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3カ月研修 「メンタルヘルスについて~自分をよく知ろう
研修記録 3 カ月研修 「メンタルヘルスについて~自分をよく知ろう~」 ■開催日:2013 年 8 月 1 日(水) ■会場:勤医協看護専門学校 ■参加:2013 年卒新入看護職員 32 人 これからも元気に働き続けてもらいたい。大変なときの乗り越え方を教えます! ストレスは回復に必要な反応 講師 勤医協中央病院 精神科科長 田村 修 医師 厚生労働省が、近年発表したデータを見ると、 ●最近 1 カ月にストレスを感じている人が 2 人に 1 人 ●うつ病の有病率は 15 人に 1 人 ●年間自殺者数は交通事故死の 7 倍の 3 万 2000 人(1998 年以降) です。 自殺は日本人の死因 6 位(~ 1977 年以降)であり、20 代では 1 位です。さらに自殺率は欧米諸国の約 2 倍と、21 世紀の日本は「ス トレス社会」と言われています。 「ストレス」の存在を発見したのは、カナダの生理学者ハンズ・セ リエです。1936 年に発表した論文「ストレス学説」で、ストレスが かかると体に一連の反応が起こることを提唱し、その後、ストレスの メカニズムを解明します。「ストレスは人生のスパイスである」とい う言葉を残し、 「ストレス反応は生体が回復するために有益である」 と位置づけました。 また、 人間が無音・適温下にあるストレス「ゼロ」の部屋で過ごすと、 2,3 日で幻覚幻聴が現れたという実験結果があります。人間が心と体 のバランスを保つためには、適度なストレスが必要ということです。 【心の健康とは】 【そもそもストレスとは】 自分の感情に気づいて表現できること(情緒的健康) 1936 年、カナダの生理学者ハンス・セリエ(Hans Selye,. 状況に応じて適切に考え、現実的な問題解決ができること(知的健康) 1907 -1982)が「汎適応症候群学説(ストレス学説)」で 他人や社会と建設的で良い関係を築けること(社会的健康) 提唱。『生態になんらかの刺激が加わった際に、反応を起こ 人生の目的や意識を見出し、主体的に人生を選択すること(人間的健康) ※ WHO の定義より す刺激(ストレッサー)によって起こされた非特異的な反応 (ストレス反応)と結果』と定義した。 心の健康(メンタルヘルス)とは、心の病気(メンタルイルネス)でな い状態とみるべきではない。人が困難に対処し生活を上手にコントロー ルして、人生のより高い目標にチャレンジできる、自分の課題を達成で きることなどで充実感が感じられる状態。精神機能をうまく発揮するこ とによって、さまざまな人間活動を生産的にし、他人との関係を維持し、 環境の変化に適応し、逆境に対処できる状態(のことである)。 ※ ILO(国際労働機関)2000 年報告書「職場のメンタルヘルス」より -1- 【ストレス反応の特徴】 1. 万人に共通の非特異的な反応である 2. 本来は病的な状態を元に戻す有益な生体反応である 3. 反応の現れ方には、個別性がある 4. 反応には性格と生理的体質が関連する 良いストレス・悪いストレス 臨床の現場は応用問題の連続で、看護は「対人援助業務」であるこ とから、ストレスが多すぎる状態にあります。そのストレスを「どう 受け止めるか」 「どう対処するのか」が重要になります。 ところが、以下の「ストレス 3 大誤解」によって、上手に対処で きていないケースが多いのです。 【ストレス 3 大誤解】 ●ストレスは悪者と思い込む ●ストレスはないと思いこむ ●ストレスを感じる自分を弱いと思い込む ストレスは個人差が大きく、受け止め方によってストレスの質が変 わります。 体を動かすことが好きな人にとっては、スポーツは「良いストレス」 になりますが、嫌いな人にとっては「悪いストレス」になります。ま た、目標や期限をバネに頑張れると「良いストレス」ですが、ノルマ だから仕方がないと考えると「悪いストレス」になります。 悪いストレスが続くと、看護師として働き 始めた 3 カ月後あたりに激増するのが、 「抑 うつや脅迫性の傾向」「ニコチンやアルコー ルへの依存」などです。さらに、リアリティ・ ショックやバーンアウト・シンドロームなど、 心身に変調をきたすこともあります。 【リアリティ・ショック】 ~新人が現実の壁にぶち当たって体験する挫折~ 疲労感、疎外感、無力感、無感動、欲求不満などの感情が、業務への支障 や人間関係上の問題として現れる。 ●それまでは「正解のある・間違えない」勉強法……「失敗の積み重ね」 での成長が不可欠だが、それに耐えられない、質問・相談する度胸が ない、「分からない」と言えない ●今日の労働現場の大変さ……全体像がわからないことから、自分の仕事 の重要性が見えにくい、迅速な判断や対応を求められる、ゆとりがない、 【新人看護師のメンタルヘルス問題】 ●一般的な健康問題 1. 睡眠障害 2. 慢性疲労と集中力低下 全てが応用問題 ●専門分野での能力の未熟さ……自信のなさ、理想と現実のギャップ、失 敗への恐怖、成長を待てない社会全体の「こらえ性」喪失(10 年待て ない世間) 3. 下痢、便秘、腹痛、腰痛など身体的不調 ●不規則な労働・生活……疲労の蓄積、心理的孤立 4. 飲酒、喫煙量の増加 ●利用者・同僚とのコミュニケーション問題……コミュニケーションスキ 5. 早食い、欠食、不規則な食生活 ル獲得のための経験の乏しさ ●抑うつ傾向……自己評価が低い 自信がない ●強迫性……こうあらねばとの思いが強い(ゆとりがない) ●ニコチン依存……喫煙率は著変なし ●アルコール依存……飲酒率は著変なし 【バーンアウト・シンドローム】(燃え尽き症候群) ●極度の心身の疲労と感情の枯渇状態 ●生活障害度……仕事、人付き合い、家庭内コミュニケー ションがわずらわしい 本来は 3 年目以降の一人前に働き始めてから生じる体験のことだが、新 ↑ いずれの指標も就職後 3 カ月で急増 人のリアリティ・ショックも共通した状況がみられる。 単なる「過労」ではなく、理想と現実のギャップから生じる幻滅や不満足 ●リアリティ・ショック 感が強く関与。孤立すると促進し、情緒的支援や内的満足感の充足により ●バーンアウト・シンドローム(燃え尽き症候群) 抑制される。 -2- がんばり過ぎないで、適度にがんばるために メンタルヘルスケアのコツは以下の 3 つです。 ●自分をよく知る ●ストレスに気づく ●ストレスと上手に付き合う 自分のことを客観的に知る手段に「職業準備性アセスメント」「学 習タイプ診断」などがあるので、利用しましょう。こうした検査は性 格のごく一部を示すに過ぎませんが、日常生活のアドバイスとして生 かすことができます。自分に合った適切な方法を見出し、自信をつけ ましょう。 自分を変えることができるのは自分自身だけです。考え方を変える のは容易ではありませんが、行動は変えやすいものです。具体的には 「くよくよする」性格は変えられなくても、学習時間を「夜から朝へ」 変えることはできます。 また、自分のストレスパターンを知ることも大切です。心、体、行 動の変化をストレス・サインとして受け止め、コーピング(対処)し ましょう。 コーピングには、ストレスを解消する方法と、ストレスのもとになっ た問題を解決する方法がありますが、既に個々人それぞれに得意な解 決法を持っていると思います。 ●ストレスの原因を積極的に解決する ●周りに相談し、自ら助けを求める ●解決されるまで、耐え忍ぶ ●ストレスから逃げる ●レクリエーション ●リラクゼーション ●レスト(休息) 【ストレスによる反応】 ストレスが大きくなると、心や体、日常の行動にいろんな 変化が現れます ●心の変化……気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、 緊張、不安など ●体の変化……高血圧、胃潰瘍、糖尿病、肩こり、動悸、 息切れ、下痢、便秘、不眠、肥満など ●行動の変化……作業効率の低下、交通事故、アルコール 問題、過食、拒食、遅刻など -3- 落ち込み過ぎを修正する発想の転換 職場では、これから仕事の量が増え、責任が重くなり、「きつい、 つらい、 報われない」状態になります。その状態を乗り越えるのが、 「わ かる、できる、やるぞ」という考え方。人間は両者のバランスが良い と健康状態を保つことができます。 しかし、ときには失敗することもあります。落ち込み過ぎないため に、以下の工夫をしましょう。 【抑うつ的・悲観的認知の修正】 ●失敗の原因を自分に求め過ぎない → 困難な状況だから ●失敗や困難が今後も続くと思い過ぎない → 今度はうまくいくよ ●全てにおいてダメだと思い過ぎない → ほかは何とかなるさ ●失敗のプロセスを教訓化する → いい経験をした 【SOC “ 困難を乗り越える力 ”sence of coherence】 ●把握可能感(わかる感) 自分のおかれている状況を理解できている 今後のことがある程度予測できている ●処理可能感(できる感) これまで身に付けた能力で何とかやれそうな前向き感覚 自身が後ろ向きであっても、周囲の人から「前向きパワー」を分けてもらえる感覚『きっ となんとかなるわよ』 ●有意味感(やるぞ感) 困難を乗り越えることに人生の意味を見出す感覚『艱難辛苦汝を玉にせよ』 WHO の健康戦略「ヘルスプロモーション」の基となった「健康生成論」の中核理論で、 70 年代、強制収容所を体験したグループに対する A・アントノフスキー博士の大規模研 究所により提唱された。旧ユーゴ紛争下の大規模調査で追認「過酷な環境下で心身の健康 を維持する力」として注目されている。 -4- 逃げる・かわすも必要 今、あなたが抱えているストレスは、 「あなたの人生において、心 からやりたいこと」のためでしょうか? そうでない場合は、 「逃げる」 「かわす」が一番です。そして、「どうしてもやらねばならぬこと」で 潔くストレスを受けましょう。 「良い仕事をしなければ」ではなく、「良い仕事をすることが私の喜 び」と考え、 ストレスを引き受けるのが「健康的な苦労の仕方」です。 新人看護師がつまずきやすい時期は、 ●最初の 3 カ月 ● 6 カ月 ● 9 カ月(年末年始) ● 2 年目の始まり つまずくことは、弱いことでも、悪いことでもありません。 最初の 2 年を自分らしく乗り切ると、その後も働き続ける自信が持 てるようになります。そして、どう対処してよいのか分からなくなっ たら、同僚、プリセプター、師長に相談しましょう。当院には「看護 支援室」もあります。 最後に、ハンス・セリエ博士の言葉を皆さんへ 一部分に強くストレスがかかっているときは、 (気分)転換しなさい。 全体に強くストレスがかかっているときは、休みなさい。 自分にとって最高の目標が達成できるように頑張りなさい。 でも無益な頑張りはしてはいけない。 -5-