
気づくまで母子のみで放置)。
⑦産科混合病棟と新生児の MRSA 感染
日本看護協会の調査結果( 2012 年、有効回答 571 病院)から、産科混合病棟は全体の 80.6%( 460
病院)にも及ぶことが明らかとなっている。年々、産科の混合病棟化が進んでおり、特に婦人科以外との
混合病棟化が顕著に増えている。38.0%の産科混合病棟で、産科と他科患者が同じ病室に入院していた。
以下は、北島の調査結果である。27 病院を対象にした調査では、2 年間で 37 例の新生児 MRSA 皮膚
感染症はすべて産科混合病棟で発症していた。特に分娩後母子異室の時期がある施設で院内感染が疑われ
ており、産科混合病棟での早期母子同室の必要性を指摘している。
55
図 22 報告別にみた産科混合病棟の状況
日本看護協会では、母子にとって安全で安心な出産環境の整備、すなわち①母子が感染リスクから回避
される、②母子を継続的に観察し異常の早期発見を行う、③助産師が継続的に母子に寄り添いケアを提供
することを実践するために、
「産科混合病棟におけるユニットマネジメント」を提案している。
⑧胎児期の診断 ~超音波検査~
妊娠期の超音波検査の目的は、胎児については「1.胎児発育の確認 2.胎児形態異常の診断 3.胎
児 well-being(健康で順調な状態)の評価」であり、必須診断疾患として、出生直後より厳重・迅速な医
学管理の必要な疾患があるとされ、
「A.体温管理・感染防御が必要な小児外科疾患 B.厳重な呼吸管理が
必要な疾患 C.動脈管依存性の心疾患」が挙げられている。日本の施設ように分娩に必ずしも小児科医が
立ち合う環境がない場合、胎児の異常をより正確に診断することは、人的、地理的な差異などに起因する
問題を低減し、救命率を向上させることに寄与するため、中でも超音波検査は重要な検査であると考える。
しかし、出生した児の約 2%になんらかの先天奇形がみられ,その約半数が出生前に診断されるとしてい
るが、先天異常の診断における超音波検査の感度は 53%に過ぎないという報告がある。
妊娠期の超音波検査は、国内ではほぼ毎回の健診で実施されているが、精度には検査者の能力差もある
が、標準とされる胎児超音波スクリーニング項目検査手順を踏まずに検査をしている医療機関もある。も
ともと安全で健康な出産のために胎児の発育状況を確認する超音波検査であるが、最近は染色体の状態ま
で推測可能になり、両親が悩む例も増えている。しかしながら、2010 年に日本周産期・新生児医学会倫
理委員会が行った調査によると、超音波検査の実施にあたり同意を得て実施している医療機関は半数に過
ぎなかった。
米国超音波学会は、
「可能な限り最小限に」という原則にのっとり、明らかな医学的適応がある場合に
のみ行うべきで、診断に必須の情報を得るための最小限の暴露にとどめるべきであるとしている。さらに、
30 年間の超音波の使用によって胎児に対する安全性が明らかになっているにもかかわらず、低強度で行
うことを勧告しており、三次元や他の超音波のテクニックを医学的適応のない場合に用いることは不適切
だとみなしている。国内では、某私立大学病院で妊娠期間中の超音波検査を原則、初期に 1 回、中期以後
3 回の実施に留めており、1 回の検査に時間をかける方が、診断精度も上がるとしている。
アメリカでは、妊娠期間中 1-2 回(妊娠 20 週と 30 週)の超音波検査を専門技師が実施し、1 回の検
査を 20-30 分で行っているが、奇形率が上昇したという報告はないとされている。
「胎児超音波スクリーニング検査の実際」 http://www.jsog.or.jp/PDF/56/5609-638.pdf
56
5)本章のまとめ
正期産新生児の医療上の環境整備については、国による法整備、医療計画の策定、各種学会によるガイ
ドラインの整備、日本看護協会による助産師の活用による出産環境の整備など多くの取り組みはあるもの
の、これらを実効性のあるものとするには「正常分娩及び正期産新生児への医療の給付方法を現金給付か
ら現物給付に変更し、PDCA サイクルにのせることで、あるべき姿に誘導する」ことが最適であると考
える。
6.公的医療保険化以外の方法での対策は不可能か?
今回の政策提言を他の方法で実現することは可能か、検証してみた。
1)税金での対策(財源供給方法)
57
既に妊婦健診の地方交付税による公費助成が実施されているが、給付方法自体は現金給付であり、適正
な医療でなくても公金が支払われる仕組みは変わっていない。妊婦側の経済的負担の軽減と医療機関の安
定経営には貢献するものの、医療の適正化につながる制度とはなってはいない。
また、利用者として医療の実態を把握するための診療報酬明細書にかわるものは、税金を財源とした場
合、発行されないため、自分や我が子が受けた医療の中身を知ることはできず、知る権利・自己決定権の
履行は果たせず、市民による医療の適正化への誘導は困難となる。
万一、税金を財源とした給付方法になったとしても、医療の実態を検証する必要はある。
2)実態調査(可視化の方法)
分娩費用の公費負担をしている国では、国営の疫学機関により全国民の健康状態の把握し、医療を監
視・管理しているが、
人口・出生数が日本より少ないことも全国民の調査を容易にしていると考えられる。
2011 年データより
例)イギリス
人口 62417 千人
出生 761 千人
医療管理:NHS による
全国民の健康実態の調査は RCT(ランダム化比較試験)では無意味であり、恒久的・公正な国営の調
査機関を設けるかある。現在の日本では、保険者機能の強化を図る必要があるものの、公的医療保険制度
の監査機能により医療の実態は可視化でき、何よりも国民は、自分が受けた医療の中身を診療報酬明細書
によって自分自身で知ることができると考える
また、がん患者の登録制度にならって、分娩取扱い機関に患者登録義務を行えば、実態把握が可能、と
いう意見もあるが、自由診療下での強制と正確性の担保には課題があると考える。
3)ガイドライン(規制の方法)
欧米では、国と関係学会・団体などで新生児医療・看護に関する指針を提示している国もあり、ガイド
ラインは必要である。
但し、罰則規定のないものは、無効である。産婦人科診療ガイドラインがあるにも関わらず、産科医療
保障制度の報告で示されているように、ガイドラインの規定に従わず、陣痛促進剤や分娩監視装置の不適
正な使用によって、新生児に重度の脳性麻痺がいまだに発生している。
作成するにあたっては、ガイドラインに沿った医療が適正に行われているかの監視が必要で、不適正な
内容については公開したり、また、ガイドラインそのものは随時更新される必要がある。加えて、日本は、
国営の公衆衛生機関がないため、関連多職種や市民も参画した、公正・公平な監視が可能となる機構によ
る監視が必要であると考える。新生児に関連するものは特に、中立的且つ人権擁護の立場でのガイドライ
ンの作成が必要である。
「妊婦さんとその家族は必見 安全なお産のために「陣痛促進剤」について知っておこう」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3810?page=4
(前掲)
「出産時の事故から身を守る 重度脳性麻痺とずさんな医療」
58
表 11 正常分娩の公的医療保険化と代替案 の比較
公務員は異動もあり、専門性、恒久性に問題あり。
医療提供体制を公的に整備しても、自由診療の為、実効性が低く、実態
7.海外の新生児を取り巻く環境整備状況
世界的には、母性保護、新生児保護のための取り組みが行われてきている。
母体は、胎児にとって唯一無二の環境であり、新生児のためのガイドラインと共に母性保護、分娩に関するガ
イドラインなどを同時に掲載する。
国内には、国主導若しくは、国と学会が協働して発行した新生児にの診療・ケアに関するガイドラインは存在
しない。
1)WHO ガイドライン「Care in normal birth : a practical guide」
(1996 年)
【巻末資料】
http://www.who.int/maternal_child_adolescent/documents/who_frh_msm_9624/en/
2)カナダ「Joint Policy Statement on Normal Childbirth」
(2008 年)
【巻末資料】
http://docs.google.com/viewerng/viewer?url=http://sogc.org/wp-content/uploads/2013/01/gui221PS0812.pdf
3)国際新生児看護協会「一般新生児の看護ケアに関する提言 」
【巻末資料】
*国連ミレニアム開発目標(2000 年採択)に基づき、指示・推奨
http://coinnurses.org/wp-content/uploads/2013/06/Well-Baby-Japanese-version.pdf
4)
「TECHNICAL REPORT
The provision of neonatal service
Data for international comparisons」
(2007 年)を
日本を含めて改変
http://www.rand.org/pubs/technical_reports/TR515.html
【巻末別添資料】
国際比較:イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、スウェーデン、日本
新生児医療サービスの組織
新生児の搬送
新生児の標準診療
59
8.海外から日本の周産期医療への勧告
〇マースデン・ワーグナー著
『WHO の勧告にみる「望ましい周産期ケアとその根拠」
(2002 年)より
・WHO の勧告「望ましい周産期ケアとその根拠」を遵守し、一般市民に情報を公開すること
・科学的根拠と産科業務の間の隔たりを埋めることに努め、根拠に基づく医療という、あらゆる先進工業国に
おけるヘルスケアの新たな目標を達成すること。
:病院ごとの産科介入率(分娩誘発、会陰切開、鉗子や吸引分娩および帝王切開など)についてのデータの
公開。公立の保健機関による上記の情報の公開と出産を人間化する努力。
・助産の強化
・女性が出産する場所の選択肢の拡大:助産院の拡大普及。
・医師や助産師、保健行政官、政治家、一般市民に対して、日本における現在の医療化された出産の危険性と、
人間的な出産のもつ安全性と価値についての教育。
・妊産婦向けの民主的な医療政策において、出産は、医師や病院のものではなく、女性と家族のためのもので
あることを理解すること。
〇クラウス・ケネル・クラウス著『親と子のきずなはどうつくられるか』
(2001 年)より
日本の読者へ 医療従事者への勧告
1.分娩中の母親には、パートナー以外の人で、お産に精通したケアの出来る女性による持続的な身体的・情
動的支援が提供される必要がある。
(王立カナダ産科学会勧告)
2.新生児が出生後正常で、アプガー点数が良好であれば、出生直後皮膚の水分を完全に拭ったあと、母親の
体温と子どもを覆う軽い毛布とで保温に努めながら、肌と肌が接触できるよう、新生児を母親に渡すべき
である。生後1時間半になるまでは、沐浴、足紋採取、ビタミン K の投与または点眼を理由に子どもを取
り去ってはならない。最初の授乳をいつ開始するかは、子どもに決めさせるべきである。
3.鎮痛剤の投与や硬膜外麻酔は、できるかぎり避けるべきである。そうすれば、新生児は、なんら妨害がな
ければ、母親の乳房まで這い上がり、自分でくっついていき、まったくの自力で吸啜を始めるようになる。
4.新生児室は閉鎖すべきである。母親か子どもに病気がなければ、たとえ短期間の入院であっても、新生児
は母親のそばにいて、母児同室形式をとるべきである。新生児室の一部は、母親が病気の場合、その子ど
ものために利用すればよい。
5.母親全員に対し、産後一時間半以内に母乳哺育を開始し、しかも頻回に授乳するよう勧め、全産科病院は
UNICEF の BFHI(赤ちゃんにやさしい病院)を開始すべきである。
9.公的医療保険下での「安全で満足な妊娠出産」と「質の高い正期産新生児への医療」
のための包括的制度設計(グランドデザイン)
1)
「安全で満足な妊娠出産ケア」
「安全で満足な妊娠出産ケア」とは、
「医師との協働のもとで、母児の安全を守るための適切な医療処置や、産
婦が主体的に出産する姿勢を尊重したものである。さらに、産婦の産む力を最大限に引き出し、妊娠や分娩を正
常に経過させるために心身のケアや生活を整えることが重要である。このような自然分娩への援助は助産師が居
ることによって提供される。
」とされている。
厚生労働科学研究費補助金「科学的根拠に基づく快適な妊娠・出産のためのガイドラインの開発に関する研究」
の調査及び海外の RCT によると、助産師が分娩介助などを担当したローリスク産婦では、医療介入が産科助産師
の分業チームまたは産科医によるローリスクの対照群よりも少なく、助産師による分娩介助の安全性を否定する
証拠はなく、産婦の満足度は助産師グループの方が高かった。
土屋らの助産所分娩希望症例 901 例を対象とした調査によると「妊娠初期には、助産所には診療所、個人病院
と同等のリスクを持った妊婦が集まる。助産所症例の妊娠経過・分娩予後は、新生児管理症例に注意を要するも
のの、助産所症例には低リスク群のリスク上昇が少なく、産科手術症例が少ない。
」という結果であった。
また、助産師による妊娠出産ケアは、医療介入が少なく、満足度も高く、費用対効果もあるとされている。イ
60
ギリスの調査によれば、調査対象の妊産婦に対する平均的な経費節約は、約 12.38 ポンド(日本円で 2,203 円、2015
年 1 月 28 日レート)であった。もし、助産師主導のサービスが英国の女性(本調査対象に該当)の 50%に普及すれ
ば、推定される主要な規定の結果は、総額年間で 1.16 万ポンド(1.16 億円)の経費節減となるとされた。また、
オーストラリアの 2000 人の母親を対象とした調査では、助産師が取り扱う母親は、医療介入、帝王切開、無痛分
娩が少なく、入院期間が短縮され、出生児への支出はあるものの、平均 566.74 オーストラリア・ドル(52,808 円)が節約
できたとされている。
http://www.midwiferyjournal.com/article/S0266-6138(12)00037-X/pdf
http://www.healthline.com/health-news/women-midwife-care-during-pregnancy-safe-and-cost-effective-09191
3#1
2)
「安全で満足な妊娠出産ケア」と医療介入による公的医療保険上の経済的不整合
イギリス、オーストラリアのように、公費で医療、分娩が行われている場合は、医療の質を上げ、医療費を抑
制することは、医療を受ける国民、医療費を負担する国、医療を担う医療機関など全ての利害関係者にとって不
利益はない。
妊産褥婦、新生児を対象とした産科医療は、異常の早期発見のための健診と共に、正常に経過して、合併症を
少なくし、障害を残さぬようにするためには、医療介入は必要時最低限にする必要があることは自明の理である。
しかしながら、日本の医療制度では、医療介入の減少は、医療機関の減収を意味することもあり、特に自由診療
の中では、その医療機関や医師の裁量で経費節減のために、医療介入を減らせる助産師を雇用せずに分娩を助産
師以外で行い、増収の目的で医療介入する施設があることも事実である。現金給付による産科医療の中では、質
が保障されていなくても安定した収入が得られるため、医療を受ける女性や子どもには実は不利益な医療が提供
されていたとしても、現行の仕組みのままでは、その医療機関は存続し、医業を継続することができる。実際、
コスト高の助産師の求人をしない医療機関があったり、原則、全例計画出産をしたり、全ての新生児を生後 2 時
間保育器に収容している施設もある。
既存の日本の医療制度上で、産科医療、正期産新生児に対する医療を公的医療保険化することは、国、国民に
とっては利潤のあることでも、医療機関、特に診療所の経営者にとっては不利益につながりやすく、このことが
長年、日本における産科医療への公的医療保険化を阻み、助産師による 1 対 1 の妊娠・分娩・産褥のケアが事実
上、標準化されてこなかった理由であると考えられる。また、現行の仕組みでは、公的医療保険化によって、今
まで以上に医療介入が増え、医療費が増大することが懸念されるため、市民にとって真に有益な質の高い医療に
こそ高い加算が行われるような「質の向上と医療費抑制」が同時に好循環する仕組みを構築する必要がある。
3)公的医療保険下での「安全で満足な妊娠出産ケア」と「質の高い正期産新生児への医療」のための制度設計
イギリスには「NICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)
」という組織がある。これは、
NHS(National Health Service)における独立組織で、医療の効率を上げつつ、質も向上させ、全体の標準化を
図ることを目的としている。主要な機能は以下の 3 つである。
①ある一定の病気や症状に関連した診療指針を作成する「診療ガイドライン・プログラム」
:最大の仕事。現在考えられる、最も良い診療行為をまとめる。
②1つの医療技術に関してその医療効果や経済効果をまとめる「診療技術評価プログラム」
③手術や手技に関する効果などをまとめる「介入的プログラム」
イギリスの医療は公費、つまり税金を財源とする特徴があり、日本のような社会保険制度とは異なるが、社会
保障費・医療費増大と少子高齢化の中にあって、
「質を上げ、効率化を図る」ことは日本でも重要な課題である。
今回、政策提言する「正期産新生児を公的医療保険化」する際、同時に「正常分娩を公的医療保険化」する必要
もあるが、大正 11 年以来 90 年以上も「現金給付・自由診療」という形を継続して制度を変更するにあたり、イ
ギリスの手法を公的医療保険と連動させることで、
「安全で満足な妊娠出産ケア」
「質の高い正期産新生児の医療、
そして「質の高い、効率のよい産科医療」を同時に実現することが可能であると考える。
イギリスには NICE による「分娩時ケアガイドライン」があり、医療現場で応用されている。中医協で診療報
酬の審議が行われる際、日本版「分娩時ケアガイドライン」
「正期産新生児ケアガイドライン」があれば、市民の
幸福及び公益を考慮した診療報酬体系を設計する根拠になると考える。そして、正常分娩や正期産新生児の診療・
ケアをガイドラインに基づいた公的医療保化することにより、
「あるべき姿」へ誘導することが可能になると考え
る。
ガイドラインの発行と配布については、イギリスでは以下の 4 種類のガイドラインを発行していて、病院・診
61
療所へ無料配布され、インターネット上でも無料公開されている。
〈ガイドラインの種類〉
①完全型診療ガイドライン
②NICE 診療ガイドライン :完全型診療ガイドラインの推奨部分抜粋
③ポスター・パンフレット:診療所や病院の壁に貼付、診察机に設置。一目でわかる工夫。
④患者・一般市民用ガイドライン:インターネット上で公開、病院などへ配布
〈ガイドラインの特徴〉
a.どのような対象にもわかりやすい
b.使いやすい状態
c.常に最新
また、
「分娩時ケアガイドライン」作成メンバー構成は、下記の通りであるが、メンバー選考の際の基準を以下
の通りに設定している。
〈ガイドライン作成メンバー選考基準〉
①幅広い分野の専門家の参加
②地理上のバランス
③客観性
④実際の診療に携わる専門家の参加
⑤研究費授受の透明化
⑥秘密厳守
⑦学術論文発表の承認
⑧適正な人数による議論
表 12 NICE 分娩時ケアガイドラインのメンバー構成
*医療関係者は、関連団体からの候補者名簿、履歴書、小論文を提出をもとに共同研究所側で選考
議長
1名
産婦人科医
3 名(大・中・小規模病院から各 1 名)
助産師
3名
(大病院分娩室勤務者、大病院 Birth Center 勤務者、助産院勤務者 各 1)
新生児科医
1名
麻酔科医
1名
患者・消費者代表
3名
方法論専門家
5名
合計
17 名
1名
外部専門家 母性心理学者
日本版ガイドラインができれば、一般市民でも「標準化されたケア」を常に確認することができ、公的医療保
険化されると発行される「診療報酬明細書」と自分が受けた医療とを照合させながら、市民目線でのケアの質の
評価や社会や医療機関へのフィードバックも可能となり、市民の監視のもとで、市民のための医療が実現しやす
くなると考える。また、国や各自治体においては、国や地域の医療整備計画の政策立案者にとっては、ガイドラ
インは、医療政策上も有効な指針になると考える。更に、ガイドライン作成メンバーが中医協での審議委員とな
れば、公平・中立な協議が可能となると考えている。
4)新生児からの社会保障番号制度(マイナンバー制度)と「子ども家庭省」の創設
公的医療保険化するにあたり、診療報酬体系の中に「新生児を社会保障番号制度に登録すること」を盛り込み
たいと考える。これは、
「無戸籍児」の問題解決と同時に、全ての子どもたちを漏れなく支援できる体制づくりを
することが主目的であるが、公的医療保険化された新生児の転帰を知り、医療政策上の指標やデータベースとし
て活用するためでもある。
62
更に、将来的に、
「子ども家庭省」を創設し、医療・福祉・教育などについて子どもに関連する諸機能を一元化
して管理することを提案する。この省は、疫学部門も設置し、日本の全ての子どもの実状が把握、分析され、政
策に生かされる機能をも保持する。社会保障番号制度の内容は最終的にはここで管理される。同時に、この機能
は、各都道府県でも「子ども家庭局」という下部組織でも保持され、地域で生活する子どもの実態をより正確に
把握、管理できるようにする。
「子ども家庭省・局」で得られた調査結果、研究内容は、ガイドラインの改訂や国
や地域医療整備計画などに活用できる。
5)本章のまとめ
「安全で満足な妊娠出産ケア」
「質の高い正期産新生児医療・ケア」は、公的医療保険が中核的原動力となり、
あるべき姿に導かれる。ガイドラインは、公的医療保険を真に市民の幸福のためのものにすることを保障するた
めの重要な「前提」であり、地域医療整備計画による医療の供給で補完され、社会保障番号制度による調査結果
により評価、フィードバックされる。
図 23 公的医療保険下での「安全で満足な妊娠出産」と「質の高い正期産新生児への医療」のための
包括的制度設計(グランドデザイン)
「ガイドライン」
(市民が作成に参画、市民の実態)
「公的医療保険」
「地域医療整備計画」
(市民に可視化される)
(市民の地域の実情に応じ
「社会保障番号制度」
(市民の実態)
母子保健統計指標の数字上の好転を周産期医療の質の高さによる目標達成と自負してきた日本の産科医療にと
って、事実上の質の改善については 20 年以上前から WHO をはじめとする国外からの勧告があり、15 年前の時
点で「日本は、根拠に基づき、人間的で真に現代的なマタニティサービスを発展させる上で、他の多くの国に少
なくとも 10-15 年遅れている。
」と指摘されていた。今日、出生数が減少している中で、実働助産師数が大幅に増
加している結果となっていないことや正期産新生児がいまだに母親の附属物としての扱いを受けていること、一
向になくならない新生児室の存在などは、15 年後の現在も産科医療の本質的な改善はなされていないと考える。
国の借金の増大、社会保障費・医療費の増大の中で少子化対策を講じる必要のある日本の現状を鑑みると、既存
の制度や枠組みを超えて、グローバリゼーションな思考で、一医療機関の収益以上に国益を最優先にして、市民
目線での本質的な産科医療の質の向上を図ることを、社会全体で真剣に考える時期にあると考える。
63
10.公的医療保険化する時の課題
〇人材確保 ~助産師の継続就業~
今回の政策提言では、人材の確保、特に助産師の確保は重要である。就労助産師数は増加傾向ではあるものの、
継続就業が困難で、潜在助産師が多いことはかねてから課題となっている。
図 24
一方で、オーストラリアでは、継続就業により層の厚い人材の確保が実現できている。正常分娩は、助産師が
担っている国であるが、基礎教育の充実(分娩介助は 3 年間で 30 例など)や、資格更新時の業務実績の報告や研
修制度、これらに裏付けられた社会的地位の高さと賃金の高さ(例:
(オーストラリア)公立病院勤務助産師 2
年目給料総額 5,5000 ドル≒513 万円、
(日本)某元・県立病院助産師初任給・諸手当込 322 万円)は、継続就業を
実現できている理由であると考える。更に、継続就業を可能にできる就労環境があり、長時間労働の回避や休日
のとり方(週 2 日休日、夜勤 4 日すれば週 3 が休日。週末国民休暇にも働くシフトでは有給休暇は 1 年に 6 週で
未消化分は離職時支払いのため取得勧告あり、など)など、男女共に医療施設に関わらず、継続就労できる環境
整備が充実していると思われる。新規就業しても、離職し復職せず、潜在助産師となる方が多い日本において、
参考にする点は多くあると考える。
なお、オーストラリアでは将来の出産見込みに基づいて推定した助産師必要人数に応じて、大学受け入れ数を
算定している。
64
図 25 オーストラリア看護師・助産師 年齢別一般登録状況 (2014 年 6 月)
http://www.nursingmidwiferyboard.gov.au/About/Statistics.aspx
11.地域包括周産期医療・母子保健モデルからみた「産科医療」
1)
「H-PAC 版 正期産新生児のための地域包括周産期医療・母子保健モデル」
産科医療は、地域の公的サービスの一つであり、担い手である医療従事者は、その地域の住民自身か住民に対
してその社会的役割を果たす者である。産科医療、周産期医療のあり方は、その地域で生まれ育つ子どもや女性
の健康度を左右する可能性の高い公的サービスである。
今回、厚労省により 2014 年 10 月から始まった「妊娠・出産包括モデル事業」の中の「産科医療機関」の位置
づけと関連機関の果たすべき役割を、
「H-PAC 版 正期産新生児のための地域包括周産期医療・母子保健モデル」
とし、推奨施策として提示した。これは、正期産新生児を公的医療保険化することで達成される目標を地域で補
完しながら、切れ目ない支援を目指したものである。公的医療保険化することで産科医療、正期産新生児に対す
る医療が可視化され、市民が医療の実態を知る中で、市民目線での監視を行い、地域の実状に応じた市民のため
の医療を実現することを最終目的とするものである。同時に、市民のリテラシー向上にも寄与することを期待し、
提案した。
2)
「ネウボラ(厚労省:妊娠・出産包括支援モデル事業)
」実施自治体アンケート結果より
平成 26 年度より厚労省は「妊娠から出産、子育て期までの切れ目ない支援を行うための妊娠・出産包括支援モ
デル事業を母子保健医療対策等総合支援事業により実施する」ことを目的として、妊娠・出産包括支援モデル事
業を実施している。
この事業では、モデル事業に包含されている産科医療機関の地域母子保健上の機能については指定されていな
い。今回、関係自治体にアンケートを行い、事業開始後の地域からの産科医療機関に対する意見を聴取したので、
報告する。
65
表 11 妊娠・出産包括支援モデル事業 自治体アンケート結果 (表中 A は各 Q:質問内容に対応)
Q1:妊娠出産包括支援モデル事業の進捗状況
Q2:妊娠出産包括支援モデル事業がもたらす波及効果
Q3:今後の事業継続の見通しについて
Q4:妊娠・出産包括的支援モデル事業における周産期医療の在り方について
自治体
担当課・担当者
横浜市
こども青少年局
こども福祉保健部
こども家庭課 親子
保健係
川崎市
子供本部 子供支援
課 子供家庭課
神戸市
こども家庭局
こども家庭支援課
回答内容
A1
A2
平成 26 年 4 月開 妊娠中から産後
始
の不安定な時期
に必要な支援が
受けられ、
安心し
て子どもを産み
育てられるよう、
相談体制や母子
保健の充実が図
られる。
平成 26 年 10 月 家族等から十分
から平成 27 年 3 な家事・育児等の
月まで、妊娠・出 援助が受けられ
産包括支援モデ ず、育児支援を必
ル事業として、
母 要とする妊産婦
子保健相談支援 を対象に
事業、産前・産後 本事業を実施す
サポート事業、
産 ることにより、
地
後ケア事業
(宿泊 域における切れ
型・アウトリーチ 目ない妊娠・出産
型)の 3 事業を 支援の強化を図
実施。
る。
母子保健相談支
援事業
(母子保健
コーディネータ
ー)
:母子健康相
談事業として実
施中
産前産後サポー
ト事業(パートナ
ー型):思いがけ
ない妊娠 SOS
平成 27 年 2 月 27
日開設予定
産後ケア事業(宿
泊型・デイサービ
ス型):産後ケア
事業 平成 27 年
11 月 4 日開始
A3
平成 27 年度継
続実施予定
A4
現在の周産期医療を
前提に事業を行って
いる。
検討中
本事業を通じて、事業
委託先の川崎市助産
師会、各区保健福祉セ
ンター、周産期医療機
関などの関係機関が
連携することで、より
早期に支援の必要な
子育て家庭の情報が
把握できる体制を整
備する。
別紙「妊娠出産包 平成 27 年度継
括支援モデル事 続予定
業の取組事例」
参
照(厚生労働省
HP 掲載予定)
66
妊娠・出産包括的支援
モデル事業は母子保
健事業として実施し
ており、周産期医療と
の連携は必要である
和光市
保健福祉部
福祉政策課
ネウボラ事業は、
国のモデル事業
として平成 26 年
10 月から実施。
主な事業内容は
以下のとおり。
①マネジメント
型
・子育て世代包括
支援センターの
機能強化
(総合相
談調整機能の充
実)
・母子保健コーデ
ィネーター及び
子育て支援コー
ディネーターの
配置
◎ネウボラ事業
により、
市保健セ
ンター及び上記
支援センター(ネ
ウボラ拠点)にお
いて母子健康手
帳の交付を行い、
出産・育児等にリ
スクを有する者
を早期に発見す
るため、
母子保健
コーディネータ
ーによるアセス
メント及び相談
支援を実施
◎個別ケアプラ
ンの作成により、
課題解決と自立
に向けた目標を
設定し、
プランの
実行による切れ
目のない包括的
な支援を実現す
る。
②サービス提供
型(個別支援)
・
ショートステイ、
デイケア、
訪問型
産後ケア
(看護ケ
ア・ヘルパー型)
、
新生児一時保育
(生後 57 日以
(1) 母子保健コ
ーディネーター
を中心とした他
制度他職種のチ
ームケアと、これ
らを包括的に支
援するコミュニ
ティケア会議に
より、あらゆるケ
ースに対してシ
ームレスなマネ
ジメントが可能。
(2) ネウボラ拠
点での母子健康
手帳交付時に、
母
子保健コーディ
ネーターが課題
のアセスメント
を行うことによ
り、リスクを早期
に発見すること
ができるため、
リ
スク者に対する
早期のケア投入
と課題解決に向
けたアウトリー
チ的な対応が可
能。
(3) 基本的に 1
人の母子保健コ
ーディネーター
が学齢期に達す
るまで支援に関
わるため、
ハイリ
スク者に対する
適切な対応と、
小
学校移行までの
継続的な支援が
可能。
(教育委員
会との連携によ
り、入学までに解
決する課題と、
小
学校に承継する
課題を明確にす
る。
)
(4) コミュニテ
ィケア会議を通
じた組織・制度の
縦割りと横割り
(年齢による支
67
平成 26 年度は
国のモデル事業
としての実施で
あるが、平成 27
年 4 月施行の子
ども・子育て支
援事業計画(平
成 27 年度~31
年度)において、
地域子ども・子
育て支援事業の
一環となる「わ
こう版ネウボ
ラ」事業を継続
的な取組として
掲げており、計
画的にマネジメ
ント拠点の整備
と母子保健コー
ディネーター等
の配置を行うと
ともに、サービ
スの必要量の分
析に基づき事業
の供給量及び提
供体制を構築す
ることを定めて
いる。
産前のケア、産後のケ
ア及び産婦人科・小児
科との間で、連続性を
持ったデータの引継
が行われることを前
提に、母子保健コーデ
ィネーター及び地域
ケア会議による行政
との連携を図ること
が不可欠であると考
える。
また、支援に必要なケ
アに対して迅速にア
クセスすることが可
能となる体制を構築
し、行政との連携にお
いて、周産期医療機関
が、支援を必要とする
ケースに対して入退
院の必要性の判定を
行うとともに、退院後
に必要な医療を小児
科や生活の場へと引
き継ぐことが重要で
ある。
下)
援の分断)
の解消
※上記の他、集団
支援型の事業と
して、従来の産
前・産後サポート
事業(教室等)を
実施
神戸市「妊娠出産包括支援モデル事業の取組事例」
68
〈分析〉
地域で安心して子どもを産み、育てられる環境を整備するために、周産期医療機関も含めた切れ目ない支援を
提供できるよう運営されていると考えられた。
12.推奨施策 【巻末資料】
A.
「H-PAC 版 質の高い産科・正期産新生児医療の基準」
B.
「H-PAC 版 正期産新生児のための地域包括周産期医療・母子保健モデル」
A.公的医療保険化される際に、標準的な医療の指標となる内容を示したものである。
B.地域での切れ目ない母子の支援のために必要な医療機関はじめ、関連機関の機能について、H-PAC で検討
した内容を示したものである。
13.政策提言
1)出産育児一時金を廃止し、正常分娩及び正期産新生児を公的医療保険化して、現物給付とする
必須施策として以下の内容を設定する。
・分娩取扱い施設に助産師の配置基準を設けること
・正期産新生児に助産師・看護師の配置基準を設けること
・分娩取扱い施設に特化した安全管理基準、感染管理基準を設けること
・公的医療保険化する際に、正期産新生児の標準的な医療の指標を「推奨施策」を参考に検討する
2)公的医療保険化のための準備
標準的な医療の内容を検討するにあたり、妊産婦・新生児にとって最善の利益となり、効率のよい内容とする
ために、公正・中立な視点で「ガイドライン」を作成する。作成にあたり、当事者である市民が構成員となる
よう考慮し、情報公開を行う。
3)公的医療保険化の評価
社会保障番号制度を新生児から対象として、正確な実態をもとに客観性のあるデータに基づいた医療の評価と
改善策が実行される仕組みを構築する。
4)その地域での分娩取扱い施設のあるべき姿を目指す
ハイリスクに限らず、全ての分娩取扱い施設が地域で「安全・安心なお産ができる役割を担う機能」が果たせ
るよう、地域内で施設を評価、支援できる医療整備計画を検討、実行する。
国、及び各自治体の周産期医療整備計画では、その対象を正常新生児とハイリスク新生児を分けず、連続的な
存在として策定する。
69
図 26 正期産新生児の医療を公的医療保険化した場合の施策と指標マップ
国際基準並みの人員配置
NCPR 資格認定者数
安心安全なお産が
全国で実施される
ガイドライン順守施設数
感染防止対策標準化
14.考察
現状の周産期医療制度は、ハイリスク児に特化した医療提供体制である。2025 年問題を抱える日本の現状にお
いては、正期産新生児に対する医療体制の均てん化、標準化は不可欠であり、住み慣れた地域で安心してお産が
できる環境整備に直結する重大な課題であると推測する。フィンランドのネウボラに代表される、国策で産前、
産後、女性就労体制、保育環境までワンストップで対応している諸外国の現状を今後の日本の医療提供体制の模
範として、登録制度、ガイドライン作成方法、医療保険における対応拡充が、日本の抱える少子化対策の打開案
となり得ると推測する。今後も、実態調査などを実施し、研究及び調査結果を公開することで、市民のリテラシ
ー向上を図り、市民主導での政策提言活動を継続する方針である。
15.まとめ
正期産新生児に事故が起こっていることは事実であるが、自由診療・現金給付の制度下では、全ての実態は判
明していない。ハインリッヒの法則に沿って考えれば、ニアミスによる事例も含めれば、実態は膨大な件数であ
ると共に、深刻であることが想定される。その時に、そばで見守ってくれる人がいれば、正しく医療が行われて
いれば、救われた新生児の命や防ぎ得た障害が多数存在する可能性がある。制度を変更することは、多大なエネ
ルギーを必要とすることである。長年、自由診療・現金給付で行ってきた正常分娩にまつわる種々の問題を解決
するには、既存の制度や、全く違う新しい制度設計で問題を解決できる方法があるかもしれない。しかしながら、
新生児が生まれる病院・診療所・助産所全ての分娩取扱い施設全体の質の底上げを行い、効率化を測り、更に質
の高い医療機関を増やすためには「現物給付の保険適用」にすることが最適だと考える。
※「ハインリッヒの法則」
労働災害における経験則の一つである。1 つの重大事故の背後には 29 の軽微な事故があり、その背景には 300
の異常が存在するというもの。
70
謝辞
本研究の遂行にあたっては数多くの方々のご協力・ご指導を賜りました。ここに心より深謝申し上げます。
特に、ご多忙の合間を縫って取材・インタビュー等にご協力をいただきました以下の皆さまに、お名前を記し
て感謝申し上げます。また、言うまでもなく、本論文中のすべての誤りは筆者らの責に帰するものです。
浅井 宏美 様 (聖路加国際大学大学院 看護学研究科)
阿部 剛 様 (和光市 保健福祉部 福祉政策課)
網塚 貴介 先生(青森県立中央病院 新生児科部長)
荒井 英恵 様 (土屋産婦人科 助産師)
植田 理恵子様 (オーストラリア在住 公立病院勤務助産師)
エクランド 源雅子 様 (バンダビルド大学 新生児 NP)
勝村 久司 様 (
「産科医療保障制度」再発防止委員会委員、H-PAC メンター)
河合 蘭 様 (ジャーナリスト)
河野 明 様 (赤ちゃんの急死を考える会)
北島 博之 先生(大阪府立母子保健総合医療センター 新生児科主任部長)
久保田 信吾 様 (川崎市こども本部こども支援部こども家庭課)
黒澤 かおり 様(助産所とうみ 助産師)
小暮 かおり 様(東京大学医学系研究科 助産師)
小沼 まこ 様 (長野県立こども病院 新生児病棟・保育士)
小山 義夫 様 (赤ちゃんの急死を考える会)
沢田 みのり 様(まつしま病院 経理課)
熊田 梨恵 様 (ジャーナリスト)
豊野 奈津美 様(まつしま病院 超音波検査技師)
橘 弘美 様 (神戸市こども家庭局こども家庭支援課)
ノーラ・コーリ 様 (アメリカ在住、海外出産・育児コンサルタント)
深尾 有紀 様 (長野県立こども病院 新生児集中ケア認定看護師 新生児病棟副師長)
福井 トシ子 様(日本看護協会 常任理事)
中村 友彦 先生(長野県立こども病院 副院長)
森 臨太郎 先生(国立成育医療センター 研究所・政策科学研究部長)
安河内 聰 先生(長野県立こども病院 循環器センター長)
横西 哲 先生 (横西産婦人科 医師)
横浜市こども青少年局 こども福祉保健部こども家庭課 親子保健係 担当者様
H-PAC3 期周産期医療チームのみなさま
※五十音順、肩書等はインタビュー実施日時点のもの
71
巻末資料
72
資料 1 推奨施策
推 奨 施 策 A .「 H - P A C 版 質 の 高 い 産 科 ・ 正 期 産 新 生 児 医 療 の 基 準 」
【推奨施策A-1】
正期産新生児の安全管理基準
〈初期アウトカム〉
医療安全管理者は、正期産新生児のための安全管理基準
の整備と順守における責任を負う
1)新生児室の環境整備と人員配置
2)母児同室中の安全管理:転落、窒息の予防手順
3)災害対策
4)安全管理担当者(委員会)の設置
新生児の担当者がいる
1)分娩時に専属。出生から最低2時間は集中的に経過観察。
2)早期母子接触ガイドラインの順守。
3)入院中、各勤務帯で担当者がいる。
NCPR(新生児心肺蘇生法)
1)分娩時に最低1名はNCPRができる職員を配置。
2)研修
緊急時の対応
1)蘇生物品の整備と点検(薬品、器材(搬送用保育器含む)
2)院内での対応手順の明文化とシミュレーション。
3)院外施設への転院・搬送時の手順の明文化と
シミュレーション。
4)記録の整備。
胎児期の安全管理
1)緊急帝王切開
「30分ルール」が実施できるための
手順の明文化とシミュレーション、人員配置(手配)
2)産婦人科診療ガイドラインの順守
(特に)陣痛促進剤の適正使用
分娩監視装置の適正使用
3)母体異常時の専門家との連携
同意書の取り交わし
周産期救急対応の明文化とシミュレーション
研修(ALSO:周産期救急トレーニング など)
4)分娩~出生後の新生児の小児科対応についての
明文化と説明、同意書の取り交わし
5)超音波スクリーニングの標準化
同意書の取り交わし
検査項目の標準化と正確な実施
異常時の対応(含:他施設への紹介)
6)母体の安全、安心、快適なお産環境の整備
:助産師による1対1ケアと継続的な情緒的支援が常にある
7)妊娠中からの出生後の母乳育児準備
(下記標準医療に先立って)
(1)母体に対して妊娠中からの母乳育児に関する知識の
提供や乳房ケアなどの支援
(2)母体・胎児共に合併症のある場合の母乳育児について
の小児科、専門医との連携と具体的支援の計画、職員間
での情報共有
正期産新生児医療の標準化
1)診察
(1)生後24時間以内の系統的診察、
(2)入院中の日々の診察
(3)退院前診察:黄疸、先天性代謝異常スクリーニング
聴覚スクリーニング
(4)重篤な先天性心疾患のスクリーニングとしての
パルスオキシメトリを生後24時間以後退院までに
SpO2測定
(5)2週間健診
(6)1か月健診
2)処置・ケア
(1)母児同室
(2)母乳育児
①出生後30分以内の直接授乳への支援
②個別性に応じた母乳育児支援方法の職員間での共有・
統一
③母乳育児に関する院内外での研修への参加
(3)退院前説明と調整
①地域連携(サマリー)
②社会保障番号(マイナンバー)制度への登録
3)退院後(1か月まで)
(1)母乳外来
(2)相談:電話訪問・相談
(3)地域母子保健事業との連携(新生児訪問など)
〈中間アウトカム〉
管理上の問題に起因した
事故がなくなる
〈最終アウトカム〉
1.正期産新生児は、環境の状態によらず、親の状態に
よらず、質の高い周産期医療を享受し、幸せな人生の
スタートを切ることができる
2.正期産新生児は、母親の附属物としてではなく、
一人の人として尊重される。
新生児の継続管理により、
異常の早期発見
3.正期産新生児は、家族かそれに替わる親密な養育者と
及び対応が迅速に実施できる 共にいられる
低酸素症の回避により
神経学的後遺症が
低減できる
異常時には早期且つ適切に
改善策が実施可能となり、
後遺症を低減できる。
母体の状態悪化に起因した、
胎児機能不全が予防でき、
合併症が低減できる。
胎児期の異常の早期発見
により、専門家による
適切な対応が実施され、
予後が改善できる。
異常の早期発見により、
専門家による適切な対応が
実施され、予後が改善できる。
新生児は母乳栄養により、
健全な成長・発達と
母子関係の安定が図られる。
家庭における、新生児の異常
の早期発見と対応を家族が
適切に実施することができる。
新生児の家族は、安心して
家庭での育児を開始し、
安定的に実施することが
できる。
73
【推奨施策A-2】
正期産新生児の感染管理基準
初期アウトカム
感染予防
1)環境整備の手順の整備と順守
2)感染予防担当者(委員会)の設置
3)研修
ユニットマネジメント
1)原則個室管理
2)混合病棟の場合、
「混合病棟ユニットマネジメント・ガイドライン」
を参考に人員配置、環境整備を実施。
3)分娩後早期からの母児同室
感染症発生時の対応
対応の明文化
・院内での対応:感染症拡散防止策
・各種感染症の対応の明文化と適正実施
(遅延なき転院など) 中間アウトカム
院内感染が予防できる
最終アウトカム
1.正期産新生児は、環境の状態によらず、親の状態に
よらず、質の高い周産期医療を享受し、幸せな人生の
スタートを切ることができる
2.正期産新生児は、母親の附属物としてではなく、
一人の人として尊重される
感染症に起因した神経学的
後遺症がなくなる
74
推 奨 施 策 B. 「 H - P A C 版 正 期 産 新 生 児 の た め の 地 域 包 括 周 産 期 医 療 ・ 母 子 保 健 モ デ ル 」
*=発展施策:本政策提言実現以後、展開したい施策
初期アウトカム
A:産科医療施設
1)「H-PAC版 正期産新生児のための質の高い産科・新生児医療」の
基準を満たしている
2)地域連携
(1)Bとは新生児訪問までに情報共有し、訪問の結果も共する
(2)特に要支援対象者については各期で重点連携
①妊娠・入院中 ②退院から生後1か月
3)分娩場所集約化時
担当助産師が分娩施設へ付き添い、サポート。
産後も支援(退院後の産褥入院への対応)。
B.女性健康支援センター
(女性と子どものためのワンストップセンター)
1)人員配置:有助産師資格保健師、助産師、保健師、
子ども子育て支援員、MSW、臨床心理士
2)地域連携
(1)妊娠期からA、Cと随時情報共有
(2)定期的にケース会議主催。
(3)新生児訪問
(4)子ども子育て支援員ステーション機能
①研修 ②活動調整(マネジメント)
③妊産褥婦と支援員のマッチング
(特に要支援妊産褥婦は早期に引き合わせ)
④「子ども子育て支援員」
所属:センター 財源:自治体
資格:研修受講後、活動。
機能:退院後の家事・育児ヘルパー。
訪問結果報告。
(5)他部門との連携:乳児院、養子縁組、児童相談所
(6)思春期支援(教育機関との連携)
性教育、食育 など
(7)従来の保健所機能:母子手帳の発行、乳児健診事業など
*産褥入院期間が3日間になった場合
(8)産後1週間(4-7日目)までの訪問・健診
:沐浴、母乳育児支援などを含む
(9)産褥入院
:4-7目までは公費、8日目以後は一部助成か私費。
※DV被害者女性の緊急避難入院場所としても活用
C.役所
1)人員配置
住民課、戸籍課などに母子担当者配置
2)市民による地域連携監視機関設定
周産期医療・母子保健包括関連機関の市民による監視のための
調査、報告事業
*マイナンバー制度が導入された場合
3)新生児の記録保管 産科医療施設からのサマリーを18歳まで保管。
全国共通様式。
里帰り出産の場合、記録転送可能。
D.地域・総合周産期センター
1)人員配置
地域教育担当者の配置
(新生児集中ケア認定看護師、新生児科医)
2)教育
(1)実務研修を含んだ講習開催
最新の周産期・新生児医療の知識・技術
(NCPR、産科救急など)
(2)対象
地域の医師、助産師、看護師、小児科医
(3)周知教育のための工夫
補助金整備
センターから地域産科医療施設へ出向か勤務補助
3)連絡協議会
(1)搬送・転院事例についてのケース会議
(2)年次報告
(3)地域周産期医療・母子保健事業関連事業者間での
活動報告・調整
E.開業小児科医
1)Dにて新生児医療の実務研修を含んだ講習受講
2)地域の産科医療機関と相互連携し、健診など必要時 連携、実施。
3)地域のかかりつけ医として出生時から支援
F.地域の開業医(特に外科)、二次以上医療機関
1)Aと地域の医師会内で定期的に連携し、
緊急帝王切開時、母体異常時などの対応(助手機能、
麻酔科対応、輸血対応など)時の後方支援体制を整備しておく。
*2)24時間365日の支援が可能な、地域内での担当医・
医療機関のシフトを整備。
中間アウトカム
最終アウトカム
正期産新生児は、地域との切
れ目ない支援により、家庭で
の胎児期から新生児期の適
切な環境調整が行われ、
健全に成長・発達することが
できる。
正期産新生児は、地域、国を含めた
社会全体で責任をもって切れ目なく
支援されることにより、健全で
幸せな生活が保障される
正期産新生児は、分娩施設
との切れ目ない支援より、
安全に出生し、適切な育児
支援を受けることができる。
正期産新生児には、有機的
連携(顔がみえる関係)
による有効な支援が適切に
実施されることにより、
心身の異常への早期対応、
虐待の予防・早期介入が
実施される。
非妊時からの支援により、
健全な胎内環境を整え、
妊婦健診の適切な勧奨を
促進できる。
出生時から全国で切れ目ない
子どもへの支援ができる。
子どもに対する、公正・中立な
支援が提供される。
正期産新生児は、最新の
周産期・新生児医療の知識と
技術に対応できる専門家の
支援により、安全に出生し、
健全に成長・発達できる。
正期産新生児に異常がある
場合、広域での専門家の
支援と連携により、家庭や
地域での生活を安定且つ
円滑に営むことができる。
正期産新生児は、地域の
小児科医が出生時から
状態把握し、かかりつけ医
として長期的に医療的支援
を受けることができる。
正期産新生児は、母体も
含めた異常時への対応が
迅速且つ適切に実施される
ことにより、合併症を予防し、
母によりスムーズに育児が
開始される。
75
資料 2-1
76
資料 2-2
77
資料 3 「日齢月例別 乳児死亡数及び割合」
(
「母子保健の主なる統計 平成 25 年度刊行」母子保健事業団)
78
資料 4
〇ユニセフ「子どもの権利条約 前文より ~抜粋~」
この条約の締約国は、
国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い
得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであることを考慮し、
国際連合加盟国の国民が、国際連合憲章において、基本的人権並びに人間の尊厳及び価値に関する信念を改め
て確認し、かつ、一層大きな自由の中で社会的進歩及び生活水準の向上を促進することを決意したことに留意し、
(中略)
国際連合が、世界人権宣言において、児童は特別な保護及び援助についての権利を享有することができること
を宣明したことを想起し、
家族が、社会の基礎的な集団として、並びに家族のすべての構成員特に児童の成長及び福祉のための自然な環
境として、社会においてその責任を十分に引き受けることができるよう必要な保護及び援助を与えられるべきで
あることを確信し、
児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の
中で成長すべきであることを認め、
児童が、社会において個人として生活するため十分な準備が整えられるべきであり、かつ、国際連合憲章にお
いて宣明された理想の精神並びに特に平和、尊厳、寛容、自由、平等及び連帯の精神に従って育てられるべきで
あることを考慮し、
児童に対して特別な保護を与えることの必要性が、1924 年の児童の権利に関するジュネーヴ宣言及び 1959 年
11 月 20 日に国際連合総会で採択された児童の権利に関する宣言において述べられており、また、世界人権宣言、
市民的及び政治的権利に関する国際規約(特に第 23 条及び第 24 条)
、経済的、社会的及び文化的権利に関する国
際規約(特に第 10 条)並びに児童の福祉に関係する専門機関及び国際機関の規程及び関係文書において認められ
ていることに留意し、
児童の権利に関する宣言において示されているとおり「児童は、身体的及び精神的に未熟であるため、その出
生の前後において、適当な法的保護を含む特別な保護及び世話を必要とする。
」ことに留意し、
(中略)
極めて困難な条件の下で生活している児童が世界のすべての国に存在すること、また、このような児童が特別
の配慮を必要としていることを認め、
児童の保護及び調和のとれた発達のために各人民の伝統及び文化的価値が有する重要性を十分に考慮し、
(以下略)
資料 5
『
「Care in normal birth : a practical guide」正常なお産のケア 医学的に正しいお産を保証する 59 か条』
から「誕生直後の新生児のケア」について
・臍帯を切断するときに無菌状態にすること
・赤ちゃんが低体温に陥ることを防ぐこと
・母親と赤ちゃんが早期に肌と肌を触れ合って接触し、WHO の母乳育児のためのガイドラインに添って、産後 1
時間以内に授乳を開始できるようにサポートすること。
【ユニセフ/WHO 共同声明 母乳育児成功のための 10 か条】
1.母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること
2.全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること
3.全ての妊婦に母乳育児の良い点とその方法をよく知らせる
4.母親が分娩後、30 分以内に母乳を飲ませられるように援助すること
5.母親に授乳の指導を十分にし、
もし、赤ちゃんから離れることがあっても母乳の分泌を維持する方法を教える
6.医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと
7.母子同室にする。赤ちゃんと母親が一日中 24 時間、一緒にいられるようにすること
8.赤ちゃんが欲しがるときに、欲しがるままの授乳を進めること
9.母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えない
79
10.母乳育児のための支援グループを作りを援助し、退院する母親に、
このようなグループを紹介すること
資料 6
〇カナダ「Joint Policy Statement on Normal Childbirth」正常分娩のための共同声明
発行元
以下の機関・団体によって再評価、承認されたものである。
・カナダ産婦人科学会の実行・評議委員会(SOGC)
・カナダ女性の健康、産科新生児看護協会(AWHONN)
・カナダ助産師協会(CAM)
・カナダ家庭医協会(CFPC)
・カナダ地方医協会(SRPC)
1.正常分娩の全国診療ガイドラインは、母子保健を提供する全ての専門家の団体に対し、体制を規定するため
方針や診療上の信念(期待)を提示するために開発され、以下の構成要素を含むものである
・自然な陣痛発来
・分娩経過中に自由に動き回れること
・継続的な分娩期の支援
・慣例の医療介入がない
・その女性が好む体位で自然に怒責すること
・間欠的な聴診により、胎児の監視を行うこと
・施設は、陣痛緩和の選択肢として、薬理・非薬理的両方の手法を提示する
(入浴やシャワー、自然光(間接照明など)
、環境のデザインや適合、静かな空間 など)
2.学際的な委員会は、貢献する全ての分野の会員による全ての妊産婦ケアの見地から、正常分娩を扱う標準病
棟の方針を実行するために、立ち上げられた。
3.分娩教育者や妊産婦ケアの専門家に対する分娩の過程や根拠に基づいた診療についての知識や経験の普及促
進によって、女性やその家族は正常分娩について情報提供される。出生前準備では、陣痛や分娩の痛みに適
応するための実践的な方法に積極的に取り組むことが必要とされる。
4.ローリスクの全ての妊娠期の女性に対する自然分娩についてのディスカッションの機会や情報の提供につい
ては、不要な医療介入は母子のリスクを増加させるという情報も含む。
5.医療開業者や分娩ケアを提供する専門家における正常分娩の専門的な知識や技術の開発。
6.妊産婦ケアの専門家向けの正常分娩の協同教育の機会の創出。トレーニングプログラムや教育のねらいは、
科学技術的な介入なしで分娩をしたいと願う女性をサポートできるための信頼を築くことである。
資料 7
Council of International Neonatal Nurses (COINN)
一般新生児の看護ケアに関する提言。
国連は ミレニアム開発目標(MDG:Millennium Development Goal)の第 4 項目として、5 歳以下の小児の死亡
率を 2/3 に削減するよう、呼びかけています。乳幼児死亡 の 1/3 が新生児期に起こっています。また、そうした
新生児死亡の 3/4 が生後 1 週間以内 に、さらに、その1/3 が生後 24 時間以内に起こっています。 妊娠前から産
後のケア を継続的に行うために 経済的に比較的安価な 基礎的な介入を提供する事で、このよう な新生児死亡
の 40-70%を防ぐことができるとも言われています。
現在迄に 5 歳以下の死亡率減少への努力は大きな進歩をみせており、1990 年には 1,260 万人であった死亡数が、
2007 年には 900 万人まで減少しています。しかしながら、 予防手段となる介入方法がありながら、あまりにも
多くの乳幼児が死に至っているので す。 生後数時間から数日の間の、生理学的に不安定な新生児 に対し、死亡
を予防する という考えに基づいてケアを提供するということは、国連の提唱するミレニアム開発目 標を 達成す
80
る上で 大きな意義があります。米国小児科学会(AAP)と、米国産婦人科学 会 (ACOG)のまとめた周産期ガイド
ライン第 6 版によると、子宮外生活への適応期であ る、誕生から 6 時間、さらには 12 時間程の間において、細
心の注意を払った入念な観 察をすることを推奨しています。
近年、一般新生児室において管理される後期早産児の出生数が増加しています。このた め、新生児室で施される
べき十分なケアというものが複雑化していることも事実です。COINN の後期早産児への提言をご参照ください。
国際新生児看護協会(COINN)の目的は、 各国で不安定な期間の新生児を扱う看護師 らのグローバルな声とな
る事です。COINN は、現存する医療ケアの格差をなくすという努力の一貫として、以下にまとめる基礎的なケア
を健康な満期新生児のために指示し、推奨します。
1.各分娩において、新生児 1 人ずつに、担当スタッフ 1 人を配置する必要がある。新生児蘇生法を習得した医
師または看護師(または、新生児訓練を受けた何らかの医療者)が立ち会うこと。
2.訓練された専門職が、出生後に在胎週数、理学所見、バイタルサインを含 む、新生児の初期評価を行い記録
すること。同時にリスクを評価し把握する。少なくとも以下の項目が含まれる:後期早産児、不等軽量児(SGA)
、
母体糖尿病(IDM)
、母親の喫煙、薬物常用、周産期感染症の検査結果(梅毒、B 型肝炎、風疹、ヘルペス)発
生学的奇形など。後期早産児の場合は別 途ガイドラインを参照。
3.バイタルサイン、皮膚色、呼吸パターン、筋緊張、末梢循環、意識レベル、 活動性、以上の項目のアセスメ
ントを分娩後、最低 30 分ごとに行い、全ての項目が安定した時点からさらに 2 時間経過する迄続け、記録する。
4.初期評価や入院期間を通じて、母乳栄養の開始と愛着形成を進めるために、 継続的な母子の接触が可能な環
境でケアする事が望ましい。
5.低体温に陥らぬような温度環境を維持する事。 出生後速やかに拭き、ぬれた状態にしない、温める、ポジシ
ョニングへの配慮、服を着せる、Skin to Skin ケアを行う。
6.以下に示す項目に着いて継続的に評価し潜在的な合併症の可能性を観察し続 ける事。不安定な体温、活動性
の変化や、哺乳不良、皮膚色不良、心拍数や、呼吸数の異常や不整、腹部膨満、胆汁性嘔吐、過渡の睡眠、排
便(48 時間まで)や排尿の遅延(24 時間迄)
。このような評価の重要性を両親へ伝えておき、同室中に何かあ
れば、担当スタッフへ直ちに連絡をする事を指導する。訓練を受けた医療者は、入院中に定期的な乳児を観察
し、その機会 を活用して両親または家族への教育を強化する。もし異常所見を認めたなら、さらに専門的な医
療が必要な場合も有るため、医師等特別なケアを行う 医療チームへ報告。
7.入院に関しては、新生児を個人の患者として扱い、医療記録を作成し、各新 生児の状態や経過の記録を行う
事を義務づけるべきである。
8.新生児の医療記録については、各新生児のリスク要因の有無を記載する。
(母体の発熱、感染、後期早産児、低出生体重(LBW)
、SGA、梅毒、B 型肝炎、HIV、GBS,風疹の抗体価な
ど母体感染症の検査結果、5 分後の低アプガースコア、胎内での薬物暴露など)ハイリスク要因が認められる場
合に は適切な医療者に報告をするべきである。後期早産児の場合は COINN の後期 早産児に関する提言と診
療ガイドラインを参照すること。
9.社会的背景において、ハイリスク因子が明らか、又は疑われる場合には、ソシアルワーカーや、保健所や役
所などの社会福祉資源の協力を求めることが 望ましい。
10. 出生後、可能な限り、早期に初回授乳を行う。例えば、授乳開始が遅れる、 哺乳意欲がない、SGA、LBW、
後期早産児等の場合、施設のガイドラインに 従って、血糖値を測定し、低血糖の予防に努める。
11.ビタミン K 欠乏性出血症を予防するためにビタミン K の投与と淋病性結膜炎の予防の点眼薬を生後 1 時間
以内に投与する。
12.低体温に児が陥る事のないよう、体温の安定を確認した上で、注意して沐浴 を行う。LBW、SGA の児に
おいては特に注意が必要である。必要最小限の部 分の皮膚を出して行う等の技術を使って局所的な皮膚ケアを
行う等、過剰な 熱喪失による低体温を防ぐ配慮をするべきである。沐浴は両親への教育の一環として行うが、
分娩時に取り除かれなかった血液 や胎便を取り除く目的も ある。生後 4 週間の皮膚バリア機能はやや不安定
であり、皮膚の保護的な免 疫の役割を維持するために過剰な洗浄を避ける。
13.体重は、毎日同じ体重計を用いて測定する。
14.各国で定められた予防接種が行われなければならない。
15.聴覚スクリーニングを行う。結果に異常の可能性がある場合には、精査目的 で専門医を紹介する必要性を
81
医師と相談し、紹介先との連絡をとる。
16.授乳開始から少なくとも 24 時間を経過したところで metabolic/genetic スクリーニングの採血を行う。も
し 24 時間を経過する前に行われた場合には 再検査を行う。
17. 退院後の児への継続的なケアを行う事のできる小児科医師を決めておく必要がある。入院中の経過をまと
めたレポートを作成し担当医へ送る。このレ ポートには、経過とともに特殊なフォローアップの必要な項目を
明記する。
18. 退院前には項目 6 にある観察事項に注意し、十分な評価を行う。生後 48 時 間以内に退院をする場合には
児と介護者(主に母親)の両者が 以下の項目 を満たしている事を確認する。
・経膣分娩後の経過に合併症がないこと
・在胎週数 38 から 42 週であること
・退院を控えて児の状態が少なくとも 12 時間安定している事。呼吸数 60/分以下、心拍数 100̶160/分、 適切な
服を着せてコットで観察している状 態の体温が 36-37℃。
・排尿があり、少なくとも一回の排便が確認されている。
・理学所見において何も以上が認められない。または、緊急性のない異常所見(黄疸など)については、経過観
察計画(フォローアッププラン)が立案されている。
・吸啜、嚥下、呼吸、の協調に問題のない十分な授乳が、少なくとも 2 回退院前に達成されている事。
・生後 24 時間の時点で、深刻な黄疸が出現していないこと。
(経皮黄疸 計や血清ビリルビン値を退院前に確認す
べきである)
・重症な高間接ビリルビン血症と合併症を防ぐために退院時のビリルビン値に基づいて、退院後 24-48 時間後に
行うべき経過観察計画を立案る。LBW や SGA、Coomb’s 陽性の、母乳栄養児や初産の母親の児へは特に注意
が必要である。
19. 退院後の乳児の安全確保のため、ケアをする家族について評価を行い、退院前に適切な教育を母親に提供
する。母親または、母親以外の児の介護者が十分なケアを行えるということを確認し、提供した教育について
記録をする必 要がある。
a. 虐待、ネグレクト、ドメスティックバイオレンス、家族の精神病の有無。
b. 家庭で母親へサポートを提供するメンバーがいる事。
c. 暖房、水道、下水、などの必要最小限の固定した住環境がある事。
d. 状況の必要に応じて、地域の福祉支援についての情報を調査する。
e. 児のケアについての以下に示す基礎知識の理解と教育の強化。
・低体温を予防すること。
・沐浴、細部ケア、おむつの交換などの基本的な衛生管理。
・母乳の与え方または、人工乳の適切な準備方法。
・経過観察が重要であるという認識と次回受診の日時の確認。
・うつぶせ寝をしない 、柔らかくないマットを利用する、過剰なかけものをしない等の基本的な安全の認識
と乳幼児突然死症候群(SIDS)防止への理解。
・チャイルドシートの使用、火災報知器の設置、家庭内喫煙の危険 性、他の環境にある危険因子の認識(例:
殺菌のために人工乳の 準備に熱湯を利用する事)
。
・感染防止の手段に対する知識(介護者が手洗いを施行する、イン フルエンザシーズンに人ごみを避ける、
新生児期に人ごみを避け る等)
。
・予防接種計画を再確認し、推奨される予防接種(B型肝炎、流行 性耳下腺炎、麻疹、風疹、インフルエン
ザ桿菌 type B、ポリオなどを行うためのフォローアップが必要である事を確認する。
・腋窩または口腔で測定した 37.5-38℃以上の発熱。
f.様々な疾患の可能性を示す項目6に示した危険因子や下記の項目を家族が 認めた場合に異常を伝える連絡
先を明確にする。
・黄疸の悪化。
・ぐったりしている、眠りがち、哺乳不良。
・呼吸窮迫。
・腋窩または口腔で測定した 37.5-38℃以上の発熱。
20.退院の時期によって(生後何日など)
、退院時のビリルビン値を含む他の危 険因子を考慮し、フォローア
ップの時期を決定し、初回受診の予約を決め る。退院前には家族に予約日時を確認する。早期退院の場合、重
82
症黄疸を防ぐために、退院後 48-72 時間内にフォローアップが行われる事が望ましい。 無理な場合にも、遅く
とも生後 6 日、さらに、2 週間後に経過観察を行い、 またその後は月齢 6 ヶ月まで、2-3 ヶ月ごとのフォロー
アップが必要である。
参考文献
1. United Nations Millennium Development Goals (UNMDG). (2009). Available: http://
www.un.org/millenniumgoals/
2. Lawn, J.E., Cousens, S., Zupen, J., for Lancet Neonatal Survival Steering Team. (2005). Neonatal Survival
1. 4 million neonatal deaths: When? Where? Why? Lancet, 365, 821-822.
3. The Millennium Development Goal (MDG) Report 2009. Available: http://www.un.org/
millenniumgoals/pdf/MDG_Report_2009_ENG.pdf
4. American Academy of Pediatrics (AAP) and American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG)*.
(2007). Guidelines for perinatal care. 6th edition, Elk Grove Village, IL: AAP/ACOG. *now named the
American Congress of Obstetricians and Gynecologists.
5. March of Dimes. (MOD). Preterm Birth. 1996-2006. Available: ahttp://
www.marchofdimes.com/peristats/level1.aspx? dv=ls&reg=99&top=3&stop=60&lev=1&slev=1&obj=1
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www.marchofdimes.com/peristats/level1.aspx? dv=ls&reg=99&top=3&stop=240&lev=1&slev=1&obj=1
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Pharmacology and Physiology, 22(5), 248-257.
8. Walker, L., Downe, S., & Gomez, L. (2005). Skin care in well term newborn: Two systematic reviews. Birth,
32(3), 224-228.
83
資料 8
【国別 新生児医療・制度比較】 http://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/technical_reports/2008/RAND_TR515.pdf より
*イギリスについては、調査困難な部分があり、内容に欠損箇所あり
http://www.england.nhs.uk/commissioning/spec-services/npc-crg/group-e/e08/
1.医療サービスの組織
イギリス
アメリカ
カナダ
オーストラリア
スウェーデン
項目/国
医療制度
国民保健サービス
医療の過半数は、個 カナダの保健法は、 「メディケア制度」 所得税を財源とし
(NHS)
人任意加入医療保険 税を財源とした国民 は、その国民の負担 た、国民皆保険制度。
を相当か全くなしに
を財源としている。 皆保険制度を提供
国民皆保険制度はな し、州ごとで運営さ して、全ての国民に
適切に医療が供給さ
く、低所得層向けの れている。
れる。
支援策として、
「メデ
ィケイド(公的低所
得者医療制度)
」があ
る。きょう
広域の母子戦略ネッ 地域化の大部分は
新生児医
カナダには、州領域 ネットワークは、よ 新生児医療は、これ
トワークの一部の運 1970 年代に
療ネット
でネットワークが存 り公式で(ニューサ を必要とする子ども
用分娩ネットワーク 進められたが、競争 在するという高度に ウスウェールズやビ たちが比較的少数で
ワークの
の導入は、古典的な 地域化されたシステ クトリアといった) あるために集約化が
(ODN)
利用
地域化をもたらし、 ムがある。
人口密度がより高い 進められている。
(地域化)
標準的な地域化につ
地域で発展してい
ながらなかった。
る。
コミュニティでの
人口密度がより低い
NICU においてハイ
地域では、3 次医療を
リスク分娩が増加し
担う病院を中心に組
たことで、ネットワ
織化されている。
ークにおける脱地域
化を示す根拠がいく
つか示された。
国家は、ネットワー 州は、組織化に対す 国の保健省は、新生 郡の議会が、新生児
新生児医
2009 年
療ネット
児医療のネットワー 医療のサービスを提
質の高い新生児医療 クを特徴づけること る責任がある。
に責任があり、基準 ネットワークは、州 クに責任があり、新 供し、資金調達をす
ワークの
サービス
を必要としている。 を超えたレベルで存 生児医療は、公的あ る。
主要な組
医療サービスは、基 在し得る。
織体
るいは私的な管理者 21 の郡は、協力を促
盤となるネットワー 地方の健康省は、
(時 により提供されてい 進するために 6 つの
84
日本
国民皆保険制度
3 次医療は、総合周産
期母子医療センタ
ー、地域周産期母子
医療センターが担
い、2 次医療は地域の
病院が担い、1 次医療
は地域の病院、診療
所、助産所が担って
いる。
各都道府県の総合周
産期医療センター、
大学病院などが基幹
施設となっている。
に生殖に関わるプロ
グラムなどを)調整
できる機関やネット
ワークの組織体を選
ぶ。
カナダの公衆衛生機
関は、新生児医療ネ
ットワークの組織化
に対し、オーストラ
リアやアメリカと相
当以上にコントロー
ルしている。
るであろう。
主要な 3 次医療病院
は、そのネットワー
クで重要な機能を果
たす。
国家政府は、資金調
達をし、組織化は、
主として州政府に以
上されている。
伝統的な州の権利や
州の規模や人口の相
違は、組織の多様性
が大きさをもたらし
た。
いくつかの州(ブリ
ティッシュ・コロン
ビアやオンタリオな
ど)では、他の州に
比してより高く、精
巧なネットワークの
組織開発されている
ようである。
ネットワーク間の広
大で長距離といった
相違は、地理的な規
模と人口密度を反映
して、それぞれの地
域で独自の実践を発
展させることになっ
た。
基本的な枠組みは、
1976 年と 1993 年に
妊娠期の医療レベル
の改善に向けて構築
された。
医療システムにおい
て、基本レベルⅠ-Ⅲ
のレベルがあり、公
衆衛生機関が詳細な
ガイドラインを設定
いくつかの州(ビク
トリアなど)は、医
療のレベルにおいて
独自の詳細なガイド
ラインを交付する。
クに分配される。
ネットワークは、州
を超えたレベルで存
在し得る。
新生児医
療ネット
ワークの
主要な組
織体と国
家政府と
の関係
NHS と保健部の後
援のもと、専門委員
会は、以下の内容を
「質の高い新生児医
療サービスのツール
キット」に委託した。
・新生児医療のケア
の原則
・新生児医療の 3 つ
の分類
・3 つのタイプの病棟の
ネットワークの
運用
・質の指標
・好事例の提供など
国内のネ
ットワー
ク間の相
違
医療レベ
ルの標準
化
新生児病棟の臨床管
理は、主催 NHS トラ
ストにより標準化さ
れており、その責任
は NHS トラストに
連邦政府は、新生児
医療ネットワークに
対し、わずかな関与
にとどまる。
新生児医療ネットワ
ークは、時に、利害
関係者の特別な協力
の支援の結果として
組織されていること
がある。
85
医療圏にグループ化
されている。
保健省や社会局は医
療制度を維持するこ
とに責任がある。
国家保健福祉局は新
生児医療サービスの
組織への勧告を行
う。
国の周産期医療整備
指針にのっとり、各
都道府県で周産期医
療ネットワークを構
築
医療行為(実践)は、 佐賀県は、総合周産
地域から地域まで変 期センターを持た
ず、母体・新生児の
動し得る。
背景別に収容先を選
定する独自のネット
ワークを構築。他は
大半が、国の基準に
乗っ取った周産期医
療整備事業を展開し
ている。
基本レベルⅠ-Ⅲの医 周産期センター設置
療システムが採用さ 基準はあるが、収容
患者の内訳は、患者
れている。
背景、地域事情、施
設の人員配置・医療
帰する。これらは、
NICE などの外部の
NHS の標準に従っ
た根拠により適正化
が図られる。
ベッド数
と
出生数
2002 年
6.7/ 10,000 出生
新生児医
療ネット
ワークを
運用する
管理機構
英国周産期医学協会
(BAPM)
しかし、全ての州の
医療レベルを定義づ
けるものではなく、
レベルⅢの医療の意
味(中身)にも相違
がある。
1989-1999 年
13,105NICU ベッド
(33.7/10,000 出
生)
、
6905 中間医療ベッド
(17.7/10,000 出生)
2001 年
1.21 レベルⅡ病棟
/10,000 出生
多くの州で、その病
院に他の病院と異な
る医療を提供してい
ることを明記した合
意文書を所持してい
るよう求める。
カリフォルニア州で
は、その病棟によっ
て提供される医療の
レベルを認定する精
巧なシステムがあ
り、そこは全てのモ
ニタリングしたデー
タを提供しなければ
ならない。
イリノイ州は、地域
する。
しかし、州の実行に
は、医療の格差にお
ける重要な相違があ
ることを意味する。
整備状況などにより
異なる。
2002 年
444NICU ベッド
(16/10,000 出生)
874 中間医療ベッド
(31/10,000 出生)
2002 年
0.72 レベルⅢ病棟
/10,000 出生
2011 年
NICU 病床数 2,765
床
26.3/10,000 出生
2004 年
1997 年
15.9%(39,701 人) 国内に(国営の?)45
の新生児が NICU か 新生児病棟がある。
特別医療新生児室に
入院した。ニューサ
ウスウェールズには
211 の新生児病床が
あり、これには 61 の
呼吸器稼働ベッドが
含まれる。1996-1997
年
0.90 レベルⅢ病棟
/10,000 出生
ブリティッシュコロ ニューサウスウェー
ンビア州では、地方 ルズのネットワーク
の医療サービス職種 は、ベッド状況デー
が、地方の専門的な タベースと周産期勧
医療に対し、戦略的 告網を管理すること
で組織的な枠組みを で内部(州内)の結
提供する。地方の専 合を促進する。
門的な周産期プログ ビクトリア州は、中
ラムを発展させ、実 央ビクトリア周産期
情報センターデータ
行してきた。
ブリティッシュコロ ベースを整備し、標
ンビア生殖医療プロ 準化された実践の指
グラムは(BCRCP) 標を集約する。
は、ブリティッシュ
コロンビア州におけ
る地域周産期医療の
86
各都道府県別に管
理。
東京はスーパー母体
搬送/新生児搬送のシ
ステムがある。
周産期管理グループ
を利用している。こ
のグループは、周産
期医療ネットワーク
の計画、管理、評価
に対し責任を持つ利
害関係者からなる。
ニューヨーク州は、
病院やコミュニティ
の周産期医療専門家
が医療の結果を改善
するために地域周産
期評議会を確立し
た。
協議方法
(委員会)
人員配置
「英国周産期医学会
新生児の医療レベル
別モデル」に基づきレ
レベルⅠを正常新生
児医療、レベルⅣを
高度集中医療とし
て、医療提供場所、
医療・ケアを主とし
て実施する者及びそ
れを支援する者を指
定し、実施される医
療・ケアを明示して
いる。
*看護師の配置
集中ケア 1:1
高依存
1:2
特別ケア 1:4
新生児科医の供給は
多い
6.1 新生児科医/1000
出生。
しかし、看護師の供
給に懸念がある。
発展を支援する。
BCRCP は、様々な利
害関係者の代表を提
供する。
サウスイーストオン
タリオ州は、協力者
の評議会を開き、計
画・調整委員会と個
別の問題における 4
つの特別作業部会に
より支援されてい
る。
3.3 新生児科医/1000
出生。
公衆衛生機関はカナ
ダの NICU における
詳細な人員配置のレ
ベルを指定する。
NICU ベッドの供給
は、時に公式に利用
可能な数を上回り、
このことは看護師不
足により悪化する可
能性がある。
87
ビクトリア州は、意
思決定力を持たない
新生児医療諮問委員
会を支援する。
国の周産期医療整備
計画は、
3.7 新生児科医/1000
出生。
調査した新生児看護
師の 68%が 21 年間
かそれ以上看護に従
事していた。
2014 年
2.6/1000 出生
*新生児科の標榜が
なく、日本未熟児新
生児学会の会員数で
算出
各都道府県の周産期
医療整備計画は、
医療保険
制度
税金を財源、無料
メディケイドを除
き、医療保険は、個
人任意加入により資
金供給されている。
1 億 5900 万人のアメ
リカ人は管理された
医療組織にいて、患
者の医療の選択肢が
制限され、事実上の
ネットワークを作っ
ている。
州政府部門は、新生
児医療の主要な出資
者であり、州独自の
資金や連邦健康移送
(搬送)を構成する。
医療は、個人加入の
医療保険、寄附、投
資によっても資金が
供給される。
オーストラリア政府
や州/准州は共同で公
立病院の医療に資金
を提供する。
州レベルでは、ビク
トリア州は、患者サ
ービスに基づく資金
からなる casemix 資
金を管理し、特定の
資金と教育資金を分
けて運用する。
21 評議会は、新生児
や他の医療保険サー
ビスに資金を供給す
る。
データ収
集のため
の国営新
生児医療
ネットワ
ーク
トラストが新生児の
データシステムを管
理
バーモントオックス
フォードネットワー
クのメンバーの大多
数は、合衆国に本拠
地を置く。
カナダの新生児医療
ネットワークは調査
研究や報告書の発行
を指揮する。
カナダ健康情報研究
所は、母性と新生児
の全国レポートを作
成します。
オーストラリア健康
福祉研究所の周産期
統計部門は、年度ご
とに母性と新生児の
発行物で統計レポー
トを発表している。
国の最低限の周産期
データセット。
全国保健福祉局の疫
学センターは医療出
生登録を整備する。
アメリカ
いくつかの州には一
つかそれ以上の搬送
事業がある。南北カ
リフォルニアにはい
ずれにも搬送システ
ムがあり、周産期搬
送調整派遣センター
により支持されてい
カナダ
中央集約化された新
生児搬送システムの
事業供給は、州のレ
ベルⅢの施設か単独
の搬送調整事業を通
して整備されてい
る。
オーストラリア
ニューサウスウェー
ルズには、1995 年か
ら自主的に集約化し
た搬送事業がある。
ビクトリアには、新
生児救急搬送システ
ム(NETS)と周産期
救急照会事業があ
スウェーデン
専門的な新生児搬送
システムは整備され
ていない。
機動力のある搬送チ
ームが国ベースでは
なく、地方ベースで
発展した。
全ての救急車事業
2.新生児の搬送
イギリス
項目/国
調整機構 NIC(Neonatal
IntensiveCareTrans
port )搬送サービス
88
公的医療保険。
ハイリスク新生児に
対しては、施設に対
しては、NICU/GCU
加算により、医療費
の公費補助制度があ
る。
患者に対しては、高
額療養制度、療育手
帳・障害者手帳の支
給により医療費の自
己負担部について公
費補助がある。
国営の新生児に対す
る疫学機関はなし。
学会(日本未熟児新
生児学会、日本周産
期・新生児医学会な
ど)及び医師団体(新
生児医療連絡協議
会、日本小児科学会
新生児委員会など)
による任意のデータ
収集。
日本
各都道府県で搬送体
制を整備。
秋田県は、2013 年時
点でドクターカー未
整備。
搬送範囲
搬送の方
法
3.標準診療
項目/国
局長や医療提供者
は、搬送の範囲に責
任を負い、常に搬送
が適切に行われるた
めの一定の原則に基
づき、相違やニーズ
を分析して請け負
う。
通常、道路輸送だが、
状況によっては航空
機による搬送もあ
る。
搬送は適切な技術の
あるスタッフが一定
数必要とされてい
る。
イギリス
る。
いくつかの州は、搬
送は、その州の主要
なレベルⅢの病院を
中心に組織されてい
る。
調査対象となった 75
の団体のうち 3 分の
1 は専門の新生児搬
送チームを持ち、半
分は、新生児科と小
児科が統合されたチ
ームを持っていた。
*有用な情報なし
*有用な情報なし
アメリカ小児科学会
が 75 の団体を対象と
した最近の調査によ
ると、平均的な異な
る搬送方法として
80.2%が道路搬送
で、13.4%がヘリコ
プターによる搬送
で、6.2%が固定翼航
空機による搬送であ
った。
アメリカ
2002 年の研究では、
3 つの異なったタイ
プの新生児搬送人員
配置システムにおい
て、総費用は変化し
たが、重要な変化は
なかった。
カナダ
89
る。
は、地方を基盤にし
て、地域医療保険セ
ンターに密着して組
織化されている。
ビクトリアでは、
2006 年は年間 1018
件の救急出動があ
り、2002~2006 年の
間に 4,669 件の幼児
の搬送があった。
平均 1,400 人の患者
が北部の郡からウメ
アの大学病院へ搬送
されている。
原則として、その県
内での搬送となる
が、病床稼働状況、
患者背景によっては
県外搬送となる場合
もある。
2005~2006 年のビ
クトリア州における
1,018 件の救急搬送
のうち、80.0%は地
上搬送、14.6%は固
定翼航空機、5.3%は
ヘリコプターによる
搬送であった。
スウェーデンの 4 つ
の北部の郡では、2
機の固定翼航空搬送
機を共有しており、
集中治療レベルの装
備もある。
航空搬送機は、スウ
ェーデン北中部、ウ
プサラ周辺の半径
600 ㎞の範囲でも提
供されている。
原則として、医師・
看護師同乗の専用ド
クターカーでの地上
搬送。広域・救急の
場合、ヘリコプター
搬送となるが、新生
児医療専用機ではな
い。
オーストラリア
スウェーデン
日本
国家政府 臨床管理の責任は、 国家政府のガイドラ
インに根拠はない。
ガイドラ NHS にあり、NHS
以外の組織が標準と
イン
するものに基づいた
根拠により、適正化
が図られている
例)ケアの質委員会、
NHS 訴訟機関、
NICE
地方自治
体
ガイドラ
イン
運用分娩ネットワー
ク(ODN)が承認し
たガイドライン、綱
領やケアの経路はト
ラストが採用する。
ジョージアやテネシ
ーのような多くの州
では、それらの地域
で提供される特定の
新生児医療に対する
包括的なガイドライ
ンを制作している。
これは、進行中の政
治上や臨床上の発展
を反映して変更され
る。
2000 年にカナダの公
衆衛生機関は「家族
中心の母性と新生児
の医療の国家ガイド
ライン」を提言した。
この主要な文書は、
州及び 3 次医療レベ
ルの医療機関におけ
る調整事業に対する
連邦の推薦を成文化
したものである。
2005 年にブリティッ
シュコロンビア州の
州の専門的な周産期
指向(運用)会議は、
ブリティッシュコロ
ンビア健康公社と共
に、周産期医療のレ
ベルを指定するため
のガイドラインを示
した文書を承認し
た。BC 生殖医療プログ
国家政府のガイドラ
インに根拠はない。
ビクトリア人的サー
ビス省は、メルボル
ンの 4 つの新生児病
棟と協働して新生児
ハンドブック(手帳)
を開発した。
この省は、新生児病
棟での推奨医療レベ
ルについての詳細な
ガイドラインも作成
した。
1995 年にスウェーデ なし
ン健康福祉局は、妊
娠期医療の臨床ガイ
ドラインを提示し
た。
超早産児の蘇生法に
関する国家政策は、
国家健康福祉局とス
ウェーデン小児科医
会によって提言され
ている。
なし
*有用な情報なし。
ラムも周産期医療の一般
的なガイドラインとして
作成された。
医療系団
体
ガイドラ
イン
各トラストは、一貫
性のある、根拠に基
づく臨床管理を保障
するための診療ガイ
ドラインや綱領、経
路の範囲を適切にす
る必要がある。
主として、そこには
NICE、英国周産期医
学会(BAPM)など
から採用されるよう
新生児医療を含む地
方の分娩(関係者)
は、アメリカ小児科
医会(AAP)とアメ
リカ産婦人科医会
(ACOG)の公認で
ある。
AAP と ACOG は
2002 年に周産期医療
ガイドライン第 5 版
を発行した。
カナダ小児科医会
は、2006 年に新生児
集中治療のレベルの
定義を変更した。
(医
療)資源の計画と配
置の流れに対する明
白な基準を示してい
る。
90
国立オーストラリア
医科大学やオースト
ラリア国立看護大学
は、いくつかの問題
に対する声明やガイ
ドラインを発行して
いる。しかしながら、
多くのガイドライン
は、その一部か全体
が、州の新生児医療
ネットワーク内の主
新生児の痛みに対す
る予防や取扱いのガ
イドラインがある。
13 の新生児医療ガイ
ドラインは、ウプサ
ラ大学やカロリンス
カ研究所により開発
された。
な専門家の手引きが
反映されている。
専門誌が
推奨する
標準診療
評価業務 トラストは、正確さ
を確実に維持できる
ように保証し、患者
レベルや病棟レベル
のデータシステムの
信頼すべきコンピュ
ター化された記録
は、管理活動を捉え
る機能がなければな
らない。データは、
月、暦年、会計年度
によって階層化さ
れ、訂正、分析、公
AAP は、2004 年に医
療のレベルに対する
新しいガイドライン
を提示した。
全国新生児看護協会
は、2006 年に新生児
看護指針(政策)の
ガイドラインを発行
した。
2004 年の記事では、 *有用な情報なし。
極低出生体重児の医
療の改善における選
択肢が考察された。1
つは、
「協働作業(研究)
の質の改善」であり、
もう一つは「根拠に
基づく選択的照会」
である。
カリフォルニアには
2つの主要な質の改
善のための企業が整
備されている。それ
は、カリフォルニア
協働クオリティケ
ア、もう一つは、全
国質改善戦略であ
る。前者は、新生児
医療の基準として利
用される資源や結果
に関する情報を収集
する。後者は、NICU
オンタリオ州には、
Niday 周産期データ
ベースがあり、州規
模でのデータが報告
される機構がある。
これは、州でのリア
ルタイムの出生にお
ける陣痛過程での介
入や新生児の結果な
といったデータを提
供する。そのような
情報は、医療やプロ
グラムの評価や計画
91
要なレベルⅢの施設
に由来している。
あるビクトリア州の *有用な情報なし。
研究では、結果を改
善するために超低出
生体重児のレベルⅢ
周産期センターでの
出生割合を増加させ
ることを推奨した。
2002 年のある研究で
は、現在の人員配置
レベルは早期新生児
死亡や罹病率に重要
な影響を及ぼさない
としていた。
周産期の最小のデー *有用な情報なし。
タセットは、オース
トラリアにおける全
出生におけるデータ
を収集する。
ビクトリア州の人的
サービス部は、新生
児医療のレベルのガ
イドラインにおける
質の改善を含めて検
討する。オーストラ
リア新生児臨床医療
表のために適合され
る。
トラストは新生児デ
ータシステムが次の
目的のために外部運
用することを一般化
する範囲のものであ
ることを保証する。
例)BAPM 新生児デ
ータセット、
新生児重要ケアの最
小データセット
国家新生児データベ
ース
国家新生児監査プロ
グラム
で血液感染罹患する
を根絶するための協
働企画である。
イリノイ州の北部中
央周産期ネットワー
クは、患者の結果を
改善するための周産
期ケースレビュー会
議を毎年開催してい
る。
を援助することをめ
ざすものである。病
院は、基準となる実
績(医療行為)のデ
ータを利用して、傾
向を見極め、質改善
のための活動を知ら
せる。
公衆衛生機関は、新
生児医療ネットワー
クにおいて質改善の
ための活動に着手す
るよう要求する。
カナダの周産期監視
システムは、27 の周
産期指標を報告して
いる。
92
監査委員会は、毎年、
質の改善のための活
動を報告する。
〇引用・参考文献/サイト
【引用・参考文献】
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・新生児蘇生法
田村正徳 日本周産期・新生児医学会 新生児蘇生法委員長 監修 「新生児蘇生法テキスト 改訂第 2 版」
メジカルビュー社 2014 年
・出産費用
「赤ちゃんができたら考えるお金の本 2015 年版」株式会社ベネッセコーポレーション
「たまごクラブ 8 月号」株式会社ベネッセコーポレーション 2015 年 7 月
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加部一彦 「新生児医療はいま」岩波書店 2002 年
家永 登、仁志田博司「シリーズ生命倫理学 周産期・新生児・小児医療」
シリーズ生命倫理学編集委員会 丸善出版 2014 年
・生活習慣病の根源
板橋家頭夫、松田義雄「DOHaD その臨床と基礎」金原出版株式会社 2008 年
・糖尿病合併妊娠
福井トシ子 「妊娠と糖尿病のケア学」メディカ出版 2012 年
「糖尿病と妊娠」日本糖尿病・妊娠学会誌 2012 年 12 巻 12 号
・地域母子保健
「母子保健のバージョンアップ」保健師ジャーナル 2013 年 10 月号 Vol.69、No.10 p.762-800
・周産期医学
「周産期医学必修知識 第 7 版 周産期医学 2011 Vol.41 増刊号」
「周産期医学」委員会 編 東京医学社
大鷹美子「ウィリアムス臨床産科マニュアル」メジカルビュー社 2009 年
・新生児の望ましいケア
「助産師」 日本助産師会機関誌 2014 年 8 月号 Vol.68、No.3 株式会社日本助産師会出版 p.8-21
・開業助産師
「助産所開業マニュアル 2013 年版」 日本助産師会出版会
・公衆衛生
「公衆衛生がみえる」 メディック・メディア 2015 年
・誕生の環境
「助産雑誌」第 62 巻第 10 号 2008 年 医学書院 p.910-930
・産科医療訴訟
我妻尭 「鑑定からみた産科医療訴訟」日本評論社 2002 年
箕浦茂樹、我妻尭 「新訂 鑑定からみた産科医療訴訟」日本評論社 2013 年
・母体死亡
「日本の母体死亡 妊産婦死亡症例集」妊産婦死亡検討委員会 三宝社 1998 年
・
「平成 25 年版 少子化社会対策白書」内閣府
・周産期医療 一般書
河合 蘭 「安全なお産 安心なお産」岩波書店 2009 年
熊田梨恵「救児の人々」ロハス・メディカル 2010 年
・赤ちゃんの発達
93
木原秀樹 「新生児発達ケア 実践マニュアル」 「ネオネイタルケア 2009 年秋季増刊」メディカ出版
「標準 ディベロップメンタルケア」 日本ディベロップメンタルケア(DC)研究会・編 メディカ出版 2014
・海外から日本の周産期医療への勧告
マースデン・ワーグナー「WHO 勧告にみる 望ましい周産期ケアとその根拠」メディカ出版 2002 年
M.H.クラウス、J.H.ケネル、P.H.クラウス「親と子のきずなはどうくられるか」 医学書院 2001 年
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厚生労働科学研究 妊娠出産ガイドライン研究班 金原出版株式会社 2013 年
・
「公的医療保険下での「安全で満足な妊娠出産」と「質の高い正期産新生児への医療」のための包括的制度設計」
森 臨太郎 「イギリスの医療は問いかける 良きバランスへ向けた戦略」医学書院 2008 年
森 臨太郎 「持続可能な医療を創る グローバルな視点からの提言」岩波書店 2013 年
【引用・参考サイト】
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「安心・納得・幸せなお産:周産期医療の質の向上を目指して」http://h-pac.net/3-5.pdf
・日本助産師会
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http://www.midwife.or.jp/pdf/guideline/guideline260930.pdf
「分娩を取り扱う助産所の 開業基準」
http://www.midwife.or.jp/pdf/kaigyoukijyun/kaigyoukijyun.pdf
・日本未熟児新生児学会
「正期産新生児の望ましい診療・ケア」
http://jspn.gr.jp/pdf/sinseijikea.pdf
・日本産婦人科医会
「妊娠リスクスコア」
http://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/jigyo/research/boshi/RISK_0603.pdf
「良い産院の 10 か条」
http://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/MEMBERS/TANPA/H16/040412.htm
「産婦人科診療ガイドライン 産科編 2011」
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2011.pdf
「産婦人科診療ガイドライン 産科編 2014 CQ 案版」
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20130902_sanka_gdl_10.pdf
・日本看護協会
「助産師について」
http://www.nurse.or.jp/home/innaijyosan/room/index02.html
「助産師のキャリアパス・クリニカルラダー」
http://www.nurse.or.jp/home/innaijyosan/pdf/2013/25eisei.pdf
「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)活用ガイド」
http://www.nurse.or.jp/home/innaijyosan/pdf/suishin/guide.pdf
「産科混合病棟ユニットマネジメント導入の手引き」
http://www.nurse.or.jp/home/innaijyosan/pdf/suishin/sankakongo.pdf
「新生児集中ケア認定看護師」
http://nintei.nurse.or.jp/nursing/wp-content/uploads/2015/02/11cn_ni.pdf
http://www.kangoshi-hikaku.com/nintei/shinseiji.shtml
・第 4 回 産科医療補償制度再発防止に関する報告書
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/documents/prevention/pdf/Saihatsu_Report_04_All_1.pdf
・正常分娩への現物給付
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http://jasps.org/wp/wp-content/uploads/2013/04/126_program.pdf ユニセフ
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94
http://www.unicef.or.jp/library/pdf/haku09_04.pdf
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・超音波検査
超音波検査士 http://www.premama.jp/tokushu/support/003/index.html
95
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