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Title 災害報道をめぐるリアリティの共同構築( Abstract_要旨 )
Title Author(s) Citation Issue Date 災害報道をめぐるリアリティの共同構築( Abstract_要旨 ) 近藤, 誠司 Kyoto University (京都大学) 2013-09-24 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k17923 Right 許諾条件により本文は2014-08-31に公開 Type Thesis or Dissertation Textversion ETD Kyoto University (続紙 1 ) 京都大学│博士( 情報学 ) l 瓦副 近藤誠司 論文題目│災害報道をめぐるリアリティの共同構築 (論文内容の要旨) 本論文の目的は、論文冒頭に掲げられているように、 「災害報道のベターメントを 目指すこと j である。この課題は、アカデミックな研究対象としてこれまで取り上げ られてこなかったわけではない。しかし、本論文は、阪神・淡路大震災や東日本大震 災など、近年の巨大災害の現場においても反復されてしまった諸課題を解決するため には、従来の研究アプローチの立脚点となっていた理論的前提を抜本的に見直す必要 があると論じる。 部おける考察の焦点は、次の 2 点である。第 l は、従来、 との点について論じる第 l 災害情報の送り手と受け手を峻別して、前者には前者に向けた、後者には後者に向け たアプローチを別個に採用することを前提としてきた、 “二項対立的"なマスコミュ ニケーション・モデルの再検討である。本論文では、この点に関して、<住民・行政 者のインタラクションをとらえた「減災の正四国体モデ ・メディア・専門家>の 4 ルJ を換骨奪胎した新たな理論フレームを提起する。 は 、 「情報 J という概念そのものの再検討である。本論文は、普遍的な意味や 第2 価値を持っと擬制された r(災害)情報」に関して、その内容の高度化・精綴化を推 し進めるばかりであった従来のアプローチを批判する。むしろ、人々が体験している 「リアリティ J (空間的にも時間的にも、ローカルな多様性・多層性を前提として現 前する世界の有意性構造)の観点に立って、 「減災の正四函体モデル J を、関係当事 者たちが単に r(災害)情報」を伝達しあう過程としてではなく、 「リアリティ」を リアリティの共悶構築モデル J )として再定位す 共同で構築していく動的な過程( r る 。 部では、以上の理論的基盤に立って、災害のマネジメントサイクルに沿って、 第2 災害報道の局面ごとに個別の課題の再検討が順次行われる。すなわち、 「緊急報 道」、 「復興報道」、 「予防報道」における課題の抽出と分析の作業が、阪神・淡路 大震災、東日本大震災、四川大地震など内外の巨大災害をめぐって実際に報道された テレビ放送等の内容分析をもとに展開される。具体的には、これらの災害時における テレビ報道(悶 Kを中心として)を分析対象として、登場する地名、人物のカテゴリ 一、報道で扱われる数値の種別などのパラメータが定量的かつ定性的に検討され、 「リアリティの構築モデルJ の観点から、現在の課題と今後の方向性が示される。 部では、第 l 部と第 2 部から浮かび上がった課題をふまえて、具体的にどのよう 第3 な実践活動が災害報道のベターメントに資するのかについて、申請者自身が展開して きたアクションリサーチの成果を踏まえて、いくつかの事例分析や実践的な提言がな される。具体的には、上記四面体モデルを構成するステークホルダーが共にコトをな すための場づくりの試みや、津波避難のための新しい訓練手法などが考察対象となっ ている。 部では、 r 1 )アリティの共同構築モデル」をベースにして、上でとりあ 最後に第 4 つのステークホルダーが、災害報道をめぐっ げた偲別の課題が位置づけられ、上記 4 て、いかに「リアリティをめぐる連帯」をなしうるかに、問題解決の鍵があることが 提起される。 注)論文内容の要旨と論文審査の結果の要旨は l頁をけ¥字 X36行で作成し、合わせ て 、 3,000字を標準とすること。 論文内容の要旨を英語で記入する場合は、 ー い ' . け い 刊 で 作 成 し j 審査結果の要旨は日本語 500~2 , OOO 字程度で作成すること。 (続紙 2 ) (論文審査の結果の要旨) 本論文は、従来、たとえば、いわゆる「オオカミ少年効果 J (誤報効果)や、 「メディアスクラム J (過剰な報道合戦)など、個別の現実的課題をとりあげ、実 務的ではあっても体系的な分析や理論的な考察が十分になされているとは言えなか った災害情報論の領域に、確周とした理論的なパラダイムを確立しようとするもの で、大きな意義をもつものである。特に、世界/リアリティ/情報の三層構造をベ ースに、災害情報をめぐるやりとりは、けっして「情報」を送信・伝達・受信する 過程ではなく、災筈をめぐる「リアリティ」を共同で構築していく動的な過程であ ることを提起している点は重要である。 リアリティの共同構築モデル J )に立って、個別に分析され また、この視座( r た具体的な事象は、どれも非常に現代的で実践的意義が大きく、同時に分析そのも .1 1当日の問Eの報道分析から見いだされた「津波避難 のも精微である。たとえば、 3 呼びかけの空白時間 J (緊急報道)、同大震災の被災地でのボランティア活動への アクセルとブレーキとして機能した報道内容に関するメタ・メッセージ分析(復興 報道)、広く住民の防災意識や知識の高揚を目指したはずの報道における「住民の 不在 J (予防報道)、といった事例分析である。これらの個別課題の分析とその克 服へ向けた方途の提案が、 「リアリテイの共同構築モデル j を理論的支柱として一 貫した形で示されている点も高く評価できる。 もっとも、今後に向けて、いくつかの課題も存在する。個別的な項目としては、 災害報道において、特に近年無視できない役割を果たしているソーシャルメディア の位置づけについては十分な議論がなされていない。また、特定の事例について大 変詳細な質的/量的分析が行われていることの裏面ではあるが、少数の事例に依拠 した考察にとどまっている箇所も残存する。こうした箇所については、今後、災害 種別やメディア種別を変えた追加分析が要請される。 重要な課題として、本論文の基幹概念である「リアリテイ j 、およ 次に、より E び、その「共同構築」についても、特に、 「世界」、 「情報」概念との異同をより 明瞭に示す必要がある。具体的には、 「リアリティ」概念と、物理的現実/社会的 現実との関係、 「共同構築」と、 「情報伝達 j や「情報デザイン j の概念との関係 などについて、既存の概念・研究との接点をさらに十分に確保しつつ、より明快な 説明が付加されることが望ましい。 また、論文の総括部分で提示される fリアリティをめぐる“連帯.. J について も、本論文の綴点からは、 「連帯 j が含意する均質性・等質性よりも、むしろ、ス テークホルダーの多様性や相互の矛盾・葛藤を、リアリティの共同構築過程として の災害情報の生産・伝達・受容過程を豊かにする前向きな要因として定位できるよ うなワーディングや理論化が必要と思われる。 もっとも、以上の課題は、本論文がもたらした学術的貢献に比して非常に小さな もので、むしろ関連研究領域が今後取り組むべき課題を先取りして提示したものと も言える。その意味で、本論文の先進性・革新性は揺るがない。 5年 8月7日、論文内容とそれに関連した口頭試問を行った結果合格と 以上、平成 2 認めた。 注)論文審査の結果の要旨の結句には、学位論文の審査についての認定を明記すること。 更に、試問の結果の要旨(例えば「平成年 月 日論文内容とそれに関連した 口頭試問を行った結果合格と認めた。 J)を付け加えること。 Webでの即日公開を希望しない場合は、以下に公開可能とする日付を記入すること。 要旨公開可能日: 年 月 日以降