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MRI|三菱総研倶楽部(2006年6月号)|巻頭言
知 ら ざ る を 知 ら ず と せ よ 株式会社三菱総合研究所 常務執行役員 中原 豊 東芝がウエスティング・ハウス社(以下 1 960年代に基本技術を技術導入した日 W社)を高額で買収した。同社は世界で最 本の PWR の開発は、機器の改良や発電所 も多く建設されているW社型の加圧水型軽 の使い勝手や運転性の改善を中心におこな 水炉(以下 PWR)と第二位の沸騰水型軽水 われた。この結果、日本の PWR も一時期 炉(以下BWR)の両者を手中にした。 は世界に誇る水準に達したが、残念ながら 原子動力が潜水艦の動力として優れてい 抜本的な開発に挑戦する前に建設の最盛期 ると認識し、強烈な個性によって開発を進 が過ぎてしまった。また、この改善・改良 めたのが米国海軍のリッコバー提督である。 に携わった団塊の世代もほぼ職場から去っ リッコバーが示した条件は、①コンパクト てゆく。米国では、1976 年において既に な原子炉、②早く実現できる技術であった。 GE の技術者が米国議会で、 「原子力産業自 この開発では、ジェネラルエレクトリック 体がごく狭い分野だけを受け持つ専門家集 社(以下 GE)は液体ナトリウム冷却原子炉 団となっている」と証言した。今日の日本 を、W社は実現性が高かった PWR を提案 の原子力産業界の状況は、細分化だけでな した。一方は爆発的なナトリウム水反応と く技術導入時代に何とか全体を見渡そうと いう欠点を持ち、他方は高圧高温であるが 必死に努力してきた世代すらここ数年で失 故に万が一の漏れの際には高温水と放射能 うことになる。 が逃げ場のない艦内にばら撒かれる危険性 建設が経済的に困難になった原発を再登 が懸念された。しかし、高温高圧を扱う技 場させるため、W 社は再び原子力潜水艦開 術は、材料開発や加工技術の進歩によって 発時代に戻り、主要機器のコンパクト化と アキレス腱を克服し、本命となった。リッ 複雑に過ぎた安全設備を「究極の安全を担 コバーは、W社の技術陣に対し「知らざる 保する静的安全設備」によって大幅な簡素 を知らずとせよ」を信条に、後の原子力発 化を図っている。これが開発中の新型軽水 電の基礎となる重要な技術開発を徹底的に 炉AP−1 0 0 0であり、脈々と続くリッコバー 行わせた。開発された PWR は、50年後の 精神の結晶でもある。東芝は、新たな PWR 今日においても変わらず新鮮な完成度の高 を開発する貴重な機会を得た訳である。今 い技術となった。また、開発はW社にとっ 回の買収を単なるマネーゲームに終わらせ て大きな財産となり同社の原子力ビジネス て欲しくはない。是非とも、原子力ルネッ に大きく貢献した。新たな開発や技術課題 サンスへ道を閉ざすことなく、また次の世 を解決する際には、度々この原点に戻る手 代を担う「これを知る」多数の技術者を育 が打たれた。 成する機会として生かすことを期待する。