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刺激映像が視聴者の感情・認知・生理反応に与える効果

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刺激映像が視聴者の感情・認知・生理反応に与える効果
日心第70回大会(2006)
刺激映像が視聴者の感情・認知・生理反応に与える効果
○奈良原 光隆1・嶋崎 裕志 2・今井 章2
( 富山大学医学薬学教育部・2信州大学人文学部)
Key words: メディア暴力 攻撃行動 映像の表現特性
1
目 的
青少年による衝撃的な犯罪が起こった時,常に問題視されるの
がメディア暴力(media violence; 映像やテレビゲームに描かれる
暴力)の影響である。しかし,一概に暴力映像といっても,その表現
様式は様々であり,その表現様式の違いによって,視聴者に与え
る影響は異なることが考えられる。また,メディア暴力が視聴者に
与える影響への理論は,認知的新連合理論(Berkowitz, 1989),興
奮転移理論(Gillman, 1971),脱感作理論など様々ある。
本研究では,現実に上映された暴力映像(洋画に限定)から受け
る印象評価についてまず予備調査により調べ,抽出された印象評
価を基に刺激映像を選定し, 感情・認知・生理反応といった側面
に及ぼす影響を本実験において検討し,上述の理論と対応させて
調べることを目的とした。
予備調査
方 法
被験者:大学生 60 名(男性 30 名,女性 30 名,平均年齢 21.3 歳)。
映像刺激の選択:映像は全 15 種類,17 シーンを用いた。1994 年
から 2004 年までに製作された映画の中から,暴力シーンが多く含
まれるものを選択した。各映像は 5 分程度に編集された。
質問紙:質問紙は,被験者が映像から受ける印象を評定する項目
群で構成された。項目は,井上・小林(1985)や,湯川・吉田(2000)か
ら,映像を評定するに相応しいと思われる形容詞対尺度を選択し,
また必要と思われる尺度を加え,27 項目の項目から成る形容詞対
7 段階評定尺度を用いた
結果と考察
映像に対する形容詞尺度上の因子評定値について,因子分析
(主因子法)を行い,3 因子を抽出した後,さらにバリマックス回転を
行った。それぞれの形容詞対より,第 1 因子は<残酷性>,第 2 因子
は<正当性>。第 3 因子は<現実性>と命名された。
まず,現実性と残酷性の因子に関していずれの因子も,単独
で比較出来る様な映像はなかった。そのため,現実性と残酷性
の高低の比較として,現実性と残酷性,いずれの因子得点も高
く正当性の因子得点はゼロに近い映像から一つ選ばれた。そ
の結果,「プライベートライアン」が選択された。一方現実性
と残酷性の因子得点が低く正当性の因子得点はゼロに近い映
像として「ハムナプトラ」が選択された。正当性の高低に関
しての比較としては,正当性の高い映像として「トロイ」が,
正当性の低い映像として「ヒート」が選択された。
本実験
方法
刺激映像:予備調査より,「プライベートライアン」,「ハムナプ
トラ」,「トロイ」,「ヒート」を使用した。
被験者:大学生 40 名(男子 20 名,女子 20 名平均年齢 21.7 歳)
実験計画: 4 種類の刺激映像および被験者の性を独立変数とす
る被験者間 2 要因配置計画とした。
生理指標:赤外線サーモトレーサ装置(TH3100)を用い四肢末梢
皮膚温の左手の中指腹側部に設定した。
従属変数: (1)思考数(認知),(2)映像視聴によって生じた感情(感
情),(3)生理反応(指尖皮膚温度),の 3 種類であった。
手続き:入室後,まず室温に皮膚温を順応してもらうために,10 分
間の順応期を設けた。その後,皮膚温の基準値を得ることを目的
に 3 分間被験者の安静期の生理反応を測定した。基準値測定後,
映像の題名と概略を述べ映像を約 5 分 30 秒間放映した。皮膚温
は映像視聴中,連続して測定した。映像視聴後,視聴中に思い浮
かんだ思考をできるだけ多く単語レベルで 3 分間記述しても
らった(Thought Listing 法: Bushman & Geen, 1990)。次に被験
者は記入用紙に,映像視聴によって生じた感情に関する評定
を行ってもらった。
結 果
(a)思考数(認知反応):(b)映像視聴によって生じた感情・(c)生
理反応の結果を表 1 に示した。
(a) 思考数: 攻撃的思考数,および不快感情思考数に関し
て,映像と性の主効果が有意(映像: F(3,32)=14.34; F(3,32)=8.55,
p<01; 性: F(1,32)=3.38, p<.05; F(1,32)=12.94, p<.01) であった。
(b)映像視聴によって生じた感情: 不快感情得点に関して,映像
および性の主効果が有意(F(3,32)=10.84, p<.01; F(1,32)=4.82,
p<.05)であった。虚無感情得点は,映像×性の交互作用が有意
(F(3,32)=3.27,p<.05)であった。下位検定の結果,男性と女性いず
れも単純主効果が有意であり,“ヒート”群と“トロイ”において性の
単 純 主 効 果 が 有 意 ( 男 性 : F(3,32)=5.90, p<.01; 女 性 :
F(3,32)=5.79, p<.01; ヒ - ト : F(1,32)=8.15, p<.01; ト ロ イ :
F(1,32)=4.35, p<.05)であった。快感情得点については,映像と性
の主効果が有意(F(3,32)=11.38; F(1,32)=8.90, p<.01)であった。
(c)生理反応:皮膚温変化量について映像および性を要因とす
る 2 要因分散分析を行った。その結果,映像の主効果が有意
(F(3,32)=4.25, p<.05)であった。
考 察
残酷性と現実性の高い暴力映像ほど被験者に不快な感情や
攻撃的な思考を生じさせ,残酷性と現実性が低い暴力映像ほど被
験者に快感情を生じさせることが示された。この結果は,認知的新
連合理論に従うと,残酷性と現実性が高い暴力映像ほど視聴者の
攻撃行動を促進するということを示している。一方,正当性の高低
に関して,認知反応と主観的な感情には差はみられなかった。し
かしながら,生理反応に関しては,正当性の高い暴力映像で皮膚
温による生理的興奮が生じたことが示された。この結果を興奮転
移理論から考察すれば,正当性の高い暴力映像ほど視聴者の攻
撃行動を促進するということを示している。すなわち,本研究にお
ける新たな知見として,暴力映像の残酷性と現実性は,視聴者の認
知と主観的感情の側面に影響を与え,暴力映像の正当性は,視聴
者の生理的側面に影響を与える,ということが示されたといえる。
また性差に関して,女性で不快な認知が強く生じ,男性で攻撃
的な認知が強く生じた。これは脱感作理論より,女性では暴力映
像に慣れがないために不快な認知が生じたと考えられる。
(NARAHARA Mitsutaka, SHIMAZAKI Hiroshi,IMAI Akira)
表 1 映像および性ごとの各指標の平均値(標準偏差)
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